(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】軌道区間を監視する方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
B61L 23/00 20060101AFI20231228BHJP
B61L 25/02 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
B61L23/00 Z
B61L25/02 G
(21)【出願番号】P 2021524102
(86)(22)【出願日】2019-06-24
(86)【国際出願番号】 EP2019066588
(87)【国際公開番号】W WO2020011517
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-06-23
(32)【優先日】2018-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】514318345
【氏名又は名称】プラッサー ウント トイラー エクスポート フォン バーンバウマシーネン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Plasser & Theurer, Export von Bahnbaumaschinen, Gesellschaft m.b.H.
【住所又は居所原語表記】Johannesgasse 3, A-1010 Wien, Austria
(73)【特許権者】
【識別番号】521013703
【氏名又は名称】フラウシャー ゼンゾアテヒニーク ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】Frauscher Sensortechnik GmbH
【住所又は居所原語表記】Gewerbestrasse 1, 4774 St. Marienkirchen, Austria
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】クジシュトフ ヴィルチェク
(72)【発明者】
【氏名】フローリアン アウアー
(72)【発明者】
【氏名】フリッツ コプフ
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ローゼンベアガー
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン フーバー
(72)【発明者】
【氏名】ガヴィン ランカスター
(72)【発明者】
【氏名】ルネ ツァイリンガー
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-111686(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0246612(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03339819(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0106887(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 23/00
B61L 25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道区間(1)に沿って延在するセンサ(8)と接続された監視装置(21)を用いて前記軌道区間(1)を監視する方法であって、振動させられた前記センサ(8)が前記監視装置(21)に測定データを供給する、方法において、
前記軌道区間(1)を鉄道車両(2)が走行すると、既知の振動値(a,QA,QS)を有する振動(12)が前記軌道区間(1)にもたらされて前記センサ(8)に伝達され、前記鉄道車両(2)の位置データ(x)が検出され、評価装置(27)により前記既知の振動値(a,QA,QS)、前記センサ(8)から供給された前記測定データおよび前記軌道区間(1)に関する前記位置データ(x)から振動伝達(13)の特徴が導出され、前記振動伝達(13)の特徴が伝達関数(T)として前記監視装置(21)に記憶されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記測定データは、少なくとも1本のライトガイドファイバを介した分散型音響検出により、光導波路の信号から導出される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記鉄道車両(2)のタイマ(17)と前記監視装置(21)のタイマ(17)とが同期され、検出された前記位置データが時間に関して記憶される、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記鉄道車両(2)の位置は、GNSS受信器(16)により検出される、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記振動(12)は、軌道構築機械の作業ユニット(18)を介してもたらされる、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記軌道構築機械の制御データおよび/または作業パラメータは、前記評価装置(27)に送られて、前記測定データでもって調整される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項記載の方法を実施するためのシステムであって、監視装置(21)を備えており、該監視装置(21)には、軌道区間(1)に沿って延在するセンサ(8)が測定データを供給するようになっている、システムにおいて、
鉄道車両(2)は、該鉄道車両(2)によって生じた振動(12)ならびに位置データを検出するように構成されており、評価装置(27)は、前記軌道区間(1)に関して振動伝達(13)の特徴を、前記監視装置(21)に記憶されるべき伝達関数として導出するために、前記測定データと前記鉄道車両(2)により検出された前記位置データとを調整するように構成されていることを特徴とする、システム。
【請求項8】
前記鉄道車両(2)は、生じた前記振動(12)を検出する加速度センサ(14)を有している、請求項7記載のシステム。
【請求項9】
前記鉄道車両(2)は、該鉄道車両(2)の位置を検出するGNSS受信器(16)を有している、請求項7または8記載のシステム。
【請求項10】
前記鉄道車両(2)はタイマ(17)を有しており、前記監視装置(21)はタイマ(17)を有しており、2つのタイマ(17)は同期して作動するように構成されている、請求項7から9までのいずれか1項記載のシステム。
【請求項11】
前記鉄道車両(2)は、特定の振動放出を生じさせるように構成された軌道構築機械である、請求項7から10までのいずれか1項記載のシステム。
【請求項12】
前記軌道構築機械(2)は、振動発生器(19)を有する作業ユニット(18
)を有している、請求項11記載のシステム。
【請求項13】
前記センサ(8)は、光導波路を含む、請求項7から12までのいずれか1項記載のシステム。
【請求項14】
前記鉄道車両(2)は、軌道物体(10)を検出する測定装置を有している、請求項7から13までのいずれか1項記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道区間に沿って延在するセンサと接続された監視装置を用いて軌道区間を監視する方法であって、振動したセンサが監視装置に測定データを供給する、方法に関する。さらに本発明は、この方法を実施するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道運行、鉄道インフラストラクチャおよび軌道におけるその他の活動を監視するために、軌道区間に沿って様々な監視装置が取り付けられている。監視装置には、例えば軌道回路として使用される車軸カウントシステムが含まれる。別の周知の監視装置は、ビデオシステム、温度センサ等である。さらに、軌道区間に沿って敷設されたケーブルまたは導線が、監視システムのコンポーネントとして利用されることもある。
【0003】
例えば、欧州特許出願公開第3275763号明細書から公知の監視装置は、軌道の隣に敷設された光導波路に接続されている。この監視装置は、軌道区間に沿って振動または固体伝搬音を検出する。具体的には、光導波路のグラスファイバ内でのレーザパルスの反射が検出される。音波が光導波路にぶつかると、これらの反射は変化する。例えば、コヒーレントレーザパルスが予め規定された周波数でシングルモードファイバ中に送られる。ファイバ内の天然の含有物が、このレーザパルスの一部を発生源に反射し戻す(後方散乱)。特別に開発されたアルゴリズムが、後方散乱成分に基づき、軌道区間に沿った振動源の位置および性質についての結論を導出することを可能にする。
【0004】
この場合、振動源から光導波路への振動伝達は、多くの未知の影響に左右されるという難点が生じる。通常、光導波路は、軌道に対して常に平行に延在しているわけではないケーブルトラフ内に敷設されている。さらに、必要な場合に長さ補償を実施することができるようにするために、ケーブルホースも設けられている。つまり、監視される軌道区間において、光導波路の長さは一般に軌道区間の長さとは異なっている。地盤および軌道道床の位置に依存した構造も、振動伝達に大幅に影響する。
【0005】
これらの難点を克服するために、例えば軌道に配置された位置センサ(例えば車軸カウンタ)の出力信号が、グラスファイバ内で検出された光反射と共に評価される。これら2つの測定結果を組み合わせることで、軌道車両の位置を軌道区間全体にわたり十分に特定することができ、位置センサ間のおおよその位置が、検出されたグラスファイバの光反射から導出される。各軌道が平行に延在する場合も、位置センサが目下の走行軌道の確実な割当てを提供する。
米国特許出願公開第20160334543号明細書から公知の構成では、軌道区間に沿って敷設された光導波路の反射信号が、設定された基本信号でもって較正される。この基本信号は、軌道区間上の管理装置から発せられ、評価装置において検出される。基本信号の検出時に生じる変化が、評価装置により検出された全ての信号を適合させるために利用される。適合された信号は、軌道上の物体を識別しかつ監視するために、既知の信号パターンと比較される。よって、信号評価には、基本信号の連続的な検出が必要とされている。
国際公開第2014019886号には、軌道区間に沿って敷設された導波路による鉄道車両用の位置測定装置が開示されている。この場合、設定された作動時点に振動を励起させるために、既知の位置に位置する振動装置が利用される。導波路を介して測定された後方散乱パターンの評価に基づき、位置測定装置が較正される。
欧州特許出願公開第3339819号明細書には、対象に沿って延在するセンサを有する監視装置を較正する方法およびシステムが開示されている。この場合、較正パラメータを適合させるために、監視装置の測定値と基準測定装置の測定値とが調整される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の根底を成す課題は、冒頭で述べた形式の方法およびシステムに関して、従来技術と比べた改良点を示すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、本発明に基づき、請求項1および7記載の特徴によって解決される。従属請求項には本発明の有利な構成が記載されている。
【0008】
この場合、軌道区間を鉄道車両が走行すると、既知の振動値を有する振動が軌道区間にもたらされてセンサに伝達される。さらに、鉄道車両の位置データが検出され、その際に評価装置により既知の振動値、位置データおよび軌道区間に関する測定データから振動伝達の特徴が導出される。この場合、既知の振動値と見なされるのは、極めて一般的に調整されたパラメータまたは検出された測定値であり、これらはもたらされた振動を特徴付ける。このようにして、軌道区間を一度だけ走行することにより、システムの較正が行われる。具体的には、既知の振動放出および軌道区間の全ての箇所に関する位置データを用いて、局所的に存在する状態がセンサ測定データに及ぼす影響を算出する。この場合に重要なのは、特に、振動源とセンサとの間の減衰要素または音反射要素である。これらの結果は、後続の測定のためにセンサ測定データの評価に一緒に加えられる。したがって、監視される軌道区間において音源または振動源の正確な位置測定を行うために軌道に沿って配置される、複数の別のセンサの必要性がなくなる。
【0009】
本発明では、振動伝達の特徴が伝達関数として監視装置に記憶されていることが想定されている。これにより、センサ測定データの正確で迅速な評価を実施することができ、様々な用途に対して伝達関数を最適化することができる。例えば、特定の振動周波数が詳細な評価に重要でない場合、これらの振動周波数をフィルタリングすることができる。
【0010】
有利には、測定データは、特に少なくとも1本のライトガイドファイバを介した分散型音響検出を用いて、光導波路の信号データから導出される。いわゆる分散型音響検出(Distributed Acoustic Sensing, DAS)を用いて、光導波路を仮想マイクとして利用可能である。このためには、ライトガイドファイバの端部において最小限の作業が必要であるだけに過ぎず、この場合、既に軌道設備内に敷設された光導波路も利用することができる。通常、このような光導波路内では、常に複数本の個別ファイバがこの用途のために自由に使用可能である。
【0011】
データのオフライン処理用に、鉄道車両のタイマと監視装置のタイマとが同期され、検出されたデータが時間に関して記憶されると有利である。これによると、時間に関する鉄道車両のデータと監視装置のデータとが結び付けられるため、軌道区間の一度の走行後に、評価装置による評価が実施可能である。
【0012】
鉄道車両の位置は、有利にはGNSS受信器を用いて検出される。このような、衛星に支援される位置特定装置は既に設けられていることが多く、本方法に一緒に利用することができる。
【0013】
さらに、軌道構築機械の作業ユニットを介して振動がもたらされると有利である。このようにして、規定された振動が放出され、この場合、導入位置および対応する振動パラメータは正確に知られている。この場合、監視装置の較正は、軌道構築機械による軌道処理中に行われる。
【0014】
この場合、軌道構築機械の制御データおよび/または作業パラメータが評価装置に送られ、測定データでもって調整されるという改良が想定されている。例えば、測定データと制御データまたは作業パラメータとの調整を繰り返すことにより、軌道区間に沿った軌道道床の性質を評価することができる。さらに、これにより、軌道構築機械の作業割当ての実施を監視することができる。
【0015】
説明した方法のうちの1つを実施するための本発明によるシステムは、監視装置を備えており、この監視装置には、軌道区間に沿って延在するセンサが測定データを供給する。さらに、本システムは、鉄道車両によって発生した振動ならびに位置データを検出するように構成された鉄道車両および軌道区間に関して振動伝達の特徴を、監視装置に記憶されるべき伝達関数として導出するために、測定データと鉄道車両により検出されたデータとを調整するように構成された評価装置を備えている。本システムにより、監視装置の測定手段が、軌道区間走行中にもたらされた鉄道車両の振動および位置でもって調整される。
【0016】
本システムの簡単な形態は、生じた振動を検出する加速度センサを鉄道車両が有していることを想定している。例えば、1つの車軸に取り付けられた加速度センサが、車輪によって軌道にもたらされた振動のデータ(加速度、周波数、振幅等)を供給する。
【0017】
位置特定のためには、鉄道車両の位置を検出するGNSS受信器を鉄道車両が有していると有利である。
【0018】
検出したデータをオフラインで調整することができるようにするためには、鉄道車両がタイマを有しており、監視装置がタイマを有しており、2つのタイマが同期して作動するように構成されていると有意である。
【0019】
有利には、鉄道車両は、特定の振動放出を生じさせるように構成された軌道構築機械である。この場合は、軌道構築機械による軌道区間の処理を、センサに対する振動伝達の特徴を特定するために利用することができる。
【0020】
特定の振動を放出するためには、軌道構築機械が、振動発生器を有する、特につき固めユニットまたは安定化ユニットとして形成された作業ユニットを有していると有利である。この場合、放出された振動の検出は、制御データまたは作業パラメータの評価を介して行うことができる。
【0021】
軌道区間に沿って、データ伝送用の光導波路が敷設されていることが多い。よって、本システムの1つの有利な形態では、センサが光導波路を含んでいることが想定されている。つまり、既存のインフラストラクチャを利用することができる。
【0022】
1つの別の改良では、鉄道車両は、軌道物体を検出する測定装置を有している。これは特に、軌道物体の位置または性質が、振動源からセンサへの振動伝達に影響を及ぼす場合に重要である。場合により、検出された軌道物体は、伝達特徴の決定に加えられる。
【0023】
以下では、添付図面を参照して本発明を例示的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】軌道区間および鉄道車両を示す概略横断面図である。
【
図2】軌道区間および軌道構築機械を示す概略横断面図である。
【
図3】軌道構築機械の振動放出を示す概略図である。
【
図6】時間-距離線図および伝達関数を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1には、鉄道車両2が走行する軌道区間1の横断面が示されている。軌道区間1は、軌道道床3を備えた鉄道盛土の典型的な形を有している。軌道道床3内には、まくらぎ4と、まくらぎ4に取り付けられたレール5とから成る軌道グリッドが位置している。このユニットが、軌道区間1の上部構造を形成している。軌道道床3の下には、下部構造として中間層6および排出層7が設けられていることが多い。この道床の隣には、軌道区間1に沿ってセンサ8が延在している。この場合は例えば、ケーブルトラフ9内を案内され、本発明のためには音響センサとして使用される光導波路である。通常、区間1に沿って、バリス、信号装置等の別の軌道物体10が配置されている。
【0026】
軌道区間1の走行中に鉄道車両2はその車輪11を介して不均一な力Qをレール5に伝達し、このときこれらの力Qは、上部構造を介して下部構造へ導出され、最終的には地下へ導出される。このようにして、鉄道車両2は、伝達要素3~7の変形として波の形態で動的に伝搬する振動12を放出する。この振動伝達13によって、ケーブルトラフ9内に位置するセンサ8も振動させられる。
【0027】
導入された振動12は、例えばこの鉄道車両2の検出装置15の、車軸に配置された加速度センサ14によって検出される。振動値a、Qは、検出装置15において、例えばGNSS受信器16によって検出される位置データxと結び付けられる。有利には、検出されたデータにタイムスタンプを付与するために、検出装置15はタイマ17を有している。
【0028】
図2には、軌道構築機械として形成された鉄道車両2による比較可能な動作が示されている。具体的には、作業ユニット18として軌道道床3内に沈降可能なつき固めユニットを有する道床つき固め機である。この作業ユニット18によって、的確に設定された振動12が放出される。この場合、軌道グリッドを介した振動伝達13は省かれている。振動値は、軌道構築機械の制御データおよび作業パラメータから導出されるか、または加速度センサ14によって検出される。特に、作業ユニット18内で作動する振動発生器19の作業パラメータが、利用可能な振動値を供給する。つまり、例えば、振動発生に使用される偏心駆動装置の回転速度が、軌道中にもたらされる振動12の周波数を示している。
【0029】
軌道構築機械は、
図3では側面図で示されている。追加的な作業ユニット18として、ここでは作業方向20に見てつき固めユニットの後ろに安定化ユニットが配置されている。安定化ユニットによって、所定の水平方向の振動12が、レール5とまくらぎ4とを介して道床中に導入される。軌道区間1の良好にアプローチ可能な箇所において、センサ8は監視装置21に接続されている。センサ8がデータ伝送用の光導波路である場合、監視装置21との接続を形成するためには、1本の使われていないライトガイドファイバで十分である。
【0030】
軌道構築機械によってセンサ8に伝達された振動12は、監視装置21によって記録される。この場合、光導波路は通常、ケーブルトラフ9内で他の導体の隣に緩く敷設されている点に留意せねばならない。道床中に導入された振動12は、その後、光導波路に不均一に伝搬する。具体的には、伝達要素3~7およびケーブルトラフ9の動的特性が、導入された振動12と記録された光導波路の振動との間の伝達関数Tを決定する。
【0031】
軌道構築機械の位置は既知である。なぜならば、軌道の処理は場所に依存して行われるからである。例えば、処理箇所を決定するために、軌道のキロメートル数が利用される。目下の位置の検出には、例えばオドメータまたはGNSS受信器16が用いられる。検出された軌道物体10を介した場所の特定も有意である。このために、例えば軌道構築機械にレーザスキャナが配置されており、これにより軌道およびその周辺を非接触式に走査することができる。
【0032】
図4では、列車として形成された鉄道車両2が軌道区間1を走行している。例えば、機関車が非積載貨車および積載貨車を牽引している。機関車の少なくとも1つの車軸が、軌道中に放出された振動12を検出する加速度センサ14を有している。局所的な設備22が、もたらされた振動12を遮断または反射する場合がある。この場合、伝達関数Tは全体的に、複数箇所(車輪接触点)におけるレール励振の複雑な三次元的な重ね合わせと、対応する、振動測定箇所(光導波路)までの個々の伝達関係とによって決定される。
【0033】
この場合、各列車は、列車の走行速度および組成の結果として得られる固有の放出パターンを有している。
図4に示す例では、放出パターンは、弾発し難い機関車、非積載貨車に基づく低荷重、積載貨車に基づく高荷重ならびに場合により車輪フラット等によって特徴付けられている。車輪接触点でレール5に放出パターンでもって荷重が加えられ、この場合、放出パターンは列車と共に軌道区間1に沿って移動する。
【0034】
軌道の欠陥、例えばレール頭部における波状摩耗、レール破断23、軌道の波打ち24、中空層、欠損したまくらぎ4またはレール締結装置等は、定置の振動源である。よって、これらを列車が走行すると、振動が励起される。この場合、上部構造構築物(砕石路盤、直結軌道25)と、軌道区間1に沿った構造物26(橋、トンネル等)とにおける差も重要である。
【0035】
車輪接触点の各個別の振動は、光導波路内の観察測定点に伝達される。生じる伝達関数Tは、振動伝達13を決定する全ての要素3~7,9,22~26に依存している。したがって、光導波路が測定点において、具体的な振動を表す物理単位を測定することはない。その代わりに、光導波路は監視装置21に、観察測定点において光導波路に作用する、重ね合わされた全ての振動12を表す信号を供給する。伝達関数Tは、この複雑な関係を反映しており、システムの較正に役立つ。
【0036】
図5に基づき、軌道構築機械を用いた伝達関数Tの決定を説明する。レール5に沿って測定された距離xは、軌道における軌道構築機械の位置を規定する。出発点として、例えば監視装置21がセンサ8と接続されている箇所が規定されている。そこからセンサ8は、変向経路yでもって観察測定点まで延在している。例えば、ケーブルトラフ9は軌道に対して常に平行に延在しているわけではなく、または長さ補償用のケーブルホースが設けられている。
【0037】
軌道構築機械は、2つの作業ユニット18を有しており、これらの作業ユニット18はそれぞれ、時間tにわたって変化する力QA(t,x),QS(t,x)を軌道に加え、このようにして振動12を生じさせる。この場合は、安定化ユニットが力QA(t,x)をレール5に加え、つき固めユニットが力QS(t,x)を軌道道床3に直接に加える。
【0038】
伝達関数Tは、3つの成分、つまり伝達関数レールグリッドS(x)、伝達関数道床B(x)および伝達関数センサF(y)から成り、すなわち:
【数1】
である。この場合、距離xは、伝達システムをレール5に沿って離散化させる変数として用いられる。センサ8に沿って、変数yを用いた離散化が行われる。相応して、伝達関数は時間に関連して取得されてもよく、この場合、作業ユニット18が振動12を放出する時間と場所とは既知である。つまり、場所の関連付けは、時間情報を介して行われる。この場合、監視装置21は、軌道構築機械のタイマ17と同期したタイマ17を有している。
【0039】
伝達関数レールグリッドS(x)は、距離xに依存する、レール5およびまくらぎ4の振動伝達特性を表す。すなわち:
S(x)=(s1(x) s2(x)...)
である。パラメータ化は、各観察測定点における値Ssを用いて行われ、この場合、特にレール表面、分岐器構成部材またはレール破断の作用が識別されてパラメータ化される。
【0040】
伝達関数道床B(x)は、まくらぎ下縁からセンサ8までの振動伝達特性を表す。すなわち:
【数2】
である。行列の行数kにより、道床はまくらぎ下縁からセンサ8まで離散化される。振動伝達に影響を及ぼすパラメータ(伝搬速度、減衰、反射...)は行で識別され、パラメータ化される。
【0041】
伝達関数センサF(y)は、例えばライトガイドファイバの特性を表す。すなわち:
F(y)=(f1(y) f2(y)...)
である。パラメータ化は、各観察測定点における値ffを用いて行われ、この場合、個々のパラメータ値は、例えば固有ファイバ信号減衰、位置関係(y→x)、ライトガイドファイバと伝達関数道床B(x)との接触特性ならびにケーブル特性(補強等)を示している。
【0042】
各作業ユニット18は、ベクトルAで表される。すなわち:
【数3】
である。値a
aは、放射された振動12のパラメータを表す。同じことが列車の車軸にも当てはまり、この場合は静止輪重が力Qとして示されている。パラメータ値a
aは、例えば多角形摩耗、車輪フラット、車輪形状等を示す。時点tでの軌道に対する列車全体の作用を表す行列Z(t)は:
【数4】
である。
【0043】
伝達関数Tの算出には、各作業ユニット18または振動検出手段を備えた車軸による軌道の励振が利用される。この場合、時間tにわたりまたはレール5に沿った相応の箇所にわたり作用する力Qが、その都度示される。すなわち:
Q(t)またはQ(x)
である。
【0044】
監視装置21による、センサ8に沿った観察測定点の測定は、行列M(t,y)を生じさせる。すなわち:
【数5】
である。この場合、位置または経路yに沿って各値m
mが測定され、対応する、もたらされた振動12のパラメータに割り当てられる。対応するパラメータは、例えば振幅、周波数、ひずみ等である。
【0045】
伝達関数Tの本来の決定は、例えば監視装置21、中央システムまたは監視装置21に接続可能なコンピュータ内に設けられた評価装置27において行われる。この評価装置27によって、放出された振動12の取得データが、センサ8の測定値でもって調整される。例えば、時点tにおける列車の軌道区間1の走行時に、対応する列車行列Z(t)が利用される。重なり合って放出された振動12(放出パターン)は、伝達関数Tでもってレール5に伝達され、行列M(t,y)として測定される。すなわち:
【数6】
である。
【0046】
システムの規定された励振無しでは、伝達関数Tは、パターン調整を用いて不正確にしか決定することができないと考えられる。この場合は、列車の励振を列車行列Z(t)の形態で、測定時に得られた行列M(t)と経験に基づき一致させることができるだけに過ぎないと考えられる。
【0047】
これに対して、規定された励振(車軸加速度が測定される軌道構築機械または列車)では、伝達関数Tの特性を十分に正確に決定することができる。すなわち:
【数7】
である。伝達関数Tの相応のパラメータ化に基づき、監視装置21の較正が行われる。
【0048】
規定された励振および規定されていない励振でもって測定を繰り返すと、統計的な方法を用いて伝達関数Tの精度を向上させることができる。具体的には、統計的な評価を介して、伝達関数Tのパラメータに対する信頼性を提供することができる。その後の測定において差が観察される場合には、システムの変更について相応の結論を導くことができる(車輪フラット、多角形摩耗、レール破断等)。
【0049】
このようなシステム変更無しの場合、伝達関数Tは、短期間(列車走行時間または数日間)にわたり不変であると見なされる。各列車の放出パターンも、少なくとも1回の走行中は不変であると想定される。これらの想定は、鉄道運行中に多数の走行を分析することによる統計的な方法を用いると、複数回の個別の測定の精度を大幅に上回る一義的な解につながる。このようにして、軌道区間1の位置固定的な特徴がますます正確に知られることになる。列車の放出パターンも、観察される軌道区間1全体にわたり追跡可能であり、統計的な方法により比較的正確に算出可能である。列車の特徴を評価すると、外れ値を直ちに検出することができる。
【0050】
特徴は比較的長期にわたってのみ変化するため、システムの新規較正は有意である。このような変化のトリガとなるのは、地盤特性の季節変動、建設工事、大規模な気象事象ならびに軌道の摩耗現象(レール5における波状摩耗、ぶつかる分岐器のクロッシング、バラスト摩耗等)であり得る。この長期間の変化の監視は、時系列および繰り返される較正を介して行われる。このようにして、遅い変化を追跡することができる。これに対して、軌道の特徴の急な変化(例えばレール破断)はすぐに判明する。
【0051】
伝達関数Tと共に、センサ8の測定された信号からは、一義的な監視結果が得られる。走行中の列車の特徴的な放出パターンも、軌道区間1の状態変化または位置固定的な振動源等と同様に識別可能である。
【0052】
図6の左側には、最初にセンサ8を介して監視装置21において検出される測定信号が時間-距離線図で示されている。対応する軌道区間1は複線区間である。横座標には時間tが示されており、縦座標はセンサ8に沿った測定点の位置yを示している。
【0053】
説明した伝達関数Tを用いた数学的な変換により、局所的な伝達関係が補正される。これにより右側の、列車の歪曲されていない放出パターンを軌道区間1に沿って検出可能な較正された測定信号を用いた時間-距離線図が得られる。統計的な評価により、位置固定的な振動源の特徴も算出可能である。
【0054】
例えば、第1のパターン推移28は、第1の停留所(水平方向延在部)において鈍行列車(第2のパターン推移29)の傍らを通過する高速列車の放出パターンの動きを示している。2つのパターン推移28,29における水平方向のバー30は、当該軌道の局所的な欠陥(例えばレール破断)を示している。隣の軌道では、停留場に全く停止しない対向列車が動いている(第3のパターン推移31)。
【0055】
つまり、伝達関数Tを用いた較正の利点は、列車の放出パターンならびに位置固定的な振動源の特徴を解釈可能かつ追跡可能にするために、識別された局所的な伝達関係が補正されるという点にある。