(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】光学装置
(51)【国際特許分類】
G01B 11/00 20060101AFI20240104BHJP
G01S 7/481 20060101ALI20240104BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20240104BHJP
G02F 1/295 20060101ALN20240104BHJP
【FI】
G01B11/00 Z
G01S7/481 A
G02F1/13 505
G02F1/295
(21)【出願番号】P 2021503477
(86)(22)【出願日】2020-02-05
(86)【国際出願番号】 JP2020004402
(87)【国際公開番号】W WO2020179342
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2019037401
(32)【優先日】2019-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【氏名又は名称】梶谷 美道
(74)【代理人】
【識別番号】100125922
【氏名又は名称】三宅 章子
(74)【代理人】
【識別番号】100188813
【氏名又は名称】川喜田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100184985
【氏名又は名称】田中 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100218981
【氏名又は名称】武田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】西脇 青児
【審査官】仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-168427(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0071394(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0076129(US,A1)
【文献】特開2018-124271(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2001/0006421(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
G01S 7/48-7/51
17/00-17/95
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の波長の成分を含む光ビームを出射する少なくとも1つの光源と、
前記光ビームの光路上に位置する光導波素子と、
光検出器と、
光学系と、
を備え、
前記光導波素子は、
前記光ビームが入射する点を中心とする仮想的な円の動径方向に沿って屈折率が変化する第1のグレーティングであって、前記光ビームの一部を導波光として、前記光導波素子内を前記動径方向に沿って伝搬させる第1のグレーティングと、
前記第1のグレーティングの外側に配置され、前記動径方向に沿って屈折率が変化する第2のグレーティングであって、前記導波光の一部を前記光導波素子から出射光ビームとして出射させる第2のグレーティングと、
を含み、
前記光学系は、
前記光ビームを前記第1のグレーティングに入射させ、
前記出射光ビームが物体で反射されることによって生じた反射光ビームを前記第2のグレーティングに入射させ、
前記第2のグレーティングに入射した前記反射光ビームの一部は、前記光導波素子内を伝搬して前記第1のグレーティングから戻り光ビームとして出射し、
前記光学系は、前記戻り光ビームの一部を、波長に応じて分離された複数の分離光ビームとして前記光検出器に入射させ、
前記光検出器は、前記複数の分離光ビームの光量をそれぞれ検出する、
光学装置。
【請求項2】
前記第1のグレーティングは、前記光ビームが入射する前記点を中心とする同心円状の構造を有する、
請求項1に記載の光学装置。
【請求項3】
前記第2のグレーティングは、前記光ビームが入射する前記点を中心とする同心円状の構造を有する、
請求項1または2に記載の光学装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つの光源は、前記複数の波長の成分を含む単一の光ビームを出射する単一の光源である、
請求項1から3のいずれかに記載の光学装置。
【請求項5】
前記少なくとも1つの光源は、互いに異なる波長の複数の光ビームをそれぞれ出射する複数の光源を含み、
前記光学系は、前記複数の光ビームを統合して前記第1のグレーティングに入射させる、
請求項1から3のいずれかに記載の光学装置。
【請求項6】
前記光学系は、前記複数の光ビームを統合するダイクロイックミラーを含む、
請求項5に記載の光学装置。
【請求項7】
前記光学系は、前記戻り光ビームの一部を、波長に応じて分離して前記複数の分離光ビームを生じさせる直線回折格子を含む、
請求項1から6のいずれかに記載の光学装置。
【請求項8】
前記直線回折格子は、反射型直線回折格子であり、
前記反射型直線回折格子の格子表面の法線と前記反射型直線回折格子の格子ベクトルとを含む面内で、光の入射方向と回折方向とが実質的に一致する、
請求項7に記載の光学装置。
【請求項9】
前記光学系は、
前記光ビームの波面を円錐波面に変換する光学素子を含み、
前記円錐波面を保った状態で前記第1のグレーティングに前記光ビームを入射させる、
請求項1から8のいずれかに記載の光学装置。
【請求項10】
前記光学系は、前記光導波素子に面する底面と、前記光路に沿った仮想的な軸を中心軸として回転対称体である側面とを有する透明部材を含み、
前記出射光ビームは、前記底面または前記側面から前記透明部材に入射し、前記側面から出射する、
請求項1から9のいずれかに記載の光学装置。
【請求項11】
前記透明部材は、円錐台プリズムであり、
前記円錐台プリズムの2つの対向する底面のうち、面積が小さい方の底面は、前記光導波素子の表面に接し、
前記出射光ビームは、前記円錐台プリズムの側面に入射する、
請求項10に記載の光学装置。
【請求項12】
前記円錐台プリズムの前記側面は、格子線が前記円錐台プリズムの周方向に沿って延びるグレーティングを含む、
請求項11に記載の光学装置。
【請求項13】
前記光導波素子は、前記軸を中心軸とする円錐台形状の空洞または窪みを有する中空基板を表面に含み、
前記円錐台プリズムは、前記空洞または前記窪みに囲まれている、
請求項11または12に記載の光学装置。
【請求項14】
前記光導波素子は、
透明電極層と、
液晶層と、
前記第1のグレーティングおよび前記第2のグレーティングを表面に含み、前記液晶層よりも高い屈折率を有する導波層と、
前記導波層よりも低い屈折率を有する誘電体層と、
反射電極層と、
をこの順に含む、
請求項1から13のいずれかに記載の光学装置。
【請求項15】
前記導波層は、前記第1のグレーティングと前記第2のグレーティングとの間に、前記液晶層における液晶分子の配向を制御するための第3のグレーティングを前記表面にさらに含み、
前記透明電極層および前記反射電極層からなる群から選択される少なくとも一方は、前記第1のグレーティングに対面する第1の電極、前記第2のグレーティングに対面する第2の電極、及び前記第3のグレーティングに対面する第3の電極を含む、
請求項14に記載の光学装置。
【請求項16】
前記第3の電極は、前記仮想的な円の周方向に沿って並ぶ複数の分割領域を含み、
前記複数の分割領域は、互いに絶縁されている、
請求項15に記載の光学装置。
【請求項17】
前記透明電極層と前記反射電極層との間に電圧を印加する制御回路をさらに備える、
請求項15または16に記載の光学装置。
【請求項18】
前記制御回路は、前記第2の電極を介して前記液晶層に印加される電圧を制御することにより、前記出射光ビームの方向を制御する、
請求項17に記載の光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、視野内に散在する物体の位置を把握するために様々な技術が開発されてきた。例えば、光パルスで物体を照射し、物体からの反射光の時間的な遅れを方向ごとに計測することにより、物体表面までの距離を計測する技術が存在する。特許文献1は、そのような技術を用いた光フェーズドアレイを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、視野中に存在する物体を光で照射し、物体からの反射光を選択的に検出する新規な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る光学装置は、複数の波長の成分を含む光ビームを出射する少なくとも1つの光源と、前記光ビームの光路上に位置する光導波素子と、光検出器と、光学系と、を備える。前記光導波素子は、前記光ビームが入射する点を中心とする仮想的な円の動径方向に沿って屈折率が変化する第1のグレーティングであって、前記光ビームの一部を導波光として、前記光導波素子内を前記動径方向に沿って伝搬させる第1のグレーティングと、前記第1のグレーティングの外側に配置され、前記動径方向に沿って屈折率が変化する第2のグレーティングであって、前記導波光の一部を前記光導波素子から出射光ビームとして出射させる第2のグレーティングと、を含む。前記光学系は、前記光ビームを前記第1のグレーティングに入射させ、前記出射光ビームが物体で反射されることによって生じた反射光ビームを前記第2のグレーティングに入射させる。前記第2のグレーティングに入射した前記反射光ビームの一部は、前記光導波素子内を伝搬して前記第1のグレーティングから戻り光ビームとして出射する。前記光学系は、前記戻り光ビームの一部を、波長に応じて分離された複数の分離光ビームとして前記光検出器に入射させる。前記光検出器は、前記複数の分離光ビームの光量をそれぞれ検出する。
【0006】
本開示の包括的または具体的な態様は、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム、またはコンピュータ読み取り可能な記録媒体で実現されてもよい。あるいは、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム、および記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体は、例えばCD-ROM(Compact Disc‐Read Only Memory)等の不揮発性の記録媒体を含み得る。装置は、1つ以上の装置で構成されてもよい。装置が2つ以上の装置で構成される場合、当該2つ以上の装置は、1つの機器内に配置されてもよく、分離した2つ以上の機器内に分かれて配置されてもよい。本明細書及び特許請求の範囲では、「装置」とは、1つの装置を意味し得るだけでなく、複数の装置からなるシステムも意味し得る。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、機械的な可動部品を用いることなく、視野内に存在する物体に向けて光を照射し、物体からの反射光を選択的に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】
図1Aは、第1実施形態における光学装置の構成と光線の経路とを模式的に示す斜視図である。
【
図1B】
図1Bは、第1実施形態における光学装置の構成の一部と光線の経路とを模式的に示す断面図である。
【
図2A】
図2Aは、入力グレーティングカプラの入射光と導波光との関係、および出力グレーティングカプラの導波光と放射光との関係を示すベクトルダイアグラムである。
【
図2B】
図2Bは、円錐台プリズムの側面で生じる回折の関係を示すベクトルダイアグラムである。
【
図3A】
図3Aは、入射光の偏光方向および入力グレーティングカプラへの入力の様子を模式的に示す斜視図である。
【
図3B】
図3Bは、入力グレーティングカプラの例を模式的に示す断面図である。
【
図3C】
図3Cは、導波層内を導波する光の様子を光強度分布によって示す断面図である。
【
図3D】
図3Dは、入力グレーティングカプラの例を模式的に示す平面図である。
【
図3E】
図3Eは、入射光の偏光方向がY軸方向に平行である場合に励起される導波光の強度分布の例を示す図である。
【
図3F】
図3Fは、入射光の偏光方向がX軸から135度の方向に平行である場合に励起される導波光の強度分布の例を示す図である。
【
図3G】
図3Gは、入射光の偏光方向がX軸方向に平行である場合に励起される導波光の強度分布の例を示す図である。
【
図4A】
図4Aは、反射電極層がない場合における入力グレーティングカプラの入力結合効率の波長依存性を示す図である。
【
図4B】
図4Bは、反射電極層がある場合における入力グレーティングカプラを模式的に示す断面図である。
【
図4C】
図4Cは、反射電極層がある場合におけるバッファー層の厚さに対する入力結合効率の依存性を示す図である。
【
図4D】
図4Dは、反射電極層がある場合における入力結合効率の波長依存性を示す図である。
【
図5A】
図5Aは、収差補正がない場合の、出力グレーティングカプラからの放射光の伝搬経路を模式的に示す図である。
【
図5B】
図5Bは、収差補正がある場合の、出力グレーティングカプラからの放射光の伝搬経路を模式的に示す図である。
【
図6A】
図6Aは、出力グレーティングカプラからの放射光が、円錐台プリズムの側面で屈折され出射される様子を模式的に示す図である。
【
図6B】
図6Bは、収差補正を実現するための透明電極層のパターンの例を示す図である。
【
図7A】
図7Aは、伝搬方向の偏角φと、収差補正を実現するための導波光の実効屈折率の変化量ΔNとの関係を示す図である。
【
図7B】
図7Bは、導波層の厚さと実効屈折率Nとの関係の例を示す図である。
【
図7C】
図7Cは、バッファー層、導波層、および液晶層の配置を模式的に示す図である。
【
図8A】
図8Aは、透明電極層における電極パターンと、印加電圧との関係を模式的に示す図である。
【
図8B】
図8Bは、反射層における電極パターンと、印加電圧との関係を模式的に示す図である。
【
図8C】
図8Cは、透明電極層における電極パターン、および反射層における電極パターンを揃えて重ねた構成と、印加電圧との関係を模式的に示す図である。
【
図9A】
図9Aは、透明電極層での電極のパターンの例を模式的に示す図である。
【
図9B】
図9Bは、反射電極層での電極のパターンの例を模式的に示す図である。
【
図9C】
図9Cは、透明電極層での電極パターン、および反射層での電極パターンを揃えて重ねた構成を模式的に示す図である。
【
図9D】
図9Dは、
図9Cに示す電極パターンの一部と、導波光の伝搬経路との関係を模式的に示す図である。
【
図10A】
図10Aは、複数の集光スポットと光検出器との位置関係の例を示す図である。
【
図10B】
図10Bは、複数の集光スポットと光検出器との位置関係の他の例を示す図である。
【
図10E】
図10Eは、xz面内での波長分光器への入射光と反射光との関係を示すベクトルダイアグラムである。
【
図11B】
図11Bは、電極の分割領域と、水平方向走査光線の移動方向との関係の例を示す図である。
【
図11C】
図11Cは、5本の走査光線に対する検出光量比を示す信号と、走査角φとの関係を示す図である。
【
図12A】
図12Aは、分割領域B1における、シングルモード発振のレーザー光の水平方向および垂直方向の走査の様子を模式的に示す図である。
【
図12B】
図12Bは、分割領域B1における、マルチモード発振のレーザー光の水平方向および垂直方向の走査の様子を模式的に示す図である。
【
図13A】
図13Aは、第2実施形態における光学装置の構成と光線の経路とを模式的に示す斜視図である。
【
図13D】
図13Dは、円錐レンズを透過するか否かによってグレーティングカプラに入射する光の光路にどのような差が生じるかを示す断面図である。
【
図13E】
図13Eは、第2実施形態における検出集光レンズによる集光の様子を示す断面図である。
【
図14】
図14は、
図11Bに示す分割領域における、シングルモード発振のレーザー光の水平方向および垂直方向の走査の例を模式的に示す図である。
【
図15A】
図15Aは、フェーズドアレイから垂直方向に出射されるレーザービームを模式的に示す図である。
【
図15B】
図15Bは、フェーズドアレイから斜め方向に出射されるレーザービームを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本開示の基礎となった知見)
本開示の実施形態を説明する前に、本開示の基礎となった知見を説明する。本明細書では、可視光のみならず赤外線などの非可視光についても「光」の用語を用いる。
【0010】
視野内に散在する物体の位置を把握するために光を照射する方法として、2つの代表的な方法がある。1つは、光パルスで視野内全域を一様に照射する方法である。もう一つは、指向性のあるレーザービームによって視野内全域を網羅的に走査する方法である。前者の方法よりも後者の方法の方が、発光光量を小さく抑えることができる。
【0011】
一般に、レーザービームによる走査では、光源、光検出器、およびガルバノミラーが、回転ステージ上に配置される。光源から出射された光は、ガルバノミラーによって反射される。ガルバノミラーを上下に回動させることによって垂直方向に光走査を行うことができる。回転ステージを回転させることによって水平方向に光走査を行うことができる。しかし、メカニカルな構造をもつことから、ガルバノミラーを利用した装置は、走査速度が低いうえ、装置が大きく、高価である。
【0012】
メカニカルな機構を少なくするための取り組みとして、例えば、特許文献1に開示されているように、フェーズドアレイ(Phased Array)を用いて光走査を行う装置が知られている。
【0013】
以下に、フェーズドアレイによる光走査の原理を説明する。
【0014】
図15Aおよび
図15Bは、それぞれ、フェーズドアレイから垂直方向および斜め方向に出射されるレーザービームを模式的に示す図である。
図15Aおよび
図15Bに示す例では、垂直方向にz軸が設定されており、複数の波源22が、x軸上においてピッチΛの間隔で均一に配列されている。複数の波源22から位相の揃った波長λの光を発振させると、
図15Aに示すように、励振光は、x軸に平行な波面22aを形成して伝搬する。隣り合う左右の波源の位相差がΛsinθになるように光を発振させると、
図15Bに示すように、励振光は、x軸と角度θをなす波面22bを形成して伝搬する。波源22をx軸およびy軸に沿って2次元的に均一に配列し、それらの励振位相を調整すれば、励振光の伝搬方向を2軸で設定することができる。
【0015】
しかしながら、フェーズドアレイを用いた方法では、波面を形成するために、波源22のピッチΛを波長λの数分の1以下にする必要がある。電波の場合、波長は例えば10cm以上である。このため、電波を放射するアンテナとして機能する複数の波源22を波長の数分の1以下の間隔で配列することは可能である。しかし、光の場合、波長は1μmよりも短い。このため、複数の波源22を波長の数分の1以下、つまりサブミクロンの間隔で配列することは容易ではない。また、レーザー光源が用いられる場合、光は共振器内の増幅過程を経て発振される。よって、電波と異なり、レーザー光の位相を制御することは容易ではない。
【0016】
本発明者は、以上の課題を見出し、新規な構成に想到した。
【0017】
本開示の一態様に係る光学装置は、複数の波長の成分を含む光ビームを出射する少なくとも1つの光源と、前記光ビームの光路上に位置する光導波素子と、光検出器と、光学系と、を備える。前記光導波素子は、前記光ビームが入射する点を中心とする仮想的な円の動径方向に沿って屈折率が変化する第1のグレーティングであって、前記光ビームの一部を導波光として、前記光導波素子内を前記動径方向に沿って伝搬させる第1のグレーティングと、前記第1のグレーティングの外側に配置され、前記動径方向に沿って屈折率が変化する第2のグレーティングであって、前記導波光の一部を前記光導波素子から出射光ビームとして出射させる第2のグレーティングと、を含む。前記光学系は、前記光ビームを前記第1のグレーティングに入射させ、前記出射光ビームが物体で反射されることによって生じた反射光ビームを前記第2のグレーティングに入射させる。前記第2のグレーティングに入射した前記反射光ビームの一部は、前記光導波素子内を伝搬して前記第1のグレーティングから戻り光ビームとして出射する。前記光学系は、前記戻り光ビームの一部を、波長に応じて分離された複数の分離光ビームとして前記光検出器に入射させる。前記光検出器は、前記複数の分離光ビームの光量をそれぞれ検出する。
【0018】
このような構成により、複数の波長の成分のそれぞれに対応する物体からの反射光を検出することができる。これにより、単一の波長の光ビームを用いる場合と比較して、検出範囲を拡大したり、解像度を向上させたりすることができる。
【0019】
前記第1のグレーティングは、前記光ビームが入射する前記点を中心とする同心円状の構造を有していてもよい。前記第2のグレーティングも同様に、前記光ビームが入射する前記点を中心とする同心円状の構造を有していてもよい。各グレーティングが同心円状の構造を有することにより、後述するように、光導波素子への電圧制御によって外部への出射光ビームの方向を容易に制御することができる。
【0020】
前記少なくとも1つの光源は、前記複数の波長の成分を含む単一の光ビームを出射する単一の光源であってもよい。光源は、例えばマルチモードのレーザービームを出射するレーザー光源であり得る。この場合、光導波素子の第2のグレーティングから出射される光ビームの方向は、波長によって異なる。複数の波長の成分の情報を検出することにより、単一の波長の光ビームを用いる場合と比較して、空間分解能を高めることができる。単一の光源を備えた光学装置の実施形態は、第1実施形態として後に詳しく説明する。
【0021】
前記少なくとも1つの光源は、互いに異なる波長の複数の光ビームをそれぞれ出射する複数の光源を含んでいてもよい。前記光学系は、前記複数の光ビームを統合して前記第1のグレーティングに入射させるように構成され得る。前記光学系は、前記複数の光ビームを統合するダイクロイックミラーを含んでいてもよい。前記光学系は、複数のダイクロイックミラーを含んでいてもよい。複数の光源の各々は、単一波長の光ビームを出射するように構成されていてもよいし、複数の波長成分の光が重畳された光ビームを出射するように構成されていてもよい。波長の異なる複数の光ビームを用いることにより、走査範囲を拡大させることができる。複数の光源を備えた光学装置の実施形態は、第2実施形態として後に詳しく説明する。
【0022】
前記光学系は、前記複数の光ビームを統合する1つ以上のダイクロイックミラーを含んでいてもよい。
【0023】
前記光学系は、前記戻り光ビームの一部を、波長に応じて分離して前記複数の分離光ビームを生じさせる直線回折格子を含んでいてもよい。前記直線回折格子は、反射型直線回折格子であってもよい。前記反射型直線回折格子の格子表面の法線と前記反射型直線回折格子の格子ベクトルとを含む面内で、光の入射方向と回折方向とが実質的に一致するように設計されたリトロー型の反射直線回折格子を用いることができる。
【0024】
前記光学系は、前記光源から出射された前記光ビームの波面を円錐波面に変換する光学素子を含み、前記円錐波面を保った状態で前記第1のグレーティングに前記光ビームを入射させてもよい。
【0025】
前記光学系は、前記光導波素子に面する底面と、前記光路に沿った仮想的な軸を中心軸として回転対称体である側面とを有する透明部材を含んでいてもよい。前記第2のグレーティングからの前記出射光ビームが、前記底面または前記側面から前記透明部材に入射し、前記側面から出射するように前記光学系は構成され得る。
【0026】
前記透明部材は、円錐台プリズムであってもよい。前記円錐台プリズムの2つの対向する底面のうち、面積が小さい方の底面は、前記光導波素子の表面に接していてもよい。前記出射光ビームは、前記円錐台プリズムの側面に入射してもよい。前記円錐台プリズムの前記側面は、格子線が前記円錐台プリズムの周方向に沿って延びるグレーティングを含んでいてもよい。
【0027】
前記光導波素子は、前記軸を中心軸とする円錐台形状の空洞または窪みを有する中空基板を表面に含んでいてもよい。前記円錐台プリズムは、前記空洞または窪みに囲まれていてもよい。
【0028】
前記光導波素子は、例えば、透明電極層と、液晶層と、導波層と、誘電体層と、反射電極層とをこの順に備え得る。前記導波層は、前記第1のグレーティングおよび前記第2のグレーティングを表面に含み、前記液晶層よりも高い屈折率を有する。前記誘電体層は、前記導波層よりも低い屈折率を有する。このような構造により、導波層は光導波路として機能する。透明電極層と反射電極層との間に電圧を印加することにより、液晶層の屈折率を変化させることができる。これにより、導波層によって規定される光導波路の実効屈折率を変化させ、第2のグレーティングから放射される光の出射角度を変化させることができる。
【0029】
前記導波層は、前記第1のグレーティングと前記第2のグレーティングとの間に、前記液晶層における液晶分子の配向を制御するための第3のグレーティングを前記表面にさらに含んでいてもよい。第3のグレーティングを設けることにより、電圧が印加されていない状態での液晶分子の配向方向を、第3のグレーティングの格子ベクトルに垂直な方向に揃えることができる。
【0030】
前記透明電極層および前記反射電極層からなる群から選択される少なくとも一方は、前記第1のグレーティングに対面する第1の電極、前記第2のグレーティングに対面する第2の電極、及び前記第3のグレーティングに対面する第3の電極を含んでいてもよい。これにより、第1から第3の電極に個別に電圧を印加することが可能になる。
【0031】
前記第3の電極は、前記仮想的な円の周方向に沿って並ぶ、互いに絶縁された複数の分割領域を含んでいてもよい。これにより、複数の分割領域に異なる電圧を印加することが可能になり、出射光ビームの方向をより細やかに制御することができる。
【0032】
光学装置は、前記透明電極層と前記反射電極層との間に電圧を印加する制御回路をさらに備えていてもよい。前記制御回路は、前記第2の電極を介して前記液晶層に印加する電圧を制御することにより、前記出射光ビームの方向を制御することができる。
【0033】
本開示において、回路、ユニット、装置、部材または部の全部または一部、またはブロック図における機能ブロックの全部または一部は、例えば、半導体装置、半導体集積回路(IC)、またはLSI(large scale integration)を含む1つまたは複数の電子回路によって実行され得る。LSIまたはICは、1つのチップに集積されてもよいし、複数のチップを組み合わせて構成されてもよい。例えば、記憶素子以外の機能ブロックは、1つのチップに集積されてもよい。ここでは、LSIまたはICと呼んでいるが、集積の度合いによって呼び方が変わり、システムLSI、VLSI(very large scale integration)、もしくはULSI(ultra large scale integration)と呼ばれるものであってもよい。LSIの製造後にプログラムされる、Field Programmable Gate Array(FPGA)、またはLSI内部の接合関係の再構成またはLSI内部の回路区画のセットアップができるreconfigurable logic deviceも同じ目的で使うことができる。
【0034】
さらに、回路、ユニット、装置、部材または部の全部または一部の機能または操作は、ソフトウェア処理によって実行することが可能である。この場合、ソフトウェアは1つまたは複数のROM、光学ディスク、ハードディスクドライブなどの非一時的記録媒体に記録され、ソフトウェアが処理装置(processor)によって実行されたときに、そのソフトウェアで特定された機能が処理装置(processor)および周辺装置によって実行される。システムまたは装置は、ソフトウェアが記録されている1つまたは複数の非一時的記録媒体、処理装置(processor)、および必要とされるハードウェアデバイス、例えばインターフェースを備えていてもよい。
【0035】
以下、本開示の実施形態を、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下で説明される実施形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施形態で示される数値、形状、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示の技術を限定することを意図するものではない。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、各図は模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。さらに、各図において、実質的に同一の構成要素に対しては同一または類似の符号を付しており、重複する説明は省略または簡略化されることがある。
【0036】
(第1実施形態)
図1Aは、第1実施形態における光学装置の構成と光線の経路とを模式的に示す斜視図である。
図1Bは、光学装置の構成の一部と光線の経路とを模式的に示す断面図である。この光学装置は、光源1と、光導波素子7と、光検出器12aおよび12bと、検出回路33aおよび33bと、主制御回路34と、光源制御回路30と、液晶制御回路32と、光学系とを備える。光学系は、複数の光学素子の集合である。本実施形態における光学系は、コリメートレンズ2と、偏光分光器4と、1/4波長板4aと、ハーフミラー4bと、集光レンズ3と、円錐台プリズム6と、波長分光器5aおよび5bと、検出集光レンズ13aおよび13bとを備える。波長分光器5b、偏光分光器4、1/4波長板4a、ハーフミラー4b、集光レンズ3、円錐台プリズム6、および光導波素子7は、それぞれの中心が軸L上に位置するように配置されている。以下の説明では、便宜上、軸Lに平行な方向を垂直方向と呼び、これに直交する方向を水平方向と呼ぶ。これらの呼称はあくまでも便宜上のものにすぎず、現実に使用されるときの光学装置の姿勢を限定するものではない。
【0037】
光源制御回路30は、光源1を制御する。液晶制御回路32は、光導波素子7に含まれる液晶の配向を制御する。主制御回路34は、検出回路33aおよび33bから出力された信号に基づき、光源制御回路30および液晶制御回路32を制御する。主制御回路34、光源制御回路30、液晶制御回路32、ならびに検出回路33aおよび33bは、互いに分離された別々の回路であってもよいし、これらの一部または全体が単一の回路によって構成されていてもよい。
【0038】
本実施形態における光源1は、レーザー光源である。光源制御回路30は、レーザー発振を制御するための制御信号を出力する。制御信号に応答して、光源1は、中心波長λの直線偏光であるレーザー光10aを出射する。光源1は、マルチモードで発振する。このマルチモードの光は、波長λの近傍で、例えば0.2nm程度の間隔をなすn個の波長λ1、λ2、・・・、λnの光の重なりである。nは、2以上の整数である。一例として、n=10の場合、λを中心とする±1nm程度の範囲に、10波長分の光ビームが含まれる。
【0039】
光源1から出射したレーザー光10aは、コリメートレンズ2を通過することによって平行光10cになる。平行光10cは、偏光分光器4で反射されて光10dになる。偏光分光器4は、例えば偏光ビームスプリッタなどの、偏光成分に応じて光を異なる方向に分離する光学素子である。コリメートレンズ2と偏光分光器4との間に、ビーム整形プリズムが挿入されていてもよい。平行光10cが楕円状に広がる場合、ビーム整形プリズムを設けることにより、その分布を円形状に変換することができる。偏光分光器4で反射された光10dは、軸Lに沿って1/4波長板4aに入射し、円偏光の光10d0に変換される。光10d0は、軸Lに沿ってハーフミラー4bを透過して光10eになる。光10eは、集光レンズ3で集光され、円錐台プリズム6に入射する。円錐台プリズム6は、屈折率n0の透明部材である。円錐台プリズム6を通過した光10fは、光導波素子7の中心部に入射する。
【0040】
なお、
図1Aでは、説明の便宜上、円錐台プリズム6と光導波素子7とが離れた状態が示されている。実際には、円錐台プリズム6の2つの対向する底面のうち、面積が小さい方の底面は、光導波素子7に接している。また、
図1Aでは省略されているが、実際には、
図1Bに示すように、光導波素子7の表面に中空基板7hが設けられている。
【0041】
図1Bに示すように、光導波素子7は、積層された複数の層を含む積層構造体である。光導波素子7は、平面基板7a、反射電極層7b、誘電体層であるバッファー層7c、導波層7d、液晶層7e、透明電極層7f、平面基板7g、および中空基板7hをこの順に含む。平面基板7aおよび7gは、平面状の透明基板である。中空基板7hは、円錐台状の空洞または窪みを中央部に有する透明基板である。円錐台プリズム6は、中空基板7hの空洞または窪み内に配置される。円錐台プリズム6および中空基板7hは、軸Lを共通の軸として平面基板7gに密着している。本実施形態では、平面基板7aおよび7g、ならびに中空基板7hは、屈折率n
1’の透明材料によって形成されている。しかし、これらが異なる屈折率の材料によって形成されていてもよい。
【0042】
平面基板7aと平面基板7gとの間に、反射電極層7b、バッファー層7c、導波層7d、および液晶層7e、および透明電極層7fが位置している。導波層7dの屈折率は、その両側のバッファー層7cおよび液晶層7eのいずれの屈折率よりも高い。バッファー層7c、導波層7d、および液晶層7eは、透明電極層7fと反射電極層7bとに挟まれている。反射電極層7bは、例えばアルミニウム(Al)などの金属材料によって形成され得る。バッファー層7cは、例えば二酸化珪素(SiO2)などの比較的低屈折率の透明材料によって形成される誘電体層である。導波層7dは、例えば五酸化タンタル(Ta2O5)などの比較的高屈折率の透明材料によって形成され得る。平面基板7aの表面に、反射電極層7b、バッファー層7c、および導波層7dがこの順に成膜される。透明電極層7fは、例えば酸化インジウムスズ(ITO)などの、透光性を有する導電性材料によって形成され得る。
【0043】
光導波素子7は、グレーティング8a、8bおよび8cを含む。導波層7dの表面に、軸Lを中心軸とする同心円状の凹凸構造を有するグレーティング8a、8bおよび8cが設けられる。グレーティング8aは、導波層7dの表面の中央に位置する円形状の領域に形成されている。グレーティング8aは、中心から動径方向に沿って周期的に配列された複数の凹部および複数の凸部を含む。グレーティング8aは、前述の「第1のグレーティング」に相当する。グレーティング8bは、導波層7dの表面の、グレーティング8aが形成された領域の外側に位置するリング状の領域に形成されている。グレーティング8bは、前述の「第3のグレーティング」に相当する。グレーティング8cは、導波層7dの表面の、グレーティング8bが形成された領域の外側に位置するリング状の領域に形成されている。グレーティング8cは、前述の「第2のグレーティング」に相当する。グレーティング8bおよび8cも、動径方向に沿って周期的に配列された複数の凹部および複数の凸部を含む。グレーティング8aおよびグレーティング8cは、グレーティングカプラとして作用する。グレーティング8bは、液晶配向用のグレーティングである。グレーティング8a、8bおよび8cの各々は、円形状またはリング形状に限らず、それらの形状から一部が欠落した形状、例えば扇形の形状を有していてもよい。
【0044】
グレーティング8aは、軸Lを中心とする半径r1の円形状の領域内に形成されている。グレーティング8aのピッチはΛ0であり、深さはd0である。グレーティング8bは、半径r1から半径r2の範囲のリング状の領域内に形成されている。グレーティング8bのピッチは例えば0.8Λ1以下であり、深さはd1である。グレーティング8cは、半径r2から半径r3の範囲のリング状の領域内に形成されている。グレーティング8cのピッチはΛ1であり、深さはd1である。グレーティング8aのピッチΛ0および深さd0、ならびにグレーティング8cのピッチΛ1および深さd1は、後述する結合条件を満たす適切な値に設定される。本実施形態では、Λ0>Λ1であり、d0>d1である。半径r1、r2およびr3の典型的なサイズは、サブミリ、またはミリメートルのオーダーである。ピッチΛ0およびΛ1、ならびに深さd0およびd1の典型的なサイズは、サブミクロンのオーダーである。グレーティング8bのピッチを例えば0.8Λ1以下にした場合、グレーティング8bの凹凸構造は、液晶配向のためだけに作用し、グレーティングカプラとして機能しない。したがって、グレーティング8bの凹凸構造は、導波光を放射させない。これに対し、グレーティング8cの凹凸構造は、導波光を放射させる。
【0045】
導波層7dの液晶層7e側の表面に凹凸構造が現れるのであれば、バッファー層7cの導波層7d側の表面にも、グレーティング8a、8bおよび8cと同様の凹凸構造が形成されていてもよい。導波層7dの液晶層7e側の表面に凹凸構造が現れることにより、グレーティングが液晶の配向手段として作用する。液晶分子は、グレーティングの各凹部が延びる円周方向に沿った方向に配向する。
【0046】
平面基板7gの導波層7d側の表面には、ITOなどの透明電極層7fが形成される。透明電極層7fは、液晶層7eを介して、導波層7dに対面する。透明電極層7fおよび反射電極層7bは、液晶層7e内の液晶分子の配向制御用の電極として作用する。本実施形態における透明電極層7fは、軸Lを中心とする3つの領域9A、9Bおよび9Cに分割されている。領域9A、9Bおよび9Cは、グレーティング8a、8bおよび8cにそれぞれ対面する。液晶層7eに電圧が印加されていない状態において、液晶層7eの液晶分子は、導波層7dの表面の凹部が延びる方向、すなわち軸Lを中心とする回転方向に沿って配向する。言い換えれば、液晶層7eにおける液晶の配向方向は、導波層7dの表面に平行で、グレーティング8a、8bおよび8cの格子ベクトルに垂直である。領域9A、9Bおよび9Cは、それぞれ独立した電極として機能する。透明電極層7fの代わりに、反射電極層7bを3つの領域に分けてもよい。あるいは、透明電極層7fおよび反射電極層7bの各々を3つの領域に分けてもよい。
【0047】
グレーティング8bと同様の、軸Lを中心とする同心円状のグレーティングが、平面基板7gの透明電極層7f側の表面に形成されていてもよい。同様に、平面基板7gの透明電極層7f側の表面の、グレーティング8aおよび8cに対面する位置にも、軸Lを中心とする同心円状のグレーティングが形成されていてもよい。平面基板7gの当該表面に凹凸構造が形成されていれば、透明電極層7fの表面にも凹凸構造が転写される。これにより、液晶層7eの液晶分子を、凹部が延びる方向に沿って配向させることができる。当然、導波層7dおよび/または透明電極層7fの表面にポリイミドなどの配向膜を成膜し、これを円周方向にラビング処理することにより、液晶層7e内の液晶分子を配向させることもできる。
【0048】
円錐台プリズム6の下面を経た光10fは円偏光であり、軸Lに沿ってグレーティングカプラであるグレーティング8aに集束する。グレーティング8aに集束した光10fは、導波層7d内において、導波層7dと軸Lとの交点から外周側に向かう導波光10gを励起する。グレーティング8aには、円偏光の光が入射するので、導波光10gは全偏角方向に均等に励起される。
【0049】
図2Aは、入力グレーティングカプラであるグレーティング8aの入射光と導波光との関係、および出力グレーティングカプラであるグレーティング8cの導波光と放射光との関係を示すベクトルダイアグラムである。グレーティング8aにおける光の入射点をOとする。
図2Aに示すように、半径Nの円と横軸との交点を点Pとすると、入射光の導波光への結合条件は、大きさλ/Λ
0の矢印によって表される格子ベクトルPOの大きさが、導波層7dの実効屈折率Nに等しいことである。すなわち、当該結合条件は、数1によって記述される。
【数1】
【0050】
図1Bに示すように、グレーティング8aを透過する光10faは、反射電極層7bによって反射され、再びグレーティング8aに入射し、導波光10gの励起を増強させる。導波光10gは、同心円の動径方向に沿って伝搬し、その一部は、グレーティング8cから角度θ
1で液晶層7eに放射され、中空基板7h内で角度θ
1’となり、円錐台プリズム6に向かう放射光10hになる。ここで、簡単のため、屈折率n
1’の中空基板7hの内部での光線の方向(角度θ
1’)と、屈折率n
0の円錐台プリズム6の内部での光線の方向(角度θ
0)との間に、n
1’×sinθ
1’=n
0×sinθ
0の関係が成り立つものとする。
【0051】
放射光への結合条件は、
図2Aに示すように、縦軸に対して角度θ
1をなす大きさn
1のベクトルOP
1’の横軸への垂線の足が、大きさλ/Λ
1の破線矢印によって表された格子ベクトルPP
1の終点P
1に一致することである。当該結合条件は、-n
1sinθ
1=N-λ/Λ
1と表される。スネルの法則(n
1×sinθ
1=n
1’×sinθ
1’)と、n
1’×sinθ
1’=n
0×sinθ
0の関係から、当該結合条件は、数2によって記述される。
【数2】
【0052】
図1Bに示すように、グレーティング8cから反射電極層7b側に放射される光10haも、反射電極層7bによって反射され、放射光10hと重なる。液晶制御回路32からの制御信号により、透明電極層7fおよび反射電極層7bを介して液晶層7eに電圧が印加される。この電圧の印加によって液晶の配向が変化する。これに伴い、液晶層7eの導波光10gに対する屈折率n
1が変化し、導波層7dの導波光10gに対する実効屈折率Nが変化する。グレーティング8cの領域において実効屈折率Nが変化すると、グレーティング8cから光導波素子7の外部に出射される光の方向θ
1が変化する。液晶制御回路32は、透明電極層7fの領域9A、9Bおよび9Cに独立して信号を送ることができる。
【0053】
なお、液晶層7eに印加される電圧信号は交流波である。交流波の振幅の大きさによって液晶分子の傾斜角が決定される。交流波の振幅が大きいほど、液晶の配向方向が導波層7dの法線方向に近づく。以下の説明では、液晶層7eに印加される電圧は、液晶層7eに印加される交流波の振幅の大きさを意味する。
【0054】
グレーティング8cから放射された光は、平面基板7gおよび中空基板7hを経て、円錐台プリズム6の側面に入射する。この際、中空基板7hと空気との界面、および空気と円錐台プリズム6との界面で屈折が生じる。円錐台プリズム6の側面に入射した光は、その反対側の側面で屈折され、
図1Bにおいて点線矢印で示すように、水平面から角度θ
⊥’の方位に出射する光10jになる。前述のように円錐台プリズム6の内部での光線の鉛直方向に対する角度をθ
0とすると、円錐台プリズム6の側面と鉛直方向とのなす角がθ
2の場合、屈折の関係式は、数3によって記述される。
【数3】
【0055】
中空基板7hおよび円錐台プリズム6は、軸Lを共通の中心軸として配置されている。中空基板7hの円錐台状の内表面および円錐台プリズム6の側面には、
図1Aにおいて円形の点線枠内に示すように、ブレーズグレーティングが形成されてもよい。適切に設計されたブレーズグレーティングを設けることにより、出射光の方向を水平方向に近づけることができる。ブレーズグレーティングは、断面形状が鋸状の複数の溝を含む。各溝は、円錐台プリズム6の側面または中空基板7hの内表面の周方向すなわち軸Lを中心とする回転方向に沿って延びた構造を有する。言い換えれば、ブレーズグレーティングの格子線は、円錐台プリズム6の側面または中空基板7hの内表面の周方向に沿って延びる。ブレーズグレーティングが設けられた円錐台プリズム6の側面を通過する光は、軸Lを含む平面内で回折される。これにより、円錐台プリズム6の側面では、
図1Bに示すように、回折光10iが水平面からθ
⊥の角度で外部に出射する。光線は円錐台プリズム6の側面を2回通過するので、ブレーズグレーティングによる回折の影響を2回受ける。1回のみ回折される場合と比較して、回折による変化角が大きいため、各ブレーズグレーティングのピッチΛ
2を大きくでき、加工しやすくなる。
【0056】
図2Bは、円錐台プリズム6の側面で生じる回折の関係を示すベクトルダイアグラムである。ブレーズグレーティングが円錐台プリズム6の側面のみに形成されている場合、回折の関係は、
図2Bで表される。すなわち、縦軸に対して角度θ
⊥+θ
2をなす大きさ1のベクトルOP
2’の垂線の足P
2と、縦軸に対して角度θ
⊥’+θ
2をなす大きさ1のベクトルOP
3’の垂線の足P
3との距離が、格子ベクトルの2倍の大きさ2λ/Λ
2に等しいという関係で表される。つまり、回折の関係式は、数4によって記述される。
【数4】
【0057】
円錐台プリズム6は、平面基板7g上に位置する。一般には、円錐台プリズム6の代わりに、光導波素子に面する底面と、軸Lを中心軸とする回転対称体である側面とを有する透明部材を用いてもよい。グレーティング8cからの出射光ビームは、底面または側面から透明部材に入射し、側面から出射する。グレーティング8cのピッチが導波方向に沿って一定ではない場合、母線が曲線の形状を有する回転対称体のプリズムが用いられ得る。一方、グレーティング8cのピッチが一定の場合には、母線が直線の形状を有する回転対称体、すなわち円柱または円錐台の形状の回転対称体のプリズムが用いられ得る。
【0058】
数2から、波長λまたは実効屈折率Nが変化すると、出射ビーム10iの角度θ
1が変化する。すなわち、光源1からの光の波長、または領域9Cと反射電極層7bとの間の液晶層7eの屈折率が変化すると、出射ビーム10iの方向が
図1Bの上下方向(以下、「垂直方向」と表現する。)に沿って変化する。したがって、光源1からの光の波長または液晶層7eの屈折率を制御することにより、出射ビーム10iによる垂直方向の走査が実現される。
【0059】
結合条件-n
1sinθ
1=N-λ/Λ
1より、実効屈折率Nの放射角θ
1に対する微分は、数5によって記述される。
【数5】
【0060】
また、結合条件-n
1sinθ
1=N-λ/Λ
1より、放射角θ
1の波長λに対する微分は、数6によって記述される。
【数6】
【0061】
n
1×sinθ
1=n
0×sinθ
0の関係を利用すると、数3から数6より、回折光の水平方向に対する出射角θ
⊥の波長λに対する微分は、数7によって記述される。
【数7】
【0062】
物体で反射された後の復路では、光は出射ビーム10iの光路を逆進し、円錐台プリズム6の側面6aに入射する。当該光は、放射光10h、導波光10g、ならびに入力側の光10fおよび10eの光路を逆進する。特に、グレーティング8cへの入力に関しては、往路の放射光10hの出射時と同一の波長および位相面をもつ光だけが選択的に結合される。したがって、波長および位相の少なくとも一方が出射光と異なる迷光は効果的に除去される。往路と同じ経路をハーフミラー4bまで逆進した光10Eは、その約半分がハーフミラー4bで反射されて光10E0になり、残りはハーフミラー4bを透過して光10D0になる。
【0063】
ハーフミラー4bで反射された光10E0は、波長分光器5aによって反射および回折されて波長毎に分光される。分光された光10E1は、検出集光レンズ13aによって集光され、複数の集光スポット17a1、17a2、・・・、17anを光検出器12aの受光面に形成する。光検出器12aは、短冊状に分割された複数の受光素子を含む。各受光素子は、光を受けると、受光量に応じた電気信号を生成する。これにより、光検出器12aは、複数の集光スポット17a1、17a2、・・・を分別して検出できる。
【0064】
ハーフミラー4bを透過した光10D0は、1/4波長板4aを透過することにより、直線偏光を含む透過光10Dに変換される。透過光10Dの一部は、偏光分光器4を透過し、透過光10Cとして波長分光器5bに向かう。透過光10Cは、波長分光器5bで反射・回折されて波長毎に分光される。分光された光10Bは、検出集光レンズ13bによって集光され、複数の集光スポット17b1、17b2、・・・、17bnを光検出器12bの受光面に形成する。光検出器12bは、短冊状に分割された複数の受光素子を含む。各受光素子は、光を受けると、受光量に応じた電気信号を生成する。これにより、光検出器12bは、複数の集光スポット17b1、17b2、・・・を分別して検出できる。
【0065】
光検出器12aは、検出回路33aに接続されている。光検出器12bは、検出回路33bに接続されている。検出回路33aは、光検出器12aから出力された検出信号を処理する。検出回路33bは、光検出器12bから出力された検出信号を処理する。
【0066】
本実施形態の光学装置は、検出回路33aおよび33bに接続された主制御回路34をさらに備える。主制御回路34は、検出回路33aおよび33bから出力された信号に基づき、光源制御回路30および液晶制御回路32を制御するための制御信号を生成する。光源制御回路30は、主制御回路34から入力された制御信号に応答して光源1から出射されるレーザー光の強度を調整する。液晶制御回路32は、主制御回路34から入力された制御信号に応答して、透明電極層7fと反射電極層7bとの間の電圧を調整することにより、液晶層7eの屈折率を調整する。なお、光源制御回路30、液晶制御回路32、および主制御回路34は、異なるハードウェアによって実現されている必要はなく、単一の回路によって実現されていてもよい。
【0067】
本実施形態では、グレーティング8cから出射した光線は、円錐台プリズム6の側面を通過する。このような構成により、設計の自由度を高くすることができる。このような形態に限らず、例えば、放射光10hがプリズムの底面から入射する構成であってもよい。本実施形態では、光線は、円錐台プリズム6の側面を2回通過するため、ブレーズグレーティングによる回折の影響を2回受ける。このため、ブレーズグレーティングのピッチを大きくでき、作製が容易になる。さらに、中空基板7hの円錐台状の内表面にもブレーズグレーティングを形成してもよい。その場合、光線は、回折の影響を3回受ける。回折回数が多いほど、ブレーズグレーティングのピッチを大きくでき、作製が容易になり、全体の回折効率も高くなる。
【0068】
本実施形態では、グレーティング8cから放射される光を容易に空気中に取り出すために、中空基板7hが配置されている。光を外部に取り出せる構造であれば、中空基板7hが省略されていてもよい。しかし、本実施形態のように、円錐台状の空洞を有する中空基板7hが設けられることにより、グレーティング8cからの放射光を、その放射角とは無関係に、すなわち全反射の影響を受けることなく空気中に取り出すことができる。したがって、設計の自由度を高くすることができる。
【0069】
図3Aは、入射光である光10fの偏光方向および入力グレーティングカプラであるグレーティング8aへの入力の様子を模式的に示す斜視図である。
図3Bは、入力グレーティングカプラであるグレーティング8aの例を模式的に示す断面図である。
図3Cは、入力結合し導波する光の様子を光強度分布によって示す断面図である。
図3Dは、入力グレーティングカプラであるグレーティング8aの例を模式的に示す平面図である。
図3Eから
図3Gは、偏光方向と光の伝搬方向との関係を光強度分布によって示す平面図である。
図3Bおよび
図3Dに示す例では、グレーティング8aの半径はr
1=5μmであり、ピッチはΛ
0=0.57μmであり、深さはd
0=0.10μmであり、導波層7dの材料はTa
2O
5であり、導波層7dの厚さは0.15μmであり、液晶層7eおよびバッファー層7cの各々の屈折率はSiO
2の屈折率と同一である。
図3C、および
図3Eから
図3Gに示す例では、波長λ=0.94μmの解析結果が示されている。この場合、グレーティング8aに垂直に光が入射することにより、TEモードの導波光が励起される。以下の説明では、図示されている互いに直交するXYZ座標系を用いる。グレーティング8aの中心を原点Oとし、各グレーティングが拡がる面に平行な互いに直交する2方向にX軸およびY軸を設定し、X軸およびY軸の両方に垂直な方向にZ軸を設定する。Z軸に関しては、入射光が到来する方向を正方向とする。
【0070】
図3Cおよび
図3Eは、入射光である光10fの偏光方向11fがY軸方向に平行である場合に励起される導波光の強度分布の例を示している。この場合、励起される導波光は、X軸方向に強く伝搬する。
図3Fに示すように、入射光である光10fの偏光方向11fがX軸から135度の方向に平行である場合には、励起される導波光は、X軸から45度の方向に強く伝搬する。
図3Gに示すように、入射光である光10fの偏光方向11fがX軸方向に平行である場合には、励起される導波光は、Y軸方向に強く伝搬する。このように、グレーティング8aは、入射光である光10fの一部を、導波層7d内で、偏光方向11fに垂直な方向を中心とする広がりを伴って伝搬させる。従って、本実施形態のように、入射光である光10fの偏光が円偏光の場合には、励起される導波光は、全方位に均等に伝搬する。
【0071】
図4Aは、反射電極層7bがない場合の、入力グレーティングカプラであるグレーティング8aの入力結合効率の波長依存性を示す図である。
図4Bは、反射電極層7bがある場合の、入力グレーティングカプラであるグレーティング8aを模式的に示す断面図である。
図4Cは、反射電極層がある場合の、バッファー層7cであるSiO
2層の厚さに対する入力結合効率の依存性を示す図である。
図4Dは、反射電極層がある場合の、入力結合効率の波長依存性を示す図である。
【0072】
図4Aに示す例における解析条件は、
図3Aから
図3Gに示す例における解析条件と同じである。
図4Aに示すように、波長0.94μmの場合、最大20%の入力効率が得られる。
図4Bに示す例における形状の条件は、Alの反射電極層7bが設けられている点以外は、
図3Aから
図3Gに示す例における形状の条件と同じである。
図4Cに示すように、バッファー層7cの厚さに依存して、入力効率が周期的に増減する。バッファー層7cの厚さが1.06μmの場合、入力効率は極大になる。
図4Dは、バッファー層7cの厚さを1.06μmに固定した場合の入力効率の波長依存性が示されている。波長が0.944μmの場合、入力効率は極大になり、極大値は約50%である。従って、入射光の偏光方向が円接線方向に揃ったいわゆるアジマス偏光である場合、ほぼ100%の結合効率が得られる。一方、入射光が円偏光の場合はほぼ50%の結合効率が得られる。
【0073】
次に、本実施形態における収差補正について説明する。
【0074】
図5Aは、収差補正がない場合の、出力グレーティングカプラであるグレーティング8cからの放射光の伝搬経路を模式的に示す図である。
図5Bは、収差補正がある場合の、出力グレーティングカプラであるグレーティング8cからの放射光の伝搬経路を模式的に示す図である。
図5Aおよび
図5Bにおいて、部分(a)は平面図であり、部分(b)は斜視図であり、部分(c)は断面図である。なお、
図5Aおよび
図5Bの構成では、円錐台プリズム6の側面での2回の屈折のうち、光が入射する側での屈折の影響は小さく無視できる。以下の説明では、屈折効果の殆どを占める光出射側での屈折のみを議論する。
【0075】
図5Aの部分(b)には、導波層7d内を異なる方向に伝搬する導波光10gおよび10g
0が例示されている。収差補正がない場合、導波光10gおよび10g
0は、それぞれ、グレーティング8cから出射され、円錐台プリズム6内を伝搬する光10Hおよび10H
0になり、円錐台プリズム6の側面で屈折されて外部に出射する光10Iおよび10I
0になる。
図5Aの部分(b)に示すように、光10Hおよび10H
0は、中心軸L上で交差する。
図5Aの部分(a)に示すように、平面視では、光10Iおよび10I
0は、中心軸L上の点Fで交差し、円錐台プリズム6の側面から出射する。このとき、光10Iおよび10I
0は、水平面に平行な平面内においては屈曲されず、円錐台プリズム6の断面の動径方向に沿って直進する発散光になる。
【0076】
一方、
図5Bに示すように、収差補正がある場合、導波光の経路は以下のようになる。導波層7d内を伝搬する導波光10gおよび10g
0は、グレーティング8cから出射され、円錐台プリズム6の側面に入射し、屈折されてその内部を伝搬する光10h、10h
0、10h1、および10h1
0になる。光10hおよび10h
0は、グレーティング8cの外側の部分から放射された光であり、光10h1および10h1
0は、グレーティング8cの内側の部分から放射された光である。光10hおよび10h1は、導波光10gに起因する放射光であり、光10h
0および10h1
0は、導波光10g
0に起因する放射光である。光10h、10h
0、10h1、および10h1
0は、円錐台プリズム6の対向する側の側面で屈折されて外部に出射される光10i、10i
0、10i1および10i1
0になる。
図5Bの部分(b)に示すように、光10h、10h
0、10h1および10h1
0は、X軸の正方向に沿って中心軸Lから離れた軸L
1上で交差する。軸L
1は、中心軸Lに対して傾斜している。グレーティング8cの外周側からの光10hおよび10h
0は、軸L
1上の点F
1で交差する。グレーティング8cの内周側からの光10h1および10h1
0は、軸L
1上の点F
2で交差する。
図5Bの部分(a)および部分(c)に示すように、軸L
1の傾斜に対応して円錐台プリズム6の母線も傾斜し、外周側の光10hおよび10h
0の屈折点である点F
1を含む円の半径r
0と、内周側の光10h1および10h1
0の屈折点である点F
2を含む円の半径r
0’とが異なる。その結果、円錐台プリズム6の側面を出射した後の光を平行光にすることができる。このように、放射光の交点を軸L上から軸L
1上に移動させることにより、収差を補正することができる。この収差補正は、後述するように、透明電極層7gと反射電極層7bとの間の電圧を、グレーティング8bの領域で偏角位置に応じて異なる値にすることによって実現され得る。
【0077】
次に、光線を平行光にするための収差補正量を見積もる方法を説明する。
【0078】
図6Aは、出力グレーティングカプラであるグレーティング8cからの放射光が、円錐台プリズム6の側面で屈折され出射される様子を模式的に示す図である。放射光の屈折は、円錐台プリズム6の側面の入射側と出射側とで2回発生するが、前述のように、ここでは屈折効果の殆どを占める出射側での屈折のみを議論する。
【0079】
図6Aに示す光線の経路は、
図5Aおよび
図5Bを参照して説明したとおりである。
図6Aの部分(a)に示すように、光10hと円錐台プリズム6の側面との交点をQとし、光10h
0と円錐台プリズム6の側面との交点をQ
1とする。角QFQ
1をψとし、角FF
1Q
1をφとし、角FQ
1F
1をψ’とする。光10i
0が光10iに平行になる場合、数8が成立する。
【数8】
【0080】
ここで、角φ、ψ、ψ’は、数9の関係を満たす。
【数9】
【0081】
数8および数9から、角ψは数10によって与えられる。
【数10】
【0082】
一方、点Fと点F
1との間隔をf
0と定義すると、f
0は数11によって与えられる。
【数11】
【0083】
光10Hおよび10H
0は、点Fに集束し、光10hおよび10h
0は点F
1に集束する。収差論によれば、集束光の焦点位置をFからF
1に変位させる収差、すなわち縦の焦点移動収差は、数12の左辺によって与えられる。ここでΔNは、実効屈折率の変化量を表す。
【数12】
【0084】
図6Bは、収差補正を実現するための透明電極層7gのパターンの例を模式的に示す図である。領域9Bは、グレーティング8bに対面する位置にあり、半径r
1から半径r
2の範囲に形成されている。
図6Bの例における領域9Bは、光10fが入射する点を中心とする仮想的な円の周方向に沿って並ぶ導電性の複数の分割領域を含む。各分割領域は、当該円の動径方向に沿ってジグザグに延びている。制御回路32は、領域9Bにおける複数の分割領域のうち、導波光10gが伝搬する導波層7dの部分に対面する分割領域に電圧を独立して順次印加することができる。これにより、収差補正を実現しながら、放射ビームの方向を軸Lのまわりに回転させることができる。
図6Bにおいて、薄いジグザグの線で表された領域は、ある瞬間において、この領域から周りの領域、すなわち濃いジグザグの線で表された領域に導波光が逸れて導波強度が次第に小さくなるように電圧の値が設定される分割領域である。
【0085】
図6Bに示す例では、領域9Bは、円周方向に6度刻みに等分され、60個のジグザグな帯扇形の分割領域9B1から9B60に分割されている。これらの分割領域9B1から9B60は、互いに電気的に絶縁されており、電圧を独立して印加することができる。複数の分割領域9B1から9B60に異なる電圧を印加すると、液晶層7eの屈折率が、偏角位置によって変化する。その結果、導波光10gの実効屈折率も偏角位置によって変化する。このようにして、導波光の位相を、伝搬の偏角ごとに変化させることができる。実効屈折率の変化幅をΔNとすると、伝搬距離(r
2-r
1)の間において発生する位相差の範囲は数12の右辺によって与えられる。したがって、放射光が円錐台側面で屈折されて平行光になるための条件は、数12によって記述される。収差補正におけるΔNは、数12から、数13によって与えられる。
【数13】
【0086】
図7Aは、伝搬方向の偏角φと、収差補正を実現するための導波光の実効屈折率の変化量ΔNとの関係を示す図である。
図7Aには、数13に基づき、変化幅ΔNが偏角φの関数としてプロットされている。この例では、円錐台プリズム6の屈折率をn
0=1.58、半径をr
0=1.25mm、領域9Bの幅を(r
2-r
1)=8mmとした。例えば-36度から36度の偏角範囲で必要な位相差を確保するには、ΔN=0.041になることがわかる。
【0087】
図7Bは、液晶層7eの屈折率n
1をパラメータとした、導波層7dであるTa
2O
5層の厚さと実効屈折率Nとの関係の例を示す図である。
図7Cは、バッファー層7c、導波層7d、および液晶層7eの配置を模式的に示す図である。この例では、バッファー層7cはSiO
2で形成され、導波層7dはTa
2O
5で形成されている。
【0088】
ネマティック液晶分子の屈折率差は、大きいもので0.20程度である。そのうちの8割が実効的な屈折率差として作用することを考えると、実効的な屈折率差は0.15程度である。
図7Bに示す例では、光の波長を0.94μm、バッファー層7cの屈折率を1.45とした。
図7Bの例では、n
1=1.50およびn
1=1.65として計算した導波層7dの厚さと実効屈折率Nとの関係が、それぞれ曲線23a、および曲線23bによって表わされている。
【0089】
図7Cのモデルで液晶の屈折率差を0.15とすると、
図7Bより、Ta
2O
5から形成された導波層7dの厚さを0.10μmから0.15μm程度にすれば、ΔN=0.04からΔN=0.06の変化が期待できることがわかる。
【0090】
次に、液晶層7eへの電圧の印加による導波光の伝搬方向の制御原理を説明する。以下では、透明電極層7fおよび反射電極層7bの両方が、分割された複数のジグザグの電極パターンを有する例を説明する。
【0091】
図8Aは、透明電極層7fにおける電極パターンと、印加電圧との関係を模式的に示す図である。
図8Bは、反射電極層7bにおける電極パターンと、印加電圧との関係を模式的に示す図である。
図8Aには、透明電極層7fにおける3本のジグザグの電極パターン40a、40bおよび40cが例示されている。同様に、
図8Bには、反射電極層7bにおける3本のジグザグの電極パターン40A、40Bおよび40Cが例示されている。これらの電極パターンは互いに絶縁されている。
図8Aに示す電極パターン40a、40bおよび40cには、それぞれ独立して制御回路32a、32bおよび32cから電圧信号が印加される。同様に、
図8Bに示す電極パターン40A、40Bおよび40Cには、それぞれ独立して制御回路32A、32Bおよび32Cから電圧信号が印加される。
【0092】
図8Cは、透明電極層7fにおける電極パターン、および反射電極層7bにおける電極パターンを揃えて重ねた構成と、印加電圧との関係を模式的に示す図である。透明電極層7fの側を上とし、反射電極層7bの側を下とすると、上下に位置するジグザグパターンは、ジグザグの一方の側の頂点を結んで形成される線が、上下で互いに重なる関係にある。反射電極層7b側のジグザグパターンの形状は、透明電極層7f側のジグザグパターンを上下に反転した形状である。したがって、
図8Cに示すように、透明電極層7f側での電極パターンと、反射電極層7b側での電極パターンとを揃えて重ねたパターンは、菱形が連なった形状を有する。
【0093】
図8Cに示す電極パターンを片面のみに作製してもよい。しかし、1つ1つの菱形が孤立していることから、配線の引き回しが容易ではない可能性がある。
図8Aに示す電極パターンと、
図8Bに示す電極パターンとを重ね合わせた構成にすることにより、パターンそのものが配線として機能することから、作製をより容易にすることができる。
【0094】
透明電極層7fでのジグザグの電極パターン40a、40bおよび40cには、交流電圧信号41a、41bおよび41cがそれぞれ印加される。振幅は、信号41a、41bおよび41cの順に大きくなる。対面する電極が接地されているとすると、この振幅勾配により、ジグザグの電極パターン40a、40bおよび40cに対応する液晶層の位置で、屈折率差が発生する。電極間に挟まれる導波層7d内を図の左から右に伝搬する導波光10gは、光路に対して傾斜したパターン間の境界を通過する度に、図8Cの下側に屈折する。反射電極層7bでのジグザグの電極パターン40A、40Bおよび40Cには、交流電圧信号41A、41Bおよび41Cがそれぞれ印加される。振幅は、信号41A、41Bおよび41Cの順に大きくなる。対面する電極が接地されているとすると、この振幅勾配により、電極間に挟まれる導波層7d内を図の左から右に伝搬する導波光10gは下側に屈折する。
【0095】
交流電圧信号41A、41Bおよび41Cは、それぞれ、交流電圧信号41a、41bおよび41cの逆極性を有する。したがって、
図8Cに示すように、透明電極層7fおよび反射電極層7bを揃えて重ねた電極パターンでは、
図8Cに示す電圧が印加される。
図8Cの例では、交流電圧信号41a1と交流電圧信号41A1とが対を形成し、交流電圧信号41b1と交流電圧信号41B1とが対を形成し、交流電圧信号41c1と交流電圧信号41C1とが対を形成する。各対を形成する2つの交流電圧信号の位相は反転していることから、交流電圧振幅が倍増する。これにより、導波光10gは大きく下側に屈折する。さらに、
図8Aおよび
図8Bに示す電極パターンに比べて、導波光10gがパターン間の境界を跨ぐ頻度が増える。これにより、導波光10gの曲がりはさらに倍増し、光路の違いによる曲がり角のバラツキも改善する。
【0096】
次に、
図8Aから
図8Cを参照して説明した原理を踏まえて、導波光の伝搬方向を制御する方法の例を説明する。
【0097】
図9Aおよび
図9Bは、それぞれ、透明電極層7fおよび反射電極層7bでの領域9Bにおける電極のパターンの例を模式的に示す図である。
図9Aに示す電極パターン、および
図9Bに示す電極パターンのいずれも、各々が内周側から外周側に延びる60本のジグザグパターンによって構成されている。このようなジグザグパターンの電極は、透明電極層7fおよび反射電極層7bの一方にのみ設けられていてもよい。領域9Bにおける複数の分割領域のうち、任意の隣り合う2つの分割領域の境界は、レーザー光が入射する点を中心とする仮想的な円の動径方向に沿ってジグザグ形状を有する。各ジグザグパターンは互いに絶縁されており、各々に独立して電圧信号が印加される。
図9Aおよび
図9Bに示す例では、隣接するジグザグパターンは、ジグザグの一方の側の頂点を結んで形成される線が動径方向に一致し、これらが隣同士で互いに重なる関係にある。この例において、反射電極層7b側のジグザグパターンの形状は、透明電極層7f側のジグザグパターンを回転方向に反転した形状である。
【0098】
図9Cは、透明電極層7fでの電極パターン、および反射電極層7bでの電極パターンを揃えて重ねた構成を模式的に示す図である。
図9Dは、
図9Cに示す電極パターンの一部と、導波光10gの伝搬経路との関係を模式的に示す図である。
図9Cに示すように、透明電極層7fおよび反射電極層7bを揃えて重ねた領域9Bにおける電極のパターンは、菱形が連なった形状を有する。反射電極層7bおよび透明電極層7fの各々において、領域9Bにおける複数の分割領域のうち、任意の隣り合う2つの分割領域の境界は、レーザー光が入射する点を中心とする仮想的な円の動径方向に沿ってジグザグ形状を有する。バッファー層7c、導波層7d、および液晶層7eのいずれかに垂直な方向から見たとき、一対の電極層の一方における境界と、他方における境界は、菱形が連なった形状を形成する。
【0099】
図9Dに示すように、ジグザグパターンに印加される交流電圧の振幅の大きさが円周方向に沿って勾配を有すると、矢印42の方向に沿って液晶の屈折率が大きくなる。これにより、導波層7d内を内周側から外周側に伝搬する導波光10gの伝搬経路を、矢印42の方向に曲げることができる。これにより、グレーティング8cから出射される光を、
図5Bに示す軸L
1上に集光し、円錐台プリズム6の側面から平行光として出射させるように調整することができる。このように、
図9Cに示す構造を有する電極への印加電圧を制御することにより、グレーティング8cからの放射光を、円錐台プリズム6の側面から平行光として出射させることができる。
【0100】
次に、本実施形態における光検出器12aおよび12bの構成例を説明する。
【0101】
図10Aおよび
図10Bは、複数の集光スポットと光検出器12aおよび12bとの位置関係の例を示す図である。これらの例において、光検出器12aおよび12bの各々は、一列に並んだ複数の受光素子を含む。各受光素子は、短冊状の形状を有する。光検出器12aは、n個の受光領域12a1、12a2、・・・、12anに分割されており、n個の集光スポット17a1、17a2、・・・、17anを分別して検出できる。同様に、光検出器12bは、n個の受光領域12b1、12b2、・・・、12bnに分割されており、n個の集光スポット17b1、17b2、・・・、17bnを分別して検出できる。この例では、簡単のため、n=5としている。nは、光源1から出射されるマルチモードのレーザー光のモード数に一致する。モード数が例えば10の場合は、検出器12aおよび12bの各々は、10個の受光領域を含む。図示される例において、各受光領域は、5つの短冊状の受光素子を含む。すなわち、1つの集光スポットに対して5つの受光素子が割り当てられている。しかしこれは一例にすぎない。各受光領域に含まれる受光素子の数は、任意に決定してよい。
【0102】
ここで、隣り合う任意の2つの集光スポットの中心間の間隔をd
1、各受光素子の幅をd
2、各集光スポットの直径をd
0とする。
図10Aに示す例では、d
2=d
1/5であり、2d
2<d
0<3d
2である。スポットの間隔d
1は、波長分光器5aおよび5bの設計に依存する。間隔d
1は、集光スポットの直径d
0の例えば2倍程度の大きさに設定され得る。
図10Aに示す例では、各集光スポットの中心が、隣り合う2つの短冊状の受光素子の境界付近に位置している。この場合、各集光スポットは、連続する4つの受光素子に跨って形成される。一方、
図10Bに示す例では、各集光スポットの中心が、いずれかの受光素子の中央付近に位置している。この場合、各スポットは、連続する3つの受光素子に跨って形成される。複数の集光スポットと光検出器12aおよび12bとの位置関係は、
図10Aおよび
図10Bのいずれかのパターンになる。
【0103】
図10Aの例では、各集光スポットによる光は、連続する4つの受光素子に入射する。隣り合う2つの集光スポットの間に、集光スポットによる光が入射しない受光素子が1つ存在する。そのような受光素子は、
図10Aにおいて、点パターンで示されている。連続する5つの受光素子の中で極端に検出光量の小さい受光素子が1つあれば、それが
図10Aにおいて点パターンで示される受光素子に相当する。
【0104】
図10Bの例では、各集光スポットによる光は、連続する3つの受光素子に入射する。隣り合う2つの集光スポットの間に、集光スポットによる光が入射しない受光素子が2つ存在する。そのような受光素子は、
図10Bにおいて、点パターンで示されている。連続する5つの受光素子の中で極端に検出光量の小さい受光素子が2つあれば、それらが
図10Bにおいて点パターンで示される2つの受光素子に相当する。
【0105】
図10Aおよび
図10Bのいずれの場合も、検出光量の小さい1つ以上の受光素子を目印にして、分離した複数の集光スポットのそれぞれの光量を分別して検出できる。検出光量の小さい受光素子での検出光量は、最も近い集光スポットの光量に補間して繰り込んでもよい。例えば、検出光量の小さい受光素子が1つの場合、その光量を1/2にしてそれぞれ上下の集光スポットの検出光量に加えてもよい。検出光量の小さい受光素子が2つの場合、それぞれの光量を分けて、それぞれに近い側の集光スポットの検出光量に加えてもよい。
【0106】
次に、波長分光器5aおよび5bの構成の例を説明する。
【0107】
図10Cおよび
図10Dは、波長分光器5aおよび5bの各々の断面形状の例を模式的に示す図である。本実施形態における波長分光器5aおよび5bの各々は、直線回折格子である。より具体的には、波長分光器5aおよび5bの各々は、ピッチΛ
3のリトロー型の反射直線回折格子である。波長分光器5aおよび5bの各々は、格子表面の法線と格子ベクトルとを含む面内で、光の入射方向と回折方向とが実質的に一致するように設計されている。ここで、波長分光器5aおよび5bの各々について、格子ベクトルの方向をx軸方向とし、格子線が延びる方向をy軸方向とし、x軸およびy軸に垂直でかつ光が到来する側の方向をz軸方向とする。
図10Cは、波長分光器5aおよび5bの、xz面に平行な断面を示している。
図10Dは、波長分光器5aおよび5bの、yz面に平行な断面を示している。
【0108】
図10Cに示すように、波長分光器5aおよび5bの、xz面に平行な断面は、頂角が垂直な三角形状を有する。回折格子の溝を構成する2つの斜面の一方は、面法線に対してθ
pの角度をなす。xz面内での波長分光器5aおよび5bへの入射光10E
0および10Cの方位は、面法線に対してθ
pの角度をなす。反射・回折光10E
1および10Bも同様に、面法線に対して同じ側にほぼθ
pの角度をなす。
【0109】
一方、
図10Dに示すように、yz面内での波長分光器5aおよび5bへのそれぞれの入射光10E
0および10Cの方位は、面法線に対してθ
sの角度をなす。反射・回折光10E
1および10Bは、面法線に対して反対側にθ
sの角度をなす。
【0110】
図10Eは、xz面内での波長分光器5aおよび5bへの入射光と反射光との関係を示すベクトルダイアグラムである。θ
s=0の場合における入射光の入射角および0次反射光の反射角をθ
i、反射・回折光すなわち1次反射回折光の反射角をθ
rとする。入射光10E
0および10Cと、反射・回折光10E
1および10Bとが満たすべき条件は、数14によって記述される。
【数14】
【0111】
図10Cからθ
i=θ
rとなるので、
図10Eにおいて、P
4’とP
6’、およびP
4とP
6が一致し、大きさλ/Λ
3の矢印によって表された格子ベクトルP
5P
6が、反射ベクトルの垂線の足がなすベクトルOP
4の2倍に等しくなる。
【0112】
リトロー型の条件に従い、θ
i=θ
r=θ
p=60度となる条件で計算すると、λ=0.940μmではΛ
3=0.5427μmとなる。この条件で光の波長をマルチモードの間隔0.2nmだけずらしてλ=0.9402μmとすると、θ
r=60.042度となる。この場合、角度変化は、Δθ
r=0.042度となる。検出集光レンズ13aおよび13bの焦点距離をf
D=40mmとすると、集光スポットの間隔d
1は、d
1=f
D×tanΔθ
r=30μmとなる。従ってこの場合、短冊状の受光素子の幅は、d
2=d
1/5=6μmに設定される。入射光10E
0および10Cのスポットの直径を1.5mmとすると、焦点距離f
D=40mmのレンズのNAは0.0188となり、集光スポットの直径d
0すなわちエアリー円盤径は、15μm(=d
1/2)になる。この場合、
図10Aおよび
図10Bに示された条件を満たす。
【0113】
なお、
図10Cでは入射光と反射・回折光の方向が同一であるように示され、検出器が配置できないように見える。しかし、実際には、
図10Dに示すように、格子ベクトルに直交するyz面内では入射光が面法線に対して傾斜しているので、入射光と反射・回折光の方位が分離し、検出器の配置が可能である。
【0114】
次に、本実施形態における信号処理の例を説明する。
【0115】
図11Aは、本実施形態における信号処理を説明するための図である。
図11Aは、領域9Bの電圧分布パターンの回転角、光源1の出力光量、光検出器12aの受光領域12akでの検出光量Pa、光検出器12bの受光領域12bkでの検出光量
Pb、検出光量の和Pa+Pb、および検出光量の比Pb/Paの時間経過の例を示している。ここで、受光領域12akおよび12bkは、それぞれ、
図10Aに示されるn個の集光スポットのうちのk番目の集光スポット17akおよび17bkが形成される受光領域を指す。
【0116】
図11Bは、電極である領域9Bの分割領域と、水平方向走査光線の移動方向との関係の例を示す図である。
図11Bの例では、領域9Bは、5つの扇状の分割領域B1、B2、B3、B4およびB5に分割されている。それぞれの領域において、光線走査のための導波光が伝搬する。分割領域B1、B2、B3、B4およびB5は、それぞれ偏角φが-36度から36度、36度から108度、108度から180度、180度から252度、および252度から324度の範囲の水平走査範囲を受け持つ。ある瞬間において、分割領域B1、B2、B3、B4およびB5から、走査光線b1、b2、b3、b4およびb5がそれぞれ放射される。これら5つの走査光線は、互いに72度の角度をなし、中心Oの周りを等角回転する。点bkによる走査光線に対応する光10E
0の偏光振幅は、akを振幅係数、φを方位角または走査角として、数15によって表される。ただしk=1、2、3、4、5である。
【数15】
【0117】
ジョーンズ行列を利用すると、光10E
0の偏光振幅と、透過光10Cの偏光振幅との関係が、数16によって表される。
【数16】
【0118】
左辺について、第1項は偏光分光器4の行列を表し、第2項は1/4波長板4aの行列を表し、第3項は光10E0の偏光振幅を表す。右辺は透過光10Cの偏光振幅を表す。
【0119】
数15および数16から、光検出器12aおよび12bでのそれぞれの検出光量PaおよびPbは、それぞれ数17および数18によって表される。
【数17】
【数18】
【0120】
数17および数18から、検出光量比Pb/Paが、数19によって表される。
【数19】
【0121】
図11Cは、走査光線b1、b2、b3、b4およびb5に対する検出光量比を示す信号と、走査角φとの関係を示す図である。この関係は、数19から得られる。
図11Cに示す例では、以下の関係が成り立つ。
・φ=0度から18度の範囲: b1<b4<b3<b2<b5
・φ=18度から36度の範囲: b4<b1<b2<b3<b5
・φ=36度から54度の範囲: b4<b2<b1<b5<b3
・φ=54度から72度の範囲: b2<b4<b5<b1<b3
・φ=72度から90度の範囲: b2<b5<b4<b3<b1
【0122】
φ=72度から90度の範囲においては、φ=0度からφ=18度の範囲と比較して、b1がb2に、b2がb3に、b3がb4に、b4がb5に、b5がb1に繰り上がっている。それ以降の角度範囲でも、同様の繰り上がりの関係が成り立つ。これにより、360度までの全ての角度範囲について、走査光線の検出光量比の大小関係が全てわかる。したがって、領域9Bへの駆動信号によって走査角φが決定されれば、5つの検出光量比の大小関係が決定される。これにより、検出信号が、走査光線のうちのどれかを特定することができる。
【0123】
図11Aに示す例において、光源1の発振を制御する光源制御回路30からの信号は、例えばΔ=250nsおきに10nsの幅の矩形パルスとして変化する。それに対応して、パルス光21aおよび21a1が発光する。250ns毎のパルス発振は、1フレームを30msとすると、1フレームあたり12万パルスに相当する。このパルス信号に同期して、領域9Bへの印加電圧の回転角に、ビーム走査に対応した変化量δ(=2πΔ/5T)が加算される。領域9Bの電圧分布パターンは、T=2msの間に、軸Lの周りを1/5回転する。
【0124】
図11Aには、受光領域12akおよび12bkでのそれぞれの検出光量PaおよびPbの時間経過の例が示されている。パルス光21aの出射後250nsの時間範囲で、分割領域B1、B2、B3、B4およびB5からの戻り光が、それぞれの方向に存在する物体の距離に応じた異なる時間差19a
1、19a
2、19a
3、19a
4および19a
5の遅れを伴って検出される。なお、信号波形20a、20a1、20bおよび20b1は、入力グレーティングカプラであるグレーティング8aに入力できず、そのまま反射されて帰還した光の検出信号である。
【0125】
光検出器12aの受光領域12akでは、分割領域B1、B2、B3、B4およびB5からの戻り光が、波形18a1、18a2、18a3、18a4および18a5として検出される。受光領域12bkでは、分割領域B1、B2、B3、B4およびB5からの戻り光が、波形18b1、18b2、18b3、18b4および18b5として検出される。主制御回路34は、光検出器12aの各受光領域での検出光量Paに応じた電気信号と、光検出器12bの各受光領域での検出光量Pbに応じた電気信号とを受ける。主制御回路34は、これら2つの電気信号の和および比に応じた電気信号を生成する。光検出器12aおよび12bの検出光量の和を示す和信号Pa+Pbとして、a1+b1、a2+b2、a3+b3、a4+b4、およびa5+b5が生成される。光検出器12aおよび12bの検出光量の比を示す信号比Pb/Paとして、b1/a1、b2/a2、b3/a3、b4/a4、およびb5/a5が生成される。
【0126】
和信号Pa+Pbに関しては、上記5つの信号がTOF(Time of Flight)信号として用いられる。一方、それらの信号は、距離または反射率が異なる物体からの反射に基づいている。したがって、和信号だけでは、どの信号が分割領域B1からB5のいずれに対応するのかを特定することができない。しかし、信号比Pb/Paを加えることにより、信号比の大小関係から、5つの信号の各々が分割領域B1からB5のいずれに対応するか、すなわち走査光線b1からb5のいずれに対応するかを特定することができる。例えば、
図11Aに示す信号比の例では、b
1/a
1<b
4/a
4<b
3/a
3<b
2/a
2<b
5/a
5である。したがって、走査角φが0度から18度の範囲であれば、これらの5つの信号は、左から順に、走査光線b1、b2、b3、b4およびb5による信号であることがわかる。あるいは、走査角φが18度から36度の範囲であれば、これらの5つの信号は、左から順に、走査光線b4、b3、b2、b1およびb5による信号であることがわかる。
【0127】
図12Aは、分割領域B1における、シングルモード発振のレーザー光の水平方向および垂直方向の走査の様子を模式的に示す図である。この例では、
図11Bに示す中心Oと点b1、b2、b3、b4およびb5の各々とを結ぶ方向を中心として、±36度の角度範囲の領域9Bに、収差補正のための分布をなす電圧が加えられる。点b1、b2、b3、b4およびb5からの光は、収差補正の結果、平行ビームとなり、それぞれ72度の角度差を維持しながら、それぞれに割り当てられた領域内を走査する。
図12Aに示す点b1および矢印は、φ=-36度から36度の範囲に相当する分割領域B1内で光線が走査する様子を示す。同様に、点b2、b3、b4およびb5からの光線も、それぞれに割り当てられた領域内を同期して走査する。領域9Bの電圧分布の周期をT=2msとすると、1秒あたり33フレームすなわち周期30msの
描画速度で走査させるには、垂直方向の走査線数は30/2=15本になる。液晶の屈折率変化を0.15とすると、
図7Bより、ΔN=0.04程度の実効屈折率の変化で上記走査線数を実現できる。数5から、この実効屈折率変化の幅はグレーティング8cからの放射光の角度差として10度程度に相当する。このため、10度の垂直角範囲を15等分する間隔で、垂直方向走査が行われ得る。この場合、各走査線の隔てる角度は10/15=0.67度程度である。
【0128】
図12Bは、分割領域B1における、マルチモード発振のレーザー光の水平方向および垂直方向の走査の様子を模式的に示す図である。
図1Aの点線枠内に示すように、光源1はマルチモードでレーザー光を発振する。このマルチモード光は、例えば波長λの近傍で0.2nm程度の間隔をなす波長λ
1、λ
2、・・・λ
nのシングルモード光の重なりである。数7から、0.2nmの波長差はグレーティング8cからの放射光の角度差として0.1度程度に相当する。従って、7本のマルチモード発振光があれば、
図12Bに示すように、
図12Aにおける走査線の間を隙間無く埋めることができる。
図12Bの各走査線に対応する戻り光は、光検出器の受光領域12akおよび12bkによって独立して検出される。この場合、信号検出における空間解像度は、
図12Aの場合の7倍になる。言い換えれば、100本以上の垂直走査線数を実現できる。なお、マルチモード発振では各モードの発振光の強度が時間的に安定していることが望ましい。このような発振はレーザー光源の駆動電流に数百MHzの交流信号を重畳させることで実現できる。
【0129】
以上のように、本実施形態の構成によれば、広がり角の小さい平行なレーザー光を外部の物体に向かって出射することができる。その際、例えば、水平方向360度および垂直方向10度の視野内において、出射ビームを垂直走査線数で100本以上、1秒あたり30フレーム以上の描画速度で走査することができる。
【0130】
(第2実施形態)
図13Aは、第2実施形態における光学装置の構成と光線の経路とを模式的に示す斜視図である。
【0131】
本実施形態では、第1実施形態における波長分光器5aおよび5b、ならびに検出集光レンズ13aおよび13bが、それぞれ波長分光器5Aおよび5B、ならびに検出集光レンズ13Aおよび13Bに置き換わり、光源1aおよび1bと、コリメートレンズ2aおよび2bと、光源制御回路30aおよび30bと、円錐レンズ16と、波長フィルター15aおよび15bとが追加されている。それ以外の構成は、第1実施形態と同じである。以下、第1実施形態と異なる点を説明し、重複する説明は省略する。
【0132】
レーザー発振を制御する光源制御回路30、30aおよび30bからの制御信号に応答して、光源1、1aおよび1bは、それぞれ、波長λ0、λ0-Δλおよびλ0+Δλの直線偏光であるレーザー光10a、14aおよび14Aを出射する。レーザー光10a、14aおよび14Aの各々は、シングルモードであってもマルチモードであってもよい。Δλは、例えば20nm程度の値に設定され得る。レーザー光10a、14aおよび14Aは、それぞれ、コリメートレンズ2、2aおよび2bによって平行光10b、14bおよび14Bに変換される。波長フィルター15bは、波長λ0-Δλの光を反射し、波長λ0+Δλの光を透過させるように設計されたダイクロイックミラーである。平行光14bは、波長フィルター15bで反射されて反射光14cになる。平行光14Bは、波長フィルター15bを透過して透過光14Cになる。反射光14cおよび透過光14Cは、円錐レンズ16に入射し、円錐波面をなす光14dおよび14Dとしてそれぞれ透過する。波長フィルター15aは、波長λ0-Δλおよびλ0+Δλの光を反射し、波長λ0の光を透過させるように設計されたダイクロイックミラーである。平行光10bは、波長フィルター15aを透過して光10cになる。透過光14dおよび14Dは、波長フィルター15aで反射されて光10cに重なる。
【0133】
その後の往路および復路における光の経路は、第1実施形態における経路と概ね同じである。復路において、往路と同じ経路をハーフミラー4bの位置まで逆進した光10Eは、その約半分がハーフミラー4bで反射されて光10E0になり、波長分光器5Aを透過する際に回折され、波長毎に分光された光10E1が生じる。光10E1は、検出集光レンズ13Aによって集光され、集光スポット17A0、17A1および17A2を光検出器12Aの受光面に形成する。集光スポット17A0、17A1および17A2は、光検出器12Aによって検出される。光検出器12Aは、集光スポット17A0、17A1および17A2を分別して検出できるように、短冊状の検出器12A0、12A1および12A2に分割されている。光10Eのうち、ハーフミラー4bを透過する成分10D0は、1/4波長板4aを透過し、透過光10Dになる。透過光10Dの一部は、偏光分光器4を透過し、透過光10Cとして波長分光器5Bを透過する際に回折され、波長毎に分光された光10Bが生じる。光10Bは、検出集光レンズ13Bによって集光され、集光スポット17B0、17B1および17B2を光検出器12Bの受光面に生じさせる。集光スポット17B0、17B1および17B2は、光検出器12Bによって検出される。光検出器12Bは、集光スポット17B0、17B1および17B2を分別して検出できるように、短冊状の光検出器12B0、12B1および12B2に分割されている。
【0134】
集光スポット17A0および17B0は、波長λ0の光に対応する。集光スポット17A1および17B1は、波長λ0-Δλの光に対応する。集光スポット17A2および17B2は、波長λ0+Δλの光に対応する。光検出器12Aは、検出回路33Aに接続されている。光検出器12Bは、検出回路33Bに接続されている。光検出器12Aおよび12Bから出力された検出信号は、それぞれ、検出回路33Aおよび検出回路33Bによって処理される。主制御回路34は、検出回路33Aおよび33Bから出力された検出信号に基づき、光源1、1aおよび1bを制御するための光源制御信号、および液晶の配向を制御するための液晶制御信号を生成する。主制御回路34は、光源制御信号を光源制御回路30、30aおよび30bに出力し、液晶制御信号を液晶制御回路32に出力する。なお、光源制御回路30、30Aおよび30B、液晶制御回路32、および主制御回路34の一部または全体をまとめて1つの制御回路としてもよい。
【0135】
図13Bは、円錐レンズ16の断面を模式的に示す図である。円錐レンズ16は、軸16Lを中心軸とする2つの円錐面を裏返して重ねた形状を有する。入射側の頂角α
1は透過側の頂角α
2よりも大きい。円錐レンズ16に代えて、
図13Cの下段に示す円錐フレネルレンズ16aを用いてもよい。
図13Cは、円錐フレネルレンズ16aの断面形状を模式的に示す図である。円錐フレネルレンズ16aは、円錐レンズ16の上下の屈折面を、中心軸16Lに直交する間隔λ
0/(n
3-1)の複数の切断面でスライスし、中心軸16Lに沿って単一面上に押し畳んだ形状を有する。ここで、λ
0は透過光の中心波長、n
3はレンズを構成する材料の屈折率である。円錐フレネルレンズ16aを用いた場合でも、円錐レンズ16を用いた場合と同様の効果が得られる。
【0136】
図13Dは、円錐レンズ16を透過するか否かによってグレーティングカプラであるグレーティング8aに入射する光の行路にどのような差が生じるかを示す断面図である。波長λ
0の光10bは、グレーティング8aにややデフォーカスして垂直に入射する。グレーティング8aは、波長λ
0の光10bについて数1を満たすように設計されている。したがって、光10bは、ほぼ最適な条件でグレーティング8aの全方位に中心から外周側に向かう導波光10gを励起する。波長λ
0-Δλの光14cおよび波長λ
0+Δλの光14Cは、いずれも円錐レンズ16を透過後、それぞれ、リング状の強度分布をもつ円錐波面の光14dおよび14Dになる。円錐レンズ16の頂角α
1が頂角α
2よりも大きいので、円錐波面は、リング状の強度分布が軸16Lに収束するように形成される。光14dおよび14Dの各々の、グレーティング8aへの最適な入射角は、数2におけるΛ
1をΛ
0に置き換え、n
0を1に置き換えた関係式から計算できる。一例として、λ
0=940nm、Δλ=20nmとすると、光14dの最適な入射角は-4度程度であり、光14Dの最適な入射角は4度程度である。円錐状の波面をもつ光14dおよび14Dの各々の2つの波面は、円錐レンズ16の中心軸16Lを間に挟んで4度ずつ傾斜している。この傾斜は集光レンズ3を透過したあとも維持される。それらの光がグレーティング8aにややデフォーカスして入射する。このとき、光14dについては、2つの波面が中心軸Lを境に交差して導波する形で2方向とも最適入射角の条件を満たす。光14Dについては、2つの波面が中心軸Lを境に折り返る形で導波することで2方向とも最適入射角の条件を満たす。従って、グレーティング8aへの結合条件を、3つの波長λ
0、λ
0-Δλおよびλ
0+Δλの各々のレーザー光について同時に満たすことができる。
【0137】
図13Eは、本実施形態における検出集光レンズ13Aおよび13Bによる集光の様子を示す断面図である。波長分光器5Aを透過・回折する光10E
1、または波長分光器5Bを透過・回折する光10Bのうち、波長λ
0の光は、グレーティング8aから垂直に放射されるので検出集光レンズ13Aまたは13Bの中心領域を通過する光19aになる。一方、波長λ
0-Δλおよびλ
0+Δλの光の各々は、グレーティング8aの中心軸Lから4度程度の角度をなして放射されるので、検出集光レンズ13Aまたは13Bの外縁領域を通過する光19bになる。光19aおよび19bは、検出集光レンズ13aまたは13bの別々の領域を通過するので、それぞれの光が無収差で集光できるように検出集光レンズが設計され得る。
【0138】
図14は、
図11Bに示す分割領域B1、B2、B3、B4およびB5における、シングルモード発振のレーザー光の水平方向および垂直方向の走査の例を模式的に示す図である。この例では、角度0から10度が波長λ
0-Δλの光が走査する範囲、角度10から20度が波長λ
0の光が走査する範囲、角度20から30度がλ
0+Δλの光が走査する範囲である。本実施形態によれば、
図12Aの例と比較して、垂直方向の走査範囲および走査線数が3倍に増加している。
【0139】
このように、本実施形態の構成によれば、広がり角の狭いレーザー光を外部の物体に向かって出射することができる。その際、例えば、水平方向360度の視野内において、垂直方向の走査範囲および垂直走査線数を3倍にして走査することができる。
【0140】
本実施形態では、3つの光源1、1aおよび1bが用いられるが、これらのうちの2つの光源のみを用いてもよい。その場合でも、
図12Aの例と比較して、垂直方向の走査範囲および走査線数を2倍に増加させることができる。さらに、互いに異なる波長の光ビームを出射する4つ以上の光源を用いてもよい。
【0141】
上記のいずれかの実施形態で用いた方法を、他の実施形態に応用することができる。例えば、第2実施形態において光源1、1aおよび1bにマルチモード発振のレーザー光源を用いてもよい。その場合、波長分光器5Aおよび5Bは、
図10Cおよび
図10Dに示す反射型の分光器に変更され、検出器12A0、12A1および12A2、ならびに検出器12B0、12B1および12B2のそれぞれは、
図10Aに示すように短冊状に細かく分割された検出器が用いられ得る。そのような変形を行うことにより、マルチモード発振による各モードの発振光を個別に検出できるため、第2実施形態の効果に第1実施形態の効果が掛け合わされる。すなわち、垂直方向の走査範囲と垂直走査線数を3倍にした上に、垂直走査線の密度を7倍に高めることができる。
【0142】
以上のように、前述の実施形態によれば、広がり角の狭い平行なレーザー光を外部の物体に向かって出射することができる。その際、例えば水平方向360度および垂直方向30度の視野内において出射ビームを1秒あたり30フレーム以上の描画速度で走査することができる。さらに、物体からの反射光のうち、迷光を除去して波長および位相が揃った光のみを選択的に検出することができる。検出した光の情報を視野内における物体の正確な2次元距離情報に変換することもできる。2次元距離情報から、3次元的位置関係を得てもよい。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本開示の技術は、例えば、光ビームで空間を走査し、物体からの反射光を選択的に検出することにより、物体の3次元的位置情報を取得する用途に使用され得る。
【符号の説明】
【0144】
1、1a、1b 光源
2、2a、2b コリメートレンズ
3 集光レンズ
4 偏光分光器
5a、5b 波長分光器
6 円錐台プリズム
7 光導波素子
7a 平面基板
7b 反射電極層
7c バッファー層
7d 導波層
7e 液晶層
7f 透明電極層
7g 平面基板
7h 中空基板
8a、8b、8c グレーティング
9A、9B、9C 領域
12a、12b、12A、12B 光検出器
13a、13b、13A、13B 検出集光レンズ
30 光源制御回路
32 液晶制御回路
34 主制御回路
33a、33b、33A、33B 検出回路