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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】時計用文字板および時計
(51)【国際特許分類】
   G04B 19/06 20060101AFI20231228BHJP
【FI】
G04B19/06 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023115472
(22)【出願日】2023-07-13
【審査請求日】2023-07-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502366745
【氏名又は名称】セイコーウオッチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】荒木 明子
(72)【発明者】
【氏名】永田 薫
(72)【発明者】
【氏名】原 康範
(72)【発明者】
【氏名】原 綾香
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-192900(JP,A)
【文献】特開2022-160378(JP,A)
【文献】特開2011-106927(JP,A)
【文献】特開2001-249189(JP,A)
【文献】特開2005-189019(JP,A)
【文献】特開2012-132719(JP,A)
【文献】特開2011-163844(JP,A)
【文献】特開2006-327897(JP,A)
【文献】特開2022-036481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面に、複数の凸部を有する表面装飾が形成され、
少なくとも1つの前記凸部は、前記第1主面に沿う第1方向に直交する第1断面において、頂点に向けて高さを増す第1斜面と、前記頂点から高さを減じる第2斜面との傾斜角度が異なり、
前記第1断面において、複数の前記凸部のうち2つ以上は、高さが互いに異なり、
前記第1主面に沿って前記第1方向と直交する第2方向に直交する第2断面において、前記凸部は2つ以上あり、
前記凸部は、平面視において少なくとも一部が曲線状の稜線を有し、
前記凸部は、前記稜線が曲線状とされた湾曲部を複数有し、
複数の前記湾曲部は、1または複数の第1湾曲部と、前記第1湾曲部とは反対側に凸となるように湾曲する1または複数の第2湾曲部と、を含む、
時計用文字板。
【請求項2】
第1主面に、複数の凸部を有する表面装飾が形成され、
少なくとも1つの前記凸部は、前記第1主面に沿う第1方向に直交する第1断面において、頂点に向けて高さを増す第1斜面と、前記頂点から高さを減じる第2斜面との傾斜角度が異なり、
前記第1断面において、複数の前記凸部のうち2つ以上は、高さが互いに異なり、
前記第1主面に沿って前記第1方向と直交する第2方向に直交する第2断面において、前記凸部は2つ以上あり、
前記第1方向に隣り合う前記凸部の頂点間距離と、前記第2方向に隣り合う前記凸部の頂点間距離とは異なり、
少なくとも1つの前記凸部は、前記第1斜面および前記第2斜面の前記第1主面に対する傾斜角度が、前記第2断面における斜面の前記第1主面に対する傾斜角度より大きい、
時計用文字板。
【請求項3】
第1主面に、複数の凸部を有する表面装飾が形成され、
少なくとも1つの前記凸部は、前記第1主面に沿う第1方向に直交する第1断面において、頂点に向けて高さを増す第1斜面と、前記頂点から高さを減じる第2斜面との傾斜角度が異なり、
前記第1断面において、複数の前記凸部のうち2つ以上は、高さが互いに異なり、
前記第1主面に沿って前記第1方向と直交する第2方向に直交する第2断面において、前記凸部は2つ以上あり、
前記第1斜面および前記第2斜面は、前記頂点に近づくにつれて高さ方向に対する傾斜角度が斜面全域で小さくなる形状、または、前記頂点に近づくにつれて前記傾斜角度が斜面全域で大きくなる形状である、
時計用文字板。
【請求項4】
前記第1断面において前記高さが互いに異なる2つ以上の前記凸部は、高さが極大となる前記頂点を有する、
請求項1に記載の時計用文字板。
【請求項5】
前記第1断面において前記高さが互いに異なる2つ以上の前記凸部は、高さが極大となる前記頂点を有する、
請求項2に記載の時計用文字板。
【請求項6】
前記第1断面において前記高さが互いに異なる2つ以上の前記凸部は、高さが極大となる前記頂点を有する、
請求項3に記載の時計用文字板。
【請求項7】
請求項1~6のうちいずれか1項に記載の時計用文字板を備える、
時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計用文字板および時計に関する。
【背景技術】
【0002】
時計用の文字板の表面には、時刻などを示すインデックスが形成される。インデックスは、文字板の表面に凸状に形成される(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-33568号公報
【文献】特開平2-189493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、文字板には、インデックスの他にも意匠性を高めるために凹凸による表面装飾を形成することがある。しかし、表面装飾は、製品の厚みから規定される外装ケース内の寸法や製造上の理由などにより、凹凸の高さが制約を受ける場合があった。そのため、前記文字板では、大きな凹凸を伴った表面装飾の装飾性を高めることは容易でなかった。
【0005】
本発明の一態様は、表面装飾の装飾性を高めることができる時計用文字板および時計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)第1主面に、複数の凸部を有する表面装飾が形成され、少なくとも1つの前記凸部は、前記第1主面に沿う第1方向に直交する第1断面において、頂点に向けて高さを増す第1斜面と、前記頂点から高さを減じる第2斜面との傾斜角度が異なり、前記第1断面において、複数の前記凸部のうち2つ以上は、高さが互いに異なり、前記第1主面に沿って前記第1方向と直交する第2方向に直交する第2断面において、前記凸部は2つ以上ある、時計用文字板。
【0007】
この構成によれば、前記第1斜面と前記第2斜面との傾斜角度が異なるため、これら2つの斜面のうち一方の斜面において光が当たりやすく、かつ他方の斜面において光が当たりにくくなるような設計が可能である。2つの斜面の明るさを任意に設定できるため、2つの斜面の明るさのコントラストを大きくできる。したがって、表面装飾に、深みがあって高級感のある外観を与えることができる。さらに、2つの斜面について設定可能な明るさの範囲が大きくなるため、文字板のデザインの自由度を高めることができる。よって、装飾性に優れた表面装飾を備えた文字板を実現できる。
【0008】
この構成によれば、2つ以上の凸部の高さが異なるため、光が当たる面積が大きい凸部と、光が当たる面積が小さい凸部とを混在させることができる。そのため、表面装飾に、単調でなく深みのある外観を与えることができる。さらに、凸部の高さが均一でないため、多様性ある表現が可能である。よって、文字板のデザインの自由度を高めることができる。よって、装飾性に優れた表面装飾を備えた文字板を実現できる。
【0009】
この構成によれば、第1断面だけでなく第2断面についても2つ以上の凸部があるため、表面装飾を構成する凸部は、複数方向について形成位置が多様化されている。よって、表面装飾に、単調でなく高級感のある外観を与えることができる。よって、装飾性に優れた表面装飾を備えた文字板を実現できる。
【0010】
(2)前記第1方向に隣り合う前記凸部の頂点間距離と、前記第2方向に隣り合う前記凸部の頂点間距離とは異なる(1)記載の時計用文字板。
【0011】
この構成によれば、頂点間距離が大きい方向については、文字板に当たる光の方向が変わっても、凸部における光が当たる部分の視認しやすさが変化しにくい。したがって、表面装飾によるインデックスの視認性への影響を小さく抑えることができる。よって、凹凸のある装飾を文字板に形成して装飾性を高めても、インデックスの視認しやすさは良好となる。
【0012】
(3)前記凸部は、平面視において少なくとも一部が曲線状の稜線を有する、(1)または(2)記載の時計用文字板。
【0013】
この構成によれば、凸部は、稜線の少なくとも一部が曲線状であるため、表面装飾に、単調でなく高級感のある外観を与えることができる。
【0014】
(4)前記第1主面は、透明な樹脂層で覆われている、(1)~(3)のうちいずれか1つに記載の時計用文字板。
【0015】
この構成によれば、表面装飾に、立体的で深みがある視覚効果を与えることができる。
【0016】
(5)(1)~(4)のうちいずれか1つに記載の時計用文字板を備える、時計。
【0017】
この構成によれば、装飾性に優れた表面装飾を備えた文字板を備える時計を実現できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、表面装飾の装飾性を高めることができる時計用文字板および時計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施形態に係る時計用文字板を有する時計の断面図である。
図2】第1実施形態に係る時計用文字板の平面図である。
図3】前図のI-I断面図である。
図4】第1実施形態に係る時計用文字板の一部断面状態の斜視図である。
図5】第1実施形態に係る時計用文字板の一部領域の平面図である。
図6】前図のII-II断面における高さ分布を示す図である。
図7図5の領域Aを拡大した平面図である。
図8】前図のIII-III断面における高さ分布を示す図である。
図9】第1実施形態に係る時計用文字板の一部領域の平面図である。
図10】前図のIV-IV断面における高さ分布を示す図である。
図11】第1実施形態に係る時計用文字板の一部領域の平面図である。
図12】前図のV-V断面における高さ分布を示す図である。
図13】第1実施形態に係る時計用文字板の一部領域の平面図および高さ分布を示す図である。
図14】第2実施形態に係る時計用文字板の断面図である。
図15】第2実施形態に係る時計用文字板における光の反射を説明する模式図である。
図16】他の実施形態に係る時計用文字板における光の反射を説明する模式図である。
図17】第2実施形態の第1変形例に係る時計用文字板の断面図である。
図18】第2実施形態の第2変形例に係る時計用文字板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
[時計]
図1は、実施形態に係る文字板3を有する時計1の断面図である。図2は、文字板3の平面図である。図3は、文字板3の断面図である。図3は、図2のI-I断面図である。
【0022】
図1に示すように、時計1は、時計ケース2と、文字板3と、指針4と、時計用ムーブメント5と、回転操作部7とを備える。
【0023】
時計ケース2(ケース)は、ケース本体10と、ガラス11と、ベゼル12と、裏蓋13とを備える。ケース本体10は、円筒状に形成されている。ガラス11は、ケース本体10の一方の開口を閉止する。ベゼル12は、ケース本体10の一方の開口端に設けられている。ケース本体10はガラス11を保持する。裏蓋13は、ケース本体10の他方の開口を閉止する。時計ケース2は、文字板3、指針4およびムーブメント5を収容する。
以下、図1に即して各構成の位置等を仮に定める。例えば、ガラス11は裏蓋13に対して上に位置する。ここに示す位置等は、時計1の使用時の姿勢を限定しない。
【0024】
指針4は、文字板3とガラス11との間に配置されている。指針4は、ムーブメント5の回転軸14に取り付けられている。ムーブメント5は、文字板3と裏蓋13との間に配置されている。ムーブメント5は、回転軸14を駆動する駆動源などを備える。回転軸14は、文字板3の中央から、文字板3に直交する方向に延びる。
【0025】
回転操作部7は、回転軸部71と、ヘッド部72とを備える。回転操作部7(りゅうず)は、ムーブメント5内の部品を回転動作させる。
【0026】
[時計用文字板](第1実施形態)
図2に示すように、文字板3(時計用文字板)は、円板状に形成されている。文字板3は、ガラス11を介して視認可能である(図1参照)。文字板3と直交する方向から見ることを平面視という。
【0027】
文字板3は、例えば、金属、セラミックス、ガラス、およびプラスチックのうち1または2以上で形成される。文字板3を構成する金属としては、例えば、(A)銅、(B)鉄、(C)チタン、(D)金、(E)銀、(F)白金、および(G)ニッケルのうち1または2以上、または、(A)から(G)のうち1または2以上を主成分とする合金を挙げることができる。「主成分」は、例えば、全体に対して50質量%を越える成分である。これらの材料を使用することにより、文字板3の加工を容易にし、低コスト化を図ることができる。
【0028】
文字板3の中央には、回転軸14が挿通する中央孔3cが形成されている。中央孔3cは文字板3を厚さ方向に貫通する。
【0029】
文字板3の上面3a(第1主面)には、複数のインデックス23が形成されている。インデックス23は、例えば、時刻を示す表示である。複数のインデックス23は、例えば、文字板3の外周縁に近い位置に、文字板3の周方向に間隔をおいて形成されている。複数のインデックス23は、例えば、1時~12時の位置にそれぞれ形成されている。インデックス23は、文字板3と一体的に形成されている。
【0030】
インデックス23の形状は特に限定されない。インデックス23は、例えば、図形、文字、記号などの形状を有する。インデックス23は、例えば、平面視において、文字板3の径方向に沿うバー状であってもよいし、円形状、多角形状(例えば、三角形状、矩形状、台形状)、数字(アラビア数字、ローマ数字など)形状などであってもよい。インデックス23は、アワーマークともいう。
図3に示すように、インデックス23は、文字板3の上面3aから上方に突出して形成されている。
【0031】
インデックス23の形成法は特に限定されない。インデックス23は、文字板3をプレス加工することなどによって凸状に形成することができる。インデックス23は、文字板3の製造時に、表面の切削加工によって形成することもできる。文字板3がプラスチックなどからなる場合、インデックス23は、射出成形などの成型法により形成することもできる。また、インデックス23は、電鋳や転写により形成することもできる。
【0032】
インデックス23の表面には、蓄光性材料を含む表示層が形成されていてもよい。蓄光性材料は、光の刺激を受けてエネルギーを吸収し、吸収したエネルギーを可視光に変換して、刺激停止後も光を放出する。蓄光性材料からなる表示層の採用により、暗所でもインデックス23を視認しやすくなる。表示層は、文字板3とは異なる色を呈すると、表示層の視認性を高めることができる。表示層は、蛍光材料によって形成してもよい。表示層は、印刷、塗装などによって形成することができる。表示層は、インデックス23とは別体であって、インデックス23の表面に貼り付けられていてもよい。
【0033】
図4は、文字板3の一部断面状態の斜視図である。図5は、文字板3の一部領域の平面図である。図5における左右方向(横方向)はX方向(第1方向)である。X方向は、上面3aに沿う方向であって、文字板3の3時の位置と9時の位置とを通る方向である。図5における上下方向(縦方向)はY方向(第2方向)である。Y方向は、上面3aに沿う方向であって、X方向に直交する方向である。Y方向は、文字板3の6時の位置と12時の位置とを通る方向である。Z方向は、X方向およびY方向と直交する方向である。X方向およびY方向によって規定される面は、XY平面である。Z方向は上下方向(高さ方向)である。図5は、上面3aのうち横8mm×縦6mmの矩形領域を示す。図6は、図5のII-II断面における高さ分布を示す図である。図6は、X方向に直交する第1断面における高さ分布を示す。
【0034】
文字板3においてX方向に沿う9時から3時への向きは+Xの向きである(図2参照)。+Xの向きとは反対の向きは-Xの向きである。Y方向に沿う6時から12時への向きは+Yの向きである(図2参照)。+Yの向きとは反対の向きは-Yの向きである。
【0035】
図4に示すように、文字板3の上面3a(第1主面)には、凹凸によって表面装飾31が施されている。表面装飾31の形状は、特に限定されない。表面装飾31は、波模様、縞模様、格子模様、水玉模様、木目調模様、石目調模様、幾何学模様、ランダム模様などの模様であってよい。表面装飾31は、例えば、動植物等をデザイン化した図形を示すものであってもよい。表面装飾31は、文字板3の製造時に、プレス加工、成型、切削加工などにより形成することができる。
【0036】
図4および図5に示すように、表面装飾31は、複数の凸部32を有する。凸部32は、所定方向に延在する。本実施形態では、表面装飾31は、図5に示す領域内のII-II線上に、複数の凸部32である第1凸部32A~第8凸部32Hを有する。第1凸部32A~第8凸部32Hは、Y方向にこの順に並ぶ。第1凸部32A~第8凸部32Hは、例えば、Y方向に間隔をおいて形成されている。凸部32は、次に示す条件(1)~(3)を満たす。
【0037】
(1)第1断面における凸部の高さ
図6に示すように、第1断面において、第1凸部32A~第8凸部32Hのうち2つ以上は、高さが互いに異なる。例えば、第1凸部32A~第8凸部32Hは、高さが互いに異なる。P1~P8は、それぞれ第1凸部32A~第8凸部32Hの頂点である。凸部32の高さは、文字板3における基準高さ位置(例えば、図5に示す領域において上面3aのうち最低高さ位置)に対する頂点の高さである。例えば、第5凸部32Eの高さは、基準高さ位置に対する頂点P5の高さHである。
【0038】
(2)第1断面における少なくとも1つの凸部の斜面の傾斜角度
第1断面における凸部32の形状は、例えば、第1斜面32aと第2斜面32bとを有する逆V字形状である。少なくとも1つの凸部32は、第1断面において、第1斜面32aと第2斜面32bとの傾斜角度が異なる。本実施形態では、少なくとも第5凸部32Eがこの条件に合致する。第1凸部32A~第8凸部32Hは、すべてが「第1斜面32aと第2斜面32bとの傾斜角度が異なる」に該当することが好ましい。第1凸部32A~第8凸部32Hは、これらのうち少なくとも1つがこの条件に合致すればよい。
【0039】
第5凸部32Eの第1斜面32aは、-Yの向きに頂点P5に向けて徐々に高さを増す。第5凸部32Eの第2斜面32bは、-Yの向きに頂点P5から徐々に高さを減じる。第2斜面32bは、第5凸部32Eにおける第1斜面32aと反対側の斜面である。第1斜面32aおよび第2斜面32bは、XY平面に対して傾斜している。
【0040】
図7は、図5の領域Aを拡大した平面図である。図8は、図7のIII-III断面における高さ分布を示す図である。
図8に示すように、第5凸部32Eの第1斜面32aの傾斜角度αは、第2斜面32bの傾斜角度βより大きい。傾斜角度α、βは、Z方向に対する角度である。
【0041】
第1斜面32aおよび第2斜面32bは、例えば、全高さにわたって一定の傾斜角度を有していてもよいし、傾斜角度が一定でなくてもよい。本実施形態では、第1斜面32aおよび第2斜面32bは、全高さにわたって一定の傾斜角度を有する。
【0042】
第1斜面32aおよび第2斜面32bは、第1断面において、頂点に近づくにつれて傾斜角度(Z方向に対する角度)が小さくなる形状(湾曲凹状)であってもよい。第1斜面32aおよび第2斜面32bは、第1断面において、頂点に近づくにつれて傾斜角度(Z方向に対する角度)が大きくなる形状(湾曲凸状)であってもよい。
【0043】
第1斜面32aの傾斜角度αは、例えば、第1斜面32aの最高点における接線の角度(Z方向に対する角度)であってもよい。第2斜面32bの傾斜角度βは、例えば、第2斜面32bの最高点における接線の角度(Z方向に対する角度)であってもよい。第1斜面32aおよび第2斜面32bの傾斜角度は、全高さの平均傾斜角度であってもよい。
【0044】
第1断面における凸部32の形状は、逆V字形状に限らない。第1断面における凸部の形状は、逆V字形状の凸部から頂部を含む部分を切除した形状(台形状)であってもよい。台形状の凸部は、天面と、天面の周縁から斜め下に延びる第1斜面および第2斜面を有する形状とされる。天面は、例えば、XY平面に沿う平坦面である。複数の凸部は、高さが同一でなくてもよい。すなわち、複数の凸部のうち2つ以上は、高さが互いに異なっていてもよい。
【0045】
(3)第2断面における凸部の数
図9は、文字板3の一部領域の平面図である。図9における左右方向(横方向)はX方向(第1方向)である。図9における上下方向(縦方向)はY方向(第2方向)である。図9は、上面3aのうち横8mm×縦6mmの矩形領域を示す。図10は、図9のIV-IV断面における高さ分布を示す図である。図10は、Y方向に直交する第2断面における高さ分布を示す。
【0046】
図9および図10に示すように、第2断面において、凸部32は2つ以上ある。本実施形態では、表面装飾31は、図9に示す領域内のIV-IV線上に、複数の凸部32である第1凸部32Iおよび第2凸部32Jを有する。P11,P12は、それぞれ第1凸部32Iおよび第2凸部32Jの頂点である。第1凸部32Iおよび第2凸部32JはX方向に並ぶ。第1凸部32Iと第2凸部32Jとは、例えば、X方向に間隔をおいて形成されている。凸部32の数は、3つ以上であってもよい。本実施形態では、文字板3の一部領域について第2断面における凸部32の数が2つ以上であるが、第2断面における凸部32の数は、X方向の全長について2つ以上あればよい。
【0047】
図11は、文字板3の一部領域の平面図である。図11は、図9と同じ領域の平面図である。図12は、図11のV-V断面における高さ分布を示す図である。図11のV-V断面は、図9のIV-IV断面とはY方向の位置が異なる断面である。図12は、Y方向に直交する第2断面における高さ分布を示す。
【0048】
図11および図12に示すように、第2断面において、凸部32は2つ以上ある。本実施形態では、表面装飾31は、図11に示す領域内のV-V線上に、複数の凸部32である第3凸部32Kおよび第4凸部32Lを有する。P13,P14は、それぞれ第3凸部32Kおよび第4凸部32Lの頂点である。第3凸部32Kおよび第4凸部32LはX方向に並ぶ。第3凸部32Kと第4凸部32Lとは、例えば、X方向に間隔をおいて形成されている。凸部32の数は、3つ以上であってもよい。本実施形態では、文字板3の一部領域について第2断面における凸部32の数が2つ以上であるが、第2断面における凸部32の数は、X方向の全長について2つ以上あればよい。
【0049】
本実施形態では、表面装飾31は、2つの第2断面(図9のIV-IV断面、および図11のV-V断面)について凸部32が2つ以上あるが、表面装飾31は、3つ以上の第2断面について凸部32の数は2つ以上であってもよい。
【0050】
凸部32は、次に示す条件(4)、(5)を満たすことが好ましい。
【0051】
(4)X方向(第1方向)に隣り合う凸部の頂点間距離と、Y方向(第2方向)に隣り合う凸部の頂点間距離との関係
図13は、文字板3の一部領域の平面図および高さ分布を示す図である。図13(A)は、文字板3の一部領域の平面図を示す。図13(B)は、図13(A)のVI-VI断面(第1断面)における高さ分布を示す図である。図13(C)は、図13(A)のVII-VII断面(第2断面)における高さ分布を示す図である。
【0052】
図13(A)に示すように、表面装飾31は、図13(A)に示す領域内のVI-VI線上に、複数の凸部32である第1凸部32M~第7凸部32Sを有する。P15~P21は、それぞれ第1凸部32M~第7凸部32Sの頂点である。第1凸部32M~第7凸部32Sは、Y方向にこの順に並ぶ。第1凸部32M~第7凸部32Sのうち隣り合う2つの凸部32の頂点間距離を「第1頂点間距離」という。第1頂点間距離は、Y方向(第2方向)に隣り合う2つの凸部32の頂点間距離である。
【0053】
図13(B)に示すように、第1頂点間距離は、例えば、頂点間距離W1~W6の平均値である。頂点間距離W1は第1凸部32Mと第2凸部32Nとの頂点間距離である。頂点間距離W2は第2凸部32Nと第3凸部32Oとの頂点間距離である。頂点間距離W3は第3凸部32Oと第4凸部32Pとの頂点間距離である。頂点間距離W4は第4凸部32Pと第5凸部32Qとの頂点間距離である。頂点間距離W5は第5凸部32Qと第6凸部32Rとの頂点間距離である。頂点間距離W6は第6凸部32Rと第7凸部32Sとの頂点間距離である。
【0054】
図13(A)に示すように、表面装飾31は、図13(A)に示す領域内のVII-VII線上に、複数の凸部32である第4凸部32Pおよび第8凸部32Tを有する。P18,P22は、それぞれ第4凸部32Pおよび第8凸部32Tの頂点である。第4凸部32Pおよび第8凸部32Tは、X方向に並ぶ。第4凸部32Pと第8凸部32Tとの頂点間距離を「第2頂点間距離」という。
【0055】
図13(C)に示すように、第2頂点間距離は、X方向(第1方向)に隣り合う2つの凸部32の頂点間距離L1である。
凸部32の数は、3つ以上であってもよい。本実施形態では、凸部32の数は2つであるためL1が第2頂点間距離となるが、凸部32の数が3つ以上である場合、第2頂点間距離は、例えば、隣り合う凸部32の頂点間距離の平均値である。
【0056】
第1頂点間距離(例えば、図13(B)に示すW1~W6の平均値)と、第2頂点間距離(例えば、図13(C)に示すL1)とは異なる。本実施形態では、第2頂点間距離は第1頂点間距離より大きい。
本実施形態では、第2頂点間距離が第1頂点間距離より大きいが、第1頂点間距離が第2頂点間距離より大きくてもよい。
【0057】
(5)凸部の稜線の形状
図4に示すように、凸部32は、稜線33を有する。稜線33は、凸部32の第1斜面32aと第2斜面32bとの境界線である。稜線33は、凸部32の延在方向に直交する複数の断面における頂点を結んで得られる線である。稜線33は、凸部32の延在方向に、全長にわたって形成される。
【0058】
図5に示すように、稜線33は、少なくとも一部が曲線状に形成されている。曲線状とは、例えば、円弧状、楕円弧状、高次曲線状(放物線状、双曲線状など)等である。稜線33は、例えば、少なくとも1つの湾曲部を有する。湾曲部は曲線状とされている。稜線33は、例えば、第1湾曲部33aと、第2湾曲部33bと、第3湾曲部33cとを有する。第1湾曲部33aと、第2湾曲部33bと、第3湾曲部33cとは、凸部32の長さ方向にこの順に並ぶ。第1湾曲部33aは、一方側(+Yの向き)に凸となるよう湾曲する。第2湾曲部33bは、他方側(-Yの向き)に凸となるよう湾曲する。第3湾曲部33cは、一方側(+Yの向き)に凸となるよう湾曲する。
なお、本実施形態では、凸部32は少なくとも一部が曲線状とされた稜線33を有するが、直線状の稜線を有する凸部を採用してもよい。
【0059】
稜線33は、1または複数の第1湾曲部と、前記第1湾曲部とは反対側に凸となるよう湾曲する1または複数の第2湾曲部とを組み合わせた形状であってよい。
【0060】
文字板3の上面3aには、表面処理を施してもよい。表面処理は、例えば、塗装、印刷、湿式めっき、乾式めっきのうち少なくとも1つによって形成することができる。乾式めっきとしては、物理気相成長法(PVD:physical vapor deposition)、化学気相成長法(CVD:chemical vapor deposition)が挙げられる。これらの表面処理によって、文字板3の意匠性を高めることができる。
【0061】
[実施形態に係る文字板が奏する効果]
本実施形態の文字板3は、複数の凸部32を有する表面装飾31が形成されている。表面装飾31は、次の構成を有する。(i)少なくとも1つの凸部32は、第1断面において、第1斜面32aの傾斜角度αと第2斜面32bの傾斜角度βとが異なる(図8参照)。(ii)第1断面において、複数の凸部32のうち2つ以上は、高さが互いに異なる(図6参照)。(iii)第2断面において、凸部32は2つ以上ある(図10参照)。
【0062】
構成(i)によれば、2つの斜面32a,32bのうち一方の斜面において光が当たりやすく、かつ他方の斜面において光が当たりにくくなるような設計が可能である。2つの斜面32a,32bの明るさを任意に設定できるため、2つの斜面32a,32bの明るさのコントラストを大きくできる。したがって、表面装飾31に、深みがあって高級感のある外観を与えることができる。さらに、2つの斜面32a,32bについて設定可能な明るさの範囲が大きくなるため、文字板3のデザインの自由度を高めることができる。よって、装飾性に優れた表面装飾31を備えた文字板3を実現できる。
【0063】
構成(ii)によれば、2つ以上の凸部32の高さが異なるため、光が当たる面積が大きい凸部32と、光が当たる面積が小さい凸部32とを混在させることができる。そのため、表面装飾31に、単調でなく深みのある外観を与えることができる。さらに、凸部32の高さが均一でないため、多様性ある表現が可能である。よって、文字板3のデザインの自由度を高めることができる。よって、装飾性に優れた表面装飾31を備えた文字板3を実現できる。
【0064】
構成(iii)によれば、第1断面だけでなく第2断面についても2つ以上の凸部32があるため、表面装飾31を構成する凸部32は、複数方向について形成位置が多様化されている。よって、表面装飾31に、単調でなく高級感のある外観を与えることができる。よって、装飾性に優れた表面装飾31を備えた文字板3を実現できる。
【0065】
文字板3では、Y方向(第2方向)に隣り合う2つの凸部32の頂点間距離(図13(B)参照)と、X方向(第1方向)に隣り合う2つの凸部32の頂点間距離(図13(C)参照)とが異なる。そのため、頂点間距離が大きいY方向(第2方向)については、文字板3に当たる光の方向が変わっても、凸部32における光が当たる部分の視認しやすさが変化しにくい。したがって、表面装飾31によるインデックス23の視認性への影響を小さく抑えることができる。よって、凹凸のある表面装飾31を文字板3に形成して装飾性を高めても、インデックス23の視認しやすさは良好となる。
【0066】
凸部32は、平面視において少なくとも一部が曲線状の稜線33を有する。凸部32は、稜線33の少なくとも一部が曲線状であるため、表面装飾31に、単調でなく高級感のある外観を与えることができる。
【0067】
文字板3は、プレス加工などにより、インデックス23とともに表面装飾31を形成することができる。文字板3は、製造工程の数を少なくできるため、量産性、加工容易性などの点で優れている。文字板3は、製造工程の数を少なくできるため、低コスト化を図ることができる。また、文字板3は、電鋳や転写により製造してもよい。
【0068】
時計1は、文字板3を備える。そのため、前述のように、装飾性に優れた表面装飾31を備えた文字板3を備えた時計1を実現できる。
【0069】
[時計用文字板](第2実施形態)
図14は、第2実施形態に係る文字板103の一部断面図である。図15は、文字板103における光の反射を説明する模式図である。第1実施形態と共通の構成については、同じ符号を付して説明を省略する。
【0070】
図14に示すように、文字板103では、上面3aは、透明な樹脂層41で覆われている。文字板103は、樹脂層41が形成されていること以外は、第1実施形態の文字板3(図3参照)と同様の構成である。透明とは、例えば、可視光線の全波長域(380nm~780nm)で、可視光線の厚さ方向の透過率(JIS K 7375:2008参照)が50%以上となることである。
【0071】
樹脂層41は、表面装飾31を保護するとともに、表面装飾31に立体的で深みがある視覚効果を与える。樹脂層41は、例えば、ポリオレフィン樹脂(ポリプロピレンなど)、ABS樹脂、アクリル系樹脂などの熱可塑性樹脂により形成される。樹脂層41は、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂により形成されてもよい。
【0072】
樹脂層41は、例えば、次のようにして形成することができる。樹脂を未硬化の状態で文字板3の上面3aに塗布し、この樹脂を硬化させる。これにより、樹脂層41が形成される。必要に応じて樹脂層41の表面を研磨する。研磨により樹脂層41の表面凹凸を小さくし、樹脂層41に光沢を与えることができる。
【0073】
[実施形態に係る文字板が奏する効果]
本実施形態の文字板103では、第1実施形態の文字板3と同様の効果に加えて、次に示す効果を奏する。
図15に示すように、文字板103では、上面3aが透明な樹脂層41で覆われている。文字板103に照射された照射光51の一部は、樹脂層41の表面で反射して第1反射光52となる。照射光51の他の一部は、樹脂層41の表面を通過して表面装飾31に当たり、表面装飾31の表面で反射して第2反射光53として出射する。反射点の高さ位置が異なる複数の反射光(第1反射光52および第2反射光53)が出射するため、表面装飾31に、立体的で深みがある視覚効果を与えることができる。
【0074】
図16は、他の実施形態に係る文字板203の一部断面図である。図16は、文字板203における光の反射を説明する模式図である。
図16に示すように、文字板203は、樹脂層41がないこと以外は文字板103(図15参照)と同様の構成である。文字板203では、樹脂層がないため2種類の反射は生じない。そのため、立体的な視覚効果は生じにくい。
【0075】
図17は、第2実施形態の第1変形例に係る文字板303の断面図である。
図17に示すように、文字板303では、樹脂層41Aは、上面3aのうちインデックス23を除く領域に形成されている。
文字板303では、樹脂層41Aを薄く形成できるため、全体を薄型化できる。文字板303では、インデックス23が樹脂層41Aに覆われていないため、インデックス23を視認しやすくなるという利点もある。
【0076】
図18は、第2実施形態の第2変形例に係る文字板403の断面図である。
図18に示すように、文字板403では、樹脂層41Bは、上方に凸となる湾曲形状の表面を有する。
文字板403では、湾曲形状の表面を有する樹脂層41Bを有するため、視覚効果を高めることができる。
【0077】
本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されず、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。例えば、図3に示す文字板3は下面が平坦であるが、文字板3の下面のインデックス23に相当する位置に凹部が形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1…時計
3,103,303,403…文字板(時計用文字板)
3a…上面(第1主面)
31…表面装飾
32…凸部
33…稜線
41,41A,41B…樹脂層
α…傾斜角度
β…傾斜角度
【要約】
【課題】時計用文字板および時計を提供する。
【解決手段】時計用文字板3は、第1主面に、複数の凸部32を有する表面装飾が形成されている。少なくとも1つの凸部32は、第1方向Xに直交する第1断面において、頂点P5に向けて高さを増す第1斜面32aと、頂点P5から高さを減じる第2斜面32bとの傾斜角度α,βが異なる。第1断面において、複数の凸部32のうち2つ以上は、高さが互いに異なる。第1主面に沿って第1方向Xと直交する第2方向Yに直交する第2断面において、凸部32は2つ以上ある。
【選択図】図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15
図16
図17
図18