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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】シート状導電部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/10 20060101AFI20231228BHJP
   H05B 3/20 20060101ALI20231228BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20231228BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20231228BHJP
   B32B 3/14 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
H05B3/10 A
H05B3/20 335
H05B3/20 346
B32B7/025
B32B27/00 Z
B32B3/14
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021507122
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2020006900
(87)【国際公開番号】W WO2020189173
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2019052576
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】森岡 孝至
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅春
【審査官】西村 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-116244(JP,A)
【文献】国際公開第2018/097321(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/086395(WO,A1)
【文献】米国特許第4774397(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0278631(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/02- 3/82
B32B 7/025
B32B 27/00
B32B 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、樹脂層と、複数の導電性線状体が間隔をもって配列された疑似シート構造体とを備えるシート状導電部材において
前記導電性線状体は、前記シート状導電部材の平面視において、波形状であり、
前記導電性線状体の軸方向と直交する方向において、互いに隣接する前記導電性線状体同士のいずれかの間で、波長、振幅、位相及び太さのうちの少なくとも一つが、異なっている、
シート状導電部材を製造する方法であって、
前記基材上に、帯状の樹脂テープと、少なくとも一つの波形状の導電性線状体とを備える帯状導電部材を複数貼付することにより、前記シート状導電部材を作製する、
シート状導電部材の製造方法
【請求項2】
請求項1に記載のシート状導電部材の製造方法において、
前記樹脂層は、前記シート状導電部材の平面視において、前記基材を覆っていない領域を有する、
シート状導電部材の製造方法
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のシート状導電部材の製造方法において、
前記導電性線状体の軸方向と直交する方向において、中央部の波長より、端部の波長の方が小さいか、或いは、中央部の振幅より、端部の振幅の方が大きい
シート状導電部材の製造方法
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のシート状導電部材の製造方法において、
前記導電性線状体の軸方向と直交する方向において、端部の波長より、中央部の波長の方が小さいか、或いは、端部の振幅より、中央部の振幅の方が大きい
シート状導電部材の製造方法
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載のシート状導電部材の製造方法において、
前記シート状導電部材を、発熱体として用いる、
シート状導電部材の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状導電部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の導電性線状体が間隔をもって配列された疑似シート構造体を有するシート状導電部材(以下、「導電性シート」とも称する)は、発熱装置の発熱体、発熱するテキスタイルの材料、ディスプレイ用保護フィルム(粉砕防止フィルム)等、種々の物品の部材に利用できる可能性がある。
発熱体の用途に用いるシートとして、例えば、特許文献1には、一方向に延びた複数の線状体が間隔をもって配列された疑似シート構造体を有する導電性シートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/086395号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、線状体が、導電性シートの平面視において、波形状を有するとの記載がある。そして、線状体を波形状にすれば、線状体の軸方向における伸縮性を向上できる。しかしながら、導電性シートにおいては、必ずしもシート面内の全ての部分で、同等の伸縮性が求められるわけではない。例えば、導電性シートの端部では、高い伸縮性が求められるが、導電性シートの中央部では、伸縮性が求められないといったこともあり得る。また、導電性シートの一部にのみ、模様又は穴を設けること等も考えられる。
【0005】
本発明の目的は、シート面内における各部分で、シートの性質又はデザインを任意に設計できるシート状導電部材、及びシート状導電部材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るシート状導電部材は、基材と、樹脂層と、複数の導電性線状体が間隔をもって配列された疑似シート構造体とを備えるシート状導電部材であって、前記導電性線状体は、前記シート状導電部材の平面視において、波形状であり、前記導電性線状体の軸方向と直交する方向において、互いに隣接する前記導電性線状体同士のいずれかの間で、波長、振幅、位相及び太さのうちの少なくとも一つが、異なっていることを特徴とする。
【0007】
本発明の一態様に係るシート状導電部材においては、前記樹脂層は、前記シート状導電部材の平面視において、前記基材を覆っていない領域を有することが好ましい。
【0008】
本発明の一態様に係るシート状導電部材においては、前記樹脂層及び前記疑似シート構造体が、複数の帯状導電部材により形成され、前記帯状導電部材は、帯状の樹脂テープと、少なくとも一つの波形状の導電性線状体とを備えることが好ましい。
【0009】
本発明の一態様に係るシート状導電部材においては、前記導電性線状体の軸方向と直交する方向において、中央部の波長より、端部の波長の方が小さいか、或いは、中央部の振幅より、端部の振幅の方が大きいことが好ましい。
【0010】
本発明の一態様に係るシート状導電部材においては、前記導電性線状体の軸方向と直交する方向において、端部の波長より、中央部の波長の方が小さいか、或いは、端部の振幅より、中央部の振幅の方が大きいことが好ましい。
【0011】
本発明の一態様に係るシート状導電部材は、発熱体として用いることが好ましい。
【0012】
本発明の一態様に係るシート状導電部材の製造方法は、前述の本発明の一態様に係るシート状導電部材を製造するシート状導電部材の製造方法であって、前記基材上に、帯状の樹脂テープと、少なくとも一つの波形状の導電性線状体とを備える帯状導電部材を複数貼付することにより、前記シート状導電部材を作製することを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、シート面内における各部分で、シートの性質又はデザインを任意に設計できるシート状導電部材、及びシート状導電部材の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第一実施形態に係るシート状導電部材を示す概略図である。
図2図1のII-II断面を示す断面図である。
図3】本発明の第一実施形態に係る導電性線状体の一態様を示す模式図である。
図4】本発明の第一実施形態に係る導電性線状体の別の一態様を示す模式図である。
図5】本発明の第一実施形態に係る帯状導電部材を示す概略図である。
図6図5のVI-VI断面を示す断面図である。
図7A】本発明の第一実施形態に係るシート状導電部材を伸長させる前の状態を示す模式図である。
図7B】本発明の第一実施形態に係るシート状導電部材を伸長させた後の状態を示す模式図である。
図8A】本発明の第一実施形態に係るシート状導電部材の製造方法を説明するための図である。
図8B】本発明の第一実施形態に係るシート状導電部材の製造方法を説明するための図である。
図8C】本発明の第一実施形態に係るシート状導電部材の製造方法を説明するための図である。
図8D】本発明の第一実施形態に係るシート状導電部材の製造方法を説明するための図である。
図9】本発明の第二実施形態に係るシート状導電部材を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第一実施形態]
以下、本発明について実施形態を例に挙げて、図面に基づいて説明する。本発明は実施形態の内容に限定されない。なお、図面においては、説明を容易にするために拡大又は縮小をして図示した部分がある。
【0016】
(シート状導電部材)
本実施形態に係るシート状導電部材100は、図1及び図2に示すように、基材1と、疑似シート構造体2と、樹脂層3とを備えている。具体的には、シート状導電部材100は、基材1上に樹脂層3が積層され、樹脂層3上に疑似シート構造体2が積層されている。
【0017】
(基材)
基材1としては、例えば、紙、熱可塑性樹脂フィルム、硬化性樹脂の硬化物フィルム、金属箔、不織布、織物及びガラスフィルム等が挙げられる。熱可塑性樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリイミド系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、及びアクリル系等の樹脂フィルムが挙げられる。また、基材1は、伸縮性を有することが好ましい。基材1は、伸縮性を有する樹脂フィルム、不織布、又は織物であることがより好ましい。
なお、樹脂層3とは対向しない基材1の表面(シート状導電部材100から露出する表面)には、シート状導電部材100(疑似シート構造体2)の保護性を強化するために、紫外線硬化性樹脂等を用いたハードコート処理等が施されていてもよい。
【0018】
(疑似シート構造体)
疑似シート構造体2は、複数の導電性線状体21が、互いに間隔をもって配列された構造としている。導電性線状体21は、シート状導電部材100の平面視において、波形状である。波形状として具体的には、導電性線状体21は、例えば、正弦波、矩形波、三角波、又はのこぎり波等の波形状であってもよい。つまり、疑似シート構造体2は、導電性線状体21が、導電性線状体21の軸方向と直交する方向に、複数配列された構造としている。
【0019】
疑似シート構造体2が、上記のような構造であれば、導電性線状体21の軸方向に、シート状導電部材100を伸張した際に、導電性線状体21の断線を抑制できる。なお、シート状導電部材100は、導電性線状体21の軸方向と直交する方向に、伸張しても、導電性線状体21が切断されることがない。そのため、シート状導電部材100は、十分な伸縮性を有する。
【0020】
疑似シート構造体2においては、導電性線状体21の軸方向と直交する方向において、互いに隣接する導電性線状体21同士のいずれかの間で、波長、振幅、位相及び太さのうちの少なくとも一つが、異なっている。
【0021】
例えば、図3に示すように、導電性線状体21の軸方向と直交する方向において、隣接する導電性線状体21における波長及び振幅を、それぞれ、順に変化させてもよい。ここで、図3の上側がシート状導電部材100の端部で、図3の下側がシート状導電部材100の中央部であるとする。なお、図3には、導電性線状体21の軸方向を示す矢印と、導電性線状体21の軸方向と直交する方向(直交方向)を示す矢印を示している。
このとき、導電性線状体21の波長は、λ、λ及びλの順で、小さくなる。そして、導電性線状体21の振幅が同程度の場合、導電性線状体21の波長が小さいほど、シート状導電部材100の伸縮性が高くなる。そのため、シート状導電部材100の中央部と端部とで、伸縮性を変化させることができ、シート状導電部材100の中央部から端部に近づくほど、伸縮性を高くできる。また、導電性線状体21の振幅は、A、A及びAの順で、大きくなる。そして、導電性線状体21の波長が同程度の場合、導電性線状体21の振幅が大きいほど、シート状導電部材100の伸縮性が高くなる。そのため、シート状導電部材100の中央部と端部とで、伸縮性を変化させることができ、シート状導電部材100の中央部から端部に近づくほど、伸縮性を高くできる。このように、シート面内における各部分で、シートの性質(例えば、伸縮性)を任意に設計できる。
そのほか、導電性線状体21の波長を、λ、λ及びλの順で、大きくしてもよい。また、導電性線状体21の振幅は、A、A及びAの順で、小さくしてもよい。このようにすることで、シート状導電部材100の中央部の伸縮性がより大きくなり、球面にシート状導電部材100をシワなく貼り付けることができる。
【0022】
また、図4に示すように、導電性線状体21の軸方向と直交する方向において、隣接する導電性線状体21における位相を、ずらしてもよい。例えば、隣接する導電性線状体21における位相を、半波長ずらすことが挙げられる。
このとき、隣接する導電性線状体21の間隔を半波長ずらすことで、隣接する導電性線状体21の間隔が、位相がずれていない場合の間隔(図4の一点鎖線の間隔)よりも大きくなる箇所ができる。そして、図4に示すように、この箇所に、例えば穴Hを設ければ、位相がずれていない場合よりも穴Hを大きくできる。このように、シート面内における各部分で、デザイン(例えば、穴)を任意に設計できる。
さらに、導電性線状体21の軸方向と直交する方向において、隣接する導電性線状体21における太さ及び材質を、変化させてもよい。
導電性線状体21における太さ及び材質を変えることで、例えば、発熱量を変えることができる。このように、シート面内における各部分で、シートの性質(例えば、抵抗値、発熱量、又は発熱部位)を任意に設計できる。
そのほか、導電性線状体21を配列方向において、導電性線状体21における太さ及び材質を変え、導電性線状体21を配列方向の両端部の抵抗値をそろえてもよい。このようにすることで、シート状導電部材100を発熱体として使用する場合、シート面内を均一に発熱させることができる。
【0023】
導電性線状体21の体積抵抗率Rは、1.0×10-9Ω・m以上1.0×10-3Ω・m以下であることが好ましく、1.0×10-8Ω・m以上1.0×10-4Ω・m以下であることがより好ましい。導電性線状体21の体積抵抗率Rを上記範囲にすると、疑似シート構造体2の面抵抗が低下しやすくなる。
導電性線状体21の体積抵抗率Rの測定方法は、次の通りである。導電性線状体21の両端に銀ペーストを塗布し、端部からの長さ40mmの部分の抵抗を測定し、導電性線状体21の抵抗値を求める。そして、導電性線状体21の断面積(単位:m)を上記の抵抗値に乗じ、得られた値を上記の測定した長さ(0.04m)で除して、導電性線状体21の体積抵抗率Rを算出する。
【0024】
導電性線状体21の断面の形状は、特に限定されず、多角形、扁平形状、楕円形状、又は円形状等を取り得るが、樹脂層3との馴染み等の観点から、楕円形状、又は円形状であることが好ましい。
導電性線状体21の断面が円形状である場合には、導電性線状体21の太さ(直径)D(図2参照)は、5μm以上75μm以下であることが好ましい。シート抵抗の上昇抑制と、シート状導電部材100を発熱体として用いた場合の発熱効率及び耐絶縁破壊特性の向上との観点から、導電性線状体21の直径Dは、8μm以上60μm以下であることがより好ましく、12μm以上40μm以下であることがさらに好ましい。
導電性線状体21の断面が楕円形状である場合には、長径が上記の直径Dと同様の範囲にあることが好ましい。
【0025】
導電性線状体21の直径Dは、デジタル顕微鏡を用いて、疑似シート構造体2の導電性線状体21を観察し、無作為に選んだ5箇所で、導電性線状体21の直径を測定し、その平均値とする。
【0026】
導電性線状体21の間隔L(図2参照)は、0.3mm以上12.0mm以下であることが好ましく、0.5mm以上10.0mm以下であることがより好ましく、0.8mm以上7.0mm以下であることがさらに好ましい。
導電性線状体21同士の間隔が上記範囲であれば、導電性線状体がある程度密集しているため、疑似シート構造体の抵抗を低く維持し、シート状導電部材100を発熱体として用いる場合の温度上昇の分布を均一にする等の、シート状導電部材100の機能の向上を図ることができる。
【0027】
導電性線状体21の間隔Lは、デジタル顕微鏡を用いて、疑似シート構造体2の導電性線状体21を観察し、隣り合う2つの導電性線状体21の間隔を測定する。
なお、隣り合う2つの導電性線状体21の間隔とは、導電性線状体21を配列させていった方向に沿った長さであって、2つの導電性線状体21の対向する部分間の長さである(図2参照)。間隔Lは、導電性線状体21の配列が不等間隔である場合には、全ての隣り合う導電性線状体21同士の間隔の平均値である。
【0028】
導電性線状体21は、特に制限はないが、金属ワイヤーを含む線状体(以下「金属ワイヤー線状体」とも称する)であることがよい。金属ワイヤーは高い熱伝導性、高い電気伝導性、高いハンドリング性、汎用性を有するため、導電性線状体21として金属ワイヤー線状体を適用すると、疑似シート構造体2の抵抗値を低減しつつ、光線透過性が向上しやすくなる。また、シート状導電部材100(疑似シート構造体2)を発熱体として適用したとき、速やかな発熱が実現されやすくなる。さらに、上述したように直径が細い線状体を得られやすい。
なお、導電性線状体21としては、金属ワイヤー線状体の他に、カーボンナノチューブを含む線状体、及び、糸に導電性被覆が施された線状体が挙げられる。
【0029】
カーボンナノチューブ線状体は、例えば、カーボンナノチューブフォレスト(カーボンナノチューブを、基板に対して垂直方向に配向するよう、基板上に複数成長させた成長体のことであり、「アレイ」と称される場合もある)の端部から、カーボンナノチューブをシート状に引き出し、引き出したカーボンナノチューブシートを束ねた後、カーボンナノチューブの束を撚ることにより得られる。このような製造方法において、撚りの際に捻りを加えない場合には、リボン状のカーボンナノチューブ線状体が得られ、捻りを加えた場合には、糸状の線状体が得られる。リボン状のカーボンナノチューブ線状体は、カーボンナノチューブが捻られた構造を有しない線状体である。このほか、カーボンナノチューブの分散液から、紡糸をすること等によっても、カーボンナノチューブ線状体を得ることができる。紡糸によるカーボンナノチューブ線状体の製造は、例えば、米国特許出願公開第2013/0251619号明細書(日本国特開2012-126635号公報)に開示されている方法により行うことができる。カーボンナノチューブ線状体の直径の均一さが得られる観点からは、糸状のカーボンナノチューブ線状体を用いることが望ましく、純度の高いカーボンナノチューブ線状体が得られる観点からは、カーボンナノチューブシートを撚ることによって糸状のカーボンナノチューブ線状体を得ることが好ましい。カーボンナノチューブ線状体は、2本以上のカーボンナノチューブ線状体同士が編まれた線状体であってもよい。また、カーボンナノチューブ線状体は、カーボンナノチューブと他の導電性材料が複合された線状体(以下「複合線状体」とも称する)であってもよい。
【0030】
複合線状体としては、例えば、(1)カーボンナノチューブフォレストの端部から、カーボンナノチューブをシート状に引き出し、引き出したカーボンナノチューブシートを束ねた後、カーボンナノチューブの束を撚るカーボンナノチューブ線状体を得る過程において、カーボンナノチューブのフォレスト、シート若しくは束、又は撚った線状体の表面に、金属単体又は金属合金を蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング、湿式めっき等により担持させた複合線状体、(2)金属単体の線状体若しくは金属合金の線状体又は複合線状体と共に、カーボンナノチューブの束を撚った複合線状体、(3)金属単体の線状体若しくは金属合金の線状体又は複合線状体と、カーボンナノチューブ線状体又は複合線状体とを編んだ複合線状体等が挙げられる。なお、(2)の複合線状体においては、カーボンナノチューブの束を撚る際に、(1)の複合線状体と同様にカーボンナノチューブに対して金属を担持させてもよい。また、(3)の複合線状体は、2本の線状体を編んだ場合の複合線状体であるが、少なくとも1本の金属単体の線状体若しくは金属合金の線状体又は複合線状体が含まれていれば、カーボンナノチューブ線状体又は金属単体の線状体若しくは金属合金の線状体若しくは複合線状体の3本以上を編み合わせてあってもよい。
複合線状体の金属としては、例えば、金、銀、銅、鉄、アルミニウム、ニッケル、クロム、スズ、亜鉛等の金属単体、及び、これら金属単体の少なくとも一種を含む合金(銅-ニッケル-リン合金、及び、銅-鉄-リン-亜鉛合金等)が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
導電性線状体21は、糸に導電性被覆が施された線状体であってもよい。糸としては、ナイロン、ポリエステル等の樹脂から紡糸した糸等が挙げられる。導電性被覆としては、金属、導電性高分子、炭素材料等の被膜等が挙げられる。導電性被覆は、メッキ又は蒸着法等により形成することができる。糸に導電性被覆が施された線状体は、糸の柔軟性を維持しつつ、線状体の導電性を向上させることができる。つまり、疑似シート構造体2の抵抗を、低下させることが容易となる。
【0032】
導電性線状体21は、金属ワイヤーを含む線状体であってもよい。金属ワイヤーを含む線状体は、1本の金属ワイヤーからなる線状体であってもよいし、複数本の金属ワイヤーを撚った線状体であってもよい。
金属ワイヤーとしては、銅、アルミニウム、タングステン、鉄、モリブデン、ニッケル、チタン、銀、及び金等の金属、又は、金属を2種以上含む合金(例えば、ステンレス鋼、炭素鋼等の鋼鉄、真鍮、りん青銅、ジルコニウム銅合金、ベリリウム銅、鉄ニッケル、ニクロム、ニッケルチタン、カンタル、ハステロイ、及びレニウムタングステン等)を含むワイヤーが挙げられる。また、金属ワイヤーは、錫、亜鉛、銀、ニッケル、クロム、ニッケルクロム合金、又は、はんだ等でめっきされたものであってもよく、後述する炭素材料又はポリマーにより表面が被覆されたものであってもよい。特に、タングステン及びモリブデン並びにこれらを含む合金から選ばれる一種以上の金属を含むワイヤーが、低い体積抵抗率の導電性線状体21とする観点から好ましい。
金属ワイヤーとしては、炭素材料で被覆された金属ワイヤーも挙げられる。金属ワイヤーは、炭素材料で被覆されていると、金属光沢が低減し、金属ワイヤーの存在を目立たなくすることが容易となる。また、金属ワイヤーは、炭素材料で被覆されていると金属腐食も抑制される。
金属ワイヤーを被覆する炭素材料としては、非晶質炭素(例えば、カーボンブラック、活性炭、ハードカーボン、ソフトカーボン、メソポーラスカーボン、及びカーボンファイバー等)、グラファイト、フラーレン、グラフェン及びカーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0033】
(樹脂層)
樹脂層3は、樹脂を含む層である。また、樹脂層3は、接着剤を含む層であることが好ましい。樹脂層3に疑似シート構造体2を形成する際に、接着剤により、導電性線状体21の樹脂層3への貼り付けが容易となる。
【0034】
樹脂層3は、乾燥又は硬化可能な樹脂からなる層であってもよい。これにより、疑似シート構造体2を保護するのに十分な硬度が樹脂層3に付与され、樹脂層3は保護膜としても機能する。また、硬化又は乾燥後の樹脂層3は、耐衝撃性を有し、衝撃による樹脂層3の変形も抑制できる。
【0035】
樹脂層3は、短時間で簡便に硬化することができる点で、紫外線、可視エネルギー線、赤外線、電子線等のエネルギー線硬化性であることが好ましい。なお、「エネルギー線硬化」には、エネルギー線を用いた加熱による熱硬化も含まれる。また、樹脂層3の両方が、エネルギー線硬化性であることがより好ましい。
【0036】
樹脂層3の接着剤は、熱により硬化する熱硬化性のもの、熱により接着するいわゆるヒートシールタイプのもの、湿潤させて貼付性を発現させる接着剤等も挙げられる。ただし、適用の簡便さからは、樹脂層3が、エネルギー線硬化性であることが好ましい。エネルギー線硬化性樹脂としては、例えば、分子内に少なくとも1個の重合性二重結合を有する化合物が挙げられ、(メタ)アクリロイル基を有するアクリレート系化合物が好ましい。
【0037】
前記アクリレート系化合物としては、例えば、鎖状脂肪族骨格含有(メタ)アクリレート(トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、及び1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等)、環状脂肪族骨格含有(メタ)アクリレート(ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、及びジシクロペンタジエンジ(メタ)アクリレート等)、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート(ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等)、オリゴエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ変性(メタ)アクリレート、前記ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート以外のポリエーテル(メタ)アクリレート、及びイタコン酸オリゴマー等が挙げられる。
【0038】
エネルギー線硬化性樹脂の重量平均分子量(Mw)は、100~30000であることが好ましく、300~10000であることがより好ましい。
【0039】
接着剤組成物が含有するエネルギー線硬化性樹脂は、1種のみでもよいし、2種以上でもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。さらに、後述する熱可塑性樹脂と組み合わせてもよく、組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0040】
樹脂層3は、粘着剤(感圧性接着剤)から形成される粘着剤層であってもよい。粘着剤層の粘着剤は、特に限定されない。例えば、粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、及びポリビニルエーテル系粘着剤等が挙げられる。これらの中でも、粘着剤は、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、及びゴム系粘着剤からなる群から選択される少なくともいずれかであることが好ましく、アクリル系粘着剤であることがより好ましい。
【0041】
アクリル系粘着剤としては、例えば、直鎖のアルキル基又は分岐鎖のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含む重合体(つまり、アルキル(メタ)アクリレートを少なくとも重合した重合体)、環状構造を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含むアクリル系重合体(つまり、環状構造を有する(メタ)アクリレートを少なくとも重合した重合体)等が挙げられる。ここで「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」の双方を示す語として用いており、他の類似用語についても同様である。
【0042】
アクリル系重合体が共重合体である場合、共重合の形態としては、特に限定されない。アクリル系共重合体としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、又はグラフト共重合体のいずれであってもよい。
【0043】
これらの中でも、アクリル系粘着剤としては、炭素数1~20の鎖状アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(a1’)(以下、「単量体成分(a1’)」ともいう)に由来する構成単位(a1)、及び官能基含有モノマー(a2’)(以下、「単量体成分(a2’)」ともいう)に由来する構成単位(a2)を含むアクリル系共重合体が好ましい。
なお、当該アクリル系共重合体は、単量体成分(a1’)及び単量体成分(a2’)以外のその他の単量体成分(a3’)に由来する構成単位(a3)をさらに含んでいてもよい。
【0044】
単量体成分(a1’)が有する鎖状アルキル基の炭素数としては、粘着特性の向上の観点から、1以上12以下であることが好ましく、4以上8以下であることがより好ましく、4以上6以下であることがさらに好ましい。単量体成分(a1’)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、及びステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの単量体成分(a1’)の中でも、ブチル(メタ)アクリレート及び2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートが好ましく、ブチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0045】
構成単位(a1)の含有量は、上記アクリル系共重合体の全構成単位(100質量%)に対して、50質量%以上99.5質量%以下であることが好ましく、55質量%以上99質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上97質量%以下であることがさらに好ましく、65質量%以上95質量%以下であることが特に好ましい。
【0046】
単量体成分(a2’)としては、例えば、ヒドロキシ基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、シアノ基含有モノマー、ケト基含有モノマー、及びアルコキシシリル基含有モノマー等が挙げられる。これらの単量体成分(a2’)の中でも、ヒドロキシ基含有モノマーとカルボキシ基含有モノマーが好ましい。
ヒドロキシ基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、及びイタコン酸等が挙げられ、(メタ)アクリル酸が好ましい。
エポキシ基含有モノマーとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アミノ基含有モノマーとしては、例えばジアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
シアノ基含有モノマーとしては、例えばアクリロニトリル等が挙げられる。
【0047】
構成単位(a2)の含有量は、上記アクリル系共重合体の全構成単位(100質量%)に対して、0.1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上30質量%以下であることがさらに好ましく、1.5質量%以上20質量%以下であることが特に好ましい。
【0048】
単量体成分(a3’)としては、例えば、環状構造を有する(メタ)アクリレート(例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イミド(メタ)アクリレート、及びアクリロイルモルフォリン等)、酢酸ビニル、及びスチレン等が挙げられる。
【0049】
構成単位(a3)の含有量は、上記アクリル系共重合体の全構成単位(100質量%)に対して、0質量%以上40質量%以下であることが好ましく、0質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、0質量%以上25質量%以下であることがさらに好ましく、0質量%以上20質量%以下であることが特に好ましい。
【0050】
なお、上述の単量体成分(a1’)は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよく、上述の単量体成分(a2’)は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよく、上述の単量体成分(a3’)は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
アクリル系共重合体は架橋剤により架橋されていてもよい。架橋剤としては、例えば、公知のエポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤等が挙げられる。アクリル系共重合体を架橋する場合には、単量体成分(a2’)に由来する官能基を、架橋剤と反応する架橋点として利用することができる。
【0052】
樹脂層3は、上記粘着剤の他に、さらにエネルギー線硬化性の成分を含有していてもよい。
エネルギー線硬化性の成分としては、例えばエネルギー線が紫外線である場合には、多官能(メタ)アクリレート化合物等の、一分子中に紫外線重合性の官能基を2つ以上有する化合物等が挙げられる。
【0053】
また、粘着剤としてアクリル系粘着剤を適用する場合、エネルギー線硬化性の成分として、アクリル系共重合体における単量体成分(a2’)に由来する官能基に反応する官能基と、エネルギー線重合性の官能基とを一分子中に有する化合物を用いてもよい。当該化合物の官能基と、アクリル系共重合体における単量体成分(a2’)に由来する官能基との反応により、アクリル系共重合体の側鎖がエネルギー線照射により重合可能となる。粘着剤がアクリル系粘着剤以外でも、粘着剤となる共重合体以外の共重合体成分として、同様に側鎖がエネルギー線重合性である成分を用いてもよい。
【0054】
樹脂層3が、エネルギー線硬化性である場合には、粘着剤層は光重合開始剤を含有することがよい。光重合開始剤により、粘着剤層がエネルギー線照射により硬化する速度を高めることができる。
【0055】
樹脂層3に用いられる熱硬化性樹脂としては、特に限定されず、具体的には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノキシ樹脂、アミン系化合物、酸無水物系化合物等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、イミダゾール系硬化触媒を使用した硬化に適すという観点から、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アミン系化合物及び酸無水物系化合物を使用することが好ましく、特に、優れた硬化性を示すという観点から、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、それらの混合物、又はエポキシ樹脂と、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アミン系化合物及び酸無水物系化合物からなる群から選択される少なくとも1種との混合物を使用することが好ましい。
【0056】
樹脂層3に用いられる湿気硬化性樹脂としては、特に限定されず、湿気でイソシアネート基が生成してくる樹脂であるウレタン樹脂、変性シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0057】
エネルギー線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂を用いる場合、光重合開始剤又は熱重合開始剤等を用いることが好ましい。光重合開始剤又は熱重合開始剤等を用いることで、架橋構造が形成され、疑似シート構造体2を、より強固に保護することが可能になる。
【0058】
光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4-ジエチルチオキサントン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、2-クロロアントラキノン、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイド、及びビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニル-ホスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0059】
熱重合開始剤としては、過酸化水素、ペルオキソ二硫酸塩(ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、及びペルオキソ二硫酸カリウム等)、アゾ系化合物(2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリン酸)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、及び2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等)、及び有機過酸化物(過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酢酸、過コハク酸、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルヒドロパーオキサイド、及びクメンヒドロパーオキサイド等)等が挙げられる。
【0060】
これらの重合開始剤は、1種単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの重合開始剤を用いて架橋構造を形成する場合、その使用量は、エネルギー線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上100質量部以下であることが好ましく、1質量部以上100質量部以下であることがより好ましく、1質量部以上10質量部以下であることが特に好ましい。
【0061】
樹脂層3は、硬化性でなく、例えば、熱可塑性樹脂組成物からなる層であってもよい。そして、熱可塑性樹脂組成物中に溶剤を含有させることで、熱可塑性樹脂層を軟化させることができる。これにより、樹脂層3に疑似シート構造体2を形成する際に、導電性線状体21の樹脂層3への貼り付けが容易となる。一方で、熱可塑性樹脂組成物中の溶剤を揮発させることで、熱可塑性樹脂層を乾燥させ、固化させることができる。
【0062】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリエーテルサルホン、ポリイミド及びアクリル樹脂等が挙げられる。
溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、炭化水素系溶剤、ハロゲン化アルキル系溶媒及び水等が挙げられる。
【0063】
樹脂層3は、無機充填材を含有していてもよい。無機充填材を含有することで、硬化後の樹脂層3の硬度をより向上させることができる。また、樹脂層3の熱伝導性が向上する。
【0064】
無機充填材としては、例えば、無機粉末(例えば、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、チタンホワイト、ベンガラ、炭化珪素、及び窒化ホウ素等の粉末)、無機粉末を球形化したビーズ、単結晶繊維、及びガラス繊維等が挙げられる。これらの中でも、無機充填材としては、シリカフィラー及びアルミナフィラーが好ましい。無機充填材は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
樹脂層3には、その他の成分が含まれていてもよい。その他の成分としては、例えば、有機溶媒、難燃剤、粘着付与剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、可塑剤、消泡剤、及び濡れ性調整剤等の周知の添加剤が挙げられる。
【0066】
樹脂層3の厚さは、シート状導電部材100の用途に応じて適宜決定される。例えば、接着性の観点から、樹脂層3の厚さは、3μm以上150μm以下であることが好ましく、5μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0067】
(帯状導電部材)
本実施形態に係るシート状導電部材100においては、樹脂層3及び疑似シート構造体2が、図1及び図2に示すように、複数の帯状導電部材10により形成されることが好ましい。
帯状導電部材10は、図5及び図6に示すように、帯状の樹脂テープ31と、少なくとも一つの波形状の導電性線状体21とを備える。ここで、1つの帯状導電部材10は、複数の導電性線状体21を備えていてもよい。
そして、シート状導電部材100に用いる複数の帯状導電部材10としては、導電性線状体21の波長、振幅及び太さのうちの少なくとも一つが、異なっていることが好ましい。また、シート状導電部材100に用いる複数の帯状導電部材10としては、帯状導電部材10における帯状の樹脂テープ31の幅W(図6参照)が、異なっていてもよい。
シート状導電部材100においては、導電性線状体21における波長が異なる複数の帯状導電部材10が、基材1上に積層されている。導電性線状体21の波長は、シート状導電部材100の中央部の導電性線状体21における波長λが最も大きい。そして、シート状導電部材100の端部の導電性線状体21における波長λ及びλが最も小さい。そのため、シート状導電部材100の中央部と端部とで、伸縮性を変化させることができ、シート状導電部材100の中央部から端部に近づくほど、伸縮性を高くできる。例えば、図7Aに示すシート状導電部材100を伸長させると、図7Bに示すように、シート状導電部材100の端部がくびれ、端部側の導電性線状体21がより大きく伸長され、波形もより大きく変化する。このとき、端部側の導電性線状体21の波長λ及びλの変化は大きいが、中央部の導電性線状体の波長λの変化は少ない。
そのほか、前述の波長の大きさの順を逆にして、波長λを最も小さくしてもよい。そして、波長λ及びλが最も大きくなる。このようにすることで、シート状導電部材100の端部から中央部に近づくほど、伸縮性を高くできる。
さらに、シート状導電部材100の一方の端部側から他方の端部側にかけて、順次、波長を大きくしてもよい。例えば、波長λが最も大きく、波長λが最も小さくなる。このようにすることで、シート状導電部材100の一方の端部側のみ伸縮性が高くできる。
このように導電性線状体21の波長を調整することで、複雑な曲面に対しても精度よくシート状導電部材をシワ無く設けることができる。
【0068】
また、帯状導電部材10は、間隔を空けて設けられている。そのため、樹脂層3は、シート状導電部材100の平面視において、基材1を覆っていない領域を有している。このような領域が存在することで、例えば、通気性を有する基材1を用いることで、樹脂層3の通気性が低いとしても、シート状導電部材100の通気性を確保できる。
【0069】
(帯状導電部材の製造方法)
帯状導電部材10の製造方法は、特に限定されない。帯状導電部材10は、例えば、次の工程を経て製造される。
まず、剥離シートの上に、樹脂層3の形成用組成物を塗布し、塗膜を形成する。次に、塗膜を乾燥させて、樹脂層3を作製する。次に、ドラム部材の外周面に剥離シート付きの樹脂層3を配置した状態で、ドラム部材を回転させながら、樹脂層3上に導電性線状体21を螺旋状に巻き付ける。その後、螺旋状に巻き付けた導電性線状体21の束をドラム部材の軸方向に沿って切断する。これにより、樹脂層3上に複数の導電性線状体21が配列されたものが得られる。次に、導電性線状体21を切断しないように、ドラム部材の軸方向と直交する方向に沿って、切断して、帯状の樹脂テープ31と、導電性線状体21とを備える剥離シート付きの帯状導電部材10を得る。そして、得られた剥離シート付きの帯状導電部材10をドラム部材から取り出す。この工程を経た後、剥離シートを剥離シート付きの帯状導電部材10から剥離することで、帯状導電部材10が得られる。この方法によれば、例えば、ドラム部材を回転させながら、導電性線状体21の繰り出し部をドラム部材の軸と平行な方向に沿って移動させることで、導電性線状体21の波長、振幅及び太さが同じ帯状導電部材10を作製することが容易である。なお、ドラム部材又は繰り出し部の条件を、別の条件に変更することで、導電性線状体21の波長、振幅又は太さが異なる帯状導電部材10を作製できる。
【0070】
(シート状導電部材の製造方法)
本実施形態に係るシート状導電部材の製造方法は、図8A図8Dに示すように、基材1上に、帯状の樹脂テープ31と、少なくとも一つの波形状の導電性線状体21とを備える帯状導電部材10を複数貼付することにより、シート状導電部材100を作製する方法である。
【0071】
具体的には、まず、図8Aに示す、基材1を準備する。次に、基材1上に、図8Bに示すように、帯状導電部材10を貼り付ける。次いで、基材1上に、図8C及び図8Dに示すように、順次、導電性線状体21における波長及び振幅が異なる帯状導電部材10を複数貼り付ける。
このようにして、本実施形態に係るシート状導電部材100を効率よく製造できる。
すなわち、従来の方法では、導電性線状体21の軸方向と直交する方向において、隣接する導電性線状体21における波長及び振幅を、それぞれ、順に変化させることは、必ずしも容易ではない。なぜならば、樹脂層3上に導電性線状体21を形成する場合、通常は、樹脂層3上に導電性線状体21を螺旋状に巻き付け、その後、ドラム部材の軸方向と直交する方向に沿って、切断する。そして、螺旋状に巻き付ける際に、導電性線状体21における波長及び振幅を変化させるのは容易ではない。
これに対し、本実施形態に係るシート状導電部材の製造方法によれば、予め、導電性線状体21における波長及び振幅が異なる帯状導電部材10を、数種類準備しておくことができる。そして、基材1上に、順次、導電性線状体21における波長及び振幅が異なる帯状導電部材10を複数貼り付けることで、本実施形態に係るシート状導電部材100を効率よく製造できる。
【0072】
(第一実施形態の作用効果)
本実施形態によれば、次のような作用効果を奏することができる。
(1)本実施形態によれば、シート状導電部材100の中央部と端部とで、伸縮性を変化させることができ、シート状導電部材100の中央部から端部に近づくほど、伸縮性を高くできる。このように、シート面内における各部分で、シートの性質(例えば、伸縮性)を任意に設計できる。
(2)本実施形態によれば、導電性線状体21の軸方向と直交する方向において、隣接する導電性線状体21における位相を、半波長ずらしてもよい。このとき、隣接する導電性線状体21の間隔が、位相がずれていない場合の間隔よりも大きくなる箇所ができる。そして、この箇所に、例えば穴Hを設ければ、位相がずれていない場合よりも穴Hを大きくできる。このように、シート面内における各部分で、デザイン(例えば、穴)を任意に設計できる。
(3)本実施形態によれば、樹脂層3は、シート状導電部材100の平面視において、基材1を覆っていない領域を有している。このような領域が存在することで、例えば、樹脂層3の通気性が低いとしても、シート状導電部材100の通気性を確保できる。
(4)本実施形態によれば、予め、導電性線状体21における波長及び振幅が異なる帯状導電部材10を、数種類準備しておくことができる。そして、基材1上に、順次、導電性線状体21における波長及び振幅が異なる帯状導電部材10を複数貼り付けることで、本実施形態に係るシート状導電部材100を効率よく製造できる。
【0073】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、本実施形態では、図9に示すシート状導電部材100Aを発熱体として用いた一態様について説明する。
本実施形態に係るシート状導電部材100Aは、面抵抗が低い疑似シート構造体2を有するため、発熱体として適用することが好適である。つまり、本実施形態に係るシート状導電部材100Aからなる発熱体(本実施形態に係る発熱体)は、印加する電圧の低減が可能な発熱体となる。
【0074】
なお、本実施形態では、疑似シート構造体2上に電極4を取り付けている以外は第一実施形態と同様の構成であるので、電極4について説明し、それ以外の前の説明と共通する箇所は省略する。
電極4は、導電性線状体21に電流を供給するために用いられる。電極4は、導電性線状体21の両端部に電気的に接続されて配置される。
導電性線状体21の直径が小さい場合であっても、導電性線状体21との良好な接触面積を確保することができることから電極は帯状であることが好ましい。電極としては、導電性の箔又は板を用いることができる。導電性の箔又は板からなる電極には、貫通孔が形成されていることが好ましい。貫通孔が形成されていることにより、樹脂層3との密着性が向上し、導電性線状体21の電極の接続が良好なものとなる。貫通孔は、エキスパンド又はパンチング処理により設けることができる。
電極4としては、具体的には、例えば、金、銀、銅、ニッケル、鉄、アルミニウム、タングステン、モリブデン、及びチタン等の金属の箔又は板が適用される。その他、電極は、上記の金属又はその他の金属、非金属元素を含むステンレス鋼、炭素鋼、真鍮、りん青銅、ジルコニウム銅合金、ベリリウム銅、鉄ニッケル、ニクロム、ニッケルチタン、カンタル、ハステロイ、及びレニウムタングステン等の合金の箔又は板を適用してもよく、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェン等の炭素材料を含む帯状体を用いてもよい。また、プラスチックフィルムと積層された積層体であってもよい。
その他、電極4は、導電性線状体21と電極4との良好な接続状態を確保する観点から、液状の導電材料を固化した電極(つまり、液状の導電材料の固化物からなる電極)であってもよい。液状の導電材料としては、導電性ペーストが代表的に挙げられる。導電性ペーストとしては、例えば、金属粒子又は炭素粒子をバインダー樹脂及び/又は有機溶剤に分散させたペーストが適用できる。金属粒子としては、例えば、金、銀、銅、及びニッケル等の金属の粒子が挙げられる。バインダー樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、及びフェノール樹脂等の周知の樹脂が挙げられる。
なお、液状の導電材料としては、導電性ペースト以外に、例えば、半田、及び導電性インク等を適用してもよい。
電極4は、導電性の箔又は板と液状の導電材料を併用しても良い。疑似シート構造体2に液状の導電材料を塗布したのちに導電性の箔又は板を張り付けても良いし、貫通孔が形成された導電性の箔又は板を取り付けたのちに、液状の導電材料を塗布してもよい。
導電性の箔又は板と液状の導電材料を併用することで、電極の接続がより良好なものとなる。
その他、電極4は、導電性線状体21を密に配列(例えば、直線状又は波形状)したものを電極として用いてもよい。
【0075】
電極4と疑似シート構造体2の抵抗値の比は、0.0001以上0.3以下であることが好ましく、0.0005以上0.1以下であることがより好ましい。電極と疑似シート構造体2の抵抗値の比は、「電極4の抵抗値/疑似シート構造体2の抵抗値」により求めることができる。この範囲内にあることで、シート状導電部材100を発熱体として用いた場合、電極部分での異常発熱が抑制される。疑似シート構造体2をフィルムヒータとして用いる場合、疑似シート構造体2のみが発熱し、発熱効率の良好なフィルムヒータを得ることができる。
電極4と疑似シート構造体2の抵抗値は、テスターを用いて測定することができる。まず電極4の抵抗値を測定し、電極4を貼付した疑似シート構造体2の抵抗値を測定する。その後、電極を貼付した疑似シート構造体2の抵抗値から電極4の測定値を引くことで、電極4及び疑似シート構造体2それぞれの抵抗値を算出する。
【0076】
電極4の厚さは、2μm以上200μm以下であることが好ましく、2μm以上120μm以下であることがより好ましく、10μm以上100μm以下であることが特に好ましい。電極の厚さが、上記範囲内であれば、電気伝導率が高く低抵抗となり疑似シート構造体との抵抗値を低く抑えられる。また、電極として十分な強度が得られる。
【0077】
(第二実施形態の作用効果)
本実施形態によれば、前記第一実施形態における作用効果(1)~(4)と同様の作用効果、並びに、下記作用効果(5)を奏することができる。
(5)本実施形態によれば、電極4により、面抵抗が低い疑似シート構造体2に、電気を通すことができ、発熱させることができる。これにより、印加する電圧の低減が可能な発熱体が得られる。
【0078】
[実施形態の変形]
本発明は前述の実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
例えば、前述の実施形態では、疑似シート構造体2は単層であるが、これに限定されない。例えば、シート状導電部材100は、疑似シート構造体2をシート面方向(シート表面に沿った方向)に複数配列したシートであってもよい。複数の疑似シート構造体2は、シート状導電部材100の平面視において、互いの導電性線状体21を平行に配列してもよいし、交差させて配列させてもよい。
また、前述の第二実施形態では、シート状導電部材100Aに電極4を取り付けているが、これに限定されない。例えば、シート状導電部材100Aは、電極4を備えていなくてもよい。電極4を予めシート状導電部材を装着する物品に設けておき、この電極4に疑似シート構造体2が接するように、シート状導電部材100を貼り付けてもよい。
【0079】
(シート状導電部材の用途)
シート状導電部材100を発熱体(フィルムヒータ)として用いる場合、発熱体の用途としては、例えば、デフォッガー(defogger)、及びデアイサー(deicer)等も挙げられる。この場合、被着体としては、例えば、浴室等の鏡、輸送用装置(乗用車、鉄道、船舶、及び航空機等)の窓、建物の窓、壁紙、アイウェア、信号機の点灯面、及び標識等が挙げられる。近年では、電気自動車のバッテリーの温度コントロールにヒータが使われており、薄いヒータはラミネート型セルの個別の温度コントロールに好適である。また、電気信号の配線のためのフラットケーブルとしても利用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1…基材、2…疑似シート構造体、21…導電性線状体、3…樹脂層、31…樹脂テープ、4…電極、10…帯状導電部材、100,100A…シート状導電部材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図8D
図9