(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】複雑なサンプル中のそのグラム信号に従って細菌を検出するための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/569 20060101AFI20231228BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20231228BHJP
G01N 33/536 20060101ALI20231228BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20231228BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20231228BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20231228BHJP
G01N 21/78 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
G01N33/569 B
G01N33/53 D
G01N33/536 D
G01N33/543 597
C12Q1/06
G01N21/64 F
G01N21/78 C
(21)【出願番号】P 2020570110
(86)(22)【出願日】2019-06-13
(86)【国際出願番号】 FR2019051435
(87)【国際公開番号】W WO2019243714
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-06-10
(32)【優先日】2018-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】517369461
【氏名又は名称】マー ファルマ
(73)【特許権者】
【識別番号】518375786
【氏名又は名称】バイオアスター
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182730
【氏名又は名称】大島 浩明
(72)【発明者】
【氏名】オーロール ドゥケノワ
(72)【発明者】
【氏名】サミュエル ベレ
(72)【発明者】
【氏名】バンサン トマ
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-110629(JP,A)
【文献】特開2004-305218(JP,A)
【文献】特開平10-313892(JP,A)
【文献】特開2016-073288(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0316355(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 21/62-21/83
C12Q 1/00- 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌を含むサンプル中のグラム陽性菌の割合及びグラム陰性菌の割合を検出するための方法であって、下記工程:
a)前記サンプルと、
-蛍光色素に結合された小麦レクチン(WGA)、
-WGAに結合されたものとは異なる波長で蛍光を発する蛍光色素に結合されたバンコマイシン
、
とを同時に、又は順次にインキュベートする工程、
b)前記サンプルを遠心分離する工程、
c)前記サンプルの蛍光を、フローサイトメトリーを用いて測定する工程、
を含む方法。
【請求項2】
工程a)において、前記サンプルが、
-蛍光色素に結合された小麦レクチン(WGA)、
-WGAに結合されたものとは異なる波長で蛍光を発する蛍光色素に結合されたバンコマイシン、
-蛍光色素(非標識)に結合されていないバンコマイシン及び/又は塩化カリウム、
と同時に、又は順次にインキュベートされることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記サンプルを遠心分離する工程と、前記サンプルの蛍光をフローサイトメトリーを用いて測定する工程との間に、更に、前記サンプルを洗浄する工程を含むことを特徴とする、請求項1又は2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
WGAに結合された蛍光色素が、Alexa Fluor(登録商標)647であり、そしてバンコマイシンに結合された蛍光色素が3-BODIPY-プロパン酸であることを特徴とする、請求項1
~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記測定する工程c)が、工程
b)の終了後、40分未満、好ましくは30分未満で実施されることを特徴とする、請求項1
~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記測定する工程c)が、フローサイトメトリーにより実施されることを特徴とする、請求項1
~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程a)において、分析されるべきサンプル中の蛍光色素に結合された小麦レクチン(WGA)の濃度が、5~100μg/ml、好ましくは20μg/mlであり、そして/又は分析されるべきサンプル中の蛍光色素に結合されたバンコマイシンの濃度が、0.15~4μg/ml、好ましくは2μg/mlであることを特徴とする、請求項1~
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
工程a)におけるインキュベーション時間が、10~30分、好ましくは15分であることを特徴とする、請求項1~
7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記サンプルが、ヒト又は動物微生物叢のサンプルであることを特徴とする、請求項1~
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
細菌サンプル中のグラム陽性菌及びグラム陰性菌の属及び/又は種を検出
するための方法であって、
a)前記サンプルと、
-蛍光色素に結合された小麦レクチン(WGA)、
-WGAに結合されたものとは異なる波長で蛍光を発する蛍光色素に結合されたバンコマイシン
、
とを同時に、又は順次にインキュベートする工程、
b)前記サンプルを遠心分離する工程、
c)前記サンプルの蛍光を、フローサイトメトリーを用いて測定する工程、
及び
d)2つの蛍光色素の相対蛍光を分析する工程
、
を含む方法。
【請求項11】
細菌サンプル中のグラム陽性菌及びグラム陰性菌の科、属及び/又は種を、検出し、区別し、そして同定するための方法であって、
a)前記サンプルと、
-蛍光色素に結合された小麦レクチン(WGA)、
-WGAに結合されたものとは異なる波長で蛍光を発する蛍光色素に結合されたバンコマイシン、
とを同時に、又は順次にインキュベートする工程、
b)前記サンプルを遠心分離する工程、
c)前記サンプルの蛍光を、フローサイトメトリーを用いて測定する工程、及び
d)2つの蛍光色素の相対蛍光を分析する工程、
を含む方法。
【請求項12】
工程a)において、前記サンプルが、
-蛍光色素に結合された小麦レクチン(WGA)、
-WGAに結合されたものとは異なる波長で蛍光を発する蛍光色素に結合されたバンコマイシン、
-バンコマイシン及び/又は塩化カリウム、
と同時に、又は順次にインキュベートされることを特徴とする、請求項10又は11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記サンプルを遠心分離する工程と、前記サンプルの蛍光をフローサイトメトリーを用いて測定する工程との間に、更に、前記サンプルを洗浄する工程を含むことを特徴とする、請求項10~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
2つの蛍光色素の相対蛍光を分析する工程の後に、グラム陽性菌及びグラム陰性菌の科、属及び/又は種を区別し、そして同定する工程を更に含む、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
WGAに結合された蛍光色素が、Alexa Fluor(登録商標)647であり、そしてバンコマイシンに結合された蛍光色素が3-BODIPY-プロパン酸であることを特徴とする、請求項
10~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
i.蛍光色素に結合された小麦レクチン(WGA)、
及び
ii.WGAに結合された蛍光色素とは異なる波長で蛍光を発する蛍光色素に結合されたバンコマイシン、
を含む、
フローサイトメトリーでグラム陽性菌を標識するためのキットの使用。
【請求項17】
更に、バンコマイシン及び/又は塩化カリウムを含む、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記蛍光色素が、標識剤AlexaFluor(登録商標)、3-BODIPY-プロパン酸又はその誘導体の1つ、フルオレセイン又はその誘導体、塩又はエステルの1つ、Cy標識剤、CF標識剤、共役蛍光色素の群から選択されることを特徴とする、請求項
16又は17のいずれかに記載の使用。
【請求項19】
WGAに結合された蛍光色素が、AlexaFluor(登録商標)標識剤、フルオレセイン又はその誘導体、塩、エステルの1つから選択されることを特徴とする、請求項
18に記載の使用。
【請求項20】
バンコマイシンに結合された蛍光色素が、3-BODIPY-プロパン酸又はその誘導体の1つ、フルオレセイン又はその誘導体、塩又はエステルの1つ、特にFITCから選択されることを特徴とする、請求項
18に記載の使用。
【請求項21】
WGAに結合された蛍光色素が、Alexa Fluor(登録商標)647であり、そしてバンコマイシンに結合された蛍光色素が3-BODIPY-プロパン酸であることを特徴とする、請求項
18~20のいずれか1項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、サンプル、特に複雑なサンプル中のグラム陽性菌の割合及びグラム陰性菌の割合を検出するための方法に関する。細菌は、そのグラム信号に従って検出される。
【0002】
また、特に複雑なサンプル、例えばヒト又は動物細菌叢サンプルに関して、フローサイトメトリーでグラム陽性菌を標識するためのキットにも関する。
【0003】
特に、本発明は、特に本発明の対象を形成する方法において、蛍光色素に結合されたレクチン-小麦レクチン(小麦胚芽凝集素(WGA))と、WGAに結合された蛍光色素とは異なる波長で蛍光を発する蛍光色素に結合された抗生物質-バンコマイシンとを組合す、フローサイトメトリーで細菌を標識するためのキットの使用に関する。任意には、キットは、蛍光色素に結合されていない(非標識)バンコマイシン、及び/又は塩化カリウムを含むことができる。キットは、特に、2つの異なる蛍光色素の相対的蛍光測定を組合すことにより、グラム陽性菌の蛍光検出のために有用である。それらの相対的蛍光測定は、グラム陽性菌科の互いの区別を可能にする。それらはまた、細菌属の互いの区別を可能にする。それらは又は、グラム陽性菌の種、例えばBacillus subtilis、Lactococcus lactis、Staphylococcus aureus、Enterococcus faecalis及びLactobacillus spp.の互いの区別を可能にする。このリストは網羅的なものではなく、そしてClostridium 及び Faecalibacteriumなどの多数の好気性種と嫌気性種との区別を可能にする。
【背景技術】
【0004】
一般的に「腸内細菌叢」と呼ばれるヒト腸内菌叢は、ヒト胃腸系(胃、腸及び結腸)に存在する微生物(細菌、酵母及び真菌)のグループである。細菌の多様性は、現在、成人個体の主な腸内細菌叢を構成する約103の細菌種と推定されており、そして1014の細菌の量は、各個体の200,000~800,000の遺伝子の細菌メタゲノム、すなわちヒトゲノムにおける遺伝子数の10~50倍に相当する。従って、ヒト腸内細菌叢は、各個人に固有である非常に多様で且つ複雑名生態系である。
【0005】
フローサイトメトリーは、複雑な生態系、例えば腸内細菌叢を研究するための培養ベースの方法に比較して興味深い技法を提供する。最初は、細胞分析のために企画されていたが、フローサイトメトリーは、微生物集団を特徴づけ、そして計数するために採用されていた。特に、それは、微生物の特性評価、例えば抗生物質感受性の決定[Saint-Ruf, C., et al., Antibiotic Susceptibility Testing of the Gram-Negative Bacteria Based on Flow Cytometry. Frontiers in Microbiology, 2016. 7 及びPereira, P.M., et al., Fluorescence ratio imaging microscopy shows decreased access of vancomycin to cell wall synthetic sites in vancomycin-resistant Staphylococcus aureus. Antimicrob Agents Chemother, 2007. 51(10): p. 3627-33]、バイオフィルム形成中の分化の分析、集団又はさらに分化するグラム陽性菌及びグラム陰性菌の生存率の評価のために使用される。フローサイトメトリーにおいては、グラム陽性菌とグラム陰性菌との間の区別は、外膜の有無のみに基く従来のグラム染色技法とは異なる。サイトメトリーでは、識別は、細菌の表面で多かれ少なかれ発現されるか、又は多かれ少なかれアクセス可能である構造の存在を用いて実施され得る。従って、この標的化は、時々、細菌集団のより正確な識別の観察を可能にする。
【0006】
複雑なサンプルに存在する微生物集団のグラム状態の決定は、例えばゲンチアナバイオレット及びサフラニン又はフクシンを用いての染色により行われ得る。細菌懸濁液を、染色を行う前、スライドに固定するべきである、これにより、異なる染色、定着液、脱色剤、及び洗浄及び乾燥工程を交互に行うことができる。従って、それらの技法は、時間がかかり、そして得られる結果は、変動する可能性がある。実際、使用される脱色剤(しばしば、アセトン及びエタノール)、及び暴露時間に依存して、識別結果が異なる可能性があり、そして分析されるサンプルのグラム状態の誤った解釈につながる可能性がある。結果の再現性を確保するために、グラム状態の識別のための新規技法が開発されて来た。これは、顕微鏡分析、又はますますフローサイトメトリー分析を行うために蛍光標識剤の使用につながる。
【0007】
国際公開第02/057482号は、DNAマーカーと組合わされた蛍光色素Oregon green(登録商標)により標識されたレクチンWGAの使用を記載している。この組合せは、異なる細菌又は乳サンプルの純粋な培養混合物中のグラム陽性菌及びグラム陰性菌の割合の決定を可能にする。別の蛍光色素であるフルオレセインイソチオシアネートに結合されたレクチンWGAはまた、好酸性細菌及び古細菌を分析するためにも使用されて来た[FIFE, D.J., et al., Evaluation of a Fluorescent Lectin-Based Staining Technique for Some Acidophilic Mining Bacteria. Appl Environ Microbiol, 2000. 66(5): p. 2208-2210]。
【0008】
WGAを用いる欠点の1つは、グラム陽性菌に存在するが、必ずしもそれらの細菌に対して特異的ではない特定の構造にそれ自体を固定するその能力である。WGAを通して認識される構造のいくつかはまた、グラム陰性菌にも見出され得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の方法及びキットは、分析されるサンプルの生存率に関係なく、及び細菌が好気性であるか、嫌気性であるかに関係なく、グラム陽性菌とグラム陰性菌とのより正確な区別を可能にできるよう開発されて来た。この方法は、複雑なサンプル、例えば細菌叢サンプルに適用され得る。それらはまた、細菌培養の(複雑でない)サンプルにも適用され得る。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、細菌を含むサンプル中のグラム陽性菌の割合及びグラム陰性菌の割合を検出するための方法に関し、前記方法は、下記工程:
a)前記サンプルと、
-蛍光色素に結合された小麦レクチン(小麦胚芽凝集素(WGA))、
-WGAに結合されたものとは異なる波長で蛍光を発する蛍光色素に結合されたバンコマイシン、
-任意には、蛍光色素(非標識)に結合されていないバンコマイシン、
-任意には、塩化カリウム、
とを同時に、又は順次にインキュベートする工程、
b)前記サンプルを遠心分離する工程、
c)任意には、前記サンプルを洗浄する工程、及び
d)前記サンプルの蛍光を、フローサイトメトリーを用いて測定する工程、
を含む。
【0011】
本発明の実施形態によれば、WGAに結合された蛍光色素は、Alexa Fluor(登録商標) 647であり、そしてバンコマイシンに結合された蛍光色素は3-BODIPY-プロパン酸である。
【0012】
本発明の実施形態によれば、前記測定工程は、工程c)の終了後、40分未満、好ましくは30分未満で実施される。
【0013】
本発明の実施形態によれば、前記測定工程d)は、フローサイトメトリーにより実施される。
【0014】
本発明の実施形態によれば、工程a)において、分析されるべきサンプル中の蛍光色素に結合された小麦レクチン(小麦胚芽凝集素(WGA))の濃度は、5~100μg/ml、好ましくは20μg/mlであり、そして/又は分析されるべきサンプル中の蛍光色素に結合されたバンコマイシンの濃度は、0.15~4μg/ml、好ましくは2μg/mlである。
【0015】
本発明の実施形態によれば、工程a)におけるインキュベーション時間は、10~30分、好ましくは15分である。
【0016】
本発明の実施形態によれば、前記サンプルは、ヒト又は動物微生物叢のサンプルである。
【0017】
本発明の実施形態によれば、前記サンプルは、細菌培養物である。
【0018】
本発明はまた、細菌サンプル中のグラム陽性菌及びグラム陰性菌の科、属及び/又は種を検出し、任意には区別し、そして同定するための方法にも関し、前記方法は下記工程:
a)前記サンプルと、
-蛍光色素に結合された小麦レクチン(小麦胚芽凝集素(WGA))、
-WGAに結合されたものとは異なる波長で蛍光を発する蛍光色素に結合されたバンコマイシン、
-任意には、バンコマイシン、
-任意には、塩化カリウム、
とを同時に、又は順次にインキュベートする工程、
b)前記サンプルを遠心分離する工程、
c)任意には、前記サンプルを洗浄する工程、
d)前記サンプルの蛍光を、フローサイトメトリーを用いて測定する工程、
e)2つの蛍光色素の相対蛍光を分析する工程、及び
f)任意には、グラム陽性菌及びグラム陰性菌の科、属及び/又は区別し、そして同定する工程、を含む。
【0019】
本発明の実施形態によれば、WGAに結合された蛍光色素は、Alexa Fluor(登録商標) 647であり、そしてバンコマイシンに結合された蛍光色素は3-BODIPY-プロパン酸である。
【0020】
本発明は、上記方法においてグラム陽性菌を標識するためのキットの使用にも関する。従って、本発明は、フローサイトメトリーにおいて、グラム陽性菌を標識するためのキットの使用に関し、ここで前記キットは、
i.蛍光色素に結合された小麦レクチン(小麦胚芽凝集素(WGA))、
ii.WGAに結合された蛍光色素とは異なる波長で蛍光を発する蛍光色素に結合されたバンコマイシン、
iii.任意には、バンコマイシン、及び
iv.任意には、塩化カリウム、を含む。
【0021】
本発明の実施形態によれば、前記蛍光色素は、標識剤AlexaFluor(登録商標)、3-BODIPY-プロパン酸又はその誘導体の1つ、フルオレセイン又はその誘導体、塩又はエステルの1つ、Cy標識剤、CF標識剤、共役蛍光色素の群から選択される。
【0022】
本発明の実施形態によれば、WGAに結合された蛍光色素は、AlexaFluor(登録商標)標識剤、フルオレセイン又はその誘導体、塩、エステルの1つから選択される。
【0023】
本発明の実施形態によれば、バンコマイシンに結合された蛍光色素は、3-BODIPY-プロパン酸又はその誘導体の1つ、フルオレセイン又はその誘導体、塩又はエステルの1つ、特にFITCから選択される。
【0024】
本発明の実施形態によれば、WGAに結合された蛍光色素は、Alexa Fluor(登録商標) 647であり、そしてバンコマイシンに結合された蛍光色素は3-BODIPY-プロパン酸である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、実施例1のフローサイトメトリーの結果を示す。X軸は、540nm±15nmの波長での蛍光強度を示し、これはBODIPY(登録商標)FLに結合されたバンコマイシンの蛍光に対応する。Y軸は670nm±15nmの波長での蛍光強度を示し、これは、Alexa Flour(登録高評)647に結合されたWGAの蛍光に対応する。
【0026】
【
図2】
図2は、実施例2のフローサイトメトリーの結果を示す。X軸は、540nm±15nmの波長での蛍光強度を示し、これはBODIPY(登録商標)FLに結合されたバンコマイシンの蛍光に対応する。Y軸は670nm±15nmの波長での蛍光強度を示し、これは、Alexa Flour(登録高評)647に結合されたWGAの蛍光に対応する。
【0027】
【
図3a】
図3a及び3bは、実施例3に記載される実験の結果を示す。
図3aは、540nm±15nmの波長で、試験された種々の種について得られた蛍光の幾何平均を示し、
図3bにおけるグラフは、670nm±15nmの波長で、試験された種々の種について得られた蛍光の幾何平均を示し、れは、Alexa Flour(登録高評)647に結合されたWGAの蛍光に対応する。
【0028】
【
図3b】
図3a及び3bは、実施例3に記載される実験の結果を示す。
図3aは、540nm±15nmの波長で、試験された種々の種について得られた蛍光の幾何平均を示し、
図3bにおけるグラフは、670nm±15nmの波長で、試験された種々の種について得られた蛍光の幾何平均を示し、れは、Alexa Flour(登録高評)647に結合されたWGAの蛍光に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
グラム陽性菌をより正確に決定するための手段を模索している間、本発明者らは、異なる波長で蛍光を発する蛍光色素に結合された、レクチン、WGA及び抗生物質、バンコマイシンの組合せに基くキット及び方法を開発した。この組合せは、フローサイトメトリーを用いて、複雑なサンプル、例えば微生物叢におけるグラム陽性菌の割合及びグラム陰性菌の割合の分析を可能にする。
【0030】
「グラム陽性菌」とは、グラム染色(ゲンチアナバイオレット)により強調される細菌を意味する。「グラム陰性菌」とは、グラム染色により強調されない細菌を意味する。
【0031】
大きなバンコマイシン(1,500~2,000ダルトン)は、末端D-Ala-D-Ala鎖に固定することにより、細菌のペプチドグリカンの合成を阻害する糖ペプチドである。それらの構造はまた、グラム陰性菌にも見出されるが、外膜の存在のためにバンコマイシンには、アクセスできない。さらに、バンコマイシンは、大き過ぎて、グラム陰性菌の外膜の細孔を通過できない。他方では、バンコマイシンは、このD-Ala-D-Ala鎖を有さない耐性細菌には固定されず、そして従って、それらを標識しない。
【0032】
WGAは、バンコマイシンとは異なり、グラム陽性菌に対して特異的ではない。それは、グラム陽性菌に多かれ少なかれ存在する構造体、すなわちシアル酸及びN-アセチル-D-グルコサミンの認識のために、それらの細菌を優先的に且つ差別的に固定する。Streptococcus agalactiaeは、Streptococcus B (SGB)という名称で一般的に知られており、その壁に多量のシアル酸を有し、WGAによる有意な標識につながる。
【0033】
WGA及びバンコマイシンの添加は、バンコマイシンに対して耐性になる可能性があり、そして従って、抗生物質のみでは同定されないグラム陽性菌の識別の強化を可能にする。従って、それらの2つの標識剤(最初の蛍光色素に結合されたバンコマイシン及び第2の蛍光色素に結合されたWGA)の組合せは、グラム陽性及びグラム陰性集団を区別するのみならず、またサンプルに存在するグラム陽性菌種の蛍光サイン信号を生成できるようにするための興味ある組合せを表す。この情報は、複雑な細菌集団、例えば微生物叢サンプル、特にヒト及び動物サンプルに典型的なそれらの集団の特徴づけを可能にする。
【0034】
蛍光色素の例は、以下を含むが、但しそれらだけには限定されない:AlexaFluor(登録商標)標識剤、BODIPY(登録商標)、フルオレセイン又はその誘導体、塩又はエステルの1つ、標識剤OregonGreen(登録商標)488及びOregonGreen(登録商標)514、標識剤RhodamineGreen及びRhodamineGreen-X、エオシン、テトラメチルローダミン、標識剤リサミンローダミンB及びローダミンRed-X、X-ローダミン、標識剤Texas Red(登録商標)及びTexas Red(登録商標)-X、ナフトフルオレセイン又はその誘導体、塩又はエステルの1つ、カルボキシロダミン6G、QSY標識剤:蛍光不活性化剤、非蛍光マラカイトグリーン、クマリン誘導体、標識剤Pacific Orange, Cascade Blue及びその他のピレン誘導体、Cascade Yellow及び他のピリジルオキサゾール誘導体、ナフタレン(例えば、ダンシルクロリド)、標識剤ダポキシル、ビマン、1-ジメチルアミン-N(2-アジドエチル)ナフタレン-5-スルホンアミド、6-(6-アミノ-2-(2-アジドエチル)1,3-ジオキソ-1H-ベンゾ(デ)- 2(3H)イソキノリン、6-(6-アミノ-2-(2-プロピニル)1,3-ジオキソ-1H-ベンゾ(デ)-2(3H)イソキノリン、8-(4-アジドエチルオキシフェニル)-2,6-ジエチル-1,3,5,7-テトラメチル-4,4-ジフルオロ-4-ボラ-3a、4a-ジアザ-s-インダセン、8-(4-プロピニルオキシフェニル)-2,6-ジエチル-1,3,5,7-テトラメチル -4,4-ジフルオロ-4-ボラ-3a、4a-ジアザ-s-インダセン、1-(3-アジド-プロポキシ)-7-メチルアミノ-フェノキサジン-3-オン、1-(2-プロピニル)-7-メチルアミノ-フェノキサジン-3-オン、N-(5-(3-アジドプロピルアミノ)-9H -ベンゾ(a)-フェノキサジン-9-イリデン)-N-メチル-塩化メタナミニウム、N-(5-(3-プロピニル-アミノ)-9H-ベンゾ(a)-フェノキサジン-9-イリデン)-N-メチル -塩化メタナミニウム、(9-(3-アジド-プロポキシ)-7-ピペリジン-1-イル-フェノキサジン-3-イリデン)-ジメチル-過塩素酸アンモニウム。また以下についても言及され得る:4-メチルウンベリフェロンの誘導体、1-(2-ベンゾイルフェニル)-6-クロロ-1H-インドール-3-イル-ベータ-グルコピラノシド; 1-(2-ベンゾイルフェニル)-6-クロロ-1H-インドール-3-イル-β-ガラクトピラノシド; 1-(2-ベンゾイルフェニル)-6-クロロ-1H-インドール-3-イル-アセテート; 1-(2-ベンゾイルフェニル)-6-クロロ-1H-インドール-3-イル-ホスフェート、8-ヒドロキシピレン-1,3,6-トリスルホン酸(HPTS)、シアニン化合物又はその誘導体の1つ。また、Kele et al. (2009) Org. Biomol. Chem. 7:3486-3490; Nagy et al. (2010) Chem. Asian J. 5:773-777; Filnov et al. (2011) Nat. Biotechnol. 29:757-761; Subach et al. (2011) Nature Methods 8:771-777; Yang et al. (2011) J. Am. Chem. Soc. 133:9964-9967; Zin (2011) Nature Methods 8:726-728; 及び “Fluorophores and their amine-reactive derivatives”, Chapter 1も参照のこと。
【0035】
以下の表及び化学式の蛍光色素は、本発明での使用に好ましい蛍光色素として言及され得る:
結合された蛍光色素:
【表1-1】
【表1-2】
【0036】
Alexa Fluor(登録商標)標識剤:
【表2】
【0037】
いくつかのAlexa Fluor(登録商標)標識剤の構造が以下に示される。
【化1】
【0038】
【0039】
Cy標識剤:
例えば、以下のウェブサイトを参照のこと:
https://biotium.com/product/wheat-germ-agglutinin-wga-cf-dye-conjugates/
【表4】
【0040】
本発明の実施形態によれば、WGAに結合された蛍光色素は、サプライヤーBiotium (CA, United States)からのCF(登録商標)標識剤から選択される(上記の「CF標識剤」の表を参照のこと)。
【0041】
本発明の実施形態によれば、WGAに結合された蛍光色素は、サプライヤーInvitrogen/Molecular Probes (Carlsbad, CA, United States)からの標識剤、例えばテトラメチルローダミン、Texas Red-X、Qdot 655、Oregon Green 488から選択される。
【0042】
本発明の実施形態によれば、WGAに結合された蛍光色素は、フルオレセイン、特にその商品名、FITCにより、当業者に良く知られているフルオレセイン5-イソチオシアネート(CAS番号3326-32-7)から選択される。MP Biomedicals (Santa Ana, CA, United States)は、サプライヤーの例として言及され得る。
【0043】
本発明の実施形態によれば、WGAに結合された蛍光色素は、Alexa Fluor(登録商標) 647 (CAS Number 400051-23-2)である。それは、いくつかのサプライヤーから、市場で容易に入手できる。Invitrogen/Molecular Probes (Carlsbad, CA, United States)は、サプライヤーの例として言及され得る。
【0044】
Alexa Fluor(登録商標) 647の化学構造は、以下である:
【化2】
【0045】
本発明の実施形態によれば、バンコマイシンに結合された蛍光色素は、3-BODIPY-プロパン酸又はその誘導体、塩又はエステルの1つ、フルオレセイン又はその誘導体、塩又はエステルの1つ、特にその商品名、FITCにより当業者に良く知られているフルオレセイン5-イソチオシアネート(CAS番号3326-32-7)から選択される。Invitrogen/Molecular Probes (Carlsbad, CA, United States)は、サプライヤーの例として言及され得る。
【0046】
本発明の実施形態によれば、バンコマイシンに結合された蛍光色素は、その商品名BODIPY FL(登録商標)により、当業者により知られている3-BODIPY-プロパン酸 (CAS Number 165500-63-3)、又はその誘導体、塩又はエステルの1つから選択される。イソチオシアネートエステル、スクシンイミジル及びスルホン化スクシンイミジルがエステルとして言及され得る。名称BODIPYは、ホウ素ジピロメテンに対応する。BODIPYコアについてのIUPAC名は、4,4-ジフルオロ-4-ボラ-3a、4a-ジアザ-s-インダゼンである。
【0047】
本発明の実施形態によれば、3-BODIPY-プロパン酸 (BODIPY FL(登録商標))は、バンコマイシンに結合されるための特に好ましい蛍光色素である。BODIPY(登録商標)FLは、市販されている。Invitrogen/Molecular Probes (Carlsbad, CA, United States)は、サプライヤーの例として言及され得る。
【0048】
BODIPY(登録商標)FLの化学構造は、以下に示される:
【化3】
【0049】
本発明の実施形態によれば、WGAは蛍光色素Alexa Fluor(登録商標)647に結合され、そしてバンコマイシンは、BODIPY FL(登録商標)に結合される。
【0050】
WGAは市販されている。例えば、Sigma Aldrich (Saint-Louis, MO, United States) 及び MP Biomedicals (Santa Ana, CA, United States)が言及され得る。WGAは通常、水又は別の適切な液体、好ましくは水溶液により再構成される準備ができている凍結乾燥物の形で供給される。WGAと蛍光色彩との結合は、当業者に知られている方法に従って実施される。特定数のWGA-蛍光色素、例えばAlexa Fluor(登録商標) WGA-蛍光色素は、市販されている。例えば、以下のサプライヤーが言及され得る:Invitrogen/Molecular Probes (Carlsbad, CA, United States), Sigma Aldrich (Saint-Louis, MO, United States) 及び Biotium (CA, United States)。
【0051】
バンコマイシンは市販されており、例えばSigma Aldrich (Saint-Louis, MO, United States)及びMerck Millipore (Burlington, MA, United States)がサプライヤーとして挙げられる。バンコマイシンは、水又は適切な水溶液により再構成される準備ができている粉末の形で供給され得る。それはまた、溶液としても供給され得る。バンコマイシンと蛍光色素との結合は、当業者に知られている方法に従って実施される。一定数のバンコマイシン-蛍光色素が市販されている。例えば、Invitrogen/Molecular Probes (Carlsbad, CA, United States)がサプライヤーとして挙げられる。
【0052】
本発明者らは、0.3M~3Mの濃度での塩化カリウム(KCl)の添加が、特定のグラム陽性菌、例えばEnterococcus faecalis 及び Lactococcus lactisのためのWGA標識の改善、及びグラム陰性菌の標識を増強しないで、他のグラム陽性菌、例えばBacillus subtilisのためのWGA及びバンコマイシン標識の増強を可能にすることを観察した。従って本発明の実施形態によれば、分析されるサンプルの細菌の標識は、0.3M~3M、好ましくは1Mの最終濃度でのKClとのインキュベーション工程を含む。好ましくは、KClとのインキュベーションは、標識剤、蛍光色素に結合されたWGA及び蛍光色素に結合されたバンコマイシンとのインキュベーションと同時に起こる。
【0053】
本発明者らは、蛍光色素に結合されていないバンコマイシン(非標識バンコマイシン)の添加が、特定の菌株、例えばE. faecalisのための標識を改善することを確認した。例えば、BODIPY(登録商標)FLバンコマイシンがB. subtilisに容易に固定せず、そしてBODIPY(登録商標)FLバンコマイシンと同様に非標識バンコマイシンの添加がこの標識を改善できることが知られている。
【0054】
従って、本発明の実施形態によれば、分析されるサンプル中の細菌の標識は、非標識バンコマイシン及び蛍光色素に結合されたバンコマイシンの混合物を用いて実施され得る。非標識バンコマイシンと、蛍光色素に結合されたバンコマイシンとの間の比率は、0.3~2.4、好ましくは0.75~1.25、好ましくは1であり得る。
【0055】
従って、本発明者らは、細菌を含むサンプル中のグラム陽性菌の割合及びグラム陰性菌の割合を検出するためのキットを開発した。一般的に、キットは、フローサイトメトリー法で実装される。
【0056】
一般的に、グラム陽性菌を標識するためのキットは、以下を含む:
i.蛍光色素に結合された小麦レクチン((小麦胚芽凝集素WGA))、
ii.WGAに結合された蛍光色素とは異なる波長で蛍光を発する蛍光色素に結合されたバンコマイシン、
iii.任意には、非標識バンコマイシン、及び
iv.任意には、塩化カリウム(KCl)。
【0057】
本発明の実施形態によれば、グラム陽性菌を標識するためのキットは、以下を含む:
i.蛍光色素に結合された小麦レクチン((小麦胚芽凝集素WGA))の凍結乾燥物又は溶液、
ii.WGAに結合された蛍光色素とは異なる波長で蛍光を発する蛍光色素に結合されたバンコマイシンの粉末又は溶液、
iii.任意には、粉末又は溶液の形での非標識バンコマイシン、及び
iv.任意には、粉末又は溶液の形での塩化カリウム。
【0058】
本発明の実施形態によれば、グラム陽性菌を標識するためのキットは、以下を含む:
i.Alexa Fluor(登録商標) 647 (CAS番号 400051-23-2)に結合された小麦レクチン(小麦胚芽凝集素(WGA))の凍結乾燥物又は溶液、
ii.その商品名BODIPY(登録商標)FLにより当業者により知られている3-BODIPY-プロパン酸(CAS番号165500-63-3)に結合されたバンコマイシンの粉末又は溶液、
iii.任意には、バンコマイシン(非標識)、
iv.任意には、塩化カリウム(KCl)。
【0059】
本発明の実施形態によれば、キットにおいて、BODIPY(登録商標)FLに結合されたバンコマイシンの溶液は、0.2~4μg/mlの濃度を有する。
【0060】
本発明の実施形態によれば、キットにおいて、Alexa Fluor(登録商標) 647 (CAS番号 165500-63-3)に結合された小麦レクチン(小麦胚芽凝集素(WGA))の溶液は、5~100μg/mlの濃度を有する。
【0061】
本発明はまた、細菌を含むサンプル中のグラム陽性菌の割合、及びグラム陰性菌の割合を検出するための方法にも関する。上記キットは、本発明の方法を実施するよう企画される。一般的に、前記方法は、以下の工程を含む:
a)細菌を含むサンプルと、
-蛍光色素に結合された小麦レクチン(小麦胚芽凝集素(WGA))、
-WGAに結合されたものとは異なる波長で蛍光を発する蛍光色素に結合されたバンコマイシン、
-任意には、バンコマイシン、
-任意には、塩化カリウム、
とを同時に、又は順次にインキュベートする工程、
b)前記サンプルを遠心分離する工程、
c)任意には、前記サンプルを洗浄する工程、及び
d)前記サンプルの蛍光を測定する工程。
【0062】
典型的には、工程d)は、選択された蛍光色素に従って適切な波長でフローサイトメトリーにより実行される。一般的に、工程d)は、工程c)の終了後、40分未満、好ましくは30分未満で実施される。
【0063】
本発明の実施形態によれば、この方法は、標識の前又は後に行うことができる固定工程を含むことができる。本発明の実施形態によれば、その固定工程は、工程c)と工程d)との間で行うことができる。この固定工程は、サンプルが暗所で約4℃で維持されている場合、光の分散及びサンプルの標識を、最大約1週間、安定させる。
【0064】
例えば、サンプルは、例えば1%(v/v)の濃度で、例えば周囲温度で、約30分~1.5時間の期間、パラホルムアルデヒド(PFA)と共にインキュベートされ得る。当業者は、この固定工程の条件を適応させる方法を知っている。固定工程が行われる場合、一般的に、PFA残留物を除去するために、3,200g~15,000gの少なくとも1回、好ましくは2回の遠心分離が5~20分間、続く。従って、固定工程は、終了(工程c))と工程d)との間の期間の延長を可能にし、そして取扱い時間の計画において柔軟であることを可能にする。
【0065】
本発明の実施形態によれば、固定工程はまた、工程a)の前に行われ得る。この場合、標識(工程a))の実施の前、分析される細胞の状態を「修正」することができる。これは、細胞状態の大幅な修飾を行わないで、標識の前の時間の延長を可能にする。
【0066】
本発明の実施形態によれば、工程a)の細胞のサンプルは、104~109個の細胞/ml、好ましくは105~107個の細胞/mlの濃度を有する。蛍光色素に結合されたWGA、蛍光色素に結合されたバンコマイシン、任意には、非標識バンコマイシン及び任意には、KClが、細胞サンプルに、次に、又は同時に添加され得る。好ましくは、それらは同時に添加される。典型的には、標識溶液は、任意には、非標識バンコマイシン及びKClを含む全ての標識剤を用いて調製される。
【0067】
本発明の実施形態によれば、サンプル中の蛍光色素に結合されたWGAの最終濃度は、試験されるサンプルにおいて、5~100μg/ml、好ましくは10~30μg・ml、より好ましくは20μg/mlである。
【0068】
本発明の実施形態によれば、サンプル中の蛍光色素に結合されたバンコマイシンの最終濃度は、試験されるサンプルにおいて、0.15~4μg/ml、好ましくは2μg/mlである。
【0069】
本発明の実施形態によれば、非標識バンコマイシンは、インキュベーション工程a)の間に組込まれる。この場合、非標識バンコマイシン及び蛍光色素に結合されたバンコマイシンが、0.25~2.25の比率で、好ましくは1の比率で存在することができる。本発明の実施形態によれば、非標識バンコマイシン及び蛍光色素に結合されたバンコマイシンは、試験されるサンプルにおいて、0.15~4μg/mlの濃度で存在することができる。本発明の実施形態によれば、非標識バンコマイシン及び蛍光色素に結合されたバンコマイシンは、試験されるサンプルにおいて、2μg/mlの濃度で存在することができる。
【0070】
一般的に、インキュベーションは、当業者に知られている標準条件下で行われる。例えば、サンプルは、暗室において、標識剤と共に、周囲温度で10~30分、好ましくは15分間インキュベートされる。インキュベーション時間は、インキュベーション温度が低い場合、より長く、そしてインキュベーション温度が高い場合、より短いことを、当業者は知っている。
【0071】
遠心分離工程b)は、当業者に知られている通常の条件下で行われる。本発明の実施形態によれば、遠心分離工程b)は、3,200g~15,000gで5~20分間、実施される。
【0072】
本発明の実施形態によれば、洗浄工程c)は、従来、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)と呼ばれる緩衝食塩水、又は約0.9%での塩化ナトリウム溶液により実施される。
【0073】
本発明の実施形態によれば、サンプル中の蛍光の測定工程d)は、フローサイトメトリーにより実施される。)BD Biosciences (New Jersey, United States)からの流入サイトメーター及びBD Biosciences (New Jersey, United States)からのBD Accuri(登録商標)C6 サイトメーターが、そのような装置のサプライヤーとして言及される。
【0074】
典型的には、サイトメーターは、488nmのレーザー(200mWの出力)、405nmのレーザー(100mWの出力)及び640nmのレーザー(120mWの出力)を装備されている。488nmの波長のレーザーが、バンコマイシンを励起するために使用され、そしてその蛍光は、540/30nm(540±15nm)の通過帯域を通して収集される。WGAは640nmのレーザーにより励起され、その蛍光は、670/30nm(670±15nm)の通過帯域を通して収集される。サンプルが通過する前、装置は、高品質の結果を確保するためにキャリブレーションされ得る。典型的には、サンプルスループットは、毎秒500イベント~毎秒5,000イベントの範囲である。約40,000~60,000のイベントの記録が可能である。当業者は、イベントの数が使用されるサイトメーターに応じて変化し得ることを知っている。本発明の実施形態によれば、標識された細菌の濃度は、約105~107、好ましくは約106CFU/mlである。
【0075】
実施例1及び2、及び
図1及び2は、KClを添加しないで(実施例1)及び1MのKClを添加して(実施例2)、BODIPY(登録商標)FLに結合されたバンコマイシン、及びAlexa Fluor(登録商標)に結合されたWGAを使用する本発明の2つの実施形態の有効性を示す。KClの添加は、Bacillus subtilisの標識の改善を可能にする。両方の実施例においては、グラム陰性菌は、標識されておらず、そしてグラム陽性菌は十分に標識されている。
【0076】
2つの蛍光色素の相対的蛍光を分析することにより、本発明者らは、異なる科、属及び/又は種の細菌がそれらは自体の特定のサインを有することを見出した。従って、本発明の別の主題は、細菌を含むサンプル中のグラム陽性菌の特定の科、属及び/又は種を検出し、そして任意には、区別し、そして同定するための方法である。
【0077】
この方法は、上記工程だけでなく、2つの蛍光色素の相対的蛍光を分析する工程e)も含む。典型的には、前記方法は、以下の工程を含む:
a)前記サンプルと、
-蛍光色素に結合された小麦レクチン(小麦胚芽凝集素(WGA))、
-WGAに結合されたものとは異なる波長で蛍光を発する蛍光色素に結合されたバンコマイシン、
-任意には、バンコマイシン、
-任意には、塩化カリウム、
とを同時に、又は順次にインキュベートする工程、
b)前記サンプルを遠心分離する工程、
c)任意には、前記サンプルを洗浄する工程、
d)前記サンプルの蛍光を、フローサイトメトリーを用いて測定する工程、
e)2つの蛍光色素の相対蛍光を分析する工程、及び
f)任意には、グラム陽性菌及びグラム陰性菌の科、属及び/又は区別し、そして同定する工程。
【0078】
本発明の実施形態によれば、工程f)において、グラム陽性菌及びグラム陰性菌の科、属及び/又は種が区別され、そして同定される。本発明の実施形態によれば、例えば適切なパラホルムアルデヒド溶液を用いての任意の固定工程は、工程c)と工程d)との間、又は工程a)の前に起こっていることができる。
【0079】
分析工程e)は、適切なソフトウェア、例えばFlowJo(copyright)(lowJo LLC, Ashland, Oregon, United States)により実施され得る。
【0080】
2つの蛍光色素の相対的蛍光の分析は、属を互いに、種を互いに及びさらに菌株を互いに区別することを可能にする。これは、分析されたサンプルの生存率に関係なく、及びまた、細菌が好気性であるか、又は嫌気性であるかに関係なく可能である。
【0081】
本発明の実施形態によれば、得られた蛍光サインは、サンプルに存在する科、属及び/又は種の区別のみならず、また同定も可能にする。これはサンプルから得られたサインと、種の参照のサインとを比較することにより可能になる。
【0082】
本発明の実施形態によれば、2つの蛍光色素の相対的蛍光の分析は、グラム陽性菌の科の互いの区別を可能にする。なぜならば、これは、各科が独自の蛍光サインを有するためである。
【0083】
例えば、以下の科を互いに区別することが可能である:Bacillaceae、 Enterococcaceae、Lactobacillaceae、Streptococcaceae、Bifidobacteriaceae、Ruminococcaceae、Clostridiaceae、Lachnospiraceae。このリストは、網羅的ではない。
【0084】
本発明の実施形態によれば、2つの蛍光色素の相対的蛍光の分析は、グラム陽性菌の属の互いの区別を可能にする。なぜならば、これは、各属が独自の蛍光サインを有するためである。
【0085】
例えば、以下の属を互いに区別することが可能である:Bacillus、Lactococcus、Staphylococcus、Bifidobacterium、Enterococcus、Lactobacillus、Clostridium、Blautia、Roseburia、Eubacterium、Anaerostipes及び Faecalibacterium。
【0086】
本発明は、嫌気性グラム陽性菌と、嫌気性グラム陰性菌との区別を可能にする。また、好気性グラム陽性菌と、好気性グラム陰性菌との区別を可能にする。嫌気性細菌の例として、以下が言及される:
-Akkermansia muciniphila
-Faecalibacterium prausnitzii
-Clostridium scindens
-Bacteroides thetaiotaomicron
-及びClostridialesに属するそれら。
【0087】
本発明の実施形態によれば、2つの蛍光色素の相対的蛍光の分析は、グラム陽性菌の種の互いの区別を可能にする。なぜならば、これは、各種が独自の蛍光サインを有するためである。例えば、以下の種が、互いに区別され得る種として言及され得る:Salmonella enterica、 Salmonella bongori、 Bacillus subtilis、 Bacillus cereus、 Bacillus thuringiensis、 Lactococcus lactis、 Lactococcus plantarum、 Escherichia coli、 Staphylococcus aureus、 Staphylococcus epidermidis、 Enterococcus faecalis、 Enterococcus hirae、 Enterococcus durans、 Enterococcus casseliflavus、 Enterococcus gallinarum、 Klebsiella pneumoniae、 Lactobacillus crispatus、 Lactobacillus reuteri、 Lactobacillus gasseri及びLactobacillus brevis、 Faecalibacterium prausnitzii、 Akkermansia muciniphila、 Clostridium spiroforme、 Clostridium innocuum、 Clostridium scindens、 Flavonifractor plautii、 Bacteroides thetaiotaomicron、 Bacteroides fragilis、 Blautia hansenii 及びBlautia schinkii。このリストは網羅的ではない。
【0088】
実施例3は、実施形態による方法を実施することにより、BODIPY(登録商標)FLに結合されたバンコマイシン、及びAlexa Fluor(登録商標)647に結合されたWGAの2つの標識剤の相対的蛍光を分析することにより、少なくとも6つの異なる種を区別することがどのように可能であるかを示している。得られたサインと、参照サインとを比較することにより、種の同定を可能にする。
【0089】
図3a及び3bは、実施例3に記載される実験の結果を示し、ここで、標識剤(BODIPY(登録商標)FLに結合されたバンコマイシン、及びAlexa Fluor(登録商標)647に結合されたWGA)の相対的蛍光が測定される。
図3aにおけるグラフは、540±15nmの波長で、試験された異なる種について得られた蛍光の幾何平均を示し、これは、BODIPY(登録商標)FLに結合されたバンコマイシンの蛍光に対応する。同じ種のメンバーが一緒にグループ化されていることがわかり、そしてその分析は以下の異なる種の区別を可能にすることに注意すること:Salmonella enterica、Bacillus subtilis、Escherichia coli、Staphylococcus aureus 及び Enterococcus faecalis。各種は、グラフの異なる領域を占める。
【0090】
図3bにおけるグラフは、670±15nmの波長で、試験された異なる種について得られた蛍光の幾何平均を示し、これはAlexa Fluor(登録商標)647に結合されたWGAの蛍光に対応する。同じ種のメンバーは、メンバーがより分散しているE. faecalis種を除いて、一緒にグループ化されていることに注意すること。従って、2つの標識剤による分析は、グラム陽性菌、例えばBacillus subtilis、Staphylococcus aureus、Enterococcus faecalis及びLactobacillus sppの区別を可能にする。
【0091】
本発明の実施形態によれば、2つの蛍光色素の相対的蛍光は、インビトロ微生物叢培養におけるグラム陽性菌とグラム陰性菌の比率の決定を可能にする。
【0092】
バックゲーティングは、2つの選択された蛍光色素の相対的蛍光の分析で強調された集団に対して実施され得る。「バックゲーティング(Backgating)」は、標識サイン(及び使用される「ゲーティング」法)の確認を可能にする、当業者に知られている、フローサイトメトリーに使用される技術である。本発明の実施形態によれば、BODIPY(登録商標)FLに結合されたバンコマイシンの蛍光に対応する、例えば540nm±15nmの波長での蛍光の強度、及びAlexa Fluor(登録商標)647に結合されたWGAの蛍光に対応する、670nm±15nmの波長での蛍光の強度をグラフ上に同定された集団から、バックゲーティングは、集団の1つの選択、及びそのFSC/SSCプロファイルへの戻りを含む。従って、請求された方法は、特定の集団の潜在的同定を可能にする。培養物に存在する科、属及び/又は種のレベルでの種々の集団の強調、及びそれらの多様性、並びにグラム陰性菌及びグラム陽性菌の割合の推定を可能にする。
【0093】
本発明の実施形態によれば、請求された方法は、サイトメトリーにおけるグラム標識の結果と、16S分析の結果とを相関させるために使用され得る。
【0094】
この分析の有効性は、微生物叢サンプルなどの複雑なサンプルの分析に非常に役立つ。従って、本発明は、医学的用途、又は特にメタゲノミクスにおける研究ツールとしての用途を有することができる複雑なサンプルを特徴づけることを可能にする。したがって、分析の信頼性、再現性、精度、及び感度の重要性が最も重要である。
【0095】
本発明はまた、以下の実施例を参照して説明される。特許請求される本発明は、これらの実施例によって決して限定されることを意図するものではないことが理解されるであろう。
【実施例】
【0096】
実施例1:
試験された異なる種を、Luria Bertani (LB) 又はBrain Heart Infusion (BHI)培地において、それらの種々の菌株の要件に従って、180rpmでの攪拌を伴って、又は攪拌しないで、37±1℃又は30±1℃で一晩、培養した。異なる細菌懸濁液を、約106CFU/mlに調整した。標識剤を、BODIPY(登録商標)FLに結合されたバンコマイシン、バンコマイシン、及びAlexa Fluor(登録商標)647に結合されたWGAを、それぞれ0.5μg/ml、0.5μg/ml及び100μg/mlの濃度で組合すことにより、上流で調製した。標識剤を、試験される異なる種と接触せしめた。暗室で周囲温度で15分間のインキュベーションの後、洗浄をPBS溶液により行い、続いて3,200gで15分間、遠心分離工程を行った。次に、サンプルを、流入サイトメーター(BD)により分析した。
【0097】
488nmのレーザー(200mWの出力)、405nmのレーザー(100mWの出力)及び640nmのレーザー(120mWの出力)を備えた流入サイトメーター(BD)を、サイトメトリー分析のために使用した。サイズ(前方:FSC)及び粒度(サイド:SCC)信号を、488nmで得た。488nmの波長のレーザーを用いて、バンコマイシンを励起し、そしてその蛍光を540/30nmの通過帯域で収集した。WGAを640nmのレーザーにより励起し、そしてその蛍光を670/30nmの通過帯域で収集した。サンプルが通過する前、キャリブレーション球を用いて、サイトメーターキャリブレーションの品質管理を実行した。サンプルスループットは、毎秒500イベント~5,000イベントの間で維持された。50,000イベントの記録を行った。
【0098】
分析を、FlowJoソフトウェアを用いて実行した。バックグラウンドノイズを、グラム標識の分析のために除去し、そしてグラム集団の標的化を、可視集団グループの周囲で手動的に実行した。
【0099】
結果:
図1は、2つのグラム陰性菌 (Klebsiella pneumoniae ATCC 700603 及び Salmonella enterica ATCC 13311) 及び 2つのグラム陽性菌 (Enterococcus faecalis JH2.2 及び Lactococcus lactis MG1363)のサンプルが、本発明の実施形態に行って分析される、実施例1に記載される実験の結果を示す。
【0100】
グラフにおいては、X軸は、BODIPY(登録商標)FLに結合されたバンコマイシンの蛍光に対応する、540nm±15nmの波長での蛍光の強度を示し、そしてY軸は、Alexa Fluor(登録商標)647に結合されたWGAの蛍光に対応する、670nm±15nm波長での蛍光の強度を示す。
【0101】
グラム陰性菌は標識されておらず、そしてグラム陽性菌は十分に標識されていることに注意すること。
【0102】
実施例2:
試験された異なる種を、Luria Bertani (LB) 又はBrain Heart Infusion (BHI)培地において、それらの種々の菌株の要件に従って、180rpmでの攪拌を伴って、又は攪拌しないで、37±1℃又は30±1℃で一晩、培養した。異なる細菌懸濁液を、PBS(PBS条件の場合)又は1M のKCl(KCl条件の場合)のいずれかにより約106CFU/mlに調整した。特定の細菌懸濁液を、1%パラホルムアルデヒド(PFA)により、周囲温度で1時間、処理し、続いて3,220gで15分間、2回、遠心分離し、PFA残留物を除去した。細菌種を、試験される条件に従ってPBS又はIMのKClのいずれかに懸濁し、そしてBODIPY(登録商標)FLに結合されたバンコマイシン、バンコマイシン、及びAlexa Fluor(登録商標)647に結合されたWGAを、それぞれ2μg/ml、2μg/ml及び20μg/mlの濃度で組合すことにより、前もって調製された標識剤を、細菌懸濁液と接触せしめた。暗室で、周囲温度での標識剤の15分間のインキュベーション、PBS溶液による洗浄、及び3,220での15分間の遠心分離の後、サンプルを、流入サイトメーター(BD)により分析した。
【0103】
結果:
図2は、3つのグラム陰性菌 (Klebsiella pneumoniae ATCC 700603 、 Salmonella enterica ATCC 13311及びE. coli ATCC 35218) 及び 3つのグラム陽性菌 (Enterococcus faecalis JH2.2、 Lactococcus lactis MG1363及びBacillus subtilis ATCC 23857)のサンプルが、本発明の実施形態に行って分析される、実施例2に記載される実験の結果を示す。細菌を、1MのKClの存在下で、Alexa Fluor(登録商標)647に結合されたWGA及びBODIPY(登録商標)FLに結合されたバンコマイシンにより標識した。グラム陰性菌は標識されておらず、そしてグラム陽性菌は十分に標識されていることに注意すること。
【0104】
実施例3:
試験された異なる種を、Luria Bertani (LB) 又はBrain Heart Infusion (BHI)培地において、それらの種々の菌株の要件に従って、180rpmでの攪拌を伴って、又は攪拌しないで、37±1℃又は30±1℃で一晩、培養した。異なる細菌懸濁液を、約106CFU/mlに調整した。標識剤を、BODIPY(登録商標)FLに結合されたバンコマイシン、バンコマイシン、及びAlexa Fluor(登録商標)647に結合されたWGAを、1MのKClを含む溶液において、それぞれ2μg/ml、2μg/ml及び20μg/mlの濃度で組合すことにより、上流で調製した。標識剤を、試験される異なる種と接触せしめた。暗室で、周囲温度での15分間のインキュベーションの後、洗浄をPBS溶液により行い、続いて15,000gで15分間、遠心分離を行った。次にサンプルを、流入サイトメーター(BD)により分析した。