(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】自己潤滑性医療用物品
(51)【国際特許分類】
A61L 29/06 20060101AFI20231228BHJP
【FI】
A61L29/06
(21)【出願番号】P 2021516640
(86)(22)【出願日】2019-09-23
(86)【国際出願番号】 US2019052351
(87)【国際公開番号】W WO2020068617
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-09-06
(32)【優先日】2018-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】595117091
【氏名又は名称】ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホー バイ
(72)【発明者】
【氏名】マーク ダブリュ.ワイマー
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-533759(JP,A)
【文献】特開昭63-289012(JP,A)
【文献】国際公開第2012/023358(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/066381(WO,A1)
【文献】JOURNAL OF MATERIALS SCIENCE: MATERIALS IN MEDICINE,1994年,Vol.5,pp.452-456
【文献】フルオロリンク(R)PFPE コーティングの表面改質剤,2015年,pp.1-2
【文献】J. Am. Chem. Soc.,2018年,Vol.140,pp.13272-13284
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 29/00
C08G 18/00
C08G 71/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン系樹脂から形成される医療用物品であって、前記ポリウレタン系樹脂は、以下の成分:
ジイソシアネート;
ジオール鎖延長剤;
ポリグリコール;および
変性オリゴマー;
の反応生成物のランダム共重合体であり、
前記変性オリゴマーは、前記ジイソシアネート、前記ポリグリコール、および前記ジオール鎖延長剤によって形成される前記ポリウレタン系樹脂の主鎖中に組み込まれており、前記変性オリゴマーは、
HO(CH
2
CH
2
O)
p
CH
2
CF
2
O(CF
2
CF
2
O)
q
(CF
2
O)
r
CF
2
CH
2
(OCH
2
CH
2
)
p
OH
(式中、p+q+rの合計値は、前記オリゴマーのフッ素含有量を55重量%~60重量%の範囲内とし、および前記オリゴマーの平均分子量を1500~2200g/molの範囲内とする)の構造を有するジオール含有ペルフルオロポリエーテルを含み、
前記ポリグリコールは、1000Da未満の平均分子量を有するポリテトラメチレンエーテルグリコールを含み、
前記樹脂の硬質セグメントの含有量が、25重量%~75重量%の範囲であり、前記樹脂の軟質セグメントの含有量が、75重量%~25重量%の範囲であり、
前記医療用物品の表面における、前記ポリウレタン系樹脂の前記変性オリゴマーの濃度が、前記ポリウレタン系樹脂の成分の均一な分布に基づく理論濃度よりも高く、前記医療用物品は、自己潤滑性および/または自己防汚性の医療用物品として効果的である、医療用物品。
【請求項2】
前記変性オリゴマーは、フッ素含有量が55重量%~60重量%の範囲であり、平均分子量が1500~2200g/molの範囲であるジオール含有ペルフルオロポリエーテルを含む、請求項1に記載の医療用物品。
【請求項3】
前記変性オリゴマーが、側鎖として組み込まれる
モノジアルコール末端ポリジメチルシロキサンンをさらに含む、請求項1に記載の医療用物品。
【請求項4】
前記変性オリゴマーが、ポリウレタン系樹脂組成物全体の約0.1~約10重量%の範囲の量で存在する、請求項1に記載の医療用物品。
【請求項5】
前記ジイソシアネートが、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネートおよび芳香族ジイソシアネートからなる群から選択される、請求項1に記載の医療用物品。
【請求項6】
前記ジイソシアネートが、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、およびメチレン-ビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)(HMDI)、ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項5に記載の医療用物品。
【請求項7】
前記ジオール鎖延長剤が、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、および10個までの炭素原子を有する脂環式グリコールからなる群から選択される、請求項1に記載の医療用物品。
【請求項8】
前記ポリグリコールが、ポリアルキレングリコール、ポリエステルグリコール、ポリカーボネートグリコール、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の医療用物品。
【請求項9】
前記ポリグリコールが、ポリアルキレングリコールを含む、請求項1に記載の医療用物品。
【請求項10】
前記ポリアルキレングリコールが、ポリテトラメチレンエーテルグリコールおよびポリエチレングリコールの一方または両方を含む、請求項1に記載の医療用物品。
【請求項11】
前記ポリアルキレングリコールが、ポリテトラメチレンエーテルグリコールと、PEG4000を含むポリエチレングリコールとを含む、請求項1に記載の医療用物品。
【請求項12】
ポリウレタン系樹脂から形成される医療用物品であって、前記ポリウレタン系樹脂が、以下の成分:
ジイソシアネート;
ジオール鎖延長剤;
ポリグリコール;および
変性オリゴマー;
の反応生成物であり、
前記変性オリゴマーが、前記ジイソシアネート、前記ポリグリコール及び前記ジオール鎖延長剤によって形成される前記ポリウレタン系樹脂の主鎖中、側鎖として、またはその両方に組み込まれており、前記変性オリゴマーが、主鎖中に組み込まれるジオール含有ペルフルオロポリエーテル、側鎖として組み込まれる
モノジアルコール末端ポリジメチルシロキサン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択され、
前記ジオール含有ペルフルオロポリエーテルが、
HO(CH
2
CH
2
O)
p
CH
2
CF
2
O(CF
2
CF
2
O)
q
(CF
2
O)
r
CF
2
CH
2
(OCH
2
CH
2
)
p
OH
(式中、p+q+rの合計値は、前記オリゴマーのフッ素含有量を55重量%~60重量%の範囲内とし、および前記オリゴマーの平均分子量を1500~2200g/molの範囲内とする)の構造を有し、
前記ポリグリコールは、1000Da未満の平均分子量を有するポリテトラメチレンエーテルグリコールを含み、
前記樹脂の硬質セグメントの含有量が、25重量%~75重量%の範囲であり、前記樹脂の軟質セグメントの含有量が、75重量%~25重量%の範囲であり、
前記医療用物品は、水との接触角が90°以上である、医療用物品。
【請求項13】
前記変性オリゴマーが、アルコール(C-OH)部分および機能的部分を有する、請求項12記載の医療用物品。
【請求項14】
前記機能的部分が、フルオロエーテル、シリコーン、またはそれらの組み合わせを含む、請求項13に記載の医療用物品。
【請求項15】
前記医療用物品の表面における、前記ポリウレタン系樹脂の前記変性オリゴマーの濃度が、前記ポリウレタン系樹脂の成分の均一な分布に基づく理論濃度よりも高い、請求項12に記載の医療用物品。
【請求項16】
0.28以下の静摩擦係数を有する、請求項12に記載の医療用物品。
【請求項17】
2.2重量%以下の水分収着を有する、請求項12に記載の医療用物品。
【請求項18】
非水和性である、請求項12に記載の医療用物品。
【請求項19】
細菌のバイオフィルムコロニー形成を低減するのに効果的である、請求項12に記載の医療用物品。
【請求項20】
前記ポリグリコールが、ポリテトラメチレンエーテルグリコールおよびポリエチレングリコールの一方または両方を含むポリアルキレングリコールを含む、請求項12に記載の医療用物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ジイソシアネート、ポリグリコール、およびジオール鎖延長剤の主鎖を含むポリウレタン系樹脂であって、樹脂特性を向上させる、少なくとも1つの変性剤の、主鎖へのまたは側鎖としての付加も含む、ポリウレタン系樹脂に関する。変性剤は、少なくとも1つ、好ましくは2つの、アルコール部分(C-OH)および機能的部分(functional moiety)を有する変性オリゴマーである。機能的部分は、例えば、フルオロエーテルまたはシリコーンであり得る。1つの改良された特性は、樹脂の軟質セグメントを、樹脂から形成される医療用物品の表面近くに集める相分離である。医療用物品の得られた表面は、自己潤滑性および/または防汚性(anti-fouling)を含む利点を提供し、これにより、潤滑剤および/または防汚剤などの機能性コーティングを別個に提供する必要がなくなる。
【背景技術】
【0002】
サンプリングまたは薬剤投与のために使用されるシリンジカニューレおよびカテーテルのような注入療法医療装置は、典型的には、使用中に摺接する構成要素を有する。このような装置は、可動部品の潤滑を必要とし、外部表面の潤滑を必要とすることもある。多くの医療装置は、本質的に非潤滑性であり、使用のためにそれらの表面への潤滑剤の別個の塗布を必要とするポリマー材料から製造される。最先端の表面潤滑技術の例には、シリコーン表面コーティング、フルオロカーボン表面コーティング、及び親水性ポリビニルピロリドン(PVP)表面コーティングが含まれる。
【0003】
カテーテル関連血流感染症は、微生物のコロニー形成によって引き起こされることがあり、これは血管内カテーテルおよび静脈内アクセス装置を含む治療を受けている患者に起こり得る。これらの感染症は、病気や過剰な医療費につながる可能性がある。種々の抗菌剤でカテーテルを含浸させることは、これらの感染を防止するために実施されている1つのアプローチである。他のアプローチは、直接の抗菌剤(例えば、クロルヘキシジン)表面コーティングおよび抗菌剤(例えば、ジクロキサシリンナトリウム)と結合するための結合剤としての水不溶性第四級アンモニウム塩(例えば、塩化トリドデシルメチルアンモニウム)のコーティングを含む表面改質技術である。
【0004】
いくつかの血液接触装置は、血栓を生成する可能性がある。血液が異物に接触すると、一連の複雑な現象が起こる。これらは、蛋白質沈着、細胞接着と凝集、および血液凝固スキームの活性化を含む。血栓形成性は従来、ヘパリンなどの抗凝固薬を使用することによって、抑制されてきた。別の方法である血栓形成性のポリマー表面へのヘパリンの付着は、ヘパリンと結合するための結合剤としての、ポリマー基材表面上への水不溶性第四級アンモニウム塩(例えば、塩化トリドデシルメチルアンモニウム)のコーティング、およびヘパリンと結合することができる第三級アミノ官能基を含むポリマー基材の合成により達成され得る。
【0005】
潤滑性、抗菌性、および/または非血栓形成性コーティングを医療装置表面に適用するための表面改質技術は、コーティング技術に関連するいくつかの問題を伴う:(i)表面改質のための後コーティング(post-coating)の余分なステップは、医療装置製造プロセスを複雑にし、コストを増加させ、(ii)水性または有機溶媒がコーティングプロセスにおいて必要とされる。水溶液を使用することができる場合、それは、コーティング組成物が水溶性であることを意味し、それは、人体環境においてその完全性を失うであろう。強い極性有機溶媒を使用しなければならない場合、溶媒は、ポリマー基材材料を攻撃し、医療装置全体の機械的強度を劣化させ得る。さらに、有機溶媒の使用は、医療装置製造プロセスにおける環境、健康および安全性の点で不利である。外部コーティングに関する別の問題は、活性潤滑剤、抗菌剤および/または非血栓形成剤の移動および/または漏出であり、医療装置は、経時的にその有利な特性を失う可能性がある。
【0006】
2次コーティングステップの排除は、製造コストを低減する利点を有する。また、溶媒やコーティング剤などの2次原料を排除することができ、コスト低減、環境保全につながり、職場の安全性を向上する。
【0007】
したがって、添加剤または追加のコーティングなしで製造可能でありながら、自己潤滑性および/または自己防汚性を提供することができるポリマー樹脂、特にポリウレタン樹脂が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
医療用物品、例えばカテーテルチューブが提供される。カテーテルチューブの非限定的な例としては、末梢静脈内(IV)カテーテル;血管内カテーテル;3管腔、2管腔、および単管腔を含む中心静脈カテーテル;尿道カテーテルが挙げられる。血管アクセス装置は、ニードルおよび/またはガイドワイヤなどの1つまたは複数の構成要素と共に、本明細書に開示されるカテーテルチューブを使用することができる。
【0009】
様々な実施形態を以下に列挙する。理解されるように、以下に列挙される実施形態は、以下に列挙されるように結合されるだけでなく、本発明の範囲に従って他の適切な組み合わせでもよい。
【0010】
一態様において、医療用物品は、以下の成分:ジイソシアネート;ジオール鎖延長剤;ポリグリコール;および変性オリゴマーの反応生成物であるポリウレタン系樹脂から形成され、変性オリゴマーは、ジイソシアネート、ポリグリコール、およびジオール鎖延長剤によって形成されるポリウレタン系樹脂の、主鎖中、側鎖として、またはその両方に組み込まれており、変性オリゴマーは、アルコール(C-OH)部分および機能的部分を有する。樹脂の硬質セグメントの含有量が、25重量%~75重量%の範囲であり、樹脂の軟質セグメントの含有量が、75重量%~25重量%の範囲であり、医療用物品は、自己潤滑性および/または自己防汚性の医療用物品として効果的である。
【0011】
ポリウレタン系樹脂の変性オリゴマーの、医療用物品の表面における濃度は、ポリウレタン系樹脂の成分の均一な分布に基づく理論濃度よりも高くてよい。
【0012】
1以上の実施形態において、機能的部分は、フルオロエーテル、シリコーン、またはそれらの組み合わせを含む。
【0013】
変性オリゴマーは、主鎖中に組み込まれるジオール含有ペルフルオロポリエーテル、側鎖として組み込まれる単官能性ポリシロキサン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。
【0014】
変性オリゴマーは、ポリウレタン系樹脂組成物全体の約0.1~約10重量%の範囲の量で存在し得る。
【0015】
一態様において、医療用物品は、以下の成分:ジイソシアネート;ジオール鎖延長剤;ポリグリコール;および変性オリゴマー;の反応生成物であり、変性オリゴマーが、ジイソシアネート、ポリグリコール及びジオール鎖延長剤によって形成されるポリウレタン系樹脂の主鎖中、側鎖として、またはその両方に組み込まれている、ポリウレタン系樹脂から形成されている。樹脂の硬質セグメントの含有量が、25重量%~75重量%の範囲であり、樹脂の軟質セグメントの含有量が、75重量%~25重量%の範囲であり、医療用物品は、水との接触角が90°以上である。
【0016】
1以上の実施形態において、変性オリゴマーは、アルコール(C-OH)部分および機能的部分を有する。
【0017】
1以上の実施形態において、機能的部分は、フルオロエーテル、シリコーン、またはそれらの組み合わせを含む。
【0018】
変性オリゴマーは、主鎖中に組み込まれるジオール含有ペルフルオロポリエーテル、側鎖として組み込まれる単官能性ポリシロキサン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。
【0019】
医療用物品の表面における、ポリウレタン系樹脂の変性オリゴマー濃度は、ポリウレタン系樹脂の成分の均一な分布に基づく理論濃度よりも高くてよい。
【0020】
本明細書における任意の実施形態の医療用物品は、0.28以下の静摩擦係数を有することができる。
【0021】
本明細書における任意の実施形態の医療用物品は、2.2重量%以下の水分収着を有することができる。
【0022】
本明細書における任意の実施形態の医療用物品は、非水和性(non-hydratable)であってもよい。
【0023】
本明細書における任意の実施形態の医療用物品は、細菌バイオフィルムコロニー形成を低減するのに効果的であり得る。
【0024】
本明細書における任意の実施形態の医療用物品は、血栓形成を低減するのに効果的であり得る。
【0025】
別の態様は、注入療法の方法であって、任意の実施形態による医療用物品から物質を患者に注入することを含む方法である。
【0026】
本方法は、医療用物品にコーティングされる別個の潤滑剤の存在下または非存在下で実施することができる。
【0027】
本方法は、医療用物品にコーティングされる別個の防汚剤の存在下または非存在下で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、一実施形態についての、熱重量分析(TGA)曲線、重量(%)対温度(℃)である。
【
図2】
図2は、一実施形態についての、サイクル1およびサイクル2での、熱流(W/g)対温度(℃)の示差走査熱量測定(DSC)スキャンである。
【
図3】
図3は、実施形態のためのサイクル3での、熱流(W/g)対温度(℃)の示差走査熱量測定(DSC)スキャンである。
【
図4】
図4は、バイオフィルム形成のために使用されるチャンバーの概略図である。
【
図5】
図5は、本明細書の実施形態によるPUチューブ材料間の血栓形成の比較を参考例に対して示す注釈付き写真である。
【
図6】
図6は、本明細書の実施形態によるPUチューブ材料間の血栓形成の比較を参考例に対して示す注釈付き写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明のいくつかの例示的な実施形態を説明する前に、本発明は、以下の説明に記載される構造またはプロセスステップの詳細に限定されないことを理解されたい。本発明は、他の実施形態が可能であり、様々な方法で実践または実施することができる。
【0030】
次の用語は、本出願の目的のために、以下の各意味を有する。
【0031】
ポリグリコールには、ポリアルキレングリコール、ポリエステルグリコール、およびポリカーボネートグリコールが含まれるが、これらに限定されない。ポリアルキレングリコールの非限定的な具体例は、ポリエーテルグリコールである。ポリエーテルグリコールはアルキレンオキシドから誘導される中程度の分子量のオリゴマーであり、エーテル結合とグリコール末端の両方を含む。
【0032】
鎖延長剤は、短鎖(低分子量)分枝または分枝していないジオール、ジアミン、または10個の炭素原子までのアミノアルコール、またはそれらの混合物である。このようなヒドロキシルおよび/またはアミン末端化合物は、ポリマーに所望の特性を付与するために重合中に使用される。
【0033】
変性オリゴマー(中程度の分子量)は、ジイソシアネート;ジオール鎖延長剤;およびポリグリコールの基本的なポリウレタン構造を強化する化合物である。ポリグリコールとは異なる変性オリゴマーは、ポリウレタン表面上に移動して、得られる医療用物品を望ましい表面特性にする機能的部分(例えば、フルオロエーテルおよび/またはシリコーン)を含有する。本明細書中で使用される変性オリゴマーは、少なくとも1つ、好ましくは2つ、または2つを超えるアルコール部分(C-OH)を有する。アルコール部分は、オリゴマーの主鎖に沿って位置していてもよい。アルコール部分は、オリゴマーの末端に位置していてもよい。詳細な実施形態において、オリゴマーは、アルコール部分で終結する。1つ以上の実施形態において、変性オリゴマーには、シラノール(Si-OH)基を有する化合物が除外される。
【0034】
イソシアネート指数は、ポリオールおよび延長剤中に存在する全ヒドロキシルおよび/またはアミノ基に対するジイソシアネート中の全イソシアネート基のモル比として定義される。一般に、ポリウレタンは、イソシアネート指数が増加すると硬くなる。しかし、ある点を超えると、硬さが増加せず、他の物性が劣化し始める点がある。
【0035】
本発明の原理および実施形態は、一般に、改良された表面特性を有するポリウレタン材料、ならびにそれらを調製および使用する方法に関する。潤滑剤及び/又は防汚剤のような機能性コーティングを別個に提供する必要性を排除する、自己潤滑性及び/又は防汚性である医療用物品、例えばカテーテルチューブを提供する。物品は、下記成分:ジイソシアネート;ジオール鎖延長剤;ポリグリコール;ポリウレタン系樹脂の主鎖に、または側鎖として組み込まれた変性剤の反応生成物であるポリウレタン系樹脂を含む。主鎖は、ジイソシアネート、ポリグリコールおよびジオール鎖延長剤により形成される。このように組み込まれた変性剤は、変性オリゴマーと呼ばれ得る。
【0036】
主鎖の変性オリゴマーは、ジオール含有ペルフルオロポリエーテル(PFPE)であってもよい。側鎖としての変性オリゴマーは、単官能性ポリシロキサン(例えば、モノジアルコール末端ポリジメチルシロキサン)であってもよい。
【0037】
変性オリゴマーの組み合わせも本開示に含まれる。一実施形態において、ポリウレタン系樹脂は、以下の反応生成物である:ジイソシアネート;ジオール鎖延長剤;ポリグリコール;ジオール含有ペルフルオロポリエーテル。一実施形態において、ポリウレタン系樹脂は、以下の反応生成物である:ジイソシアネート;ジオール鎖延長剤;ポリグリコール;及び単官能性ポリシロキサン(例えば、モノジアルコール末端ポリジメチルシロキサン)。一実施形態において、ポリウレタン系樹脂は、以下の反応生成物である:ジイソシアネート;ジオール鎖延長剤;ポリグリコール;ジオール含有ペルフルオロポリエーテル;及び単官能性ポリシロキサン(例えば、モノジアルコール末端ポリジメチルシロキサン)。
【0038】
本明細書に開示されるポリウレタン系樹脂は、強化された軟質セグメントを有する。本開示における樹脂は、従来の1段階共重合プロセスによって合成される。触媒や溶媒は必要ない。合成はまた、当業者に理解される触媒/溶媒の有無にかかわらず、種々の他の合成技術によっても達成され得る。共重合プロセスは、より均一なポリマー系を生成することが期待され、PFPE系および/またはモノジアルコール末端PDMS軟質セグメントは、ポリウレタン表面上に移動するPFPEおよび/またはPDMS部分を有するポリマー鎖ブロック相分離が生じ、得られる医療用物品を望ましい表面特性にする可能性が高く、これにより、コーティング技術の使用を伴わない。構造的および組成的設計を通じて、得られた樹脂は、医療装置用途のための固有の潤滑性および/または防汚性の表面特性を有し、したがって、後処理工程は必要とされない。
【0039】
ポリウレタン
本明細書に開示されるポリウレタン材料は、向上した表面特性を有し、これは、異なる実用的なニーズに適合するように調整することができる。これらのポリウレタン材料から形成された医療装置は、薬剤リザーバーからそれを必要とする患者への流体チャネルを形成するために使用され、ここで、流体チャネルは、血管または皮下組織に挿入され、これらと流体連通してもよく、ここで、侵襲性医療装置は、本明細書に記載されるポリウレタン材料のいずれかを含む。
【0040】
これらのポリウレタン材料の利点は、ポリウレタン材料が自己潤滑性および/または防汚性であることである。
【0041】
医療装置に適した熱可塑性ポリウレタン(TPU)は、典型的には、3つの基本成分、ジイソシアネート、ポリグリコール、および鎖延長剤、通常、低分子量ジオール、ジアミン、アミノアルコールまたは水から合成される。鎖延長剤がジオールである場合、ポリウレタンは完全にウレタン結合からなる。延長剤が水、アミノアルコールまたはジアミンである場合、ウレタン結合および尿素結合の両方が存在し、ポリウレタン尿素(PUU)が得られる。アミン末端ポリエーテルをポリウレタン合成に含めると、ポリウレタン尿素も得られる。熱可塑性ポリウレタンのデバイス用途には、中心静脈カテーテル(CVC)、末梢挿入中心カテーテル(PICC)、および末梢静脈内カテーテル(PIVC)が含まれる。
【0042】
ポリウレタンおよびポリ尿素の化学は、イソシアネートと他の水素含有化合物との反応に基づいており、イソシアネートは、1つ以上のイソシアネート基(-N=C=O)を有する化合物である。イソシアネート化合物は、水(H2O)、アルコール(R-OH)、カルボン酸(R-COOH)、アミン(Rx-NH(3-x))、尿素(R-NH-CONH2)、およびアミド(R-CONH2)と反応させることができる。ある種のポリウレタンは熱可塑性エラストマー(TPE)であり得るが、他の組成物は高度に架橋され得る。
【0043】
熱可塑性ポリウレタンは、慣習的に、硬質セグメントおよび軟質セグメントと称される、2相またはマイクロドメインを含み、その結果、しばしばセグメント化ポリウレタンと呼ばれる。一般に結晶性が高い硬質セグメントは、ジイソシアネートおよび鎖延長剤を含むポリマー分子の部分の局在化によって形成される。軟質セグメントは、一般に非結晶性または低結晶性のいずれかであり、ポリグリコールまたは任意のアミン末端ポリエーテルから形成される。硬質セグメント含有量は、ポリウレタン組成物中のジイソシアネートおよび鎖延長剤の重量パーセントにより決定され、軟質セグメント含有量は、ポリグリコールまたはポリジアミンの重量パーセントにより決定される。熱可塑性ポリウレタンは、硬質セグメントと軟質セグメントとの比に応じて、部分的に結晶性および/または部分的にエラストマー性であり得る。ポリマーの特性を決定する要因の1つは、硬質セグメントと軟質セグメントの比率である。一般に、硬質セグメントは硬度、引張強度、耐衝撃性、剛性および弾性率に寄与し、軟質セグメントは吸水性、伸び、弾性および柔らかさに寄与する。
【0044】
ポリウレタン材料は、配合、押出/共押出または成形により、カテーテルチューブの原料として使用され得る。
【0045】
ベースの熱可塑性ポリウレタンは、ジイソシアネート、ジオール鎖延長剤、少なくとも1つのポリグリコール、場合によりアミン末端ポリエーテル、および変性オリゴマーの反応によって製造することができる。ポリウレタンは、約25%~約75重量%の間の硬質セグメント含有量を有することができ、ここで硬質セグメントは、一般に双極子-双極子相互作用および/または水素結合のために高度に結晶性である、ジイソシアネートおよび延長剤成分を含むポリマー分子の部分である。対照的に、ポリグリコール部分およびポリマー鎖のジイソシアネート間の変性オリゴマーから形成される軟質セグメントは、ポリグリコールおよび変性オリゴマーの特性のために、一般に非晶質または部分的にのみ結晶性である。一実施形態では、硬質セグメント含有量は約50%から約75%の範囲であり、軟質セグメント含有量は約25%から約50%の範囲であり得る。
【0046】
ベースポリウレタンの重合は、触媒、溶媒または他の添加剤を必要としない1段階共重合プロセスであり得る。合成は、当業者に理解される触媒/溶媒を用いて、または用いずに、種々の他の合成技術によって達成することもできる。
【0047】
ジイソシアネートは、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート及び芳香族ジイソシアネートからなる群から選択され得る。様々な実施形態において、イソシアネートは、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、およびメチレン-ビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)(HMDI)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。
【0048】
ジオール鎖延長剤は、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、および10個までの炭素原子を有する脂環式グリコールからなる群から選択され得る。
【0049】
ポリグリコールは、ポリアルキレングリコール、ポリエステルグリコール、ポリカーボネートグリコール、およびそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。一実施形態において、ポリグリコールはポリアルキレングリコールを含む。一実施形態において、ポリアルキレングリコールは、ポリテトラメチレンエーテルグリコールおよびポリエチレングリコールの一方または両方を含む。
【0050】
ポリテトラメチレンエーテルグリコールは、任意の所望の分子量であってよい。ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)は、PTMEG250、PTMEG650、PTMEG1000、PTMEG1400、PTMEG1800、PTMEG2000、およびPTMEG2900とすることができる。PTMEGは、HO(CH2CH2CH2CH2-O-)nHの式を有し、これは3~40の範囲の平均値nを有し得る。2以上のPTMEG250、PTMEG650、PTMEG1000、PTMEG1400、PTMEG1800、PTMEG2000、およびPTMEG2900のブレンドをこのように使用することができる。好ましい、組み合わせの平均分子量は1000Da未満である。1以上の実施形態において、ポリオールは、式:HO(CH2CH2CH2CH2-O-)nHを有する2つ以上のPTMEGのブレンドであり、式中、nは3から40の範囲の平均値を有し、組み合わせの平均分子量は1000Da未満である。
【0051】
さらなるポリアルキレングリコールは、ポリエチレングリコール(PEG)および/またはポリプロピレングリコール(PPG)であり得る。PEGおよび/またはPPGは、任意の所望の分子量であり得る。一実施形態において、PEGはPEG4000である。PEG4000は平均分子量4,000Daのポリエチレングリコールである。
【0052】
ポリウレタン系樹脂は、ポリエーテルアミンをさらに含んでいてもよい。好適なポリエーテルアミンとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラメチレンオキシドまたはそれらの組み合わせの繰り返し単位を有し、平均分子量が約230から4000の範囲にあるアミン末端ポリエーテルが挙げられるが、これらに限定されない。Jeffamine(登録商標)D4000は、特定のポリエーテルアミンであり、約4000の平均分子量を有するポリオキシプロピレンジアミンである。
【0053】
変性オリゴマーは、ポリウレタン表面上に移動して、得られる医療用物品を望ましい表面特性にする機能的部分(例えば、フルオロエーテルおよび/またはシリコーン)を含み、少なくとも1つ、好ましくは2つのアルコール部分(C-OH)を有する。1つ以上の実施形態において、変性オリゴマーには、シラノール(Si-OH)基を有する化合物が除外される。
【0054】
主鎖の変性オリゴマーは、ジオール含有ペルフルオロポリエーテルであり得る。
【0055】
1つ以上の実施形態において、ジオール含有ペルフルオロポリエーテルは、以下の構造を有する。
HO(CH2CH2O)pCH2CF2O(CF2CF2O)q(CF2O)rCF2CH2(OCH2CH2)pOH
式中、p+q+rの値の合計は、オリゴマーのフッ素含有量が55重量%~60重量%の範囲であってもよく、オリゴマーの平均分子量が1500~2200g/molの範囲であるようなものである。
【0056】
例示的なジオール含有ペルフルオロポリエーテルは、Fluorolink(登録商標)E10-Hという商品名で販売される市販品であってよく、これは、約1,700Daの平均分子量および約57%w/wのフッ素含有量を有する、ジアルコール末端エトキシル化PFPEである。
【0057】
側鎖としての変性オリゴマーは、単官能性ポリシロキサンであってもよい。1つ以上の実施形態において、単官能性ポリシロキサンは、以下の構造を有するモノジアルコール末端ポリジメチルシロキサン(PDMS)である。
【0058】
【0059】
sの値は5~200の範囲である。
【0060】
例示的なモノジアルコール末端ポリジメチルシロキサンは、製品コードMCR-C61、MCR-C62およびMCR-C63の下で販売される市販品であり得る。MCR-C62は、5000Da(62~63の範囲のs)の平均分子量を有し、MCR-C61は、1000Da(8~9の範囲のs)の平均分子量を有し、MCR-C63は、15,000Da(197~198の範囲のs)の平均分子量を有する。1つ以上の実施形態において、側鎖としての変性オリゴマーは、MCR-C62である。
【0061】
本明細書に記載されるポリウレタンは、溶融鋳造(melt casting)、配合、押出/共押出、成形などを含む従来の熱可塑性製造技術によって、フィルム、チューブ、および他の形態に製造することができる。本明細書に記載されるポリウレタンは、PICC、PIVC、およびCVCに使用することができる。ポリマーには、必要に応じて、従来の安定剤、添加剤(例えば、放射線不透過性充填剤)、および/または加工助剤を組み込むことができる。これらの材料の量は、ポリウレタンの用途に応じて変化するが、存在する場合、典型的には、最終化合物の0.1から50重量パーセントの範囲の量である。
【0062】
ポリウレタン合成の一般的手順
本明細書で議論したポリウレタンを、パイロットスケールのポリウレタン(PU)プロセッサーを用いた1段階共重合プロセスによって調製した。合計約7.5kgのポリグリコール、変性オリゴマーおよび鎖延長剤を、タンク攪拌器および材料リサイクルループを通して適切に混合しながらPUプロセッサーのBタンク(リサイクルループを備えた2.5ガロンのフルタンク収容能力)に充填した。ジイソシアネート(Bタンクのポリオール混合物と反応する計算量)を、PUプロセッサーのAタンク(リサイクルループを備えた2.5ガロンのフルタンク収容能力)に充填した;反応中に、BタンクおよびAタンク材料の両方を、制御された供給速度でそれぞれの供給ラインを通してポンピングして、1.0から1.1のイソシアネート指数を達成した;1つ以上の実施態様では、イソシアネート指数は、1.02である;BおよびAストリームの両方を、適切な混合のために、それぞれのインジェクターを通して、高速ローター速度で8cc混合ヘッドに連続的に注入し、シリコーンパンに注いだ;A/Bタンク、充填/供給/リサイクル/排水ライン、インジェクター、および混合ヘッドを含むPUプロセッサーシステム全体を、50~90℃の温度(種々のゾーン温度制御)に維持し、タンクを、動作中、100mmHg未満の真空下で引いた;PU反応物混合物で満たされたシリコーンパンを、完全な反応を達成するために、10~20分の硬化時間で150°Fのコンベアオーブンに通過させた;得られた白色PUスラブは、7.7インチ×3.5インチ×0.3インチの寸法を有する。その後、PUスラブを、下流の配合および押出/共押出プロセスのために顆粒状に粉砕した。
【0063】
PU顆粒物/チップは、機械的特性および表面特性のキャラクタリゼーションのためにリボンシートに押出成形することができる。PUリボンシートを、単一の共重合体組成物から、または2種以上の異なるPU組成物のブレンドから押出してもよい。ブレンド/配合アプローチにより、既存のPUコポリマーを使用して、新しいPU組成物を迅速に作り出し、特性化することができる。ミクロドメイン構造と分子量分布は、ブレンド/配合アプローチと比較して直接の共重合アプローチを用いることで異なるかもしれないが、それらが同じ全PU組成を有するので、発明者らは、同等の機械的および表面特性を期待している。1つ以上の実施形態において、ブレンド/配合アプローチは、特定のPUリボン組成物の押出しのために使用された。
【0064】
【0065】
例示的ポリウレタン系樹脂
医療用物品は、下記成分:ジイソシアネート;ジオール鎖延長剤;ポリグリコール;および;ジオール含有ペルフルオロポリエーテル及び/又は単官能性ポリシロキサンを含む変性オリゴマーの反応生成物であるポリウレタン系樹脂から形成され、ジオール含有ペルフルオロポリエーテルが、ジイソシアネートと、ポリグリコールと、ジオール鎖延長剤によって形成されるポリウレタン系樹脂の主鎖に組み込まれており、単官能性ポリシロキサンが、側鎖として組み込まれている。1つ以上の実施形態において、ポリグリコールは、ポリテトラメチレンエーテルグリコールおよびポリエチレングリコールの一方または両方を含み得る、1つ以上のポリアルキレングリコールである。得られるポリウレタン系樹脂は、成分に基づくランダム共重合体である。硬質セグメントの含有量は25重量%~75重量%の範囲であり、樹脂の軟質セグメントの含有量は75重量%~25重量%の範囲である。
【0066】
以下の成分を使用して、種々のポリマー鎖セグメント(A)~(E)が予想される:ジイソシアネートは、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を含む;ジオール鎖延長剤は、1,4-ブタンジオールを含む;ポリグリコールは、MWの範囲が250~2900Da(n=3~40)であるポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)、及び場合により、MWの範囲が200~8000Da(m=4~182)であるポリエチレングリコールを含む;変性オリゴマーは、ジオール含有ペルフルオロポリエーテルおよび/または単官能性ポリシロキサンを含む。1つ以上の実施形態において、ポリウレタン系樹脂は、(A)および(B);場合により(C);ならびに(D)および(E)の一方または両方の、以下の鎖セグメントを含むランダム共重合体である。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
1つ以上の実施態様において、ポリウレタン系樹脂において、ジイソシアネートは、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を含む;ジオール鎖延長剤は、1,4-ブタンジオールを含む;ポリグリコールは、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)を含む;変性オリゴマーは、ジオール含有ペルフルオロポリエーテルを含み、(A)、(B)および(D)の鎖セグメントを含むランダム共重合体となる。
【0073】
1つ以上の実施態様において、ポリウレタン系樹脂において、ジイソシアネートは、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を含む;ジオール鎖延長剤は、1,4-ブタンジオールを含む;ポリグリコールは、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)とポリエチレングリコールを含む;変性オリゴマーは、ジオール含有ペルフルオロポリエーテルを含み、(A)、(B)、(C)および(D)の鎖セグメントを含むランダム共重合体となる。
【0074】
1つ以上の実施態様において、ポリウレタン系樹脂において、ジイソシアネートは、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を含む;ジオール鎖延長剤は、1,4-ブタンジオールを含む;ポリグリコールは、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)を含む;変性オリゴマーは、モノジアルコール末端ポリジメチルシロキサン(PDMS)を含み、(A)、(B)及び(E)の鎖セグメントを含むランダム共重合体となる。
【0075】
1つ以上の実施態様において、ポリウレタン系樹脂において、ジイソシアネートは、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を含む;ジオール鎖延長剤は、1,4-ブタンジオールを含む;ポリグリコールは、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)を含む;変性オリゴマーは、ジオール含有ペルフルオロポリエーテルおよびモノジアルコール末端ポリジメチルシロキサン(PDMS)を含み、(A)、(B)、(D)および(E)の鎖セグメントを含むランダム共重合体となる。
【0076】
1つ以上の実施態様において、ポリウレタン系樹脂において、ジイソシアネートは、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を含む;ジオール鎖延長剤は、1,4-ブタンジオールを含む;ポリグリコールは、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)とポリエチレングリコールを含む;変性オリゴマーは、モノジアルコール末端ポリジメチルシロキサン(PDMS)を含み、(A)、(B)、(C)及び(E)の鎖セグメントを含むランダム共重合体となる。
【0077】
1つ以上の実施態様において、ポリウレタン系樹脂において、ジイソシアネートは、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を含む;ジオール鎖延長剤は、1,4-ブタンジオールを含む;ポリグリコールは、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)とポリエチレングリコールを含む;変性オリゴマーは、ジオール含有ペルフルオロポリエーテルおよびモノジアルコール末端ポリジメチルシロキサン(PDMS)を含み、(A)、(B)、(C)、(D)および(E)の鎖セグメントを含むランダム共重合体となる。
【0078】
医療用物品
医療用物品は、流体通路の任意のプラスチック部分であり得る。本明細書に開示されるポリウレタンによって形成され得る例示的な医療用物品は、カテーテル;ニードル/ニードルレスコネクタ;またはチューブの構成要素であり得る。例示的なデバイスは、中心静脈カテーテル、末梢挿入中心カテーテル、および末梢静脈内カテーテルである。カテーテルチューブは、配合および押出/共押出プロセスによって形成することができる。配合中に、本明細書に記載される合成されたベースのポリウレタンの粒状物、および任意の放射線不透過性充填剤が、2軸式配合機に同時に添加される。混合比は重量測定マルチフィーダシステムによって制御および調整できる。混合ポリウレタン溶融物(複数の加熱ゾーンを介した搬送)は、ダイ、急冷タンクを連続的に通過し、続いて、プラーペレタイザーによってレギュラーサイズのペレットに切断される。収集されたペレットは、チューブの特定の形状に応じて、押出機/共押出機に供給され、カテーテルチューブを形成するために使用される。
【0079】
実施形態
様々な実施形態を以下に列挙する。理解されるように、以下に列挙される実施形態は、本発明の範囲に従って、全ての態様および他の実施形態と組み合わせることができる。
【0080】
実施形態1.ポリウレタン系樹脂から形成される医療用物品であって、ポリウレタン系樹脂は、以下の成分:ジイソシアネート;ジオール鎖延長剤;ポリグリコール;および変性オリゴマーの反応生成物であり、変性オリゴマーは、ジイソシアネート、ポリグリコール、およびジオール鎖延長剤によって形成されるポリウレタン系樹脂の、主鎖中、側鎖として、またはその両方に組み込まれており、変性オリゴマーは、アルコール(C-OH)部分および機能的部分を有し、樹脂の硬質セグメントの含有量が、25重量%~75重量%の範囲であり、樹脂の軟質セグメントの含有量が、75重量%~25重量%の範囲であり、医療用物品は、自己潤滑性および/または自己防汚性の医療用物品として効果的である。
【0081】
実施形態2.医療用物品の表面における、ポリウレタン系樹脂の変性オリゴマーの濃度が、ポリウレタン系樹脂の成分の均一な分布に基づく理論濃度よりも高い、実施形態1の医療用物品。
【0082】
実施形態3.機能的部分が、フルオロエーテル、シリコーン、またはそれらの組み合わせを含む、上記いずれかの実施形態の医療用物品。
【0083】
実施形態4.変性オリゴマーが、主鎖中に組み込まれるジオール含有ペルフルオロポリエーテル、側鎖として組み込まれる単官能性ポリシロキサン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、上記いずれかの実施形態の医療用物品。
【0084】
実施形態5.変性オリゴマーが、ポリウレタン系樹脂組成物全体の約0.1~約10重量%の範囲の量で存在する、上記いずれかの実施形態の医療用物品。
【0085】
実施形態6.ジイソシアネートが、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネートおよび芳香族ジイソシアネートからなる群から選択される、上記いずれかの実施形態の医療用物品。
【0086】
実施形態7.ジイソシアネートが、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、およびメチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)(HMDI)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、上記実施形態の医療用物品。
【0087】
実施形態8.ジオール鎖延長剤が、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、および10個までの炭素原子を有する脂環式グリコールからなる群から選択される、上記いずれかの実施形態の医療用物品。
【0088】
実施形態9.ポリグリコールが、ポリアルキレングリコール、ポリエステルグリコール、ポリカーボネートグリコール、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、上記いずれかの実施形態の医療用物品。
【0089】
実施形態10.ポリグリコールが、ポリアルキレングリコールを含む、上記実施形態の医療用物品。
【0090】
実施形態11.ポリアルキレングリコールが、ポリテトラメチレンエーテルグリコール及びポリエチレングリコールの一方又は両方を含む、上記実施形態の医療用物品。
【0091】
実施形態12.ポリアルキレングリコールが、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、及びPEG4000を含むポリエチレングリコールを含む、上記実施形態の医療用物品。
【0092】
実施形態13.ポリウレタン系樹脂から形成される医療用物品であって、ポリウレタン系樹脂が、以下の成分:ジイソシアネート;ジオール鎖延長剤;ポリグリコール;および変性オリゴマー;の反応生成物であり、変性オリゴマーが、ジイソシアネート、ポリグリコール及びジオール鎖延長剤によって形成されるポリウレタン系樹脂の主鎖中、側鎖として、またはその両方に組み込まれており、樹脂の硬質セグメントの含有量が、25重量%~75重量%の範囲であり、樹脂の軟質セグメントの含有量が、75重量%~25重量%の範囲であり、医療用物品は、水との接触角が90°以上である、医療用物品。
【0093】
実施形態14.変性オリゴマーが、アルコール(C-OH)部分および官能性部分を有する、上記実施形態の医療用物品。
【0094】
実施形態15.機能的部分が、フルオロエーテル、シリコーン、またはそれらの組み合わせを含む、上記実施形態の医療用物品。
【0095】
実施形態16.変性オリゴマーが、主鎖中に組み込まれるジオール含有ペルフルオロポリエーテル、側鎖として組み込まれる単官能性ポリシロキサン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、実施形態13から実施形態15のいずれかの医療用物品。
【0096】
実施形態17.医療用物品の表面における、ポリウレタン系樹脂の変性オリゴマーの濃度が、ポリウレタン系樹脂の成分の均一な分布に基づく理論濃度よりも高い、実施形態13から実施形態16のいずれかの医療用物品。
【0097】
実施形態18.0.28以下の静摩擦係数を有する、実施形態13から実施形態17のいずれかの医療用物品。
【0098】
実施形態19.2.2重量%以下の水分収着を有する、実施形態13から実施形態18のいずれかの医療用物品。
【0099】
実施形態20.非水和性である、実施形態13から実施形態19のいずれかの医療用物品。
【0100】
実施形態21.細菌のバイオフィルムコロニー形成を低減するのに効果的である、実施形態13から実施形態20のいずれかの医療用物品。
【0101】
実施形態22.ポリグリコールが、ポリテトラメチレンエーテルグリコールおよびポリエチレングリコールの一方または両方を含むポリアルキレングリコールを含む、実施形態13から実施形態21のいずれかの医療用物品。
【0102】
実施形態23.患者に、上記いずれかの実施形態による医療用物品から物質を注入することを含む、注入療法の方法。
【0103】
実施形態24.医療用物品にコーティングされる別個の潤滑剤の存在下または非存在下での、実施形態23の方法。
【0104】
実施形態25.医療用物品にコーティングされる別個の防汚剤の存在下または非存在下での、実施形態23または24の方法。
【0105】
実施形態26.医療用物品にコーティングされる別個の防汚剤の非存在下での、上記実施形態の方法であって、医療用物品は、アルコール(C-OH)部分と機能的部分を有する変性オリゴマーの非存在下での、以下の成分:ジイソシアネート;ジオール鎖延長剤;ポリグリコールの反応生成物であり、樹脂の硬質セグメントの含有量が25重量%~75重量%の範囲であり、樹脂の軟質セグメントの含有量が75重量%~25重量%の範囲であるポリウレタン系樹脂から形成される医療用物品と比較して、血栓形成の量を低減するために効果的である、方法。
【0106】
実施例
実施例1
種々のポリウレタン樹脂を、上記の例示的配合物I-Cに従って、前述したようなパイロットスケールのポリウレタン(PU)プロセッサーを使用する1段階共重合プロセス(無触媒および無溶媒)によって、表1に従って製造した。例示的配合物は、芳香族ジイソシアネートとしてのMDI、ポリグリコール混合物としてのポリテトラメチレンエーテルグリコール(平均等価分子量500~1000DaのPTMEG)および場合によりポリエチレングリコール4000(PEG-4000)の組み合わせ、鎖延長剤としての1,4-ブタンジオール、および表1による変性オリゴマーを有する。変性オリゴマーを有しない参考例ポリウレタンも同様に製造した。
【0107】
変性オリゴマーは、ジアルコール末端化、エトキシル化ペルフルオロポリエーテル(PFPE)(Fluorolink(登録商標)E10-H)およびモノジアルコール末端化ポリジメチルシロキサン(PDMS)(MCR-C62)、ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択された。実施例1-A~1-Hは、1つの変性オリゴマーのみを組み入れた「1機能的(mono-functional)」である。実施例1-I~1-Kは、2つの変性オリゴマーを組み入れた「2機能的(bi-functional)」である。例1-L~1-Nは、変性オリゴマーを有しない参考例である。
【0108】
【0109】
実施例1-B-I及び1-B-IIは、全体として同じ材料組成を有する。PU1-B-Iは直接の共重合により調製し、一方PU1-B-IIは2つの異なるPU(すなわち、PU1-Cおよび参考例1-Lの50/50重量%ブレンド)の均一なブレンド/配合により調製した。同様に、実施例1-F-Iおよび1-F-IIは、全体として同じ材料組成を有する。PU1-F-Iは直接の共重合により調製し、PU1-F-IIはブレンド/配合(すなわち、PU1-Gおよび参考例1-Lの50/50重量%ブレンド)により調製した。
【0110】
表2は、実施例1-B-I、1-C、1-F-I、1-G、参考例1-L及び参考例1-Nによる共重合反応のゲル温度及びゲル時間を示す。
【0111】
【0112】
共重合中の変性オリゴマーの導入は反応系の全反応性を低下させなかった。本発明のポリウレタン樹脂の共重合反応は、参考例PU樹脂と同じ速さで進行した。
【0113】
実施例2
試験
表1の各例について、ポリウレタン(PU)スラブ(約7.7インチ×3.5インチ×0.3インチの寸法)は、上述のパイロットスケールPUプロセッサーおよびコンベヤーオーブン硬化システムから製造され、その後、粒状に粉砕され、材料の物理的特性評価のためにリボンシートに押出成形された。リボンシートの厚さは、0.004インチから0.008インチであった。
【0114】
引張特性試験。参考例PUリボン及び本発明PUリボン(厚さ0.004~0.008インチ。)の両方の引張特性を、インストロンを用いて特性化した。試験は、表3に示す室内条件(23℃、50%RH、および40時間を超える平衡時間)で実施した(各データについては10回の測定の平均)。
【0115】
【0116】
試験は、体内条件(body indwell condition)(37℃、生理食塩水で4時間平衡)でも実施されており、これは表4(各データについては10回の測定の平均)に記載されている。軟化比は、次式(1)に従って定義される。
【0117】
【0118】
【0119】
表3および4のデータは、本発明のPU1-B-Iおよび1-B-II(PU1-B-Iが単一の標的PU組成であり、PU1-B-IIが2つの異なるPUのブレンド、すなわち50/50重量%のPU1-Cおよび参考例1-Lのブレンドである、同じ全材料組成)が同等の引張特性を示すことを示す。同様に、本発明のPU1-F-Iおよび1-F-IIも、同等の引張特性を示した。
【0120】
参考例PU1-L、1-Mおよび1-Nの引張特性を、室内条件および体内条件の両方で比較すると、PTMEG軟質セグメント中のPEG-4000含有量の増加とともに、材料破断点引張は減少し、材料破断点伸びは増加した;材料の室内条件でのヤング率は減少したが、体内条件でのヤング率は増加し、その結果、式(1)で定義される軟化率が減少した。同様の傾向は、本発明のPU1-A対1-D、1-E対1-Hおよび1-I対1-Jの比較によって観察することができる。
【0121】
室内条件および体内条件の両方での参考例PU1-Lと本発明のPU1-A、1-Bおよび1-Cの引張特性比較は、変性オリゴマーFluorolink(登録商標)E10-Hの導入により、材料破断点引張および破断点伸びは有意に変化しなかったことを示す。しかし、変性オリゴマーFluorolink(登録商標)E10-H含有量の増加に伴い、室内条件と体内条件の両方で材料のYoung率は増加した。同様の傾向は、参考例PU1-Mと本発明のPU1-Dとの比較によって観察することができる。
【0122】
室内条件および体内条件の両方での参考例PU1-Lと本発明PU1-Eおよび1-Fの引張特性の比較は、変性オリゴマーMCR-C62の導入により、材料の破断点引張および破断点伸びが有意に変化しなかったことを示す。しかし、変性オリゴマーMCR-C62含有量の増加に伴い、材料のYoung率は、室内条件および体内条件の両方で増加した。同様の傾向は、参考例PU1-Mと本発明のPU1-Hとの比較によって観察することができる。
【0123】
室内条件および体内条件での参考例PU1-Lと本発明PU1-Iおよび1-Kの引張特性の比較は、変性オリゴマーFluorolink(登録商標)E10-HおよびMCR-C62の導入により、材料の破断引張および破断点伸びは有意に変化しなかったが、材料のヤング率は室内条件および体内条件の両方で増加したことを示している。
【0124】
全体として、変性オリゴマーFluorolink(登録商標)E10-Hおよび/またはMCR-C62の導入後、本発明の新規PUは、医療装置用途に対して望ましい引張特性を示した。
【0125】
X線光電子分光法(XPS)表面分析。Fisons Surface Science SSX-100 Model 206 ESCA/XPS Spectrometerを用いて、参考例PUリボンと本発明PUリボン両方の表面元素分析を特性化した。X線源は、1486.6eVの光子エネルギーを有する単色のAl K-アルファ放射線である。電子の離脱角は35°で、表面深さが6~7nmであることを検出した。PUリボンを、70%IPA/30%脱イオン水で表面洗浄し、XPS表面分析の前に95℃で2時間アニールした。表5は、XPSリボン表面分析に基づく元素重量%と比較した、材料のバルク組成に基づいて計算した元素重量%を示す(各データについては6回の測定の平均)。XPS法は水素を分析しないので、バルク組成計算でも水素を省略した。
【0126】
【0127】
表5のデータは、本発明のPU1-B-Iおよび1-B-II(PU1-B-Iが単一の標的PU組成であり、PU1-B-IIが2つの異なるPUのブレンドである、同じ全材料組成)が同等の表面元素含有量を示したことを示す。同様に、本発明のPU1-F-I及び1-F-IIは同等の表面元素含有量を示した。
【0128】
参考例PU1-L、1-Mおよび1-NのXPS表面分析に基づくと、PU内の軟質および硬質セグメントの相分離のために、理論値より高い濃度のポリグリコール系軟質セグメント(酸素含有量が高いことによって証明される)が表面に存在し、理論値より低い濃度のウレタン系硬質セグメント(窒素含有量が低いことによって証明される)が表面に存在する。
【0129】
本発明のPU1-A、1-Bおよび1-CのXPS表面分析に基づくと、理論値よりも有意に高い濃度のFluorolink(登録商標)E10-H軟質セグメント(有意に高いフッ素含有量によって証明される)が表面に存在する。100%のFluorolink(登録商標)E10-H系のPU化学的性質(chemistry)が表面に存在するならば、XPS分析(水素を除く)に基づく最大潜在フッ素含有量が50.94重量%であるべきであることを指摘することは価値がある。表5は、1.77重量%のみのFluorolink(登録商標)E10-H(実施例1-A)の導入が、28.12重量%の表面フッ素含有量を与えた;3.55重量%のみのFluorolink(登録商標)E10-H(実施例1-B)の導入が41.38重量%の表面フッ素含有量を与え、これは、その理論上の最大値に近い;Fluorolink(登録商標)E10-H含有量が7.11重量%にさらに増加すると(実施例1-C)、表面フッ素含有量が43.89重量%までわずかに増加したことを示している。したがって、10重量%未満のFluorolink(登録商標)E10-Hの導入が、得られるPU表面特性を最大化するのに十分であった;10重量%超のFluorolink(登録商標)E10-H変性オリゴマーの導入は、表面特性改質に関して利益をもたらさないと結論できる。理論に拘束されるつもりはないが、材料表面上のこのような高いフッ素含有量は、その表面特性(疎水性、潤滑性および/または防汚性)を改善するであろう。
【0130】
本発明のPU1-Eおよび1-FのXPS表面分析に基づくと、理論値よりも有意に高い濃度のMCR-C62軟質セグメント(有意に高いケイ素含有量によって証明される)が表面に存在する。100%のMCR-C62系のPU化学的性質が表面に存在するならば、XPS分析(水素を除く)に基づく最大潜在ケイ素含有量が37.58重量%であるべきであることを指摘することは価値がある。表5は、1.77重量%のみのMCR-C62(実施例1-E)の導入が17.19重量%の表面ケイ素含有量を与えた。;3.55重量%のみのMCR-C62(実施例1-F)の導入が27.00重量%の表面ケイ素含有量を与え、これは、その理論上の最大値に近いことを示している。従って、Fluorolink(登録商標)E10-Hと同様に、10重量%未満のMCR-C62の導入は、得られるPU表面特性を最大化するのに十分であった;10重量超のMCR-C62変性オリゴマーの導入は、表面特性改質に関して利益をもたらさないと結論できる。理論に拘束されるつもりはないが、材料表面上のこのような高いケイ素含有量は、その表面特性(疎水性、潤滑性および/または防汚性)を改善するであろう。
【0131】
本発明のPU1-Iおよび1-KのXPS表面分析に基づくと、理論値よりも有意に高い濃度のFluorolink(登録商標)E10-HおよびMCR-C62軟質セグメント(フッ素とケイ素の含有量が有意に高いことによって証明される)が表面に存在する。表5は、1.18重量%のみのFluorolink(登録商標)E10-Hの%および1.18重量%のみのMCR-C62(実施例1-I)の導入が、23.02重量%の表面フッ素含有量および9.08重量%の表面ケイ素含有量を与えた;Fluorolink(登録商標)E10-HおよびMCR-C62含有量を1.77重量%にさらに増加させる(実施例1-K)と、表面フッ素含有量はさらに増加せず、表面ケイ素含有量は12.60重量%までわずかに増加したことを示している。したがって、Fluorolink(登録商標)E10-HおよびMCR-C62の合計で10重量%未満の導入は、得られるPU表面特性を最大化するのに十分であった;Fluorolink(登録商標)E10-HおよびMCR-C62変性オリゴマーの合計で10重量%超の導入は、表面特性改質に関して利益をもたらさないと結論できる。理論に拘束されるつもりはないが、材料表面上のこのような高いフッ素およびケイ素含有量は、その表面特性(疎水性、潤滑性および/または防汚性)を改善するであろう。
【0132】
本発明のPU1-A及び1-DのXPS表面分析に基づいて、元のPTMEG軟質セグメントの代わりにPEG-4000を導入すると、Fluorolink(登録商標)E10-Hの表面への移動が促進され得た。表5は、原実施例1-Aの表面フッ素含有量が28.12重量%である;しかし、実施例1-D(1.77重量%のPEG-4000導入)の表面フッ素含有量が、より高い34.21重量であることを示している。これは、おそらく、Fluorolink(登録商標)E10-Hが疎水性であり、PEG-4000がPTMEGよりも親水性であるので、セグメント相分離が増加したためである。MCR-C62も疎水性であるため、本発明のPU1-E対1-Hおよび1-I対1-Jの比較により、同様の傾向が観察され得る。
【0133】
加えて、本発明のPUリボン実施例1-A~1-Kは、参考例PUリボン実施例1-L~1-Nと比較して、はるかに透明性が低い(白濁)。理論に拘束されるつもりはないが、これは、Fluorolink(登録商標)E10-Hおよび/またはMCR-C62の導入による本発明のPFPEおよび/またはPDMS含有PU内のコポリマー相分離の増加による可能性が高く、結果的に光散乱に影響を与え得る。この増加した共重合体相分離をXPS分析により、上述に考察した。白濁していても、本発明のPFPEおよび/またはPDMS含有PUリボン実施例1-A~1-Kは、カテーテルチューブ用途に使用された場合、依然として、血液フラッシュバック識別(blood flashback identification)のために透視するのに十分な透明性を示す。
【0134】
静摩擦係数。この試験には摩擦係数試験機モデル32~25を使用した。静摩擦係数は、傾斜が一定の速度で増加するにつれて、金属ブロック表面が参考例および本発明のPUリボン表面に対して滑り始める角度を測定することによって決定した。静摩擦係数は、表6(各データについては15回の測定の平均)に示すその角度の正接と数値的に同等である。
【0135】
【0136】
表6のデータは、本発明のPU1-F-Iおよび1-F-II(PU1-F-Iが単一の標的PU組成であり、PU1-F-IIが2つの異なるPUのブレンドである、同じ全材料組成)が同等の静摩擦の表面係数を示すことを示す。
【0137】
表6は、1.77重量%およびさらに3.55重量%の変性オリゴマーFluorolink(登録商標)E10-Hの導入が、静摩擦の材料表面係数を有意に変化させなかった;しかし、7.11重量%の変性オリゴマーFluorolink(登録商標)E10-H(実施例1-C)の導入が、静摩擦の材料表面係数を0.2828から0.2277に低下させたことを示す。他方、1.77重量%のみの変性オリゴマーMCR-C62の導入は、静摩擦の材料表面係数を約0.2のレベルまで低下するのに十分であった。従って、変性オリゴマーFluorolink(登録商標)E10-HとMCR-C62の両方は潤滑性表面特性を提供できるが、MCR-C62は、この場合において、より効率的な変性オリゴマーである。全体として、Fluorolink(登録商標)E10-HとMCR-C62の合計が10重量%未満の場合に、得られるPU表面特性を最大化するのに十分であった。
【0138】
水接触角。参考例および本発明のPUリボンを、70%IPA/30%脱イオン水で表面洗浄し、次いで水接触角測定の前に95℃で2時間アニールした。表7に水接触角データ(各データについては10回の測定の平均)を示す。
【0139】
【0140】
表7のデータは、本発明のPU1-B-Iおよび1-B-II(PU1-B-Iが単一の標的PU組成であり、PU1-B-IIが2つの異なるPUのブレンドである、同じ全材料組成)が同等の表面接触角を示したことを示す。
【0141】
表7は、変性オリゴマーFluorolink(登録商標)E10-Hの導入により、改質されたPU表面がより疎水性になったため、増加した接触角がもたらされた;変性オリゴマーFluorolink(登録商標)E10-H含有量の増加と共に、接触角(表面疎水性)が増加したことを示す。同様に、変性オリゴマーMCR-C62またはFluorolink(登録商標)E10-HとMCR-C62の両方の導入も、より疎水性のPU表面と増加した接触角をもたらした。
【0142】
水分収着。参考例PUリボン及び本発明PUリボンは、水分収着測定のために以下の手順を経た:(i)リボン(リボン材料の各グループに対して5回の反復)を矩形形状(約1.4インチの長さ、0.51インチの幅)に切断する;(ii)すべての試料のリボンカットを95℃のオーブンで一晩乾燥する;(iii)乾燥した各リボンカットの重量を測定する;(iv)37℃の脱イオン水中に4時間、乾燥した各リボンカットを沈める;(v)水からリボンカットを取り出した直後に、ティッシュペーパーを使って表面の自由水(free water)を拭き取り、水で飽和状態にしたリボンカットの重さを再測定する;(vi)すべての水和前及び水和後の重量データを記録し、次式(2)に基づいて水分収着を計算した。
【0143】
【0144】
表8に水分収着データ(各データについては5回の測定の平均)を示す。
【0145】
【0146】
表8のデータは、本発明のPU1-F-Iおよび1-F-II(PU1-F-Iが単一の標的PU組成であり、PU1-F-IIが2つの異なるPUのブレンドである、同じ全材料組成)が同等の水分収着を示したことを示す。
【0147】
参考例PU1-Lおよび1-Nの水分収着の比較は、PTMEG軟質セグメントの代わりにPEG-4000を導入すると、PU材料の水分収着が増加することを示している。これは、PEG-4000がPTMEGよりも親水性であることと一致している。同様の傾向は、本発明のPU1-A対1-Dおよび1-E対1-Hの比較によって観察することができる。
【0148】
表8はまた、変性オリゴマーFluorolink(登録商標)E10-Hおよび/またはMCR-C62の導入が、Fluorolink(登録商標)E10-HならびにMCR-C62の疎水性特性により、水分収着の低下をもたらしたことも示す。
【0149】
水和性。参考例PUリボン及び本発明PUリボンは、水和性測定のために以下の手順を経た:(i)リボン(リボン材料の各グループに対して5回の反復)を矩形形状(約1.4インチ。長さ0.51インチ。幅)に切断する。(ii)各リボンカットの寸法(長さと幅)の測定;(iii)37℃の食塩水に4時間浸した各リボン;(iv)生理食塩水からリボンカットを取り出した直後に、各飽和リボンカットの寸法(長さと幅)を再測定した。(v)すべての水和前及び水和後の寸法データを記録し、次式(3)に基づいて寸法変化を計算した。
【0150】
【0151】
表9に、寸法変化データ(各データについては5回の測定の平均)を示す。
【0152】
【0153】
表9は、参考例および本発明のPUリボンの両方が、水和後に1%未満の寸法変化を示したことを示す。したがって、これらのPU材料はすべて水和時に寸法的に安定であり、非水和性材料として分類できる。
【0154】
熱重量分析(TGA)。TA Instruments TGA Q500を用いて、参考例および本発明のPU顆粒物/チップを分析した。試験のために、各試料3mgを、窒素ガス中で25℃から800℃に10℃/分で加熱した。表10は、参考例PU材料及び本発明PU材料の両方の分解温度(1%および5%の重量減少に基づく)を示す。
【0155】
【0156】
表10は、変性オリゴマーFluorolink(登録商標)E10-Hの導入が、得られたPUの熱特性を有意に変化させなかったことを示す;変性オリゴマーMCR-C62の導入により、分解温度が約10℃上昇した。
【0157】
図1は、本発明のPU1-B-IのTGAスキャンの例を示す。
【0158】
示差走査熱量測定(DSC)。TA Instruments DSC Q2000を用いて、参考例および本発明のPU顆粒物/チップを分析した。試験のために、各試料5mgを、加熱/冷却/加熱サイクル;サイクル1=25℃から250℃に10℃/分で加熱;サイクル2=250℃から-50℃に10℃/分で冷却;サイクル3=-50℃から250℃に10℃/分での加熱に用いた。表11は、参考例PU材料及び本発明PU材料両方のガラス転移温度(Tg:加熱サイクル3からの開始)、結晶化温度(Tc、冷却サイクル2からのピーク)、加熱サイクル1からの溶融温度開始(Tm1)、及び加熱サイクル3からの溶融温度開始(Tm2)を示す。
【0159】
【0160】
Fluorolink(登録商標)E10-H変性PU1-B-Iおよび1-Cは、冷却サイクル2において2つの別個のピークを示し、したがって、2つの個別のTcが表11において同定された;MCR-C62変性PU1-F-Iおよび1-Gは、加熱サイクル1対加熱サイクル3に基づくTmのより大きな差を示した;Tm吸熱では、2つ以上の吸熱転移が、ある場合には重複し、これは短/長範囲規則度(short/long range order)を持つドメインの破壊/解離と、硬質セグメントの微結晶の融解に起因すると考えられる。それらの吸熱転移を個々に完全に区別することは困難であるため、これらはすべて分析のためにまとめられ、結果として1つのオンサイトTm(onsite Tm)のみが報告された。これらの情報は有用であり、本発明の新規PU材料のリボン及びチューブ押出のために参照することができる。
【0161】
図2は、本発明のPU1-B-Iに関するサイクル1およびサイクル2のDSCスキャンであり、
図3は、本発明のPU1-B-Iに関するサイクル3のDSCスキャンである。
【0162】
メルトフローインデックス。参考例および本発明のPU顆粒物/チップを、Zwick/Roell押出プラストメータを用いて、メルトフローインデックスに関して特性化した。その装置は、押し出しバレルの直径が9.55mm(長さ170mm)であり、ピストンの直径が9.48mm(重量325g)である。各予乾試料5g(95~110℃で12時間以上乾燥させる)を用いて、220℃、負荷重量5kg、予熱時間300秒で試験を実施した。表12は、参考例PU材料及び本発明PU材料両方のメルト質量流量、メルト体積流量及びメルト密度を示す。
【0163】
【0164】
表12は、高密度(1.69g/cm3)変性オリゴマーFluorolink(登録商標)E10-Hの導入が、得られるPU材料の、より高いメルト密度をもたらしたことを示す;Fluorolink(登録商標)E10-H変性PU1-B-Iおよび1-Cのメルトフローレートは、主鎖型軟質セグメントのみがこれらの場合に使用されたので、参考例PU1-Lおよび1-Nと同等である。3.55重量%の変性オリゴマーMCR-C62(実施例1-F-I)の導入は、PUメルトフローレートを有意に変化させなかった;しかし、7.11重量%の変性オリゴマーMCR-C62(実施例1-G)の導入は、得られるPUメルトフローレートの有意な増加をもたらした。
【0165】
バイオフィルム形成。参考例および本発明のPUリボンを、70%IPA/30%脱イオン水で表面洗浄し、次いで95℃で2時間アニールした;その後、リボンは、滅菌バッグに密封され、標準的なエチレンオキシド滅菌工程を経た;滅菌したリボン試料を、バイオフィルム形成試験に用いた。
図4に示すように、内径1.25インチ、長さ21インチである円筒形透明ポリカーボネートチャンバーを、試験に用いた;参考例および本発明のPUリボンを、小さな長方形(7mm×25mm)のクーポンに切断し、チャンバーに配置されるときにチャンバー内にクーポンを吊り下げるキャップに取り付けた;4つの異なるリボン材料(各材料につき6回の反復)を、並べて比較するために同時に試験した;サンプルの位置をランダム化するために、4つの異なる材料をチャンバー内で、交互の位置(
図4に示すように)に配置した。この試験用の細菌として、Staphylococcus epidermidisを用いた。試験手順は、以下の通りである:試験チャンバーに細菌/培地を満たし、24枚の試験クーポン全てを浸した;細菌をクーポンに付着させるために35℃で1時間インキュベートした;1500mlの生理食塩水を10分で重力供給して、チャンバーから細菌/培地を除去し、次いでチャンバーを空にした;蠕動ポンプを用いて、35℃、1500ml/分の高剪断で、24時間、培地リザーバーとチャンバーの間で培地を循環させて、バイオフィルムを形成した;2000mlの生理食塩水を13分で重力供給して、チャンバーから培地を除去し、次いでチャンバーを空にした;クーポンを取り出し、各クーポンを、滅菌生理食塩水に1回、次に滅菌生理食塩水の別の容器にさらに3回浸した;各クーポン上の細菌バイオフィルムを、次に、ボルテックスおよび超音波処理によって食塩水中に回収した;10倍連続希釈を実施することによって細菌コロニー数を計数した;次いで、各希釈液のアリコートを、スプレッドプレート法により培養した;培養のインキュベーション後、プレートを調べ、約30~300のコロニー数を有する希釈液を計数した;希釈係数を用いて、クーポンから除去された細菌バイオフィルムの初期総数を計算できた。
【0166】
表13および14は、参考例および本発明のPUリボンクーポン(各材料に対して6回の反復したクーポンの平均)に対する最終の細菌バイオフィルムコロニー数を示す。
【0167】
【0168】
【0169】
データは、変性オリゴマーFluorolink(登録商標)E10-HとMCR-C62の両方の導入により、おそらくバイオフィルムなどの種々の生物由来物質の付着を困難にする疎水性で潤滑性の表面のために、細菌バイオフィルムコロニー形成がいくらか減少したことを示す。
【0170】
実施例3
表1のいくつかの組成物(本発明のPU1-B-I、1-C、1-F-I、および参考例PU1-L)について、ポリウレタン顆粒物/チップを、さらなるチューブ特性試験のために、22GA標準単層カテーテルチューブに押し出し成形した。押出後、チューブを90~95℃で1時間アニールした。前掲のリボンの発見と同様に、本発明のPUチューブサンプル1-B-I、1-Cおよび1-F-Iは、参考例PUチューブサンプル1-Lと比較して透明性が低い(濁っている)。前述のように、これはおそらく、Fluorolink(登録商標)E10-HまたはMCR-C62の導入による本発明のPFPE-およびPDMS-変性PU内のコポリマー相分離の増加によるものであり、結果的に光散乱に影響を及ぼし得る。しかしながら、本発明のPFPE-およびPDMS-変性PUチューブ試料1-B-I、1-Cおよび1-F-Iは、カテーテルチューブ用途に使用された場合に、依然として、血液フラッシュバック識別のために透視するのに十分な透明性を示した。
【0171】
カテーテルチューブの抵抗力。上記の本発明および参考例の22GA PUカテーテルチューブサンプルを組み合わせて、(カテーテルチューブ、ウェッジ、カテーテルアダプター、ニードルおよびニードルハブを使用して)カテーテルアセンブリを製造した。カテーテル潤滑剤を、この試験では、カテーテルチューブの外側に塗布しなかった。カテーテルチューブの抵抗力を、インストロンのユニバーサル圧縮試験機を用いて試験した。約12ミルの厚さの天然ゴムラテックスを試験フィルムとして用いた。表15は、天然ゴムラテックスフィルム(各データについては3~5回の測定の平均)に対する本発明及び参考例PUカテーテルチューブ材料の抵抗力を示す。
【0172】
【0173】
表15は、表6に示した先の試験データ(静摩擦係数)と類似の傾向を示している。変性オリゴマーFluorolink(登録商標)E10-Hの導入は、チューブの抵抗力を減少させたが、それほど際立ったものではなかった;しかしながら、変性オリゴマーMCR-C62の導入は、チューブ抵抗力をより有意に減少させることができる。これは表6の先の結論と一致しており、Fluorolink(登録商標)E10-HおよびMCR-C62の導入は両方とも潤滑性表面特性を提供できるが、MCR-C62は潤滑性の観点からより効率的な変性オリゴマーである。
【0174】
表面血栓形成性試験。標準チャンドラーループシステムを、体外血液循環をシミュレートするために用いた。再石灰化した新鮮なウシ血液を部分的に充填したPVCチューブ(1/4インチ ID)を、再閉鎖可能なループに形成し、温度制御水浴(37℃)中で20rpmの回転速度で回転させ、動脈血流条件をシミュレートした。ループ内に、種々のカテーテルチューブ試料(22GA、4インチ長、標準エチレンオキシド滅菌プロセスを経る)を配置して、血液とカテーテルチューブ材料および表面との相互作用を試験した。血栓形成性試験は、血液との接触を目的とした医療装置の開発において、重要な要素である。本研究では、再石灰化した新鮮なウシ血液を用いて、異なるカテーテルチューブ材料の異なる血栓形成能を検出する能力を評価するために、チャンドラーループモデルを用いた。
【0175】
図5は、1単位/mlの高ヘパリン濃度で、2時間の試験時間でのチャンドラーループシステムを用いた、本発明のPUチューブ材料1-B-Iおよび1-F-Iと参考例PUチューブ材料1-Lとの血栓形成の比較を示す注釈付き写真である。
図5は、これら3つの材料のうち、本発明のPUチューブ材料1-B-I(3.55重量%の変性オリゴマーFluorolink(登録商標)E10-Hの導入)が最良の非血栓形成特性を示したことを明確に示している;本発明のPUチューブ材料1-F-I(3.55重量%の変性オリゴマーMCR-C62の導入)は、チューブ材料1-B-Iと比較して比較的多くの血栓形成を示したが、参考例PUチューブ材料1-Lよりもなお良好であった。
【0176】
図6は、0.2単位/mlの低ヘパリン濃度で、2時間の試験時間でのチャンドラーループシステムを用いた、本発明のPUチューブ材料1-B-Iおよび1-F-Iと参考例PUチューブ材料1-Lとの血栓形成の比較を示す。
図6は、これら3つの材料のうち、本発明のPUチューブ材料1-B-I(3.55重量%の変性オリゴマーFluorolink(登録商標)E10-Hの導入)が最良の非血栓形成特性を示したことを再度示す;本発明のPUチューブ材料1-F-I(3.55重量%の変性オリゴマーMCR-C62の導入)は、このような低ヘパリン濃度では参考例PUチューブ材料1-Lと区別できなかった。
【0177】
本明細書を通して、「1つの実施形態」、「特定の実施形態」、「1つ以上の実施形態」、または「一実施形態」という言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、材料、または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書の様々な場所に現れる「1つ以上の実施形態では」、「特定の実施形態では」、「1つの実施形態では」、「一実施形態では」などの語句は、必ずしも本発明の同じ実施形態を指しているわけではない。さらに、特定の特徴、構造、材料、または特性は、1つ以上の実施形態において任意の適切な方法で組み合わせることができる。
【0178】
本明細書では、特定の実施形態を参照して本発明を説明してきたが、これらの実施形態は、本発明の原理および用途の単なる例示であることを理解されたい。当業者には、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明の方法および装置に様々な修正および変更を加えることができることが明らかであろう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲およびそれらの等価物の範囲内の修正および変形を含むことが意図される。