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特許7411990ソフトカプセル皮膜、ソフトカプセル、及び、ソフトカプセルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】ソフトカプセル皮膜、ソフトカプセル、及び、ソフトカプセルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/36 20060101AFI20240104BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20240104BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20240104BHJP
【FI】
A61K47/36
A61K9/48
A23L5/00 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019232698
(22)【出願日】2019-12-24
(65)【公開番号】P2021100917
(43)【公開日】2021-07-08
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】503315676
【氏名又は名称】中日本カプセル 株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【弁理士】
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】山中 利恭
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 康博
(72)【発明者】
【氏名】須原 渉
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-504326(JP,A)
【文献】特開2009-40716(JP,A)
【文献】国際公開第2019/208668(WO,A1)
【文献】特開2001-178378(JP,A)
【文献】特開2010-47548(JP,A)
【文献】特開2011-26262(JP,A)
【文献】特開2015-189684(JP,A)
【文献】特開2005-170929(JP,A)
【文献】特開2009-28544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A23L
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸処理したバレイショ澱粉と、
酸処理したバレイショ澱粉100重量部に対して27重量部~37重量部のイオタカラギーナンと、
酸処理したバレイショ澱粉100重量部に対して2.0重量部~3.5重量部の部分アシル型ジェランガムと、を含有し、
ゼラチンを含有しないものであり、
腸溶性を示す
ことを特徴とするソフトカプセル皮膜。
【請求項2】
酸処理したバレイショ澱粉と、
酸処理したバレイショ澱粉100重量部に対して27重量部~38重量部のイオタカラギーナンと、
酸処理したバレイショ澱粉100重量部に対して2.0重量部~2.5重量部の部分アシル型ジェランガムと、を含有し、
ゼラチンを含有しないものであり、
腸溶性を示す
ことを特徴とするソフトカプセル皮膜。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のソフトカプセル皮膜に、内容物が充填されたソフトカプセル。
【請求項4】
酸処理したバレイショ澱粉、イオタカラギーナン、及び、部分アシル型ジェランガムを含有し、ゼラチンを含有しない皮膜原液を使用し、
ロータリーダイ式成形により、腸溶性を備えるソフトカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセルを製造する
ことを特徴とするソフトカプセルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼラチンを含有しない腸溶性のソフトカプセル皮膜、該ソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセル、及び、該ソフトカプセルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゼラチンは、優れたフィルム形成能と、常温に近い温度変化により可逆的にゾル・ゲル変化する性質(ゲル化能)とを兼ね備えた特異な物質である。そのため、ロータリーダイ式成形装置で製造される過程で、フィルムをヒートシールさせることが必要なソフトカプセルの皮膜基剤として、ゼラチンが多用されている。
【0003】
一方、ソフトカプセルには、胃酸によって効能を失う成分や、胃の組織に刺激を与える成分等を内容物としたい場合があり、そのような場合、ソフトカプセル皮膜には、胃では崩壊又は溶解せずに腸に到達してから崩壊又は溶解する性質(腸溶性)を有することが要請される。しかしながら、ゼラチンは強酸性の胃液に容易に溶解してしまい、腸溶性を有していない。そこで、本出願人は、エステル化度が所定範囲の低メトキシルペクチンを、ゼラチンに対して所定量含有させることで、ゼラチン皮膜に腸溶性を付与する技術を提案している(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、ゼラチンは牛や豚などの動物の皮、骨、腱などを処理して得られる誘導タンパク質の一種であるため、狂牛病(牛海綿状脳症)対策や宗教上の理由などにより敬遠される傾向がある。そのため、従来の腸溶性ソフトカプセル皮膜とは異なり、ゼラチンを使用していない腸溶性のソフトカプセル皮膜、及び、このようなソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセルが、要請されていた。
【0005】
そこで、本出願人は更に、塩の存在下で湿式加熱処理されたもち種トウモロコシ澱粉と、グルコン酸ナトリウム及びグルコン酸カリウムの何れかであるグルコン酸塩と、低メトキシルペクチンと、イオタカラギーナンとを含有しており、ゼラチンを含有しない腸溶性のソフトカプセル皮膜、及び、このソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセルを提案している(特許文献2参照)。
【0006】
本出願人は特許文献2の発明の提案以降も、ゼラチンを含有しないソフトカプセル皮膜に腸溶性を付与する他の手段について検討を続けてきている。本発明は、その検討の過程でなされたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4252619号公報
【文献】特許第6292938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のように、ゼラチンを含有しない腸溶性のソフトカプセル皮膜、該ソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセル、及び、該ソフトカプセルの製造方法の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明にかかるソフトカプセル皮膜は、
「酸処理したバレイショ澱粉と、
酸処理したバレイショ澱粉100重量部に対して27重量部~37重量部のイオタカラギーナンと、
酸処理したバレイショ澱粉100重量部に対して2.0重量部~3.5重量部の部分アシル型ジェランガムと、を含有し、
ゼラチンを含有しないものであり、
腸溶性を示す」ものである。
【0010】
或いは、本発明にかかるソフトカプセル皮膜は、
「酸処理したバレイショ澱粉と、
酸処理したバレイショ澱粉100重量部に対して27重量部~38重量部のイオタカラギーナンと、
酸処理したバレイショ澱粉100重量部に対して2.0重量部~2.5重量部の部分アシル型ジェランガムと、を含有し、
ゼラチンを含有しないものであり、
腸溶性を示す」ものである。
【0011】
「酸処理したバレイショ澱粉」における「酸処理」は、希塩酸や希硫酸等の希薄な酸に、原料となる澱粉粒子を糊化しない温度下で所定時間浸漬した後、中和、水洗、乾燥することにより行われる。澱粉を酸処理することにより、澱粉粒の非晶質部が優先的に分解し、短鎖化すると言われている。
【0012】
ネイティブ型ジェランガムは、エロデア属の水草から分離したSphingomonas elodea60によって産出された微生物多糖類であり、グルコース、グルクロン酸、グルコース、及び、ラムノースの四つの糖からなるユニットが反復して直鎖状に結合した主鎖に、アシル基(アセチル基、グリセリル基)が結合しているものである。ネイティブ型ジェランガムからアシル基をほぼ完全に除いたものが脱アシル型ジェランガムであり、通常は、単にジェランガムと称されている。
【0013】
「部分アシル型ジェランガム」は、ネイティブ型ジェランガムからアシル基が除かれているが、完全には除かれずに残存しているものである。ネイティブ型ジェランガムのゲル化温度が75℃~90℃と高く、脱アシル型ジェランガムのゲル化温度が25℃~50℃と低いのに対して、脱アシル型ジェランガムのゲル化温度は、その中間の60℃~70℃である。従って、ゲル化温度により、これら三種類のジェランガムを区別することができる。
【0014】
上記構成のソフトカプセル皮膜は、ゼラチンを含有しないソフトカプセル皮膜であって、詳細は後述するように、流延性良く均一な厚さに成膜でき、適度な強度及び柔軟性を有すると共に、腸溶性を備えるソフトカプセル皮膜である。
【0015】
本発明にかかるソフトカプセルは、
「上記のソフトカプセル皮膜に、内容物が充填されたソフトカプセル」である。
【0016】
「内容物」としては、医薬成分、健康食品成分、栄養補助成分などの目的物質を、油脂または油状物質に溶解または懸濁させたもの、或いは、上記の目的物質自体が油状やペースト状であるものを使用することができる。特に限定されるものではないが、乳酸菌など胃酸によって活性を失いやすい成分や、鉄分など胃の細胞壁に刺激を与えやすい成分は、本発明のソフトカプセルの内容物とする意義が高い。
【0017】
次に、本発明にかかるソフトカプセルの製造方法は、
「酸処理したバレイショ澱粉、イオタカラギーナン、及び、部分アシル型ジェランガムを含有し、ゼラチンを含有しない皮膜原液を使用し、
ロータリーダイ式成形により、腸溶性を備えるソフトカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセルを製造する」ものである。
【0018】
本製造方法により、ソフトカプセル皮膜にゼラチンを含有しないことにより需要者に受け容れられやすいソフトカプセルであり、且つ、腸溶性に優れたソフトカプセルを、提供することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、ゼラチンを含有しない腸溶性のソフトカプセル皮膜、及び、該ソフトカプセル皮膜を使用したソフトカプセル、及び該ソフトカプセルの製造方法を、提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態であるソフトカプセル皮膜、これを備えるソフトカプセル、及び、ソフトカプセルの製造方法について説明する。本実施形態のソフトカプセル皮膜は、酸処理されたバレイショ澱粉、イオタカラギーナン、及び、部分アシル型ジェランガムを含有し、ゼラチンを含有しないものである。
【0021】
このようなソフトカプセル皮膜を備えるソフトカプセルは、ロータリーダイ式の成形装置を使用して製造することができ、ソフトカプセル皮膜の皮膜原液を調製する皮膜原液調製工程と、ソフトカプセル皮膜の成形と同時にソフトカプセル皮膜内に内容物を充填し封
入する成形・充填工程と、成形・充填工程後のソフトカプセルを乾燥させる乾燥工程とを経て、得ることができる。
【0022】
皮膜原液調製工程では、酸処理されたバレイショ澱粉、イオタカラギーナン、部分アシル型ジェランガム、及び、可塑剤を加熱しながら水に溶解し、よく撹拌・混合して皮膜原液を調製する。
【0023】
ロータリーダイ式成形装置は、一般的に、皮膜原液をフィルム状に成形するキャスティングドラムと、外表面に成形鋳型が形成された一対のダイロールと、ダイロール間に配された内容物充填用のくさび状セグメントと、セグメント内に内容物を圧入すると共にセグメントの先端から内容物を押し出すポンプとを主に具備している。
【0024】
そして、成形・充填工程では、まず、皮膜原液が、キャスティングドラム表面に流延され、ゲル化することによりシート化される。次に、形成されたシートの二枚が、セグメントに沿って一対のダイロール間に送入される。そして、一対のダイロールの相反する方向への回転に伴い、二枚のシートがヒートシールされて上方に開放したカプセルが形成されると、この中にセグメントから押し出された内容物が充填される。これと同時に、二枚のシートが上部でヒートシールされ、閉じた内部空間に内容物が充填されたソフトカプセルが形成される。つまり、皮膜原液がフィルム化されヒートシールされることにより、内部に閉じた空間を有するソフトカプセル皮膜が製造されるのと同時に、ソフトカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセルが製造される。
【0025】
乾燥工程では、ソフトカプセル皮膜が所定の水分含有率となるまで、調湿乾燥機内で乾燥させる。
【0026】
次に、本実施形態のソフトカプセル被膜の組成を検討した結果を示す。まず、イオタカラギーナンと部分アシル型ジェランガムは、共にゲル化剤としての作用を有するため、ソフトカプセル被膜におけるゲル化剤の総含有量として適した範囲を調べる目的で、ゲル化剤としてイオタカラギーナンのみを含有し、酸処理されたバレイショ澱粉100重量部に対するイオタカラギーナンの割合を25重量部から41重量部の間で変化させた試料R1~R10の皮膜原液を調製し、流延して皮膜化した。酸処理されたバレイショ澱粉としては、エリアンGEL100(イングレディオン・ジャパン製)を使用した。なお、何れの試料も、可塑剤としてのグリセリンを、酸処理されたバレイショ澱粉100重量部に対して60重量部含有させた。
【0027】
各試料について、流延性、皮膜形成性、及び、腸溶性を、以下の方法で評価した。評価結果を、組成と共に表1に示す。
【0028】
<流延性>
皮膜原液の粘度が流延に適しており、平滑な面上に均一に流延できた場合を、流延性が良好であるとして「〇」で評価し、粘度が高く均一に流延できなかった場合を「×」で評価した。
【0029】
<皮膜形成性>
平滑な面上に皮膜原液をキャスティングして、10cm×10cm×厚さ0.8mmのシートを成形した。乾燥前のシートを引っ張り、シートが切れることなく伸びた場合を、適度な強度及び柔軟性を有し皮膜形成性に優れるとして「○」と評価し、そうでない場合を「×」と評価した。
【0030】
<腸溶性の評価>
日本薬局方に規定された崩壊試験法に則り、第一液及び第二液を使用して行った。ここで、第一液は耐胃液性を評価するためのpH1.2の試験液であり、試験液中でソフトカプセル皮膜を所定時間上下運動させ、その後の観察においてソフトカプセル皮膜が残存しているか否かを確認した。また、第二液は耐腸液性を評価するためのpH6.8の試験液であり、試験液中でソフトカプセル皮膜を所定時間上下運動させ、その後の観察において、ソフトカプセル皮膜が残存しているか否かを確認した。評価は、ソフトカプセル皮膜が、第一液による崩壊試験において残存し、第二液による崩壊試験において崩壊する場合に腸溶性を有するものとして「○」で表示し、それ以外の場合を「×」と表示した。
【0031】
【表1】
【0032】
表1に示すように、酸処理されたバレイショ澱粉100重量部に対して、イオタカラギーナン27重量部~40重量部の割合で、均一に流延でき、適度な強度及び柔軟性を有するソフトカプセル皮膜を製造することが可能である。しかしながら、この組成では、腸溶性を示さない。
【0033】
表1に示した結果を参照し、イオタカラギーナンの含有量を、酸処理されたバレイショ澱粉100重量部に対する割合として適しているイオタカラギーナン範囲の下限値である27重量部と、上限値に近い37重量部、38重量部、39重量部とした場合それぞれについて、異なる割合で部分アシル型ジェランガムを添加した試料について、皮膜原液を調製した。これらの試料について、上記と同様に、流延性、皮膜形成性、及び、腸溶性を評価した。
【0034】
部分アシル型ジェランガムとしては、Gellaneer HS202(DSM Company製)を使用した。この製造者は、ネイティブ型ジェランガム、脱アシル型ジェランガム、及び、部分アシル型ジェランガムを提供しているが、アシル基の比率(ジェランガム全体の分子量に占めるアシル基の分子量の割合)を、ネイティブ型ジェランガムは14%以上、脱アシル型ジェランガムは0.2%以下とし、部分アシル型ジェランガムについては7%としている。ここで、ジェランガムにおけるアシル基の比率は、ジェランガムを酸溶液中で加水分解した試料の高速液体クロマトグラフィー分析によって求めることができる。この分析方法における測定誤差(偏差)を考慮すると、部分アシル型ジェランガムにおけるアシル基の比率は、7%±2%である。
【0035】
まず、酸処理されたバレイショ澱粉100重量部に対してイオタカラギーナンが27重量部であり、部分アシル型ジェランガムの割合を1.5重量部から4.0重量部の間で変化させた試料E11~E17について、その組成と評価結果を表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
表2から分かるように、酸処理されたバレイショ澱粉100重量部に対してイオタカラギーナンの割合が27重量部の場合、部分アシル型ジェランガムの割合が2.0重量部~3.5重量部の範囲で、均一に流延でき、適度な強度及び柔軟性を有すると共に、腸溶性を備えるソフトカプセル皮膜を製造することが可能であった。部分アシル型ジェランガムの割合が4.0重量部の試料E17では、流延性は良好であったものの形成された皮膜が脆く、皮膜形成性に劣るものであった。これは、部分アシル型ジェランガムのゲル化温度がイオタカラギーナンのゲル化温度より高いため、部分アシル型ジェランガムの含有率が高くなると、流延後の冷却過程で部分アシル型ジェランガムがイオタカラギーナンに先んじてゲル化してしまい、皮膜の物性が不均一になるためと考えられた。
【0038】
一方、部分アシル型ジェランガムの割合が1.5重量部の試料E11では、流延性、皮膜形成性ともに良好にソフトカプセル皮膜が製造できるものの、第一液に対する耐性が不十分であり腸溶性を示さなかった。表1と表2の結果を考え合わせると、ソフトカプセル皮膜が腸溶性を示すのは、部分アシル型ジェランガムの存在によるものであり、腸溶性を発揮するためには、ある程度の量の部分アシル型ジェランガムが必要であると考えられた。そして、その必要量は、ここでは少なくとも酸処理されたバレイショ澱粉100重量部に対して2.0重量部であった。
【0039】
次に、酸処理されたバレイショ澱粉100重量部に対してイオタカラギーナンが37重量部であり、部分アシル型ジェランガムの割合を1.5重量部から4.0重量部の間で変化させた試料E21~E27について、その組成と評価結果を表3に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
表3から分かるように、酸処理されたバレイショ澱粉100重量部に対してイオタカラギーナンの割合が37重量部の場合、部分アシル型ジェランガムの割合が2.0重量部~3.5重量部の範囲で、均一に流延でき、適度な強度及び柔軟性を有すると共に、腸溶性を備えるソフトカプセル皮膜を製造することが可能であった。部分アシル型ジェランガムの割合が4.0重量部の試料E27では、皮膜原液の粘度が高く、均一に流延を行うことができなかった。一方、部分アシル型ジェランガムの割合が1.5重量部の試料E21では、流延性、皮膜形成性ともに良好にソフトカプセル皮膜が製造できるものの、第一液に対する耐性が不十分であり腸溶性を示さなかった。このように、腸溶性を示すソフトカプセル皮膜の製造のために適した部分アシル型ジェランガムの配合量の範囲は、表2に示した結果と同様であった。
【0042】
次に、酸処理されたバレイショ澱粉100重量部に対してイオタカラギーナンが38重量部であり、部分アシル型ジェランガムの割合を1.5重量部から3.0重量部の間で変化させた試料E31~E24、及び、酸処理されたバレイショ澱粉100重量部に対してイオタカラギーナンが39重量部であり、部分アシル型ジェランガムの割合を1.5重量部から2.0重量部の間で変化させた試料E41~E42について、その組成と評価結果を表4に示す。
【0043】
【表4】
【0044】
表4から分かるように、酸処理されたバレイショ澱粉100重量部に対してイオタカラギーナンの割合が38重量部の場合、部分アシル型ジェランガムの割合が2.0重量部~2.5重量部の範囲で、均一に流延でき、適度な強度及び柔軟性を有すると共に、腸溶性を備えるソフトカプセル皮膜を製造することが可能であった。部分アシル型ジェランガムの割合が3.0重量部の試料E34では、皮膜原液の粘度が高く、均一に流延することができなかった。一方、部分アシル型ジェランガムの割合が1.5重量部の試料E31では、流延性、皮膜形成性ともに良好にソフトカプセル皮膜が製造できるものの、第一液に対する耐性が不十分であり腸溶性を示さなかった。
【0045】
また、酸処理されたバレイショ澱粉100重量部に対してイオタカラギーナンの割合が39重量部の場合、部分アシル型ジェランガムの割合が2.0重量部の試料E42では、皮膜原液の粘度が高く流延性に劣り、部分アシル型ジェランガムが1.5重量部の試料E41では、第一液に対する耐性が不十分であり腸溶性を示さなかった。つまり、部分アシル型ジェランガムが1.5重量部では少な過ぎ、2.0重量部では多過ぎるという結果であった。
【0046】
表1~表3に示した結果において、皮膜原液の粘度が高く流延性に劣っていた試料R10,E27,E34,E42は、何れもゲル化剤の総含有量が酸処理されたバレイショ澱粉100重量部に対して41重量部に達している。従って、流延性よくソフトカプセル皮膜を製造するためには、ゲル化剤の総含有量は、酸処理されたバレイショ澱粉100重量部に対して、少なくとも40.5重量部以下に抑える必要があると考えられた。
【0047】
以上の結果を総合すると、イオタカラギーナンの含有量が酸処理されたバレイショ澱粉100重量部に対して27重量部~37重量部の範囲のとき、部分アシル型ジェランガムの含有量が、酸処理されたバレイショ澱粉100重量部に対して2.0重量部~3.5重量部の範囲であれば、均一に流延でき、適度な強度及び柔軟性を有すると共に、腸溶性を備えるソフトカプセル皮膜を製造することが可能である。また、イオタカラギーナンの含有量が酸処理されたバレイショ澱粉100重量部に対して27重量部~38重量部の範囲のときは、部分アシル型ジェランガムの含有量が、酸処理されたバレイショ澱粉100重量部に対して2.0重量部~2.5重量部の範囲であれば、均一に流延でき、適度な強度及び柔軟性を有すると共に、腸溶性を備えるソフトカプセル皮膜を製造することが可能である。
【0048】
上記のように、酸処理されたバレイショ澱粉及びイオタカラギーナンを含有するソフトカプセル皮膜に、部分アシル型ジェランガムを添加することにより、ソフトカプセル皮膜に腸溶性を付与できることが確認された。そこで、ネイティブ型ジェランガム、或いは、脱アシル型ジェランガムにも、同じようにソフトカプセル皮膜に腸溶性を付与する作用があるか否かを検討した。
【0049】
そのために、まず、部分アシル型ジェランガムについては良い結果が得られた範囲を参照して、酸処理されたバレイショ澱粉100重量部に対してイオタカラギーナンの割合を27重量部~37重量部の範囲で変化させ、ネイティブ型ジェランガムの割合を、酸処理されたバレイショ澱粉100重量部に対して2.0重量部として、上記と同様に皮膜原液を調製し、流延性、皮膜形成性、及び、腸溶性を評価した。
【0050】
その結果、何れの試料についても、皮膜原液の濃度が高く、流延性よくソフトカプセル皮膜を製造することができなかった。ネイティブ型ジェランガムの割合を酸処理されたバレイショ澱粉100重量部に対して1.5重量部以下とすれば、流延性、及び、皮膜形成性については良好なソフトカプセル皮膜を製造することはできたが、腸溶性を示さなかった。
【0051】
脱アシル型ジェランガムについても、部分アシル型ジェランガムについては良い結果が得られた範囲を参照して、酸処理されたバレイショ澱粉100重量部に対してイオタカラギーナンの割合を27重量部~40重量部の範囲で変化させ、脱アシル型ジェランガムの割合を、酸処理されたバレイショ澱粉100重量部に対して2.0重量部として、上記と同様に皮膜原液を調製し、流延性、皮膜形成性、及び、腸溶性を評価した。
【0052】
その結果、何れの試料についても、流延性は良好であったものの形成された皮膜が脆く、皮膜形成性に劣るものであった。そこで、イオタカラギーナンの割合を酸処理されたバレイショ澱粉100重量部に対して40重量部とし、脱アシル型ジェランガムの割合を2.0重量部より小さくした試料について検討したところ、脱アシル型ジェランガムの割合を酸処理されたバレイショ澱粉100重量部に対して0.5重量部まで低減させれば、皮膜形成性については良好なソフトカプセル皮膜を製造することは可能であったが、腸溶性は示さなかった。
【0053】
以上の検討から、酸処理されたバレイショ澱粉及びイオタカラギーナンを含有するソフトカプセル皮膜に、部分アシル型ジェランガムによって腸溶性を付与することができるが、ネイティブ型ジェランガムや脱アシル型ジェランガムでは、腸溶性を付与することができないことが分かった。
【0054】
また、本実施形態において皮膜形成剤として作用している酸処理されたバレイショ澱粉を、他の澱粉で代替できるか否かを検討した。澱粉として、塩の存在下で湿式加熱処理されたもち種トウモロコシ澱粉(三和澱粉工業株式会社製、ソフトスターチSF-930)を使用した。上記の本実施形態で良い結果が得られた範囲を参照して、塩の存在下で湿式加熱処理されたもち種トウモロコシ澱粉(以下、「湿式加熱処理澱粉」と称する)100重量部に対してイオタカラギーナンの割合を27重量部~37重量部の範囲で変化させ、部分アシル型ジェランガムの割合を2.0重量部として、上記と同様に皮膜原液を調製し、流延性、皮膜形成性、及び、腸溶性を評価した。
【0055】
その結果、イオタカラギーナンの割合が湿式加熱処理澱粉100重量部に対して33重量部以上の場合は、皮膜原液の粘度が高く、流延性よくソフトカプセル皮膜を製造することができなかった。イオタカラギーナンの割合が湿式加熱処理澱粉100重量部に対して27重量部~31重量部の範囲では、流延性は良好であったものの形成された皮膜が脆く、皮膜形成性に劣るものであった。そこで、イオタカラギーナンの割合を湿式加熱処理澱粉100重量部に対して27重量部とし、脱アシル型ジェランガムの割合を2.0重量部より小さくした試料について検討したが、皮膜形成性は改善されなかった。これらの結果から、脱アシル型ジェランガムによって腸溶性を付与するソフトカプセル皮膜の皮膜形成剤として、酸処理されたバレイショ澱粉は適しているが、湿式加熱処理澱粉は適していないことが分かった。
【0056】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0057】
例えば、ソフトカプセル皮膜には、上記の成分に加えて、着色料や香料など他の添加剤を添加することができる。
【0058】
また、上記の実施形態では、可塑剤であるグリセリンの含有量が、酸処理されたバレイショ澱粉100重量部に対して60重量部の場合を例示したが、50重量部から100重量部の範囲とすれば、十分な柔軟性を有すると共に、乾燥させた後に他のソフトカプセルや容器と付着しにくいソフトカプセル皮膜を製造できることを、確認している。