(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】圧電センサーを製造する方法及びそのような方法によって得られる圧電センサー
(51)【国際特許分類】
H04R 31/00 20060101AFI20231228BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20231228BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20231228BHJP
【FI】
H04R31/00 330
H10N30/30
H10N30/853
(21)【出願番号】P 2020559538
(86)(22)【出願日】2019-05-21
(86)【国際出願番号】 EP2019063106
(87)【国際公開番号】W WO2019228862
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-05-12
(32)【優先日】2018-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】311015001
【氏名又は名称】コミサリヤ・ア・レネルジ・アトミク・エ・オ・エネルジ・アルテルナテイブ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ナバクシア,フレデリク
(72)【発明者】
【氏名】ブリソノー,ローラン
(72)【発明者】
【氏名】ルイリエ,クリスチャン
【審査官】渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-529919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
G01S 1/72- 1/82
G01S 3/80- 3/86
G01S 5/18- 5/30
G01S 7/52- 7/64
G01S 15/00-15/96
H04R 1/00- 1/02
H04R 1/06
H04R 1/20- 1/34
H04R 1/40
H04R 1/44
H04R 3/00
H04R 9/00
H04R 13/00
H04R 15/00
H04R 17/00-17/02
H04R 17/10
H04R 19/00
H04R 23/00
H04R 29/00-31/00
H10N 30/00-39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電センサー(1)を製造する方法であって、
- ステンレス鋼で作られたハウジング(20)を提供するステップ、
- 金属又は半金属元素を含む化合物の溶液を生成するステップ、
- 前記ハウジング(20)の少なくとも1つの内面の上に前記溶液の層を付着させるステップ、
- 前記溶液の付着層を酸化させるステップ、
- 前記ハウジングの内部に圧電素子(10)を置くステップ、
- 全ての前記ステップ後、前記ハウジング(20)を密閉するステップ
を含む方法。
【請求項2】
前記溶液は、希土類溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記希土類溶液は、ランタン、イットリウム、セリウムに基づく化合物又は前記化合物の組み合わせを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記希土類溶液は、酸化ランタン、水酸化ランタン、炭酸ランタン、酢酸ランタン、シュウ酸ランタン、酸化イットリウム、水酸化イットリウム、シュウ酸イットリウム、酸化セリウムから選択される化合物又は前記化合物の組み合わせを含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記溶液は、ポリシラザンに基づく化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記溶液は、ジルコニウ
ムに基づく化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記付着
させるステップは、前記ハウジングを前記溶液に浸漬することによって実行される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記付着
させるステップは、前記溶液を前記ハウジングにスピンコートすることによって実行される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記付着
させるステップは、前記溶液を前記ハウジングに吹き付けることによって実行される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記付着
させるステップは、絵筆、パッド又はブラシを用いて前記溶液を前記ハウジングに塗布することによって実行される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記溶液を生成する前記ステップ及び前記ハウジングの少なくとも1つの内面の上に前記溶液の層を付着させる前記ステップは、ゾルゲル法によって実行される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ゾルゲル法は、100℃以下の温度で前記溶液の層を凝縮させるステップを含み、前記凝縮
させるステップは、前記付着
させるステップ後及び前記酸化
させるステップ前である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記酸化
させるステップは、前記圧電センサーの使用の温度よりも高い温度で実行される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記酸化
させるステップは、500℃よりも高い温
度で実行される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
- 密閉鋼ハウジング(20)、
- 前記ハウジング内に配置された圧電素子(10)
を含む圧電センサー(1)において、金属又は半金属元素を含む化合物の溶液の層(30)を更に含み、前記層は、前記ハウジング(20)の少なくとも1つの内面の上に配置され、且つ前記圧電センサーの使用の温度よりも高い温度で酸化されることを特徴とする圧電センサー(1)。
【請求項16】
前記溶液は
、希土類溶液である、請求項15に記載の圧電センサー(1)。
【請求項17】
前記希土類溶液は、酸化ランタン、水酸化ランタン、炭酸ランタン、酢酸ランタン、シュウ酸ランタン、酸化イットリウム、水酸化イットリウム、シュウ酸イットリウム、酸化セリウムから選択される化合物又は前記化合物の組み合わせを含む、請求項16に記載の圧電センサー(1)。
【請求項18】
前記溶液は、ポリシラザンに基づく化合物を含む、請求項15に記載の圧電センサー(1)。
【請求項19】
前記溶液は、ジルコニウ
ムに基づく化合物を含む、請求項15に記載の圧電センサー(1)。
【請求項20】
高温超音波トランスデューサを形成し、前記圧電素子(10)は、圧電材料で作られた変換器であり、及び前記圧電センサー(1)は、前記ハウジング(20)において、
- 鋼又は金属で作られた上部電極(12)、
- 前記変換器と音波伝搬媒質との間の界面を提供する、鋼又は金属で作られた支持体(11)、
- 金及びインジウムを含む固体継手からなる、前記支持体(11)と、圧電材料で作られた前記変換器(10)との間の第1の接合部(J
11)、
- 前記変換器(10)と前記上部電極(12)との間の第2の接合部(J
12)
を更に含む、請求項15~19のいずれか一項に記載の圧電センサー(1)。
【請求項21】
加速度計を形成する、請求項15~19のいずれか一項に記載の圧電センサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、圧電センサー、特に典型的には数百℃を超える高温で動作するように設計された圧電センサーの分野である。
【背景技術】
【0002】
特定の圧電センサーの1つの例は、「高温超音波トランスデューサ」又は「HTUST」とも呼ばれる、固体及び流体中を伝搬することができる超音波、より広義には音波を送信、受信又は送受信するデバイスであり、典型的には数百℃を超える高温で動作するように設計される。
【0003】
高温超音波トランスデューサは、高温環境での使用に適している。高温超音波変換器は、原子炉、特に高速中性子原子炉での使用に特に適している。
【0004】
高速中性子炉の場合、特に下記の指示物理的状態下でトランスデューサの正確な動作を保証する必要がある:
- 液体合金又は金属(例えば、ナトリウム)への浸漬、
- 200℃(停止された原子炉)~550℃(稼働中の原子炉)で異なる正常状態下での作業温度、
- 700℃に達することがある異常状態下での作業温度、
- 高速及び熱中性子及び/又はガンマ光子の流れ下、
- 数十年の動作期間(典型的には60年の原子炉耐用年数)。
【0005】
超音波トランスデューサは、特に実験室試験中、室温(数℃)で動作することができる必要もある。
【0006】
超音波トランスデューサは、超音波送信機、超音波受信機又は超音波送受信機としての機能を果たすことができる必要がある。
【0007】
最後に、トランスデューサは、様々な音響周波数(典型的には略連続的なメガヘルツ~数メガヘルツ)の広い範囲内で動作することができる必要がある。
【0008】
超音波トランスデューサは、加圧水型原子炉で使用され得る。
【0009】
超音波変換器は、非原子力産業で他の用途を見出すこともできる。
【0010】
電気エネルギーを機械エネルギーに変換し、且つ/又は機械エネルギーを電気エネルギーに変換する材料、一般的には圧電材料で作られた素子を用いて、音波を生成及び/又は受信する。
【0011】
ハウジング、又はハウジングの一部、又は検査される部品の一部、又は更に導波管の一部に実際に組み込まれ得る「支持板」又は本明細書でより一般的に「支持体」と呼ばれる保護板(一般的には金属又は金属合金で作られている)により、圧電変換器素子を波動伝搬媒質から分離する。
【0012】
超音波トランスデューサの性能は、下記によって決まる。
- 変換器材料の選択、
- 支持体材料、より一般的にはハウジング材料の選択、
- 変換器材料の第1の面と支持体との間の「接合部」とも呼ばれる接続部のタイプの選択及び実装。この接合部は、機械及び音響機能を提供する、即ち広い周波数範囲(略連続的なメガヘルツ~数メガヘルツ)及び温度範囲(数℃~550℃又は更に700℃)で超音波を送信することができる必要がある。
【0013】
変換器材料の第2の面では、変換器材料を電極に結合し、この結合を、変換器材料と支持体との間の方法と同じ方法又は異なる方法で行うことができる。
【0014】
支持体は、第2の電極としての機能を果たし得る。
【0015】
「支持体/第1の接合部/変換器材料/第2の接合部/電極」組立体は、本明細書で「組立体」と呼ばれ得る。この組立体は、上述の厳しい状況下において安定した特性で(機械的、電気的及び音響的に)耐久的に動作する必要がある。
【0016】
例えば、仏国特許第2977377号明細書は、インジウム及び金に基づく接合部を含み、非常に優れた高温耐性を示す「高温」超音波トランスデューサを開示している。
【0017】
仏国特許第2977377号明細書による高温超音波トランスデューサを
図1Aに例示する。高温超音波変換器は、鋼又は金属で作られた上部電極12と、圧電材料で作られた変換器10と、変換器と音波伝搬媒質との間の界面を提供する、鋼又は金属で作られた支持体11と、支持体と圧電材料との間の第1の接合部J11と、変換器と上部電極との間の第2の接合部J12とを含む。第1の接合部は、金及びインジウムを含む固体継手である。
【0018】
圧電材料は、好ましくは、ニオブ酸リチウムである。
【0019】
第1の接合部は、音波を送信し、変換器及び支持体を音響的に結合する。
【0020】
第2の接合部は、音波を送信し、変換器及び電極を音響的に結合し得る。しかし、第2の接合部は、音波を送信しなくてもよく、従って変換器及び電極を音響的に分離する。
【0021】
図1Bに例示のように、高温超音波トランスデューサは、支持体、第1の接合部、第2の接合部及び上部電極で構成された組立体を組み込むハウジング20を更に含む。鋼又は金属で作られた支持体は、前記ハウジングに組み込まれた板又は前記ハウジングに装着された板である。
【0022】
圧電材料は、高温での最適動作のために一定の酸素含有量を必要とする。
【0023】
これは、大部分の圧電材料が酸化物から形成され、高温に曝された場合、密封ハウジング内で酸素欠乏になりやすく、還元性雰囲気又は酸素の低分圧になりやすいためである。圧電素子が酸素を欠損すると、圧電素子は、より高い導電性を帯び、温度の上昇によって悪化する抵抗率のこの著しい低下は、センサーを動作不能にするか、センサーの信頼性をなくすか、又は永久的な損傷を与える。
【0024】
例えば、ニオブ酸リチウムからの「酸素欠損」として知られている現象の悪影響は、酸素の低分圧下での高温(約350℃よりも高い)で現れる。ニオブ酸リチウムの圧電結晶は、圧電結晶からの酸素欠損及び電気抵抗率の減少を原因として、高温への加熱時に音響信号の損失を受ける。
【0025】
しかし、ハウジングは、動作温度(550℃又は更に700℃に達することがある)でハウジングの内面に酸化を受け、この反応は、酸素の圧電材料と接触する大気を欠乏させる。
【0026】
ステンレス鋼で作られたハウジングを選択する場合でも、ステンレス鋼の酸化クロムの天然層は、保護が不十分である。これは、ステンレス鋼が、酸素と更に結合してより大きい酸化物層を形成することがある元素を含むためである。
【0027】
この現象を防止するために、高温超音波トランスデューサのハウジングの内面を使用前に酸化させ得る。しかし、この場合でも、ハウジングに存在する酸素を消費することになる、高温で避けられない酸化現象が依然としてある。
【0028】
この酸素欠損を軽減するために、圧電トランスデューサは、ハウジングに存在する酸素を補給することができるエアレーション手段を含み得る。従って、高温において酸素の十分な分圧下で圧電材料を維持するために、必要に応じてエアレーションが提供される。
【0029】
圧電材料を密閉するハウジング内の酸素の補給を保証するエアレーション手段は、
図1Bに例示のように、ハウジングに供給するエアレーション管41、42によって製造され得る。
【0030】
しかし、これらのエアレーション手段は、超音波トランスデューサの操作を複雑にする。
【0031】
エアレーション手段の他の欠点は、ハウジングの計装のための出口直径の増大、より大きい全ハウジングサイズ、トランスデューサのより複雑な製造及びハウジングに空気を供給する必要性である。
【0032】
更に、エアレーション管が詰まる危険性があり、その結果、時間と共に信号の劣化を引き起こすことがある。
【0033】
最後に、ハウジングへのエアレーション管の組み込みを原因として(隙間又は亀裂、接続不良又は製造欠陥を原因として)、漏れの危険性があり得る。例えば、センサーが稼働中でない場合でも、水分及び/又は流体がハウジングに入り、腐食又はセンサーに対する他の内部損傷を与えることがある。この現象は、センサーを流体に浸漬した場合、一層損傷を与え、漏れは、センサーの劣化及び周囲環境の汚染を引き起こす。
【0034】
より広義には、密閉ハウジングに配置された圧電材料を含む任意のセンサーに対して同じ問題が存在する。
【0035】
従って、例えば米国特許出願公開第2012/0204644号明細書に記載のように、密閉ハウジングに配置された圧電能動素子を含む、高温で動作することができる圧電加速度計に対して同じ問題が存在する。採用された解決策は、金属が高温に曝された場合、金属を介して酸素の拡散を可能にするために、銀(又は銀合金)で作られた小さい金属部分を加速度計の密閉ハウジングに追加することを含む。しかし、ハウジングは、特定の時間後に前処理面の酸化を依然として受ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0036】
【文献】仏国特許第2977377号明細書
【文献】米国特許出願公開第2012/0204644号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
本発明の目的は、上述の欠点を克服することである。
【0038】
本発明の目的は、圧電素子の性能が時間と共に低下することなく、高温で動作することができる圧電センサーを提供することである。
【0039】
特に、本発明の目的は、酸素の欠損を防止する、より広義には一定の酸素含有量を維持して、圧電材料の最適動作を得ることができる圧電センサーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0040】
この目的を達成することができる本発明の1つの主題は、圧電センサーを製造する方法であって、
- ステンレス鋼で作られたハウジングを提供するステップ、
- 金属又は半金属元素を含む化合物の溶液を生成するステップ、
- ハウジングの少なくとも1つの内面の上に前記溶液の層を付着させるステップ、
- 溶液の付着層を酸化させるステップ、
- 前記ハウジングの内部に圧電素子を置くステップ、
- 全ての上述のステップ後、ハウジングを密閉するステップ
を含む方法である。
【0041】
付着ステップは、生成ステップ後である。酸化ステップは、付着ステップ後である。
【0042】
ハウジングの内部に圧電素子を置くステップは、好ましくは、酸化ステップ後に実行されるが、酸化ステップ前に実行され得る。
【0043】
ハウジングを提供するステップは、生成ステップ前又は後であり得る。ハウジングを提供するステップは、明らかに付着ステップ前である。
【0044】
好ましくは、ハウジングは、密閉される。
【0045】
元素によって理解されるものは、元素の周期表からの化学元素である。化学元素は、金属元素又は半金属元素であり得る。
【0046】
半金属元素は、特性が金属と非金属との中間であるか又はこれらの特性の組み合わせである化学元素である。半金属として一般的に認められる6つの元素は、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン及びテルルである。
【0047】
金属元素は、スカンジウム、イットリウム及び15個のランタノイドを含む、同様の特性を有する金属元素の族である希土類元素を含む。
【0048】
金属又は半金属元素を含む化合物の溶液の層の付着及び酸化により、拡散障壁としての機能を果たし、ステンレス鋼の酸化の非常に遅い速度を保証する結合酸化物層が得られる。
【0049】
1つの好ましい実施形態によれば、溶液は、希土類溶液である。
【0050】
希土類溶液は、ランタン、イットリウム又はセリウムに基づく化合物を含み得る。希土類溶液は、前記化合物の組み合わせを含み得る。1つの特定の実施形態によれば、溶液は、ランタン、イットリウム若しくはセリウムに基づく化合物又は前記化合物の組み合わせからなる。
【0051】
希土類溶液は、酸化ランタン、水酸化ランタン、炭酸ランタン、酢酸ランタン、シュウ酸ランタン、酸化イットリウム、水酸化イットリウム、シュウ酸イットリウム若しくは酸化セリウムから選択される化合物又は前記化合物の組み合わせを含み得る。1つの特定の実施形態によれば、溶液は、酸化ランタン、水酸化ランタン、炭酸ランタン、酢酸ランタン、シュウ酸ランタン、酸化イットリウム、水酸化イットリウム、シュウ酸イットリウム若しくは酸化セリウムに基づく化合物又は前記化合物の組み合わせからなる。
【0052】
別の実施形態によれば、溶液は、ポリシラザンに基づく化合物を含む。1つの特定の実施形態によれば、溶液は、ポリシラザンに基づく化合物からなる。
【0053】
別の実施形態によれば、溶液は、ジルコニウム、例えば酸化ジルコニウムに基づく化合物を含む。1つの特定の実施形態によれば、溶液は、ジルコニウムに基づく化合物からなる。
【0054】
一実施形態によれば、付着ステップは、ハウジングを溶液に浸漬すること(浸漬コーティング)によって実行される。この浸漬ステップに続いて、除去ステップが行われる。
【0055】
1つの代替の実施形態によれば、付着ステップは、溶液をハウジングにスピンコートすることによって実行される。
【0056】
1つの代替の実施形態によれば、付着ステップは、溶液をハウジングに吹き付けること(吹き付けコーティング)によって実行される。
【0057】
1つの代替の実施形態によれば、付着ステップは、絵筆、パッド又はブラシを用いて溶液をハウジングに塗布することによって実行される。
【0058】
一実施形態によれば、溶液を生成するステップ及びハウジングの少なくとも1つの内面の上に前記溶液の層を付着させるステップは、ゾルゲル法によって実行される。
【0059】
1つの特定の実施形態によれば、ゾルゲル法は、溶液の層を凝縮させるステップを含み、前記凝縮ステップは、付着ステップ後及び酸化ステップ前である。凝縮温度は、好ましくは、100℃以下である。
【0060】
1つの好ましい実施形態によれば、酸化ステップは、圧電センサーの使用の温度よりも高い温度で実行される。これにより、高温で圧電素子の酸素欠乏を大幅に減少させる保護層を形成することができる。
【0061】
1つの特定の実施形態によれば、酸化ステップは、500℃よりも高い温度、好ましくは600℃以上の温度で実行される。
【0062】
本発明の別の主題は、
- 密閉鋼ハウジング、
- 前記ハウジングの内部に配置された圧電素子
を含む圧電センサーである。
【0063】
圧電センサーは、金属又は半金属元素を含む化合物の溶液の層を更に含み、前記層は、ハウジングの少なくとも1つの内面の上に配置される。
【0064】
好ましくは、金属又は半金属元素を含む化合物の溶液の層は、前記圧電センサーの使用の温度よりも高い温度で酸化される。
【0065】
1つの好ましい実施形態によれば、溶液は、希土類溶液である。
【0066】
希土類溶液は、ランタン、イットリウム又はセリウムに基づく化合物を含み得る。希土類溶液は、前記化合物の組み合わせを含み得る。
【0067】
希土類溶液は、酸化ランタン、水酸化ランタン、炭酸ランタン、酢酸ランタン、シュウ酸ランタン、酸化イットリウム、水酸化イットリウム、シュウ酸イットリウム若しくは酸化セリウムから選択される化合物又は前記化合物の組み合わせを含み得る。
【0068】
1つの代替の実施形態によれば、溶液は、ポリシラザンに基づく化合物を含む。
【0069】
1つの代替の実施形態によれば、溶液は、ジルコニウム、例えば酸化ジルコニウムに基づく化合物を含む。
【0070】
1つの好ましい実施形態によれば、圧電センサーは、高温超音波トランスデューサである。
【0071】
1つの特定の実施形態によれば、圧電素子は、圧電材料で作られた変換器であり、高温超音波トランスデューサは、ハウジングにおいて、
- 鋼又は金属で作られた上部電極、
- 変換器と音波伝搬媒質との間の界面を提供する、鋼又は金属で作られた支持体、
- 金及びインジウムを含む固体継手からなる、支持体と、圧電材料で作られた変換器との間の第1の接合部、
- 変換器と上部電極との間の第2の接合部
を更に含む。
【0072】
別の実施形態によれば、圧電センサーは、加速度計である。
【0073】
本発明の他の特徴及び利点は、添付図面を参照して与えられる非限定的な例示により、以下の説明を通して明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【
図1A】先行技術の高温超音波トランスデューサを例示する。
【
図1B】先行技術の高温超音波トランスデューサを例示する。
【
図3】本発明によって処理されていないハウジング及び本発明によって処理されているハウジングのステンレス鋼の質量変動曲線を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0075】
【0076】
図2は、少なくとも1つの圧電能動素子10が配置されたハウジング20を含む、本発明による圧電センサー1を例示する。
【0077】
更に、圧電センサー1は、金属又は半金属元素(例えば、希土類元素)を含む化合物の溶液の層30を含む。前記層を前記ハウジングの内面に付着させる。次に、前記付着層を好ましくは圧電センサー1の使用の温度よりも高温で酸化させる。
【0078】
高温超音波トランスデューサの場合、圧電能動素子10は、圧電材料で作られた変換器であり得、センサーは、ハウジング20において、鋼又は金属で作られた上部電極12、変換器と音波伝搬媒質との間の界面を提供する、鋼又は金属で作られた支持体11、支持体と圧電材料との間の第1の接合部J11、変換器と上部電極との間の第2の接合部J12を更に含み得る。第1の接合部J11は、金及びインジウムを含む固体継手からなり得る。
【0079】
図3は、本発明によって処理されていないハウジング及び本発明によって処理されているハウジングに対する70時間にわたる304Lステンレス鋼の質量変動曲線を示す。
【0080】
図3のグラフにおいて、未処理304Lステンレス鋼(曲線a及びb)は、約20時間後に非常に著しく酸化されることが分かる。これは、鉄含有酸化物(例えば、FeCr
2O
4及びFe
2O
3)の形成が原因である。酸化物層は、冷却時に取れやすい。
【0081】
本発明の方法によるランタン層の付着及び酸化(曲線c及びd)により、時間が酸化に実質的に影響を及ぼさない程度まで、酸化の速度が少なくとも1/10に減少する。質量増加曲線(mg.cm-2で表される)の様子は、金属を十分に保護することを意味する。ランタンは、ランタンクロマイトLaCrO3の形態で認められ、クロミアCr2O3層のドーピングは、内部アニオン性拡散、層の遅速及び優れた結合を促進する。
【0082】
ランタン層の付着及び酸化により、拡散障壁としての機能を果たし、ステンレス鋼の酸化の非常に遅い速度を保証する結合酸化物層が得られる。
【0083】
溶液を生成するステップ及びハウジング内の少なくとも1つの表面の上に前記溶液の層を付着させるステップを実行するために、酸化ステップ前にゾルゲル法を使用することが好ましい。
【0084】
ゾルゲル法は、希土類水酸化物溶液を生成する第1のステップを実施し、この第1のステップは、加水分解反応とも呼ばれる。このようにして得られた溶液は、「ゾル」と呼ばれる。
【0085】
1つの特定の実施形態によれば、水酸化ランタンの溶液が生成される。
【0086】
一例として、水酸化ランタンの溶液を硝酸ランタンから生成する。下記の反応に従い、水、硝酸ランタン及びアンモニアを混合して、水酸化ランタン沈殿物を形成する。
【数1】
【0087】
次に、pHが安定するまで水酸化ランタン沈殿物を酸に溶解する。最終濃度を水で調整する。水酸化ランタンのイオン溶液が得られる。
【0088】
次に、ゾルゲル法は、ハウジングの1つ又は複数の内面の上に希土類水酸化物溶液(例えば、水酸化ランタン溶液)の薄層を付着させる第2のステップを含む。
【0089】
被覆されるハウジングを生成溶液、例えば硝酸ランタンから生成された水酸化ランタン溶液に浸漬することによって付着ステップを実行し得る。
【0090】
代わりに、絵筆を用いて生成溶液をハウジングの1つ若しくは複数の表面の上に塗布することにより、又は代わりに生成溶液をハウジングの1つ若しくは複数の表面の上に吹き付けることにより、付着ステップを実行し得る。
【0091】
次に、ゾルゲル法は、100℃以下の温度又は更に室温で薄層を圧縮する第3のステップ(凝縮ステップとも呼ばれる)を含む。このようにして、「ゲル」が得られる。
【0092】
凝縮ステップは、厚さが数ミクロンの「ゲル」層を形成する。
【0093】
凝縮ステップに続いて、溶液の層の高温酸化のステップが行われる。この酸化ステップ中、前記層は、ステンレス鋼の金属成分と反応して、自然に存在するクロミアの層よりも防護性が高い他の酸化物を形成する。
【0094】
酸化ステップの持続時間は、好ましくは、数時間である。この持続時間は、好ましくは、24時間よりも長く、好ましくは48時間よりも長く、より好ましくは72時間よりも長い。
【0095】
更に、好ましくは、圧電センサーの使用の温度よりも高い温度、即ち500℃よりも高い、好ましくは600℃以上の温度で酸化を実行する。これにより、特定の使用条件下の高温で圧電素子の酸素欠乏を大幅に減少させる保護層を形成することができる。
【0096】
実施が容易であり且つ非常に経済的なこの方法により、圧電センサーの耐用年数を増加することができ、より優れた耐酸化性を前記センサーに提供することができる。
【0097】
異なる実施形態が互いに組み合わされ得る。
【0098】
更に、本発明は、上述の実施形態に限定されず、むしろ特許請求の範囲内に入る任意の実施形態に及ぶ。
【0099】
圧電センサーは、加速度計、HTUST又は更に他のセンサー、特に500℃以上の温度で酸素を放出しやすいセンサーであり得る。