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特許7411938酵素分解核酸による毛細血管新生剤及び毛細血管を新生する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】酵素分解核酸による毛細血管新生剤及び毛細血管を新生する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/713 20060101AFI20240104BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240104BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240104BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
A61K31/713
A23L33/10
A61P21/00
A61P43/00 105
A61P43/00 111
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022032879
(22)【出願日】2022-03-03
(65)【公開番号】P2023128503
(43)【公開日】2023-09-14
【審査請求日】2022-06-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500492750
【氏名又は名称】フォーデイズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤野 英己
(72)【発明者】
【氏名】須藤 慶太
(72)【発明者】
【氏名】藤田 美華
(72)【発明者】
【氏名】桐山 恵介
【審査官】梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-152144(JP,A)
【文献】特開2018-058793(JP,A)
【文献】KANAZAWA Y. et al.,Biotechnic & histochemistry : official publication of the Biological Stain Commission,2013年,Vol. 89,No. 3,pp.220-227.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
A23L 33/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サケ白子を酵素処理することにより得られる分子量1000乃至3000の水溶性核酸(DNA)を80質量%以上含有する、筋細胞の毛細血管新生剤。
【請求項2】
成人一日あたり1,000mg/日~2,000mg/日量の経口摂取形態にある、請求項1に記載の毛細血管新生剤。
【請求項3】
請求項1に記載の毛細血管新生剤を含有する、筋細胞の毛細血管新生用の健康食品。
【請求項4】
サケ白子を酵素処理することにより得られる分子量1000乃至3000の水溶性核酸(DNA)を80質量%以上含有する、筋細胞の血管新生因子VEGF発現量増加剤。
【請求項5】
成人一日あたり1,000mg/日~2,000mg/日量の経口摂取形態にある、請求項4に記載の血管新生因子VEGF発現量増加剤。
【請求項6】
請求項4に記載の血管新生因子VEGF発現量増加剤を含有する、筋細胞の毛細血管新生因子VEGF発現増加用の健康食品。
【請求項7】
サケ白子を酵素処理することにより得られる分子量1000乃至3000の水溶性核酸(DNA)を80質量%以上含有する、骨格筋細胞のコハク酸脱水素酵素(SDH)活性増進剤。
【請求項8】
成人一日あたり1,000mg/日~2,000mg/日量の経口摂取形態にある、請求項7に記載のSDH活性増進剤。
【請求項9】
請求項7に記載のSDH活性増進剤を含有する、骨格筋細胞のコハク酸脱水素酵素(SDH)活性増進用の健康食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は毛細血管新生剤及びこれを経口摂取することによる筋細胞の毛細血管を新生する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康に対する世間一般の関心の高まりを反映して、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、これら核酸とタンパク質との複合体である核タンパク質を原料又は有効成分として用いた健康食品が提供されている。例えば核タンパク質は、免疫調節作用、抗酸化作用、血管拡張作用などを有することが知られている。また低分子化した水溶性核酸、又は該水溶性核酸及びアミノ酸を含有するがん細胞増殖抑制物質の提案がある(特許文献1)。
【0003】
一方、毛細血管は、全身細胞に対して栄養素や酸素を供給するとともに老廃物や二酸化炭素を回収し、また筋肉に対して筋肥大に役立つホルモンなどを速やかに筋線維に届けるという、重要な役割を担うことが知られている。毛細血管の劣化や減少の要因の一つとして不運動が挙げられ、例えば2週間の寝たきりにより50歳前後の健常者の毛細血管が25%も減少したとする報告がある。
上記の寝たきりや行き過ぎた安静状態は、これが長く続くことによって、筋肉や関節などが萎縮する現象(廃用性筋萎縮)を引き起こす。筋萎縮は、活性酸素種の発生などによる酸化ストレスの増加と関連があるとされ、また酸化ストレスの増加は血管内皮細胞の障害もたらし、毛細血管の退行性変化(減少)が生じることが知られている。
これまで、長期伏臥に近似した後肢懸垂法による廃用性筋委縮モデルラットに対して、DNAを含む核タンパク質を摂取させることにより、筋委縮や筋活動の低下を抑え、毛細血管の減少を抑えたとする報告がある(非特許文献1、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-152144号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Nakanishi R, et al., Nutrition Research 2016; 36(12):1335-1344.
【文献】Kanazawa Y, et al., official publication of the Biological Stain Commission 2013:1-8.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の如く毛細血管は不運動により減少し、またこれまで運動を伴わない毛細血管の新生は困難であると考えられている。例えば食品摂取によって毛細血管の退行の抑制を図った研究はなされているが、食品摂取のみで毛細血管の新生までも促したとする報告はこれまでされていない。
またこれまで、核酸(DNA、RNA)や核タンパク質の摂取により、種々の作用や効果が発現したことが紹介されているが、毛細血管の新生に関する報告はこれまでになされていない。
【0007】
本発明は、毛細血管新生剤及び毛細血管を新生する方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はDNAからなる毛細血管新生物質、すなわちサケ白子を酵素処理することにより得られる分子量1000乃至3000の水溶性核酸を80質量%以上含有する、毛細血管新生物質に関する。
また本発明は前記毛細血管新生物質を含有する毛細血管新生剤、並びに前記毛細血管新生物質を含む健康食品も対象とする。
さらに本発明は、例えば前記毛細血管新生物質を成人一人当たり1,000mg/日~2,000mg/日の量にて経口摂取する、筋細胞の毛細血管を新生する方法も対象とする。
【0009】
また本発明は、サケ白子を酵素処理することにより得られる分子量1000乃至3000の水溶性核酸を80質量%以上含有する、血管新生因子の発現量増加物質を対象とし、さらに前記血管新生因子の発現量増加物質を含有する血管新生因子発現量増加剤、並びに前記血管新生因子の発現量増加物質を含有する健康食品を対象とする。
そして本発明は、例えば前記血管新生因子の発現量増加物質を成人一人当たり1,000mg/日~2,000mg/日の量にて経口摂取する、血管新生因子の発現量を増加する方法を対象とする。
【0010】
さらに本発明は、サケ白子を酵素処理することにより得られる分子量1000乃至3000の水溶性核酸を80質量%以上含有し、コハク酸脱水素酵素(SDH)の活性増進物質を対象とし、前記SDH活性増進物質を含有するSDH活性増進剤、並びに前記SDH活性増進物質を含有する健康食品を対象とする。
そして本発明は、例えば前記SDH活性増進物質を成人一人当たり1,000mg/日~2,000mg/日の量にて経口摂取する、SDH活性を増進する方法を対象とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、血管新生因子に係るタンパク発現量を増加させ、また骨格筋細胞の代謝酵素であるコハク酸脱水素酵素(SDH)を有意に増加させ、毛細血管の新生を促すことできる、毛細血管新生剤、血管新生因子発現量増加剤及びSDH活性増進剤を提供できる。
そして本発明に係る毛細血管新生剤、血管新生因子発現量増加剤又はSDH活性増進剤を経口摂取することにより、一筋繊維あたりの毛細血管数を増加させ、毛細血管の新生を促すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、7週間のDNA摂取群のラット(DNA)と非摂取群のラット(CON)のヒラメ筋標本におけるアルカリフォスターゼ染色像(図1(a))と同標本から算出した全毛細血管数/全筋繊維数の比(capillary to fiber ratio、C/F比)(図1(b))を示す図である。
図2図2は、7週間のDNA摂取群のラット(DNA)の非摂取群のラット(CON)のヒラメ筋標本におけるコハク酸脱水素酵素(SDH)染色像(図2(a))と同標本から算出した筋繊維タイプI/タイプII別のSDH活性(図2(b))をそれぞれ示す図である。
図3図3は、7週間のDNA摂取群のラット(DNA)と非摂取群のラット(CON)のヒラメ筋標本の抽出液において実施した、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動の分離結果(ポリフッ化ビニリデン膜転写)を示す図である(VEGF、TSP-1、Sirt-1、PGC-1α)。
図4図4は、7週間のDNA摂取群のラット(DNA)と非摂取群のラット(CON)のヒラメ筋標本におけるタンパク質発現レベルを示す図である(TSP-1、VEGF、PGC-1α、SIRT-1)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の毛細血管新生物質は、デオキシボ核酸からなり、詳細には、サケ白子を酵素処理することにより得られる分子量1000乃至3000の水溶性核酸を80質量%以上含有することを特徴とする。
本発明の毛細血管新生物質は、筋細胞の毛細血管を新生させるために用いることができる。
【0014】
本発明の毛細血管新生物質に使用可能な分子量1000乃至3000の水溶性核酸(水溶化核酸ともいう)は、サケ白子を酵素処理ことにより得ることができる。上記水溶性核酸の態様としては、例えば、二本鎖、一本鎖又は環状のDNAであり得る。
また、上記水溶性核酸の原料となるサケ白子は、とりわけDNAを多く含むものの、従来、資源として有効に利用されず、多くが廃棄されていた。それ故、サケ白子由来のDNAを利用することは、廃棄物の資源化という観点から望ましい。
なお本明細書において水溶性とは、水に0.1質量%以上の濃度で溶解し得る性質をいう。
【0015】
上記酵素処理は、ヌクレアーゼとプロテアーゼを用いて実施される。
前記プロテアーゼはトリプシンを主体とするものである。トリプシンは高い特異性を有するセリンプロテアーゼであり、アルギニン及びリジンのカルボキシル側でペプチド結合を選択的に加水分解するので、アルギニンを多く含むプロタミンの加水分解に適している。また前記プロテアーゼは、トリプシンに加えて、他のプロテアーゼ、例えばキモトリプシン等を含むこともできる。良好なプロテアーゼとしては、ノボザイムズジャパン株式会社製のプロテアーゼを挙げることができる。前記プロテアーゼを用いた加水分解処理は、プロテアーゼの活性化と失活を踏まえ、温度:30~60℃の範囲、例えば40~50℃の範囲にて、pH:6~7範囲にて行うことができる。
上記ヌクレアーゼとしては、デオキシリボ核酸(DNA)の3,5'-ホスホジエステル結合を加水分解し、オリゴ体重合の5'-ヌクレオチドを生成するものである。該ヌクレアーゼの性質について特に制限はないが、ある程度の熱安定性を備えることが好ましい。このようなヌクレアーゼは、例えば天野エンザイム株式会社、シグマ社等から市販品を入手可能である。前記ヌクレアーゼを用いた加水分解処理は、ヌクレアーゼの活性化と失活を考慮し、例えば温度:60~75℃の範囲にて、pH:5~6範囲にて行うことができる。
【0016】
具体的な酵素処理の手順は、まずサケ白子に対してプロテアーゼ処理を行い、サケ白子に含まれるタンパク質等を加水分解する。加水分解終了後、透析処理を行って加水分解したタンパク質(アミノ酸)とイオン類を系内から除去する。この透析処理は、例えば、分画分子量が2,000~1,000,000である中空糸膜を用いて実施される。その後、ヌクレアーゼ処理を行うことにより核酸を低分子化し、分子量範囲約1000乃至3000の水溶性核酸(通常、ヌクレオチド数(塩基数)が3ないし10の核酸からなる)を得る。
上記のようにして得られた水溶性核酸は、核酸の含有量が高く(通常、DNA-Naとして86%以上)、また、タンパク質(アミノ酸)の含有量は極めて低い(通常1%以下)ものとなる。
【0017】
本発明はまた、毛細血管新生物質を含む毛細血管新生剤も対象とする。
本発明の毛細血管新生剤は、有効成分として前記毛細血管新生物質、すなわちサケ白子を酵素処理することにより得られる分子量1000乃至3000の水溶性核酸を含有し、後述の投与形態にあわせてその他配合物を含むものである。
【0018】
本発明の毛細血管新生剤の投与形態としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、シロ
ップ剤、液剤、乳剤、懸濁液剤等による経口投与を挙げることができる。
本発明の毛細血管新生剤は、製薬の慣用手段によって投与用に製剤化される。
例えば前記経口投与用の錠剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤等は、賦形剤、例えば白糖、乳糖、ブドウ糖、でんぷん、マンニット;結合剤、例えばヒドロキシプロピルセルロース、シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビット、トラガント、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン;崩壊剤、例えばでんぷん、カルボキシメチルセルロース又はそのカルシウム塩、微結晶セルロース、ポリエチレングリコール;滑沢剤、例えばタルク、ステアリン酸マグネシウム又はカルシウム、シリカ;潤滑剤、例えばラウリル酸ナトリウム、グリセロール等を使用して調製される。
また前記シロップ剤、液剤、乳剤、懸濁液剤等は、有効成分である前記毛細血管新生物質(水溶性核酸)の溶剤、例えば水、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ポリエチレングリコール;界面活性剤、例えばソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、水素添加ヒマシ油のポリオキシエチレンエーテル、レシチン;懸濁剤、例えばカルボキシメチルナトリウム塩、メチルセルロース等のセルロース誘導体、トラガント、アラビアゴム等の天然ゴム類;保存剤、例えばパラオキシ安息香酸のエステル、塩化ベンザルコニウム、ソルビン酸塩等を使用して調製される。
また本発明の毛細血管新生剤は、有効成分である毛細血管新生物質に加えて、他の医薬的に又は獣医薬的に活性な化合物を含んでいてもよい。
本発明の毛細血管新生剤は、その全質量に対して、有効成分である毛細血管新生物質を約0.01~99.5質量%、例えば約0.1~30質量%の割合にて含有することができる。
【0019】
本発明はまた、毛細血管新生物質を含む健康食品も対象とする。
本発明の健康食品は、有効成分として前記毛細血管新生物質、すなわちサケ白子を酵素処理することにより得られる分子量1000乃至3000の水溶性核酸を含有し、後述の各種製品形態にあわせてその他の配合成分を含むものである。
【0020】
本発明の前記毛細血管新生物質を含む健康食品には、公知の甘味料、酸味料、ビタミン等の各種成分と混合してユーザーの嗜好に合う製品とすることができる。またその製品形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、ヨーグルト等の乳製品、調味料、加工食品、デザート類、菓子等の形態で提供することが可能である。
【0021】
また本発明は、毛細血管新生物質を経口摂取することによる毛細血管を新生する方法も対象とする。
本発明の毛細血管を新生する方法は、前記毛細血管新生物質、すなわちサケ白子を酵素処理することにより得られる分子量1000乃至3000の水溶性核酸を経口摂取することによるものである。
【0022】
本発明の前記毛細血管新生物質の臨床的投与量は、年令、体重、患者の感受性、症状の程度等により異なるが、通常効果的な投与量は、例えば成人一人あたり、一日1mg~5,000mg、また例えば500mg~2,500mg、あるいはまた1,000mg~2,000mgとすることができる。しかし必要により上記の範囲外の量を用いることもできる。
なお上記効果的な投与量は、本発明の毛細血管新生剤や健康食品にも適用される。
【0023】
また本発明は、サケ白子を酵素処理することにより得られる分子量1000乃至3000の水溶性核酸を80質量%以上含有する、血管新生因子の発現量増加物質を対象とする。さらに本発明は、前記血管新生因子の発現量増加物質を含有する血管新生因子発現量増加剤、並びに前記血管新生因子の発現量増加物質を含有する健康食品を対象とする。そし
て本発明は、血管新生因子の発現量を増加する方法を対象とする。
これら発明の詳細については、前述した「毛細血管新生物質」、「毛細血管新生剤」、「毛細血管新生物質を含有する健康食品」及び「筋細胞の毛細血管を新生する方法」において、それぞれ「血管新生因子の発現量増加物質」、「血管新生因子発現量増加剤」、「血管新生因子の発現量増加物質を含有する健康食品」及び「血管新生因子の発現量を増加する方法」に読み替えて適用可能である。
【0024】
さらに本発明は、サケ白子を酵素処理することにより得られる分子量1000乃至3000の水溶性核酸を80質量%以上含有し、コハク酸脱水素酵素(SDH)の活性増進物質を対象とし、前記SDH活性増進物質を含有するSDH活性増進剤、並びに前記SDH活性増進物質を含有する健康食品を対象とする。そして本発明は、SDH活性を増進する方法を対象とする。
これら発明の詳細については、前述した「毛細血管新生物質」、「毛細血管新生剤」、「毛細血管新生物質を含有する健康食品」及び「筋細胞の毛細血管を新生する方法」において、それぞれ「コハク酸脱水素酵素(SDH)の活性増進物質」、「SDH活性増進剤」、「SDH活性増進物質を含有する健康食品」及び「SDH活性を増進する方法」に読み替えて適用可能である。
【実施例
【0025】
<製造例:水溶性核酸の製造>
冷凍したサケ白子2500gを解凍し、皮、筋、血管等を除去した後、血抜き及び水洗を行った。その後、該サケ白子を水1000mLと共に粉砕して、プロテアーゼ(ノボザイムズジャパン(株))2.5gを添加し、撹拌しながら44~47℃、pH6.0~6.3で4時間酵素処理を行った。処理後の液を濾過した後、分画分子量が2,000~1,000,000である中空糸膜を用いて透析処理を行い、分解したタンパク質およびイオン類を除去すると共に二本鎖DNAを濃縮した。得られた溶液を70℃に昇温し、ヌクレアーゼ(天野エンザイム(株))2.5gを添加し、撹拌しながら、pH5.0~5.5で4時間酵素分解処理を行った。その後、処理後の液を85℃に昇温して、残存するヌクレアーゼを失活させた。
得られた生成液を40~50℃に冷却し、これを連続的にデカンタに送液して清澄液を分離し、噴霧乾燥して粉体の形態で、水溶性核酸(分子量範囲約1000乃至3000の水溶性核酸)を単離した。得られた水溶性核酸の規格を表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
<試験例>
雌性Wistarラット(週齢:リタイア、日本エスエルシー(株))10匹を、対照群(CON,n=5)と核酸を摂取する群(DNA、n=5)の2群に区分した。
DNA群は通常の飼料以外に上記水溶性核酸(1,500mg/kg/day)を7週間経口摂取させ、CON群は同量の蒸留水を摂取させた。なおDNA群、CON群とも運動負荷は特に与えずとした。
7週間経過後、各ラットよりヒラメ筋及び後腹膜脂肪組織を摘出し、各試験に供した。
【0028】
表2に、7週間経過後の試験ラットの体重、1日あたりの平均飼料摂取量、摘出したヒラメ筋の質量、1kg体重あたりのヒラメ筋質量、ヒラメ筋の繊維断面積、ヒラメ筋のタイプI筋繊維の組成割合、そして後腹膜脂肪組織の質量に関して、5匹の平均値とその標準偏差を示す。
表2に示すように、DNA群はCON群に比べて、ヒラメ筋質量とタイプI筋繊維組成に関して増加し、ただし繊維断面積と後腹膜脂肪組織は両群ともにほとんど変化がないとする結果が得られた。
【0029】
【表2】
【0030】
<ミトコンドリア機能(代謝機能)及び毛細血管数関与因子に関する解析>
上記の提出したヒラメ筋に関して、下記ミトコンドリア機能(代謝機能)及び毛細血管数に関与する因子について解析を実施した。
[解析項目]
(i)ミトコンドリア機能(代謝機能) 関与因子
・コハク酸脱水素酵素(SDH)活性
・PGC-1α 発現量(WB)
・SIRT-1 発現量(WB)
(ii)毛細血管数 関与因子
・アルカリフォスターゼ(AP)染色及び毛細血管数解析
・VEGF 発現量(WB)
・TSP-1 発現量(WB)
【0031】
解析例1:アルカリフォスターゼ(AP)染色及び毛細血管数解析
使用試薬:0.02% 5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸p-トルイジン塩、及び0.1% ニトロブルーテトラゾリウム(いずれも富士フイルム和光純薬(株))を、0.03M MgSO・7HO(富士フイルム和光純薬(株)、pH9.4)に加えて、AP染色試薬を調製した。
実施条件:ヒラメ筋組織薄切片を上記AP染色試薬で反応させた。AP染色試薬により、毛細血管が黒色染色され可視化される。
測定方法:光学顕微鏡(BX-51、オリンパス(株)製)に接続したCCDカメラ(VB-7000、(株)キーエンス製)を用いて、DNA群/CON群ともに撮影条件を一定にして、AP染色後のヒラメ筋組織薄切片(AP染色像)を撮影した。
また、AP染色後のヒラメ筋組織全体を撮影し、画像処理ソフトウエア:Image Jを用いて、全筋線維数と全毛細血管数をカウントして、全筋線維数に対する全毛細血管数(C/F 比)を算出した。
図1にアルカリフォスターゼ染色像(図1(a))と、算出した全毛細血管数/全筋繊維数の比(capillary to fiber ratio、C/F比)(図1(b))をそれぞれ示す。
【0032】
解析例2:コハク酸脱水素酵素(SDH)活性
使用試薬:0.05% ニトロブルーテトラゾリウム(富士フイルム和光純薬(株))、0.05M コハク酸ナトリウム(シグマ-アルドリッチ社)を、0.05M リン酸緩衝液(0.039M NaHPO・12HO(シグマ-アルドリッチ社)、0.0
11M NaHPO・2HO(富士フイルム和光純薬(株))、pH7.4)に加えてコハク酸脱水素酵素(SDH)反応試薬を調製した。
実施条件:ヒラメ筋組織薄切片を上記SDH反応試薬で反応させた。SDH反応試薬により、SDH反応(活性)が高いほど青色に染色され、SDH活性が可視化される。
測定方法:光学顕微鏡(BX-51、オリンパス(株)製)に接続したCCDカメラ(VB-7000、(株)キーエンス製)を用いて、DNA群/CON群ともに撮影条件を一定にして、SDH反応試薬染色後のヒラメ筋組織薄切片(SDH染色像)を撮影した。
また、SDH反応試薬染色後のヒラメ筋組織全体を撮影し、画像処理ソフトウエア:Image Jを用いて、筋繊維タイプI/筋繊維タイプII別に可視密度を測定して、活性値(SDH活性)として算出した。なお、SDH活性の測定は、クエン酸(TCA)回路の機能を定量化する方法として知られている。
図2にコハク酸脱水素酵素(SDH)染色像(図2(a))と、算出した筋繊維タイプI/タイプII別のSDH活性(図2(b))をそれぞれ示す。
【0033】
解析例3:ウエスタンブロッティング(WB)
使用試薬:抽出溶液 イージーリパ ライシス キット(EzRIPA Lysis kit)(アトー(株)社)
測定方法:凍結保存した左ヒラメ筋標本の筋腹中央部約20mgを切り出し、上記抽出溶液で均一化した後、抽出液をSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)-ポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)で分離し、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜に転写した(図3参照)。
【0034】
下記表3に示す抗体を用い、抗原抗体反応により標的としたタンパク質の発現量を同定した。得られた結果を図4に示す。
【表3】
【0035】
なお図1図2、並びに図4に示すように、全ての測定値は平均値±標準誤差で表示した。各群間の比較にはunpaired Student t検定を用いた。
すべての統計の有意水準は5%未満で有意差を判断した。図中のアスタリスクは以下の通りである
* Con群に対する有意差(p<0.05,p>0.01).
** Con群に対する有意差(p<0.01,p>0.005).
*** Con群に対する有意差(p<0.005).
【0036】
図1(a)のAP染色像に示すように、DNA群はCON群に比べて黒色染色部(毛細血管像)が大きく且つ多くみられる結果(図1(a))となった。
また上記染色像より算出したヒラメ筋の全毛細血管数/全筋繊維数の比(C/F比)において、CON群(C/F比:2.35)に対してDNA群(同:2.70)の有意の増加が認められた(図1(b))。
【0037】
また図2(a)のSDH染色像に示すように、DNA群はCON群に比べてより濃い青
色(図中、濃色)に染色され、SDH活性が高いことが示唆される結果となった。
さらに上記染色像より算出したヒラメ筋のコハク酸脱水素酵素(SDH)活性に関して、筋繊維タイプI及びタイプIIの双方ともCON群に対してDNA群は10%程度の有意の増加が認められた。
【0038】
そして図4に示すように、DNA摂取により血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の発現量が増加する傾向がみられ、一方で、血管新生抑制因子のTSP-1発現量には変化を与えないことが確認された。
また、DNA摂取によりミトコンドリア生合成および機能に関与するPGC-1α発現量とSIRT-1発現量の増加が認められた。
【0039】
以上の通り、長期間のDNA摂取により、血管新生因子に関与するVEGF発現量が増加し(図4参照)、そして1つの筋線維あたりの毛細血管数を増加させる(図1参照)ことが確認された。この結果は長期間のDNA摂取は、血管新生因子(VEGF)の発現量の増加を促し、これにより毛細血管数を増加させる、すなわち、筋細胞の毛細血管の新生を促すことを示唆するものである。
また長期間のDNA摂取により、ミトコンドリア生合成および機能に関与するPGC-1α発現量とSIRT-1発現量が増加し、ミトコンドリア機能の1つであり、骨格筋細胞の代謝酵素であるコハク酸脱水素酵素(SDH)の活性を有意に増加させることが確認された(図2参照)。この結果は、長期間の摂取は、ミトコンドリア生合成及び機能の発現量を増加させることで、ミトコンドリア機能の活性化につながったことを示唆するものである。
【0040】
<製剤例>
本発明の毛細血管新生剤の製剤例を以下に示す。
製剤例1
錠剤
毛細血管新生物質 20g
乳 糖 260g
微結晶セルロース 600g
コーンスターチ 350g
ヒドロキシプロピルセルロース 100g
CMC-Ca 140g
ステアリン酸マグネシウム 30g
全 量 1,500g
上記成分を常法により混合したのち1錠中に1mgの活性成分を含有する糖衣錠
10,000錠を製造する。
製剤例2
カプセル剤
毛細血管新生物質 20g
乳 糖 430g
微結晶セルロース 1,000g
ステアリン酸マグネシウム 50g
全 量 1,500g
上記成分を常法により混合したのちゼラチンカプセルに充填し、1カプセル中に1mgの活性成分を含有するカプセル剤10,000カプセルを製造する。
製剤例3
軟カプセル剤
毛細血管新生物質 25g
PEG400 464g
飽和脂肪酸トリグリセライド 1,500g
ハッカ油 1g
ポリソルベート(Polysorbate)80 10g
全 量 2,000g
上記成分を混合したのち常法により3号軟ゼラチンカプセルに充填し、1カプセル中に1mgの活性成分を含有する軟カプセル剤10,000カプセルを製造する。
図1
図2
図3
図4