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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】検査システム
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/00 20060101AFI20240104BHJP
   G01B 11/00 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
E02D27/00 B
G01B11/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020060938
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021161615
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】505466295
【氏名又は名称】株式会社イクシス
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】山崎 文敬
(72)【発明者】
【氏名】狩野 高志
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-003435(JP,A)
【文献】特開2020-042329(JP,A)
【文献】特開2006-349578(JP,A)
【文献】特開2005-213972(JP,A)
【文献】特開2017-204222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/00
G01B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の基礎を検査する検査システムであって、
前記建物の基礎をレーザースキャナで測定して得られる三次元点群データと、前記建物の基礎に関する設計データと、を取得するデータ取得手段と、
前記三次元点群データに含まれる点群を解析して、前記建物の基礎に含まれる特定部位の縁と推定される基準線を求める点群解析手段と、
前記点群解析手段によって求められた前記基準線を前記設計データにおける前記特定部位の位置データに合致させることによって前記設計データに対して前記三次元点群データを照合させ、前記三次元点群データの中に前記設計データに示される位置と合致しない位置に存在する部位が検出される又は前記三次元点群データの中に前記設計データに存在しない部位が検出されると異常である旨を判定するエラー判定手段と、
を備え
前記点群解析手段は、前記建物の基礎の立ち上がり部について、当該立ち上がり部の上面を基準として、高さ方向について前記上面より下方側に所定寸法内に収まる点群を解析することによって当該立ち上がり部の縁の位置を推定し、推定した当該立ち上がり部の縁の位置を前記基準線として求め、
前記所定寸法が、当該立ち上がり部の高さ寸法未満である、
ことを特徴とする検査システム。
【請求項2】
建物の基礎を検査する検査システムであって、
前記建物の基礎をレーザースキャナで測定して得られる三次元点群データと、前記建物の基礎に関する設計データと、を取得するデータ取得手段と、
前記三次元点群データに含まれる点群を解析して、前記建物の基礎に含まれる特定部位の縁と推定される基準線を求める点群解析手段と、
前記点群解析手段によって求められた前記基準線を前記設計データにおける前記特定部位の位置データに合致させることによって前記設計データに対して前記三次元点群データを照合させ、前記三次元点群データの中に前記設計データに示される位置と合致しない位置に存在する部位が検出される又は前記三次元点群データの中に前記設計データに存在しない部位が検出されると異常である旨を判定するエラー判定手段と、
を備え
前記点群解析手段は、前記建物の基礎の立ち上がり部の少なくとも一つについて、当該立ち上がり部の上面を基準として、高さ方向について前記上面より上方側に位置する点群を解析することによって当該上面から上方に突出するアンカーボルトの位置を推定し、
前記エラー判定手段は、前記点群解析手段によって推定された前記アンカーボルトの位置が、前記設計データに示される当該アンカーボルトの位置と合致しない位置に存在する場合、当該アンカーボルトが異常である旨を判定する、
ことを特徴とする検査システム。
【請求項3】
前記点群解析手段は、前記上面を基準として、高さ方向について前記上面より上方側に位置し且つ平面方向について前記上面の範囲内に収まる点群について、平面方向における各点の位置から重心を求め、求めた重心を前記アンカーボルトの位置として推定する、
請求項2に記載の検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物基礎を検査する検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
建物基礎が設計図面通りに埋設されているか否かは建物工事において、重要な事項であり、正確に検査する必要がある。一方で、その検査に多くの人員や時間をさけない事情があり、その作業負担を軽減しつつ効率的に検査を遂行する手法が種々提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-15631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、鉄道建築限界(線路周辺にて列車走行の障害となりうる建築物等を
設置してならない範囲)の点検作業について、レーザースキャナを計測機器として利用することにより、点検作業の効率化を図る技術が開示されている。
レーザースキャナは、その周囲にレーザービームを照射し、その発射角度及び反射光の受信時間に基づいて、周囲の構造物の形状等を広範囲にわたって計測でき、作業効率も高い計測機器である。しかしながら、レーザースキャナは、その原理上、レーザービームの反射角度がばらつく部位(例えば、細い形状のものや凹凸のあるもの等)やレーザービームの照射が届かない部位については十分な精度で形状を捕捉しがたいという難点がある。
【0005】
上記のようなレーザースキャナを用いた計測の難点を克服する手法として、特許文献1には、線路を走行する台車に一方のレール上に配置する第1のレーザースキャナと他方のレール上に配置する第2のレーザースキャナとを搭載し、2台のレーザースキャナによってレーザー照射を並行して行うことが開示されている。
しかしながら、特許文献1に開示されている手法は線路周辺の計測に用いられるものであり、一般的な建築物の基礎を検査する目的に転用しがたい。
【0006】
本発明は、上述のような課題に鑑みてなされたものであり、建物基礎の検査業務を高い精度で行いつつ、その検査業務の効率化を図りうる検査システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、建物の基礎を検査する検査システムであって、前記建物の基礎をレーザースキャナで測定して得られる三次元点群データと、前記建物の基礎に関する設計データと、を取得するデータ取得手段と、前記三次元点群データに含まれる点群を解析して、前記建物の基礎に含まれる特定部位の縁と推定される基準線を求める点群解析手段と、前記点群解析手段によって求められた前記基準線を前記設計データにおける前記特定部位の位置データに合致させることによって前記設計データに対して前記三次元点群データを照合させ、前記三次元点群データの中に前記設計データに示される位置と合致しない位置に存在する部位が検出される又は前記三次元点群データの中に前記設計データに存在しない部位が検出されると異常である旨を判定するエラー判定手段と、を備え、前記点群解析手段は、前記建物の基礎の立ち上がり部について、当該立ち上がり部の上面を基準として、高さ方向について前記上面より下方側に所定寸法内に収まる点群を解析することによって当該立ち上がり部の縁の位置を推定し、推定した当該立ち上がり部の縁の位置を前記基準線として求め、前記所定寸法が、当該立ち上がり部の高さ寸法未満である、ことを特徴とする検査システムが提供される。
本発明によれば、建物の基礎を検査する検査システムであって、前記建物の基礎をレーザースキャナで測定して得られる三次元点群データと、前記建物の基礎に関する設計データと、を取得するデータ取得手段と、前記三次元点群データに含まれる点群を解析して、前記建物の基礎に含まれる特定部位の縁と推定される基準線を求める点群解析手段と、前記点群解析手段によって求められた前記基準線を前記設計データにおける前記特定部位の位置データに合致させることによって前記設計データに対して前記三次元点群データを照合させ、前記三次元点群データの中に前記設計データに示される位置と合致しない位置に存在する部位が検出される又は前記三次元点群データの中に前記設計データに存在しない部位が検出されると異常である旨を判定するエラー判定手段と、を備え、前記点群解析手段は、前記建物の基礎の立ち上がり部の少なくとも一つについて、当該立ち上がり部の上面を基準として、高さ方向について前記上面より上方側に位置する点群を解析することによって当該上面から上方に突出するアンカーボルトの位置を推定し、前記エラー判定手段は、前記点群解析手段によって推定された前記アンカーボルトの位置が、前記設計データに示される当該アンカーボルトの位置と合致しない位置に存在する場合、当該アンカーボルトが異常である旨を判定する、ことを特徴とする検査システムが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、建物基礎の検査業務を高い精度で行いつつ、その検査業務の効率化を図りうる検査システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】検査対象である建物基礎の斜視図である。
図2図1の建物基礎を計測するレーザースキャナの配置を示す図である。
図3】建物基礎検査システムのブロック図である。
図4】建物基礎の検査手順を示すフロチャートである。
図5】立ち上がり部に関する三次元点群データを側方側から視た模式図である。
図6】立ち上がり部に関する三次元点群データを上方側から視た模式図である。
図7】ステップS30とステップS40の処理結果を示す図である。
図8】設計データに基づく建物基礎の上面図である。
図9】ステップS50における照合結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。
【0011】
<建物基礎検査システム100の概要>
まず、図1図3を用いて、建物基礎検査システム100の概要について説明する。
図1は、検査対象である建物基礎の斜視図である。
図2は、図1の建物基礎を計測するレーザースキャナの配置を示す図である。
図3は、建物基礎検査システム100のブロック図である。
【0012】
図1に示すように、建物基礎10に対し複数のアンカーボルトAが埋設されている。本実施形態において、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向と説明する場合は、図1に示すX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のことである。
図1に示すように、アンカーボルトAを建物基礎10の上面10aに対してZ軸上方向に突出させて埋設する。ここで、図1に示すように、建物基礎10の上面10aに相当するアンカーボルトAの位置をアンカーボルトAの基部Aaとする。
また、図1には、1つにのみアンカーボルトAとして符号を付しているが、同様の形状のものは全てアンカーボルトAである。言い換えれば、本明細書においてアンカーボルトAとは、建物基礎10に埋設されているアンカーボルトの総称である。また、他の図面についても特に言及しない限り同様である。
【0013】
図2は、建物基礎10を計測するレーザースキャナ200の配置を示している。
図2に示すように、レーザースキャナ200は地上に配置される、いわゆる地上型のレーザースキャナである。レーザースキャナ200の配置は、建物基礎10を計測する為に適した位置を適宜選択すればよく、図2では建物基礎10の外側に配置することを例示したが、建物基礎10の内側に配置してもよい。
なお、本発明の実施に用いるレーザースキャナは、必ずしも地上型のレーザースキャナである必要はなく、無人航空機に搭載させて空中からレーザービームを照査する形式のものであってもよい。
【0014】
図3は、建物基礎検査システム100のブロック図である。
建物基礎検査システム100は、後述する各種の処理を実行可能な情報処理端末である。なお、図示してはいないが、建物基礎検査システム100は、キーボード、ポインティングデバイスなどの入力装置、演算処理装置、記憶部等を備えている。
表示手段300は、建物基礎検査システム100によって制御されるディスプレイ装置である。
【0015】
建物基礎検査システム100は、データ取得手段110、点群解析手段120、エラー判定手段130、及び表示制御手段140を備えている。
データ取得手段110は、建物基礎10をレーザースキャナ200で測定して得られる三次元点群データと、建物基礎10に関する設計データと、を取得する。
点群解析手段120は、三次元点群データに含まれる点群を解析して、建物基礎10に含まれる特定部位の縁(例えば、建物基礎10の立ち上がり部のエッジ)と推定される基準線を求める。
エラー判定手段130は、点群解析手段120によって求められた基準線を設計データにおける特定部位の位置データに合致させることによって設計データに対して三次元点群データを照合させてエラー判定を行う。エラー判定手段130がエラーと判定する条件には、(イ)三次元点群データの中に設計データに示される位置と合致しない位置に存在する部位が検出されること、(ロ)三次元点群データの中に設計データに存在しない部位が検出されること、等が挙げられる。
表示制御手段140は、上記の三次元点群データや設計データを表示手段300に表示させたり、エラー判定手段130によって判定されたエラーに関する表示を表示手段300に表示させたり、することができる。
なお、図1では、表示手段300は、建物基礎検査システム100に包含されない外部構成として説明するが、本発明の検査システムに包含される内部構成としてもよい。
【0016】
ここで、「設計データ」とは、検査対象となる建物基礎10に含まれる各構成要素の形状や位置等を示すデータであって、人間の設計行為によって生成されたもの(人間がコンピュータを設計ツールとして用いて生成されたものを含む)をいう。「設計データ」は、二次元で表現される形式のものであってもよいし、三次元で表現される形式のものであってもよい。
ここで「三次元点群データ」とは、レーザースキャナ200の計測結果を示すデータであり、検査対象となる建物基礎10に含まれる各構成要素の形状や位置等を三次元空間上に表現するデータである。
ここで「基準線」とは、点群解析手段120による三次元点群データの解析に基づいて算出される直線であり、建物基礎10に含まれる特定部位の縁として推定される位置である。「基準線」は、演算処理によって算出される推定位置(計算上の位置)に過ぎず、三次元点群データに含まれる各点群が示す位置(実測上の位置)とは必ずしも一致しない。
ここで「特定部位」とは、建物基礎10の全体のうち特定の位置を示す部分をいう。
【0017】
建物基礎10を検査するにあたって、設計データ(設計上の建物基礎10の形状や位置)と計測データ(実測上の建物基礎10の形状や位置)とを照合する基準として特定部位の縁(エッジ)や角(コーナー)を用いることが一般的である。
しかしながら、レーザースキャナ200による計測は、対象となる建物基礎10を点群の集合体として捕捉するという原理上、特定部位の縁を直線として捕捉しがたく、その交点である特定部位の角の計測精度が粗くなりがちである。
このような課題を解決するべく、建物基礎検査システム100は、点群解析手段120によって推定された基準線を設計データと三次元点群データの照合に用いる。これにより、比較的高い精度で設計データと三次元点群データを照らし合わせることができ、正確に位置ズレ等の異常を検出することができる。
【0018】
<建物基礎10の検査作業の流れについて>
続いて、図4図9を用いて建物基礎10の検査作業の流れを説明する。
図4は、建物基礎10の検査手順を示すフロチャートである。
図5は、立ち上がり部11に関する三次元点群データを側方側から視た模式図である。
図6は、立ち上がり部11に関する三次元点群データを上方側から視た模式図である。
図7は、ステップS30とステップS40の処理結果を示す図である。
図8は、設計データに基づく建物基礎10の上面図である。
図9は、ステップS50における照合結果を示す図である。
【0019】
<建物基礎10の計測(ステップS10)>
先ず、建物基礎10の検査作業者は、レーザースキャナ200を用いて、建物基礎10をスキャニングし、各部位の形状や位置を計測する。その計測結果は、三次元点群データとして生成される。
レーザースキャナ200によって生成された三次元点群データは、レーザースキャナ200から直接的に又は他の装置を介して間接的に、建物基礎検査システム100(データ取得手段110)によって取得される。
【0020】
<立ち上がり部の上面の特定(ステップS20)>
建物基礎検査システム100(点群解析手段120)は、取得した三次元点群データを解析して、その三次元空間上における各立ち上がり部の上面の位置を特定する。
ここでは、モデルケースとして、レーザースキャナ200の近傍に存在する立ち上がり部11の上面11aを特定したものとする。本実施形態では、建物基礎10の上面10aを平面(建物基礎10を構成する全ての立ち上がり部の上面が同じ高さ)であるものと見做し、ステップS20において特定した立ち上がり部11の上面11aは、建物基礎10の上面10aと一体であるものとして、以下説明する。
実際には、立ち上がり部によって異なる高さの上面を有する建物基礎も存在するが、このような建物基礎の検査においては、立ち上がり部ごとに上面を特定する必要がある。
【0021】
<立ち上がり部11のエッジ解析(ステップS30)>
続いて、建物基礎検査システム100(点群解析手段120)は、ステップS20で特定した立ち上がり部11の上面11aを基準として、高さ方向について上面11aより下方側に所定寸法内(図5においてハッチングで示す領域R1)に収まる点群を解析することによって立ち上がり部11の縁(エッジ)の位置を推定し、推定した立ち上がり部11の縁の位置を基準線L1(図6において太線で示す部分)として求める。
上述のように、建物基礎検査システム100は、上面11aと同じ高さの点群に限らず、その下方側に所定寸法分の領域R1に存在する点群もエッジ解析の対象に含める。これにより、建物基礎検査システム100は、領域R1に存在する点群から立ち上がり部11の側面が特定でき、その側面と上面11aとを交差させて生じる直線を立ち上がり部11の縁として推定することができる。
図5には、上記の所定寸法が10cmであるものとして図示したが、立ち上がり部11の高さ寸法未満であればよく、その値に限定されるものではない。
【0022】
図6に示すとおり、建物基礎検査システム100は、レーザースキャナ200に対向する面側(立ち上がり部11においては図6の左側、立ち上がり部12については図6の上側)の縁についてエッジ解析が可能である。一方、建物基礎検査システム100は、上記の反対側(立ち上がり部11においては図6の右側、立ち上がり部12については図6の下側)の縁についてエッジ解析が困難である。なぜならば、レーザースキャナ200から照射したレーザービームは、レーザースキャナ200に対向しない側の面には当たらないので、その面から得られる三次元点群データがほぼ無いからである。
また、同様の理由で、レーザースキャナ200に対向する面であっても、解析対象となる点群が比較的少ない領域(縁の長さが短い箇所の下方領域等)については、エッジ解析を行わず、基準線を求めなくてもよい。
【0023】
<アンカーボルトAの位置解析(ステップS40)>
続いて、建物基礎検査システム100(点群解析手段120)は、ステップS20で特定した立ち上がり部11の上面11aを基準として、高さ方向について上面11aより上方側に位置する点群を解析することによって上面11aから上方に突出するアンカーボルトAの位置を推定する。
図5及び図6には、アンカーボルトA1~A5を対象として、レーザースキャナ200が計測した点群を模式的に示している。これらに図示するように、アンカーボルトA1~A5は実際には細い柱状であるが、レーザースキャナ200によって計測された点群は実態より広範囲に拡散しているようになることが多々ある。特に、レーザースキャナ200から遠い位置のアンカーボルトAであるほど、そのようになる傾向が強い。
建物基礎検査システム100は、上記のように実態より拡散した点群からアンカーボルトA1~A5の位置を推定する為に、高さ方向について上面11aより上方側に位置し且つ平面方向について上面11aの範囲内に収まる点群の中から一塊と見做せる点群を別々のアンカーボルトAに対応する点群として抽出する。そして、アンカーボルトAごとに対応する点群のそれぞれの位置から重心を求め、求めた重心をアンカーボルトAの位置として推定する。なお、本明細書において重心とは、幾何中心と同義として用いる。
【0024】
図6に、アンカーボルトA1~A5に対応する点群に重畳して図示する十字線は、その大きさが点群の存在範囲を示しており、その交点が各々の点群の重心を表している。建物基礎検査システム100は、十字線で示す範囲の点群各々の重心をアンカーボルトA1~A5の位置として推定する。
図6からも明らかであるように、アンカーボルトAに対応する点群が存在する範囲は、アンカーボルトAごとに異なり、画一的にはならない。
【0025】
なお、上記のように、アンカーボルトAに対応する点群が存在する範囲の重心を、そのアンカーボルトAの位置として推定する手法は一具体例に過ぎず、他の手法によってアンカーボルトAの位置を推定してもよい。
【0026】
<三次元点群データと設計データの照合(ステップS50)>
図7は、建物基礎10の全体に関する三次元点群データに対してステップS30の処理を行うことによって求められた基準線L1~L16を図示している。また、図7は、基準線L3と基準線L4の交差点C1、基準線L5と基準線L6の交差点C2、基準線L8と基準線L9の交差点C3、基準線L10と基準線L11の交差点C4、基準線L12と基準線L13の交差点C5、基準線L15と基準線L16の交差点C6、をそれぞれ図示している。また、図7は、建物基礎10の全体に関する三次元点群データに対してステップS40の処理を行うことによって求められたアンカーボルトAの推定位置を図示している。なお、説明の便宜上、アンカーボルトA6~A8の推定位置にのみ符号を付している。
基準線L1や基準線L2のように他の基準線と交わらないものであっても、三次元点群データと設計データを照合させる基準となり得る。しかしながら、基準線L3や基準線L4のように複数の基準線が互いに交わり合うものの交差点C1を基準とした方が、三次元点群データと設計データを照合する処理により適している。交差点C1の一点が合致させることができれば、基準線L3や基準線L4の双方が合致することと概ね同じであり、ステップS50の処理の簡便化を図ることができるからである。
【0027】
図8は、設計データに基づく建物基礎10の上面図である。なお、図8に図示されているアンカーボルトAの位置は、設計データ上は各アンカーボルトAの基部Aaの位置として定められている位置である。
また、図8は、角部C'1~C'6が図示されている。おり、角部C'1~C'6のそれぞれは、図7に図示されている交差点C1~C6に対応しており、三次元点群データと設計データの照合の基準点となる。
【0028】
ところで、三次元点群データに含まれる各点の位置情報は、レーザースキャナ200(正確には、レーザービームの光源)を原点として角度θと距離rによって表現されるものである。一方、図8に示す上面図はXY座標で表現されるものである。
従って、三次元点群データと設計データの照合(ステップS50の処理)を実行する事前に、三次元点群データ及び三次元点群データから求められた交差点C1~C6やアンカーボルトAの推定位置についても、XY座標で表現可能な形式とすることが好ましい。
【0029】
建物基礎検査システム100(エラー判定手段130)は、図7に図示する交差点C1~C6と、図8に図示する角部C'1~C'6と、を合致させることによって、三次元点群データと設計データとを照合させる。図9は、その照合結果を示している。
図9から明らかであるように、アンカーボルトA6~A8の3つについては、ステップS40の処理によって推定された位置と設計上のアンカーボルトの位置とが合致しない。このような場合、建物基礎検査システム100(エラー判定手段130)は、アンカーボルトA6~A8の3つについて異常である旨を判定する。
また、建物基礎検査システム100(表示制御手段140)が、表示手段300に照合結果を表示させる際には、異常と判定されたアンカーボルトA6~A8の3つについては、図9に示すようにアラート表示(正常なアンカーボルトとは識別可能な表示)を付加することが好ましい。
【0030】
なお、本実施形態では、設計データと比較して異常のアンカーボルトA6~A8については、建物基礎10の上面図にアラート表示を付加するようにしたが、建物基礎10の上面図とは分けて一覧形式でエラーを表示させてもよいし、これらの表示に代えて又は追加して音声によるエラー報知を行ってもよい。
【0031】
上述の実施形態は、上述の説明に限定されるものではなく、種々の変形、改良等が可能である。
【0032】
<付記>
本実施形態は、次のような技術思想を包含する。
(1)建物の基礎を検査する検査システムであって、建物の基礎をレーザースキャナで測定して得られる三次元点群データと、建物の基礎に関する設計データと、を取得するデータ取得手段と、三次元点群データに含まれる点群を解析して、建物の基礎に含まれる特定部位の縁と推定される基準線を求める点群解析手段と、点群解析手段によって求められた基準線を設計データにおける特定部位の位置データに合致させることによって設計データに対して三次元点群データを照合させ、三次元点群データの中に設計データに示される位置と合致しない位置に存在する部位が検出される又は三次元点群データの中に設計データに存在しない部位が検出されると異常である旨を判定するエラー判定手段と、を備える検査システム。
(2)点群解析手段は、建物の基礎の立ち上がり部について、当該立ち上がり部の上面を基準として、高さ方向について上面より下方側に所定寸法内に収まる点群を解析することによって当該立ち上がり部の縁の位置を推定し、推定した当該立ち上がり部の縁の位置を基準線として求め、所定寸法が、当該立ち上がり部の高さ寸法未満である、(1)に記載の検査システム。
(3)点群解析手段は、建物の基礎の立ち上がり部について、複数方向の基準線を求め、エラー判定手段は、点群解析手段によって求められた複数方向の基準線の交差点の位置と、設計データにおける当該立ち上がり部の隅部の位置と、を合致させることによって設計データに対して三次元点群データを照合させる、(1)又は(2)に記載の検査システム。
(4)点群解析手段は、建物の基礎の立ち上がり部の少なくとも一つについて、当該立ち上がり部の上面を基準として、高さ方向について上面より上方側に位置する点群を解析することによって当該上面から上方に突出するアンカーボルトの位置を推定し、エラー判定手段は、点群解析手段によって推定されたアンカーボルトの位置が、設計データに示される当該アンカーボルトの位置と合致しない位置に存在する場合、当該アンカーボルトが異常である旨を判定する、(1)から(3)のいずれか一つに記載の検査システム。
(5)点群解析手段は、上面を基準として、高さ方向について上面より上方側に位置し且つ平面方向について上面の範囲内に収まる点群について、平面方向における各点の位置から重心を求め、求めた重心をアンカーボルトの位置として推定する、(4)に記載の検査システム。
【符号の説明】
【0033】
100 建物基礎検査システム
110 データ取得手段
120 点群解析手段
130 エラー判定手段
140 表示制御手段
200 レーザースキャナ
300 表示手段
10 建物基礎
11、12 立ち上がり部
A、A1~A8 アンカーボルト
C1~C6 交差点
L1~L16 基準線
R1 領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9