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特許7411693光熱硬化性樹脂組成物およびこれを含む液晶シール剤、ならびに液晶表示パネルおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】光熱硬化性樹脂組成物およびこれを含む液晶シール剤、ならびに液晶表示パネルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 299/02 20060101AFI20231228BHJP
   C08G 59/32 20060101ALI20231228BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20231228BHJP
   G02F 1/1339 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
C08F299/02
C08G59/32
C08F2/44 C
G02F1/1339 505
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021575714
(86)(22)【出願日】2021-01-22
(86)【国際出願番号】 JP2021002135
(87)【国際公開番号】W WO2021157377
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2020018755
(32)【優先日】2020-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 大輔
(72)【発明者】
【氏名】香川 靖之
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-015757(JP,A)
【文献】特開2012-133384(JP,A)
【文献】特開2000-347203(JP,A)
【文献】特開2001-100224(JP,A)
【文献】特開2010-277072(JP,A)
【文献】特開2009-013282(JP,A)
【文献】国際公開第2019/198631(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 251/00-299/02
C08G 59/00-59/72
C08F 2/00-2/60
G02F 1/00-1/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内にエチレン性不飽和二重結合およびエポキシ基を有する硬化性化合物(A)、光重合開始剤(B)、潜在性熱硬化剤(C)、および有機微粒子(D)を含有する光熱硬化性樹脂組成物であり、
前記有機微粒子(D)は外殻部と核部とを有し、
前記核部が、共役ジエンに由来する構造単位を含む共役ジエン系ゴムおよびシリコーンゴムのうち、少なくとも一方を含
前記外殻部が、メチルメタクリレート構造、スチレン構造、アクリロニトリル構造、およびグリシジル構造を有する重合体を含む、
光熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
記核部が、共役ジエンおよび芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む共役ジエン系ゴムを含む、
請求項1に記載の光熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
無機充填剤(E)をさらに含有する、
請求項1または2に記載の光熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記有機微粒子(D)の含有量が5~17質量%である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の光熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記潜在性熱硬化剤(C)が、有機酸ジヒドラジド系熱潜在性硬化剤、アミンアダクト系熱潜在性硬化剤、およびポリアミン系熱潜在性硬化剤からなる群より選ばれる1以上の硬化剤である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の光熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の光熱硬化性樹脂組成物を含む、
液晶シール剤。
【請求項7】
配向膜をそれぞれ有する一対の基板の、一方の基板の前記配向膜上に、請求項6に記載の液晶シール剤を塗布し、シールパターンを形成する工程と、
前記シールパターンが未硬化の状態において、前記一方の基板上かつ前記シールパターンの領域内、または他方の基板に液晶を滴下する工程と、
前記一方の基板および前記他方の基板を、前記シールパターンを介して重ね合わせる工程と、
前記シールパターンを硬化させる工程と、
を含む、
液晶表示パネルの製造方法。
【請求項8】
前記シールパターンを硬化させる工程において、前記シールパターンに光を照射して前記シールパターンを硬化させる、
請求項7に記載の液晶表示パネルの製造方法。
【請求項9】
前記シールパターンに照射する光が、可視光領域の光を含む、
請求項8に記載の液晶表示パネルの製造方法。
【請求項10】
前記シールパターンを硬化させる工程において、光が照射された後の前記シールパターンをさらに加熱する、
請求項8または9に記載の液晶表示パネルの製造方法。
【請求項11】
配向膜をそれぞれ有する一対の基板と、
前記一対の基板の前記配向膜の間に配置された枠状のシール部材と、
前記一対の基板の間の前記シール部材で囲まれた空間に充填された液晶層と、を含み、
前記シール部材が、請求項6に記載の液晶シール剤の硬化物である、
液晶表示パネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光熱硬化性樹脂組成物およびこれを含む液晶シール剤、ならびに液晶表示パネルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やパーソナルコンピュータをはじめとする各種電子機器の画像表示パネルとして、液晶や有機EL等の表示パネルが広く使用されている。例えば、液晶表示パネルは、表面に電極が設けられた2枚の透明基板と、それらの間に挟持された枠状のシール部材と、該シール部材で囲まれた領域内に封入された液晶材料とを有する。
【0003】
ここで、上記シール部材には、基板との高い密着性が要求される。当該シール部材が基板から剥離してしまうと、液晶漏れ等が生じ、画像の表示不良が生じる。そこで従来、シール部材を形成するための液晶シール剤中に親水性基を有する化合物(例えばシランカップリング剤等)を含め、シール部材中の親水性基と基板表面に存在する親水性基とを化学的に結合させることで、これらの密着性を高めていた。
【0004】
また、特許文献1には、シール部材を形成するための液晶シール剤に、コアシェル型の粒子を含めることが提案されている。具体的には、コアシェル構造微粒子(アイカ工業社製 F-351)、即ち、コアがポリブチルアクリレートであり、シェルがポリメチルメタクリレートである粒子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-15757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、液晶表示パネルでは、一対の基板の表面にそれぞれ配向膜を配置し、液晶を所望の方向に配向させることが一般的である。そして、従来の液晶表示パネルでは、基板上に配置された配向膜の外側に、液晶シール剤を塗布し、シール部材を形成することが一般的であった。そのため、基板とシール部材との密着性を高めればよく、上述のようにシランカップリング剤の添加等によってシール部材の基板に対する密着性を高めることが可能であった。
【0007】
しかしながら近年、液晶表示パネルの狭額縁化が求められている。そのため、配向膜が配置されている領域にも液晶シール剤を塗布し、シール部材を形成すること等が求められている。ただし、近年の配向膜は疎水性が高く、親水性基の数が少ない。つまり、液晶シール剤中の親水性基と共有結合可能な基の量が少ない。したがって、従来の液晶シール剤では、これを塗布して得られるシール部材と、配向膜が配置された基板との接着強度を十分に高めることが難しかった。例えば、液晶表示パネルに外部から荷重がかかると、シール部材と基板との界面で、これらが剥離してしまう等の課題があった。また、特許文献1に記載されているような粒子を含む液晶シール剤によっても、基板とシール部材との密着性を高めることは困難であった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものである。例えば液晶シール剤として用いた際に、各種基板との密着性が高いシール部材を形成可能な光熱硬化性樹脂組成物等の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の光熱硬化性樹脂組成物およびこれを含む液晶シール剤を提供する。
[1]分子内にエチレン性不飽和二重結合を有する硬化性化合物(A)、光重合開始剤(B)、潜在性熱硬化剤(C)、および有機微粒子(D)を含有する光熱硬化性樹脂組成物であり、前記有機微粒子(D)は外殻部と核部とを有し、前記核部が、共役ジエンに由来する構造単位を含む共役ジエン系ゴムおよびシリコーンゴムのうち、少なくとも一方を含む、光熱硬化性樹脂組成物。
【0010】
[2]前記有機微粒子(D)が、前記外殻部および前記核部から構成され、前記核部が、共役ジエンおよび芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む共役ジエン系ゴムを含み、前記外殻部が、メチルメタクリレート構造、スチレン構造、アクリロニトリル構造、およびグリシジル構造からなる群より選ばれる1以上の構造を有する重合体を含む、[1]に記載の光熱硬化性樹脂組成物。
【0011】
[3]無機充填剤(E)をさらに含有する、[1]または[2]に記載の光熱硬化性樹脂組成物。
[4]前記有機微粒子(D)の含有量が5~17質量%である、[1]~[3]のいずれかに記載の光熱硬化性樹脂組成物。
[5]前記潜在性熱硬化剤(C)が、有機酸ジヒドラジド系熱潜在性硬化剤、アミンアダクト系熱潜在性硬化剤、およびポリアミン系熱潜在性硬化剤からなる群より選ばれる1以上の硬化剤である、[1]~[4]のいずれかに記載の光熱硬化性樹脂組成物。
[6]前記[1]~[5]のいずれかに記載の光熱硬化性樹脂組成物を含む、液晶シール剤。
【0012】
本発明は、以下の液晶表示パネルの製造方法や、当該製造方法から得られる液晶表示パネルを提供する。
[7]配向膜をそれぞれ有する一対の基板の、一方の基板の前記配向膜上に、上記[6]に記載の液晶シール剤を塗布し、シールパターンを形成する工程と、前記シールパターンが未硬化の状態において、前記一方の基板上かつ前記シールパターンの領域内、または他方の基板に液晶を滴下する工程と、前記一方の基板および前記他方の基板を、前記シールパターンを介して重ね合わせる工程と、前記シールパターンを硬化させる工程と、を含む、液晶表示パネルの製造方法。
【0013】
[8]前記シールパターンを硬化させる工程において、前記シールパターンに光を照射して前記シールパターンを硬化させる、[7]に記載の液晶表示パネルの製造方法。
[9]前記シールパターンに照射する光が、可視光領域の光を含む、[8]に記載の液晶表示パネルの製造方法。
[10]前記シールパターンを硬化させる工程において、光が照射された後の前記シールパターンをさらに加熱する、[8]または[9]に記載の液晶表示パネルの製造方法。
[11]配向膜をそれぞれ有する一対の基板と、前記一対の基板の前記配向膜の間に配置された枠状のシール部材と、前記一対の基板の間の前記シール部材で囲まれた空間に充填された液晶層と、を含み、前記シール部材が、[6]に記載の液晶シール剤の硬化物である、液晶表示パネル。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光熱硬化性樹脂組成物によれば、液晶シール剤として用いた際、一対の基板間を強固に接着可能なシール部材が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.光熱硬化性樹脂組成物
本発明の光熱硬化性樹脂組成物は、分子内にエチレン性不飽和二重結合を有する硬化性化合物(A)、光重合開始剤(B)、潜在性熱硬化剤(C)、および特定の有機微粒子(D)を含有する。
【0016】
前述のように、従来の光熱硬化性樹脂組成物(液晶シール剤)では、その硬化物(シール部材)と基板との密着性を化学的な結合によって高めることが一般的であった。しかしながら、当該方法では、基板上に配向膜が配置されている場合等に十分に対応できず、基板の種類によっては、基板との密着性が十分に得られなかった。
【0017】
これに対し、本発明の光熱硬化性樹脂組成物は、外殻部と核部とを有する有機微粒子(D)を含み、当該有機微粒子(D)の核部は、共役ジエンに由来する構造単位を含む共役ジエン系ゴム、またはシリコーンゴムのいずれか一方を含む。光熱硬化性樹脂組成物が、このような有機微粒子(D)を含むと、光熱硬化性樹脂組成物を塗布し、硬化させる際に生じる残留応力が、有機微粒子(D)の核部によって緩和される。したがって、基板と硬化物との間に応力がかかり難い。つまり、基板上に配向膜等が配置されていたとしても、基板と光熱硬化性樹脂組成物(シール部材)との間での剥離が生じ難い。さらに、当該光熱硬化性樹脂組成物の硬化物(シール部材)を含む液晶表示パネル等に荷重がかかった場合であっても、その荷重を上記有機微粒子(D)が分散させることができる。したがって、シール部材と基板との界面に応力が働きにくく、これらの剥離が抑制される。
【0018】
以下、本発明の光熱硬化性樹脂組成物中の各成分について、詳しく説明する。
【0019】
1-1.硬化性化合物(A)
硬化性化合物(A)は、分子内にエチレン性不飽和二重結合を有する化合物であればよい。硬化性化合物(A)は、モノマー、オリゴマーまたはポリマーのいずれであってもよい。当該硬化性化合物(A)の例には、分子内に(メタ)アクリロイル基を有する化合物が含まれる。当該(メタ)アクリロイル基を有する化合物1分子あたりの(メタ)アクリロイル基の数は、1つであってもよく、2以上であってもよい。本明細書において、(メタ)アクリロイル基との記載は、アクリロイル基またはメタクリロイル基、もしくはこれら両方を意味する。また、(メタ)アクリレートとの記載は、アクリレートまたはメタクリレート、もしくはこれら両方を意味する。さらに(メタ)アクリルとの記載は、アクリルまたはメタクリル、もしくはこれら両方を意味する。
【0020】
1分子内に(メタ)アクリロイル基を1つ含む硬化性化合物(A)の例には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルエステル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが含まれる。
【0021】
1分子内に2以上の(メタ)アクリロイル基を有する硬化性化合物(A)の例には、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等由来のジ(メタ)アクリレート;トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート由来のジ(メタ)アクリレート;ネオペンチルグリコール1モルに4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオール由来のジ(メタ)アクリレート;ビスフェノールA1モルに2モルのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオール由来のジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパン1モルに3モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオール由来のジもしくはトリ(メタ)アクリレート;ビスフェノールA1モルに4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオール由来のジ(メタ)アクリレート;トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、またはそのオリゴマー;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートまたはそのオリゴマー;ジペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート;トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート;カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート;カプロラクトン変性トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレート;アルキル変性ジペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート;ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート;カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート;エチレンオキサイド変性リン酸(メタ)アクリレート;エチレンオキサイド変性アルキル化リン酸(メタ)アクリレート;ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールのオリゴ(メタ)アクリレート等が含まれる。
【0022】
硬化性化合物(A)は、分子内にエポキシ基をさらに有してもよい。1分子あたりのエポキシ基の数は1つであってもよく、2以上であってもよい。硬化性化合物(A)が分子内に(メタ)アクリロイル基だけでなくエポキシ基をさらに有すると、光熱硬化性樹脂組成物を熱によっても硬化可能となる。つまり、光硬化と熱硬化とを併用することが可能となる。光熱硬化性樹脂組成物が、光硬化性および熱硬化性を有すると、短時間で効率よく光熱硬化性樹脂組成物を硬化させることが可能となる。
【0023】
分子内に(メタ)アクリロイル基とエポキシ基とを有する化合物の例には、エポキシ化合物と(メタ)アクリル酸とを塩基性触媒の存在下で反応させて得られる(メタ)アクリル酸グリシジルエステルが含まれる。
【0024】
(メタ)アクリル酸と反応させるエポキシ化合物は、分子内に2以上のエポキシ基を有する多官能のエポキシ化合物であればよく、架橋密度が高まりすぎて光熱硬化性樹脂組成物の硬化物の接着性が低下するのを抑制する観点では、2官能のエポキシ化合物が好ましい。2官能のエポキシ化合物の例には、ビスフェノール型エポキシ化合物(ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、2,2’-ジアリルビスフェノールA型、ビスフェノールAD型、及び水添ビスフェノール型等)、ビフェニル型エポキシ化合物、およびナフタレン型エポキシ化合物が含まれる。中でも、光熱硬化性樹脂組成物の塗布性が良好になりやすいとの観点から、ビスフェノールA型及びビスフェノールF型のビスフェノール型エポキシ化合物が好ましい。ビスフェノール型エポキシ化合物由来の硬化性化合物(A)は、ビフェニルエーテル型エポキシ化合物由来の硬化性化合物(A)と比べて塗布性に優れる等の利点がある。
【0025】
なお、硬化性化合物(A)は、上記化合物を一種のみ含んでいてもよいが、二種以上を含んでいてもよい。特に、硬化性化合物(A)が、分子内に(メタ)アクリロイル基を有し、エポキシ基を有しない化合物(A1)と、分子内に(メタ)アクリロイル基とエポキシ基とを有する化合物(A2)とを含むことが好ましい。例えば光熱硬化性樹脂組成物に後述のその他の硬化性化合物(例えば、エポキシ化合物)をさらに含む場合、化合物(A1)とエポキシ化合物とでは、相溶性が低いことがある。これに対し、エポキシ基を有する化合物(A2)を組み合わせると、光熱硬化性樹脂組成物中の各成分の相溶性が高まる。また一般的に、光熱硬化性樹脂組成物を液晶シール剤に用いたとき、疎水性の化合物(例えばエポキシ化合物等)のほうが親水性の化合物より液晶に溶出しやすいが、化合物(A1)および化合物(A2)を組み合わせることで、エポキシ化合物の液晶への溶出が抑制されやすくなる。化合物(A2)と化合物(A1)との含有質量比は、A2/A1=1/0.4~1/0.6が好ましい。
【0026】
なお、分子内に(メタ)アクリロイル基とエポキシ基とを有する化合物(A2)の含有量は、特に制限されないが、例えば硬化性化合物(A)の総量に対して30質量%以上が好ましい。
【0027】
また、上述のいずれの硬化性化合物(A)においても、重量平均分子量は、310~1000程度が好ましい。硬化性化合物(A)の重量平均分子量は、例えばゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算にて測定できる。
【0028】
硬化性化合物(A)の含有量は、光熱硬化性樹脂組成物の総量に対して40~80質量%が好ましく、50~75質量%がより好ましい。硬化性化合物(A)の量が当該範囲であると、得られる硬化物(例えばシール部材)の強度が高まり、さらには基板と硬化物(シール部材)との密着性を高めることができる。
【0029】
1-2.光重合開始剤(B)
光重合開始剤は、光の照射によって、上記硬化性化合物(A)をラジカル重合等させることが可能な化合物であれば特に制限されない。例えば、自己開裂型の光重合開始剤であってもよく、水素引き無機型の光重合開始剤であってもよい。
【0030】
自己開裂型の自己開裂型の光重合開始剤の例には、アルキルフェノン系化合物(例えば2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(BASF社製 IRGACURE 651)等のベンジルジメチルケタール;2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン(BASF社製 IRGACURE 907)等のα-アミノアルキルフェノン;1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(BASF社製 IRGACURE 184)等のα-ヒドロキシアルキルフェノン等)、アシルホスフィンオキサイド系化合物(例えば2,4,6-トリメチルベンゾインジフェニルホスフィンオキシド等)、チタノセン系化合物(例えばビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム等)、アセトフェノン系化合物(例えばジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン等)、フェニルグリオキシレート系化合物(例えばメチルフェニルグリオキシエステル等)、ベンゾインエーテル系化合物(例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等)、およびオキシムエステル系化合物(例えば1,2-オクタンジオン-1-[4-(フェニルチオ)-2-(O-ベンゾイルオキシム)](BASF社製 IRGACURE OXE01)、エタノン-1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-1-(0-アセチルオキシム)(BASF社製 IRGACURE OXE02)等)が含まれる。
【0031】
水素引き抜き型の光重合開始剤の例には、ベンゾフェノン系化合物(例えばベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル-4-フェニルベンゾフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルサルファイド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン等)、チオキサントン系化合物(例えばチオキサントン、2-クロロチオキサントン(東京化成工業社製)、1-クロロ-4-プロポキシチオキサントン、1-クロロ-4-エトキシチオキサントン(Lambson Limited社製 Speedcure CPTX)、2-イソプロピルキサントン(Lambson Limited社製 Speedcure ITX)、4-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン(Lambson Limited社製 Speedcure DETX)、2,4-ジクロロチオキサントン等)、アントラキノン系化合物(例えば2-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-t-ブチルアントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-ヒドロキシアントラキノン(東京化成工業社製 2-Hydroxyanthraquinone)、2,6-ジヒドロキシアントラキノン(東京化成工業社製 Anthraflavic Acid)、2-ヒドロキシメチルアントラキノン(純正化学社製 2-(Hydroxymethyl)anthraquinone)等)およびベンジル系化合物が含まれる。光熱硬化性樹脂組成物は、光重合開始剤(B)を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0032】
光重合開始剤(B)の吸収波長は特に限定されず、例えば波長360nm以上の光を吸収する光重合開始剤(B)が好ましい。中でも、可視光領域の光を吸収することがより好ましく、波長360~780nmの光を吸収する光重合開始剤(B)がさらに好ましく、波長360~430nmの光を吸収する光重合開始剤(B)が特に好ましい。
【0033】
波長360nm以上の光を吸収する光重合開始剤(B)の例には、アルキルフェノン系化合物、アシルホスフィンオキサイド系化合物、チタノセン系化合物、オキシムエステル系化合物、チオキサントン系化合物、アントラキノン系化合物が含まれ、好ましくはオキシムエステル系化合物である。
【0034】
なお、光重合開始剤(B)の構造は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)および液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)と、NMR測定またはIR測定とを組み合わせることで特定できる。
【0035】
光重合開始剤(B)の分子量は、例えば200以上5000以下が好ましい。分子量が200以上であると、光熱硬化性樹脂組成物を液晶シール剤としたときに、光重合開始剤(B)が液晶に溶出し難い。一方、分子量が5000以下であると、硬化性化合物(A)との相溶性が高まり、光熱硬化性樹脂組成物の硬化性が良好になりやすい。光重合開始剤(B)の分子量は、230以上3000以下がより好ましく、230以上1500以下がさらに好ましい。
【0036】
光重合開始剤(B)の分子量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC:High Performance Liquid Chromatography)で分析したときに検出されるメインピークの、分子構造の「相対分子質量」として求めることができる。
【0037】
具体的には、光重合開始剤(B)をTHF(テトラヒドロフラン)に溶解させた試料液を調製し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)測定を行う。そして、検出されたピークの面積百分率(各ピークの面積の、全ピークの面積の合計に対する比率)を求め、メインピークの有無を確認する。メインピークとは、各化合物に特徴的な検出波長(例えばチオキサントン系化合物であれば400nm)で検出された全ピークのうち、最も強度が大きいピーク(ピークの高さが最も高いピーク)をいう。検出されたメインピークのピーク頂点に対応する相対分子質量は、液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS:Liquid Chromatography Mass Spectrometry)により測定できる。
【0038】
光重合開始剤(B)の量は、上述の硬化性化合物(A)に対して0.01~10質量%が好ましい。光重合開始剤(B)の量が、硬化性化合物(A)に対して0.01質量%以上であると、光熱硬化性樹脂組成物の硬化性が良好になりやすい。光重合開始剤(B)の含有量が10質量%以下であると、光熱硬化性樹脂組成物を液晶シール剤に用いたとき、光重合開始剤(B)が液晶に溶出し難くなる。光重合開始剤(B)の含有量は、硬化性化合物(A)に対して0.1~5質量%がより好ましく、0.1~3質量%がさらに好ましく、0.1~2.5質量%が特に好ましい。
【0039】
1-3.潜在性熱硬化剤(C)
潜在性熱硬化剤(C)は、通常の保存条件下(室温、可視光線下等)では熱硬化性化合物(A)や後述のその他の硬化性化合物を硬化させないが、熱を与えられると、これらの化合物を硬化させる化合物である。光熱硬化性樹脂組成物が潜在性熱硬化剤(C)を含むと、光熱硬化性樹脂組成物が熱硬化可能になる。潜在性熱硬化剤(C)は、エポキシ化合物の硬化が可能な硬化剤(以下、「エポキシ硬化剤」とも称する)が好ましい。
【0040】
エポキシ硬化剤は、光熱硬化性樹脂組成物の粘度安定性を高め、かつ硬化物の耐湿性を損なわない観点から、融点が50℃以上250℃以下であることが好ましく、融点は100℃以上200℃以下がより好ましく、150℃以上200℃以下がさらに好ましい。
【0041】
エポキシ硬化剤の例には、有機酸ジヒドラジド系熱潜在性硬化剤、イミダゾール系熱潜在性硬化剤、ジシアンジアミド系熱潜在性硬化剤、アミンアダクト系熱潜在性硬化剤、およびポリアミン系熱潜在性硬化剤が含まれる。
【0042】
有機酸ジヒドラジド系熱潜在性硬化剤の例には、アジピン酸ジヒドラジド(融点181℃)、1,3-ビス(ヒドラジノカルボエチル)-5-イソプロピルヒダントイン(融点120℃)、7,11-オクタデカジエン-1,18-ジカルボヒドラジド(融点160℃)、ドデカン二酸ジヒドラジド(融点190℃)、およびセバシン酸ジヒドラジド(融点189℃)等が含まれる。
【0043】
イミダゾール系熱潜在性硬化剤の例には、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチルイミダゾリル-(1’)]-エチルトリアジン(融点215~225℃)、および2-フェニルイミダゾール(融点137~147℃)等が含まれる。
【0044】
ジシアンジアミド系熱潜在性硬化剤の例には、ジシアンジアミド(融点209℃)等が含まれる。
【0045】
アミンアダクト系熱潜在性硬化剤は、触媒活性を有するアミン系化合物と任意の化合物とを反応させて得られる付加化合物からなる熱潜在性硬化剤である。アミンアダクト系熱潜在性硬化剤の例には、味の素ファインテクノ社製 アミキュアPN-40(融点110℃)、味の素ファインテクノ社製 アミキュアPN-23(融点100℃)、味の素ファインテクノ社製 アミキュアPN-31(融点115℃)、味の素ファインテクノ社製 アミキュアPN-H(融点115℃)、味の素ファインテクノ社製 アミキュアMY-24(融点120℃)、および味の素ファインテクノ社製 アミキュアMY-H(融点131℃)等が含まれる。
【0046】
ポリアミン系熱潜在性硬化剤は、アミンとエポキシとを反応させて得られるポリマー構造を有する熱潜在性硬化剤であり、その例には、ADEKA社製 アデカハードナーEH4339S(軟化点120~130℃)、およびADEKA社製 アデカハードナーEH4357S(軟化点73~83℃)等が含まれる。
【0047】
上記の中でも、入手しやすさ、他の成分との相溶性等の観点で、有機酸ジヒドラジド系熱潜在性硬化剤、アミンアダクト系熱潜在性硬化剤、またはポリアミン系熱潜在性硬化剤が好ましい。潜在性熱硬化剤(C)は、エポキシ硬化剤を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0048】
潜在性熱硬化剤(C)の含有量は、光熱硬化性樹脂組成物の総量に対して3~30質量%が好ましく、3~20質量%がより好ましく、5~20質量%がさらに好ましい。本発明の光熱硬化性樹脂組成物は、一液硬化性樹脂組成物としてもよい。一液硬化性樹脂組成物は、使用に際して主剤と硬化剤を混合する必要がないことから、作業性が優れる。
【0049】
潜在性熱硬化剤(C)の含有量は、上述の硬化性化合物(A)に対して3.8~75質量%が好ましく、3.8~50質量%がより好ましく、5~40質量%がさらに好ましい。潜在性熱硬化剤(C)の硬化性化合物(A)に対する含有量が3.8質量%以上であると、加熱時の硬化性化合物(A)の硬化性を高めやすい。一方、75質量%以下であると、光熱硬化性樹脂組成物を液晶シール剤に用いたとき、潜在性熱硬化剤(C)によって液晶が汚染され難い。
【0050】
1-4.有機微粒子(D)
有機微粒子(D)は、外殻部と核部とを有し、かつ核部に、共役ジエン系ゴムまたはシリコーンゴムを含む粒子であればよい。ここで、核部とは、有機微粒子(D)の中心近傍に位置し、当該有機微粒子(D)に所望の弾性を付与する領域である。一方、外殻部とは、核部より有機微粒子(D)の最表面側に配置される層状の領域であり、有機微粒子(D)と光熱硬化性樹脂組成物中の他の成分との相溶性を高めるための層である。外殻部は、核部を完全に覆っていてもよく、核部の一部のみを覆っていてもよいが、外殻部が核部を完全に覆っているほうが、有機微粒子(D)と他の成分との親和性を高めることができ、有機微粒子(D)の分散性が高まる。
【0051】
有機微粒子(D)において、外殻部と核部との間に、他の層を含んでいてもよいが、有機微粒子(D)を調製しやすい等の観点で、外殻部と核部とから構成されることが好ましい。有機微粒子(D)が、外殻部と核部とを有するか否かは、光熱硬化性樹脂組成物を光および熱によって硬化させた後、例えば断面を透過型電子顕微鏡(TEM)等により特定できる。
【0052】
核部は、共役ジエン系ゴムまたはシリコーンゴムの少なくとも一方を含んでいればよいが、両方を含んでいてもよい。また、本発明の目的および硬化を損なわない範囲で、核部は、これらのゴム以外の成分を含んでいてもよい。
【0053】
共役ジエン系ゴムは、共役ジエンに由来する構造単位を含んでいればよく、共役ジエン由来の構造単位のみを有していてもよく、共役ジエンおよび共役ジエンと共重合可能なビニルモノマーの共重合体等であってもよい。
【0054】
共役ジエンの例には、イソプレン、1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、クロロプレン等が含まれる。共役ジエン系ゴムは、共役ジエン由来の構造単位を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。また、共役ジエン系ゴム中の共役ジエン由来の構造単位量は、全構造単位の総量に対して50~100質量%が好ましい。
【0055】
一方、共役ジエンと共重合可能なビニルモノマーの例には、スチレン、α-メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン等の芳香族ビニル系モノマー;アクリル酸、メタクリル酸等のビニルカルボン酸系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン系モノマー;塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル系モノマー;酢酸ビニル;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等のアルケンモノマー;ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン等の多官能性モノマーが含まれる。共役ジエン系ゴムには、これらのビニルモノマー由来の構造単位が一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。共役ジエン系ゴム中のビニルモノマー由来の構造単位量は、全構造単位の総量に対して0~50質量%が好ましい。
【0056】
共役ジエン系ゴムの具体例には、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のジエン系ゴムが含まれる。
【0057】
一方、シリコーンゴムの例には、シロキサン系モノマーを重合して得られるゴム、またはシロキサン系モノマーおよびシロキサン系モノマーと共重合可能なビニルモノマーとの共重合体等が含まれる。
【0058】
シロキサン系モノマーの例には、ジメチルシロキサン、ジエチルシロキサン、メチルフェニルシロキサン、ジフェニルシロキサン、ジメチルシロキサン-ジフェニルシロキサン等の、2つのアルキルおよび/またはアリール基を有するシロキサンモノマー;アルキルまたはアリールを1つ有するシロキサンモノマー等が含まれる。一方、シロキサン系モノマーと共重合可能なビニルモノマーは、上述の共役ジエンと共重合可能なビニルモノマーと同様である。
【0059】
有機微粒子(D)の核部は、上記の中でも共役ジエン系ゴムを含むことが好ましく、さらに共役ジエンおよび芳香族ビニル化合物(上述の芳香族ビニルモノマー)に由来する構造単位を含むことが好ましく、特にスチレンブタジエンゴム(SBR)が好ましい。
【0060】
当該有機微粒子(D)全体に占める核部の量は、60~90質量%が好ましく、80~90質量%がより好ましい。有機微粒子(D)における核部の比率が上記範囲であると、光熱硬化性樹脂組成物の硬化物において十分な弾性が得られる。例えば、硬化性樹脂組成物から得られるシール部材と液晶表示パネルの基板との接着強度等が十分に高まる。なお、当該有機微粒子(D)における核部の含有量は、赤外分光分析のスペクトルの吸光度比などから測定できる。
【0061】
さらに、上記核部の形状は特に制限されないが、粒径を揃える等の観点で、球状が好ましい。
【0062】
一方、有機微粒子(D)の外殻部は、上述の核部と親和性を有し、かつ光熱硬化性樹脂組成物中での有機微粒子(D)の分散性を高めることが可能な層であれば特に制限されない。外殻部は、(メタ)アクリレートモノマーやビニルモノマーの重合体とすることができる。このような外殻部は、例えば、上述の核部を形成した後、核部の周囲に(メタ)アクリレートモノマーやビニルモノマーを重合させること等によって形成できる。
【0063】
(メタ)アクリレートモノマーの例には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香環含有(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルアルキル(メタ)アクリレート等のグリシジル(メタ)アクリレート類;アルコキシアルキル(メタ)アクリレート類;アリル(メタ)アクリレート、アリルアルキル(メタ)アクリレート等のアリルアルキル(メタ)アクリレート;モノエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能性(メタ)アクリレート;等が含まれる。
【0064】
一方、ビニルモノマーの例には、上述の共役ジエンと共重合可能なビニルモノマーと同様のモノマーが含まれる。
【0065】
中でも、外殻部は、メチルメタクリレート構造、スチレン構造、アクリロニトリル構造、およびグリシジル構造からなる群より選ばれる1以上の構造を有する重合体を含むことが好ましい。外殻部が、このような構造を有する重合体を含むと、上述の硬化性化合物(A)等と有機微粒子(D)との相溶性が良好になる。
【0066】
当該有機微粒子(D)全体に占める外殻部の量は、10~40質量%が好ましく、10~20質量%がより好ましい。有機微粒子(D)における外殻部の比率が上記範囲であると、有機微粒子(D)の分散性が良好になる。当該有機微粒子(D)における外殻部の含有量は、赤外分光分析のスペクトルの吸光度比などから測定できる。
【0067】
さらに、当該有機微粒子(D)の形状は、特に制限されないが、略球状であることが好ましい。有機微粒子(D)が略球状である場合の平均粒子径は、0.1~0.8μmが好ましく、0.1~0.6μmがより好ましい。平均粒子径が当該範囲であると、光熱硬化性樹脂組成物を用いて細いシール部材を形成したりすることが可能となる。上記平均粒子径は、顕微鏡法、具体的には電子顕微鏡の画像解析により測定することができる。より具体的には、液晶シール剤について画像解析し、粒子径が1μm以下の有機フィラーを50個選別して、粒子径を測定した場合の平均値を平均粒子径とする。
【0068】
有機微粒子(D)の含有量は、光熱硬化性樹脂組成物の総量に対して5~17質量%が好ましく、7~16質量%がより好ましく、9~15質量%がさらに好ましい。有機微粒子の量が5質量%以上であると、光熱硬化性樹脂組成物を液晶シール剤に用いた場合に、その硬化物(シール部材)と基板との接着強度が高くなる。一方、有機微粒子(D)の含有量が17質量%以下であると、他の成分(例えば硬化性化合物(A))の量が十分になり、硬化物(シール部材)の強度が高まる。
【0069】
1-5.無機充填剤(E)
本発明の光熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて無機充填剤(E)をさらに含んでいてもよい。光熱硬化性樹脂組成物が無機充填剤(E)を含むと、光熱硬化性樹脂組成物の粘度や硬化物の強度、および線膨張性等が良好になりやすい。
【0070】
無機充填剤(E)の例には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、珪酸ジルコニウム、酸化鉄、酸化チタン、窒化チタン、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化亜鉛、二酸化ケイ素、チタン酸カリウム、カオリン、タルク、ガラスビーズ、セリサイト活性白土、ベントナイト、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等が含まれる。中でも、二酸化ケイ素及びタルクが好ましい。
【0071】
無機充填剤(E)の形状は、球状、板状、針状等、定形状であってもよく、非定形状であってもよい。無機充填剤(E)が球状である場合、無機充填剤(E)の平均一次粒子径は、1.5μm以下が好ましく、かつ比表面積が0.5~20m/gがより好ましい。無機充填剤(E)の平均一次粒子径は、JIS Z8825-1に記載のレーザー回折法により測定することができる。充填剤の比表面積は、JIS Z8830に記載のBET法により測定することができる。
【0072】
無機充填剤(E)の含有量は、光熱硬化性樹脂組成物の総量に対して1~45質量%が好ましい。無機充填剤(E)の含有量が1質量%以上であると、光熱硬化性樹脂組成物の硬化物の耐湿性が高まりやすく、45質量%以下であると、光熱硬化性樹脂組成物の塗工安定性が損なわれにくい。無機充填剤(E)の含有量は、光熱硬化性樹脂組成物に対して3~30質量%がより好ましい。
【0073】
1-6.その他の硬化性化合物
光熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性化合物をさらに含んでいてもよい。ただし、当該熱硬化性化合物は、上述の硬化性化合物(A)とは異なる化合物である。
【0074】
熱硬化性化合物の例には、分子内にエポキシ基を有するエポキシ化合物が含まれる。エポキシ化合物は、モノマー、オリゴマーまたはポリマーのいずれであってもよい。光熱硬化性樹脂組成物がエポキシ化合物を含むと、得られる液晶パネルの表示特性が良好になり、さらには硬化物(シール部材)の耐湿性が高まる。
【0075】
エポキシ化合物は特に芳香環を有することが好ましい。また、エポキシ化合物の重量平均分子量は500~10000が好ましく、1000~5000がより好ましい。エポキシ化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算にて測定される。
【0076】
芳香族エポキシ化合物の例には、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールF、ビスフェノールAD等で代表される芳香族ジオール類や、これらの芳香族ジオールをエチレングリコール、プロピレングリコール、アルキレングリコール等で変性したジオール類と、エピクロルヒドリンとの反応で得られた芳香族多価グリシジルエーテル化合物;フェノールまたはクレゾールとホルムアルデヒドとから誘導されたノボラック樹脂、ポリアルケニルフェノールやそのコポリマー等で代表されるポリフェノール類と、エピクロルヒドリンとの反応で得られたノボラック型多価グリシジルエーテル化合物;キシリレンフェノール樹脂のグリシジルエーテル化合物類等が含まれる。中でも、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、トリフェノールメタン型エポキシ化合物、トリフェノールエタン型エポキシ化合物、トリスフェノール型エポキシ化合物、ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物、ジフェニルエーテル型エポキシ化合物またはビフェニル型エポキシ化合物が好ましい。光熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ化合物を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0077】
エポキシ化合物は、液状であってもよく、固形であってもよい。硬化物の耐湿性を高めやすい観点では、固形のエポキシ化合物が好ましい。固形のエポキシ化合物の軟化点は、40℃以上150℃以下が好ましい。軟化点は、JIS K7234に規定する環球法によって測定することができる。
【0078】
熱硬化性化合物の含有量は、光熱硬化性樹脂組成物に対して3~20質量%が好ましい。熱硬化性化合物の量が3質量%以上であると、光熱硬化性樹脂組成物の硬化物(シール部材)の耐湿性を良好に高めやすい。熱硬化性化合物の含有量が20質量%以下であると、光熱硬化性樹脂組成物に、過剰な粘度上昇が生じ難い。熱硬化性化合物の量は、光熱硬化性樹脂組成物に対して3~15質量%がより好ましく、4~15質量%がさらに好ましい。
【0079】
熱硬化性化合物の含有量は、硬化性化合物(A)に対して3.8~50質量%が好ましく、5~30質量%がより好ましい。熱硬化性化合物の硬化性化合物(A)に対する含有量が3.8質量%以上であると、硬化物の耐湿性やガラス基板への接着強度がさらに高まる。一方、50質量%以下であると、製造時に硬化性化合物(A)との相溶性が良好になりやすい。
【0080】
1-7.その他の化合物
本発明の光熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて熱ラジカル重合開始剤、シランカップリング剤等のカップリング剤、イオントラップ剤、イオン交換剤、レベリング剤、顔料、染料、増感剤、可塑剤及び消泡剤等の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0081】
シランカップリング剤の例には、ビニルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が含まれる。シランカップリング剤の含有量は、硬化性化合物(A)に対して0.01~5質量%が好ましい。シランカップリング剤の含有量が0.01質量%以上であると、光熱硬化性樹脂組成物の硬化物が十分な接着性を有しやすい。
【0082】
本発明の光熱硬化性樹脂組成物は、液晶表示パネルのギャップを調整するためのスペーサー等をさらに含んでいてもよい。
【0083】
その他の成分の合計量は、光熱硬化性樹脂組成物の総量に対して1~50質量%が好ましい。その他の成分の合計量が50質量%以下であると、光熱硬化性樹脂組成物の粘度が過度に上昇し難く、光熱硬化性樹脂組成物の塗工安定性が損なわれにくい。
【0084】
1-8.光熱硬化性樹脂組成物の物性
本発明の光熱硬化性樹脂組成物の、E型粘度計の25℃、2.5rpmにおける粘度は、200~450Pa・sが好ましく、300~400Pa・sがより好ましい。粘度が上記範囲にあると、光熱硬化性樹脂組成物のディスペンサーによる塗布性が良好となる。
【0085】
本発明の光熱硬化性樹脂組成物は、例えばシール剤として用いることができる。光熱硬化性樹脂組成物は特に、液晶表示素子、有機EL素子、LED素子等の表示素子の封止に用いられる表示素子シール剤に好適である。また、本発明の光熱硬化性樹脂組成物は、液晶を汚染し難いため、液晶滴下工法用の液晶シール剤に非常に好適である。
【0086】
2.液晶表示パネルおよびその製造方法
本発明の液晶表示パネルは、それぞれ配向膜を有する一対の基板(表示基板および対向基板)と、当該一対の基板の配向膜どうしの間に配置された枠状のシール部材と、一対の基板の間の前記シール部材で囲まれた空間に充填された液晶層と、を含む。当該シール部材が、上述の光熱硬化性樹脂組成物(液晶シール剤)の硬化物である。
【0087】
表示基板および対向基板は、いずれも透明基板である。透明基板の材質は、ガラス等の無機材料であってもよく、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルフォンおよびPMMA等のプラスチックであってもよい。
【0088】
表示基板または対向基板の表面には、マトリックス状のTFT、カラーフィルタ、ブラックマトリクス等が配置されていてもよい。表示基板または対向基板の表面には、さらに配向膜が配置されている。配向膜には、公知の有機配向剤や無機配向剤が含まれる。
【0089】
上述のように、一般的な液晶シール剤から得られるシール部材は、これらの配向膜との密着性が低いことがある。これに対し、上述の光熱硬化性樹脂組成物(液晶シール剤)は、硬化時にシール部材に生じる残留応力を緩和したり、液晶表示パネルに外部からかかる応力を吸収したりできる。したがって、シール部材を、配向膜が形成されている領域に配置しても、これらの界面で剥離が生じ難い。よって、本発明の液晶表示パネルでは、狭額縁化を実現可能である。
【0090】
液晶表示パネルは、本発明の液晶シール剤を用いて製造される。液晶表示パネルの製造方法には、一般に、液晶滴下工法と、液晶注入工法とがあるが、本発明の液晶表示パネルは、液晶滴下工法で製造されることが好ましい。
【0091】
液晶滴下工法による液晶表示パネルの製造方法は、
1)それぞれ配向膜を有する一対の基板の、一方の基板の配向膜上に、上述の液晶シール剤を塗布し、シールパターンを形成する工程と、
2)シールパターンが未硬化の状態において、一方の基板上、かつシールパターンで囲まれた領域内、または他方の基板上に、液晶を滴下する工程と、
3)一方の基板および他方の基板を、シールパターンを介して重ね合わせる工程と、
4)シールパターンを硬化させる工程とを含む。
【0092】
2)の工程において、シールパターンが未硬化の状態とは、液晶シール剤の硬化反応がゲル化点までは進行していない状態を意味する。このため、2)の工程では、液晶シール剤の液晶への溶解を抑制するために、シールパターンを光照射または加熱して半硬化させてもよい。一方の基板及び他方の基板は、それぞれ表示基板または対向基板である。
【0093】
4)の工程では、光照射による硬化のみを行ってもよいが、光照射による硬化を行った後、加熱による硬化を行ってもよい。光照射による硬化を行うことで、液晶シール剤を短時間で硬化させることができるので、液晶への溶解を抑制できる。光照射による硬化と加熱による硬化とを組み合わせることで、光照射による硬化のみの場合と比べて光による液晶層へのダメージを少なくすることができる。
【0094】
照射する光は、上述の液晶シール剤(光熱硬化性樹脂組成物)中の光重合開始剤(B)の種類に応じて適宜選択されるが、可視光領域の光が好ましく、例えば波長370~450nmの光であることが好ましい。上記波長の光は、液晶材料や駆動電極に与えるダメージが比較的少ないからである。光の照射は、紫外線や可視光を発する公知の光源を使用できる。可視光を照射する場合、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、蛍光灯等を使用できる。
【0095】
光照射エネルギーは、硬化性化合物(A)が硬化可能なエネルギーであればよい。光硬化時間は、液晶シール剤の組成にもよるが、例えば10分程度である。
【0096】
熱硬化温度は、液晶シール剤の組成にもよるが、例えば120℃であり、熱硬化時間は2時間程度である。
【実施例
【0097】
本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0098】
1.硬化性化合物(A)の準備
<合成例1:硬化性化合物(A-1)>
160gの液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポトートYDF-8170C、東都化成社製、エポキシ当量160g/eq)、0.1gの重合禁止剤(p-メトキシフェノール)、0.2gの触媒(トリエタノールアミン)、および43.0gのメタクリル酸をフラスコ内に仕込んだ。そして、乾燥空気を送り込み、90℃で還流攪拌しながら5時間反応させた。得られた化合物を、超純水にて20回洗浄し、メタクリル酸部分変性ビスフェノールF型エポキシ樹脂(硬化性化合物(A-1))を得た。
【0099】
<合成例2:硬化性化合物(A-2)>
116gの2-ヒドロキシエチルアクリレート、0.1gの重合禁止剤(p-メトキシフェノール)、および100gの無水コハク酸をフラスコ内に仕込んだ。そして、乾燥空気を送り込んで90℃で還流攪拌しながら5時間反応させた。続いて、ビスフェノールAジグリシジルエーテル170gを加え、同様に90℃で還流攪拌しながら5時間反応させた。得られた化合物を、超純水にて20回洗浄し、硬化性化合物(A-2)を得た。
【0100】
<合成例3:硬化性化合物(A-3)>
160gの液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポトートYDF-8170C、東都化成社製、エポキシ当量160g/eq)、0.1gの重合禁止剤(p-メトキシフェノール)、0.2gの触媒(トリエタノールアミン)、および81.7gのメタクリル酸をフラスコ内に仕込み、乾燥空気を送り込んで90℃で還流攪拌しながら5時間反応させた。得られた化合物を、超純水にて20回洗浄し、メタクリル酸95%部分変性ビスフェノールF型エポキシ樹脂(硬化性化合物(A-3))を得た。
【0101】
<硬化性化合物(A-4)の準備>
硬化性化合物(A-4)として、アクリル樹脂(ポリエチレングリコールジアクリレート、ライトアクリレート14EG-A、共栄社化学製)を用いた。
【0102】
2.有機微粒子(D)の準備
<合成例4:有機微粒子(D-1)>
・核部を含むエマルションD’の調製
窒素置換した撹拌機付きオートクレーブ中に、脱イオン水500質量部、ラウリル硫酸ソーダ3質量部、過硫酸カリウム0.6質量部、ブタジエン187.5質量部、およびスチレン62.5質量部を仕込み、70℃で10時間反応させた。得られたエマルションを常温まで冷却した後、イオン交換水を添加し、固形分30質量%に調整した。
【0103】
・外殻部の形成
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、上述の核部を含むエマルションD’500質量部、イオン交換水169質量部、ラウリル硫酸ナトリウム0.4質量部を仕込み、攪拌下、窒素置換しながら70℃まで昇温させた。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウムを0.5質量部添加した。さらに、予めスチレン23質量部、メチルメタクリレート質量19部、アクリロニトリル質量12部、グリシジルメタクリレート15質量部を混合したモノマー混合液を、反応溶液内に連続的に3時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。熟成終了後、得られた水性エマルジョンを常温まで冷却したのち、スプレードライヤーを用い、平均粒子径0.2μmである有機微粒子(D-1)を得た。
【0104】
<合成例5:有機微粒子(D-2)の合成>
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、合成例4で得られた核部を含むエマルションD’500質量部、イオン交換水169質量部、ラウリル硫酸ナトリウム0.4質量部を仕込み、攪拌下、窒素置換しながら70℃まで昇温させた。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム0.5質量部添加した。さらに、予めスチレン23質量部、メチルメタクリレート23.3質量部、アクリロニトリル12質量部、n-ブチルメタクリレート10.8質量部を混合したモノマー混合液を、反応溶液内に連続的に3時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。熟成終了後、得られた水性エマルジョンを常温まで冷却したのち、スプレードライヤーを用い、平均粒子径0.2μmである有機微粒子(D-2)を得た。
【0105】
3.他の材料の準備
その他の材料として、以下の材料を用いた。
・エポキシ化合物:エピコート1004、JER社製、軟化点97℃
・光重合開始剤(B):IRGACURE OXE01、BASF社製
・潜在性熱硬化剤(C):アジピン酸ジヒドラジド(ADH、日本化成社製、融点177~184℃)
・無機充填剤(E):シリカ粒子(S-100、日本触媒化学社製)
・その他粒子:
微粒子ポリマー(F351、アイカ工業社製、(コアが、n-ブチルアクリレートの重合体であり、シェルがポリメチルメタクリレートであるコアシェル粒子))
ポリメチルシルセスキオキサン粒子(MSP-N080、日興リカ社製)
ポリメチルシルセスキオキサン粒子(MSP-N050、日興リカ社製)
ポリメチルシルセスキオキサン粒子(X-52-854、信越化学社製)
メラミン/ホルムアルデヒド縮合物(エポスターS、日本触媒社製)
単層ポリメチルメタクリレート(アートパールJ-3PY、根上工業社製)
・シランカップリング剤:KBM-403
【0106】
4.光熱硬化性樹脂組成物の調製
<実施例1>
エポキシ化合物40質量部、合成例1で得られた硬化性化合物(A-1)230質量部、合成例2で得られた硬化性化合物(A-2)50質量部、合成例3で得られた硬化性化合物(A-3)250質量部、硬化性化合物(A-4)150質量部、潜在性熱硬化剤(C)50質量部、無機充填剤(E)60質量部、合成例4で得られた硬化性樹脂(D-1)150質量部、シランカップリング剤(KBM-403、信越化学工業社製)10質量部、光重合開始剤(B)10質量部を、三本ロールを用いて均一な液となるように十分に混合して、光熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0107】
<実施例2~6、および比較例1~6>
表1に示す組成に変更した以外は、実施例1と同様に光熱硬化性樹脂組成物を作製した。
【0108】
5.評価
実施例1~6および比較例1~6で得られた光熱硬化性樹脂組成物について、接着強度を以下の方法で評価した。
【0109】
<接着強度テスト>
得られた光熱硬化性樹脂組成物を、ディスペンサー(ショットマスター、武蔵エンジニアリング社製)を用いて、透明電極と全面に配向膜が予め形成された40mm×45mmガラス基板(RT-DM88-PIN、EHC社製)の配向膜上に、38mm×38mmの四角形のライン状のシールパターン(断面積2500μm)を形成した。次いで、シールパターンを形成したガラス基板に対して垂直になるように、対になるガラス基板を減圧下で貼り合せた後、大気開放して貼り合わせた。そして、貼り合わせた2枚のガラス基板を1分間遮光ボックス内で保持した後、3000mJ/cmの可視光を含む光(波長370~450nmの光)を照射し、さらに120℃で1時間加熱して、試験片を得た。
【0110】
得られた試験片のシールパターンの隅(ラインの外側)から4.5mmの部分を、押込み試験機(Model210、インテスコ社製)を用い5mm/分の速度で垂直に押込み、光熱硬化性樹脂組成物の硬化物が剥がれた時の応力を測定した。接着強度はその応力を硬化物の線幅で割ることにより求めた。結果を表1に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
表1の実施例1~6に示されるように、外殻部と核部とを有し、かつ核部が共役ジエンに由来する構造単位を有するゴムおよびシリコーンゴムからなる群より選ばれる1以上のゴムを含む光熱硬化性樹脂組成物では、接着強度テストの結果がいずれも良好であった。光熱硬化性樹脂組成物が硬化する際に生じる残留応力が、有機微粒子(D)によって緩和されるとともに、外部からの応力を受けた際、有機微粒子(D)が応力を分散したと考えられる。そのため、実施例1~6では、硬化物と基板との界面での剥離が生じ難かったと推察される。
【0113】
これに対し、コアシェル構造を有する微粒子であっても、核部に上記ゴムを含まない場合には、十分に残留応力や外部からの応力が分散されず、接着強度テストの結果が低かった(比較例1)。さらに、核部および外殻部を有さないポリメチルシルセスキオキサン粒子や、メラミン/ホルムアルデヒド縮合物や、ポリメチルメタクリレート等からなる粒子では、接着強度の向上効果が得られなかった(比較例2~6)。
【0114】
本出願は、2020年2月6日出願の特願2020-018755号に基づく優先権を主張する。当該出願明細書に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の光熱硬化性樹脂組成物によれば、各種基板との接着性が高い硬化物が得られる。したがって、当該光熱硬化性樹脂組成物は、各種液晶表示装置のシール剤等として非常に有用である。