(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】全固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20240104BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240104BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240104BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240104BHJP
B05D 5/12 20060101ALI20240104BHJP
B05D 1/02 20060101ALI20240104BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240104BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M4/139
H01M4/62 Z
B05D5/12 B
B05D1/02 Z
B05D7/24 303G
B05D1/36 Z
(21)【出願番号】P 2019002149
(22)【出願日】2019-01-09
【審査請求日】2021-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】510009832
【氏名又は名称】エムテックスマート株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松永 正文
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特許第7180863(JP,B2)
【文献】特開2012-252833(JP,A)
【文献】特開2004-119195(JP,A)
【文献】特開2010-093027(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108400387(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105449155(CN,A)
【文献】国際公開第2018/134486(WO,A1)
【文献】特開2017-174805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
B05D 5/12
B05D 1/02
B05D 7/24
B05D 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極用と負極用の集電体に電極層を形成し、前記電極層間に電解質層を介在させ積層して全固体電池を製造する方法であって、少なくとも電極用活物質と溶媒からなるスラリー及び少なくとも電解質粒子または短繊維と溶媒からなるスラリーをスプレイまたは粒子発生装置で粒子にして、
前記スプレイまたは粒子発生装置は1乃至1000Hzのパルス的に行われることを特徴とし、インパクトをもった該粒子を交互に集電体に衝突させ付着させ薄膜で積層することにより、少なくとも微細な凹凸面を形成し少なくとも電極層の表面積を広くして、電極層と電解質層との積層後の界面抵抗を低くすることを特徴とする全固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は活物質などを含む粒子をスラリーにして両極の電極層を形成し、電解質粒子をスラリーにして電解質層を形成し、正極層、電解質層、負極層としての積層体からなる全固体電池の製造方法に係わる。詳細の説明では主に全固体電池の製造方法について述べているが本製造方法は蓄電池製造全般に好適であり次世代電池として有望視されている金属空気電池などにも適用できる。 本発明は全固体電池の製造方法であって、詳細には電極活物質粒子からなるスラリーや電解質粒子や繊維からなるスラリーを対象物に直接塗布する電極形成方法に係る。
本発明による塗布とは特に限定しないが、ロールコート、スリットダイ(スロットノズル)コート、スクリーンプリンティング、カーテンコート、ディスペンス、インクジェット、スプレイを含む霧化(含む繊維化)施与、静電霧化(含む繊維化)施与等の粒子や繊維を被塗物に塗布する工法を含み、マイクロカーテン施与も含む。
マイクロカーテンとは広角パターンのエアレススプレイノズル等で液体などを0.3MPa前後の比較的低圧でスプレイする際、霧になる前の液膜の部分を使用して被塗物とスプレイノズルを相対移動して塗布する方法であって塗面にオーバースプレイ粒子は発生しない。被塗物を通り過ぎて距離が離れると霧状に変化する特性を利用する方法である。
また霧化(繊維化)施与とはスプレイによる粒子化以外に、固形微粒子を含む液体などを超音波により分散しながら霧化したり、エレクトロスピニングなどのスピン、回転体による遠心力で粒子化したり繊維化したりして塗布することである。メルトブローン方式などを液体に応用して粒子や繊維をつくりだす方法も含まれ、前記超音波霧化や遠心霧化では霧化した粒子の方向性が不安定であるので圧縮エアの力を借りて(air assist)対象物にそれらを付着あるいは塗布する工法を指す。
本発明ではこれらを総称して以下スプレイとして説明する。
【背景技術】
【0002】
モバイルや電気自動車の増加でリチウム電池を含む2次電池の急速充電が求められているが、電気自動車などでは充填に数十分が必要とされている。その時間の長さと安全性のリスク等から電解質を液体から固体にして80%充填時間を数分に短縮するための開発が進んでいる。
【0003】
特許文献1には全固体電池の固体電解質層、正極活物質層、負極活物質層の層構造体の製造方法が提案され、層構造体を構成する材料を含有したスラリーを調合しグリーンシート形成し、グリーンシートと加熱により消失する凹凸を有したシートを一体的に形成し、グリーンシートの表面に凹凸を形成し、一体的に形成されたグリーンシートとシートを加熱して、シート部材を消失させてグリーンシートを焼成させるなどして基材に凹凸を形成しながら電極を形成する技術が紹介されている。
【0004】
特許文献2には全固体電池の電極層や電解質層を形成し、それらを積層するための活物質粒子と溶媒とバインダーからなる電極スラリー用に、また、電解質粒子と溶媒とバインダーからなる電解質スラリー用に低温で短時間で脱脂できるポリビニルアセタール樹脂が提案されている。より具体的には離型処理したPETフィルムの支持層に固体電解質スラリーや負極または正極電極スラリーを塗工し、80℃で30分乾燥後PETフィルムを剥離し、電解質層を負極、正極活物質層で挟み80℃、10KNで加熱加圧して積層体を得て、ステンレス板状にアクリル樹脂を含む導電ペーストを塗工し集電体を作成し、窒素ガス雰囲気下で400℃以下で焼成してバインダーの脱脂を行っていた。
【0005】
文献1の方法においては凹凸を形成したポリビニルアルコールなどのシートに活物質スラリーや電解質スラリーを塗布して活物質層や電解質層の接触面積が増え理想的であったが、樹脂分を高温かつ長時間で消失する必要があり例えば700°Cで50時間を要するなどの課題があった。
一方文献2においてはスラリーの溶媒分を揮発させるのに80℃で30分を要する為リチウムイオンバッテリーの例えば100m/分の現行ラインスピードの代替にするには余りにもラインが長くなりすぎるか、ラインスピードを落とさざるを得ない課題があった。
またいずれの方式もスラリーのバインダーを無くするか、僅少にすると一般的な循環装置ではスラリーが滞りやすい箇所で粒子の沈殿が発生しリチウム電池の電極形成で使用されているダイヘッドでは塗工ができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2012/053359
【文献】特開2014-212022
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は生産性を向上させ、焼成が必要な積層体においては焼成時発生する残炭を無くするか、極限まで減じること。そして各積層界面の密着性を上げること。かつ電極層や電解質層の界面の表面積を広くして、界面抵抗を下げ電池性能の向上につなげることである。また電極層は電極用活物質と電解質粒子または繊維を混合してスラリーにして塗布するが混合分散を良好にしたとしても経時的に凝集が発生し性能低下になるため解決する必要がある。
本発明では固体電解質粒子である硫化物系、酸化物系の種類を問わない。また正極用または負極用活物質粒子の種類を問わない。
例えば電解質が硫化物系の例えばLPSの場合、正極はリチウム硫黄(Li2S)粒子または硫黄(S8)で良く、負極はグラファイトとシリコンの粒子で良い。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前述の課題を解決するためになされたもので、本発明の目的は高品質な全固体電池を製造するに当たり、主に正極用活物質からなるスラリーと電解質用粒子または短繊維と溶媒からなるスラリーを独立した塗布装置で集電体に交互に薄膜で積層できるようにする。同じく主に負極の活物質と溶媒からなるスラリーと主に電解質と溶媒からなるスラリーを交互に薄膜で負極の集電体に塗布することができるようにする。それぞれのスラリーにはバインダーとしての溶液、エマルジョン、無機や有機の粒子や繊維例えばPTFEやPVDFなどのパウダー、電解質ガラス繊維などを混合することができるようにする。粒子や繊維のバインダーは溶媒と分散させてスラリー化し、活物質や電解質粒子からなるスラリーから独立して単独で必要によりそれらと交互に積層塗布できるようにする。塗布装置は上記のごとく限定しないが粒子と溶媒からなるスラリー、または粒子と溶媒と粒子同士の結着剤としてバインダーからなるスラリーをスプレイや粒子発生装置で粒子化してかつ粒子のスピードを所望するスピードにしてインパクトをもって対象物に衝突させ溶媒の蒸発後、粒子を緻密にまた強力に対象物に付着させることが特に効果的である。
対象物とは正極層、負極層、電解質層及び集電体である。電極スラリー粒子を付着させる場合の対象物は集電体または電解質層であり、電解質スラリー粒子を付着させる場合は主に正極、負極層である。電解質粒子を正極、負極の活物質などの粒子と一緒に集電体に付着させて電極にすることも含まれる。
【0009】
本発明は全固体電池の正極用と負極用の集電体に電極層を形成し、少なくとも片方の電極層の上に電解質層を形成し、正極用集電体と負極用集電体の間にそれぞれが密着した正極層、電解質層、負極層を介在させ、または前記電極層間に電解質層を挿入し積層して全固体電池を製造する方法であって、集電体に電極層を形成するに当たり、少なくとも電極用活物質と溶媒からなるスラリー、及び少なくとも電解質粒子または電解質短繊維と溶媒からなるスラリーを用意する工程と、前記集電体に少なくとも前記二種類のスラリーを薄膜で交互にそれぞれが2層以上になるように塗布し積層する工程とからなることを特徴とする全固体電池の製造方法を提供する。
【0010】
本発明はそれぞれのスラリーの積層が2乃至15層であることを特徴とする全固体電池の製造方法を提供する。
【0011】
本発明は前記スラリーの少なくとも正極用スラリーに導電助剤が含まれることを特徴とする全固体電池の製造方法を提供する。
【0012】
本発明は前記導電助剤は独立したスラリーとして用意し、少なくとも導電助剤粒子または繊維が造膜しないように導電助剤粒子または繊維を分散させて電解質粒子上または繊維上、または活物質粒子上に塗布することを特徴とする全固体電池の製造方法を提供する。
【0013】
本発明は前記少なくとも電極用スラリー、電解質用スラリーには無機または有機のバインダーが含まれることを特徴とする全固体電池の製造方法を提供する。
【0014】
本発明は前記電極形成された正極層または負極層上に、または電解質用ポーラスシートに電解質層用スラリーが薄膜で積層塗布されて電解質層が形成されることを特徴とする全固体電池の製造方法を提供する。
【0015】
本発明は前記電極形成、電解質層形成の少なくとも一つがスプレイ法により、またはスラリーを粒子化し移動させて塗布し、前記塗布対象物の集電体、電極層、ポーラスシートが加熱され、スプレイ粒子または前記粒子化したスラリーが対象物に付着した後5秒以内に溶媒の95パーセント以上を揮発させ電極または電解質層を形成することを特徴とする全固体電池の製造方法を提供する。
【0016】
本発明は前記スプレイは1乃至1000Hzのパルス的に行われ、対象物とスプレイヘッドの距離は5乃至60mmとし、対象物へのスラリースプレイ粒子衝突時にインパクトを持たせスラリーの溶媒と不揮発分を瞬間的に分離させながら溶媒を蒸発させることを特徴とする全固体電池の製造方法を提供する。
【0017】
本発明は前記電解質は硫化物系であって電極層形成、及び電解質層形成工程のブース下流には排気手段が接続され、上流には除湿手段が設けられていることを特徴とする全固体電池の製造方法を提供する。
【0018】
本発明は負極用集電体に負極が形成される工程、正極用集電体に正極が形成される工程、負極上または正極上に電解質層が形成される工程、またはポーラス基材を骨格にした電解質層を形成し正極負極層間に電解質層が介在し積層される工程からなることを特徴とする全固体電池の製造方法を提供する。
【0019】
本発明は前記全固体電池の製造がロール・ツー・ロール(Roll to Roll)方式で行われることを特徴とする全固体電池の製造方法を提供する。
【0020】
本発明では電解質が硫化物系、酸化物系に限らず各スラリーのバインダー量は特に後工程で焼成する場合、重量比で全固形分の10%以下が好ましく、更に残炭を僅少にするなどの理由から好ましくは2%以下である。バインダーがあると対象物とスラリーまたはスプレイなどにより粒子化した微粒子間に電位差を設け静電気的に微粒子の付着をサポートさせることができる。特に静電気を利用した塗布はサブミクロン以下の超微粒子の付着に効果的である。スプレイ粒子などを静電気的に帯電させるには上記バインダーまたは溶媒は静電気で帯電しやすいものを選定すべきである。
【0021】
本発明の全固体電池の製造方法によればスプレイ粒子などをインパクトを持って対象物に衝突させて付着させるので超緻密な粒子群の形成が可能である。さらに電極の界面を微細な凹凸、必要により所望する大きさの凹凸が容易に形成できるので、電解質層との接触面積を増やすことができアンカーエフェクト効果で密着性を高め、界面抵抗を最大に低くできる。
【0022】
また本発明では正極層、電解質層、負極層の全部を電極用スラリーや電解質用スラリーをスプレイなどにより粒子化し積層して積層体を形成できる。一方正極層、負極層は電極用活物質粒子と電解質粒子や電解質用短繊維と溶媒を混合してスラリーにして、必要によりバインダーを更に特に正極には導電助剤を付加してダイコート、ロールコート、カーテンコート、スクリーンコートなどの方式で電極層を薄膜で積層し処理スピードをあげることができる。同じように電解質層も形成できる。また正極層、電解質層、負極層あるいは集電体との界面のみを所望するスラリーや溶媒、固形分の僅少なバインダー溶液を粒子化しインパクトをもって付着させて、積層体を形成することもできる。
【0023】
更に本発明では特に電極に関しては複数種の粒子を混合した単一スラリーに限定するものでなく種類の異なる複数のスラリーを作成しそれに対応した複数のヘッドを使用することができる。比重や粒子径が違う例えば電極用粒子と電解質用粒子を混合しバインダー無しあるいは僅少のバインダーを含有したスラリーを作成しいくら均一に混合しても経時的にあるいは瞬時に沈降し分散状態が変化する。主に電極用活物質粒子と溶媒からなるスラリーと主に電解質粒子または繊維と溶媒からなるスラリーを別々に作成し、それぞれ所望する比率のスプレイ量にして、薄膜でそれぞれを所望する重ね合わせで、例えば交互に、幾重にも積層すると理想的な電極の積層体を得ることができる。またこの方法は体積当たりの比率が大きく違い比重と粒子径が違う活物質とカーボン粒子やカーボンナノファイバーなどの導電助剤の所望する配分積層に効果的である。導電助剤は電極層の単位体積当たり少なすぎても多すぎても性能に影響があるので活物質との混合スラリーとして塗布するより遙かに性能を上げることができる。さらに無機や有機の粒子や繊維のバインダー例えばPTFEやPVDF等の樹脂系パウダーや短繊維、電解質ガラス系の短繊維バインダー等などと溶媒、必要により樹脂系溶液やエマルジョンなどを添加したスラリーにした独立したスラリーにして所望する箇所に所望する量を適用できる。
【0024】
また特に導電助剤はスラリーの固形分濃度を下げて、例えば10%以下のスラリー状態で薄膜にして幾重にも電解質粒子や活物質粒子にからませるように積層すればするほど単位面積当たりの塗布量がより均一になるので電池の性能アップにつながる。
【0025】
さらに本発明では負極に効果的なシリコンや酸化シリコン粒子の膨張収縮による性能低下を防止するため強力な粘着剤をシリコン粒子等に部分的に施与できる。つまりシリコン粒子よりなるスラリーと強力な粘着剤の溶液またはエマルジョンあるいは樹脂粒子や繊維などを別々のヘッドで粒子にして積層させてシリコン表面に部分的に粘着粒子として付着させて電極層を形成できる。特に粘着剤をスプレイ、または微粒子にして移動させシリコン表面に部分的に付着させるにはインパクトをもったパルス的方法が最適である。粘着剤溶液または粘着剤のエマルジョンに負極活物質のカーボン粒子などを添加してスラリーにし、施与することもできる。
【0026】
また対象物は加熱することができる。加熱温度は30乃至150℃が好ましい。対象物を加熱することにより、粒子化したスラリーの溶媒分は対象物に接触し濡れさせるのと同時に蒸発させることができる。溶媒を95%蒸発させるまでの時間は5秒以内が良く、より理想的には2秒以内である。時間が長くなるとインパクトで高密度で堆積した粒子群が溶媒で緩みやすくなる。また衝突と同時に瞬時に全部の溶媒が蒸発すると溶媒蒸気でスプレイ粒子などが飛散しやすくバインダーに突沸などが生じやすくなる。
【0027】
本発明ではスラリーを粒子化して対象物に付着させる際、パルス的に行うことにより、インパクトを上げることができる。特に業界で2流体スプレイと呼ばれるエアスプレイ方式ではスプレイ粒子の周囲に存在するエアの質量が400乃至600倍と非常に多いため対象物上で後から到達する粒子は対象物でリバウンドしたエアに押し戻されインパクトが失われるだけでなく粒子の付着効率も極めて悪い。 一方スラリーもエアもパルス的に行うインパクトパルス方式ではスプレイ粒子群とスプレイ粒子群の間で圧縮されたエアは拡散し、方向性を持った粒子のみが移動し付着する。
そのため付着する効率も通常のスプレイの30~50%程度に対して95%以上と高く経済的でもある。
パルスで行うことにより例えば導電助剤などの塗布量を通常のスプレイの10分の1以下にすることもできるので導電助剤と電極の電解質や活物質との比率を調整する場合極めて便利である。
【発明の効果】
【0028】
上記のように本発明によれば性能の高い全固体電池を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の実施の形態に係る対象物(集電体)に活物質をスプレイする略図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る、対象物に付着した活物質粒子に電解質粒子や異種(導電助剤など)粒子をスプレイする略図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係わる2種類の粒子を積層した略断面である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る集電体、正極電極層、電解質層、負極電極層、集電体を積層した略断面図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係わる対象物(集電体、電解質層)へ電極スラリーをスプレイする略断面図である。
【
図6】本発明の実施の形態に係わる対象物(電解質層、電極層)へのスプレイの略断面図である。
【
図7】本発明の実施の形態に係わる対象物(電解質層)へのスプレイの略断面図である。
【
図8】本発明の実施の形態に係わる対象物(集電体)への異種材料をパルス的に時間差をもって交互に積層するためにスプレイしている略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は発明の理解を容易にするための一例にすぎず本発明の技術的思想を逸脱しない範囲において当業者により実施可能な付加、置換、変形等を施すことを排除するものではない。
【0031】
図面は本発明の好適な実施の形態を概略的に示している。
【0032】
図1において対象物である集電体1上にスプレイヘッド21から電極用活物質粒子と溶媒からなるスラリー、あるいは活物質と溶媒とバインダーからなるスラリーをスプレイし活物質スプレイ粒子2が付着する。活物質粒子の種類は問わないが電解質が硫化物系の場合、正極用の活物質であるコバルト酸リチウム(LCO)、ニッケルマンガンコバルト酸リチウム(NMC)、ニッケルコバルトアルミ酸リチウム(NCA)等は硫黄と反応してリチウムイオンを通しにくいためそれらの活物質をニオブ酸リチウムなどで薄膜に被覆した粒子であっても良い。活物質粒子または電解質粒子はそれぞれ電解質または活物質でカプセル化することにより工程を短くかつ簡素化できるのより生産的である。スプレイはパルス的に行い、かつスプレイ粒子のスピードが速い状態でインパクトをもって集電体に付着させることによって密着性を上げることができる。スプレイ粒子2にインパクトをもたせるには対象物とスプレイヘッドの距離を至近にして、例えば5乃至60ミリメートルにして、狭いスプレイ角度の例えば30度以下好ましくは20度以下のスプレイパターンの2流体ノズルを使用して0.15乃至0.3MPaのガス圧でパルス的にスプレイすることによって可能である。1秒間当たりのパルス数は生産性を考慮すると10Hz以上が好ましい。
距離が短いほど、スプレイパターン角度が狭いほどインパクトは向上する。
尚最初に主に電解質粒子と溶媒からなるスラリーをスプレイしても良い。
スプレイなど塗布する部屋例えばブースなどは排気が好ましく、電解質が硫化物系の場合は供給する気体は除湿する必要がある。除湿は低いレベルの露点ほど良く例えばマイナス100℃にすると硫化水素がほとんど発生せず性能の良い電固体電池が得られる。また酸化を嫌うような材料は、例えば加熱工程など必要により不活性ガス(例えばアルゴン)雰囲気下で行い反応を抑えることができる。
【0033】
図2は
図1で薄膜例えば1層を付着させた活物質2’の周囲や上部に異種のスラリー、例えば電解質粒子からなるスラリーをヘッド22でスプレイし、薄膜で粒子3、3‘を分散塗布した図である。
図1のヘッド21の活物質スプレイとヘッド22の電解質のスプレイは交互に薄膜で何層にも積層することができる。電解質粒子の代わりにあるいは追加してカーボン粒子、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブから選択した少なくとも一種類の導電助剤、あるいはヨウ化リチウム等の導電助剤からなる溶液やスラリー、あるいはそれらに電極用活物質または電解質粒子を付加した混合体のスラリーをスプレイヘッド22からスプレイし、スプレイ粒子3を付着させる。導電助剤の細孔のあるカーボンやナノカーボンは表面積が大きいほど良く、例えばBETプロットでグラム当たり2000平方メートル以上、更に好ましくは3500平方メートル以上あるとあらかじめナノレベルの細孔内に正極では硫黄や活物質、負極ではナノレベルのシリコン等を封入することにより電極性能を上げることができる。
【0034】
図3は電極用活物質2’と電解質粒子3’を交互に積層した図であるが、それぞれの単位面積当たりの重量比率は自由に選択でき、特にパルス的スプレイを行うことによりパルス数の選択で容易に比率を調整することができる。更に別のスプレイヘッドを用いて所望する量の導電助剤を電解質や電極用活物質の周りに所望する量だけ分散塗布して付着させることもできる。
【0035】
図4は電解質層12の両側に正極層11と負極層13が積層され電極11,13を集電体1,10で挟み込み加熱あるいは室温でプレスされて全固体電池用積層体として完成する。集電体は正極にアルミ箔が負極に銅箔が使用されることが一般的だが、活物質や電解質の種類に応じてステンレススチール薄板を使用するなど特に限定されない。
【0036】
図5は正極集電体1、正極層11,電解質層12の上と負極集電体に負極層を形成すべくスプレイヘッド24から電解質スラリーのスプレイとスプレイヘッド23から負極用活物質スラリーのスプレイが交互に行われ、ロール31,31’でプレスしている図である。後工程で本プレスする場合、プレス圧はほとんど無いか低くても良い。ロールは加熱しても良く、集電体、電極層、電解質層もあらかじめ加熱してスプレイ粒子4,5に含まれる溶媒の揮発を促進することができる。
【0037】
図6は電解質層12と負極層13との界面にスプレイヘッド25で電解質スラリーまたは電極用活物質スラリーまたは両方をスプレイする。電解質粒子と電極用活物質からなるスラリーをスプレイしても良い。溶媒等をスプレイしそれぞれの界面のバインダー等を瞬時に膨潤させることなどにより界面の密着力を上げることもできる。ロール31,31’で無加圧またはプレスしながら移動させる。プレスロールの荷重、直径、本数は限定しない。
【0038】
図7は可撓性のある集電体、正極層、負極層上の両方に形成された電解質層に対し電解質層用スラリーや溶媒をスプレイしている図である。効果は上記と同じである。電解質層がない正極負極の電極の間に別途製造した電解質薄板またはポーラス基材に充填された可撓性のある電解質膜を挟み込むこともできる。
この場合も電解質の表面やそれぞれの電極の表面に電解質スラリーやそれぞれの活物質スラリーあるいはバインダー溶液や溶媒を塗布し密着性をあげることができる。
【0039】
図8は負極集電体10に負極用活物質スラリーをスプレイヘッド23からパルス的にスプレイし、スプレイ粒子群7を形成させる。一方電解質スラリーはスプレイヘッド24からパルス的にスプレイしスプレイ粒子群8を形成させ、それぞれのスプレイ粒子群は負極集電体に交互に積層される。薄膜で何重にも積層するとより良い。
同様に正極用集電体に主に正極用活物質と溶媒からなるスラリーと主に電解質と溶媒からなるスラリーを交互に積層することができる。更に図示していないヘッドを追加して導電助剤のスラリーをパルス的に微量に23あるいは24のヘッドと交互にスプレイできる。
電解質が硫化物の場合、これらの作業は硫化水素が発生しない程度の充分除湿した環境で行うべきである。
また対象物はR to Rの長尺の集電体やポーラスシートなどでも良く、枚葉の集電体やポーラスシート、集電体に電極が形成されたシートでも良い。電極は集電体の端部にタブ等をレーザー溶接するためにスロットノズルで間欠塗工して周縁を形成できる。またスプレイにおいてもマスクを使用することができ、至近距離で塗布することで周縁を形成できる。
【0040】
本発明では生産性を上げるために例えば1500ミリメートル幅の対象物に対してスロットノズルなどで高速スピードに対応した塗布ができる。また1種類のスラリー1層塗布当たり100乃至200のスプレイヘッドを対象物の移動方向と直交して略1列または複数列に配置し、ヘッド群を形成しスプレイまたはパルス的にインパクトを持ってスプレイすることができる。必要によりヘッド配置方向にヘッド群を例えば15ミリメートル往復移動させて(揺動)して例えば15ミリメートルのパターンを十分ラップさせることができる。必要な種類のスラリー分のヘッドを、また所望する積層回数分のヘッドを配列して要求スピードに対応できる。
【0041】
ヘッドの構造をシンプルにしたい場合は本発明人により発明された特開平8-309269の広幅ロールの幅方向に例えば10ミリメートルごとに溝を形成しロールを回転させ、溝に充填されたスラリーを圧縮ガスで粒子化させ対象物に付着させることができる。対象物のスピードは理論的に毎分当たり100メートル以上にすることができる。対象物の移動方向に直交してスラリーの数分、また積層回数の数分のロール装置を配置したら良い。
また同じく本発明人が発明した特開平6-86956を応用しても良い。対象物の幅より広い幅の円筒スクリーンまたはシームレスベルトに貫通した無数の孔例えば直径150マイクロメートル程度の孔にスラリーを充填し対象物と対峙した箇所で液化ガスや圧縮ガスで吹き出すことにより微細に粒子化して対象物に全面に均一に付着する。市販のスクリーン印刷用のロータリースクリーン用のスクリーンを代用すると安価である。また対象物より幅広の円筒パイプに例えば直径0.3mm または0.5mm程度の孔をピッチ1.5mmで千鳥に開けて同様な効果を得ることができる。
上記二つの方法は粒子化して吹き出す位置と対象物の距離は5乃至70ミリメートルにした方がインパクト効果が向上するので良い。
また上記二つの方法は容積式供給方法を兼ね回転スピードを変えることによりライン追従もできるので高価なポンプやコントローラーなどが不要であり、かつロールコーターやロータリースクリーンプリンターのRoll to Rollの延長線上で装置設計や製造ができるので一部の従来のリチウム電池の電極ラインを改造して利用することも可能である。
【0042】
本発明ではスラリーを粒子にして圧力差で移動させる方法でも良く、粒子化はインクジェットでよい。また一般塗装分野で使用させているディスクやベルの回転霧化装置で微粒化させても良い。それ以外にバブラーや超音波での霧化、スプレイ流を至近距離の回転するロールに打ち当てて更に微細化させる方法などいずれでも良い。粒子化させた粒子群はキャリヤーガスで移動させ差圧で対象物に付着させたら良い。
移動はパルス的に行うと付着効率とインパクトが高まるのでなお良い。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば界面抵抗が低く密着性の高い全固体電池の電解質、電極、集電体からなる積層体を高品質のもとに製造できる。
【符号の説明】
【0044】
1 正極集電体
2,4 電極用活物質スプレイ粒子
2’ 電極用活物質
3,5 電解質スプレイ粒子
3’ 電解質粒子
6 溶媒等スプレイ粒子
7 電極用活物質スプレイ粒子群
8 電解質スプレイ粒子群
10 負極集電体
11 正極層
12 電解質層
13 負極層
21,22,23,24,25 スプレイヘッド
31,31’ ロール