(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】密閉型電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/342 20210101AFI20240104BHJP
H01M 50/152 20210101ALI20240104BHJP
H01M 50/107 20210101ALI20240104BHJP
H01M 50/545 20210101ALI20240104BHJP
H01M 50/571 20210101ALI20240104BHJP
H01M 6/16 20060101ALI20240104BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20240104BHJP
H01M 50/559 20210101ALI20240104BHJP
H01M 50/538 20210101ALI20240104BHJP
H01M 50/184 20210101ALI20240104BHJP
H01M 50/193 20210101ALI20240104BHJP
H01M 50/528 20210101ALI20240104BHJP
【FI】
H01M50/342 101
H01M50/152
H01M50/107
H01M50/545
H01M50/571
H01M6/16 D
H01M50/489
H01M50/559
H01M50/538
H01M50/184 D
H01M50/193
H01M50/528
(21)【出願番号】P 2022541418
(86)(22)【出願日】2021-07-16
(86)【国際出願番号】 JP2021026854
(87)【国際公開番号】W WO2022030231
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2020133514
(32)【優先日】2020-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅野 裕也
(72)【発明者】
【氏名】田原 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 文生
【審査官】多田 達也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第00/72388(WO,A1)
【文献】特開平11-283599(JP,A)
【文献】特開2007-184270(JP,A)
【文献】特開2018-14160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M50/30-50/392
50/10-50/198
50/50-50/598
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有する有底円筒形の電池ケースと、
前記電池ケースに収容される電極体と、
電解液と、
前記電池ケースの前記開口を塞ぐ封口部材と、を備え、
前記封口部材は、
端子キャップと、
前記端子キャップと前記電極体の一方の極性の電極とを電気的に接続する底板と、
前記端子キャップと前記底板との間に介在する弁体と、が重ねられて構成されており、
前記弁体は、表面が樹脂材料で被覆されているとともに、前記弁体の外縁である第1端面が、前記電解液に対し耐食性を有する化合物Aを含む保護層で覆われている、密閉型電池。
【請求項2】
前記底板の外周縁部は、前記弁体を挟むように内周方向に屈曲した折り返し部を有し、前記折り返し部によって前記弁体の外周縁部がかしめられ、前記弁体が前記底板に固定されている、請求項1に記載の密閉型電池。
【請求項3】
前記弁体と前記底板の前記折り返し部との間にスペーサが介在しており、
前記保護層は、前記スペーサの外縁である第2端面と前記底板との間の空間にも介在している、請求項2に記載の密閉型電池。
【請求項4】
前記保護層は、前記スペーサの前記弁体と対向しない側の表面に付着するとともに、前記底板の前記折り返し部と接触して、前記折り返し部と前記スペーサとの間の隙間を塞いでいる、請求項3に記載の密閉型電池。
【請求項5】
前記底板と前記電極体との間の距離Lが2.3mm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の密閉型電池。
【請求項6】
前記電極体の中空部分の内径をd、前記電池ケースの内径をDとしたとき、d/D≦0.2を満たす、請求項1~5のいずれか1項に記載の密閉型電池。
【請求項7】
前記端子キャップは孔を有し、前記孔の面積の合計が2mm
2以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の密閉型電池。
【請求項8】
前記電極体を構成するセパレータの厚みが0.02mm以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の密閉型電池。
【請求項9】
前記電解液の20℃における粘度が0.0012Pa・s以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の密閉型電池。
【請求項10】
前記電極体を構成する正極の単位面積当たりの正極合剤重量が0.14g/cm
2以上である、請求項1~9のいずれか1項に記載の密閉型電池。
【請求項11】
前記化合物Aは、ポリエチレンを含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の密閉型電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池ケースと、電池ケースに収容された電極体と、電池ケースの開口を塞ぐ封口部材とを具備する密閉型電池に関する。
【背景技術】
【0002】
密閉型電池における封止の方法として、弁体を底板に固定して一体化した封口部材を用いるものがある。例えば、特許文献1では、組立封口板は、端子キャップ、弁体、弁体支持板、及び、端子キャップと発電要素の一方の極性の電極とを電気的に接続するハット状の底板を具備する。底板のツバ部に弁体と弁体支持板とを重ねてツバ部を折り返し、底板と弁体と弁体支持板が一体化されている。端子キャップおよび底板には、それぞれガスを排出するための透孔が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
密閉型電池の製造において、電池ケースを封口する際に、電解液が電池ケースから溢れ、飛散し得る。飛散した電解液は、封口工程においてあるいは封口後に、キャップに設けられた孔を通って封口部材内に侵入し、弁体に付着する場合がある。弁体に付着した電解液は、弁体を腐食させ、弁作動圧の低下や、密閉性の低下を招く場合がある。
【0005】
本発明の一局面は、開口を有する有底円筒形の電池ケースと、前記電池ケースに収容される電極体と、電解液と、前記電池缶の前記開口を塞ぐ封口部材と、を備え、前記封口部材は、端子キャップと、前記端子キャップと前記電極体の一方の極性の電極とを電気的に接続する底板と、前記端子キャップと前記底板との間に介在する弁体と、が重ねられて構成されており、前記弁体は、表面が樹脂材料で被覆されているとともに、前記弁体の外縁である第1端面が、前記電解液に対し耐食性を有する化合物Aを含む保護層で覆われている、密閉型電池に関する。
【0006】
本発明によれば、所望の弁作動圧を有するとともに、電池内圧が所望の弁作動圧未満の範囲で高い密閉性が維持される密閉型電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態に係る密閉型電池の断面模式図である。
【
図2】密閉型電池で用いられる封口部の構造の要部を示す断面図である。
【
図3A】本発明の実施形態に係る密閉型電池で用いられる封口部材の構造の一例を示す断面図である。
【
図3B】本発明の実施形態に係る密閉型電池で用いられる封口部材の構造の一例を示す断面図である。
【
図3C】本発明の実施形態に係る密閉型電池で用いられる封口部材の構造の一例を示す断面図である。
【
図4A】本発明の実施形態に係る密閉型電池で用いられる封口部材の構造の作製方法を説明する断面図である。
【
図4B】本発明の実施形態に係る密閉型電池で用いられる封口部材の構造の作製方法を説明する断面図である。
【
図4C】本発明の実施形態に係る密閉型電池で用いられる封口部材の構造の作製方法を説明する断面図である。
【
図4D】本発明の実施形態に係る密閉型電池で用いられる封口部材の構造の作製方法を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態に係る密閉型電池(以下、単に電池と称する場合がある。)は、開口を有する有底円筒形の電池ケースと、電池ケースに収容される電極体と、電解液と、電池ケースの開口を塞ぐ封口部材と、を備える。封口部材は、端子キャップと、端子キャップと電極体の一方の極性の電極とを電気的に接続する底板と、端子キャップと底板との間に介在する弁体と、が重ね合わされて構成される。電極体は、例えば、負極とセパレータと正極とが渦巻き状に巻回されて構成される。
【0009】
弁体は、例えば金属板であり、その表面の両面が樹脂材料で被覆されている。これにより、電池の製造工程において、電解液が弁体の表面に付着した場合においても、弁体の腐食を抑制できる。
【0010】
しかしながら、弁体の表面については樹脂膜等で予め被覆しておくことにより腐食から保護できるが、通常、弁体の端面は金属層が露出しているため、端面に電解液が接触することで、弁体の腐食が進行し得る。結果、弁体が底板から剥離し易くなり、電池の密閉性が低下し、弁作動圧が低下する場合がある。
【0011】
本実施形態の電池では、弁体の外縁である第1端面が、電解液に対し耐食性を有する保護層で覆われている。保護層は、電解液に対し耐食性を有する化合物Aを含む。これにより、第1端面を介した弁体の腐食も抑制でき、腐食により弁体が底板から剥離することが抑制され、弁作動圧の低下が抑制される。
【0012】
好ましくは、底板は、その外周縁部において、弁体を挟むように内周方向に屈曲した折り返し部を有し、折り返し部によって弁体の外周縁部がかしめられ、弁体が底板に固定されている。これにより、弁体と底板を一部品として扱うことができ、電池の組み立てが容易となる。
【0013】
底板の折り返し部により、弁体がかしめられ、底板に固定され得る。この場合、電池の製造工程において、電解液は、底板の折り返し部と弁体の間の隙間から侵入し、第1端面と接触し得る。しかしながら、保護層により、電解液の第1端面との接触が規制されているため、第1端面を介した弁体の腐食は抑制される。よって、腐食により弁体が底板から剥離することが抑制され、弁作動圧の低下が抑制される。
【0014】
弁体と底板の折り返し部との間にスペーサ(弁体支持板)が介在していてもよい。スペーサは、リング状の部材であり、内圧の上昇に伴う弁体の膨張を規制し、弁体が膨張する領域をスペーサが介在していないリングの中央領域に制限する役割を有する。リングの幅を調整することにより、安全弁の作動圧が所望の値に制御される。しかしながら、スペーサと底板の折り返し部との間の隙間を通って、電解液が侵入し易い。
【0015】
しかしながら、保護層を、スペーサの外縁である第2端面と底板との間の空間にも介在するように形成することで、電解液の第1端面への接触が規制される。結果、第1端面を介した弁体の腐食を一層抑制でき、弁体が底板から剥離することを効果的に抑制できる。結果、弁作動圧の低下を効果的に抑制できる。
【0016】
保護層は、スペーサの弁体と対向しない側の表面に付着していてもよい。付着した保護層は、底板の折り返し部と接触し、折り返し部とスペーサとの間の隙間が塞がれる。結果、第1端面を介した弁体の腐食を一層抑制でき、弁体が底板から剥離することを効果的に抑制できる。結果、弁作動圧の低下を効果的に抑制できる。
【0017】
電解液の量を多くするほど、製造工程において電解液が飛散し易く、飛散した電解液が弁体に到達し易くなる。また、電極体を大きくするほど、電極体よりも上方(封口部材側)に滞留する電解液の量が多くなり、製造工程において電解液が飛散し易く、飛散した電解液が弁体に到達し易くなる。すなわち、製造工程における電解液が飛散およびこれによる弁体の腐食の問題は、高いエネルギー密度の電池を実現しようとした場合に顕著となり易い。
【0018】
しかしながら、本実施形態の電池により、上記問題は解決され、高エネルギー密度であり、且つ安定した弁作動圧を有する電池を実現できる。
【0019】
底板と電極体との間の距離Lは、2.3mm以下であってもよい。底板と電極体との間の最短距離Lは、通常の円筒型電池の場合、電池を封口部材が上に位置するように立て置いたとき、電極体に対向する底板の内表面において最も高さが低い位置(通常、リードとの接続部分)の高さと、電極体の最も高さの高い部分(正極、負極、セパレータの上端部のうち最も高さが高い部分)の高さの差である。高エネルギー化の実現のために電極体を大型化するに従い、距離Lは小さくなり易い。一方で、電極体と封口部材との距離が近くなるため、製造工程において電解液が飛散し易く、飛散した電解液が弁体に到達し、弁体が腐食し易い。
【0020】
また、底板の構成として、リードとの接続を容易とするために、底板の中央領域が電極体に向けて突出するように底板を屈曲させたものがある。この場合、距離Lは、突出する中央領域から電極体の最も高さの高い部分までの距離である。この場合、電池ケースを封口する際に、底板の突出する中央領域が電解液の液面と衝突し、電解液が電池ケースから溢れ、飛散し易く、飛散した電解液により弁体が腐食し易い。
【0021】
しかしながら、本実施形態の電池によれば、弁体の第1端面を耐食性を有する保護層で被覆することにより、距離Lを2.3mm以下とした場合であっても、弁体の腐食が抑制され、安定した弁作動圧が得られる。距離Lは、例えば、1.5mm以上2.3mm以下であり、好ましくは2.0mm以上2.3mm以下である。
【0022】
電極体の中空部分の内径をd、電池缶の内径をDとしたとき、d/D≦0.2を満たしていてもよい。この場合、電極体の巻回方向における正極および負極の長さが長く、高いエネルギー密度が得られる。一方で、中空部分において電解液が滞留する空間が減少するため、底板と電極体との間の電極体の上方の空間に滞留する電解液量が多くなり、製造工程において電解液が飛散し易く、飛散した電解液が弁体に到達し、弁体が腐食し易い。しかしながら、本実施形態の電池によれば、弁体の第1端面を耐食性を有する保護層で被覆することにより、d/D≦0.2とした場合であっても、弁体の腐食が抑制され、安定した弁作動圧が得られる。なお、電極体の中空部分の内径dは、中空部分の面積に等しい面積を有する円(相当円)の直径を意味し、電極体の断面写真に基づき算出される。d/Dは、例えば、0.1以上0.2以下であり、好ましくは0.15以上0.2以下である。
【0023】
端子キャップには、電池の内圧が上昇し、安全弁が作動した場合にガスを排出するための孔が設けられる。孔の面積の合計は2mm2以上であってもよい。電極体を大型化し、高容量を実現するほど、ガス排出のための孔の面積も大きくする必要が生じる。一方で、端子キャップに設ける孔の面積を大きくするほど、製造工程において飛散した電解液が孔を通って弁体に到達し易く、弁体が腐食し易い。しかしながら、本実施形態の電池によれば、弁体の第1端面を耐食性を有する保護層で被覆することにより、端子キャップの孔の面積の合計を2mm2以上とした場合においても、弁体の腐食が抑制され、安定した弁作動圧が得られる。端子キャップの孔の面積の合計は、例えば、2mm2以上4mm2以下であり、好ましくは2mm2以上3mm2以下である。
【0024】
なお、孔の面積とは、孔を形成する開口の輪郭線を任意の平面に投影したときの投影面積が最大となる投影面における投影面積を意味する。輪郭線が略同一平面上にある場合、孔の面積は、輪郭線が形成する平面の法線方向から輪郭線を見たときの輪郭線の面積である。端子キャップに複数の孔(開口)が設けられている場合、それぞれの孔の面積を上記に従い導出し、合計値を求める。
【0025】
電極体を構成するセパレータの厚みは、0.02mm以下であってもよい。セパレータの厚みが薄いほど、高いエネルギー密度を実現し易く、また高い出力を実現し易い。一方で、セパレータの厚みが薄いと、電極体に保持できる電解液量が少なく、底板と電極体との間の電極体の上方の空間に滞留する電解液量が多くなる。結果、製造工程において電解液が飛散し易く、飛散した電解液が弁体に到達し、弁体が腐食し易い。しかしながら、本実施形態の電池によれば、弁体の第1端面を耐食性を有する保護層で被覆することにより、セパレータの厚みを0.02mm以下とした場合においても、弁体の腐食が抑制され、安定した弁作動圧が得られる。セパレータの厚みは、例えば、0.01mm以上0.02mm以下であり、好ましくは0.015mm以上0.02mm以下である。
【0026】
電解液の20℃における粘度は、0.0012Pa・s以下であってもよい。電解液の粘度が小さいほど、電解液に含まれるイオンの電導度が上昇し易く、高い出力を実現し易い。一方で、電解液の粘度が小さい場合、一般に電解液に含まれるイオンの濃度も低めであり、高エネルギー化に伴って必要な電解液量も多くなる。さらに、電解液の粘度が小さいと製造工程において電解液が飛散し易い。結果、飛散した電解液が弁体に到達し、弁体が腐食し易い。しかしながら、本実施形態の電池によれば、弁体の第1端面を耐食性を有する保護層で被覆することにより、電解液の20℃における粘度を0.0012Pa・s以下とした場合においても、弁体の腐食が抑制され、安定した弁作動圧が得られる。電解液の20℃における粘度は、例えば、0.0005Pa・s以上0.0012Pa・s以下であり、好ましくは0.001Pa・s以上0.0012Pa・s以下である。
【0027】
電極体を構成する正極の単位面積当たりの正極合剤重量は、0.14g/cm2以上であってもよい。単位面積当たりの正極合剤重量を高めるほど、高いエネルギー密度を実現できる。一方で、単位面積当たりの正極合剤重量を高めるほど、電極体に保持できる電解液量が少なく、底板と電極体との間の電極体の上方の空間に滞留する電解液量が多くなる。結果、製造工程において電解液が飛散し易く、飛散した電解液が弁体に到達し、弁体が腐食し易い。しかしながら、本実施形態の電池によれば、弁体の第1端面を耐食性を有する保護層で被覆することにより、正極の単位面積当たりの正極合剤重量を0.14g/cm2以上とした場合においても、弁体の腐食が抑制され、安定した弁作動圧が得られる。単位面積当たりの正極合剤重量は、0.14g/cm2以上0.19g/cm2以下であり、好ましくは0.14g/cm2以上0.17g/cm2以下である。
【0028】
正極は、例えば、後述するように、正極集電体と、正極集電体に付着した正極合剤層を含んで構成される。単位面積当たりの正極合剤重量は、正極合剤層の重量(正極合剤層が両面に形成されている場合、両面における重量)を、正極において正極合剤層が露出している領域の片面の面積で除算することで求められる。
【0029】
また、電解液の20℃における粘度、および、正極の単位面積当たりの正極合剤重量は、製造後の初期電池を分解し、電解液および正極を取り出すことにより求められる。電解液の20℃における粘度、および、正極の単位面積当たりの正極合剤重量は、一次電池であれば十分な容量(設計容量の90%以上)が残っている状態での値、二次電池であればSOCが90%以上の充電状態での値である。
【0030】
以下に、本実施形態に係る密閉型電池の構成について、図面を参照しながら説明する。ただし、本実施形態はこれに限定されるものではない。なお、以下の図示例において、同じ機能を有する部材には、同じ符号を付している。
【0031】
【0032】
電池100は、有底円筒形の電池ケース(電池缶)9と、電解液(図示せず)とともに電池ケース9に収容された円筒型の電極体10と、封口部材とを備え、電池ケース9の開口は封口部材により塞がれている。封口部材は、端子キャップ21と、底板22と、弁体23と、を備える。
図1の例では、封口部材は、スペーサ(弁体支持板)24と、PTC素子25と、をさらに備えている。
【0033】
電極体10は、正極1と、負極2とが、セパレータ3を介して巻回され構成され得る。正極1の集電体1aに接続された正極リード4は、底板22に接続されている。負極2に接続された負極リード5は、ケース9に接続されている。また、電極体10の上部と下部には、内部短絡防止のためにそれぞれ上部絶縁板6、下部絶縁板7が配置されている。
【0034】
底板22は、例えば、中央に開口を有するリング状の部材であり、外周縁部において内周方向に屈曲して折り返されている。屈曲して延びる折り返し部により、弁体23およびスペーサ24が底板22に挟み込まれ、弁体23およびスペーサ24が底板22に固定されている。換言すると、弁体23は、スペーサ24を介して底板22にかしめられて、底板22に固定されている。底板22は、正極リード4を介して電極体の一方の電極(正極1)と電気的に接続するとともに、折り返し部、およびPTC素子25を介して、端子キャップ21と電気的に接続している。
【0035】
弁体23は、例えば、開口を有しない円盤状の板材である。電池100の内圧が上昇すると、弁体23のスペーサ24で覆われていない部分に、外方に向けて盛り上がる方向に圧力が加わる。内圧が所望の弁作動圧を超えると、弁体23の少なくとも一部領域が引っ張り応力により破断する。電池100内のガスは、弁体23の破断箇所、および端子キャップの孔21aを介して外部に排出される。これにより、防爆機能が作動して内圧が解放される。
【0036】
PTC(Positive Temperature Coefficient)素子25は、リング状の部材であり、温度上昇に伴って電気抵抗が上昇する材料を含む。電池100に異常な大電流が流れる場合、PTC素子25内の温度が発熱により上昇する。これに伴ってPTC素子25の電気抵抗が上昇することによって、電池100に流れる電流を減少させる。
【0037】
端子キャップ21、PTC素子25、および、弁体23およびスペーサ24が固定された底板22は、重ねられ、ガスケット26を介して電池ケース9にかしめられることで、電池ケース9の開口が封口されている。
【0038】
電池ケース9の材質は特に限定されず、鉄、および/または鉄合金(ステンレス鋼を含む)、アルミニウム、アルミニウム合金(マンガン、銅などの他の金属を微量含有する合金など)、などが例示できる。
【0039】
図2は、密閉型電池における弁体23、スペーサ24および底板22の構造を示す図であり、保護層が設けられていない場合に生じる問題を説明するための図である。
図2では、特に底板22の外周縁部を拡大して示している。
【0040】
上述の通り、弁体23は、スペーサ24を介して底板22にかしめられている。
図2の例では、弁体23は、アルミニウム箔であり、底板22に対向する表面が第1の樹脂層23aで被覆され、スペーサ24に対向する表面が第2の樹脂層23bで被覆されている。第1の樹脂層23aおよび第2の樹脂層23bは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの電解液に対し耐食性に優れる化合物を含む。第1の樹脂層23aは、熱溶着により底板22に固定され得る。
【0041】
電池の製造において電解液が電池ケースから溢れ、飛散すると、飛散した電解液は、端子キャップ21に設けられた孔21aを通って封口部材内に侵入する場合がある。電解液は、例えば、弁体23の第2の樹脂層23bの表面に付着し得る。この場合、第2の樹脂層23bは電解液に対し耐食性を有するため、弁体23の腐食は抑制される。
【0042】
しかしながら、電解液は、底板22の折り返し部22aとスペーサ24との間の隙間を通って、弁体23の外縁である端面S1(第1端面)にも付着し得る。通常、端面S1では金属層23cが露出しているため、金属層23cに電解液が接触することで、腐食が進行し得る。この結果として、弁体23が底板22から剥離することがあり、弁作動圧が低下する場合がある。なお、
図2では、折り返し部22aとスペーサ24との間の隙間を通って端面S1に至る電解液の侵入経路を破線の矢印で示している。
【0043】
図3A~
図3Cは、本実施形態の密閉型電池における弁体23、スペーサ24および底板22の構造の例を示す図であり、特に底板22の外周縁部を拡大して示している。
【0044】
図3Aの例では、弁体23の外縁である端面S1が、電解液に対して耐食性を有する保護層27で覆われている。この場合、底板22の折り返し部22aとスペーサ24との間の隙間から侵入した電解液は、保護層27に付着し得るが、弁体23の金属部分と接触することが防止される。よって、端面S1を介した弁体の腐食が抑制され、弁体23が底板22から剥離することが抑制される。結果、弁作動圧が低下することも抑制され、弁作動圧を所望の値に維持できる。
【0045】
図3Bの例では、保護層27は、弁体23の端面S1を覆っているとともに、スペーサの外縁である端面S2(第2端面)を覆っている。保護層27は、また、端面S2と底板22との間の空間にも介在している。保護層27は、端面S2と底板22との間の空間を埋めることができる。これにより、底板22とスペーサ24との間の隙間は、保護層27により塞がれている。よって、端面S1を介した弁体の腐食の抑制効果が高まり、弁体23が底板22から剥離することが効果的に抑制される。結果、弁作動圧の低下を効果的に抑制できる。
【0046】
図3Cの例では、保護層27は、弁体23の端面S1およびスペーサ24の端面S2を覆い、且つ、端面S2と底板22との間の空間にも介在している。保護層27は、また、スペーサ24の上面(弁体23と対向しない側の表面)に付着するとともに、上面よりも上方において底板22の折り返し部と接触している。これにより、保護層27により、底板22とスペーサ24との間の隙間を確実に塞ぐことができる。よって、端面S1を介した弁体の腐食を確実に抑制でき、弁体23が底板22から剥離することが効果的に抑制される。結果、弁作動圧の低下を効果的に抑制できる。
【0047】
スペーサ24の上面における保護層27の端面S2からの延在距離は、底板とスペーサ24との間の隙間を確実に塞ぐ観点から、0.02mm以上であればよく、0.1mm以上がより好ましい。
【0048】
保護層27は、電解液に対して耐食性を有する化合物Aを含む。化合物Aは、電解液に対して安定であり、且つ柔軟性を有することから、ポリプロプレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンを含むことが好ましい。化合物Aは、他に、ブタジエンゴムなどのゴム系材料を含んでいてもよい。これらのなかでも、化合物Aは、ポリエチレンを含むことが最も好ましい。
【0049】
図3A~
図3Cに示す構造は、例えば、以下に示す製造方法により実現され得る。
図4A~
図4Dは、弁体23およびスペーサ24が底板22に一体化された部材(下部封口部材)の製造方法を示す工程断面図である。
【0050】
先ず、
図4Aに示すように、底板22上に弁体23を配置し、熱溶着により弁体23を底板22上に固定する。この状態では、底板22の外周部は底板22の他の部分に対して略垂直に屈曲して延びている。
【0051】
次に、
図4Bに示すように、弁体23の外周に保護層27を形成し、
図4Cに示すように、弁体23の上にスペーサ24を配置する。保護層は、塗布により形成してもよい。
【0052】
その後、
図4Dに示すように、底板22の折り返し部22aをさらに内周方向に屈曲させて、弁体23をスペーサ24(および、保護層27)を介して底板22にかしめる。保護層27の幅に応じて、
図3A~
図3Cに示す構造が得られる。
【0053】
次に、リチウム一次電池を例として、電池100の他の構成について例示的に説明する。
【0054】
(正極)
正極は正極活物質を含み、正極活物質として二酸化マンガンを用いることができる。正極は、例えば、正極集電体と、正極集電体に付着している正極合剤層とを具備する。正極合剤層は、正極活物質の他に、フッ素樹脂などの樹脂材料を結着剤として含み得る。正極合剤層は、炭素材料などの導電性材料を導電剤として含んでもよい。正極集電体は、例えばステンレス鋼製のエキスパンドメタル、ネット、パンチングメタルなどである。
【0055】
(負極)
負極は負極活物質を含み、負極活物質として金属リチウムまたはリチウム合金を用いることができる。金属リチウムまたはリチウム合金は、例えば、長尺のシート状に押し出し成形され、負極として用いられる。リチウム合金としては、Li-Al、Li-Sn、Li-Ni-Si、Li-Pbなどの合金が用いられるが、Li-Al合金が好ましい。リチウム合金に含まれるリチウム以外の金属元素の含有量は、放電容量の確保や内部抵抗の安定化の観点から、0.1質量%以上5質量%以下とすることが好ましい。
【0056】
(セパレータ)
セパレータとしては、樹脂製の微多孔膜や不織布が好ましく用いられる。セパレータの材料(樹脂)としては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリアミドイミドなどが好ましい。
【0057】
(電解液)
電解液にはリチウム塩を溶解させた非水溶媒を用い得る。非水溶媒は、特に限定されるものではないが、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、1,2-ジメトキシエタン、γ-ブチロラクトンなどを使用することができる。リチウム塩としては、ホウフッ化リチウム、六フッ化リン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドなどを用いることができる。
【0058】
[実施例]
以下、本開示を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
《電池A1~A4、B1》
(1)正極の作製
電解二酸化マンガン100質量部と、導電剤であるケッチェンブラック5質量部と、を混合し、さらに結着剤であるポリテトラフルオロエチレン5質量部と、適量の純水と、を加えて混錬し、湿潤状態の正極合剤を調製した。
【0060】
SUS製のエキスパンドメタル(正極集電体)に、正極合剤をロールにより圧着し、乾燥させ、正極を得た。圧延後の正極の厚みは520μmとし、単位面積当たりの正極合剤重量は、0.134g/cm2とした。
【0061】
その後、正極を、幅が38mmで長さ192mmの帯状に裁断し、続いて、充填された正極合剤の一部を剥離し、正極集電体を露出させた部分にSUS製のタブリードを抵抗溶接した。
【0062】
(2)負極の作製
厚み200μmのシート状のLi-Al合金(Al含有量:0.3質量%)を、所定寸法に裁断し、帯状の負極を得た。負極の所定箇所にニッケル製のタブリードを圧接により接続した。
【0063】
(3)電極体の作製
正極と負極とをセパレータを介して重ね、直径3.5mmの巻き芯に沿って渦巻き状に巻回させて、電極体を作製した。セパレータには厚み25μmのポリエチレン製の微多孔膜を用いた。
【0064】
(4)電解液の調製
プロピレンカーボネート(PC)と、1,2-ジメトキシエタン(DME)とを、体積比4:6で混合した非水溶媒に、リチウム塩としてトリフルオロメタンスルホン酸リチウムを0.7mol/Lの濃度で溶解させ、電解液を調製した。電解液の粘度は、20℃において、0.0014Pa・sであった。
【0065】
(5)円筒形電池の組み立て
内径4.0mmのリング状の底板(SUS製、厚み0.3mm)を準備した。底板に、弁体、ポリプロピレン(PP)で構成した保護層、およびスペーサ(SUS製、厚み0.3mm)を
図4A~
図4Cに示すように配置し、
図4Dに示すように底板の外周縁部を内周方向に屈曲させることで弁体をスペーサを介してかしめ、
図3Aに示す構造の下部封口部材Aを作製した。弁体は、厚み25μmのアルミニウム箔であり、その両面を厚み50μmのポリエチレン(PE)膜で被覆したものを用いた。
【0066】
所定サイズのニッケルめっき鋼板製の有底円筒形の電池ケースを準備した。電極体を、その底部にリング状の下部絶縁板を配した状態で、電池ケースの内部に挿入した。その後、負極のタブリードを電池ケースの内底面に接続した。
【0067】
電解液を電池ケースの内部に一定量注液し、電極体に電解液を含侵させた。上部絶縁板を電極群の上に配置した。その後、正極のタブリードを底板の内面に接続した状態で、下部封口部材、PTC素子(厚み0.3mm、内径5.0mm)、端子キャップ(SUS製、厚み0.3mm)を重ね、ガスケットを介してこれらの部材を電池ケースでかしめることにより封口し、試験用のリチウム一次電池(直径17mm、高さ45.5mm)を完成させた。
【0068】
電極体の中空部分の内径dは、電極体作製に用いる巻き芯の径に概ね等しく、3.5mmであった。電池ケースの内径Dは16.0mmであり、底板と電極体との間の距離Lは2.5mmであった。端子キャップに設けられた孔の面積は、合計で1.8mm2であった。下部封口部材は、弁作動圧(安全弁強度)が2.0MPaとなるように設計されている。
【0069】
このようにして、
図1に示す構造を有する密閉型の円筒形リチウム一次電池A1を10個作製した。
【0070】
また、下部封口部材の作製において、保護層の幅が異なるものを準備することによって、
図3Bに示す構造の下部封口部材Bおよび
図3Cに示す構造の下部封口部材Cをそれぞれ作製した。また、下部封口部材Cにおいて保護層の材質をポリエチレンに変更した下部封口部材Dを作製した。
【0071】
そして、下部封口部材Bを用いたこと以外は、リチウム一次電池A1と同様にして、試験用のリチウム一次電池A2を10個作製した。
【0072】
また、下部封口部材Cを用いたこと以外は、リチウム一次電池A1と同様にして、試験用のリチウム一次電池A3を10個作製した。
【0073】
また、下部封口部材Dを用いたこと以外は、リチウム一次電池A1と同様にして、試験用のリチウム一次電池A4を10個作製した。
【0074】
また、保護層が設けられていない下部封口部材Eを作製し、下部封口部材Eを用いたこと以外は、リチウム一次電池A1と同様にして、試験用のリチウム一次電池B1を10個作製した。
【0075】
[評価]
20個のリチウム電池のうち10個については、作製直後の電池を45℃で、相対湿度90%の環境に1か月間置いた。その後、電池から下部封口部材を取り出し、底板の外周縁部を密封した状態で、底板側から弁体に向かってガスを吹きかけ、弁体が破断するか、または、底板から弁体が剥離するときの圧力を測定した。10個の電池における測定値の平均値を求め、安全弁強度とした。電池A1~A4、B1について、安全弁強度の評価結果を表1に示す。
【0076】
《電池A5、B2、B3》
リチウム一次電池A1において、底板と電極体との間の距離Lを2.0mmに変更した。なお、距離Lは、封口部材をガスケットを介してかしめるために形成する電池ケースの溝(縮径部)の高さを調整することにより変更した。
【0077】
これ以外については、リチウム一次電池A1と同様にして、試験用のリチウム一次電池A5を10個作製し、同様に安全弁強度を評価した。
【0078】
また、リチウム一次電池B1において、底板と電極体との間の距離Lをそれぞれ2.3mmおよび2.0mmに変更し、リチウム一次電池B2およびB3を得た。
【0079】
試験用のリチウム一次電池B2およびB3をそれぞれ10個作製し、同様に安全弁強度を評価した。
【0080】
電池A5、B2、B3について、安全弁強度の評価結果を表2に示す。表2では、各電池における底板と電極体との間の距離Lの値が併せて示されている。
【0081】
【0082】
【0083】
《電池A6、B4、B5》
リチウム一次電池A1において、電極体の中空部分の内径dを2.5mmとした。
【0084】
内径dを小さくした一方で、電極体の外径は電池A1と略同じとなるように、正極の圧延後の厚み530μmに増加させ、負極厚みを210μmに変更した。
【0085】
これ以外については、リチウム一次電池A1と同様にして、試験用のリチウム一次電池A6を10個作製し、同様に安全弁強度を評価した。
【0086】
また、リチウム一次電池B1において、電極体の中空部分の内径dを3.1mmに変更し、リチウム一次電池B4を得た。
【0087】
また、リチウム一次電池B1において、電極体の中空部分の内径dを2.5mmに変更し、リチウム一次電池B5を得た。
【0088】
内径dを小さくした一方で、電極体の外径は電池B1と略同じとなるように、リチウム一次電池B4では、正極の圧延後の厚み525μmに増加させ、負極厚みを205μmに変更した。リチウム一次電池B5では、正極の圧延後の厚み530μmに増加させ、負極厚みを210μmに変更した。
【0089】
試験用のリチウム一次電池B4およびB4をそれぞれ10個作製し、同様に安全弁強度を評価した。
【0090】
電池A6、B4、B5について、安全弁強度の評価結果を表3に示す。表3では、各電池における電極体の中空部分の内径d、電池ケースの内径D、および比d/Dの値が併せて示されている。
【0091】
【0092】
《電池A7、B6、B7》
リチウム一次電池A1において、端子キャップの孔の面積の合計を3.0mm2とした。
【0093】
これ以外については、リチウム一次電池A1と同様にして、試験用のリチウム一次電池A7を10個作製し、同様に安全弁強度を評価した。
【0094】
また、リチウム一次電池B1において、端子キャップの孔の面積の合計をそれぞれ2.5mm2および3.0mm2に変更し、リチウム一次電池B6およびB7を得た。
【0095】
試験用のリチウム一次電池B6およびB7をそれぞれ10個作製し、同様に安全弁強度を評価した。
【0096】
電池A7、B6、B7について、安全弁強度の評価結果を表4に示す。表4では、各電池における端子キャップの孔の面積の合計値が併せて示されている。
【0097】
《電池A8、B8、B9》
リチウム一次電池A1において、電極体におけるセパレータの厚みを0.015mmとした。
【0098】
これ以外については、リチウム一次電池A1と同様にして、試験用のリチウム一次電池A8を10個作製し、同様に安全弁強度を評価した。
【0099】
また、リチウム一次電池B1において、電極体におけるセパレータの厚みをそれぞれ0.02mmおよび0.015mmに変更し、リチウム一次電池B8およびB9を得た。
【0100】
試験用のリチウム一次電池B8およびB9をそれぞれ10個作製し、同様に安全弁強度を評価した。
【0101】
電池A8、B8、B9について、安全弁強度の評価結果を表5に示す。表5では、各電池におけるセパレータの厚みが併せて示されている。
【0102】
【0103】
【0104】
《電池A9、B10、B11》
リチウム一次電池A1において、電解液に占めるPCとDMEとの混合割合を体積比においてPC:DME=2:8に変更した。これにより、20℃における粘度が0.001Pa・sの電解液を調製し、リチウム一次電池に用いた。
【0105】
これ以外については、リチウム一次電池A1と同様にして、試験用のリチウム一次電池A9を10個作製し、同様に安全弁強度を評価した。
【0106】
また、リチウム一次電池B1において、電解液に占めるPCとDMEとの混合割合を体積比においてPC:DME=3:7に変更した。これにより、20℃における粘度が0.0012Pa・sの電解液を調製し、調整した電解液を用いて、リチウム一次電池B10を得た。
【0107】
また、リチウム一次電池B1において、電解液に占めるPCとDMEとの混合割合を体積比においてPC:DME=2:8に変更した。これにより、20℃における粘度が0.001Pa・sの電解液を調製し、調整した電解液を用いて、リチウム一次電池B11を得た。
【0108】
試験用のリチウム一次電池B10およびB11をそれぞれ10個作製し、同様に安全弁強度を評価した。
【0109】
電池A9、B10、B11について、安全弁強度の評価結果を表6に示す。表6では、各電池における電解液の粘度が併せて示されている。
【0110】
【0111】
《電池A10、B12、B13》
リチウム一次電池A1において、正極に占める正極合剤の重量を変更し、単位面積当たりの正極合剤重量を0.162g/cm2とした。
【0112】
これ以外については、リチウム一次電池A1と同様にして、試験用のリチウム一次電池A10を10個作製し、同様に安全弁強度を評価した。
【0113】
また、リチウム一次電池B1において、正極に占める正極合剤の重量を変更し、単位面積当たりの正極合剤重量をそれぞれ0.148g/cm2および0.162g/cm2に変更し、リチウム一次電池B12およびB13を得た。
【0114】
試験用のリチウム一次電池B12およびB13をそれぞれ10個作製し、同様に安全弁強度を評価した。
【0115】
電池A10、B12、B13について、安全弁強度の評価結果を表7に示す。表7では、各電池における単位面積当たりの正極合剤重量が併せて示されている。
【0116】
【0117】
表1に示すように、化合物Aを含む保護層を弁体の少なくとも端面を覆うように形成した電池A1~A4において、安全弁強度を高く維持できた。一方、保護層を設けていない電池B1では、安全弁強度が低くなった。
【0118】
保護層が弁体の端面を覆うほか、スペーサの端面を覆い、スペーサの端面と底板との空間を埋めるように形成した電池A2は、保護層が弁体の端面のみを覆うように形成した電池A1と比べて、安全弁強度を高く維持できた。さらに、保護層がスペーサの上面と底板の折り返し部との間の隙間を埋めるように形成した電池A3は、電池A2よりも高い安全弁強度を維持できた。
【0119】
さらに、保護層がスペーサの上面と底板の折り返し部との間の隙間を埋めるように形成し、且つ、保護層としてポリエチレンを用いた電池A4は、製造直後と略同様の安全弁強度を維持していた。
【0120】
表2に示すように、保護層を設けていない電池B2およびB3では、底板と電極体との間の距離Lを2.3mm以下とすることによって、安全弁強度が電池B1よりも低下した。これに対し、保護層を設けた電池A5では、底板と電極体との間の距離Lを2.3mm以下とした場合においても、電池A1と同様の高い安全弁強度を維持できた。
【0121】
表3に示すように、保護層を設けていない電池B4およびB5では、電極体の中空部分の内径dに対する電池ケースの内径Dに対する比d/Dを0.2以下とすることによって、安全弁強度が電池B1よりも低下した。これに対し、保護層を設けた電池A6では、d/Dを0.2以下とした場合においても、電池A1と同様の高い安全弁強度を維持できた。
【0122】
表4に示すように、保護層を設けていない電池B6およびB7では、端子キャップの孔の面積の合計を2mm2以上とすることによって、安全弁強度が電池B1よりも低下した。これに対し、保護層を設けた電池A7では、孔面積の合計を2mm2以上とした場合においても、電池A1と同様の高い安全弁強度を維持できた。
【0123】
表5に示すように、保護層を設けていない電池B8およびB9では、セパレータの厚みを0.02mm以下とすることによって、安全弁強度が電池B1よりも低下した。これに対し、保護層を設けた電池A8では、セパレータの厚みが0.02mm以下の場合においても、電池A1と同様の高い安全弁強度を維持できた。
【0124】
表6に示すように、保護層を設けていない電池B10およびB11では、電解液の粘度を0.0012Pa・s以下とすることによって、安全弁強度が電池B1よりも低下した。これに対し、保護層を設けた電池A9では、電解液の粘度が0.0012Pa・s以下の場合においても、電池A1と同様の高い安全弁強度を維持できた。
【0125】
表7に示すように、保護層を設けていない電池B12およびB13では、単位面積当たりの正極合剤重量を0.14g/cm2以上とすることによって、安全弁強度が電池B1よりも低下した。これに対し、保護層を設けた電池A9では、単位面積当たりの正極合剤重量を0.14g/cm2以上とした場合においても、電池A1と同様の高い安全弁強度を維持できた。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明に係る密閉型電池は、安定した安全弁の作動圧を有するため、様々な電子機器の電源に適している。
【符号の説明】
【0127】
1 正極
1a 正極集電体
2 負極
3 セパレータ
4 正極リード
5 負極リード
6 上部絶縁板
7 下部絶縁板
9 電池ケース
10 電極体
21 端子キャップ
21a 孔
22 底板
22a 折り返し部
23 弁体
23a 第1の樹脂層
23b 第2の樹脂層
23c 金属層
24 スペーサ
25 PTC素子
26 ガスケット
27 保護層
100 電池