(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】波長ビーム結合システム
(51)【国際特許分類】
H01S 5/14 20060101AFI20240104BHJP
H01S 5/22 20060101ALI20240104BHJP
H01S 5/40 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
H01S5/14
H01S5/22 610
H01S5/40
(21)【出願番号】P 2020012036
(22)【出願日】2020-01-28
【審査請求日】2022-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 啓
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-054295(JP,A)
【文献】国際公開第2019/021802(WO,A1)
【文献】特開2012-156466(JP,A)
【文献】特開2016-111339(JP,A)
【文献】特表2019-505093(JP,A)
【文献】特開2019-102492(JP,A)
【文献】特開2015-106707(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0048028(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
H01S 3/00-3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長の異なった複数のビームを一点に結合する波長ビーム結合システムであって、
複数のエミッターを有する少なくとも1つのレーザーダイオードバーが配置されたレーザーダイオードバーアレイと、
前記レーザーダイオードバーアレイから出射された複数のビームを回折する回折格子と、
前記回折格子によって回折されたビームの一部を前記レーザーダイオードバーアレイにフィードバックしてビームの一部を外部共振させる外部共振ミラーと、
を備え、
ロック波長が、前記複数のエミッターの全てにおいて、
λ
ASE
± BW
ASE_bar
/2
の範囲内にある、
ただし、λ
ASE
はASE(Amplified Spontaneous Emission)ピーク波長であり、BW
ASE_bar
はレーザーダイオードバー内の各エミッターのASEバンド幅の平均値もしくは中央値である、
波長ビーム結合システム。
【請求項2】
前記レーザーダイオードバー内でのエミッター配列方向におけ
るロック波長の増減の傾き
の正負と
、前記レーザーダイオードバー内でのエミッター配列方向におけるASE(Amplified Spontaneous Emission)波長の増減の傾きの正負
とが同じ
であり、前記ASE波長の増減の傾きの絶対値が前記ロック波長の増減の傾きの絶対値よりも小さく、かつ、次式が成り立つ、
|Δλ
EC_bar|-|Δλ
ASE_bar| ≦ BW
ASE_bar
ただし、Δλ
EC_barはレーザーダイオードバー内のロック波長の変化量であり、Δλ
ASE_barはレーザーダイオードバー内のASEピーク波長の変化量であ
る、
請求項1に記載の波長ビーム結合システム。
【請求項3】
前記レーザーダイオードバー内でのエミッター配列方向におけ
るロック波長の増減の傾き
の正負と
、前記レーザーダイオードバー内でのエミッター配列方向におけるASE(Amplified Spontaneous Emission)波長の増減の傾きの正負
とが同じ
であり、前記ロック波長の増減の傾きの絶対値が前記ASE波長の増減の傾きの絶対値よりも小さく、かつ、次式が成り立つ、
|Δλ
ASE_bar|-|Δλ
EC_bar| ≦ BW
ASE_bar
ただし、Δλ
ASE_barはレーザーダイオードバー内のASEピーク波長の変化量であり、Δλ
EC_barはレーザーダイオードバー内のロック波長の変化量であ
る、
請求項1に記載の波長ビーム結合システム。
【請求項4】
前記レーザーダイオードバー内でのエミッター配列方向におけ
るロック波長の増減の傾き
の正負と
、前記レーザーダイオードバー内でのエミッター配列方向におけるASE(Amplified Spontaneous Emission)波長の増減の傾きの正負が
逆であり、かつ、次式が成り立つ、
|Δλ
EC_bar|+|Δλ
ASE_bar| ≦ BW
ASE_bar
ただし、Δλ
EC_barはレーザーダイオードバー内のロック波長の変化量であり、Δλ
ASE_barはレーザーダイオードバー内のASEピーク波長の変化量であ
る、
請求項1に記載の波長ビーム結合システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、波長ビーム結合システム、及びそれに用いられるレーザーダイオードバーアレイの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
波長の異なった複数のビームを一点に結合することで、高パワーのレーザービームを得るシステムとして、波長ビーム結合システム(WBC(Wavelength Beam Combining)システム)が知られている。WBCシステムは、例えば特許文献1等に記載されている。
【0003】
WBCシステムは、レーザーダイオードバー(LD(Laser Diode)バー)、ビームツイスターユニット(BTU(Beam Twister Lens Unit))、回折格子及び外部共振ミラー等を有する。
【0004】
LDバーは、複数のエミッターからビームを出射する。LDバーから出射された複数のビームは、BTUによって個々に90度回転される。これにより、個々のスポットが相互干渉することを防ぐことができる。BTUから出たビームは透過型もしくは反射型の回折格子に入射される。回折格子は、入射したビームをその波長で決定される回折角で回折し出射する。回折格子から出射されたビームは、外部共振ミラーに入射される。外部共振ミラーは部分透過ミラーであり、入射されるビームの一部を回折格子の方向に垂直反射する。これにより、LDバーの個々のエミッターと回折格子と外部共振ミラーの位置関係で一意に決定される波長(ロック波長と呼ぶ)だけが、LDバーのリアミラーと外部共振ミラーとの間でフィードバックし、外部共振発振することでレーザービームが出力される。
【0005】
LDバーの個々のエミッターはそれぞれ回折格子からの相対位置が異なるため、少しずつ異なる波長で外部共振発振することとなるが、外部共振ミラーにて一点に結合されるので、高いパワーのレーザービームを出力することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、WBCシステムでは、LDバーのゲインピーク波長(つまりLDバー自身の構成に起因するLDバーの発振波長であり、ASE(Amplified Spontaneous Emission)波長と呼ぶこともできる)と、外部共振によるロック波長との差が大きくなると、ビームが発振できなくなる。
【0008】
LDバー内の複数のエミッターのうち一部のエミッターでしか外部共振発振ができないと、WBCシステムが非効率なシステムとなる。
【0009】
本開示は、以上の点を考慮してなされたものであり、発振性能の向上した波長ビーム結合システム、及び、波長ビーム結合システムの発振性能を向上させることができるレーザーダイオードバーアレイの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の波長ビーム結合システムの一つの態様は、
複数のエミッターを持つレーザーダイオードバーが複数配置されたレーザーダイオードバーアレイと、前記レーザーダイオードバーアレイから出射された複数のビームを回折する回折格子と、前記回折格子によって回折されたビームの一部を前記レーザーダイオードバーアレイにフィードバックして外部共振させる外部共振ミラーと、を有する波長の異なった複数のビームを一点に結合する波長ビーム結合システムであって、
前記レーザーダイオードバーアレイは、少なくとも1つのレーザーダイオードバーのオフ角の主軸方向が、他のレーザーダイオードバーのオフ角の主軸方向に対して反転している、ように構成されている。
【0011】
本開示のレーザーダイオードバーアレイの製造方法の一つの態様は、 波長ビーム結合システムに用いられるレーザーダイオードバーアレイの製造方法であって、
1つのウェハ上に発光層を含む半導体レーザー積層構造を形成する工程と、
前記ウェハ上にエミッター部と、P側電極及びN側電極とを形成する工程と、
前記ウェハから複数のマルチエミッターレーザーダイオードバーを切り出す工程と、
前記複数のマルチエミッターレーザーダイオードバーを組みわせてレーザーダイオードバーアレイを作成する工程であり、少なくとも1つ以上のマルチエミッターレーザーダイオードバーのオフ角の主軸を反転させて前記レーザーダイオードバーアレイを作成する工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、波長ビーム結合システムの発振性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】WBCシステムの概略図(反射型回折格子の場合)
【
図5】1つのLDバー内の各エミッターに対する、WBCシステムのロック長の例を示した図
【
図7】LDバーの各エミッターのゲインピーク波長と、WBCシステムによるロック波長との関係を示した図
【
図8】LDバーの各エミッターのゲインピーク波長と、WBCシステムによるロック波長との関係を示した図
【
図9】実施の形態1の説明に供する図であり、
図9Aはm軸方向オフ基板とa軸方向オフ基板のオフ方向の様子を示した図、
図9Bは基板内でのLDバーの波長分布を示した図、
図9CはLDバーの反転とその効果の説明に供する図
【
図10】実施の形態2の条件1を説明するためのグラフ
【
図11】実施の形態2の条件2を説明するためのグラフ
【
図12】実施の形態2の条件3を説明するためのグラフ
【
図16】ロック波長とASEバンド幅の関係を示した図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0015】
<1>波長ビーム結合システムにおける発振の原理
先ず、本発明の実施の形態を説明する前に、本発明に至った経緯について説明する。
【0016】
図1は、WBCシステム10の概略図である。勿論、実際のWBCシステムは
図1に示した要素以外の構成要素を有するが、それらは省略されている。
【0017】
WBCシステム10は、複数のLDバー100からなるレーザーダイオードバーアレイ(LDバーアレイ)100Aと、透過型の回折格子200と、外部共振ミラー300と、を有する。なお、実際には、LDバー100と、回折格子200との間には、図示しないBTU等の光学系が設けられている。複数のLDバー100により、レーザーダイオードバーアレイが構成されている。
【0018】
本実施の形態では透過型の回折格子200を用いているが、本開示の技術は、
図2のような反射型の回折格子200’を用いたWBCシステム10’に適用することも可能である。
【0019】
図3に、1つのLDバー100の構成を示す。LDバー100は、互いに間隔をおいて形成された複数のエミッターの注入領域(電極と言ってもよい)101を有する。注入領域101は、LDバー100の長手方向に亘ってストライプ状に配列されている。図示しない電源供給部からLDバー100内の全ての注入領域101に並列に電圧が供給されることで、各注入領域101に対応するレーザーエレメントから外部共振方向に同時にレーザービームが出射される。
【0020】
図3では、リッジストライプと呼ばれる凸部ストライプ状の電流注入領域を持つレーザー構造としているが、他のレーザー構造でも構わない。
【0021】
図1に戻って説明する。WBCシステム10は、次のような特徴がある。
【0022】
・LDバー100の各エミッターから出射されるビームのうち、回折格子200の回折条件を満たし、かつ、外部共振ミラー300により垂直反射される波長のみが元のエミッター部に帰還することで、外部共振が発生しレーザー発振できる。
【0023】
・各LDバー100、及び、注入領域101に対応する各エミッターの発振波長は、回折格子200とLDバー100の配置によって一意に決まる。この波長をロック波長と呼ぶ。
【0024】
・LDバー100のゲインピーク波長(つまりLDバー100自身の構成に起因するLDバー100の発振波長)と、外部共振によるロック波長との差が大きくなると、ビームが発振できなくなる。
【0025】
ここで、回折格子200において、回折格子の周期をd、入射角をα、出射角をβ、波長をλ、次数をmとすると、回折格子200の回折条件は、次式で表すことができる。
d(sinα+sinβ)=mλ ………式(1)
【0026】
なお、ここで実際に有効な次数はm=1だけである回折格子配置を選択するのが一般的である。
【0027】
図4は1つのLDバー100と回折格子200との関係を示す図である。
図5は、1つのLDバー100内の各エミッターに対する、WBCシステム10のロック長の例を示した図である。図の例は、1つのLDバー100に50個のエミッターが形成され、1番目のエミッターから50番目のエミッターまでの長さ(
図4のLDバー100の長さW)が10[mm]の例である。
【0028】
3000本/mmの溝周期の回折格子(d=0.333[μm])の回折格子を用いて、400~500nm程度の波長の光を出射角βが45[°]となるように設定した場合、LDバー100の長さWが10[mm]、LDバー100から回折格子までの距離Lが2.6[m]のとき、LDバー100の両端のエミッターのロック波長の差ΔλEC_barは計算上で約1.0[nm]である。また、同じようにLDバー100の長さWが10[mm]、LDバー100から回折格子までの距離Lが1.3[m]のとき、LDバー100の両端のエミッターのロック波長の差ΔλEC_barは約2.0[nm]となる。
【0029】
このようにWBCシステム10の配置や部品の設計によってロック波長の変化量に差はあるが、LDバー100内の各エミッターのロック波長は、原理的に必ず少しずつ変化しており、10[mm]のバー内では1~2[nm]の変化量となる。
【0030】
図6は、LDバー100が発振できる波長の範囲を示す図である。図中の曲線は、LDバー100のゲインの波長依存性(ゲインスペクトルまたはASEスペクトルと呼ぶ)を示す。LDバー100が発振できるのはゲインが所定値以上の波長に限られる。換言すれば、LDバー100のゲインピーク波長から所定範囲内のロック波長は発振し、所定範囲外のロック波長は発振しない。図の例では、ロック波長1は発振できる波長の範囲内なので発振するが、ロック波長2は発振できる波長の範囲外なので発振しない。
【0031】
図7及び
図8は、LDバー100の各エミッターのゲインピーク波長(ASE波長といってもよい)と、WBCシステム10によるロック波長との関係を示したものである。上述したように、ロック波長は回折格子200への入射角の変化に対応した傾きをもつ。
【0032】
図7の例のように、LDバー100内のエミッターのゲインピーク波長の分布が、ロック波長の傾きの正負と同じ向きの場合で、全てのエミッターにおいて、ゲインピーク波長とロック波長との差が所定範囲内に収まっているので、全てのエミッターを発振させることができる。
【0033】
これに対して、
図8の例のように、LDバー100内のエミッターのゲインピーク波長の分布が、ロック波長の傾きの正負と異なる向きの場合で、一部のエミッターにおいて、ゲインピーク波長とロック波長との差が所定範囲外となるので、一部のエミッターを発振させることができない。
【0034】
本開示では、このような発振できないエミッターを低減し得る構成及び方法を提示する。
【0035】
<2>実施の形態1
LDバー100の製造では、先ず、1つのウェハ上に発光層を含む半導体レーザー積層構造をエピタキシャル成長により形成し、その後、ウェハ上にエミッター部としてリッジストライプ構造を形成し、P側電極及びN側電極を形成する。次いで、複数のマルチエミッターレーザーダイオードバー(すなわちLDバー100)を切り出し、LDバーのリア端面に高反射コート膜を、フロント端面に反射防止コート膜を形成する。さらに、切り出した複数のLDバー100を組み合わせることで、WBCシステム10で用いられるレーザーダイオードバーアレイが作製される。
【0036】
ところで、ウェハ内の波長分布は設備条件やエピタキシャル成長条件により様々な特徴的な分布となる(例えば同心円状など)。LDバーアレイ100Aを作成する際に、ウェハ内の波長分布を考慮すれば、波長分布の傾きの似たLDバーを組み合わせることができる。この際、波長分布に合わせてLDバーのフロントとリアを反転配置することで、LDバー内の波長分布をLDバー間で揃えることができる。
【0037】
本実施の形態では、ウェハとしてGaN基板を用いる。波長350nm以上550nm以下の波長帯の半導体レーザーを作製する場合には、一般的にGaN基板が母材ウェハとして用いられる。
【0038】
通常、GaN基板は面内にオフ角の分布を持つが、ある軸に対して一定のオフ角(0.3~0.7°)を傾けることが一般的なため、基板面内のオフ方向の主軸は一意に定まっており、オフ角の主軸方向は±m軸方向もしくは、±a軸方向であることが一般的である。また、同じ性能のLDバーを作製する場合は、同じ仕様のGaN基板を用いることが一般的である。よって、波長分布を揃えるために一部のLDバーの配置を上述のように反転配置すると、LDバーアレイ100Aの中にオフ軸の主軸方向が反転したLDバーが含まれることになる。
【0039】
【0040】
図9Aは、m軸方向オフ基板とa軸方向オフ基板のオフ方向の様子を示した図である。m軸方向オフ基板のオフ方向の主軸は+m軸方向であり、a軸方向オフ基板のオフ方向の主軸は+a軸方向であることが分かる。
【0041】
図9Bは、基板(ウェハ)内でのLDバーの波長分布を示した図である。図中の上矢印(↑)で示されたLDバーはLDバー内でのゲインピーク波長が左端から右端に向かって減少する(つまり傾きが負)のLDバーであり、図中の下矢印(↓)で示されたLDバーはLDバー内でのゲインピーク波長が左端から右端に向かって増加する(つまり傾きが正)のLDバーである。
【0042】
1つのLDバーアレイ100Aの中に、このような傾きの正負が反対のLDバーが混在すると、発振しないエミッターが生じる可能性が高まる。
【0043】
そこで、本実施の形態では、
図9Cに示したように、一部のLDバーをウェハ面内に180°反転させることにより、LDバーアレイ100Aを構成する複数のLDバー100のゲインピーク波長の増減の傾きの正負を合わせるようにする(
図9Cの中段のグラフを参照)。このとき、m軸方向オフ基板から切り出されたLDバーについては、
図9Cの上段に示されているようにオフ角の主軸の上下方向を反転させることとなり、a軸方向オフ基板から切り出されたLDバーについては、
図9Cの下段に示されているようにオフ角の主軸の左右方向を反転させることになる。
【0044】
つまり、本実施の形態のWBCシステム10においては、複数のLDバー100からなるLDバーアレイ100Aは、少なくとも1つのLDバー100のオフ角の主軸方向が、他のLDバー100のオフ角の主軸方向に対して反転している、ように構成されている。
【0045】
このようにすることで、ウェハ内の波長分布が存在するLDバーにおいても設計ロック波長とゲインピーク波長の差分を、LDバー内の全てのエミッターにおいて外部共振によるLD発振が可能な範囲に収めることができ、WBCシステムでの出力を最大化できる。
【0046】
<3>実施の形態2
LDバー100の長さがシステム内で一定であれば、LDバー100の長さに関わらず、LDバー100内での波長(ロック波長、ASE波長)の変化の大小関係から、LDバー全体で外部共振発振が可能か否かを定義できる。
【0047】
また、LDバー内での、ロック波長の増減の傾きと、ASEピーク波長の増減の傾きの向きの関係から、LDバー内全てのエミッターで外部共振発振が可能な条件を規定できる。本実施の形態では、このような条件を提案する。本実施の形態では、3パターンの条件を提案する。
【0048】
<3-1>条件1
図10は、条件1を説明するためのグラフである。
【0049】
LDバー100内でのエミッター配列方向における、ロック波長の増減の傾きの正負とASE(Amplified Spontaneous Emission)波長の増減の傾きの正負が同じ向きで、ASE波長の増減の傾きの絶対値がロック波長の増減の傾きの絶対値よりも小さく、かつ、次式が成り立つようにする。
|ΔλEC_bar|-|ΔλASE_bar| ≦ BWASE_bar ………式(2)
【0050】
ただし、ΔλEC_barはLDバー100内のロック波長の変化量であり、ΔλASE_barはLDバー100内のASEピーク波長の変化量であり、BWASE_barはLDバー100内の各エミッターのASEバンド幅の平均値もしくは中央値である。なお、ここで用いているパラメーターについては後で詳しく説明する。
【0051】
このようにすることで、LDバー内全てのエミッターで外部共振発振が可能となる。
【0052】
<3-2>条件2
図11は、条件2を説明するためのグラフである。
【0053】
LDバー100内でのエミッター配列方向における、ロック波長の増減の傾きの正負とASE(Amplified Spontaneous Emission)波長の増減の傾きの正負が同じ向きで、ロック波長の増減の傾きの絶対値がASE波長の増減の傾きの絶対値よりも小さく、かつ、次式が成り立つようにする。
|ΔλASE_bar|-|ΔλEC_bar| ≦ BWASE_bar ………式(3)
【0054】
ただし、ΔλASE_barはLDバー100内のASEピーク波長の変化量であり、ΔλEC_barはLDバー100内のロック波長の変化量であり、BWASE_barはLDバー100内の各エミッターのASEバンド幅の平均値もしくは中央値である。
【0055】
このようにすることで、LDバー内全てのエミッターで外部共振発振が可能となる。
【0056】
<3-3>条件3
図12は、条件3を説明するためのグラフである。
【0057】
LDバー100内でのエミッター配列方向における、ロック波長の増減の傾きの正負とASE(Amplified Spontaneous Emission)波長の増減の傾きの正負が反対向きであり、かつ、次式が成り立つようにする。
|ΔλEC_bar|+|ΔλASE_bar| ≦ BWASE_bar ………式(4)
【0058】
ただし、ΔλEC_barはLDバー100内のロック波長の変化量であり、ΔλASE_barはLDバー100内のASEピーク波長の変化量であり、BWASE_barはLDバー100内の各エミッターのASEバンド幅の平均値もしくは中央値である。
【0059】
<3-4>比較例
図13は、本実施の形態に対する比較例として、一部のエミッターの発振効率が低下する(つまり発振できない)例を示したグラフである。
【0060】
<3-5>補足
本実施の形態で用いたパラメーター等について、
図14及び
図15を用いて補足する。
【0061】
図14は、ASEスペクトルの例を示す。ASEスペクトルはLDバーの発振前のELスペクトル(Electro-luminescence、電流注入発光スペクトル)と定義され、本開示においては、注入電流値I=0.1×I
thの時のELスペクトルと定義する。I
thはLDバーの内部共振発振の閾値電流である。λ
ASEはASEスペクトルのピーク波長である。Δλ
ASE_barはLDバー内のASEピーク波長の変化量(右端-左端)である。BW
ASEはASEスペクトルのピーク強度を基準にスライスレベルSL=0.9で定義したバンド幅である。BW
ASE_barはLDバー内の各エミッターのASEバンド幅の平均値(もしくは中央値)である。K
ASE_barはΔλ
ASE_bar/W
barであり、LDバー内のASEピーク波長の傾き(W
barはLDバー長)である。
【0062】
図15は、PLスペクトルの例を示す。PLスペクトルはLDバーのPLスペクトル(Photoluminescence、光励起発光スペクトル)と定義できる。λ
PLはPLスペクトルのピーク波長である。Δλ
PL_barはLDバー内のPLピーク波長の変化量(右端-左端)である。BW
PLはPLスペクトルのピーク強度を基準にスライスレベル0.9で定義したバンド幅である。BW
PL_barはLDバー内の各エミッターのPLバンド幅の平均値(もしくは中央値)である。K
PL_barはΔλ
PL_bar/W
barであり、LDバー内のPLピーク波長の傾き(W
barはLDバー長)である。なお、弱励起条件でのPLスペクトルのBWでASEスペクトルのBWを代用できる(ピーク波長は変化するが、BWはほぼ同じである)。
【0063】
図16は、ロック波長のチューニングレンジとASEバンド幅の関係を示した図である。ロック波長は同じエミッターにおいて、回折格子の角度を少しずつ変化させてロック波長を変化させたときの外部共振発振の規格化強度を図示したものである。ASEスペクトルとロック波長のチューニングレンジはピークの波長が多少ずれることが一般的であるが、
図16では便宜上、波長帯を揃えて図示している。図中のTRは、実用的に外部共振でLDバーが発振可能な範囲であり、規格化強度90%以上が望ましく、95%以上がより好ましい。ここでいう実用的とは、電流値の変化による出力の変化や、長時間の使用による特性の変化を鑑みて、初期に満たしておくことが望ましい外部共振状態を指す。図中のBW
ASEは、ASEスペクトルのスライスレベルSL=0.9のバンド幅であり、外部共振可能なロック波長のチューニングレンジと概ね一致することが分かっている。
【0064】
本実施の形態では、上述の条件1、条件2又は条件3に従って、LDバー100及びWBCシステム10の構成を規定することを提案する。これにより、LDバー100内全てのエミッターで外部共振発振が可能となる。
【0065】
なお、実施の形態1の構成及び方法を採用すると、条件1、条件2又は条件3を満たすことが容易となる。つまり、実施の形態1と実施の形態2とを組み合わせると、発振性能の向上したWBCシステム10をより容易に実現できるようになる。
【0066】
ただし、本実施の形態は、実施の形態1と組み合わせずに実施してもよい。
【0067】
上述の実施の形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することの無い範囲で、様々な形で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の波長ビーム結合システム、及びレーザーダイオードバーアレイの製造方法は、波長ビーム結合システムの発振性能を向上させる技術として好適である。
【符号の説明】
【0069】
10、10’ 波長ビーム結合システム(WBCシステム)
100 レーザーダイオードバー(LDバー)
100A レーザーダイオードバーアレイ(LDバーアレイ)
101 注入領域
200、200’ 回折格子
300 外部共振ミラー