(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】自動計算装置、自動計算方法、および立体加工用基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/10 20200101AFI20231228BHJP
G06F 113/24 20200101ALN20231228BHJP
【FI】
G06F30/10 100
G06F113:24
(21)【出願番号】P 2022530038
(86)(22)【出願日】2021-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2021013643
(87)【国際公開番号】W WO2021250982
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2023-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2020101140
(32)【優先日】2020-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020145446
(32)【優先日】2020-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】高津 正人
(72)【発明者】
【氏名】吉川 昇
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-066672(JP,A)
【文献】特開2005-224942(JP,A)
【文献】特開2015-132684(JP,A)
【文献】特開2006-198854(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0071986(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/10
G06F 113/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の部材から立体形状を有する構造物を作製するための自動計算装置において、
前記板状の部材は板状の炭素繊維部材であり、前記板状の
炭素繊維部材の材質と、前記板状の
炭素繊維部材の板厚と、前記立体形状とを含む条件データを取得するデータ取得部と、
前記板状の
炭素繊維部材を弾性変形させて前記構造物を作製するために、前記板状の
炭素繊維部材を弾性変形させる加工領域に対して千鳥状パターンに配列された複数のスリットを割り付ける割付処理を実行する演算部と、
前記板状の炭素繊維部材をレーザビームで切断することで前記板状の炭素繊維部材に前記千鳥状パターンのスリットを形成するために、前記演算部による割付処理の結果を出力する出力部と、を備え、
前記割付処理は、前記データ取得部が取得した条件データに基づいて、前記千鳥状パターンのスリットの諸元を計算する処理を含む
自動計算装置。
【請求項2】
前記千鳥状パターンのスリットは、隣り合うスリット同士が間隔を隔てて前記スリットの長さ方向に直線状に配列されたスリット列を、前記スリットの長さ方向と直交する方向に間隔を隔離して複数個並べて構成され、
隣り合うスリット列同士のうち、一方のスリット列は、他方のスリット列に対して前記スリットの位置が前記スリットの長さ方向にかけてオフセットするように構成されている
請求項1記載の自動計算装置。
【請求項3】
前記千鳥状パターンのスリットの諸元は、前記スリットの長さ、前記スリットの長さ方向におけるスリット同士の間隔、および前記スリットの長さ方向と直交する方向におけるスリット同士の間隔である幅を含む
請求項2記載の自動計算装置。
【請求項4】
前記千鳥状パターンのスリットの諸元は、前記スリット列の個数を含む
請求項3記載の自動計算装置。
【請求項5】
前記演算部は、
前記条件データに基づいて、前記板状の
炭素繊維部材から前記構造物を立体加工するための一つ以上の加工種別を特定し、
前記一つ以上の加工種別の中から、ユーザに加工方法を選択させる選択処理を行う
請求項1から4いずれか一項記載の自動計算装置。
【請求項6】
前記一つ以上の加工方法は、前記千鳥状パターンのスリットのそれぞれを前記スリットの長さ方向と直交する方向に押し広げることで前記加工領域を弾性変形させる千鳥状パターンのスリット加工を含み、
前記演算部は、前記選択処理において前記千鳥状パターンのスリット加工が選択された場合に、前記割付処理を実行する
請求項5記載の自動計算装置。
【請求項7】
前記演算部は、隣り合うスリット同士により挟まれた部位であるフレームの捩れ角に関する関係式を保持し、前記関係式から求められるフレームの捩れ角に基づいて、前記千鳥状パターンのスリットの諸元を計算する
請求項1から6いずれか一項記載の自動計算装置。
【請求項8】
コンピュータによって実行される、板状の部材から立体形状を有する構造物を作製するための自動計算方法であって、
前記板状の部材は板状の炭素繊維部材であり、前記板状の
炭素繊維部材の材質と、前記板状の
炭素繊維部材の板厚と、前記立体形状とを含む条件データを取得する取得工程と、
前記板状の
炭素繊維部材を弾性変形させて前記構造物を作製するために、前記板状の
炭素繊維部材を弾性変形させる加工領域に対して、千鳥状パターンに配列された複数のスリットを割り付ける割付工程と、
前記板状の炭素繊維部材をレーザビームで切断することで前記板状の炭素繊維部材に前記千鳥状パターンのスリットを形成するために、前記割付工程の結果を出力する出力工程と、を備え、
前記割付工程は、前記取得工程で取得した前記条件データに基づいて、前記千鳥状パターンのスリットの諸元を計算する工程を含む
自動計算方法。
【請求項9】
立体形状を有する構造物を作製するための立体加工用基材を、板状の部材から製造する立体加工用基材の製造方法において、
前記板状の部材は板状の炭素繊維部材であり、前記板状の
炭素繊維部材の材質と、前記板状の
炭素繊維部材の板厚と、前記立体形状とを含む条件データを取得する取得工程と、
前記板状の
炭素繊維部材を弾性変形させて前記構造物を作製するために、前記板状の
炭素繊維部材を弾性変形させる加工領域に対して、千鳥状パターンに配列された複数のスリットを割り付ける割付工程と、
前記割付工程の割付結果に基づいて前記板状の
炭素繊維部材をレーザビームで切断することで前記板状の炭素繊維部材に前記千鳥状パターンのスリットを
形成して、前記立体加工用基材を形成する形成工程と、を備え、
前記割付工程は、前記取得工程で取得した前記条件データに基づいて、前記千鳥状パターンのスリットの諸元を計算する工程を含む
立体加工用基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動計算装置、自動計算方法、および立体加工用基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
板状の部材に千鳥状パターンに配列された複数のスリットを形成し、千鳥状パターンのスリット部分を押し広げることで、柔軟性のある部材を形成することができる。例えば、段ボール等の延性のない紙素材であっても、立体加工することができ、曲面等といった立体形状を有する構造物を作製することができる。なお、千鳥状パターンに配列された複数のスリットの千鳥状パターンとは、次のような模様を指す。つまり、千鳥格子は、複数のジグザグの位置にまっすぐなスリットを部材に入れ、その部材を開いて大きなひし形の市松模様を作ることでできる模様である。千鳥格子には犬歯を連想させる切り欠きのある角の形を見ることができる。上記の千鳥状パターンは、千鳥格子を作ることができる複数のスリットをジグザグに配置するためのスリットパターンである。
【0003】
また、金属の板に千鳥状パターンに配列された複数のスリットを形成し、千鳥状パターンのスリット部分を押し広げることで、立体加工が容易になり、立体形状を有する構造物への適用が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
ここで、所望の立体形状を有する構造物を作製するためには、板状の部材の機械特性および立体形状に合わせた千鳥状パターンのスリットの設計が必要となる。しかしながら、板状の部材の機械特性および立体形状によって千鳥状パターンのスリットの諸元が相違するので、トライアンドエラーを繰り返しながらスリットの設計をしなければならず、非常に多くの工数および部材コストが生じてしまうという不都合がある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、立体加工に必要な千鳥状パターンのスリットの設計を自動化し、設計工数および部材コストの抑制を図ることである。
【0007】
本発明の第1の態様に係る自動計算装置は、板状の部材から立体形状を有する構造物を作製するための自動計算装置であって、板状の部材の材質と、板状の部材の板厚と、立体形状とを示す条件データを取得するデータ取得部と、板状の部材を弾性変形させて構造物を作製するために、板状の部材を弾性変形させる加工領域に対して千鳥状パターンに配列された複数のスリットを割り付ける割付処理を実行する演算部と、演算部の割付結果を出力する出力部と、を備え、割付処理は、データ取得部が取得した条件データに基づいて、複数のスリットの諸元を計算する処理を含んでいる。
【0008】
本発明の第1の態様に係る自動計算装置においては、板状の部材の機械特性および立体形状を考慮することができるので、立体加工に必要な千鳥状パターンのスリットの諸元を自動的に計算することができる。
【0009】
本発明の第1の態様に係る自動計算装置によれば、立体加工に必要な千鳥状パターンのスリットの設計を自動化することができるので、設計工数および部材コストの抑制を図ることができる。
【0010】
また、本発明の第2の態様に係る立体加工用炭素繊維部材は、炭素繊維によって形成された板状の部材に、千鳥状に配列された複数の千鳥状パターンのスリットが設けられている。
【0011】
本発明の第2の態様に係る立体加工用炭素繊維部材において、千鳥状パターンのスリットはレーザビームによって形成されていることが好ましい。すなわち、立体加工用炭素繊維部材は、レーザビームを用いて切断可能な部材で構成されていることが好ましい。
【0012】
本発明の第2の態様に係る立体加工用炭素繊維部材は、千鳥状パターンのスリットの長さ方向と直交する方向に千鳥状パターンのスリットが押し広げられていることが好ましい。
【0013】
本発明の第2の態様に係る立体加工用炭素繊維部材において、千鳥状パターンのスリットの各スリットの長さ、間隔、および位置は、構造物の立体形状に基づいて設定されていることが好ましい。
【0014】
本発明の第3の態様に係る熱加工機のワーク支持体は、レーザビームを照射することによって千鳥状パターンのスリットが形成可能な炭素繊維から構成される板状の部材を備え、板状の部材に形成された同一方向の千鳥状パターンのスリットが、千鳥状パターンのスリットの長さ方向と直交する方向に広げたときに板状の部材に千鳥状に配列された複数の開口が形成されるように配置され、千鳥状パターンのスリットが千鳥状パターンのスリットの長さ方向と直交する方向に広げられている。
【0015】
本発明の第3の態様に係る熱加工機のワーク支持体において、千鳥状パターンのスリットの各スリットの長さおよび各スリット間の間隔は、加工対象のワークの形状または材質に基づいて設定される。
【0016】
本発明の第3の態様に係る熱加工機のワーク支持体において、千鳥状パターンのスリットの長さ方向に直交する方向に隣り合う2つのスリットの間隔は、板状の部材の厚さよりも大きい。
【0017】
本発明の第4の態様に係るワーク支持体の製造方法は、炭素繊維によって形成された板状の部材に、同一方向の千鳥状パターンのスリットを、千鳥状パターンのスリットの長さ方向と直交する方向に広げたときに千鳥格子に配列された複数の開口が形成されるように形成し、板状の部材を、千鳥状パターンのスリットの長さ方向と直交する方向に引っ張ることによって千鳥状パターンのスリットを広げ、千鳥状パターンのスリットの位置に開口を有する千鳥格子の熱加工機のワーク支持体を製造する。
【0018】
本発明の第4の態様に係るワーク支持体の製造方法は、板状の部材に、レーザビームを照射することによって、千鳥状パターンのスリットを形成することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、第1の実施形態における立体加工用炭素繊維部材100を示す外観斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す立体加工用炭素繊維部材100から作製した立体構造物Y1の外観斜視図である。
【
図3A】
図3Aは、
図1に示す立体加工用炭素繊維部材100の引っ張り方向を示す図である。
【
図3B】
図3Bは、
図3Aに示す立体加工用炭素繊維部材100を矢印で示した方向に引っ張った状態を示す外観斜視図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す立体加工用炭素繊維部材100から作製した立体構造物Y2の外観斜視図である。
【
図5】
図5は、
図1に示す立体加工用炭素繊維部材100から作製した立体構造物Y3の外観斜視図である。
【
図6】
図6は、
図1に示す立体加工用炭素繊維部材100から作製した立体構造物Y4の外観斜視図である。
【
図7】
図7は、
図1に示す立体加工用炭素繊維部材100から作製した立体構造物Y5の外観斜視図である。
【
図8A】
図8Aは、第1の実施形態における立体加工用炭素繊維部材120を示す正面図である。
【
図8B】
図8Bは、
図8Aに示す立体加工用炭素繊維部材120から
作成した立体構造物Y6の外観斜視図である。
【
図9】
図9は、第1の実施形態における立体加工用炭素繊維部材130を示す正面図である。
【
図10A】
図10Aは、
図9に示す立体加工用炭素繊維部材130から作製した立体構造物Y7の外観斜視図である。
【
図10B】
図10Bは、
図9に示す立体加工用炭素繊維部材130から作製した立体構造物Y8の外観斜視図である。
【
図11】
図11は、第1の実施形態における立体加工用炭素繊維部材140を示す正面図である。
【
図12】
図12は、
図11に示す立体加工用炭素繊維部材140から作製した立体構造物Y9の外観斜視図である。
【
図13】
図13は、第2の実施形態におけるワーク支持体30を用いるレーザ加工機1を示す外観斜視図である。
【
図14】
図14は、第2の実施形態におけるワーク支持体30が作製される炭素繊維部材Mの外観斜視図である。
【
図15】
図15は、第2の実施形態におけるワーク支持体30の外観斜視図である。
【
図16A】
図16Aは、
図14に示す炭素繊維部材Mにおいて、縦方向に隣り合うスリットSL20により挟まれたフレームFを示す外観斜視図である。
【
図18B】
図18Bは、幅aが厚さtよりも小さい場合のフレームFの断面図である。
【
図19A】
図19Aは、幅aが厚さtよりも大きい場合のフレームFの断面図である。
【
図20A】
図20Aは、炭素繊維部材Mをエキスパンド加工したときの千鳥状パターンのスリットSL20の許容開き量の説明図である。
【
図20B】
図20Bは、炭素繊維部材Mをエキスパンド加工したときの千鳥状パターンのスリットSL20の許容開き量の説明図である。
【
図21】
図21は、ワーク支持体を、所望のフレームFの捩れ角度φおよび千鳥状パターンのスリットSL20の許容開き量w1で形成するときの千鳥状パターンのスリットSL20の諸元に関する各種パラメータの例を示す表である。
【
図22】
図22は、第3の実施形態における自動計算装置200の構成を示すブロック図である。
【
図23】
図23は、自動計算装置200によって実行される自動計算方法に関する処理内容を示すフローチャートである。
【
図24A】
図24Aは、板状の部材Mnから作製する立体構造物400の外観を示す斜視図である。
【
図24B】
図24Bは、板状の部材Mnに対して設けられる、千鳥状パターンに配列された複数のスリットSL30を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図を参照して本発明の好適な実施の形態を説明する。
【0021】
(第1の実施形態)
以下、第1の実施形態における立体加工用基材の一例である立体加工用炭素繊維部材について説明する。本実施形態による立体加工用炭素繊維部材は、紐状の炭素繊維、例えば炭素繊維強化炭素複合材(C/Cコンポジット材:Carbon Fiber Reinforced Carbon Composite:炭素繊維強化炭素複合材料)を平織りした剛性を有するシート状の薄板に、レーザ加工機によりレーザビームで千鳥状パターンのスリットを入れて形成される。平織りとは、繊維を縦と横とで1本ごとに交差させる織り方である。なお、炭素繊維の織り方は、その繊維が何等かの構造で織り込まれていればよく、繻子(朱子)織りであっても、綾織りであっても、梨地織りや不規則な織りであっても構わない。炭素繊維強化複合材としては、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)も含まれ、これはCO2レーザなどでスリット形成が可能である。
【0022】
なお、千鳥状パターン(staggered pattern)とは、千鳥状に配列された複数のスリット(multiple slits arranged in a staggered pattern)のパターン、即ち次のような模様を作製するためのスリットのパターンを指す。千鳥格子(hounds tooth)は、複数のジグザグの位置にまっすぐなスリットを部材に入れ、その部材を開いて大きなひし形の市松模様(checkered pattern)を作ることでできる模様である。千鳥格子には、犬歯を連想させる切り欠きのある角の形を見ることができる。つまり千鳥状パターンは、千鳥格子を作ることができるように複数のスリットをジグザグに配置するためのスリットパターンである。本実施形態における千鳥状パターンのスリットは直線に限らず、波形などの周期的な曲線であっても良い。
【0023】
C/Cコンポジット材は織り込まれた炭素繊維に各種物質を含浸することで繊維強化されているため、薄板状に形成することで弾性が生じるが、剛性が高く、高い曲率での変形は困難である。
【0024】
本実施形態における立体加工用炭素繊維部材について図面を参照して説明する。
図1は、第1の実施形態における立体加工用炭素繊維部材100を示す外観斜視図である。立体加工用炭素繊維部材100は、厚さtの薄板状の横長長形で弾性率eを有する炭素繊維部材M全体に、千鳥状パターンに配列された複数のスリットSL1を入れて形成されている。
【0025】
具体的には、立体加工用炭素繊維部材100には、千鳥状パターンのスリットとして、複数のスリットSL1が間隔sを隔ててスリットSL1の長さ方向(横方向)に直線状に配列されたスリット列が、幅a、すなわちスリットSL1の長さ方向と直交する方向(縦方向)に一定の間隔だけ隔離して複数個並べられている。隣り合うスリット列のうち、一方のスリット列は、他方のスリット列に対してスリットSL1の位置がオフセットするように構成されている。
図1に示す例では、一方のスリット列に存在するスリットSL1の中央位置が、他方のスリット列におけるスリットSL1同士を繋ぐジョイント部(スリットSL1の横方向の間隔sに相当する部分)の位置と対応している。
【0026】
立体加工用炭素繊維部材100は、レーザビームを用いて切断可能な板状の部材(炭素繊維部材M)で構成されている。炭素繊維部材Mに対する千鳥状パターンのスリットSL1の形成は、レーザビームによって切断加工を行うレーザ加工機によって行うことができる。レーザ加工機には、スリットSL1の長さL2、同一スリット列におけるスリットSL1同士の間隔(横方向の間隔)s、および隣り合うスリット列におけるスリットSL1同士の間隔である幅aが予め設定されている。レーザ加工機により炭素繊維部材Mに千鳥状パターンに配列された複数のスリットSL1を形成することで、立体加工用炭素繊維部材100が製造される。そして、以下に述べるように、立体加工用炭素繊維部材100から、立体形状を有する構造物(以下「立体構造物」という)を作製することができる。
【0027】
図2は、
図1に示す立体加工用炭素繊維部材100から作製した立体構造物Y1の外観斜視図である。千鳥状パターンに配列された複数のスリットSL1が加工されることで立体加工用炭素繊維部材100に柔軟性が生じる。この状態で、
図1に示す立体加工用炭素繊維部材100の上下の2辺を近づけるように曲げる力を加えると、横方向に隣り合うスリットSL1に挟まれた部分(間隔sに相当する部分)、および縦方向に隣り合うスリットSL1に挟まれた部分(幅aに相当する部分)に弾性変形によるねじれおよび曲げが生じて3次元方向に変形する。そして、
図2に示すように、立体加工用炭素繊維部材100の剛性が維持された状態で、立体加工用炭素繊維部材100が高い曲率で半円状に曲がった状態に曲げ加工される。これにより、半円状に曲がった立体構造物Y1を作製することができる。
【0028】
図3Aは、
図1に示す立体加工用炭素繊維部材100の引っ張り方向を示す図であり、
図3Bは、
図3Aに示す立体加工用炭素繊維部材100を矢印で示した方向に引っ張った状態を示す外観斜視図である。立体加工用炭素繊維部材100を、
図3Aに矢印で示すように千鳥状パターンのスリットSL1の長さ方向と直交する外側方向に向けて力を加えて引っ張り、千鳥状パターンのスリットSL1を押し広げると千鳥状パターンの各スリットSL1に挟まれた部分にねじれおよび曲げが生じる。そして、
図3Bに示すように千鳥状パターンのスリットSL1が菱形または亀甲形に開き、立体加工用炭素繊維部材100が起伏のある網目を有した状態(千鳥格子の形状)にエキスパンド加工される。
【0029】
図4は、
図1に示す立体加工用炭素繊維部材100から作製した立体構造物Y2の外観斜視図である。エキスパンド加工された立体加工用炭素繊維部材100を、例えば半球状物体の型に合わせるようにさらに力を加えると、千鳥状パターンのスリットSL1に挟まれた部分にさらにねじれおよび曲げが生じる。そして、立体加工用炭素繊維部材100の剛性が維持された状態で、
図4に示すような半球面状の立体構造物Y2を作製することができる。
【0030】
また、立体加工用炭素繊維部材100を形成する際に、加工対象の立体構造物の立体形状に基づいてスリットSL1の長さL2、間隔s、および幅aを適宜変更してレーザ加工機に設定してもよい。このように設定を変更することで、千鳥状パターンのスリットSL1に挟まれた部分のねじり弾性および曲げ弾性を調整して、立体加工用炭素繊維部材100の曲げ弾性(柔軟性)を調整することができる。
【0031】
例えば、千鳥状パターンの各スリットSL1の長さL2を長くし、各スリットSL1の間隔sおよび幅aを狭くすることで立体加工用炭素繊維部材100の柔軟性が高くなる。より曲率の高い曲げや複雑な形状を有する立体構造物を作製することが可能になる。また、千鳥状パターンのスリットSL1の各スリット位置を一定の法則で以って変化させることで、エキスパンドさせるときに千鳥格子を斜めに設定することもできる。
【0032】
図5は、
図1に示す立体加工用炭素繊維部材100から作製した立体構造物Y3の外観斜視図である。具体的には、
図1に示す立体加工用炭素繊維部材100の上下2辺を合わせて
図5に示すような円筒状の立体構造物Y3を作製することができる。このように作製された立体構造物Y3は、立体加工用炭素繊維部材100全面において、千鳥状パターンのスリットSL1に挟まれた部分にねじれおよび曲げが発生している。この立体構造物Y3の長手方向に対するモーメント剛性は、炭素繊維部材Mの素材剛性がそのまま生かされる。
【0033】
図6は、
図1に示す立体加工用炭素繊維部材100から作製した立体構造物Y4の外観斜視図である。他の具体例として、
図6に示すように、立体加工用炭素繊維部材100から、縦方向の中央部が横方向にかけて盛り上がった形状の立体構造物Y4を作製することができる。このように作製された立体構造物Y4では、千鳥状パターンのスリットSL1に挟まれた部分のねじれおよび曲げの方向は位置によって異なっている。この立体構造物Y4においても、長手方向に対するモーメント剛性は、炭素繊維部材Mの素材剛性がそのまま生かされる。
【0034】
図7は、
図1に示す立体加工用炭素繊維部材100から作製した立体構造物Y5の外観斜視図である。立体加工用炭素繊維部材100は、柔軟性が高くなるように、長いスリットSL1を狭い間隔で入れて形成されている。この立体加工用炭素繊維部材100にエキスパンド加工を施すことにより、自由曲面を有する物体の型に合わせた立体構造物Y5を作製することができる。例えば、
図7に示すように、人間の足に合わせた形状のギブスやサポータとして用いる立体構造物Y5
を作製することも可能である。
【0035】
図8Aは、第1の実施形態における立体加工用炭素繊維部材120を示す正面図であり、
図8Bは、
図8Aに示す立体加工用炭素繊維部材120から作成した立体構造物Y6の外観斜視図である。作製する立体構造物の形状によっては、対象となる加工領域、例えば炭素繊維部材Mを曲げ加工する領域のみに千鳥状パターンのスリットを入れるようにしてもよい。例えば、角パイプ状の立体構造部Y6を作製する場合、
図8Aに示すように炭素繊維部材Mの曲げる箇所、つまり4つの角辺に該当する部位のみに、千鳥状に配列された複数のスリットSL2を入れて立体加工用炭素繊維部材120を形成する。そして、各角辺を折り曲げて、
図8Bのように内枠121を入れることで、剛性が高い状態で立体構造物Y6を作製することができる。
【0036】
図9は、第1の実施形態における立体加工用炭素繊維部材130を示す正面図である。他の例として
図9に示す立体加工用炭素繊維部材130は、炭素繊維部材M上に、炭素繊維部材Mと縦横の比率が同じで大きさが小さい長方形を同心状に配列し、この長方形部分Qの周囲に千鳥状に配列された複数のスリットSL3を入れて形成されている。千鳥状パターンのスリットSL3で囲まれた中心の長方形部分Qに力を加えると、長方形部分Qの周囲がエキスパンド加工される。そして、
図10Aに示す立体構造物Y7、または
図10Bに示す立体構造物Y8を作製することができる。
【0037】
図10Aは、
図9に示す立体加工用炭素繊維部材130から作製した立体構造物Y7の外観斜視図であり、
図10Bは、
図9に示す立体加工用炭素繊維部材130から作製した立体構造物Y8の外観斜視図である。
図10Aに示す立体構造物Y7は、長方形部分Qの一方の長辺側をへこませ、他方の長辺側を突出させるように力を加えて作製したものである。また、
図10Bに示す立体構造物Y8は、長方形部分Qの中心付近に、当該立体加工用炭素繊維部材130の面に対して垂直な方向に力を加えて長方形部分Qの全体を突出させて作製したものである。
【0038】
図11は、第1の実施形態における立体加工用炭素繊維部材140を示す正面図である。他の例として
図11に示す立体加工用炭素繊維部材140は、炭素繊維部材Mの短辺の中央近くに2列の千鳥状パターンのスリットSL4、SL5を入れるとともに、この千鳥状パターンのスリットSL4、SL5に対して線対称の位置に千鳥状パターンのスリットSL6~SL13を入れて形成されている。千鳥状パターンのスリットSL4、SL5は、炭素繊維部材Mの横方向に沿って千鳥状に配列されている。また、千鳥状パターンのスリットSL6~SL13は、適宜の位置に配置された正方形部分の周囲に千鳥状に配列されている。
【0039】
このように形成した立体加工用炭素繊維部材140の千鳥状パターンのスリットSL6~SL13それぞれの正方形部分に、当該立体加工用炭素繊維部材140の面に対して垂直な方向に力を加える。そうすると、正方形部分の周囲がエキスパンド加工され、中央部を突出させることができる。さらに千鳥状パターンのスリットSL4、SL5の部分を曲げ加工して、折り曲げる。これにより、
図12に示すような、立体構造物Y9を作製することができる。
【0040】
図12は、
図11に示す立体加工用炭素繊維部材140から作製した立体構造物Y9の外観斜視図である。立体構造物Y9は、対面状態になった千鳥状パターンのスリットSL6部分と千鳥状パターンのスリットSL10部分とが軸91上に突出した形状を有する。同様に、千鳥状パターンのスリットSL7部分と千鳥状パターンのスリットSL11部分とが軸92上に突出した形状を有する。同様に、千鳥状パターンのスリットSL8部分と千鳥状パターンのスリットSL12部分とが軸93上に突出した形状を有する。同様に、千鳥状パターンのスリットSL9部分と千鳥状パターンのスリットSL13部分とが軸94上に突出した形状を有する。
【0041】
以上の実施形態によれば、軽量で剛性が高い様々な立体構造物への加工が可能な立体加工用炭素繊維部材を製造することができる。一般的に、炭素繊維部材は高弾性であるため、板形状のままでは延性がなく塑性加工が不可能である。しかし、上述したように炭素繊維部材に千鳥状パターンに配列された複数のスリットを入れることで、弾性変形を利用して曲げ加工またはエキスパンド加工を行うことができる。これにより、様々な形状の立体構造物、例えばユニバーサルデザインによる各種用品を作製可能な立体加工用炭素繊維部材を製造することができる。
【0042】
また、上述した実施形態によれば、立体加工用炭素繊維部材を製造する際にレーザビームを利用して炭素繊維部材に切り込み加工(切断加工)を行うことで千鳥状パターンのスリットを形成するため、低コストで容易に量産することが可能である。炭素繊維部材の切断加工には通常ウォータージェットが用いられるが、炭素繊維は硬度が高いためこの手法では突孔加工は不可能であり、曲げ加工またはエキスパンド加工のためのスリットに用いることができない。そこで、レーザビームを用いることで、炭素繊維部材に好適な切り込み加工を行うことができる。
【0043】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態における立体構造物としてのワーク支持体、およびこのワーク支持体が設置されたワーク・サポート・テーブルを用いた、熱加工機であるレーザ加工機について添付図面を参照して説明する。
【0044】
図13は、第2の実施形態におけるワーク支持体30を用いるレーザ加工機1を示す外観斜視図である。本実施形態におけるレーザ加工機1は熱切断加工(熱加工の一例)を行うものである。レーザ加工機1は、
図13に示すように、装置ベース2上に熱加工対象のワークWを設置するためのワーク・サポート・テーブル3を備えている。ワーク・サポート・テーブル3上には、加工対象のワークWを支持するワーク支持体30が設置されている。ワーク支持体30の素材および形状については、後述する。
【0045】
レーザ加工機1は、ワーク・サポート・テーブル3を跨ぐように配置された門型のフレーム4を備える。フレーム4は、サイドフレーム41、42と上部フレーム43とを有する。
【0046】
上部フレーム43内には、Y方向に移動自在のキャリッジ5が設けられている。キャリッジ5には、レーザを射出するレーザヘッド51が取り付けられている。フレーム4が専用の駆動機構(図示せず)によりX方向に移動し、キャリッジ5が専用の駆動機構(図示せず)によりY方向に移動することによって、レーザヘッド51は、ワークWの上方で、XおよびY方向に任意に移動するように構成されている。
【0047】
フレーム4には、レーザ加工機1を制御するためのNC装置(数値制御装置)6が取り付けられている。NC装置6は、ワークWを加工するための加工データ(NCデータ:数値制御データ)に従ってレーザ加工機1を制御する。NC装置6は、レーザ加工機1を制御する制御装置である。
【0048】
NC装置6の制御によりレーザヘッド51がフレーム4およびキャリッジ5によりX方向またはY方向に移動しながら、ワークWに対してレーザを照射することにより、ワークWは切断加工される。
【0049】
ワーク・サポート・テーブル3に設置されるワーク支持体30について説明する。ワーク支持体30は、紐状の炭素繊維、例えば炭素繊維強化炭素複合材(C/Cコンポジット材)を平織りした薄板から長形に切り出された炭素繊維部材Mを用いて形成される。平織りとは、繊維を縦と横とで1本ごとに交差させる織り方である。
【0050】
なお、炭素繊維の織り方は、その繊維が何等かの構造で織り込まれていればよく、繻子(朱子)織りであっても、綾織りであっても、梨地織りや不規則な織りであっても構わない。
【0051】
炭素繊維は融点が3550℃であり、一般的な金属のワークWの融点1580℃に比べて非常に高温である。また炭素繊維は、金属と即座に合金化したり、組成変化を伴った金属が固着したりする可能性は、従来の鉄系のワーク支持体と比較して極めて低い。そのため、ワーク支持体30の素材として炭素繊維を用いることにより、ワークWの切断加工の際に、レーザビームの照射によるワークWとワーク支持体30との溶着を防止することができる。また、切断加工で飛散したスパッタがワーク支持体30にほとんど溶着しないため堆積し難くなり、仮に堆積しても剥がれ落ち易く除去作業が容易になる。また、C/Cコンポジット材は織り込まれた炭素繊維に各種物質を含浸することで繊維強化されているため、薄板状に形成することで弾性が生じ、耐久性に優れている。
【0052】
図14は、第2の実施形態におけるワーク支持体30が作製される立体加工用炭素繊維部材の外観斜視図である。
図15は、第2の実施形態におけるワーク支持体30の外観斜視図である。ワーク支持体30を作製する際は、
図14に示すような板状の炭素繊維部材Mに、レーザビームを照射することによって、同一方向(横方向)の千鳥状パターンのスリットSL20を形成する。この千鳥状パターンのスリットSL20は、炭素繊維部材MをスリットSL20の長さ方向と直交する方向に広げたときに千鳥格子に配列された複数の開口が形成されるように、千鳥状パターンに配列される。
図14では、便宜上、炭素繊維部材Mの中央のみに千鳥状パターンのスリットSL20が形成された状態が示されているが、千鳥状パターンのスリットSL20は、炭素繊維部材Mの全域に形成されている。
【0053】
千鳥状パターンのスリットSL20が形成された炭素繊維部材M(立体加工用炭素繊維部材)を、千鳥状パターンのスリットSL20の長さ方向と直交する外側に向かう矢印b1およびb2方向に力を加えて引っ張る。このように力を加えると、千鳥状パターンのスリットSL20に挟まれた部分にねじれおよび曲げが生じて千鳥状パターンのスリットSL20が菱形または亀甲形に広げられて、千鳥状パターンのスリットSL20の位置に開口Eが形成される。そして、
図15に示すように、炭素繊維部材Mが起伏のある網目状の開口Eを有した状態(千鳥格子の形状)にエキスパンド加工されて、ワーク支持体30が形成される。
【0054】
このように形成されたワーク支持体30をワーク・サポート・テーブル3に設置し、上部にワークWを載せると、エキスパンド加工によりワーク支持体30に形成された起伏の上端でワークWが支えられる。このワーク支持体30は、網目状の開口Eを有していることにより、熱加工時に発生するアシストガスの逃げ場が確保されるとともに、スパッタの堆積が抑えられる。また、ワーク支持体30の起伏の上端は突起状になっているため、上の載せたワークWが線状または点状で支持され、ワークWとの溶着が抑えられる。
【0055】
ワーク支持体30に形成される開口Eの大きさ、起伏の形状、および剛性等の形状特性は、炭素繊維部材Mおよび千鳥状パターンのスリットSL20に関する各種パラメータ(諸元)を調整することで、適宜変更可能である。そのため、パラメータを適宜調整してワーク支持体30の形状特性を変更させることで、レーザ加工機1で加工するワークWの形状や材質に適したワーク支持体30を形成することができる。
【0056】
以下に、炭素繊維部材Mおよび千鳥状パターンのスリットSL20に関する各種パラメータと、形成されるワーク支持体30の形状特性との関係について説明する。
【0057】
まず、炭素繊維部材Mがエキスパンド加工される際に、千鳥状パターンのスリットSL20に挟まれた部分に生じる断面二次モーメントについて説明する。
図14は、横幅寸法がLM、厚さtの薄板状の横長長形で弾性率eを有する炭素繊維部材Mに、千鳥状パターンに配列された複数のスリットSL20が形成された状態を示している。千鳥状パターンのスリットSL20は、それぞれ同一の長さL2に形成されている。千鳥状パターンのスリットSL20は、千鳥状パターンのスリットSL20の長さ方向と直交する方向に広げたときに、炭素繊維部材Mに千鳥格子に配列された複数の開口が形成されるように配置されている。具体的には、千鳥状パターンのスリットSL20がその長さ方向である横方向に間隔sをあけて一列にn個配置される。また、この千鳥状パターンのスリット列が、一定の幅aでN+1個形成されている(Nは後述するフレームFの個数)。隣り合う一対のスリット列のうち、一方のスリット列のスリットSL20は、他方のスリット列のスリットSL20に対して、長さL2と間隔sの和の半分の距離だけ横方向にオフセットしている。
【0058】
図16Aは、
図14に示す炭素繊維部材Mにおいて、縦方向に隣り合う千鳥状パターンのスリットSL20により挟まれたフレームFを示す外観斜視図である。千鳥状パターンに配列された複数のスリットSL20が形成された炭素繊維部材M内において、縦方向に隣り合う2つのスリットSL20により挟まれる部分をフレームFと称する。フレームFは、
図16Aに示すように、千鳥状パターンのスリットSL20により挟まれる部分の横方向の長さLxと、千鳥状パターンのスリットSL20の縦方向の間隔である幅aと、炭素繊維部材Mの厚さtによって定められる直方体である。
【0059】
図16Bは、フレームFの縦方向の断面図である。厚さtに直交する軸回りの断面二次モーメントをItとし、幅(千鳥状パターンのスリットSL20の縦方向の間隔)aに直交する軸回りの断面二次モーメントをIaとし、断面の重心回りの断面二次モーメントをIpとする。Itは下記式(1)で示され、Iaは下記式(2)で示され、Ipは下記式(3)で示される。
It=at
3/12 ・・・(1)
Ia=a
3t/12 ・・・(2)
Ip=(at
3+a
3t )/12 ・・・(3)
【0060】
ここで、t≧aの場合には、It≧Iaとなる。また、t<aの場合には、It<Ia<Ip(Ip-It=a3t/12>0, Ip-Ia=at3/12>0)となる。
【0061】
図17は、
図14に示す炭素繊維部材MのA-A断面図である。炭素繊維部材Mの断面が千鳥状パターンのスリットSL20で仕切られることにより、厚さt、幅aの長方形が横方向に連続して並んでいる。
【0062】
図18Aは、幅aが厚さtと同じ場合のフレームFの断面図であり、
図18Bは、幅aが厚さtよりも小さい場合のフレームFの断面図である。
図18Cは、フレームFの形状が
図18Aまたは
図18Bのときにエキスパンド加工された炭素繊維部材Mを示す断面図である。幅aが厚さtに対して、
図18Aに示すようにa=tとなるか、または
図18Bに示すようにa<tとなるように千鳥状パターンのスリットSL20が形成された炭素繊維部材Mが、エキスパンド加工された場合について説明する。この場合、フレームF部分は、
図18Cに示すように、断面の向きが変わらずに断面二次モーメントの小さい幅aの方向に展開して、縦方向に隣り合うフレームF間に間隔が生じる。
【0063】
このように加工された炭素繊維部材Mは、エキスパンド加工される前の厚さtを超える厚さとはならないことによりワーク重量支持に必要な剛性の確保が難しくなる。またこの炭素繊維部材Mは、フレームFが捩れないことによりワーク支持面がワーク裏面と密接してアシストガスの逃げ場が確保し難く、スパッタが堆積し易くなる。また、この炭素繊維部材Mは上部にワークWを載せたときにワークWと接触する部分の面積が広くワークWとの溶着が発生しやすくなる。そのため、当該炭素繊維部材Mは、ワーク支持体30として用いるには好ましくない。
【0064】
図19Aは、幅aが厚さtよりも大きい場合のフレームFの断面図であり、
図19Bは、フレームの形状が
図19Aのときにエキスパンド加工された炭素繊維部材Mの断面図である。幅aが厚さtに対して、
図19Aに示すようにa>tとなるようにスリットSL20が形成された炭素繊維部材Mがエキスパンド加工された場合について説明する。この場合、フレームF部分は、
図19Bに示すように、断面の向きが断面二次モーメントの小さい厚さtの方向に捩れながら展開して、縦方向に隣り合うフレームF間に間隔が生じる。
【0065】
このように加工された炭素繊維部材Mは、エキスパンド加工される前の厚さtを超える厚さとなるため、ワーク重量支持に必要な剛性が確保容易となる。この炭素繊維部材Mは、フレームFの捩れでワークWの裏面と対抗する面が傾き、ワークWとの間に隙間が生じてアシストガスの逃げ場を十分に確保することが可能になる。この炭素繊維部材Mは、上部にワークWを載せたときにワークWと線接触または点接触となり、ワークWとの溶着が発生し難くなる。さらにこの炭素繊維部材Mは、ワークWの裏面と対抗する面が斜面となることでスパッタが横方向へ跳ね返されるため、スパッタが堆積し難くなる。そのため、当該炭素繊維部材Mは、ワーク支持体30として好適に用いることができる。
【0066】
フレームFに関し、断面最大半径Rは下記式(4)で示される。
【数1】
【0067】
ここで、フレームFの剪断強度をT、弾性率をGとすると、フレームFの許容捩れ角φは下記式(5)で示される。
【数2】
【0068】
また、フレームFの長さLxは、炭素繊維部材Mの横幅LMと、千鳥状パターンのスリットSL20の横方向の間隔sと、千鳥状パターンのスリットSL20の一列内での個数、すなわち、隣り合う2列のスリットSL20のジョイント部の数nとを用いて、下記式(6)のように示される。
Lx=(LM-ns)/(n-1) ・・・(6)
【0069】
上記式(6)を式(5)に代入すると、フレームFの許容捩れ角φは下記式(7)で示される。
【数3】
【0070】
このフレームFの捩れ角φを適宜変更することで、エキスパンド加工された炭素繊維部材M(ワーク支持体30)の高さを調整することができる。
【0071】
図20Aおよび
図20Bは、炭素繊維部材Mをエキスパンド加工したときの千鳥状パターンのスリットSL20の許容開き量の説明図である。次に、炭素繊維部材Mのエキスパンド加工による千鳥状パターンのスリットSL20の開口Eの許容開き量w1について説明する。スリットSL20の長さL2は、下記式(8)で示される。
L2=2Lx+s ・・・(8)
【0072】
図20Aに示すスリットSL20の開口Eの許容開き量w1は、上述した千鳥状パターンのスリットSL20の長さL2と、厚さtと、幅aと、弾性率Gと、厚さtに直交する軸回りの断面二次モーメントItと、曲げ荷重Pと、千鳥状パターンのスリットSL20のたわみ量ηとを用いて、下記式(9)のように示される。
【数4】
【0073】
なお、曲げ荷重Pは、
図20Bに示すように、千鳥状パターンのスリットSL20の中央位置にかかる荷重である。曲げ荷重Pがかかることにより破線のように千鳥状パターンのスリットSL20部分が撓み、
図20Aのような開口が形成される。曲げ荷重Pは、幅aに直交する軸回りの断面二次モーメントIaと、断面最大半径Rと、フレームFの長さLxと同列のスリットSL20の横方向の間隔sとから成る千鳥状パターンのスリットSL20の長さ(便宜上の両端固定梁長さ)Lh(=L2(=2Lx+s))と、炭素繊維部材Mの破断応力を制限として設定する曲げ応力σとを用いて、下記式(10)のように示される。
【数5】
ただし、σ<フレームFの破断応力(剪断強度)である。
【0074】
上述した式(5)および式(9)を用いることにより、所定の剪断強度および弾性率を有する炭素繊維部材Mを用いて、フレームFの捩れ角度および千鳥状パターンのスリットSL20の許容開き量w1を所望の値にするための各種パラメータが設定される。設定されるパラメータとしては、炭素繊維部材Mの厚さt、横幅LM、千鳥状パターンのスリットSL20の縦方向の間隔である幅a、千鳥状パターンのスリットSL20の一列あたりの配置数n、および千鳥状パターンのスリットSL20の横方向の間隔sがある。
【0075】
図21は、ワーク支持体を、所望のフレームFの捩れ角度φおよび千鳥状パターンのスリットSL20の許容開き量w1で形成するときの千鳥状パターンのスリットSL20の諸元に関する各種パラメータの例を示す表である。上述したように式(5)および式(9)を用いて、例えば
図21のNo.1~3に示すように、各種パラメータを算出することができる。
【0076】
このように算出したパラメータに基づいて炭素繊維部材Mに千鳥状パターンのスリットSL20を入れてエキスパンド加工することで、所望の形状特性を有するワーク支持体30を形成することができる。例えば、
図21のNo.1に示すパラメータでワーク支持体30を形成することで、エキスパンド加工による網目の開口Eが大きくなり、切断加工時に発生するアシストガスが逃げ易くなるとともにスパッタが堆積し難くなる。幅aを広くすれば、剛性が高いワーク支持体30が形成され、ワークWの重量が大きい場合にも安定して支持することができる。また、千鳥状パターンのスリットSL20の長さを短くし、幅aを狭くすれば、形成される網目状の突起の数が多くなり、ワークWが小さい場合や極薄の場合にもより多くの点または線で安定して支持することができる。また、千鳥状パターンのスリットSL20の各スリット位置を一定の法則で以って変化させることで、エキスパンドさせるときに千鳥格子を斜めに設定することもできる。
【0077】
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態における自動計算装置について添付図面を参照して説明する。
【0078】
図22は、第3の実施形態における自動計算装置200の構成を示すブロック図である。本実施形態に係る自動計算装置200は、板状の部材から立体構造物を作製するための自動計算装置である。板状の部材としては、第1の実施形態および第2の実施形態に示すように、薄板状の炭素繊維部材が好適である。ただし、本実施形態では、炭素繊維部材に限らず、非可塑性を有する板状の部材に対しても適用可能であり、さらには、可塑性を有する板状の部材に対しても広く適用可能である。
【0079】
自動計算装置200は、例えばパーソナルコンピュータにより構成されている。自動計算装置200は、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサと、メモリと、各種のインターフェースとを有している。メモリ、各種のインターフェースは、バスを介してハードウェアプロセッサに接続されている。
【0080】
自動計算装置200は、コントローラ210と、入出力インターフェース220と、記憶装置230とを有している。
【0081】
コントローラ210は、ハードウェアプロセッサと、メモリとから構成されている。コントローラ210は、自動計算装置200が備える種々の機能を達成する1つ以上の情報処理回路として動作する。1つ以上の情報処理回路は、ハードウェアプロセッサによってメモリに格納されたプログラムを実行させることにより実現される。
【0082】
コントローラ210は、1つ以上の情報処理回路として、データ取得部211と、演算部212と、出力部213と、を有している。
【0083】
データ取得部211は、板状の部材の材質と、板状の部材の板厚と、立体構造物の立体形状とを示す条件データを取得する。演算部212は、板状の部材を弾性変形させて立体構造物を作製するために、板状の部材を弾性変形させる加工領域に対して、千鳥状パターンに配列された複数のスリットを割り付ける割付処理を行う。この割付処理は、データ取得部211が取得した条件データに基づいて、千鳥状パターンのスリットの諸元を計算する処理を含む。出力部213は、演算部212による割付処理の結果を出力する。
【0084】
入出力インターフェース220には、入力装置250が接続される。入出力インターフェース220は、入力装置250から出力されたデータをコントローラ210に出力する。入力装置250は、ユーザの操作によって入力されたデータをコントローラ210に対して出力する装置である。コントローラ210のデータ取得部211は、入力装置250から出力されたデータに基づいて、条件データを取得することができる。
【0085】
入出力インターフェース220には、出力装置としての表示装置260が接続される。入出力インターフェース220は、コントローラ210から出力されたデータを表示装置260に出力する。表示装置260は、コントローラ210から出力されたデータを、ユーザに対して表示することができる。コントローラ210の出力部213は、割付処理の結果を含むデータを、表示装置260に対して出力することができる。
【0086】
コントローラ210には、記憶装置230が接続されている。記憶装置230には、板状の部材の材質毎に、板状の部材の機械的特性を示すパラメータが記憶されている。機械的特性としては、安全係数f、弾性率G、曲げ応力σ、密度ρなどが該当する。
【0087】
図23は、自動計算装置200によって実行される自動計算方法を示すフローチャートである。以下、本実施形態に係る自動計算装置200によって実行される自動計算方法について説明する。この自動計算方法は、板状の部材を弾性変形させて立体構造物を作製するための計算を自動的に行うものである。自動計算方法を実行することにより、板状の部材を弾性変形させる加工領域に対して、千鳥状パターンに配列された複数のスリットを割り付けることができる。つまり、加工領域に対して複数のスリットが千鳥状パターンに配列されることにより、板状の部材に対して曲げ加工またはエキスパンド加工を行うことができる。
【0088】
図24Aは、板状の部材Mnから作製する立体構造物400の外観を示す斜視図であり、
図24Bは、板状の部材Mnに対して設けられる、千鳥状パターンに配列された複数のスリットSL30を示す説明図である。以下の説明では、板状の部材Mnの加工領域である曲げ辺Ebで角度θ0だけ曲げ加工することで、断面L形の立体構造物400を作製することとし、この曲げ加工を行う加工領域に対して千鳥状パターンに配列された複数のスリットSL30を割り当てる。以下、千鳥状に配列された複数のスリットSL30を利用した曲げ加工を「スリット曲げ」という。
【0089】
第1および第2の実施形態と同様、千鳥状パターンに配列された複数のスリットSL30は、隣り合うスリットSL30同士がジョイント部(間隔s)を隔ててスリットSL30の長さ方向に直線状に配列されたスリット列を、幅aだけ隔離して複数個並べて構成されている。そして、隣り合うスリット列同士のうち、一方のスリット列は、他方のスリット列に対してスリットSL30の位置がスリットSL30の長さ方向にかけてオフセットするように構成されている。
【0090】
まず、ステップS10において、取得部211は、板状の部材Mnの材質、板状の部材Mnの厚さt、および立体構造物400の立体形状を含む条件データを取得する。取得部211は、表示装置260に所定の入力画面を表示し、この入力画面に対応して入力装置250から出力されたデータから条件データを取得する。
【0091】
図24に示すように、
立体構造物400の立体形状は、曲げ辺Ebの長さ、曲げ辺Ebでの曲げの角度θ0、曲げ半径r、および曲げ辺Ebまでの辺の長さA1、A2などの種々のパラメータによって定義される。立体構造物400の立体形状が予め定型化されている場合、取得部211は、入力装置250を通じて、立体形状を定義するパラメータを取得することができる。また、取得部211は、入力装置250を通じて立体構造物400の立体形状を描画させ、描画した情報から立体構造物400の立体形状に定義するデータを取得してもよい。また、取得部211は、CADなどの外部装置から、立体構造物400の立体形状を示す図形データを直接取得してもよい。
【0092】
ステップS11において、演算部212は、材質、曲げ角度θ0、および曲げ半径rに基づいて、板状の部材Mnに対して塑性加工を行うことができるか否かを判断する。演算部212は、予め定義された判定条件に従って材質を評価し、板状の部材Mnに延性があるか否かを判断する。演算部212は、板状の部材Mnに延性がないと判断すると、塑性加工できないと判断する。一方、演算部212は、材質から板状の部材Mnに延性があると判断すると、曲げ角度θ0および曲げ半径rをさらに考慮して、曲げ辺Ebに必要な曲げ加工を塑性加工で行うことができるか否かを判断する。
【0093】
塑性加工を行うことができない場合、演算部212は、ユーザが選択可能な曲げ種別の選択肢として、「スリット曲げ」のみを表示装置260に表示する(ステップS12)。一方、塑性加工を行うことができる場合、演算部212は、ユーザが選択可能な曲げ種別の選択肢として、「スリット曲げ」の他、塑性加工による曲げの種別を表示装置260に表示する(ステップS13)。
【0094】
図25は、曲げ種別の選択肢を示す説明図である。曲げ種別の選択肢は、例えばプルダウンメニュー261として表示される。プルダウンメニュー261には、ユーザが選択可能な曲げ加工の種別が1つ以上含まれている。このようなプルダウンメニュー261を用いることで、板状の部材Mnに対して行うことができる曲げ加工の種別を選択させることができる(選択処理)。
【0095】
曲げ種別の選択肢のなかからスリット曲げが選択された場合、ステップS14で肯定判定され、ステップS15の処理に進む。一方、曲げ種別のなかからスリット曲げが選択されなかった場合、ステップS14で否定判定され、本ルーチンを終了する。この場合、ユーザが選択した曲げ種別に応じた処理が行われる。
【0096】
ステップS15において、演算部212は、記憶装置230を参照し、板状の部材Mnの材質に応じて定まる固有のパラメータを特定する。固有のパラメータとしては、安全係数f、弾性率G、曲げ応力σ、密度ρなどが挙げられる。
【0097】
ステップS16において、演算部212は、千鳥状パターンのスリットSL30の縦方向の間隔である幅aを決定する。幅aの初期値は、例えば厚さtである。しかしながら、演算部212は、ユーザの操作に応じて、幅aを初期値tから変更することもできる。
【0098】
ステップS17において、演算部212は、千鳥状パターンのスリットSL30に関するパラメータを計算する。以下、パラメータ計算の一例を示すが、この計算方法に限定されない。
【0099】
まず、演算部212は、下記式(11)に従って、千鳥状パターンのスリットSL30の横方向の間隔(ジョイント部の長さ)sを計算する。
【数6】
【0100】
式(11)において、F0は荷重である(
図24A参照)。nは隣り合う2列のスリットSL30のジョイント部の数、すなわち、千鳥状パターンのスリットSL30の一列あたりの数であり、初期値は3である。
【0101】
演算部212は、下記式(12)および式(13)に従って、端部のスリットSL30の長さL1、および中央のスリットSL30の長さL2を計算する。
【数7】
【数8】
【0102】
縦方向に隣り合うスリットSL30により挟まれたフレームFの長さLxは、千鳥状パターンのスリットSL30の長さL1、L2と、千鳥状パターンのスリットSL30の横方向の間隔sとの組み合わせから、下記式(14)のように示される。
【数9】
【0103】
また、演算部212は、フレームFにおける厚さtに直交する軸回りの断面二次モーメントIt、フレームFにおける幅aに直交する軸回りの断面二次モーメントIa、フレームFにおける断面の重心回りの断面二次モーメントIpをそれぞれ計算する。これらの断面二次モーメントIt、Ia、Ipは、上述した式(1)~(3)で示される。
【0104】
ステップS17において、演算部212は、フレームFの曲げ計算を行う。フレームFが捩り変形することで、加工領域である曲げ辺Ebにおける曲げ加工が可能となる。フレームFの捩れ角φは、下記式(15)に示すように、厚さt、幅a、フレームFの長さLx、曲げ応力σおよび弾性率Gから関係式を作ることができる。演算部212は、式(15)に基づいて、フレームFの捩れ角φを計算する。
【数10】
【0105】
図26は、曲げ辺Ebを拡大して示す説明図である。曲げ辺Ebにおいて要求される曲げの角度θ0は、曲げ辺Ebに設定される各フレームFの捩れ角φの累積となる。よって、フレームFの個数Nは、下記式(16)のように示される。
N=θ0/φ-1 ・・・(16)
【0106】
これらのステップS17およびS18の処理により、曲げ辺Ebに対して割り付ける、千鳥状パターンに配列された複数のスリットSL30の諸元が決定される。決定されるスリットSL30の諸元は、千鳥状パターンのスリットSL30の長さL2、フレームFの長さLx、スリットSL30同士の横方向の間隔(ジョイント部の長さ)s、スリットSL30同士の縦方向の間隔である幅a、およびスリット列の個数(フレームFの個数N+1)である。このような諸元の決定により、曲げ辺Ebに対して千鳥状に配列された複数のスリットSL30を割り付ける割付処理が完了する。
【0107】
ステップS19において、出力部213は、演算部212による演算結果に基づいて、千鳥状パターンのスリットSL30の諸元を表示装置260に表示する。出力部213による千鳥状パターンのスリットSL30の出力先は、表示装置260に限らず、記憶装置230、または外部装置であってもよい。
【0108】
そして、この割付結果に基づいて板状の部材Mnに千鳥状パターンのスリットSL30を形成することにより、立体加工用基材を製造することができる。例えば、板状の部材Mnの素材が、第1および第2の実施形態で示す炭素繊維部材である場合には、立体加工用炭素繊維部材が製造される。この立体加工用基材を用いて、千鳥状パターンのスリットSL30が形成された曲げ辺Ebを弾性変形させることで、立体構造物400を作製することができる。
【0109】
このように本実施形態によれば、板状の部材Mnの材質、板状の部材Mnの板厚、および立体構造物400の立体形状を与えるだけで、演算部212が千鳥状パターンのスリットSL30の諸元を自動的に計算することができる。これにより、立体加工に必要な千鳥状パターンのスリットSL30の設計を自動化することができるので、設計工数および部材コストの抑制を図ることができる。
【0110】
また、本実施形態において、隣り合うスリット列同士のうち、一方のスリット列は、他方のスリット列に対してスリットSL30の位置が横方向にかけてオフセットするように構成されている。これにより、必要なフレームFが構成されるので、弾性変形によるねじれおよび曲げが生じて、板状の部材Mnを3次元方向に変形させることができる。その結果、所望の状態に曲げ加工を行うことができる。
【0111】
本実施形態において、千鳥状パターンのスリットSL30の諸元は、千鳥状パターンのスリットSL30の長さL2、スリットSL30の横方向の間隔(ジョイント部の長さ)s、スリットSL30の縦方向の間隔である幅aを含んでいる。これにより、千鳥状パターンの配列に必要なスリットSL30のパラメータを特定することができる。
【0112】
本実施形態において、千鳥状パターンのスリットSL30の諸元は、スリット列の個数(フレームFの個数N+1)を含んでいる。これにより、千鳥状の配列に必要なスリットSL30のパラメータを特定することができる。
【0113】
本実施形態において、演算部212は、条件データに基づいて、板状の部材Mnから立体構造物400を立体加工するための一つ以上の加工種別を特定し、一つ以上の加工種別の中から、ユーザに加工方法を選択させる選択処理を行っている。この方法によれば、ユーザに対して加工種別の提案をすることができるので、利便性の向上を図ることができる。
【0114】
本実施形態において、演算部212は、選択処理において千鳥状パターンのスリット加工(スリット曲げ)が選択された場合に、割付処理を実行する。これにより、スリット曲げが必要な状況において割付処理を行うことができる。
【0115】
また、本実施形態において、演算部212は、関係式(式(15))から求められるフレームFの捩れ角φに基づいて、千鳥状パターンのスリットSL30の諸元を計算している。フレームFに生じるねじれおよび曲げを考慮することができるので、板状の部材Mnに対する3次元方向の弾性変形を計算することができる。すなわち、板状の部材Mnの材質と、板状の部材Mnの厚さtと、立体形状とを含む条件データが入力としてあれば、演算部212は、次のような計算を自動的に行うことができる。具体的には、演算部212は、板状の部材Mnの材質から、記憶装置230を検索することで、板状の部材Mnの機械的特性を示すパラメータ(安全係数f、曲げ応力σおよび弾性率G)を特定することができる。つぎに、演算部212は、隣り合う2列のスリットSL30のジョイント部の数nを適宜に決定すれば(例えば初期値=3)、板状の部材Mnの厚さt、幅a、安全係数f、曲げ応力σおよび弾性率Gを用いて式(15)から、フレームFの捩れ角φを計算することができる。そして、演算部212は、立体形状から定まる曲げ角θ0と、フレームFの捩れ角φとに基づいて、フレームの個数Nを決定することができる。これにより、スリット曲げに必要な千鳥状パターンのスリットSL30の諸元を適切に計算することができる。
【0116】
なお、本実施形態では、曲げ加工(スリット曲げ)により作製する立体構造物を前提として、自動計算方法を説明した。しかしながら、本実施形態に係る自動計算方法を、第1の実施形態に示すようなエキスパンド加工を伴う立体構造物Y8、第2の実施形態に示すようなエキスパンド加工を伴うワーク支持体30の作製において適用してもよい。第1の実施形態に示すようなエキスパンド加工を伴う立体構造物Y8であれば、演算部212は、フレームFの捩れ角φの他に開口Eの縦方向および横方向の開き量も考慮して長方形部分Qに必要な高さを見積もることで、必要な千鳥状パターンのスリットSL3の諸元を計算することができる。また、第2の実施形態に示すようなエキスパンド加工を伴うワーク支持体30であれば、演算部212は、フレームFの捩れ角φの他に、開口Eの縦方向および横方向の開き量、および切断後の製品の最小サイズも考慮して基づいて切断後の製品の保持に必要な開口Eを見積もることで、必要なスリットSL20の諸元を計算することができる。
【0117】
以上のように、本発明の実施形態を記載したが、この開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0118】
本願の開示は、2020年6月10日に出願された特願2020-101140号、および2020年8月31日に出願された特願2020-145446号に記載の主題と関連しており、それらの全ての開示内容は引用によりここに援用される。