(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】クラスIのグルコーストランスポーター(GLUT)の発現誘導剤、並びにこれを用いた医薬組成物および飲食品組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7105 20060101AFI20231228BHJP
A61K 31/712 20060101ALI20231228BHJP
A61K 31/7125 20060101ALI20231228BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231228BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231228BHJP
A61P 3/08 20060101ALI20231228BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20231228BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20231228BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20231228BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20231228BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20231228BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20231228BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20231228BHJP
A23L 33/13 20160101ALI20231228BHJP
【FI】
A61K31/7105 ZNA
A61K31/712
A61K31/7125
A61K48/00
A61P43/00 111
A61P3/08
A61P3/10
A61P25/28
A61P25/08
A61P9/10
A61P25/16
A61P21/00
A61P37/02
A23L33/13
(21)【出願番号】P 2020551247
(86)(22)【出願日】2019-10-11
(86)【国際出願番号】 JP2019040270
(87)【国際公開番号】W WO2020075845
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2018193615
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】518148478
【氏名又は名称】シーシーアイホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】赤尾 幸博
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 博宣
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-169775(JP,A)
【文献】特表2002-513768(JP,A)
【文献】国際公開第2018/079841(WO,A1)
【文献】KRUSZKA, K. et al.,Developmentally regulated expression and complex processing of barley pri-microRNAs,BMC Genomics,2013年,Vol.14, No.34,p.1-19, ISSN 1471-2164,特に、第8頁左欄第12行~右欄第3行、Figure 4
【文献】ZHANG, L. et al.,Exogenous plant MIR168a specifically targets mammalian LDLRAP1: evidence of cross-kingdom regulation,Cell Research,2012年,Vol.22,p.107-126, ISSN 1748-7838,特に、Abstract、Figure 3、6、第112頁左欄第18行~第113頁右欄第29行
【文献】TAHA, C. et al.,The Insulin-dependent Biosynthesis of GLUT1 and GLUT3 Glucose Transporters in L6 Muscle Cells Is Med,THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,1995年,Vol. 270, No. 42,p. 24678-24681, ISSN 1083-351X,特に、Abstract、Figure 1、2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 48/00
A61P 43/00
A61P 3/00
A61P 25/00
A61P 9/00
A61P 37/00
A23L 33/00-33/29
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
hvu-miR168-3pおよびata-miR168-5p、それらの前駆体並びにそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つのオリゴヌクレオチドを有効成分と
し、
前記前駆体は、hvu-miR168-3pまたはata-miR168-5pのpri-miRNAまたはpre-miRNAであり、
前記誘導体は、下記化学式1:
【化1】
化学式1において、Lは、下記化学式(2a)~(2g):
【化2】
化学式(2a)において、ZはCHまたはNを表す、
のいずれかで表される置換または非置換の環式化合物含有基を表すか、または、2以上の前記環式化合物含有基がそれぞれホスホジエステル結合を介して連結してなる2価の基を表し;Mは、水素原子またはヒドロキシル保護基を表す、
で表される3’末端修飾構造を有するものであるか、あるいは、
オリゴヌクレオチドを構成するヌクレオチドが、それぞれ独立して、2’-O-メチル、2’-メトキシエトキシ、2’-フルオロ、2’-アリル、2’-O-[2(メチルアミノ)-2-オキソエチル]、4’-チオ、4’-(CH
2
)
2
-O-2’-架橋、2’-ロックド核酸もしくは2’-O-(N-メチルカルバメート)からなる群から選択される修飾糖部分を含む塩基で置換されており、および/または、オリゴヌクレオチドを構成するホスホジエステル結合が、それぞれ独立して、下記化学式(4):
【化3】
化学式(4)において、X
1
は独立してO、SまたはSeを表し、X
2
は独立してOHもしくはO
-
、SHもしくはS
-
、SeHもしくはSe
-
、炭素数1~4個のアルキル基またはモルホリノ基を表す(ただし、X
1
がOでありX
2
がO
-
である場合を除く)、
で表されるリン原子修飾結合で置換されているものである、
クラスIのグルコーストランスポーター(GLUT)の発現誘導剤。
【請求項2】
前記
hvu-miR168-3pが、下記の配列番号
1に示す塩基配列からなる一本鎖RNAであ
り、前記ata-miR168-5pが、下記の配列番号2に示す塩基配列からなる一本鎖RNAである、請求項1に記載の発現誘導剤:
(1)配列番号1:5’-gaucccgccuugcaccaagugaau-3’;
(2)配列番号2:5’-ucgcuuggugcagaucgggac-3’。
【請求項3】
前記誘導体は、下記化学式1で表される3’末端修飾構造を有するものである、請求項1または2に記載の発現誘導剤:
【化4】
化学式1において、Lは、下記化学式(2a)~(2g):
【化5】
化学式(2a)において、ZはCHまたはNを表す、
のいずれかで表される置換または非置換の環式化合物含有基を表すか、または、2以上の前記環式化合物含有基がそれぞれホスホジエステル結合を介して連結してなる2価の基を表し;Mは、水素原子またはヒドロキシル保護基を表す。
【請求項4】
前記誘導体は、オリゴヌクレオチドを構成するヌクレオチドが、それぞれ独立して、2’-O-メチル、2’-メトキシエトキシ、2’-フルオロ、2’-アリル、2’-O-[2(メチルアミノ)-2-オキソエチル]、4’-チオ、4’-(CH
2)
2-O-2’-架橋、2’-ロックド核酸もしくは2’-O-(N-メチルカルバメート)からなる群から選択される修飾糖部分を含む塩基で置換されており、および/または、オリゴヌクレオチドを構成するホスホジエステル結合が、それぞれ独立して、下記化学式(4):
【化6】
化学式(4)において、X
1は独立してO、SまたはSeを表し、X
2は独立してOHもしくはO
-、SHもしくはS
-、SeHもしくはSe
-、炭素数1~4個のアルキル基またはモルホリノ基を表す(ただし、X
1がOでありX
2がO
-である場合を除く)、
で表されるリン原子修飾結合で置換されているものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の発現誘導剤。
【請求項5】
前記クラスIのグルコーストランスポーター(GLUT)が、グルコーストランスポーター(GLUT)1である、請求項1~4のいずれか1項に記載の発現誘導剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の
hvu-miR168-3pおよびata-miR168-5p、それらの前駆体並びにそれらの誘導体を含む、
グルコース代謝に関連する疾患または障害の予防または治療のための医薬組成物。
【請求項7】
前記グルコース代謝に関連する疾患または障害が、糖尿病(高血糖症);心血管代謝性症候群;アルツハイマー病;ハンチントン病;てんかん;虚血;パーキンソン病;健忘症;認知症;軽度認知障害(MCI);注意欠陥多動性障害(ADHD);筋萎縮性側索硬化症(ALS);外傷性脳損傷;およびがんに起因する免疫不全からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項
6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記オリゴヌクレオチドが、前記オリゴヌクレオチドを発現する発現ベクターに含まれてなる、請求項6
または7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載の
hvu-miR168-3pおよびata-miR168-5p、それらの前駆体並びにそれらの誘導体を含む、
グルコース代謝に関連する疾患または障害の予防または改善のための飲食品組成物。
【請求項10】
前記グルコース代謝に関連する疾患または障害が、糖尿病(高血糖症);心血管代謝性症候群;アルツハイマー病;ハンチントン病;てんかん;虚血;パーキンソン病;健忘症;認知症;軽度認知障害(MCI);注意欠陥多動性障害(ADHD);筋萎縮性側索硬化症(ALS);外傷性脳損傷;およびがんに起因する免疫不全からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項
9に記載の飲食品組成物。
【請求項11】
前記オリゴヌクレオチドが、前記オリゴヌクレオチドを発現する発現ベクターに含まれてなる、請求項
9または10に記載の飲食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラスIのグルコーストランスポーター(GLUT)の発現誘導剤、並びにこれを用いた医薬組成物および飲食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
グルコースは生体に必須の分子である。このグルコースが生体膜を通過するためには、細胞膜上に糖輸送担体(グルコーストランスポーター:本明細書においては、「GLUT」とも称する)と呼ばれる膜タンパク質が必要である。GLUTとして、いくつかのクラス、分子が同定されているが、その発現部位や役割が比較的よく解明されているのはクラスIに属するGLUT1からGLUT4の4種類の分子であり、その分子量はいずれも約50kDaで、細胞膜を12回貫通する共通した構造を有している。
【0003】
一方、GLUTはアイソフォームごとに組織分布、細胞内分布や糖に対する親和性が異なっており、それぞれが独自の特徴を有している。これらのうち、GLUT-1はグルコースに対して高親和性(Km:1~5mM)で、ヒトにおける分布は赤血球、胎児組織、脳、腎、がん化組織などが報告されている。また、GLUT-3もグルコースに対して高親和性(Km:1~5mM)で、GLUT-3のヒトにおける分布は脳、胎盤、腎、肝、脂肪組織、小腸などが報告されている。
【0004】
さらに、GLUT4は、脂肪組織と骨格筋等の横紋筋に見出される。GLUT4は、通常は細胞内部に存在しているが、インスリン感受性でインスリンの刺激に応答して細胞膜上に移行(トランスロケーション)し、グルコースを血中から組織に輸送して血糖値を低下させる役割を有している。
【0005】
また、GLUT2は、腎の尿細管上皮細胞及び小腸の上皮細胞、それに肝細胞とすい臓のβ細胞に発現している。すい臓のβ細胞に存在するGLUT2はインスリンの分泌に関係しており、食事等によって血糖値が上がるとβ細胞の膜にあるGLUT2を介してグルコースがすい臓のβ細胞内に取り込まれ、その刺激によってインスリンが分泌される仕組みとなっている。さらに、もうひとつの発現部位である肝臓において、GLUT2はインスリンによる刺激前に最初から細胞膜に存在しており、他のGLUTは実質的に存在しない。このため、肝臓では細胞内へのグルコースの取り込みはインスリンの作用に依存しないとされている。
【0006】
ここで、これらのGLUTファミリーの発現を誘導することができる物質は、グルコース代謝に関連する疾患または障害の予防または治療のための有力な候補となりうるものと考えられる。
【0007】
ところで、miRNA(マイクロRNA、microRNA)が、種々の生理活性を有することが知られている。miRNAは、細胞内在性の、20~25塩基程度の非コードRNAである。miRNAは、ゲノムDNA上のmiRNA遺伝子から、まず数百~数千塩基程度の長さの一次転写物(pri-miRNA)として転写される。次いで、プロセシングを受けて約60~70塩基程度のヘアピン構造を有するpre-miRNAとなる。その後、核から細胞質内に移り、さらにプロセシングを受けて20~25塩基程度の二量体(ガイド鎖およびパッセンジャー鎖)からなる成熟miRNAとなる。成熟miRNAは、そのうちのガイド鎖(アンチセンス鎖)がRISC(RNA-Induced Silencing Complex)と呼ばれるタンパク質と複合体を形成し、標的遺伝子のmRNAに作用することで、標的遺伝子の翻訳を阻害する働きをすることが知られている。
【0008】
従来、miRNAの1種であるmiR-168として、多種多様な起源を有するファミリーが多数知られており(非特許文献1)、例えば、オオムギ(Hordeum vulgare)を起源とするhvu-miR168-3pや、コムギ(Aegilops tauschii)を起源とするata-miR168-5pなどが知られている。しかしながら、これらのmiR-168ファミリーがGLUTファミリーの発現に及ぼす影響については何ら知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】“miRbase”、[online]、[2018年7月30日検索]、インターネット<http://www.mirbase.org/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、GLUTファミリーの発現を誘導することができる物質を発見することにより、グルコース代謝に関連する疾患または障害の予防または治療のための有力な候補を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意研究を行った。その結果、驚くべきことに、オオムギ(Hordeum vulgare)を起源とするhvu-miR168-3pや、コムギ(Aegilops tauschii)を起源とするata-miR168-5pが、クラスIのGLUTの発現を誘導することが判明した。そしてこの知見に基づき、上記2種のmiR-168ファミリーの用途として、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明の一形態によれば、hvu-miR168-3pおよびata-miR168-5p、それらの前駆体並びにそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つのオリゴヌクレオチドを有効成分とする、クラスIのグルコーストランスポーター(GLUT)の発現誘導剤が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、グルコース代謝に関連する疾患または障害の予防または治療のための有力な候補が提供されうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例(試験例1)において、hvu-miR168-3pまたはata-miR168-5pをトランスフェクションしたヒト皮膚由来線維芽細胞について、ウエスタンブロット法によりGLUT1タンパク質の発現量を測定した結果を示す写真である。
【
図2】実施例(試験例2)において、濃度の異なるhvu-miR168-3pをトランスフェクションしたヒト皮膚由来線維芽細胞について、異なる栄養条件下で培養した後にトリパンブルー染色法により生存細胞数を計測した結果を示すグラフである。
【
図3】実施例(試験例3)において、hvu-miR168-3pを投与したヌードマウス(ICRマウス)に対して糖負荷試験を行った後に、マウスの血中グルコース濃度(血糖値)を測定した結果を示すグラフである。
【
図4】実施例(試験例3)において、hvu-miR168-3pを投与したヌードマウス(ICRマウス)の脳組織ホモジネートについて、ウエスタンブロット法によりGLUT1タンパク質の発現量を測定した結果を示す写真である。
【
図5】実施例(試験例4)において、hvu-miR168-3pまたはata-miR168-5pをトランスフェクションしたヒト横紋筋肉腫由来細胞について、ウエスタンブロット法によりGLUT1タンパク質の発現量を測定した結果を示す写真である。
【
図6】実施例(試験例4)において、hvu-miR168-3pまたはata-miR168-5pをトランスフェクションしたヒト横紋筋肉腫由来細胞について、5%(v/v)FCSを添加した培地中で培養した後にウエスタンブロット法によりGLUT1タンパク質の発現量を測定した結果を示す写真である。
【
図7】実施例(試験例5)において、濃度の異なるhvu-miR168-3pまたはata-miR168-5pをトランスフェクションしたヒト横紋筋肉腫由来細胞について、異なる栄養条件下で培養した後に吸光度を測定することにより生存細胞数を計測した結果を示すグラフである。
【
図8】実施例(試験例5)において、濃度の異なるhvu-miR168-3pまたはata-miR168-5pをトランスフェクションしたヒト横紋筋肉腫由来細胞(5%(v/v)FCSを添加した培地中で培養したもの)について、細胞内ATPレベルを測定した結果を示すグラフである。
【
図9】実施例(試験例8)において、hvu-miR168-3pを導入したASF-4-1細胞およびJCRB9072細胞での、ミトコンドリアの複合体Iにおける酸化的リン酸化経路(OXPHOS)に関与する遺伝子であるNdufs6(NADH dehydrogenase[ubiquinone]iron-sulfur protein 6, mitochondrial)のmRNAの発現量の変化をreal-time PCR法により測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0016】
≪オリゴヌクレオチド≫
[基本構造]
本明細書に開示のオリゴヌクレオチドは、hvu-miR168-3pおよびata-miR168-5p(これらを「成熟miRNA」とする)、それらの前駆体並びにそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つである。ここで、クラスIのGLUTの発現誘導効果により優れているという観点からは、hvu-miR168-3p、その前駆体およびそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つのオリゴヌクレオチドが用いられることが好ましい。なお、本明細書において、「前駆体」とは、成熟miRNAとなる前のpri-miRNAおよびpre-miRNAを含むすべての前駆物質を包含する概念である。また、本明細書において、「誘導体」とは、成熟miRNAが何らかの修飾を受けることにより得られたすべての修飾miRNAを包含する概念である。
【0017】
ここで、「hvu-miR168」はオオムギ(Hordeum vulgare)を起源とするマイクロRNAであり、そのステムループ構造は以下の通りである。
【0018】
【0019】
そして、「hvu-miR168-3p」は、hvu-miR168の3’側の鎖から発現する一本鎖RNAであり、これにはmiRbaseのアクセッションナンバーMIMAT0018216が付与されている。すなわち、「hvu-miR168-3p」は下記の配列番号1で表される塩基配列を有している。
【0020】
【0021】
【0022】
そして、「ata-miR168-5p」は、ata-miR168の5’側の鎖から発現する一本鎖RNAであり、これにはmiRbaseのアクセッションナンバーMI0031679が付与されている。すなわち、「ata-miR168-5p」は下記の配列番号2で表される塩基配列を有している。
【0023】
【0024】
[誘導体]
本発明に係る剤の有効成分は、上述した基本構造を有するオリゴヌクレオチドが、細胞への取り込みやRNaseに対する耐性の向上等を目的として、当業者に知られた手段によって化学的に修飾された誘導体であってもよい。このような化学的修飾としては、(a)オリゴヌクレオチド鎖における3’末端への化学修飾基の付加、(b)構成塩基の修飾糖部分を含む塩基による置換、および(c)ホスホジエステル結合のリン原子修飾結合による置換などが挙げられる。
【0025】
(a)3’末端への化学修飾基の付加
これらのうち、オリゴヌクレオチド鎖に対して上記(a)の化学的修飾(3’末端への化学修飾基の付加)が施されたものは、例えば、上述したオリゴヌクレオチド鎖の3’末端のヌクレオチドの塩基に結合した3’末端側のホスホジエステル結合の酸素原子に、下記化学式1で表される3’末端修飾構造を有するものである。
【0026】
【0027】
ここで、化学式(1)において、Lは、下記化学式(2a)~(2g):
【0028】
【0029】
のいずれかで表される置換または非置換の環式化合物含有基を表すか、または、2以上の前記環式化合物含有基がそれぞれホスホジエステル結合を介して連結してなる2価の基を表し;Mは、水素原子またはヒドロキシル保護基を表す。
【0030】
好ましい実施形態において、上記Lは、2以上(例えば、2~10個、好ましくは2~6個、より好ましくは2~4個、さらに好ましくは2~3個、特に好ましくは2個)の前記環式化合物含有基がそれぞれホスホジエステル結合を介して連結してなる2価の基を表す。
【0031】
ここで、上記環式化合物含有基が置換されている場合において当該環式化合物含有基を置換する置換基としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン、メチル基、エチル基、tert-ブチル基、ドデシル基などのアルキル基;フェニル基、p-トリル基、キシリル基、クメニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナントリル基などのアリール基;メトキシ基、エトキシ基、tert-ブトキシ基などのアルコキシ基;フェノキシ基、p-トリルオキシ基などのアリールオキシ基;メトキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、2-エチルヘキシルオキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などのアシルオキシ基;アセチル基、ベンゾイル基、イソブチリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、メトキサリル基などのアシル基;メチルスルファニル基、tert-ブチルスルファニル基などのアルキルスルファニル基;フェニルスルファニル基、p-トリルスルファニル基などのアリールスルファニル基;メチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基などのアルキルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、モルホリノ基、ピペリジノ基などのジアルキルアミノ基;フェニルアミノ基、p-トリルアミノ基等のアリールアミノ基などの他、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ホルミル基、メルカプト基、スルホ基、メシル基、p-トルエンスルホニル基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、トリメチルシリル基、ホスフィニコ基、ホスホノ基などが挙げられる。
【0032】
また、化学式(2a)において、Zは、CHまたはNを表す。好ましい実施形態において、上記Lは、1または2以上の化学式(2a)で表される置換されていてもよい環式化合物含有基を含むものである。また、他の好ましい実施形態において、上記Lは、2以上(例えば、2~10個、好ましくは2~6個、より好ましくは2~4個、さらに好ましくは2~3個、特に好ましくは2個)の前記化学式(2a)で表される環式化合物含有基がそれぞれホスホジエステル結合を介して連結してなる2価の基を表す。この際、Lは、前記化学式(2a)で表される環式化合物含有基のうち、ZがCHであるもの(つまり、ベンゼン環を含む基)と、ZがNであるもの(つまり、ピリジン環を含む基)との双方を含む2価の基であることが好ましく、これらの基の1つずつからなる2価の基であることがより好ましい。また、さらに好ましい実施形態において、前記Lは、下記化学式(3):
【0033】
【0034】
で表される構造を有するものである。
【0035】
ここで、化学式(3)において、*1はオリゴヌクレオチド鎖の3’末端のヌクレオチドの塩基に結合した3’末端側のホスホジエステル結合の酸素原子との結合部位を表し、*2はMとの結合部位を表す。
【0036】
化学式(1)において、Mは、水素原子またはヒドロキシル保護基を表し、好ましくは水素原子を表す。したがって、最も好ましい形態において、「-L-M」で表される構造は、上記化学式(3)の*2に水素原子が結合してなる基である。なお、ヒドロキシル保護基としては、当該保護基により置換されるヒドロキシル基中の酸素を意図しない反応から保護する基であればよく、従来公知の知見が適宜参照されうる。好ましくは、ヒドロキシル保護基は、オリゴヌクレオチド誘導体の活性を維持して除去されるものである。こうしたヒドロキシル保護基としては、特に限定されないが、例えば、フルオレニルメトキシカルボニル(FMOC)基、ジメトキシトリチル(DMT)基、モノメトキシトリチル基、トリフルオロアセチル基、レブリニル基、またはシリル基である。
【0037】
(b)構成塩基の修飾糖部分を含む塩基による置換
オリゴヌクレオチド鎖に対して上記(b)の化学的修飾(構成塩基の修飾糖部分を含む塩基による置換)が施される場合、オリゴヌクレオチド鎖を構成する各ヌクレオチドは、それぞれ独立して、2’-O-メチル、2’-メトキシエトキシ、2’-フルオロ、2’-アリル、2’-O-[2(メチルアミノ)-2-オキソエチル]、4’-チオ、4’-(CH2)2-O-2’-架橋、2’-ロックド核酸または2’-O-(N-メチルカルバメート)からなる群から選択される修飾糖部分を含む塩基で置換されうる。なかでも、修飾糖部分は、2’-O-メチルまたは2’-フルオロ修飾を含むことが好ましい。
【0038】
(c)ホスホジエステル結合のリン原子修飾結合による置換
オリゴヌクレオチド鎖に対して上記(c)の化学的修飾(ホスホジエステル結合のリン原子修飾結合による置換)が施される場合、オリゴヌクレオチド鎖を構成するホスホジエステル結合は、それぞれ独立して、下記化学式(4):
【0039】
【0040】
で表されるリン原子修飾結合で置換されうる。
【0041】
化学式(4)において、X1は独立してO、SまたはSeを表し、X2は独立してOHもしくはO-、SHもしくはS-、SeHもしくはSe-、炭素数1~4個のアルキル基またはモルホリノ基を表す。ただし、X1がOを表しX2がO-を表す場合、上記化学式(4)は通常のホスホジエステル結合を表すことから、このような場合は本発明の範囲に含まれないものとする。好ましい実施形態において、X1はOであり、X2はSHもしくはS-、SeHもしくはSe-、炭素数1~4個のアルキル基またはモルホリノ基を表す。また、より好ましい実施形態において、X1はOであり、X2はSHまたはS-を表す。さらに、特に好ましい実施形態において、X1はOであり、X2はSHまたはS-を表す(この場合、リン原子修飾結合はホスホロチオエート結合である)。
【0042】
(製造方法)
上述した本発明に係るマイクロRNA並びにその前駆体および誘導体は、その塩基配列に基づき、従来公知の手法(核酸自動合成機を用いたホスホロアミダイト法による合成)により、化学的に合成することができる。また、このようにして製造されたmiRNAを構成するオリゴヌクレオチド鎖の3’末端に上述した「-L-M」で表される修飾構造を導入する手法についても、従来公知の知見(例えば、国際公開第2007/094135号パンフレットや特開2011-251912号公報など)が適宜参照されうる。さらに、特定箇所のホスホジエステル結合を上記化学式(3)で表されるリン原子修飾構造とする手法についても、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、ホスホロアミダイト法による拡散合成の最終段階における3価のリンの5価への酸化を、酸化剤溶液に代えて硫化剤溶液を用いて行うことで、ホスホジエステル結合に代えてホスホロチオエート結合を導入することが可能である。
【0043】
(用途)
発明の一形態によれば、上述したhvu-miR168-3pおよびata-miR168-5p、それらの前駆体並びにそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つのオリゴヌクレオチドを有効成分とする、クラスIのグルコーストランスポーター(GLUT)の発現誘導剤が提供される。ここで、「クラスIのグルコーストランスポーター(GLUT)」としては、いくつかのクラス、分子が同定されている。クラスIに属する分子のうち、よく知られているのはGLUT1からGLUT4の4種類の分子であり、本発明に係る発現誘導剤が発現を誘導する対象はこれらのいずれであってもよいし、クラスIに属する分子であればこれらのもの以外の分子であってもよい。本発明に係る発現誘導剤の特に好ましい実施形態は、GLUT1の発現誘導剤である。「発現誘導剤」とは、クラスIのGLUTタンパク質の発現を誘導することができる剤であれば、そのメカニズムは問わない。
【0044】
本発明に係る発現誘導剤によるクラスIのGLUTの発現誘導効果は、例えば、当該発現誘導剤の存在下において、当該剤の非存在下よりもクラスIのGLUTの発現量が上昇するか否かを指標として確認することが可能である。
【0045】
本発明に係る発現誘導剤によるクラスIのGLUTの発現誘導剤は、上述したhvu-miR168-3pおよびata-miR168-5p、それらの前駆体並びにそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つのオリゴヌクレオチドを有効成分として含む。ここで、「有効成分として含む」とは、本発明に係る発現誘導隊剤が、所望の発現誘導活性を発揮するのに充分な量(すなわち、有効量)で、上記オリゴヌクレオチドを含有することを意味する。
【0046】
したがって、上述したオリゴヌクレオチドを、そのまま発現誘導剤として用いてもよいが、このような有効量で有効成分を含み、かつクラスIのGLUTの発現誘導活性を損なわない限りにおいて、本発明に係る発現誘導剤は、所望の製品形態に応じた製薬上許容されうる担体や、他の添加剤などとともに組成物を構成してもよい。また、本発明に係る細胞増殖抑制剤は、賦形剤などの添加剤と混合して非経口投与、経口投与または外部投与に適した、医薬品、医薬部外品などの医薬組成物のほか、飲食品組成物などの形で使用することができる。
【0047】
ここで、クラスIのGLUTの発現誘導剤を含む組成物としては、例えば、グルコース代謝に関連する疾患または障害の予防または治療のための医薬組成物や、これらの疾患または障害の予防または改善のための飲食品組成物が挙げられる。ここで、グルコース代謝に関連する疾患または障害の具体的な種類について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。一例としては、糖尿病(高血糖症);心血管代謝性症候群;アルツハイマー病;ハンチントン病;てんかん;虚血;パーキンソン病;健忘症;認知症;軽度認知障害(MCI);注意欠陥多動性障害(ADHD);筋萎縮性側索硬化症(ALS);および外傷性脳損傷からなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。また、がん細胞は、効率のよい酸化的リン酸化経路(TCA回路)よりも、より早くエネルギーが得られ、さらに増殖に必要な核酸の材料が生じる解糖系に偏ったエネルギー代謝を行っていることが明らかとなっている(ワーバーグ効果)。これにより、がん細胞の周辺に存在して自然免疫を司っている免疫細胞のエネルギー代謝が阻害されて免疫不全の状態が生じ、がん細胞にとってより有利な環境が生まれる。ここで、このような免疫細胞に対して本発明に係る発現誘導剤を作用させることで、これらの細胞における解糖系を利用したエネルギー代謝が回復すること考えられる。したがって、上述した「グルコース代謝に関連する疾患または障害」としては、がんに起因する免疫不全もまた、挙げられる。
【0048】
医薬組成物として提供される場合、治療的有効量の上記オリゴヌクレオチドが、1つまたは複数の製薬上許容されうる担体(添加剤)および/または希釈剤とともに処方される。以下で詳細に説明するように、本発明に係る医薬組成物は固体または液体での投与のために具体的に処方することができる。経口投与として、例えば、水薬(水溶液もしくは非水溶液または懸濁液)、錠剤、巨丸剤、粉末薬、顆粒剤、舌に塗布するためのペーストが例示される。非経口投与としては、例えば、滅菌溶液もしくは懸濁液として例えば皮下、筋内もしくは静脈内注射のための製剤、あるいは、局所用として、または、膣内または直腸内へ投与するための剤形へと製剤化されうる。なかでも、本発明に係るオリゴヌクレオチドは、RNA医薬である点を考慮して、好ましくは注射剤の形態として製剤化される。
【0049】
「治療的有効量」とは、いずれの医療にも適用可能な妥当な便益/リスク比で、何らかの所望の治療効果を生じるために有効な作用物質または組成物の量を意味する。例えば、本発明に係る発現誘導剤の投与量は、対象疾患、投与対象、投与経路などにより差異はあるが、用量は対象となる者の体重等の条件によって容易に変動しうるため、当業者によって適宜選択されうる。
【0050】
「製薬上許容されうる」とは、正しい医学的判断の範囲内で、妥当な便益/リスク比に見合って、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応等の問題や合併症なしに、ヒトおよび動物の組織に接触しての使用に好適な、化合物、材料、組成物、および/または投薬形態を指すために使用される。
【0051】
「製薬上許容されうる担体」とは、体の一器官または一部から体の別の器官または一部へ本発明に係る細胞増殖抑制剤を運搬または輸送することに関与する液体または固体の充填剤、希釈剤、補形薬、溶剤またはカプセル化材料のような、製薬上許容されうる材料、組成物または賦形剤を意味する。各担体は、剤形の他の成分と適合し、患者に有害でないという意味で「許容されうる」ものでなければならない。製薬上許容されうる担体として機能しうる材料のいくつかを以下に例示すると、ラクトース、グルコースおよびスクロースのような糖;トウモロコシデンプンおよびバレイショデンプンのようなデンプン;カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロースのようなセルロースおよびその誘導体;粉末トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;ココアバターおよび坐薬ワックスのような補形薬;落花生油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油およびダイズ油のような油脂;プロピレングリコールのようなグリコール;グリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコールのようなポリオール;オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルのようなエステル;寒天;水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムのような緩衝剤;アルギン酸;パイロジェンフリー水;等張食塩液;リンガー溶液;エチルアルコール;リン酸緩衝溶液;ならびに薬物処方で使用される他の非毒性の適合物質を含む。いくつかの実施形態では、薬物製剤は非発熱性である。すなわち、患者の体温を上昇させないものが好ましい。
【0052】
その他、ラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウムのような湿潤剤、乳化剤および潤滑剤、ならびに着色剤、放出剤、被覆剤、甘味料、香味剤および香料、保存料および酸化防止剤もまた組成物中に存在してもよい。
【0053】
製薬上許容されうる酸化防止剤の例には以下のものがある:アスコルビン酸、塩酸システイン、硫酸水素ナトリウム、二亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等のような水溶性酸化防止剤;パルミチン酸アスコルビル、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、α-トコフェロール等のような油溶性酸化防止剤;ならびにクエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸等のような金属キレート剤も必要に応じて含有させることができる。
【0054】
非経口投与に好適な本発明に係る発現誘導剤を含有する医薬組成物は、本発明に係るオリゴヌクレオチドとともに、1つまたは複数の製薬上許容されうる滅菌等張水溶液または非水溶液、分散剤、懸濁液もしくは乳剤、または使用直前に滅菌注射可能溶液または分散剤中で戻すことが可能な滅菌粉末を含み、これは酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤、調剤を目的レシピエントの血液と等張にする溶質、または懸濁剤もしくは濃縮剤を含みうる。
【0055】
本発明に係る医薬組成物において使用可能な好適な水性および非水性担体の例としては、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、およびそれらの好適な混合物、オリーブ油のような植物油、ならびにオレイン酸エチルのような注射可能有機エステルがある。固有の流動性は、例えば、レシチンのような被覆材料の使用によって、分散剤の場合には必要な粒子サイズの維持によって、および界面活性剤の使用によって、維持することができる。
【0056】
これらの組成物は、保存料、湿潤剤、乳化剤および分散剤のような補助薬を含んでもよい。微生物の活動の防止は、例えば、パラベン、クロロブタノール、ソルビン酸フェノール等の種々の抗菌剤および抗真菌剤の含有によって確保しうる。糖、塩化ナトリウム等の等張剤を組成物に含めると好ましい。さらに、注射可能薬物形態の持続性吸収が、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンのような吸収を遅延させる作用物質の含有により引き起こされうる。
【0057】
本発明において、「飲食品組成物」は、予防または治療を目的とする医薬組成物以外のものであって、哺乳動物が経口摂取可能な形態のものであれば特に制限はなく、その形態も液状物(溶液、懸濁液、乳濁液など)、半液体状物、粉末、または固体成形物のいずれのものであってもよい。このため飲食品組成物は、例えば飲料の形態であってもよく、また、サプリメントのような栄養補助食品の錠剤形態であってもよい。
【0058】
飲食品組成物の形態として具体的には、例えば、即席麺、レトルト食品、缶詰、電子レンジ食品、即席スープ・みそ汁類、フリーズドライ食品などの即席食品類;清涼飲料、果汁飲料、野菜飲料、豆乳飲料、コーヒー飲料、茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、栄養飲料、アルコール飲料などの飲料類;パン、パスタ、麺、ケーキミックス、唐揚げ粉、パン粉などの小麦粉製品;飴、キャラメル、チューイングガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、デザート菓子などの菓子類;ソース、トマト加工調味料、風味調味料、調理ミックス、たれ類、ドレッシング類、つゆ類、カレー・シチューの素類などの調味料;加工油脂、バター、マーガリン、マヨネーズなどの油脂類;乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、アイスクリーム類、クリーム類などの乳製品;魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品などの水産加工品;畜肉ハム・ソーセージなどの畜産加工品;農産缶詰、ジャム・マーマレード類、漬け物、煮豆、シリアルなどの農産加工品;冷凍食品;栄養食品などが挙げられる。
【0059】
本発明の飲食品組成物においては、上述した有効成分に加えて、他の機能を有する成分をさらに添加してもよい。また例えば、日常生活で摂取する食品、健康食品、機能性食品、サプリメント(例えば、カルシウム、マグネシウム等のミネラル類、ビタミンK等のビタミン類を1種以上含有する食品)に本発明の有効成分を配合することにより、本発明による効果に加えて、他の成分に基づく機能を併せ持つ飲食品を提供することができる。
【0060】
本発明による飲食品組成物の製造にあたっては、通常の飲食品の処方設計に用いられている糖類、香料、果汁、食品添加剤、安定剤などを適宜添加することができる。飲食品組成物の製造は、当該技術分野に公知の製造技術を参照して実施することができる。本発明に係る飲食品組成物は様々な形態を取ることができ、公知の医薬品の製造技術に準じて本発明に係る飲食品組成物を製造してもよい。その場合には、本発明に係る発現誘導剤や医薬組成物の製造の項目において述べたような担体や添加剤を用いて製造することができる。また、製造段階において、本発明における機能以外の機能を発揮する他の成分または他の機能性食品と組み合わせることによって、多機能性の飲食品組成物としてもよい。
【0061】
本発明に係る医薬組成物または飲食品組成物を投与または摂取する場合、本発明に係る有効成分の投与量または摂取量は、受容者、受容者の年齢および体重、症状、投与時間、剤形、投与方法、薬剤の組み合わせ等に依存して決定されうる。本発明においては、少なくともクラスIのGLUTの発現誘導効果を得るために必要な1日あたりの有効成分の量を投与または摂取できるように、1日あたりの医薬組成物または飲食品組成物の投与量または摂取量を考慮し、医薬組成物または飲食品組成物中の含有量を適宜設定することが好ましい。なお、本発明による医薬組成物または飲食品組成物は、好ましくは、有効成分である上記オリゴヌクレオチドを、当該有効成分換算で成人一人に1日あたり好ましくは1ng~100mg、より好ましくは10ng~10mg、さらに好ましくは100ng~1mgの範囲で提供される量含む。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0063】
(試験例1)
下記の配列番号1からなる一本鎖RNA(hvu-miR168-3p)および下記の配列番号2からなる一本鎖RNA(ata-miR168-5p)を、それぞれAmbion社より購入することにより準備した。そして、これらの一本鎖RNAがヒトの皮膚由来の線維芽細胞(ASF-4-1)におけるグルコーストランスポーター(GLUT)1の発現に及ぼす影響を評価した。
(1)配列番号1:5’-gaucccgccuugcaccaagugaau-3’;
(2)配列番号2:5’-ucgcuuggugcagaucgggac-3’
ASF-4-1細胞(ヒト皮膚由来線維芽細胞)は、JCRB細胞バンク(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)より入手し、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を用いて37℃のインキュベーター(空気/CO2=95/5(v/v))内で培養した。
【0064】
0.5~0.8×105細胞/mLとなるように、6ウェルプレートにASF-4-1細胞を播種し、その24時間後に、上記のhvu-miR168-3pまたはata-miR168-5p(終濃度は20nMまたは40nM)をトランスフェクションし、さらに培養を継続した。なお、トランスフェクションにはカチオン性リポソーム(Lipofectamine(登録商標) RNAiMAX、ライフテクノロジーズ社)を用い、製造業者のプロトコールに従って行った。
【0065】
(ウエスタンブロッティング;ASF-4-1細胞)
トランスフェクションから72時間後に細胞を回収し、細胞をセルスクレイパーで回収し、以下のウエスタンブロッティングによりGLUT1タンパク質の発現量を解析した。なお、陰性対照区(Control)としては、ダーマコン社より購入したコントロールmiRNAを用いた。
【0066】
より具体的には、氷冷した溶解バッファー(10mMトリス-HCl(pH7.4)、1%(w/v)NP-40、0.1%(w/v)デオキシコール酸、0.1%(w/v)SDS、150mM NaCl、1mM EDTA、および1%(w/v)プロテアーゼインヒビターカクテル(シグマ-アルドリッチ社)中で細胞をホモジナイズし、氷上で20分間静置した。ホモジネートを13,000rpmで20分間(4℃)遠心分離した後、上清をウエスタンブロッティング用試料として採取した。試料中のタンパク質含有量は、DCプロテインアッセイキット(バイオラッド社製)を用いて測定した。試料(5μgのタンパク質量)を10.0または12.5%(w/v)のポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEで分離し、PVDF膜(パーキンエルマーライフサイエンス社)に転写した。5%(w/v)脱脂乳液(0.1%(w/v)Tween(登録商標)20を含むPBS(PBS-T)で調製)中で1時間インキュベートして非特異的結合をブロックした。その後、2%(w/v)ウシ血清アルブミンおよび0.01%(w/v)アジ化ナトリウムを含有するPBS-Tで適度に希釈した1次抗体(ウサギ抗GLUT1モノクローナル抗体(セル シグナリング テクノロジー社、CST#12939))と共に、4℃で膜を一晩インキュベートした。次いで、PBS-Tで膜を3回洗浄し、二次抗体(HRP-結合抗ウサギIgG抗体、Cell Signaling社)と共に室温でさらにインキュベートした。次いで、PBS-Tで膜を3回洗浄した。免疫ブロットは、アマシャムECLプラスウエスタンブロッティング検出試薬(GEヘルスケア社)を用いて可視化した。抗β-Actin抗体(シグマ-アルドリッチ社)を用いて同じ膜を再インキュベートすることにより、β-Actinを内部標準として用いた。
【0067】
ウエスタンブロットの結果を
図1に示す。
図1に示す通り、GLUT1タンパク質の発現量は、終濃度が20nMおよび40nMのいずれの場合であっても、hvu-miR168-3pまたはata-miR168-5pのトランスフェクションにより顕著に増加した。
【0068】
(試験例2)
(miRNA投与および栄養条件が線維芽細胞の生育に及ぼす影響)
上述した試験例1と同様にして、ASF-4-1細胞の培養を行った。
【0069】
次いで、培養開始の24時間後に、上記と同様の手法により、コントロールmiRNA、hvu-miR-168-3p(終濃度20nM)またはhvu-miR-168-3p(終濃度40nM)のいずれかをトランスフェクションし、さらに培養を継続した。
【0070】
その後、培養開始の72時間後に、上述した3つの各培養系について、培地に対して0%(v/v)(添加せず)、2%(v/v)または5%(v/v)のウシ胎児血清(FCS)を添加して、培養系の栄養条件を調節し、さらに培養を継続した。
【0071】
そして、培養開始の144時間後に、トリパンブルー染色法により生存細胞数を計測した。この際、陰性対照区における生存細胞数を100%とした場合における相対的な細胞数として、生存細胞(%)を算出した。その結果を
図2に示す(*および†:p<0.05、**および††:p<0.01、***および†††:p<0.001;以下同様)。なお、統計分析はグラフパッドプリズムソフトウェアシステム(グラフパッドソフトウェア社)を用い、両側スチューデントt検定により統計有意性を評価した。値は6~12ウェルの細胞を評価した平均±標準偏差として示した。
【0072】
図2に示す通り、本発明に係るmiRNAであるhvu-miR168-3pおよびata-miR168-5pのいずれにおいても、また、いずれの栄養条件下においても、陰性対照区と比較して生存細胞数が有意に増加していた。
【0073】
(試験例3)
(ヌードマウス糖負荷試験)
5週齢雄性ICRマウス(日本SLC,浜松,静岡)を購入し、1週間の飼育環境へ馴化させた。hvu-miR168-3pを滅菌リン酸緩衝液にて50μMに希釈してmiRNA原液を調製した。このmiRNA原液を投与まで-35℃にて保管した。1週間の環境飼育馴化後、lipofectamine RNAiおよびOPTI-MEMを使用したリポフェクション法により、72時間毎に5回、それぞれのマウスに対して1回あたり750μg/kg(投与量は生理食塩水により希釈して50μLとした)のhvu-miR168-3pをマウスの尾静脈より投与した。なお、陰性対照区には、miRNAを含まないOPTI-MEMを同量投与した。
【0074】
投与期間終了後、グルコース負荷を行うため、マウスの胃内容物を除去する目的で24時間絶食させた。グルコース負荷試験は、マウス体重1kgあたり2gの糖負荷を胃ゾンデ針により行い、30分間隔で投与開始後2時間まで血糖値をモニタリングした。なお、血糖値の測定は、尾静脈に針を刺し、尾静脈からドーム状に滲出してきた血液について、血糖値測定装置メディセーフミニGR102(テルモ、渋谷区、東京)を用いて行った。測定器先端に付けるチップには測定試験紙が搭載されており、このチップに血液を吸着させると、血液中のグルコースは試験紙に含まれるグルコースオキシダーゼの作用により過酸化水素とグルコン酸に変換される。このようにして生成した過酸化水素は、ペルオキシダーゼの作用によって反応試験紙に含まれる4-アミノアンチピリンおよびN-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-m-トルイジンと反応してキノン系色素を生成し、この色素による赤紫色の呈色を比色定量することで血糖値の測定が可能である。
【0075】
結果を
図3に示す。
図3に示す通り、本発明に係るmiRNAであるhvu-miR168-3pを投与されたマウスにおいては、陰性対照区のマウスと比較して60分後血中グルコース濃度(血糖値)の値が低下する傾向が見られ、投与後120分で有意差が見られた(Student’s t-test)。
【0076】
(ウエスタンブロッティング;マウス脳組織ホモジネート)
上述した糖負荷試験に供したマウス2匹(および陰性対照区のマウス2匹)の脳組織をSDS-PAGE用細胞溶解バッファーに入れてスパーテルにてホモジネートを調製した。次いでこれに遠心分離処理を施すことにより上清を分離して、以下のウエスタンブロッティングによりGLUT1タンパク質の発現量を解析した。試料中のタンパク質含有量は、DCプロテインアッセイキット(バイオラッド社製)を用いて測定した。試料(5μgのタンパク質量)を10.0または12.5%(w/v)のポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEで分離し、PVDF膜(パーキンエルマーライフサイエンス社)に転写した。5%(w/v)脱脂乳液(0.1%(w/v)Tween(登録商標)20を含むPBS(PBS-T)で調製)中で1時間インキュベートして非特異的結合をブロックした。その後、2%(w/v)ウシ血清アルブミンおよび0.01%(w/v)アジ化ナトリウムを含有するPBS-Tで適度に希釈した1次抗体(ウサギ抗GLUT1モノクローナル抗体(セル シグナリング テクノロジー社、CST#12939)と共に、4℃で膜を一晩インキュベートした。次いで、PBS-Tで膜を3回洗浄し、二次抗体(HRP-結合抗ウサギIgG抗体、Cell Signaling社)と共に室温でさらにインキュベートした。次いで、PBS-Tで膜を3回洗浄した。免疫ブロットは、アマシャムECLプラスウエスタンブロッティング検出試薬(GEヘルスケア社)を用いて可視化した。抗GAPDH抗体(セル シグナリング テクノロジー社、CST#2118)を用いて同じ膜を再インキュベートすることにより、GAPDHを内部標準として用いた。
【0077】
ウエスタンブロットの結果を
図4に示す。
図4に示す通り、hvu-miR168-3pを投与されたマウスの脳組織においては、陰性対照区のマウスと比較して、GLUT1タンパク質の発現量が顕著に増加した。また、腓腹筋組織についても同様のウエスタンブロッティングを行ったところ、同様にhvu-miR168-3pの投与によってGLUT1タンパク質の発現量が有意に増加していることが確認された。
【0078】
(試験例4)
hvu-miR168-3pがヒトの横紋筋肉腫由来の細胞(JCRB9072)におけるグルコーストランスポーター(GLUT)1の発現に及ぼす影響を評価した。
【0079】
JCRB9072細胞(ヒト横紋筋肉腫由来細胞)は、JCRB細胞バンク(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)より入手し、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を用いて37℃のインキュベーター(空気/CO2=95/5(v/v))内で培養した。
【0080】
0.5~0.8×105細胞/mLとなるように、6ウェルプレートにJCRB9072細胞を播種し、その24時間後に、上記のhvu-miR168-3p(終濃度は1nMまたは10nM)をトランスフェクションし、さらに培養を継続した。なお、トランスフェクションにはカチオン性リポソーム(Lipofectamine(登録商標) RNAiMAX、ライフテクノロジーズ社)を用い、製造業者のプロトコールに従って行った。
【0081】
(ウエスタンブロッティング;JCRB9072細胞)
トランスフェクションから72時間後に細胞を回収し、細胞をセルスクレイパーで回収し、以下のウエスタンブロッティングによりGLUT1タンパク質の発現量を解析した。なお、陰性対照区(Control)としては、ダーマコン社より購入したコントロールmiRNAを用いた。
【0082】
より具体的には、氷冷した溶解バッファー(10mMトリス-HCl(pH7.4)、1%(w/v)NP-40、0.1%(w/v)デオキシコール酸、0.1%(w/v)SDS、150mM NaCl、1mM EDTA、および1%(w/v)プロテアーゼインヒビターカクテル(シグマ-アルドリッチ社)中で細胞をホモジナイズし、氷上で20分間静置した。ホモジネートを13,000rpmで20分間(4℃)遠心分離した後、上清をウエスタンブロッティング用試料として採取した。試料中のタンパク質含有量は、DCプロテインアッセイキット(バイオラッド社製)を用いて測定した。試料(5μgのタンパク質量)を10.0または12.5%(w/v)のポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEで分離し、PVDF膜(パーキンエルマーライフサイエンス社)に転写した。5%(w/v)脱脂乳液(0.1%(w/v)Tween(登録商標)20を含むPBS(PBS-T)で調製)中で1時間インキュベートして非特異的結合をブロックした。その後、2%(w/v)ウシ血清アルブミンおよび0.01%(w/v)アジ化ナトリウムを含有するPBS-Tで適度に希釈した1次抗体(ウサギ抗GLUT1モノクローナル抗体(セル シグナリング テクノロジー社、CST#12939)と共に、4℃で膜を一晩インキュベートした。次いで、PBS-Tで膜を3回洗浄し、二次抗体(HRP-結合抗ウサギIgG抗体、Cell Signaling社)と共に室温でさらにインキュベートした。次いで、PBS-Tで膜を3回洗浄した。免疫ブロットは、アマシャムECLプラスウエスタンブロッティング検出試薬(GEヘルスケア社)を用いて可視化した。抗c-Myc抗体(セル シグナリング テクノロジー社)および抗GAPDH抗体(セル シグナリング テクノロジー社)を用いて同じ膜を再インキュベートすることにより、c-MycおよびGAPDHを内部標準として用いた。
【0083】
ウエスタンブロットの結果を
図5に示す。
図5に示す通り、GLUT1タンパク質の発現量は、終濃度が1nMおよび10nMのいずれの場合であっても、hvu-miR168-3pのトランスフェクションにより顕著に増加した。
【0084】
また、培養用の培地に5%(v/v)のウシ胎児血清(FCS)を添加して上記と同様のウエスタンブロットを行った結果を
図6に示す。
図6に示す通り、GLUT1タンパク質の発現量は、終濃度が1nMおよび10nMのいずれの場合であっても、hvu-miR168-3pのトランスフェクションにより顕著に増加した。また、GLUT1タンパク質の発現量の増加は、FCSを添加していない
図5の結果よりもさらに顕著なものであった。
【0085】
(試験例5)
(miRNA投与および栄養条件が肉腫細胞の生育に及ぼす影響)
上述した試験例4と同様にして、JCRB9072細胞の培養を行った。
【0086】
次いで、培養開始の24時間後に、上記と同様の手法により、コントロールmiRNA、hvu-miR-168-3p(終濃度1nM)、hvu-miR-168-3p(終濃度10nM)、ata-miR-168-5p(終濃度1nM)、またはata-miR-168-5p(終濃度10nM)のいずれかをトランスフェクションし、さらに培養を継続した。
【0087】
その後、培養開始の72時間後に、上述した5つの各培養系について、培地に対して0%(v/v)(添加せず)、2%(v/v)または5%(v/v)のウシ胎児血清(FCS)を添加して、培養系の栄養条件を調節し、さらに培養を継続した。
【0088】
そして、培養開始の96時間後に、培養系の吸光度(450nm)を測定した。この際、陰性対照区における吸光度(450nm)を1とした場合の相対値として、各培養系の吸光度を算出した。その結果を
図7に示す(*:p<0.05、**:p<0.01、***:p<0.001)。なお、統計分析はグラフパッドプリズムソフトウェアシステム(グラフパッドソフトウェア社)を用い、両側スチューデントt検定により統計有意性を評価した。値は6~12ウェルの細胞を評価した平均±標準偏差として示した。
【0089】
図7に示す通り、本発明に係るmiRNAであるhvu-miR168-3pおよびata-miR168-5pのいずれにおいても、また、いずれの栄養条件下においても、陰性対照区と比較して吸光度が有意に増加していた。
【0090】
(miRNA投与が肉腫細胞におけるATPレベルに及ぼす影響)
上記で吸光度を測定したサンプルのうち、FCSの添加量が5%(v/v)であった培養系について、ATP測定キット(サーモフィッシャーサイエンティフィック製、A22066)を用いて、細胞内のATPレベルを測定した。
【0091】
具体的には、まず、キットに添付のプロトコールに従って反応試薬を調製し、暗所で保存した。この際、ホタルルシフェラーゼを添加した後は試薬に振動を与えず、優しく転倒混和した。
【0092】
一方、培養細胞をPBS緩衝液で洗浄し、トリプシン処理によって細胞をプレートから剥離させた(6ウェルプレートの各ウェルに対してトリプシンを500μL/ウェル添加)。その後、等量の培地を添加して希釈したものを新しいエッペンドルフチューブに回収した。そして、回収したサンプルを10μLずつ、3本の別のエッペンドルフチューブの底に優しく分注した。この際、細胞はできるだけ分離している方が好ましいが、細胞が破壊されることによって細胞内のATPが溶出してしまうため、振動を与えないように注意した。
【0093】
次いで、各チューブのサンプルに対し、上記で調製した反応試薬を90μLずつ分注した。そして、各サンプルを軽くスピンダウンし、暗所、室温にて15分間反応させた。この反応の間に、上記で回収した細胞の濃度をカウントしておいた。
【0094】
反応終了後、キットのプロトコールに従って各サンプルのルシフェラーゼ活性を測定し、カウントしておいた細胞数を用いて、1細胞あたりのATPレベルを算出した。この際、陰性対照区における発光量を1とした場合の相対値として、各培養系の発光量を算出した。その結果を
図8に示す。(*:p<0.05、***:p<0.001)。なお、統計分析はグラフパッドプリズムソフトウェアシステム(グラフパッドソフトウェア社)を用い、両側スチューデントt検定により統計有意性を評価した。値は6~12ウェルの細胞を評価した平均±標準偏差として示した。
【0095】
図8に示す通り、本発明に係るmiRNAであるhvu-miR168-3pおよびata-miR168-5pのいずれにおいても、5%(v/v)のFCSを添加して培養された横紋筋肉腫細胞における細胞内ATPレベルが有意に増加していた。特に、hvu-miR168-3pを投与した場合のATPレベルの増加は顕著であった。
【0096】
(試験例6)
(miRNAの導入が遺伝子発現に及ぼす影響(マイクロアレイ解析))
hvu-miR168-3pの導入がヒト皮膚由来線維芽細胞(ASF-4-1細胞)およびヒト横紋筋肉腫由来の細胞(JCRB9072細胞)における遺伝子(mRNA)の発現に及ぼす影響を評価する目的で、SCL2(GLUT)ファミリーに属する遺伝子についてのマイクロアレイ解析を行った。その結果を下記の表1に示す。なお、表1に示す「FC ASF」の数値が大きいほどASF-4-1細胞において発現が亢進していることを示し、「FC RD」の数値が大きいほどJCRB9072細胞において発現が亢進していることを示す。
【0097】
【0098】
表1に示すように、hvu-miR168-3pの導入により、全身に発現しているGLUT1遺伝子に相当するSLC2A1遺伝子、および、小腸上皮に特異的に発現しているGLUT2遺伝子に相当するSLC2A2遺伝子の発現が特に亢進したことがわかる。また、SLC2(GLUT)ファミリーに属するその他の遺伝子についても、発現が亢進しているものがいくつか確認された。
【0099】
(試験例7)
一般に、マイクロRNAは複数のターゲット遺伝子をコントロールすることで、多様な機能を持つことが知られている。したがって、hvu-miR168-3pの導入により影響を受けるシグナル伝達経路をKEGG Pathway解析により調べ、ASF-4-1細胞およびJCRB9072細胞の双方において遺伝子発現がともに上昇またはともに低下したpathwayを調べた。その結果のうち、遺伝子発現がともに上昇したpathwayを下記の表2に示す。
【0100】
【0101】
表2に示すように、hvu-miR168-3pの導入によって遺伝子発現の上昇が見られたシグナル伝達経路は、生体において異物に対する反応(自然免疫)に関与する経路が多数を占めたことがわかる。
【0102】
一方、KEGG Pathway解析の結果のうち、遺伝子発現がともに低下したpathwayを下記の表3に示す。
【0103】
【0104】
表3に示すように、hvu-miR168-3pの導入によって遺伝子発現の低下が見られたシグナル伝達経路には、酸化的リン酸化(KEGG_OXIDATIVE_PHOSPHORYLATION)経路が含まれていた。
【0105】
上述した結果を踏まえ、酸化的リン酸化(KEGG_OXIDATIVE_PHOSPHORYLATION)経路に位置する遺伝子のうち、hvu-miR168-3pの導入によって発現が低下した遺伝子を抽出した。その結果を下記の表4に示す。
【0106】
【0107】
表4に示すように、hvu-miR168-3pの導入によって発現が低下した酸化的リン酸化に関与する遺伝子は、主としてATPアーゼやNADHデヒドロゲナーゼ、シトクロムcオキシダーゼといったものであった。このことから、hvu-miR168-3pの投与によるクラスIのGLUT遺伝子の発現の誘導(亢進)は、酸化的リン酸化経路(TCA回路)の機能の低下を補うために解糖系が代償的に活性化されたことによるものと考えられる。
【0108】
(試験例8)
(miRNA導入が酸化的リン酸化経路における遺伝子発現に及ぼす影響)
上述した結果を踏まえ、hvu-miR168-3pを導入したASF-4-1細胞およびJCRB9072細胞において、ミトコンドリアの複合体Iにおける酸化的リン酸化経路(OXPHOS)に関与する遺伝子であるNdufs6(NADH dehydrogenase[ubiquinone]iron-sulfur protein 6, mitochondrial)のmRNAの発現量の変化をreal-time PCR法により測定した。なお、内部標準としてはアクチン遺伝子を用いた。その結果を
図9に示す。
【0109】
図9に示すように、いずれの細胞においても、Ndufs6遺伝子のmRNAの発現量はhvu-miR168-3pの導入によって有意に低下したことがわかる。このことは、上述したような本発明に係るmiRNAの投与によるクラスIのGLUT遺伝子の発現の誘導(亢進)メカニズムに関する仮説を裏付けるものである。
【0110】
本出願は、2018年10月12日に出願された日本特許出願番号2018-193615号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として組み入れられている。
【配列表フリーテキスト】
【0111】
〔配列番号:1〕
本発明に係るオリゴヌクレオチドの1つであるhvu-miR168-3pのRNA配列である。
〔配列番号:2〕
本発明に係るオリゴヌクレオチドの1つであるata-miR168-5pのRNA配列である。
【配列表】