(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】内部標準遺伝子
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20240104BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20240104BHJP
C12Q 1/6837 20180101ALI20240104BHJP
C12Q 1/6874 20180101ALI20240104BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20240104BHJP
C12Q 1/6886 20180101ALN20240104BHJP
【FI】
C12N15/12
C12Q1/686 Z ZNA
C12Q1/6837 Z
C12Q1/6874 Z
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6886 Z
(21)【出願番号】P 2019134182
(22)【出願日】2019-07-19
【審査請求日】2022-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】509013703
【氏名又は名称】公立大学法人福島県立医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100156443
【氏名又は名称】松崎 隆
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 慎哉
(72)【発明者】
【氏名】今井 順一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 恵美
(72)【発明者】
【氏名】大竹 徹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 宣子
(72)【発明者】
【氏名】立花 和之進
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-514441(JP,A)
【文献】特表2010-519893(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0299143(US,A1)
【文献】国際公開第2017/168014(WO,A1)
【文献】成蹊大学理工学研究報告,2012年,Vol.49, No.1,p.45-46
【文献】Cellular Signalling,2016年,Vol.28,p.1753-1760
【文献】Journal of Cell Science,2014年,Vol.127,p.4740-4749
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/12
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳癌患者由来の試料の遺伝子発現解析方法であって、
(a)乳癌のサブタイプを鑑別または分類するための遺伝子の発現レベルを測定する工程と
(b)ABCF3、FBXW5、MLLT1、FAM234A、PITPNM1、WDR1、NDUFS7、および、AP2A1からなる群より選択される少なくとも一つの内部標準遺伝子の発現レベルを測定する工程と
(c)前記
乳癌のサブタイプを鑑別または分類するための遺伝子の発現レベルを、前記内部標準遺伝子の発現レベルを用いて標準化する工程と
を含む、遺伝子発現解析方法。
【請求項2】
乳癌組織もしくは乳癌組織の疑いのある組織またはその一部における遺伝子発現解析方法であって、
前記乳癌組織がLuminal A、Luminal B (HER2陽性)、Luminal B (HER2陰性)、HER2陽性、HER2陽性様、トリプルネガティブ、葉状腫瘍、扁平上皮癌、判定不能、または、正常様のいずれかの乳癌のサブタイプに分類されるものであり、
(a)所望の遺伝子の発現レベルを測定する工程と
(b)ABCF3、FBXW5、MLLT1、FAM234A、PITPNM1、WDR1、NDUFS7、および、AP2A1からなる群より選択される少なくとも一つの内部標準遺伝子の発現レベルを測定する工程と
(c)前記所望の遺伝子の発現レベルを、前記内部標準遺伝子の発現レベルを用いて標準化する工程と
を含む、遺伝子発現解析方法。
【請求項3】
請求項2に記載の遺伝子発現解析方法であって、
前記所望の遺伝子が乳癌のサブタイプを鑑別または分類するための遺伝子である、遺伝子発現解析方法。
【請求項4】
FBXW5、PITPNM1、MLLT1、WDR1、ABCF3、NDUFS7、FAM234A、および、AP2A1からなる群より選択される少なくとも一つの遺伝子からなる内部標準遺伝子であって、乳癌患者由来の試料における遺伝子解析に用いる内部標準遺伝子の発現レベルを測定する
ためのプライマー、プローブ、または、それらの標識物からなる群より選択される少なくとも一つを含む、乳癌を鑑別または分類するための内部標準遺伝子の発現解析用組成物。
【請求項5】
請求項
4に記載の乳癌を鑑別または分類するための内部標準遺伝子の遺伝子発現解析用組成物であって、
PCR用、マイクロアレイ用、または、RNAシークエンス用である、遺伝子発現解析用組成物。
【請求項6】
FBXW5、PITPNM1、MLLT1、WDR1、ABCF3、NDUFS7、FAM234A、および、AP2A1からなる群より選択される少なくとも一つの遺伝子からなる内部標準遺伝子の発現レベルを測定するためのプライマー、プローブ、または、それらの標識物からなる群より選択される少なくとも一つを含む、乳癌組織もしくは乳癌組織の疑いのある組織またはその一部における遺伝子発現解析用組成物であって、
前記乳癌組織がLuminal A、Luminal B (HER2陽性)、Luminal B (HER2陰性)、HER2陽性、HER2陽性様、トリプルネガティブ、葉状腫瘍、扁平上皮癌、判定不能、または、正常様のいずれかの乳癌のサブタイプに分類されるものである、遺伝子発現解析用組成物。
【請求項7】
請求項
6に記載の乳癌組織もしくは乳癌組織の疑いのある組織またはその一部における遺伝子発現解析用組成物であって、
乳癌を鑑別または分類するための遺伝子発現解析用組成物。
【請求項8】
請求項
7に記載の乳癌組織もしくは乳癌組織の疑いのある組織またはその一部における遺伝子発現解析用組成物であって、
PCR用、マイクロアレイ用、または、RNAシークエンス用である、遺伝子発現解析用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部標準遺伝子に関する。特に、乳癌患者由来の生体試料(乳癌組織及び正常乳腺組織を含む)に存在する目的遺伝子の発現量又は発現レベルを測定する際に用いる内部標準遺伝子に関する。
【背景技術】
【0002】
異なる2つ以上の生体試料を比較し、それらの差異を検出する手法の1つとして遺伝子発現解析がある。遺伝子発現解析は、それぞれの生体試料に含まれるRNAを抽出し、そこから特定の遺伝子の発現量又は発現レベルを測定して比較するものである。ノーザンブロット法、RT-PCR法、リアルタイムPCR法等で遺伝子発現解析を行う場合、特定の遺伝子の発現量又は発現レベルを比較するだけでは足りず、それらの発現量又は発現レベルを内部標準遺伝子と呼ばれる遺伝子の発現量又は発現レベルの相対値として比較する必要がある。これは、(1)比較する生体試料の量を正確に同量にすることは困難であり、仮に同量の生体試料を用いたとしても、RNA抽出効率が生体試料によって異なること、(2)RNAの量を同量にした場合であっても、そこに含まれるmRNAの比率は生体試料によって異なること、等の理由により、従来から、内部標準遺伝子との相対的比較が求められてきた。内部標準遺伝子には、いわゆるハウスキーピング遺伝子として知られているグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH)遺伝子、βアクチン(ACTB)遺伝子等が伝統的に使用されてきている。これらのハウスキーピング遺伝子は、細胞自体の生命活動を維持するために恒常的に発現しており、細胞又は組織の種類に関わらず一定水準で発現しているため、実験的処理によっても変化がないものであるという仮定の下で使用されてきている。
【0003】
しかし、内部標準遺伝子の発現が、細胞又は組織の種類によって異なり、実験条件、発生段階等によって発現が調節されるという事実が知られるようになってきた。実際、遺伝子発現解析の際に、その実験条件等によっては発現量が変動しうる内部標準遺伝子を選択してしまったがために、誤った解釈がなされてしまうリスクがあり、多くの研究者からもその懸念が指摘されている。すでに、特定組織や実験条件に関わらず普遍的に遺伝子発現解析の標準化に有用に使用することができる内部標準遺伝子の探索が行われてきている(特許文献1)。しかしながら、これらの研究は、既存の公共データベースに登録されている遺伝子発現データを用いて探索されているものが多く、また、公共データベースでは異なる複数の施設において、異なるプラットフォームで測定されたデータが混在しているため、単純に横並びに比較することは、現実的には難しいといえる。一方、特定の実験に特化した閉じた系の中で適切な内部標準遺伝子を探索しようとする研究もある(特許文献2)。このようにして探索された内部標準遺伝子は、多くの場合、同一施設内において同一プラットフォームで測定されたデータをもとに検証した結果、選択されたものであるため、その系で使用する限りにおいて信頼性が高いといえる。
【0004】
乳癌は多様性があり、様々な特徴を持つ複数のサブタイプに分類される。このサブタイプ分類はもともと網羅的遺伝子発現解析によってなされたものである(非特許文献1)。この分類によって予後や薬物感受性が異なるため、この分類は薬物療法選択の指標となっている。実際の臨床現場では簡便な免疫組織化学的手法を用いて診断することが一般的であるが、遺伝発現解析による分類とは異なる症例も少なくない。したがって、遺伝子発現解析による精度の高い検査法が望まれている。また、乳癌の研究は歴史が古く、乳癌由来の細胞株を用いた遺伝子発現解析による研究も数多く行われている。これらの検査法や研究の信頼性を支えるのは内部標準遺伝子である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5934036号公報
【文献】特開2012-105614号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Perou CM, Sorlie T, Eisen MB, et al. Molecular portraits of human breast tumours. Nature 406: 747-752, 2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、遺伝子発現解析における新規内部標準遺伝子の提供、および、当該内部標準遺伝子を用いた遺伝子発現解析方法の提供を課題とする。特に、乳癌由来の試料の比較解析に際し、内部標準遺伝子となり得る遺伝子および当該遺伝子を用いた乳癌由来試料の遺伝子発現解析方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、乳癌組織(453症例)および正常乳腺組織(17症例)を合わせて470症例の各検体から14,400遺伝子の遺伝子発現プロファイルを取得し、乳癌由来の生体組織(正常乳腺組織を含む)の遺伝子発現解析の際の内部標準遺伝子を選択することに成功し、本発明に至った。
すなわち、本発明は以下の態様を含む:
本発明は一態様において、
〔1〕被検試料の遺伝子発現解析方法であって、
(a)所望の遺伝子の発現レベルを測定する工程と
(b)ABCF3、FBXW5、MLLT1、FAM234A、PITPNM1、WDR1、NDUFS7、および、AP2A1からなる群より選択される少なくとも一つの内部標準遺伝子を測定する工程と
(c)前記所望の遺伝子の発現レベルを、前記内部標準遺伝子の発現レベルを用いて標準化する工程と
を含む、遺伝子発現解析方法に関する。
ここで、本発明の遺伝子発現解析方法は一実施の形態において、
〔2〕上記〔1〕に記載の遺伝子発現解析方法であって、
前記被検試料が乳癌患者由来の試料であることを特徴とする。
また、本発明の遺伝子解析方法は一実施の形態において、
〔3〕上記〔2〕に記載の遺伝子発現解析方法であって、
前記所望の遺伝子が乳癌のサブタイプを鑑別または分類するための遺伝子であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明は別の態様において、
〔4〕FBXW5、PITPNM1、MLLT1、WDR1、ABCF3、NDUFS7、FAM234A、および、AP2A1からなる群より選択される少なくとも一つの遺伝子からなる、遺伝子発現解析のための内部標準遺伝子に関する。
ここで、本発明の内部標準遺伝子は一実施の形態において、
〔5〕上記〔4〕に記載の内部標準遺伝子であって、乳癌患者由来の被検試料における遺伝子発現解析に用いるための内部標準遺伝子であることを特徴とする。
また、本発明の内部標準遺伝子は一実施の形態において、
〔6〕上記〔5〕に記載の内部標準遺伝子であって、
前記乳癌患者由来の被検試料における遺伝子発現解析が、乳癌のサブタイプを鑑別するための遺伝子発現解析であることを特徴とする。
また、本発明は別の態様において、
〔7〕上記〔4〕に記載の内部標準遺伝子の発現レベルを測定する手段を含む、内部標準遺伝子の発現解析用組成物に関する。
ここで、本発明の内部標準遺伝子の発現解析用組成物は一実施の形態において、
〔8〕上記〔5〕または〔6〕に記載の内部標準遺伝子の発現レベルを測定する手段を含む、乳癌を鑑別または分類するための内部標準遺伝子の遺伝子発現解析用組成物に関する。
ここで、本発明の乳癌を鑑別または分類するための内部標準遺伝子の遺伝子発現解析用組成物は一実施の形態において、
〔9〕上記〔8〕に記載の乳癌を鑑別または分類するための内部標準遺伝子の遺伝子発現解析用組成物であって、
前記遺伝子の発現レベルを測定する手段が、前記遺伝子に対するプライマー、プローブ、抗体、または、それらの標識物からなる群より選択される少なくとも一つの手段であることを特徴とする。
また、本発明の乳癌を鑑別または分類するための内部標準遺伝子の遺伝子発現解析用組成物は一実施の形態において、
〔10〕上記〔8〕または〔9〕に記載の乳癌を鑑別または分類するための内部標準遺伝子の遺伝子発現解析用組成物であって、
PCR用、マイクロアレイ用、または、RNAシークエンス用であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の内部標準遺伝子は、遺伝子発現解析に用いることのできる新たな内部標準遺伝子を提供する。また、当該内部標準遺伝子を用いた遺伝子発現解析方法を提供することができる。また本発明の内部標準遺伝子は、乳癌患者由来の試料において乳癌のサブタイプに影響されずに発現レベルの変動の幅が狭く、かつ、ヒト共通リファレンスの発現レベルと比較して相対的に発現レベルの差が僅かである。よって、本発明の内部標準遺伝子は、特に乳癌由来の試料の遺伝子発現解析において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、下記実施例3で測定した470サンプルの遺伝子発現プロファイルにおける4つの遺伝子(ABCF3、MLLT1、FBXW5、FAM234A)の発現レベルの分布を示すグラフである。
【
図2】
図2は、下記実施例3で測定した470サンプルの遺伝子発現プロファイルにおける4つの遺伝子(PITPNM1、NDUFS7、WDR1、AP2A1)の発現レベルの分布を示すグラフである。
【
図3】
図3は、下記実施例3で測定した470サンプルの遺伝子発現プロファイルにおけるGAPDH遺伝子の発現レベルの分布を示すグラフである。
【
図4】
図4は、下記実施例4に示す内部標準遺伝子を含めた207種の鑑別マーカー遺伝子セットを用いて470症例についてユークリッド距離による群平均法のクラスタ分析を行った結果のヒートマップを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.内部標準遺伝子
1-1.概要
本発明の第1の態様は遺伝子発現解析に用いることのできる内部標準遺伝子である。
本発明に係る内部標準遺伝子は、FBXW5、PITPNM1、MLLT1、WDR1、ABCF3、NDUFS7、FAM234A、および、AP2A1からなる群より選択される少なくとも一つの遺伝子からなる。
1-2.定義
「内部標準遺伝子」とは、遺伝子発現解析において特定の遺伝子の量を相対的に表すための標準化に用いる遺伝子である。本発明に係る内部標準遺伝子は、上記の通り、FBXW5、PITPNM1、MLLT1、WDR1、ABCF3、NDUFS7、FAM234A、および、AP2A1の8つ遺伝子である。下記表に、当該内部標準遺伝子のSymbol、遺伝子名、および、NCBIデータベースに登録されているReference Sequence ID(RefSeq ID)を示す。
【表1】
本発明に係る内部標準遺伝子(FBXW5、PITPNM1、MLLT1、WDR1、ABCF3、NDUFS7、FAM234A、および、AP2A1)は、それぞれ配列番号1~8に示す塩基配列を有する遺伝子(またはポリヌクレオチド)として特定することが可能である。
本発明に係る内部標準遺伝子は一実施の形態において、配列番号1に示される塩基配列からなる遺伝子、配列番号2に示される塩基配列からなる遺伝子、配列番号3に示される塩基配列からなる遺伝子、配列番号4に示される塩基配列からなる遺伝子、配列番号5に示される塩基配列からなる遺伝子、配列番号6に示される塩基配列からなる遺伝子、配列番号7に示される塩基配列からなる遺伝子、および、配列番号8に示される塩基配列からなる遺伝子からなる群より選択される少なくとも一つの遺伝子である。
【0013】
本明細書において、FBXW5、PITPNM1、MLLT1、WDR1、ABCF3、NDUFS7、FAM234A、および、AP2A1遺伝子には、同一アミノ酸配列をコードする縮重コドンを含む塩基配列からなる遺伝子、各遺伝子の各種変異体(バリアント)や点突然変異遺伝子等の変異遺伝子、及びチンパンジー等の他種生物のオルソログ遺伝子なども含まれる。このような遺伝子としては、配列番号1~8に特定される塩基配列と70%以上(好ましくは75%以上、80%以上、85%以上、より好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上)の塩基同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、かつ、対象遺伝子の機能を保持するポリヌクレオチドからなる遺伝子を含む。
例えば、一実施の形態において、本発明に用いられるABCF3遺伝子は配列番号1に示される塩基配列からなる遺伝子(またはポリヌクレオチド)として特定することができ、このときABCF3遺伝子には配列番号1に示される塩基配列と70%以上(好ましくは75%以上、80%以上、85%以上、より好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上)の塩基同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、ABCF3遺伝子の機能を保持するポリヌクレオチドからなる遺伝子を含む。なお、本明細書において「塩基同一性」とは、二つの塩基配列を整列(アラインメント)し、必要に応じてギャップを導入して、両塩基配列の塩基一致度が最も高くなるようにしたときの、遺伝子の全塩基数に対する比較するヌクレオチドの塩基配列中の同一塩基数の割合(%)をいう。
【0014】
また、本明細書中、特定の配列番号で示される塩基配列からなる遺伝子というとき、前記遺伝子の部分塩基配列に相補的な塩基配列からなるヌクレオチド断片とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、かつ、対象遺伝子の機能を保持するポリヌクレオチドも含まれる。「ストリンジェントな条件」とは、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味する。一般に、低塩濃度で、かつ高温であるほど高ストリンジェントな条件となる。低ストリンジェントな条件とは、例えば、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、1×SSC、0.1% SDS、37℃程度で洗浄する条件であり、より厳しくは0.5×SSC、0.1% SDS、42℃~50℃程度で洗浄する条件である。さらに厳しい高ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば50℃~70℃、55℃~68℃、又は65℃~68℃で、0.1×SSC及び0.1% SDSで洗浄する条件である。一般に高ストリンジェントな条件が好ましい。前記SSC、SDS及びに温度の組み合わせは、例示に過ぎない。当業者は、前記SSC、SDS及びに温度に加えて、プローブ濃度、プローブ塩基長、ハイブリダイゼーション時間等のその他の条件を適宜組み合わせてハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定することもできる。また、特定の配列番号で示される塩基配列からなる遺伝子の部分塩基配列に相補的な塩基配列からなるヌクレオチド断片とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドは、好ましい実施の形態において、当該特定の配列番号に示される塩基配列と70%以上(好ましくは75%以上、80%以上、85%以上、より好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上)の塩基同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドである。
【0015】
本明細書において「内部標準遺伝子」というとき、DNA配列で特定される遺伝子に加えて、当該遺伝子に基づく転写産物(mRNA、cDNA)などの遺伝子産物および翻訳産物(タンパク質)が含まれる。
【0016】
本発明に係る内部標準遺伝子は、少なくとも一つを選択して用いることもできるし、二以上の内部標準遺伝子を組み合わせて用いることもできる。二以上の内部標準遺伝子を組み合わせる場合、FBXW5、PITPNM1、MLLT1、WDR1、ABCF3、NDUFS7、FAM234A、および、AP2A1からなる群より内部標準遺伝子を選択することもできるし、上記群以外の内部標準遺伝子と組み合わせて用いてもよい。
FBXW5、PITPNM1、MLLT1、WDR1、ABCF3、NDUFS7、FAM234A、および、AP2A1からなる群以外の内部標準遺伝子としては、市販のユニバーサルリファレンスや、公知のハウスキーピング遺伝子(例えば、グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH)遺伝子、βアクチン(ACTB)遺伝子)またはそれらの組み合わせを挙げることができる。また、当業者は各遺伝子発現解析の条件に適した内部標準遺伝子を、試験を通じて選択することができ、当該選択された内部標準遺伝子を、本発明に係る内部標準遺伝子とともに用いることもできる。
【0017】
また本発明に係る内部標準遺伝子は一実施の形態において、単離された遺伝子(または遺伝子産物)である。本明細書において「単離された」とは、広義には生体より単離された遺伝子(または遺伝子産物)をいい、狭義には遺伝子(または遺伝子産物)に天然に随伴する因子が実質的に除去されたものを含む。
【0018】
本発明に係る内部標準遺伝子は、健常者および乳癌のいずれのサブタイプに罹患した患者由来の被検試料においても遺伝子の発現レベルの変動が僅かである。
よって、本発明の内部標準遺伝子は一実施の形態において、乳癌患者由来の被検試料における遺伝子発現解析に用いることができる。ここで、乳癌患者由来の被検試料における遺伝子発現解析とは、例えば、乳癌の有無を鑑別するための遺伝子発現解析、乳癌のサブタイプを鑑別または分類するための遺伝子発現解析を含む。ここで、「鑑別する、又は、分類する」とは、乳癌罹患歴のある被検者由来の試料について、乳癌の存在を鑑別する、もしくは、乳癌の存在の可能性が高いかあるいは低いかを鑑別すること、または、乳癌がいずれのサブタイプに属するものであるかを鑑別もしくは分類すること、もしくは、いずれの組織型に属する可能性が高いあるいは低いかを鑑別又は分類することをいう。
乳癌患者由来の被検試料における遺伝子発現解析において本発明に係る内部標準遺伝子を用いることで、公知の内部標準遺伝子(例えば、GAPDH)などと比較して、より正確な遺伝子発現の相対値を提供することが可能となる。
【0019】
本明細書において「被検試料」とは、遺伝子発現解析に用いられる試料をいう。本発明に用いることのできる被検試料は、本発明に係る内部標準遺伝子が発現している試料であれば特に制限されない。被検試料の由来する動物としては、例えばヒト、サル、チンパンジーを挙げることができ、好ましくはヒトである。また「試料」とは、例えば、組織、細胞、体液(血液(血清、血漿及び間質液を含む)、髄液(脳脊髄液)、尿、リンパ液、消化液、腹水、胸水、神経根周囲液、各組織若しくは細胞の抽出液等)又は腹腔洗浄液などの生体より採取した試料、培養細胞、またはそれらの精製物や調製物を挙げることができる。
なお本発明に係る内部標準遺伝子を、遺伝子発現解析による乳癌の鑑別に用いる場合、「被検試料」はヒトである被験者より採取された試料であり、乳癌組織または乳癌組織の疑いのある組織またはその一部を含むことが好ましい。ここでいう「組織」及び「細胞」は、被験者のいずれの部位由来でもよいが、好ましくは生検により採取された、又は手術により切除された検体、より具体的には乳房組織又は乳房細胞である。特に好ましくは生検により採取された乳癌細胞又は乳癌罹患の疑いのある乳癌組織又は乳癌細胞である。なお、これらの組織又は細胞は、ホルマリン固定後パラフィンに包埋されたもの(FFPE:Formalin-Fixed Paraffin Embedded)でもよい。
【0020】
なお「乳癌」とは、通常は乳管や小葉といった乳管内の組織から発生する癌のことをいう。乳癌は癌腫および肉腫を含み、乳房組織のあらゆる悪性腫瘍を指す。また乳癌は不均一な疾患であり、様々な特徴を持つ複数のサブタイプに分類される。
乳癌のサブタイプは、主に、Luminal A、Luminal B (HER2陽性)、Luminal B (HER2陰性)、HER2陽性、HER2陽性様、トリプルネガティブ、葉状腫瘍、扁平上皮癌、判定不能、および、正常様に分類される。
ここで、「Luminal A」とは、臨床病理学的には、1)ER陽性かつPgR陰性、2)HER2陰性、3)Ki67が低値、4)MGEAにて再発リスクが低い、をすべて満たす症例をいうが、本明細書においては、臨床病理学的にLuminal Aと診断された症例の多くと遺伝子発現プロファイルが類似している症例も含む。
なお、臨床病理学的なサブタイプの診断は、主にER、PgR、HER2、Ki67の発現を免疫組織染色により確認するものであるが、これに限らず遺伝子発現解析により確認されたものも含む。
「Luminal B(HER2陽性)」とは、臨床病理学的には、ER陽性かつHER2陽性である症例をいうが、本明細書においては、臨床病理学的にLuminal B(HER2陽性)と診断された症例の多くと遺伝子発現プロファイルが類似している症例も含む。
「Luminal B(HER2陰性)」とは、臨床病理学的には、1)ER陽性かつHER2陰性、かつ、2)Ki67が高値、3)PgRが陰性または低値、4)MGEAにて再発リスクが高い、のいずれかに該当する症例をいうが、本明細書においては、Luminal Aの中で細胞周期関連遺伝子群が他の症例よりも高発現している症例も含む。
「HER2陽性」とは、臨床病理学的には、HER2陽性であり、ER陰性かつPgR陰性の症例をいうが、本明細書においては、臨床病理学的にHER2陽性と診断された症例の多くと遺伝子発現プロファイルが類似している症例も含む。
「HER2陽性様」とは、HER2が陰性であるが、その他の遺伝子発現プロファイルが、臨床病理学的にHER2陽性と診断された症例の多くと類似している症例をいう。
「トリプルネガティブ」とは、臨床病理学的にはER陰性、PgR陰性およびHER2陰性である症例をいうが、本明細書においては、臨床病理学的にトリプルネガティブと診断された症例の多くと遺伝子発現プロファイルが類似している症例も含む。
「扁平上皮癌」とは、表皮に存在する表皮角化細胞と呼ばれる細胞が悪性増殖してできた癌であり、本明細書においては、乳腺原発のものをいう。
「葉状腫瘍」とは、臨床病理学的には乳腺繊維腺腫に類似しているが、乳腺の小葉内の結合組織が増殖する線維腫瘍に対し、線維性間質と乳管上皮が急速に増殖したものをいう。
「判定不能」とは、Luminal A、Luminal B(HER2陽性)、Luminal B(HER2陰性)、HER2陽性、HER2陽性様、トリプルネガティブ、正常様、正常、扁平上皮癌および葉状腫瘍のいずれにも遺伝子発現プロファイルが類似しないものをいう。
「正常様」とは、臨床病理学的には「癌」と診断されているが、遺伝子発現プロファイルが正常乳腺組織と類似している症例をいう。
「正常」とは、正常組織をいう。
本発明に係る内部標準遺伝子は、上記に列挙される乳癌のサブタイプを鑑別するための遺伝子発現解析において好適に用いることができる。
【0021】
2.遺伝子発現解析用組成物
2-1.概要
本発明の別の態様は、内部標準遺伝子の発現レベルを測定する手段を含む、内部標準遺伝子の遺伝子発現解析用組成物に関する。
2-2.定義
本明細書において「遺伝子の発現レベル」とは、遺伝子の転写産物量、発現強度又は発現頻度をいう。ここでいう遺伝子の発現レベルは、遺伝子の野生型遺伝子の発現レベルに限らず、点突然変異遺伝子等の変異遺伝子の発現レベルも含み得る。また、遺伝子の発現を示す転写産物には、スプライスバリアントのような異型転写産物(バリアント)及びそれらの断片も含み得る。変異遺伝子、転写産物、又はその断片に基づく情報であっても本発明に係る内部標準遺伝子としての利用が可能だからである。遺伝子の発現レベルは、遺伝子の転写産物、すなわちmRNA量、cDNA量等の測定により測定値として得ることができる。なお、好ましい実施の形態において、遺伝子の発現レベルの測定は、mRNAの測定である。
【0022】
本明細書において「発現レベルを測定する手段」とは、遺伝子の転写産物に結合することができる化合物であって、当該転写産物の存在の有無や転写産物量を示すことのできる化合物である。一実施の形態において、発現レベルを測定する手段は、測定対象となる遺伝子に対するプライマー、プローブ、または、それらの標識物からなる群より選択される少なくとも一つの化合物である。
本発明に用いることのできるプライマー又はプローブは、通常、DNA、RNA等の天然核酸で構成される。安定性が高く、合成が容易で低廉なDNAは特に好ましい。また、必要に応じて天然核酸と化学修飾核酸や擬似核酸を組み合わせることもできる。化学修飾核酸や擬似核酸には、例えば、PNA(Peptide Nucleic Acid)、LNA(Locked Nucleic Acid;登録商標)、メチルホスホネート型DNA、ホスホロチオエート型DNA、2'-O-メチル型RNA等が挙げられる。また、プライマー及びプローブは、蛍光物質及び/又はクエンチャー物質、又は放射性同位元素(例えば、32P、33P、35S)等の標識物質、あるいはビオチン若しくは(ストレプト)アビジン、又は磁気ビーズ等の修飾物質を用いて標識又は修飾された標識物として用いることができる。標識物質は、限定されず、市販のものを用いることができる。例えば、蛍光物質であればFITC、Texas、Cy3、Cy5、Cy7、Cyanine3、Cyanine5、Cyanine7、FAM、HEX、VIC、フルオレサミン及びその誘導体、及びローダミン及びその誘導体等を用いることができる。クエンチャー物質であれば、AMRA、DABCYL、BHQ-1、BHQ-2、又はBHQ-3等を用いることができる。プライマー及びプローブにおける標識物質の標識位置は、その修飾物質の特性や、使用目的に応じて適宜定めればよい。一般的には、5’又は3’末端部に修飾されることが多い。また、一つのプライマー及びプローブ分子が一以上の標識物質で標識されていても構わない。これらの物質のヌクレオチドへの標識は公知の方法で行うことができる。
【0023】
プライマー又はプローブとして用いるヌクレオチドは、測定対象の遺伝子のセンス鎖、又はアンチセンス鎖からなるヌクレオチドのいずれであってもよい。好ましい実施の形態において、プライマー又はプローブとして用いるヌクレオチドは、PCR用、マイクロアレイ用、または、RNAシークエンス用のプライマー又はプローブである。
プライマー又はプローブの塩基長は、目的の遺伝子の発現レベルが測定できる限りにおいて特に限定されない。プローブの場合、後述するハイブリダイゼーション法に使用するのであれば、少なくとも10塩基長以上から遺伝子全長、好ましくは15塩基長以上から遺伝子全長、より好ましくは30塩基長以上から遺伝子全長、さらに好ましくは50塩基長以上から遺伝子全長であり、マイクロアレイに使用するのであれば、10~200塩基長、好ましくは20~150塩基長、より好ましくは30~100塩基長である。一般にプローブは長いほどハイブリダイゼーション効率が上昇し、感度は高くなる。一方、プローブは短いほど感度は低くなるが、逆に特異性が上昇する。一方、プライマーの場合、フォワードプライマー及びリバースプライマーのそれぞれが10~50bp、好ましくは15~30bpあればよい。
本発明に係る内部標準遺伝子の発現レベルを核酸増幅法などにより測定する場合、以下に限定されないが、例えば、FBXW5、PITPNM1、MLLT1、WDR1、ABCF3、NDUFS7、FAM234A、および、AP2A1に対してそれぞれ配列番号9~16に示されるプローブを用いることができる(表2)。遺伝子発現解析の手法ごとに、使用されるプライマー又はプローブの調製は当業者に既知であり、例えば、前述のGreen & Sambrook, Molecular Cloning(2012)に記載された方法に準じて調製することができる。また、核酸合成受託メーカーに配列情報を提供し、委託製造することも可能である。
【0024】
【0025】
また、発現レベルを測定する手段が上記のようなプローブの場合、各プローブを基板上に固定したDNAマイクロアレイ又はDNAマイクロチップの状態で提供することもできる。各プローブを固定する基板の素材は、限定はしないが、ガラス板、石英板、シリコンウェハー等が通常使用される。基板の大きさは、例えば、3.5mm×5.5mm、18mm×18mm、22mm×75mmなどが挙げられるが、これはプローブのスポット数やそのスポットの大きさなどに応じて様々に設定することができる。プローブは、1スポットあたり通常0.1μg~0.5μgのヌクレオチドが用いられる。ヌクレオチドの固定化方法には、ヌクレオチドの荷電を利用してポリリジン、ポリ-L-リジン、ポリエチレンイミン、ポリアルキルアミン等のポリ陽イオンで表面処理した固相担体に静電結合させる方法や、アミノ基、アルデヒド基、エポキシ基などの官能基を導入した固相表面に、アミノ基、アルデヒド基、SH基、ビオチンなどの官能基を導入したヌクレオチドを共有結合により結合させる方法が挙げられる。
【0026】
また、本発明の内部標準遺伝子の発現解析用組成物は、遺伝子の発現の測定または検出に必要な他の試薬(例えば、他の遺伝子に対するプローブ、プライマー、もしくは、それらの標識物、または、バッファなど)や器具(培養皿など)、乳癌の鑑別に用いる説明書を含むキットとして提供することもできる。
【0027】
3.内部標準遺伝子を用いた遺伝発現解析方法
3-1.概要
本発明の別の態様は、本発明に係る内部標準遺伝子を用いた被検試料の遺伝子発現解析方法に関するものであり、当該遺伝子発現解析方法は以下の工程を含む:
(a)所望の遺伝子の発現レベルを測定する工程、
(b)ABCF3、FBXW5、MLLT1、FAM234A、PITPNM1、WDR1、NDUFS7、および、AP2A1からなる群より選択される少なくとも一つの内部標準遺伝子を測定する工程、
(c)前記所望の遺伝子の発現レベルを、前記内部標準遺伝子の発現レベルを用いて標準化する工程。
【0028】
3-2.定義
本発明に係る遺伝子発現解析方法は、(a)所望の遺伝子の発現レベルを測定する工程を含む。
【0029】
「遺伝子の発現レベルの測定工程」は、被検試料において遺伝子の発現レベルを測定してその測定値を得る工程である。
なお、遺伝子の発現レベルの測定は、単位量あたりの発現レベルを測定することが好ましい。本明細書において「単位量」とは、任意に定められる試料の量をいう。例えば、容量(μL、mLで表される)や重量(μg、mg、gで表される)が該当する。単位量は特に特定しないが、一連の遺伝子発現解析方法で測定される単位量は一定とすることが好ましい。
【0030】
本明細書において「所望の遺伝子」とは、本発明に係る内部標準遺伝子を用いて遺伝子の発現レベルの相対値を調べたい遺伝子をいう。所望の遺伝子は、本発明に係る内部標準遺伝子が発現している細胞と同一の細胞内で発現している遺伝子であれば特に制限されない。当業者であれば、遺伝子発現解析の目的に応じて適宜所望の遺伝子を選択することができる。なお、一実施の形態において、所望の遺伝子は乳癌を鑑別するための遺伝子である。乳癌を鑑別するための遺伝子とは、乳癌において特異的に発現レベルが変動する遺伝子である。よって、当該実施の形態において、所望の遺伝子はの乳癌において特異的に発現レベルが変動を示すことが知られている遺伝子とすることができる。また、より好ましい実施の形態において、所望の遺伝子は、乳癌のサブタイプを鑑別または分類するための遺伝子である。
【0031】
乳癌のサブタイプを鑑別または分類するための遺伝子としては、以下に制限されないが、例えば、ABCF3遺伝子、FBXW5遺伝子、MLLT1遺伝子、FAM234A遺伝子、PITPNM1遺伝子、WDR1遺伝子、NDUFS7遺伝子、AP2A1遺伝子、KRTDAP遺伝子、SERPINB3遺伝子、SPRR2A遺伝子、SPRR1B遺伝子、KLK13遺伝子、KRT1遺伝子、LGALS7遺伝子、PI3遺伝子、SERPINH1遺伝子、SNAI2遺伝子、GPR173遺伝子、HAS2遺伝子、PTH1R遺伝子、PAGE5遺伝子、ITLN1遺伝子、SH3PXD2B遺伝子、TAP1遺伝子、FN1遺伝子、CTHRC1遺伝子、MMP9遺伝子、ADIPOQ遺伝子、CD36遺伝子、G0S2遺伝子、GPD1遺伝子、LEP遺伝子、LIPE遺伝子、PLIN1遺伝子、SDPR遺伝子、LIFR遺伝子、TGFBR3遺伝子、CAPN6遺伝子、PIGR遺伝子、KRT15遺伝子、KRT5遺伝子、KRT14遺伝子、DST遺伝子、WIF1遺伝子、SYNM遺伝子、KIT遺伝子、GABRP遺伝子、SFRP1遺伝子、ELF5遺伝子、MIA遺伝子、MMP7遺伝子、FDCSP遺伝子、CRABP1遺伝子、PROM1遺伝子、KRT23遺伝子、S100A1遺伝子、WIPF3遺伝子、CYYR1遺伝子、TFCP2L1遺伝子、DSC2遺伝子、MFGE8遺伝子、KLK7遺伝子、KLK5遺伝子、DSG3遺伝子、TTYH1遺伝子、SCRG1遺伝子、S100B遺伝子、ETV6遺伝子、OGFRL1遺伝子、MELTF遺伝子、HORMAD1遺伝子、PKP1遺伝子、FOXC1遺伝子、ITGB8遺伝子、VGLL1遺伝子、ART3遺伝子、EN1遺伝子、SPHK1遺伝子、TRIM47遺伝子、COL27A1遺伝子、RFLNA遺伝子、RASD2遺伝子、A2ML1遺伝子、MARCO遺伝子、TSPYL5遺伝子、TM4SF1遺伝子、FABP5遺伝子、SPIB遺伝子、BCL2A1遺伝子、MZB1遺伝子、KCNK5遺伝子、LMO4遺伝子、RNF150遺伝子、LYZ遺伝子、C21orf58遺伝子、ATP13A5遺伝子、NUDT8遺伝子、HSD17B2遺伝子、ABCA12遺伝子、ENPP3遺伝子、WNT5A遺伝子、MPP3遺伝子、VPS13D遺伝子、PXMP4遺伝子、GGT1遺伝子、TRPV6遺伝子、C2orf54遺伝子、CLDN8遺伝子、LBP遺伝子、SRD5A3遺伝子、PAPSS2遺伝子、TMEM45B遺伝子、CLCA2遺伝子、FASN遺伝子、MPHOSPH6遺伝子、NXPH4遺伝子、HPGD遺伝子、KYNU遺伝子、GLYATL2遺伝子、KMO遺伝子、SRPK3遺伝子、THRSP遺伝子、PLA2G2A遺伝子、TFAP2B遺伝子、FABP7遺伝子、SLPI遺伝子、SERHL2遺伝子、S100A9遺伝子、KRT7遺伝子、TMEM86A遺伝子、MBOAT1遺伝子、PGAP3遺伝子、STARD3遺伝子、ERBB2遺伝子、MIEN1遺伝子、GRB7遺伝子、GSDMB遺伝子、ORMDL3遺伝子、MED24遺伝子、MSL1遺伝子、CASC3遺伝子、WIPF2遺伝子、THSD4遺伝子、MAPT遺伝子、LONRF2遺伝子、TCEAL3遺伝子、DBNDD2遺伝子、FGD3遺伝子、GFRA1遺伝子、PARD6B遺伝子、STC2遺伝子、SLC39A6遺伝子、ENPP5遺伝子、ZNF703遺伝子、EVL遺伝子、TBC1D9遺伝子、CHAD遺伝子、GREB1遺伝子、HPN遺伝子、IL6ST遺伝子、FAM198B遺伝子、CA12遺伝子、KCNE4遺伝子、NAT1遺伝子、CYP2B6(CYP2B7P)遺伝子、ARMT1遺伝子、MAGED2遺伝子、CELSR1遺伝子、INPP5J遺伝子、PADI2遺伝子、PPP1R1B遺伝子、ESR1遺伝子、MLPH遺伝子、FOXA1遺伝子、XBP1遺伝子、GATA3遺伝子、ZG16B遺伝子、KIAA0040遺伝子、TMC4遺伝子、AGR2遺伝子、TFF3遺伝子、SCGB2A2遺伝子、MUCL1遺伝子、DDX11遺伝子、ATAD2遺伝子、GGH遺伝子、CDCA3遺伝子、CCNA2遺伝子、CCNB2遺伝子、ANLN遺伝子、UBE2C遺伝子、CKS2遺伝子、MKI67遺伝子、FOXM1遺伝子、UBE2T遺伝子、MCM4遺伝子、CKAP2遺伝子、HN1遺伝子、KPNA2遺伝子、H2AFX遺伝子、H2AFZ遺伝子、CDK1遺伝子、PTTG1遺伝子、CDC20遺伝子、MYBL2遺伝子およびRRM2遺伝子を挙げることができる。
【0032】
遺伝子発現の測定は、転写産物の測定により実施することができる。以下、遺伝子の転写産物の測定方法について具体的に説明をする。なお、遺伝子の転写産物の測定方法は公知である。以下では、特開2016-13081号公報の遺伝子の転写産物又は翻訳産物の測定方法に関する記載を参照または引用して記載する。また以下では代表的な遺伝子の転写産物の測定方法を説明するが、これらの方法に限定されず、公知の測定方法を用いることができる。
【0033】
なお、鑑別遺伝子の転写産物の測定は、mRNA量の測定であっても、またmRNAから逆転写されて得られたcDNA量の測定であってもよい。一般に遺伝子の転写産物の測定には、上記の遺伝子の塩基配列の全部又は一部を含むヌクレオチドをプライマー又はプローブに用いて、遺伝子の発現レベルを絶対値又は相対値として測定する方法が採用される。
遺伝子の転写産物の測定は、公知の核酸検出・定量方法であればよく、特に限定はしない。例えば、ハイブリダイゼーション法、核酸増幅法又はRNAシーケンシング(RNA-Seq)解析法が挙げられる。
「ハイブリダイゼーション法」とは、検出すべき標的核酸の塩基配列の全部又は一部に相補的な塩基配列を有する核酸断片をプローブとして用い、その核酸と該プローブ間の塩基対合を利用して、標的核酸若しくはその断片を検出、定量する方法である。本態様で標的核酸は、鑑別マーカーを構成する各遺伝子のmRNA若しくはcDNA、又はその断片が該当する。一般にハイブリダイゼーション法は、非特異的にハイブリダイズする目的外の核酸を排除するためストリンジェントな条件で行うことが好ましい。前述の低塩濃度かつ高温下の高ストリンジェントな条件はより好ましい。ハイブリダイゼーション法には、検出手段の異なるいくつかの方法が知られているが、例えば、ノザンブロット法(ノザンハイブリダイゼーション法)、マイクロアレイ法、表面プラズモン共鳴法又は水晶振動子マイクロバランス法が好適である。
「ノザンブロット法」は、遺伝子の発現を解析する最も一般的な方法で、試料より調製した全RNA又はmRNAを変性条件下でアガロースゲル若しくはポリアクリルアミドゲル等による電気泳動によって分離し、フィルターに転写(ブロッティング)した後に、標的RNAに特異的な塩基配列を有するプローブを用いて、標的核酸を検出する方法である。プローブを蛍光色素や放射性同位元素のような適当なマーカーで標識することで、例えば、ケミルミ(化学発光)撮影解析装置(例えば、ライトキャプチャー;アトー社)、シンチレーションカウンター、イメージングアナライザー(例えば、FUJIFILM社:BASシリーズ)等の測定装置を用いて標的核酸を定量することも可能である。ノザンブロット法は、当該分野において周知著名な技術であり、例えば、前述のGreen, M.R. and Sambrook, J.(2012)を参照すればよい。
「マイクロアレイ法」は、基板上に標的核酸の塩基配列の全部若しくは一部に相補的な核酸断片をプローブとして小スポット状に高密度で配置、固相化したマイクロアレイ又はマイクロチップに標的核酸を含む試料を反応させて、基盤スポットにハイブリダイズした核酸を蛍光等によって検出する方法である。標的核酸は、mRNAのようなRNA、又はcDNAのようなDNAのいずれであってもよい。検出、定量には、標的核酸等のハイブリダイゼーションに基づく蛍光等をマイクロプレートリーダーやスキャナにより検出、測定することによって達成できる。測定した蛍光強度により、mRNA量若しくはcDNA量又はレファレンスmRNA(参照mRNA)に対するそれらの存在比を決定することができる。マイクロアレイ法も当該分野において周知の技術である。例えば、DNAマイクロアレイ法(DNAマイクロアレイと最新PCR法(2000年)村松正明、那波宏之監修、秀潤社)等を参照すればよい。
「表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)法」とは、金属薄膜へ照射したレーザー光の入射角度を変化させると特定の入射角度(共鳴角)において反射光強度が著しく減衰するという表面プラズモン共鳴現象を利用して、金属薄膜表面上の吸着物を極めて高感度に検出、定量する方法である。本発明においては、例えば、金属薄膜表面に標的核酸の塩基配列に相補的な配列を有するプローブを固定化し、その他の金属薄膜表面部分をブロッキング処理した後、被験体又は健常体若しくは健常体群から採取された試料を金属薄膜表面に流通させることによって標的核酸とプローブの塩基対合を形成させて、サンプル流通前後の測定値の差異から標的核酸を検出、定量することができる。表面プラズモン共鳴法による検出、定量は、例えば、Biacore社で市販されるSPRセンサを利用して行なうことができる。本技術は、当該分野において周知である。例えば、永田和弘、及び半田宏, 生体物質相互作用のリアルタイム解析実験法, シュプリンガー・フェアラーク東京, 東京, 2000を参照すればよい。
「水晶振動子マイクロバランス(QCM: Quarts Crystal Microbalance)法」とは、水晶振動子に取り付けた電極表面に物質が吸着するとその質量に応じて水晶振動子の共振周波数が減少する現象を利用して、共振周波数の変化量によって極微量な吸着物を定量的に捕らえる質量測定法である。本方法による検出、定量も、SPR法と同様に市販のQCMセンサを利用して、例えば、電極表面に固定した標的核酸の塩基配列に相補的な配列を有するプローブと被験体又は健常体若しくは健常体群から採取された試料中の標的核酸との塩基対合によって標的核酸を検出、定量することができる。本技術は、当該分野において周知であり、例えば、Christopher J. et al., 2005, Self-Assembled Monolayers of a Form of Nanotechnology, Chemical Review,105:1103-1169や森泉豊榮,中本高道,(1997) センサ工学,昭晃堂を参照すればよい。
「核酸増幅法」とは、フォワード/リバースプライマーを用いて、標的核酸の特定の領域を核酸ポリメラーゼによって増幅させる方法をいう。例えば、PCR法(RT-PCR法を含む)、NASBA法、ICAN法、LAMP(登録商標)法(RT-LAMP法を含む)が挙げられる。好ましくはPCR法である。核酸増幅法を用いた遺伝子の転写産物の測定方法には、リアルタイムRT-PCR法のような定量的核酸増幅法が使用される。リアルタイムRT-PCR法には、さらに、SYBR(登録商標)Green等を用いるインターカレーター法、Taqman(登録商標)プローブ法、デジタルPCR法、及びサイクリングプローブ法が知られているが、いずれの方法であってもよい。これらはいずれも公知の方法であり、当該技術分野における適当なプロトコルにも記載されているので、それらを参照すればよい。
「RNAシーケンシング(RNA-Seq)解析法」とは、RNAをcDNAに逆転写反応により変換し、それらを次世代シーケンサー(例えば、HiSeqシリーズ(illumina社)やIon Protonシステム(Thermo Fisher社)が存在するが、これに限らない。)を用いてリード数をカウントすることで遺伝子の発現量を測定する方法をいう。これらはいずれも公知の方法であり、当該技術分野における適当なプロトコルにも記載されているので、それらを参照すればよい。
【0034】
リアルタイムRT-PCR法で遺伝子の転写産物を定量する方法について、以下で一例を挙げて簡単に説明をする。リアルタイムRT-PCR法は、試料中のmRNAから逆転写反応によって調製されたcDNAを鋳型として、PCRの増幅産物が特異的に蛍光標識される反応系で、増幅産物に由来する蛍光強度を検出する機能の備わった温度サイクラー装置を用いてPCRを行う核酸定量方法である。反応中の標的核酸の増幅産物量をリアルタイムでモニタリングして、その結果をコンピュータで回帰分析する。増幅産物を標識する方法としては、蛍光標識したプローブを用いる方法(例えば、TaqMan(登録商標)PCR法)と、2本鎖DNAに特異的に結合する試薬を用いるインターカレーター方法とがある。TaqMan(登録商標)PCR法は、5’末端部がクエンチャー物質で、また3’末端部が蛍光色素で修飾されたプローブを用いる。通常は、5’末端部のクエンチャー物質が3’末端部の蛍光色素を抑制しているが、PCRが行われるとTaqポリメラーゼのもつ5’→3’エキソヌクレアーゼ活性により当該プローブが分解され、それによってクエンチャー物質の抑制が解除されるため蛍光を発するようになる。その蛍光量は、増幅産物の量を反映する。増幅産物が検出限界に到達するときのサイクル数(CT)と初期鋳型量とは逆相関の関係にあることから、リアルタイム測定法ではCTを測定することによって初期鋳型量を定量している。数段階の既知量の鋳型を用いてCTを測定し、検量線を作製すれば、未知試料の初期鋳型量の絶対値を算出することができる。RT-PCRで使用する逆転写酵素は、例えば、M-MLV RTase、ExScript RTase(TaKaRa社)、Super Script II RT(Thermo Fisher Scientific社)等を使用することができる。
リアルタイムPCRの反応条件は、一般に、公知のPCR法を基礎として、増幅する核酸断片の塩基長及び鋳型用核酸の量、並びに使用するプライマーの塩基長及びTm値、使用する核酸ポリメラーゼの至適反応温度及び至適pH等により変動するため、これらの条件に応じて適宜定めればよい。一例として、通常、変性反応を94~95℃で5秒~5分間、アニーリング反応を50~70℃で10秒~1分間、伸長反応を68~72℃で30秒~3分間行い、これを1サイクルとして15~40サイクルほど繰り返して伸長反応を行うことができる。前記メーカー市販のキットを使用する場合には、原則としてキットに添付のプロトコルに従って行えばよい。
リアルタイムPCRで用いられる核酸ポリメラーゼは、DNAポリメラーゼ、特に熱耐性DNAポリメラーゼである。このような核酸ポリメラーゼは、様々な種類のものが市販されており、それらを利用することもできる。例えば、前記Applied Biosystems TaqMan MicroRNA Assays Kit(Thermo Fisher Scientific社)に添付のTaq DNAポリメラーゼが挙げられる。特にこのような市販のキットには、添付のDNAポリメラーゼの活性に最適化されたバッファ等が添付されているので有用である。
【0035】
また、本発明の遺伝子発現解析方法は、上記工程(a)に加えて、(b)ABCF3、FBXW5、MLLT1、FAM234A、PITPNM1、WDR1、NDUFS7、および、AP2A1からなる群より選択される少なくとも一つの内部標準遺伝子を測定する工程を含む。
工程(a)および工程(b)は同時に行うことができ、または、いずれかの工程を先にして別々に行っても良い。好ましくは、工程(a)および(b)を同時に行う実施形態である。
【0036】
本発明の遺伝子発現解析方法は、工程(a)および工程(b)の後に、(c)前記所望の遺伝子の発現レベルを、前記内部標準遺伝子の発現レベルを用いて標準化する工程を含む。
本明細書において「標準化する」とは、特定の条件下で測定された被検試料における所望の遺伝子の発現レベルを、異なる条件下で測定された被検試料における所望の遺伝子の発現レベルと比較可能にすることをいう。より具体的には、特定の条件下で測定された被検試料に対する所望の遺伝子の発現レベルを、同一の条件下で測定された被検試料に対する内部標準遺伝子の発現レベルと比較することにより、当該被検試料における所望の遺伝子の発現レベルを当該内部標準遺伝子の発現レベルに対する相対値として算出することをいう。
標準化の工程において、所望の遺伝子の発現レベルを相対値として算出する方法は、異なる条件下で測定された被検試料における所望の遺伝子の発現レベルと比較可能である限り制限されない。例えば、特定の条件下で測定された被検試料に対する所望の遺伝子の発現レベルの値を、同一の条件下で測定された被検試料に対する内部標準遺伝子の発現レベルの値で除することで相対値として表すことができる。
【0037】
上記工程(c)により標準化された所望の遺伝子の発現レベルは、異なる条件下で測定され、かつ、同様の手法により標準化された遺伝子の発現レベルと相対的に比較することが可能となる。
【実施例】
【0038】
(実施例1.RNA 調製)
外科的に採取した乳癌組織は、ISOGEN(Nippon Gene Co., Ltd., Tokyo, Japan)を用いてtotal RNAを抽出した。また、正常乳腺組織および一部の乳癌組織は海外の取扱い業者から購入し、同様にしてtotal RNAを抽出した。125μg以上のtotal RNAを取得できたサンプルは引き続き、MicroPoly(A)purist Kit(Ambion, Austin, TX, USA)を用いてpoly(A)+RNAを精製した。
ヒト共通リファレンスRNAは、Human Universal Reference RNA Type I (MicroDiagnostic, Tokyo, Japan)またはHuman Universal Reference RNA Type II (MicroDiagnostic)を使用した。
【0039】
(実施例2.網羅的遺伝子発現解析)
poly(A)+RNAを用いた遺伝子発現プロファイル取得(「システム1」と名付ける)に使用するDNAマイクロアレイは、ヒト由来の転写産物に対応する31,797種類の合成DNA(80 mers)(MicroDiagnostic)をカスタムアレイヤーでスライドガラス上にアレイ化したものを用いた。一方、total RNAを用いた遺伝子発現プロファイル取得(「システム2」と名付ける)のためのDNAマイクロアレイは、ヒト由来の転写産物に対応する14,400種類の合成DNA(80 mers)(MicroDiagnostic)をカスタムアレイヤーでスライドガラス上にアレイ化したものを用いた。
検体由来のRNAは、システム1の場合は2μgのpoly(A)+RNAから、システム2の場合は5 μgのtotal RNAからSuperScript II(Invitrogen Life Technologies, Carlsbad, CA, USA)およびCyanine 5-dUTP(Perkin-Elmer Inc.)を用いて標識cDNAを合成した。同様に、ヒト共通リファレンスRNAは、2μgのpoly(A)+RNAまたは5μgのtotal RNAからSupreScript IIおよびCyanine 3-dUTP(Perkin-Elmer Inc.)を用いて標識cDNAを合成した。
DNAマイクロアレイとのハイブリダイゼーションは、Labeling and Hybridization kit(MicroDiagonostic)を用いて行なった。
【0040】
DNAマイクロアレイとのハイブリダイゼーション後の蛍光強度は、GenePix 4000B Scanner(Axon Instruments, Inc., Union city, CA, USA)を用いて測定した。また、検体由来Cyanine-5標識cDNAの蛍光強度をヒト共通リファレンス由来Cyanine-3標識cDNAの蛍光強度で除することにより発現比(検体由来Cyanine-5標識cDNAの蛍光強度/ヒト共通リファレンス由来Cyanine-3標識cDNAの蛍光強度)を算出した。さらに、GenePix Pro 3.0 software(Axon Instruments, Inc.,)を用いて、算出した発現比にノーマライゼーションファクターを乗じてノーマライズを行なった。次に発現比をLog2に変換し、変換した値をLog2比(Log2 ratio)と名付けた。なお、発現比の変換はExcel software(Microsoft, Bellevue, WA, USA)およびMDI gene expression analysis software package(MicroDiagnostic)を用いて行なった。
【0041】
(実施例3.乳癌のサブタイプ鑑別において有用な内部標準遺伝子)
本実施例では、発現パターンが乳癌のいずれのサブタイプ
および正常組織に対しても変動しない遺伝子を特定する。
上記実施例1および2に記載のRNA調製方法および網羅的遺伝子発現解析方法により、乳癌組織(453症例)および正常乳腺組織(17症例)を合わせた470症例の各検体について14,400遺伝子の遺伝子発現プロファイルを取得した。
得られた遺伝子発現プロファイルのうち、いずれの乳癌のサブタイプ
および正常組織においても発現比の変動の少ない遺伝子をピックアップした。具体的には、シグナルを検出できなかった検体が3以下、発現比の絶対値が0.45未満、標準偏差が0.35未満、最大値-最小値の値が2.2未満、かつ、「sum of medians」の平均値が400を超えた遺伝子の中から、内部標準遺伝子を選択した。その結果、ABCF3、FBXW5、MLLT1、FAM234A、PITPNM1、WDR1、NDUFS7、および、AP2A1の8遺伝子を内部標準遺伝子として選択することに成功した。
下記表に、ABCF3、FBXW5、MLLT1、FAM234A、PITPNM1、WDR1、NDUFS7、および、AP2A1の上記遺伝子発現プロファイルにおける標準偏差、最大値、最小値を示す。
【表3】
また、上記8つの内部標準遺伝子の遺伝子発現プロファイルにおいて、発現比を1.0ごとに区切った各データ区間における分布を下記表4および
図1~3に示す。なお、表4および
図1~3には、上記8つの内部標準遺伝子の比較として、従来ハウスキーピング遺伝子として用いられてきたGAPDH(アクセッション番号:NM_002046)の分布も併せて示す。
【表4】
表4および
図1~3に示すように、上記8つの内部標準遺伝子は、GAPDHの遺伝子と比較して、サンプル間の発現比の変動の幅がより少なかった。さらに、発現比の分布の多くは-0.5~0.5の中央のデータ区間に収まっていた。
【0042】
(実施例4.遺伝子発現解析による乳癌サブタイプの鑑別)
本発明者らは、実施例3で得られた遺伝子発現プロファイルより、扁平上皮癌に特徴的な発現パターンを示す遺伝子群(以下「a群」という。)、葉状腫瘍に特徴的な発現パターンを示す遺伝子群(以下「b群」という。)、癌に特徴的な発現パターンを示す遺伝子群(以下「c群」という。)、正常組織に特徴的な発現パターンを示す遺伝子群(以下「d群」という。)、正常様に特徴的な発現パターンを示す遺伝子群(以下「e群」という。)、トリプルネガティブ群に特徴的な発現パターンを示し、かつ、正常組織又は正常様に特徴的な発現パターンを示す遺伝子(以下「TNBC1」という。)群(以下「f群」という。)、トリプルネガティブに特徴的な発現パターンを示す遺伝子(以下「TNBC2」という。)群(以下「g群」という。)、トリプルネガティブに特徴的な発現パターンを示し、かつ、特徴の乏しい癌(判定不能なもの)を規定する遺伝子の発現パターンにも類似する遺伝子(以下「TNBC3」という。)群(以下「h群」という。)、HER2+様に特徴的な発現パターンを示す遺伝子群(以下「i群」という。)、HER2増幅に関連し、かつ、HER2遺伝子と染色体上近い位置に存在する遺伝子(以下「HER2増幅-1」という。)群(以下「j群」という。)、HER2増幅に関連かつj群以外の遺伝子(以下「HER2増幅-2」という。)群(以下「k群」という。)、ホルモン感受性関連遺伝子群(以下「l群」という。)、ESR1(以下「m群」という。)、分化関連遺伝子群(以下「n群」という。)および細胞周期関連遺伝子群(以下「o群」という。)を特定することに成功している。これらa~o群に含まれる遺伝子として199遺伝子を特定した(乳癌のサブタイプを鑑別するための鑑別マーカー遺伝子セット)。鑑別マーカー遺伝子セットに含まれる遺伝子を下記表に示す。
【0043】
【表5A】
【表5B】
【表5C】
【表5D】
【表5E】
【表5F】
【表5G】
【0044】
上記8つの内部標準遺伝子と上記199遺伝子からなる鑑別マーカー遺伝子セットとを合わせた207種の遺伝子について、各遺伝子の遺伝子発現レベルを測定し(データは示さず)、クラスタ分析を行った。また、クラスタ分析はExpressionView Pro software(MicroDiagnostic)を用い、ユークリッド距離による群平均法にて行なった。クラスタ分析の結果を
図4に記載する。
図4に示すように、抽出した207遺伝子の発現プロファイルに基づいて階層的クラスタ分析を行ったところ、a~o群に含まれる遺伝子はサブタイプごとに特徴的な発現比を示すのに対して、対照群の遺伝子はいずれのサブタイプにおいても発現の変動が観察されなかった。また、当該階層的クラスタ分析により、乳癌のサブタイプを正常様群、判定不能群、正常群、Luminal A群、HER2+様群、Luminal B群、HER2+群、トリプルネガティブ群、その他群のクラスタに分類することができた。
実施例3および実施例4において使用した207遺伝子に対するプローブの配列情報を下記表に示す。
【0045】
【配列表】