(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】カルバペネマーゼを産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、およびアシネトバクター属の種の、色原体を用いる検出
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/04 20060101AFI20231228BHJP
C12Q 1/10 20060101ALI20231228BHJP
C12Q 1/34 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
C12Q1/04
C12Q1/10
C12Q1/34
(21)【出願番号】P 2020506717
(86)(22)【出願日】2018-08-07
(86)【国際出願番号】 GB2018052255
(87)【国際公開番号】W WO2019030519
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-07-08
(32)【優先日】2017-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】516120722
【氏名又は名称】マスト グループ リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】ホブソン、ジョナサン アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】コレボーン、マチルダ メイ
(72)【発明者】
【氏名】デイビス、ミア
(72)【発明者】
【氏名】アニャクワ、アンドリュー チュカ
【審査官】山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-500057(JP,A)
【文献】国際公開第02/024707(WO,A1)
【文献】特開2004-166694(JP,A)
【文献】Hanaki, H. et al.,The synthesis of 7-substituted-3-dinitrostyryl cephalosporins and their ability for detecting extended spectrum β-lactamases (ESBLs),J. Antibiot.,2005年,58(1),69-73
【文献】Brown, M. R. W. and Winsley, B. E.,Synergism between polymyxin and polysorbate 80 against Pseudomonas aeruginosa,Journal of General Microbiology,1971年,68,367-373
【文献】Chapman, D. G. and Russel A. D.,Pretreatment with colistin and proteus sensitivity to other agents,The Journal of Antibiotics,1978年,Vol. XXXI, No. 2,124-130
【文献】Storch, G. A. et al.,Antibiotic-induced lysis of Enterococci,J. Clin. Invest.,1981年,68,639-645
【文献】Viedma, E. et al.,VIM-2-producing multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa ST175 clone, spain,Emerging Infectious Diseases,2012年,18(8),1235-1241
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00 - 3/00
G01N 33/48 - 33/98
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の、カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、およびアシネトバクター属の存在を検出するための方法であって、
カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、またはアシネトバクター属を含む疑いのある試料を用意すること、
当該試料を、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩の溶液と反応させること、ここで当該反応は広域スペクトルβ-ラクタマーゼ(ESBL)阻害剤及びAmpC阻害剤をさらに含む、および
カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、またはアシネトバクター属が当該試料に存在する場合における反応媒体中の色の変化を検出すること、を含み、
ここで、前記方法は、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩との反応前または反応と同時に、試料を溶解させるステップをさらに含み、
ここで、試料の溶解が、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩の存在下で起こり、且つ
ここで、当該試料の溶解が、ポリミキシン、グリコペプチドおよび
前記ポリミキシンとは異なるポリペプチド抗生物質の組合せによって促進され
、前記組合せは、エンテロバクター目、シュードモナス属、またはアシネトバクター属に対して溶解活性を有する、前記方法。
【請求項2】
当該試料が生物学的試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
当該生物学的試料が、尿試料または分離細胞培養物に由来する試料からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
試料の(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩との反応が、色の変化を観察するのに十分な時間行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
当該試料の(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩との反応が、5℃~40℃の温度で行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩が、カルバペネムもしくはペネムと組み合わせて使用される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
広域スペクトルβ-ラクタマーゼ阻害剤がクラブラン酸であり、AmpC阻害剤がクロキサシリンまたはその混合物である、請求項
1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
当該阻害剤が、30μg/ml~50μg/mlの濃度のクラブラン酸及び300μg/ml~500μg/mlの濃度のクロキサシリンのうちの少なくとも1つを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩が、有機溶媒、有機酸および硫酸亜鉛の少なくとも1種を含む溶液に溶解されている、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
当該有機溶媒が、極性非プロトン性溶媒であり、前記有機酸が直鎖状飽和ジカルボン酸である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
広域スペクトルβ-ラクタマーゼ(ESBL)阻害剤及びAmpC阻害剤と、
エンテロバクター目、シュードモナス属、またはアシネトバクター属に対して溶解活性を有する、ポリミキシン、グリコペプチドおよび
前記ポリミキシンとは異なるポリペプチド抗生物質の組合せと、の組合せにおける(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩の、試料中の、カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、およびアシネトバクター属の存在を検出するための使用。
【請求項12】
(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩が、カルバペネムもしくはペネムと組み合わせて使用される、請求項11に記載の、広域スペクトルβ-ラクタマーゼ(ESBL)阻害剤及びAmpC阻害剤と、ポリミキシン、グリコペプチドおよびポリペプチド抗生物質の組合せと、の組合せにおける(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩の使用。
【請求項13】
微生物がカルバペネム加水分解性β-ラクタマーゼを産生するかどうかを判定するためのキットであって、
(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩を含むバイアル、
(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩でコーティングされたウェルを有するマイクロタイタープレート、または
HMRZ-98(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3- セフェム-4-カルボン酸またはその塩を含浸させた分析ディスクと、
広域スペクトルβ-ラクタマーゼ(ESBL)阻害剤およびAmpC阻害剤と、
エンテロバクター目、シュードモナス属、またはアシネトバクター属に対して溶解活性を有する、ポリミキシン、グリコペプチドおよび
前記ポリミキシンとは異なるポリペプチド抗生物質の組合せと、
を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の、カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目(Enterobacteriales)、シュードモナス属(Pseudomonas)、およびアシネトバクター属(Acinetobacter)の存在を検出するための方法、ならびにそのような方法で使用するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
カルバペネマーゼは、カルバペネムなどの様々な抗生物質に対して活性なβ-ラクタマーゼの1群である。カルバペネマーゼは、ベータ-ラクタマーゼの3つのクラス、すなわちAmblerクラスA、AmblerクラスBおよびAmblerクラスDに属する。これら3つのクラスのカルバペネマーゼは、臨床的に重要な細菌に、カルバペネムに対する耐性をもたらし、あるいはカルバペネムに対する感受性を低下させる。したがって、カルバペネマーゼを産生する細菌は臨床的に興味深く、これらの細菌の蔓延を防ぎ、及び、多剤耐性や全抗菌薬耐性(pandrug resistance)を減少させるために、これらを早期に検出するための方法が求められる。
【0003】
カルバペネマーゼ産生性バクテリアを検出するために、「Etest(登録商標)」などのMICストリップ製品および「ホッジ試験変法」の2種の試験が、臨床的に広く使用されている。「Etest(登録商標)」では、指標カルバペネムと、試験微生物に対するカルバペネム陽性酵素阻害抗菌剤を、寒天上に対向する所定の勾配で準備し、これらを用いて該抗菌剤の最小阻害濃度(MIC)と抑制濃度比を求める。「ホッジ試験変法」では、レポーター細菌がカルバペネム含有ディスクに向かって増殖し、ディスクの周囲に、特徴的な「クローバーの葉」の形をした増殖パターンを形成した場合に、カルバペネマーゼ産生性菌を検出する。この現象は、試験分離菌によって産生されるカルバペネム不活化酵素によって仲介されうる。またカルバペネマーゼ遺伝子の分子検出技術も使用されている。しかし3種の試験のすべてに不利な点がある。「Etest(登録商標)」と「ホッジ試験変法」は、感度も特異性も不十分である一方、分子検出技術は複雑で費用がかかる。さらに、3種の検出方法はすべて、試料がカルバペネマーゼ産生性菌を含有しているかどうかを判定するための所要時間が最大で24時間に達する、非常に時間を要するものである。院内感染や薬剤耐性の移動を制御する場合に、これは不十分である。
【0004】
最近、カルバペネマーゼ産生性菌を検出するための酸測色技術が開発されている。この方法は、「Etest(登録商標)」、「ホッジ試験変法」および分子検出技術と比べて分析時間を顕著に短縮すると報告されている。国際公開WO2012/175637にはこのような方法が開示されており、具体的には、分析時間が2時間未満であると報告されている。しかし、現在の迅速な表現型試験は、試料中のカルバペネマーゼ産生性シュードモナス(Heinrichsら、2015年)およびアシネトバクターの検出のための感度及び特異性に乏しい。特に、偽陰性の結果が得られることがある。
【0005】
また、カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター科(Enterobacteriaceae)の迅速検出は、これらの生物の蔓延を抑えることに重要であり、これらの検出に表現型法も分子法も利用できるが、あらゆる状況でも理想的な検出方法は1つも存在していない(Lutgring、Limbago、2016)。抗菌剤感受性試験に関する欧州委員会(European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing、EUCAST、2018年)によると、近年の分類研究は、エンテロバクター科の定義を狭めた。その結果、エンテロバクター目(Enterobacteriales)は、唯一の科であるエンテロバクター科を含むグラム陰性バクテリアの目である。したがって、本発明は、エンテロバクター目について言及する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、特異性及び感度が高いだけでなく、臨床的に容易に利用されうる、カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、およびアシネトバクター属の、試料中での存在を検出する方法を提供することにニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、発色性セファロスポリン(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩を用いる表現型試験を行うことにより、カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、およびアシネトバクター属の存在を極めて短いタイムスケールで検出できることを見出した。
【0008】
特に、本発明者らによって見出された検出方法は、カルバペネマーゼの存在を試験する前に、発現を誘導または阻害する可能性のある試薬に、分離菌を前もって暴露させる必要がないので、別の特別な期間を必要としない。
【0009】
一態様において、本発明者らは、発色性セファロスポリン(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩を用いて、カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、およびアシネトバクター属の、このような細菌への感染が疑われる患者からの試料中における存在を検出できることを見出した。
【0010】
すなわち、第1態様において、本発明は、患者からの試料中の、カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、およびアシネトバクター属の存在を検出するための方法であって、カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、またはアシネトバクター属を含む疑いのある試料を用意すること、当該試料を、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4 カルボン酸またはその塩の溶液と反応させること、および反応媒体中の色の変化を検出すること、を含み、ここで黄から赤への色の変化が、カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、またはアシネトバクター属が当該試料中に存在することを示す前記方法を提供する。
また、本発明は、 試料中の、カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、およびアシネトバクター属の存在を検出するための方法であって、
カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、またはアシネトバクター属を含む疑いのある試料を用意すること、
当該試料を、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩の溶液と反応させること、ここで当該反応は広域スペクトルβ-ラクタマーゼ(ESBL)阻害剤及びAmpC阻害剤をさらに含む、および
カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、またはアシネトバクター属が当該試料に存在する場合における反応媒体中の色の変化を検出すること、を含み、
ここで、前記方法は、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩との反応前または反応と同時に、試料を溶解させるステップをさらに含み、
ここで、試料の溶解が、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩の存在下で起こり、且つ
ここで、当該試料の溶解が、ポリミキシン、グリコペプチドおよびポリペプチド抗生物質の組合せによって促進される、
前記方法も提供する。
【0011】
第2態様によると、本発明は、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4 カルボン酸またはその塩の、試料中の、カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、およびアシネトバクター属の存在を検出するための使用方法を提供する。
また、本発明は、広域スペクトルβ-ラクタマーゼ(ESBL)阻害剤及びAmpC阻害剤と、ポリミキシン、グリコペプチドおよびポリペプチド抗生物質の組合せと、の組合せにおける(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩の、試料中の、カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、およびアシネトバクター属の存在を検出するための使用も提供する。
【0012】
第3態様によると、本発明はまた、微生物がカルバペネム加水分解性β-ラクタマーゼを産生するかどうかを判定するためのキットであって、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4 カルボン酸またはその塩を含浸させた分析ディスクと、広域スペクトルβ-ラクタム(ESBL)阻害剤、AmpC阻害剤またはこれらの混合物とを含む前記キットも提供する。
また、本発明は、微生物がカルバペネム加水分解性β-ラクタマーゼを産生するかどうかを判定するためのキットであって、
(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩を含むバイアル、
(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩でコーティングされたウェルを有するマイクロタイタープレート、または
HMRZ-98(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3- セフェム-4-カルボン酸またはその塩を含浸させた分析ディスクと、
広域スペクトルβ-ラクタマーゼ(ESBL)阻害剤およびAmpC阻害剤と、
ポリミキシン、グリコペプチドおよびポリペプチド抗生物質の組合せと、
を含むキットも提供する。
【0013】
本発明はまた、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩を含む、1つのウェルまたは一連のウェルを含むマイクロタイタープレート、及び、試験試料中のカルバペネマーゼ産生体の存在を検出することにおけるその使用、にも関する。
【0014】
また本発明は、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩を含む、バイアルまたは微量遠心チューブ(microfuge tube)、及び、試験試料中のカルバペネマーゼ産生性菌の存在を検出することにおけるその使用、にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
抗生物質耐性の広がりを防ぎ、例えばペネム及びカルバペネムなどの抗生物質の有効性を維持する必要な処置を取るために、カルバペネマーゼ産生性菌を迅速に検出できる方法が必要とされている。本発明の方法は、試料がカルバペネマーゼ産生性バクテリアを有しているかどうかを、速やかに且つ確実な様式で判定する解釈可能な結果を、使用者に提供することによって、このニーズに対処する。
【0016】
特に、本方法は、カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、およびアシネトバクター属の菌種の存在を検出するための、迅速で確実な表現型試験の提供に適切でありうる。したがって、本発明は、他の既知の方法および/または試験を用いて迅速かつ確実に試験できないであろう、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)などのカルバペネマーゼ産生性バクテリアの存在を検出するための、迅速で確実な表現型試験の提供に適した方法を、有利に提供する。
【0017】
第1態様において、本発明はしたがって、試料中の、カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、およびアシネトバクター属の存在を検出するための方法であって、カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、またはアシネトバクター属を有する疑いのある試料を用意すること、当該試料を、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩の溶液と反応させること、およびカルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、またはアシネトバクター属が当該試験試料に存在する場合に、反応媒体中の色の変化を検出すること、を含む前記方法を提供する。
【0018】
本発明の方法は、エンテロバクター目、シュードモナス属、およびアシネトバクター属の種におけるカルバペネマーゼ産生の検出に、100%の感度および100%の特異性を有しうる。
【0019】
本発明の方法は、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩が、カルバペネマーゼなどのβ-ラクタマーゼによって加水分解されうるという概念に基づいている。([(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸の加水分解は、黄から赤への観察可能な色変化をもたらす。
【0020】
好ましくは、本発明の方法を、カルバペネマーゼ産生性菌に感染している疑いのある対象から得られた試料に対して行われる。当該試料は、例えば体液、組織、または細胞試料などの、対象から得られた任意の生物学的試料でありうる。好ましくは、当該試料は、分離された細胞培養物に由来するものであってもよく、あるいは尿試料である。当該試料は、哺乳動物でありうる対象から、既知の方法で得られうる。好ましくは、当該試料が得られる対象はヒトである。
【0021】
本発明の方法は、いずれかの、エンテロバクター目、シュードモナス属、またはアシネトバクター属のカルバペネマーゼ産生性バクテリアを検出するために用いられうる。好ましくは、カルバペネマーゼ産生性バクテリアは、院内感染または市中感染の原因となる細菌などの、臨床的に重要な細菌である。
【0022】
典型的には、本発明の方法で使用される基質である、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩の濃度は、0.1mg/ml~10mg/ml、より好ましくは1mg/ml~5mg/ml、さらにより好ましくは2mg/ml~3mg/mlである。
【0023】
いくつかの実施形態によると、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩との反応より前に、カルバペネマーゼ産生性バクテリアを溶解させる。該バクテリアの溶解は、既知の技術によって行われうる。任意的に、エンテロバクター目、シュードモナス属、またはアシネトバクター属の菌種が、混合前に、微量遠心チューブまたはバイアル中で、タンパク質抽出バッファー/試薬に再懸濁されてもよい。十分に混合するために、適切な時間、ボルテックスすることにより混合が行われうる。好ましくは、約2~約10秒、例えば5秒間、当該試料をボルテックスすることにより混合が達成されうる。その後、チューブが、5~30分間、適切な温度でインキュベートされうる。任意的に、チューブは、約10分間インキュベートされうる。好適な温度は、約25℃~約45℃でありうる。好ましくは、チューブを約35℃~約37℃でインキュベートされうる。
【0024】
いくつかの実施形態において、試料の溶解は、ポリミキシン、グリコペプチドおよびポリペプチド抗生物質の組合せによって促進される。
【0025】
溶解された試料でありうる当該試料の、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩との反応は、色の変化を観察するのに十分な時間行われうる。好ましくは、色の変化は1時間未満で観測される。より好ましくは、色の変化は30分未満で観察されてもよい。最も好ましくは、色の変化は約5~約20分で観察されうる。
【0026】
当該試料の、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩との反応は、適切な温度で行われうる。好ましくは、反応を約5℃~約40℃で行われうる。例えば、反応は、約15℃~約30℃、例えば室温など、で行われうる。好ましくは、反応は、約20℃~約37℃、最も好ましくは35℃で行われうる。
【0027】
また、発色性セファロスポリン(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩は、広域スペクトルベータ-ラクタマーゼ類(ESBL類)やAmpC類による加水分解にも感受性である。しかしながら、ESBLおよびAmpC酵素の影響は、適切な阻害化合物の添加によって除かれうる。したがって、このような阻害剤が存在する場合、色の変化はカルバペネマーゼの存在を示す。
【0028】
したがって、一実施形態では、本方法は、広域スペクトルβ-ラクタム(ESBL)阻害剤、AmpC阻害剤またはこれらの混合物をさらに含む。任意の適切な阻害剤が用いられうる。いくつかの好適な阻害剤には、クラブラン酸、クロキサシリンおよびこれらの混合物が含まれる。任意的に、当該阻害剤は、約30μg/ml~約50μg/mlの濃度のクラブラン酸及び約300μg/ml~約500μg/mlの濃度のクロキサシリンのうちの少なくとも1つを含む。阻害剤がクラブラン酸及びクロキサシリンを含む場合、これらは等量部混合されて、阻害剤混合物としてもよい。あるいは、異なった量および/または別の成分が用いられうる。また、任意のカルバペネムまたはペネムが、単独で、またはESBL阻害剤及びAmpC阻害剤の両方と組み合わせて使用されて、ESBLとAmpCの活性をさらに除きうる。
【0029】
広域スペクトルベータ-ラクタマーゼ類(ESBL類)やAmpC類を阻害する阻害剤の選択は、カルバペネマーゼ発現のスペクトル全体を可視化できるようになる。
【0030】
本発明の一実施形態では、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩は、有機溶媒、有機酸および硫酸亜鉛の少なくとも1種を含む溶液に溶解されうる。任意的に、当該有機溶媒は極性非プロトン性溶媒でありうる。好適な溶媒はDMSOでありうる。当該有機酸は任意の好適な有機酸でありうる。好適な有機酸は、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸またはセバシン酸などの直鎖状飽和ジカルボン酸群からのものを含みうる。
【0031】
当該試料の反応は、例えば、阻害剤混合物を混合すること、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩を、有機溶媒、有機酸および硫酸亜鉛の少なくとも1種を含む溶液に溶解すること、試験するための、ある量のカルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、またはアシネトバクター属を、ある量のタンパク質抽出試薬に懸濁すること、および/または、懸濁したカルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、またはアシネトバクター属を加熱して生試料とすること、および溶解した試料を、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸(またはその塩)の溶液に、ある量の当該阻害剤混合物とともに加えること、の少なくともいくつかを含む逐次的なステップを利用して行われうることを理解されたい。
【0032】
他の実施形態では、反応プロセスは、非逐次的な反応プロセスで行われてもよく、この工程では、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩、有機溶媒、有機酸、硫酸亜鉛のうち3又はそれより多くが、カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、またはアシネトバクター属の試料に加えられ、反応プロセスと同時にin situで溶解されうる。
【0033】
例えば、非溶解試料が、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩、有機溶媒および有機塩と反応されうる「ワンポット(one-pot)」合成技術を利用して、当該試料の反応が行われうる。任意的に、当該有機溶媒はDMSOであってよく、及び、当該有機酸は、コハク酸などの直鎖状飽和ジカルボン酸であってよい。
【0034】
第2の態様において、本発明は、試料中の、カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、またはアシネトバクター属の存在を検出するための、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩の使用を提供する。
【0035】
(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩は、任意的に粉末状でありうる。([(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩は、DMSO及びコハク酸の混合物に溶解されてよく、次に、硫酸亜鉛が加えられうる。例えば、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩は、1部のDMSOと3~20部のコハク酸に溶解され、次に、硫酸亜鉛を最終濃度が0.1mM~10mMになるように加えられてもよい。好ましくは、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩は、1部のDMSOと5~9部のコハク酸に溶解されてもよい。必要に応じて、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩が、1部のDMSOと7部のコハク酸に溶解され、その次に、硫酸亜鉛を最終濃度が1mMになるように加えられてもよい。
【0036】
溶解された又は全体の細胞試料は、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩の溶液に、約等量部で加えられてもよい。当該溶解されたまたは全体の細胞試料は、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩の溶液に、室温で加えられてもよい。任意的に、約20μl~約100μlの当該溶解された試料と、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩の溶液が用いられてもよい。
【0037】
ある量の阻害剤が加えられてもよい。適切な阻害剤または阻害剤混合物が、20μl~約200μlの量で用いられてもよい。好ましくは、約50μl~約150μlの阻害剤が用いられてもよい。任意的に、最終濃度が約40μg/mlおよび400μg/mlになるように調整したクラブラン酸とクロキサシリンを等量部で含む阻害剤の約100μlが加えられてもよい。
【0038】
代替的には、異なった阻害剤または阻害剤混合物が、またはそれらの比で、同等な最終濃度で、加えられてもよい。
【0039】
色の変化が起きるかどうかを判定するために、得られた溶液の内容物が、最大で1時間、好ましくは30分まで観察されてよい。好ましくは、溶液を5~30分間観察される必要があるだけであってよい。
【0040】
黄から橙/赤への色の変化が起こることは、カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、またはアシネトバクター属が当該試験試料中に存在することを示しうる。
【0041】
カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、またはアシネトバクター属が試験試料中に存在するかどうかを試験するために、ある量のエンテロバクター目、シュードモナス属、またはアシネトバクター属の菌種が、タンパク質抽出バッファー/試薬に懸濁されうる。その後、溶液が混合され及びインキュベートされて、溶解された試料を生成しうる。当該溶解された試料の一部を、ある量の(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩と、任意的に当該阻害剤混合物に加えることができ、色の変化の観察により、試験が陽性であることを確認する。
【0042】
エンテロバクター目、シュードモナス属、またはアシネトバクター属の菌種の使用量は、約0.1μl~約10μlでありうる。例えば、約0.2μl、0.5μl、1μl、2μlまたは5μlが用いられうる。タンパク質抽出試薬の使用量は50~250μlでありうる。例えば、約50μl、75μl、100μl、150μlが用いられてもよい。好ましくは、約1μlのエンテロバクター目、シュードモナス属、またはアシネトバクター属の菌種と、約100μlのタンパク質抽出バッファー/試薬とが、用いられうる。任意の適切なタンパク質抽出バッファー/試薬が用いられうる。
【0043】
混合は、例えば撹拌、振とう、およびボルテックス混合を含むがこれらに限定されない適切な手法を用いて達成されうる。例えば、溶液が、約1~60秒間、例えば約5秒間、ボルテックス混合されてもよい。混合は、インキュベーション前および/またはインキュベーション中に行って、溶解試料としてもよい。インキュベーションは、適切な温度で、適切な時間、行われうる。例えば、インキュベーションは、約30~45℃、好ましくは約35~37℃の温度で、約1~約30分間、好ましくは約10分間、行われうる。
【0044】
任意的に、試験は非溶解試料について行われてもよい。
【0045】
当該溶解(または非溶解)試料の適切な一部が、適切な量の(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩の溶液に、任意的にある量の当該阻害剤混合物とともに加えられてもよい。任意的に、約10μl~約100μl、例えば約50μlの溶解(または非溶解)試料が、約20μ~約100μl、例えば約50μlの(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩の溶液に、任意的に、さらに約20~200μl、例えば約100μlの当該阻害剤混合物とともに加えられてもよい。
【0046】
好ましくは、試料と、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩の溶液と、必要に応じて阻害剤混合物とが、室温で加えられてもよい。
【0047】
第3態様において、本発明は、微生物がカルバペネム加水分解性β-ラクタマーゼを産生するかどうかを判定するためのキットを提供し、このキットは、([(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸)またはその塩を含浸させた分析ディスクと、広域スペクトルβ-ラクタム(ESBL)阻害剤、AmpC阻害剤またはこれらの混合物とを含みうる。
【0048】
さらなる態様では、本発明は、カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、またはアシネトバクター属の存在を検出するためのマイクロ流体デバイスまたは電気化学センシングデバイスであって、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩である基質を含むデバイスを提供する。
【0049】
該マイクロ流体デバイスは、表現型的に読み取られうる結果を与える、任意のデバイスでありうる。例えば、該マイクロ流体デバイスはマイクロキャピラリーフィルムでありうる。
【0050】
電気化学センシングデバイスは、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩の加水分解に伴い生じるシグナルを与えるであろう任意のデバイスでありうる。例えば、電気化学センシングデバイスは、電極、チップ、キット、またはイオン的に帯電した膜でありうる。
【0051】
試薬キットとの溶解試料の反応は、カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、またはアシネトバクター属が当該試験試料中に存在した場合の、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩の溶液中での色の変化を観察するのに十分な時間、行われうる。典型的には、色の変化は、当該試料を緩衝剤/試薬と混合してから、1時間未満、より好ましくは30分未満で観察される。典型的には、試薬キットとの当該試料の反応は、5℃~40℃、好ましくは15℃~30℃の温度、より好ましくは室温で行われる。
【0052】
本試薬キットは、本発明の方法に従い、カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター科、シュードモナス属、またはアシネトバクター属のバクテリアへの感染を、高い信頼性と精度で同定する極めて迅速な方法を提供するために用いられうる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】シュードモナス菌種の表現型の結果を示す図である。
【
図2】アシネトバクター バウマニ(Acinetobacter baumanii)の表現型の結果を示す図である。
【
図3】本発明の方法および標準的技術を用いた、シュードモナスおよびアシネトバクター菌種の比較試験を示す図である。
【
図4】カルバペネマーゼ産生性腸内細菌を検出するための、表現型の結果を示す図である。
【0054】
本発明を、以下と実施例を参照しながら、さらに説明する。
【実施例1】
【0055】
阻害剤混合物及び([(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸を含む試験溶液が調製され、そして、これを用いて、表1および2に詳述するとおり、多数の試験試料中のカルバペネマーゼ産生性シュードモナスまたはアシネトバクターの存在を調べた。
【0056】
試験溶液は以下のように調製された。
【0057】
1)クラブラン酸とクロキサシリンが、最終濃度が40μg/mlと400μg/mlになるように調製され、等量部で混合されて、当該阻害剤混合物を得た。
【0058】
2)粉末状の(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩が、1部のDMSOと7部のジカルボン酸に溶解され、その後、硫酸亜鉛を最終濃度1mMになるように加えた。
【0059】
3)1μlの白金耳量のシュードモナス属またはアシネトバクター属の菌種が、100μlの市販入手可能なタンパク質抽出バッファー/試薬、または、50mMトリスHCl、100mM NaCl、および1%TritonX100を含む100μlの抽出緩衝剤に、微量遠心チューブ内で懸濁された。
【0060】
4)懸濁したシュードモナス属またはアシネトバクター属菌種が、5秒間ボルテックスにより混合され、その後、マイクロチューブ内の当該試料を35℃~37℃に加温し、10分間インキュベートして、溶解試料を得た。
【0061】
5)50μlの当該溶解試料を、96マイクロタイタープレートのウェル内の50μlの(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩の溶液及び100μlの当該阻害剤混合物に、室温で加えられた。
【0062】
6)細胞溶解物を添加しながら、ウェルの内容物がピペッティングによって混合された。
【0063】
7)当該試料が30分まで視覚的に観察され、([(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩の溶液と当該試料を混合してから、5、10、20および30分で、溶液の色が記録された。
【0064】
【0065】
表1に示されるとおり、(7R)-7-[(Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩は、9種すべてのカルバペネマーゼ産生性シュードモナス菌種を成功裏に検出した。本発明の方法の感度は100%であり、特異性も同じであった。
【0066】
シュードモナス菌種それぞれの表現型の結果を
図1に示す。
【0067】
これらの試験は、本発明の方法が、シュードモナス属菌種におけるNDM-1、IMPおよびVIMの検出に極めて感度が高いことを示す。さらに、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩の溶液の黄色は、室温で溶解細菌試料を添加後、5分以内に、赤色に顕著に変化することが示される。より長時間経過すると、より強い赤色が発色しうるが、5分後の色の変化は陽性反応を示すのに十分である。
【0068】
【0069】
表2に示されるとおり、(7R)-7-[(Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩は、5種すべてのカルバペネマーゼ産生性アシネトバクター バウマニを成功裏に検出した。本発明の方法の感度は100%であり、特異性も同じであった。
【0070】
アシネトバクター バウマニそれぞれの、対応する表現型の結果が
図2に示されている。
【0071】
これらの試験は、本発明の方法が、アシネトバクター菌種におけるOXAの検出に極めて感度が高いことを示す。さらに、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩の溶液の黄色は、室温で溶解細菌試料を添加後、5分以内に、赤色に顕著に変化する。より長時間経過すると、より強い赤色が発色しうるが、5分後の色の変化は陽性反応を示すのに十分である。
【実施例2】
【0072】
試験溶液が実施例1の方法にしたがって調製され、これを用いて5種のシュードモナス分離菌の試験を行った。このうち4種の分離菌はカルバペネム類に耐性があり、1種はカルバペネマーゼ非産生体であった。4種のカルバペネマーゼ産生性シュードモナス分離菌のうち、2種はNDM-1であり、残りの2種はVIMであった。6種のアシネトバクター分離菌も試験された。そのうち5種の分離菌はカルバペネム類に耐性があり、1種はカルバペネマーゼ非産生体であった。5種すべてのカルバペネマーゼ産生性アシネトバクター分離菌はOXAであった。
【0073】
また、当業者に既知の、カルバペネム類への感受性が低下した菌株を検出するための市販の測色試験を用いて、各シュードモナスおよびアシネトバクター分離菌の対応する試験を行った。標準手順にしたがって、測色に基づく比較試験を35℃~37℃で行う一方、本発明の方法による試験を室温で行った。
【0074】
これらの試験結果を表3に示し、観察された色の変化を
図3に示す。
【0075】
試験には、カルバペネマーゼ陰性緑膿菌とアシネトバクター イオフィイ(Acinetobacter iwoffi)分離菌からなる、陰性対照のシュードモナスおよびアシネトバクター分離菌が含まれた。残りのすべての分離菌はカルバペネマーゼ産生体であった。
【0076】
【0077】
表3に示されるとおり、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩と、市販のpH依存診断法との比較において試験された11種の生物のうち、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩は、カルバペネマーゼ産生性シュードモナスおよびアシネトバクター分離菌の9種すべてを成功裏に検出したが、標準的技術を用いた試験は、1種のアシネトバクター分離菌においてカルバペネマーゼ産生を検出しなかった(表中で強調されている)。標準法試験で誤認された偽陰性は、OXA-27であった。
【0078】
したがって、標準法の特異性は100%であるが、感度は89%しかなかった一方、本発明の方法は、感度も特異性も100%であることが示される。したがって本発明の方法は、当該試験試料中のカルバペネマーゼ産生性シュードモナスまたはアシネトバクターの存在を検知するための、既知の技術と比べて改善された感度を有する、迅速な方法を提供する。
【実施例3】
【0079】
2種の試験溶液を実施例1の方法にしたがって調製した。一方の溶液は実施例1に記載したとおりであり、他方の溶液は、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸またはその塩の代わりに、発色性セファロスポリンHMRZ-86を使用した。
【0080】
次に、両試験溶液が、68種のシュードモナス分離菌を試験するために用いられた。そのうち8種の分離菌はカルバペネムに耐性があり、60種はカルバペネマーゼ非生産体であった。8種のカルバペネマーゼ産生性シュードモナス分離菌のうち、4種はNDM-1であり、2種はVIMであり、残りの2種はIMPであった。
【0081】
HMRZ-86または(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸のいずれかを用いた両試験溶液が、本発明の方法にしたがって行った(室温で行った)。試験結果が表4に示されている。
【0082】
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【表4-4】
【表4-5】
【表4-6】
【0083】
表4に示すように、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸と、HMRZとの比較において試験された8種のカルバペネマーゼ産生性シュードモナス生物のうち、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸は、8種すべてのカルバペネマーゼ産生性シュードモナス分離菌を成功裏に検出したが、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸の代わりにHMRZ-86を用いた試験は、2種のNDM-1産生性分離菌を検出しなかった(表4中で強調されている)。
【0084】
したがって、本発明の技術は、感度も特異性も100%であるが、HMRZ-86を用いた候補色原体性基質は、75%の感度であることがわかる。したがって、(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸を用いた本発明の方法は、試験試料中のカルバペネマーゼ産生性シュードモナスまたはアシネトバクターの迅速な検出のための、より高い感度を有する。
【実施例4】
【0085】
([(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸、阻害剤混合物、硫酸亜鉛および増量剤を含むジカルボン酸緩衝試験溶液が調製され、表5に示されるように、147種の試験分離菌中の、カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、またはアシネトバクター属の存在を検出するために用いられた。
【0086】
試験溶液を以下のように調製した。
【0087】
1)粉末状の(7R)-7-[(z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-(Z)-2(メトキシイミノ)アセトアミド]-3-(2,4-ジニトロスチリル)-3-セフェム-4-カルボン酸が、1部のDMSOと7部のジカルボン酸に溶解された。
【0088】
2)その後、ジカルボン酸を、試験溶液1部とジカルボン酸4部の比でさらに加えることにより、上記ステップ1の溶液を緩衝化した。
【0089】
3)クラブラン酸とクロキサシリンを最終濃度が40μg/mlと400μg/mlになるように調製し、等量部混合して、当該阻害剤混合物とした。
【0090】
4)硫酸亜鉛とPEG8000を、それぞれ最終濃度1mMと0.5%になるように、当該阻害剤混合物に加えた。
【0091】
5)2mMのポリミキシンと、4mMのグリコペプチドと、1.5mMのポリペプチド抗生物質とを含む混合物も、当該阻害剤混合物を含む溶液に溶解した。
【0092】
6)次に、当該阻害剤混合物、硫酸亜鉛、PEG8000および上記ステップ5に記載の抗生物質混合物を含む2.8ml容量の溶液を、72時間凍結乾燥し、ペレットとした。
【0093】
その後、カルバペネマーゼの存在の検出を以下の手順で行った。
【0094】
(a)上記ステップ2の試験溶液を3.5ml加えることにより、ペレットを元に戻す。
【0095】
(b)ペレットを室温で1分間で完全に溶解させ、内容物を10秒間穏やかにボルテックスすることにより混合する。
【0096】
(c)元に戻した溶液は黄色である。もし溶液が他の色を呈すれば、使用しない。
【0097】
(d)元に戻した溶液500μlを微量遠心チューブに分注する。試験ごとに1本のチューブ。
【0098】
(e)純粋で新鮮な試験生物の培養物を用いて、1μlの白金耳量の細菌を微量遠心チューブに加え、10秒間ボルテックスによりよく混合する。
【0099】
(f)35~37℃で10分間インキュベートし、試験溶液の色を記録する。
【0100】
【0101】
110種の腸内細菌が試験された。そのうち72種の分離菌はカルバペネマーゼ産生体であり、38種は非カルバペネマーゼ産生体であった。試験した分離菌のうち、57種はクレブシエラ(Klebsiella)菌種[12種のESBL、5種のAmpC、10種のOXA、13種のKPCおよび17種のMβL(6種のNDM、6種のIMPおよび5種のVIM)]、24種は大腸菌(Escherichia coli)[8種のESBL、5種のAmpC、5種のOXA、1種のKPCおよび5種のMβL(2種のVIM、2種のNDMおよび1種のIMP)]、23種はエンテロバクター(Enterobacter)菌種[6種のESBL、10種のAmpC、2種のOXA、4種のMβL(2種のVIM、2種のNDMおよび1種のKPC)]であり、3種のシトロバクター(Citrobacter)菌種[すべてNDM]、1種のクルビエラ(Kluvyera)菌種[NDM産生菌]、2種のサルモネラ(Salmonella)分離菌を試験した。サルモネラはいずれもAmpC産生菌であった[非カルバペネマーゼ]。
【0102】
23種のシュードモナス分離菌が試験された。そのうち8種の分離菌は、2種のNDM、2種のIMPおよび4種のVIMを含むMβLカルバペネマーゼ産生性菌であった。15種のシュードモナス分離菌は、カルバペネマーゼ非産生菌であった[そのうち14種は酵素が介するメカニズムを有さず、1種の分離菌はAmpC産生菌であった]。
【0103】
14種のアシネトバクター分離菌が試験された。そのうち13種の分離菌はカルバペネマーゼ産生性菌であり、1種はカルバペネマーゼ非産生菌であった。カルバペネマーゼ産生性菌のうち、12種はオキサシリナーゼ産生分離菌であった[4種のOXA-23、1種のOXA-25、1種のOXA-26、1種のOXA-27、1種のOXA-58、ならびに2種のOXA23+OXA-51、1種のOXA-23+OXA-27+OXA-51および1種のOXA-95+AmpCなどの共産生菌]。カルバペネマーゼ産生性アシネトバクター分離菌のうち1種は、MβL産生菌であった。
【0104】
表5に示されるとおり、試験された全147種の分離菌のうち、本発明の方法は、カルバペネマーゼ産生性のエンテロバクター目、シュードモナス属、およびアシネトバクター属の分離菌83種のうち、81種を検出した。これは、広域のグラム陰性菌に対する97.59%の合計感度と100%の特異性に相当する。一方、市販のキットは、緑膿菌への使用が適切ではないとされており(Henrichsら、2015年)、また発色性HMRZ-86を採用していると考えられる競合する他の主なキットは、カルバペネマーゼ産生性腸内細菌の検出に、64.9%の感度と90%の特異性しか示さなかった(Manciniら、2017年)。したがって、現在のところ、本発明は、シュードモナスおよびアシネトバクター分離菌への使用に適切であるだけでなく、腸内細菌目にも拡張できる、極めて高感度で高特異的な、唯一の迅速な測色カルバペネマーゼ検出方法である。