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特許7411484量子カスケードレーザ素子、量子カスケードレーザ装置及び量子カスケードレーザ装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】量子カスケードレーザ素子、量子カスケードレーザ装置及び量子カスケードレーザ装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/028 20060101AFI20231228BHJP
   H01S 5/062 20060101ALI20231228BHJP
   H01S 5/34 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
H01S5/028
H01S5/062
H01S5/34
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020066834
(22)【出願日】2020-04-02
(65)【公開番号】P2021163922
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】杉山 厚志
(72)【発明者】
【氏名】柴田 公督
(72)【発明者】
【氏名】藤田 和上
(72)【発明者】
【氏名】日▲高▼ 正洋
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-088517(JP,A)
【文献】特開平07-007225(JP,A)
【文献】特開平04-299591(JP,A)
【文献】特開平07-312460(JP,A)
【文献】特開2004-031393(JP,A)
【文献】特開昭60-113983(JP,A)
【文献】国際公開第2012/073791(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0127034(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
量子カスケード構造を有する活性層を含み、光導波方向において対向する第1端面及び第2端面を有し、前記半導体基板上に形成された半導体積層体と、
前記半導体積層体における前記半導体基板とは反対側の表面に形成された第1電極と、
前記半導体基板における前記半導体積層体とは反対側の表面に形成された第2電極と、
前記第1端面に形成された反射防止膜と、を備え、
前記半導体積層体は、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光を発振するように構成されており、
前記反射防止膜は、
前記第1端面に形成されたCeO膜である絶縁膜と、
前記絶縁膜に対して前記第1端面とは反対側に配置されたYF膜又はCeF膜である第1屈折率膜と、
前記第1屈折率膜に対して前記第1端面とは反対側において前記第1屈折率膜上に形成され、1.8よりも大きい屈折率を有する第2屈折率膜と、を含む、量子カスケードレーザ素子。
【請求項2】
前記反射防止膜は、前記絶縁膜と前記第1屈折率膜との間に配置された中間膜を更に含み、
前記中間膜は、前記絶縁膜上に形成されたZnS膜であり、
前記第1屈折率膜は、前記中間膜上に形成されたYF膜であり、
前記第2屈折率膜は、ZnS膜である、請求項1に記載の量子カスケードレーザ素子。
【請求項3】
前記反射防止膜は、前記絶縁膜と前記第1屈折率膜との間に配置された中間膜を更に含み、
前記中間膜は、前記絶縁膜上に形成されたZnS膜であり、
前記第1屈折率膜は、前記中間膜上に形成されたCeF膜であり、
前記第2屈折率膜は、ZnS膜である、請求項1に記載の量子カスケードレーザ素子。
【請求項4】
前記第1屈折率膜は、前記絶縁膜上に形成されたCeF膜であり、
前記第2屈折率膜は、ZnS膜である、請求項1に記載の量子カスケードレーザ素子。
【請求項5】
前記絶縁膜の厚さは、150nm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の量子カスケードレーザ素子。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の量子カスケードレーザ素子と、
前記量子カスケードレーザ素子を支持する支持部と、
前記半導体基板が前記半導体積層体に対して前記支持部側に位置した状態で、前記支持部が有する電極パッドと前記第2電極とを接合する接合部材と、
前記第1電極に接続されたワイヤと、
前記電極パッド及び前記ワイヤのそれぞれに電気的に接続され、前記量子カスケードレーザ素子を駆動する駆動部と、を備え、
前記反射防止膜は、前記第1端面から前記支持部及び前記ワイヤの少なくとも一方に至るように形成されている、量子カスケードレーザ装置。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の量子カスケードレーザ素子と、
前記量子カスケードレーザ素子を支持する支持部と、
前記半導体積層体が前記半導体基板に対して前記支持部側に位置した状態で、前記支持部が有する電極パッドと前記第1電極とを接合する接合部材と、
前記第2電極に接続されたワイヤと、
前記電極パッド及び前記ワイヤのそれぞれに電気的に接続され、前記量子カスケードレーザ素子を駆動する駆動部と、を備え、
前記反射防止膜は、前記第1端面から前記支持部及び前記ワイヤの少なくとも一方に至るように形成されている、量子カスケードレーザ装置。
【請求項8】
前記駆動部は、前記量子カスケードレーザ素子がレーザ光をパルス発振するように前記量子カスケードレーザ素子を駆動する、請求項6又は7に記載の量子カスケードレーザ装置。
【請求項9】
請求項6に記載の量子カスケードレーザ装置の製造方法であって、
前記量子カスケードレーザ素子、及び、電極パッドを有する支持部を用意し、前記半導体基板が前記半導体積層体に対して前記支持部側に位置した状態で、前記電極パッドと前記第2電極とを前記接合部材によって接合し、前記第1電極に前記ワイヤを接続する第1工程と、
前記第1工程の後に、前記第1端面に前記反射防止膜を形成する第2工程と、を備える、量子カスケードレーザ装置の製造方法。
【請求項10】
請求項7に記載の量子カスケードレーザ装置の製造方法であって、
前記量子カスケードレーザ素子、及び、電極パッドを有する支持部を用意し、前記半導体積層体が前記半導体基板に対して前記支持部側に位置した状態で、前記電極パッドと前記第1電極とを前記接合部材によって接合し、前記第2電極に前記ワイヤを接続する第1工程と、
前記第1工程の後に、前記第1端面に前記反射防止膜を形成する第2工程と、を備える、量子カスケードレーザ装置の製造方法。
【請求項11】
前記第2工程においては、前記第1端面から前記支持部及び前記ワイヤの少なくとも一方に至るように前記反射防止膜を形成する、請求項9又は10に記載の量子カスケードレーザ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子カスケードレーザ素子、量子カスケードレーザ装置及び量子カスケードレーザ装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の量子カスケードレーザ素子として、半導体基板と、半導体基板上に形成された半導体積層体と、半導体積層体における半導体基板とは反対側の表面に形成された第1電極と、半導体基板における半導体積層体とは反対側の表面に形成された第2電極と、を備える量子カスケードレーザ素子であって、活性層を含む半導体積層体が有する一対の端面のうちの一方の端面に、反射防止膜が形成されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-254764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光を発振し得る量子カスケードレーザ素子の需要が増えている。そのため、上述したような量子カスケードレーザ素子では、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光の反射率を確実に低減することができ、且つ十分な耐久性を確保することができる反射防止膜の実現が望まれる。
【0005】
本発明は、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光に対して有効に機能する反射防止膜を備える量子カスケードレーザ素子、量子カスケードレーザ装置及び量子カスケードレーザ装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の量子カスケードレーザ素子は、半導体基板と、量子カスケード構造を有する活性層を含み、光導波方向において対向する第1端面及び第2端面を有し、半導体基板上に形成された半導体積層体と、半導体積層体における半導体基板とは反対側の表面に形成された第1電極と、半導体基板における半導体積層体とは反対側の表面に形成された第2電極と、第1端面に形成された反射防止膜と、を備え、半導体積層体は、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光を発振するように構成されており、反射防止膜は、第1端面に形成されたCeO膜である絶縁膜と、絶縁膜に対して第1端面とは反対側に配置されたYF膜又はCeF膜である第1屈折率膜と、第1屈折率膜に対して第1端面とは反対側において第1屈折率膜上に形成され、1.8よりも大きい屈折率を有する第2屈折率膜と、を含む。
【0007】
この量子カスケードレーザ素子では、反射防止膜が、YF膜又はCeF膜である第1屈折率膜と、1.8よりも大きい屈折率を有する第2屈折率膜と、を含んでいる。これにより、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光の反射率を確実に低減することができる。更に、反射防止膜が、第1端面に形成されたCeO膜である絶縁膜を含んでいる。これにより、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光に対する透過性の確保、第1端面での短絡の防止、及び第1端面に対する反射防止膜の密着性の向上を実現することができる。したがって、反射防止膜について十分な耐久性を確保することができる。以上により、この量子カスケードレーザ素子によれば、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光に対して有効に機能する反射防止膜を実現することができる。
【0008】
本発明の量子カスケードレーザ素子では、反射防止膜は、絶縁膜と第1屈折率膜との間に配置された中間膜を更に含み、中間膜は、絶縁膜上に形成されたZnS膜であり、第1屈折率膜は、中間膜上に形成されたYF膜であり、第2屈折率膜は、ZnS膜であってもよい。これによれば、反射防止膜を構成する各膜間の密着性を向上させることができる。
【0009】
本発明の量子カスケードレーザ素子では、反射防止膜は、絶縁膜と第1屈折率膜との間に配置された中間膜を更に含み、中間膜は、絶縁膜上に形成されたZnS膜であり、第1屈折率膜は、中間膜上に形成されたCeF膜であり、第2屈折率膜は、ZnS膜であってもよい。これによれば、反射防止膜を構成する各膜間の密着性を向上させることができる。
【0010】
本発明の量子カスケードレーザ素子では、第1屈折率膜は、絶縁膜上に形成されたCeF膜であり、第2屈折率膜は、ZnS膜であってもよい。これによれば、反射防止膜の構成の簡易化を図ることができる。
【0011】
本発明の量子カスケードレーザ素子では、絶縁膜の厚さは、150nm以下であってもよい。これによれば、CeO膜である絶縁膜の品質を確保することができるため、結果として、反射防止膜を構成する各膜の品質を確保することができる。
【0012】
本発明の量子カスケードレーザ装置は、上記量子カスケードレーザ素子と、量子カスケードレーザ素子を支持する支持部と、半導体基板が半導体積層体に対して支持部側に位置した状態で、支持部が有する電極パッドと第2電極とを接合する接合部材と、第1電極に接続されたワイヤと、電極パッド及びワイヤのそれぞれに電気的に接続され、量子カスケードレーザ素子を駆動する駆動部と、を備え、反射防止膜は、第1端面から支持部及びワイヤの少なくとも一方に至るように形成されている。
【0013】
この量子カスケードレーザ装置では、反射防止膜が、第1端面から支持部及びワイヤの少なくとも一方に至るように形成されている。これにより、例えば、反射防止膜が支持部及びワイヤのいずれにも至っていない構成に比べ、反射防止膜が至っている支持部及びワイヤの少なくとも一方に、第1端面で発生した熱が逃げ易くなる。よって、この量子カスケードレーザ装置によれば、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光に対して有効に機能する反射防止膜を実現することができる。
【0014】
本発明の量子カスケードレーザ装置は、上記量子カスケードレーザ素子と、量子カスケードレーザ素子を支持する支持部と、半導体積層体が半導体基板に対して支持部側に位置した状態で、支持部が有する電極パッドと第1電極とを接合する接合部材と、第2電極に接続されたワイヤと、電極パッド及びワイヤのそれぞれに電気的に接続され、量子カスケードレーザ素子を駆動する駆動部と、を備え、反射防止膜は、第1端面から支持部及びワイヤの少なくとも一方に至るように形成されている。
【0015】
この量子カスケードレーザ装置では、反射防止膜が、第1端面から支持部及びワイヤの少なくとも一方に至るように形成されている。これにより、例えば、反射防止膜が支持部及びワイヤのいずれにも至っていない構成に比べ、反射防止膜が至っている支持部及びワイヤの少なくとも一方に、第1端面で発生した熱が逃げ易くなる。よって、この量子カスケードレーザ装置によれば、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光に対して有効に機能する反射防止膜を実現することができる。
【0016】
本発明の量子カスケードレーザ装置では、駆動部は、量子カスケードレーザ素子がレーザ光をパルス発振するように量子カスケードレーザ素子を駆動してもよい。これによれば、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光を、反射防止膜を介してパルス発振させることができる。また、例えば、量子カスケードレーザ素子がレーザ光を連続発振する構成に比べ、第1端面での発熱を抑制することができる。したがって、第1端面での発熱に起因して反射防止膜が劣化するのを抑制することができる。
【0017】
上記量子カスケードレーザ装置の製造方法であって、量子カスケードレーザ素子、及び、電極パッドを有する支持部を用意し、半導体基板が半導体積層体に対して支持部側に位置した状態で、電極パッドと第2電極とを接合部材によって接合し、第1電極にワイヤを接続する第1工程と、第1工程の後に、第1端面に反射防止膜を形成する第2工程と、を備える。
【0018】
この量子カスケードレーザ装置の製造方法では、支持部の電極パッドと量子カスケードレーザ素子の第2電極とを接合部材によって接合した後に、量子カスケードレーザ素子の第1端面に反射防止膜を形成する。これにより、電極パッドと第2電極との接合時の加熱に起因して反射防止膜が劣化する事態が回避される。よって、この量子カスケードレーザ装置の製造方法によれば、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光に対して有効に機能する反射防止膜を実現することができる。
【0019】
上記量子カスケードレーザ装置の製造方法であって、量子カスケードレーザ素子、及び、電極パッドを有する支持部を用意し、半導体積層体が半導体基板に対して支持部側に位置した状態で、電極パッドと第1電極とを接合部材によって接合し、第2電極にワイヤを接続する第1工程と、第1工程の後に、第1端面に反射防止膜を形成する第2工程と、を備える。
【0020】
この量子カスケードレーザ装置の製造方法では、支持部の電極パッドと量子カスケードレーザ素子の第1電極とを接合部材によって接合した後に、量子カスケードレーザ素子の第1端面に反射防止膜を形成する。これにより、電極パッドと第1電極との接合時の加熱に起因して反射防止膜が劣化する事態が回避される。よって、この量子カスケードレーザ装置の製造方法によれば、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光に対して有効に機能する反射防止膜を実現することができる。
【0021】
本発明の量子カスケードレーザ装置の製造方法では、第2工程においては、第1端面から支持部及びワイヤの少なくとも一方に至るように反射防止膜を形成してもよい。これによれば、反射防止膜が至っている支持部及びワイヤの少なくとも一方に、第1端面で発生した熱が逃げ易い量子カスケードレーザ装置を容易に且つ確実に得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光に対して有効に機能する反射防止膜を備える量子カスケードレーザ素子、量子カスケードレーザ装置及び量子カスケードレーザ装置の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】一実施形態の量子カスケードレーザ装置の断面図である。
図2図1に示されるII-II線に沿っての量子カスケードレーザ素子の断面図である。
図3図2に示されるIII-III線に沿っての量子カスケードレーザ素子の断面図である。
図4図1に示される反射防止膜の拡大断面図である。
図5図4に示される反射防止膜を構成する各膜の数値の一例を示す表である。
図6図1に示される量子カスケードレーザ装置の製造方法を示す図である。
図7】第1変形例の反射防止膜を構成する各膜の数値の一例を示す表である。
図8】第2変形例の反射防止膜の拡大断面図である。
図9】第2変形例の反射防止膜を構成する各膜の数値の一例を示す表である。
図10】変形例の量子カスケードレーザ装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[量子カスケードレーザ装置の構成]
【0025】
図1に示されるように、量子カスケードレーザ装置10は、量子カスケードレーザ素子1を備えている。図2及び図3に示されるように、量子カスケードレーザ素子1は、半導体基板2と、半導体積層体3と、絶縁膜4と、第1電極5と、第2電極6と、を備えている。半導体基板2は、例えば、長方形板状のSドープInP単結晶基板である。一例として、半導体基板2の長さは3mm程度であり、半導体基板2の幅は500μm程度であり、半導体基板2の厚さは百数十μm程度である。以下の説明では、半導体基板2の幅方向をX軸方向といい、半導体基板2の長さ方向をY軸方向といい、半導体基板2の厚さ方向をZ軸方向という。
【0026】
半導体積層体3は、半導体基板2の表面2aに形成されている。半導体積層体3は、量子カスケード構造を有する活性層31を含んでいる。半導体積層体3は、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光を発振するように構成されている。一例として、半導体積層体3は、中赤外領域の波長であって7.5~16μmのいずれかの値の中心波長を有するレーザ光を発振するように構成されている。本実施形態では、半導体積層体3は、下部クラッド層32、下部ガイド層(図示省略)、活性層31、上部ガイド層(図示省略)、上部クラッド層33及びコンタクト層(図示省略)が半導体基板2側からこの順序で積層されることで構成されている。上部ガイド層は、分布帰還(DFB:distributed feedback)構造として機能する回折格子構造を有している。
【0027】
活性層31は、例えば、InGaAs/InAlAsの多重量子井戸構造を有する層である。下部クラッド層32及び上部クラッド層33のそれぞれは、例えば、SiドープInP層である。下部ガイド層及び上部ガイド層のそれぞれは、例えば、SiドープInGaAs層である。コンタクト層は、例えば、SiドープInGaAs層である。
【0028】
半導体積層体3は、Y軸方向に沿って延在するリッジ部30を有している。リッジ部30は、下部クラッド層32における半導体基板2とは反対側の部分、並びに、下部ガイド層、活性層31、上部ガイド層、上部クラッド層33及びコンタクト層によって構成されている。X軸方向におけるリッジ部30の幅は、X軸方向における半導体基板2の幅よりも小さい。Y軸方向におけるリッジ部30の長さは、Y軸方向における半導体基板2の長さに等しい。一例として、リッジ部30の長さは3mm程度であり、リッジ部30の幅は数μm~十数μm程度であり、リッジ部30の厚さは数μm程度である。リッジ部30は、X軸方向において半導体基板2の中央に位置している。X軸方向におけるリッジ部30の両側には、半導体積層体3を構成する各層が存在していない。
【0029】
半導体積層体3は、リッジ部30の光導波方向Aにおいて対向する第1端面3a及び第2端面3bを有している。光導波方向Aは、リッジ部30の延在方向であるY軸方向に平行な方向である。第1端面3a及び第2端面3bは、光出射端面として機能する。第1端面3a及び第2端面3bのそれぞれは、Y軸方向において対向する半導体基板2の両側面のそれぞれと同一平面上に位置している。
【0030】
絶縁膜4は、リッジ部30における半導体基板2とは反対側の表面30aが露出するように、リッジ部30の側面30b及び下部クラッド層32の表面32aに形成されている。リッジ部30の側面30bは、X軸方向において対向するリッジ部30の両側面のそれぞれである。下部クラッド層32の表面32aは、下部クラッド層32のうちリッジ部30を構成していない部分における半導体基板2とは反対側の表面である。絶縁膜4は、例えば、SiN膜又はSiO膜である。
【0031】
第1電極5は、半導体積層体3における半導体基板2とは反対側の表面3cに形成されている。半導体積層体3の表面3cは、リッジ部30の表面30a、リッジ部30の側面30b及び下部クラッド層32の表面32aによって構成された面である。Z軸方向から見た場合に、第1電極5の外縁は、半導体基板2及び半導体積層体3の外縁の内側に位置している。第1電極5は、リッジ部30の表面30a上においてはリッジ部30の表面30aに接触しており、リッジ部30の側面30b上及び下部クラッド層32の表面32a上においては絶縁膜4に接触している。これにより、第1電極5は、コンタクト層を介して上部クラッド層33に電気的に接続されている。
【0032】
第1電極5は、金属下地層51と、金属メッキ層52と、を有している。金属下地層51は、半導体積層体3の表面3cに沿って延在するように形成されている。金属下地層51は、例えば、Ti/Au層である。金属メッキ層52は、リッジ部30が金属メッキ層52に埋め込まれるように金属下地層51上に形成されている。金属メッキ層52は、例えば、Auメッキ層である。金属メッキ層52における半導体基板2とは反対側の表面52aは、Z軸方向に垂直な平坦面である。一例として、金属メッキ層52の表面52aは、化学機械研磨によって平坦化された研磨面であり、金属メッキ層52の表面52aには、研磨痕が形成されている。なお、リッジ部30が金属メッキ層52に埋め込まれるとは、金属メッキ層52のうちX軸方向においてリッジ部30の両側に位置する部分の厚さ(Z軸方向における当該部分の厚さ)がZ軸方向におけるリッジ部30の厚さよりも大きい状態で、リッジ部30が金属メッキ層52に覆われることを意味する。
【0033】
第2電極6は、半導体基板2における半導体積層体3とは反対側の表面2bに形成されている。第2電極6は、例えば、AuGe/Au膜、AuGe/Ni/Au膜又はAu膜である。第2電極6は、半導体基板2を介して下部クラッド層32に電気的に接続されている。
【0034】
図1に示されるように、量子カスケードレーザ装置10は、支持部11と、接合部材12と、複数のワイヤ15と、パルス駆動部(駆動部)14と、を更に備えている。
【0035】
支持部11は、本体部111と、電極パッド112と、を有している。支持部11は、例えば、本体部111がAlNによって形成されたサブマントである。支持部11は、半導体基板2が半導体積層体3に対して支持部11側に位置した状態(すなわち、エピサイドアップの状態)で、量子カスケードレーザ素子1を支持している。
【0036】
接合部材12は、エピサイドアップの状態で、支持部11の電極パッド112と量子カスケードレーザ素子1の第2電極6とを接合している。接合部材12は、例えば、AuSn部材等の半田部材である。接合部材12のうち電極パッド112と第2電極6との間に配置された部分の厚さは、例えば、数μm程度である。
【0037】
複数のワイヤ15は、第1電極5に接続されている。各ワイヤ15は、第1電極5(より具体的には、金属メッキ層52の表面52a)に対してワイヤボンディングが実施されることで、形成されたものである。第1電極5には、少なくとも1本のワイヤ15が接続されていればよい。
【0038】
パルス駆動部14は、電極パッド112及び各ワイヤ15に電気的に接続されている。つまり、パルス駆動部14は、量子カスケードレーザ素子1の第1電極5及び第2電極6のそれぞれに電気的に接続されている。パルス駆動部14は、量子カスケードレーザ素子1がレーザ光をパルス発振するように量子カスケードレーザ素子1を駆動する。レーザ光のパルス幅は、例えば20~1000nsであり、レーザ光の繰り返し周波数は、例えば1~1000kHzであり、Dutyは、例えば10%以下である。
【0039】
量子カスケードレーザ素子1は、反射防止膜7を更に備えている。反射防止膜7は、第1端面3aに形成されている。反射防止膜7は、第1端面3aでのレーザ光の共振を抑制する機能、及び、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光が第1端面3aから出射される際に、当該レーザ光の反射率を低減する機能を有している。本実施形態では、反射防止膜7は、第1端面3aから支持部11及び各ワイヤ15の両方に至るように形成されている。より具体的には、反射防止膜7は、第1端面3aから、半導体基板2、第2電極6及び接合部材12のそれぞれにおける第1端面3a側の表面を介して、支持部11における第1端面3a側の表面(すなわち、電極パッド112及び本体部111のそれぞれにおける第1端面3a側の表面)に至っている。また、反射防止膜7は、第1端面3aから、第1電極5における第1端面3a側の表面を介して、各ワイヤ15の接続端部15aにおける第1端面3a側の表面に至っている。なお、図2及び図3では、反射防止膜7の図示が省略されている。
【0040】
図4に示されるように、反射防止膜7は、絶縁膜71と、中間膜72と、第1屈折率膜73と、第2屈折率膜74と、を含んでいる。絶縁膜71は、半導体積層体3の第1端面3aに形成されたCeO膜である。中間膜72は、絶縁膜71に対して第1端面3aとは反対側において絶縁膜71上に形成されたZnS膜である。第1屈折率膜73は、中間膜72に対して第1端面3aとは反対側において中間膜72上に形成されたYF膜である。第2屈折率膜74は、第1屈折率膜73に対して第1端面3aとは反対側において第1屈折率膜73上に形成されたZnS膜である。絶縁膜71は、第1端面3a上に直接的に(すなわち、他の膜等を介さずに)形成されている。中間膜72は、絶縁膜71上に直接的に形成されている。第1屈折率膜73は、中間膜72上に直接的に形成されている。第2屈折率膜74は、第1屈折率膜73上に直接的に形成されている。
【0041】
図5は、図4に示される反射防止膜7を構成する各膜の数値の一例を示す表である。図5において、「膜厚」の欄の「波長」は、半導体積層体3が発振するレーザ光の中心波長を示しており、「膜厚」の欄には、各「波長」のレーザ光の反射率を0.1%未満に低減し得る各膜の厚さが記載されている。ここで、反射防止膜7が第1屈折率膜73及び第2屈折率膜74を含んでいる理由について説明する。
【0042】
1種類の屈折率膜のみを含む反射防止膜では、レーザ光の中心波長をλとし、1種類の屈折率膜の屈折率をnとし、1種類の屈折率膜の厚さをtとすると、t=λ/4nの関係を満たすときに、当該反射防止膜がレーザ光の反射率を0.1%未満に低減し得る。ここで、nは、半導体積層体3の屈折率の平方根に相当するから、半導体積層体3の屈折率を3.2とすると、n=(3.2)1/2≒1.8となる。しかし、7.5μm以上の波長を有する光に対して十分な透過性を有する材料であって1.8の屈折率を有する材料は、存在しない。そこで、反射防止膜7では、1.8よりも小さい屈折率を有する第1屈折率膜73、及び1.8よりも大きい屈折率を有する第2屈折率膜74によって、低反射率を実現している。
【0043】
なお、絶縁膜71は、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光に対する透過性の確保、第1端面3aでの短絡の防止、及び第1端面3aに対する反射防止膜7の密着性の向上を実現し得る厚さを有していればよい。本実施形態では、絶縁膜71の品質を確保する観点から、絶縁膜71の厚さが150nm以下となっている。また、中間膜72は、絶縁膜71と第1屈折率膜73との密着性の向上を実現し得る厚さを有していればよい。
【0044】
以上のように構成された量子カスケードレーザ装置10では、パルス駆動部14によって、量子カスケードレーザ素子1の活性層31にパルス電圧が印加されると、活性層31から光が発せられ、当該光のうち7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光が分布帰還構造において共振させられる。このとき、第1端面3aには、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光の反射率を低減する機能を有する反射防止膜7が形成されている。これにより、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光が第1端面3aから反射防止膜7を介してパルス発振される。
[量子カスケードレーザ装置の製造方法]
【0045】
上述した量子カスケードレーザ装置10の製造方法について説明する。まず、図6の(a)に示されるように、量子カスケードレーザ素子1及び支持部11を用意する。続いて、エピサイドアップの状態で、支持部11の電極パッド112と量子カスケードレーザ素子1の第2電極6とを接合部材12によって接合し、量子カスケードレーザ素子1の第1電極5に複数のワイヤ15を接続する(第1工程)。
【0046】
続いて、図6の(b)に示されるように、量子カスケードレーザ素子1の第1端面3aに反射防止膜7を形成する(第2工程)。このとき、第1端面3aから支持部11及び各ワイヤ15の両方に至るように反射防止膜7を形成する。本実施形態では、絶縁膜71、中間膜72、第1屈折率膜73、第2屈折率膜74の順序で各膜を蒸着によって形成することで、反射防止膜7を形成する。続いて、図1に示されるように、電極パッド112及び各ワイヤ15にパルス駆動部14を電気的に接続し、量子カスケードレーザ装置10を得る。
【0047】
なお、量子カスケードレーザ素子1は、一例として、次のように製造される。まず、それぞれが半導体基板2となる複数の部分を含む半導体ウェハの表面に、それぞれが半導体積層体3となる複数の部分を含む半導体層を形成する。続いて、半導体層において半導体積層体3となる部分がリッジ部30を有するように、半導体層の一部をエッチングによって除去する。続いて、各リッジ部30の表面30aが露出するように、それぞれが絶縁膜4となる複数の部分を含む絶縁層を半導体層上に形成する。続いて、各リッジ部30の表面30aを覆うと共に絶縁層を覆うように、それぞれが金属下地層51となる複数の部分を含む金属下地層を形成する。続いて、それぞれが金属メッキ層52となる複数の金属メッキ層を金属下地層上に形成し、各金属メッキ層にリッジ部30を埋め込む。続いて、各金属メッキ層の表面を研磨によって平坦化する。続いて、半導体ウェハの裏面を研磨して半導体ウェハを薄化し、それぞれが第2電極6となる複数の部分を含む電極層を半導体ウェハの裏面に形成する。続いて、半導体ウェハを劈開させ、複数の量子カスケードレーザ素子1を得る。
[作用及び効果]
【0048】
量子カスケードレーザ素子1では、反射防止膜7が、1.8よりも小さい屈折率を有する屈折率膜としてYF膜である第1屈折率膜73を含んでおり、1.8よりも大きい屈折率を有する屈折率膜としてZnS膜である第2屈折率膜74を含んでいる。これにより、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光の反射率を確実に低減することができる。更に、反射防止膜7が、第1端面3aに形成されたCeO膜である絶縁膜71を含んでいる。これにより、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光に対する透過性の確保、第1端面3aでの短絡の防止、及び第1端面3aに対する反射防止膜7の密着性の向上を実現することができる。したがって、反射防止膜7について十分な耐久性を確保することができる。以上により、量子カスケードレーザ素子1によれば、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光に対して有効に機能する反射防止膜7を実現することができる。
【0049】
なお、1.8よりも小さい屈折率を有する材料としては、例えば、BaF、MgF、CaF等が存在する。しかし、BaFは、成膜にした際に膜の表面のラフネスが大きくなるため、第1屈折率膜73の材料として適切ではない。また、MgF及びCaFは、10μm以上の波長を有する光を吸収するため、第1屈折率膜73の材料として適切ではない。
【0050】
量子カスケードレーザ素子1では、中間膜72が、絶縁膜71上に形成されたZnS膜であり、第1屈折率膜73が、中間膜72上に形成されたYF膜であり、第2屈折率膜74が、第1屈折率膜73上に形成されたZnS膜である。これにより、反射防止膜7を構成する各膜間の密着性を向上させることができる。
【0051】
量子カスケードレーザ素子1では、絶縁膜71の厚さが150nm以下である。これにより、CeO膜である絶縁膜71の品質を確保することができるため、結果として、反射防止膜7を構成する各膜の品質を確保することができる。なお、絶縁膜71を蒸着によって形成すると、絶縁膜71の厚さが150nmを超えた場合に絶縁膜71の品質が劣化する。
【0052】
量子カスケードレーザ装置10では、反射防止膜7が、量子カスケードレーザ素子1の第1端面3aから支持部11及び各ワイヤ15の両方に至るように形成されている。これにより、例えば、反射防止膜7が支持部11及び各ワイヤ15のいずれにも至っていない構成に比べ、第1端面3aで発生した熱が支持部11及び各ワイヤ15の両方に逃げ易くなる。よって、量子カスケードレーザ装置10によれば、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光に対して有効に機能する反射防止膜7を実現することができる。
【0053】
量子カスケードレーザ装置10では、パルス駆動部14が、量子カスケードレーザ素子1がレーザ光をパルス発振するように量子カスケードレーザ素子1を駆動する。これにより、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光を、反射防止膜7を介してパルス発振させることができる。また、例えば、量子カスケードレーザ素子1がレーザ光を連続発振する構成に比べ、第1端面3aでの発熱を抑制することができる。したがって、第1端面3aでの発熱に起因して反射防止膜7が劣化するのを抑制することができる。
【0054】
量子カスケードレーザ装置10の製造方法では、支持部11の電極パッド112と量子カスケードレーザ素子1の第2電極6とを接合部材12によって接合した後に、量子カスケードレーザ素子1の第1端面3aに反射防止膜7を形成する。これにより、電極パッド112と第2電極6との接合時の加熱に起因して反射防止膜7が劣化する事態が回避される。よって、量子カスケードレーザ装置10の製造方法によれば、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光に対して有効に機能する反射防止膜7を実現することができる。
【0055】
量子カスケードレーザ装置10の製造方法では、量子カスケードレーザ素子1の第1端面3aから支持部11及び各ワイヤ15の両方に至るように反射防止膜7を形成する。これにより、第1端面3aで発生した熱が支持部11及び各ワイヤ15の両方に逃げ易い量子カスケードレーザ装置10を容易に且つ確実に得ることができる。
[変形例]
【0056】
本発明は、上述した実施形態に限定されない。例えば、活性層31には、公知の量子カスケード構造を適用することができる。また、半導体積層体3には、公知の積層構造を適用することができる。一例として、半導体積層体3において、上部ガイド層は、分布帰還構造として機能する回折格子構造を有していなくてもよい。
【0057】
また、Z軸方向から見た場合に、第1電極5のうちの金属下地層51の外縁は、半導体基板2及び半導体積層体3の外縁に一致していてもよい。なお、Z軸方向から見た場合に、第1電極5のうちの金属下地層51の外縁が、少なくとも第1端面3a及び第2端面3bに一致していると、第1端面3a及び第2端面3bでの放熱性を確保することができる。
【0058】
また、第1電極5において、金属メッキ層52は、研磨によって平坦化されていなくてもよい。また、第1電極5は、金属メッキ層52を有しおらず、例えば、半導体積層体3の表面3cに沿って延在するように形成された金属膜であってもよい。
【0059】
また、図4及び図5に示される反射防止膜7では、第1屈折率膜73がYF膜ではなくCeF膜であってもよい(以下、「第1変形例の反射防止膜7」という)。第1変形例の反射防止膜7によっても、第1屈折率膜73がYF膜である場合と同様の理由により、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光に対して有効に機能する反射防止膜7を実現することができる。また、反射防止膜7を構成する各膜間の密着性を向上させることができる。図7は、第1変形例の反射防止膜7を構成する各膜の数値の一例を示す表である。図7において、「膜厚」の欄の「波長」は、半導体積層体3が発振するレーザ光の中心波長を示しており、「膜厚」の欄には、各「波長」のレーザ光の反射率を0.1%未満に低減し得る各膜の厚さが記載されている。
【0060】
また、図4及び図5に示される反射防止膜7は、絶縁膜71と第1屈折率膜73との間に配置された中間膜72を含んでいたが、反射防止膜7は、そのような中間膜72を含んでいなくてもよい。つまり、第1屈折率膜73は、絶縁膜71に対して第1端面3aとは反対側に配置されていればよい。
【0061】
一例として、図8に示されるように、反射防止膜7では、第1屈折率膜73が、絶縁膜71に対して第1端面3aとは反対側において絶縁膜71上に形成されたCeF膜であり、第2屈折率膜74が、第1屈折率膜73に対して第1端面3aとは反対側において第1屈折率膜73上に形成されたZnS膜であってもよい(以下、「第2変形例の反射防止膜7」という)。第2変形例の反射防止膜7では、第1屈折率膜73が絶縁膜71上に直接的に形成されており、第2屈折率膜74が第1屈折率膜73上に直接的に形成されている。第2変形例の反射防止膜7によれば、反射防止膜7の構成の簡易化を図ることができる。図9は、第2変形例の反射防止膜7を構成する各膜の数値の一例を示す表である。図9において、「膜厚」の欄の「波長」は、半導体積層体3が発振するレーザ光の中心波長を示しており、「膜厚」の欄には、各「波長」のレーザ光の反射率を0.1%未満に低減し得る各膜の厚さが記載されている。
【0062】
なお、CeO膜である絶縁膜71とCeF膜である第1屈折率膜73との間では、十分な密着性を確保することができる。また、CeF膜の機械的強度はYF膜の機械的強度よりも小さいが、量子カスケードレーザ素子1及び支持部11は筐体内に配置されるため、CeF膜の機械的強度は、実用上、問題にならない。
【0063】
また、1.8よりも大きい屈折率を有する第2屈折率膜74の材料としては、ZnSe、Si、Ge等が存在する。ただし、ZnSeは、毒性を有するため、第2屈折率膜74の材料として適切ではない。
【0064】
また、量子カスケードレーザ素子1では、第2端面3bに絶縁膜を介して金属膜が形成されていてもよい。これにより、金属膜が反射膜として機能するため、第1端面から効率の良い光出力が得られる。
【0065】
また、図10に示されるように、量子カスケードレーザ装置10は、半導体積層体3が半導体基板2に対して支持部11側に位置した状態(すなわち、エピサイドダウンの状態)で量子カスケードレーザ素子1が支持部11に実装されたものであってもよい。
【0066】
図10に示される量子カスケードレーザ装置10の構成について説明する。図10に示されるように、量子カスケードレーザ装置10は、量子カスケードレーザ素子1と、支持部11と、接合部材12と、複数のワイヤ15と、パルス駆動部14と、を備えている。
【0067】
支持部11は、本体部111と、電極パッド112と、を有している。支持部11は、例えば、本体部111がAlNによって形成されたサブマントである。支持部11は、エピサイドダウンの状態で、量子カスケードレーザ素子1を支持している。
【0068】
接合部材12は、エピサイドダウンの状態で、支持部11の電極パッド112と量子カスケードレーザ素子1の第1電極5とを接合している。接合部材12は、例えば、AuSn部材等の半田部材である。接合部材12のうち電極パッド112と第1電極5との間に配置された部分の厚さは、例えば、数μm程度である。
【0069】
複数のワイヤ15は、第2電極6に接続されている。各ワイヤ15は、第2電極6に対してワイヤボンディングが実施されることで、形成されたものである。第2電極6には、少なくとも1本のワイヤ15が接続されていればよい。
【0070】
パルス駆動部14は、電極パッド112及び各ワイヤ15に電気的に接続されている。つまり、パルス駆動部14は、量子カスケードレーザ素子1の第1電極5及び第2電極6のそれぞれに電気的に接続されている。パルス駆動部14は、量子カスケードレーザ素子1がレーザ光をパルス発振するように量子カスケードレーザ素子1を駆動する。
【0071】
図10に示される量子カスケードレーザ装置10の製造方法について説明する。まず、量子カスケードレーザ素子1及び支持部11を用意する。続いて、エピサイドダウンの状態で、支持部11の電極パッド112と量子カスケードレーザ素子1の第1電極5とを接合部材12によって接合し、量子カスケードレーザ素子1の第2電極6に複数のワイヤ15を接続する(第1工程)。
【0072】
続いて、量子カスケードレーザ素子1の第1端面3aに反射防止膜7を形成する(第2工程)。このとき、第1端面3aから支持部11及び各ワイヤ15の両方に至るように反射防止膜7を形成する。続いて、図10に示されるように、電極パッド112及び各ワイヤ15にパルス駆動部14を電気的に接続し、量子カスケードレーザ装置10を得る。
【0073】
以上説明したように、図10に示される量子カスケードレーザ装置10では、反射防止膜7が、量子カスケードレーザ素子1の第1端面3aから支持部11及び各ワイヤ15の両方に至るように形成されている。これにより、例えば、反射防止膜7が支持部11及び各ワイヤ15のいずれにも至っていない構成に比べ、第1端面3aで発生した熱が支持部11及び各ワイヤ15の両方に逃げ易くなる。よって、図10に示される量子カスケードレーザ装置10によれば、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光に対して有効に機能する反射防止膜7を実現することができる。
【0074】
図10に示される量子カスケードレーザ装置10では、パルス駆動部14が、量子カスケードレーザ素子1がレーザ光をパルス発振するように量子カスケードレーザ素子1を駆動する。これにより、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光を、反射防止膜7を介してパルス発振させることができる。また、例えば、量子カスケードレーザ素子1がレーザ光を連続発振する構成に比べ、第1端面3aでの発熱を抑制することができる。したがって、第1端面3aでの発熱に起因して反射防止膜7が劣化するのを抑制することができる。
【0075】
図10に示される量子カスケードレーザ装置10の製造方法では、支持部11の電極パッド112と量子カスケードレーザ素子1の第1電極5とを接合部材12によって接合した後に、量子カスケードレーザ素子1の第1端面3aに反射防止膜7を形成する。これにより、電極パッド112と第1電極5との接合時の加熱に起因して反射防止膜7が劣化する事態が回避される。よって、図10に示される量子カスケードレーザ装置10の製造方法によれば、7.5μm以上の中心波長を有するレーザ光に対して有効に機能する反射防止膜7を実現することができる。
【0076】
図10に示される量子カスケードレーザ装置10の製造方法では、量子カスケードレーザ素子1の第1端面3aから支持部11及び各ワイヤ15の両方に至るように反射防止膜7を形成する。これにより、第1端面3aで発生した熱が支持部11及び各ワイヤ15の両方に逃げ易い量子カスケードレーザ装置10を容易に且つ確実に得ることができる。
【0077】
なお、図1に示される量子カスケードレーザ装置10、及び図10に示される量子カスケードレーザ装置10では、支持部11側にヒートシンク(図示省略)が設けられている。そのため、量子カスケードレーザ素子1がエピサイドダウンの状態で支持部11に実装されている構成(図10に示されるエピサイドダウンの構成)は、量子カスケードレーザ素子1がエピサイドアップの状態で支持部11に実装されている構成(図1に示されるエピサイドアップの構成)に比べ、半導体積層体3の放熱性を確保し易い。したがって、パルス駆動部14をCW駆動部に置き換え、量子カスケードレーザ素子1がレーザ光を連続発振するように量子カスケードレーザ素子1を駆動することを検討する場合には、反射防止膜の耐熱性については別途検討が必要であるものの、半導体積層体3の放熱性という観点では、エピサイドダウンの構成が有効である。ただし、条件等によっては、エピサイドアップ又はエピサイドダウンの構成において、量子カスケードレーザ素子1がレーザ光をパルス発振するように駆動されることに限定されない。
【0078】
また、図1に示される量子カスケードレーザ装置10、及び図10に示される量子カスケードレーザ装置10では、反射防止膜7は、第1端面3aから支持部11及び各ワイヤ15の少なくとも一方に至るように形成されていればよい。つまり、量子カスケードレーザ装置10の製造方法では、第1端面3aから支持部11及び各ワイヤ15の少なくとも一方に至るように反射防止膜7を形成すればよい。これにより、例えば、反射防止膜7が支持部11及び各ワイヤ15のいずれにも至っていない構成に比べ、第1端面3aで発生した熱が支持部11及び各ワイヤ15の両方に逃げ易くなる。
【0079】
ただし、例えば、第1端面3aで発生する熱量が問題にならないレベルである場合には、反射防止膜7は、支持部11及びワイヤ15のいずれにも至っていなくてもよい。つまり、量子カスケードレーザ装置10の製造方法では、第1端面3aから支持部11及び各ワイヤ15のいずれにも至らないように反射防止膜7を形成してもよい。
【符号の説明】
【0080】
1…量子カスケードレーザ素子、2…半導体基板、2b…表面、3…半導体積層体、3a…第1端面、3b…第2端面、3c…表面、5…第1電極、6…第2電極、7…反射防止膜、10…量子カスケードレーザ装置、11…支持部、12…接合部材、14…パルス駆動部(駆動部)、15…ワイヤ、31…活性層、71…絶縁膜、72…中間膜、73…第1屈折率膜、74…第2屈折率膜、112…電極パッド、A…光導波方向。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10