(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】杭支持構造体、杭ユニット、及びこれらの設置方法
(51)【国際特許分類】
E01F 13/02 20060101AFI20240104BHJP
【FI】
E01F13/02 Z
(21)【出願番号】P 2020018556
(22)【出願日】2020-02-06
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】506140033
【氏名又は名称】株式会社日本ランテック
(73)【特許権者】
【識別番号】520045295
【氏名又は名称】株式会社日本ライフテック
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【氏名又は名称】藤田 正広
(74)【代理人】
【識別番号】100179280
【氏名又は名称】河村 育郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 辰也
(72)【発明者】
【氏名】山田 明嗣
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-094321(JP,U)
【文献】実開昭61-106521(JP,U)
【文献】国際公開第02/090663(WO,A1)
【文献】特開2014-163188(JP,A)
【文献】特開平10-082025(JP,A)
【文献】特開2007-126933(JP,A)
【文献】特開平10-001919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭を地表上に起立させるための杭支持構造体であって、
地中に設置されて前記杭の下端部を支持する支持部と、
前記杭に衝撃が加えられた際に破壊される樹脂製の緩衝部とを備え、
前記支持部は、前記杭の下端部を囲む筒状の本体部と、前記本体部の上端側に
おいて前記本体部に固定され且つ前記本体部よりも径が大きい大径部とを有し、
前記緩衝部は、前記大径部の下側において前記本体部を囲んで配置される円筒状の部材であり、前記緩衝部の外径が軸方向の全域に渡って一定であるか、又は前記緩衝部の下端側の外径が前記緩衝部の上端側の外径よりも大き
く、
前記大径部が、前記本体部よりも径が大きい大径筒部と、前記本体部及び前記大径筒部の径方向に延びて前記本体部と前記大径筒部とを連結するリブとを含む杭支持構造体。
【請求項2】
前記緩衝部が、前記緩衝部の下端側に向かうにしたがって外径が大きくなる円錐台形状を有する請求項1に記載の杭支持構造体。
【請求項3】
前記大径部は、前記杭に荷重が加えられた際に、前記大径部の外周部を支点として前記杭支持構造体が傾くように構成されている請求項1又は2に記載の杭支持構造体。
【請求項4】
前記リブは複数の平板部材であり、
該複数の平板部材は、該複数の平板部材の各々の厚さ方向が前記本体部の周方向に沿うように、前記本体部の周方向に等間隔で配置されている請求項
1~3のいずれか一項に記載の杭支持構造体。
【請求項5】
前記リブは複数の平板部材であり、
該複数の平板部材は、該複数の平板部材の各々の厚さ方向が前記本体部の軸方向に沿うように、前記本体部の周方向に等間隔で配置されており、
該複数の平板部材のうちの周方向に隣接する2つの平板部材は、一方が前記大径筒部の軸方向の一端側に配置されており、他方が前記大径筒部の軸方向の他端側に配置されている請求項
1~3のいずれか一項に記載の杭支持構造体。
【請求項6】
杭を地表上に起立させるための杭支持構造体であって、
地中に設置されて前記杭の下端部を支持する支持部と、
前記杭に衝撃が加えられた際に破壊される樹脂製の緩衝部とを備え、
前記支持部は、前記杭の下端部を囲む筒状の本体部と、前記本体部の上端側に設けられ且つ前記本体部よりも径が大きい大径部とを有し、
前記緩衝部は、前記大径部の下側において前記本体部を囲んで配置される円筒状の部材であり、前記緩衝部の下端側の外径が前記緩衝部の上端側の外径よりも大きく、
前記緩衝部が、前記緩衝部の下端側に向かうにしたがって外径が大きくなる円錐台形状を有する杭支持構造体。
【請求項7】
前記支持部が、前記大径部の上側に取り付けられる保護カバーを有する請求項1~6のいずれか一項に記載の杭支持構造体。
【請求項8】
前記杭の前記支持部に対する軸方向の移動を規制する脱落防止機構を備える請求項1~7のいずれか一項に記載の杭支持構造体。
【請求項9】
前記緩衝部の外径が前記大径部の外径よりも小さい請求項1~8のいずれか一項に記載の杭支持構造体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の杭支持構造体と、
前記杭支持構造体の前記支持部と前記緩衝部とを周方向に囲んで一体に固定するコンクリートとを備える基礎ユニット。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載の杭支持構造体と、
前記杭支持構造体により支持される杭とを備える杭ユニット。
【請求項12】
請求項10に記載の基礎ユニットと、
前記基礎ユニットにより支持される杭とを備える杭ユニット。
【請求項13】
杭を地表上に起立させるための杭支持構造体を設置する方法であって、
地中に設置されて前記杭の下端部を支持する支持部であって、前記杭の下端部を囲む筒状の本体部と、前記本体部の一端側に設けられ且つ前記本体部よりも径が大きい大径部とを有する支持部を、前記一端側を下側として型枠内に配置することと、
円筒状の緩衝部であって、前記緩衝部の外径が軸方向の一端側と他端側に渡る全域において一定であるか、又は前記緩衝部の前記一端側の外径が前記緩衝部の前記他端側の外径よりも大きい緩衝部を、前記大径部の上側において、前記他端側が前記一端側よりも上方となるように前記本体部を囲んで配置することと、
前記型枠内の前記支持部及び前記緩衝部の周囲にコンクリートを充填して該コンクリートを硬化させ、前記本体部、前記緩衝部、及び前記コンクリートが一体化された基礎ユニットを形成することと、
前記地表に形成した孔に、前記基礎ユニットを、前記本体部の前記一端側が上側となるように設置することを含む方法。
【請求項14】
杭ユニットを設置する方法であって、
請求項13に記載の方法により杭支持構造体を設置することと、
前記杭支持構造体の前記支持部の前記本体部に、杭の下端部を挿入することを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭支持構造体、杭ユニット、杭支持構造体の設置方法、及び杭ユニットの設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車道と歩道との境界部になんらかの障壁を設けて、歩道への車両の誤侵入を防止することが望ましい。このような障壁は、ガードレールやポール、縁石等によって与え得る。
【0003】
特許文献1には、車道と歩道との境界に設置され得る車止めの一例が開示されている。特許文献1の開示する車止めは、弾性を有する支柱外皮中に発泡体を充填発泡させた構成を有する。
【0004】
特許文献2には、車両の進入を防止するための車止めポールが開示されている。特許文献2の開示する車止めポールは、鋳鉄からなる空洞の車止めポールの空洞内に可撓性材質の中芯を挿入した構造を有する。
【0005】
特許文献3には、エネルギー吸収性能を備えた安全ボラードが開示されている。特許文献3の開示する安全ボラードにおいては、コンクリートの基礎に設けた凹部の中央に支柱1が直立している(特許文献3:
図1、
図2)。凹部は、下方に向かうにしたがって径が小さくなるテーパ状である。凹部内においては、支柱1の周囲に砂などの粒状物質が配置されている。地表近傍においては、支柱1の周囲に円環状のバッファ8が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4238800号明細書
【文献】特開2001-140228号
【文献】国際公開第02/090663号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1が開示する車止め、及び特許文献2が開示する車止めポール、及び特許文献3が開示する安全ボラードは、いずれも、車両の停止時に車両の乗員に与える衝撃を緩和することができる。その一方で、衝撃緩和のために、車止め、車止めポール、支柱が大きく傾き、歩道側に侵入する。
【0008】
本発明は、車両内の乗員に与える衝撃を抑制しつつ、車両の進行を短距離で停止することができる杭支持構造体、杭ユニット、及びこれらの設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様に従えば、
杭を地表上に起立させるための杭支持構造体であって、
地中に設置されて前記杭の下端部を支持する支持部と、
前記杭に衝撃が加えられた際に破壊される樹脂製の緩衝部とを備え、
前記支持部は、前記杭の下端部を囲む筒状の本体部と、前記本体部の上端側に設けられ且つ前記本体部よりも径が大きい大径部とを有し、
前記緩衝部は、前記大径部の下側において前記本体部を囲んで配置される円筒状の部材であり、前記緩衝部の外径が軸方向の全域に渡って一定であるか、又は前記緩衝部の下端側の外径が前記緩衝部の上端側の外径よりも大きい杭支持構造体が提供される。
【0010】
第1の態様の杭支持構造体において、前記緩衝部が、前記緩衝部の下端側に向かうにしたがって外径が大きくなる円錐台形状を有してもよい。
【0011】
第1の態様の杭支持構造体において、前記大径部は、前記杭に荷重が加えられた際に、前記大径部の外周部を支点として前記杭支持構造体が傾くように構成されていてもよい。
【0012】
第1の態様の杭支持構造体において、前記大径部が、前記本体部よりも径が大きい大径筒部と、前記本体部及び前記大径筒部の径方向に延びて前記本体部と前記大径筒部とを連結するリブとを含んでもよい。
【0013】
第1の態様の杭支持構造体において、前記リブは複数の平板部材であってもよく、該複数の平板部材は、該複数の平板部材の各々の厚さ方向が前記本体部の周方向に沿うように、前記本体部の周方向に等間隔で配置されていてもよい。
【0014】
第1の態様の杭支持構造体において、前記リブは複数の平板部材であってもよく、該複数の平板部材は、該複数の平板部材の各々の厚さ方向が前記本体部の軸方向に沿うように、前記本体部の周方向に等間隔で配置されていてもよく、該複数の平板部材のうちの周方向に隣接する2つの平板部材は、一方が前記大径筒部の軸方向の一端側に配置されており、他方が前記大径筒部の軸方向の他端側に配置されていてもよい。
【0015】
第1の態様の杭支持構造体において、前記支持部が、前記大径部の上側に取り付けられる保護カバーを有してもよい。
【0016】
第1の態様の杭支持構造体は、前記杭の前記支持部に対する軸方向の移動を規制する脱落防止機構を備えてもよい。
【0017】
第1の態様の杭支持構造体において、前記緩衝部の外径が前記大径部の外径よりも小さくてもよい。
【0018】
本発明の第2の態様に従えば、
第1の態様の杭支持構造体と、
前記杭支持構造体の前記支持部と前記緩衝部とを周方向に囲んで一体に固定するコンクリートとを備える基礎ユニットが提供される。
【0019】
本発明の第3の態様に従えば、
第1の態様の杭支持構造体と、
前記杭支持構造体により支持される杭とを備える杭ユニットが提供される。
【0020】
本発明の第4の態様に従えば、
第2の態様の基礎ユニットと、
前記基礎ユニットにより支持される杭とを備える杭ユニットが提供される。
【0021】
本発明の第5の態様に従えば、
杭を地表上に起立させるための杭支持構造体を設置する方法であって、
地中に設置されて前記杭の下端部を支持する支持部であって、前記杭の下端部を囲む筒状の本体部と、前記本体部の一端側に設けられ且つ前記本体部よりも径が大きい大径部とを有する支持部を、前記一端側を下側として型枠内に配置することと、
円筒状の緩衝部であって、前記緩衝部の外径が軸方向の一端側と他端側に渡る全域において一定であるか、又は前記緩衝部の前記一端側の外径が前記緩衝部の前記他端側の外径よりも大きい緩衝部を、前記大径部の上側において、前記他端側が前記一端側よりも上方となるように前記本体部を囲んで配置することと、
前記型枠内の前記支持部及び前記緩衝部の周囲にコンクリートを充填して該コンクリートを硬化させ、前記本体部、前記緩衝部、及び前記コンクリートが一体化された基礎ユニットを形成することと、
前記地表に形成した孔に、前記基礎ユニットを、前記本体部の前記一端側が上側となるように設置することを含む方法が提供される。
【0022】
本発明の第6の態様に従えば、
杭ユニットを設置する方法であって、
第5の態様の方法により杭支持構造体を設置することと、
前記杭支持構造体の前記支持部の前記本体部に、杭の下端部を挿入することを含む方法が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明の杭支持構造体、杭ユニット、及びこれらの設置方法によれば、車両内の乗員に与える衝撃を抑制しつつ、車両の進行を短距離で停止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る杭ユニットの分解斜視図である。
【
図2】
図2(a)~
図2(d)は、杭ユニットの設置工程を示す説明図である。
【
図3】
図3(a)~
図3(c)は、車両を停止する際の杭ユニットの作用を説明するための説明図である。
【
図4】
図4は、本発明の変形例に係る杭ユニットが備える緩衝部の斜視図である。
【
図5】
図5(a)、
図5(b)は、車両を停止する際の変形例の杭ユニットの作用を説明するための説明図である。
【
図6】
図6(a)は、支持部の変形例を示す斜視図である。
図6(b)は、変形例の支持部が有する大径部を軸方向に見た図である。
図6(c)は、変形例の支持部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<実施形態>
本発明の実施形態の杭ユニット100、及び杭ユニット100の設置方法を、車道と歩道との間に杭ユニット100を設置する場合を例として説明する。
【0026】
[杭ユニット100の構造]
図1に示す通り、杭ユニット100は、円柱状の杭10と、略円筒状の支持部20と、円筒状の緩衝部30とが同軸状に組み合わされた構造を有する。
【0027】
以下においては、杭ユニット100の中心軸Aの延びる方向を杭ユニット10の軸方向と呼ぶ。また、中心軸Aを中心とする周方向、放射方向をそれぞれ、杭ユニット10の周方向、径方向と呼ぶ。
【0028】
杭10は、地表から上方に延びて車道と歩道との間に障壁を形成する部分である。杭10は、一例として炭素鋼により形成され得る。
【0029】
杭10は、中心軸Aを中心とする円柱形状である。杭10の下端10bの近傍には、径方向に杭10を貫通する孔10hが設けられている。孔10hには、脱落防止ピンP1(後述)が挿入される。
【0030】
杭10の長さは、一例として1300mm~1700mm程度とし得る。杭10の直径は、一例として100mm~200mm程度とし得る。
【0031】
支持部20は、地中に埋設されて杭10を支持する部分である。支持部20は、一例として、炭素鋼、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)等により形成されている。炭素鋼としては例えば、一般構造用炭素鋼鋼管(STK)を用いることができる。
【0032】
支持部20は、軸方向に延びる本体部21と、本体部21の上端21tに設けられた大径部22と、大径部22の上面に配置される保護カバー23とを有する。
【0033】
本体部21は、中心孔21Aを有する円筒状の部分である。設置状態においては、中心孔21Aに杭10の下端10b近傍の部分が挿入される。本体部21の上端21tの近傍には、本体部21を径方向に貫通するように、径方向に延びる一対の孔21h1が設けられている。一対の孔21h1には、脱落防止ピンP1(後述)が挿入される。一対の孔21h1は、軸方向において、大径部22(後述)と重複する位置に設けられている。
【0034】
本体部21の軸方向中央近傍には、本体部21を径方向に貫通するように、径方向に延びる一対の孔21h2が設けられている。一対の孔21h2には、支持ピンP2(
図1、
図2(a)~
図2(d))が挿入され、固定されている。
【0035】
本体部21の長さは任意であるが、一例として600mm~900mm程度とし得る。本体部21の内径は、本体部21に挿入された杭10の外周面と、本体部21の内周面とが互いに接触するように、杭10の外径よりもわずかに大きな値とすることが望ましい。これにより、杭10の揺動(ぐらつき)を抑制することができる。
【0036】
本体部21の厚さは、一例として3mm~10mm程度とし得る。
【0037】
大径部22は、杭10に衝撃が加えられた際に、杭ユニット10に枢動の支点を与える部分である。大径部22は、大径円筒部221と、6つのリブ222とを含む。
【0038】
大径円筒部221は、中心軸Aを中心とする円筒形状である。
【0039】
大径円筒部221の長さは、一例として本体部21の長さの1/6~1/10程度とし得る。また、大径円筒部221の外径は、一例として300mm~400mm程度とし得る。大径円筒部221の外径は、本体部21の外径の1.5倍~4倍程度であってもよい。
【0040】
6つのリブ222は、大径円筒部221を本体部21に対して固定する部分である。6つのリブ222の各々は矩形の平板であり、厚さは3mm~10mm程度とし得る。
【0041】
6つのリブ222の各々は、本体部21及び大径円筒部221の径方向にリブ222の長辺方向を一致させた状態で配置されている。また、6つのリブ222は、本体部21及び大径円筒部221の周方向において、等間隔に配置されている。
【0042】
6つのリブ222の各々の一方の短辺は本体部21の外周面に溶接により固定されており、他方の短辺は大径円筒部221の内周面に溶接により固定されている。
【0043】
保護カバー23は、設置状態において大径部22の上面を覆い、支持部20への雨水等の侵入を防止する部材である。保護カバー23は、円盤状(円環状、リング状)である。カバー23の内径は、本体部21の内径に等しく、カバー23の外径は大径円筒部221の外径に等しい。保護カバー23は、一例として金属又は樹脂により形成し得る。
【0044】
緩衝部30は、設置状態においては支持部20の本体部21の周囲に埋設され、杭10に衝撃が加えられた場合には、その一部を吸収する部分である。
【0045】
緩衝部30は、一例として緩衝性を有する樹脂により形成されている。緩衝性を有する樹脂の一例は、発泡スチロール、ウレタン等である。
【0046】
緩衝部30は、中心孔30Aを有する円筒状の部分である。設置状態においては、中心孔30Aに支持部20の本体部21が挿入される。
【0047】
緩衝部30の長さは、本実施形態では、本体部21の、大径部22を有さない部分の長さと同一である。
【0048】
緩衝部30の内径は、中心孔30Aに挿入された支持部20の本体部21の外周面と、緩衝部30の内周面とが互いに接触するように、本体部21の外径よりもわずかに大きな値とすることが望ましい。
【0049】
本実施形態では、緩衝部30の外径は、支持部20が有する大径部22の大径円筒部221の外径と同一である。また、緩衝部30の外径は、緩衝部30の軸方向の全域に渡って一定である。これにより、緩衝部30の製造を容易とし、製造コストを低下することができる。
【0050】
なお、杭ユニット100のうちの、支持部20と緩衝部30とにより、本実施形態の杭支持構造体が形成される。
【0051】
[杭ユニット100の設置方法]
杭ユニット100の道路上への設置は、次のように行う。
【0052】
(1)基礎ユニットBUの形成
まず、支持部20を、大径部22を下側にして円柱状の型枠500の内部に配置する。支持部20の中心軸Aが型枠500の中心軸に一致するように配置する(
図2(a))。
【0053】
次に、緩衝部30を配置する。本体部21の、大径部22を有さない領域の全域を緩衝部30によって覆うように、緩衝部30の中心孔30Aに支持部20の本体部21を挿入する(
図2(a))。
【0054】
その後、支持部20及び緩衝部30の周囲がコンクリートCにより満たされるように、型枠500の内部にコンクリートCを流し込み、硬化させる(
図2(b))。これにより、支持部20、緩衝部30がコンクリートCによって一体に固められた円柱状の基礎ユニットBUが形成される。なお、杭10と基礎ユニットBUにより杭ユニットが構成されると捉えてもよい。
【0055】
(2)道路上への設置
道路上の、杭ユニット100を設置する位置に、円柱状の凹部Rを形成する。そして、型枠500から取り出した基礎ユニットBUを、凹部Rの内部に配置する。この時、支持部20の大径部22が上側(地表側)に位置するように基礎ユニットBUを配置する。また、基礎ユニットBU(支持部20及び緩衝部30)の中心軸Aが凹部Rの中心軸に一致するように配置する(
図2(c))。
【0056】
次に、本体部21の中心孔21Aに杭10の下端10b近傍の部分を挿入する。杭10の下端10bが、本体部21の支持ピンP2に当接して、支持ピンP2に支持される。この状態において、杭10の孔10hと、本体部21の一対の孔21h1との軸方向の位置が揃う(
図2(d))。
【0057】
支持ピンP2は、700mm~900mm程度の長さを有する本体部21の略中央部に設けられている。そのため、杭10の下端10bから350mm~450mm程度の領域が本体部21の中心孔21A内に挿入される。本体部21の中心孔21A内の支持ピンP2よりも下側の領域には、杭10は存在しない。このように、支持部20の本体部21の略中央部に支持ピンP2を設けて杭10の下端10bを支持することで、杭10の長さを必要最小限とすることができ、ひいては杭ユニット100の低コスト化を図ることができる。なお、支持ピンP2を省略して、杭10が本体部21の全域に挿入される構成としてもよい。
【0058】
次に、杭10の孔10hと、本体部21の一対の孔21h1とを貫通するように固定ピンP1を挿入する。これにより、杭10の盗難が防止され、杭10に大きな衝撃が加えられた場合も、杭10の本体部21からの脱落が良好に防止される。固定ピンP1の先端に孔を設け、ここに南京錠を掛けてもよい。これにより、固定ピンP1の孔10h及び一対の孔21h1からの脱落が防止され、杭10の本体部21からの脱落がより良好に防止される。
【0059】
その後、支持部20の保護カバー23を、大径部22の上に設置する。保護カバー23の大径部22に対する固定は、例えば、保護カバー23が金属製であれば溶接により、保護カバー23が樹脂製であれば接着剤により行い得る。これにより、杭ユニット100の設置が完了する。なお、支持部20は保護カバー23を有さなくてもよい。また、保護カバー23の設置に代えて、又は保護カバー23の設置に加えて、大径部22の内部にウレタン樹脂等を吹き付けて充填してもよい。
【0060】
[杭ユニット100による車両の停止]
本実施形態の杭ユニット100は、次のようにして、車両内の乗員に与える衝撃を抑制しつつ、車両の進行を短距離で停止する。
【0061】
車道を逸脱した車両が杭ユニット100に衝突する場合、地表より上方に突出する杭10に対して、衝突による荷重Fが、車道側から歩道側に向けて、略水平方向に加えられる(
図3(a))。
【0062】
ここで、杭ユニット100の下端部100bは、杭10及び支持部20に比較して柔らかく、破壊により衝撃を吸収するように構成された緩衝部30が支持部20を囲む構成である。また、杭ユニット100は、水平方向では荷重Fが加えられる側とは反対側(即ち歩道側)において、垂直方向では荷重Fが加えられる部分と杭ユニット100の下端部100bとの間において、支持部20の大径部22の大径円筒部221がコンクリートCに接触している(以下、この接触部分を支持接触部SCと呼ぶ)。
【0063】
そのため、荷重Fを受けた杭ユニット100は、支持接触部SCを支点としてテコのように枢動する。即ち、支持接触部SCよりも上方に位置する杭10が歩道側に傾き、支持接触部SCよりも下方に位置する支持部20の本体部21が、緩衝部30を破壊しながら車道側に傾く(
図3(b))。
【0064】
杭ユニット100は、車両の衝突時に上記の通り枢動することにより、車両の衝突により加えられる荷重Fの一部を、反力として車両に与えることなく、緩衝部30の破壊に用いる。これにより、杭ユニット100による車両の停止時に車両に加えられる衝撃が抑制される。
【0065】
また、杭10が傾斜することにより、車両が杭10に加えようとする力の一部を、杭10に伝えることなく上方に逃がすことができる。即ち、車両10が傾斜した杭10の側面に乗り上げることにより、車両の運動エネルギーの一部は、杭10に荷重として加えられることなく、車両の上方への移動に費やされる。これによっても、杭ユニット100による車両の停止時に車両に加えられる衝撃が抑制される。
【0066】
なお、大径部22が本体部21の上端21tに設けられており、支持接触部SCが地表の近傍に画成されるため、杭ユニット100の枢動の中心Xも地表の近傍に位置する。したがって、杭ユニット100の枢動による杭10の歩道側への移動量は、特許文献1の開示する車止めや特許文献2の開示する車止めポールのように杭自体がたわむ場合や、特許文献3の開示する安全ボラードのように支柱の枢動の中心が支柱の下端に位置する場合に比較して小さい。
【0067】
車両の重量が大きい場合や、車両の速度が大きい場合など、緩衝部30の破壊と杭10の傾斜のみでは十分に衝突の衝撃を吸収できない場合には、杭ユニット10は、更に次のようにして衝撃を吸収する。
【0068】
支持部20の周囲の緩衝部30が破壊され、支持部20の下端部がコンクリートに衝突した状態においても車両が停止に至っていない場合、杭ユニット100は、大径部22を破壊させて水平方向に移動する(
図3(c))。杭ユニット100は、この水平移動により、車両の衝突により加えられる荷重Fの一部を、反力として車両に与えることなく、大径部22の破壊に用いる。
【0069】
このように杭ユニット100は、緩衝部30の破壊と杭10の傾斜のみでは十分に衝突の衝撃を吸収できない場合には、大径部22を破壊させて、杭ユニット100による車両の停止時に車両に加えられる衝撃を抑制する。この場合も、大径部22の破壊による衝撃吸収を行うため、杭ユニット100の歩道側への水平移動の量は大きくない。
【0070】
本実施形態の杭ユニット100の効果を以下にまとめる。
【0071】
本実施形態の杭ユニット100は、車両が杭10に衝突した際にテコの様に枢動し、衝突により杭10に加えられた荷重の一部を、反力として車両に与えることなく、緩衝部30の破壊に用いる。したがって、車両内の乗員に与える衝撃を抑制しつつ、車両を停止することができる。
【0072】
本実施形態の杭ユニット100の支持部20においては、本体部21の上端21tに大径部22が設けられており、車両が杭10に衝突した際に枢動する杭ユニット100の枢動中心Xは地表の近傍に位置する。よって、杭ユニット100の枢動による杭10の移動量が小さく、車両の進行を短距離で停止することができる。
【0073】
本実施形態の杭ユニット100は、車両の有する運動エネルギーが大きい場合には、大径部22を破壊させてこれを吸収する。したがって、車両の速度や重量が大きい場合でも、車両内の乗員に与える衝撃を抑制しつつ、短距離で車両を停止することができる。
【0074】
本実施形態の杭ユニット100は、車両の停止時に破壊し得る支持部20と、炭素鋼により形成された強度の高い杭10とを別体として有する。したがって、車両の衝突があった場合は、支持部20及び緩衝部30を取り換えつつ、杭10は再利用することができる。
【0075】
本実施形態の杭ユニット100の支持部20が有する支持ピンP2は、杭ユニット100を道路上から抜去する際に用いることができる。即ち、杭10を取り除いたのち、支持ピンP2にフック等を引っ掛けてクレーン等で引き上げることで、容易に杭ユニット100を抜去することができる。また、本実施形態の杭ユニット100の緩衝部30は、杭ユニット100の抜去時に、支持部20とコンクリートCとの剥離を容易として、支持部20の再利用を容易とするという効果も奏する。
【0076】
<変形例>
上記実施形態の杭ユニット100において、次の変形態様を用いることもできる。
【0077】
上記実施形態の杭ユニット100においては、緩衝部30の外径が、支持部20が有する大径部22の大径円筒部221の外径に等しい。しかしながらこれには限られず、緩衝部30の外径は任意に設計しえる。緩衝部30の外径は、例えば、緩衝部30の厚さ(即ち、外径と内径との差分の2分の1に相当する値)が約10mm~約150mm程度となるように設定し得る。一般に、緩衝部30の外径が大きいほど(緩衝部30の厚さが大きいほど)、緩衝部により吸収される衝撃の量が大きくなり、車両停止時に車両に与える衝撃を小さくすることができる。
【0078】
一方で、緩衝部30の外径を小さくすることで、基礎ユニットBUにおいてはより多くのコンクリートCを使用することになり、基礎ユニットBUの重量が大きくなる。基礎ユニットBUの重量を大きくすることで、杭ユニット100に想定以上の衝撃が加わった場合に生じ得る、基礎ユニットBU自体の位置ずれを防止することができる。
【0079】
上記実施形態の杭ユニット100においては、停止対象の車両により加えられると想定される大きさの荷重が杭10に加えられた場合に、杭10が垂直方向から約17°以上傾くことなく車両の停止を行えるよう、各部材の寸法や強度、特に大径円筒部221の外径、緩衝部30の厚さを設定してもよい。杭10の傾きを約17°よりも小さい範囲に抑えることで、車両が杭10に乗り上げて杭10を乗り越える危険性をより小さくすることができる。
【0080】
また、緩衝部30に代えて、
図4に示す緩衝部40を用いてもよい。緩衝部40は、軸方向に延びる中心孔40Aとテーパ状に広がる外周面とを有する筒状の円錐台である。
【0081】
緩衝部40の内径は、中心孔40Aに挿入された支持部20の本体部21の外周面と、緩衝部40の内周面とが互いに接触するように、本体部21の外径よりもわずかに大きな値とすることが望ましい。緩衝部40の外径は、上端40tにおいては、大径円筒部221の外径と同程度と得る。下端40bにおいては、上端40tにおける外径よりも大きい任意の寸法とし得る。
【0082】
図5に示すように、下端部近傍において大径となった緩衝部40を用いることで、衝突に伴って杭ユニット100が枢動する場合に、保持部20の本体部21の下端部21bの可動距離を大きくすることができ、本体部21が破壊する緩衝部40の量を大きくすることができる。これにより、緩衝部により吸収される衝撃の量が大きくなり、車両停止時に車両に与える衝撃をより小さくすることができる。
【0083】
なお、
図5(b)に示す緩衝部50のように、小径の円筒状の緩衝部51と、緩衝部51の下方に配置される大径の円筒状の緩衝部52とを組み合わせた構造を用いることもできる。この場合も、保持部20の本体部21の下端部21bの可動距離を大きくすることができ、本体部21が破壊する緩衝部50の量を大きくすることができる。これにより、緩衝部により吸収される衝撃の量が大きくなり、車両停止時に車両に与える衝撃をより小さくすることができる。
【0084】
杭10は、任意の形状、材質とすることができる。具体的には例えば、四角柱や、多角柱であってよい。杭10の軸方向に直交する断面の形状が四角形や多角形である場合は、支持部20の本体部21及び大径部22、緩衝部30の断面形状も、杭10の断面形状と同一とし得る。
【0085】
杭10を、炭素鋼ではなく、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)等により形成することもできる。
【0086】
上記実施形態の杭ユニット100においては、支持部20の大径部22を、大径円筒部221と6つのリブ222とにより構成していたが、これには限られない。具体的には例えば、リブ222の数は6つに限られず任意である。
【0087】
リブ222のような、リブ222の厚さ方向が本体部21及び大径円筒部221の周方向に沿うように配置されたリブに代えて、厚さ方向が本体部21の軸方向に沿うように配置されたリブを用いてもよい。具体的には例えば、
図6(a)~
図6(c)に示すように、大径円筒部221の上端221t側において大径円筒部221と本体部21とを接続する3つの上側リブ223tと、大径円筒部221の下端221d側において大径円筒部221と本体部21とを接続する3つの下側リブ223dとにより、本体部21と大径円筒部221とを接続してもよい。
【0088】
3つの上側リブ223tと3つの下側リブ223dは、それぞれ、扇形(環状扇形)の平板であり、小径の円弧部において本体部21に、大径の円弧部において大径円筒部221に固定されている。
【0089】
3つの上側リブ223tと3つの下側リブ223dとは、周方向において交互に配置されている(
図6(b)。また、周方向において隣接する2つのリブは、一方が大径円筒部221の上端221t側に位置し、他方が大径円筒部221の下端221d側に位置するように配置されている。このように、上側リブ223tと下側リブ223dとを、周方向において重複させることなく、大径円筒部221の上端221t側及び下端221d側にバランスよく配置することにより次の効果が得られる。即ち、大径部21の強度を周方向において一定とすることができるとともに、各リブの両面へのアクセスを容易として各リブの両面に溶接等を良好に施すことができる。
【0090】
図6(c)に示すように、3つの上側リブ223tの各々は大径円筒部221に対する接続位置よりも下側において本体部21に接続しており、3つの下側リブ223dの各々は大径円筒部221に対する接続位置よりも上側において本体部21に接続している。このように、上側リブ223t、下側リブ223dの本体部21に対する接続位置をシフトさせることで、リブの強度を高めることができる。
【0091】
なお、上側リブ223t、下側リブ223dの数は適宜変更し得る。また、本明細書及び本発明において、「板厚の方向が所定の方向に沿う」との記載は、板厚の方向が所定の方向に一致している場合、及び板厚の方向と所定の方向との間の角度が約15°以下である場合を含む。
【0092】
大径部22の強度を調整することで、杭ユニット100の衝撃吸収性能を調整することができる。また、大径部22の強度を高くして、車両の速度や重量が大きい場合の衝撃吸収を、大径部22の破壊ではなく、大径部22の周囲のコンクリートCの破壊により行う構成とすることもできる。
【0093】
上記実施形態の杭ユニット100においては、支持部20の大径部22を、本体部21の上端21tに設けていたが、これには限られない。大径部22は、本体部21の上下中央よりも上端21t側の任意の位置に設けることができる。なお、大径部22を上端21tに近づけるほど、車両停止時の杭10の傾きの量(即ち、水平方向の移動量)を小さくすることができる。
【0094】
上記実施形態においては、杭10の孔10hと、本体部21の一対の孔21h1とを貫通するように固定ピンP1を挿入して、杭10の脱落を防止しているがこれには限られない。
【0095】
また、杭ユニット100は、杭10の脱落を防止する構成を備えなくてもよい。
【0096】
上記実施形態の設置方法においては、まず基礎ユニットBUを形成して、これを設置場所に配置していたが、これには限られない。杭ユニット100の設置場所に円柱状の孔を形成し、当該孔の内部に支持部20、緩衝部30を配置してコンクリートCを流し込んでもよい。
【0097】
上記実施形態においては、杭ユニット100を車両の誤侵入を防止する目的で、車道と歩道との間に設置する場合を例として説明した。しかしながら、杭ユニット100の設置場所、及び設置目的は任意である。
【0098】
本発明の特徴を維持する限り、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の杭支持構造体、杭ユニット、及びこれらの設置方法によれば、車両内の乗員に与える衝撃を抑制しつつ、車両の進行を短距離で停止することができる。
【符号の説明】
【0100】
10 杭
20 支持部
21 本体部
22 大径部
30、40、50 緩衝部
100 杭ユニット
500 型枠