(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】OCT計測装置及びOCT計測方法
(51)【国際特許分類】
G01B 9/02091 20220101AFI20240104BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20240104BHJP
A61B 3/10 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
G01B9/02091
G01N21/17 620
A61B3/10 100
(21)【出願番号】P 2020096969
(22)【出願日】2020-06-03
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武智 洋平
(72)【発明者】
【氏名】横山 潤
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-267927(JP,A)
【文献】特開2006-201087(JP,A)
【文献】特開2019-150409(JP,A)
【文献】特開2015-221091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 9/00-9/10
11/00-11/30
G01N 21/00-21/01
21/17-21/61
A61B 9/00-10/06
3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長が掃引される光を発する波長掃引光源と、
前記光を測定光と参照光に分割して、前記測定光を被測定物の被測定面に向けて照射して前記被測定面で反射された前記測定光と、前記参照光との干渉の強度を示す光干渉強度信号を生成する光干渉計と、
前記光干渉計の光路中に配置された位相変調部と、
前記光干渉強度信号に基づき、前記被測定面の位置を導出すると共に、前記位相変調部の位相量を指示する位相量指示信号を生成する信号生成部と、
前記位相量指示信号に基づき、前記位相変調部を透過する光に与えられる位相量を制御する位相量制御部と、
を備え
、
前記信号生成部は、掃引される前記光の波長毎に前記位相量を求めて前記位相量指示信号を生成するOCT計測装置。
【請求項2】
前記位相変調部は、電気光学素子である請求項1に記載のOCT計測装置。
【請求項3】
前記位相変調部は、前記参照光が透過する参照光路に配置される請求項1又は2に記載のOCT計測装置。
【請求項4】
参照光との干渉の強度を示す光干渉強度信号を生成する光干渉計の光路中に配置された位相変調部を動作させない状態で、被測定物の被測定面に向けて照射して前記被測定面で反射された測定光と前記参照光との干渉の強度を示す光干渉強度信号を検出し、当該光干渉強度信号に基づき、波長が掃引される光を発する波長掃引光源から発せられる光の波数における瞬間的な位相値を示す瞬時位相変化データを算出するステップと、
前記瞬時位相変化データの先頭データにおける先頭部波数と前記瞬時位相変化データの末尾データにおける末尾部波数の区間において、前記先頭データの瞬時位相値から前記末尾データの瞬時位相値まで線形に変化する、線形瞬時位相変化データを算出するステップと、
前記瞬時位相変化データと前記線形瞬時位相変化データの差分を取ることにより、位相補償データを算出するステップと、
前記位相補償データと、前記位相変調部及び前記位相変調部を透過する光に与えられる位相量を制御する位相量制御部に設定されている、位相変調量を制御する位相変調制御係数とに基づき、補償電圧制御信号を算出するステップと、
前記補償電圧制御信号を制御装置に保存するステップと、
前記波長掃引光源から発せられる前記光の波長掃引タイミングに合わせて、前記補償電圧制御信号に基づいて前記制御装置から出力される前記補償電圧制御信号により、前記位相変調部が前記光路中を透過する光に位相を付与するステップと、
当該光干渉強度信号に基づき、前記被測定面の位置を導出するステップと、
を含むOCT計測方法。
【請求項5】
前記瞬時位相変化データを算出するステップにおいて、前記光干渉強度信号を複数回取得し、それぞれの前記光干渉強度信号に基づき前記瞬時位相変化データを算出し、複数個の前記瞬時位相変化データを平均化して得られたデータを改めて前記瞬時位相変化データとして用いる、請求項4に記載のOCT計測方法。
【請求項6】
前記光路中を透過する光に位相を付与するステップにおいて、位相が付与される前記光路中を透過する光が前記参照光である、請求項5に記載のOCT計測方法。
【請求項7】
前記補償電圧制御信号を算出するステップにおいて、少なくとも1回以上前記補償電圧制御信号を算出した後に、前記補償電圧制御信号を用いて前記光路中を透過する光に位相を付与するステップを実施しながら、新たな補償電圧制御信号を算出して前記補償電圧制御信号を更新する、請求項6に記載のOCT計測方法。
【請求項8】
前記位相変調部が電気光学素子である、請求項4から7の何れか一項に記載のOCT計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、OCT(Optical Coherence Tomography)計測装置及びOCT計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高品質で高精度な光干渉計測を実現するため、参照光路と測定光路の分散特性を合わせる、いわゆる分散補償を実現する技術が開示される。特許文献1の光干渉断層装置では、光源から出射した光が、ファイバカプラを経て測定光路ファイバ側の測定光と参照光路ファイバ側の参照光とに分割される。測定光路ファイバ側の測定光は、スキャナミラー、スキャナレンズ、及び対物レンズを経て、被測定物に到達する。参照光路ファイバ側の参照光は、第一の分散補償材、及び第二の分散補償材を経て、参照ミラーに到達する。参照光路に配置される第一の分散補償材、及び第二の分散補償材は、それぞれ逆の波長分散特性を有する。特許文献1の光干渉断層装置は、第一の分散補償材及び第二の分散補償材のそれぞれを所定の厚みにして組み合わせることで、被測定物の分散補償を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この種のOCT計測装置における分散補償方式では、測定光路側に配置される被測定物が有する波長分散に合うように調整された、波長分散特性の異なる2種類の分散媒質の光学長の組み合わせによって、分散補償を実現している。このため、光路を構成する光学部品が波長分散の原因になっている場合、既知の波長分散を有する被測定物の分散補償以外にも、未知の波長分散を有する当該光学部品の分散補償も必要になり、適切に分散補償することが困難である。従って、従来技術では、参照側光路、測定側光路などの光路に内在する多様な波長分散に対して分散補償をする上で改善の余地がある。
【0005】
本開示の非限定的な実施例は、光路に内在する多様な波長分散を容易に分散補償できるOCT計測装置及びOCT計測方法の提供に資する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施例に係るOCT計測装置は、波長が掃引される光を発する波長掃引光源と、前記光を測定光と参照光に分割して、前記測定光を被測定物の被測定面に向けて照射して前記被測定面で反射された前記測定光と、前記参照光との干渉の強度を示す光干渉強度信号を生成する光干渉計と、前記光干渉計の光路中に配置された位相変調部と、前記光干渉強度信号に基づき、前記被測定面の位置を導出すると共に、前記位相変調部の位相量を指示する位相量指示信号を生成する信号生成部と、前記位相量指示信号に基づき、前記位相変調部を透過する光に与えられる位相量を制御する位相量制御部と、を備え、前記信号生成部は、掃引される前記光の波長毎に前記位相量を求めて前記位相量指示信号を生成する。
【0007】
本開示の一実施例に係るOCT計測方法は、参照光との干渉の強度を示す光干渉強度信号を生成する光干渉計の光路中に配置された位相変調部を動作させない状態で、被測定物の被測定面に向けて照射して前記被測定面で反射された測定光と前記参照光との干渉の強度を示す光干渉強度信号を検出し、当該光干渉強度信号に基づき、波長が掃引される光を発する波長掃引光源から発せられる光の波数における瞬間的な位相値を示す瞬時位相変化データを算出するステップと、前記瞬時位相変化データの先頭データにおける先頭部波数と前記瞬時位相変化データの末尾データにおける末尾部波数の区間において、前記先頭データの瞬時位相値から前記末尾データの瞬時位相値まで線形に変化する、線形瞬時位相変化データを算出するステップと、前記瞬時位相変化データと前記線形瞬時位相変化データの差分を取ることにより、位相補償データを算出するステップと、前記位相補償データと、前記位相変調部及び前記位相変調部を透過する光に与えられる位相量を制御する位相量制御部に設定されている、位相変調量を制御する位相変調制御係数とに基づき、補償電圧制御信号を算出するステップと、前記補償電圧制御信号を制御装置に保存するステップと、前記波長掃引光源から発せられる前記光の波長掃引タイミングに合わせて、前記補償電圧制御信号に基づいて前記制御装置から出力される前記補償電圧制御信号により、前記位相変調部が前記光路中を透過する光に位相を付与するステップと、当該光干渉強度信号に基づき、前記被測定面の位置を導出するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一実施例によれば、光路に内在する多様な波長分散を容易に分散補償できるOCT計測装置及びOCT計測方法を構築できる。
【0009】
本開示の一実施例における更なる利点及び効果は、明細書及び図面から明らかにされる。かかる利点及び/又は効果は、いくつかの実施形態並びに明細書及び図面に記載された特徴によってそれぞれ提供されるが、1つ又はそれ以上の同一の特徴を得るために必ずしも全てが提供される必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施の形態におけるOCT計測装置1の構成例を示す図
【
図2】波長掃引光源2から発せられる光の波数が掃引時間に対して線形の場合に、OCT計測装置1がOCT計測を行う動作タイミング、OCT計測装置1が取得するデータなどを示す図
【
図3】波長掃引光源2から発せられる光の波数が掃引時間に対して線形に変化しない場合に、OCT計測装置1がOCT計測を行う動作タイミング、OCT計測装置1が取得するデータなどを示す図
【
図4】補償電圧制御信号の作成工程を説明するフローチャート
【
図5】参照側光路と測定側光路において適切に分散補償されている場合と分散補償が不十分な場合のそれぞれの光波数kに対する瞬時位相変化データφ(k)を示す図
【
図6】参照側光路と測定側光路において分散補償が不十分な場合の干渉信号データi(k)から導出した瞬時位相変化データφ(k)を示す図
【
図7】ステップS4で平均化された瞬時位相変化データΦ(k
m)を示す図
【
図8】
図7に示される瞬時位相変化データΦ(k
m)に対応する線形瞬時位相変化データψ(k
m)を示す図
【
図9】補償電圧制御信号v(k
m)を用いて分散補償されたOCT計測を行う方法を説明するための図
【
図10】補償電圧制御信号v(k
m)を用いて分散補償されたOCT計測を行う方法を説明するための図
【
図11】OCT計測を行った時の深さ方向の測定光反射強度分布のプロファイルを示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
(実施の形態)
まず、本開示に係る実施形態を創作するに至った背景について説明する。OCTは光干渉を用いて、被測定物の断層や反射面までの距離を高速に計測する方法として知られており、近年では、眼科などの医療分野、レーザ加工における溶け込み深さ計測を行う工業分野など、多岐に渡り利用されている。OCTは、光干渉信号の取得方法により、時分割型光干渉断層法(TD-OCT:Time Domain Optical Coherence Tomography)、スペクトルドメイン型干渉断層法(SD-OCT:Spectral Domain Optical Coherence Tomography)、波長走査型光干渉断層法(SS-OCT:Swept Source Optical Coherence Tomography)の3方式が知られている。
【0013】
TD-OCTは光源に広帯域光源を用いて光干渉計の参照面を時間的に走査することで白色干渉と同様の要領で計測部の深さ方向を走査し、計測深さ方向の測定光の反射光強度プロファイル、つまり計測信号を得ている。一方、SD-OCTは光源に広帯域光源を用いて全ての波長を同時に用いて、光干渉信号の検出には分光器カメラを用いている。また、SS-OCTは時間によって光源の波長が変化する波長掃引光源を用いて、光検出器で時間的に得られる信号を光干渉信号として取得している。SD-OCT、及びSS-OCTでは、得られた光干渉信号を波数についてフーリエ変換することにより、TD-OCTで得られる計測信号と同様の計測信号を得ている。SD-OCT、及びSS-OCTは、TD-OCTに比べて信号雑音比に優れ、繰り返し計測周波数が高いことが特徴である。さらにSS-OCTは、SD-OCTに比べて、計測高速化を図れる、光利用効率が高く信号雑音比の高い光干渉信号が得られる、などの点で優れているとされる。
【0014】
これらの何れの方式でも、複数の波長を用いて光干渉計測を行っているが、その際に光学系に存在する波長分散が問題になる。光干渉計測装置には、光干渉を生じさせる光学系として、測定用光源からの光を分岐させた参照光路と測定光路があり、それぞれ固有の波長分散特性を有している。各光路の波長分散特性は、その光路を構成する光学部品(光ファイバ、レンズ、ミラー等)や、測定光路の被測定物によって決まるが、一般的には、参照光路及び測定光路の互いの分散特性が一致せず、この場合、意図した光干渉が起きずに、光干渉信号が劣化する。具体的には、計測信号で被計測物の断層、反射面などに対応する信号が弱まったり、深さ方向へのボケが生じて半値幅が広がったりするため、計測品質が低下する。そのため、より高品質で高精度な光干渉計測を実現するためには、参照光路と測定光路の分散特性を合わせる、いわゆる分散補償を行う必要がある。
【0015】
図11はOCT計測を行った時の深さ方向の測定光反射強度分布のプロファイルを示す図である。実線は、分散補償が施された場合(分散補償ありの場合)の測定光反射強度分布である。破線は、分散補償が十分でない場合(分散補償不足、分散補償なしなどの場合)の測定光反射強度分布である。分散補償が十分でない場合、分散補償が施された場合に比べて、深さ方向の強度分布の半値幅が広がってしまい、深さ方向の分解能の劣化や、信号強度ピークの低下などが起きていることが分かる。
【0016】
従来のOCT計測装置における分散補償方式では、測定光路側に配置される被測定検物が有する波長分散に合うように調整された、波長分散特性の異なる2種類の分散媒質の光学長の組み合わせによって、分散補償を実現している。このため、測定光路中において、被測定物以外にも、光路を構成する光学部品が波長分散の原因になっている場合、既知の波長分散を有する被測定物の分散補償以外にも、未知の波長分散に対しての分散補償も必要になり、適切に分散補償することが困難である。また、被測定物が変わるとその度に新たな被測定物に適した光学長の分散媒質を製作して取り換える必要がある。そこで、OCT計測装置の光路に内在する多様な波長分散を補償することにより、OCT計測データの劣化を抑えた高品質な計測を実施することが望まれる。以下、本開示に係る実施形態について説明する。
【0017】
<OCT計測装置1の構成>
図1は本開示の実施の形態におけるOCT計測装置1の構成例を示す図である。OCT計測装置1は、光干渉を利用して、光の反射体、散乱体などである被測定物20までの距離を高精度に計測するためのものである。
【0018】
OCT計測装置1は、光干渉計9、波長掃引光源2、計測処理装置3、AD(Analog to Digital)変換装置4、光検出器5、電気光学素子制御装置6、測定光路ファイバ端7、及び測定光照射機構8を備える。
【0019】
光干渉計9は、波長掃引光源2から発せられる光を測定光18と参照光19に分割して、分割した測定光18を被測定面21に向けて照射して被測定面21で反射された測定光18と、分割した参照光19との干渉の強度を示す光干渉強度信号を生成する。波長掃引光源2は、波長が掃引される光(時間の経過に従い波長が変化する光)を発生する光源である。波長掃引光源2は、例えば、SLD(Super Luminescent Diode)光源、ASE(Amplified Spontaneous Emission)光源、SC(Super Continuum)光源、SS(Swept Source)光源などである。光干渉強度信号は、被測定面21で反射された測定光18と参照光19との干渉の強度を示す信号である。以下では、光干渉強度信号を単に光干渉信号と称する。光干渉信号は、測定光18と参照光が合波されることで生じる光干渉の信号である。
【0020】
光干渉計9は、第一カプラ10、第一サーキュレータ11、第二カプラ12、第二サーキュレータ13、参照光路ファイバ端14、コリメータ15、参照ミラー16、及び電気光学素子17を備える。なお、
図1において、光干渉計9内の各構成部品を接続している実線は、光ファイバを示す。
【0021】
光検出器5は、第二カプラ12が測定光18及び参照光19を合波することで生じる光干渉信号を入力する光センサである。AD変換装置4は、光検出器5から出力されたアナログの光干渉信号をデジタル信号に変換し、変換したデジタル信号を計測処理装置3に対して出力する。
【0022】
計測処理装置3は、波長掃引光源2、AD変換装置4、及び電気光学素子制御装置6に接続される。計測処理装置3は、光干渉信号に基づいて、電気光学素子17の位相量(電気光学素子17を透過する光に与えられる位相量)を指示する位相量指示信号を生成する信号生成部である。計測処理装置3は、生成した位相量指示信号を電気光学素子制御装置6に対して出力する。電気光学素子17の詳細については後述する。
【0023】
また計測処理装置3は、波長掃引光源2から出力される各種トリガ信号を入力すると共に、AD変換装置4から出力されるデジタル信号を入力し、OCT計測結果を算出する。各種トリガ信号は、波長掃引開始トリガ信号、サンプリングトリガ信号などである。波長掃引開始トリガ信号は、AD変換装置4が光干渉信号の受信を開始するトリガとなる信号である。サンプリングトリガ信号は、AD変換装置4に入力されたアナログの光干渉信号のサンプリング開始を指示する信号である。OCT計測結果は、デジタル信号として計測処理装置3に入力された光干渉信号が、フーリエ変換等のデータ処理を経て、測定光軸22に沿った深さ方向の測定光反射光強度を示す情報である。
【0024】
電気光学素子制御装置6は、電気光学素子17に接続される。電気光学素子制御装置6は、位相量指示信号に基づき、電気光学素子17を透過する光に与えられる位相量を制御する位相量制御部である。電気光学素子制御装置6は、位相量を制御するための補償電圧制御信号を生成し、生成した補償電圧制御信号を電気光学素子17に対して出力する。補償電圧制御信号は、電気光学素子17が参照光19に与える位相量を制御するための信号である。
【0025】
電気光学素子17は、光干渉計9の光路中に配置された位相変調部である。電気光学素子17は、コリメータ15で平行光に変換された参照光19に位相を付与する光学部品である。コリメータ15は、参照光路ファイバ端14から出力された参照光を平行光に変換する光学部品である。参照光路ファイバ端14は、第一サーキュレータ11から入力した参照光19をコリメータ15に対して出力する光ファイバの端部である。参照ミラー16は、コリメータ15で平行光に変換された参照光を反射する光学ミラーである。
【0026】
第一カプラ10は、波長掃引光源2から発せられた光を参照光19と測定光18とに分割して、参照光を第一サーキュレータ11に対して出力し、測定光18を第二サーキュレータ13に対して出力する光ファイバ部品である。
【0027】
第一サーキュレータ11は、入力した参照光19を参照光路ファイバ端14へ伝えると共に、参照ミラー16で反射されて参照光路ファイバ端14を介して入力される参照光19を第二カプラ12へ伝える、光ファイバ部品である。
【0028】
第二カプラ12は、第一サーキュレータ11から出力される参照光19と、第二サーキュレータ13から出力される測定光18とを合波し、合成した光を光干渉信号として光検出器5に入力する、光ファイバ部品である。
【0029】
第二サーキュレータ13は第一カプラ10から入力した測定光18を測定光路ファイバ端7に伝えると共に、被測定物20の被測定面21で反射されて、測定光照射機構8及び測定光路ファイバ端7を介して入力される測定光18を、第二カプラ12へ伝える光ファイバ部品である。
【0030】
測定光路ファイバ端7は、第一カプラ10で分割された測定光18を、光干渉計9の外部に出力する光ファイバの端部である。
【0031】
測定光照射機構8は、測定光路ファイバ端7から出力された測定光18を適切に収束させて被測定面21へ照射するための光学部品構成である。
【0032】
このように構成されるOCT計測装置1では、波長掃引光源2から発せられた光が、第一カプラ10によって測定光18と参照光19に分割される。第二サーキュレータ13を通過した測定光18は、測定光路ファイバ端7から出力され、測定光照射機構8によって測定光軸22に沿って、被測定物20の被測定面21へ照射される。被測定面21で反射された測定光18は、測定光照射機構8、測定光路ファイバ端7を経て第二サーキュレータ13を通過し、第二カプラ12へ向かう。
【0033】
第一サーキュレータ11を通過した参照光19は、参照光路ファイバ端14から出力され、コリメータ15で平行光となり、電気光学素子17を透過して、参照ミラー16に照射される。参照ミラー16で反射された参照光19は、電気光学素子17を透過して、コリメータ15、及び参照光路ファイバ端14を経て、第一サーキュレータ11を通過し、第二カプラ12へ向かう。
【0034】
光干渉計9には、波長掃引光源2から発せられる光が導かれる光路として、測定側光路と参照側光路とが形成される。
【0035】
測定側光路は、測定光18が、第一カプラ10から、第二サーキュレータ13、測定光路ファイバ端7、及び測定光照射機構8を経て、被測定面21に到達してから反転し、測定光照射機構8、測定光路ファイバ端7、及び第二サーキュレータ13を経て、第二カプラ12に至るまでの経路である。
【0036】
参照側光路は、参照光19が、第一カプラ10から、第一サーキュレータ11、参照光路ファイバ端14、コリメータ15、及び電気光学素子17を経て、参照ミラー16に到達してから反転し、電気光学素子17、コリメータ15、参照光路ファイバ端14、及び第一サーキュレータ11を経て、第二カプラ12に至るまでの経路である。
【0037】
OCT計測装置1は、光干渉信号が極大となるように、測定側光路長と参照側光路長が略同一になるように構成される。光路長とは、光学部材、硝材、光学媒質などの屈折率を考慮した、光学的距離を指す。
【0038】
<電気光学素子17の作用と動作>
電気光学素子17は、誘電体結晶に電場を印加するとその誘電体結晶の屈折率が変化することを利用した光学素子である。電気光学素子17には、位相変調型と強度変調型とが存在する。本実施例では、位相変調型の電気光学素子17を用いる。電気光学素子17には、電気光学素子17に用いる波長ごとに、位相をπ変化させるのに必要な印加電圧が定められており、本実施の形態では、この印加電圧を半波長電圧Vπとする。半波長電圧Vπは、電気光学素子17を透過する光の波長λに依存するため、以下では、VπをVπ(λ)と表記する。
【0039】
Vπ(λ)の半波長電圧を印加した電気光学素子17に波長λの光を透過させたときの透過光の位相は、Vπ(λ)の半波長電圧を印加していない状態の電気光学素子17に波長λの光を透過させたときの透過光の位相よりも、π/2だけ進む状態になる。
【0040】
また、-Vπ(λ)の半波長電圧を印加した電気光学素子17に波長λの光を透過させたときの透過光の位相は、Vπ(λ)の半波長電圧を印加していない状態の電気光学素子17に波長λの光を透過させたときの透過光の位相よりも、π/2だけ遅れた状態になる。
【0041】
このように電気光学素子17を用いることにより、自在に光の位相を進めさせ、又は遅れさせることができる。
【0042】
<OCT計測の流れ>
図2は波長掃引光源2から発せられる光の波数が掃引時間に対して線形の場合に、OCT計測装置1がOCT計測を行う動作タイミング、OCT計測装置1が取得するデータなどを示す図である。
【0043】
図2には、上から順に、波長掃引光源2が生成する波長掃引開始トリガ信号と、波長掃引光源2が生成するサンプリングトリガ信号と、波長掃引光源2から発せられる光の波数(光波数)と、光検出器5で受信される光干渉信号とが示される。横軸は時間tを表す。垂直方向に伸びる破線は、同じ時刻上のデータ同士の関係性を明示するための線である。
【0044】
波長掃引開始トリガ信号がAD変換装置4に入力されることにより、AD変換装置4では、光干渉信号の受信が開始される。
【0045】
サンプリングトリガ信号がAD変換装置4に入力されることにより、AD変換装置4では、受信した光干渉信号のデジタル信号への変換が行われる。
【0046】
図2では、光干渉信号をサンプリングするサンプリング時間が、時刻の早い方からt
1、t
2、t
3、・・・t
n-1、t
nで示される。nは1以上の自然数である。
【0047】
図2では、各サンプリング時間のそれぞれに対応する光波数が、k(t
1)、k(t
2)、k(t
3)、・・・k(t
n-1)、k(t
n)で示される。nは1以上の自然数である。光波数は光の波長と逆数の関係にある。
【0048】
通常のOCT計測を行う場合、
図2の上から3つ目に示すように、OCT計測装置1では、波長掃引開始トリガ信号が出力された後の光波数が、掃引時間(時間t)に対して線形に変化するような波長掃引動作となる。
【0049】
波長掃引開始トリガ信号を受信したAD変換装置4は、一定の時間間隔(タイミング)で、光検出器5の光干渉信号をサンプリングすることにより、干渉信号データを生成する。
【0050】
図2では、各サンプリング時間のそれぞれに対応する干渉信号データが、i(t
1)、i(t
2)、i(t
3)、・・・i(t
n-1)、i(t
n)で示される。nは1以上の自然数である。
【0051】
AD変換装置4は、波長掃引開始トリガ信号を受信したタイミングで、予め設定されたサンプリング周波数によって光検出器5の光干渉信号をサンプリングしても良いし、サンプリングトリガ信号を受信したタイミングで光検出器5の光干渉信号のサンプリングを開始してもよい。
【0052】
図3は波長掃引光源2から発せられる光の波数が掃引時間に対して線形に変化しない場合に、OCT計測装置1がOCT計測を行う動作タイミング、OCT計測装置1が取得するデータなどを示す図である。
【0053】
図3には、
図2と同様に、上から順に、波長掃引光源2が生成する波長掃引開始トリガ信号と、波長掃引光源2が生成するサンプリングトリガ信号と、波長掃引光源2から発せられる光の波数(光波数)と、光検出器5で受信される光干渉信号とが示される。横軸は時間tを表す。垂直方向に伸びる破線は、同じ時刻上のデータ同士の関係性を明示するための線である。
【0054】
また、
図3には、
図2と同様に、サンプリング時間t
1~t
nと、光波数k(t
1)~k(t
n)とが示される。nは1以上の自然数である。
【0055】
波長掃引光源2から発せられる光の光波数kが掃引時間に対して線形に変化しない特性の光源であった場合、波長掃引光源2から別途、波数が一定になるようなタイミングのサンプリングトリガ信号が発せられる。このようなサンプリングトリガ信号を以下では「kクロック」と称する。
【0056】
図3に示すように、波長掃引開始トリガ信号の後、光波数k(t)が時間tに対して非線形に変化しており、それに合わせてkクロックも時間に対して不等ピッチで出力されていることが分かる。この場合、AD変換装置4は、波長掃引光源2から出力される波長掃引開始トリガ信号を受信した後、kクロックのタイミングに従って、光検出器5の光干渉信号をサンプリングすることにより、干渉信号データを生成する。
【0057】
以上のことから、AD変換装置4で生成される干渉信号データi(t)は、等波数間隔でサンプリングされたものになる。従って、
図2及び
図3の何れにも、AD変換装置4で取得した干渉信号データが、i(t
1)、i(t
2)、i(t
3)、・・・i(t
n-1)、i(t
n)として表記されるが、AD変換装置4でデジタルデータとして取得された干渉信号データi(t)は、その時間間隔に関わらず、i(k
1)、i(k
2)、i(k
3)、・・・i(k
n-1)、i(k
n)と表記することができる。
【0058】
<補償電圧制御信号の取得方法>
次に、OCT計測装置1の光学系に内在する波長分散を計測で求めて、その波長分散を電気光学素子17により分散補償するのに必要な、補償電圧制御信号のデータを取得する方法について説明する。
【0059】
図1において、被測定物20を板状の金属部材と想定し、被測定物20の被測定面21にて測定光18が反射する状況を考える。被測定面21は、先述の通り、光干渉信号が極大となるような位置の近傍に配置されている。このとき、予め干光渉信号を確認して、光干渉信号の波形が光検出器5の検出感度で飽和しないように、被測定面21の表面状態を整えておく。例えば、被測定面21が鏡面に近い状態の場合、容易に光検出器5が飽和する可能性があるため、被測定面21は、測定光18をある程度散乱させるような粗面、梨地面などに設定しておくことが好ましい。
【0060】
なお、被測定物20は、測定光18が被測定物20内に浸透しないものであればよく、板状の金属部材に限定されず、例えば板状のセラミックスなどでも良い。
【0061】
通常、光検出器5には差分フォトディテクタが利用され、この場合の光検出器5の出力は、出力ゼロを中心として、プラスとマイナスに検出限度がある。そのため、プラス出力とマイナス出力の双方向で干渉波形信号が飽和しないよう留意する。
【0062】
なお、光検出器5に通常のフォトディテクタ等を用いる場合でも、バイアス動作させた際に検出感度が飽和しないように被測定面21の表面状態やバイアス値を調節することが好ましいことは言うまでもない。
【0063】
図4は補償電圧制御信号の作成工程を説明するフローチャートである。ステップS1において、OCT計測装置1は、通常のOCT計測を行うのと同様に、波長掃引光源2から発せられる光を導入し、波長掃引光源2の波長掃引動作に合わせて、光干渉信号をAD変換することで、干渉信号データi(k
m)(m=1、2、3・・・n-1、n)を取得する。kは光波数を表す。
【0064】
ステップS2において、OCT計測装置1は、ステップS1で取得された干渉信号データi(km)に基づき、瞬時位相変化データφ(km)を求める。干渉信号データi(km)から瞬時位相変化データφ(km)を導出するには、ヒルベルト変換等の公知技術を利用できる。干渉信号データi(km)のヒルベルト変換をj(km)とすると、瞬時位相変化データは、φ(km)=arctan{j(km)/i(km)}として求められる。
【0065】
ここで、arctan{X}は逆正接関数であり、Y=arctan{X}であるとき、X=tan{Y}の関係が成り立つ。tan{Y}は正接関数である。このようにして求められる瞬時位相変化データφ(km)は、干渉信号データi(km)を取得した各光波数k(k1、k2、k3・・・kn-1、kn)における瞬間的な位相値を表している。干渉信号データi(km)は、定性的には、各光波数kにおける瞬間的な時間的ずれ量に対応した量を表す。
【0066】
図5は参照側光路と測定側光路において適切に分散補償されている場合と分散補償が不十分な場合のそれぞれの光波数kに対する瞬時位相変化データφ(k)を示す図である。横軸は光波数、縦軸は瞬時位相を表す。
【0067】
通常、arctan関数(逆正接関数)は、定義域が-π/2からπ/2までのため、位相値がπ/2以上又は-π/2以下の場合、瞬時位相変化データφ(k)に、±πの不連続が発生する。この場合、不連続点において、適宜±πを加える処理を行うことにより連続性を持ったデータに変換する、いわゆる「位相接続処理」を行う。
図5は位相接続処理をされたデータである。
【0068】
前述した通り、瞬時位相変化データφ(k)は、干渉信号データi(k)を取得した各光波数k(k1、k2、k3・・・kn-1、kn)における瞬間的な位相値を表している。
【0069】
OCT計測装置1の参照側光路と測定側光路の各々において適切に分散補償がされている場合、位相変化データφ(k)は、
図5の破線で示すように、光波数kに対して線形に変化する。これは、特定の測定深さ位置の被測定面21で反射した測定光の反射光強度の信号に対応する干渉信号データが、光波数kに対して一定の周期で変化するため、瞬時位相も一定の割合で変化するからである。
【0070】
一方、参照側光路と測定側光路の各々において分散補償が不十分な場合、瞬時位相変化データφ(k)は、
図5の実線で示すように、光波数kに対して非線形に変化する。これは、参照側光路と測定側光路の各々の光路長が波長によって一致しない場合、光干渉信号の各時刻のサンプリングタイミングに対応する波数に対してのズレが生じ、干渉信号データの変化が波数に対して一定の周期ではなくなるためである。
【0071】
図6は参照側光路と測定側光路において分散補償が不十分な場合の干渉信号データi(k)から導出した瞬時位相変化データφ(k)を示す図である。横軸は光波数、縦軸は瞬時位相を表す。
【0072】
実線上の点は、実際にAD変換装置4でのデータのサンプリング点を表し、各サンプリング点に対応する光波数はk1、k2、k3・・・kn-1、knである。導出元の干渉信号データi(km)(m=1、2、3・・・n-1、n)は、瞬時位相変化データφ(km)(m=1、2、3・・・n-1、n)に対応している。
【0073】
図4に戻り、ステップS3において、瞬時位相変化データφ(k
m)が所定回数取得できない場合(ステップS3,NO)、OCT計測装置1は、ステップS1以降の処理を繰り返す。
【0074】
瞬時位相変化データφ(km)が所定回数取得できる場合(ステップS3,YES)、OCT計測装置1は、ステップS4の処理を行う。ステップS4において、OCT計測装置1は、ステップS3までに複数回取得した瞬時位相変化データφ(km)を光波数kmごとに平均化処理することにより、平均化された瞬時位相変化データΦ(km)を求める。この処理は、干渉信号データi(km)に含まれているノイズデータ低減のために行われる。
【0075】
ここで、最初の干渉信号データi(km)取得の時点で平均化してしまうと、繰り返しによる干渉信号データ波形の初期位相ずれにより、干渉信号データ波形が鈍ってしまい、必要な瞬時位相変化データが得られない点に留意する。
【0076】
また、OCT計測動作時において、波長掃引光源2が波長掃引動作を繰り返し行うことによって、発光や掃引に必要な半導体、電気回路などが持つ再現性の範囲内でのサンプリングタイミングとなる。このため、各サンプリングタイミングにおける光波数は、本実施の形態において十分必要な精度で、同じ光波数(k1、k2、k3・・・kn-1、kn)でのデータ取得になる。
【0077】
なお、良好な補償電圧制御信号のデータ作成のためには、瞬時位相変化データの取得回数は、20回以上であることが好ましい。
【0078】
ステップS5において、OCT計測装置1は、ステップS4で算出した瞬時位相変化データΦ(km)に基づき、線形瞬時位相変化データψ(km)を算出する。具体的には、OCT計測装置1は、瞬時位相変化データΦ(km)の先頭データにおける先頭部波数と瞬時位相変化データΦ(km)の末尾データ部における末尾部波数の区間において、先頭データの瞬時位相値から末尾データの瞬時位相値まで線形に変化する、線形瞬時位相変化データを算出する。
【0079】
ステップS6において、OCT計測装置1は、ステップS4で算出した瞬時位相変化データΦ(km)と、ステップS5で算出した線形瞬時位相変化データψ(km)とに基づき、位相補償データdψ(km)を算出する。具体的には、OCT計測装置1は、瞬時位相変化データΦ(km)と線形瞬時位相変化データψ(km)との差分を求め、この差分を位相補償データとして算出する。
【0080】
ステップS7において、OCT計測装置1は、ステップS5で算出した位相補償データdψ(km)と、電気光学素子17及び電気光学素子制御装置6に設定されている位相変調量を制御する位相変調制御係数とに基づき、補償電圧制御信号v(km)を算出する。
【0081】
ここで、ステップS5からステップS7にかけてのデータ操作の詳細を、
図7及び
図8を参照して説明する。
【0082】
図7はステップS4で平均化された瞬時位相変化データΦ(k
m)を示す図である。横軸は光波数、縦軸は瞬時位相を表す。破線の直線は、瞬時位相変化データの先頭データΦ(k
1)と末端データΦ(k
n)を直線で結んだ線形瞬時位相変化データψ(k)である。
【0083】
図7に示す瞬時位相変化データΦ(k
m)は、分散補償されていないOCT計測装置1で取得したデータである。このため、
図7に示す瞬時位相変化データΦ(k
m)は、光波数kに対して線形に変化しておらず、等間隔な光波数増分Δk
m(m=1、2、3、・・・n-1、n)に対して、瞬時位相増分ΔΦ(k
m)は、不等間隔である。
【0084】
等間隔な光波数増分Δkmは、Δkm=km+1-kmによって求められる。瞬時位相増分ΔΦ(km)は、ΔΦ(km)=Φ(km+1)-Φ(km)によって求められる。
【0085】
図8は
図7に示される瞬時位相変化データΦ(k
m)に対応する線形瞬時位相変化データψ(k
m)を示す図である。
図8では紙面の都合上、瞬時位相変化データΦ(k
m)の図示が省略される。線形瞬時位相変化データは、ψ(k
m)={Φ(k
n)-Φ(k
1)}/{k
n-k
1}・kで表すことができる。
【0086】
OCT計測装置1は、各サンプリング点の光波数km(m=1、2、3、・・・n-1、n)において瞬時位相増分が一定になるように、各サンプリング点における線形瞬時位相変化データψ(km)を求める。
【0087】
図8中では、ψ(k
m)が四角の点で示される。ψ(k
m)は、ψ(k
m)={Φ(k
n)-Φ(k
1)}/{k
n-k
1}k
mと表すことができる。瞬時位相変化データΦ(k
m)と線形瞬時位相変化データψ(k
m)を比べると、m=1及びm=n以外、すなわち、先頭及び末尾のデータ以外で差異が生じていることが分かる。その差異をdψ(k)=ψ(k)-Φ(k)とする。
【0088】
dψ(k)は、光波数kにおける、理想的な瞬時位相に対する実測の瞬時位相の値の差分である。このため、電気光学素子17によって、参照光路側にdψ(k)だけ位相を与えれば、得られる干渉信号データは、線形瞬時位相変化データに限りなく近いものになる。そこで、以下では、dψ(km)(m=1、2、3、・・・n-1、n)を位相補償データと称する。
【0089】
ここで、電気光学素子17の波長λにおける半波長電圧が、Vπ(λ)で与えられているとする。波長λと光波数kはλ=1/kの関係があるため、半波長電圧はVπ(1/k)と表すこともできる。このため、光波数kの時に電気光学素子17に与える補償電圧制御v(k)は、位相補償データdψ(km)を用いて、v(k)={Vπ(1/k)・dψ(k)}/πと表すことができる。これにより、干渉信号データを取得した全ての光波数kmについて、補償電圧制御データv(km)={Vπ(1/km)・dψ(km)}/πを定めることができる。v(km)を補償電圧制御信号とすることにより、OCT計測装置1に内在する波長分散を補償することができる。
【0090】
図4に戻り、ステップS8において、ステップS7までの操作で取得した補償電圧制御信号v(k
m)を、よりバラツキ影響の小さいものに更新する場合(ステップS8,YES)、OCT計測装置1は、ステップS8-1の処理を行う。補償電圧制御信号v(k
m)の更新をしない場合(ステップS8,NO)、OCT計測装置1は、ステップS12の処理を行う。
【0091】
OCT計測装置1は、ステップS8-1において、補償電圧制御信号v(km)の更新が一回目である場合(ステップS8-1,YES)、ステップS9の処理を行う、補償電圧制御信号v(km)の更新が二回目以降である場合(ステップS8-1,NO)、ステップS10の処理を行う。
【0092】
ステップS9において、OCT計測装置1は、ステップS7で算出した補償電圧制御信号v(km)を用いた分散補償が実施される状態にする。その後、OCT計測装置1は、ステップS1以降の処理を繰り返すことにより、再度、補償電圧制御信号v(km)を取得する。
【0093】
ステップS10において、OCT計測装置1は、波長分散を補償した状態で取得した今回取得された補償電圧制御信号v(km)をv2(km)として、補償電圧制御信号に基づき、vc(km)=v(km)+v2(km)を算出する。v2(km)は、v(km)による分散補償を行っても、補償しきれない波長分散の残差である。OCT計測装置1は、新たに算出したvc(km)を最新の補償電圧制御信号v(km)として設定し、ステップS11の処理を行う。
【0094】
ステップS11において、OCT計測装置1は、補償電圧制御信号の更新を繰り返す場合(ステップS11,YES)、ステップS1以降の処理を行う。OCT計測装置1は、補償電圧制御信号の更新を繰り返さずに終了する場合(ステップS11,NO)、ステップS12の処理を行う。
【0095】
ここで、ステップS8からステップS11までのデータ操作の詳細について説明する。より一層、バラツキ影響の小さい補償電圧制御信号を得るためには、先に取得した補償電圧制御信号v(km)を用いて波長分散を補償した状態で、一連の補償電圧制御信号を取得する手順を実施し、現在の補償電圧制御信号を更新することが好ましい。
【0096】
波長分散を補償した状態で取得した補償電圧制御データをv2(km)としたとき、新たな補償電圧制御信号は、vc(km)=v(km)+v2(km)となる。前述したように、v2(km)は、v(km)による分散補償を行っても、補償しきれない波長分散の残差である。このvc(km)を改めて補償電圧制御信号として用いて、同様の操作を繰り返すと、v2(km)はゼロに収束していくので、この操作を必要な回数だけ繰り返した後にvc(km)を補償電圧制御信号として採用すれば良い。
【0097】
ステップS12において、OCT計測装置1は、これまでの手順で決定された補償電圧制御信号を制御装置にデータとして保存する。「制御装置」は、後述する分散補償されたOCT計測方法における動作が実現されるならば、電気光学素子制御装置6及び計測処理装置3の何れでもよい。
【0098】
なお、本実施の形態では、光透過しない金属表面、樹脂表面などの形状計測を想定して、被測定物20に金属板を利用した場合について説明した。金属板などの被測定物20の被測定面21に、測定光が到達するまでの測定側光路中に、何らかの光透過媒質が存在する場合、OCT計測装置1は、補償電圧制御信号を決定する際、当該光透過媒質を測定光路中に配置して、干渉信号データを取得する。
【0099】
例えば、被測定物20が眼球の場合、眼球の網膜、眼底などが被測定面21であり、網膜、眼底などの手前に存在する水晶体、角膜などが測定側光路中の光透過媒質である。また、被測定物20が水中の構造物の場合、水中の構造物が被測定面21であり、構造物の手前に存在する水が測定側光路中の光透過媒質である。
【0100】
<分散補償されたOCT計測方法>
以下では、ステップS12で保存された補償電圧制御信号v(k
m)を用いて、分散補償されたOCT計測を行う方法について、
図9などを参照して説明する。
【0101】
図9及び
図10は補償電圧制御信号v(k
m)を用いて分散補償されたOCT計測を行う方法を説明するための図である。
図9には、波長掃引光源2から発せられる光の波数が掃引時間に対して線形の場合に、OCT計測装置1がOCT計測を行う動作タイミング、OCT計測装置1が取得するデータなどが示される。
【0102】
図10には、波長掃引光源2から発せられる光の波数が掃引時間に対して線形に変化しない場合に、OCT計測装置1がOCT計測を行う動作タイミング、OCT計測装置1が取得するデータなどが示される。
【0103】
図2及び
図3との相違点は、
図9及び
図10には、
図2及び
図3に示す各種データに加え、補償電圧制御信号のデータが追加されていることである。横軸は時間tを表す。垂直方向に伸びる破線は、同じ時刻上のデータ同士の関係性を明示するための線である。
【0104】
図9及び
図10には、
図2及び
図3と同様に、光干渉信号をサンプリングするサンプリング時間が、時刻の早い方からt
1、t
2、t
3、・・・t
n-1、t
nで示され、また各サンプリング時間のそれぞれに対応する光波数が、k(t
1)、k(t
2)、k(t
3)、・・・k(t
n-1)、k(t
n)で示される。nは1以上の自然数である。
【0105】
図9において、波長掃引光源2が波長掃引開始トリガ信号を発した後のサンプリングトリガ信号に合わせて、AD変換装置4が干渉信号データi(k
m)をサンプリングしていることは先述の通りである。
【0106】
OCT計測装置1の電気光学素子制御装置6は、このタイミング時間tmに合わせて、補償電圧制御信号v(tm)=v(km)を電圧波形として出力する。これにより、電気光学素子17は、先に求めておいた位相を、参照光に対して付与して、OCT計測装置1の分散補償を実現する。これは、波長掃引光源2が、掃引時間に対して線形に変化しない特性の光源であった場合でも同様である。
【0107】
図10において、波長掃引光源2から発せられるkクロックを受信したしたタイミングで、AD変換装置4が干渉信号データi(k
m)をサンプリングしていることは先述の通りである。
【0108】
OCT計測装置1の電気光学素子制御装置6は、kクロックを受け取り、そのタイミング時間tmに合わせて、補償電圧制御信号v(tm)=v(km)を電圧波形として出力する。これにより、電気光学素子17は、光波数kが掃引時間に対して非線形であった場合でも、参照光に対して先に求めておいた位相を付与して分散補償を実現する。
【0109】
以上の手順と動作タイミングで取得した干渉信号データi(km)を、波数についてフーリエ変換することにより、計測深さ方向の測定光の反射光強度プロファイル、つまりOCT計測信号を得る。このようにして得られたOCT計測信号は、分散補償が適切に行われており、深さ方向のぼやけが少ない高品質な計測結果である。
【0110】
<効果>
以上に説明したように、本実施の形態に係るOCT計測装置1は、波長が掃引される光を発する波長掃引光源2と、当該光を測定光18と参照光19に分割して、測定光18を被測定物20の被測定面21に向けて照射して被測定面21で反射された測定光18と、参照光19との干渉の強度を示す光干渉強度信号を生成する光干渉計9と、光干渉計9の光路中に配置された位相変調部である電気光学素子17と、光干渉強度信号に基づき、被測定面21の位置を導出すると共に、電気光学素子17の位相量を指示する位相量指示信号を生成する信号生成部である計測処理装置3と、位相量指示信号に基づき、電気光学素子17を透過する光に与えられる位相量を制御する位相量制御部である電気光学素子制御装置6と、を備える。この構成により、光路を構成する光学部品が波長分散の原因になっている場合でも、電気光学素子17を透過する光の位相量を制御することにより、参照側光路と測定側光路を構成する光学部品に内在する波長分散を補償することができる。すなわち、既知の波長分散を有する被測定物の分散補償以外にも、未知の波長分散に対して分散補償することが可能である。その結果、OCT計測データの劣化を抑えた高品質な計測を実施できる。
【0111】
また、本実施の形態に係るOCT計測装置1によれば、例えばOCT計測装置1の構成部品、特に測定側光路上の測定光照射機構8を構成するレンズ、ミラーなどの光学部品の交換や変更によって、波長分散特性が変化した場合でも、電気光学素子17を透過する光の位相量を制御することにより、交換後の光学部品に適した光学長の分散媒質を製作して取り換えることなく、容易かつ柔軟な分散補正を行うことができる。
【0112】
なお、例えば、以下のような態様も本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0113】
(1)前記位相変調部は、電気光学素子17である。
【0114】
(2)前記電気光学素子17は、前記参照光が透過する参照光路に配置される。
【0115】
(3)本実施の形態に係るOCT計測方法は、
参照光19との干渉の強度を示す光干渉強度信号を生成する光干渉計9の光路中に配置された位相変調部17を動作させない状態で、被測定物20の被測定面21に向けて照射して前記被測定面21で反射された測定光18と前記参照光19との干渉の強度を示す光干渉強度信号を検出し、当該光干渉強度信号に基づき、波長が掃引される光を発する波長掃引光源2から発せられる光の波数における瞬間的な位相値を示す瞬時位相変化データを算出するステップと、
前記瞬時位相変化データの先頭データにおける先頭部波数と前記瞬時位相変化データの末尾データにおける末尾部波数の区間において、前記先頭データの瞬時位相値から前記末尾データの瞬時位相値まで線形に変化する、線形瞬時位相変化データを算出するステップと、
前記瞬時位相変化データと前記線形瞬時位相変化データの差分を取ることにより、位相補償データを算出するステップと、
前記位相補償データと、前記位相変調部17及び前記位相変調部17を透過する光に与えられる位相量を制御する位相量制御部6に設定されている、位相変調量を制御する位相変調制御係数とに基づき、補償電圧制御信号を算出するステップと、
前記補償電圧制御信号を制御装置(計測処理装置3、電気光学素子制御装置6)に保存するステップと、
前記波長掃引光源2から発せられる前記光の波長掃引タイミングに合わせて、前記補償電圧制御信号に基づいて前記制御装置から出力される前記補償電圧制御信号により、前記位相変調部17が前記光路中を透過する光に位相を付与するステップと、
当該光干渉強度信号に基づき、前記被測定面21の位置を導出するステップと、
を含む。
【0116】
(4)前記瞬時位相変化データを算出するステップにおいて、前記光干渉強度信号を複数回取得し、それぞれの前記光干渉強度信号に基づき前記瞬時位相変化データを算出し、複数個の前記瞬時位相変化データを平均化して得られたデータを改めて前記瞬時位相変化データとして用いる。
【0117】
(5)前記光路中を透過する光に位相を付与するステップにおいて、位相が付与される前記光路中を透過する光が前記参照光19である。
【0118】
(6)前記補償電圧制御信号を算出するステップにおいて、少なくとも1回以上前記補償電圧制御信号を算出した後に、前記補償電圧制御信号を用いて前記光路中を透過する光に位相を付与するステップを実施しながら、新たな補償電圧制御信号を算出して前記補償電圧制御信号を更新する。
【0119】
(7)本実施の形態に係るOCT計測方法に用いる前記位相変調部は電気光学素子である。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本開示の一実施例は、OCT計測装置に好適である。
【符号の説明】
【0121】
1 計測装置
2 波長掃引光源
3 計測処理装置
4 AD変換装置
5 光検出器
6 電気光学素子制御装置
7 測定光路ファイバ端
8 測定光照射機構
9 光干渉計
10 第一カプラ
11 第一サーキュレータ
12 第二カプラ
13 第二サーキュレータ
14 参照光路ファイバ端
15 コリメータ
16 参照ミラー
17 電気光学素子
18 測定光
19 参照光
20 被測定物
21 被測定面
22 測定光軸