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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】歯車研削装置及び歯車研削工具
(51)【国際特許分類】
   B23F 19/02 20060101AFI20231228BHJP
   B23F 9/02 20060101ALI20231228BHJP
   B23B 1/00 20060101ALI20231228BHJP
   B06B 1/02 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
B23F19/02
B23F9/02
B23B1/00 C
B06B1/02 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020075355
(22)【出願日】2020-04-21
(65)【公開番号】P2021171839
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】391011102
【氏名又は名称】株式会社岡本工作機械製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】596101440
【氏名又は名称】岡本工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165423
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 雅久
(72)【発明者】
【氏名】菊地 正人
(72)【発明者】
【氏名】白石 博康
(72)【発明者】
【氏名】中尾 裕生
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 真尭
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隼太郎
(72)【発明者】
【氏名】神 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】小玉 満
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-031317(JP,A)
【文献】特開2013-039659(JP,A)
【文献】特開2011-110670(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104475874(CN,A)
【文献】特開平11-123364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 19/02
B23F 17/00
B23F 1/02
B23F 5/02
B23F 9/02
B23F 13/04、08
B24B 1/04
B23B 1/00
B23B 37/00
B06B 1/02
G05B 19/4093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを回転自在に支持するワーク軸と、
回転しながら刃先が歯すじ方向に移動して前記ワークに歯面を研削加工する研削工具と、
超音波発振器からの出力により前記研削工具の回転軸方向に超音波振動を発生させる超音波振動子と、
前記超音波振動子と前記研削工具とを接続して前記超音波振動を増幅するブースタと、を有し、
前記刃先は、前記歯面に対して歯形方向に超音波振動し、
前記研削工具の台金には、前記回転軸方向の中央に、両端側よりも径が小さい小径部が形成されていることを特徴とする歯車研削装置。
【請求項2】
前記台金は、前記回転軸方向の一方の端面が前記ブースタに固定され、他方の端面に前記刃先が形成されており、
前記ワークは、傘歯車に創成されることを特徴とする請求項1に記載の歯車研削装置。
【請求項3】
前記小径部は、双曲面状に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の歯車研削装置。
【請求項4】
ワークを回転自在に支持するワーク軸と、
回転しながら刃先が歯すじ方向に移動して前記ワークに歯面を研削加工する研削工具と、
超音波発振器からの出力により前記研削工具の回転軸方向に超音波振動を発生させる超音波振動子と、
前記超音波振動子と前記研削工具とを接続して前記超音波振動を増幅するブースタと、を有し、
前記刃先は、前記歯面に対して歯形方向に超音波振動し、
前記研削工具の台金には、前記回転軸方向の中央に、両端側よりも径が大きい大径部が形成されており、
前記台金は、前記回転軸方向の一方の端面が前記ブースタに固定され、他方の端面が前記超音波振動を増幅する第2のブースタに固定されており、
前記台金の回転中心部には、歯車研削加工中の空洞が形成されており、
前記刃先は、前記大径部の外周に、ねじ状に形成されており、
前記ワークは、平行軸歯車に創成されることを特徴とする歯車研削装置。
【請求項5】
超音波振動子を有する歯車研削装置に用いられる歯車研削工具であって、
前記超音波振動子に接続されたブースタに一方の端面が固定されて回転する台金と、
前記台金に設けられてワークの被加工面を歯すじ方向に移動して前記ワークに歯面を研削する刃先と、を有し、
前記刃先は、前記超音波振動子から発振され前記ブースタで増幅された超音波振動によって前記歯面に対して歯形方向に超音波振動し、
前記台金には、回転軸方向の中央に、両端側よりも径が小さい小径部が形成されていることを特徴とする歯車研削工具。
【請求項6】
超音波振動子を有する歯車研削装置に用いられる歯車研削工具であって、
前記超音波振動子に接続されたブースタに一方の端面が固定されて回転する台金と、
前記台金に設けられてワークの被加工面を歯すじ方向に移動して前記ワークに歯面を研削する刃先と、を有し、
前記刃先は、前記超音波振動子から発振され前記ブースタで増幅された超音波振動によって前記歯面に対して歯形方向に超音波振動し、
前記台金には、回転軸方向の中央に、両端側よりも径が大きい大径部が形成されており、
前記台金は、前記回転軸方向の一方の端面が前記ブースタに固定され、他方の端面が前記超音波振動を増幅する第2のブースタに固定され、
前記台金の回転中心部には、歯車研削加工中の空洞が形成されており、
前記刃先は、前記大径部の外周に、ねじ状に形成されており、
前記ワークは、平行軸歯車に創成されることを特徴とする歯車研削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車を創成加工する歯車研削装置及び歯車研削工具に関し、特に、超音波振動を利用して歯面を高精度に加工することができる歯車研削装置及び歯車研削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波発生装置を備えた歯車研削装置が知られている。この種の歯車研削装置では、超音波発生装置から発振した超音波振動を歯車研削工具に伝達し、超音波振動する歯車研削工具で歯車の歯面を研削する。
【0003】
例えば、特許文献1には、切削工具軸に超音波振動を付加する超音波発生装置を有するクレードル式傘歯車創成装置が開示されている。同文献に開示されたクレードル式傘歯車創成装置は、ワーク軸をクレードル軸に対して傾け、ワーク軸に固定された台形円錐状のワークを揺動させながら、回転する切削工具に超音波振動を付加し、その切削工具でワークの外周面に歯形を創成する。
【0004】
また例えば、特許文献2には、切削工程により歯切り加工された後の歯車に対して、ワークと噛み合う形状の工具歯車を噛み合わせながら、工具歯車に超音波振動を付加して歯面を研削する歯車研削装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-31317号公報
【文献】特開2002-144150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、精密な動作をする各種ロボットや電子機器、その他精密機械等において歯車の利用が増加しており、静音で振動が少なく、高効率に動力を伝達することができる様々な大きさの高精度な歯車が要求されている。そのため、歯車の製造においては、効率良く歯面を高精度に仕上げることができる高度な加工技術が求められている。
【0007】
しかしながら、上記した従来技術の歯車研削装置では、研削によって歯面に形成される研削筋を更に小さくして、歯面を更に高精度化し、且つ高精度な歯車を高効率に加工することは容易ではないという問題点があった。
【0008】
具体的には、歯面に接触して歯面を加工する研削工具の刃先について、超音波振動を研削に好適な状態にする必要がある。超音波発生装置から研削工具に超音波振動を付加しても、歯面を研削する研削工具の刃先が研削加工に適した超音波振動をしていなければ、高精度な歯面に仕上げることはできない。
【0009】
また例えば、特許文献2に開示された従来技術は、歯切りされたワークをそのワークに噛み合う工具歯車でホーニング加工するものであり、超音波振動を利用して歯車の研削加工を高能率に実行できるものではない。
【0010】
また、歯面加工の更なる高精度化に対応するために、歯車研削装置の高機能化や加工工程の複雑化により歯車の生産性が低下し、生産コストの削減が困難になるという問題点もある。
【0011】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高精度な歯車を効率良く創成することができる生産性に優れた歯車研削装置及び歯車研削工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の歯車研削装置は、ワークを回転自在に支持するワーク軸と、回転しながら刃先が歯すじ方向に移動して前記ワークに歯面を研削加工する研削工具と、超音波発振器からの出力により前記研削工具の回転軸方向に超音波振動を発生させる超音波振動子と、前記超音波振動子と前記研削工具とを接続して前記超音波振動を増幅するブースタと、を有し、前記刃先は、前記歯面に対して歯形方向に超音波振動し、前記研削工具の台金には、前記回転軸方向の中央に、両端側よりも径が小さい小径部が形成されていることを特徴とする。
また、本発明の歯車研削装置は、ワークを回転自在に支持するワーク軸と、回転しながら刃先が歯すじ方向に移動して前記ワークに歯面を研削加工する研削工具と、超音波発振器からの出力により前記研削工具の回転軸方向に超音波振動を発生させる超音波振動子と、前記超音波振動子と前記研削工具とを接続して前記超音波振動を増幅するブースタと、を有し、前記刃先は、前記歯面に対して歯形方向に超音波振動し、前記研削工具の台金には、前記回転軸方向の中央に、両端側よりも径が大きい大径部が形成されており、前記台金は、前記回転軸方向の一方の端面が前記ブースタに固定され、他方の端面が前記超音波振動を増幅する第2のブースタに固定されており、前記台金の回転中心部には、歯車研削加工中の空洞が形成されており、前記刃先は、前記大径部の外周に、ねじ状に形成されており、前記ワークは、平行軸歯車に創成されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の歯車研削工具は、超音波振動子を有する歯車研削装置に用いられる歯車研削工具であって、前記超音波振動子に接続されたブースタに一方の端面が固定されて回転する台金と、前記台金に設けられてワークの被加工面を歯すじ方向に移動して前記ワークに歯面を研削する刃先と、を有し、前記刃先は、前記超音波振動子から発振され前記ブースタで増幅された超音波振動によって前記歯面に対して歯形方向に超音波振動し、前記台金には、回転軸方向の中央に、両端側よりも径が小さい小径部が形成されていることを特徴とする。
また、本発明の歯車研削工具は、超音波振動子を有する歯車研削装置に用いられる歯車研削工具であって、前記超音波振動子に接続されたブースタに一方の端面が固定されて回転する台金と、前記台金に設けられてワークの被加工面を歯すじ方向に移動して前記ワークに歯面を研削する刃先と、を有し、前記刃先は、前記超音波振動子から発振され前記ブースタで増幅された超音波振動によって前記歯面に対して歯形方向に超音波振動し、前記台金には、回転軸方向の中央に、両端側よりも径が大きい大径部が形成されており、前記台金は、前記回転軸方向の一方の端面が前記ブースタに固定され、他方の端面が前記超音波振動を増幅する第2のブースタに固定され、前記台金の回転中心部には、歯車研削加工中の空洞が形成されており、前記刃先は、前記大径部の外周に、ねじ状に形成されており、前記ワークは、平行軸歯車に創成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の歯車研削装置によれば、ワークを回転自在に支持するワーク軸と、回転しながら刃先が歯すじ方向に移動してワークに歯面を研削加工する研削工具と、超音波発振器からの信号により研削工具の回転軸方向に超音波振動を発生させる超音波振動子と、超音波振動子と研削工具とを接続して超音波振動を増幅するブースタと、を有し、刃先は、歯面に対して歯形方向に超音波振動する。
【0015】
このような構成により、研削筋が少ない高精度な歯面研削が可能となる。また、好適な超音波振動を加えた研削加工により、歯面にオイルポケットを形成することができる。よって、歯面の摩擦係数が小さく、騒音や振動が少なく、高強度で、なじみ性や潤滑性の高い、優れた歯面性状の歯車が得られる。
【0016】
また、刃先は歯すじ方向に移動すると共に歯形方向に好適な強さで超音波振動するので、高効率な歯車研削を低周速で実行することができる。また、小径の研削工具を使用しても高精度な歯車加工が可能である。これにより、歯車研削装置及び歯車の生産性を向上させることができ、生産コストを削減することができる。
【0017】
また、本発明の歯車研削装置によれば、前記研削工具の台金には、前記回転軸方向の中央に、両端側よりも径が小さい小径部または前記両端側よりも径が大きい大径部が形成されても良い。このような構成により、歯面を研削する刃先に好適な超音波振動を伝達することができ、高精度で高効率な歯車研削が可能となる。
【0018】
また、本発明の歯車研削装置によれば、前記研削工具の台金には、前記回転軸方向の中央に、両端側よりも径が小さい小径部が形成されており、前記台金は、前記回転軸方向の一方の端面が前記ブースタに固定され、他方の端面に前記刃先が形成されており、前記ワークは、傘歯車に創成されても良い。これにより、優れた歯面性状の高精度な傘歯車を高効率に加工することができる。
【0019】
また、本発明の歯車研削装置によれば、前記小径部は、双曲面状に形成されても良い。このような台金形状により、超音波振動を好適な状態で効率良く刃先に伝達することができ、高精度且つ高効率な研削加工が行われ、優れた歯面性状の歯車が得られる。
【0020】
また、本発明の歯車研削装置によれば、前記研削工具の台金には、前記回転軸方向の中央に、両端側よりも径が大きい大径部が形成されており、前記台金は、前記回転軸方向の一方の端面が前記ブースタに固定され、他方の端面が前記超音波振動を増幅する第2のブースタに固定されており、前記刃先は、前記大径部の外周に、ねじ状に形成されており、前記ワークは、平行軸歯車に創成される。これにより、高精度で、低騒音且つ低振動な平行軸歯車を創成することができる。
【0021】
また、本発明の歯車研削装置によれば、前記台金には、回転中心部に空洞が形成されても良い。これにより、刃先の超音波振動を研削加工に適した状態にして、加工精度及び加工効率を向上させることができる。
【0022】
また、本発明の歯車研削工具によれば、超音波振動子に接続されたブースタに一方の端面が固定されて回転する台金と、台金に設けられてワークの被加工面を歯すじ方向に移動してワークに歯面を研削する刃先と、を有し、刃先は、ブースタで増幅された超音波振動によって歯面の歯形方向に超音波振動し、台金には、回転軸方向の中央に、両端側よりも径が小さい小径部または径が大きい大径部が形成されている。これにより、ブースタからの超音波振動を研削に適した状態にして刃先に伝達し、刃先を超音波振動させることができる。よって、高精度な歯車を効率良く創成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係る歯車研削装置の研削工具近傍の概略構成を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る歯車研削装置の研削工具を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る歯車研削装置の研削工具の刃先による歯面の研削方向を示す図である。
図4】本発明の他の実施形態に係る歯車研削装置の研削工具近傍の概略構成を示す図である。
図5】本発明の他の実施形態に係る歯車研削装置の研削工具の図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態に係る歯車研削装置を図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る歯車研削装置1の研削工具10近傍の概略構成を示す図である。
【0025】
歯車研削装置1は、例えば、曲がり歯傘歯車、ハイポイドギヤ等を研削加工するクレードル式または電気制御で駆動する製造装置である。図1に示すように、歯車研削装置1は、ワークWを回転自在に支持するワーク軸6と、ワークWを研削する歯車研削工具としての研削工具10と、超音波発振器2と、超音波振動子3と、ブースタ4と、を有する。
【0026】
ワーク軸6は、歯車に創成される加工対象のワークWを支持するものである。ワーク軸6は、図示しない駆動モータに接続されており、ワークWを回転自在に支持すると共に、その回転軸は、研削工具10の回転軸に対して傾斜自在且つ位置変更自在に構成されていても良い。
【0027】
研削工具10は、図示しない送り機構、駆動モータを有する図示しないコラムに支持されており、回転しながらワークWの歯車を創成加工する。具体的には、研削工具10は、その中心軸を中心として回転する略円柱状の形態をなす台金12を有し、台金12には、ワークWの歯すじ方向X(図3参照)に移動しながらワークWに接触して歯面W1(図3参照)を研削加工する刃先11が形成されている。
【0028】
超音波発振器2は、超音波振動子3に超音波振動を発振させるための信号及び電力を供給する装置である。超音波発振器2は、歯車研削装置1の図示しない制御装置に接続されており、制御装置からの信号に基づいて、ワークWの研削に必要な超音波振動の信号を超音波振動子3へ送る。
【0029】
超音波振動子3は、超音波発振器2からの信号に基づきワークWの研削に必要な超音波振動を発生させる装置である。具体的には、超音波振動子3は、超音波発振器2からの電力を、研削工具10の回転軸方向の超音波振動に変換して、ブースタ4に伝える。
【0030】
ブースタ4は、超音波振動を増幅する装置である。ブースタ4は、超音波振動子3と研削工具10とを接続している。即ち、ブースタ4は、一方の端部4aが超音波振動子3に接続されており、他方の端部4bが研削工具10に接続されている。超音波振動子3から発せられた超音波振動は、ブースタ4によって増幅されて、研削工具10に伝達される。
【0031】
図2は、歯車研削装置1の研削工具10を示す図である。
図1及び図2を参照して、台金12は、一方の端部15の端面が、超音波振動子3に接続されているブースタ4に固定されており、他方の端部16の端面には、ワークWの被加工面を歯すじ方向Xに移動してワークWを研削する刃先11が形成されている。
【0032】
刃先11は、台金12の端部16の端面から突出する略環状の形態をなす研削といしであって、例えば、cBN、ダイヤモンド、WC、GC等の砥粒を有する電着といし、ビトリファイドボンドといし、メタルボンドといし、レジンボンドといし等から形成されても良い。
【0033】
前述のとおり、超音波振動子3から発生させた超音波振動は、ブースタ4を介して増幅され、研削工具10に伝達される。これにより、刃先11は、歯面W1(図3参照)に対して歯形方向Y(図3参照)に超音波振動する。
【0034】
図3は、研削工具10の刃先11による歯面W1の研削方向を示す図である。
図3に示すように、刃先11(図2参照)は、ワークWの被加工面である歯面W1を歯すじ方向Xに移動すると共に、ブースタ4(図1参照)で増幅された超音波振動によって歯面W1に対して歯形方向Yに超音波振動しながら、歯面W1を研削する。
【0035】
即ち、回転する研削工具10(図2参照)の刃先11は、ワークWの歯面W1を歯すじ方向Xに移動しながら歯形方向Yに超音波振動する。換言すれば、研削工具10の刃先11は、歯形方向Yに振動しながら歯すじ方向Xに、略波線状に移動しながら、歯面W1を研削する。なお、刃先11の超音波振動の振幅は、例えば、2~50μm、周波数は、15~50kHzである。
【0036】
このように、回転する研削工具10の刃先11が歯面W1を歯すじ方向Xに移動し、且つ、歯形方向Yに超音波振動することにより、歯すじ方向Xに延在する深い研削筋が形成され難くなる。即ち、歯形方向Yの超音波振動により、深い研削筋が残らず、研削筋の浅い、高精度な歯面W1が形成される。
【0037】
図2を参照して、台金12の回転軸方向の略中央には、両端側、即ち両方の端部15、16側、よりも径が小さい小径部13が形成されている。これにより、刃先11の超音波振動は、歯面研削に適した状態となる。よって、研削筋が少ない高精度な歯面研削が可能となる。
【0038】
詳しくは、小径部13は、略双曲面状または略円弧面状に形成されている。このような形状の台金12は、刃先11に好適な超音波振動を与える上で特に優れている。詳述すると、超音波振動を利用するといしは、刃先11の径が大きくなるにつれて振動が小さくなる。しかし、台金12に略双曲面状または略円弧面状の小径部13を形成して形状の最適化を図ることにより、刃先11の径が大きなといしでも、歯形方向の正確な振動を得ることができる。
【0039】
図1ないし図3を参照して、台金12の略中央に略双曲面状または略円弧面状の小径部13が形成されていることにより、超音波振動子3からの超音波振動は、ブースタ4を介して台金12の一方の端部15に伝達され、一方の端部15近傍は、回転軸方向に振動する。
【0040】
台金12の略中央、即ち略双曲面状または略円弧面状の小径部13の略中央では、ポアソン比に起因する半径方向の振幅が抑制されることによって回転軸方向への振動伝達が改善される。具体的には、略双曲面状の小径部13の略中央は、回転軸方向への振動振幅が約0である振動の節となる。
【0041】
そして、刃先11近傍、即ち台金12の他方の端部16近傍は、回転軸方向に沿って一方の端部15の振動に同期して端部15とは逆方向に大きく超音波振動する。台金12全体としては、回転軸方向に伸縮することになる。上記のとおり略双曲面状の小径部13が形成されていることにより、超音波振動子3からの超音波振動は、効率良く刃先11に伝達されることになる。
【0042】
このように、台金12の略中央に小径部13が形成されていることにより、超音波振動を好適な状態で効率良く刃先11に伝達することができる。これにより、高精度且つ高効率な研削加工が行われ、優れた歯面性状の歯車が得られる。
【0043】
また、上記のように刃先11に好適な超音波振動が加えられた研削加工により、ワークWの歯面W1にオイルポケットを形成することができる。オイルポケットは、歯車面の微細な凹凸であり、換言すれば、窪みである。
【0044】
加工後の歯面W1にオイルポケットが形成されることにより、歯面W1の摩擦係数が小さくなり、騒音や振動が少なく、高強度で、なじみ性や潤滑性の高い、優れた歯面性状の歯車が得られる。
【0045】
また、刃先11は歯すじ方向Xに移動すると共に歯形方向Yに好適な強さで超音波振動するので、高効率な歯車研削を低周速で実行することができる。
【0046】
このような低周速、低速回転で、高能率に精密な歯面W1を形成する研削加工が可能である。即ち、従来30000r.p.m.を超える高速回転が必要であった研削加工を、低速回転で高精度に行うことができる。
【0047】
また、低周速の歯車研削が可能であるので、小径の研削工具10を使用しても高精度な歯車加工を行うことができる。例えば、研削工具10の刃先11は、回転直径φ50mm以下であっても良い。好適な超音波振動を付加することにより、刃先11のといし周速を上げる必要がなく、刃先11がφ50mm以下でも低回転で高精度な歯面研削が可能である。
【0048】
このように、歯車研削装置1によれば、研削工具10を高速回転させる大型で複雑な構成の研削装置が不要になる。よって、歯車製造用の装置及び歯車の生産性を向上させることができ、生産コストを削減することができる。
【0049】
次に、図4及び図5を参照して、実施形態を変形した例として、歯車研削装置101について詳細に説明する。なお、既に説明した実施形態と同一若しくは同様の作用、効果を奏する構成要素については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0050】
図4は、本発明の他の実施形態に係る歯車研削装置101の研削工具110近傍の概略構成を示す図である。
【0051】
図4を参照して、歯車研削装置101は、例えば、平歯車、はすば歯車等の平行軸歯車等を研削加工する装置である。歯車研削装置101は、ワークWを回転自在に支持するワーク軸6と、ワークWを研削する歯車研削工具としての研削工具110と、超音波発振器2と、超音波振動子3と、ブースタ4と、第2のブースタとしてのブースタ5と、を有する。
【0052】
ワーク軸6は、歯車に創成される加工対象のワークWを支持するものである。ワーク軸6は、図示しない駆動モータに接続されており、ワークWを回転自在に支持する。ワーク軸6は、研削工具110の回転軸に対して傾斜自在且つ位置変更自在に構成されていても良い。
【0053】
研削工具110は、図示しない送り機構や駆動モータ等を有する図示しないコラムに支持されており、回転しながらワークWから歯車を創成加工する。具体的には、研削工具110は、その中心軸を中心として回転する略円柱状の形態をなす台金112を有する。台金112には、ワークWの歯すじ方向X(図3参照)に移動しながらワークWに接触して歯面W1(図3参照)を研削加工する刃先111が形成されている。
【0054】
台金112は、回転軸方向の一方の端面、即ち端部115、がブースタ4に固定され、他方の端面、即ち端部116、が超音波振動を増幅する第2のブースタとしてのブースタ5に固定されている。ブースタ5は、図示しないコラムに回転自在に支持されている。即ち、台金112は、両端部115、116がブースタ4、5を介して回転自在に支持されている。
【0055】
なお、研削工具110は、その回転軸が略垂直に、即ち上下方向に延在するよう、設けられても良い。また、ワーク軸6は、研削工具110の回転軸に対してねじれの位置にあり、研削工具110の回転軸が略垂直になるよう構成される場合、ワーク軸6は、略水平に延在するよう設けられても良い。
【0056】
図5は、歯車研削装置101の研削工具110を示す図である。
図5を参照して、加工工具の台金112には、回転軸方向の略中央に、両方の端部115、116側よりも径が大きい大径部14が形成されている。大径部14は、略円柱状の形態をなしている。即ち、研削工具110の台金112は、略中央に大径部14が形成された段付きの略円柱状の形態である。
【0057】
図3及び図5を参照して、大径部14の外周にはワークWに接触して歯面W1を研削する刃先111が形成されている。刃先111は、略ねじ状に形成されており、例えば、cBN、ダイヤモンド、WC、GC等の砥粒を有する電着といし、ビトリファイドボンドといし、メタルボンドといし、レジンボンドといし等であっても良い。刃先111は、回転しながらワークWの歯面W1に対して歯すじ方向Xに相対移動する。これにより、ワークWは、高精度で、低騒音且つ低振動な平行軸歯車に創成される。
【0058】
また、図5を参照して、台金112には、回転中心部に空洞17が形成されている。空洞17は、断面略円形状で回転軸方向に延在する中空部である。即ち、台金112は、中抜き形状を有し、略円管状に形成されている。台金112の回転中心部に空洞17が形成されていることにより、刃先111の超音波振動は、台金112の径方向への振動であって研削加工に適した状態になる。
【0059】
詳しくは、図4及び図5を参照して、超音波振動子3から発生させた回転軸方向の超音波振動は、ブースタ4によって増幅されて研削工具110の台金112の端部115に伝達される。台金112の他方の端部116には、第2のブースタとしてのブースタ5が接続されており、このブースタ5によって端部116側の振動が増幅される。一方の端部115と他方の端部116は、同期してそれぞれ回転軸方向の逆方向に超音波振動する。即ち、台金112は、回転軸方向に伸縮する。
【0060】
そして、台金112の略中央の大径部14は、超音波振動により、径方向に好適に拡大、縮小を繰り返し、大径部14に形成された刃先111は、径方向に超音波振動する。即ち、刃先111は、研削工具110の回転によりワークWの歯面W1の歯すじ方向Xに移動しながら、ワークWの歯面W1の歯形方向Y(図3参照)に超音波振動する。
【0061】
換言すれば、研削工具110の刃先111は、歯形方向Yに振れながら略波線状に歯すじ方向Xに移動し、歯面W1を研削する。これによりワークWには、研削筋が打消されて浅くなった高精度な歯面W1が形成される。
【0062】
前述のとおり、台金112の中心部が空隙状に形成されているため、台金112の両端部115、116の回転軸方向の振動は、台金112の略中央に伝達され、刃先111には、ワークW研削に好適な径方向の振動が発生する。これにより、高精度な研削を高効率に実行することができ、高精度で優れた歯面粗さの歯車が得られる。
【0063】
ブースタ4及びブースタ5を有する前述の構成により、刃先111に半径方向の振動を発生させることは可能である。しかし、刃先111の径が小さくなるにつれて振動が小さくなり、好適な振動、即ち大きな振動、を得ることが難しくなってしまう。本実施形態では、台金112の回転中心部に空洞17が形成されているので、刃先111の直径に応じて振動を最適化することができる。即ち、刃先111がどのような径であっても、同等の振動を得ることができる。
【0064】
また、上記のように刃先111に好適な超音波振動が加えられた研削加工により、ワークWの歯面W1にオイルポケットを形成することができる。これにより、歯面W1の摩擦係数が小さく、騒音や振動が少なく、高強度で、なじみ性や潤滑性の高い、優れた歯面性状の歯車が得られる。
【0065】
また、刃先111は歯すじ方向Xに移動すると共に歯形方向Yに好適な強さで超音波振動するので、高効率な歯車研削を低周速で実行することができる。
【0066】
このような低周速、低速回転で、従来の一般といしのような研削加工が可能である。即ち、従来30000r.p.m.を超える高速回転が必要であった研削加工を、低速回転で高精度に行うことができる。
【0067】
また、低周速の歯車研削が可能であるので、小径の研削工具110を使用しても高精度な歯車加工を行うことができる。例えば、研削工具110の刃先111は、回転直径φ50mm以下であっても良い。好適な超音波振動を付加することにより、刃先111のといし周速を上げる必要がなく、刃先111がφ50mm以下でも低回転で高精度な歯車研削が可能である。
【0068】
このように、歯車研削装置101によれば、研削工具110を高速回転させる大型で複雑な構成の研削装置が不要になる。よって、歯車製造用の装置及び歯車の生産性を向上させることができ、生産コストを削減することができる。
【0069】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更実施が可能である。
【符号の説明】
【0070】
1、101 歯車研削装置
2 超音波発振器
3 超音波振動子
4 ブースタ
4a 端部
4b 端部
5 ブースタ
6 ワーク軸
10、110 研削工具
11、111 刃先
12、112 台金
13 小径部
14 大径部
15、115 端部
16、116 端部
17 空洞
W ワーク
W1 歯面
X 歯すじ方向
Y 歯形方向
図1
図2
図3
図4
図5