(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】貯蔵安定及び硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20231228BHJP
C08K 5/54 20060101ALI20231228BHJP
C08L 63/02 20060101ALI20231228BHJP
C08L 83/10 20060101ALI20231228BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
C08L63/00 A
C08K5/54
C08L63/02
C08L83/10
C08J3/20 Z CFC
C08J3/20 CFH
(21)【出願番号】P 2020572621
(86)(22)【出願日】2019-03-14
(86)【国際出願番号】 EP2019056473
(87)【国際公開番号】W WO2019175342
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-02-22
(32)【優先日】2018-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516342265
【氏名又は名称】ハンツマン・アドヴァンスト・マテリアルズ・ライセンシング・(スイッツランド)・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バイゼル,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ベール,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ビルベルス,フーベルト
【審査官】前田 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-171166(JP,A)
【文献】特開2004-124089(JP,A)
【文献】特開平04-359023(JP,A)
【文献】特開2008-195875(JP,A)
【文献】特開2001-055487(JP,A)
【文献】特開2009-068007(JP,A)
【文献】特開平11-162258(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0355848(US,A1)
【文献】特開平09-137041(JP,A)
【文献】特開2000-026708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
C08J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、シリコーンと有機ブロックを有するブロックコポリマー及び
エポキシシランを含む貯蔵安定樹脂組成物であって、
前記ブロックコポリマーが、4ないし8重量%の量で前記組成物に存在し、かつ前記
エポキシシランが0.6ないし1.5重量%の量で前記組成物に存在し、これらの量は共に前記エポキシ樹脂、前記ブロックコポリマー及び前記
エポキシシランの量の合計に基づいており、かつ
前記ブロックコポリマーの前記有機ブロックは、カプロラクトン又は他のラクトンに基づいている、貯蔵安定樹脂組成物。
【請求項2】
エポキシ樹脂がビスフェノール-Aエポキシ樹脂である請求項1に記載の貯蔵安定樹脂組成物。
【請求項3】
エポキシ樹脂を80℃以上の温度でブロックコポリマーと配合してブレンドを得、ブレンドを60℃以下の温度に冷まし、次いで
エポキシシランと混合する請求項1
又は2に記載の貯蔵安定樹脂組成物を得るための方法。
【請求項4】
請求項1
又は2に記載の貯蔵安定樹脂組成物及び硬化剤成分を含む硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
硬化剤成分が無水物、アミン、ジシアンジアミド又はエポキシ重合を開始させる触媒に基づく請求項
4に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
組成物がさらに充填剤成分を含む請求項
4及び
5のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
組成物が、エポキシ樹脂、ブロックコポリマー、
エポキシシラン、硬化剤及び充填剤成分の量の合計に基づいて、60ないし70重量%の量で充填剤成分を含む請求項
6に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
充填剤成分がシリカを含む請求項
6又は
7に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
充填剤成分中のシリカの含有率が、充填剤成分の構成成分の合計に基づいて、50ないし100重量%である請求項
8に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項
4ないし
9のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物を硬化させることにより得ることができる硬化製品。
【請求項11】
電気的用途のための請求項
10に記載の硬化製品の使用。
【請求項12】
高電圧用途のための紙ブッシングの含浸のため、又は絶縁された発電機及びモーターのマイカテープ又はフィラメントワインディングの含浸のための請求項
4及び
5のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物の使用。
【請求項13】
電気モーターの固定子の封入のための請求項
4ないし
9のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術的分野
本開示は貯蔵安定組成物、それから得られる硬化性樹脂組成物、後者から得られる製品及びそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
硬化性樹脂組成物は種々の目的のために広く知られている。非常に興味深い1つの目的は、電気的用途のための硬化性樹脂組成物の使用である。例えば計器用変成器、スイッチギヤ、絶縁材料、ブッシング又はDDTsのような電気装置は、硬化性樹脂組成物を自動加圧ゲル化(APG)及び/又は真空鋳造し、次いでそれを適した条件下で硬化させることにより製造される。そのような用途のために、通常、充填剤を硬化性樹脂組成物に加え、必要な機械的特性を得る。
【0003】
硬化性樹脂組成物の別の既知の用途は、高電圧用途のための紙ブッシングの含浸用或いは大きな発電機(generators)及びモーターを絶縁するために用いられるマイカテープの又はフィラメントワインディングの、例えば中空芯絶縁材料のためのチューブの(真空圧)含浸である。そのような組成物は通常充填剤を用いない。
【0004】
そのような組成物に関連する多数の特許及び特許出願、例えば樹脂含浸紙(RIP)ブッシングについての特許文献1がある。
【0005】
上記の用途のための既知の系は通常エポキシ樹脂に基づく。しかしながら十分な靭性(同等の(comparable)高いTgレベルにおける)が非常に多くの場合に問題である。
【0006】
ポリブタジエンに基づきポリメチルメタクリレート(PMMA)シェルを有する特殊なコア-シェル強靭化剤の使用が既知である(例えば特許文献2から)。しかしながらそのようなコア-シェル強靭化剤は耐熱クラスF(IEC 60216に従って)までの耐熱性しか示さず、紙又はイグニッションコイルの巻き線の優れた含浸を妨げる寸法の粒子を含むことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】欧州特許第1 798 740 A1号明細書
【文献】米国特許第6111015 A号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
開示の目的
先行技術の欠点を見て、本開示の目的は、同等に低いコストで向上した靭性(同等の高いTgレベルにおける)及び耐熱性並びに同時により低い粘度を有する硬化性樹脂組成物を提供することである。充填剤が加えられない用途(高電圧樹脂含浸紙ブッシング及びマイカテープ用途及びフィラメントワインディング)のためにも、より高い靭性は望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
開示
本明細書で他にことわらなければ、本開示と結び付けて用いられる技術用語は当業者が通常理解する意味を有するものとする。さらに、状況により他の意味が必要とされなければ、単数の用語は複数を含むものとし、複数の用語は単数を含むものとする。
【0010】
明細書中で挙げられるすべての特許、公開特許出願及び非特許出版物は、本開示が関係する当業者の熟練者のレベルの指標である。本出願のいずれかの部分において言及されるすべての特許、公開特許出願及び非特許出版物は明らかに、個々の特許又は出版物が特定的且つ個別に引用することによりそれらが本開示と矛盾しない程度まで本明細書の内容となると示される場合と同じ程度まで、それらの記載事項全体が引用することにより本明細書の内容となる。
【0011】
本明細書において開示される組成物及び/又は方法のすべては、本開示を見て不必要な実験なしで製造され得、実施され得る。本開示の組成物及び方法を好ましい態様の点で記載するが、本開示の概念、精神及び範囲から逸脱することなく組成物及び/又は方法に並びに本明細書に記載される方法の段階又は段階の順序において変更が適用される場合があることは、当業者に明らかであろう。当業者に明らかなすべてのそのような類似の置き換え及び修正は本開示の精神、範囲及び概念内であるとみなされる。
【0012】
本開示に従って用いられる場合、以下の用語は他にことわらなければ以下の意味を有すると理解されるべきである。
【0013】
“a”又は“an”という用語の使用は、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「有する」又は「含む(containing)」という用語(あるいはそのような用語の変形)と一緒に用いられる場合、「1つ」を意味する場合があるが、それは「1つ以上(one or more)」、「少なくとも1つ」及び「1つ以上(one or more than one)」の意味とも一致する。
【0014】
「又は」という用語の使用は、選択肢(alternatives)のみを指すと明らかに示されていなければ、並びに選択肢が互いに排他的である場合のみに、「及び/又は」を意味するために用いられる。
【0015】
本開示全体を通じて、「約」という用語は、値が定量装置、機構又は方法に関する誤差の固有の変動或いは測定されるべき対象の間に存在する固有の変動を含むことを示すために用いられる。例えば、しかし制限としてではなく、「約」という用語が用いられる場合、それが指す指定される値はプラス又はマイナス10パーセント又は9パーセント又は8パーセント又は7パーセント又は6パーセント又は5パーセント又は4パーセント又は3パーセント又は2パーセント又は1パーセント又はそれらの間の1つ以上の分数だけ変わる場合がある。
【0016】
「少なくとも1つ」の使用は1つ並びに1つより大きいいずれの量も含み、1、2、3、4、5、10、15、20、30、40、50、100などを含むがこれらに限られないことが理解されるであろう。「少なくとも1つ」という用語はそれが指す用語に依存して最高で100又は1000以上に拡大される場合がある。さらに、100/1000の量は、下限又は上限も満足な結果を生む場合があるので、制限と考えられるべきではない。
【0017】
本明細書で用いられる場合、「含む(comprising)」(並びに「含む(co
mprise)」及び「含む(comprises)」のような含む(comprising)のいずれかの形態)、「有する(having)」(並びに「有する(have)」及び「有する(has)」のような有する(having)のいずれかの形態)、「含む(including)」(並びに「含む(includes)」及び「含む(include)」のような含む(including)のいずれかの形態)又は「含む(containing)」(並びに「含む(contains)」及び含む(contain))のような含む(containing)のいずれかの形態)という用語は包括的又は非制限的であり、追加の挙げられていない要素又は方法段階を排除しない。
【0018】
「又はそれらの組み合わせ」並びに「及びそれらの組み合わせ」という句は、本明細書で用いられる場合、前記の用語に先行する挙げられている項目のすべての順列及び組み合わせを指す。例えば「A、B、C又はそれらの組み合わせ」は:A、B、C、AB、AC、BC又はABC及び特定の状況において順序が重要である場合はまたBA、CA、CB、CBA、BCA、ACB、BAC又はCABの少なくとも1つ含むことが意図されている。この例で続けると、BB、AAA、CC、AABB、AACC、ABCCCC、CBBAAA、CABBBなどのような1つ以上の項目又は用語の繰り返しを含む組み合わせは明らかに含まれる。当業者は、状況から他であることが明らかでなければ、典型的にいずれの組み合わせにおいても項目又は用語の数に制限はないことを理解するであろう。同じ考え方で、「又はそれらの組み合わせ」並びに「及びそれらの組み合わせ」という用語は、「より選ばれる」又は「からなる群より選ばれる」という句と一緒に用いられる場合、句に先行する挙げられている項目のすべての順列及び組み合わせを指す。
【0019】
「1つの態様において(in one embodiment)」、「1つの態様において(in an embodiment)」、「1つの態様に従うと」などの句は一般に、句に続く特定の特徴、構造又は特性が本開示の少なくとも1つの態様に含まれ、且つ本開示の1つより多い態様に含まれる場合があることを意味する。重要なことに、そのような句は非制限的であり、必ずしも同じ態様を指さず、もちろん1つ以上の前の及び/又は後の態様を指すことができる。例えば添付の請求項において、特許請求される態様のいずれをもいずれの組み合わせにおいても用いることができる。
【0020】
本開示は、エポキシ樹脂、シリコーンと有機ブロックを有するブロックコポリマー及びシランを含む貯蔵安定樹脂組成物に関する。
【0021】
好ましい態様において、エポキシ樹脂はビスフェノール-Aエポキシ樹脂である。
【0022】
1つの態様において、貯蔵安定樹脂組成物は、エポキシ樹脂、ブロックコポリマー及びシランの量の合計に基づいて、4ないし8重量%の量でブロックコポリマーを含む。
【0023】
好ましくは、貯蔵安定樹脂組成物は、エポキシ樹脂、ブロックコポリマー及びシランの量の合計に基づいて、5ないし8重量%、より好ましくは5.5ないし8重量%の量でブロックコポリマーを含む。
【0024】
好ましくは、シランはエポキシシランである。
【0025】
1つの態様において、貯蔵安定樹脂組成物はエポキシ樹脂、ブロックコポリマー及びシランの量の合計に基づいて0.6ないし1.5重量%の量でシランを含む。
【0026】
本開示は、エポキシ樹脂を80℃以上、好ましくは80と120℃の間、最も好ましくは80と100℃の間の温度でブロックコポリマーと配合してブレンドを得、ブレンドを60℃以下、好ましくは60と40℃の間の温度に冷まし、次いでシランと混合する本開
示の貯蔵安定樹脂組成物を得るための方法にも関する。
【0027】
本開示は、本開示の貯蔵安定樹脂組成物及び硬化剤成分を含む硬化性樹脂組成物にも関する。
【0028】
好ましい態様において、硬化剤成分は無水物、アミン、ジシアンジアミド又はエポキシ重合を開始させる触媒に基づく。
【0029】
1つの態様において、硬化性樹脂組成物はさらに充填剤成分を含む。
【0030】
好ましい態様において、硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂、ブロックコポリマー、シラン、硬化剤及び充填剤成分の量の合計に基づいて、60ないし70重量%の量で充填剤成分を含む。
【0031】
好ましくは、充填剤成分は、充填剤成分の構成成分の合計に基づいて、最も好ましくは50ないし100重量%或いはまた50ないし90重量%或いはまた60ないし90重量%或いはまた60ないし70重量%或いはまた70ないし80重量%の含有率でシリカを含む。
【0032】
さらにもっと好ましい態様において、硬化性樹脂組成物はさらに硬化促進剤、柔軟剤、着色剤、沈降防止剤又は消泡剤のような添加剤を含む。
【0033】
本開示は、本開示の硬化性樹脂組成物を硬化させることにより得られる硬化製品にも関する。
【0034】
本開示は、計器用変成器、スイッチギヤ、絶縁材料、ブッシング、中空芯絶縁材料又は乾式配電変成器のような電気的用途のための本開示の硬化製品の使用にも関する。
【0035】
本開示はさらに、本明細書に開示される硬化性樹脂組成物の硬化により得られる硬化製品を含む計器用変成器、スイッチギヤ、絶縁材料、ブッシング、中空芯絶縁材料又は乾式配電変成器の1つ以上に関する。
【0036】
さらに本開示は高電圧用途のための紙ブッシングの含浸のため又は絶縁された大きい発電機又はモーターのマイカテープ又はフィラメントワインディングの含浸のための本開示の硬化性樹脂組成物(充填剤なし)の使用に関する。
【0037】
本開示は、本開示の硬化性樹脂組成物が含浸された高電圧用途のための紙ブッシング及び/又はマイカテープ若しくはフィラメントワインディングにも関する。
【0038】
最後に本開示は、特に電気自動車における使用のための電気モーターの固定子の封入のための本明細書で開示される硬化性樹脂組成物の使用に関する。
【0039】
先行技術を超える本開示の最も重要な利点は、非常に低下した模擬亀裂温度(simulated crack temperature)である。これは実際の適用のためにずっと優れた熱サイクル亀裂抵抗性(thermal cycle crack resistance)を意味する。
【0040】
この主な利点の他に、本開示の組成物は予想通りにより低い製造コストで低粘度(充填剤あり及びなしの両方)、より優れた含浸性能及びより優れた熱老化安定性も示す。
【0041】
本開示の硬化性樹脂組成物のために用いられるエポキシ樹脂は、特定の制限なくいずれの種類のエポキシ樹脂の場合もある。エポキシ樹脂は例えばポリグリシジルエール、脂環式エポキシ樹脂又はN-グリシジル化合物の場合がある。
【0042】
ポリグリシジルエーテルは、例えばビスフェノール-A-ジグリシジルエーテル、ビスフェノール-F-ジグリシジルエーテル、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン-ジグリシジルエーテル、ビスフェノール-E-ジグリシジルエーテル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン-ジグリシジル-エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-ジクロロ-エチレン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン-ジグリシジルエーテル、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン-ジグリシジルエーテル、4,4’-シクロヘキシリデンビスフェノール-ジグリシジル-エーテル、エポキシフェノールノボラック、エポキシクレゾールノボラック又はそれらの組み合わせから選ばれる場合がある。
【0043】
脂環式エポキシ樹脂は例えばビス(エポキシシクロヘキシル)-メチルカルボキシレート、ビス(4-ヒドロキシ-シクロヘキシル)メタン-ジグリシジルエーテル、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-シクロヘキシル)プロパン-ジグリシジルエーテル、テトラヒドロフタル酸-ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸-ジグリシジルエステル、4-メチルテトラヒドロフタル酸-ジグリシジルエステル、4-メチルヘキサヒドロフタル酸-ジグリシジルエステル又はそれらの組み合わせから選ばれる場合がある。
【0044】
N-グリシジル化合物は、例えばN,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-メチレン-ビス-ベンゼンアミン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-3,3’-ジエチル-4,4’-ジアミノ-ジフェニルメタン、4,4’-メチレン-ビス[N,N-ビス(2,3-エポキシプロピル)アニリン]、2,6-ジメチル-N,N-ビス[(オキシラン-2-イル)メチル]アニリン又はそれらの組み合わせから選ばれる場合がある。
【0045】
特に好ましいエポキシ樹脂は、ビスフェノール-A-ジグリシジルエーテルのようなビスフェノールに基づくポリグリシジルエーテルである。
【0046】
エポキシ樹脂と一緒に用いるのに適したいずれのシランも組成物中に導入される場合がある。エポキシ樹脂との特に高い適合性のゆえに、エポキシシランが選ばれる場合がある。
【0047】
少なくとも1種のエポキシ樹脂及びシランと組み合わせてGenioperl(登録商標) W35(Wacker Chemie AG,Munich,Germany)のようなシリコーン及び有機ブロック(有機ブロックは例えばカプロラクトン又は他のラクトンに基づく)を有するブロックコポリマーを用いることは、貯蔵安定樹脂として予期に反した優れた結果を有する組成物を生ずることが、下記の実施例から明らかになるであろう。
【0048】
本開示の貯蔵安定樹脂組成物と一緒に充填剤が用いられる場合、それぞれの用途に適したいずれの充填剤も適切である。例は金属粉、木粉、ガラス粉、ガラス球、例えばSiO2(ケイ砂、シリカ粉末、溶融シリカ(fused silica))、酸化アルミニウム、酸化チタン及び酸化ジルコニウムのような半金属及び金属酸化物、MgOH2、AlOH3及びAlO(OH)のような金属水酸化物、例えば窒化ケイ素、窒化ホウ素及び窒化アルミニウムのような半金属及び金属窒化物、例えばSiC及び炭化ホウ素のような半金属及び金属炭化物、例えばドロマイト、チョーク、CaCO3のような金属炭酸塩、例えばバライト及び石膏のような金属硫酸塩、石粉ならびに天然及び合成鉱物、特に例えば
ゼオライト(特にモレキュラーシーブ)、タルカム、マイカ、カオリン、ウォラストナイト及び他のようなケイ酸塩の群からのものである。
【0049】
充填剤はもちろん高電圧用途のための紙ブッシングの含浸或いは絶縁された大きい発電機及びモーターのマイカテープ又はフィラメントワインディングの含浸としてのそのような用途のために用いられるべきではなく、それは充填剤が孔を塞ぎ、有効な含浸を妨げるからである。
【0050】
さらに、驚くべきことに本開示の組成物は貯蔵安定組成物中の強靭化剤の含有率が下記に示す通りであると、予期に反する優れた結果を有することが見いだされた:
【0051】
最少量のブロックコポリマーが用いられる場合のみに(4重量%以上)、例えば靭性に関する有意な効果を得ることができる。
【0052】
最大量より少ないブロックコポリマーが用いられる場合のみに(8重量%以下)、調製物は貯蔵安定である。そうでないとそれは分離する傾向がある。
【0053】
本開示の貯蔵安定樹脂組成物を得るためのプロセスのパラメーターを選ぶことにより、結果を最適化することができる。特に80℃以上、例えば80と120℃の間、最も好ましくは80と100℃の間の高められた分散温度におけるエポキシ樹脂とブロックコポリマーの配合は、特に安定且つ均一な分散系を生ずる。
【0054】
シランの添加は充填剤へのマトリックスの接着を向上させることが知られているが、しかしながらシランの適用がブロックコポリマーの効果を増強することは新規であると思われる。
【0055】
硬化剤成分は、エポキシ樹脂組成物の硬化に適しているこの型のいずれの場合もある。例はメチルテトラヒドロフタル酸無水物のような無水物に基づく化合物又はHuntsman Corporation又はその系列会社(affiliate)(The Woodlands,TX)から入手可能なJEFFAMINE(登録商標)ポリエーテルアミンのようなアミンに基づく化合物又はAlzchem(Trostberg,Hermany)からのDyhard(登録商標) 100Sのようなジシアンジアミド(“dicy”)に基づく化合物又は例えば重合を開始させるジベンジルフェニルスルホニウム-ヘキサフルオロアンチモネートのような触媒、例えばカチオン性触媒に基づく化合物である。
【0056】
硬化剤として適したアミンの制限ではない例にはベンゼンジアミン、1,3-ジアミノベンゼン;1,4-ジアミノベンゼン;4,4’-ジアミノ-ジフェニルメタン;4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(4,4’-DDS)、4-アミノフェニルスルホン及び3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(3,3’-DDS)のようなポリアミノスルホン;ジシアンジアミドのようなジシアンポリアミド;イミダゾール;4,4’-メチレンジアニリン;ビス(4-アミノ-3,5-ジメチルフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン;ビス(4-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン;エチレンジアミン(EDA);4,4’-メチレンビス-(2,6-ジエチル)-アニリン(MDEA);m-キシレンジアミン(mXDA);ジエチレントリアミン(DETA);トリエチレンテトラミン(TETA);トリオキサトリデカンジアミン(TTDA);4,4’-メチレンビス-(3-クロロ,2,6-ジエチル)-アニリン(MCDEA);4,4’-メチレンビス-(2,6-ジイソプロピル)-アニリン(M-DIPA);3,5-ジエチルトルエン-2,4/2,6-ジアミン(D-ETDA 80);4,4’-メチレンビス-(2-イソプロピル-6-メチル)-アニリン(M-MIPA);4-クロ
ロフェニル-N,N-ジメチル-ウレア;3,4-ジクロロフェニル-N,N-ジメチル-ウレア;9,9-ビス(3-メチル-4-アミノフェニル)フルオレン;9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン;ジアミノシクロヘキサン(DACH);イソホロンジアミン(IPDA);4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン;ビスアミノプロピルピペラジン;及びN-アミノエチルピペラジンが含まれる。
【0057】
硬化剤として適した無水物の制限ではない例には、ナジック酸無水物(nadic anhydride)、メチルナジック酸無水物、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサクロロエンドメチレン-テトラヒドロフタル酸無水物、トリメリト酸無水物、ピロメリト酸二無水物、無水マレイン酸、無水コハク酸、ノネニルコハク酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物、ポリセバシン酸ポリ無水物及びポリアゼライン酸ポリ無水物のようなポリカルボン酸無水物が含まれる。
【0058】
さらなる詳細及び利点は以下の実施例から明らかになるであろう。そこで用いられる成分はすべてHuntsman Corporation又はその系列会社から入手可能であり(示される通りの例外を以て)、以下の通りである:
Araldite(登録商標) MY 740樹脂:180-190g/eqのエポキシ当量を有するビスフェノール-Aジグリシジルエーテルエポキシ樹脂。
Araldite(登録商標) CY 5995樹脂:ポリブタジエンに基づきPMMAシェルを有するコア-シェル強靭化剤を含むビスフェノール-Aジグリシジルエーテルエポキシ樹脂。
Aradur(登録商標) HY 918-1硬化剤:メチルテトラヒドロフタル酸無水物の種々の異性体からなる無水物硬化剤。
Accelerator DY 070促進剤:1-メチル-イミダゾールシリカ
Silbond W12シリカ:16μmの平均粒度を有するシリカ粉末(供給者:Quarzwerke GmbH,Frechen,Germany)
Silquest(登録商標) A-187シラン:[3-(2,3-エポキシプロポキシ)プロピル]トリメトキシシラン(供給者:Momentive Performance Materials,Albany,NY)
Genioperl(登録商標) W35:シリコーン及び有機ブロックを有するブロックコポリマー(供給者:Wacker Chemie AG,Munich,Germany)
Bae 3579-3:82pbwのAradur HY 918-1及び0.5pbwのAccelerator DY 070の予備混合物。
【発明を実施するための形態】
【0059】
比較実施例1
50-60℃においてブレード撹拌機を用い、100gのAraldite(登録商標) CY 5995樹脂を82.5gのBae 3579-3と5分間混合した。
【0060】
次いで混合物を約60℃に加熱しながら274gのSilbond W12シリカを10分以内に分けて加えた。最後に混合物を真空下で脱ガスした。
【0061】
混合物の粘度を60及び80℃において測定した。
【0062】
脱ガス後、次いで反応塊を金型(100℃に予備加熱された)中に注いで機械的試験のためのプレートを作製した。金型を100℃で2時間及び140℃で16時間オーブン中に入れた。
【0063】
冷却及び離型の後、プレートを試験試料に機械加工し、機械的パラメーターの決定に供した(引張り試験、靭性、熱膨張率(CTE)及びTg(示差走査熱量測定(DSC)を介し、ISO 11357-2に従って))。
【0064】
比較実施例2
50-60℃においてブレード撹拌機を用い、100gのAraldite(登録商標) MY 740樹脂を85gのBae 3579-3と5分間混合した。次いで混合物を約60℃に加熱しながら278gのSilbond(登録商標) W12シリカを10分以内に分けて加えた。最後に混合物を真空下で脱ガスした。
【0065】
脱ガス後、次いで反応塊を金型(100℃に予備加熱された)中に注いで機械的試験のためのプレートを作製した。金型を100℃で2時間及び140℃で16時間オーブン中に入れた。
【0066】
冷却及び離型の後、プレートを試験試料に機械加工し、機械的パラメーターの決定に供した(引張り試験、靭性、CTE及びISO 11357-2に従うTg(DSCを介して))。
【0067】
比較実施例3
90℃においてブレードミキサーを用い、94gのAraldite(登録商標) MY 740樹脂を6gのGenioperl(登録商標) W 35と15分間混合した。
【0068】
次いで混合物を60℃に冷まし、85gのBae 3579-3を加え、ブレード撹拌機を用いて60℃で5分間混合した。
【0069】
次いで混合物を約60℃に加熱しながら278gのSilbond W12シリカを10分以内に分けて加えた。最後に混合物を真空下で脱ガスした。
【0070】
脱ガス後、次いで反応塊を金型(100℃に予備加熱された)中に注いで機械的試験のためのプレートを作製した。金型を100℃で2時間及び140℃で16時間オーブン中に入れた。
【0071】
冷却及び離型の後、プレートを試験試料に機械加工し、機械的パラメーターの決定に供した(引張り試験、靭性、CTE及びISO 11357-2に従うTg(DSCを介して))。
【0072】
比較実施例4
60℃においてブレードミキサーを用い、99gのAraldite(登録商標) MY 740樹脂を1gのSilquest(登録商標) A-187シランと15分間混合した。次いで85gのBae 3579-3を加え、ブレード撹拌機を用いて60℃で5分間混合した。
【0073】
次いで混合物を約60℃に加熱しながら278gのSilbond W12シリカを10分以内に分けて加えた。最後に混合物を真空下で脱ガスした。
【0074】
脱ガス後、次いで反応塊を金型(100℃に予備加熱された)中に注いで機械的試験のためのプレートを作製した。金型を100℃で2時間及び140℃で16時間オーブン中に入れた。
【0075】
冷却及び離型の後、プレートを試験試料に機械加工し、機械的パラメーターの決定に供した(引張り試験、靭性、CTE及びISO 11357-2に従うTg(DSCを介して))。
【0076】
実施例1
90℃においてブレードミキサーを用い、93gのAraldite(登録商標) MY 740樹脂を6gのGenioperl(登録商標) W 35と15分間混合した。
【0077】
次いで混合物を60℃に冷まし、1gのSilquest(登録商標) A-187シランを加え、ブレードミキサーを用いて5分間混合導入した。
【0078】
次いで85gのBae 3579-3を加え、60℃でブレード撹拌機を用いて5分間混合した。
【0079】
次いで混合物を約60℃に加熱しながら278gのSilbond W12シリカを10分以内に分けて加えた。最後に混合物を真空下で脱ガスした。
【0080】
混合物の粘度を60及び80℃において測定した。
【0081】
脱ガス後、次いで反応塊を金型(100℃に予備加熱された)中に注いで機械的試験のためのプレートを作製した。金型を100℃で2時間及び140℃で16時間オーブン中に入れた。
【0082】
冷却及び離型の後、プレートを試験試料に機械加工し、機械的パラメーターの決定に供した(引張り試験、靭性、CTE及びISO 11357-2に従うTg(DSCを介して))。
【0083】
比較実施例5
90℃においてブレードミキサーを用い、93.5gのAraldite(登録商標)
MY 740樹脂を6gのGenioperl(登録商標) W 35と15分間混合した。
【0084】
次いで混合物を60℃に冷まし、0.5gのSilquest(登録商標) A-187シランを加え、ブレードミキサーを用いて5分間混合導入した。
【0085】
次いで85gのBae 3579-3を加え、60℃でブレード撹拌機を用いて5分間混合した。
【0086】
次いで混合物を約60℃に加熱しながら278gのSilbond W12シリカを10分以内に分けて加えた。最後に混合物を真空下で脱ガスした。
【0087】
脱ガス後、次いで反応塊を金型(100℃に予備加熱された)中に注いで機械的試験のためのプレートを作製した。金型を100℃で2時間及び140℃で16時間オーブン中に入れた。
【0088】
冷却及び離型の後、プレートを試験試料に機械加工し、機械的パラメーターの決定に供した(引張り試験、靭性、CTE及びISO 11357-2に従うTg(DSCを介して))。
【0089】
比較実施例6
90℃においてブレードミキサーを用い、96gのAraldite(登録商標) MY 740樹脂を3gのGenioperl(登録商標) W 35と15分間混合した。
【0090】
次いで混合物を60℃に冷まし、1gのSilquest(登録商標) A-187シランを加え、ブレードミキサーを用いて5分間混合導入した。
【0091】
次いで85gのBae 3579-3を加え、60℃でブレード撹拌機を用いて5分間混合した。
【0092】
次いで混合物を約60℃に加熱しながら278gのSilbond W12シリカを10分以内に分けて加えた。最後に混合物を真空下で脱ガスした。
【0093】
脱ガス後、次いで反応塊を金型(100℃に予備加熱された)中に注いで機械的試験のためのプレートを作製した。金型を100℃で2時間及び140℃で16時間オーブン中に入れた。
【0094】
冷却及び離型の後、プレートを試験試料に機械加工し、機械的パラメーターの決定に供した(引張り試験、靭性、CTE及びISO 11357-2に従うTg(DSCを介して))。
【0095】
比較実施例7
90℃においてブレードミキサーを用い、96.5gのAraldite(登録商標)
MY 740樹脂を3gのGenioperl(登録商標) W 35と15分間混合した。
【0096】
次いで混合物を60℃に冷まし、0.5gのSilquest(登録商標) A-187シランを加え、ブレードミキサーを用いて5分間混合導入した。
【0097】
次いで85gのBae 3579-3を加え、60℃でブレード撹拌機を用いて5分間混合した。
【0098】
次いで混合物を約60℃に加熱しながら278gのSilbond W12シリカを10分以内に分けて加えた。最後に混合物を真空下で脱ガスした。
【0099】
脱ガス後、次いで反応塊を金型(100℃に予備加熱された)中に注いで機械的試験のためのプレートを作製した。金型を100℃で2時間及び140℃で16時間オーブン中に入れた。
【0100】
冷却及び離型の後、プレートを試験試料に機械加工し、機械的パラメーターの決定に供した(引張り試験、靭性、CTE及びISO 11357-2に従うTg(DSCを介して))。
【0101】
パラメーター及び実施例の結果を下記の表にまとめる。
【0102】
欧州特許第1 165 688 A1号明細書において説明されていると同じやりかたで模擬亀裂温度を計算した。式は:
RI=-498.08・Z
0.18480890・G
0.194114601・(A-18)
-0.391334273・T
-
0.158387791+224.25
である。
RI=℃における模擬亀裂温度
Z=%における破断点伸び
G=J/m
2におけるG
IC
A=ppm/KにおけるCTE
T=℃におけるTg
【表1】
【0103】
表に挙げられる結果から、本開示の樹脂組成物の以下の利益が明らかになる:
【0104】
(1)Araldite(登録商標) CY 5995樹脂(40℃において8000mPas)と比較して本開示の樹脂組成物のずっと低い粘度(40℃において1700mPa)。
【0105】
(2)本発明ではない実施例を超える本発明の実施例の最も重要な利点は、非常に低下した模擬亀裂温度である。これは実際の適用のためにずっと優れた熱サイクル亀裂抵抗性を意味する。
【0106】
(3)Araldite(登録商標) CY 5995樹脂に基づく調製物と比較して充填剤を含む本開示の調製物のより低い粘度。これはより多くの充填剤の使用さえ許し、かくしてコストを下げる。
【0107】
(4)この強靭化の概念を大きい発電機及びモーター(LGM)のための真空圧含浸(VPI)浴樹脂又はRIPのための含浸系又はコア-シェル強靭化剤がコイル巻き線の含浸を妨げるのでAraldite(登録商標) CY 5995樹脂を使用できないイグニッションコイルのための含浸系にも適用することを可能にするより優れた含浸性能。
【0108】
(5)Araldite(登録商標) CY 5995樹脂の製造方法におけるように(米国特許第6111015号明細書を参照されたい)水を蒸留する必要がない故の、強靭化樹脂のより妥当な製造コスト。
【0109】
(6)より優れた熱老化安定性(IEC 60216に従ってクラスH又はもっと優れている)。
【0110】
上記で開示された主題は例であり、制限的ではないと考えられるべきであり、添付の請求項は本開示の真の範囲内に含まれるすべてのそのような修正、強調及び他の態様を包含することが意図されている。かくして本開示の範囲は法律により許される最大の程度まで以下の請求項及びそれらの同等事項の許され得る最も広い解釈により決定されるべきであり、前記の詳細な記述により限定されるか又は制限されるべきではない。