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特許7411983抗炎症剤、プレフィルドシリンジ、及び、キット
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  • 特許-抗炎症剤、プレフィルドシリンジ、及び、キット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】抗炎症剤、プレフィルドシリンジ、及び、キット
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/132 20060101AFI20240104BHJP
   A61K 31/785 20060101ALI20240104BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240104BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240104BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20240104BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240104BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
A61K31/132
A61K31/785
A61K47/36
A61K47/38
A61K9/06
A61P29/00
A61P43/00 111
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019154679
(22)【出願日】2019-08-27
(65)【公開番号】P2021031454
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】西口 昭広
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-510618(JP,A)
【文献】特表2008-539269(JP,A)
【文献】特開2016-014060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
47/00-47/69
9/00-9/72
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗炎症剤であって、
分子量が300~2000であり、3級アミノ基を有するポリエチレンイミンを有効成分として含有する、抗炎症剤。
【請求項2】
前記ポリエチレンイミンの分子量が300~1200である請求項1に記載の抗炎症剤。
【請求項3】
前記ポリエチレンイミンの分子量が300~1000である請求項1に記載の抗炎症剤。
【請求項4】
前記ポリエチレンイミンの分子量が300~600である請求項1に記載の抗炎症剤。
【請求項5】
前記ポリエチレンイミンが分岐鎖状である、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗炎症剤。
【請求項6】
更にゲル化剤を含有する請求項1~5のいずれか1項に記載の抗炎症剤。
【請求項7】
前記ゲル化剤が、ヒアルロン酸又はその誘導体である、請求項6に記載の抗炎症剤。
【請求項8】
更に架橋剤を含有する請求項7に記載の抗炎症剤。
【請求項9】
前記架橋剤が、スルホン化セルロースである、請求項8に記載の抗炎症剤。
【請求項10】
更に水を含有する請求項1~9のいずれか1項に記載の抗炎症剤。
【請求項11】
マクロファージに作用して炎症性サイトカインの産生を抑制する、請求項1~10のいずれか1項に記載の抗炎症剤。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1項に記載の抗炎症剤と、前記抗炎症剤が収容されたシリンジと、を有するプレフィルドシリンジ。
【請求項13】
キットであって、
分子量が300~2000であり、3級アミノ基を有するポリエチレンイミンと、
ゲル化剤とを備え、
使用時に混合して前記ポリエチレンイミンを含有するゲルを調製するためのキット。
【請求項14】
さらに、水を備える、請求項13に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗炎症剤、プレフィルドシリンジ、及び、キットに関する。
【背景技術】
【0002】
超高齢社会に突入した我が国において、急性、及び、慢性炎症疾患に対する治療法の開発がより一層望まれる。炎症反応は、感染等の外的因子に対する生体防御システムである一方で、関節炎、動脈硬化、褥瘡、及び、がん等の疾患との関連性が知られている。
【0003】
炎症を抑制する薬剤として、ステロイド、及び、非ステロイド系の薬剤、並びに、抗体医薬等が使用されるが、副腎不全、感染症、骨粗しょう症、及び、自己免疫疾患等の副作用が問題であり、また、薬剤の安定性、並びに、開発コスト、及び、製造コストに課題があった。
【0004】
そのため、より安全性が高く、かつ、抗炎症性を有する薬剤の研究が進められている。例えば、ステロイドを内包したハイドロゲル(非特許文献1)、抗炎症性を示す多糖類(非特許文献2)、及び、抗炎症効果を示す高分子量ヒアルロン酸(非特許文献3)等が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Uri Soiberman, Siva P. Kambhampati, Tony Wu, Manoj K. Mishra, Yumin Oh, Rishi Sharma, Jiangxia Wang, Abdul Elah Al Towerki, Samuel Yiu, Walter J. Stark, Rangaramanujam M. Kannan, Subconjunctival injectable dendrimer-dexamethasone gel for the treatment of corneal inflammation. Biomaterials, 125, 38-53 (2017).
【文献】Hong Chen, Jian Sun, Jun Liu, Yarun Gou, Xin Zhang, Xiaonan Wu, Rui Sun, Sixue Tang, Juan Kan, Chunlu Qian, Nianfeng Zhang, Changhai Jin, Structural characterization and anti-inflammatory activity of alkali-soluble polysaccharides from purple sweet potato. International Journal of Biological Macromolecules, 131, 484-494 (2019)
【文献】Jamie E. Rayahin, Jason S. Buhrman, Yu Zhang, Timothy J. Koh, Richard A. Gemeinhart, High and low molecular weight hyaluronic acid differentially influence macrophage activation. ACS Biomaterials Science and Engineering, 1, 481‐493 (2015).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載されたステロイドを内包したハイドロゲルは、ステロイドの徐放速度を制御することが難しく、ステロイドに由来する副作用が問題である。
非特許文献2に記載されたような天然物より単離した多糖類は抗炎症性を示すものもあるが、その効果は弱く、また、大量生産することは困難である。
非特許文献3に記載された高分子量体のヒアルロン酸は低分子量体と比較して抗炎症性を示すが、その効果は微弱で、不十分である。
【0007】
そこで、本発明は、ステロイド化合物を含有しなくとも十分な抗炎症作用を奏する、言い換えれば、優れた安全性、及び、優れた抗炎症性を有する抗炎症剤を提供することを課題とする。また、本発明は、プレフィルドシリンジ、及び、キットを提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0009】
[1] エチレンジアミン、及び、分子量が100~2000であるポリエチレンイミンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を有効成分として含有する、抗炎症剤。
[2] 上記ポリエチレンイミンの分子量が100~1200である[1]に記載の抗炎症剤。
[3] 上記ポリエチレンイミンの分子量が200~1000である[1]に記載の抗炎症剤。
[4] 分子量が200~1000であるポリエチレンイミンを含有する[1]に記載の抗炎症剤。
[5] 上記ポリエチレンイミンが分岐鎖状である、[1]~[4]のいずれかに記載の抗炎症剤。
[6] 更にゲル化剤を含有する[1]~[5]のいずれかに記載の抗炎症剤。
[7] 上記ゲル化剤が、ヒアルロン酸又はその誘導体である、[6]に記載の抗炎症剤。
[8] 更に架橋剤を含有する[7]に記載の抗炎症剤。
[9] 上記架橋剤が、スルホン化セルロースである、[8]に記載の抗炎症剤。
[10] 更に水を含有する[1]~[9]のいずれかに記載の抗炎症剤。
[11] マクロファージに作用して炎症性サイトカインの産生を抑制する、[1]~[10]のいずれかに記載の抗炎症剤。
[12] [1]~[10]のいずれかに記載の抗炎症剤と、上記抗炎症剤が収容されたシリンジと、を有するプレフィルドシリンジ。
[13] エチレンジアミン、及び、分子量が100~2000であるポリエチレンイミンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物と、ゲル化剤とを備え、使用時に混合して上記化合物を含有するゲルを調製するためのキット。
[14] 更に水を備える[13]に記載のキット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた安全性、及び、優れた抗炎症性を有する抗炎症剤を提供できる。また、本発明によれば、プレフィルドシリンジ、及び、キットも提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】種々の分子量のポリエチレンイミンの抗炎症効果の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
[抗炎症剤]
本発明の実施形態に係る抗炎症剤は、エチレンジアミン、及び、分子量が100~2000であるポリエチレンイミン(以下、「特定ポリエチレンイミン」ともいう。)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を有効成分として含有する、抗炎症剤である。
【0014】
抗炎症剤における上記化合物の含有量としては、用法、用量に応じて適宜定めればよく、効果の得られる範囲であれば特に制限されないが、一般に抗炎症剤の全質量に対して、0.001~99.999質量%が好ましい。なお、抗炎症剤は、上記化合物の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。抗炎症剤が、2種以上の上記化合物を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0015】
本明細書においてポリエチレンイミンとは、アミンと上記アミンに結合した-CHCH-からなる繰り返し単位を有する化合物を意味し、上記繰り返し単位は、下記式1で表される。
【化1】
【0016】
式1中、Xは水素原子、又は、A1で表される基を表す。式A1中、X及びXはそれぞれ独立に水素原子、又は、A1で表される基を表し、*は結合位置を表す。
ポリエチレンイミンは、直鎖状、すなわち、-CHCH-NH-で表される繰り返し単位のみから構成されていてもよいし、分岐鎖状であってもよいが、より優れた本発明の効果を有する抗炎症剤が得られる点で、分岐鎖状であることが好ましい。
【0017】
ポリエチレンイミンとしては特に制限されないが、例えば、以下の式で表される化合物が挙げられる。
【化2】
【0018】
上記ポリエチレンイミンは公知の合成方法により合成可能である。具体的には、例えば、エチレンジアミン、及び/又は、ジエチレントリアミン等に、塩酸、硫酸、又は、パラトルエンスルホン酸等の酸触媒下でエチレンイミンを反応させればよい。
また、ポリエチレンイミンとしては市販品を使用することもできる。市販品としては、エポミン(登録商標)SPシリーズ(日本触媒製)、Lupasolシリーズ(BASF社製)、及び、LUGALVAN-G15000(BASF社製)等が挙げられる。
【0019】
ポリエチレンイミンは、分子中に、少なくとも1級アミノ基、及び、2級アミノ基を有する。ポリエチレンイミンが更に3級アミノ基を有する場合、分岐鎖状となる。なお、本明細書において分岐鎖状のポリエチレンイミンには、1級アミノ基と3級アミノ基とからなるデンドリマー形態のポリエチレンイミンも含まれる。
【0020】
ポリエチレンイミン中における1級アミノ基の含有量としては特に制限されないが、1級アミノ基、2級アミノ基、及び、3級アミノ基の全体に対して1~99モル%であるのが好ましい。
なお、ポリエチレンイミン中における、1級アミノ基、2級アミノ基、及び、3級アミノ基の比率は、例えば、13C-NMR(Nuclear Magnetic Resonance)法、又は、赤外分光法で測定して求められる。
また、このような分岐鎖状のポリエチレンイミンは、公知の方法によりエチレンイミンを開環重合して得られる。
【0021】
特定ポリエチレンイミンは、分子量が100~2000であり、100~1200が好ましく、200~1000が好ましい。なお、本明細書において、ポリエチレンイミンの分子量は、平均分子量を意味し、沸点上昇法、又は、粘度法により測定される分子量を意味する。ポリエチレンイミンの分子量が2000以上だと、所望の抗炎症性が得られず、1200以下だと、より優れた抗炎症効果が得られ、1000以下だと更に優れた抗炎症効果が得られる。また、ポリエチレンイミンの分子量が200以上だと、より優れた抗炎症効果が得られる。
【0022】
特定ポリエチレンイミンの分子量分散度としては特に制限されないが、一般に、1.1~1.5が好ましい。
【0023】
本発明の実施形態に係る抗炎症剤は、エチレンジアミン、及び、特定ポリエチレンイミンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含有していればよく、より優れた効果を有する抗炎症剤が得られる点で、分子量が200~1000であるポリエチレンイミンを含有することがより好ましく、分子量が200~1000である分岐鎖状のポリエチレンイミンを含有することが更に好ましい。
【0024】
本発明の実施形態に係る抗炎症剤は、後述する実施例で示したとおり、マクロファージに作用して炎症性サイトカインの産生を抑制する作用を有する。
【0025】
本発明の実施形態に係る抗炎症剤は、皮膚外用剤として使用されることができ、上記用途において許容可能な媒質又は基材を含有して剤形化されてもよい。これは、局所適用に適した全ての剤形として、例えば、溶液、ゲル、固体、練りこねた無水生成物、水相に油相を分散させて得られたエマルジョン、懸濁液、マイクロエマルジョン、マイクロカプセル、及び、微細顆粒球等の形態で、クリーム、スキン、ローション、パウダー、軟膏、スプレー、及び、コンシーラースティック等として提供されてもよい。
【0026】
本発明の実施形態に係る抗炎症剤は、溶媒、溶解剤、濃縮剤、ゲル化剤、軟化剤、抗酸化剤、懸濁化剤、安定化剤、発泡剤、芳香剤、界面活性剤、乳化剤、充填剤、金属イオン封鎖剤、キレート化剤、保存剤、ビタミン、遮断剤、湿潤化剤、必須オイル、染料、顔料、及び、親水性又は親油性活性剤を含有してもよい。
【0027】
また、本発明の実施形態に係る抗炎症剤は、薬学組成物として経口又は非経口投与剤に剤形化してもよい。非経口投与剤としては、直腸、局所、経皮、静脈内、筋肉内、腹腔内、及び、皮下等に投与されてよい。
【0028】
上記非経口投与のための剤形としては、注射製剤、フィラー、点滴剤、軟膏、ローション、スプレー、懸濁化剤、油剤、及び、坐剤等が挙げられる。本発明の実施形態に係る抗炎症剤は、ゲル化剤、架橋剤、界面活性剤、賦形剤、着色料、香辛料、保存料、安定化剤、緩衝剤、懸濁化剤、及び、その他の補助剤を含有してもよい。
【0029】
本発明の実施形態に係る抗炎症剤は、ゲル化剤を含有していてもよい。ゲル化剤を含有すると、注射製剤とした際の取り扱い性が向上する。ゲル化剤としては特に制限されないが、例えば、グアーガム、ローカストビーンガム、クィーンスシード、カラギーナン、ガラクタン、アラビアガム、タラガム、タマリンド、ファーセレラン、カラヤガム、トロロアオイ、キャラガム、トラガントガム、ペクチン、ペクチン酸及びナトリウム塩等の塩、アルギン酸及びナトリウム塩等の塩、マンナン;コメ、トウモロコシ、バレイショ、コムギ等のデンプン;キサンタンガム、デキストラン、サクシノグルカン、カードラン、ヒアルロン酸及びその誘導体並びにその塩、ザンサンガム、プルラン、ジェランガム、キチン、キトサン、寒天、カッソウエキス、コンドロイチン硫酸塩、カゼイン、コラーゲン、ゼラチン、アルブミン;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びそのナトリウム等の塩、メチルヒドロキシプロピルセルロース、セルロース硫酸ナトリウム、ジアルキルジメチルアンモニウム硫酸セルロース、結晶セルロース、セルロース末等のセルロース及びその誘導体;可溶性デンプン、カルボキシメチルデンプン、メチルヒドロキシプロピルデンプン、メチルデンプン等のデンプン系高分子、塩化ヒドロキシプロピルトリモニウムデンプン、オクテニルコハク酸トウモロコシデンプンアルミニウム等のデンプン誘導体;アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等アルギン酸誘導体;ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルピロリドン・ビニルアルコール共重合体、ポリビニルメチルエーテル;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体;(メタクリロイルオキシエチルカルボキシベタイン/メタクリル酸アルキル)コポリマー、(アクリレーツ/アクリル酸ステアリル/メタクリル酸エチルアミンオキシド)コポリマー等の両性メタクリル酸エステル共重合体;(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマー、(アクリル酸アルキル/ジアセトンアクリルアミド)コポリマー、(アクリル酸アルキル/ジアセトンアクリルアミド)コポリマーAMP;ポリ酢酸ビニル部分けん化物、マレイン酸共重合体;ビニルピロリドン・メタクリル酸ジアルキルアミノアルキル共重合体;アクリル樹脂アルカノールアミン;ポリエステル、水分散性ポリエステル;ポリアクリルアミド;ポリアクリル酸エチル等のポリアクリル酸エステル共重合体、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸及びそのナトリウム塩等の塩、アクリル酸・メタアクリル酸エステル共重合体;アクリル酸・メタアクリル酸アルキル共重合体;ポリクオタニウム-10等のカチオン化セルロース、ポリクオタニウム-7等のジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミド共重合体、ポリクオタニウム-22等のアクリル酸・ジアリルジメチルアンモニウムクロリド共重合体、ポリクオタニウム-39等のアクリル酸・ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミド共重合体、アクリル酸・カチオン化メタアクリル酸エステル共重合体、アクリル酸・カチオン化メタアクリル酸アミド共重合体、ポリクオタニウム-47等のアクリル酸・アクリル酸メチル・塩化メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム共重合体、塩化メタクリル酸コリンエステル重合体;カチオン化オリゴ糖、カチオン化デキストラン、グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド等のカチオン化多糖類;ポリエチレンイミン;カチオンポリマー;ポリクオタニウム-51等の2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの重合体及びメタクリル酸ブチル共重合体等との共重合体;アクリル樹脂エマルション、ポリアクリル酸エチルエマルション、ポリアクリルアルキルエステルエマルション、ポリ酢酸ビニル樹脂エマルション、天然ゴムラテックス、合成ラテックス等の高分子エマルション;ニトロセルロース;ポリウレタン類及び各種共重合体;各種シリコーン類;アクリル-シリコーングラフト共重合体等のシリコーン系各種共重合体;各種フッ素系高分子;12-ヒドロキシステアリン酸及びその塩;パルミチン酸デキストリン、ミリスチン酸デキストリン等のデキストリン脂肪酸エステル;無水ケイ酸、煙霧状シリカ(超微粒子無水ケイ酸)、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ケイ酸ナトリウムマグネシウム、金属石鹸、ジアルキルリン酸金属塩、ベントナイト、ヘクトライト、有機変性粘土鉱物、ショ糖脂肪酸エステル、フラクトオリゴ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0030】
なかでも、後述する実施例に示すとおり、得られる抗炎症剤の細胞に対する毒性がより低くなる、又は、より優れた抗炎症作用を有する観点で、ゲル化剤としては、ヒアルロン酸又はその誘導体が好ましい。
【0031】
また、本発明の実施形態に抗炎症剤がゲル化剤を含有する場合、更に、架橋剤を含有していてもよい。架橋剤は得られるゲルの力学強度を向上させることができる。
【0032】
架橋剤としては特に制限されないが、例えば、以下の式で表されるスルホン化セルロースを用いてもよい。
【化3】
【0033】
上記式中、k、m、及び、nは、各繰り返し単位のモル%を表し、特に制限されないが、kは25~95モル%が好ましく、40~90モル%がより好ましい。mは4~70モル%が好ましく、7~60モル%がより好ましい。nは1~70モル%が好ましく、10~30モル%がより好ましい。
【0034】
上記スルホン化セルロースは、下記式に示すグルコース単位の3位と4位の間が開環されて、スルホン化された構造を含むセルロースである。
【0035】
【化4】
【0036】
上式は、水中等においてスルホン基(-SOH)が解離された状態を示し、対カチオンはNaに限定されずプロトン、K等であってよい。
【0037】
スルホン化セルロースは、例えばHenrikki Liimatainenら,Cellulose(2013)20:741-749に記載された下記式に示す経路で合成することができる。
【化5】

先ず、原料セルロースを水に分散させ、分散液を得る。上記分散液に、セルロース中のグルコース単位の量(k)を100モル%としたときに50~200モル%の過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO)を添加し、遮光しながら、40~60℃で2~6時間撹拌することによって、アルデヒド化セルロースを生成する。
【0038】
次に減圧濾過によって未反応物を含む水溶液を除去し、超純水で洗浄する操作を数回繰り返した後に凍結乾燥することで、アルデヒド化セルロースの乾燥粉末を得る。上記式において、kの初期値を100モル%としたときに、mは1~80モル%、好ましくは10~50モル%である。
【0039】
アルデヒド基の量は、水酸化ナトリウム水溶液を用いた導電率測定による中和滴定により求めることができ、0.5~8ミリモル/g、好ましくは1~7ミリモル/g、より好ましくは1~5ミリモル/gである。
【0040】
原料セルロースとしては、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、綿系パルプ等の植物、動物等から得られたセルロース、これらを用いた紙、古紙等を用いることができる。
【0041】
次いで、アルデヒド化セルロースを超純水に分散させ、ピロ亜硫酸ナトリウム(Na)を、アルデヒド基量を100モル%として20~200モル%、好ましくは50~150モル%で添加して、室温で12~24時間、攪拌しながら反応させる。生成物を遠心分離により回収し、超純水等で洗浄して未反応物を除去して精製した後、超音波ホモジナイザーによって10~30分間程度ホモジナイズすることによって、スルホン化セルロースのナノファイバー(「sCNF」と略す場合がある)を得ることができる。収率は、約80~90%である。
【0042】
sCNFは生分解性である。本発明において「生分解性」は37℃のp7.4のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で、1日で1質量%以上分解したことにより確認した。この生分解性は、原料セルロースのグルコース単位の量(k)の初期値を100モル%としたとき、m+n、即ち開環された単位が、少なくとも1モル%、好ましくは10~50モル%であることによるものと考えられる。また、sCNFは開環単位を有することによって、X線回折測定による結晶化度が20~70%であり、90%程度の結晶化度を有する原料セルロースに比べて低い。
【0043】
また、本発明の実施形態に係る抗炎症剤は、溶媒を含有してもよい。溶媒としては特に制限されないが、水、水と任意の割合で混和する有機溶媒、及び、これらの混合溶媒が好ましく、水がより好ましい。上記有機溶媒としては例えば、アルコール類(多価アルコールを含む)等が挙げられる。
【0044】
また、本発明の実施形態に係る抗炎症剤がゲル化剤を含有する場合、更に、その他の成分を含有していてもよく、デリバリーしたい各種薬剤、及び、タンパク質等を配合し、これらの局所デリバリー担体、又は、徐放性デリバリー担体として使用してもよい。
薬剤としては、例えば抗炎症薬、抗血栓薬、抗生物質、線維芽細胞増殖因子、血管内皮細胞増殖因子、及び、肝細胞増殖因子等の成長因子が挙げられる。
また、ワクチンとして、ウイルスや癌の抗原タンパク質を担持することで、ワクチンキャリアとして使用してもよい。
【0045】
本発明の実施形態に係る抗炎症剤の製造方法としては特に制限されず、すでに説明した各成分を混合すればよい。混合方法としては特に制限されないが、溶媒中に他の固体成分を分散、溶解させてもよく、固体同士を混合してもよい。固体同士を混合する場合、混合前に各成分の固体を粉砕してもよい。粉砕する方法としては特に制限されないが、例えば、湿式粉砕法が挙げられる。湿式粉砕法としては、ボールミリング、及び、ホモジナイザー粉砕等が挙げられる。
【0046】
また、本発明の実施形態に係る抗炎症剤をシリンジに充填して静置することにより、抗炎症剤がプレフィルドされたプレフィルドシリンジを製造することができる。
【0047】
このようにして得られるプレフィルドシリンジは、中に含まれる注射製剤(抗炎症剤)を、シリンジのプランジャーロッドを押し込み注射針から排出させるだけで、流動性を示すため、そのままスムーズに注射針から排出させることが可能であるうえ、抗炎症剤の保存安定性にも優れる。なお、本発明は、当該プレフィルドシリンジを備えたキットも包含する。
【0048】
本発明の実施形態に係る抗炎症剤の有効成分(すでに説明した化合物)の投与容量は、投与される対象の年齢、性別、体重、病履状態及びその重症度、投与経路又は処方者の判断によって異なる。このような因子に基づいて適当な容量の決定は、当業者の水準内にあり、その1日の投与容量は、例えば、0.1mg/kg/日~100mg/kg/日、より具体的には5mg/kg/日~50mg/kg/日になり得るが、これらに限定されるものではない。
【実施例
【0049】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0050】
(TNF-αの産生抑制)
3×10個のマウス骨髄由来マクロファージ(BMDM)を96ウェルプレートに播種し、24時間予備培養した。培地で100μg/mLに調製したポリエチレンイミンに、LPS(リポ多糖)を添加し100ng/mLとした。この溶液を各ウェルに100μLずつ添加し、24時間培養した。なお、試料としては、エチレンジアミン(図中、「PEI60」と記載した。)、分子量が150の「PEI150」(トリス(2-アミノエチル)アミンの純度90%以上)、分子量が300の「PEI300」、分子量が600の「PEI600」、分子量が1200の「PEI1200」、及び、分子量が10000の「PEI10000」を用いた。
また、コントロールとして、培地のみを加えたサンプル(コントロール)とLPSとを100ng/mLで添加したサンプルを用いた。
【0051】
培養後、上清を回収し、酵素結合免疫吸着法(ELISA)によって、上清中に含まれている炎症性サイトカインの一種である腫瘍壊死因子(TNF-α)の濃度を定量した。その結果、LPSのみを添加した場合はTNF-αが346pg/mL産生されるのに対して、PEI300を同時に添加することによって、2倍以上TNF-αの産生を抑制することができた。PEI1200も同様に高い抗炎症効果を示した。一方で、PEI10000はTNF-αが検出限界以下であった。
【0052】
この原因として、PEI10000の有する細胞毒性が考えられたため、細胞生存率をWST-8アッセイによって評価した。その結果、PEI10000は高い細胞毒性を有することがわかった。結果を図1にまとめて示した。
【0053】
図1の結果から、分子量が100~2000であるPEI600は、PEI10000と比較してより優れた抗炎症作用を有し、分子量が200~1200であるPEI600は、PEI150と比較して更に優れた抗炎症効果を有し、分子量が200~1000であるPEI600は、PEI1200と比較して特に優れた抗炎症効果を有することがわかった。
【0054】
なお、図1中、A表は、TNF-αの産生量(単位:pg/mL)を表しており、B表はWST-8アッセイによる細胞生存率を表しており、C表はA表及びB表の結果から計算された1×10個の細胞当たりのTNF-αの産生量(単位:pg/1×10cells)を表している。なお、図1中「-」は検出限界以下だった(抗炎症効果が得られなかった)ことを示している。
【0055】
(IL-6の産生抑制)
3×10個のマウス骨髄由来マクロファージ(BMDM)を96ウェルプレートに播種し、24時間予備培養した。培地で100μg/mLに調製したポリエチレンイミン(分子量300の「PEI300」)に、LPSを添加し100ng/mLとした。この溶液を各ウェルに100μLずつ添加し、24時間培養した。コントロールとして、培地のみを加えたサンプル(コントロール)とLPSとを100ng/mLで添加したサンプルを用いた。
培養後、上清を回収し、ELISAによって、上清中に含まれている炎症性サイトカインであるインターロイキン-6(IL-6)の濃度を定量した。その結果、コントロールと比較して、ポリエチレンイミンを用いた場合IL-6の産生量が半分以下に低下し、優れた抗炎症効果が確認された。
図1