(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】金属溶湯濾過ユニット設置用治具
(51)【国際特許分類】
C22B 9/02 20060101AFI20231228BHJP
【FI】
C22B9/02
(21)【出願番号】P 2023560192
(86)(22)【出願日】2023-05-01
(86)【国際出願番号】 JP2023017073
【審査請求日】2023-09-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北川 諭
(72)【発明者】
【氏名】高岡 稔
(72)【発明者】
【氏名】中本 健介
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-165027(JP,A)
【文献】特開2015-021164(JP,A)
【文献】米国特許第5741422(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 9/02
C22B 21/06
B22D 43/00
B01D 35/02
B01D 39/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
濾過室の炉床に戴置された金属溶湯濾過ユニットを濾過室の内壁面に沿った所定位置に移動・押圧するための金属溶湯濾過ユニット設置用治具であって、
前記金属溶湯濾過ユニットは、少なくとも一方の端部に扁平な略直方体形状の側板を含んで構成されたものであり、
前記治具は、ケーシング、一対の帯板状のダウンプレートおよび油圧ジャッキを含み、
i)前記ケーシングは、前記治具が前記金属溶湯濾過ユニットに装着された状態において、少なくとも、前記側板の上面;この側板の上面の短手方向の周縁に接する末端面の一部;および、この側板の上面の長手方向の周縁に接する各面の一部に対して、側板のこれらの箇所を連続的に被覆可能なように形成されており、
かつ、前記ケーシングの前記側板の上面の短手方向の周縁に接する末端面の一部を被覆する部分、および前記ケーシングの前記側板の上面の長手方向の周縁に接する各面の一部を被覆する部分の両方が、連続的に前記ケーシングの前記側板の上面を被覆する部分から略鉛直下方に向かって屈曲されており、
ii)前記一対の
帯板状のダウンプレートは、前記ケーシングの長手方向の両端から略等距離を隔てた2つの位置にて、略鉛直下方に向かって延出しており、前記治具が前記金属溶湯濾過ユニットに装着された状態において、それぞれのダウンプレートが、前記側板の末端面に当接可能なように形成されており、
iii)前記油圧ジャッキは、1つの油圧ポンプ、およびこの1つの油圧ポンプから伸出し分岐した2本の油圧管を介して連結された一対の押圧部を含み、前記治具が前記金属溶湯濾過ユニットに装着された状態において、前記一対の押圧部は、それぞれ、前記一対の
帯板状のダウンプレートの各々の側板との非当接面の下方に配置可能なように構成されている、
金属溶湯濾過ユニット設置用治具。
【請求項2】
前記金属溶湯濾過ユニットが前記治具によって濾過室の内壁面に沿った所定位置にて押圧される際に、押圧状態を保持し、前記金属溶湯濾過ユニットの前記所定位置からの移動を防止する固定具である楔を挿入可能なように、前記一対の
帯板状のダウンプレート間に所定の空間が形成されている、請求項1に記載の金属溶湯濾過ユニット設置用治具。
【請求項3】
前記油圧ポンプから伸出した油圧管が分岐する箇所の近傍に油圧計が設置されている、請求項1に記載の金属溶湯濾過ユニット設置用治具。
【請求項4】
前記ケーシングが、前記側板の上面の短手方向の周縁に接する非末端面の一部に対しても被覆可能なように形成されており、それによって前記ケーシングが、前記側板の上面およびその周縁に接する全ての面の一部を連続的に被覆することが可能であるように構成されている、請求項1に記載の金属溶湯濾過ユニット設置用治具。
【請求項5】
前記一対の
帯板状のダウンプレートの各々が前記ケーシング上で延出している位置から前記ケーシングの長手方向の近い方の各端部までの距離をn
1、および、この位置から前記ケーシングの中心点までの距離をmとするとき、n
1のmに対する比率が0.2以上6以下の範囲になるように設定される、請求項1に記載の金属溶湯濾過ユニット設置用治具。
【請求項6】
前記ケーシングが上部に把持部を備えている、請求項1に記載の金属溶湯濾過ユニット設置用治具。
【請求項7】
前記把持部が、前記ケーシングの前記ダウンプレートが形成された方向とは反対側の上部に配設されている、請求項6に記載の金属溶湯濾過ユニット設置用治具。
【請求項8】
前記ケーシングが、前記側板の上面の長手方向の周縁に接する箇所の近傍に
て曲面を有する、請求項1に記載の金属溶湯濾過ユニット設置用治具。
【請求項9】
前記油圧ジャッキによる押圧力が所定の上限以下に設定されている、請求項1に記載の金属溶湯濾過ユニット設置用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属溶湯濾過ユニットを濾過室内に設置するための治具、より詳細には、濾過室の炉床に戴置された状態の金属溶湯濾過ユニットを、濾過室の内壁面に沿った所定位置に移動・押圧するための金属溶湯濾過ユニット設置用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳物の製造に用いられるアルミニウム等の金属溶湯には、通常、不純物として水素や酸化物等の非金属の介在物が含まれる。例えば、金属溶湯中の溶存水素は鋳物中にポロシティーと呼ばれる鋳巣を形成し、また酸化物等は鋳物中の介在物となり得る。これらの鋳巣や介在物は、いずれも鋳物の破壊起点となり得るため好ましくない。そこで、金属溶湯を濾過し、当該金属溶湯に含まれる介在物等を除去するための濾過装置が開発されてきた。
【0003】
この目的を達するため、典型的には、金属溶湯から不純物を濾過するための複数のセラミックス製の濾過チューブを有する金属溶湯濾過ユニットが、入湯口および出湯口が設けられた濾過室内に戴置された金属溶湯濾過装置が用いられている(例えば、特許文献1参照)。このような金属溶湯濾過ユニットは、一般的に、複数のセラミックス製濾過チューブ、及び、この複数の濾過チューブの長手方向の両端にて互いに略平行に配設された一対の側板から構成されている。濾過室の入湯口から濾過室内に導入された金属溶湯は、一方の側板が設けられた濾過チューブの周壁面から入湯し、そこで不純物が濾過され、他方の側板が設けられた濾過チューブの逆側の末端から出湯し、次いで濾過室の出湯口から流出する。
【0004】
このような金属溶湯濾過装置を用いて金属溶湯の濾過作業を実行する準備として、まず吊り治具等を用いて金属溶湯濾過ユニットを濾過室外から濾過室内の炉床に移設・戴置する。次いで、濾過済み金属溶湯と未濾過の金属溶湯との混合(金属溶湯濾過ユニットからの濾過済み金属溶湯の漏出)が確実に防止され得るように、この金属溶湯濾過ユニットを濾過室の出湯口に連通した内壁面に沿った所定位置に移動し、押圧・密着させることが求められる。例えば、特許文献1に開示された複数のセラミックス製濾過チューブ及び一対の側板から構成された金属溶湯濾過ユニットが濾過室内に戴置された金属溶湯濾過装置において、金属溶湯濾過ユニットの出湯方向に設けられた側板は、濾過室の出湯口に連通した内壁面の所定位置に例えばパッキンを介して間隙なく確実に押圧されていることが望まれる。
【0005】
金属溶湯濾過ユニットを濾過室の出湯口に連通した内壁面に沿った所定位置に移動するための構成として、例えば、金属溶湯濾過ユニットの入湯方向(出湯方向とは逆側)の側板の上面および入湯側の端面を部分的に被覆するケーシングと、このケーシングによって部分的に被覆された金属溶湯濾過ユニットを所定位置に移動可能な圧力を与える油圧ジャッキまたはパンダグラフ式ジャッキとを備えた金属溶湯濾過ユニットの設置装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上で提案されているような金属溶湯濾過ユニットの設置装置を用いて、金属溶湯濾過ユニットの出湯方向の側板と、濾過室の出湯口に連通した内壁面とをパッキンを介して間隙なく密着させるよう試みるにあたり、濾過ユニットをその配置の向きを保持したまま移動させるためには、入湯方向の側板を部分的に被覆するケーシング上の少なくとも2つの位置に油圧ジャッキの押圧部である油圧シリンダを設置することが望まれる。
【0008】
しかし、上述のような金属溶湯濾過ユニットの入湯方向の側板を被覆するケーシング上に、油圧ジャッキによる押圧箇所を複数個、例えば2個存在させる場合、通常、これら2つの押圧箇所を加圧するための油圧ポンプを2つ個別に設けることが必要になる。この場合、加圧力の制御系統も2つ個別に存在することになる。このように2つ個別に存在する油圧ポンプおよび加圧力の制御系統に起因して、不都合なことに、2つの押圧箇所での加圧力の不均衡および/または加圧タイミングのズレが発生し易くなる。そのため、金属溶湯濾過ユニット全体を濾過室内の所定位置に向かって、出湯方向の側板の末端面と濾過室の出湯口に連通した内壁面とが略平行である状態を保持しつつ移動させることがしばしば難しくなる。その結果、金属溶湯濾過ユニット出湯方向の側板の末端面と濾過室の出湯口に連通した内壁面とがパッキンを介して面内均一に加圧されない状態で固定され、それにより、濾過済み金属溶湯の金属溶湯濾過ユニットからの出湯の際の気密性が損なわれ、濾過済み金属溶湯の漏出が起こり、濾過の効率性が低下する恐れがあった。
【0009】
また、金属溶湯濾過ユニットの出湯側の側板と濾過室の出湯口に連通した内壁面とをパッキンを介して押圧する際に、側板の末端面と濾過室の内壁面との距離を測定し監視する手段を設けることで、金属溶湯濾過ユニットを適切な位置へ設置する手法が提案されている。しかし、このような手法によっては、不都合なことに、金属溶湯濾過ユニットの押圧を十分均等に行うことが難しく、また装置構成の複雑化による故障のリスクも高くなる恐れがあった。
【0010】
従って、本発明が解決すべき課題は、上記不都合が解消された、すなわち、濾過室の炉床に戴置された金属溶湯濾過ユニットの全体を濾過室内の内壁面に沿った所定位置に向かって、複数の押圧箇所での加圧力の不均衡および/または加圧タイミングのズレを生じることなく、出湯方向の側板の末端面と濾過室の出湯口に連通した内壁面とが略平行である状態を保持しつつ移動させることが可能であり、かつ、単純な装置構成を備える金属溶湯濾過ユニット設置用治具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究した結果、少なくとも一方の端部に扁平な略直方体形状の側板を含んで構成された金属溶湯濾過ユニット(本明細書の全体において、単に「濾過ユニット」と称することもある)を、濾過室の炉床に戴置した後に濾過室の内壁面に沿った所定位置に移動・押圧するための治具の設計にあたって、ケーシング、このケーシングの長手方向の両端から略等距離を隔てた2つの位置にて略鉛直下方に向かって延出した一対の帯板状のダウンプレート、ならびに1つの油圧ポンプおよびそこから伸出し分岐した2本の油圧管を介して連結された一対の押圧部を含む油圧ジャッキを含むように構成し、この治具が金属溶湯濾過ユニットに装着された状態において(1)側板の上面および上面の長手方向の周縁近傍を含む所定箇所を連続的に被覆可能なように、すなわち側板の上部構造に合致した形状を有するようにケーシングを形成し、かつ(2)側板の濾過ユニット末端面(入湯側の面)に当接可能なようにダウンプレートを形成し、かつ(3)1つの油圧ポンプから分岐した分岐した一対の押圧部の各々が一対のダウンプレートの側板との非当接面の下方に配置され得るように油圧ジャッキを形成することによって、上記課題が解決され得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
このような本発明の典型的な一態様は、以下のとおりである。
濾過室の炉床に戴置された金属溶湯濾過ユニットを濾過室の内壁面に沿った所定位置に移動・押圧するための金属溶湯濾過ユニット設置用治具であって、
前記金属溶湯濾過ユニットは、少なくとも一方の端部に扁平な略直方体形状の側板を含んで構成されたものであり、
前記治具は、ケーシング、一対の帯板状のダウンプレートおよび油圧ジャッキを含み、
i)前記ケーシングは、前記治具が前記金属溶湯濾過ユニットに装着された状態において、少なくとも、前記側板の上面;この側板の上面の短手方向の周縁に接する末端面の一部;および、この側板の上面の長手方向の周縁に接する各面の一部に対して、側板のこれらの箇所を連続的に被覆可能なように形成されており、
ii)前記一対のダウンプレートは、前記ケーシングの長手方向の両端から略等距離を隔てた2つの位置にて、略鉛直下方に向かって延出しており、前記治具が前記金属溶湯濾過ユニットに装着された状態において、それぞれのダウンプレートが、前記側板の末端面に当接可能なように形成されており、
iii)前記油圧ジャッキは、1つの油圧ポンプ、およびこの1つの油圧ポンプから伸出し分岐した2本の油圧管を介して連結された一対の押圧部を含み、前記治具が前記金属溶湯濾過ユニットに装着された状態において、前記一対の押圧部は、それぞれ、前記一対のダウンプレートの各々の側板との非当接面の下方に配置可能なように構成されている、
金属溶湯濾過ユニット設置用治具。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金属溶湯濾過ユニット設置用治具によれば、油圧ジャッキの一対の押圧部からの均等な加圧力の負荷によって、濾過室の炉床に戴置された金属溶湯濾過ユニットの全体を濾過室内の内壁面に沿った所定位置に向かって、複数の押圧箇所での加圧力の不均衡および/または加圧タイミングのズレを生じることなく、出湯方向の側板の末端面と濾過室の出湯口に連通した内壁面とが略平行である状態を保持しつつバランス良く移動させることが可能になる。それにより、出湯方向の側板の末端面と濾過室の出湯口に連通した内壁面とがパッキンを介して面内均一に加圧された状態で金属溶湯濾過ユニットを固定することができ、濾過済み金属溶湯の金属溶湯濾過ユニットからの出湯の際の気密性が確実に保持され、濾過済み金属溶湯の漏出が効果的に防止され、濾過の効率性が高められる。
さらに、本発明の金属溶湯濾過ユニット設置用治具は、シンプルな構成を備えているため、故障リスクが小さく、また作業者ごともしくは作業ごとの変動や不具合が生じ難く、確実で効率的な操作が可能になる。
【0014】
また、本発明の金属溶湯濾過ユニット設置用治具のケーシングは、治具が金属溶湯濾過ユニットに装着された状態において、側板の上面およびこの側板の上面の短手方向の周縁に接する末端面の一部に対してだけでなく、この側板の上面の長手方向の周縁に接する各面の一部に対しても連続的に被覆可能なように(すなわちケーシングの長手方向の両末端において略鉛直下方に屈曲して)形成されていることにより、一対の押圧部によるダウンプレートおよび側板への加圧力負荷の際のケーシングの横ずれが確実に防止され得る。さらには、いったん治具が金属溶湯濾過ユニットに装着された後にこのようにケーシングの横ずれが防止されることによって、作業者が濾過室内に立ち入る必要なく、金属溶湯濾過ユニットを濾過室内の内壁面に沿った所定位置に押圧し確実に設置することができ、それにより作業の効率性がさらに高められる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1(a)】
図1(a)は、本発明の一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニット設置用治具によって設置される対象の典型的な金属溶湯濾過ユニットの概略図である。
【
図1(b)】
図1(b)は、
図1(a)に例示された金属溶湯濾過ユニットが濾過室の炉床に戴置された状態を示す断面模式図である。
【
図1(c)】
図1(c)は、
図1(a)、(b)に例示された金属溶湯濾過ユニットが、本発明の一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニット設置用治具によって濾過室の内壁面に沿った所定位置に移動・押圧された状態で、金属溶湯が濾過操作に供される機構を示す断面模式図である。
【
図2(a)】
図2(a)は、本発明の一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニット設置用治具を示す正面概略図である。
【
図2(b)】
図2(b)は、
図2(a)に示された本発明の一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニット設置用治具の側面概略図である。
【
図3(a)】
図3(a)は、本発明の一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニット設置用治具、および、この治具の装着対象である金属溶湯濾過ユニットが濾過室の炉床に戴置された治具装着前の状態を示す概略図である。
【
図3(b)】
図3(b)は、
図3(a)に示された本発明の一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニット設置用治具が濾過室内にて金属溶湯濾過ユニットに装着された状態の概略図である。
【
図4】
図4は、金属溶湯濾過ユニットを濾過室の内壁面に沿った所定位置にて保持するために楔が配設された後、本発明の一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニット設置用治具が取り外された状態を示す。
【
図5】
図5(a)は、本発明の一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニット設置用治具を装着する際に金属溶湯濾過ユニットの側板の上面の長手方向の周縁に接する箇所の近傍におけるケーシングの形状の一例を示す断面概略図である。
図5(b)は、その装着の際に金属溶湯濾過ユニットの側板の上面の長手方向の周縁に接する箇所の近傍におけるケーシングの形状の別の一例を示す断面概略図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニット設置用治具にて、一対のダウンプレートの一方がケーシング上で延出している位置からケーシング上の他の箇所までの距離の関係を例示する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニット設置用治具は、濾過室の炉床に戴置された金属溶湯濾過ユニットを濾過室の内壁面に沿った所定位置に移動・押圧するために使用されるものである。金属溶湯濾過ユニット設置用治具によって設置される対象の金属溶湯濾過ユニットは、少なくとも一方の端部に扁平な略直方体形状の側板を含んで構成されたものである限りは特に限定されない。
【0017】
後に詳述する金属溶湯濾過ユニット設置用治具の構成および機能の理解を容易にするため、先ず、このような金属溶湯濾過ユニットの典型例の概略について
図1を参照して説明する。
図1(a)~(c)において、1は金属溶湯濾過ユニット、2Aおよび2Bは濾過ユニットの両端に配設された一対の側板、3は金属溶湯から不純物を濾過するための複数のセラミックス製濾過チューブ、3Eは濾過チューブの出湯側開口部、4はパッキン、5は金属溶湯濾過ユニットが配置される濾過室、5Bは濾過室の炉床、5Eは濾過室から金属溶湯が出湯するための濾過室の出湯口、5Wは濾過室の出湯側の内壁面である。金属溶湯濾過ユニット1の側板2Bは金属溶湯の出湯方向に配された側板であり、側板2Aはその逆方向に配された側板である。パッキン4は、特に限定されないが、図示されるように略矩形の環状体であって、濾過チューブの出湯側開口部3Eの全てを囲むように形成されていてよい。以降にて、濾過ユニットの側板2Aの末端側の面(
図1(a)の紙面と反対側の面)、および濾過ユニットの側板2Bの末端側の面(
図1(a)の紙面側の面)を、それぞれ、側板の「末端面」と称し、それと反対側の側板の面を「非末端面」と称することがある。
【0018】
金属溶湯の濾過作業の準備のために、先ず
図1(b)に示すように、吊り治具等を用いて金属溶湯濾過ユニット1を濾過室5の外部から濾過室の炉床5Bに移設・戴置することができる。次いで、
図1(c)に示すように、金属溶湯濾過ユニット1を濾過室の出湯口5Eに連通した内壁面5Wに沿った所定位置に移動し、パッキン4を介して押圧・密着させることができる。パッキン4は、特に限定されないが、例えば、耐熱性(高温の金属溶湯の熱に対する耐性)および押圧耐性(濾過ユニット設置時及び設置後の継続的な押圧に対する耐久性)に優れたアルミナ繊維やセラミックスファイバー等で形成されていてよい。パッキン4の材質の非限定的な具体例としては、塩基性塩化アルミニウムとシリカの反応生成物が挙げられる。濾過チューブ3は一般的にセラミック製の多孔質物質で形成されており、
図1(c)に示す矢印のように、濾過チューブ3の内面および外面の間を金属溶湯が流通することによって金属溶湯に含まれる異物が濾過されて除去され得る。このような金属溶湯濾過ユニット1の所定位置への移動および押圧・密着は、金属溶湯濾過ユニット1の濾過チューブ3による濾過済みの金属溶湯と未濾過の金属溶湯との混合、濾過チューブ3からの濾過済み金属溶湯の濾過チューブの出湯側開口部3Eからの漏出を確実に防止するために行われる。すなわち、金属溶湯濾過ユニット1の側板2B(金属溶湯の出湯方向に配された側板)の末端面と濾過室の出湯口5Eに連通した内壁面5Wとが、パッキン4を介して面内均一に加圧された状態で金属溶湯濾過ユニット1が固定されることが望まれる。以下の段落にて説明される本発明の一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニット設置用治具によって、このような所望される固定状態を得ることができる。
【0019】
図2(a)および(b)には、本発明の一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニット設置用治具の概略を示す。金属溶湯濾過ユニット設置用治具は本図の構造に限定されるわけではなく、本図は当該治具の一例であることを理解されたい。
図2(a)および(b)において、10は金属溶湯濾過ユニット設置用治具、11はケーシング、12aおよび12bは一対の帯板状のダウンプレート、13aおよび13bは油圧ジャッキの一対の押圧部、14は油圧ジャッキの操作部、14Rは油圧ジャッキの手動操作レバー、14Pは油圧ジャッキの油圧ポンプ(操作部14は手動操作レバー14Rおよび油圧ポンプ14Pから構成される)、15は油圧計、16aおよび16bは一対の油圧管(油圧ホース)、17はケーシングの把持部である。
【0020】
金属溶湯濾過ユニット設置用治具10は、その使用の際に、
図1(a)~(c)に例示するような金属溶湯濾過ユニットの一方の端部の扁平な略直方体形状の側板の上部に装着される。この装着時に、ケーシング11は、少なくとも、金属溶湯濾過ユニットの一方の端部の側板の上面;この側板の上面の短手方向の周縁に接する末端面の一部;および、この側板の上面の長手方向の周縁に接する各面の一部に対して、側板のこれらの箇所を連続的に被覆可能なように形成されている。すなわち、ケーシング11は、金属溶湯濾過ユニットの一方の端部の側板の上部を被覆可能なように、その形状に合わせて加工された板状体である。ケーシング11の板状体は、単一の板状体から形成されていてもよく、複数の板状体を接合させた組み合わせ体であってもよい。なお、ここで言及された被覆に関する用語「連続的」は、被覆物であるケーシング11がその被覆の際に複数部材に物理的に分離されることなく、いずれかの箇所で接続された状態を意味し、局所的な空隙部を何ら有しないことを意図しているわけではない。
【0021】
ケーシング11の素材は、特に限定されないが、例えば鋼鉄、またはステンレス等の合金などの金属製であってよい。ケーシングの厚みは、全体に略均一であってもよいし、部分ごとに異なっていてもよいが、例えば3.0mm~40mmであってよく、または5.0mm~30mmであってよい。ケーシング11は、通常、単一部材で形成されるが、組み合わせ可能な複数部材から形成されていてもよい。ケーシング11において、金属溶湯濾過ユニットの一方の端部の側板の上面の短手方向の周縁に接する末端面の一部を被覆する部分、および、この側板の上面の長手方向の周縁に接する各面の一部を被覆する部分は、この側板の上面を被覆する部分に対して略垂直に、すなわち略鉛直下方に向かって屈曲されていてよい。ケーシング11において、金属溶湯濾過ユニットの一方の端部の側板の上面の短手方向の周縁に接する末端面の一部を被覆する部分、および、この側板の上面の長手方向の周縁に接する各面の一部を被覆する部分がこの側板の上面を被覆する部分から略鉛直下方に向かう屈曲長さは、特に限定されないが、装着時の安定性および装着の操作性の観点から、例えば1.0cm~20cmであってよく、好ましくは2.0cm~10cmであってよい。
【0022】
ケーシング11は、治具10の金属溶湯濾過ユニット1の側板2Aへの装着作業の効率性を改善する観点から、
図2(a)および(b)に示されるように、その上部に把持部17を備えていることも好ましい。把持部17の形状、寸法、配置等は、作業者が確実に把持することができる限り、特に限定されない。把持部17の形状は、例えば、
図2(a)に示されるように逆U字状に屈曲されたものであってよい。把持部17の長手方向(水平方向)の寸法は、例えば、ケーシング11の長手方向の最大長さの約10%~40%であってよい。把持部17は、通常、その長手方向の中心点がケーシング11の長手方向の中心点と略一致するように配置され得るが、これに限定されない。把持部17は、ケーシング11の上部、すなわち上面または上面の端部近傍に配設されてよい。把持部17は、通常一つであるが、ケーシング11の長手方向の中心点に対して略対称の位置に複数設けてもよい。
把持部17は、
図2(b)に示されるように、ケーシング11のダウンプレート12aおよび12bが形成された方向とは反対側の上部に配設されていることが好ましい。把持部17は、ケーシング11のダウンプレート12aおよび12bが形成された方向とは反対側の端部近傍に配設されていることがさらに好ましい。把持部17をこのような位置に配設することによって、治具10の金属溶湯濾過ユニット1の側板2Aへの装着作業の効率性を更に向上させ、作業者の安全性も高めることができる。
【0023】
一対の帯板状のダウンプレート12aおよび12bは、ケーシング11の長手方向の両端から略等距離を隔てた2つの位置にて略鉛直下方に向かって延出している。金属溶湯濾過ユニット設置用治具10が金属溶湯濾過ユニットの一方の端部の扁平な略直方体形状の側板の上部に装着されるときに、ダウンプレート12aおよび12bは、それぞれ、この側板の末端面に当接可能なように形成されている。ダウンプレート12aおよび12bの素材は、特に限定されないが、ケーシング11と同様に、例えば鋼鉄、またはステンレス等の合金などの金属製であってよい。ダウンプレート12aおよび12bは略同一の形状を有していてよい。ダウンプレート12aおよび12bの形状は、帯板状である限りは特に限定されないが、通常、その平面(縦横面)形状は縦長の略長方形であり、厚みは略均一であってよい。例えば、ダウンプレート12aおよび12bの各々において、油圧ジャッキによる押圧の操作性の観点から、短手方向の長さは2.0cm~20cmであってよく、長手方向の長さは30cm~200cm(または金属溶湯濾過ユニットの側板の平面形状が略直方体である場合においてその末端面の縦寸法/略鉛直方向寸法の50%以上100%未満、もしくは当該寸法の60%以上100%未満、当該寸法の70%以上95%以下)であってよく、厚みは3.0mm~40mmであってよい。特に、ダウンプレート12aおよび12bの各々において、厚みは4.0mm~20mmが好ましく、更には5.0mm~10mmが好ましい。ダウンプレート12aおよび12bの各々の厚みの寸法をこの範囲にすることで、強度と側板2Aへの装着作業の効率性とを高い水準で両立させることができる。
【0024】
油圧ジャッキは、一対の押圧部13aおよび13b、手動操作レバー14Rおよび油圧ポンプ14Pから構成された操作部14、一対の押圧部13aおよび13bと操作部14とを接続する一対の油圧管16aおよび16bを含む部材である。一対の押圧部13aおよび13bは、1つの油圧ポンプ14Pから伸出し分岐した一対の、すなわち2本の油圧管16aおよび16bを介して連結されている。1つの油圧ポンプ14Pから伸出した1本の油圧管が2本の油圧管16aおよび16bに分岐する分岐点の近傍には、図示するように、任意選択で油圧をモニタリングするための油圧計15を設けることができる。油圧ジャッキの各部材の押圧部13aおよび13b、手動操作レバー14Rおよび油圧ポンプ14Pから構成された操作部14、ならびに油圧計15の種類、構造、材質は、当業界で一般的に使用されているものから適宜選択されてよい。
【0025】
金属溶湯濾過ユニット設置用治具10が金属溶湯濾過ユニットの一方の端部の扁平な略直方体形状の側板の上部に装着されるときに、一対の押圧部13aおよび13bは、それぞれ一対のダウンプレート12aおよび12bの各々の側板との非当接面(側板との当接面との逆方向の面)の下方に配置可能なように構成されている。一対の押圧部13aおよび13bは、それら2つの押圧点(押圧部の中心点)が水平方向に一致していることが好ましい。一対の押圧部13aおよび13bの各々の押圧点は、押圧効率の観点から、ダウンプレート12aおよび12bの各々の側板との非当接面の最低点を基準にその縦方向(鉛直方向)長さの50%以下、好ましくは40%以下、30%以下、20%以下、または10%以下であって、0%超の位置に配置されていてよい。
【0026】
一対のダウンプレート12aおよび12bの各々の側板との非当接面の下方に配置可能なように構成された一対の押圧部13aおよび13bは、それぞれ、手動操作レバー14Rおよび油圧ポンプ14Pから構成された操作部14と、一対の油圧管16aおよび16bを介して接続されている。一対の押圧部13aおよび13bは1つの油圧ポンプ14Pから伸出し分岐した構造を有するから、通常、押圧部13aおよび13bから一対のダウンプレート12aおよび12bの各々に適用される油圧(押圧力)は等しい値になる。油圧管(油圧ホース)16aおよび16bの材質は、特に限定されないが、例えば耐油性および柔軟性、ならびに好ましくは耐摩耗性、耐候性等に優れた合成ゴム製であってよい。油圧管(油圧ホース)16aおよび16bの長さは、治具10を金属溶湯濾過ユニットの側板の上部に装着し、一対の押圧部13aおよび13bをそれぞれ一対のダウンプレート12aおよび12bの各々の側板との非当接面の下方に配置した際に、油圧ジャッキの操作部14を濾過室外に配して操作可能な程度の長さであることが好ましい。
【0027】
油圧ジャッキは、操作部14にて手動操作レバー14Rを操作することによって1つの油圧ポンプ14Pから等しく押圧部13aおよび13bに施される油圧を適宜調整することができる。本図では、油圧ジャッキの油圧の調整のために手動操作レバー14Rが採用されているが、これに限定されるものではなく、所定の油圧に設定することによる自動制御系統も採用され得る。油圧ポンプ14Pからの1本の油圧管の油圧管16aおよび16bへの分岐点の近傍に油圧計15を設けることによって、押圧部13aおよび13bに施される油圧を正確にモニタリングすることができるため有利である。
【0028】
図2(a)および(b)に例示する本発明の一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニット設置用治具10のケーシング11を、
図1(b)に示すように濾過室5の炉床5Bに戴置された金属溶湯濾過ユニット1の一方の側板2Aに装着することができる。この装着の際には、金属溶湯濾過ユニット1の側板2A、すなわち、金属溶湯の出湯方向に配された側板2Bの逆方向の側板の上面;側板2Aの上面の短手方向の周縁に接する末端面の一部;および、側板2Aの上面の長手方向の周縁に接する各面の一部が、ケーシング11によって連続的に被覆される。また、より確実な装着の観点から、側板2Aのこれらの箇所に加えて、図示されているとおり、側板2Aの上面の短手方向の周縁に接する非末端面の一部もまたケーシング11によって連続的に被覆されることも好ましい。これにより、ケーシング11が、側板2Aの上面およびその周縁に接する全ての面の一部を連続的に被覆することが可能であるように構成される。このようにケーシング11が側板2Aの上部を全体的に被覆するように装着されることによって、より安定した押圧操作が可能になり、それにより意図した位置へより正確に金属溶湯濾過ユニット1を移動させることが可能になる。
【0029】
図3(a)および(b)は、本発明の一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニット設置用治具10が、濾過室5の炉床に戴置された金属溶湯濾過ユニット1に対して装着される前後の状態の概略を示す。従って、
図3(a)および(b)の各々において濾過室5の炉床に戴置された金属溶湯濾過ユニット1の位置は不変であり、またこれは、
図1(b)に示した金属溶湯濾過ユニット1の位置と実質的に同じとみなされてよい。
図1(b)に示すように濾過室5の炉床に戴置された金属溶湯濾過ユニット1の金属溶湯の出湯方向に配された側板2Bの逆方向の側板である側板2Aの上方から下方に向かって、
図3(a)および(b)に示すように、本発明の一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニット設置用治具10を被せるように装着することができる(
図3(a)中の矢印参照)。把持部17を用いることによって、より効率良く安全に装着作業を行うことができる。治具10が金属溶湯濾過ユニット1の側板2Aに装着される際に、ケーシング11から略鉛直下方に向かって延出した一対の帯板状のダウンプレート12aおよび12bは、それぞれ、この側板の末端面に当接されていてよい。
図3(b)にて、ダウンプレート12aおよび12bは紙面裏側に位置しているため図示されていない。
図3(a)および(b)には、側板2Aの上面の短手方向の周縁に接する非末端面(末端面と逆の面)の一部もまたケーシング11によって連続的に被覆される形態を例示しているが、これに限定されるわけではない。
【0030】
図3(b)に示すように治具10が金属溶湯濾過ユニット1の側板2Aに装着された状態で、1つの油圧ポンプ14Pから伸出し分岐した構造を有する一対の押圧部13aおよび13bにより、一対のダウンプレート12aおよび12bの各々に等しい油圧(押圧力)が適用され得る。また、押圧部13aおよび13bによって適用される油圧(押圧力)は、0MPa超(例えば0.5MPa以上)であって、かつ、金属溶湯濾過ユニット1の移動操作を目的の位置まで確実・安全に行う観点から、所定の上限以下、例えば4MPa以下または3MPa以下などに適宜設定されていてよい。これによって、金属溶湯濾過ユニット1を、濾過室内で
図3(a)および(b)に示す位置(
図1(b)に示す位置と実質的に同じ)から
図1(c)に示す位置まで、つまり、濾過室の出湯口5Eに連通した内壁面5Wに沿った所定位置に移動し、パッキン4を介して押圧・密着させることができる。金属溶湯濾過ユニット1と内壁面5Wとの十分な密着を図る観点から、例えば、パッキン4の厚みが約30~90%に(すなわち、縮小する厚み差分が約10%~70%になる程度まで)圧縮されるまで押圧力を及ぼすことが好ましい。
【0031】
こうして金属溶湯濾過ユニット設置用治具10を用いることで、
図1(c)に示すように、金属溶湯濾過ユニット1の側板2B(金属溶湯の出湯方向に配された側板)の末端面と濾過室の出湯口5Eに連通した内壁面5Wとがパッキン4を介して面内均一に加圧された状態で、金属溶湯濾過ユニット1が意図された位置に固定され得る。ひいては、金属溶湯濾過ユニット設置用治具10が上述の構成を備えることによって、金属溶湯濾過ユニット1の濾過チューブ3による濾過済みの金属溶湯と未濾過の金属溶湯との混合、濾過チューブ3からの濾過済み金属溶湯の濾過チューブの出湯側開口部3Eからの漏出が効果的に抑制され得る。
さらに、金属溶湯濾過ユニット設置用治具10は、ケーシング11ならびにダウンプレート12aおよび12bの上記特定構造に加えて、1つの油圧ポンプから伸出し分岐した2本の油圧管を介して連結された一対の押圧部を含むシンプルな構成を備えているため、運転・制御系統などの故障リスクが小さく、また作業者ごともしくは作業ごとの変動や操作の不具合が生じ難く、確実で効率的な操作が可能になる。
【0032】
また、金属溶湯濾過ユニット設置用治具10のケーシング11は、
図3(b)に示すように治具10が金属溶湯濾過ユニット1の側板2Aに装着された状態で、側板2Aの上面および側板2Aの上面の短手方向の周縁に接する末端面の一部に対してだけでなく、側板2Aの上面の長手方向の周縁に接する各面の一部に対しても連続的に被覆可能なように(すなわちケーシング11の長手方向の両末端において略鉛直下方に屈曲して)形成されている。このような構造によって、一対の押圧部13aおよび13bによるダウンプレート12aおよび12bならびに側板2Aへの加圧力負荷の際のケーシング11の横ずれが確実に防止され、ひいては、治具10の装着後に作業者が濾過室内に立ち入る必要がなく、金属溶湯濾過ユニット1を濾過室内の内壁面5Wに沿った所定位置に押圧し確実に設置することができ、それにより作業の効率性がさらに高められるという利点が得られる。
【0033】
一実施形態において、金属溶湯濾過ユニット設置用治具10のケーシング11から略鉛直下方に向かって延出した一対の帯板状のダウンプレート12aおよび12bの間には、金属溶湯濾過ユニット1が治具10によって濾過室の内壁面5Wに沿った所定位置にてパッキン4を介して押圧される際に、押圧状態を保持し、濾過ユニット1の当該所定位置からの移動を防止する固定具である楔18を挿入可能なように空間が設けられていてよい。楔18の形状は、特に限定されないが、典型的には概ね短冊状に形成されている。楔18の厚みは、移動防止・固定の機能を十分奏することができるように適宜調整されてよい。楔18は、例えばケーシング11やダウンプレート12aおよび12bについて上述したものと同様に、鋼鉄またはステンレス等の合金などの金属製であってよく、あるいはアルミナ等のセラミックス製であってもよい。ダウンプレート12aおよび12bは、少なくとも一部において、好ましくは略全体的に、楔18の挿入方向に対して垂直な方向の寸法(すなわち幅)以上の間隔を有していてよい。
【0034】
楔18は、金属溶湯濾過ユニット1の金属溶湯の出湯方向に配された側板2Bの逆方向の側板である側板2Aと、それに面する濾過室の内壁面(すなわち濾過室の出湯口5Eに連通した内壁面5Wと逆方向の内壁面)との間に、これらと接するように配設され得る。金属溶湯濾過ユニット設置用治具10を用いて
図1(c)に示す所定の位置まで金属溶湯濾過ユニット1を移動させた後、側板2Bの末端面と濾過室の内壁面5Wとがパッキン4を介して面内均一に加圧された状態で、楔18をダウンプレート12aおよび12bの間の空間に上方から挿入することができる。楔18の挿入は、自重を利用してもよく、および/または例えばハンマー等の工具による外力を加えてもよい。楔18の挿入の程度は、金属溶湯濾過ユニット1の押圧状態が安定して保持され得る限り、特に限定されないが、側板2Aの鉛直方向長さ(すなわち最大高さ)の過半が楔18と接していることが好ましい。換言すれば、ダウンプレート12aおよび12bの間の空間は、好ましくは側板2Aの鉛直方向長さの過半が、より好ましくは側板2Aの鉛直方向長さの略全体が、所定の形状を有する楔18と接するまで楔18を挿入可能な程度の大きさを有していてよい。
【0035】
楔18が挿入・配設された後、
図4に示すように、金属溶湯濾過ユニット設置用治具10を側板2Aから取り外すことができる。これによって、側板2Bの末端面と濾過室の内壁面5Wとがパッキンを介して面内均一に加圧された状態で、金属溶湯濾過ユニット1が意図された位置に安定して固定され得る。
【0036】
本発明の一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニット設置用治具10を装着する際に金属溶湯濾過ユニット1の側板2Aの上面の長手方向の周縁に接する箇所の近傍におけるケーシング11の形状11sは、
図5(a)に断面で示すように略垂直に屈折していてよい。
別の好ましい一例として、金属溶湯濾過ユニット設置用治具10を装着する際に金属溶湯濾過ユニット1の側板2Aの上面の長手方向の周縁に接する箇所の近傍におけるケーシング11の形状11rは、
図5(b)に断面で示すように、側板2Aの上面に対する水平視にて少なくとも一部に曲面を有していてよい。このように、ケーシング11が側板2Aの上面の長手方向の周縁に接する箇所の近傍に曲面を有することによって、作業者の安全性・治具の操作性が大幅に向上し、また、側板2Aへの被覆操作の際に誤って濾過室の内壁にケーシング11の端部が衝突したとしても、内壁の傷付き・損傷を効果的に防止することもできる。
【0037】
図6は、本発明の一実施形態に係る金属溶湯濾過ユニット設置用治具10のケーシング11において、一対のダウンプレートの一方である12aがケーシング11上で延出している位置からケーシング11上の他の箇所までの距離の関係を例示している。
ここで、ダウンプレート12aがケーシング11上で延出している位置からケーシング11の長手方向の近い方の端部までの距離n
1は、ケーシング11上でのダウンプレート12aの幅方向の中心点を通過する鉛直方向線Bとケーシング11のダウンプレート12a側の端部を通過する鉛直方向線A
1との垂直距離とする。また、ダウンプレート12aがケーシング11上で延出している位置からケーシング11の中心点までの距離mは、ケーシング11上でのダウンプレート12aの幅方向の中心点を通過する鉛直方向線Bとケーシング11の中心点を通過する鉛直方向線Cとの垂直距離とする。また、ダウンプレート12aがケーシング11上で延出している位置からケーシング11の長手方向の他方の端部までの距離n
2は、ケーシング11上でのダウンプレート12aの幅方向の中心点を通過する鉛直方向線Bとケーシング11のダウンプレート12b側の端部を通過する鉛直方向線A
2との垂直距離とする。
【0038】
このとき、n1のmに対する比率n1/mは、通常0.1以上8以下の範囲であってよく、好ましくは0.2以上6以下の範囲であってよく、より好ましくは0.2以上5以下の範囲であってよい。また、2m+n1≒n2の関係が成り立つから、(n2-2m)/mは、上記同様に、通常0.1以上8以下の範囲であってよく、好ましくは0.2以上6以下の範囲であってよく、より好ましくは0.2以上5以下の範囲であってよい。一対のダウンプレート12a及び12bは、ケーシング11の長手方向の両端から略等距離を隔てた2つの位置にて略鉛直下方に向かって延出しているから、ダウンプレート12aに関わる位置関係についてここで説明した通常および好ましい数値範囲は、ダウンプレート12bについても同様に適用され得る。
一対のダウンプレート12aおよび12bの各々がケーシング11上で延出している位置からケーシング11上の他の箇所までの距離の関係がこのような数値範囲を満たすことによって、一対の押圧部13aおよび13bからより均等な加圧力の負荷を与えることができる。それによって、濾過室の炉床に戴置された金属溶湯濾過ユニットの全体を濾過室内の内壁面に沿った所定位置に向かって、出湯方向の側板の末端面と濾過室の出湯口に連通した内壁面とが略平行である状態を確実に保持しつつ、よりバランス良く移動させることが可能になる。
【0039】
ここまで、本発明に係る金属溶湯濾過ユニット設置用治具を特定の実施形態によって説明したが、これらの実施形態に限定されることを意図していない。特に、本発明に係る金属溶湯濾過ユニット設置用治具は、少なくとも一方の端部に扁平な略直方体形状の側板を含んで構成された金属溶湯濾過ユニットであれば、いかなる金属溶湯濾過ユニットに対しても適用され得ることに留意されたい。本発明に係る金属溶湯濾過ユニット設置用治具が適用され得る金属溶湯濾過ユニットは、上述の特定の実施形態に例説された濾過ユニットの両端に配設された一対の側板、および複数のセラミックス製濾過チューブを備えたものに限定されない。本発明に包含され得る主題の範囲は、添付の請求の範囲によって定められるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係る金属溶湯濾過ユニット設置用治具は、濾過室の炉床に戴置された状態の金属溶湯濾過ユニットを、濾過室の内壁面に沿った所定位置に移動・押圧するために用いられる。
本発明の金属溶湯濾過ユニット設置用治具によれば、金属溶湯濾過ユニットの出湯方向の側板の末端面と濾過室の出湯口に連通した内壁面とがパッキンを介して面内均一に加圧された状態で金属溶湯濾過ユニットを固定することができ、濾過済み金属溶湯の漏出が効果的に防止され、濾過の効率性が高められる。また、本発明の金属溶湯濾過ユニット設置用治具のケーシングは、その長手方向の両末端において略鉛直下方に屈曲して形成されていることにより、一対の押圧部によるダウンプレートおよび金属溶湯濾過ユニットの側板への加圧力負荷の際のケーシングの横ずれが確実に防止され得る。さらに、本発明の金属溶湯濾過ユニット設置用治具は、シンプルな構成を備えているため故障リスクが小さく、また作業者ごともしくは作業ごとの変動や不具合が生じ難く、確実で効率的な操作が可能になる。これらの利点により、本発明に係る金属溶湯濾過ユニット設置用治具は、濾過室内で金属溶湯濾過ユニットを所定位置に移動・押圧するために非常に好適かつ簡便に用いることができる。
【符号の説明】
【0041】
1:金属溶湯濾過ユニット
2A、2B:一対の側板
3:複数のセラミックス製濾過チューブ
3E:濾過チューブの出湯側開口部
4:パッキン
5:濾過室
5B:濾過室の炉床
5E:濾過室の出湯口
5W:濾過室の出湯側の内壁面
10:金属溶湯濾過ユニット設置用治具
11:ケーシング
11s、11r:側板2Aの上面の長手方向周縁に接する箇所近傍のケーシング11の形状
12a、12b:一対のダウンプレート
13a、13b:一対の押圧部
14:油圧ジャッキの操作部
14R:手動操作レバー
14P:油圧ポンプ
15:油圧計
16a、16b:一対の油圧管
17:ケーシングの把持部
18:楔
n1:ダウンプレート12aの延出位置(線B)からケーシング11長手方向端部(線A1)までの距離
m:ダウンプレート12aの延出位置(線B)からケーシング11中心点(線C)までの距離
n2:ダウンプレート12aの延出位置(線B)からケーシング11長手方向の他方の端部(線A2)までの距離
【要約】
濾過室の炉床上の金属溶湯濾過ユニットを濾過室の内壁面に沿った所定位置に移動・押圧するための金属溶湯濾過ユニット設置用治具であって、金属溶湯濾過ユニットは少なくとも一方の端部に扁平な略直方体形状の側板を含み、治具は、ケーシング、一対の帯板状のダウンプレートおよび油圧ジャッキを含み、1)ケーシングは、装着状態にて少なくとも、側板の上面;側板の上面の短手方向の周縁に接する末端面の一部;および側板の上面の長手方向の周縁に接する各面の一部に対して、側板のこれらの箇所を連続的に被覆可能なように形成され、2)油圧ジャッキは、1つの油圧ポンプ、およびそこから伸出し分岐した2本の油圧管を介して連結された一対の押圧部を含み、装着状態にて一対の押圧部は、それぞれ一対のダウンプレートの各々の側板との非当接面の下方に配置可能に構成された金属溶湯濾過ユニット設置用治具が開示される。