(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
B60N 2/427 20060101AFI20231228BHJP
B60N 2/42 20060101ALI20231228BHJP
B60R 21/207 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
B60N2/427
B60N2/42
B60R21/207
(21)【出願番号】P 2022536173
(86)(22)【出願日】2021-06-09
(86)【国際出願番号】 JP2021021840
(87)【国際公開番号】W WO2022014207
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2020120434
(32)【優先日】2020-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】石垣 良太
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/003749(WO,A1)
【文献】特開2005-255148(JP,A)
【文献】特開2010-52535(JP,A)
【文献】特開2020-19330(JP,A)
【文献】特開2013-75599(JP,A)
【文献】特開2007-320543(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0036816(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/427
B60N 2/42
B60R 21/207
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両シートのシートクッションの内部又は下方に設けられる乗員保護装置であって、
前記シートクッションの座面を押し上げるように膨張展開可能なエアバッグクッションと、
車両緊急時に前記エアバッグクッションの内部空間に膨張展開用のガスを供給するインフレータと、を備え、
前記エアバッグクッションは、
下部パネルと、
前記下部パネルよりも、前記車両シートの前後方向における長さが長い上部パネルと、
前記下部パネル及び前記上部パネルに接合された、互いに対向するサイドパネルと、を有し、
前記内部空間は、前記上部パネル、前記下部パネル及び前記サイドパネルによって画成され、
前記エアバッグクッションは、
少なくとも前記下部パネルに構成され、前記車両シート側に取り付けられる少なくとも1つの第1の取付点と、
少なくとも前記下部パネルに構成され、前記車両シートの前後方向において前記少なくとも1つの第1の取付点の後方側で、前記車両シート側に取り付けられる少なくとも1つの第2の取付点と、を有し、
前記下部パネルと前記上部パネルとは、
前記車両シートの前後方向における前方側では第1の接合箇所で互いに接合され、かつ、前記車両シートの前後方向における後方側では第2の接合箇所で互いに接合されている、乗員保護装置。
【請求項2】
前記サイドパネルは、前記エアバッグクッションの膨張展開時に、前記車両シートの側部の方向からみたとき、前記車両シートの前後方向における前方側部分よりも後方側部分の方が高さが大きくなるように形成されている、請求項1に記載の乗員保護装置。
【請求項3】
前記少なくとも1つの第1の取付点及び/又は前記少なくとも1つの第2の取付点は、前記上部パネルにも構成されている、請求項1又は2に記載の乗員保護装置。
【請求項4】
前記下部パネルと前記上部パネルとの接合は、縫製によりなされている、請求項1から3のいずれか一項に記載の乗員保護装置。
【請求項5】
前記下部パネルと前記上部パネルとの、
前記第1の
接合箇所では、
前記下部パネルの、前記車両シートの左右方向に延びる所定幅の一部分を上方に山折りされてなるつまみ部と、
前記上部パネルの、前記車両シートの左右方向に延びる所定幅の一部分を上方に山折りされてなり、前記つまみ部を覆うように設けられるつまみカバー部と、
前記上部パネルに形成された、前記つまみカバー部の後端から上方に折り返された折り返し部と、
が一緒に縫合されることにより、一体的に結合されている、請求項4に記載の乗員保護装置。
【請求項6】
前記下部パネルと前記上部パネルとの、
前記第1の
接合箇所では、
前記上部パネルの、前記車両シートの左右方向に延びる所定幅の一部分を谷折りされてなるつまみ部と、
前記下部パネルの非つまみ部と、
が一緒に縫合されることにより、一体的に結合されている、請求項4に記載の乗員保護装置。
【請求項7】
前記第1の
接合箇所は、前記車両シートの前後方向において前記少なくとも1つの第1の取付点よりも後方側に位置する、請求項5又は6に記載の乗員保護装置。
【請求項8】
前記下部パネルと前記上部パネルとの、
前記第2の
接合箇所では、
前記下部パネルの、前記車両シートの左右方向に延びる所定幅の一部分を上方に山折りされてなるつまみ部と、
前記上部パネルの、前記車両シートの左右方向に延びる所定幅の一部分を上方に山折りされてなり、前記つまみ部を覆うように設けられるつまみカバー部と、
前記上部パネルに形成された、前記つまみカバー部の前端から上方に折り返された折り返し部と、
が一緒に縫合されることにより、一体的に結合されている、請求項4に記載の乗員保護装置。
【請求項9】
前記第2の
接合箇所は、前記車両シートの前後方向において前記少なくとも1つの第2の取付点よりも前方側に位置する、請求項8に記載の乗員保護装置。
【請求項10】
前記下部パネルと前記上部パネルとの、
前記第1の接合箇所は、前記車両シートの前後方向において前記少なくとも1つの第1の取付点よりも後方側に位置する、請求項1から3のいずれか一項に記載の乗員保護装置。
【請求項11】
前記下部パネルと前記上部パネルとの、
前記第2の接合箇所は、前記車両シートの前後方向において前記少なくとも1つの第2の取付点よりも前方側に位置する、請求項1から3のいずれか一項に記載の乗員保護装置。
【請求項12】
前記エアバッグクッションは、前記インフレータを前記車両シート側に取り付けるための少なくとも1つの第3の取付点をさらに有し、
前記少なくとも1つの第3の取付点は、前記少なくとも1つの第1の取付点と前記少なくとも1つの第2の取付点との間において、前記下部パネルに構成されている、請求項1から11のいずれか一項に記載の乗員保護装置。
【請求項13】
前記少なくとも1つの第2の取付点は、前記車両シートの左右方向に離間して2以上ある、請求項1から12のいずれか一項に記載の乗員保護装置。
【請求項14】
前記上部パネルは、前記少なくとも1つの第1の取付点及び前記少なくとも1つの第2の取付点の各位置で内側に折り返され、前記少なくとも1つの第1の取付点と前記少なくとも1つの第2の取付点との間に部分的に互いに重なる部分を有している、請求項1から4のいずれか一項に記載の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両シートのシートクッションの内部又は下方に設けられる乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が前方衝突した場合、乗員は、慣性により前方へ移動しようとする。特許文献1には、このような前方衝突時に、車両シート内のエアバッグを瞬時に膨張させることにより、シートクッションの前端部を上昇させ、それにより乗員の腰部の前方移動を抑制するようにした乗員保護装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、エアバッグが、2枚の基布を重ね合わせてなる2D(二次元)パネルからなる。しかしながら、このようなエアバッグが、シートクッションの前端部を押し上げるのに十分なストロークを確保するためには、エアバッグの体積を大きくすることが求められる。
【0005】
また、特許文献1では、エアバッグの膨張時にシートクッションの前端部によって乗員の膝が押し上げられるようになる。しかしながら、車両シートに対するエアバッグの取付け態様や配置位置の関係上、乗員の膝は十分に持ち上がらない。乗員の膝を効果的に持ち上げるようにするには、特許文献1のように乗員の膝のみを押し上げるようにするよりも、乗員の尻に近い大腿部近傍を押し上げ、乗員の大腿部から膝にかけての部分を全体として持ち上げるようにした方が望ましい。
【0006】
本発明は、乗員の腰部拘束性能の向上に寄与する乗員保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る乗員保護装置は、車両シートのシートクッションの内部又は下方に設けられる乗員保護装置であって、シートクッションの座面を押し上げるように膨張展開可能なエアバッグクッションと、車両緊急時にエアバッグクッションの内部空間に膨張展開用のガスを供給するインフレータと、を備え、エアバッグクッションは、下部パネルと、下部パネルよりも、車両シートの前後方向における長さが長い上部パネルと、下部パネル及び上部パネルに接合された、互いに対向するサイドパネルと、を有し、内部空間は、上部パネル、下部パネル及びサイドパネルによって画成され、エアバッグクッションは、少なくとも下部パネルに構成され、車両シート側に取り付けられる少なくとも1つの第1の取付点と、少なくとも下部パネルに構成され、車両シートの前後方向において少なくとも1つの第1の取付点の後方側で、車両シート側に取り付けられる少なくとも1つの第2の取付点と、を有し、下部パネルと上部パネルとは、車両シートの前後方向における前方側では第1の接合箇所で互いに接合され、かつ、車両シートの前後方向における後方側では第2の接合箇所で互いに接合されている。
【0008】
この態様によれば、エアバッグクッションの上部パネルを下部パネルよりも車両シートの前後方向に長くして、上部パネルと下部パネルとを車両シートの前後方向における第1及び第2の接合箇所で接合し、さらに、上部パネル及び下部パネルにサイドパネルを接合することにより、3D(三次元)の形状からなるエアバッグクッションの内部空間を画成している。これにより、従来のような2Dの形状からなるエアバッグクッションに比べて、膨張展開した際の体積を全体として減らしつつ、両取付点間における上方への膨らみ(ストローク又は厚み)を増やすことができる。したがって、正規の姿勢で座面に着座した乗員がいる場合、その乗員との関係では、より大きなストロークで、乗員の尻に近い大腿部近傍を効果的に押し上げることが可能になり得る。よって、乗員の腰部拘束性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】実施形態に係る乗員保護装置が設けられる車両シートの外観形状を示す斜視図である。
【
図1B】
図1Aの車両シートの内部のフレーム構造を示す斜視図である。
【
図2】実施形態に係る乗員保護装置のエアバッグクッションが膨張展開した状態を示す斜視図である。
【
図3A】実施形態に係る乗員保護装置の縫製前のエアバッグクッションの下部パネルを示す平面図である。
【
図3B】実施形態に係る乗員保護装置の縫製前のエアバッグクッションの上部パネルを示す平面図である。
【
図3C】実施形態に係る乗員保護装置の縫製前のエアバッグクッションのサイドパネルを示す平面図である。
【
図4A】車両シートのシートパンに取り付ける前の、実施形態に係る乗員保護装置を示す斜視図である。
【
図4B】車両シートのシートパンに取り付ける前の、実施形態に係る乗員保護装置を示す平面図である。
【
図4C】
図4BのC-C線で切断した断面図であり、車両シートのシートパンに取り付けた後の乗員保護装置を示す図である。
【
図5】実施形態に係る乗員保護装置のエアバッグクッションが膨張展開した状態を乗員とともに示す縦断面図である。
【
図6A】実施形態に係るエアバッグクッションの第1の縫製方法に係る第1の縫製箇所を模式的に示す拡大断面図である。
【
図6B】実施形態に係るエアバッグクッションの第1の縫製方法に係る第2の縫製箇所を模式的に示す拡大断面図である。
【
図6C】実施形態に係る第1の縫製方法を使用したエアバッグクッションが膨張展開した状態を模式的に示す縦断面図である。
【
図7A】実施形態に係るエアバッグクッションの第2の縫製方法に係る第1の縫製箇所を模式的に示す拡大断面図である。
【
図7B】実施形態に係るエアバッグクッションの第2の縫製方法に係る第2の縫製箇所を模式的に示す拡大断面図である。
【
図7C】実施形態に係る第2の縫製方法を使用したエアバッグクッションが膨張展開した状態を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態に係る乗員保護装置について説明する。本書において、上下、左右及び前後を以下のとおり定義する。乗員が正規の姿勢で座席(車両シート)に着座した際に、乗員が向いている方向を前方、その反対方向を後方と称し、座標の軸を示すときは前後方向とする。また、乗員が正規の姿勢で車両シートに着座した際に、乗員の右側を右方向、乗員の左側を左方向と称し、座標の軸を示すときは左右方向とする。同様に、乗員が正規の姿勢で着座した際に、乗員の頭部方向を上方、乗員の腰部方向を下方と称し、座標の軸を示すときは上下方向とする。
【0011】
図1A及び1Bに示すように、車両シート100は、乗員の背中を支えるシートバック1と、乗員が着座するシートクッション2と、乗員の頭部を支えるヘッドレスト3と、を備えている。車両シート100は、例えば、運転席又は助手席であるが、後部座席であってもよい。
【0012】
シートバック1及びシートクッション2の内部には、それぞれ、シートの骨格を形成するシートフレーム10及び着座フレーム20が設けられている。シートフレーム10及び着座フレーム20は、金属部品又は硬質樹脂を加工してなり、互いにリクライニング機構4を介して連結されている。着座フレーム20は、左右に離間して配置された一対のサイドフレーム22、22を有しており、一対のサイドフレーム22、22同士の間にシートパン24(参照:
図4C)が架設されている。
【0013】
シートクッション2は、例えば、着座フレーム20の表面及び周囲を覆うウレタン発泡材等からなるシートパッドと、シートパッドの表面を覆う皮革やファブリック等からなるシートカバーと、を有している。シートカバーの上面が、乗員が着座する面、すなわちシートクッション2の座面26を構成する。
【0014】
乗員保護装置30は、シートクッション2の内部又は下方に設けられる。例えば、乗員保護装置30は、シートクッション2の内部に設けられ、シートカバーにより覆われる。この場合、乗員保護装置30をシートパン24の上面に設置してもよい。あるいは、シートパン24が設けられていない場合には、着座フレーム20に設置してもよい。他の例では、乗員保護装置30は、シートクッション2の内部ではなく、シートクッション2の下方に設けられる。この場合、例えば、シートクッション2の下方にて車両シート100に固定したブラケットに、乗員保護装置30が取り付けられる。以下では、乗員保護装置30をシートパン24の上面に設置した例を説明する。
【0015】
図2に示すように、乗員保護装置30は、膨張展開可能なエアバッグクッション32と、車両緊急時にエアバッグクッション32の内部空間33に膨張展開用のガスを供給するインフレータ34(参照:
図4C)と、を備える。車両緊急時とは、例えば、車両の前方衝突時である。
【0016】
インフレータ34は、車両側ECUと電気的に接続されている。例えば、インフレータ34は、車両の前方衝突時にその衝撃を検知した信号を車両側ECUから受信して作動し、エアバッグクッション32に向けてガスを瞬時に供給する。インフレータ34としては、ガス発生剤、圧縮ガス又はこれらの両方が充填されたものなど、各種のものを利用することができる。一例を挙げると、インフレータ34は、有底の円筒体の開放端部に着火装置を有している。そして、この着火装置によって円筒体内のガス発生剤を着火することにより、ガスを発生させ、円筒体の周面にある複数の噴出孔からエアバッグクッション32内に膨張展開用のガスを供給する。
【0017】
エアバッグクッション32は、袋体であり、インフレータ34からのガスの供給を受けて、膨張展開する。エアバッグクッション32は、例えば不織布等からなる複数枚の基布を適宜の位置で接合(例えば縫合又は接着)することによって形成される。ここでは、エアバッグクッション32は、下部パネル40と、上部パネル42と、互いに対向するサイドパネル44a、44b(参照:
図3C)と、を有している。そして、これらパネル40、42、44a、44bが不織布からなり、縫製により接合されている。
【0018】
図3Aに示すように、下部パネル40は、例えば、矩形状に形成されている。下部パネル40は、前方取付け孔51、後方取付け孔52、52及び中央取付け孔53を有している。前方取付け孔51は、下部パネル40の前端部において、左右方向の中央に形成されている。後方取付け孔52、52は、下部パネル40の後端部において、左右方向に離間して形成されている。中央取付け孔53は、前方取付け孔51と後方取付け孔52、52との間であって、下部パネル40の前後方向及び左右方向のどの位置に形成されてもよい。用いられるインフレータ34のサイズ、スタッドボルト(後述の34aなど)のピッチ、さらに、車両シートのレイアウトに応じて適宜、最適な場所に形成される。もっとも、中央取付け孔53を下部パネル40の前後方向及び左右方向の中間部に形成可能である場合には、当該中間部に形成されることが好ましい。この場合、前方取付け孔51及び後方取付け孔52、52の位置は、例えば、二等辺三角形の各頂点の位置であり、その二等辺三角形の二等分線上に中央取付け孔53が位置することになる。
【0019】
前方取付け孔51、後方取付け孔52、52及び中央取付け孔53は、下部パネル40を車両シート100側の所定位置に取り付けるための留め具が使用される孔である。留め具は、例えばボルトやリベットなどである。ここで、中央取付け孔53は、下部パネル40とともにインフレータ34を車両シート100側に取り付けるための取付点(第3の取付点)を構成してもよい。例えば、インフレータ34として、上記の有底の円筒体を用いた場合、円筒体の軸線方向を左右方向に合わせ、下部パネル40上に配置する。そして、その円筒体の外周部に突設させたスタッドボルト34a(参照:
図4C)を、中央取付け孔53からエアバッグクッション32の外側(下部パネル40の下方)に突出させ、ナットによってシートパン24に締結固定する。こうすることで、スタッドボルト34a及びナットによって、インフレータ34及び下部パネル40がシートパン24に共締めされる。
【0020】
図3Bに示すように、上部パネル42は、例えば、矩形状に形成されている。上部パネル42は、下部パネル40よりも車両シート100の前後方向における長さが長く形成されている。左右方向における長さに関しては、上部パネル42及び下部パネル40は同じ又は実質的に同じとなっている。
【0021】
上部パネル42は、前方取付け孔61及び後方取付け孔62、62を有している。前方取付け孔61は、上部パネル42の前端部において、左右方向の中央に形成されている。後方取付け孔62、62は、上部パネル42の後端部において、左右方向に離間して形成されている。前方取付け孔61及び後方取付け孔62、62は、上部パネル42を車両シート100側の所定位置に取り付けるための留め具が使用される孔である。上部パネル42の前方取付け孔61及び後方取付け孔62、62の左右方向の位置は、下部パネル40の前方取付け孔51及び後方取付け孔52、52の位置と同じとなっている。
【0022】
図3C(A)及び(B)に示すように、サイドパネル44a、44bは、例えば、互いに対となる形状(対称形状)に形成されている。また、サイドパネル44a、44bは、前方側部分71よりも後方側部分72の方が高さ(上下方向の寸法)が大きくなるように形成されている。サイドパネル44a、44bは、それぞれ、下部パネル40及び上部パネル42に接合される。具体的には、サイドパネル44a、44bは、それぞれ、周縁部に沿ったシームライン73a、73bを下部パネル40及び上部パネル42に縫合される。
【0023】
図4A~Cに示すように、乗員保護装置30は、エアバッグクッション32内にインフレータ34を収容して、シートパン24に取り付けられる。この取り付け状態では、インフレータ34のスタッドボルト34aが、下部パネル40の中央取付け孔53を介してナットによってシートパン24に締結固定される。
【0024】
また、この取り付け状態では、下部パネル40及び上部パネル42は、各前方取付け孔51、61に挿通した留め具81を介してシートパン24の前方固定位置91に取り付けられる。同様に、下部パネル40及び上部パネル42は、各後方取付け孔52、52、62、62に挿通した留め具82、82を介してシートパン24の後方固定位置92に取り付けられる。前方固定位置91及び後方固定位置92は、例えば、シートパン24に形成された固定孔の位置である。なお、後方固定位置92は、正規の姿勢で着座する乗員との関係では、乗員の大腿部の尻に近い部分の下方となる。
【0025】
換言すると、エアバッグクッション32は、車両シート100側に取り付けられる前方取付点101(第1の取付点)と、前方取付点101の後方側で車両シート100側に取り付けられる二つの後方取付点102、102(第2の取付点)と、を有している。そして、前方取付点101は、下部パネル40及び上部パネル42の各前方取付け孔51、61で構成され、各後方取付点102は、下部パネル40及び上部パネル42の各後方取付け孔52、62で構成される。
【0026】
ここで、シートパン24における前方固定位置91と後方固定位置92との前後方向の距離は、下部パネル40の前方取付け孔51と後方取付け孔52との前後方向の距離と同じになっている。したがって、シートパン24に取り付けられた下部パネル40は、前方取付点101と後方取付点102との間では、平たく広げられた状態となっている。他方、下部パネル40よりも前後方向の長さが長い上部パネル42は、前方取付点101と後方取付点102との間において、たるみ又は折り返しができることになる。ここでは、上部パネル42は、平面視では折り返しが見えないような、平たく広げられた状態となり(特に
図4B参照)、留め具81、82の位置(前方取付点101及び後方取付点102の各位置)で内側に折り返され、前方取付点101と後方取付点102との間に部分的に互いに重なる部分を有している。
【0027】
図4Cに示すように、下部パネル40と上部パネル42とは、前方取付点101及び後方取付点102のそれぞれの近傍で互いに縫製により接合されている。下部パネル40と上部パネル42との、前方取付点101の近傍における縫製箇所(接合箇所)111は、前方取付点101よりも後方側に位置している。縫製箇所111は、例えば、前方取付点101から数cm程度の位置にある。前方取付点101は、縫製箇所111よりも外側(前側)に位置しているため、エアバッグクッション32の非膨張部分に位置付けられることになる。
【0028】
同様に、下部パネル40と上部パネル42との、後方取付点102の近傍における縫製箇所(接合箇所)112は、後方取付点102よりも前方側に位置している。縫製箇所112は、例えば、後方取付点102から数cm程度の位置にある。後方取付点102は、縫製箇所112よりも外側(後側)に位置しているため、エアバッグクッション32の非膨張部分に位置付けられることになる。
【0029】
このように、エアバッグクッション32では、前後方向では下部パネル40と上部パネル42とが縫製箇所111、112で縫合されている一方、左右方向ではサイドパネル44a、44bが下部パネル40及び上部パネル42に縫合されている。そして、下部パネル40、上部パネル42及びサイドパネル44a、44bによって、エアバッグクッション32の内部空間33が画成されている。
【0030】
なお、乗員保護装置30をシートパン24に取り付ける前では、
図4Aに示すように、下部パネル40及び上部パネル42の左右の側部をテープ121a、121bで束ねてもよい。こうすることで、乗員保護装置30を保管しやすい。また、テープ121a、121bを、エアバッグクッション32の膨張展開によって容易に破断するように形成して、テープ121a、121bで束ねた状態の乗員保護装置30をシートパン24に取り付けてもよい。
【0031】
図5は、膨張展開後のエアバッグクッション32を示している。エアバッグクッション32は、主として、前方取付点101と後方取付点102との間で膨張展開する。取付け時に上部パネル42にたるみ又は折り返しがあったために、エアバッグクッション32は、前方取付点101と後方取付点102との間における上方への膨らみが大きくなる。また、膨張展開したエアバッグクッション32では、車両シート100の側部の方向(左右方向)からみたとき、車両シート100の前後方向における前方側部分131よりも後方側部分132の方が高さ(上方への膨らみ)が大きくなる。これは、サイドパネル44a、44bが、前方側部分71よりも後方側部分72の方が高さが大きくなるように形成されていることによるものである。
【0032】
上述したように、エアバッグクッション32の後方取付点102は、正規の姿勢で座面26に着座する乗員200との関係では、乗員200の大腿部の尻に近い部分の下方に位置する。このため、膨張展開したエアバッグクッション32の後方側部分132は、座面26を介して乗員200の尻に近い大腿部近傍を持ち上げるようになる。このようにして、乗員200の膝を効果的に持ち上げて、乗員200の腰部の前方移動を抑制する。
【0033】
以上説明したとおり、本実施形態の一態様に係る乗員保護装置30は、エアバッグクッション32及びインフレータ34を備え、エアバッグクッション32は、内部空間を画成する下部パネル40、上部パネル42及びサイドパネル44a、44bを有し、上部パネル42は下部パネル40よりも前後方向の長さが長く、上部パネル42と下部パネル40とが前方取付点101及び後方取付点102のそれぞれの近傍で互いに接合されている。
【0034】
かかる態様のような、3D(三次元)の形状からなるエアバッグクッション32によれば、従来のような2Dの形状からなるエアバッグクッションに比べて、膨張展開した際の体積を全体として減らしつつ、前方取付点101と後方取付点102との間における上方への膨らみ(ストローク又は厚み)を増やすことができる。とりわけ、サイドパネル44a、44bの使用がこれに貢献し、また、上部パネル42と下部パネル40との接合を前方取付点101及び後方取付点102のそれぞれの近傍としていることがサイドパネル44a、44bを意図した大きさのストロークへと展開するのに有利となる。したがって、正規の姿勢で座面26に着座した乗員200の尻に近い大腿部近傍を、より大きなストロークで、効果的に押し上げることができる。よって、乗員200の腰部拘束性能を向上することができる。
【0035】
また、サイドパネル44a、44bが、エアバッグクッション32の膨張展開時に、車両シート100の側部の方向からみたとき、前方側部分71よりも後方側部分72の方が高さが大きくなるように形成されている。このため、膨張展開したエアバッグクッション32の後方側部分132の上方への膨らみが比較的大きくなる。これにより、乗員200の尻に近い大腿部近傍に対する押し上げを比較的大きくすることができ、より効果的な押し上げが可能となる。
【0036】
また、前方取付点101は、下部パネル40のみならず、上部パネル42にも構成されている。これにより、膨張展開時に、エアバッグクッション32の前方取付点101の近傍部分が必要以上に持ち上がる又は立ち上がるのを抑制することができる。また、同様に、後方取付点102は、下部パネル40のみならず、上部パネル42にも構成されている。これにより、膨張展開時に、エアバッグクッション32の後方取付点102の近傍部分が必要以上に持ち上がる又は立ち上がるのを抑制することができる。
【0037】
さらに、後方取付点102、102は、左右方向に離間した二つとなっている。このような構成も、膨張展開時に、エアバッグクッション32の後方取付点102の近傍部分が必要以上に持ち上がる又は立ち上がるのを抑制するのに寄与する。
【0038】
次に、
図6A~6Cを参照して、下部パネル40と上部パネル42とを接合する第1の縫製方法について説明する。
【0039】
図6Aは、前方取付点101の近傍における第1の縫製箇所111を拡大して示している。下部パネル40は、つまみ部301を有し、上部パネル42は、つまみカバー部311及び折り返し部313を有している。
【0040】
つまみ部301は、下部パネル40の、車両シート100の左右方向に延びる所定幅の一部分を上方に山折りされてなる部分である。具体的には、つまみ部301は、前方取付け孔51よりも後方側の下部パネル40の一部を上向きに又は外向きに所定長さだけ折り、さらに、下向きに又は内向きに所定長さだけ折り返すことで形成されている。
【0041】
つまみカバー部311は、上部パネル42の、車両シート100の左右方向に延びる所定幅の一部分を上方に山折りされてなる部分であり、つまみ部301を覆うように設けられる。具体的には、つまみカバー部311は、前方取付け孔61よりも後方側の上部パネル42の一部を上向きに又は外向きに所定長さだけ折り、さらに、下向きに又は内向きに所定長さだけ折り返すことで形成されている。つまみカバー部311の内側につまみ部301が配置される。
【0042】
折り返し部313は、上部パネル42に形成された、つまみカバー部311の後端から上方に又は外向きに折り返された部分である。折り返し部313は、つまみカバー部311の後側部分に対向するように配置される。
【0043】
第1の縫製箇所111では、縫合糸321によって、つまみ部301、つまみカバー部311及び折り返し部313が一緒に縫合される。これにより、つまみ部301、つまみカバー部311及び折り返し部313は、一体的に結合される。
【0044】
図6Bは、後方取付点102の近傍における第2の縫製箇所112を拡大して示している。第1の縫製箇所111と同様に、下部パネル40は、つまみ部331を有し、上部パネル42は、つまみカバー部341及び折り返し部343を有している。そして、第1の縫製箇所111と同様に、第2の縫製箇所112においても、縫合糸351によって、つまみ部331、つまみカバー部341及び折り返し部343が一緒に縫合され、これらが一体的に結合される。なお、第2の縫製箇所112におけるつまみ部331、つまみカバー部341及び折り返し部343の詳細な説明は省略する。
【0045】
図6Cに示すように、第1の縫製方法を使用したエアバッグクッション32が膨張展開した状態では、前方取付点101及び後方取付点102の各近傍部分が必要以上に持ち上がる又は立ち上がるのがより一層抑制される。具体的には、第1の縫製箇所111における上述の縫製によって、上部パネル42の前側部分が、
図6Cの矢印361に示すように、下方へと引き込まれるようになる。同様に、第2の縫製箇所112における上述の縫製によって、上部パネル42の後側部分が、
図6Cの矢印362に示すように、下方へと引き込まれるようになる。
【0046】
次に、
図7A~7Cを参照して、下部パネル40と上部パネル42とを接合する第2の縫製方法について説明する。
【0047】
図7Aは、前方取付点101の近傍における第1の縫製箇所111を拡大して示している。上部パネル42は、つまみ部401を有している。下部パネル40は、そのようなつまみ部を有していない。すなわち、下部パネル40は、前方取付点101の近傍に非つまみ部411を有している。
【0048】
つまみ部401は、上部パネル42の、車両シート100の左右方向に延びる所定幅の一部分を谷折りされてなる部分である。具体的には、つまみ部401は、前方取付け孔61よりも後方側の上部パネル42の一部を下向き又は内向きに所定長さだけ折り、さらに、上向き又は外向きに所定長さだけ折り返すことで形成されている。非つまみ部411は、つまみ部401の下側部分の下側に対向するように配置される。
【0049】
第1の縫製箇所111では、縫合糸421によって、つまみ部401及び非つまみ部411が一緒に縫合される。すなわち、つまみ部401の上側部分及び下側部分と非つまみ部411とが縫合糸421により縫合され、一体的に結合される。
【0050】
図7Bは、後方取付点102の近傍における第2の縫製箇所112を拡大して示している。第2の縫製箇所112では、
図6Bに示した第2の縫製箇所112と同じ縫製がなされている。
図7Bにおいて、
図6Bにおけるものと同じ符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0051】
図7Cに示すように、第2の縫製方法を使用したエアバッグクッション32が膨張展開した状態では、後方取付点102の近傍部分が必要以上に持ち上がる又は立ち上がるのがより一層抑制されることに加えて、上部パネル42の前側部分の立ち上がり位置が、矢印431に示すように、後方側へとずれるようになる。そして、その分、上部パネル42の後側部分の上部位置が、矢印432に示すように、斜め後ろ上方へとずれるようになる。結果、車両シート100の側部の方向からみたとき、エアバッグクッション32の後方側部分132の上方への膨らみがより大きくなる。したがって、乗員に対する腰部拘束性能がより向上する。
【0052】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
【0053】
例えば、前方取付点101の数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。同様に、後方取付点102の数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。また、前方取付点101及び後方取付点102は、下部パネル40にのみ構成することも可能である。
【符号の説明】
【0054】
1…シートバック、2…シートクッション、3…ヘッドレスト、4…リクライニング機構、10…シートフレーム、20…着座フレーム、22…サイドフレーム、24…シートパン、26…座面、30…乗員保護装置、32…エアバッグクッション、33…内部空間、34…インフレータ、34a…スタッドボルト、40…下部パネル、42…上部パネル、44a、44b…サイドパネル、51…前方取付け孔、52…後方取付け孔、53…中央取付け孔、61…前方取付け孔、62…後方取付け孔、71…前方側部分、72…後方側部分、73a、73b…シームライン、81、82…留め具、91…前方固定位置、92…後方固定位置、100…車両シート、101…前方取付点(第1の取付点)、102…後方取付点(第2の取付点)、111…第1の縫製箇所、112…第2の縫製箇所、121a、121b…テープ、131…前方側部分、132…後方側部分、200…乗員、301…つまみ部、311…つまみカバー部、313…折り返し部、321…縫合糸、331…つまみ部、341…つまみカバー部、343…折り返し部、351…縫合糸、361、362…矢印、401…つまみ部、411…非つまみ部、421…縫合糸、431、432…矢印