(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】塗装診断システム、塗装診断方法
(51)【国際特許分類】
G05B 19/418 20060101AFI20231228BHJP
B05C 9/10 20060101ALI20231228BHJP
B05B 12/00 20180101ALI20231228BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
B05C9/10
B05B12/00 A
(21)【出願番号】P 2021192577
(22)【出願日】2021-11-26
【審査請求日】2022-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006622
【氏名又は名称】株式会社安川電機
(74)【代理人】
【識別番号】110003096
【氏名又は名称】弁理士法人第一テクニカル国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今野 剛志
(72)【発明者】
【氏名】前田 芳江
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-111130(JP,A)
【文献】特開2019-113338(JP,A)
【文献】特開2021-109173(JP,A)
【文献】特開平08-057376(JP,A)
【文献】特開2021-131692(JP,A)
【文献】特開2018-195170(JP,A)
【文献】特表2015-520011(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/418
G06Q 50/04
B05C 9/10
B05C 11/00 - 11/10
B05B 12/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装ラインの前処理工程において多関節型の自動機がワークに塗装の前処理を行った際に、前記前処理工程に関わるデータを前記自動機の先端位置の座標と共に取得する第1データ取得部と、
前記前処理工程に関わるデータ
、及び、前記前処理工程の後の塗装工程において前記自動機が前記ワークに塗装を行った際に、前記自動機の先端位置の座標と共に取得される塗装工程に関わるデータを前記ワークの識別情報と前記自動機の先端位置の座標とに関連付けて登録するデータ管理部と、
前記塗装工程の後の検査工程において前記ワークの特定の部位の塗装に不良が発見された場合に、当該ワークの前記識別情報及び前記特定の部位に対応する前記座標に関連付けられた前記前処理工程に関わるデータ
及び前記塗装工程に関わるデータの少なくとも一方に基づいて、不良要因を解析する不良要因解析部と、
を有する、塗装診断システム。
【請求項2】
前
記検査工程において前記ワークの塗装の状態を検査した際に、検査結果に関わるデータを取得する第3データ取得部をさらに有し、
前記データ管理部は、
前記検査結果に関わるデータを前記前処理工程に関わるデータ及び前記塗装工程に関わるデータと共に前記識別情報と関連付けて登録する、
請求項
1に記載の塗装診断システム。
【請求項3】
前記不良要因解析部は、
前記塗装工程に関わるデータに基づいて前記塗装工程における不良要因を解析し、前記塗装工程が正常であると判断した場合に、前記前処理工程に関わるデータに基づいて前記前処理工程における不良要因を解析する、
請求項
1又は2に記載の塗装診断システム。
【請求項4】
前記不良要因解析部の解析結果に基づいて、前記前処理工程又は前記塗装工程に関わる機器の稼働条件の改善を提案する工程改善提案部をさらに有する、
請求項
1乃至3のいずれか1項に記載の塗装診断システム。
【請求項5】
前記前処理工程に関わるデータ、又は、前記塗装工程に関わるデータに基づいて、前記前処理工程に関わる機器、又は、前記塗装工程に関わる機器の予防保全を提案する予防保全提案部をさらに有する、
請求項
1乃至
4のいずれか1項に記載の塗装診断システム。
【請求項6】
前記第1データ取得部は、
前記前処理工程に関わるデータを、前記座標に基づく前記ワークの部位ごとに取得する、
請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の塗装診断システム。
【請求項7】
前記前処理工程では、前記自動機が前記ワークに対して前記前処理に関わる所定の作業を実行し、
前記第1データ取得部は、
前記前処理工程に関わるデータとして、前記自動機の関節トルク、及び先端速度の少なくとも1つを取得する、
請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の塗装診断システム。
【請求項8】
前記前処理工程では、搬送装置により搬送される前記ワークに対して前処理が実行され、
前記第1データ取得部は、
前記前処理工程に関わるデータとして、前記搬送装置による前記ワークの搬送速度又は搬送位置を取得する、
請求項1乃至
7のいずれか1項に記載の塗装診断システム。
【請求項9】
前記前処理工程では、ブラシを回転駆動させる除塵機により前記ワークの表面の塵埃を除去する除塵作業を実行し、
前記第1データ取得部は、
前記前処理工程に関わるデータとして、前記除塵機のトルク及び回転速度の少なくとも1つを取得する、
請求項1乃至
8のいずれか1項に記載の塗装診断システム。
【請求項10】
前記第1データ取得部は、
前記前処理工程に関わるデータとして、前記除塵機により除去した前記塵埃の量及びサイズの少なくとも1つを取得する、
請求項
9に記載の塗装診断システム。
【請求項11】
前記前処理工程では、除電機により前記ワークの静電気を除去する除電作業を実行し、
前記第1データ取得部は、
前記前処理工程に関わるデータとして、前記除電機の出力を取得する、
請求項1乃至
10のいずれか1項に記載の塗装診断システム。
【請求項12】
前記前処理工程では、前記除電作業の後に前記ワークの帯電量の検出を実行し、
前記第1データ取得部は、
前記前処理工程に関わるデータとして、前記ワークの帯電量を取得する、
請求項
11に記載の塗装診断システム。
【請求項13】
前記第1データ取得部は、
前記前処理工程に関わるデータとして、前記ワークに前処理が実行されるエリアの温度、湿度、及び風量の少なくとも1つを取得する、
請求項1乃至
12のいずれか1項に記載の塗装診断システム。
【請求項14】
前記前処理工程よりさらに前の工程における特記事項に関わるデータを取得する第4データ取得部をさらに有し、
前記データ管理部は、
前記特記事項に関わるデータを前記前処理工程に関わるデータと共に前記識別情報と関連付けて登録する、
請求項1乃至
13のいずれか1項に記載の塗装診断システム。
【請求項15】
前記ワークは、
自動車のボディである、
請求項1乃至
14のいずれか1項に記載の塗装診断システム。
【請求項16】
塗装ラインの前処理工程において多関節型の自動機がワークに塗装の前処理を行った際に、前記前処理工程に関わるデータを前記自動機の先端位置の座標と共に取得することと、
前記前処理工程に関わるデータ
、及び、前記前処理工程の後の塗装工程において前記自動機が前記ワークに塗装を行った際に、前記自動機の先端位置の座標と共に取得される塗装工程に関わるデータを前記ワークの識別情報と前記自動機の先端位置の座標とに関連付けて登録することと、
前記塗装工程の後の検査工程において前記ワークの特定の部位の塗装に不良が発見された場合に、当該ワークの前記識別情報及び前記特定の部位に対応する前記座標に関連付けられた前記前処理工程に関わるデータ
及び前記塗装工程に関わるデータの少なくとも一方に基づいて、不良要因を解析することと、
を有する、塗装診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、塗装診断システム及び塗装診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、塗装前処理ラインの遠隔管理システムが記載されている。この遠隔管理システムは、塗装前処理ラインに設置された処理ライン端末と、処理ライン端末に通信回線を介して接続された遠隔管理サーバとを備える。処理ライン端末は、塗装前処理ラインの運転状況データを、遠隔管理サーバに送信する。遠隔管理サーバは、処理ライン端末から受信した運転状況データに基づいて塗装前処理ラインの運転状況を監視する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
塗装ラインにおける最終的な塗装の品質は、塗装の良否だけでなく前処理の良否の影響を大きく受ける。このため、前処理を含む塗装ラインの工程に関するデータを一元的に管理することが可能な塗装診断システムが要望されていた。
【0005】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、前処理を含む塗装ラインの工程に関するデータを一元的に管理することが可能な塗装診断システム及び塗装診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一の観点によれば、塗装ラインの前処理工程においてワークに塗装の前処理を行った際に、前記前処理工程に関わるデータを取得する第1データ取得部と、前記前処理工程に関わるデータを前記ワークの識別情報と関連付けて登録するデータ管理部と、を有する、塗装診断システムが適用される。
【0007】
また、本発明の別の観点によれば、塗装ラインの前処理工程においてワークに塗装の前処理を行った際に、前記前処理工程に関わるデータを取得することと、前記前処理工程に関わるデータを前記ワークの識別情報と関連付けて登録することと、を有する、塗装診断方法が適用される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の塗装診断システム等によれば、前処理を含む塗装ラインの工程に関するデータを一元的に管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る塗装診断システムの全体構成の一例を表す図である。
【
図2】各制御装置の機能構成の一例を表すブロック図である。
【
図3】データベースのデータ内容の一例を表す図である。
【
図4】上位制御装置により実行される処理手順の一例を表すフローチャートである。
【
図5】前処理工程を防爆エリアの外部で行う変形例における、塗装診断システムの全体構成の一例を表す図である。
【
図6】前処理工程を防爆エリアの外部で行う変形例における、データベースのデータ内容の一例を表す図である。
【
図7】上位制御装置のハードウェア構成例を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0011】
<1.塗装診断システムの全体構成>
図1を参照しつつ、実施形態に係る塗装診断システム1の全体構成の一例について説明する。
【0012】
塗装診断システム1は、塗装ラインPLにおいてワークWに行われる塗装の良否を診断するシステムである。本実施形態では、ワークWが例えば自動車のボディである場合について説明する。なお、ワークWの種類は、塗装において前処理が実行されるものであれば特に限定されるものではなく、自動車のボディ以外にも適用可能である。
【0013】
図1に示すように、塗装ラインPLは、前処理工程、塗装工程、外観検査工程を有する。前処理工程では、コンベア17により搬送されるワークWに対して前処理が実行され、塗装工程では、前処理が実行されたワークWに対して塗装が実行され、外観検査工程では、塗装が実行されたワークWに対して外観検査が実行される。各工程では、コンベア17によりワークWの搬送を継続しながら作業が実行されてもよいし、ワークWの搬送を一時的に停止した状態で作業が実行されてもよい。前処理工程及び塗装工程は、防爆エリアとして構成された塗装ブースPB内に配置されている。
【0014】
塗装診断システム1は、前処理用制御装置3と、塗装用制御装置5と、外観検査用制御装置7と、上位制御装置9とを有する。
【0015】
前処理用制御装置3は、前処理に関わる各機器を制御する。前処理に関わる機器は、例えば除塵機11、除電機13、ロボット15、コンベア17、空調装置19等である。除塵機11は、ブラシ11aを回転駆動させてワークWの表面に付着した塵埃を除去する。除電機13は、イオンを発生させてワークWに放出し、ワークWの静電気を除去する。ロボット15(自動機の一例)は、例えば産業用ロボットとして一般的な垂直多関節型のロボット(例えば6つの関節を備えた6軸ロボット等)であり、先端部に取り付けられた除塵機11及び除電機13をワークWの周囲で移動させ、除塵作業及び除電作業(前処理に関わる所定の作業の一例)を実行する。ロボット15は、例えば塗装ブースPBの天井又は壁部等から吊り下げられるように設置されている。コンベア17(搬送装置の一例)はワークWを搬送方向(
図1中矢印の方向)に沿って搬送する。空調装置19は、塗装ブースPB(前処理が実行されるエリアの一例)内の温度、湿度、風量等を調整する。
【0016】
なお、ロボット15と除塵機11及び除電機13は、例えばワークWの左右両側に2組配置される等、ワークWの周囲に複数組配置されてもよい。また、除塵機11と除電機13とを異なるロボット15に取り付けてもよい。また、ロボット15は、垂直多関節型以外のロボットでもよい。例えば、水平多関節型のロボットやパラレルリンクロボットとしてもよいし、汎用ロボット以外にも、例えば直交座標軸におけるXYZ方向に直動可能且つθ方向に回転可能なアクチュエータを備えた前処理作業専用に設計された専用作業機等としてもよい。また、ロボット15は床に設置されてもよい。また、前処理工程において、除塵作業や除電作業に加えて又は代えて、別の作業を実行してもよい。
【0017】
前処理用制御装置3は、前処理工程においてワークWに塗装の前処理を行った際に、前処理工程に関わるデータを取得する。前処理工程に関わるデータは、例えばロボット15の先端位置の座標、各関節のトルク、先端速度、ワークWの搬送速度又は搬送位置、除塵機11のトルク又は回転速度(回転数)、除電機13の出力、塗装ブースPB内の環境データ等である。ワークWの搬送速度又は搬送位置は、例えばコンベア17のモータ(図示省略)に設置されたエンコーダ(図示省略)により検出される。塗装ブースPB内の環境データは、例えば塗装ブースPB内の温度、湿度又は風量(ダウンフロー)等であり、空調装置19に対する指令値により取得される。
【0018】
塗装用制御装置5は、塗装に関わる各機器を制御する。塗装に関わる機器は、例えば塗装ガン21、エア源装置22(後述の
図2参照。例えばコンプレッサ、電磁弁、エアレギュレータ等)、ロボット23、コンベア17、空調装置19等である。塗装ガン21は、塗料タンクから供給される塗料と、エア源装置22から供給されるエアとを混合させて、ワークWに対して塗料を吹き付ける。エア源装置22は、例えばコンプレッサ、電磁弁、エアレギュレータ等を有する。電磁弁は、コンプレッサから塗装ガン21へのエアの供給のオン又はオフを切り替え、エアレギュレータはエア圧力を制御する。ロボット23は、例えば産業用ロボットとして一般的な垂直多関節型のロボット(例えば6つの関節を備えた6軸ロボット等)であり、先端部に取り付けられた塗装ガン21をワークWの周囲で移動させる。ロボット23は、例えば塗装ブースPBの天井又は壁部等から吊り下げられるように設置されている。
【0019】
なお、ロボット23と塗装ガン21は、例えばワークWの左右両側に2組配置される等、ワークWの周囲に複数組配置されてもよい。また、ロボット23は、垂直多関節型以外のロボットでもよい。例えば、水平多関節型のロボットやパラレルリンクロボットとしてもよいし、汎用ロボット以外の塗装作業専用に設計された専用作業機等としてもよい。また、ロボット23は床に設置されてもよい。また、塗装用制御装置5が、塗装後の乾燥に使用される乾燥炉(図示省略)の温度等を制御してもよい。
【0020】
塗装用制御装置5は、塗装工程においてワークWに塗装を行った際に、塗装工程に関わるデータを取得する。塗装工程に関わるデータは、例えばロボット23の先端位置の座標、各関節のトルク、先端速度、ワークWの搬送速度又は搬送位置、エア圧力、乾燥温度等である。エア圧力は例えばエア源装置22に対する指令値により取得され、乾燥温度は例えば乾燥炉に対する指令値により取得される。
【0021】
外観検査用制御装置7は、外観検査に関わる各機器を制御する。外観検査に関わる機器は、例えば検査装置25、ロボット27、コンベア17等である。検査装置25は、例えばカメラ等の撮像装置や膜厚計等で構成される。撮像装置で撮像された画像は、例えば機械学習やディープラーニング等を用いた画像認識処理により塗装の良否が診断されてもよい。膜厚計で計測された塗装の厚みは、適切な範囲内か否かで塗装の良否が診断される。ロボット27は、例えば産業用ロボットとして一般的な垂直多関節型のロボット(例えば6つの関節を備えた6軸ロボット等)であり、先端部に取り付けられた検査装置25をワークWの周囲で移動させる。ロボット27は、例えば床に設置されている。
【0022】
なお、ロボット27と検査装置25は、例えばワークWの左右両側に2組配置される等、ワークWの周囲に複数組配置されてもよい。また、ロボット27は、垂直多関節型以外のロボットでもよい。例えば、水平多関節型のロボットやパラレルリンクロボットとしてもよいし、汎用ロボット以外の外観検査作業専用に設計された専用作業機等としてもよい。また、ロボット27は塗装ブースPBの天井又は壁部等から吊り下げられるように設置されてもよい。また、画像診断や膜厚以外の外観検査を行ってもよい。また、外観検査は必ずしも自動化する必要はなく、作業者が行ってもよいし、機械と作業者が共同して行ってもよい。
【0023】
外観検査用制御装置7は、外観検査工程においてワークWの塗装の状態を検査した際に、検査結果に関わるデータを取得する。検査結果に関わるデータは、例えばロボット27の先端位置の座標、塗装不良の有無、塗装不良の種類等である。塗装不良の種類には、例えばタレ、スケ、ブツ、色ムラ、ゆず肌等が含まれる。タレは、塗料が下方に流れて塗膜が局部的に厚くなることをいう。スケは、塗膜の厚みが局部的に薄くなることをいう。ブツは、塗膜中に異物が混在して突起状になり、塗膜の平滑性を損なうことをいう。色ムラは、塗膜の色が局部的に不均一になることをいう。ゆず肌は、塗膜の表面が大小の波をうった状態になることをいう。なお、上記は一例であり、その他様々な種類の塗装不良を検出可能としてもよい。
【0024】
上位制御装置9は、塗装ラインPLの各工程の機器を統括して制御する。また上位制御装置9は、前処理用制御装置3から前処理工程に関わるデータを取得し、塗装用制御装置5から塗装工程に関わるデータを取得し、外観検査用制御装置7から検査結果に関わるデータを取得し、それらのデータを、該当するワークWの識別情報と関連付けてデータベース51(後述の
図2参照)に登録する。識別情報は、ワークWを識別可能であれば特に限定されるものではないが、例えば各ワークWに固有に割り当てられたシリアルナンバー、製造番号、ロットナンバー等である。
【0025】
以上説明した塗装診断システム1の構成は一例であり、上述の内容に限定されるものではない。例えば、塗装工程と外観検査工程の間に後処理工程を設けてもよい。この場合、後処理用制御装置を設置し、後処理工程においてワークWに後処理を行った際に、後処理工程に関わるデータを取得してもよい。後処理工程は、例えば塗装後にワークWを乾燥炉で乾燥する乾燥工程等である。後処理工程に関わるデータは、例えば乾燥炉の温度等を含んでもよい。
【0026】
<2.各制御装置の機能構成>
図2及び
図3を参照しつつ、前処理用制御装置3、塗装用制御装置5、外観検査用制御装置7、及び、上位制御装置9の機能構成の一例について説明する。
【0027】
図2に示すように、前処理用制御装置3は、制御部29と、データ取得部31とを有する。制御部29は、除塵機11、除電機13、ロボット15等を制御する。データ取得部31(第1データ取得部の一例)は、前処理工程においてワークWに塗装の前処理を行った際に、前処理工程に関わるデータを取得する。データ取得部31は、前処理工程に関わるデータを、ワークWの部位ごとに取得する。具体的には、
図3に示すように、データ取得部31は、前処理工程に関わるデータとして、ロボット15の先端位置の座標、各関節のトルク、先端速度、コンベア17によるワークWの搬送速度(搬送位置でもよい)、除塵機11のトルク及び回転速度、除電機13の出力、塗装ブースPB内の温度、湿度(風量を含めてもよい)の少なくとも1つを取得する。これらのデータは、制御部29で生成される各機器への指令値や、防爆仕様のロボット15内に設置されたセンサ等により検出することが可能であるため、防爆環境下で取得可能である。なお、上記以外のデータを取得してもよい。データ取得部31は、例えばロボット15が実行するジョブの各ステップごとに、ロボット15の先端位置の座標と共に上記各データを取得する。ロボット15の先端位置の座標により、各データが取得されたワークWの部位を把握することができる。
【0028】
塗装用制御装置5は、制御部33と、データ取得部35とを有する。制御部33は、塗装ガン21、エア源装置22、ロボット23等を制御する。データ取得部35(第2データ取得部の一例)は、塗装工程においてワークWに塗装を行った際に、塗装工程に関わるデータを取得する。データ取得部35は、塗装工程に関わるデータを、ワークWの部位ごとに取得する。具体的には、
図3に示すように、データ取得部31は、塗装工程に関わるデータとして、ロボット23の先端位置の座標、各関節のトルク、先端速度、コンベア17によるワークWの搬送速度(搬送位置でもよい)、エア源装置22のエア圧力の少なくとも1つを取得する。これらのデータは、制御部33で生成される各機器への指令値や、防爆仕様のロボット23内に設置されたセンサ等により検出することが可能であるため、防爆環境下で取得可能である。なお、上記以外のデータ(乾燥温度等)を取得してもよい。データ取得部35は、例えばロボット23が実行するジョブの各ステップごとに、ロボット23の先端位置の座標と共に上記各データを取得する。ロボット23の先端位置の座標により、各データが取得されたワークWの部位を把握することができる。
【0029】
外観検査用制御装置7は、制御部37と、データ取得部39とを有する。制御部37は、検査装置25、ロボット27等を制御する。データ取得部39(第3データ取得部の一例)は、外観検査工程においてワークWの塗装の状態を検査した際に、検査結果に関わるデータを取得する。データ取得部39は、検査結果に関わるデータを、ワークWの部位ごとに取得する。具体的には、
図3に示すように、データ取得部39は、検査結果に関わるデータとして、ロボット27の先端位置の座標、及び、検査結果の少なくとも1つを取得する。なお、上記以外のデータを取得してもよい。データ取得部39は、例えばロボット27が実行するジョブの各ステップごとに、ロボット27の先端位置の座標と共に検査結果を取得する。ロボット27の先端位置の座標により、検査が行われたワークWの部位を把握することができる。
【0030】
なお、コンベア17及び空調装置19は、前処理用制御装置3の制御部29、塗装用制御装置5の制御部33、外観検査用制御装置7の制御部37の一部又は全部により制御される。あるいは、コンベア17及び空調装置19は、上記制御装置3,5,7とは別の専用の制御装置により制御されてもよい。
【0031】
上位制御装置9は、データ取得部41と、データ管理部43と、不良要因解析部45と、工程改善提案部47と、予防保全提案部49とを有する。
【0032】
データ取得部41は、前処理用制御装置3から前処理工程に関わるデータを取得し、塗装用制御装置5から塗装工程に関わるデータを取得し、外観検査用制御装置7から検査結果に関わるデータを取得する。またデータ取得部41(第4データ取得部の一例)は、前処理工程よりさらに前の工程における特記事項に関わるデータを取得する。前の工程の種類は、塗装ラインPLの前処理工程よりさらに前の工程であれば特に限定されるものではないが、例えば溶接工程や洗浄工程等である。特記事項は、例えば前の工程での不良の有無(特定の部位の溶接不良、洗浄不良等)、作業者によるイレギュラーな作業の有無(作業者がワーク表面の特定の部位を清掃、洗浄した等)、突発的なイベントの有無(塗装ブース内への人の侵入、機器の故障の発生等)等である。特記事項は、
図3に示すように、例えば特記事項の有無を0(特記事項なし)又は1(特記事項あり)のビットにより表す簡易的なデータとして登録されてもよい。この場合、特記事項の詳細内容は別途記録され、必要に応じて詳細内容を確認できるようにしてもよい。
【0033】
データ管理部43は、データ取得部41により取得した前処理工程に関わるデータ、塗装工程に関わるデータ、検査結果に関わるデータ、及び、特記事項に関わるデータのそれぞれを、該当するワークWの識別情報(シリアルナンバー等)と関連付けてデータベース51に登録する。
【0034】
図3に、データベース51のデータ内容の一例を示す。
図3に示す例では、ワークWのシリアルナンバー(1A、2A、・・・)に対し、前処理工程、塗装工程及び外観検査工程の各工程ごとに、ロボットの先端位置の座標(X座標、Y座標、Z座標)と共に各機器のデータが関連付けられて登録されている。なお、
図3において、各ロボットのトルク(S)は最も基端側にある関節軸(S軸)のトルクであり、トルク(T)は最も先端側にある関節軸(T軸)のトルクを表している。
図3では図示を省略しているが、S軸とT軸の中間にある関節軸(例えばL軸、U軸、R軸、B軸等)についてもそれぞれトルクが登録されている。また、
図3に示す例は、各工程にロボットが1台ずつ設置されている場合のデータとなっているが、各工程に複数台のロボットが設置される場合には、同じシリアルナンバーに対してロボットごとに各機器のデータが登録される。また、
図3に示す例では、特記事項の有無がワークWの個体ごとに登録されているが、ワークWの部位ごと(ロボットの先端位置の座標ごと)に登録されてもよい。また、空調装置19が前処理工程と塗装工程に個別に設置されている場合には、塗装工程においても環境データが取得されて登録されてもよい。
【0035】
不良要因解析部45は、外観検査工程においてワークWの塗装に不良が発見された場合に、当該ワークWのシリアルナンバーに関連付けられた前処理工程に関わるデータ、塗装工程に関わるデータ、及び、特記事項に関わるデータの少なくとも1つに基づいて、不良要因を解析する。この際、不良要因解析部45は、まず塗装工程に関わるデータに基づいて塗装工程における不良要因を解析し、塗装工程が正常であると判断した場合、次に前処理工程に関わるデータに基づいて前処理工程における不良要因を解析し、前処理工程が正常であると判断した場合、最後に特記事項に関わるデータに基づいて不良要因を解析する、といったように、解析するデータに優先順位をつけてもよい。また、発見された不良要因の種類に応じて優先順位を変更してもよい。このように不良要因が存在する可能性が高い順にデータを解析することにより、解析の効率を向上できると共に、処理負荷を軽減することができる。不良要因解析部45による解析結果は、例えば表示装置に表示されてもよいし、適宜の記録媒体に記録されてもよいし、他の装置に送信されてもよい。また、解析結果に応じてアラームや警告を出力してもよい。
【0036】
具体的には、例えば、外観検査工程でワークWの特定の部位に塗装不良(例えばタレ)が発見された場合に、塗装工程においてロボット23の先端速度が該当部位で低下している、又は、該当部位の塗装中にコンベア17の搬送速度が低下している傾向がある場合には、不良要因解析部45は、塗装ガン21のワークWに対する相対速度が低下することにより局部的に塗膜が厚くなり、塗料が下方に流れたことが不良要因であると推測してもよい。
【0037】
また例えば、外観検査工程でワークWの特定の部位に塗装不良(例えばスケ)が発見された場合に、塗装工程においてロボット23の先端速度が該当部位で上昇している、又は、該当部位の塗装中にコンベア17の搬送速度が上昇している傾向がある場合には、不良要因解析部45は、塗装ガン21のワークWに対する相対速度が上昇することにより塗膜が薄くなったことが不良要因であると推測してもよい。またこの場合において、不良要因解析部45は、塗装工程に問題がないと判断した場合には、前処理工程に関わるデータを解析し、除電機13の出力が該当部位で低い場合には、ワークWの該当部位を十分に除電できず、塗料が十分に付着しなかったことが不良要因であると推測してもよい。
【0038】
また例えば、外観検査工程でワークWの特定の部位に塗装不良(例えばブツ)が発見された場合に、前処理工程において除塵機11のトルクが該当部位で低い傾向がある場合には、不良要因解析部45は、除塵機11のブラシ11aがワークWに十分に接触しておらず、除塵を十分にできなかったことが不良要因であると推測してもよい。なお、このように塗装不良の種類がブツであるような場合には、不良要因が前処理工程にある可能性が高いため、前処理工程に関わるデータを塗装工程に関わるデータよりも先に解析するように優先順位を変更してもよい。
【0039】
また例えば、外観検査工程でワークWの特定の部位に塗装不良(例えば色ムラ)が発見された場合に、塗装工程においてロボット23の先端速度が該当部位で変動している、又は、該当部位の塗装中にコンベア17の搬送速度が変動している傾向がある場合には、不良要因解析部45は、塗装ガン21のワークWに対する相対速度が変動することにより塗膜の厚みが不均一となったことが不良要因であると推測してもよい。またこの場合において、不良要因解析部45は、塗装工程に問題がないと判断した場合には、前処理工程に関わるデータを解析し、前処理工程においてロボット15の先端速度が該当部位で変動している、又は、該当部位の除電中にコンベア17の搬送速度が変動している傾向がある場合には、不良要因解析部45は、除電機13のワークWに対する相対速度が変動することにより均等に除電できなかったことが不良要因であると推測してもよい。
【0040】
また例えば、外観検査工程でワークWの全体または一部に塗装不良(例えばゆず肌)が発見された場合に、塗装ブースPB内のダウンフローの風量が多い傾向がある場合には、不良要因解析部45は、塗装工程において溶剤の蒸発が早すぎることが不良要因であると推測してもよい。また、塗装ブースPB内の湿度が低い傾向にある場合には、静電気が発生し易い状態となるため、不良要因解析部45は、前処理工程においてワークWを均一に除電できなかったことが不良要因であると推測してもよい。
【0041】
また例えば、外観検査工程でワークWの特定の部位に塗装不良(例えばはじき)が発見された場合に、塗装工程及び前処理工程のいずれの工程にも問題がないと判断した場合には、不良要因解析部45は、特記事項に関わるデータを解析し、例えば洗浄工程において該当する部位に洗浄不良が生じてたり、該当部位に作業者によるイレギュラーな作業が行われる等により、油分が付着していることが不良要因であると推測してもよい。
【0042】
工程改善提案部47は、不良要因解析部45の解析結果に基づいて、前処理工程又は塗装工程に関わる機器の稼働条件の改善を提案する。また工程改善提案部47は、前処理工程より前の工程に関わる改善を提案してもよい。工程改善提案部47による提案内容は、例えば表示装置に表示されてもよいし、適宜の記録媒体に記録されてもよいし、他の装置に送信されてもよい。また、提案内容に応じてアラームや警告を出力してもよい。
【0043】
具体的には、不良要因解析部45により、例えば塗装工程においてロボット23の先端速度が該当部位で低下している、又は、該当部位の塗装中にコンベア17の搬送速度が低下していることが塗装不良(例えばタレ)の要因であると推測された場合には、工程改善提案部47は、該当部位でのロボット23の先端速度を上昇させる、又は、コンベア17の搬送速度を上昇させる等の条件設定の変更による工程改善を提案してもよい。
【0044】
また例えば、不良要因解析部45により、塗装工程においてロボット23の先端速度が該当部位で上昇している、又は、該当部位の塗装中にコンベア17の搬送速度が上昇していることが塗装不良(例えばスケ)の要因であると推測された場合には、工程改善提案部47は、該当部位でのロボット23の先端速度を低下させる、又は、コンベア17の搬送速度を低下させる等の条件設定の変更による工程改善を提案してもよい。また、不良要因解析部45により、塗装工程に問題がなく、前処理工程において除電機13の出力が該当部位で低いことが不良要因であると推測された場合には、工程改善提案部47は、該当部位での除電機13の出力を上昇させる等の条件設定の変更による工程改善を提案してもよい。
【0045】
また例えば、不良要因解析部45により、前処理工程において除塵機11のトルクが該当部位で低いことが塗装不良(例えばブツ)の要因であると推測された場合には、工程改善提案部47は、該当部位での除塵機11の位置(ロボット15の先端位置の座標)をブラシ11aがワークWに十分に接触する位置に変更する等の条件設定の変更による工程改善を提案してもよい。
【0046】
また例えば、不良要因解析部45により、塗装工程においてロボット23の先端速度が該当部位で変動している、又は、該当部位の塗装中にコンベア17の搬送速度が変動していることが塗装不良(例えば色ムラ)の要因であると推測された場合には、工程改善提案部47は、該当部位でのロボット23の先端速度を安定化させる、又は、コンベア17の搬送速度を安定させる等の条件設定の変更による工程改善を提案してもよい。また、不良要因解析部45により、塗装工程に問題がなく、前処理工程においてロボット15の先端速度が該当部位で変動している、又は、該当部位の除電中にコンベア17の搬送速度が変動していることが塗装不良の要因であると推測された場合には、工程改善提案部47は、該当部位でのロボット15の先端速度を安定化させる、又は、コンベア17の搬送速度を安定化させる等の条件設定の変更による工程改善を提案してもよい。
【0047】
また例えば、不良要因解析部45により、塗装ブースPB内の風量が多いことが塗装不良(例えばゆず肌)の要因であると推測された場合には、工程改善提案部47は、塗装ブースPB内の風量を低下させる等の条件設定の変更による工程改善を提案してもよい。あるいは、塗装ブースPBの湿度が低いことが塗装不良(例えばゆず肌)の要因であると推測された場合には、工程改善提案部47は、塗装ブースPBの湿度を高くする等の条件設定の変更による工程改善を提案してもよい。
【0048】
予防保全提案部49は、前処理工程に関わるデータ、又は、塗装工程に関わるデータに基づいて、前処理工程に関わる機器、又は、塗装工程に関わる機器の予防保全を提案する。予防保全提案部49による提案内容は、例えば表示装置に表示されてもよいし、適宜の記録媒体に記録されてもよいし、他の装置に送信されてもよい。また、提案内容に応じてアラームや警告を出力してもよい。
【0049】
具体的には、前処理工程において除塵機11のトルクが所定値を超えて上昇傾向にある場合には、除塵機11の交換を提案してもよい。これにより、除塵機11が故障又は破損する前に交換することが可能となり、塗装ラインPLの不慮の停止及びそれに伴うワークWの不良の発生を防止できる。また、除塵機11を定期的に交換する場合に比べて、除塵機11を最大限に有効活用することが可能となる。
【0050】
なお、上述した各処理部は、これらの処理の分担の例に限定されるものではない。例えば、更に少ない数の処理部(例えば1つの処理部)で処理されてもよく、更に細分化された処理部により処理されてもよい。また、上位制御装置9の上記各処理部による機能は後述するCPU901(
図7参照)が実行するプログラムにより実装されてもよいし、その機能の一部又は全部がASICやFPGA、その他の電気回路等の実際の装置により実装されてもよい。
【0051】
<3.コントローラの処理手順>
図4を参照しつつ、上位制御装置9により実行される処理手順の一例について説明する。
【0052】
ステップS10では、上位制御装置9は、データ取得部41により前処理工程よりさらに前の工程の特記事項に関わるデータを取得し、データ管理部43により特記事項に関わるデータをワークWのシリアルナンバーと関連付けてデータベース51に登録する。
【0053】
ステップS20では、上位制御装置9は、前処理用制御装置3を介してワークWに対して前処理工程を実行し、データ取得部41により前処理用制御装置3から前処理工程に関わるデータを取得して、データ管理部43によりワークWのシリアルナンバーと関連付けてデータベース51に登録する。
【0054】
ステップS30では、上位制御装置9は、塗装用制御装置5を介してワークWに対して塗装工程を実行し、データ取得部41により塗装用制御装置5から塗装工程に関わるデータを取得して、データ管理部43によりワークWのシリアルナンバーと関連付けてデータベース51に登録する。
【0055】
ステップS40では、上位制御装置9は、外観検査用制御装置7を介してワークWに対して外観検査工程を実行し、データ取得部41により外観検査用制御装置7から検査結果に関わるデータを取得して、データ管理部43によりワークWのシリアルナンバーと関連付けてデータベース51に登録する。
【0056】
ステップS50では、上位制御装置9は、上記ステップS40で取得した検査結果に関わるデータに基づいて塗装不良の有無を判定する。塗装不良が無い場合には(ステップS50:NO)、後述のステップS80に移る。一方、塗装不良がある場合には(ステップS50:YES)、次のステップS60に移る。
【0057】
ステップS60では、上位制御装置9は、不良要因解析部45により、塗装不良が存在したワークWのシリアルナンバーに関連付けられた前処理工程に関わるデータ、塗装工程に関わるデータ、及び、特記事項に関わるデータの少なくとも1つに基づいて、不良要因を解析する。解析結果は、表示、記録、送信等されてもよい。また、解析結果に応じてアラームや警告等が出力されてもよい。
【0058】
ステップS70では、上位制御装置9は、工程改善提案部47により、上記ステップS60での解析結果に基づいて、前処理工程又は塗装工程に関わる機器の稼働条件の改善や、前処理工程より前の工程に関わる改善を提案する。提案内容は、表示、記録、送信等されてもよい。また、提案内容に応じてアラームや警告等が出力されてもよい。
【0059】
ステップS80では、上位制御装置9は、予防保全提案部49により、前処理工程に関わるデータ、又は、塗装工程に関わるデータに基づいて、前処理工程に関わる機器、又は、塗装工程に関わる機器の予防保全を提案する。提案内容は、表示、記録、送信等されてもよい。また、提案内容に応じてアラームや警告等が出力されてもよい。以上により、本フローチャートを終了する。
【0060】
以上説明した処理手順は一例であって、上記手順の少なくとも一部を削除又は変更してもよいし、上記以外の手順を追加してもよい。上記手順の少なくとも一部の順番を変更してもよいし、複数の手順が単一の手順にまとめられてもよい。
【0061】
<4.実施形態の効果>
以上説明したように、本実施形態の塗装診断システム1では、塗装ラインPLの前処理工程においてワークWに塗装の前処理を行った際に、前処理用制御装置3のデータ取得部31が前処理工程に関わるデータを取得し、上位制御装置9のデータ管理部43が前処理工程に関わるデータをワークWのシリアルナンバーと関連付けて登録する。これにより、前処理工程を含む塗装ラインPLの工程に関するデータを、ワークWと関連付けて一元的に管理することができる。その結果、ワークWに塗装不良が発見された場合に、前処理工程に関わるデータに基づいて前処理工程における不良要因を解析したり、前処理工程の改善を提案する等が可能となり、塗装ラインPLの工程の効率的な改善に貢献することができる。
【0062】
また本実施形態において、塗装診断システム1は、前処理工程の後の塗装工程においてワークWに塗装を行った際に、塗装工程に関わるデータを取得するデータ取得部35をさらに有してもよく、データ管理部43は、塗装工程に関わるデータを前処理工程に関わるデータと共にワークWのシリアルナンバーと関連付けて登録してもよい。
【0063】
この場合、前処理工程及び塗装工程を含む塗装ラインPLの各工程に関するデータを、ワークWと関連付けて一元的に管理することができる。その結果、ワークWに塗装不良が発見された場合に、塗装工程に関わるデータに基づいて塗装工程における不良要因を解析したり、塗装工程の改善を提案する等が可能となり、塗装ラインPLの工程の効率的な改善に貢献することができる。
【0064】
また本実施形態において、塗装診断システム1は、塗装工程の後の外観検査工程においてワークWの塗装の状態を検査した際に、検査結果に関わるデータを取得するデータ取得部39をさらに有してもよく、データ管理部43は、検査結果に関わるデータを前処理工程に関わるデータ及び塗装工程に関わるデータと共にワークWのシリアルナンバーと関連付けて登録してもよい。
【0065】
この場合、前処理工程及び塗装工程を含む塗装ラインPLの各工程に関するデータと、塗装状態の検査結果データとを、ワークWと関連付けて一元的に管理することができる。その結果、ワークWに塗装不良が発見された場合に、当該検査結果と関連付けられた前処理工程に関わるデータ及び塗装工程に関わるデータに基づいて前処理工程又は塗装工程における不良要因を解析したり、前処理工程又は塗装工程の改善を提案する等が可能となり、塗装ラインPLを構成する各工程の効率的な改善に貢献することができる。
【0066】
また本実施形態において、塗装診断システム1は、外観検査工程においてワークWの塗装に不良が発見された場合に、当該ワークWのシリアルナンバーに関連付けられた前処理工程に関わるデータ及び塗装工程に関わるデータの少なくとも一方に基づいて、不良要因を解析する不良要因解析部45をさらに有してもよい。
【0067】
この場合、ワークの塗装不良の要因が、前処理工程、塗装工程、又は、それらの両方の工程のいずれにある場合でも、不良要因を効率的に解析することができる。
【0068】
また本実施形態において、不良要因解析部45は、塗装工程に関わるデータに基づいて塗装工程における不良要因を解析し、塗装工程が正常であると判断した場合に、前処理工程に関わるデータに基づいて前処理工程における不良要因を解析してもよい。
【0069】
この場合、塗装工程が正常であると判断した場合には前処理工程を診断し、塗装工程に不良要因が見つかった場合には前処理工程の診断を省略する等が可能となる。つまり、各工程の診断に優先順位を付けることができる。このようにすることで、例えば常に前処理工程と塗装工程の両方を診断する場合に比べて、処理負荷を軽減することができる。
【0070】
また本実施形態において、塗装診断システム1は、不良要因解析部45の解析結果に基づいて、前処理工程又は塗装工程に関わる機器の稼働条件の改善を提案する工程改善提案部47をさらに有してもよい。
【0071】
この場合、ワークWの塗装に不良が発見された場合に、塗装ラインPLを構成する各工程に対して実効的な改善を提案することができる。
【0072】
また本実施形態において、塗装診断システム1は、前処理工程に関わるデータ、又は、塗装工程に関わるデータに基づいて、前処理工程に関わる機器、又は、塗装工程に関わる機器の予防保全を提案する予防保全提案部49をさらに有してもよい。
【0073】
この場合、塗装ラインPLを構成する各工程で使用される機器に対して実効的な予防保全を提案することができる。これにより、各機器が故障又は破損する前に交換することが可能となり、塗装ラインPLの不慮の停止及びそれに伴うワークWの不良の発生を防止できる。また、各機器を定期的に交換する場合に比べて、各機器を最大限に有効活用することが可能となる。
【0074】
また本実施形態において、データ取得部31は、前処理工程に関わるデータを、ワークWの部位ごとに取得してもよい。
【0075】
この場合、例えばワークWの特定の部位に塗装不良が発見された場合に、当該部位に対応する前処理工程に関わるデータに基づいて前処理工程における不良要因を解析したり、前処理工程の当該部位に対応する部分の改善を提案する等が可能となる。これにより、塗装不良の要因を効率的に解析できると共に、塗装ラインPLを構成する各工程を効率的に改善することができる。
【0076】
また本実施形態において、前処理工程では、多関節型のロボット15がワークWに対して前処理に関わる所定の作業を実行してもよく、データ取得部31は、前処理工程に関わるデータとして、ロボット15の先端位置、関節トルク、及び先端速度の少なくとも1つを取得してもよい。
【0077】
この場合、前処理工程で稼働するロボット15に関わるデータに基づいて、前処理工程における不良要因を解析したり工程改善を提案することが可能となる。例えば、外観検査工程でワークWの特定の部位に塗装不良(例えば色ムラ)が発見された場合において、ロボット15の先端速度が該当部位で変動している傾向がある場合には、除電機13のワークWに対する相対速度が変動することにより均等に除電できなかったことが不良要因であると推測できる。その場合、例えば該当部位でのロボット15の先端速度を安定化させる等、条件設定の変更による工程改善を提案できる。
【0078】
また本実施形態において、前処理工程では、コンベア17により搬送されるワークWに対して前処理が実行されてもよく、データ取得部31は、前処理工程に関わるデータとして、コンベア17によるワークWの搬送速度又は搬送位置を取得してもよい。
【0079】
この場合、前処理工程で稼働するコンベア17に関わるデータに基づいて、前処理工程における不良要因を解析したり工程改善を提案することが可能となる。例えば、検査工程でワークWの特定の部位に塗装不良(例えば色ムラ)が発見された場合において、前処理工程における該当部位の除電中にコンベア17の搬送速度が変動している傾向がある場合には、除電機13のワークWに対する相対速度が変動することにより均等に除電できなかったことが不良要因であると推測できる。その場合、例えば前処理工程でのコンベア17の搬送速度を安定化させる等、条件設定の変更による工程改善を提案できる。
【0080】
また本実施形態において、前処理工程では、ブラシ11aを回転駆動させる除塵機11によりワークWの表面の塵埃を除去する除塵作業を実行してもよく、データ取得部31は、前処理工程に関わるデータとして、除塵機11のトルク及び回転速度の少なくとも1つを取得してもよい。
【0081】
この場合、前処理工程で稼働する除塵機11に関わるデータに基づいて、前処理工程における不良要因を解析したり工程改善を提案することが可能となる。例えば、外観検査工程でワークWの特定の部位に塗装不良(例えばブツ)が発見された場合において、除塵機11のトルクが該当部位で低い傾向がある場合、除塵機11のブラシ11aがワークWに十分に接触しておらず、十分に除塵できなかったことが不良要因であると推測できる。その場合、例えば該当部位での除塵機11の位置をブラシ11aがワークWに十分に接触する位置に変更する等、条件設定の変更による工程改善を提案できる。
【0082】
また本実施形態において、前処理工程では、除電機13によりワークWの静電気を除去する除電作業を実行してもよく、データ取得部31は、前処理工程に関わるデータとして、除電機13の出力を取得してもよい。
【0083】
この場合、前処理工程で稼働する除電機13に関わるデータに基づいて、前処理工程における不良要因を解析したり工程改善を提案することが可能となる。例えば、外観検査工程でワークWの特定の部位に塗装不良(例えばスケ)が発見された場合において、除電機13の出力が該当部位で低い傾向がある場合、ワークWの該当部位を十分に除電できず、塗料が十分に付着しなかったことが不良要因であると推測できる。その場合、例えば該当部位での除電機13の出力を増加する等、条件設定の変更による工程改善を提案できる。
【0084】
また本実施形態において、データ取得部31は、前処理工程に関わるデータとして、ワークWに塗装ブースPB内の温度、湿度、及び風量の少なくとも1つを取得してもよい。
【0085】
この場合、塗装ブースPB内の環境データに基づいて、前処理工程における不良要因を解析したり工程改善を提案することが可能となる。例えば、外観検査工程でワークWの全体又は一部に塗装不良(例えばゆず肌)が発見された場合において、塗装ブースPBのダウンフローの風量が多い傾向がある場合、塗装工程において溶剤の蒸発が早すぎることが不良要因であると推測できる。その場合、例えば塗装ブースPBの風量を低下させる等、条件設定の変更による工程改善を提案できる。あるいは、塗装ブースPBの湿度が低い傾向にある場合、静電気が発生し易い状態となり、前処理工程においてワークWを均一に除電できなかったことが不良要因であると推測できる。その場合、例えば塗装ブースPBの湿度を高くする等、条件設定の変更による工程改善を提案できる。
【0086】
また本実施形態において、塗装診断システム1は、前処理工程よりさらに前の工程における特記事項に関わるデータを取得するデータ取得部41をさらに有してもよく、その場合には、データ管理部43は、特記事項に関わるデータを前処理工程に関わるデータ等と共にワークWのシリアルナンバーと関連付けて登録してもよい。
【0087】
この場合、特記事項として、例えば溶接不良や洗浄不良の有無、作業者によるイレギュラーな作業の有無等について、ビット等によるデータを登録しておくことで、例えば塗装不良が発見された場合に、特記事項に関わるデータに基づいて前処理工程よりさらに前の工程における不良要因を解析したり、当該前の工程の改善を提案する等が可能となる。
【0088】
また本実施形態において、ワークWは、自動車のボディとしてもよい。この場合、自動車のボディの塗装ラインPLを構成する各工程に関するデータを、個々のボディと関連付けて一元的に管理することができる。
【0089】
<5.変形例>
開示の実施形態は、上記に限られるものではなく、その趣旨及び技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。以下、そのような変形例を説明する。
【0090】
(5-1.前処理工程を防爆エリアの外部で行う場合)
上記実施形態では、前処理工程及び塗装工程を防爆エリアである塗装ブースPB内に配置した場合について説明したが、例えば
図5に示すように、前処理工程を塗装ブースPBの外部に配置してもよい。この場合、前処理工程において機器の外部に設置される防爆仕様でない特殊センサを使用することが可能となる。例えば
図5に示すように、ロボット15の先端部に、除塵機11及び除電機13に加えて静電気センサ53を設置しておき、前処理工程において除電作業の後にワークWの帯電量を検出してもよい。前処理用制御装置3のデータ取得部31は、前処理工程に関わるデータとして、ワークWの帯電量についても取得する。
図6に示すように、上位制御装置9のデータ管理部43は、ワークWの帯電量を、該当するワークWのシリアルナンバーと関連付けてデータベース51に登録する。
【0091】
本変形例によれば、例えば外観検査工程で特定の部位に塗装不良(例えばスケ)が発見された場合において、ワークWの帯電量が該当部位で高い傾向がある場合、不良要因解析部45により、帯電量が高いことにより塗料が十分に付着しなかったことが不良要因であると推測できる。その場合、工程改善提案部47により、例えば該当部位の帯電量が低くなるように当該部位での除電機13の出力を増加する等、条件設定の変更による工程改善を提案できる。また、上述した帯電量の検出以外にも、防爆エリアで使用することができない特殊センサを用いた様々な工程を前処理工程で実行することが可能となる。
【0092】
(5-2.除去した塵埃の量又はサイズを取得する場合)
上記実施形態では検出しなかったが、例えば除塵機11で除去した塵埃を吸引してフィルタで収集可能な構成としておき、レーザーセンサやカメラ等により集塵物を検出し、例えばデータ管理部43により検出数の積算や集塵物総重量の計測、サイズの測定等を実行し、各ワーク毎の集塵量を監視できるようにしてもよい。また、フィルタの重量を測定することで集塵物の重量を検出してもよい。データ取得部31は、除塵機11で除去した塵埃の量及びサイズの少なくとも一方を取得し、データ管理部43は、塵埃の量及びサイズを、該当するワークWのシリアルナンバーと関連付けてデータベース51に登録する。
【0093】
本変形例によれば、取得した塵埃の量又はサイズに基づいて、前処理工程における不良要因を解析したり、工程改善や予防保全に活用することが可能となる。例えば、ワークWが同じ種類であるにもかかわらず極端に集塵量やサイズが異なる個体があった場合に、不良要因解析部45により、前処理工程でイレギュラーが発生した可能性を検出することが可能となる。また、集塵量が減少傾向にある場合に、除塵機11のブラシ11aの摩耗やフィルタの目詰まりが原因であると推定し、予防保全提案部49により、ブラシ11aやフィルタの交換を提案してもよい。
【0094】
(5-3.音データを取得する場合)
例えば、前処理工程を塗装ブースPBの外部に配置する場合に、前処理工程にマイク等の音声入力装置を設置し、前処理工程に関わるデータとして音データを取得してもよい。データ管理部43は、音データを、該当するワークWのシリアルナンバーと関連付けてデータベース51に登録する。これにより、例えばダウンフローによる風音を検出することで、風量を指令値で取得する場合に比べて作業環境下での実際の風量を検出することが可能となる。また例えば、通常の作業音とは異なる異音を検出した場合に、何らかの故障や不具合が発生した可能性を検出することが可能となる。
【0095】
<6.上位制御装置のハードウェア構成例>
図7を参照しつつ、上位制御装置9のハードウェア構成例について説明する。
【0096】
図7に示すように、上位制御装置9は、例えば、CPU901と、ROM903と、RAM905と、ASIC又はFPGA等の特定の用途向けに構築された専用集積回路907と、入力装置913と、出力装置915と、記録装置917と、ドライブ919と、接続ポート921と、通信装置923とを有する。これらの構成は、バス909や入出力インターフェース911を介し相互に信号を伝達可能に接続されている。
【0097】
プログラムは、例えば、ROM903やRAM905、ハードディスク等の記録装置917等に記録しておくことができる。
【0098】
プログラムは、例えば、フレキシブルディスクなどの磁気ディスク、各種のCD・MOディスク・DVD等の光ディスク、半導体メモリ等のリムーバブルな記録媒体925に、一時的又は非一時的(永続的)に記録しておくこともできる。このような記録媒体925は、いわゆるパッケージソフトウエアとして提供することもできる。この場合、これらの記録媒体925に記録されたプログラムは、ドライブ919により読み出されて、入出力インターフェース911やバス909等を介し上記記録装置917に記録されてもよい。
【0099】
プログラムは、例えば、ダウンロードサイト・他のコンピュータ・他の記録装置等(図示せず)に記録しておくこともできる。この場合、プログラムは、LANやインターネット等のネットワークNWを介し転送され、通信装置923がこのプログラムを受信する。そして、通信装置923が受信したプログラムは、入出力インターフェース911やバス909等を介し上記記録装置917に記録されてもよい。
【0100】
プログラムは、例えば、適宜の外部接続機器927に記録しておくこともできる。この場合、プログラムは、適宜の接続ポート921を介し転送され、入出力インターフェース911やバス909等を介し上記記録装置917に記録されてもよい。
【0101】
CPU901が、上記記録装置917に記録されたプログラムに従い各種の処理を実行することにより、上記のデータ取得部41、データ管理部43、不良要因解析部45、工程改善提案部47、予防保全提案部49等による処理が実現される。CPU901は、例えば、上記記録装置917からプログラムを直接読み出して実行してもよいし、RAM905に一旦ロードした上で実行してもよい。CPU901は、例えば、プログラムを通信装置923やドライブ919、接続ポート921を介し受信する場合、受信したプログラムを記録装置917に記録せずに直接実行してもよい。
【0102】
CPU901は、必要に応じて、例えばマウス・キーボード・マイク(図示せず)等の入力装置913から入力する信号や情報に基づいて各種の処理を行ってもよい。
【0103】
CPU901は、上記の処理を実行した結果を、例えば表示装置や音声出力装置等の出力装置915から出力してもよい。CPU901は、必要に応じて処理結果を通信装置923や接続ポート921を介し送信してもよい。CPU901は、処理結果を上記記録装置917や記録媒体925に記録させてもよい。
【0104】
以上既に述べた以外にも、上記実施形態や各変形例による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。その他、一々例示はしないが、上記実施形態や各変形例は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【0105】
以上説明した実施形態や変形例等が解決しようとする課題や効果は、上述した内容に限定されるものではない。実施形態や変形例等によって、上述されていない課題を解決したり、上述されていない効果を奏することもでき、記載されている課題の一部のみを解決したり、記載されている効果の一部のみを奏することがある。
【符号の説明】
【0106】
1 塗装診断システム
11 除塵機
11a ブラシ
13 除電機
15 ロボット(自動機)
17 コンベア(搬送装置)
31 データ取得部(第1データ取得部)
35 データ取得部(第2データ取得部)
39 データ取得部(第3データ取得部)
41 データ取得部(第4データ取得部)
43 データ管理部
45 不良要因解析部
47 工程改善提案部
49 予防保全提案部
PB 塗装ブース(前処理が実行されるエリア)
PL 塗装ライン
W ワーク