(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/2338 20110101AFI20231228BHJP
B60R 21/207 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
B60R21/2338
B60R21/207
(21)【出願番号】P 2021069674
(22)【出願日】2021-04-16
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】110003155
【氏名又は名称】弁理士法人バリュープラス
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴之
(72)【発明者】
【氏名】中島 敦
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0093224(US,A1)
【文献】国際公開第2008/152901(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0194317(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の座席に着座した乗員の一方の側部を覆うように前方に膨張展開する第1サイドクッションと、前記乗員の他方の側部を覆うように前方に膨張展開する第2サイドクッションと、前記各サイドクッションの膨張展開が完了した膨張完了状態において前記第1サイドクッションの後部と前記第2サイドクッションの後部とを接続するクッション接続部とを有するエアバッグと、
前記エアバッグを膨張させるガスを噴射するインフレータと、
前記第1サイドクッションに一端部が固定され、前記第1サイドクッション以外の箇所に他端部が固定された連結部材とを備え、
前記連結部材は、前記膨張完了状態で、前記第1サイドクッションよりも内側領域を延びて、前記一端部と前記他端部との間が引っ張られた状態にな
り、
前記連結部材の前記一端部は、前記膨張完了状態で前記第1サイドクッションの前部に固定されており、
前記連結部材の前記他端部は、前記膨張完了状態で、前記乗員の胸部よりも上側の高さ位置で、前記クッション接続部に固定されている、エアバッグ装置。
【請求項2】
車両の座席に着座した乗員の一方の側部を覆うように前方に膨張展開する第1サイドクッションと、前記乗員の他方の側部を覆うように前方に膨張展開する第2サイドクッションと、前記各サイドクッションの膨張展開が完了した膨張完了状態において前記第1サイドクッションの後部と前記第2サイドクッションの後部とを接続するクッション接続部とを有するエアバッグと、
前記エアバッグを膨張させるガスを噴射するインフレータと、
前記第1サイドクッションに一端部が固定され、前記第1サイドクッション以外の箇所に他端部が固定された連結部材とを備え、
前記連結部材は、前記膨張完了状態で、前記第1サイドクッションよりも内側領域を延びて、前記一端部と前記他端部との間が引っ張られた状態になり、
前記クッション接続部は、前記第1サイドクッションと前記第2サイドクッションとを連通させるダクトである、エアバッグ装置。
【請求項3】
前記エアバッグの膨張展開中に、前記連結部材の他端部は、内部をガスが流通するクッション接続部の膨張に伴って前記一端部から遠ざかる方向に移動する、請求項2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
車両の座席に着座した乗員の一方の側部を覆うように前方に膨張展開する第1サイドクッションと、前記乗員の他方の側部を覆うように前方に膨張展開する第2サイドクッションと、前記各サイドクッションの膨張展開が完了した膨張完了状態において前記第1サイドクッションの後部と前記第2サイドクッションの後部とを接続するクッション接続部とを有するエアバッグと、
前記エアバッグを膨張させるガスを噴射するインフレータと、
前記第1サイドクッションに一端部が固定され、前記第1サイドクッション以外の箇所に他端部が固定された連結部材とを備え、
前記連結部材は、前記膨張完了状態で、前記第1サイドクッションよりも内側領域を延びて、前記一端部と前記他端部との間が引っ張られた状態になり、
前記連結部材の前記一端部は、前記膨張完了状態で前記第1サイドクッションの前部に固定されており、
前記連結部材の前記他端部は、前記座席における前記第1サイドクッション側の側部に固定されている、エアバッグ装置。
【請求項5】
車両の座席に着座した乗員の一方の側部を覆うように前方に膨張展開する第1サイドクッションと、前記乗員の他方の側部を覆うように前方に膨張展開する第2サイドクッションと、前記各サイドクッションの膨張展開が完了した膨張完了状態において前記第1サイドクッションの後部と前記第2サイドクッションの後部とを接続するクッション接続部とを有するエアバッグと、
前記エアバッグを膨張させるガスを噴射するインフレータと、
前記第1サイドクッションに一端部が固定され、前記第1サイドクッション以外の箇所に他端部が固定された連結部材とを備え、
前記連結部材は、前記膨張完了状態で、前記第1サイドクッションよりも内側領域を延びて、前記一端部と前記他端部との間が引っ張られた状態になり、
前記連結部材は、前記膨張完了状態で、前記他端部に比べて前記一端部の方が上側に位置している、エアバッグ装置。
【請求項6】
車両の座席に着座した乗員の一方の側部を覆うように前方に膨張展開する第1サイドクッションと、前記乗員の他方の側部を覆うように前方に膨張展開する第2サイドクッションと、前記各サイドクッションの膨張展開が完了した膨張完了状態において前記第1サイドクッションの後部と前記第2サイドクッションの後部とを接続するクッション接続部とを有するエアバッグと、
前記エアバッグを膨張させるガスを噴射するインフレータと、
前記第1サイドクッションに一端部が固定され、前記第1サイドクッション以外の箇所に他端部が固定された連結部材とを備え、
前記連結部材は、前記膨張完了状態で、前記第1サイドクッションよりも内側領域を延びて、前記一端部と前記他端部との間が引っ張られた状態になり、
前記第1サイドクッションは、前記乗員の頭部の一方の側方を覆うように膨張展開する第1頭部用クッション部を有し、
前記連結部材の前記一端部は、前記第1頭部用クッション部に固定されている、エアバッグ装置。
【請求項7】
前記第2サイドクッションは、前記乗員の頭部の他方の側方を覆うように膨張展開する第2頭部用クッション部を有し、
前記連結部材の前記他端部は、前記第2頭部用クッション部に固定されている、請求項6に記載のエアバッグ装置。
【請求項8】
前記連結部材の前記一端部は、前記膨張完了状態で前記第1頭部用クッション部の上部に固定され、
前記連結部材の前記他端部は、前記膨張完了状態で前記第2頭部用クッション部の上部に固定されている、請求項7に記載のエアバッグ装置。
【請求項9】
前記連結部材の前記一端部は、前記膨張完了状態で前記第1頭部用クッション部の上部における後部に固定され、
前記連結部材の前記他端部は、前記膨張完了状態で前記クッション接続部における前記第2サイドクッション側に固定されている、請求項6に記載のエアバッグ装置。
【請求項10】
前記連結部材における前記一端部と前記他端部の間は、前記膨張完了状態において前記座席のヘッドレストに前面に押し当てられる、請求項6乃至9の何れか1つに記載のエアバッグ装置。
【請求項11】
前記第1サイドクッションは、前記座席用のドアに近いニアサイドに設けられる、請求項1乃至10の何れか1つに記載のエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員の側部等を保護するエアバッグ装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の側面衝突や横転時に乗員を保護するためのエアバッグ装置が知られている。この種のエアバッグ装置では、座席に着座した乗員の側部を覆うように、エアバッグが膨張展開する。
【0003】
特許文献1には、この種のエアバッグ装置として、乗員に対してニアサイドからの衝撃に対してもファーサイドからの衝撃に対しても保護することができる乗員拘束装置が記載されている。この乗員拘束装置は、ニアサイドからの衝撃に対して乗員を保護するエアバッグと、ファーサイドからの衝撃に対して乗員を保護する上胴部拘束部材とを備えている。上胴部拘束部材は、乗員の肩部又は胸部に車両前側から当接して、乗員を座席に拘束する。特許文献1の
図6には、上胴部拘束部材としてエアバッグが用いる形態が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両の側面衝突が生じると、衝突初期は、乗員が慣性力により衝突発生側に移動し、その後、衝突の衝撃力により、その反対側に移動する。しかし、従来のエアバッグ装置では、ニアサイド側のエアバッグとファーサイド側のエアバッグとが互いに独立しており、移動方向が変化する乗員の拘束を効果的に行うことができない虞がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、車両の側面衝突時などに、座席の両サイドに膨張展開するサイドクッションが一体的に挙動するエアバッグ装置において、乗員の拘束性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るエアバッグ装置は、車両の座席に着座した乗員の一方の側部を覆うように前方に膨張展開する第1サイドクッションと、乗員の他方の側部を覆うように前方に膨張展開する第2サイドクッションと、各サイドクッションの膨張展開が完了した膨張完了状態において第1サイドクッションの後部と第2サイドクッションの後部とを接続するクッション接続部とを有するエアバッグと、エアバッグを膨張させるガスを噴射するインフレータと、第1サイドクッションに一端部が固定され、第1サイドクッション以外の箇所に他端部が固定された連結部材とを備え、連結部材は、膨張完了状態で、第1サイドクッションよりも内側領域を延びて、一端部と他端部との間が引っ張られた状態になる。
【0008】
本発明は、連結部材の一端部は、膨張完了状態で第1サイドクッションの前部に固定されていてもよい。
【0009】
本発明は、連結部材の他端部は、膨張完了状態で、乗員の胸部よりも上側の高さ位置で、クッション接続部に固定されていてもよい。
【0010】
本発明は、クッション接続部は、第1サイドクッションと第2サイドクッションとを連通させるダクトとして利用してもよい。
【0011】
本発明は、エアバッグの膨張展開中に、連結部材の他端部は、内部をガスが流通するクッション接続部の膨張に伴って一端部から遠ざかる方向に移動するようにしてもよい。
【0012】
本発明は、連結部材の他端部は、座席における第1サイドクッション側の側部に固定されていてもよい。
【0013】
本発明は、連結部材は、膨張完了状態で、他端部に比べて一端部の方が上側に位置していてもよい。
【0014】
本発明は、第1サイドクッションは、乗員の頭部の一方の側方を覆うように膨張展開する第1頭部用クッション部を有し、連結部材の一端部は、第1頭部用クッション部に固定されていてもよい。
【0015】
本発明は、第2サイドクッションは、乗員の頭部の他方の側方を覆うように膨張展開する第2頭部用クッション部を有し、連結部材の他端部は、第2頭部用クッション部に固定されていてもよい。
【0016】
本発明は、連結部材の一端部は、膨張完了状態で第1頭部用クッション部の上部に固定され、連結部材の他端部は、膨張完了状態で第2頭部用クッション部の上部に固定されていてもよい。
【0017】
本発明は、連結部材の一端部は、膨張完了状態で第1頭部用クッション部の上部における後部に固定され、連結部材の他端部は、膨張完了状態でクッション接続部における第2サイドクッション側に固定されていてもよい。
【0018】
本発明は、連結部材における一端部と他端部の間は、膨張完了状態において座席のヘッドレストに前面に押し当てられるようにしてもよい。
【0019】
本発明は、第1サイドクッションは、座席用のドアに近いニアサイドに設けられるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、車両の側面衝突が生じると、乗員の両側方にサイドクッションがそれぞれ膨張展開する。膨張完了状態では、両サイドクッションがクッション接続部を介して繋がっている。衝突初期は、慣性力により衝突発生側に移動する乗員が、衝突発生側の一方のサイドクッション(第1サイドクッションと第2サイドクッションの一方)に衝突する。一方のサイドクッションは、乗員の衝突荷重を受けて外側に移動するものの、クッション接続部によりある程度引き止められ、座席の外側方向への移動量が抑制される。そのため、乗員は衝突発生側で早期に拘束される。
【0021】
また、一方のサイドクッションの外側方向への移動に伴って、他方のサイドクッションは、クッション接続部を介して横方向に引っ張られて乗員側に移動する。両サイドクッションは一体的に横方向に移動する。そのため、衝突の衝撃力によって衝突発生側とは反対側に移動する乗員が他方のサイドクッションに衝突するまでの移動距離は短くなる。乗員は衝突発生側とは反対側でも早期に拘束される。
【0022】
さらに本発明では、膨張完了状態で第1サイドクッションよりも内側領域において、連結部材における一端部と他端部との間が引っ張られた状態になる。このような状態になるためには、膨張完了状態になる前に、連結部材による張力が第1サイドクッションに作用している必要がある。そのため、膨張展開中の第1サイドクッションの揺動を抑制でき、第1サイドクッションの拘束性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1A】
図1Aは、実施形態に係るエアバッグ装置において、膨張完了状態のエアバッグを示す図であり、乗員が着座した座席を前方から見た図である。
【
図1B】
図1Bは、膨張完了状態のエアバッグを示す図であり、乗員が不在の座席を前方から見た図である。
【
図1C】
図1Cは、膨張完了状態のエアバッグを示す図であり、乗員が不在の座席を第2サイドクッション側の斜め前方から見た図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るエアバッグ装置において、平置き状態のエアバッグの平面図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係るエアバッグの収納状態を示す座席の正面図である。
【
図4A】
図4Aは、実施形態の第1変形例に係るエアバッグ装置において、膨張完了状態のエアバッグを示す図であり、乗員が不在の座席を前方から見た図である。
【
図4B】
図4Bは、膨張完了状態のエアバッグを示す図であり、乗員が不在の座席を第2サイドクッション側の斜め前方から見た図である。
【
図5】
図5は、実施形態の第1変形例に係るエアバッグ装置において、平置き状態のエアバッグの平面図である。
【
図6A】
図6Aは、実施形態の第2変形例に係るエアバッグ装置において、膨張完了状態のエアバッグを示す図であり、乗員が不在の座席を前方から見た図である。
【
図6B】
図6Bは、膨張完了状態のエアバッグを示す図であり、乗員が不在の座席を第1サイドクッション側の斜め前方から見た図である。
【
図7】
図7は、実施形態の第2変形例に係るエアバッグ装置において、平置き状態のエアバッグの平面図である。
【
図8】
図8は、実施形態の第2変形例に係るエアバッグ装置において、連結部材の連結箇所を
図7とは異ならせた、平置き状態のエアバッグの平面図である。平置き状態のエアバッグの平面図である。
【
図9A】
図9Aは、実施形態の第3変形例に係るエアバッグ装置において、膨張完了状態のエアバッグを示す図であり、乗員が不在の座席を前方から見た図である。
【
図9B】
図9Bは、膨張完了状態のエアバッグを示す図であり、乗員が不在の座席を第1サイドクッション側の斜め前方から見た図である。
【
図10】
図10(a)は、実施形態の第3変形例に係るエアバッグ装置において、平置き状態のエアバッグの平面図であり、
図10(b)は、連結部材の折り曲げ箇所を
図10(a)とは異ならせた、平置き状態のエアバッグの平面図である。
【
図11A】
図11Aは、実施形態の第4変形例に係るエアバッグ装置において、膨張完了状態のエアバッグを示す図であり、乗員が不在の座席を前方から見た図である。
【
図11B】
図11Bは、膨張完了状態のエアバッグを示す図であり、乗員が不在の座席を第2サイドクッション側の斜め前方から見た図である。
【
図12】
図12(a)は、実施形態の第4変形例に係るエアバッグ装置において、平置き状態のエアバッグの平面図であり、
図12(b)は、
図12(a)のA-A断面図である。
【
図13】
図13は、その他の変形例に係るエアバッグ装置において、クッション接続部の断面状態、及び、連結部材の取付状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の一例であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0025】
また、本明細書において、「上」、「上側」とは座席1の正規の位置に着座した乗員5の頭部方向を、「下」、「下側」とは乗員5の足元方向を意味する場合がある。ここで、「正規の位置」とは、座席1におけるシートクッション2の左右方向の中心位置で、背もたれ部3に乗員5の背中が上下に亘って接する位置をいう。また、「前」、「前側」とは座席1の正規の位置に着座した乗員5の正面方向を、「後」、「後側」とは乗員5の背面方向を意味する場合がある。また、「左」、「左側」とは座席1の正規の位置に着座した乗員5の左手方向を、「右」、「右側」とは乗員5の右手方向を意味する場合がある。また、乗員5は、WorldSID(国際統一側面衝突ダミー:World Side Impact Dummy)のAM50(米国人成人男性の50パーセンタイル)を想定したものである。
【0026】
本実施形態は、車両の座席1の両サイドに設けられる第1サイドクッション21及び第2サイドクッション22が1つのエアバッグ11に集約されたエアバッグ装置10である。エアバッグ装置10は、膨張展開中の第1サイドクッション21の揺動を抑制する連結部材25を備えている。以下では、エアバッグ装置10について説明を行う前に、エアバッグ装置10が搭載される座席1について説明を行う。
【0027】
[座席の概略構成について]
座席1は、
図1A~
図1Cに示すように、シートクッション2と、背もたれ部3とを備えている。シートクッション2には、シートフレームの一部を構成するシートパン(図示省略)が内蔵され、背もたれ部3には、シートフレームの一部を構成するシートバックフレーム3aが内蔵されている(
図3参照)。背もたれ部3の上端部には、棒状の支持部材6を介して、ヘッドレスト4が取り付けられている。なお、座席1は、背もたれ部3とヘッドレスト4とが一体形成されたものであってもよい。また、以下では、座席1用のドアに近い側を「ニアサイド」、座席1用のドアから遠い側を「ファーサイド」と言う場合がある。
【0028】
[エアバッグ装置の構成について]
エアバッグ装置10は、エアバッグ11と、インフレータ12(
図1C参照)とを備えている。エアバッグ11は、布製の袋体である。インフレータ12は、エアバッグ11を膨張させるガスを噴射する装置である。以下では、左右に隣り合う運転席又は助手席に設けられるエアバッグ装置10を例にして説明を行う。
【0029】
[膨張完了状態のエアバッグについて]
まず、膨張展開が完了した状態(以下、「膨張完了状態」と言う。)のエアバッグ11について、
図1を参照しながら説明を行う。なお、膨張完了状態のエアバッグ11の説明では、乗員5は正規の位置に着座しているものとしている。
【0030】
エアバッグ11は、
図1Aに示すように、乗員5の一方の側部を覆うように前方に膨張展開する第1サイドクッション21と、乗員5の他方の側部を覆うように前方に膨張展開する第2サイドクッション22と、第1サイドクッション21と第2サイドクッション22とを接続するクッション接続部24とを備えている。クッション接続部24は、エアバッグ11の膨張展開中に、内部をガスが流通可能な管状のダクトとして機能する。
【0031】
第1サイドクッション21は、座席1のファーサイドに設けられている。第1サイドクッション21は、後端部が座席1のファーサイドに固定されている。第1サイドクッション21は、座席1への固定箇所から前方に延びている(
図1C参照)。第1サイドクッション21は、乗員5の頭部における一方の側部を覆うように膨張展開する第1頭部用クッション部31と、乗員5の胴部(肩部)における一方の側部を覆うように膨張展開する第1胴部用クッション部41とを備えている。第1頭部用クッション部31は、第1胴部用クッション部41の前側部分から、後ろ向きの斜め上方に立設されている。
【0032】
第2サイドクッション22は、座席1のニアサイドに設けられている。第2サイドクッション22は、後端部が座席1のニアサイドに固定されている。第2サイドクッション22は、座席1への固定箇所から前方に延びている(
図1C参照)。第2サイドクッション22は、乗員5の頭部における他方の側部を覆うように膨張展開する第2頭部用クッション部32と、乗員5の胴部(肩部から腹部)における他方の側部を覆うように膨張展開する第2胴部用クッション部42とを備えている。第2頭部用クッション部32は、第2胴部用クッション部42の前側部分から、後ろ向きの斜め上方に立設されている。
【0033】
クッション接続部24は、第1サイドクッション21の後部と第2サイドクッション22の後部とを接続する。クッション接続部24は、
図1Bに示すように、背もたれ部3の上端面に沿って座席1の幅方向に延びている。クッション接続部24の一端は第1サイドクッション21内に開口し、クッション接続部24の他端は第2サイドクッション22内に開口している。
【0034】
クッション接続部24の上下方向の高さ位置について、クッション接続部24は、座席1の上部の高さ範囲に位置している。ここで、「座席1の上部の高さ範囲」とは、上下方向における背もたれ部3の真ん中よりも上側の範囲を言う。本実施形態では、クッション接続部24が、背もたれ部3とヘッドレスト4との間に形成された隙間と同じ高さに位置している。クッション接続部24は、背もたれ部3の上端部からヘッドレスト4の下端部までの範囲を覆う程度の太さを有する。
【0035】
また、クッション接続部24の前後方向の位置について、クッション接続部24は、背もたれ部3とヘッドレスト4との隙間における前側領域に位置している。なお、クッション接続部24は、
図1Cに示す位置よりもさらに前側に位置していてもよいし、背もたれ部3とヘッドレスト4との隙間における後側領域に位置していてもよい。また、クッション接続部24に支持部材6を貫通させて、クッション接続部24が、この隙間における前側領域と後側領域に跨るように設けてもよい。この場合、支持部材6を貫通させる貫通孔は、その縁部を縫製等することによりダクトの流路とは区画される。
【0036】
エアバッグ11は、
図1Bに示すように、第1サイドクッション21に一端部25aが固定され、エアバッグ11における第1サイドクッション21以外の箇所に他端部25bが固定された連結部材25をさらに備えている。本実施形態では、連結部材25の他端部25bがクッション接続部24に固定されている。連結部材25は、紐状又は細い帯状の部材(例えば、テザー)である。なお、連結部材25には、エアバッグ11に連続する基布、又は、エアバッグ11に連結された布材(基布と同一材料)を用いることもできる。連結部材25には、例えば非伸縮性の素材を好適に用いることができるが、伸縮性の素材を用いることもできる。
【0037】
連結部材25は、第1サイドクッション21よりも内側領域(乗員5側の領域)を延びている。連結部材25は、座席1の乗員5に押されなくても、一端部25aと他端部25bとの間が引っ張られた引張状態(一端部25aから第1サイドクッション21に張力が作用し、且つ、他端部25bからクッション接続部24に張力が作用する状態)になる。第1サイドクッション21における連結部材25の一端部25aの固定箇所21aには、後方への引張力が連結部材25から作用しており、固定箇所21aの周辺が少し窪んでいる(
図1A等参照)。一端部25aが固定される箇所21aから、他端部25bが固定される箇所24aまでの距離は、連結部材25を設けない場合に比べて短くなる。この点は、後述する各変形例でも同じである。なお、符号24aは、クッション接続部24のうち連結部材25の他端部25bが取り付けられた部分を表す。
【0038】
連結部材25は、上述したように、膨張展開中の第1サイドクッション21の揺動を抑制する役割を担う。第1サイドクッション21では、揺動を効果的に抑制できるように、連結部材25の一端部25aの固定箇所21aとして、第1サイドクッション21におけるクッション接続部24の接続箇所24bから比較的離れた箇所が選択されている。本実施形態では、一端部25aが、第1サイドクッション21のうち第1頭部用クッション部31の前部(例えば、前端又はその近傍)に固定されている。ここで、第1サイドクッション21の「前部」とは、前後方向における第1サイドクッション21の真ん中よりも前側部分を言う。第1サイドクッション21では、一端部25aの固定箇所21aが、クッション接続部24の接続箇所24bよりも前方で、且つ、その接続箇所24bよりも上方に位置している。なお、一端部25aは、第1頭部用クッション部31ではなく、第1胴部用クッション部41の前部(例えば、前端又はその近傍)に固定してもよい。
【0039】
また、連結部材25の他端部25bの固定箇所は、乗員5と干渉しにくい領域を連結部材25が通るように選択されている。本実施形態では、連結部材25の他端部25bが、乗員5の胸部よりも上側(肩部の下端よりも上側)の高さ位置に固定されている。具体的に、連結部材25の他端部25bは、クッション接続部24の左右方向における中央部に固定されている。連結部材25は、他端部25bに比べて一端部25aの方が上側に位置している。
【0040】
[平置き状態のエアバッグについて]
次に、未膨張のエアバッグ11を広げて平坦面に平置きした状態(以下、「平置き状態」と言う。)におけるエアバッグ11の構成について、
図2を参照しながら説明を行う。
【0041】
エアバッグ11は、同じ形状で同じ大きさの2枚の基布を重ねた状態で、外周部など所定の箇所を縫製することにより構成された袋体である。
図2では、太線の破線により縫製箇所を表す。エアバッグ11は、
図2に示すように、横長の略長方形状を呈する。平置き状態のエアバッグ11では、エアバッグ11の長手方向を「左右方向」、短手方向を「前後方向」と言い、その前後方向において、各サイドクッション21,22が座席1に固定される側(
図2において上側)を「後側」、その反対側を「前側」と言う。エアバッグ11は、
図2の上側が膨張完了状態でも後側となる。また、エアバッグ11の平面図において紙面上側を「表側」、紙面下側を「裏側」と言う。各サイドクッション21,22は、紙面上側が膨張完了状態で外側となり、紙面下側が膨張完了状態で内側となり、クッション接続部24は、紙面上側が膨張完了状態でも上側となり、紙面下側が膨張完了状態でも下側となる。
【0042】
エアバッグ11は、左右方向に延びるクッション接続部24と、クッション接続部24の一端に接続された第1サイドクッション21と、クッション接続部24の他端に接続された第2サイドクッション22とを備えている。また、エアバッグ11には、
図2においてエアバッグ11の裏側に配置された連結部材25が連結されている。連結部材25の大部分は、後述する第1頭部用クッション部31の裏側に配置されている。
【0043】
クッション接続部24は、横長の略長方形状を呈する。クッション接続部24は、エアバッグ11の後側に設けられている。クッション接続部24の前端(
図2において、横スリット35の位置)は、第1サイドクッション21及び第2サイドクッション22の各々の前端より後側に位置している。クッション接続部24の前後方向の寸法(太さ)は、各サイドクッション21,22の前後方向の寸法の半分以下である。
【0044】
第1サイドクッション21は、左右方向においてクッション接続部24の外側に位置する第1胴部用クッション部41と、クッション接続部24の前側に位置する第1頭部用クッション部31とを有する。第1胴部用クッション部41は、クッション接続部24の前端よりも前側に延び出ている。第1頭部用クッション部31は、第1胴部用クッション部41のうち前側に延び出た部分から、左右方向の内側(
図2において右側)に延びている。
【0045】
第1頭部用クッション部31は、略長方形状を呈する。第1頭部用クッション部31は、上述の横スリット35を介して、クッション接続部24に隣り合う。また、第1胴部用クッション部41は、やや縦長の略長方形状を呈する。第1胴部用クッション部41は、乗員5の肩部の側部を保護するための部分である。なお、本明細書において「長方形」は正方形を含む。
【0046】
第2サイドクッション22は、左右方向においてクッション接続部24の外側に位置する第2胴部用クッション部42と、クッション接続部24の前側に位置する第2頭部用クッション部32とを有する。第2胴部用クッション部42は、クッション接続部24の前端よりも前側に延び出ている。第2頭部用クッション部32は、第2胴部用クッション部42のうち前側に延び出た部分から、左右方向の内側(
図2において左側)に延びている。
【0047】
第2頭部用クッション部32は、略長方形状を呈する。第2頭部用クッション部32は、左右方向に延びる横スリット35を介して、クッション接続部24に隣り合う。また、第2胴部用クッション部42は、横長の略長方形状を呈する。厳密には、第2胴部用クッション部42は、左右方向における外側部分で、前後方向の寸法が外端に近づくに従って徐々に短くなっている。第2胴部用クッション部42におけるクッション接続部24側の部分は、乗員5の肩部の側部を保護するための上側クッション部42aを構成している。第2胴部用クッション部42におけるクッション接続部24とは反対側の部分は、乗員5の胸部及び腹部の側部を保護するための下側クッション部42bを構成している。
【0048】
第2胴部用クッション部42の後側には、インフレータ12の収納部45が形成されている。収納部45内には、ガスガイド18が設けられている。ガスガイド18は、インフレータ12から噴射されるガスの出口として、上側クッション部42aに開口する第1出口18aと、下側クッション部42bに開口する第2出口18bを有する。本実施形態では、ニアサイドの衝突時に、衝突から乗員5を保護するまでに時間の猶予の少ない第2胴部用クッション部42を、他のクッション部に先んじて膨張展開させることができる。
【0049】
第1頭部用クッション部31と第2頭部用クッション部32とは、前後方向に延びる縦スリット36を介して、互いの先端が隣り合う。第1頭部用クッション部31と第2頭部用クッション部32は、縦スリット36を挟んで左右対称に形成されている。縦スリット36は、エアバッグ11の前端から前後方向に延びる切れ込みであり、後側で横スリット35の中心位置に繋がる。横スリット35は、縦スリット36の後ろ端の位置から、左右にそれぞれ延びている。横スリット35及び縦スリット36を合わせると、略T字状の切れ込みとなる。なお、本実施形態では、各スリット35,36が、隙間がほとんどない切れ込みであるが、ある程度の隙間がある切れ込みであってもよい。
【0050】
連結部材25は、第1サイドクッション21の前端部から、クッション接続部24の前端部まで、右側斜め上に真っすぐ延びている。連結部材25の一端部25aは、縫い付け等により、第1頭部用クッション部31の前端部において第1胴部用クッション部41寄りの位置に固定されている。連結部材25の一端部25aは、左右方向において横スリット35の左端と略同じ位置にある。連結部材25の他端部25bは、縫い付け等により、クッション接続部24の前端部において左右方向の中央部に固定されている。
【0051】
エアバッグ11には、座席1のシートバックフレーム3aにエアバッグ11を固定するための固定部として、タブ16が設けられている。タブ16は、エアバッグ11の外周部のうち後側部分に取り付けられている。本実施形態では、タブ16が、第1サイドクッション21の外端部(
図2において左端部)に設けられている。なお、エアバッグ11におけるタブ16の設置位置及び設置個数は、本実施形態に限定されない。
【0052】
[座席内におけるエアバッグの収納状態等について]
続いて、座席1内にエアバッグ11が収納されている収納状態について、
図3を参照しながら説明を行う。
【0053】
エアバッグ11は、平置き状態における前後方向の寸法が短くなるように折り畳むことにより、座席1に収納される時の収納形態となる。連結部材25は、エアバッグ11と共に折り畳まれる。エアバッグ11の折り畳み方法としては、例えば、前側から後側に向かってロール状に巻く方法を採用することができる。なお、エアバッグ11の折り畳み方法は、蛇腹状に折り畳む方法など他の方法を採用してもよい。
【0054】
収納形態のエアバッグ11は、
図3に示すように、シートバックフレーム3aに沿って折り曲げられた状態で座席1に収納される。クッション接続部24は背もたれ部3の上端部に収納され、第1サイドクッション21は座席1のファーサイドに収納され、第2サイドクッション22は座席1のニアサイドに収納される。
【0055】
座席1に収納された収納状態のエアバッグ11は、タブ16と、インフレータ12の収納部45との2箇所で、座席1のシートバックフレーム3aに固定される。具体的に、タブ16により、第1胴部用クッション部41がシートバックフレーム3aに固定される。また、収納部45には、インフレータ12から突出するスタッドボルトの挿通孔が形成されている(図示省略)。インフレータ12がスタッドボルトによりシートバックフレーム3aに固定されることで、挿通孔にスタッドボルトが通された収納部45も、シートバックフレーム3aに固定される。
【0056】
[エアバッグ装置の動作]
続いて、エアバッグ装置10の動作について説明を行う。
【0057】
衝突や横転などによって車両に衝撃が加わると、センサーからの信号を受けたインフレータ12が、第2サイドクッション22内にガスを噴射する。これにより、第2サイドクッション22が膨張展開する。また、第2サイドクッション22に噴射されたガスの一部は、クッション接続部24を通じて第1サイドクッション21に供給される。これにより、第1サイドクッション21が膨張展開する。本実施形態では、1つのインフレータ12により両サイドクッション21,22が膨張完了状態となる。
【0058】
ここで、車両の側面衝突が生じると、衝突初期は、慣性力により乗員5が衝突発生側に移動し、その後、衝突の衝撃力により、その反対側に移動する。具体的に、ファーサイドの側面衝突の場合、衝突初期に、乗員5は、第1サイドクッション21に衝突する。そして、この衝突に伴って、第1サイドクッション21と共に、クッション接続部24を介して接続された第2サイドクッション22もファーサイド側に移動する。その後、乗員5が衝突初期とは反対側に移動する時、乗員5は第2サイドクッション22に衝突する。一方、ニアサイドの側面衝突の場合、衝突初期に、乗員5が第2サイドクッション22に衝突し、第2サイドクッション22及び第1サイドクッション21がニアサイド側に移動する。その後、乗員5が衝突初期とは反対側に移動する時、乗員5は第1サイドクッション21に衝突する。
【0059】
[本実施形態の効果等]
本実施形態では、衝突初期に、衝突発生側の一方のサイドクッション21,22が、乗員5の衝突荷重を受けて外側に移動するものの、クッション接続部24によりある程度引き止められ、座席1の外側方向への移動量が抑制される。乗員5は、衝突発生側で早期に拘束される。また、一方のサイドクッション21,22の外側方向への移動に伴って、他方のサイドクッション21,22は、クッション接続部24を介して横方向に引っ張られて乗員5側に移動する。そのため、衝突発生側とは反対側に移動する乗員5が他方のサイドクッション21,22に衝突するまでの移動距離は短くなる。衝突発生側とは反対側でも、乗員5は早期に拘束される。このように、各サイドクッション21,22は、側面衝突に対して優れた拘束性能を発揮する。
【0060】
本実施形態では、衝突初期に乗員5がサイドクッション21,22に衝突する高さ範囲(肩部の高さ範囲)の近傍に、クッション接続部24が位置する。そのため、クッション接続部24を介して横方向の荷重が伝わりやすい。両サイドクッション21,22の挙動の一体性に優れており、側面衝突に対して優れた拘束性能を発揮する。
【0061】
なお、車両が横転する場合、車両の回転に応じて乗員5は左右に移動する。この場合においても、エアバッグ装置10は、両サイドのサイドクッション21,22が一体的に挙動するため、乗員5を早期に拘束することができる。
【0062】
本実施形態では、膨張完了状態で、連結部材25における一端部25aと他端部25bとの間が、第1サイドクッション21よりも内側領域において引っ張られた状態となる。このような状態になるためには、膨張完了状態になる前には、連結部材25による張力が第1サイドクッション21に作用している必要がある。また、連結部材25の長さは、乗員5に押されなくても引っ張られた状態になる長さである。そのため、乗員5の位置に拘わらず、第1サイドクッション21に張力が確実に作用する。本実施形態によれば、膨張展開中の第1サイドクッション21の揺動(左右の揺動、及び、上下の揺動)を確実に抑制でき、第1サイドクッション21の拘束性能を向上させることができる。
【0063】
また、連結部材25の一端部25aは、膨張完了状態で第1サイドクッション21の前部に固定されている。一端部25aの固定箇所21aは、エアバッグ11の動きが拘束される箇所(クッション接続部24の接続箇所24b、タブ16、収納部45など)から離れている。エアバッグ11では、連結部材25がない場合、エアバッグ11の動きが拘束される箇所から離れた位置ほど、モーメントが作用して揺動が大きくなる。本実施形態では、揺動が大きくなる箇所に連結部材25が接続されているため、効果的に第1サイドクッション21の揺動を抑制することができる。
【0064】
また、ファーサイド衝突時などに、第1サイドクッション21は、乗員5の衝突により外側に倒れようとするが、連結部材25によって内側に引っ張られるため、この点でも拘束性能を向上させることができる。
【0065】
ところで、従来、側面衝突に対して乗員を保護するために、ニアサイド衝突時に乗員の頭部を保護するカーテンエアバッグ、ニアサイド衝突時に乗員の胴部を保護するニアサイドエアバッグ、及び、ファーサイド衝突時に頭部を保護するファーサイドエアバッグをそれぞれ設ける場合がある。一方、今後、自動運転に対応できるエアバッグ装置が求められるようになる。自動運転では、乗員が座席の背もたれ部を後方に倒して安楽姿勢をとったり、乗員が座席の向きを車両の前方と後方で切り替えたりすることが想定される。しかし、上述の従来のエアバッグの構成で、自動運転に対応できるようにするためには、各エアバッグの保護範囲を拡張する必要があり、コスト面及び意匠面で課題が生じる。
【0066】
それに対し、本実施形態では、乗員5を早期に拘束できるため、各サイドクッション21,22のサイズが大型化することを抑制できるし、各サイドクッション21,22を適度なサイズにすることができるため、意匠性が良好なエアバッグ11を構成することができる。また、第2サイドクッション22が乗員5の頭部から腹部までを保護範囲としているため、カーテンエアバッグを省略することができる。これにより、車両のルーフにエアバッグを搭載する必要がなくなり、車両レイアウトの自由度が向上する。さらに、座席1の両サイドに別々のサイドエアバッグを設ける場合に比べて、コスト及び重量を低減させることも可能である。
【0067】
また、乗員5の胴部に、シートベルトが、ニアサイド側からファーサイド側に斜め下向きに掛け渡される場合、膨張完了状態では、第2サイドクッション22が、シートベルトと乗員5の間に介在する。そのため、ニアサイド側のサイドクッション22の反力面について、上述の従来のエアバッグの構成では車両トリムであったところが、シートベルトになる。従って、ニアサイド側で乗員5を早期に拘束することができる。
【0068】
また、本実施形態では、連結部材25により、膨張完了状態における第1サイドクッション21の位置を安定化させることもできる。そのため、座席1のリクライニング角度が変化しても、乗員5に対する保護エリアが変動しにくく、上述の安楽姿勢でも乗員5を適切に拘束することができる。
【0069】
また、本実施形態では、膨張完了状態で、連結部材25の他端部25bが、乗員5の胸部よりも上側の高さ位置でクッション接続部24に固定されている。ここで、連結部材25が乗員5に干渉しにくいのは、乗員5の肩部より上側である。そのため、他端部25bを高め位置に固定することで、連結部材25の乗員5への干渉を抑制できる。さらに、連結部材25は、膨張完了状態で、他端部25bに比べて一端部25aの方が上側に位置している。この場合、逆の場合に比べて乗員5の側方における連結部材25の位置が高くなり、連結部材25の乗員5への干渉をさらに抑制できる。
【0070】
なお、エアバッグ装置10は、車両のフロントシートとリアシートの何れにも設置することができるし、1人乗りの車両の座席にも設置することができる。また、エアバッグ装置10は、車両レイアウトに依存したものとはならないため、エアバッグ装置10の一部又は全部について、複数車種に適用できるようにモジュール化が可能である。
【0071】
[実施形態の第1変形例]
本変形例では、両端部25a,25bの固定箇所が上述の実施形態とは異なる。具体的に、連結部材25の一端部25aは、
図4Aに示すように、膨張完了状態で第1頭部用クッション部31の前部(例えば、前端又はその近傍)の下端部に固定されている。連結部材25の一端部25aの固定箇所は、上述の実施形態よりも少し下側である(
図2及び
図5参照)。なお、一端部25aの固定箇所は、上述の実施形態と同じであってもよい。
【0072】
連結部材25の他端部25bは、座席1における第1サイドクッション21側の側部に固定されている。他端部25bは、
図4Bに示すように、シートバックフレーム3aにおけるファーサイド側の縦フレームの上部に固定されている。なお、連結部材25の他端部25bの固定位置をタブ16と同じ位置にして、他端部25bは、タブ16と共締めすることによりシートバックフレーム3aに固定することもできる。これによってシートフレーム3aへの固定点を減らすことができる。また、連結部材25は、膨張完了状態で、他端部25bに比べて一端部25aの方が上側に位置している。本変形例でも、乗員5と干渉しにくい領域を連結部材25が通るように連結部材25の両端部25a,25bの固定箇所が選択されている。この点は、後述する各変形例でも同じである。
【0073】
平置き状態のエアバッグ11では、連結部材25が、
図5に示すように、第1頭部用クッション部31の裏側における第1胴部用クッション部41との境界近傍に配置されている。連結部材25の一端部25aは、第1頭部用クッション部31の前端部に固定されているが、他端部25bは固定されていない。他端部25bは、座席1にエアバッグ11を収納する際に、上述の縦フレームに固定される。
【0074】
本変形例でも、膨張完了状態で、連結部材25が乗員5に押されなくても引っ張られた状態となる。そのため、膨張展開中の第1サイドクッション21の揺動を抑制できる。また、膨張完了状態の連結部材25の延伸方向が、第1サイドクッション21の展開方向に近く、連結部材25をスムーズに展開させることができる。
【0075】
[実施形態の第2変形例]
本変形例では、両端部25a,25bの固定箇所が上述の実施形態とは異なる。具体的に、連結部材25の一端部25aは、
図6Aに示すように、膨張完了状態で第1頭部用クッション部31の上部における後部(例えば、後端又はその近傍)に固定されている。一方、連結部材25の他端部25bは、
図6Bに示すように、膨張完了状態でクッション接続部24の第2サイドクッション22側に固定されている。
【0076】
平置き状態のエアバッグ11では、
図7に示すように、連結部材25の大部分が、クッション接続部24の表側に重ねられている。連結部材25の一端部25aは、第1頭部用クッション部31の後端部に固定されている。連結部材25の他端部25bは、クッション接続部24の前端部における第2サイドクッション22側に固定されている。
【0077】
本変形例でも、膨張完了状態で、連結部材25が乗員5に押されなくても引っ張られた状態となる。そのため、膨張展開中の第1サイドクッション21の揺動(特に第1頭部用クッション部31の揺動)を抑制できる。また、連結部材25の延伸方向が横方向に近くなるため、左右方向の揺動を特に抑制できる。また、連結部材25の他端部25bの固定箇所は、座席1に対する固定部(収納部45)に近づくため、揺動を効果的に抑制できる。なお、連結部材25の一端部25aは、
図8に示すように、第1頭部用クッション部31の前部(例えば、前端又はその近傍)に固定してもよい。
【0078】
[実施形態の第3変形例]
本変形例では、連結部材25の他端部25bの固定箇所が上述の第2変形例とは異なる。具体的に、他端部25bは、
図9A及び
図9Bに示すように、第2頭部用クッション部32の上部における後部(例えば、後端又はその近傍)に固定されている。各サイドクッション21,22では、揺動を効果的に抑制できるように、各端部25a,25bの固定箇所として、クッション接続部24の接続箇所24bから比較的離れた箇所(各頭部用クッション部31,32の上部)が選択されている。また、膨張完了状態では、連結部材25の両端部25a,25bがヘッドレスト4の前面より後方に位置している。そのため、連結部材25は、ヘッドレスト4の前面に押し当てられた状態となる。
【0079】
平置き状態のエアバッグ11では、
図10に示すように、連結部材25の大部分が、クッション接続部24の表側に重ねられている。連結部材25の一端部25aは、第1頭部用クッション部31の後端部に固定されている。連結部材25の他端部25bは、第2頭部用クッション部32の後端部に固定されている。この時、連結部材25は、
図10に示すように1箇所で鋭角に折り曲げるようにしてもよいし、
図11に示すように2箇所でそれぞれ直角に折り曲げるようにしてもよい。
【0080】
本変形例でも、膨張完了状態で、連結部材25が乗員5に押されなくても引っ張られた状態となる。そのため、膨張展開中の第1頭部用クッション部31の揺動を抑制でき、さらに膨張展開中の第2頭部用クッション部32の揺動も抑制できる。また、連結部材25の延伸方向が横方向に近いため、左右方向の揺動を特に抑制できる。また、連結部材25が押し当てられた状態となり、エアバッグ11の膨張展開中に、連結部材25の横方向の動きがヘッドレスト4との摩擦により妨げられる。そのため、両サイドクッション21,22の揺動を効果的に抑制できる。
【0081】
[実施形態の第4変形例]
本変形例では、連結部材25の各端部25a,25bの固定箇所が上述の第3変形例とは異なる。具体的に、連結部材25の一端部25aは、
図11A及び
図11Bに示すように、第1頭部用クッション部31の上部(例えば、上端又はその近傍)における前後方向の中央部に固定されている。連結部材25の他端部25bは、第2頭部用クッション部32の上部(例えば、上端又はその近傍)における前後方向の中央部に固定されている。
【0082】
平置き状態のエアバッグ11では、
図12(a)に示すように、連結部材25が、エアバッグ11の表側に重ねられている。連結部材25は、
図12(b)に示すように、長さ方向の複数箇所で折り畳まれた状態で、各端部25a,25bが各頭部用クッション部31,32に固定されている。
【0083】
本変形例でも、膨張完了状態で、連結部材25が乗員5に押されなくても引っ張られた状態となる。そのため、膨張展開中の両サイドクッション21,22の揺動を抑制できる。連結部材25の延伸方向が横方向に近いため、左右方向の揺動を特に抑制できる。
【0084】
[その他の変形例]
上述の実施形態において、連結部材25の他端部25bをクッション接続部24に固定する場合において、エアバッグ11の膨張展開中に、他端部25bは、内部をガスが流通するクッション接続部24の膨張に伴って一端部25aから遠ざかる方向に移動するようにしてもよい。例えば、
図13に示すように、連結部材25の他端部25bは、クッション接続部24の下面に固定することができる。また、他端部25bは、クッション接続部24の後側(平置き状態の上側)に固定することもできる。何れの場合も、クッション接続部24が膨張により直径(周長)が増す分だけ他端部25bが引っ張られるため、サイドクッション21,22に作用する引張力が増大し、上述の揺動を効果的に抑制できる。なお、
図13では、クッション接続部24が非膨張の取付部24cにより支持部材6に取り付けられている。
【0085】
上述の実施形態では、第1サイドクッション21と第2サイドクッション22とを接続するクッション接続部24がダクトであったが、クッション接続部24は、内部をガスが流通不能な部材であってもよい。この場合、例えば第1サイドクッション21に第2のインフレータを取り付けることができる。
【0086】
上述の実施形態において、連結部材25の他端部25bが第2サイドクッション22に固定される変形例を除き、連結部材25の一端部25aは、第1サイドクッション21の代わりに、第2サイドクッション22に固定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、乗員の側部等を保護するエアバッグ装置等に適用可能である。
【符号の説明】
【0088】
1 座席
5 乗員
10 エアバッグ装置
11 エアバッグ
12 インフレータ
21 第1サイドクッション
22 第2サイドクッション
24 クッション接続部
25 連結部材
25a 一端部
25b 他端部