(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】レーザー加工装置、及びレーザー加工装置の焦点制御方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/046 20140101AFI20240104BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20240104BHJP
【FI】
B23K26/046
B23K26/00 M
(21)【出願番号】P 2020012029
(22)【出願日】2020-01-28
【審査請求日】2022-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 正裕
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-006093(JP,A)
【文献】特開昭61-137693(JP,A)
【文献】特開2005-249487(JP,A)
【文献】特開2017-181807(JP,A)
【文献】特開平01-250008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/046
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザービームを集光して被加工物に照射する照射レーザー光を形成する集光レンズと、
前記集光レンズの形状を測定により取得するレンズ形状取得部と、
前記レンズ形状取得部によって取得されたレンズ形状に基づいて、前記集光レンズの焦点位置を調整する焦点位置調整部と、
を備え
、
前記レンズ形状取得部は、
前記集光レンズに参照光を照射する参照光照射部と、前記参照光の前記集光レンズからの反射光又は投影光を検出する光ディテクターと、を有する測定光学系と、
前記光ディテクターの検出結果を用いてレンズ形状を演算により取得する形状演算部と、を備える、
レーザー加工装置。
【請求項2】
前記レンズ形状取得部は、前記集光レンズの形状に加えて、前記集光レンズへの前記レーザービームの入射側に配置されているコリメートレンズのレンズ形状を測定により取得し、
前記焦点位置調整部は、前記レンズ形状取得部によって取得された前記集光レンズ及び前記コリメートレンズのレンズ形状に基づいて、前記集光レンズの焦点位置を調整する、
請求項1に記載のレーザー加工装置。
【請求項3】
前記レンズ形状取得部は、
前記集光レンズ及び前記コリメートレンズにそれぞれ参照光を照射する参照光照射部と、前記参照光の前記集光レンズ及び前記コリメートレンズからの反射光又は投影光を検出する光ディテクターと、を有する測定光学系と、
前記光ディテクターの検出結果を用いてレンズ形状を演算により取得する形状演算部と、
を備える請求項
2に記載のレーザー加工装置。
【請求項4】
前記レンズ形状取得部によって取得された前記集光レンズの形状に基づいて、前記集光レンズの焦点位置を演算する焦点位置演算部を、
さらに備え、
前記焦点位置調整部は、前記焦点位置演算部によって得られた前記焦点位置に基づいて、前記集光レンズ又は前記被加工物を光軸と平行な方向に移動する、
請求項
1に記載のレーザー加工装置。
【請求項5】
前記レンズ形状取得部によって取得された前記集光レンズ及び前記コリメートレンズの形状に基づいて、前記集光レンズの焦点位置を演算する焦点位置演算部を、
さらに備え、
前記焦点位置調整部は、前記焦点位置演算部によって得られた前記焦点位置に基づいて、前記集光レンズ又は前記被加工物を光軸と平行な方向に移動する、
請求項
2又は
3に記載のレーザー加工装置。
【請求項6】
前記レンズ形状取得部は、三角測量の原理を使って前記レンズ形状を取得する、
請求項1から
5のいずれか一項に記載のレーザー加工装置。
【請求項7】
レーザー加工装置に設けられ
た集光レンズの形状を光学的測定により取得するステップと、
取得した前記集光レンズの形状に基づいて、前記集光レンズの焦点位置を制御するステップと、
を含
み、
前記集光レンズの形状を取得するステップは、
前記集光レンズに参照光を照射することと、
前記参照光の前記集光レンズからの反射光又は投影光を検出することと、
前記反射光又は前記投影光の検出結果を用いてレンズ形状を演算により取得することと、
を含む
レーザー加工装置の焦点制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザー加工装置、及びレーザー加工装置の焦点制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー加工装置は、微細加工、溶接、マーキングや切断といった様々な加工に広く用いられている。
【0003】
レーザー加工装置は、レーザー発振器の発振により得られたレーザー光を集光レンズを介して被加工物の面に照射する。レーザー加工装置においては、レーザー光の焦点位置を調整・制御することにより、被加工物の面に形成されるレーザー光のスポット径が調整・制御される。一般には、焦点が被加工物の面に一致するように調整・制御される。この焦点位置の調整及び制御は、例えば集光レンズを光軸と平行な方向に移動させることで実現できる。
【0004】
ところで、レーザー加工装置においては、レーザー加工時に、レーザー光によって集光レンズの温度が上昇する。その結果、集光レンズが熱膨張し、集光レンズの曲率が変化し、焦点位置が変化するといった、いわゆる熱レンズ効果が生じる。
【0005】
このような熱レンズ効果による悪影響を抑制する従来技術として、例えば特許文献1、2がある。
【0006】
特許文献1には、集光レンズ13のビーム出射側にレーザー光の径を測定するディテクターを設け、このディテクターにて測定されたレーザー光の径に基づいて集光レンズと被加工物間の距離を常に最適に制御する技術が開示されている。
【0007】
引用文献2には、集光レンズに温度センサーを設け、温度センサーにより検出されたレンズ温度に応じて、集光レンズを光軸と平行な方向へ移動させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平7-51875号公報
【文献】特開2000-94173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1に記載された技術では、レーザー光とディテクターとの間にクリアランスが必要であり、その結果、測定感度が低い欠点がある。よって、熱レンズ効果の検出精度が不十分であり、的確な焦点位置の調整ができないおそれがある。
【0010】
引用文献2に記載された技術では、レーザー光を遮らないようにするために温度センサーを集光レンズの端部に配置しているので、集光レンズの中心位置の温度が不明であり、その結果、熱レンズ効果の推定精度が低い欠点がある。よって、熱レンズ効果の検出精度が不十分であり、的確な焦点位置の調整ができないおそれがある。
【0011】
本開示は、以上の点を考慮してなされたものであり、熱レンズ効果を精度良く検出し、熱レンズ効果を加味した的確な焦点位置の調整を行うことができる、レーザー加工装置、及びレーザー加工装置の焦点制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示のレーザー加工装置の一つの態様は、
レーザービームを集光して被加工物に照射する照射レーザー光を形成する集光レンズと、
前記集光レンズの形状を測定により取得するレンズ形状取得部と、
前記レンズ形状取得部によって取得されたレンズ形状に基づいて、前記集光レンズの焦点位置を調整する焦点位置調整部と、
を備える。
【0013】
本開示のレーザー加工装置の焦点制御方法は、
レーザー加工装置に設けられた前記集光レンズの形状を光学的測定により取得するステップと、
取得した前記集光レンズの形状に基づいて、前記集光レンズの焦点位置を制御するステップと、
を含む。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、熱レンズ効果を精度良く検出し、熱レンズ効果を加味した的確な焦点位置の調整を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態に係るレーザー加工装置の要部構成を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、本開示の実施の形態に係るレーザー加工装置100の要部構成を示す概略図である。
【0018】
レーザー加工装置100は、レーザー発振器110と、レーザーヘッド120と、駆動部130と、演算部140と、位置調整制御部150と、を有する。
【0019】
レーザー発振器110により得られたレーザー光は、レーザーヘッド120に入射される。
【0020】
レーザーヘッド120は、コリメートレンズ121及び集光レンズ122等の光学系を有する。実際上、コリメートレンズ121及び集光レンズ122等の光学系は鏡筒内に設けられている。レーザー光は、コリメートレンズ121によって平行光とされた後、集光レンズ122によって集光され、被加工物1の表面に照射される。これにより、被加工物1の表面には、集光レンズ122の焦点位置に応じたスポット径でなるレーザー光L1が照射される。
【0021】
駆動部130は、被加工物1をレーザー光L1の光軸に直交する面方向で移動させる。
【0022】
また、本実施の形態のレーザー加工装置100においては、レーザーヘッド120内に、レンズ形状測定光学系123と、焦点位置調整部124と、が設けられている。
【0023】
レンズ形状測定光学系120は、集光レンズ122の形状を光学的に測定する。焦点位置調整部124は、レーザー光L1の光軸と平行な方向に集光レンズ122を移動させることにより、集光レンズ122の焦点位置を調整する。
【0024】
演算部140は、形状演算部141と、焦点位置演算部142と、焦点位置調整量演算部143と、を有する。実際上、演算部140は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)103などから構成されており、CPUがROMから処理内容に応じたプログラムを読み出してRAMに記憶させならが、当該プログラムを実行するようになっている。
【0025】
形状演算部141は、レンズ形状測定光学系123により得られた信号から、集光レンズ122のレンズ形状を演算により求める。例えば、後述するように、形状演算部141は、レンズ形状測定光学系123の光ディテクター123b(
図2、
図3)により得られた信号から三角測量の原理を使って集光レンズ122のレンズ形状を求める。
【0026】
焦点位置演算部142は、形状演算部141により求められた集光レンズ122のレンズ形状から、幾何学的に集光レンズ122の焦点位置を求める。
【0027】
焦点位置調整量演算部143は、焦点位置演算部141により求められた焦点位置の本来の焦点位置からのずれ量を、焦点位置調整量として求める。このずれ量は、位置調整制御部150に送られる。
【0028】
位置調整制御部150は、ずれ量に基づいて焦点位置調整部124を制御する。焦点位置調整部124は、集光レンズ122をずれ量分だけ光軸と平行な方向に移動させる。これにより、集光レンズ122の焦点位置が本来の焦点位置に調整される。つまり、熱レンズ効果によって集光レンズ122の焦点位置がずれたとしても(熱レンズ効果によって集光レンズは膨張するので焦点位置は集光レンズ122に近づく方向にずれる)、その焦点位置が本来の焦点位置に戻される。
【0029】
図2-
図4は、レンズ形状測定光学系123の構成例を示す概略図である。
図2-
図4に示したように、レンズ形状測定光学系123は、集光レンズ122に参照光を照射する参照光照射部123aと、光ディテクター123bと、を有する。
【0030】
図2の例は、集光レンズ122の中心付近に参照光を照射し、その反射光を光ディテクター123bで検出することにより、熱レンズ効果に起因する集光レンズ122の中心付近のレンズ形状の変化を検出する例である。図中実線で示した膨張後の集光レンズ122の中心付近位置に参照光が照射され、そのときの反射光が光ディテクター123bで検出される。光ディテクター123bの反射光の検出位置が形状演算部141に送られる。形状演算部141は、参照光照射部123aの参照光の出射位置と、参照光の照射角度と、光ディテクター123bの反射光の検出位置と、から三角測量の原理を用いて、膨張後の集光レンズ122のレンズ中心の形状を求めることができる。なお、レンズ中心の形状が分かればレンズの全体形状は推定により求めることができる。
【0031】
図3の例は、集光レンズ122の表面全体に亘って参照光を走査し、その反射光を光ディテクター123bで検出することにより、熱レンズ効果に起因する集光レンズ122の全体形状の変化を検出する例である。図中実線で示した膨張後の集光レンズ122の全体に亘って参照光が走査され、そのときの反射光が光ディテクター123bで検出される。光ディテクター123bの反射光の検出位置が形状演算部141に送られる。形状演算部141は、参照光照射部123aの参照光の出射位置と、参照光の照射角度と、光ディテクター123bの反射光の検出位置と、から三角測量の原理を用いて、膨張後の集光レンズ122のレンズ全体の形状を求めることができる。
【0032】
図4の例は、集光レンズ122の側方(つまり光軸に直交する方向)から参照光を照射し、そのときの投影光(つまり、集光レンズ122に遮られずに直接に参照光が入射される部分と、集光レンズ122によって影になる部分)を光ディテクター123bで検出することにより、熱レンズ効果に起因する集光レンズ122の中心付近のレンズ形状の変化を検出する例である。集光レンズ122の中心が膨張するほど、光ディテクター123bで直接受光される参照光の領域は小さくなる。形状演算部141は、この参照光が直接受光された領域に基づいて、膨張後の集光レンズ122のレンズ中心の形状を求めることができる。なお、レンズ中心の形状が分かればレンズの全体形状は推定により求めることができる。
【0033】
また、レンズ形状測定光学系123による集光レンズ122の形状測定の方法は、
図3及び
図4の方法に限らず、例えばOCT(optical coherence tomography)の技術を用いてもよい。つまり、集光レンズ122に参照光を照射し、その反射光の干渉縞に基づいて集光レンズ122の形状を求めてもよい。レンズ形状測定光学系123による集光レンズ122の形状測定の方法は、これらに限らず、従来提案されている種々の光学的測定手法を用いることができる。
【0034】
以上説明したように、本実施の形態によれば、レーザー加工装置100が、レーザービームを集光して被加工物1に照射する照射レーザー光を形成する集光レンズ122と、集光レンズ122の形状を測定により取得するレンズ形状取得部(レンズ形状測定光学系123、形状演算部141)と、レンズ形状取得部(レンズ形状測定光学系123、形状演算部141)によって取得されたレンズ形状に基づいて集光レンズ122の焦点位置を調整する焦点位置調整部(焦点位置演算部142、焦点位置調整量演算部143、位置調整制御部150、焦点位置調整部124)と、を有する。
【0035】
これにより、熱レンズ効果を精度良く検出し、熱レンズ効果を加味した的確な焦点位置の調整を行うことができる。この結果、高品質な加工(溶接や切断など)を行うことができるレーザー加工装置100を実現できる。
【0036】
上述の実施の形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することの無い範囲で、様々な形で実施することができる。
【0037】
上述の実施の形態では、レンズ形状取得部(レンズ形状測定光学系123、形状演算部141)によって集光レンズ122のレンズ形状を取得する場合について述べたが、集光レンズ122に加えてコリメートレンズ121のレンズ形状を取得し、焦点位置調整部(焦点位置演算部142、焦点位置調整量演算部143、位置調整制御部150、焦点位置調整部124)によってコリメートレンズ121の形状も加味した焦点位置の調整を行うようにしてもよい。つまり、熱レンズ効果は集光レンズ122に加えてコリメートレンズ121にも生じ、コリメートレンズ121の形状変化が焦点位置に影響を及ぼす可能性がある。このような場合、コリメートレンズ121の形状変化も加味して焦点位置を調整すれば、より的確に焦点位置を調整することができるようになる。
【0038】
ここで、コリメートレンズ121の形状は、上述した集光レンズ122の形状と同様に測定することができる。つまり、参照光照射部123aが集光レンズ122及びコリメートレンズ121のそれぞれに参照光を照射し、光ディテクターが参照光の集光レンズ及びコリメートレンズからの反射光又は投影光をそれぞれ検出すればよい。
【0039】
上述の実施の形態では、焦点位置調整部124が、熱レンズ効果に起因して焦点位置がずれた量だけ集光レンズ122を光軸と平行な方向に移動させた場合について述べた。本発明はこれに限らず、駆動部130が、熱レンズ効果に起因して焦点位置がずれた量だけ被加工物1を光軸と平行な方向に移動させてもよい。つまり、レーザー加工装置で重要なのは、被加工物1に対する焦点位置の調整であり、この焦点位置は集光レンズ122を移動させるだけでなく、被加工物1を移動させることでも調整できる。
【0040】
上述の実施の形態では、説明を簡単化するために集光レンズ122が単一のレンズからなる場合について述べたが、本発明はこれに限らず、集光レンズ122が複数の組みレンズで構成されている場合も適用可能である。この場合には、例えば、組みレンズの中の代表の基準レンズのレンズ形状を上述した実施の形態と同様の手法でレンズ形状測定光学系123及び形状演算部141によって光学的に測定し、焦点位置演算部142によって組みレンズの焦点位置を求めるようにすればよい。例えば、焦点位置演算部142に、基準レンズの形状変化に対応付けられた、組みレンズの焦点位置が記憶されたテーブルを設けることにより、レンズ形状取得部(レンズ形状測定光学系123、形状演算部141)によって取得されたレンズ形状から組みレンズでなる集光レンズ122の焦点位置を求めることができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のレーザー加工装置は、熱レンズ効果を加味した的確な焦点位置の調整を行うことができる効果を有し、溶接や切断などを行うレーザー加工装置に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 被加工物
100 レーザー加工装置
110 レーザー発振器
120 レーザーヘッド
121 コリメートレンズ
122 集光レンズ
123 レンズ形状測定光学系
123a 参照光照射部
123b 光ディテクター
124 焦点位置調整部
130 駆動部
140 演算部
141 形状演算部
142 焦点位置演算部
143 焦点位置調整量演算部
150 位置調整制御部