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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】生体用電極
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/265 20210101AFI20231228BHJP
   A61B 5/257 20210101ALI20231228BHJP
【FI】
A61B5/265
A61B5/257
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021550329
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(86)【国際出願番号】 JP2020024205
(87)【国際公開番号】W WO2021070418
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2019187718
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108742
【氏名又は名称】タツタ電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】芳野 眞次
(72)【発明者】
【氏名】生駒 光司郎
【審査官】佐藤 秀樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/061758(WO,A1)
【文献】特表2005-503189(JP,A)
【文献】国際公開第2011/122241(WO,A1)
【文献】特開2019-088764(JP,A)
【文献】特開昭55-134101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/00-1/44
A61B 5/05-5/0538
5/24-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分極性電極層と、前記分極性電極層に積層された非分極性電極層とを備え、
前記非分極性電極層は、前記分極性電極層の表面に形成された銀/塩化銀層と、前記銀/塩化銀層を被覆する腐食防止層とを有し、
前記腐食防止層が、ポリマー系の腐食防止剤を含み、
前記銀/塩化銀層の厚みが、0.05~0.35μmであり、
前記腐食防止層の厚みが、0.0150.5μmである、生体用電極。
【請求項2】
前記腐食防止剤が、樹脂と熱硬化剤とを含む、請求項1に記載の生体用電極。
【請求項3】
前記樹脂が、ポリエステル系樹脂を含む、請求項2に記載の生体用電極。
【請求項4】
前記熱硬化剤が、イソシアネート系熱硬化剤を含む、請求項2又は3に記載の生体用電極。
【請求項5】
前記非分極性電極層は、前記分極性電極層の表面に形成された前記銀のメッキ膜を含む、請求項1乃至4の何れか1項に記載の生体用電極。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、日本国特願2019-187718号の優先権を主張し、引用によって本願明細書の記載に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、電極、特に生体用電極に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、分極性電極層と、銀及び塩化銀を含む非分極性電極層とを備えた電極が使用されている。かかる電極は、銀及び塩化銀が優れた非分極性を示すため、生体用電極としての使用に適している(特許文献1参照)。
【0004】
また、銀蒸着などの薄膜形成法によって、分極性電極層の表面に銀の薄膜が形成されてなる非分極性電極層を備えた電極が提案されている(特許文献2参照)。かかる電極は、薄膜形成法を採用することにより、銀の使用量が低減可能であるため、安価に製造され得るという利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2003/061758号
【文献】日本国特表2004-512527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載された電極は、銀の使用量が低減可能ではあるものの、銀の薄膜が保管中に劣化し、性能が低下するという問題点を有している。特に、生体用電極は、通常、皮膚に接触させる層である導電性ゲル層が非分極性電極層に貼り付けられているため、銀が保管中に導電性ゲル層に含まれる塩化物イオンなどの影響によって劣化し易いという問題点がある。
【0007】
上記問題点に鑑み、本発明は、保管安定性に優れ且つ銀の使用量が低減可能な電極を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る電極は、
分極性電極層と、前記分極性電極層に積層された非分極性電極層とを備え、
前記非分極性電極層は、銀、塩化銀及び銀の腐食防止剤を含み、
前記腐食防止剤が、ポリマー系の腐食防止剤である。
【0009】
また、本発明に係る電極は、好ましくは、
前記腐食防止剤が、樹脂と熱硬化剤とを含む。
【0010】
また、本発明に係る電極は、好ましくは、前記樹脂が、ポリエステル系樹脂を含む。
【0011】
また、本発明に係る電極は、好ましくは、
前記熱硬化剤が、イソシアネート系熱硬化剤を含む。
【0012】
また、本発明に係る電極は、好ましくは、
前記非分極性電極層が、前記分極性電極層の表面に形成された前記銀のメッキ膜を含む。
【0013】
また、本発明に係る電極は、好ましくは、生体用電極である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A図1Aは、一実施形態に係る電極の断面構造を示す模式図である。
図1B図1Bは、リード線が図1Aのリード線とは異なる位置に固定された形態の断面構造を示す模式図である。
図1C図1Cは、リード線が図1A及び図1Bのリード線とは異なる位置に固定された形態の断面構造を示す模式図である。
図2図2は、SEMによる実施例2の電極における断面構造の撮影画像である。
図3図3は、実施例における電極を評価する際の状態を示す模式図である。
図4図4は、実施例における腐食防止剤の有効性を示すグラフである。
図5図5は、実施例における銀薄膜の厚みの影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る電極1について説明する。
【0016】
本実施形態の電極1は、生体情報を取得するために使用される生体用電極である。生体情報としては、心電図、脳波、筋電図などが挙げられる。電極1は、このような情報を取得するのに用いられるため、皮膚の表面に沿うように貼り付け可能な柔軟性を有していることが好ましい。また、生体用電極としての性能の観点から、電極1のインピーダンスは、小さい方が好ましく、例えば、2000Ω以下、1000Ω以下、500Ω以下であることが好ましい。また、電極1は、このような性能を、室温で2年間以上維持可能であることが好ましい。例えば、加速度試験では、電極1は、温度57℃の条件で3週間以上、5週間以上、7週間以上又は10週間以上、上記性能を維持可能であることが好ましい。
【0017】
図1Aに示されるように、電極1は、シート状の基材10と、基材10の一表面に積層されており生体からの電気信号を検出するための電極層20と、電極層20と電気的に接続されたリード線30とを備えている。
【0018】
基材10は、通常、ポリエチレンテレフタレート(PET)製の電気絶縁性フィルムにより形成される。ここで、電気絶縁性フィルムとは、体積抵抗率が1×1013Ω・cm以上のフィルムを意味する。基材10の厚みは、通常5~100μmに設定されている。
【0019】
電極層20は、基材10の一表面に形成された分極性電極層22と、分極性電極層22の表面に形成された非分極性電極層24と、非分極性電極層24の表面に形成された導電性ゲル層26とを有している。
【0020】
本実施形態では、分極性電極層22は、樹脂に加えて、黒鉛及び/又はカーボン粉を含むカーボンペーストにより形成されている。
【0021】
分極性電極層22の厚みは、通常2~100μm、好ましくは3~50μm、さらに好ましくは4~20μmに設定されている。
【0022】
非分極性電極層24は、分極性電極層22の表面に形成された銀/塩化銀層242と、銀の腐食を抑制するために銀/塩化銀層242を被覆するように形成された腐食防止層244とを含んでいる。
【0023】
本実施形態では、銀/塩化銀層242は、分極性電極層22の表面に薄膜形成法によって銀薄膜が形成された後、銀の一部が塩化処理により塩化銀に変換されてなる。銀薄膜は、メッキ膜であることが好ましい。また、前記塩化処理としては、次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬させる方法が好ましい。これによって、電極1の製造コスト抑制のために銀の使用量が低減される場合であっても、銀と塩化銀が面方向において均一な状態で存在することによって電極の機能が維持され得る。より具体的には、前記薄膜形成法によって、分極性電極層22の表面全体にわたって均一な銀薄膜が形成され、銀薄膜が形成された分極性電極層22全体が次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬されることによって、次亜塩素酸が該銀薄膜に浸透し該銀薄膜中に均一に塩化銀を生成させる。
【0024】
本実施形態の非分極性電極層24は、銀の使用量を低減させるために銀/塩化銀層242が薄く形成された場合であっても、腐食防止層244が形成されていることによって、銀の劣化が抑制され、非分極性が維持される。具体的には、銀/塩化銀層242の厚みが、例えば、0.05~3.0μm、好ましくは0.05~1.0μm、より好ましくは0.05~0.5μm、さらに好ましくは0.05~0.35μm、より一層好ましくは0.08~0.2μmであり、従来技術の電極と比較して銀/塩化銀層242の厚みが薄く設定された場合であっても、腐食防止層244が形成されていることによって、非分極性電極層24の非分極性が、上記したような所望の期間維持され得る。さらに、銀/塩化銀層242がこのような厚みである場合、電極1が優れたX線透過性を有することとなる。特に、銀/塩化銀層242の厚みが0.35μm以下である場合、電極1は、X線を十分に透過させるものとなり、X線撮影画像における器官の観察の妨げにならないものになり得る。すなわち、電極1は、X線透過性の電極であり、特に、臓器の小さい小児や胎児のX線検査のための使用に適したものとなり得る。
【0025】
銀/塩化銀層242の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)による断面観察によって、平均厚みとして算出することができる。具体的な測定方法としては、例えば、電極1から導電性ゲル層26を剥がし、電極層20からミクロトームなどにより切片を切り出し、SEMによって倍率50000~100000倍で断面観察を行い、銀/塩化銀層242の任意複数箇所(例えば9箇所)の厚みを測定し、測定した厚みの算術平均値を平均厚みとする方法が挙げられる。
【0026】
また、銀/塩化銀層242の厚みが上記のような値に設定される場合、銀/塩化銀層242に含まれる銀の質量(又はモル数)は、銀/塩化銀層242の単位面積(mm)当たり、通常0.525~31.5μg、好ましくは0.525~10.5μg、より好ましくは0.525~5.25μg、さらに好ましくは0.525~3.68μg、より一層好ましくは0.84~2.1μgである。
なお、銀の質量は、例えば、次のようにして測定することができる。まず、測定試料の調製方法として、電極1から導電性ゲル層26を剥がし、電極層20から銀の質量が約5gになるように試験片を切り出し、該試験片から硝酸溶液を用いて銀を抽出し、銀抽出液を取得する。次に、この銀抽出液に含まれる銀を、例えば、原子吸光法、ICP発光法や蛍光X線法などによって定量する。銀の定量方法は、原則的には原子吸光法である。この定量分析を複数回実施し、これらの算術平均値を試験片に含まれる銀の質量とする。
【0027】
腐食防止層244は、ポリマー系の腐食防止剤が銀/塩化銀層242の表面を被覆するように形成されている。腐食防止層244が銀/塩化銀層242を被覆することによって、腐食防止層244が銀/塩化銀層242に侵入しようとする空気を遮断し、銀の劣化を抑制する。また、腐食防止層244は、導電性ゲル層26に起因する銀の劣化を抑制し得る。
なお、銀/塩化銀層242には、腐食防止剤の一部が含まれていてもよく、腐食防止層244には、銀及び塩化銀の一部が含まれていてもよい。
【0028】
腐食防止層244の厚みは、電極1使用時の銀/塩化銀層242と導電性ゲル層26との間のイオンの交換を妨げない程度の厚みである必要がある。このような観点から、腐食防止層244の厚みは、0.005~1.0μm、好ましくは0.01~0.6μm、より好ましくは0.015~0.5μmに設定されている。
なお、腐食防止層244の厚みは、SEMによる断面観察によって、平均厚みとして算出される。具体的な測定方法としては、例えば、電極1から導電性ゲル層26を剥がし、腐食防止層244上にスパッタリング法でプラチナ層を成膜し、電極層20からミクロトームなどによって切片を切り出し、SEMによって倍率10000~100000倍で断面観察を行い、スパッタリング法で成膜したプラチナ層と銀/塩化銀層との間の距離を任意複数箇所(例えば9箇所)測定し、測定した距離の算術平均値を平均厚みとする方法が挙げられる。
【0029】
ポリマー系の腐食防止剤は、銀/塩化銀層242の表面に被膜を形成して銀の腐食を防止するものである。本実施形態のポリマー系の腐食防止剤は、樹脂と、熱硬化剤とを含んでいる。
【0030】
前記腐食防止剤としては、例えば、大日精化工業株式会社製のVM-AL、VM-C、VM-TOP、NCU-30(B)などが挙げられる。
【0031】
前記樹脂としては、銀の腐食を防止するのに優れるという観点から、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、シロキサン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フェノール系樹脂などからなる群より選ばれる1種又は2種以上のものが挙げられる。前記樹脂は、耐候性の観点から、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、セルロース系樹脂からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有することが好ましい。
【0032】
前記樹脂の前記腐食防止剤中の質量割合は、通常80~99.9%、好ましくは85~99%、より好ましくは90~95%である。
【0033】
前記熱硬化剤としては、一般的に入手可能な熱硬化剤が挙げられ、例えば、イソシアネート系熱硬化剤、エポキシ系熱硬化剤、イミダゾール系熱硬化剤などからなる群より選ばれる1種又は2種以上のものが挙げられる。前記熱硬化剤は、耐候性及び反応性の観点から、イソシアネート系熱硬化剤を含有することが好ましい。前記イソシアネート系硬化剤としては、TDI(トリレンジイソシアネート)系、XDI(キシレンジイソシアネート)系、MDI(メチレンジイソシアネート)系、HMDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)系などが挙げられる。
【0034】
前記熱硬化剤の前記腐食防止剤中の質量割合は、通常0.1~20%、好ましくは1~15%、より好ましくは5~10%である。
【0035】
導電性ゲル層26は、電極1を皮膚の表面に接触させる層である。導電性ゲル層26は、電解質として塩化ナトリウムや塩化カリウムなどのハロゲン化アルカリ金属を含有している。導電性ゲル層26は、従来公知のものが使用可能である。
【0036】
リード線30は、従来公知のものが使用可能であり、例えば、金属導体が被覆材で覆われたものの他、カーボン繊維が束ねられることにより形成された導体が被覆材で覆われたものが使用され得る。リード線30は、一端部が分極性電極層22と電気的に接続するように構成されていればよい。例えば、図1Aでは、リード線30の一端部が、非分極性電極層24と導電性ゲル層26との間に挟まれるようにして固定されている。また、図1Bでは、リード線30の一端部が、非分極性電極層24における導電性ゲル層26形成側の表面に接するように固定されており、該一端部の固定箇所には、導電性ゲル層26が形成されていない。また、図1Cでは、リード線30の一端部が、分極性電極層22における銀/塩化銀層242形成側の表面に接するように固定されており、該一端部の固定箇所には、非分極性電極層24及び導電性ゲル層26が形成されていない。
【0037】
次に、電極1の製造方法について説明する。
【0038】
電極1の製造方法は、基材10の一表面に分極性電極層22を形成する分極性電極層形成工程S1と、分極性電極層22の表面に非分極性電極層24を形成する積層工程S2とを備える。
【0039】
分極性電極層形成工程S1は、樹脂に加えて、黒鉛及び/又はカーボン粉及び有機溶剤を含むカーボンペーストを基材10の一表面にコーティングした後、前記有機溶剤を乾燥により除去し、分極性電極層22を形成する工程である。
【0040】
積層工程S2は、分極性電極層形成工程S1において形成した分極性電極層22の表面に銀の薄膜を形成する銀薄膜形成工程S21と、銀薄膜をポリマー系の腐食防止剤によって被覆することにより腐食防止層244を形成する被覆工程S22と、銀の一部を塩化銀に変換する塩化処理工程S23とを備える。
【0041】
銀薄膜形成工程S21は、メッキ法で銀薄膜を形成する工程である。メッキ法には湿式メッキ法及び乾式メッキ法がある。湿式メッキ法としては、電解メッキ法、無電解メッキ法が挙げられ、乾式メッキ法としては、真空蒸着法、スパッタリング法などが挙げられる。これらの薄膜形成法の中でも、電極1の製造コストを抑制し得るという観点から、乾式メッキ法が好ましく、真空蒸着法がさらに好ましい。
【0042】
真空蒸着法を採用する場合、通常、圧力1×10-2Pa以下、ルツボ温度900~1600℃の条件で銀薄膜を形成する。
【0043】
被覆工程S22は、銀薄膜の表面の全領域にポリマー系の腐食防止剤を塗布した後、加熱乾燥することにより腐食防止剤に含まれる熱硬化剤を硬化させることによって、腐食防止層244を形成する工程である。
【0044】
塩化処理工程S23は、銀薄膜及び腐食防止層244を次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬することにより、銀の一部を塩化銀に変換し、銀薄膜を銀/塩化銀層242とする工程である。また、浸漬後、通常は、余分な次亜塩素酸ナトリウム水溶液を除去するために、銀/塩化銀層242及び腐食防止層244を水洗し、さらに、水を乾燥させる。なお、銀の一部を塩化銀に変換する方法としては、食塩水や塩酸を用いる電解法や塩素蒸着を採用することもでき、腐食防止層244の厚みを比較的厚く設定する場合には電解法が好ましい。また、銀薄膜形成工程S21の後、銀薄膜の表面に塩化銀蒸着を施してもよく、この場合、塩化処理工程S23を省略してもよい。
【0045】
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の有効塩素濃度は、通常0.5~12%に設定される。また、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の浸漬時間は、通常10秒~5分に設定され、浸漬温度は、通常20~50℃に設定される。このとき、腐食防止層244が上述のような厚みであることによって、塩化物イオンが腐食防止層244を通過して銀に接触し、銀の一部が塩化銀に変換される。
【0046】
水洗に用いる水は、蒸留水やイオン交換水を用いることが好ましい。
【0047】
以上の通り、本実施形態に係る電極1は、
分極性電極層22と、分極性電極層22に積層された非分極性電極層24とを備え、
非分極性電極層24は、銀、塩化銀及び銀の腐食防止剤を含み、
前記腐食防止剤が、ポリマー系の腐食防止剤である。
【0048】
斯かる構成によれば、非分極性電極層24が、ポリマー系の腐食防止剤を含むため、銀の劣化が抑制され得る。また、銀の使用量を低減させた場合であっても、銀の劣化がポリマー系の腐食防止剤によって抑制されるため、非分極性電極層24の非分極性が維持され得る。従って、保管安定性に優れ且つ銀の使用量が低減可能な電極が提供される。
【0049】
また、電極1は、好ましくは、
前記腐食防止剤が、樹脂と熱硬化剤とを含む。
【0050】
斯かる構成によれば、腐食防止剤が樹脂と熱硬化剤とを含むことによって、より保管安定性に優れ、且つ、銀の使用量がより低減される。
【0051】
また、電極1は、好ましくは、前記樹脂が、ポリエステル系樹脂を含む。
【0052】
斯かる構成によれば、樹脂がポリエステル系樹脂を含むことによって、さらに保管安定性に優れたものとなり、且つ、銀の使用量がさらに低減される。
【0053】
また、電極1は、好ましくは、前記熱硬化剤が、イソシアネート系熱硬化剤を含む。
【0054】
斯かる構成によれば、熱硬化剤がイソシアネート系硬化剤を含むことによって、より一層保管安定性に優れ、且つ、銀の使用量がより一層低減される。
【0055】
また、電極1は、好ましくは、
非分極性電極層24が、分極性電極層22の表面に形成された前記銀のメッキ膜を含む。
【0056】
斯かる構成によれば、非分極性電極層24が銀のメッキ膜を含むことによって、銀の使用量がさらに低減され得る。
【0057】
また、電極1は、好ましくは、生体用電極である。
【0058】
斯かる構成によれば、銀の使用量が低減されていることによって優れたX線透過性を有するため、X線撮影画像における器官の観察の妨げにならないものになる。
【0059】
以上のように、例示として一実施形態を示したが、本発明に係る電極は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明に係る電極は、上記作用効果により限定されるものでもない。本発明に係る電極は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例
【0060】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
【0061】
[実施例1]
基材としてのPETフィルム上に、導電性のカーボンペースト(日本黒鉛工業株式会社製、UCC-2)を塗布した後、120℃で乾燥し、基材の一表面に分極性電極層を形成した。分極性電極層の厚みは5μmであった。
分極性電極層の表面に、真空蒸着によって、0.2μmの厚みを有する銀薄膜を形成した。
続けて、銀薄膜の表面の全領域に、ポリマー系の腐食防止剤としてポリエステル樹脂とイソシアネート系熱硬化剤とを含有する腐食防止剤を塗布し、加熱乾燥することにより熱硬化剤を硬化させ、腐食防止層を形成した。
上記のようにして層が形成された基材を50mm×100mmの大きさにカットし、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(和光純薬工業株式会社製、コードNo.197-02206)に3分間浸漬して塩化処理することにより、銀の一部を塩化銀に変換し、銀/塩化銀層を形成した。蒸留水で十分に洗浄後、120℃に設定した恒温槽内で乾燥することにより水を除去した。
基材をさらに15×30mmの大きさにカットし、腐食防止層形成側に、15×15mmの大きさの導電性ゲル層(積水化成品工業株式会社製、CR-H)を、基材の短い方の一端縁と、導電性ゲルの一端縁とが重なり合うように貼り付け、電極とした。
【0062】
[実施例2]
銀薄膜の厚みを0.1μmとした以外は、実施例1と同様にして、電極を作製した。図2に示すように、SEMによって腐食防止層の厚みを9箇所で計測したところ、0.033~0.211μm(平均厚み:0.14μm)であった。また、銀/塩化銀層の厚みは、0.104~0.125μm(平均厚み:0.12μm)であった。
【0063】
[実施例3]
分極性電極層の厚みを20μmとし、銀薄膜の厚みを0.1μmとした以外は、実施例1と同様にして、電極を作製した。
【0064】
[比較例1]
腐食防止層を形成せず、10倍に希釈した次亜塩素酸ナトリウム水溶液(和光純薬工業株式会社製、コードNo.197-02206)を用い、1分間浸漬して塩化処理した以外は、実施例1と同様にして、電極を作製した。
【0065】
[比較例2]
腐食防止層を形成せず、10倍に希釈した次亜塩素酸ナトリウム水溶液(和光純薬工業株式会社製、コードNo.197-02206)を用いた以外は、実施例1と同様にして、電極を作製した。
【0066】
[評価方法1]
上記の各実施例や各比較例で作製した電極を、図3に示すように、それぞれの導電性ゲル層を貼り合わせた状態とし、ANSI/AAMI ECI2:2000の方法に準拠し、インピーダンスの測定及び除細動復帰試験を実施した。
[評価方法2]
上記の各実施例や各比較例で作製した電極を実施例毎、比較例毎に分けてアルミパック内に入れ、57℃に設定した恒温槽にて保管した。なお、57℃10週間の保管は、室温2年間の保管に相当する。所定の期間経過後、アルミパックから電極を実施例毎、比較例毎に取り出し、上記の評価方法1と同様にANSI/AAMI ECI2:2000の方法に準拠し、インピーダンスの測定及び除細動復帰試験を実施した。
【0067】
図4に示すように、実施例1の電極は、初期(評価方法1)及び10週間にわたって(評価方法2)インピーダンスが500Ω以下を示し、また、除細動復帰試験における分極電圧絶対値も良好な値を示した。さらに実施例1の電極は、保管初期からインピーダンスが徐々に低下する傾向を示し、優れた保管安定性を有していることが認められた。これに対して、比較例1及び2の電極は、保管初期からインピーダンスが上昇する傾向を示し、保管安定性が悪く、長期保管には適していないことが認められた。
【0068】
また、図5に示すように、実施例2及び3において、電極の銀薄膜の厚みを0.1μmにさらに薄く形成した場合であっても、実施例1における銀薄膜の厚みが0.2μmの電極と同程度の性能を有していることが認められた。
以上の結果から、保管安定性が維持されつつ、銀の使用量がさらに低減可能な電極が提供され得ることが示唆された。
【符号の説明】
【0069】
1:電極、
10:基材、
20:電極層、22:分極性電極層、24:非分極性電極層、
242:銀/塩化銀層、244:腐食防止層、
26:導電性ゲル層

図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5