(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】シミュレーション装置、シミュレーション方法及びシミュレーションプログラム
(51)【国際特許分類】
B29C 48/92 20190101AFI20231228BHJP
B29B 7/48 20060101ALI20231228BHJP
B29B 7/80 20060101ALI20231228BHJP
B29C 48/40 20190101ALI20231228BHJP
B29C 48/285 20190101ALI20231228BHJP
B29B 7/72 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
B29C48/92
B29B7/48
B29B7/80
B29C48/40
B29C48/285
B29B7/72
(21)【出願番号】P 2020103154
(22)【出願日】2020-06-15
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】福澤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】富山 秀樹
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-029819(JP,A)
【文献】特開2012-045866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/00-48/96
B29B 7/00- 7/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混練押出機における所定の物理量を算出するシミュレーション装置であって、
少なくとも前記混練押出機に投入される第1の原料の特性と、第2の原料の特性とを取得する取得部と、
該取得部にて取得した第1の原料及び第2の原料の特性に基づいて、第1の原料及び第2の原料の混合物の物理量を算出する算出部と
を備え
、
前記算出部は、
第1の原料の特性に基づいて、第1の原料に係る第1物理量を算出し、
第2の原料の特性に基づいて、第2の原料に係る第1物理量を算出し、
第1の原料に係る第1物理量と、第2の原料に係る第1物理量とに基づいて、前記混合物の第1物理量を算出し、
第1の原料及び第2の原料の特性の平均値に基づいて、前記混合物の第2物理量を算出するようにしてあり、
第1物理量は、前記混合物の温度を含み、
第2物理量は、圧力、充満率、滞留時間、又は前記混合物に分散する第1の原料若しくは第2の原料の粒子径を含む
シミュレーション装置。
【請求項2】
シミュレーション対象である前記混練押出機は第1の原料が投入される第1投入部及び第2の原料が投入される第2投入部を有し、前記第1投入部は、スクリュが回転可能に挿入されたシリンダの根本側、前記第2投入部は前記第1投入部よりも前記シリンダの出口側に位置しており、
前記算出部は、
前記スクリュの長手方向における、前記第2投入部の位置を探索し、
第1の原料の特性に基づいて、前記第2投入部よりも根本側における第1物理量を算出し、前記第2投入部よりも先端側における前記混合物の第1物理量を算出し、
第1の原料の特性に基づいて、前記第2投入部よりも根本側における第2物理量を算出し、前記第2投入部よりも先端側における前記混合物の第2物理量を算出する
請求項1に記載のシミュレーション装置。
【請求項3】
第2物理量は、前記混合物に分散する第1の原料又は第2の原料の粒子径を含む
請求項1又は請求項2に記載のシミュレーション装置。
【請求項4】
混練押出機における所定の物理量を算出するシミュレーション方法であって、
少なくとも前記混練押出機に投入される第1の原料の特性と、第2の原料の特性とを取得し、
取得した第1の原料の特性に基づいて、第1の原料に係る、温度を含む第1物理量を算出し、
取得した第2の原料の特性に基づいて、第2の原料に係る第1物理量を算出し、
算出した第1の原料に係る第1物理量と、算出した第2の原料に係る第1物理量とに基づいて、第1の原料及び第2の原料の混合物の第1物理量を算出し、
取得した第1の原料及び第2の原料の特性の平均値に基づいて、前記混合物に係る圧力、充満率、滞留時間、又は前記混合物に分散する第1の原料若しくは第2の原料の粒子径を含む第2物理量を算出する
シミュレーション方法。
【請求項5】
コンピュータに、混練押出機における所定の物理量を算出する処理を実行させるためのシミュレーションプログラムであって、
少なくとも前記混練押出機に投入される第1の原料の特性と、第2の原料の特性とを取得し、
取得した第1の原料の特性に基づいて、第1の原料に係る、温度を含む第1物理量を算出し、
取得した第2の原料の特性に基づいて、第2の原料に係る第1物理量を算出し、
算出した第1の原料に係る第1物理量と、算出した第2の原料に係る第1物理量とに基づいて、第1の原料及び第2の原料の混合物の第1物理量を算出し、
取得した第1の原料及び第2の原料の特性の平均値に基づいて、前記混合物に係る圧力、充満率、滞留時間、又は前記混合物に分散する第1の原料若しくは第2の原料の粒子径を含む第2物理量を算出する
処理を前記コンピュータに実行させるためのシミュレーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混練押出機における所定の物理量を算出するシミュレーション装置、シミュレーション方法及びシミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
二軸スクリュ式押出機は、スクリュ構成に自由度を持たせるためスクリュがセグメント化されている。例えば、原料を順方向へ輸送する機能を有するスクリュピース、原料を混練する機能を有するスクリュピース等、複数種類のスクリュピースを組み合わせることによって、スクリュを構成することができる。ところが、樹脂に合わせたスクリュ構成の決定は容易ではなく、試行錯誤を要するという問題がある。
【0003】
この問題を解決する技術として、特許文献1には二軸押出機内の充満率、圧力、温度などを予測するシミュレーション装置が開示されている。シミュレーション装置は、原料である樹脂の粘度モデル、融点、固体及び溶融体の密度、比熱、熱伝導率等の樹脂物性と、押出量、スクリュ回転数、樹脂温度、先端樹脂圧力及びシリンダ温度等の押出条件と、スクリュ構成を示すデータとを初期設定し、初期設定されたデータに基づいて、二軸押出機内の充満率、圧力、温度等を算出する。シミュレーション装置を用いることにより、スクリュ構成の決定が容易となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のシミュレーション装置は、メインホッパーから投入された単一樹脂の混練状態を予測するものであり、実工程で通常行われるような複数種類の原料、例えば主原料に異種ポリマー、フィラー等を混合する混練プロセスをシミュレートすることができないという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、複数種類の原料の混練プロセスにおける所定の物理量を算出することができるシミュレーション装置、シミュレーション方法及びシミュレーションプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本態様に係るシミュレーション装置は、混練押出機における所定の物理量を算出するシミュレーション装置であって、少なくとも前記混練押出機に投入される第1の原料の特性と、第2の原料の特性とを取得する取得部と、該取得部にて取得した第1の原料及び第2の原料の特性に基づいて、第1の原料及び第2の原料の混合物の物理量を算出する算出部とを備える。
【0008】
本態様に係るシミュレーション方法は、混練押出機における所定の物理量を算出するシミュレーション方法であって、少なくとも前記混練押出機に投入される第1の原料の特性と、第2の原料の特性とを取得し、取得した第1の原料及び第2の原料の特性に基づいて、第1の原料及び第2の原料の混合物の物理量を算出する。
【0009】
本態様に係るシミュレーションプログラムは、コンピュータに、混練押出機における所定の物理量を算出する処理を実行させるためのシミュレーションプログラムであって、少なくとも前記混練押出機に投入される第1の原料の特性と、第2の原料の特性とを取得し、取得した第1の原料及び第2の原料の特性に基づいて、第1の原料及び第2の原料の混合物の物理量を算出する処理を前記コンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数種類の原料の混練プロセスにおける所定の物理量を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係るシミュレーション装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2】本実施形態に係る混練押出機の構成例を示す模式図である。
【
図3】本実施形態に係るシミュレーション方法を示すフローチャートである。
【
図4】本実施形態に係るシミュレーション方法を示すフローチャートである。
【
図5】本実施形態に係るシミュレーション方法を示すフローチャートである。
【
図6】混合物の混合比と粘度との関係を示すグラフである。
【
図7】混練プロセスのシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図8】混練プロセスにおける各原料の樹脂温度、分散粒子径を示すグラフである。
【
図9】実測値とシミュレーション結果との比較結果を示す図表である。
【
図10】樹脂原料の分散状態を示す光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係るシミュレーション装置、シミュレーション方法及びシミュレーションプログラムの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また下記実施形態及び変形例の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0013】
以下、本発明をその実施形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
<シミュレーション装置>
図1は、本実施形態に係るシミュレーション装置1の構成例を示すブロック図である。本実施形態に係るシミュレーション装置1は、複数の原料を混練する二軸スクリュ式の混練押出機における混練プロセスをシミュレートするコンピュータであり、算出部11、記憶部12、入力部13及び出力部14を備える。
【0014】
算出部11は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、GPGPU(General-purpose computing on graphics processing units)、TPU(Tensor Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、NPU(Neural Processing Unit)等の演算回路、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の内部記憶装置、I/O端子等を有する。算出部11は、記憶部12に記憶されたシミュレーションプログラム12aを読み出して実行することにより、二軸スクリュ式の混練押出機における所定の物理量を算出する処理を行う。シミュレーション装置1の各機能部は、ソフトウェア的に実現してもよいし、一部又は全部をハードウェア的に実現してもよい。
【0015】
記憶部12は、例えば、ハードディスク、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)、フラッシュメモリ等の記憶装置である。記憶部12は、算出部11が実行する各種のプログラム、及び、算出部11の処理に必要な各種のデータを記憶する。本実施形態において記憶部12は、少なくとも算出部11が実行するシミュレーションプログラム12aを記憶している。
シミュレーションプログラム12aは、シミュレーション装置1の製造段階において記憶部12に書き込まれる態様でもよい。シミュレーションプログラム12aは、他の情報処理装置等がネットワークを介して配信される態様でもよい。シミュレーション装置1は通信にてシミュレーションプログラム12aを取得して記憶部12に書き込む。シミュレーションプログラム12aは、フラッシュメモリ等の半導体メモリ、光ディスク、光磁気ディスク、磁気ディスク等の記録媒体2に読み出し可能に記録された態様でもよい。シミュレーション装置1はシミュレーションプログラム12aを読み出して記憶部12に記憶する。
【0016】
入力部13は、外部からデータを取り込むインタフェースである。入力部13は、例えばキーボード、マウスであり、初期条件に係るデータを取得する。初期条件に係るデータは、原料である樹脂の物性、混練押出機の押出条件、スクリュ構成等に関するデータである。初期条件の詳細は後述する。なお、入力部13は、初期条件のデータを、図示しない記憶装置から読み取り、又は他のコンピュータから受信する態様であってもよい。
【0017】
出力部14は、例えば液晶表示パネル、有機EL表示パネル等の表示装置である。表示装置である出力部14は、算出部11から出力される解析結果のデータに基づいて、混練押出機における所定の物理量を表示する。所定の物理量は、例えば、混練押出機における混合材の滞留時間、充満率、温度、分散粒子径等である。なお、表示装置は出力部14の一例であり、解析結果を外部出力する装置であれば、プリンタ、外部端末へ解析結果を送信する通信装置等であってもよい。
【0018】
なお、上記したシミュレーション装置1は、複数のコンピュータを含んで構成されるマルチコンピュータであってよく、ソフトウェアによって仮想的に構築された仮想マシンであってもよい。また、シミュレーション装置1をクラウドサーバとして構成してもよい。
【0019】
<混練押出機>
図2は、本実施形態に係る混練押出機の構成例を示す模式図である。シミュレーション対象である混練押出機は、複数の原料を溶融及び混練するスクリュ4と、スクリュ4が回転可能に挿入されたシリンダ3とを備える。
【0020】
シリンダ3は、第1の原料が投入されるホッパ(第1投入部)31と、第2の原料が投入されるサイドフィード(第2投入部)32とを備える。ホッパ31は根本側(
図2中左側)、サイドフィード32はホッパ31よりもシリンダ3の出口側に配されている。
【0021】
スクリュ4は、複数種類のスクリュピースを組み合わせ、一体化することによって一本のスクリュ4として構成されている。例えば、原料を順方向へ輸送するフライトスクリュ形状の順フライトピース、原料を逆方向へ輸送する逆フライトピース、原料を混練するニーディングピース等を、原料の特性に応じた順序及び位置に配して組合せることにより、スクリュ4が構成される。なお、
図2には1本のスクリュ4が図示されているが、実際には2本のスクリュ4が相互に噛み合わされた状態でシリンダ3の内孔内に回転可能に挿入されている。
【0022】
<シミュレーション方法>
図3~
図5は、本実施形態に係るシミュレーション方法を示すフローチャートである。以下、物性が異なる2種類の原料を混合する混練プロセスのシミュレーション方法を説明する。第1の原料及び第2の原料は、異なる特性を有する樹脂原料であるものとする。
【0023】
起動したシミュレーション装置1の算出部11は、まず初期設定を行う(ステップS11)。具体的には、算出部11は、混練押出機に投入される複数の原料それぞれの粘度モデル、融点、固体及び溶融体の密度、比熱、熱伝導率等の物性を示す樹脂物性データを取得する。また、算出部11は、原料の押出量、スクリュ回転数、原料樹脂温度、先端樹脂圧力、シリンダ温度等の押出条件データを取得する。更に算出部11は、複数種類のスクリュピースの位置及び配列、スクリュ径、シリンダ径、スクリュ4の長手方向におけるホッパ31の位置、サイドフィード32の位置等を示すスクリュ構成データを取得する。なお、ステップS11の処理を実行する算出部11又は入力部13は、少なくとも混練押出機に投入される第1の原料の特性と、第2の原料の特性とを取得する取得部として機能する。
【0024】
次いで、算出部11は、初期設定されたデータに基づいて、サイドフィード32の位置を探索する(ステップS12)。
図2に示すように、スクリュ4の長手方向における位置を変数iで表す。サイドフィード32の位置に対応する、スクリュ4の長手方向における位置に対応する変数iの値を「j」とする。変数iの値は、スクリュ根本節点4aからスクリュ先端節点4bにむかって大きくなる。スクリュ根本節点4aは、
図2中左側のスクリュ4の先端部の節点であり、スクリュ先端節点4bは、
図2中右側のスクリュ4の先端部の節点である。
【0025】
次いで、算出部11は、変数iに、スクリュ先端節点4bの位置を表す数値を代入する(ステップS13)。
【0026】
そして、算出部11は変数iが、サイドフィード32の位置を示す値j以上であるか否かを判定する(ステップS14)。変数iが値j未満であると判定した場合(ステップS14:NO)、第1の原料のみが存在するものとして、算出部11は、第1の原料の押出量及び粘度を設定する(ステップS15)。変数iが値j以上であると判定した場合(ステップS14:YES)、算出部11は、押出量として、第1及び第2原料の総押出量を設定する(ステップS16)。また算出部11は、粘度として、第1及び第2原料の混合物の平均粘度を設定する(ステップS17)。
【0027】
図6は、混合物の混合比と粘度との関係を示すグラフである。横軸は、第2の原料の混合比、即ち混合物に対する第2の原料の割合を示し、縦軸は、第1及び第2の原料の混合物の粘度を示す。
【0028】
相溶系における混合物の粘度は下記式(1)で表される。
【数1】
【0029】
非相溶系における混合物の粘度は下記式(2)で表される。各変数の意味は、上記式(1)と同様である。
【数2】
【0030】
次いで、算出部11は、スクリュ特性式により、圧力、充満率及び滞留時間を算出する(ステップS18)。変数iがj未満である場合、算出部11は、第1の原料の押出量及び粘度を用いて、圧力、充満率及び滞留時間を算出する。変数iがj以上である場合、ステップS16及びステップS17で算出した混合物の総押出量、平均粘度を用いて、圧力、充満率及び滞留時間をマクロ的に算出する。
なお、ステップS18で算出される圧力、充満率及び滞留時間は、本態様に係る第2物理量に相当する。
【0031】
スクリュ特性式は下記式(3)により表される。変数iがj未満である場合、押出量Q及び粘度ηMは、第1の原料の押出量及び粘度である。変数iがj以上である場合、押出量Qは第1原料及び第2原料の総押出量であり、粘度ηMは第1原料及び第2原料の混合物の平均粘度である。
【数3】
【0032】
圧力損失ΔPと、既知の先端樹脂圧力P0により、変数iで表される位置における圧力Pを算出することができる。
【0033】
【0034】
【0035】
そして、算出部11は、変数iがスクリュ根本節点4aを示す値であるか否かを判定する(ステップS19)。変数iがスクリュ根本節点4aを示す値で無いと判定した場合(ステップS19:NO)、算出部11は変数iを1デクリメントし(ステップS20)、処理をステップS14へ戻す。
【0036】
変数iがスクリュ根本節点4aを示す値であると判定した場合(ステップS19:YES)、算出部11は、変数iに、スクリュ根本節点4aの位置を表す数値を代入する(ステップS21)。なお、ステップS21の処理を省略してもよい。
【0037】
次いで、算出部11は変数iが、サイドフィード32の位置を示す値j以上であるか否かを判定する(ステップS22)。変数iが値j以上であると判定した場合(ステップS22:YES)、算出部11は、第1及び第2の樹脂の平均温度(以下、平均樹脂温度と呼ぶ。)及び平均粘度を算出する(ステップS23)。平均樹脂温度は、第1の原料及び第2の原料の混合比を用いた加重平均により算出すればよい。平均粘度は、上記式(1)又は(2)で算出される。ここで算出される平均樹脂温度は、後述の式(6)における「シリンダから原料に与えられる総エネルギ-」の算出に用いられる。平均粘度は、後述の式(7)における「スクリュから原料に与えられる剪断エネルギー」の算出に用いられる。
【0038】
ステップS22において、変数iが値j未満であると判定した場合(ステップS22:NO)、又はステップS23の処理を終えた算出部11は、エネルギー収支式により、一成分の樹脂温度を算出する(ステップS24)。
変数iが値j以上であり、複数の原料が存在する場合、算出部11は、当該複数の原料から選択した一成分、つまり、複数の原料個々の樹脂温度を算出する。変数iが値j未満であり、第1の原料のみが存在する場合、算出部11は、第1の原料の樹脂温度を算出する。
なお、ステップS24で算出される樹脂温度は、本態様に係る第1物理量に相当する。
【0039】
以下、第1の原料と、第2の原料との混合物の樹脂温度について説明する。シリンダ3から第1及び第2の原料それぞれに投入される熱エネルギーは下記式(6)で表される。
【数6】
【0040】
スクリュ4から第1及び第2の原料それぞれに投入される剪断エネルギーは下記式(7)で表される。
【数7】
【0041】
第1及び第2の原料の温度変化はエネルギーバランスを考え下記式(8-1)、(8-2)で表される。算出部11は、初期条件の樹脂温度と、下記式(8-1)、(8-2)を用いて、第1及び第2の原料の温度をそれぞれ算出することができる。
【数8】
【0042】
ステップS24の処理を終えた算出部11は、ステップS24で樹脂温度が算出されていない成分があるか否かを判定する(ステップS25)。未算出の成分があると判定された場合(ステップS25:YES)、算出部11は処理をステップS24へ戻し、他の成分の原料についても樹脂温度を算出する。
【0043】
未算出の成分が無いと判定された場合(ステップS25:NO)、算出部11は、ステップS24で算出した各原料の樹脂温度に基づいて、混合物の平均樹脂温度を算出する(ステップS26)。
つまり、混合物の樹脂温度については、混合物の物性の平均値を用いてマクロ的に算出するのではなく、先に各原料が単体で存在するものと仮定して、各原料の樹脂温度をミクロ的に算出し、算出された各原料の樹脂温度の平均値を算出する。樹脂温度については、マクロ的に算出するよりも、ミクロ的に算出した方がより精度良く、当該物理量を算出することができる。
【0044】
上記の説明ではステップS24~ステップS26において他成分系の樹脂温度を算出する方法を説明したが、変数iが値j未満であり第1の原料のみが存在する場合、混合率を1とし、第2の原料を無視して同様に算出すればよい。
【0045】
次いで、算出部11は、粘度比及び界面張力により分散粒子径を算出する(ステップS27)。なお、ステップS27で算出される分散粒子径は、本態様に係る第2物理量に相当する。分散粒子径は、溶融した第1の原料に分散した第2の原料からなる粒子の径、又は溶融した第2の原料に分散した第1の原料からなる粒子の径である。分散粒子径は、例えば下記式(9)で表される。
【数9】
【0046】
また、分散粒子径は下記式(10)で表してもよい。
【数10】
【0047】
更に、分散粒子径は下記式(11)で表してもよい。特に下記式(11)では、第1の原料及び第2の原料の混合物の粘度が用いられている。
【数11】
【0048】
そして、算出部11は、変数iがスクリュ先端節点4bを示す値であるか否かを判定する(ステップS28)。変数iがスクリュ先端節点4bを示す値で無いと判定した場合(ステップS28:NO)、算出部11は変数iを1インクリメントし(ステップS29)、処理をステップS22へ戻す。
【0049】
変数iがスクリュ先端節点4bを示す値であると判定した場合(ステップS28:YES)、算出部11は、シミュレーション結果が収束したか否かを判定する(ステップS30)。シミュレーション結果が収束していないと判定した場合(ステップS30:NO)、算出部11は、処理をステップS13へ戻し、ステップS13~ステップS29の処理を繰り返し実行する。
【0050】
シミュレーション結果が収束したと判定した場合(ステップS30:YES)、算出部11は解析結果を出力部14にて出力し(ステップS31)、処理を終える。
【0051】
図7は、混練プロセスのシミュレーション結果を示すグラフである。
図7に示す例では、第1の原料として約30℃のポリエチレン(PE: Polyethylene)が100kg/時で混練押出機に投入され、第2の原料として約30℃のポリプロピレン(PP: Polypropylene)がL/D=26.25の位置から30wt%の混合比でサイドフィード32にて混練押出機に投入された場合の例を示している。
【0052】
図7A~
図7Cに示すグラフの横軸は変数i、即ちスクリュ4の長手方向における位置を示している。
図7Aは滞留時間を示し、
図7Bは充満率を示し、
図7Cは温度を示す。
図7Bに示すように、第2の原料が投入される位置において、押出量の増加により充満率が増加している。また、第2の原料が投入される位置において、混合物全体の樹脂温度が低下し、その後の混練プロセスにより、混合物の特性に応じた樹脂温度まで上昇している。
このように、本実施形態に係るシミュレーション装置1によって、第1及び第2の原料の混合物の滞留時間、充満率、温度を算出し、解析結果を出力することができる。
【0053】
図8は、混練プロセスにおける各原料の樹脂温度、分散粒子径を示すグラフである。
図8Aに示すように、スクリュ先端節点4bに相当する部位から、第1の原料と、第2の原料とが投入される。X印が付された部位で第1及び第2の原料の混練が行われている。
図8Bは第1原料及び第2原料の樹脂温度、
図8Cは分散した第2の原料の粒子径(分散サイズ)を示している。
図8B中、実線は第1の原料成分の温度であり、破線は第2の原料成分の温度である。
【0054】
図9は、実測値とシミュレーション結果との比較結果を示す図表である。
図10は、樹脂原料の分散状態を示す光学顕微鏡写真である。総押出量は20kg/hである。第1の原料は、メルトインデックスMI=7のポリプロピレンである。第2の原料は、相対粘度2.45のポリアミド6(PA6: Polyamide)である。第1の原料及び第2の原料の比率を、80/20、70/30、60/40、50/50、スクリュ4の回転数を300rpm、500rpm、700rpmとし、実機を用いた実験とシミュレーションとを行った。
図9は、混練押出機の出口における樹脂温度及び分散粒子径の実験結果とシミュレーション結果とを示している。
図10Aは、第1の原料及び第2の原料の比率が80/20、スクリュ4の回転数が500rpmで混練プロセスで得られた混合物の光学顕微鏡写真である。
図10Bは、第1の原料及び第2の原料の比率が50/50、スクリュ4の回転数が500rpmで混練プロセスで得られた混合物の光学顕微鏡写真である。
【0055】
図9の図表に示すように、出口温度のシミュレーション結果は概ね良好であり、実機を用いて測定された出口温度との差異は最大10℃である。分散粒子径についても、第1の原料及び第2の原料の比率が80/20、50/50の結果を比較してみると、シミュレーション結果が、実機を用いて観測される分散粒子径の傾向を再現していることが分かる。
【0056】
このように構成された本実施形態に係るシミュレーション装置1、シミュレーション方法及びシミュレーションプログラム12aによれば、複数種類の原料の混練プロセスにおける所定の物理量を算出することができる。
【0057】
また、算出する物理量の種類によって、ミクロ的な算出方法と、マクロ的な算出方法とを使い分けることにより、より精度良く混練押出機の混練プロセスをシミュレートすることができる。
【0058】
第1の原料を投入するホッパ31と、第2の原料を投入するサイドフィード32とが異なる位置に設けられた混練押出機の混練プロセスをシミュレートすることができる。
【0059】
更に、混合物の温度をミクロ的に算出することにより、混合物の温度を精度良く算出することができる。
【0060】
更にまた、混合物の分散粒子径をマクロ的に算出することにより、混合物の分散粒子径を精度良く算出することができる。
【0061】
なお、本実施形態では、主に2種類の樹脂原料を混練する例を説明したが、第1の原料である樹脂原料に、第2の原料であるガラス繊維、炭素繊維、磁性粉末等のフィラーを混練する場合にも本発明を適用することができる。
【0062】
樹脂原料とフィラーの混合物の粘度は、Mooneyの式(Mooney, M.: J. Colloid Sci., 6, 162 (1951))、Chongの式(Chong, J. S.: J. Appl. Polymer Sci., 15, 2007 (1971))、Eilersの式(Eilers, von H.: Colloid and Polymer Sci., 97, 313 (1941))等を用いて算出すればよい。
【0063】
Mooneyの式は、下記式(12)で表される。
【数12】
【0064】
Chongの式は、下記式(13)で表される。
【数13】
【0065】
Eilersの式は、下記式(14)で表される。
【数14】
【0066】
また、第1及び第2の原料を異なる位置から投入する場合のシミュレーションを説明したが、同じ位置から第1及び第2の原料を投入する場合に本発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0067】
1 シミュレーション装置
2 記録媒体
3 シリンダ
4 スクリュ
4a スクリュ根本節点
4b スクリュ先端節点
11 算出部
12 記憶部
12a シミュレーションプログラム
13 入力部(取得部)
14 出力部
31 ホッパ(第1投入部)
32 サイドフィード(第2投入部)