(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】コンクリート造建物の構築方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/20 20060101AFI20231228BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
E04B1/20 A
E04B1/58 508A
E04B1/58 503B
(21)【出願番号】P 2022150016
(22)【出願日】2022-09-21
(62)【分割の表示】P 2021205216の分割
【原出願日】2021-12-17
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 英義
(72)【発明者】
【氏名】稲田 博文
(72)【発明者】
【氏名】辰濃 達
(72)【発明者】
【氏名】上田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】津村 克幸
(72)【発明者】
【氏名】小林 圭
(72)【発明者】
【氏名】河本 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】川岡 千里
(72)【発明者】
【氏名】脇田 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】杉山 智昭
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-279811(JP,A)
【文献】特開2016-089386(JP,A)
【文献】特許第5205131(JP,B2)
【文献】特開2007-255091(JP,A)
【文献】特許第7148704(JP,B1)
【文献】特開昭55-030057(JP,A)
【文献】特開2007-308885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/18-1/21
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート造建物の構築方法であって、
一階層の高さのプレキャストコンクリート造の第一柱部材と、柱梁接合部を含む一階層の高さを上回るように一体成形されているプレキャストコンクリート造の第二柱部材と、を水平方向に間隔を空けて交互に設置する、または、前記第二柱部材のみを2スパン置きに先行して設置する第一工程と、
前記第二柱部材の一階層の柱梁接合部の側面から突出している梁端部筋に対して、鉄筋継手具が埋設されたプレキャストコンクリート造の梁部材を水平方向に移動させて、前記梁端部筋を前記鉄筋継手具に嵌合させて接合する第二工程と、
前記第一柱部材または前記第二工程後に設置された前記第一柱部材と、前記梁部材との間にコンクリートを打設し、現場コンクリート打設梁部を設けて、前記第一柱部材と前記梁部材とを接合する第三工程と、
前記第一柱部材の上端部に他の前記第二柱部材を接合するとともに、前記第二柱部材の上端部に他の前記第一柱部材を接合する第四工程と、
前記第二工程から前記第四工程を繰り返し行い、コンクリート造の柱梁架構を構築する第五工程と、を含んでおり、
前記第二柱部材は、一階層の高さを上回り、二階層の柱梁接合部を除く、当該二階層の前記梁部材の下端面との間の高さに形成された柱部材であることを特徴とするコンクリート造建物の構築方法。
【請求項2】
前記第二工程では、前記柱梁接合部と前記梁部材の梁端面との間に設けられる隙間が型枠材で覆われているととともに、前記梁部材の梁端部に設けられた注入口から充填材を注入して、全ての鉄筋継手具の内部に前記充填材が一度に充填されていることを特徴とする請求項
1に記載のコンクリート造建物の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリート造の柱部材と梁部材とを接合させて、上方側にコンクリート造の柱梁架構を構築していく、コンクリート造建物の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート造建物の構築方法としては、PCa造(プレキャストコンクリート造)の柱部材と梁部材とを機械式継手によって接合することで、コンクリート造の柱梁架構を構築しているものがある。特許文献1には、二階層の柱部材を水平方向に間隔を空けて二本設置し、両柱部材の柱梁接合部の間に2スパンの梁部材を架設することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した従来のコンクリート造建物の構築方法では、柱部材および梁部材の重量が大きいため、特殊で大型の揚重機を用いて柱部材および梁部材を吊り上げる必要がある。
本発明は、特殊で大型の揚重機を用いなくても、コンクリート造建物を短期間に構築できるコンクリート造建物の構築方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、第一の発明は、コンクリート造建物の構築方法であって、一階層の高さのプレキャストコンクリート造の第一柱部材と、柱梁接合部を含む一階層の高さを上回るように一体成形されているプレキャストコンクリート造の第二柱部材と、を水平方向に間隔を空けて交互に設置する、または、前記第二柱部材のみを2スパン置きに先行して設置する第一工程と、前記第二柱部材の一階層の柱梁接合部の側面から突出している梁端部筋に対して、鉄筋継手具が埋設されたプレキャストコンクリート造の梁部材を水平方向に移動させて、前記梁端部筋を前記鉄筋継手具に嵌合させて接合する第二工程と、前記第一柱部材または前記第二工程後に設置された前記第一柱部材と、前記梁部材との間にコンクリートを打設し、現場コンクリート打設梁部を設けて、前記第一柱部材と前記梁部材とを接合する第三工程と、前記第一柱部材の上端部に他の前記第二柱部材を接合するとともに、前記第二柱部材の上端部に他の前記第一柱部材を接合する第四工程と、前記第二工程から前記第四工程を繰り返し行い、コンクリート造の柱梁架構を構築する第五工程と、を含んでおり、前記第二柱部材は、一階層の高さを上回り、二階層の柱梁接合部を除く、当該二階層の前記梁部材の下端面との間の高さに形成された柱部材であることを特徴とする。
【0006】
第一の発明では、一階層の高さを上回り、二階層の柱梁接合部との間の高さに形成されたPCa造の第二柱部材に、PCa造の梁部材(例えば、1スパンの梁部材)を機械式継手によって接合させて柱梁架構を構築している。第二柱部材の部材長さを、一階層の高さを上回り、二階層の柱梁接合部との間の高さ以下にすることで、大規模なPCaの製造工場以外でも製作可能なPCa柱のサイズとし、かつPCa柱の重量も特殊な運搬車でなくても積載可能な重量とした。したがって、特殊で大型の揚重機を用いなくても、コンクリート造の柱梁架構を構成するPCa柱部材やPCa梁部材を揚重することができ、コンクリート造建物を短期間に構築できる。
また、第一の発明では、従来技術のように、一階層分のPCa柱と、1スパン分のPCa梁部材を組み立てながらコンクリート造建物を構築するのではなく、柱部材として、1階層分の第一柱部材と、一階層の高さを上回り、二階層の柱梁接合部との間の高さに形成された第二柱部材とを用いて、RC造建物が構築される。柱部材の一つとして、一階層の高さを上回り、二階層の柱梁接合部との間の高さに形成されたPCa造の第二柱部材を用いることで、一階層分の柱ごとに柱部材同士を接合するために継手を設ける必要はなく、工期が短縮可能である。また、柱部材同士の継手の数が削減されることで、建設費用を低減できる。
また、第一の発明では、第二柱部材とPCa造の梁部材の梁端部側は機械式継手によって接合し、当該PCa造の梁部材の他方梁部側は現場コンクリート打設梁部を設けて、PCa造の第一柱部材と接合される。よって、現場コンクリート打設梁部を介してPCa造の梁部材とPCa造の第一柱部材とが接合されることで、第一柱部材の鉛直精度が調整できる。
【0009】
前記したコンクリート造建物の構築方法において、前記第二工程では、前記柱梁接合部と前記梁部材の梁端面との間に設けられる隙間が型枠材で覆われているととともに、前記梁部材の梁端部に設けられた注入口から充填材を注入して、全ての鉄筋継手具の内部に前記充填材が一度に充填されていることを特徴とする。
この発明によれば、PCa造の第二柱部材または第四柱部材の柱梁接合部の側面から突出している梁端部筋が、PCa造の梁部材の梁端部に埋設された鉄筋継手具に嵌合された状態で、梁部材の梁端部に設けられた注入口から充填材を注入して、全ての鉄筋継手具の内部に充填材を充填させる。各柱梁接合部と梁部材の梁端面との間に設けられる隙間が型枠材で覆われているとともに、全ての鉄筋継手具が連通していることで、第二柱部材または第四柱部材と、梁部材との間にコンクリート打設部を設けることなく、鉄筋継手具の内部に充填材を充填させ、一度に充填材を充填させることができ、各柱部材と梁部材を機械式継手で接合させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコンクリート造建物の構築方法では、特殊で大型の揚重機を用いなくても、コンクリート造建物を短期間に構築できる。また、本発明のコンクリート造建物の構築方法では、柱部材同士の継手の数が少なくなるため、工期短縮が可能である。また、本発明のコンクリート造建物の構築方法では、建設費用を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る建物の柱梁架構を示した正面図である。
【
図2】本発明の第一実施形態に係る建物における各部材を示した斜視図である。
【
図3】本発明の第一実施形態に係る建物の構築方法のフローチャートである。
【
図4】本発明の第一実施形態に係る建物の構築方法において、第二柱部材に梁部材を接合する状態を示した正面図である。
【
図5】本発明の第一実施形態に係る建物の構築方法において、第一柱部材を設置する状態を示した正面図である。
【
図6】本発明の第一実施形態に係る建物の構築方法において、第一柱部材と梁部材とを接合する状態を示した正面図である。
【
図7】本発明の第一実施形態に係る建物の構築方法において、第一柱部材に他の第二柱部材を接合し、その第二柱部材に梁部材を接合する状態を示した正面図である。
【
図8】本発明の第一実施形態に係る建物の構築方法において、左右の第二柱部材にそれぞれ他の第一柱部材を接合する状態を示した正面図である。
【
図9】本発明の第一実施形態に係る建物の構築方法において、他の第一柱部材と梁部材とを接合する状態を示した正面図である。
【
図10】本発明の第一実施形態に係る建物における第二柱部材と梁部材との機械式継手を示した正面図である。
【
図11】本発明の第一実施形態に係る建物における第二柱部材と梁部材との機械式継手を示した
図10のXI-XI断面図である。
【
図12】本発明の
参考例に係る建物の柱梁架構を示した正面図である。
【
図13】本発明の
参考例に係る建物における各部材を示した斜視図である。
【
図14】本発明の
参考例に係る建物の構築方法のフローチャートである。
【
図15】本発明の
参考例に係る建物の構築方法において、第四柱部材に梁部材を接合する状態を示した正面図である。
【
図16】本発明の
参考例に係る建物の構築方法において、第三柱部材と梁部材とを接合する状態を示した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態および参考例について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、実施形態および参考例の説明において、同一の構成要素に関しては同一の符号を付し、重複した説明は省略するものとする。
【0013】
[第一実施形態]
図1は、本発明の第一実施形態に係る建物の柱梁架構を示した正面図である。
図2は、本発明の第一実施形態に係る建物における各部材を示した斜視図である。
第一実施形態のコンクリート造建物1A(以下、「建物」という)は、
図1に示すように、コンクリート造の柱梁架構2Aを備えている。柱梁架構2Aは、
図2に示すように、第一柱部材10A、第二柱部材20A、梁部材30および現場コンクリート打設梁部40(
図1参照)によって構成されている。なお、
図2においては、各部材の構成を分かり易く示すために、鉄筋や継手具の数は適宜に調整して示している。
【0014】
第一柱部材10Aは、
図1に示すように、一階層の高さF1を有するPCa造の鉛直部材である。第一柱部材10Aの上端面から複数の柱端部筋11が上方に向けて突出している。柱端部筋11は、第一柱部材10Aの主筋の上端部である。
第一柱部材10Aの下端部には、複数の鉄筋継手具12が埋設されている。鉄筋継手具12は、筒状のスリーブである。各鉄筋継手具12の下端部が第一柱部材10Aの下端面に開口している。
図1に示すように、第一柱部材10Aの下端面から上端面までの高さは、一階層の高さF1に形成されている。
第一柱部材10Aでは、一階層毎の高さとなる位置の両側面から複数の梁端部筋13が側方に向けて突出している(
図2参照)。すなわち、一階層毎に設けられる梁部材30の高さ位置において、第一柱部材10Aの側面から梁端部筋13が突出している。
【0015】
第二柱部材20Aは、
図1および
図2に示すように、1.5階層の高さF1.5を有するPCa造の鉛直部材である。第二柱部材20Aの上端面から複数の柱端部筋21が上方に向けて突出している。柱端部筋21は、第二柱部材20Aの主筋の上端部である。
第二柱部材20Aの下端部には、複数の鉄筋継手具22が埋設されている。鉄筋継手具22は、筒状のスリーブである。各鉄筋継手具22の下端部が第二柱部材20Aの下端面に開口している。
図1に示すように、第二柱部材20Aの下端面から上端面までの高さは、一階層以上で二階層の柱梁接合部Jとの間の高さに形成されている。すなわち、第二柱部材20Aは、一階層以上の高さに形成されており、第二柱部材20Aの下端面は、n階(nは整数)の梁部材30の上面と同等の高さに位置し、第二柱部材20Aの上端面は、n+1階の梁部材30の上面とn+2階の梁部材30の下面との間の高さに位置にしている。
第一実施形態の第二柱部材20Aの上端面は、一階層の柱梁接合部Jと二階層の柱梁接合部Jとの間の中央に配置されている。つまり、第一実施形態の第二柱部材20Aの高さH2は、1.5階層の高さF1.5に形成されている。
第二柱部材20Aには、一階層毎の高さとなる位置に柱梁接合部Jが形成されている。
図2に示すように、柱梁接合部Jの側面から複数の梁端部筋23が側方に向けて突出している。
【0016】
梁部材30は、PCa造の水平部材である。梁部材30は、
図1に示すように、第一柱部材10Aと第二柱部材20Aとの間に架設されるものである。梁部材30の水平方向の長さは、第一柱部材10Aと第二柱部材20Aとの間の1スパンよりも小さく形成されている。
梁部材30の第一柱部材10A側の第一端部31は、現場コンクリート打設梁部40を介して第一柱部材10Aに接合されている。
梁部材30の第二柱部材20A側の第二端部32は、第二柱部材20Aの柱梁接合部Jに機械式継手50によって接合されている。
【0017】
梁部材30の第一端部31の端面は、第一柱部材10Aの側面に対して間隔を空けて配置されている。
梁部材30の第一端部31の端面からは、複数の梁端部筋33が側方に向けて突出している(
図2参照)。梁端部筋33は、梁部材30の主筋の端部である。梁部材30の梁端部筋33と第一柱部材10Aの梁端部筋13とは連結されている。
図6は、本発明の第一実施形態に係る建物の構築方法において、第一柱部材と梁部材とを接合する状態を示した正面図である。
梁部材30の第一端部31の端面と、第一柱部材10Aの側面との間に、
図6に示すように、現場でコンクリートを打設して現場コンクリート打設梁部40を構築することで、梁部材30を第一柱部材10Aに接合する。
【0018】
次に、第一実施形態の建物1Aの構築方法について、
図3のフローチャートを参照しながら説明する。
図4は、本発明の第一実施形態に係る建物の構築方法において、第二柱部材に梁部材を接合する状態を示した正面図である。
ステップS11には、特許請求の範囲の「第一工程」のうちの一部の作業が含まれる。第一実施形態のステップS11では、第一工程に含まれる作業として、
図4に示すように、第一柱部材10Aおよび第二柱部材20Aを設置する位置にそれぞれ複数の鉄筋5を地上面から突出させる。
図3のステップS11には、複数の第二柱部材20Aを水平方向に間隔を空けて2スパン置きに第一柱部材10Aよりも先行して設置する。このとき、第二柱部材20Aの各鉄筋継手具22に、地上面から突出した各鉄筋5をそれぞれ挿入し、各鉄筋継手具22内に充填材を注入して、第二柱部材20Aを地上面に固定する。
【0019】
図5は、本発明の第一実施形態に係る建物の構築方法において、第一柱部材を設置する状態を示した正面図である。
ステップS12には、特許請求の範囲の「第一工程」の残りの作業と「第二工程」の作業が含まれる。第一実施形態のステップS12では、まず、第二工程として梁部材30を揚重機によって吊り上げて二本の第二柱部材20A,20Aの間に配置し、梁部材30を水平方向に移動させて、
図5に示すように、第二柱部材20Aの柱梁接合部Jに対して、梁部材30の第二端部32を機械式継手50によって接合する。
【0020】
両第二柱部材20A,20Aにそれぞれ梁部材30を一本ずつ接合した後に、第一工程の残りの作業として両梁部材30,30の間に第一柱部材10Aを設置する。
図6に示すように、第一柱部材10Aの下端部に設けられた各鉄筋継手具12に地上面から突出した各鉄筋5をそれぞれ挿入し、各鉄筋継手具12内に充填材を注入することで、第一柱部材10Aを地上面に固定する。このようにして、両第二柱部材20A,20Aの間に第一柱部材10Aを設置し、第一柱部材10Aと第二柱部材20Aとを水平方向に交互に設置する。
ステップS13には、特許請求の範囲の「第三工程」の作業が含まれる。第一実施形態の第三工程では、
図6に示すように、第一柱部材10Aと梁部材30との間の空間を型枠によって囲んで、その型枠内にコンクリートを打設して、第一柱部材10Aと梁部材30との間に現場コンクリート打設梁部40を設ける。具体的には、第一柱部材10Aの柱梁接合部の柱面から突出させた梁端部筋13と、梁部材30の梁端部筋33を鉄筋継手具で繋いだ後、型枠内にコンクリートを打設して、現場コンクリート打設梁部40を形成し、第一柱部材10Aと梁部材30を接合させる。これにより、第一柱部材10A、第二柱部材20A、梁部材30および現場コンクリート打設梁部40によって一階層の柱梁架構2Aを構築できる。
【0021】
図7は、本発明の第一実施形態に係る建物の構築方法において、第一柱部材に他の第二柱部材を接合し、その第二柱部材に梁部材を接合する状態を示した正面図である。
図8は、本発明の第一実施形態に係る建物の構築方法において、左右の第二柱部材にそれぞれ他の第一柱部材を接合する状態を示した正面図である。
ステップS14には、特許請求の範囲の「第四工程」の作業が含まれる。第一実施形態の第四工程では、第一柱部材10Aに梁部材30を接合した後に、
図7に示すように、第一柱部材10Aの上端部に他の第二柱部材20Aを接合する。このとき、他の第二柱部材20Aの下端部に設けられた各鉄筋継手具22に、第一柱部材10Aの上端面から突出した各柱端部筋11をそれぞれ挿入し、各鉄筋継手具22内に充填材を注入することで、他の第二柱部材20Aを第一柱部材10Aの上端面に接合する。
他の第二柱部材20Aには、第一柱部材10Aの上端部に接合したときに、二階層の高さF2となる位置に柱梁接合部Jが設けられている。
【0022】
図9は、本発明の第一実施形態に係る建物の構築方法において、他の第一柱部材と梁部材とを接合する状態を示した正面図である。
ステップS15(特許請求の範囲の「第四工程」)では、第二柱部材20Aの上端部に他の第一柱部材10Aを接合する。このとき、
図9に示すように、他の第一柱部材10Aの下端部に設けられた各鉄筋継手具12に、第二柱部材20Aの上端面から突出した各柱端部筋21をそれぞれ挿入し、各鉄筋継手具12内に充填材を注入することで、他の第一柱部材10Aを第二柱部材20Aの上端面に接合する。
ステップS16(特許請求の範囲の「第五工程」)では、前記第二工程(ステップS12から前記第四工程(ステップS15)までを繰り返して、第一柱部材10A、第二柱部材20A、梁部材30および現場コンクリート打設梁部40による階層を積み上げることで、
図1に示すように、柱梁架構2Aを有する建物1Aを構築していく。
【0023】
次に、梁部材30の第二端部32と第二柱部材20Aの柱梁接合部Jとの接合部位に設けられた機械式継手50について説明する。
図10は、本発明の第一実施形態に係る建物における第二柱部材と梁部材との機械式継手を示した正面図である。
機械式継手50は、
図10に示すように、梁部材30の第二端部32に埋設された複数の鉄筋継手具34に、第二柱部材20Aの柱梁接合部Jから突出した梁端部筋23を嵌合させ、各鉄筋継手具34内に充填材Gを注入して硬化させることで形成される。
【0024】
梁部材30の第二端部32の下部には、複数の鉄筋継手具34が埋設されている。鉄筋継手具34は、筒状のスリーブである。各鉄筋継手具34の一端部が梁部材30の第二端部32の端面に開口している。
鉄筋継手具34の一端部には、第二柱部材20Aの柱梁接合部Jから突出した梁端部筋23が挿入されている。鉄筋継手具34の他端部には、梁部材30の主筋38の端部が挿入されている。
図11は、本発明の第一実施形態に係る建物における第二柱部材と梁部材との機械式継手を示した
図10のXI-XI断面図である。
第一実施形態では、
図11に示すように、梁部材30の幅方向に間隔を空けて並べられた複数の鉄筋継手具34が上下二段に配置されている。下段には、六つの鉄筋継手具34が梁部材30の幅方向に並べられ、上段には、五つの鉄筋継手具34が梁部材30の幅方向に並べられている。
【0025】
梁部材30には、第二端部32の側面から各鉄筋継手具34の内部にそれぞれ通じる複数の孔部35が形成されている。梁部材30の幅方向の一方側の半分の領域に配置された各鉄筋継手具34にそれぞれ通じている複数の孔部35は、梁部材30の一方側の側面に開口している。また、梁部材30の幅方向の他方側の半分の領域に配置された各鉄筋継手具34にそれぞれ通じている複数の孔部35は、梁部材30の他方側の側面に開口している。
孔部35は、鉄筋継手具34の上部から斜め上方に向けて傾斜部35aが延びており、傾斜部35aの上端部から梁部材30の側面に向けて水平方向に延びて、梁部材30の側面に開口している。第一実施形態の傾斜部35aは、鉛直方向に対して28度の角度で傾斜している。孔部35の開口部は、蓋部材35bによって塞がれている。
図11に示すように、一つの鉄筋継手具34に対して二つの孔部35,35が通じている。二つの孔部35,35は、梁部材30の長手方向に間隔を空けて配置されている。
【0026】
各鉄筋継手具34内および各孔部35内には、
図10に示すように、グラウト材等の充填材Gが充填されている。充填材Gは、各孔部35の開口部のうち最下部の開口部に設定された注入口35cから、全ての鉄筋継手具34内および全ての孔部35内に一度に充填された後に、各鉄筋継手具34および各孔部35内で硬化している。
図11に示すように、梁部材30の第二端部32の端面と、第二柱部材20Aの側面との間には、隙間36が形成されている。各鉄筋継手具34に充填材G(
図3参照)を充填する前の状態では、各鉄筋継手具34の内部が隙間36を通じて連通している。
【0027】
図5に示すように、第二柱部材20Aに対して梁部材30を機械式継手50によって接合する場合には、第二柱部材20Aの一階層の柱梁接合部Jから突出した各梁端部筋23を、梁部材30の各鉄筋継手具34にそれぞれ挿入する。
このとき、
図11に示すように、梁部材30の第二端部32の端面と、第二柱部材20Aの側面との間に隙間36を形成する。これにより、各鉄筋継手具34の内部が隙間36を通じて連通する。さらに、隙間36の周囲に型枠6を設置して隙間36を閉じる。
図10に示すように、注入口35cから充填材Gを圧入すると、鉄筋継手具34から隙間36内に充填材Gが流入し、続いて、隙間36から各鉄筋継手具34内に充填材Gが圧入され、さらに、充填材Gが鉄筋継手具34から孔部35内に圧入される。そして、梁部材30の側面の孔部35の開口部から充填材Gが排出されたら、孔部35の開口部を蓋部材35bによって閉じる。なお、孔部35の傾斜部35aは、鉛直方向に対して28度の角度で傾斜しているため、充填材Gが鉄筋継手具34内から孔部35内を開口部に向けて充填され易い。
このようにして、充填材Gを全ての鉄筋継手具34内および全ての孔部35内に一度に充填した後に、充填材Gが各鉄筋継手具34および各孔部35内で硬化することで、第二柱部材20Aの柱梁接合部Jに対して、梁部材30の第二端部32が機械式継手50によって接合される。
【0028】
以上のような第一実施形態の建物1Aの構築方法では、
図1に示すように、一階層の高さFL1に形成された第一柱部材10Aと、1.5階層の高さに形成された第二柱部材20Aに、1スパン以下の梁部材30を接合することで柱梁架構2Aを構築できるため、第一柱部材10A、第二柱部材20Aおよび梁部材30の重量を抑えることができる。したがって、特殊で大型の揚重機を用いなくても、コンクリート造の建物1Aを短期間に構築できる。
また、第一実施形態の建物1Aの構築方法では、一階層の高さの柱部材のみによって柱梁架構を構築する場合に比べて、柱部材同士の継手の数を少なくできるため、工期短縮が可能であり、かつ建設費用を低減できる。
また、第一実施形態の建物1Aの構築方法では、第二柱部材20Aと梁部材30とを機械式継手50によって容易に接合し、第一柱部材10Aと梁部材30との間の部位は現場でコンクリートを打設することで、第一柱部材10Aの建て込み位置を調整できる。
また、第一実施形態の建物1Aの構築方法における機械式継手50では、
図10に示すように、全ての鉄筋継手具34の内部に、充填材Gを一度に充填できるため、第一柱部材10Aに梁部材30を容易に接合できる。
【0029】
以上、本発明の第一実施形態について説明したが、本発明は前記第一実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更が可能である。
第一実施形態の建物1Aの構築方法では、
図5に示すように、第一工程の一部の作業として第二柱部材20Aを設置し、第二工程において第二柱部材20Aに梁部材30を接合した後に、第一工程の残りの作業として二本の第二柱部材20A,20Aの間に第一柱部材10Aを設置している。しかしながら、本発明では、第一工程として第一柱部材10Aと第二柱部材20Aとを水平方向に間隔を空けて交互に配置した後に、第二工程において第二柱部材20Aに梁部材30を接合してもよい。
また、第一実施形態の機械式継手50は、
図10に示すように、全ての鉄筋継手具34の内部に、充填材Gを一度に充填できるように構成されているが、機械式継手の構造は限定されるものではなく、例えば、各鉄筋継手具34にそれぞれ充填材Gを順次に充填するように構成してもよい。
【0030】
<本発明の第一実施形態の作用効果>
本発明の第一実施形態では、
図1に示すように、一階層の高さF1を上回り、二階層の柱梁接合部Jとの間の高さに形成されたPCa造の第二柱部材20Aに、PCa造の梁部材30(例えば、1スパンの梁部材30)を機械式継手50によって接合させて柱梁架構2Aを構築している。第二柱部材20Aの部材長さを、一階層の高さF1を上回り、二階層の柱梁接合部Jとの間の高さ以下にすることで、大規模なPCaの製造工場以外でも製作可能なPCa柱のサイズとし、かつPCa柱の重量も特殊な運搬車でなくても積載可能な重量とした。したがって、特殊で大型の揚重機を用いなくても、コンクリート造の柱梁架構2Aを構成するPCa柱部材やPCa梁部材を揚重することができ、コンクリート造建物1Aを短期間に構築できる。
また、従来技術のように、一階層分のPCa柱と、1スパン分のPCa梁部材を組み立てながらコンクリート造建物を構築するのではなく、柱部材として、一階層分の第一柱部材10Aと、一階層の高さF1を上回り、二階層の柱梁接合部Jとの間の高さに形成された第二柱部材20Aとを用いて、RC造の建物1Aが構築される。柱部材の一つとして、一階層の高さF1を上回り、二階層の柱梁接合部Jとの間の高さに形成されたPCa造の第二柱部材20Aを用いることで、一階層分の柱ごとに柱部材同士を接合するために継手を設ける必要はなく、工期が短縮可能である。また、PCa柱部材として、一階層の高さF1を上回り、二階層の柱梁接合部Jとの間の高さに形成されたPCa造の第二柱部材20Aを用いることで、PCa柱部材の個数を削減できるとともに、柱部材同士の継手の数が削減されることで、建設費用を低減できる。
また、PCa造の第二柱部材20Aと梁部材30は、第二柱部材20Aの一階層の柱梁接合部Jから突出している梁端部筋13に、PCa造の梁部材30に埋設された鉄筋継手具22を嵌合させて、第二柱部材20Aと梁部材30との間の目地に充填材を充填して接合させることで、現場施工の省力化と、工期短縮を可能とした。また、柱梁接合部Jを現場でコンクリートを打設することなく、全てPCa柱部材の一部としてPCa化することで、施工精度を向上できるとともに、現場での作業効率を高めることができる。
さらに、第二柱部材20AとPCa造の梁部材30の一端部は、機械式継手50によってPCa造の第二柱部材20Aに接合し、当該PCa造の梁部材30の他端部は、現場コンクリート打設梁部40を設けて、PCa造の第一柱部材10Aと接合される。よって、現場コンクリート打設梁部40を介して、PCa造の梁部材30とPCa造の第一柱部材10Aとが接合されることで、第一柱部材10Aの鉛直精度を調整できる。
上記のとおり、本発明の第一実施形態では、従来技術に対して、(1)柱主筋の継手数を削減できる、(2)PCa柱部材の部材数を削減できる、(3)現場におけるコンクリートの打設箇所を削減できる、(4)PCa柱部材およびPCa梁部材のPCa化率を高めることで、建設での施工精度を高めることができる、(5)PCa柱部材およびPCa梁部材の運搬効率および建て方の安定性を高めることが可能である。よって、施工時の作業効率が向上し、建設費用を削減できる。
【0031】
[
参考例]
次に、本発明の
参考例に係る建物の構築方法について説明する。
図12は、本発明の
参考例に係る建物の柱梁架構を示した正面図である。
図13は、本発明の
参考例に係る建物における各部材を示した斜視図である。
参考例の建物1Bは、
図12に示すように、コンクリート造の柱梁架構2Bを備えている。柱梁架構2Bは、
図13に示すように、二階層分の高さを有する第三柱部材10Bおよび第四柱部材20Bと、梁部材30と、現場コンクリート打設梁部40(
図12
参照)と、によって構成されている。なお、
図13においては、各部材の構成を分かり易く示すために、鉄筋や継手具の数は適宜に調整して示している。
参考例の第三柱部材10B、または第四柱部材20Bは、各柱部材の下端面から上端面までの高さは、二階層の高さF2に形成されている。つまり、
参考例の第三柱部材10B、または第四柱部材20Bの上端面までの高さは、一階層以上で二階層の柱梁接合部Jとの間の高さに形成されている。このように、
参考例の第三柱部材10Bと第四柱部材20Bとは同じ高さに形成されている。
【0032】
次に、
参考例の建物1Bの構築方法について、
図14のフローチャートを参照しながら説明する。
なお、第一実施形態の建物1A(
図1参照)と同一の工程については、適宜に省略して説明する。
図15は、本発明の
参考例に係る建物の構築方法において、第四柱部材に梁部材を接合する状態を示した正面図である。
図16は、本発明の
参考例に係る建物の構築方法において、第三柱部材と梁部材とを接合する状態を示した正面図である。
ステップS21(特許請求の範囲の「第一工程」)では、
図15に示すように、第三柱部材10Bと第四柱部材20Bとを水平方向に間隔を空けて交互に設置する。
参考例では、2スパン置きに設置される第三柱部材10B,10Bの間に一本の第四柱部材20Bを設置している。
ステップS22(特許請求の範囲の「第二工程」)では、第三柱部材10Bと第四柱部材20Bとの間に梁部材30を揚重機によって吊り上げて配置し、梁部材30を水平方向に移動させることで、
図16に示すように、第四柱部材20Bの一階層の柱梁接合部Jおよび二階層の柱梁接合部Jにそれぞれ梁部材30を機械式継手50によって接合する。なお、
参考例の機械式継手50の構造は、第一実施形態の機械式継手50(
図10および
図11参照)と同様であり、全ての鉄筋継手具34内に充填材を充填して、第四柱部材20Bと梁部材30を機械式継手50で接合させる。
【0033】
ステップS23(特許請求の範囲の「第三工程」)では、第三柱部材10Bと梁部材30との間の空間を型枠によって囲んで、その型枠内にコンクリートを打設して、第三柱部材10Bと梁部材30とを現場コンクリート打設梁部40によって接合する。
これにより、第三柱部材10B、第四柱部材20B、梁部材30および現場コンクリート打設梁部40によって二階層の柱梁架構2Bを構築できる。
ステップS24(特許請求の範囲の「第四工程」)では、
図12に示すように、第三柱部材10Bの上端部に他の第三柱部材10Bを接合するとともに、第四柱部材20Bの上端部に他の第四柱部材20Bを接合する。
ステップS25(特許請求の範囲の「第五工程」)では、前記第二工程(ステップS22)から前記第四工程(ステップS24)までを繰り返して、第三柱部材10B、第四柱部材20B、梁部材30および現場コンクリート打設梁部40による階層を積み上げることで、柱梁架構2Bを有する建物1Bを構築していく。
【0034】
以上のような
参考例の建物1Bの構築方法では、
図12に示すように、第一実施形態の建物1A(
図1参照)の構築方法と同様に、特殊で大型の揚重機を用いなくても、コンクリート造建物を短期間に構築できる。よって、
参考例の建物1Bの構築方法でも、第一実施形態の作用効果が得られる。
特に、
参考例の建物1Bの構築方法では、第三柱部材10Bおよび第四柱部材20Bは、二階層の高さに形成されたPCa造の柱部材であり、第一実施形態の第一柱部材10Aおよび第二柱部材20Aに比べて、さらに、柱部材数および柱主筋同士の継手数が低減されるために、工期短縮または建設費用の低減が可能である。
また、
参考例の建物1Bの構築方法では、第一実施形態の建物1A(
図1参照)の構築方法と同様に、第三柱部材10Bの建て込み位置を調整できる。
【0035】
以上、本発明の
参考例について説明したが、本発明は前記
参考例に限定されることなく、前記第一実施形態と同様に、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更が可能である。
参考例の建物1Bの構築方法では、
図15に示すように、第一工程において第三柱部材10Bと第四柱部材20Bとを交互に設置した後に、第二工程において第四柱部材20Bに梁部材30を接合している。しかしながら、本発明では、第一工程の一部の作業として2スパン置きに第四柱部材20Bのみを最初に設置し、第二工程において第四柱部材20Bに梁部材30を接合した後に、第一工程の残りの作業として第四柱部材20Bの側方に第三柱部材10Bを設置してもよい。
また、上記の第一実施形態では、第二柱部材として、1.5階層の高さF1.5を有するPCa造の鉛直部材を用いたが、1.5階層の高さに限定するものではなく、一階層の高さを上回り、二階層の柱梁接合部との間の高さに形成されたPCa造の第二柱部材であれば良く、2階層の高さを有するPCa造の鉛直部材でも良い。よって、柱梁架構は、一階層の高さの第一柱部材10Aと、二階層の高さの第二柱部材20Aと、梁部材30と、現場コンクリート打設梁部40とで構成される。第一柱部材10A、及び第二柱部材20Aが其々、各階層の柱梁接合部を備えていることで、柱梁接合部に接続される第一柱部材10A、第二柱部材20Aと、梁部材、及び現場コンクリート打設梁部40を床スラブと容易に接合させることができる。
【符号の説明】
【0036】
1A 建物(第一実施形態)
1B 建物(参考例)
2A 柱梁架構(第一実施形態)
2B 柱梁架構(参考例)
5 鉄筋
6 型枠
10A 第一柱部材(第一実施形態)
10B 第三柱部材(参考例)
11 柱端部筋
12 鉄筋継手具
13 梁端部筋
20A 第二柱部材(第一実施形態)
20B 第四柱部材(参考例)
21 柱端部筋
22 鉄筋継手具
23 梁端部筋
30 梁部材
31 第一端部
32 第二端部
33 梁端部筋
34 鉄筋継手具
35 孔部
35a 傾斜部
35b 蓋部材
35c 注入口
36 隙間
38 主筋
40 現場コンクリート打設梁部
50 機械式継手
G 充填材
J 柱梁接合部