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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】金属張積層板及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20240104BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
B32B15/08 J
H05K1/03 610Q
H05K1/03 630D
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021526930
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(86)【国際出願番号】 JP2020024182
(87)【国際公開番号】W WO2020262245
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2019119108
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 大
(72)【発明者】
【氏名】西口 泰礼
(72)【発明者】
【氏名】松村 一輝
(72)【発明者】
【氏名】石川 陽介
(72)【発明者】
【氏名】田宮 裕記
(72)【発明者】
【氏名】岸野 光寿
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-001965(JP,A)
【文献】特開2013-000995(JP,A)
【文献】特開2015-159177(JP,A)
【文献】国際公開第2015/133513(WO,A1)
【文献】特開2017-073531(JP,A)
【文献】特開2014-150133(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/03
B32B 15/08
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層と、前記絶縁層に重なる金属層とを備え、
前記絶縁層は、第一層と、前記第一層と前記金属層との間に介在する第二層とを備え、
前記第一層は、第一樹脂組成物の硬化物を含み、
前記第二層は、第二樹脂組成物の硬化物を含み、
前記第一樹脂組成物は、フッ素樹脂を含むコアと前記コアの少なくとも一部を被覆するケイ素酸化物を含むシェルとを有する複合粒子を含有し、
前記第二樹脂組成物は、フッ素樹脂を含むコアと前記コアの少なくとも一部を被覆するケイ素酸化物を含むシェルとを有する複合粒子を含有し、又は前記複合粒子を含有せず、
前記第二樹脂組成物が前記複合粒子を含有する場合は、前記第二樹脂組成物中の固形分に対する前記第二樹脂組成物中の前記複合粒子の割合は、前記第一樹脂組成物の固形分に対する前記第一樹脂組成物中の前記複合粒子の割合よりも低い、
金属張積層板。
【請求項2】
前記第一樹脂組成物と前記第二樹脂組成物との各々は、不飽和二重結合を有する基を末端に有する変性ポリフェニレンエーテル化合物(A)と、炭素-炭素二重結合を有する架橋剤(B)とを含有する、
請求項1に記載の金属張積層板。
【請求項3】
前記第二層の厚みは、1μm以上25μm以下であり、
前記絶縁層の厚みは5μm以上250μm以下である、
請求項1又は2に記載の金属張積層板。
【請求項4】
前記フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレンを含む、
請求項1から3のいずれか一項に記載の金属張積層板。
【請求項5】
前記シェルは、水酸基、フェニルアミノ基及びビニル基よりなる群から選択される少なくとも一種の官能基を有する、
請求項4に記載の金属張積層板。
【請求項6】
前記第一層中の前記複合粒子のメジアン径は、0.2μm以上15μm以下である、
請求項1から5のいずれか一項に記載の金属張積層板。
【請求項7】
前記第一層が、ガラス繊維基材を更に含む、
請求項1から6のいずれか一項に記載の金属張積層板。
【請求項8】
前記第二層が、ガラス繊維基材を含まない、
請求項1から7のいずれか一項に記載の金属張積層板。
【請求項9】
前記絶縁層に対する前記金属層のピール強度は5N/cm以上であり、
前記絶縁層の比誘電率は3.15以下である、
請求項1から8のいずれか一項に記載の金属張積層板。
【請求項10】
前記絶縁層の線膨張係数は14.0ppm/℃以下である、
請求項1から9のいずれか一項に記載の金属張積層板。
【請求項11】
絶縁層と、前記絶縁層に重なる導体配線とを備え、
前記絶縁層は、第一層と、前記第一層と前記導体配線との間に介在する第二層とを備え、
記第一層は、第一樹脂組成物の硬化物を含み、
前記第二層は、第二樹脂組成物の硬化物を含み、
前記第一樹脂組成物は、フッ素樹脂を含むコアと前記コアの少なくとも一部を被覆するケイ素酸化物を含むシェルとを有する複合粒子を含有し、
前記第二樹脂組成物は、フッ素樹脂を含むコアと前記コアの少なくとも一部を被覆するケイ素酸化物を含むシェルとを有する複合粒子を含有し、又は前記複合粒子を含有せず、
前記第二樹脂組成物が前記複合粒子を含有する場合は、前記第二樹脂組成物の固形分に対する前記第二樹脂組成物中の前記複合粒子の割合は、前記第一樹脂組成物の固形分に対する前記第一樹脂組成物中の前記複合粒子の割合よりも低い、
プリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属張積層板及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、金属張積層板における絶縁層を、炭素-炭素二重結合を有する置換基を末端に有する変性ポリフェニレンエーテル、炭素-炭素二重結合を有する架橋剤及びフッ素樹脂を含む粒子を含有する樹脂組成物から作製することで、絶縁層の低比誘電率化を達成できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-1965号公報
【発明の概要】
【0004】
発明者の知見によると、特許文献1に開示されている技術では、フッ素樹脂を含む粒子によって絶縁層が低比誘電率化されやすいものの、金属張積層板における絶縁層に対する、これに重なる金属層のピール強度が低くなりやすい。
【0005】
本開示の課題は、絶縁層を低比誘電率化しやすく、かつ絶縁層に対する金属層のピール強度が低下しにくい金属張積層板及びプリント配線板を提供することである。
【0006】
本実施形態に係る金属張積層板は、絶縁層と、前記絶縁層に重なる金属層とを備える。前記絶縁層は、第一層と、前記第一層と前記金属層との間に介在する第二層とを備える。前記第一層は、第一樹脂組成物の硬化物を含む。前記第二層は、第二樹脂組成物の硬化物を含む。前記第一樹脂組成物は、フッ素樹脂を含むコアと前記コアの少なくとも一部を被覆するケイ素酸化物を含むシェルとを有する複合粒子を含有する。前記第二樹脂組成物は、フッ素樹脂を含むコアと前記コアの少なくとも一部を被覆するケイ素酸化物を含むシェルとを有する複合粒子を含有し、又は前記複合粒子を含有しない。前記第二樹脂組成物が前記複合粒子を含有する場合は、前記第二樹脂組成物の固形分に対する前記第二樹脂組成物中の前記複合粒子の割合は、前記第一樹脂組成物の固形分に対する前記第一樹脂組成物中の前記複合粒子の割合よりも低い。
【0007】
本実施形態に係るプリント配線板は、絶縁層と、前記絶縁層に重なる導体配線とを備える。前記絶縁層は、第一層と、前記第一層と前記導体配線との間に介在する第二層とを備える。前記第一層は、第一樹脂組成物の硬化物を含む。前記第二層は、第二樹脂組成物の硬化物を含む。前記第一樹脂組成物は、フッ素樹脂を含むコアと前記コアの少なくとも一部を被覆するケイ素酸化物を含むシェルとを有する複合粒子を含有する。前記第二樹脂組成物は、フッ素樹脂を含むコアと前記コアの少なくとも一部を被覆するケイ素酸化物を含むシェルとを有する複合粒子を含有し、又は前記複合粒子を含有しない。前記第二樹脂組成物が前記複合粒子を含有する場合は、前記第二樹脂組成物の固形分に対する前記第二樹脂組成物中の前記複合粒子の割合は、前記第一樹脂組成物の固形分に対する前記第一樹脂組成物中の前記複合粒子の割合よりも低い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施形態に係る金属張積層板の模式的な断面図である。
図2】本開示の一実施形態に係るプリント配線板の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
特開2019-1965号公報には、金属張積層板における絶縁層を、炭素-炭素二重結合を有する置換基を末端に有する変性ポリフェニレンエーテル、炭素-炭素二重結合を有する架橋剤及びフッ素樹脂を含む粒子を含有する樹脂組成物から作製することで、絶縁層の低比誘電率化を達成できることが開示されている。
【0010】
発明者が金属張積層板について研究開発を進めた結果得られた知見によると、特開2019-1965号公報に開示されている技術では、フッ素樹脂を含む粒子によって絶縁層が低比誘電率化されやすいものの、金属張積層板における絶縁層に対する、これに重なる金属層のピール強度が低くなりやすい。
【0011】
本開示の課題は、絶縁層を低比誘電率化しやすく、かつ絶縁層に対する金属層のピール強度が低下しにくい金属張積層板及びプリント配線板を提供することである。
【0012】
以下、本開示の実施形態について説明する。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係る金属張積層板1は、絶縁層2と、絶縁層2に重なる金属層3とを備える。絶縁層2は、第一層21と、第一層21と金属層3との間に介在する第二層22とを、備える。第一層21は、第一樹脂組成物の硬化物を含む。第二層22は、第二樹脂組成物の硬化物を含む。第一樹脂組成物は、フッ素樹脂を含むコアとコアの少なくとも一部を被覆するケイ素酸化物を含むシェルとを有する複合粒子を含有する。第二樹脂組成物は、フッ素樹脂を含むコアとコアの少なくとも一部を被覆するケイ素酸化物を含むシェルとを有する複合粒子を含有し、又はこの複合粒子を含有しない。第二樹脂組成物が複合粒子を含有する場合は、第二樹脂組成物の固形分に対する第二樹脂組成物中の複合粒子の割合は、第一樹脂組成物の固形分に対する第一樹脂組成物中の複合粒子の割合よりも低い。
【0014】
このため、金属張積層板1における絶縁層2を低比誘電率化しやすく、かつ絶縁層2に対する金属層3のピール強度が低下しにくい。
【0015】
この本実施形態の作用について、より詳しく説明する。本実施形態によると、第一層21に含まれる複合粒子、又は第一層21と第二層22とにそれぞれ含まれる複合粒子によって絶縁層2の低誘電率化が実現されやすい。また、金属層3に接する第二層22には、複合粒子と母相との界面が無く、又はこの界面が、第一層21における複合粒子と母相との界面よりも少ない。そのため、金属層3に力が加わることで第二層22内に応力が生じても、第二層22内に劈開が生じにくい。さらに、第一層21内の複合粒子は上記のようにケイ素酸化物を含むシェルを備えることで、第一層21内では複合粒子とその周囲の母相とは高い密着性を有しやすい。なお、第一層21の母相とは、第一樹脂組成物の硬化物のうち複合粒子を除く部分のことであり、第二層22の母相とは、第二樹脂組成物の硬化物のうち複合粒子を除く部分のことである。そのため、金属層3に力が加わることで第一層21内に応力が生じても、第一層21内では、複合粒子と母相との間の界面に劈開が生じにくい。
【0016】
このため、金属層3に力が加わっても、絶縁層2には金属層3との界面付近に複合粒子に起因する劈開が生じにくく、これにより、絶縁層2に対する金属層3のピール強度が複合粒子によって低下されにくい。
【0017】
本実施形態では、絶縁層2に対する金属層3のピール強度は5N/cm以上であることが好ましい。また、絶縁層2の比誘電率は3.15以下であることが好ましい。本実施形態によれば、複合粒子によって絶縁層2の比誘電率を低くし、かつ複合粒子によるピール強度の低下を生じにくくすることで、このような高いピール強度と低い比誘電率との両立を実現できる。なお、ピール強度及び比誘電率の測定方法は、後掲の実施例の欄において詳しく説明する。ピール強度は5.0N/cm以上であればより好ましく、6.0以上であれば更に好ましい。また、比誘電率は3.10以下であればより好ましく、3.05以下であれば更に好ましい。
【0018】
本実施形態では、絶縁層2の線膨張係数は、14.0ppm/℃以下であることが好ましい。この場合、金属張積層板1に反りが生じにくくなり、金属張積層板1の寸法安定性が良好になる。このような線膨張係数は、例えば絶縁層2中の無機充填材の量を調整することで実現できる。絶縁層2の線膨張係数は、13.0ppm/℃以下であればより好ましく、12.0ppm/℃以下であれば更に好ましい。
【0019】
以下、本実施形態について更に詳細に説明する。
【0020】
第一樹脂組成物及び第二樹脂組成物の成分について説明する。
【0021】
第一樹脂組成物(以下、組成物(X)ともいう)は、例えば複合粒子と樹脂成分とを含有する。樹脂成分は反応硬化性を有することが好ましく、特に熱硬化性を有することが好ましい。樹脂成分は高分子には限られず、樹脂成分はモノマー、オリゴマー及びプレポリマーのうちいずれを含有してもよい。
【0022】
樹脂成分は、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂、及び変性ポリフェニレン樹脂などよりなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。また、樹脂成分は、硬化剤、架橋剤などを含有してもよい。
【0023】
本実施形態では、樹脂成分は、不飽和二重結合を有する基を末端に有する変性ポリフェニレンエーテル化合物(A)と、炭素-炭素二重結合を有する架橋剤(B)とを含有することが好ましい。この場合、絶縁層2の耐熱性を向上させやすく、かつ絶縁層2の低誘電率化及び低誘電正接化が更に実現されやすい。
【0024】
変性ポリフェニレンエーテル化合物(A)(以下、化合物(A)ともいう)について説明する。化合物(A)は、組成物(X)の硬化物の低誘電率化及び低誘電正接化を実現しやすい。化合物(A)は、不飽和二重結合(炭素-炭素不飽和二重結合)を有する基により末端変性されたポリフェニレンエーテルである。すなわち、化合物(A)は、例えばポリフェニレンエーテル鎖と、ポリフェニレンエーテル鎖の末端に結合している不飽和二重結合を有する基とを、有する。
【0025】
不飽和二重結合を有する基としては、例えば、下記式(1)で表される置換基等が挙げられる。
【0026】
【化1】
【0027】
式(1)中、nは、0~10の数である。Zはアリーレン基である。R1~R3は、各々独立に、水素原子又はアルキル基である。式(1)において、nが0である場合は、Zがポリフェニレンエーテル鎖の末端に直接結合している。
【0028】
アリーレン基は、例えばフェニレン基等の単環芳香族基、又はナフチレン基等の多環芳香族基等である。アリーレン基における芳香族環に結合する少なくとも一つの水素原子が、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基等の官能基で置換されていてもよい。アリーレン基は、前記のみには限られない。
【0029】
アルキル基は、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、又はデシル基等である。アルキル基は、前記のみには限られない。
【0030】
不飽和二重結合を有する基は、例えばp-エテニルベンジル基、m-エテニルベンジル基等のビニルベンジル基(エテニルベンジル基)、ビニルフェニル基、アクリレート基、又はメタクリレート基等を有する。不飽和二重結合を有する基は、特にビニルベンジル基、ビニルフェニル基、又はメタクリレート基を有することが好ましい。不飽和二重結合を有する基がアリル基を有すれば、化合物(A)の反応性が低い傾向がある。また、不飽和二重結合を有する基がアクリレート基を有すれば、化合物(A)の反応性が高すぎる傾向がある。
【0031】
不飽和二重結合を有する基の好ましい具体例としては、ビニルベンジル基を含む官能基が挙げられる。具体的には、不飽和二重結合を有する基は、例えば下記式(2)に示す置換基である。
【0032】
【化2】
【0033】
式(2)中、R1は、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、R2は単結合又は炭素数1~10のアルキレン基である。R2は炭素数1~10のアルキレン基であることが好ましい。
【0034】
不飽和二重結合を有する基は、(メタ)アクリレート基でもよい。(メタ)アクリレート基は、例えば、下記式(3)で示される。
【0035】
【化3】
【0036】
式(3)中、R4は、水素原子又はアルキル基である。アルキル基は、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、アルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、又はデシル基等である。アルキル基は前記のみには制限されない。
【0037】
化合物(A)は、上記のとおり、ポリフェニレンエーテル鎖を分子中に有している。ポリフェニレンエーテル鎖は、例えば、下記式(4)で表される繰り返し単位を有する。
【0038】
【化4】
【0039】
式(4)において、nは、1~50の数である。R5~R8は、各々独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基である。R5~R8の各々は、水素原子又はアルキル基であることが好ましい。アルキル基は、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、又はデシル基等である。アルケニル基は、例えば、炭素数2~18のアルケニル基が好ましく、炭素数2~10のアルケニル基がより好ましい。具体的には、アルケニル基は、例えば、ビニル基、アリル基、又は3-ブテニル基等である。アルキニル基は、例えば、炭素数2~18のアルキニル基が好ましく、炭素数2~10のアルキニル基がより好ましい。具体的には、アルキニル基は、例えば、エチニル基、又はプロパ-2-イン-1-イル基(プロパルギル基)等である。アルキルカルボニル基は、アルキル基で置換されたカルボニル基であればよく、例えば、炭素数2~18のアルキルカルボニル基が好ましく、炭素数2~10のアルキルカルボニル基がより好ましい。具体的には、アルキルカルボニル基は、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、又はシクロヘキシルカルボニル基等である。アルケニルカルボニル基は、アルケニル基で置換されたカルボニル基であればよく、例えば、炭素数3~18のアルケニルカルボニル基が好ましく、炭素数3~10のアルケニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、アルケニルカルボニル基は、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、又はクロトノイル基等である。アルキニルカルボニル基は、アルキニル基で置換されたカルボニル基であればよく、例えば、炭素数3~18のアルキニルカルボニル基が好ましく、炭素数3~10のアルキニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、アルキニルカルボニル基は、例えば、プロピオロイル基等である。アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基及びアルキニルカルボニル基は、前記のみには制限されない。
【0040】
化合物(A)の数平均分子量は、1000以上5000以下であることが好ましく、1000以上4000以下であることがより好ましく、1000以上3000以下であることがさらに好ましい。数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で得られた測定結果をポリスチレン換算した値である。化合物(A)が、式()で表される繰り返し単位を分子中に有している場合、式(4)中のnは、化合物(A)の数平均分子量が上記の好ましい範囲内になるような数値であることが好ましい。具体的には、nは、1以上50以下であることが好ましい。化合物(A)の数量平均分子量がこのような範囲内であると、化合物(A)は、ポリフェニレンエーテル鎖によって組成物(X)の硬化物に優れた誘電特性を付与し、更に硬化物の耐熱性及び成形性を向上させることができる。その理由として、以下のことが考えられる。変性されていないポリフェニレンエーテルは、その数平均分子量が1000以上5000以下程度であると、比較的低分子量であるので、硬化物の耐熱性を低下させる傾向がある。これに対し、化合物(A)は、末端に不飽和二重結合を有するので、硬化物の耐熱性を高められると考えられる。また化合物(A)の数平均分子量が5000以下であると、組成物(X)の成形性が阻害されにくいと考えられる。よって、化合物(A)は、硬化物の耐熱性を向上できるだけではなく、組成物(X)の成形性を向上できると考えられる。なお、化合物(A)の数平均分子量が1000以下であると、硬化物のガラス転移温度が低下しにくく、このため硬化物が良好な耐熱性を有しやすい。さらに、化合物(A)におけるポリフェニレンエーテル鎖が短くなりにくいため、ポリフェニレンエーテル鎖による硬化物の優れた誘電特性が維持されやすい。また、数平均分子量が5000以下であると、化合物(A)は溶剤に溶解しやすく、組成物(X)の保存安定性が低下しにくい。また、化合物(A)は組成物(X)の粘度を上昇させにくく、そのため組成物(X)の良好な成形性が得られやすい。
【0041】
化合物(A)は分子量13000以上の高分子量成分を含有せず、又は化合物(A)中の分子量13000以上の高分子量成分の含有量が5質量%以下であることが好ましい。すなわち、化合物(A)中の分子量13000以上の高分子量成分の含有量は0質量%以上5質量%以下であることが好ましい。この場合、硬化物は特に優れた誘電特性を有することができ、かつ組成物(X)は特に優れた反応性及び保存安定性を有することができ、更に特に流動性に優れる。高分子量成分の含有量が3質量%以下であればより好ましい。なお、高分子量成分の含有量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、分子量分布を測定し、測定された分子量分布に基づいて算出することができる。
【0042】
化合物(A)の1分子当たりの、不飽和二重結合を有する基の平均個数(末端官能基数)は、1個以上であることが好ましく、1.5個以上であることがより好ましく、1.7個以上であれば更に好ましく、1.8個以上であれば特に好ましい。これらの場合、組成物(X)の硬化物の耐熱性を確保しやすい。また不飽和二重結合を有する基の平均個数は5個以下であることが好ましく3個以下であればより好ましく、2.7個以下であれば更に好ましく、2.5個以下であれば特に好ましい。これらの場合、化合物(A)の反応性及び粘度が過度に高くなることを抑制でき、このため、組成物(X)の保存性が低下したり、組成物(X)の流動性が低下したりする不具合を起こりにくくできる。また組成物(X)の硬化後に、未反応の不飽和二重結合を残りにくくできる。なお、化合物(A)の末端官能基数は、化合物(A)1モル中の、1分子あたりの、置換基の平均値である。この末端官能基数は、例えば、ポリフェニレンエーテルを変性して化合物(A)を合成した場合、化合物(A)中の水酸基数を測定して、化合物(A)中の水酸基数の、変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基数からの減少分を算出することによって、得られる。この変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基数からの減少分が、末端官能基数である。化合物(A)に残存する水酸基数は、化合物(A)の溶液に、水酸基と会合する4級アンモニウム塩(テトラエチルアンモニウムヒドロキシド)を添加して得られる混合溶液のUV吸光度を測定することによって、求めることができる。
【0043】
化合物(A)の固有粘度は、0.03dl/g以上0.12dl/g以下であることが好ましく、0.04dl/g以上0.11dl/g以下であることがより好ましく、0.06dl/g以上0.095dl/g以下であることが更に好ましい。この場合、組成物(X)の硬化物の誘電率及び誘電正接を、より低下させやすい。また組成物(X)に充分な流動性を付与することで、組成物(X)の成形性を向上させることができる。
【0044】
なお、固有粘度は、25℃の塩化メチレン中で測定した固有粘度であり、より具体的には、例えば、化合物(A)を塩化メチレンに0.18g/45mlの濃度で溶解させて調製される溶液の、25℃における粘度である。この粘度は、例えばSchott社製のAVS500 Visco System等の粘度計で測定される。
【0045】
化合物(A)の合成方法に、特に制限はない。例えばポリフェニレンエーテルに、不飽和二重結合を有する基とハロゲン原子とが結合された化合物を反応させることで、化合物(A)を合成できる。より具体的には、ポリフェニレンエーテルと、不飽和二重結合を有する基とハロゲン原子とが結合された化合物とを溶媒に溶解させ、攪拌する。これにより、ポリフェニレンエーテルと、不飽和二重結合を有する基とハロゲン原子とが結合された化合物とが反応し、化合物(A)が得られる。
【0046】
炭素-炭素二重結合を有する架橋剤(B)(以下、架橋剤(B)ともいう)は、化合物(A)と反応することで架橋構造を形成する。
【0047】
架橋剤(B)は、例えばジビニルベンゼン、ポリブタジエン、アルキル(メタ)アクリレート、トリシクロデカノール(メタ)アクリレート、フルオレン(メタ)アクリレート、イソシアヌレート(メタ)アクリレート、及びトリメチロールプロパン(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。
【0048】
このなかでも、低誘電率化の観点から、架橋剤(B)はポリブタジエンを含有することが好ましい。架橋剤(B)の百分比は、化合物(A)と架橋剤(B)との合計量に対して5質量%以上70質量%以下であることが好ましく、10質量%以上60質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上50質量%以下であることが更に好ましい。これらの場合、硬化物が化合物(A)による優れた誘電特性を維持したまま、組成物(X)の成形性が特に向上でき、かつ硬化物の耐熱性も特に向上できる。
【0049】
樹脂成分が化合物(A)と架橋剤(B)とを含有する場合、組成物(X)は、反応開始剤(H)を更に含有してもよい。反応開始剤(H)は、化合物(A)と架橋剤(B)との硬化反応を促進できる適宜の化合物を含有できる。具体的には、反応開始剤(H)は、例えばα,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン、過酸化ベンゾイル、3,3’,5,5’-テトラメチル-1,4-ジフェノキノン、クロラニル、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノキシル、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、及びアゾビスイソブチロニトリル等の酸化剤からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有できる。反応開始剤(H)は、必要により、酸化剤に加えて、カルボン酸金属塩等を含有してもよい。この場合、硬化反応を一層促進させることができる。なお、反応開始剤(H)が含有しうる成分は、前記には限られない。
【0050】
反応開始剤(H)は、特にα,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンを含有することが好ましい。この場合、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンの反応開始温度は比較的に高いため、組成物(X)を乾燥し又は半硬化させるために加熱する場合に硬化反応が過度に進行しにくくできる。さらに、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンは、揮発性が低いため、組成物(X)の保存時及び加熱時に揮発しにくく、そのため、組成物(X)の安定性を損ないにくい。
【0051】
上述のとおり、組成物(X)は、複合粒子を含有する。複合粒子は、上述のとおり、フッ素樹脂を含むコアと、コアの少なくとも一部を被覆するケイ素酸化物を含むシェルとを有する。コアは、フッ素樹脂のみをからなることが好ましいが、本実施形態の作用効果を損なわない範囲内でフッ素樹脂以外の成分を更に含有してもよい。シェルはケイ素化合物のみからなることが好ましいが、本実施形態の作用効果を損なわない範囲内でケイ素化合物以外の成分を更に含有してもよい。複合粒子によって、絶縁層2が低比誘電率化されやすくなる。また、複合粒子がケイ素酸化物を含むシェルを有することで、第一層21の母相と複合粒子との間の親和性が高くなりやすく、そのため第一層21内に応力が生じても複合粒子と母相との間の界面に劈開が生じにくい。
【0052】
コアを構成するフッ素樹脂は、例えばポリテトラフルオロエチレンを含む。この場合、絶縁層2の低比誘電率化が特に実現されやすくなる。
【0053】
シェルは、例えばコアよりも小さい粒径を有するケイ素酸化物粒子から作製される。この場合、例えばコアのみからなる粒子(フッ素樹脂粒子)の表面にケイ素酸化物粒子を配置した状態で電子線を照射することで、フッ素樹脂粒子にケイ素酸化物粒子を付着させて、シェルを作製できる。これによりコアとシェルとを有する複合粒子が得られる。なお、シェルを作製する方法は前記のみには限られない。ケイ素酸化物粒子をフッ素樹脂粒子に付着またはフッ素樹脂粒子上にケイ素酸化物粒子を析出させることで、複合粒子が得られる。そのためには、例えば溶融したフッ素樹脂粒子にケイ素酸化物粒子を吹き付けてフッ素樹脂粒子と複合させることで複合粒子を得る方法や、フッ素樹脂粒子を液中に分散させてから析出させる際に、フッ素樹脂粒子表面にケイ素酸化物を析出させることで複合粒子を得る方法等が挙げられる。また、シェルは、ケイ素酸化物の粒子がコアの周辺に密な状態で付着・担持された状態であってもよいし、ケイ素酸化物がコアの周辺に連続につながる層を形成していてもよい。
【0054】
シェルは、水酸基、フェニルアミノ基及びビニル基よりなる群から選択される少なくとも一種の官能基を有することが好ましい。この場合、複合粒子と母相との密着性が高まりやすく、そのため複合粒子と母相との界面に劈開が更に生じにくい。
【0055】
シェルが水酸基を有する場合は、シェルは例えば未処理のケイ素酸化物粒子から作製される。この場合、シェルは、ケイ素酸化物粒子の表面に元々存在する水酸基に由来する水酸基を有することができる。
【0056】
シェルがフェニルアミノ基を有する場合は、シェルは例えばフェニルアミノ処理されている。すなわち、例えばシェルは、フェニルアミノ基(C65-NH-)を有する化合物で処理されたケイ素酸化物を含む。フェニルアミノ基を有する化合物として、例えばN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM-573:信越化学工業製)を用いることができる。例えば上記のようにフッ素樹脂粒子とケイ素酸化物粒子とから複合粒子を得るに当たり、ケイ素酸化物粒子にフェニルアミノ処理を施してから、フッ素樹脂粒子の表面にケイ素酸化物粒子を付着させることで、フェニルアミノ基を有するシェルを備える複合粒子を得ることができる。
【0057】
シェルがビニル基を有する場合は、例えばシェルは、ビニル基を有する化合物で処理されたケイ素酸化物を含む。ビニル基を有する化合物として、例えばビニルトリメトキシシラン(信越化学製:KBM-1003)を用いることができる。例えば上記のようにフッ素樹脂粒子とケイ素酸化物粒子とから複合粒子を得るに当たり、ケイ素酸化物粒子をビニル基を有する化合物で処理してから、フッ素樹脂粒子の表面にケイ素酸化物粒子を付着させることで、ビニル基を有するシェルを備える複合粒子を得ることができる。
【0058】
複合粒子のメジアン径は、0.2μm以上15μm以下であることが好ましい。メジアン径が0.2μm以上であると、組成物(X)中の複合粒子の分散性が良好であり、それにより組成物(X)は良好な保存安定性及び取扱性を有することができる。また、メジアン径が15μm以下であると、複合粒子が第一層21内で良好に分散することができる。そのため、絶縁層2の更なる低比誘電率化が可能である。メジアン径が0.5μm以上5μm以下であればより好ましい。
【0059】
なお、メジアン径は、レーザー回折・散乱法で測定される体積基準の粒度分布から算出される値である。
【0060】
また、複合粒子の粒径は、透過電子顕微鏡(TEM)又は走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて測定することもできる。具体的には、複合粒子をTEMまたはSTEMを用いて撮影し、得られた画像から、複合粒子におけるコアの部分の最長径を測定する。この測定結果の算術平均値をコアの平均粒径とみなせる。少なくとも30個のコアについての測定結果から平均粒径が求められる。さらに、複合粒子におけるケイ素酸化物粒子の最長径を測定する。この測定結果の算術平均値をケイ素酸化物粒子の平均粒径とみなせる。少なくとも30個のケイ素酸化物粒子についての測定結果から平均粒径が求められる。
【0061】
化合物(A)及び化合物(B)の総量100質量部に対する複合粒子の量は10質量部以上250質量部以下であることが好ましい。この量が10質量部以上であると、絶縁層2の低誘電率化が特に実現されやすい。また、この量が250質量部以下であると、絶縁層2に対する金属層3のピール強度が特に低下しにくい。複合粒子の量は20質量部以上200質量部以下であればより好ましく、30質量部以上100質量部以下であれば更に好ましい。
【0062】
組成物(X)は、シェルを有さないフッ素樹脂粒子(すなわち、複合粒子におけるコアのみと同様の粒子)を含有しないことが好ましい。組成物(X)がフッ素樹脂粒子を含有する場合でも、化合物(A)及び化合物(B)の総量100質量部に対するフッ素樹脂粒子の割合は20質量部以下であることが好ましい。この場合、第一層21内で劈開が更に生じにくくなり、そのため絶縁層2に対する金属層3のピール強度が特に低下しにくくなる。
【0063】
組成物(X)は、無機充填材(F)を含有してもよい。無機充填材(F)は、第一層21の耐熱性及び難燃性を高めることができ、また絶縁層2の線膨張係数を低めることができる。
【0064】
無機充填材(F)は、例えばシリカ、アルミナ、タルク、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン、マイカ、ホウ酸アルミニウム、硫酸バリウム及び炭酸カルシウム等からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。無機充填材(F)は、シランカップリング剤で表面処理されていてもよい。シランカップリング剤は、積層板における絶縁層2を組成物(X)から作製した場合の、絶縁層2の吸湿時における耐熱性を高くでき、かつ絶縁層2に対するこれに重なる金属箔のピール強度を高くできる。シランカップリング剤は、例えばビニルシラン、スチリルシラン、メタクリルシラン、及びアクリルシランからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。
【0065】
組成物(X)が無機充填材(F)を含有する場合、組成物(X)の固形分全量に対する無機充填材(F)の百分比は、例えば5質量%以上56質量%以下である。
【0066】
組成物(X)は、溶剤(D)を含有してもよい。溶剤(D)は、樹脂成分を良好に溶解させ又は分散させることができ、かつ樹脂成分の反応を阻害しないことが好ましい。例えば溶剤(D)は、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤及びケトン系溶剤からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有することが好ましく、トルエンを含有すれば特に好ましい。なお、溶剤(D)が含有しうる成分は前記のみに制限されない。組成物(X)が溶剤を含有することで、組成物(X)からプリプレグを作製する際に、組成物(X)を基材に含浸させやすくできる。組成物(X)の中の溶剤の量は、固形分全量に対して100質量%以上500質量%以下であることが好ましい。このような場合、組成物(X)が均一化しやすく、組成物(X)が繊維質基材へ含浸しやすくなる。
【0067】
組成物(X)がシランカップリング剤(G)を含有してもよい。この場合のシランカップリング剤(G)は、無機充填材(F)の表面処理に用いられていない成分である。この場合、シランカップリング剤(G)は、金属張積層板1における絶縁層2を組成物(X)から作製した場合の、絶縁層2の吸湿時における耐熱性を高くでき、かつ絶縁層2に対する金属層3のピール強度を更に高くできる。シランカップリング剤(G)は、例えばビニルシラン、スチリルシラン、メタクリルシラン、及びアクリルシランからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。
【0068】
シランカップリング剤(G)の樹脂成分に対する百分比は、0.3質量%以上5質量%以下であることが好ましい。このようなシランカップリング剤(G)を使用すると、絶縁層2に対する金属層3のピール強度を更に高くできる。
【0069】
組成物(X)は、上記成分以外の添加剤を含有してもよい。添加剤は、例えば、重合禁止剤、難燃剤、シリコーン系消泡剤及びアクリル酸エステル系消泡剤等の消泡剤、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、染料及び顔料、滑剤、並びに湿潤分散剤等の分散剤等からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。なお、添加剤が含みうる成分は前記のみに限られない。
【0070】
組成物(X)は例えば次のように調製される。まず、化合物(A)及び架橋剤(B)等の、有機溶媒に溶解できる成分を、有機溶媒と混合して混合物を調製する。この際、必要に応じて、加熱してもよい。その後、必要に応じて用いられる有機溶媒に溶解しない成分、例えば、無機充填材等を混合物に加えて、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ロールミル等を用いて分散させることにより、ワニス状の組成物(X)が調製される。
【0071】
組成物(X)からプリプレグを作製できる。プリプレグは、基材と、基材に含浸している組成物(X)の乾燥物又は半硬化物とを備える。プリプレグは、例えば基材に組成物(X)を含浸させてから組成物(X)を加熱することで作製される。
【0072】
基材は、例えば繊維質基材である。繊維質基材は、例えば、ガラス繊維基材(ガラスクロス又はガラス不織布)、アラミドクロス、ポリエステルクロス、アラミド不織布、ポリエステル不織布、パルプ紙、及びリンター紙等からなる群から選択される。繊維質基材がガラス繊維基材であると、プリプレグから作製される金属張積層板1の機械強度を向上させやすい。ガラス繊維基材がガラスクロスであると金属張積層板1の機械強度を特に向上させやすい。ガラスクロスは偏平処理加工されていることが好ましい。繊維質基材の厚みは、例えば、0.04mm以上0.3mm以下である。
【0073】
例えば基材を組成物(X)に浸漬し、又は基材に組成物(X)を塗布することで、基材に組成物(X)を含浸させることができる。必要により、基材を組成物(X)に複数回浸漬し、又は基材に組成物(X)を複数回塗布してもよい。
【0074】
続いて、基材に含浸している組成物(X)を加熱することで、組成物(X)を乾燥させ又は半硬化させる。加熱の条件は、例えば加熱温度80℃以上180℃以下、加熱時間1分以上10分以下であるが、これに限られない。これにより、基材と、基材に含浸している組成物(X)の乾燥物又は半硬化物とを備えるプリプレグが得られる。
【0075】
第二樹脂組成物(以下、組成物(Y)ともいう)は、上記のとおり、複合粒子を含有し、又は複合粒子を含有しない。組成物(Y)が複合粒子を含有する場合、組成物(Y)の固形分に対する組成物(Y)中の複合粒子の割合は、組成物(X)の固形分に対する組成物(X)中の複合粒子の割合よりも低い。なお、組成物(X)の固形分とは組成物(X)中の溶剤を除く成分のことであり、組成物(Y)の固形分とは組成物(Y)中の溶剤を除く成分のことである。
【0076】
組成物(Y)の、複合粒子を除く成分の組成は、上記の組成物(X)の場合と同様でよい。なお、同時に使用される組成物(X)及び組成物(Y)の、複合粒子を除く成分の組成は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0077】
組成物(Y)が複合粒子を含まなければ特に好ましい。組成物(Y)が複合粒子を含む場合、組成物(Y)中の固形分に対する複合粒子の割合は、5質量%以下であることが好ましい。また、組成物(Y)中の固形分に対する複合粒子の割合は、組成物(X)中の複合粒子に対して、9質量%以下であることが好ましい。
【0078】
組成物(Y)は、シェルを有さないフッ素樹脂粒子(すなわち、複合粒子におけるコアのみと同様の粒子)を含有しないことが好ましい。組成物(X)がフッ素樹脂粒子を含有する場合でも、組成物(Y)中の固形分に対するフッ素樹脂粒子の割合は5質量%以下であることが好ましい。この場合、第二層22内で劈開が更に生じにくくなり、そのため絶縁層2に対する金属層3のピール強度が特に低下しにくくなる。この割合が4質量%以下であればより好ましい。
【0079】
組成物(Y)から樹脂シートを作製できる。例えば樹脂フィルムなどからなる適宜のキャリアフィルムの上に組成物(Y)を塗布してから、組成物(Y)を加熱することで組成物(Y)を乾燥させ又は半硬化させる。加熱の条件は、例えば加熱温度80℃以上180℃以下、加熱時間1分以上10分以下であるが、これに限られない。これにより、キャリアフィルム上に、組成物(Y)の乾燥物又は半硬化物からなる樹脂シートが作製される。
【0080】
また、銅箔などの金属箔上に組成物(Y)を塗布してから、組成物(Y)を加熱することで組成物(Y)を乾燥させ又は半硬化させてもよい。この場合、金属箔上に、組成物(Y)の乾燥物又は半硬化物からなる樹脂シートが作製される。また、これにより、金属箔と、金属箔に重なる樹脂シートとを備える金属箔付き樹脂シートが作製される。
【0081】
なお、上述の組成物(X)からプリプレグを作製する場合を同様の方法で、組成物(Y)からプリプレグを作製してもよい。
【0082】
金属張積層板1の構成について説明する。金属張積層板1は、上述のとおり、絶縁層2と、絶縁層2に重なる金属層3とを備え、絶縁層2は第一層21と、この第一層21と金属層3との間に介在する第二層22とを備える。すなわち、金属層3、第二層22及び第一層21が、この順に積層している。第一層21は組成物(X)の硬化物を含み、第二層22は組成物(Y)の硬化物を含む。
【0083】
金属張積層板1は、図1に示すような両面金属張積層板であってもよい。この場合、絶縁層2は、例えば第一層21と二つの第二層22とを備え、二つの第二層22の間に第一層21が介在している。さらに、金属張積層板1は二つの金属層3を備え、この二つの金属層3は、二つの第二層22にそれぞれ重なっている。すなわち、金属層3、第二層22、第一層21、第二層22及び金属層3が、この順に積層している。
【0084】
第一層21は、繊維基材を含んでもよい。第一層21は、特にガラス繊維基材を含むことが好ましい。この場合、絶縁層2の強度を高めやすい。ガラス繊維基材は、例えばガラスクロスとガラス不織布とのうち少なくとも一方である。
【0085】
第二層22は、ガラス繊維基材を含まないことが好ましい。この場合、第二層22内にはガラス繊維基材と組成物(Y)の硬化物との界面が存在せず、この界面での劈開が生じることがない。そのため、絶縁層2に対する金属層3のピール強度が更に低下しにくくなる。第二層22は、ガラス繊維基材以外の繊維基材も含まないことが、好ましい。
【0086】
第二層22の厚みは、1μm以上25μm以下であることが好ましい。第二層22の厚みが1μm以上であると、絶縁層2に対する金属層3のピール強度が更に低下しにくくなる。また、第二層22の厚みが25μm以下であると、第一層21による絶縁層2の低誘電率化が特に実現されやすい。この厚みは、3μm以上23μm以下であればより好ましく、5μm以上20μm以下であれば更に好ましい。
【0087】
絶縁層2の厚み15μm以上250以下であることが好ましい。この場合、絶縁層2の厚みのばらつきが生じにくくなる。この厚みは25μm以上230μm以下であればより好ましく、35μm以上220μm以下であれば更に好ましい。
【0088】
第一層21の厚みは、第二層22の厚みよりも厚いことが好ましい。この場合、第一層21による絶縁層2の低誘電率化が特に実現されやすい。第一層21の厚みは10μm以上240μm以下であることが好ましい。第一層21の厚みが10μm以上であると、第一層21による絶縁層2の低誘電率化が特に実現されやすい。また、第一層21の厚みが240μm以下であると、第一層21の厚みのばらつきが生じにくくなる。第一層21の厚みは、20μm以上230μm以下であればより好ましく、30μm以上210μm以下であれば更に好ましい。
【0089】
なお、金属張積層板1が両面金属張積層板である場合、二つの金属層3のうちの一方の金属層3と第一層21との間に第二層22が介在していれば、もう一方の金属層3は第一層21に直接接していてもよい。すなわち、金属層3、第二層22、第一層21及び金属層3が、この順に積層していてもよい。
【0090】
図1に示す金属張積層板1は、例えば次の方法で製造される。
【0091】
銅箔などの金属箔と、組成物(X)及び基材から作製されたプリプレグと、組成物(Y)から作製された樹脂シートとを、用意する。プリプレグ及び樹脂シートについては、すでに説明したとおりである。
【0092】
金属箔、一又は複数枚の樹脂シート、一又は複数枚のプリプレグ、一又は複数枚の樹脂シート、及び金属箔を、この順番に積層することで、積層物を得る。この積層物を加熱プレスする。加熱プレス時の最高加熱温度は、例えば160℃以上230℃以下である。加熱プレス時のプレス圧は、例えば0.5MPa以上6MPa以下である。加熱プレス時の加熱時間は、例えば30分以上240分以下である。これにより、プリプレグが硬化することで第一層21が作製され、かつ樹脂シートが硬化することで第二層22が作製される。さらに金属箔が第二層22に接着することで、金属箔からなる金属層3が作製される。これにより、図1に示す金属張積層板1が製造される。
【0093】
金属張積層板1は、次の方法で製造されてもよい。
【0094】
組成物(X)及び基材から作製されたプリプレグと、組成物(Y)及び金属箔から作製された金属箔付き樹脂シートとを準備する。プリプレグ及び金属箔付き樹脂シートについては、すでに説明したとおりである。
【0095】
二つの金属箔付き樹脂シートを、樹脂シート同士が対向するように配置し、かつ金属箔付き樹脂シートの間に一又は複数枚のプリプレグを配置した状態で、これらを積層し、積層物を得る。この積層物を加熱プレスする。加熱プレス時の最高加熱温度は、例えば160℃以上230℃以下である。加熱プレス時のプレス圧は、例えば0.5MPa以上6MPa以下である。加熱プレス時の加熱時間は、例えば30分以上240分以下である。これにより、プリプレグが硬化することで第一層21が作製され、かつ金属箔付き樹脂シートにおける樹脂シートが硬化することで第二層22が作製される。さらに金属箔付き樹脂シートにおける金属箔から金属層3が作製される。これにより、図1に示す金属張積層板1が製造される。
【0096】
なお、積層物を加熱プレスする条件は、上記に限られず、プリプレグ及び樹脂シートからそれぞれ第一層21及び第二層22が作製されるように適宜設定される。また、金属張積層板1の製造方法は、組成物(X)の硬化物を含む第一層21と組成物(Y)の硬化物を含む第二層22とを備える絶縁層2を作製できるのであれば、上記の方法に限られない。
【0097】
この金属張積層板1における金属層3から、フォトリソグラフィ法などにより導体配線4を作製することで、図2に示すようなプリント配線板5を製造できる。この場合、プリント配線板5は、絶縁層2と、絶縁層2に重なる導体配線4とを備え、絶縁層2は、第一層21と、この第一層21と導体配線4との間に介在する第二層22とを有する。
【0098】
上記の説明では第一層21は繊維基材を含むが、繊維基材を含まなくてもよい。その場合は、例えば第一層21は、組成物(X)の乾燥物又は半硬化物からなる樹脂シートから作製される。また、上記の説明では第二層22は繊維基材を含まないが、繊維基材を含んでもよい。その場合は、例えば第二層22は、繊維基材とこれに含浸した組成物(Y)の乾燥物又は半硬化物とを備えるプリプレグから作製される。
【実施例
【0099】
以下、本実施形態の具体的な実施例を提示する。なお、本実施形態は下記の実施例のみには制限されない。
【0100】
1.原料
第一樹脂組成物及び第二樹脂組成物の原料として、表1から3の第一樹脂組成物の欄及び第二樹脂組成物の欄に示す成分を用意した。この表1から3における成分の詳細は次のとおりである。
・変性PPE:下記手順で合成した変性ポリフェニレンエーテル
ポリフェニレンエーテルと、クロロメチルスチレンとを反応させて変性ポリフェニレンエーテルを得た。
【0101】
具体的には、まず、温度調節器、攪拌装置、冷却設備、及び滴下ロートを備えた容量1リットルの3つ口フラスコに、ポリフェニレンエーテル(下記式(5)に示す構造を有するポリフェニレンエーテル、SABICイノベーティブプラスチックス社製のSA90、固有粘度(IV)0.083dl/g、一分子当たりの末端水酸基数1.9個、重量平均分子量Mw2000)200g、p-クロロメチルスチレンとm-クロロメチルスチレンとの質量比が50:50の混合物(東京化成工業株式会社製のクロロメチルスチレン:CMS)30g、相間移動触媒として、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド1.227g、及びトルエン400gを仕込み、反応液を得た。
【0102】
【化5】
【0103】
反応液を、ポリフェニレンエーテル、クロロメチルスチレン、及びテトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイドが、トルエンに溶解するまで攪拌した。その際、最終的に液温が75℃になるまで、反応液を徐々に加熱した。そして、反応液に、アルカリ金属水酸化物として、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム20g/水20g)を20分間かけて、滴下した。その後、さらに、反応液を75℃で4時間攪拌した。次に、濃度10質量%の塩酸水溶液で反応液を中和した後、多量のメタノールを投入した。そうすることによって、反応液に沈殿物を生じさせた。すなわち、反応液に含まれる生成物を再沈させた。そして、反応液から沈殿物をろ過によって取り出し、メタノールと水との質量比が80:20の混合液で3回洗浄した後、減圧下、80℃で3時間乾燥させた。
【0104】
得られた固体を、1H-NMR(400MHz、CDCl3、TMS)で分析した。その結果、5~7ppmにエテニルベンジルに由来するピークが確認された。これにより、得られた固体が、分子末端に、式(1)で表される基を有する変性ポリフェニレンエーテルであることが確認できた。具体的には、エテニルベンジル化されたポリフェニレンエーテルであることが確認できた。
【0105】
また、変性ポリフェニレンエーテルの末端官能数を、以下のようにして測定した。
【0106】
まず、変性ポリフェニレンエーテルを正確に秤量した。その際の変性ポリフェニレンエーテルの重量を、X(mg)とする。そして、この秤量した変性ポリフェニレンエーテルを、25mLの塩化メチレンに溶解させ、得られた溶液に、10質量%のテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)のエタノール溶液(TEAH:エタノール(体積比)=15:85)を100μL添加した後、UV分光光度計(株式会社島津製作所製のUV-1600)を用いて、溶液の318nmの吸光度(Abs)を測定した。そして、その測定結果から、下記式を用いて、変性ポリフェニレンエーテルの、重量当たりの末端水酸基量を算出した。
【0107】
末端水酸基量(μmol/g)=[(25×Abs)/(ε×OPL×X)]×10
ここで、εは、吸光係数を示し、本試験では4700L/mol・cmである。また、OPLは、セル光路長であり、本試験では1cmである。
【0108】
算出された末端水酸基量は、ほぼゼロであることから、変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基が、ほぼ変性されていることがわかった。このことから、変性前のポリフェニレンエーテルの末端水酸基数が、変性ポリフェニレンエーテルの末端官能基数に等しいことがわかった。つまり、変性ポリフェニレンエーテルの一分子当たりの末端官能数が、1.9個であった。
【0109】
また、変性ポリフェニレンエーテルの塩化メチレン溶液の、25℃での固有粘度(IV)を測定した。具体的には、変性ポリフェニレンエーテルの、0.18g/45mlの塩化メチレン溶液(液温25℃)を、粘度計(Schott社製のAVS500 Visco System)で測定した。その結果、固有粘度(IV)は、0.086dl/gであった。
【0110】
また、変性ポリフェニレンエーテルの分子量分布を、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いて、測定した。得られた分子量分布から、重量平均分子量(Mw)及び分子量13000以上の高分子量成分の含有量を算出した。また、高分子量成分の含有量は、具体的には、GPCにより得られた分子量分布を示す曲線に基づくピーク面積の割合から算出した。その結果、Mwは、2300であった。また、高分子量成分の含有量は、0.1質量%であった。
・架橋剤1:ポリブタジエンオリゴマー、日本曹達社製、品番B-1000。
・架橋剤2:トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、新中村化学社製、品名ライトアクリレートA-DCP。
・難燃剤1:ホスフィン酸塩化合物(トリスジエチルホスフィン酸アルミニウム)、クラリアントケミカルズ製、品名Exolit OP935。
・難燃剤2:リン酸エステル化合物(芳香族縮合リン酸エステル化合物)、大八化学工業社製、品番PX-200。
・無機充填剤:球状シリカ、メジアン径3μm、アドマテックス社製、品番SC2300-SVJ。
・シランカップリング剤:3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学社製、品番KBM-503。
・フッソ樹脂粒子:ダイキン工業製、品名ルブロンTML-2、粒径3.5μm。
・複合粒子1:ポリテトラフルオロエチレンからなるコアと、フェニルアミノ処理がされたシリカ粒子から作製されたシェルとを有する複合粒子、メジアン径3.0μm。
・複合粒子2:ポリテトラフルオロエチレンからなるコアと、フェニルアミノ処理がされたシリカ粒子から作製されたシェルとを有する複合粒子、メジアン径1.0μm。
・複合粒子3:ポリテトラフルオロエチレンからなるコアと、フェニルアミノ処理がされたシリカ粒子から作製されたシェルとを有する複合粒子、メジアン径15.0μm。
【0111】
2.プリプレグの作製
表1から3の第一樹脂組成物の組成の欄に示される成分を混合して、第一樹脂組成物を調製した。この第一樹脂組成物を、表1から3の繊維基材の欄に示す繊維基材(ガラスクロス)に含浸させ、150℃で1分間加熱することで、プリプレグを作製した。
【0112】
3.樹脂シートの作製
実施例1及び比較例4においては、表1から3の第二樹脂組成物の組成の欄に示される成分を混合して、第二樹脂組成物を調製した。この第二樹脂組成物をキャリアフィルム上に塗布してから、150℃で3分間加熱することで、厚み15μmの樹脂シートを作製した。
【0113】
4.金属張積層板1の製造
実施例1及び比較例4の場合は、銅箔(厚み18μm)、樹脂シート、表1から3のプリプレグ数の欄に示す数のプリプレグ、樹脂シート及び銅箔(厚み18μm)を、この順番に積層して積層物を作製し、この積層物を加熱温度250℃、プレス圧4mPa、加熱時間5分間の条件で加熱プレスすることで、金属張積層板1を作製した。
【0114】
比較例1~3の場合は、銅箔(厚み18μm)、表1から3のプリプレグ数の欄に示す数のプリプレグ及び銅箔(厚み18μm)を、この順番に積層して積層物を作製し、この積層物を前記と同じ条件で加熱プレスすることで、金属張積層板1を作製した。
【0115】
各金属張積層板1における第一層21の厚み、第二層22の厚み及び金属層3の厚みは、表1から3に示すとおりである。
【0116】
5.評価試験
5.1.ガラス転移温度
金属張積層板1から金属箔をエッチング処理により除去することで絶縁層2のみからなるアンクラッド板を作製し、このアンクラッド板に対して、動的粘弾性測定(DMA)を行った。これにより得られたtanδ(損失弾性率/貯蔵弾性率)が最大値となる温度を、ガラス転移温度とした。動的粘弾性測定に当たっては、動的粘弾性測定装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製の粘弾性スペクトロメータ、型番DMA7100)を用い、引張モジュールで5℃/分の昇温条件で測定した。
【0117】
5.2.線膨張係数
金属張積層板1から金属箔をエッチング処理により除去することで絶縁層2のみからなるアンクラッド板を作製した。このアンクラッド板の、上記のガラス転移温度未満における厚み方向と直交する方向の線膨張係数を、JIS C6481に従ってTMA法(Thermo-mechanical analysis)により測定した。測定に当たっては、動的粘弾性測定装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製の粘弾性スペクトロメータ、型番DMA7100)を用い、30℃から300℃までの温度範囲で測定し、得られた結果のうちガラス転移温度未満の部分に基づいて線膨張係数を求めた。
【0118】
5.3.ピール強度
金属張積層板1における絶縁層2に対する金属層3(金属箔)のピール強度を、JIS C 6481に準拠して測定した。測定に当たっては、幅5mm、長さ100mmに形成した金属箔を、引っ張り試験機により50mm/分の速度で絶縁層2から引き剥がし、その時のピール強度を測定した。
【0119】
5.4.エッチング後外観
金属張積層板1から金属箔をエッチング処理により除去することで絶縁層2のみからなるアンクラッド板を作製した。エッチング処理に当たっては、塩化第二鉄水溶液による化学エッチングを行った。このアンクラッド板の外観を観察し、金属箔の残存が認められない場合は「良」、金属箔の一部が残存した場合は「不良」と評価した。
【0120】
5.5.誘電特性
金属張積層板1から金属箔をエッチング処理により除去することでアンクラッド板を作製した。このアンクラッド板の、試験周波数1GHzの場合での比誘電率及び誘電正接を、IPC TM-650 2.5.5.5に基づいて測定した。測定に当たっては、測定装置として、アジレント・テクノロジー株式会社製のRFインピーダンスアナライザー(型番HP4291B)を用いた。
【0121】
これらの評価を、表1から3に示す。
【0122】
【表1】
【0123】
【表2】
【0124】
【表3】
【0125】
上記の結果によると、実施例1~12では、絶縁層2が第一層21と第二層22とを有し、第一層21が複合粒子を含み、第二層22が複合粒子を含まないことで、低い線膨張係数、高いピール強度、低い比誘電率及び低い比誘電正接を、実現できたと認められる。
【0126】
実施例2及び3では、実施例1に対して第二層の厚さが変化することで、絶縁層中の樹脂含有割合が変化し、それに応じて線膨張係数及び比誘電率が変化することが認められた。
【0127】
実施例4では、実施例1とは架橋剤を変更したことで、ガラス転移温度、比誘電率、ピール強度が変化することが認められた。
【0128】
実施例5では、第二層に複合粒子を加えることで、実施例1と比べればピール強度が低下することが認められた。
【0129】
実施例6及び7からは、複合粒子の粒径が大きくなるほど比誘電率は低下するものの、線膨張係数が大きくなることが認められた。
【0130】
実施例8~12からは、繊維基材の変更、第一層及び第二層の厚みの変更などによる絶縁層の樹脂含有量が変化に応じて、比誘電率が変化することが認められた。実施例1では樹脂含有量は73質量%、実施例8、9、11及び12では65%程度であって比誘電率は実施例1よりも高くなり、実施例10では樹脂含有量が更に下がったことで比誘電率は更に高くなっている。
【0131】
一方、比較例1及び2は絶縁層2が複合粒子を含まず、フッ素樹脂粒子も含まないため、ピール強度は高いものの、比誘電率が高くなった。比較例3では絶縁層2はフッ素樹脂粒子を含み、かつ第二層22を有さないため、比誘電率は低いものの、ピール強度が低くなった。比較例4では絶縁層2は複合粒子を含むが、第二層22を有さないため、比誘電率は低いがピール強度が低くなった。比較例5では、絶縁層2は第二層22を有するものの、第一層21が複合粒子を含まずにフッ素樹脂粒子を含むため、比誘電率は低いものの、ピール強度が低くなった。
【0132】
また、比較例3では、エッチング後外観の評価が不良であった。これは、比較例3における絶縁層2は複合粒子を含まずフッ素樹脂粒子を含む層のみで構成されていることで、エッチング処理時に塩化第二鉄水溶液をはじきやすく、そのためエッチング処理の効率が低下したからであると、推察される。

図1
図2