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特許7411688トロロックス-ペプチド結合体およびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】トロロックス-ペプチド結合体およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/08 20060101AFI20231228BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20231228BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20231228BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20231228BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20231228BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20231228BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20231228BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20231228BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20231228BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20231228BHJP
   A61K 47/55 20170101ALI20231228BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20231228BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20231228BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231228BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20231228BHJP
   A61Q 5/02 20060101ALI20231228BHJP
   A61Q 5/06 20060101ALI20231228BHJP
   A61Q 5/12 20060101ALI20231228BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
C07K7/08 ZNA
C07K7/06
A61K8/49
A61K8/64
A61K9/06
A61K9/08
A61K9/10
A61K9/12
A61K38/08
A61K38/10
A61K47/55
A61K47/64
A61P17/14
A61P43/00 105
A61P43/00 111
A61Q5/00
A61Q5/02
A61Q5/06
A61Q5/12
A61Q7/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021565859
(86)(22)【出願日】2020-05-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-08
(86)【国際出願番号】 KR2020005967
(87)【国際公開番号】W WO2020226419
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2021-11-10
(31)【優先権主張番号】10-2019-0053080
(32)【優先日】2019-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510271129
【氏名又は名称】ケアジェン カンパニー,リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CAREGEN CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョン ヨンジ
(72)【発明者】
【氏名】キム ウンミ
(72)【発明者】
【氏名】リ ウンジ
(72)【発明者】
【氏名】キム ミンウン
【審査官】加藤 幹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0210515(US,A1)
【文献】特表平4-506203(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0020789(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0112003(KR,A)
【文献】特表2006-512285(JP,A)
【文献】特表2011-519358(JP,A)
【文献】特表2013-503856(JP,A)
【文献】特表2012-515769(JP,A)
【文献】国際公開第2008/020112(WO,A1)
【文献】仏国特許出願公開第02945938(FR,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/08
C07K 7/06
A61K
A61P
A61Q
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロロックス(Trolox)とペプチド(Peptide)が化学的に結合された下記化学式の構造を有する、トロロックス-ペプチド結合体であって、
前記ペプチドは、ペプチド結合によりアミノ酸が互いに結合されてなる直鎖状の分子であり、
前記ペプチドは、配列番号1~配列番号3のうち何れか1つのアミノ酸配列からなるペプチドである、トロロックス-ペプチド結合体。
【化1】
【請求項2】
前記配列番号1のアミノ酸配列を含むトロロックス-ペプチド結合体は、BMP2細胞シグナル伝達を抑制させる、請求項に記載のトロロックス-ペプチド結合体。
【請求項3】
前記配列番号2のアミノ酸配列を含むトロロックス-ペプチド結合体は、WNT細胞シグナル伝達を活性化させる、請求項に記載のトロロックス-ペプチド結合体。
【請求項4】
前記配列番号3のアミノ酸配列を含むトロロックス-ペプチド結合体は、KGF細胞シグナル伝達を活性化させる、請求項に記載のトロロックス-ペプチド結合体。
【請求項5】
請求項1に記載のトロロックス-ペプチド結合体を有効成分として含む、脱毛防止および発毛促進用の薬学的組成物。
【請求項6】
請求項1に記載のトロロックス-ペプチド結合体を有効成分として含む、脱毛防止および発毛促進用の化粧料組成物。
【請求項7】
前記化粧料組成物は、柔軟化粧水、栄養化粧水、栄養クリーム、マッサージクリーム、エッセンス、アイクリーム、クレンジングクリーム、クレンジングフォーム、クレンジングウォーター、パック、スプレー、パウダー、ヘアトニック、ヘアクリーム、ヘアローション、ヘアシャンプー、ヘアリンス、ヘアコンディショナー、ヘアスプレー、ヘアエアロゾル、ポマード、ゾルゲル、エマルジョン、オイル、ワックス、およびエアロゾルからなる群から選択されるいずれか1つの剤形である、請求項に記載の化粧料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロロックス(Trolox)とペプチドが化学的に結合された構造を有するトロロックス-ペプチド結合体およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
毛嚢は、哺乳動物の皮膚に存在する独特の器官であって、始原表皮の下部が成長してより深い皮膚層に伸びた器官である。毛嚢の基部には小嚢または真皮乳頭細胞として知られている細胞のプラグが存在し、真皮乳頭細胞は毛嚢の正常な循環および毛幹の成長に必須である。毛髪中でも特に頭皮上に隆起している幹である毛幹は、ケラチンフィラメントおよびフィラメント凝集タンパク質で充填された、固く密着した上皮細胞で製造されたスレッド形状の構造からなっている。
【0003】
ヒトの毛髪の周期は、毛髪を成長させる成長期(anagen)、成長を終え、毛球部が縮小する時期である退行期(catagen)、毛乳頭が活動を止め、毛髪を頭皮に留まらせる時期である休止期(talogen)、および毛乳頭が活動を始めるか、または新しい毛髪を発生させ、古い毛髪の脱毛を誘導する時期である発生期に分けられる。前記成長期は、毛髪が成長する期間であって、毛髪が毛球から毛包へ出ようとする毛髪生成ステップ、および硬いケラチンが毛嚢内で作られるステップに再び細分化することができ、この時期で、毛髪は、退行期になるまで持続的に成長し続ける。前記退行期は、成長が終わり、毛髪の形態を維持しつつ代謝過程が遅くなる時期であって、この時期ではケラチンが作られない。退行期に該当する毛髪は全体毛髪のうち1%を占め、細胞分裂は停止している状態に該当する。前記休止期は、毛乳頭が萎縮し、毛嚢が次第に縮み、毛根が上に押し上げられて抜ける時期に該当する。
【0004】
かかる毛髪は、個体が生命を維持するのに必須の器官ではないが、健康の状態を示す尺度でありながらも外見を決める身体の重要な一部分である。よって、毛髪の多い一般人にとっては、日常的な脱毛が当然の身体的活動として感じられるが、脱毛が進行中の人々にとっては、憂鬱さ、恥ずかしさ、社会的孤立などにより、精神健康および生活の質に深刻な影響を与え得る要因に該当する。
【0005】
最近、脱毛に影響を与える要因としては、気候、光、または熱による露出などの環境的要因と、激しいストレス、疾病、出産、ホルモン分泌および変化、薬物の服用、栄養状態などの内的要因が挙げられる。しかし、現在に至るまで脱毛に関する明確な原因は明らかになっておらず、最近になって食生活の変化または社会環境などによるストレスの増加などにより脱毛で悩む人々が増加しており、その年齢も下がりつつあり、女性の脱毛人口も増加している傾向である。
【0006】
脱毛メカニズムに関与する主なホルモンとして5-α還元酵素(5-α reductase)が挙げられる。前記5-α還元酵素は、男性ホルモン(androgen)の一種であるテストステロン(testosterone)をDHT(dihydrotestosterone)に変換させ、このように生成されたDHTは、毛髪の成長期を短くし、休止期を長くするだけでなく、毛嚢細胞の死滅を誘導する細胞シグナル伝達に関与して毛嚢細胞を死滅させると報告されている。
【0007】
そこで、脱毛の原因を治癒するために、メルク社は、5-α還元酵素の活性を抑制することでDHTの生成を抑制するフィナステリドを開発して市販中である(US 5547957 A)。前記フィナステリドは、服用しやすく、効能に非常に優れるが、それを製造するのに用いられる試薬が高価であるかまたは毒性が存在して製造原価に負担を与え得る。特に、付随的に生成される生成物の除去が容易ではないため、最終生成物の純度が低下し得るし、水分により活性が阻害されやすい試薬や活性誘導体を用いなければならないため、大量生産が難しいという問題が存在する。この他にも角質細胞または血管内皮の成長を促進させるか、またはBMPに属するタンパク質の活性を抑制させることで、毛髪生成が促進されるようにする研究が進まれている(KR 2016-0023224 A)。しかし、成長因子を有効成分として含む治療剤は、効能に非常に優れる反面、自然型の成長因子を得るために追加工程および時間が要され、また、精製過程において大腸菌由来の汚染源を除去するための複雑な精製過程が要されるだけでなく、分子量が大きいため、毛髪の保護膜を容易に飛び越えることができないという問題が存在する。
【0008】
したがって、上記のような問題を解決するための多くの研究が行われて脱毛を防止および治療するための発毛剤が提示されたが、既存の発毛剤は、脱毛を防止するとともに発毛を促進する機能を有することができないため、実質的に脱毛治療および発毛促進に大きな効果を示すことができない状態である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、脱毛抑制または発毛促進効果に非常に優れたトロロックス-ペプチド結合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の一側面は、トロロックス(Trolox)とペプチドが化学的に結合された構造を有するトロロックス-ペプチド結合体を提供することにある。
【0011】
さらに、本発明の他の側面は、トロロックス-ペプチド結合体を有効成分として含む薬学的組成物および化粧料組成物を提供することにある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、トロロックス-ペプチド結合体は、5α-還元酵素(5α-reductase)の活性を非常に効果的に抑制するだけでなく、毛乳頭細胞および角質細胞の死滅を抑制し成長を促進するとともに抗酸化効果を有するところ、脱毛を防止または予防するとともに毛髪の生成を顕著に促進させることができる。
【0013】
但し、本発明の効果は上記で言及した効果に制限されず、言及していないまた他の効果は下記の記載から当業者に明らかに理解できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の配列番号1のペプチドとトロロックスの結合体(配列1の結合体)に対するMASS分析データを示したものである。
図2】本発明の配列番号2のペプチドとトロロックスの結合体(配列2の結合体)に対するMASS分析データを示したものである。
図3】本発明の配列番号3のペプチドとトロロックスの結合体(配列3の結合体)に対するMASS分析データを示したものである。
【0015】
図4】HFDPC(human hair follicle dermal papilla cell)の細胞増殖促進効果を確認したグラフを示したものである。
【0016】
図5】ヒトケラチノサイト(keratinocyte)であるHaCaTの細胞増殖促進効果を確認したグラフを示したものである。
【0017】
図6】HFDPCにおいて細胞内ROS(reactive oxygen species)の阻害効果を確認したグラフを示したものである。
図7】HFDPCにおいて細胞内ROS(reactive oxygen species)の阻害効果を確認したグラフを示したものである。
図8】HFDPCにおいて細胞内ROS(reactive oxygen species)の阻害効果を確認したグラフを示したものである。
【0018】
図9】HFDPCにおいて5α-還元酵素の活性抑制によるDKK-1タンパク質発現阻害効果をウェスタンブロット分析により確認した結果を示したものである。
【0019】
図10】HFDPCにおいて細胞死滅と関連したタンパク質の発現変化をウェスタンブロット分析により確認した結果を示したものである。
【0020】
図11】HHGMC(human hair germinal matrix cell)においてMSX2遺伝子の発現変化をPCRにより確認した結果を示したものである。
【0021】
図12】HaCaTにおいてケラチン-14遺伝子の発現変化をPCRにより確認した結果を示したものである。
【0022】
図13】HFDPC細胞においてBMP-2関連細胞シグナル伝達タンパク質であるP-smad1/5/8の発現阻害効果をウェスタンブロット分析により確認した結果を示したものである。
【0023】
図14】HFDPC細胞においてWNT関連細胞シグナル伝達タンパク質であるβ-カテニンが核内に位置する程度をウェスタンブロット分析により確認した結果を示したものである。
【0024】
図15】HFDPC細胞においてKGF関連細胞シグナル伝達タンパク質であるp-Erk1/2およびp-Aktの発現増加効果をウェスタンブロット分析により確認した結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0026】
1.トロロックス-ペプチド結合体
【0027】
本発明の一側面は、トロロックス(Trolox)-ペプチド結合体を提供する。
【0028】
本発明の前記トロロックスは、6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-カルボン酸であって、下記化学式1で表される構造を有する。
【0029】
[化学式1]
【0030】
【化1】
【0031】
本発明の前記結合体は、トロロックスとペプチドが化学的に結合された構造を有する。
【0032】
上記のようにトロロックスにペプチドが結合されることで、水に対する溶解度が低いトロロックスの水に対する溶解度を顕著に高めることができるだけでなく、5α-還元酵素(5α-reductase)の活性を非常に効果的に抑制し、毛乳頭細胞および角質細胞の死滅を抑制し成長を促進するところ、脱毛を防止または予防するとともに毛髪の生成を促進するという効果を与えることができる。
【0033】
前記ペプチドは、ペプチド結合によりアミノ酸が互いに結合されてなる直鎖状の分子を意味する。前記ペプチドの作製は、本技術分野で公知の通常の生物学的または化学的合成方法により達成できるものであり、一例として固相合成技術(solid-phase synthesis techniques)のような方法により達成することができる。
【0034】
前記ペプチドは、5個~30個、好ましくは8個~20個、より好ましくは10個~15個のアミノ酸からなってもよい。ペプチドをなすアミノ酸の個数が5個未満である場合には、トロロックスの水に対する溶解度を顕著に高めることができず、ペプチドをなすアミノ酸の個数が30個超過である場合には、ペプチドの大きさが過度に大きいため、目的とする薬理効果を果たすための吸収を低下させるという問題が発生し得る。
【0035】
前記ペプチドは、親水性を示すことができる側鎖(side chain)を有するアミノ酸の割合が50%~100%、例えば、80%~100%であってもよく、前記ペプチドは、疎水性を示すことができる側鎖を有するアミノ酸の割合が0%~50%、例えば、0%~20%であってもよい。親水性を示すことができる側鎖を有するアミノ酸の割合が前記範囲から脱する場合には、トロロックスの水に対する溶解度が顕著に高くなるという効果を発揮することができない。
【0036】
前記親水性を示すことができる側鎖を有するアミノ酸は、アルギニン(Arg)、ヒスチジン(His)、リジン(Lys)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、アスパラギン(Asn)、グルタミン(Gln)、システイン(Cys)、セレノシステイン(Sec)、グリシン(Gly)、およびプロリン(Pro)からなる群から選択され、前記疎水性を示すことができる側鎖を有するアミノ酸は、アラニン(Ala)、バリン(Val)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、チロシン(Tyr)、およびトリプトファン(Trp)からなる群から選択されてもよい。
【0037】
前記ペプチドは、ペプチド結合により少なくとも50%以上の親水性を示すことができる側鎖を有したアミノ酸が互いに結合されてなるものであって、水溶性ペプチドであってもよい。
【0038】
前記ペプチドは、配列番号1~配列番号3のうち何れか1つのアミノ酸配列を含む。
【0039】
前記配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドは、脱毛誘発に関与する遺伝子DKK1、BMP4、およびTGF-βの発現を抑制して脱毛を防止することができる。
【0040】
前記配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチドは、毛髪の周期を促す成長因子と類似した機能を有するペプチドであって、前記ペプチドによりβ-カテニンの核転座が誘導されることで最終的に有毛細胞が新たに成長できるようにするだけでなく、男性ホルモンによるジヒドロテストステロン(dihydrotestosterone、DHT)の機能を低下させて脱毛を防止するのに寄与することができる。
【0041】
前記配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチドは、新規血管形成を誘導して丈夫で太い毛髪を維持することで、脱毛を防止するのに寄与することができる。
【0042】
本発明の前記トロロックス-ペプチド結合体は、トロロックスとペプチドが結合されることで、ペプチドが有する、発揮される固有の脱毛防止および発毛促進機能を維持するだけでなく、さらには、トロロックスまたはペプチドを単独で用いた場合に比べて、顕著に向上した脱毛防止および発毛促進効果を有することができる。
【0043】
前記配列番号1~配列番号3のアミノ酸は、前記ペプチドがトロロックスに結合されて水に対する水溶性を増加させるのに影響を及ぼさない範囲内で、アミノ酸残基の欠失、挿入、置換、またはこれらの組み合わせにより、異なる配列を有するアミノ酸の変異体または断片であってもよく、場合によっては、リン酸化(phosphorylation)、硫酸化(sulfation)、アクリル化(acrylation)、グリコシル化(glycosylation)、メチル化(methylation)、ファルネシル化(farnesylation)などにより変形されてもよい。また、前記配列番号1~配列番号3のアミノ酸は、前記配列番号1~配列番号3のアミノ酸配列を含むペプチドと実質的に同一のアミノ酸配列を有するペプチドおよびその変異体またはその活性断片を含む。
【0044】
前記実質的に同一のアミノ酸配列を含むペプチドとは、前記配列番号1のアミノ酸配列と、それぞれ75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を有するペプチドを意味する。
【0045】
前記ペプチドは、化学的安定性、強化された薬理特性(半減期、吸収性、力価、効能など)、変更された特異性(例えば、広範囲な生物学的活性スペクトル)、減少した抗原性を付与するために、前記ペプチドのN-末端またはC-末端にアセチル基、フルオレニルメトキシカルボニル基、ホルミル基、パルミトイル基、ミリスチル基、ステアリル基、ポリエチレングリコール(PEG)などの保護基がさらに結合されてもよい。
【0046】
前記ペプチドの化学的安定性は、生体内タンパク質切断酵素の攻撃からペプチドを保護するインビボでの安定性だけでなく、貯蔵安定性(例えば、常温貯蔵安定性)のような意味も全て含む。
【0047】
2.トロロックス-ペプチド結合体を有効成分として含む脱毛防止および発毛促進用の組成物
【0048】
本発明の他の側面は、トロロックス-ペプチド結合体を有効成分として含む脱毛防止および発毛促進用の組成物を提供する。
【0049】
本発明の前記組成物は、前記「1.トロロックス-ペプチド結合体」項目で説明したトロロックス-ペプチド結合体を有効成分として含んでおり、脱毛防止および発毛促進の用途として使用可能であり、これについては前記「1.トロロックス-ペプチド結合体」項目の説明を援用し、以下では脱毛防止および発毛促進用の組成物の特有の構成についてのみ説明することにする。
【0050】
前記「脱毛防止」は、毛髪が抜けたり減少したりするのを抑制することを含む意味であり、「発毛促進」は、毛髪の生長を促進することを意味する。
【0051】
前記組成物は、薬学的組成物または化粧料組成物の形態で提供されてもよいが、これに制限されるものではない。
【0052】
前記薬学的組成物は、コロイド懸濁液、粉末、食塩水、脂質、リポソーム、ミクロスフェア(microspheres)、またはナノ球状粒子などのような薬学的に許容可能な担体により輸送されてもよい。これらは、輸送手段と複合体を形成するかまたは関わってもよく、脂質、リポソーム、微粒子、金、ナノ粒子、ポリマー、縮合反応剤、多糖類、ポリアミノ酸、デンドリマー、サポニン、吸着増進物質、または脂肪酸のような当業界で公知の輸送システムを用いて生体内輸送されてもよい。
【0053】
前記トロロックス-ペプチド結合体において、薬学的に許容される担体は、製剤時に通常用いられるスレッド、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウム、およびミネラルオイルなどを含んでよい。
【0054】
前記薬学的組成物は、前記成分の他に、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含んでよい。
【0055】
前記薬学的組成物は、目的とする方法に応じて経口投与または非経口投与(例えば、筋肉内、静脈内、腹腔内、皮下、皮内、または局所に適用)されてもよく、投与量は、患者の状態および体重、疾病の程度、薬物の形態、投与経路、および時間に応じて異なるが、当業者により適宜選択されてもよい。
【0056】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に有効な量で投与する。本発明において、「薬学的に有効な量」は、医学的治療に適用可能な合理的な受恵/リスク比で疾患を治療するのに十分な量を意味し、有効用量レベルは、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する感受性、投与時間、投与経路および排出比率、治療期間、同時に用いられる薬物を含む要素およびその他の医学分野で周知の要素に応じて決定されてもよい。前記薬学的組成物は、個別治療剤として投与されるかまたは他の脱毛治療剤と併用して投与されてもよく、従来の治療剤と同時に、別に、または順次に投与されてもよく、単一または多重投与されてもよい。前記要素を全て考慮して、副作用なしに最小限の量で最大効果を得ることができる量を投与することが重要であり、これは当業者により容易に決定できるものである。
【0057】
前記薬学的組成物の有効量は、患者の年齢、性別、状態、体重、体内への活性成分の吸収度、不活性率、排泄速度、疾病の種類、併用する薬物に応じて異なり得るし、投与経路、脱毛の重症度、性別、体重、年齢などに応じて増減してもよく、例えば、前記薬学的組成物を1日当たり、患者の体重1kg当たり約0.0001μg~500mg、好ましくは0.01μg~100mgで投与してもよい。
【0058】
前記化粧料組成物は、本技術分野で通常製造される任意の剤形に製造されてもよく、例えば、溶液、懸濁液、乳濁液、ペースト、ゲル、クリーム、ローション、パウダー、石鹸、界面活性剤含有クレンジング、オイル、粉末ファンデーション、乳濁液ファンデーション、ワックスファンデーション、およびスプレーなどに剤形化されてもよいが、これに制限されるものではない。
【0059】
前記化粧料組成物は、柔軟化粧水、栄養化粧水、栄養クリーム、マッサージクリーム、エッセンス、アイクリーム、クレンジングクリーム、クレンジングフォーム、クレンジングウォーター、パック、スプレー、パウダー、ヘアトニック、ヘアクリーム、ヘアローション、ヘアシャンプー、ヘアリンス、ヘアコンディショナー、ヘアスプレー、ヘアエアロゾル、ポマード、ゲルなどのように、溶液、ゾルゲル、エマルジョン、オイル、ワックス、エアロゾルなどの多様な形態に製造されてもよいが、これに制限されるものではない。
【0060】
前記化粧料組成物の剤形の形態がペースト、クリーム、またはゲルである場合には、担体成分として、動物性油、植物性油、ワックス、パラフィン、デンプン、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイト、シリカ、タルク、または酸化亜鉛などが用いられてもよい。
【0061】
前記化粧料組成物の剤形の形態がパウダーまたはスプレーである場合には、担体成分として、ラクトース、タルク、シリカ、アルミニウムヒドロキシド、カルシウムシリケート、またはポリアミドパウダーが用いられてもよく、特にスプレーの場合には、クロロフルオロヒドロカーボン、プロパン/ブタン、またはジメチルエーテルのようなプロペラントが含まれてもよいが、これに制限されるものではない。
【0062】
前記化粧料組成物の剤形の形態が溶液または乳濁液である場合には、担体成分として、溶媒、溶解化剤、または乳濁化剤が用いられてもよく、例えば、水、エタノール、イソプロパノール、エチルカーボネート、エチルアセテート、ベンジルアルコール、ベンジルベンゾエート、プロピレングリコール、1,3-ブチルグリコールオイル、グリセロール脂肪族エステル、ポリエチレングリコール、またはソルビタンの脂肪酸エステルなどが用いられてもよい。
【0063】
前記化粧料組成物の剤形の形態が懸濁液である場合には、担体成分として、水、エタノール、またはプロピレングリコールのような液状の希釈剤、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチルソルビトールエステル、およびポリオキシエチレンソルビタンエステルなどのような懸濁剤、微結晶性セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、寒天、またはトラガカントなどが用いられてもよい。
【0064】
前記化粧料組成物の剤形が界面活性剤含有クレンジングである場合には、担体成分として、脂肪族アルコールサルフェート、脂肪族アルコールエーテルサルフェート、スルホコハク酸モノエステル、イセチオネート、イミダゾリウム誘導体、メチルタウレート、サルコシネート、脂肪酸アミドエーテルサルフェート、アルキルアミドベタイン、脂肪族アルコール、脂肪酸グリセリド、脂肪酸ジエタノールアミド、植物性油、ラノリン誘導体、またはエトキシル化グリセロール脂肪酸エステルなどが用いられてもよい。
【0065】
前記化粧料組成物の剤形がヘアシャンプーである場合には、本発明のトロロックス-ペプチド結合体に、増粘剤、界面活性剤、粘度調節剤、保湿剤、pH調節剤、防腐剤、エッセンシャルオイルなどのように、シャンプーを組成するためのベース成分が混合されてもよい。前記増粘剤としてはCDEが用いられてもよく、前記界面活性剤としてはアニオン界面活性剤であるLES、および両性界面活性剤であるココベタインが用いられてもよく、前記粘度調節剤としてはポリクオタニウムが用いられてもよく、前記保湿剤としてはグリセリンが用いられてもよく、前記pH調節剤としてはクエン酸、水酸化ナトリウムが用いられてもよい。前記防腐剤としてはグレープフルーツ抽出物などが用いられてもよく、この他にもシダーウッド、ペパーミント、ローズマリーなどのエッセンシャルオイル、およびシルクアミノ酸、ペンタノール、ビタミンEが添加されてもよい。
【0066】
前記化粧料組成物に含まれる成分は、有効成分として本発明の前記トロロックス-ペプチド結合体と担体成分の他に、化粧料組成物に通常用いられる成分、例えば、抗酸化剤、安定化剤、溶解化剤、ビタミン、顔料、および香料のような通常の補助剤などをさらに含んでもよいが、これに制限されるものではない。
【0067】
【0068】
以下、本発明を実施例および実験例により詳しく説明する。
【0069】
但し、下記の実施例および実験例は本発明を具体的に例示するものであって、本発明の内容が下記の実施例および実験例によって限定されるものではない。
【0070】
【0071】
[製造例1]
【0072】
ペプチドの合成
【0073】
[1-1]配列番号2のアミノ酸配列を含むペプチドの合成
【0074】
700mgのクロロトリチルクロリド樹脂(chloro trityl chloride resin;CTL樹脂、Nova biochem [0064] Cat No.01-64-0021)を反応容器に入れ、前記反応容器に10mlの塩化メチレン(methylene chloride)を入れて3分間撹拌した。その次、溶媒を除去し、10mlのジメチルホルムアミド(dimethylformamide)を入れ、3分間さらに撹拌した後に溶媒を除去した。前記反応容器に10mlのジクロロメタン(dichloromethane)を入れ、200mmoleのFmoc-Cys(trt)-OH(Bachem、Swiss)および400mmoleのジイソプロピルエチルアミン(disopropylethylamine)を入れた後、1時間撹拌して反応を誘導した。前記反応物を洗浄した後、2:1の割合で混合されたメタノールおよびジイソプロピルエチルアミンを入れて10分間反応させ、1:1の割合で混合されたジクロロメタンおよびジメチルホルムアミドを過量投入して再度洗浄した。その次、溶媒を除去し、10mlのジメチルホルムアミドを入れて3分間撹拌し、溶媒を除去した。その次、脱保護反応のために、10mlの脱保護溶液(20%のピペリジン/ジメチルホルムアミド)を前記反応容器に入れ、常温で10分間撹拌した後に溶媒を除去する過程を総2回行った。その後、溶媒を除去し、前記反応物をそれぞれ3分間ジメチルホルムアミドで2回、塩化メチレンで2回、ジメチルホルムアミドで1回洗浄してCys(trt)-CTL樹脂を製造した。
【0075】
新しい反応容器に10mlのDMF溶液を入れ、200mmoleのFmoc-His(trt)-OH(Bachem、Swiss)、200mmoleのHOBt(hydroxybenzotriazole)、および200mmoleのBop(benzotriazol-1-yloxytris(dimethylamino)phosphonium hexafluorophosphate)を入れた後に撹拌した。前記反応容器に400mmoleのジイソプロピルエチルアミンを2回にわたって分けて入れた後、固体状態の反応物が全て溶解されるまで少なくとも5分以上撹拌した。その次、前記溶液をCys(trt)-CTL樹脂が含まれた前記反応容器に入れ、常温で1時間撹拌した後、溶媒を全て除去し、ジメチルホルムアミドで5分ずつ3回洗浄し、カイザーテスト(kaiser test、nihydrin test)により、前記反応物の反応程度を点検した。その次、前記反応物を前記Cys(trt)-CTL樹脂の製造過程で行われた脱保護反応を行い、His(trt)-Cys(trt)-CTL樹脂を製造した。前記樹脂は、ジメチルホルムアミドおよび塩化メチレンで十分に洗浄し、カイザーテストにより反応程度を点検した。
【0076】
その次、Fmoc-Cys(trt)、Fmoc-Arg、Fmoc-Gln(trt)、Fmoc-Val、Fmoc-Arg、Fmoc-Thr、Fmoc-Gln(trt)、およびFmoc-Arg(pbf)の順に、前記His(trt)-Cys(trt)-CTL樹脂と連鎖反応を行った。その後、脱保護溶液で10分ずつ2回反応させた後によく洗浄し、Fmoc-保護基を除去した。前記脱保護された樹脂と、無水酢酸、ジイソプロピルエチルアミン、およびHOBtを1時間反応させてアセチル化反応を行った。その次、ジメチルホルムアミド、塩化メチレン、およびメタノールでそれぞれ3回洗浄し、窒素空気を徐々に流して乾燥させた後、P2O5下で真空に減圧して完全に乾燥させた。
【0077】
前記乾燥された反応物に30mlの脱漏溶液(トリフルオロ酢酸(trifluoroacetic acid、TFA)95%、蒸留水2.5%、チオアニソール(Thioanisole)2.5%)を入れた後、常温で2時間撹拌して反応させた。前記反応が完了した樹脂をフィルタを用いて濾過した後、少量のトリフルオロ酢酸で洗浄し、洗浄液を母液と混合した。前記混合溶液を減圧し、全体体積が半分程度残るように蒸留した後、50mlの冷たいエーテルを加えて沈殿を誘導し、遠心分離機を用いて沈殿物を得た後、冷たいエーテルを用いて2回洗浄した。その次、母液を除去し、窒素下で十分に乾燥し、精製前のNH-Arg-Gln-Thr-Arg-Val-Gln-Arg-Cys-His-Cys-OHペプチジル樹脂(配列番号2)を0.65g合成した(収率:92.6%)。分子量測定器を用いて、前記配列番号2のアミノ酸配列を含むペプチドの分子量を測定した結果、その分子量が1287.1Da(理論値:1286.5Da)に該当することを確認した。
【0078】
[1-2]配列番号1および配列番号3のアミノ酸配列を含むペプチドの合成
【0079】
前記[1-1]の合成方法と同様の方法を用いて、配列番号1および配列番号3のアミノ酸配列を含むペプチドを合成した。この際、Fmoc-Asp(OtBu)、Fmoc-Ala、Fmoc-Pro、Fmoc-Arg(Pbf)、Fmoc-Gly、Fmoc-Gly、Fmoc-Gly、Fmoc-His(Trt)、Fmoc-Glu(OtBu)、Fmoc-Ile、Fmoc-Leu、およびFmoc-Glu(OtBu)の順に前記CTL樹脂と連鎖反応を行って配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドを合成し、Fmoc-His(Trt)、Fmoc-Thr(tBu)、Fmoc-Trp、Fmoc-Gly、Fmoc-Gly、Fmoc-Lys(Boc)、Fmoc-Lys(Boc)、Fmoc-Ser(tBu)、Fmoc-Lys(Boc)、およびFmoc-Tyr(tBu)の順に前記CTL樹脂と連鎖反応を行った後にアセチル化して配列番号3のアミノ酸配列を含むペプチジル樹脂を合成した。
【0080】
【表1】
【0081】
[製造例2]トロロックス-ペプチド結合体の製造
【0082】
ペプチド反応器に1moleのペプチジル樹脂および10mlの1-メチル-2-ピロリドン(NMP)を入れ、270mg(2.0equiv.)の1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(1-hydroxybenzotriazole、1-HOBt)および759mg(2.0equiv.)のN,N,N’,N’-テトラメチル-O-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)ウロニウムヘキサフルオロホスフェート(N,N,N’,N’-Tetramethyl-O-(1H-benzotriazol-1-yl)uronium hexafluorophosphate、HBTU)を添加し、30分間反応させた。その次、前記反応物に388mg(3.0equiv.)のN,N’-ジイソプロピルエチルアミン(N,N’-Diisopropylethylamine、DIEA)および500mg(2.0equiv.)のトロロックス(trolox)を添加し、常温で72時間反応させた後に濾過した。その次、前記濾過物および切断溶液(cleavage solution)を常温で2時間反応させ、レジンおよび保護基を除去した。最後に、10mlのジエチルエーテルを入れて結晶化させ、トロロックス-ペプチド結合体(すなわち、配列番号1、配列番号2、または配列番号3のペプチドとトロロックスの結合体)を製造した。トロロックス-ペプチド結合体を製造するための反応式は、下記反応式1のとおりである。
【0083】
[反応式1]
【0084】
【化2】
【0085】
生成された3種のトロロックス-ペプチド結合体に対するMASS分析データをそれぞれ図1図3に示した。前記MASS分析データにおいて、それぞれ、分子量1550.7Da、1487.62Da、および1423.6Daに該当する配列1~配列3のトロロックス-ペプチド結合体が合成されたことを明らかに確認することができる。
【0086】
[実施例1]
【0087】
増殖促進効果の確認
【0088】
HFDPC(human hair follicle dermal papilla cell)およびヒトケラチノサイト(keratinocyte)であるHaCaTを96ウェルプレートの各ウェルに2×10個ずつ分注し、一晩(overnight)培養した。前記培養された細胞の培養液を無血清培地(serum free media)に取り替えた後、0.5μM、5μM、または50μMのトロロックス-ペプチド結合体をそれぞれ処理し、3日間さらに培養した。その次、細胞の増殖を確認するために、4mg/mlのMTT(3-(4,5-Dimethylthiazol-2-yl)-2,5-Diphenyltetrazolium Bromide)をウェルにそれぞれ100μlずつ入れ、4時間反応させて生成されたホルマザンをDMSOを処理して溶かした後、マイクロプレートリーダーを用いて560nmにおいて吸光度を測定した。この際、陽性対照群としては、HFDPCおよびHaCaT細胞の増殖を促進すると知られている成長因子である1μMのIGF-1またはEGFを用い、比較群としては、本発明のトロロックス-ペプチド結合体と同一含量のトロロックスおよび配列番号1~配列番号3のアミノ酸配列を有するペプチド単独化合物を用いた。
【0089】
その結果、図4および図5に示されたように、HFDPCおよびHaCaT細胞にトロロックス-ペプチド結合体を処理した場合、何れもその細胞増殖が増加することが確認され、かかる細胞増殖が増加するという効果は、処理されるトロロックス-ペプチド結合体の濃度が大きくなるほど、さらに増加することが確認された。特に、HaCaTに50μMのトロロックス-ペプチド(配列番号2)結合体を処理した場合には、陽性対照群であるEGFくらい、細胞増殖が顕著に増加することが確認された。これに対し、比較群として用いられたトロロックス化合物は、細胞増殖効果がほぼ現れず、配列番号1~配列番号3のアミノ酸配列を有するペプチド化合物は、細胞増殖効果が微弱であるか、または同一含量のトロロックス-ペプチド結合体よりも低い細胞増殖効果を示した。
【0090】
上記のような結果から、トロロックス-ペプチド結合体を処理する場合、HFDPCおよびHaCaT細胞の増殖を促進することで、毛髪成長促進効果が発揮可能であることが分かる。
【0091】
[実施例2]
【0092】
細胞内(intracellular)ROS(reactive oxygen species)阻害効果の確認
【0093】
HFDPCを6ウェルプレートの各ウェルに3×10個ずつ分注し、一晩培養した。前記培養された細胞に50mJのUVBを照射し、前記細胞の培養液を無血清培地に取り替えた後、5μMまたは50μMのトロロックス-ペプチド結合体をそれぞれ処理し、24時間さらに培養した。その次、細胞内ROSの濃度を測定するために、DCFH-DA(dichlorofluorescin diacetate)を処理し、30分間反応させた後に細胞を回収し、FACSを用いて平均FL1値の変化を確認した。この際、陽性対照群として、細胞内ROS阻害効果があると知られている5mMのNAC(N-acetyl-L-cysteine)を用いた。
【0094】
その結果、図6図8に示されたように、トロロックス-ペプチド結合体を処理した場合、陽性対照群と類似した程度のレベルで、UVB照射により増加した細胞内ROSが阻害されることが確認された。
【0095】
上記のような結果から、トロロックス-ペプチド結合体を処理する場合、細胞内ROSが阻害され、毛乳頭細胞内の酸化的ストレスを顕著に減少させることで、脱毛防止効果が発揮可能であることが分かる。
【0096】
[実施例3]
【0097】
DKK1タンパク質発現抑制効果の確認
【0098】
5α-還元酵素(5α-reductase)によりテストステロン(testosterone)から生成されたDHT(dihydrotestosterone)は、脱毛を誘発するタンパク質であるDKK1の発現が増加するように誘導すると知られている。そこで、前記トロロックス-ペプチド(配列番号2)結合体によりDKK1の発現が抑制されるか否かを確認した。
【0099】
HFDPCを6ウェルプレートの各ウェルに3×10個ずつ分注し、一晩培養した。前記培養された細胞の培養液を無血清培地に取り替えた後、5μMまたは50μMのトロロックス-ペプチド(配列番号2)結合体、5α-還元酵素が含まれているマウス肝抽出物、およびテストステロンを処理し、24時間さらに培養した。その次、DKK-1タンパク質に特異的な抗体(santacruz biotechnology、米国)でウェスタンブロットを行ってタンパク質の発現様相を確認した。
【0100】
その結果、図9に示されたように、テストステロンおよびマウス肝抽出物の処理によりDKK1タンパク質の発現が増加し、トロロックス-ペプチド(配列番号2)結合体が処理された場合、上記のように増加したDKK1タンパク質の発現が減少したことが確認された。
【0101】
上記のような結果から、トロロックス-ペプチド結合体は、5α-還元酵素の活性を抑制させてDHTの生成が抑制されるようにすることで、窮極的に脱毛を誘発するDKK1タンパク質の発現が非常に効果的に抑制可能であることが分かる。
【0102】
[実施例4]
【0103】
細胞死滅関連タンパク質の発現変化の確認
【0104】
HFDPCを6ウェルプレートの各ウェルに3×10個ずつ分注し、一晩培養した。前記培養された細胞の培養液を無血清培地に取り替えた後、50μMのトロロックス、50μMのトロロックス-ペプチド(配列番号2)結合体、または50μMのトロロックス-ペプチド(配列番号3)結合体をそれぞれ処理し、24時間さらに培養した。その次、Bcl-2およびBaxタンパク質に特異的な抗体(santacruz biotechnology、米国)でウェスタンブロットを行い、タンパク質の発現変化を確認した。
【0105】
その結果、図10に示されたように、トロロックスのみを処理した場合には、Bcl-2の発現に変化がなく、Baxの発現が増加したことが確認された。その反面、トロロックス-ペプチド(配列番号2)結合体およびトロロックス-ペプチド(配列番号3)結合体を処理した場合には、Bcl-2の発現が増加し、Baxの発現が顕著に減少することが確認された。
【0106】
上記のような結果から、トロロックス単独で用いられる場合には、細胞死滅を誘導することができないが、前記トロロックスにペプチドが結合される場合には、細胞死滅と関連したタンパク質の発現変化を誘導することで、細胞死滅を誘導可能であることが分かる。
【0107】
[実施例5]
【0108】
MSX2遺伝子の発現増加可否の確認
【0109】
HHGMC(human hair germinal matrix cell)において、前記トロロックス-ペプチド結合体により、毛嚢発達、毛髪周期の制御、および毛幹の分化に関与するMSX2遺伝子の発現が変化するか否かを確認した。
【0110】
HHGMCを6ウェルプレートの各ウェルに3×10個ずつ分注し、一晩培養した。前記培養された細胞の培養液を0.5%のウシ胎児血清が含まれた培地に取り替えた後、5μMまたは50μMのトロロックス-ペプチド(配列番号1)結合体、トロロックス-ペプチド(配列番号2)結合体、またはトロロックス-ペプチド(配列番号3)結合体をそれぞれ処理し、24時間さらに培養した。その次、前記細胞から全RNAを抽出し、cDNA合成キット(Intron、韓国)を用いて定量した後、同一量の全RNAからcDNAを合成した。前記合成されたcDNAを鋳型とし、下記表2のプライマーを用いてMSX2遺伝子に対するPCR反応を行った。その後、前記PCR産物を5%(w/v)アガロースゲル電気泳動させ、MSX2遺伝子の発現程度を比較した。
【0111】
【表2】
【0112】
その結果、図11に示されたように、トロロックス-ペプチド結合体を処理する場合、MSX2遺伝子の発現が増加することが確認された。上記のような結果から、前記トロロックス-ペプチド結合体により、毛嚢発達、毛髪周期の制御、および毛幹の分化に関与するMSX2遺伝子の発現が増加することで、脱毛を防止可能であることが分かる。
【0113】
[実施例6]
【0114】
ケラチン-14遺伝子の発現増加の確認
【0115】
HaCaT細胞を6ウェルプレートの各ウェルに5×10個ずつ分注し、一晩培養した。前記培養された細胞の培養液を無血清培地に取り替えた後、5μMまたは50μMのトロロックス-ペプチド(配列番号1)結合体、トロロックス-ペプチド(配列番号2)結合体、またはトロロックス-ペプチド(配列番号3)結合体をそれぞれ処理し、24時間さらに培養した。その次、前記[実施例5]と同様の過程により、ケラチン-14遺伝子の発現程度を比較した。
【0116】
【表3】
【0117】
その結果、図12に示されたように、トロロックス-ペプチド結合体を処理する場合、ケラチン-14遺伝子の発現が増加することが確認された。かかるケラチン-14遺伝子の発現が増加するという効果は、処理されるトロロックス-ペプチド結合体の濃度が大きくなるほど、さらに増加することが確認された。上記のような結果から、前記トロロックス-ペプチド結合体によりケラチン-14遺伝子の発現が増加することで、発毛を促進可能であることが分かる。
【0118】
[実施例7]
【0119】
細胞シグナル伝達効果の確認
【0120】
毛嚢周期を調節するシグナル伝達は、Wnt、Shh、またはBMPなどが存在すると報告されている。よって、前記トロロックス-ペプチド結合体がどのような細胞シグナル伝達に関与することで、脱毛抑制(または防止)または発毛促進効果を発揮するかを確認した。
【0121】
HFDPCを6ウェルプレートの各ウェルに3×10個ずつ分注し、一晩培養した。前記培養された細胞の培養液を無血清培地に取り替えた後、以下の実験を行った。
【0122】
[7-1]BMP(bone morphogenetic protein)2細胞シグナル伝達抑制効果
【0123】
前記HFDPC細胞に50ng/μlのBMP-2、および5μMまたは50μMのトロロックス-ペプチド(配列番号1)結合体を処理し、15分間さらに培養した。その次、BMP2細胞シグナル伝達により発現が調節される下流タンパク質であるP-smad1/5/8タンパク質に特異的な抗体(cell signaling、米国)でウェスタンブロットを行い、タンパク質の発現変化を確認した。
【0124】
その結果、図13に示されたように、50μMのトロロックス-ペプチド(配列番号1)結合体を処理した場合、BMP2の処理により増加したP-smad1/5/8のタンパク質発現レベルが減少したことが確認された。
【0125】
上記のような結果から、前記トロロックス-ペプチド(配列番号1)結合体により、脱毛を誘導するBMP2細胞シグナル伝達が抑制されることで、効果的に脱毛を抑制または予防可能であることが分かる。
【0126】
[7-2]トロロックス-ペプチド結合体の細胞シグナル伝達効果
【0127】
前記HFDPC細胞に5μMまたは50μMのトロロックス-ペプチド(配列番号2)結合体を処理し、30分間さらに培養した。その次、前記細胞を回収し、核に存在するタンパク質を分画して抽出した後、β-カテニンタンパク質に特異的な抗体(santacruz、米国)でウェスタンブロットを行い、タンパク質の発現変化を確認した。
【0128】
その結果、図14に示されたように、トロロックス-ペプチド(配列番号2)結合体を処理した場合、核内に存在するβ-カテニンの量が顕著に増加することが確認された。
【0129】
上記のような結果から、トロロックス-ペプチド(配列番号2)結合体により、Wnt細胞シグナル伝達が活性化されることで、発毛促進効果が発揮可能であることが分かる。
【0130】
[7-3]トロロックス-ペプチド(配列番号3)結合体の細胞シグナル伝達効果
【0131】
前記HFDPC細胞に5μMまたは50μMのトロロックス-ペプチド(配列番号3)結合体を処理し、15分間さらに培養した。その次、前記細胞を回収し、核に存在するタンパク質を分画して抽出した後、p-Erk1/2およびp-Aktタンパク質に特異的な抗体(cell signaling、米国)でウェスタンブロットを行い、タンパク質の発現変化を確認した。
【0132】
その結果、図15に示されたように、トロロックス-ペプチド(配列番号3)結合体を処理した場合、Erk1/2およびAktのリン酸化が顕著に増加することが確認された。かかるリン酸化の増加効果は、処理されるトロロックス-ペプチド結合体の濃度が大きくなるほど、さらに増加することが確認された。
【0133】
上記のような結果から、トロロックス-ペプチド(配列番号3)結合体は、Erk1/2およびAktのリン酸化と関連しているKGF細胞シグナル伝達を活性化させることで、発毛促進が効果的に誘導可能であることが分かる。
【0134】
以上、本発明は記載された実施例に対してのみ詳細に説明されたが、本発明の技術思想の範囲内で多様な変形および修正が可能であることは当業者にとって明らかであり、かかる変形および修正が添付の請求範囲に属することはいうまでもない。
図1
図2
図3
図4
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図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【配列表】
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