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特許7411978美味しさ計測装置、美味しさ計測システム及び美味しさ計測装置のプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】美味しさ計測装置、美味しさ計測システム及び美味しさ計測装置のプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/08 20060101AFI20240104BHJP
【FI】
G01N3/08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019130508
(22)【出願日】2019-07-12
(65)【公開番号】P2021015062
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】石川 智治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 尚平
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-167470(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106932273(CN,A)
【文献】Shibata, Akihide et al.,Convolutional Neural Network based Estimation of Gel-like Food Texture by a Robotic Sensing System,MDPI Journal,スイス,MDPI,2017年11月01日,34(9),631-639
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のエリアに分割された圧力検出面を有し、前記圧力検出面が試料から受ける圧力を前記エリアごとに検出する圧力検出部から出力される圧力検出結果を取得する取得部と、
前記取得部が取得する前記圧力検出結果に基づいて、複数の前記エリアのうち圧力を検出した前記エリアの数を圧力検出エリア数として計数する計数部と、
前記圧力検出エリア数に応じて定義された複数のレイヤーに基づいて、前記取得部が取得する前記圧力検出結果を、前記計数部が計数した前記圧力検出エリア数に応じて複数の前記レイヤーのいずれかのレイヤーにそれぞれ分類する分類部と、
前記分類部が分類した前記圧力検出結果が示す圧力の時間変化を、前記レイヤーごとに示す情報を圧力変化情報として生成する生成部と、
前記生成部が生成する前記圧力変化情報に基づいて、前記試料の美味しさを示すスコアを算出する算出部と、
を備える美味しさ計測装置。
【請求項2】
前記算出部は、
複数の前記レイヤーの前記圧力変化情報どうしを組み合わせて前記スコアを算出する 請求項1に記載の美味しさ計測装置。
【請求項3】
前記算出部は、
前記圧力変化情報に前記レイヤーごとの重み付けをして、前記圧力変化情報どうしを組み合わせた前記スコアを算出する
請求項2に記載の美味しさ計測装置。
【請求項4】
前記算出部は、
前記圧力変化情報から前記美味しさの複数の主成分ごとに前記スコアを算出し、算出された前記スコアどうしを足し合わせて前記主成分ごとのスコア合計値を算出することにより、前記スコア合計値を前記試料の美味しさを示す総合スコアとして算出する
請求項1から3のいずれか一項に記載の美味しさ計測装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の美味しさ計測装置と、
前記圧力検出部と、
を備える美味しさ計測システム。
【請求項6】
前記圧力検出部に向かい合って配置された押圧部材と、
前記圧力検出部と前記押圧部材との離間距離を調整するステッピングモーターと、
を備える、
請求項5に記載の美味しさ計測システム。
【請求項7】
複数のエリアに分割された圧力検出面を有し、前記圧力検出面が試料から受ける圧力を前記エリアごとに検出する圧力検出部から出力される圧力検出結果を取得する第1ステップと、
前記第1ステップで取得する前記圧力検出結果に基づいて、複数の前記エリアのうち圧力を検出した前記エリアの数を圧力検出エリア数として計数する第2ステップと、
前記圧力検出エリア数に応じて定義された複数のレイヤーに基づいて、前記第1ステップで取得する前記圧力検出結果を、前記第2ステップで計数した前記圧力検出エリア数に応じて複数の前記レイヤーのいずれかのレイヤーにそれぞれ分類する第3ステップと、 前記第3ステップで分類した前記圧力検出結果が示す圧力の時間変化を、前記レイヤーごとに示す圧力変化情報として生成する第4ステップと、
前記第4ステップで生成する前記圧力変化情報に基づいて、前記試料の美味しさを示すスコアを算出する第5ステップと、
を備える美味しさ計測装置のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、美味しさ計測装置、美味しさ計測システム及び美味しさ計測装置のプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品の美味しさを数値データとして計測可能な装置が種々提案されている。このような装置を用いることによって、例えば、商品としての食品が販売規格を満たしているか、或いは販売店舗で売れ行きが芳しくない食品の数値データと売れ筋食品の数値データとを比べることによって売れない要因は何か、ということを調べることができる。
【0003】
食品の美味しさには、食品自体が有する要因が関係する。食品が有する要因には、主に、味、香り、温度、テクスチャー、外観、音があることが知られている。味には、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の五味に加え、辛み、渋み等の種類がある。香りは、食材がもともと持っているものの他に、調理や加工の段階で生ずるもの等がある。テクスチャーは、食品を食べたときの舌触りや歯触り、のど越し等のように口の中で感じる性質である。例えば「柔らかい」、「硬い」等の表現は、テクスチャーの状態を表す。テクスチャーは、食品を食べる人間が感知する食感と、食品自体の物性の双方を意味する。そのため、食品のテクスチャーは、実際に人間が食べてその人間の感覚器官により評価する官能評価の結果と、圧縮装置等を用いて食品の物性を客観的に評価する物性評価の結果とを個別に見て評価される場合が多い。
【0004】
例えば、特許文献1には、食品の歪率-荷重曲線の多次近似曲線を統一的に補正し、得られた2つの補正多次近似曲線の差を積分値として求め、得られた積分値が、どの程度の食感の違いに該当するかを、予め収集したデータに基づいて食品のテクスチャーを判断する方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、食品の破断前及び破断後の双方のフェーズの圧力分布を用いて食品の食感を評価する装置が開示されている。この装置では、食品の圧力分布を示す複数フレームの画像情報から空間濃度レベル依存法に基づいて主成分ベクトルを算出し、この主成分ベクトルから食感の評価の結果を示す推定印象レベルを算出する。特許文献2に記載の装置では、従来の力学測定等での評価が難しかった食品の表面的印象を定量的に評価できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-032193号公報
【文献】特開2014-167470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
食品の美味しさには、上述のように食品自体が有する要因の他に、食品を食べる人間に起因する要因がある。人間に起因する要因には、心理的要因、生理的要因、先天的要因、後天的要因、環境的要因があることが知られている。心理的要因は、感情・緊張等の心理状態、好き嫌い、食環境等を含む。生理的要因は、食欲、空腹感、健康状態等を含む。先天的要因は、人種、年齢、性別、体質等を含む。一方、後天的要因は、生まれてから身につくもの、生活様式、教育等を含む。環境的要因は、天候、温度、湿度、時刻、照度等を含む。
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された方法では、押圧装置を用いた歪率-荷重曲線の測定結果に基づいて上述のように食品の美味しさが力学的に判断されるので、食品自体が有する要因と人間に起因する要因の両方をふまえた食品の総合的な美味しさは計測されない。また、特許文献2に開示された評価方法において、官能評価では美味しさを直接評価していない。そのため、総合的な美味しさの計測が可能な装置及び計測方法が求められていた。
【0009】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであって、試料の総合的な美味しさを計測可能な美味しさ計測装置、美味しさ計測システム及び美味しさ計測装置のプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の美味しさ計測装置は、複数のエリアに分割された圧力検出面を有し、前記圧力検出面が試料から受ける圧力を前記エリアごとに検出する圧力検出部から出力される圧力検出結果を取得する取得部と、前記取得部が取得する前記圧力検出結果に基づいて、複数の前記エリアのうち圧力を検出した前記エリアの数を圧力検出エリア数として計数する計数部と、前記取得部が取得する前記圧力検出結果を、複数のレイヤーのうち前記計数部が計数した前記圧力検出エリア数に応じた前記レイヤーに分類する分類部と、前記分類部が分類した前記圧力検出結果が示す圧力の時間変化を、前記レイヤーごとに示す情報を圧力変化情報として生成する生成部と、前記生成部が生成する前記圧力変化情報に基づいて、前記試料の美味しさを示すスコアを算出する算出部と、を備える。
上述の美味しさ計測装置によれば、圧力検出部に食品等の試料が設けられ、試料において圧力検出部とは反対側から試料が押圧されたときに、押圧が開始されてからの経過時間と圧力が検出されるエリアとの相対関係に試料の物性が反映される。また、官能評価等に基づき、スコアリングの対象として選択する所定の検出エリア数(即ち、レイヤー)を決めることによって、経過時間と所定の検出エリア数との相対関係に試料に対する官能評価が反映される。得られたスコアに基づいて数値データ化された試料の美味しさは、試料自体が有する物性的要因と人間に起因する官能的要因の両方をふまえた結果になる。したがって、上述の美味しさ計測装置によれば、試料の総合的な美味しさを計測できる。
【0011】
本発明の美味しさ計測装置では、前記算出部は、複数の前記レイヤーの前記圧力変化情報どうしを組み合わせて前記スコアを算出してもよい。
上述の美味しさ計測装置によれば、複数のレイヤーの圧力変化情報どうしが組み合わさることによって、経過時間に対する圧力の変化が積算されるので、試料固有の物性及び官能評価に影響を与える試料の要因が強調された数値データが得られる。したがって、上述の美味しさ計測装置によれば、単数のレイヤーの圧力変化情報をスコアリングする場合に比べて試料の総合的な美味しさを鮮明に計測できる。
【0012】
本発明の美味しさ計測装置では、前記算出部は、前記圧力変化情報に前記レイヤーごとの重み付けをして、前記圧力変化情報どうしを組み合わせた前記スコアを算出してもよい。
上述の美味しさ計測装置によれば、レイヤーごとの重み付けの係数を官能評価等に基づいて決めることによって、官能評価に影響を与える試料の要因がさらに強調された数値データが得られる。したがって、上述の美味しさ計測装置によれば、単数のレイヤーの圧力変化情報をスコアリングする場合に比べて試料の総合的な美味しさを鮮明に、試料の官能評価を重視して計測できる。
【0013】
本発明の美味しさ計測装置では、前記算出部は、前記圧力変化情報から前記美味しさの複数の主成分ごとに前記スコアを算出し、算出された前記スコアどうしを演算して前記主成分ごとのスコア合計値を算出することにより、前記スコア合計値を前記試料の美味しさを示す総合スコアとして算出してもよい。
上述の美味しさ計測装置によれば、美味しさを構成する主成分ごとにスコアが得られ、美味しさに対する主成分の寄与を反映したスコア合計値が算出される。したがって、上述の美味しさ計測装置によれば、試料の総合的な美味しさを総合スコアとして算出し、複数の主成分の視点で多角的に計測できる。
【0014】
本発明の美味しさ計測システムは、上述の美味しさ計測装置と、前記圧力検出部と、を備える。
上述の美味しさ計測システムによれば、上述説明した美味しさ計測装置を備えるので、試料自体が有する物性的要因と人間に起因する官能的要因の両方をふまえた数値データが得られ、試料の総合的な美味しさを計測できる。
【0015】
本発明の美味しさ計測システムは、前記圧力検出部と向かい合って配置された押圧部材と、前記圧力検出部と前記押圧部材との離間距離を調整するステッピングモーターと、を備えてもよい。
上述の美味しさ計測システムによれば、ステッピングモーターを美味しさ計測装置に接続し、美味しさ計測装置から試料の物性及び官能評価に応じた制御信号をステッピングモータに出力することで、押圧部材が前述の制御信号に合わせて圧力検出部との間に設けられた試料に当たり、試料が押圧される。したがって、上述の美味しさ計測システムによれば、例えば押圧部材が一定の速度で試料に押し付けられる場合に比べて試料の総合的な美味しさを高精度に計測できる。
【0016】
本発明の美味しさ計測装置のプログラムは、複数のエリアに分割された圧力検出面を有し、前記圧力検出面が試料から受ける圧力を前記エリアごとに検出する圧力検出部から出力される圧力検出結果を取得する第1ステップと、前記第1ステップで取得する前記圧力検出結果に基づいて、複数の前記エリアのうち圧力を検出した前記エリアの数を圧力検出エリア数として計数する第2ステップと、前記第1ステップで取得する前記圧力検出結果を、複数のレイヤーのうち前記第2ステップで計数した前記圧力検出エリア数に応じた前記レイヤーに分類する第3ステップと、前記第3ステップで分類した前記圧力検出結果が示す圧力の時間変化を、前記レイヤーごとに示す圧力変化情報として生成する第4ステップと、前記第4ステップで生成する前記圧力変化情報に基づいて、前記試料の美味しさを示すスコアを算出する第5ステップと、を備える。
上述の美味しさ計測装置のプログラムによれば、上述の各ステップによって、試料自体が有する物性的要因と人間に起因する官能的要因の両方をふまえた数値データが得られる。そのため、数値データを用いて試料の総合的な美味しさを計測できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の美味しさ計測装置、美味しさ計測システム及び美味しさ計測装置のプログラムによれば、試料自体が有する要因と人間に起因する要因の両方をふまえた試料の総合的な美味しさを計測できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の美味しさ計測システムの側面図である。
図2図1に示す美味しさ計測システムの押圧装置の平面図である。
図3図1に示す美味しさ計測装置のブロック図である。
図4図1に示す美味しさ計測システムの要部の初期状態における平面図である。
図5図1に示す美味しさ計測システムの要部の初期状態における側面図である。
図6図4に示す美味しさ計測装置を用いて得られる圧力検出テーブルである。
図7図1に示す美味しさ計測システムの要部の押圧状態における平面図である。
図8図1に示す美味しさ計測システムの要部の押圧状態における側面図である。
図9図1に示す美味しさ計測システムの要部の押圧状態における別の平面図である。
図10図1に示す美味しさ計測システムの要部の押圧状態における別の平面図である。
図11図4に示す美味しさ計測装置を用いて得られる圧力抽出テーブルである。
図12図1に示す美味しさ計測システムの処理を説明するための模式図である。
図13図1に示す美味しさ計測装置のプログラムのフローチャートである。
図14図1に示す美味しさ計測システムの圧力センサの変形例を示す平面図である。
図15図1に示す美味しさ計測システムの圧力センサの別の変形例を示す平面図である。
図16】実施例における感性評価の実施方法のフローチャートである。
図17】実施例における感性評価の評価語に対する評価値平均を表すグラフである。
図18】実施例において試料の硬度が0.1Nである場合の主成分分析結果を示す図である。
図19】実施例において試料の硬度が0.4Nである場合の主成分分析結果を示す図である。
図20】実施例において試料の硬度が0.4Nである場合の主成分分析結果の要部を示す図である。
図21】実施例において主成分分析の結果から重回帰分析を行った結果を示す図である。
図22】実施例における第1主成分から第3主成分の各係数を示す図である。
図23】実施例において美味しさ計測システムを用いて測定したレイヤーごとの圧力検出グラフである。
図24】実施例における第1主成分のスコア化圧力グラフである。
図25】実施例における第2主成分のスコア化圧力グラフである。
図26】実施例における第3主成分のスコア化圧力グラフである。
図27】実施例における第3主成分の別のスコア化圧力グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の美味しさ計測装置、美味しさ計測システム及び美味しさ計測装置のプログラムの実施形態について、図面を参照して説明する。
【0020】
<美味しさ計測装置及び美味しさ計測システムの構成>
図1に示すように、本発明の一実施形態の美味しさ計測システム10は、押圧装置12と、圧力センサ(圧力検出部)30と、本発明の美味しさ計測装置50と、を備える。
【0021】
押圧装置12は、試料台14、押圧板(押圧部材)16、支持板18、ステッピングモーター21、及び、支柱15、17、25、電源28を備える。
【0022】
試料台14、押圧板16、及び、支持板18は、鉄製の矩形盤状の部材である。試料台14の一方の盤面は、圧力検出部載置面13になっている。以下、試料台14の厚さ方向をT方向と記載し、T方向に直交する直交面をP面と記載し、T方向に沿って見る場合を平面視という。試料台14、押圧板16、及び、支持板18は、P面に平行に配置される。
【0023】
支持板18の四隅の端部は、T方向に沿って延在する支柱15に支持される。支持板18は、試料台14に対してT方向に間隔をあけて固定される。支柱25は、ネジ、又は側面がねじ切りされた棒状部材で構成され、T方向に沿って支持板18を貫通する。押圧板16は、支柱25に支持され、T方向において試料台14と支持板18との間で移動可能に構成される。支柱15は、押圧板16を貫通する。押圧板16において圧力検出部載置面13に向き合う盤面は、押圧面19になっている。圧力検出部載置面13は、P面に平行に配置される。押圧板16は、3つの支柱25によって支持される。
【0024】
図2に示すように、平面視において、3つの支柱25の中心は、一点鎖線で示す三角形の頂点に相当する位置にある。平面視において、前述の三角形の重心は、押圧板16及び支持板18の中心と重なる。
【0025】
図1に示すように、ステッピングモーター21は、3つの支柱25のそれぞれを貫通し、支持板18に対して押圧板16とは反対側の位置に設けられる。ステッピングモーター21は、支柱25を軸線を中心に回動させる。電源28は、ステッピングモーター21のそれぞれと電気ケーブル又は無線等で接続される。ステッピングモーター21は、圧力検出部載置面13と押圧面19との距離(圧力検出部と押圧部材との離間距離)を調整する。電源28は、3つのステッピングモーター21に共通の駆動信号を送り、3つのステッピングモーター21を互いに連動させる。駆動信号は、予め測定された駆動開始からの経過時間と、ステッピングモーター21による支柱25の回動量と、その回動量に応じたT方向における圧力検出部載置面13と押圧面19との離間距離との相対関係に基づいて決められる。3つの支柱25が3つのステッピングモーター21によって互いに連動するので、圧力検出部載置面13と押圧面19とが互いに平行な相対配置が維持される。
【0026】
圧力センサ30は、平面視で矩形状に形成されたシート状のセンサであり、試料載置面15に敷かれる。圧力センサ30は、複数のエリア32-1~32-Nに分割された圧力検出面34を有する。以下、エリア32の総数をNとし、n番目のエリア32をエリア32-nと記載する。nは、1~Nのいずれかである。1つのエリア32-nの平面視の形状は、矩形である。複数のエリア32-1~32-Nは、平面視においてP面に沿って且つ互いに直交する2つの方向に沿って配列する。電源28及び圧力センサ30は、電気ケーブル又は無線等で美味しさ計測装置50に接続される。
【0027】
試料Sは、少なくとも1つ以上のエリア32に置かれる。試料Sは、美味しさを計測する対象であり、押圧板19で押圧されることによって弾性変形する。圧力センサ30は、圧力検出面34が試料Sから受ける圧力をエリア32-1~32-Nごとに検出する。
【0028】
図3に示すように、美味しさ計測装置50は、取得部52、計数部54、分類部56、生成部58、算出部60を備える。取得部52、計数部54、分類部56、生成部58、算出部60は、コンピュータ70の本体72に収められる。取得部52は、エリア32-n(n=1~N)ごとに圧力センサ30から出力される圧力検出結果を取得する。
【0029】
ここで、取得部52で行われる処理を説明するために、N=16の圧力センサ30を一例として用いる。図4及び図5に示すように、押圧面19が試料Sに接しない初期状態において、試料Sは、16個のエリア32-nのうち、エリア32-11のみに接する。なお、図5では、試料台14、押圧板16及び圧力センサ30以外の構成の図示は省略されている。
【0030】
図4及び図5に示す初期状態から、押圧面19がT方向において試料Sに近づくように、押圧板16を試料台14に向かって移動させる。取得部52は、電源28からステッピングモーター21への駆動信号を電源28と共有する。そのため、取得部52は、押圧板16の移動開始からの経過時間t、T方向における圧力検出部載置面13と押圧面19との距離Kの情報を得る。加えて、取得部52は、エリア32-1~32-Nのそれぞれで検出されるエリア検出圧力P(t,n)(圧力)を取得する。エリア検出圧力P(t,n)は、圧力センサ30から取得部52に出力される。
【0031】
取得部52では、図6に示すように経過時間t、エリア番号n、エリアごとのエリア検出圧力P(t,n)の関係を示す圧力検出テーブル(圧力検出結果)が作成される。t=0の状態は初期状態であるため、P(0,11)は、圧力検出面34に接する試料Sの面積、試料Sの重量、計測時の環境温度等に依存する。
【0032】
押圧面19が試料Sに接した後、試料Sが押圧面16によってT方向に押圧されると、試料Sは弾性変形する。試料Sが押圧されて弾性変形している状態を押圧状態と呼ぶ。押圧状態では、試料SがP面に拡がり、T方向における試料Sの厚みJが距離Kの減少に伴い、減少する。経過時間tに伴う距離K及び厚みJとエリア検出圧力P(t,n)との相対関係は、試料Sの物性及び弾性特性に依存する。
【0033】
計数部54は、取得部52が取得する圧力検出テーブルに基づいて、エリア(複数のエリア)32-1~32-Nのうち圧力を検出したエリア32の総数(数)を圧力検出エリア数Iとして計数する。図7及び図8に示す状態では、押圧面19によってT方向に押圧された試料Sから、エリア32-6、32-7、32-8、32-10、32-11、32-12、32-14、32-15、32-16の圧力センサ30が圧力を受ける。したがって、図7及び図8に示す状態では、圧力検出エリア数Iは、「9」である。
【0034】
図7及び図8に示す状態からさらに試料SがT方向に押圧されると、図9及び図10に示すように、試料Sが全てのエリア32-1~32-Nに拡がり、圧力検出エリア数Iは「16」になる。計数部54で係数された圧力検出エリア数Iは、レイヤーの番号となる。本実施形態では、レイヤーの総数Lは、エリア32-nの総数Nと同じである。
【0035】
分類部56は、取得部52が取得する圧力検出テーブルを、総数16のレイヤー(複数のレイヤー)のうち計数部54が計数した圧力検出エリア数Iに応じたレイヤーに分類する。以下の説明では、レイヤーの番号lは、圧力検出エリア数Iと等しいと想定する。図4及び図5に示す状態から、押圧された試料Sがエリア32-11の平面視中心からP面に沿って均等に拡がる場合、経過時間tが進むにしたがって、図6に示すように、圧力検出エリア数I及びレイヤー番号は、「1」(t=0~t1-Δtまで)→「5」(t=t1~t2直前(即ち、t2-Δt)まで)と増大する。図示していないが、t=t2以降、圧力検出エリア数I及びレイヤー番号は、→「9」→「13」→「15」→「16」と増大する。
【0036】
取得部52が取得する圧力検出テーブルは、l=1、5、9、13、15、16のレイヤーに分類される。以下、l=jのレイヤーをレイヤーjと記載する。分類部56は、図6に示す圧力検出テーブルから、レイヤーlに関して、経過時間tと圧力が検出されているl個のエリア検出圧力P(t,n)を抽出することによって、圧力検出テーブルをレイヤーlに応じて分類し、経過時間tとl個のエリア検出圧力P(t,n)の累積を圧力検出エリア数Iで割った平均圧力Z(t,l)との関係を示す圧力抽出テーブルを作成する。図11は、圧力抽出テーブルの一部の例を示す。
【0037】
圧力抽出テーブルは、分類部56が分類した圧力検出テーブルが示すエリア検出圧力P(t,n)の時間変化の情報を含む。生成部58は、圧力抽出テーブルの情報から、レイヤーlごとに示す圧力検出グラフ(圧力変化情報)を生成する。レイヤーlの圧力検出グラフの横軸は経過時間tであり、レイヤーlの圧力検出グラフの縦軸は経過時間tに応じた平均圧力Z(t,l)として表される。複数のレイヤーlの圧力検出グラフの横軸は、互いに共通する。
【0038】
算出部60は、生成部58が生成する圧力検出グラフに基づいて、試料Sの美味しさを示すスコアCを算出する。本実施形態では、複数のレイヤーLの圧力検出グラフどうしを組み合わせてスコアCを算出する。例えば、算出部60は、図11に示す圧力抽出テーブルに基づき、l=5、9、15の圧力検出グラフどうしの平均圧力Z(t,l)(l=5、9、15)を組み合わせた抽出圧力Y(t)を算出できる。
【0039】
また、本実施形態では、圧力抽出テーブルにレイヤーlごとの重み付けをして、複数の圧力抽出テーブルどうしを組み合わせたスコアCを算出できる。レイヤーlごとの重み付けの量を係数g(l)で表すと、演算圧力Y(t)は、選択したレイヤーlについてg(l)×Z(t,l)を演算して得られる圧力である。例えば、l=5、9、15としたとき、経過時間t1と経過時間t2との間のある経過時間txの抽出圧力Y(tx)は、g(5)×Z(tx,5)+g(9)×Z(tx,9)+g(15)×Z(tx,15)と表される。算出部60は、予め設定する所定の相対圧力値YRefによって規格化したスコア化抽出圧力Q(tx)を求める。算出部60は、経過時間tを間隔Δtごとに進め、経過時間tごとのスコア化抽出圧力Q(t)を算出する。算出部60は、横軸に経過時間tをとり、縦軸にスコア化抽出圧力Q(t)をとって、スコア化圧力グラフを作成する。算出部60は、スコア化圧力グラフから適宜参照値を導入してスコアCを算出する。
【0040】
さらに、試料Sの美味しさは、複数の主成分を有する。本実施形態では、試料Sの美味しさの官能評価の第1主成分を「好食感」、第2主成分を「マイルド感」、第3主成分を「味感」とする。但し、第3主成分の「味感」は、甘味の感じ方は含まないものとする。算出部60は、美味しさの第1主成分から第3主成分までの主成分ごとにスコアCを算出する。以下、第m主成分のスコアCをスコアCmと記載し、第m主成分についてのレイヤーlの係数g(l)をg(l,m)と記載する。
【0041】
例えば、主成分の違いは、同じレイヤーlでの係数g(l)の違いとして反映される。そのため、例えば、l=5、9、15としたとき、経過時間txの第m主成分の抽出圧力Y(tx)は、g(5,m)×Z(tx,5)+g(9,m)×Z(tx,9)+g(15,m)×Z(tx,15)と表される。このように表される第m主成分の抽出圧力Y(tx)に基づいて、算出部60は、第m主成分のスコア化抽出圧力Q(tx)を求め、スコア化圧力グラフ及びスコアCmを作成する。なお、第m主成分のレイヤーlごとに重み付けするための係数g(l,m)等の具体例については、後述の実施例の段落0066以降で説明する。
【0042】
算出部60は、算出された第m主成分のスコアCmを演算して(主成分ごとの)スコア合計値Uを算出することにより、スコア合計値Uを試料Sの美味しさを示す総合スコアVとして算出する。例えば、算出部60は、第1主成分;「好食感」のスコアC1と、第2主成分;「マイルド感」のスコアC2と、第3主成分;「味感」のスコアC3のそれぞに重み付けをし、重み付けをした後のスコアCw1、Cw2、Cw3を美味しさマップとして表現できる。第m主成分の重み付けの量を係数Wmで表すと、スコアCw1、Cw2、Cw3は、W1×C1、W2×C2、W3×C3で表される。また、スコア合計値Uは、(W1×C1)+(W2×C2)+(W3×C3)で表される。スコア合計値Uを適宜規格化すれば、総合スコアVを算出できる。ここでは、総合スコアVは、スコア合計値Uと同じとする。
【0043】
図12は、上述説明した美味しさ計測システム10の全体の流れと、試料Sの美味しさマップの例を示す。図12の美味しさマップでは、スコアCw1、Cw2、Cw3を互いに直交する3つの軸で表す。例えば、スコアCw1、Cw2、Cw3の高低を各軸の長さで示すことができる。
【0044】
算出部60が算出するスコアCm、スコア化圧力グラフ及び総合スコアVは、コンピュータ70のディスプレイ74に表示される。
【0045】
<美味しさ計測装置のプログラム>
上述の取得部52、計数部54、分類部56、生成部58、算出部60のそれぞれは、押圧装置12に付属のコンピュータに内蔵されているプログラムで構成される。即ち、美味しさ計測装置50のプログラムは、少なくとも第1ステップS1から第5ステップS5までの各ステップを有し、さらに第6ステップS6を有する。
【0046】
図13に示すように、第1ステップS1では、圧力センサ30から出力されるエリア32-n(n=1~N)のエリア検出圧力P(t,n)を取得する。第1ステップS1によって、圧力検出テーブルが作成される。
【0047】
第2ステップS2では、第1ステップS1で取得する圧力検出テーブルに基づいて、経過時間との圧力検出エリア数Iを計数する。続いて、第3ステップS3では、第1ステップS1で取得する圧力検出テーブルを、l=1~Lのレイヤーのうち第2ステップS2で計数した圧力検出エリア数Iに応じたレイヤーlに分類する。
【0048】
第4ステップS4では、第3ステップS3で分類した圧力検出テーブルが示す圧力P(t,n)の時間変化に基づいて、レイヤーlごとに圧力検出グラフを生成する。
【0049】
第5ステップS5では、第4ステップS4で生成する圧力検出グラフに基づいて、スコアCを算出する。具体的には、第5ステップS5では、レイヤーlごとの圧力検出グラフを、試料Sの美味しさを表す第1主成分~第3主成分のそれぞれに対応する係数g(l,m)(m=1~3)で重み付けして組み合わせる。重み付けして組み合わせる圧力検出グラフに基づいて、スコアCmを算出し、スコア化圧力グラフを作成する。スコアCm及びスコア化圧力グラフに基づいて、総合スコアVを算出する。
【0050】
第6ステップS6では、第5ステップS5で算出されたスコアCm及び総合スコアVをディスプレイ74に表示する。
【0051】
<作用効果>
以上説明した本実施形態の美味しさ計測装置50は、上述の取得部52、計数部54、分類部56、生成部58、算出部60を備える。試料Sが圧力検出部載置面13と押圧面19との間に配置され、押圧面19が試料Sに接して試料Sが弾性変形し始めてからの経過時間とエリア検出圧力P(t,n)と零より大きいエリア検出圧力P(t,n)が検出されるエリア番号nには、試料Sの物性が反映される。本実施形態の美味しさ計測装置50によれば、官能評価等の結果をふまえ、スコアリングの対象とする検出エリア数I、即ち、レイヤー番号lを選択すれば、試料Sの物性と試料Sに対する官能評価の両方を反映した圧力抽出テーブル、スコア化圧力グラフを作成し、スコアCを算出できる。本実施形態の美味しさ計測装置50によれば、スコアCを評価することによって、試料Sの総合的な美味しさを計測できる。
【0052】
また、本実施形態の美味しさ計測装置50によれば、複数のレイヤーlの圧力検出グラフどうしを組み合わせてスコアリングするので、複数のレイヤーlの圧力検出グラフどうしを組み合わせない場合に比べて、圧力抽出テーブル及びスコア化圧力グラフに試料Sの物性及び官能評価を強く反映できる。したがって、本実施形態の美味しさ計測装置50によれば、単数のレイヤーlの圧力検出グラフに基づいてスコアリングする場合に比べて試料Sの総合的な美味しさを鮮明に計測できる。
【0053】
また、本実施形態の美味しさ計測装置50では、レイヤーlごとの圧力検出グラフに係数g(l)で重み付けをして複数の圧力検出グラフどうしを組み合わせるので、重み付けをせずに複数の圧力検出グラフどうしを組み合わせる場合に比べて試料Sの官能評価の情報を強調できる。したがって、本実施形態の美味しさ計測装置50によれば、単数のレイヤーlのグラフをスコアリングする場合に比べて、試料Sの総合的な美味しさを鮮明にし、試料Sの官能評価を重視して計測できる。
【0054】
また、本実施形態の美味しさ計測装置50では、圧力検出グラフを、美味しさの第1主成分;「好食感」、第2主成分;「マイルド感」、第3主成分;「味感」のごとにスコアリングする。また、第1主成分のスコアC1、第2主成分のスコアC2、及び第3主成分のスコアC3のそれぞに試料Sの官能評価を反映する重み付けをし、重み付けをした後のスコアCw1、Cw2、Cw3を足し合わせてスコア合計値Uを算出し、スコア合計値Uを試料Sの美味しさを示す総合スコアVとして算出する。したがって、本実施形態の美味しさ計測装置50によれば、試料Sの総合的な美味しさを、「好食感」、「マイルド感」、「味感」の3つの観点で多角的に計測できる。
【0055】
本実施形態の美味しさ計測システム10は、本実施形態の美味しさ計測装置50と、圧力センサ30とを備えるので、エリア番号nごとのエリア検出圧力P(t,n)を圧力センサ30から取得し、試料Sの物性と試料Sに対する官能評価の両方を反映した圧力抽出テーブル、スコア化圧力グラフを作成し、スコアCを算出できる。したがって、本実施形態の美味しさ計測システム10によれば、試料Sの総合的な美味しさを計測できる。
【0056】
本実施形態の美味しさ計測システム10は、押圧板16と、ステッピングモーター21とを備えるので、試料Sの物性及び官能評価に応じた制御信号をステッピングモータ21に出力し、制御信号に合わせて試料Sを押圧できる。したがって、本実施形態の美味しさ計測システム10によれば、例えば押圧部材が試料Sの物性及び官能評価と関係なく一定の速度で試料に押し付けられる場合に比べて、試料Sの総合的な美味しさを高精度に計測できる。
【0057】
本実施形態の美味しさ計測装置50のプログラムによれば、第1ステップS1から第6ステップS6までの処理を行うので、試料S自体が有する物性的要因と人間に起因する官能的要因の両方をふまえた数値データを得ることができる。したがって、本実施形態の美味しさ計測装置50のプログラムによれば、前述の数値データを用いて試料Sの総合的な美味しさを計測できる。
【0058】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、上述の実施形態に限定されない。本発明は、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更可能である。
【0059】
例えば、上述の実施形態の美味しさ計測装置50では、スコアCw1、Cw2、Cw3を足し合わせてスコア合計値Uを算出する。しかしながら、本発明の美味しさ計測装置では、スコアCw1、Cw2、Cw3を適宜演算すればよく、全てを掛け合わせてもよく、スコアCw1、Cw2、Cw3の一部を掛け合わせ、残部を足し合わせてもよい。
【0060】
また、上述の実施形態の美味しさ計測装置50では、試料Sの総合的な美味しさを構成する「好食感」、「マイルド感」、「味感」の3つの主成分ごとにスコアCw1、Cw2、Cw3を得て、スコアCw1、Cw2、Cw3を演算したスコア合計値Uを算出した。しかしながら、本発明の美味しさ計測装置の主成分は、「好食感」、「マイルド感」、「味感」の3つに限定されない。また、本発明の美味しさ計測装置では、1つの主成分のみのスコアCを算出してもよく、4以上の主成分ごとにスコアCを算出してもよい。また、複数の主成分ごとのスコアCごとのスコア合計値Uを算出する際に、第m主成分の重み付けの係数Wmは、互いに異なってもよく、等しくてもよく、複数のスコアCを組み合わせる演算の種類に応じて適宜変更できる。
【0061】
例えば、上述の実施形態の美味しさ計測システム10では、エリア32-nの総数Nを16としたが、総数Nは、16以上であってもよく、任意の数であってよい。圧力センサ30の平面視の面積が一定であれば、総数Nが多いほど、エリア検出圧力P(t,n)のP面における分解能が高くなる。エリア32-nの平面視の大きさ及び総数Nは、試料Sの物性及び官能評価に応じて適宜設定される。また、レイヤーの番号lは、圧力検出エリア数Iと等しい場合に限定されず、圧力検出エリア数Iと任意の相対関係を有してもよい。
【0062】
また、1つのエリア32-nの平面視の形状は、矩形に限定されず、三角形や六角形であってもよく、これら以外の形状であってもよい。複数のエリア32-1~32-Nは、1つのエリア32-nの平面視の形状に応じて、平面視においてP面に沿って且つ任意の方向に沿って配列する。エリア32-nの平面視の形状が正六角形であれば、複数のエリア32-1~32-Nは、平面視において正六角形の各辺に別の正六角形が隣接するように配置されてもよい。図14図15に示すように、複数のエリア32-1~32-Nは、互いに異なる形状又は大きさを有してもよく、平面視において中心から放射状に広がるように配置されてもよい。
【0063】
本発明の美味しさ計測システムの圧力検出部は、上述の圧力センサ30に限定されず、複数のエリア32-nに分割された圧力検出面34を有し、且つ圧力検出面34が試料Sから受ける圧力をエリア32-nごとに検出できる任意の検出部であってよい。また、上述の実施形態の美味しさ計測システム50において圧力検出面34は、P面に沿って平坦な面であるが、人間の歯の凹凸に合わせて凹凸を有してもよい。
【0064】
また、上述の実施形態の美味しさ計測システム10では、試料Sの物性及び官能評価に応じた制御信号をステッピングモータ21に出力し、制御信号に合わせて押圧板16で試料Sを押圧できる。T方向において押圧面19が試料Sに接した直後から所定の経過時間tまでの単位時間あたりの試料SのP面における拡がりは、所定の経過時間t以降の単位時間あたりの試料SのP面における拡がりより大きい。このことをふまえ、T方向において押圧面19が試料Sに接した経過時間tから経過時間tまでの押圧板16が試料Sに近づく速度を、経過時間t以降の押圧板16が試料Sに近づく速度より遅くしてもよい。電源28から、前述のように押圧板16が試料Sに近づく速度を調節する制御信号をステッピングモータ21に出力できる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明を適用した美味しさ計測装置、美味しさ計測システム及び美味しさ計測装置のプログラムによれば、試料自体が有する要因と人間に起因する要因の両方をふまえた試料の総合的な美味しさを計測できる。本発明を適用した美味しさ計測装置、美味しさ計測システム及び美味しさ計測装置のプログラムは、総合的な美味しさを計測することを必要とする分野で幅広く利用可能である。
【実施例
【0066】
次いで、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0067】
本実施例では、予め試料Sの感性評価(官能評価)の主成分を調べるために、以下の条件で試料Sを作成した。なお、同一の味の試料Sは、同日に作成した。
*材料 ;ゼラチン
*味 ;グレープ、ピーチ、オレンジの3種類
*硬度 ;0.1,0.4,0.7,1.0,1.3(N)の5段階
*容積 ;7mL
*成形時の形状 ;半径1cmの略円柱状
【0068】
上述のように作成したゼラチン(試料S)を以下の被験者に以下の条件で食べさせ、ゼラチンに関する感性評価を行った。
*被験者 ;男性25名、女性25名、合計50名
*試料Sの提示順序 ;ランダム
*被験者の姿勢 ;閉眼座位
*温度、湿度 ;約25℃、約50%
【0069】
図16に示すように、被験者は、1個のゼラチンを食べる(ステップS11)ごとに、水と毎回同一種類のクラッカーとを食べて(ステップS12)、合計5個のゼラチンを食べ(ステップS13)、各硬度のゼラチンの感性評価を行った。また、被験者は、1個のゼラチンについて、嚥下後に以下の評価語及び各評価語の評価値によって感性評価を行った。
*嗜好 ;「美味しい」、「好き」
*食感 ;「柔らかい」、「硬い」、「弾力がある」、「なめらか」
*味 ;「甘い」、「すっぱい」、「苦い」、「塩っぽい」、「味が良い」
*評価語#の評価値;「(4点)非常に#である」、「(3点)かなり#である」、「(2点)#である」、「(1点)やや#である」、「(0点)#ではない」
【0070】
評価語ごとの評価値のヒストグラムを図17に示す。図17のヒストグラムにおけるバーはそれぞれ、0.1Nの評価値平均のエラーバーを示す。図17に示すように、0.1N及び0.4Nの硬度のゼラチンについて、複数の評価語のうち「美味しい」、「好き」、「味が良い」の評価語で、2点以上の評価値が得られた。そこで、0.1N及び0.4Nの硬度に着目し、前述の3つの評価語のうち0.1N及び0.4Nの硬度における評価語「美味しい」を除いて、全ての評価語を主成分分析を行った。0.1Nの硬度に関する主成分分析の結果を図18に示し、0.4Nの硬度に関する主成分分析の結果を図19に示す。図18及び図19に示す寄与率を百分率で表し、累積寄与率60%以上の主成分の構成を確認した。
【0071】
図20に、0.4Nの第1主成分(図20での主成分1)、第2主成分(図20での主成分2)、第3主成分(図20での主成分3)の寄与率を抽出し、主成分毎の負荷量(以下、主成分負荷量)を算出した結果を示す。図20に示すように、感性評価時に用いた評価語のうち、「味が良い」、「好き」、「甘い」、「柔らかい」、「硬い」、「苦い」の評価語を変数とし、これらの変数の主成分負荷量をふまえ、第1主成分を「好食感」とした。また、感性評価時に用いた評価語のうち、「柔らかい」、「なめらか」の評価語を変数とし、これらの変数の主成分負荷量をふまえ、第2主成分を「マイルド感」とした。また、感性評価時に用いた評価語のうち、「塩っぽい」、「すっぱい」の評価語を変数とし、これらの変数の主成分負荷量をふまえ、第3主成分を「味感(甘み以外)」とした。
【0072】
上述の美味しさの感性評価と主成分との関係を表すために、主成分分析の結果から重回帰分析を行った結果を図21に示す。重回帰分析では、評価語;「美味しい」を目的変数とし、各主成分1~10の得点を評価語分、主成分1~10を説明変数とした。図21に示す「判定」の欄の「**」は、有意水準1%未満である場合を表す。同じく、「判定」の欄の「*」は、有意水準5%未満である場合を表す。図21に示す結果をふまえ、図22に示すように、次に説明する美味しさ計測システム50における第1主成分;「好食感」の係数W1を0.513(51.3%)、第2主成分;「マイルド感」の係数W2を0.296(29.6%)、第3主成分;「味感」の係数W3を0.191(19.1%)とした。
【0073】
次に、感性評価で用いたゼラチンの総合的な美味しさを計測するために、上述の実施形態で説明した美味しさ計測システム50を試作した。圧力センサ30として、市販の圧力センサ(型番;pliance-xf16 S2003/S2006 E system、製造元;NOVEL社)を使用した。使用した圧力センサのエリアの総数Nは、16である。それぞれのエリア32-nの平面視での大きさは、10mm×10mmである。使用した圧力センサのエリア検出圧力の精度は、1kPaである。
【0074】
押圧装置12には、図1に示す構成と同様に自作した押圧装置を使用した。平面視での試料台14、押圧板16、支持板18の平面視での大きさは、100mm×100mmとした。つまり、圧力検出部載置面13及び押圧面19の平面視での大きさは、100mm×100mmである。図2に示すように平面視で正三角形の頂点に配置される3つのステッピングモーター21のうち、正三角形の底辺の両端にあたる位置に配された2つのステッピングモーター21の中心同士の平面視での距離は、52mmとした。これらの2つのステッピングモーター21の中心と残りの1つのステッピングモーター21の中心との平面視での距離は、55mmとした。
【0075】
グレープ味のゼラチンを計測対象とし、試作した美味しさ計測システムを用いて、経過時間tごとの平均累積圧力F(t,l)を測定した。図23に、上述の実施形態で説明した方法によって算出された16個のレイヤーごとの経過時間t(図23の「時間(sec)」)と平均累積圧力Z(t,l)(l=1~16)との関係を示す。各レイヤーにおける平均累積圧力F(t,l)は、ある経過時間tにおける50個の測定対象の平均圧力Z(t,l)の累積値を示している。50個の測定対象とは、被験者50名のそれぞれが食べた合計50個のゼラチンを意味する。
【0076】
本実施例では、図23に示すレイヤーごとの経過時間tに対する平均累積圧力F(t,l)の特徴を捉えるために、レイヤーごとの平均累積圧力F(t,l)の分布と、各主成分における被験者50名の主成分得点の分布との類似度を算出し、その類似度が高い上位3つのレイヤーを決定した。上位3つのレイヤーの経過時間tにおける平均累積圧力F(t,l)の総和を、次に説明するように経過時間tにおける「圧力カーブ値」として算出した。
【0077】
第1主成分;「好食感」の評価のために、総数16のレイヤーのうち、レイヤー7、9、16を選択した。レイヤー16の平均累積圧力F(t,16)を標準化して係数g(16)=0.82で重み付けした標準化平均累積圧力F’(t,16)、レイヤー7の平均累積圧力F(t,7)を標準化して係数g(7)=0.61で重み付けした標準化平均累積圧力F’(t,7)、レイヤー9の平均累積圧力F(t,9)を標準化して係数g(9)=0.61で重み付けした標準化平均累積圧力F’(t,9)を経過時間tごとに合計した。図24には、前述のように経過時間tごとに標準化平均累積圧力F’(t,16)、F’(t,7)、F’(t,9)を合計して得られる第1主成分の圧力カーブ値を示す。本実施例では、係数g(l)は、前述の類似度と同じ意味である。
【0078】
第2主成分;「マイルド感」の評価のために、総数16のレイヤーのうち、レイヤー5、13、15を選択した。レイヤー15の平均累積圧力F(t,15)を標準化して係数g(15)=0.99で重み付けした標準化平均累積圧力F’(t,15)、レイヤー5の平均累積圧力F(t,5)を標準化して係数g(5)=0.98で重み付けした標準化平均累積圧力F’(t,5)、レイヤー13の平均累積圧力F(t,13)を標準化して係数g(13)=0.97で重み付けした標準化平均累積圧力F’(t,13)を経過時間tごとに合計した。図25には、前述のように経過時間tごとに標準化平均累積圧力F’(t,15)、F’(t,5)、F’(t,13)を合計して得られる第2主成分の圧力カーブ値を示す。
【0079】
第3主成分;「味感」の評価のために、総数16のレイヤーのうち、先ず、レイヤー7、9、10を選択した。レイヤー7の平均累積圧力F(t,7)を標準化して係数g(7)=0.86で重み付けした標準化平均累積圧力F’(t,7)、レイヤー9の平均累積圧力F(t,9)を標準化して係数g(9)=0.86で重み付けした標準化平均累積圧力F’(t,9)、レイヤー7の平均累積圧力F(t,10)を標準化して係数g(10)=0.85で重み付けした標準化平均累積圧力F’(t,10)を経過時間tごとに合計した。図26には、前述のように経過時間tごとに標準化平均累積圧力F’(t,7)、F’(t,9)、F’(t,10)を合計して得られる第3主成分に基づく第1の圧力カーブ値を示す。
【0080】
また、第3主成分;「味感」の評価のために、総数16のレイヤーのうち、レイヤー7、9、10とは別に、レイヤー6、8、9を選択した。レイヤー6の平均累積圧力F(t,6)を標準化して係数g(6)=1.00で重み付けした標準化平均累積圧力F’(t,6)、レイヤー8の平均累積圧力F(t,8)を標準化して係数g(8)=0.86で重み付けした標準化平均累積圧力F’(t,8)、レイヤー9の平均累積圧力F(t,9)を標準化して係数g(9)=0.85で重み付けした標準化平均累積圧力F’(t,9)を経過時間t毎に合計した。図27には、前述のように経過時間tごとに標準化平均累積圧力F’(t,6)、F’(t,8)、F’(t,9)を合計して得られる第3主成分に基づく第2の経過時間tにおける圧力カーブ値を示す。図24から図27の各グラフは、スコア化圧力グラフの一例である。
【0081】
上述のようにして作成した図24から図27に示す経過時間tにおける圧力カーブ値に基づき、実測データにおける総合スコアVを算出することができる。実測データとは、上述説明した計測データを参照データとして実際に行う美味しさ計測時に得られるデータを意味する。
【0082】
美味しさ計測時には、試料Sの感性評価の結果をふまえ、第1主成分を表す図24の経過時間tにおける圧力カーブ値と実測データから得られる圧力カーブ値との相関値を求め、求めた相関値と重み係数W1=51.3との積を、第1主成分のスコアCw1として算出する。また、第2主成分を表す図25の経過時間tにおける圧力カーブ値と実測データから得られる圧力カーブ値との相関値を求め、求めた相関値と重み係数W2=29.6との積を、第2主成分のスコアCw2として算出する。そして、第3主成分を表す図26の経過時間tにおける圧力カーブ値と図27の経過時間tにおける圧力カーブ値を合成した圧力カーブ値と実測データから得られる圧力カーブ値との相関値を求め、求めた相関値と重み係数W3=19.1との積を第3主成分のスコアCw3として算出する。さらに、スコアCw1、Cw2、Cw3の合計を総合スコアVとする。なお、総合スコアVが満点の場合は、100点になる。
【符号の説明】
【0083】
10…美味しさ計測システム
16…押圧板(押圧部材)
21…ステッピングモーター
32-n…エリア
34…圧力検出面
50…美味しさ計測装置
52…取得部
54…計数部
56…分類部
58…生成部
60…算出部
S…試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27