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特許7412001改変されたCas9タンパク質及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】改変されたCas9タンパク質及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/55 20060101AFI20240104BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240104BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20240104BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20240104BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240104BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20240104BHJP
【FI】
C12N15/55 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/09 110
C12N9/16 Z
C07K19/00
C12N15/113 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020523211
(86)(22)【出願日】2019-06-07
(86)【国際出願番号】 JP2019022795
(87)【国際公開番号】W WO2019235627
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-06-01
(31)【優先権主張番号】62/682,244
(32)【優先日】2018-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519187609
【氏名又は名称】株式会社モダリス
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(72)【発明者】
【氏名】山形 哲也
(72)【発明者】
【氏名】シン ユアンバウ
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/205759(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/196655(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/217768(WO,A1)
【文献】特表2018-502572(JP,A)
【文献】特表2010-505437(JP,A)
【文献】特表2016-533332(JP,A)
【文献】特表2017-527284(JP,A)
【文献】国際公開第2008/008523(WO,A1)
【文献】MA, Dacheng et al.,Rational Design of Mini-Cas9 for Transcriptional Activation,ACS Synth. Biol.,2018年03月21日,Vol. 7,pp. 978-985, Supporting Information
【文献】NISHIMASU, Hiroshi et al.,Crystal structure of staphylococcus aureus Cas9,Cell,2015年,Vol. 162,pp. 1113-1126, Figure S3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12N 9/00-9/99
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2で表されるアミノ酸配列において、
481~649位の間に連続した欠失領域を有し、該欠失領域が、
(i)L1ドメイン(481~519位)の全部、及び
(ii)HNHドメイン(520~628位)の全部、及び
(iii)L2ドメイン(629~649位)の全部であり
該欠失領域にそれぞれ隣接したアミノ酸が3乃至10個のアミノ酸残基からなるリンカーによって連結しているアミノ酸配列を含む配列からなり、
且つ、ガイドRNAとの結合能を有するタンパク質であって、
さらに、45位又は45位及び163位のグルタミン酸(E)がリジン(K)に置換されているタンパク質
【請求項2】
リンカーが、グリシン(G)及びセリン(S)で構成される、5~9アミノ酸長のリンカーである、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
リンカーが、以下から選択される、請求項1又は2に記載のタンパク質:
-SGGGS-
-GGSGGS-
-SGSGSGSG-
-SGSGSGSGS-。
【請求項4】
転写制御因子タンパク質又はドメインを連結した、請求項1~のいずれか1項に記載のタンパク質。
【請求項5】
転写制御因子が転写活性化因子である、請求項記載のタンパク質。
【請求項6】
転写制御因子が転写サイレンサー又は転写抑制因子である、請求項記載のタンパク質。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載のタンパク質をコードする核酸。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載のタンパク質と、標的二本鎖ポリヌクレオチド中のPAM(Proto-spacer Adjacent Motif)配列の1塩基上流から20塩基以上24塩基以下上流までの塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドを含むガイドRNAと、を備えるタンパク質-RNA複合体。
【請求項9】
標的二本鎖ポリヌクレオチドを部位特異的に改変するための方法であって、
標的二本鎖ポリヌクレオチドと、タンパク質と、ガイドRNAとをin vitroで混合し、インキュベートする工程と、
前記タンパク質が、PAM配列の上流に位置する結合部位で前記標的二本鎖ポリヌクレオチドを改変する工程と、を備え、
前記タンパク質は、請求項1~のいずれか1項に記載のタンパク質であり、
前記ガイドRNAは、前記標的二本鎖ポリヌクレオチド中の前記PAM配列の1塩基上流から20塩基以上24塩基以下上流までの塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドを含むものである方法。
【請求項10】
ヒトの生体内にある細胞以外の細胞の標的遺伝子の発現を増大させる方法であって、前記細胞内で請求項に記載のタンパク質と、前記標的遺伝子に対する1つ又は複数のガイドRNAとを発現させることを含む、方法。
【請求項11】
ヒトの生体内にある細胞以外の細胞の標的遺伝子の発現を減少させる方法であって、前記細胞内で請求項に記載のタンパク質と、前記標的遺伝子に対する1つ又は複数のガイドRNAとを発現させることを含む、方法。
【請求項12】
細胞が真核細胞である、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
細胞が酵母細胞、植物細胞又は動物細胞である、請求項10又は11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガイドRNAとの結合能を維持しながら小型化された、改変されたCas9タンパク質及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
クラスター化した規則的な配置の短い回文反復配列(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats:CRISPR)は、Cas(CRISPR-associated)遺伝子と共に、細菌及び古細菌において侵入外来核酸に対する獲得耐性を提供する適応免疫系を構成することが知られている。CRISPRは、ファージまたはプラスミドDNAに起因することが多く、大きさの類似するスペーサーと呼ばれる独特の可変DNA配列が間に入った、24~48bpの短い保存された反復配列からなる。また、リピート及びスペーサー配列の近傍には、Casタンパク質ファミリーをコードする遺伝子群が存在する。
【0003】
CRISPR/Casシステムにおいて、外来性のDNAは、Casタンパク質ファミリーによって30bp程度の断片に切断され、CRISPRに挿入される。Casタンパク質ファミリーの一つであるCas1及びCas2タンパク質は、外来性DNAのproto-spacer adjacent motif(PAM)と呼ばれる塩基配列を認識して、その上流を切り取って、宿主のCRISPR配列に挿入し、これが細菌の免疫記憶となる。免疫記憶を含むCRISPR配列が転写されて生成したRNA(pre-crRNAと呼ぶ。)は、一部相補的なRNA(trans-activating crRNA:tracrRNA)と対合し、Casタンパク質ファミリーの一つであるCas9タンパク質に取り込まれる。Cas9に取り込まれたpre-crRNA及びtracrRNAはRNaseIIIにより切断され、外来配列(ガイド配列)を含む小さなRNA断片(CRISPR-RNAs:crRNAs)となり、Cas9-crRNA-tracrRNA複合体が形成される。Cas9-crRNA-tracrRNA複合体はcrRNAと相補的な外来侵入性DNAに結合し、DNAを切断する酵素(nuclease)であるCas9タンパク質が、外来侵入性DNAを切断することよって、外から侵入したDNAの機能を抑制及び排除する。
【0004】
近年、CRISPR/Casシステムを、ゲノム編集に応用する技術が盛んに開発されている。crRNAとtracrRNAを融合させて、tracrRNA-crRNAキメラ(以下、ガイドRNA(guide RNA:gRNA)と呼ぶ。)として発現させ、活用している。これによりnuclease(RNA-guided nuclease:RGN)を呼び込み、目的の部位でゲノムDNAを切断する。
【0005】
一方で、ゲノム編集システムの一つであるCRISPR/Cas9におけるCas9タンパク質のヌクレアーゼを不活化した変異体(nuclease-null,dCas9)にVP64やVP160等の転写活性化因子、あるいはKRAB等の転写抑制因子等の転写制御因子を融合させることで標的遺伝子の発現レベルを調節可能なシステムとすることができる。例えば、遺伝子活性化の効率をさらに高める為には、3つの転写活性因子を連結した活性化因子(VP64-p65-Rta,VPR)と融合させ、該融合したdCas9タンパク質(dCas9-VPR;dCas9融合タンパク質)はDNAを切断することなく標的遺伝子の発現を強力に活性化する。
【0006】
Cas9タンパク質についてPAM特異性の緩和やヌクレアーゼ活性の改変(活性化/不活性化)、小型化を目的として、種々の変異体が創製され報告されている(特許文献1~3)。
Cas9タンパク質は、RECローブ(REC:recognition)とNUCローブ(NUC:nuclease)という2つのローブからなり、RECローブはアルギニン残基に富むαヘリックス、REC1ドメイン及びREC2ドメインから構成され、NUCローブはRuvCドメイン、HNHドメイン及びPIドメイン(PI:PAMinteracting)から構成されている。RuvCドメインには3つのモチーフ(RuvC-I~RuvC-III)が存在する。小型化されたCas9タンパク質として、各機能的ドメインの全部又は部分が除去されリンカーで連結されたSaCas9(即ち、mini-SaCas9)が報告されている。リンカーとしては、GS-リンカー(GGGGSGGGG:配列番号10)、R-リンカー(KRRRRHR:配列番号11)及びGSKリンカー(GSK)が知られている(特許文献4、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2016/141224A1
【文献】WO2017/010543A1
【文献】WO2018/074979A1
【文献】WO2018/209712A1
【非特許文献】
【0008】
【文献】Dacheng Ma, et al., ACS Synth. Biol. 2018, 7, 978-985
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
インビボにおけるdCas9融合タンパク質の発現には、発現ベクターが必要である。遺伝子治療では安全性と効率の高い面でアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)が主流となりつつあるが、AAVの搭載可能なサイズは4.4kb程度であるのに対し、dCas9タンパク質は既に4kb程度を占め、AAVに搭載するには融合タンパク質の構成が極めて制限される。
従って、本発明者らは、全長タンパク質と実質的に同等のDNA結合親和性を有しながら、より小型化されたdCas9タンパク質の変異体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、Cas9タンパク質として、S.aureus由来のCas9(本明細書中、SaCas9とも称する)のnuclease-null変異体(dSaCas9)に着目し、上記課題を解決すべく鋭意検討した。結果、欠失させてもガイドRNAへの結合能に影響が少ない特定の領域を見出し、さらに、所定の位置のアミノ酸を特定のアミノ酸に置換することによって、DNA結合親和性を維持乃至増強しつつ小型化されたdSaCas9タンパク質を製造することに成功し、本発明を完成するに至った。
欠失及び置換を併せて変異とも称する。
本明細書中、変異を導入する前のdSaCas9タンパク質を野生型dSaCas9(タンパク質)、変異を導入した後のdSaCas9タンパク質をdSaCas9変異体(タンパク質)と称する場合がある。
即ち、本発明は以下の通りである。
[1]配列番号2で表されるアミノ酸配列において、
481~649位の間に連続した欠失領域を有し、該欠失領域が、
(i)L1ドメイン(481~519位)の全部または一部、及び
(ii)HNHドメイン(520~628位)の全部を含み、さらに任意で該欠失領域は
(iii)L2ドメイン(629~649位)の全部または一部を含み、
該欠失領域にそれぞれ隣接したアミノ酸が3乃至10個のアミノ酸残基からなるリンカーによって連結しているアミノ酸配列を含む配列からなり、
且つ、ガイドRNAとの結合能を有するタンパク質。
[2]該欠失領域が、
(i)L1ドメインの全部(481~519位)、
(ii)HNHドメイン領域の全部(520~628位)、及び
(iii)L2ドメインの全部(629~649位)
である、上記[1]記載のタンパク質。
[3]該欠失領域が、
(i)L1ドメインの一部(482~519位)、
(ii)HNHドメインの全部(520~628位)、及び
(iii)L2ドメインの一部(629~647位)
である、上記[1]記載のタンパク質。
[4]該欠失領域が、
(i)L1ドメインの一部(482~519位)、及び
(ii)HNHドメインの全部(520~628位)
である、上記[1]記載のタンパク質。
[5]配列番号2で表されるアミノ酸配列において、45位及び/又は163位のグルタミン酸(E)が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を含む配列からなり、且つ、ガイドRNAとの結合能を有するタンパク質。
[6]他のアミノ酸が塩基性アミノ酸である、上記[5]記載のタンパク質。
[7]塩基性アミノ酸が、リジン(K)である、上記[6]記載のタンパク質。
[8]さらに、45位及び/又は163位のグルタミン酸(E)が他のアミノ酸に置換されている、上記[1]~[4]のいずれかに記載のタンパク質。
[9]他のアミノ酸が塩基性アミノ酸である、上記[8]記載のタンパク質。
[10]塩基性アミノ酸がリジン(K)である、上記[9]記載のタンパク質。
[11]リンカーが、グリシン(G)及びセリン(S)で構成される、5~9アミノ酸長のリンカーである、上記[1]~[8]のいずれかに記載のタンパク質。
[12]リンカーが、以下から選択される、上記[1]~[11]のいずれかに記載のタンパク質:
-SGGGS-
-GGSGGS-
-SGSGSGSG-
-SGSGSGSGS-。
[13]配列番号2の変異及び/又は欠失が施された位置以外の部位において80%以上の同一性を有する、上記[1]~[12]のいずれかに記載のタンパク質。
[14]配列番号2の変異及び/又は欠失が施された位置以外の部位において1~数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加された、上記[1]~[12]のいずれかに記載のタンパク質。
[15]転写制御因子タンパク質又はドメインを連結した、上記[1]~[14]のいずれかに記載のタンパク質。
[16]転写制御因子が転写活性化因子である、上記[15]記載のタンパク質。
[17]転写制御因子が転写サイレンサー又は転写抑制因子である、上記[15]記載のタンパク質。
[18]上記[1]~[17]のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸。
[19]上記[1]~[18]のいずれかに記載のタンパク質と、標的二本鎖ポリヌクレオチド中のPAM(Proto-spacer Adjacent Motif)配列の1塩基上流から20塩基以上24塩基以下上流までの塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドを含むガイドRNAと、を備えるタンパク質-RNA複合体。
[20]標的二本鎖ポリヌクレオチドを部位特異的に改変するための方法であって、
標的二本鎖ポリヌクレオチドと、タンパク質と、ガイドRNAとを混合し、インキュベートする工程と、
前記タンパク質が、PAM配列の上流に位置する結合部位で前記標的二本鎖ポリヌクレオチドを改変する工程と、を備え、
前記タンパク質は、上記[1]~[17]のいずれかに記載のタンパク質であり、
前記ガイドRNAは、前記標的二本鎖ポリヌクレオチド中の前記PAM配列の1塩基上流から20塩基以上24塩基以下上流までの塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドを含むものである方法。
[21]細胞の標的遺伝子の発現を増大させる方法であって、前記細胞内で上記[16]に記載のタンパク質と、前記標的遺伝子に対する1つ又は複数のガイドRNAとを発現させることを含む、方法。
[22]細胞の標的遺伝子の発現を減少させる方法であって、前記細胞内で上記[17]に記載のタンパク質と、前記標的遺伝子に対する1つ又は複数のガイドRNAとを発現させることを含む、方法。
[23]細胞が真核細胞である、上記[21]又は[22]に記載の方法。
[24]細胞が酵母細胞、植物細胞又は動物細胞である、上記[21]又は[22]に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ガイドRNA結合能を有しながら、より小型化されたdSaCas9タンパク質を得ることができる。該小型化されたdSaCas9タンパク質により、より多くの遺伝子を容量に制限のある発現ベクターに搭載することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、野生型dSaCas9(WT)及びdSaCas9変異体(T1~T3)の構造を模式的に示した図である。T1: dsaCas9-d(E481-T649) with "GGSGGS" as linker、T2: dsaCas9-d(K482-V647) with "SGGGS" as linker、T3: dsaCas9-d(K482-E628) with "SGGGS" as linker
図2図2は、野生型dSaCas9(WT)及びdSaCas9変異体の(T1~T3)DNA結合親和性を示したグラフである。T1: dsaCas9-d(E481-T649) with "GGSGGS" as linker、T2: dsaCas9-d(K482-V647) with "SGGGS" as linker、T3: dsaCas9-d(K482-E628) with "SGGGS" as linker
図3図3は、野生型dSaCas9(WT)及びdSaCas9変異体(M1~M14)のDNA結合親和性を示したグラフである。M1: E782K on dsaCas9-d(E481-T649) with "GGSGGS" as linker、M2: N968K on dsaCas9-d(E481-T649) with "GGSGGS" as linker、M3: L988H on dsaCas9-d(E481-T649) with "GGSGGS" as linker、M4: N806R on dsaCas9-d(E481-T649) with "GGSGGS" as linker、M5: A889N on dsaCas9-d(E481-T649) with "GGSGGS" as linker、M6: D786R on dsaCas9-d(E481-T649) with "GGSGGS" as linker、M7: K50H on dsaCas9-d(E481-T649) with "GGSGGS" as linker、M8: A53K on dsaCas9-d(E481-T649) with "GGSGGS" as linker、M9: K57H on dsaCas9-d(E481-T649) with "GGSGGS" as linker、M10: I64K on dsaCas9-d(E481-T649) with "GGSGGS" as linker、M11: V41N on dsaCas9-d(E481-T649) with "GGSGGS" as linker、M12: E45K on dsaCas9-d(E481-T649) with "GGSGGS" as linker、M13: G52K on dsaCas9-d(E481-T649) with "GGSGGS" as linker、M14: L56K on dsaCas9-d(E481-T649) with "GGSGGS" as linker
図4図4は、野生型dSaCas9(WT)及びdSaCas9変異体(M15~M27)のDNA結合親和性を示したグラフである。M15: E163K on dsaCas9-d(E481-T649) + E45K、M16: N806Q on dsaCas9-d(E481-T649) + E45K、M17: D896K on dsaCas9-d(E481-T649) + E45K、M18: E42R on dsaCas9-d(E481-T649) + E45K、M19: D73R on dsaCas9-d(E481-T649) + E45K、M20: Q456K on dsaCas9-d(E481-T649) + E45K、M21: T787Q on dsaCas9-d(E481-T649) + E45K、M22: N873K on dsaCas9-d(E481-T649) + E45K、M23: Q835K on dsaCas9-d(E481-T649) + E45K、M24: L891K on dsaCas9-d(E481-T649) + E45K、M25: N899K on dsaCas9-d(E481-T649) + E45K、M26: N902R on dsaCas9-d(E481-T649) + E45K、M27: E739R on dsaCas9-d(E481-T649) + E45K
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味を有する。
【0014】
<dSaCas9変異体>
本発明のdSaCas9変異体は、ガイドRNAとの結合能を有しながら、より小型化されたdSaCas9タンパク質である。小型化されたdSaCas9変異体を用いれば、より多くの遺伝子をベクターに搭載することができる。
【0015】
本明細書中において、「ガイドRNA」とは、tracrRNA-crRNAのヘアピン構造を模倣したものであり、標的二本鎖ポリヌクレオチド中のPAM配列の1塩基上流から、好ましくは20塩基以上24塩基以下、より好ましくは22塩基以上24塩基以下までの塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドを5’末端領域に含むものである。さらに、標的二本鎖ポリヌクレオチドと非相補的な塩基配列からなり、一点を軸として対称に相補的な配列になるように並び、ヘアピン構造をとり得る塩基配列からなるポリヌクレオチドを1つ以上含んでいてもよい。
ガイドRNAは、本発明のdSaCas9変異体と結合して、該タンパク質を標的DNAに導く機能を有する。ガイドRNAは、その5’末端に標的DNAに相補的な配列を有し、該相補的な配列を介して標的DNAに結合することにより、本発明のdSaCas9変異体を標的DNAに導く。dSaCas9変異体はDNAエンドヌクレアーゼを有さない為、標的DNAに結合はするが切断することはない。
ガイドRNAは、標的DNAの配列情報に基づき設計され調製される。具体的には実施例で用いられるような配列が挙げられる。
【0016】
本明細書において、「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」とは、アミノ酸残基のポリマーを意味し、互換的に使用される。また、1つ若しくは複数のアミノ酸が、天然に存在する対応アミノ酸の化学的類似体、又は修飾誘導体である、アミノ酸ポリマーを意味する。
【0017】
本明細書において、「塩基性アミノ酸」とは、リジン、アルギニン、ヒスチジン等の分子内に一つのアミノ基のほかに、塩基性を示す残基をもつアミノ酸を意味する。
【0018】
本明細書中において、「配列」とは、任意の長さのヌクレオチド配列を意味しており、デオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドであり、線状、環状、又は分岐状であり、一本鎖又は二本鎖である。
本明細書中において、「PAM配列」とは、標的二本鎖ポリヌクレオチド中に存在し、Cas9タンパク質により認識可能な配列を意味し、PAM配列の長さや塩基配列は細菌種によって異なる。
【0019】
なお、本明細書において、「N」は、アデニン、シトシン、チミン及びグアニンからなる群から選択された任意の1塩基を意味し、「A」はアデニン、「G」はグアニン、「C」はシトシン、「T」はチミン、「R」はプリン骨格を有する塩基(アデニン又はグアニン)、「Y」はピリミジン骨格を有する塩基(シトシン又はチミン)を意味する。
【0020】
本明細書中において、「ポリヌクレオチド」とは、線状又は環状配座であり、一本鎖又は二本鎖形態のいずれかである、デオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドポリマーを意味し、ポリマーの長さに関して制限するものとして解釈されるものではない。また、天然ヌクレオチドの公知の類似体、並びに塩基部分、糖部分及びリン酸部分のうち少なくとも一つの部分において修飾されるヌクレオチド(例えば、ホスホロチオエート骨格)を包含する。一般に、特定ヌクレオチドの類似体は、同一の塩基対合特異性を有し、例えば、Aの類似体は、Tと塩基対合する。
【0021】
本発明は、配列番号2で表されるアミノ酸配列において、
481~649位の間に連続した欠失領域を有し、該欠失領域が、
(i)L1ドメイン(481~519位)の全部または一部、及び
(ii)HNHドメイン(520~628位)の全部を含み、さらに任意で該欠失領域は
(iii)L2ドメイン(629~649位)の全部または一部を含み、
該欠失領域にそれぞれ隣接したアミノ酸が3乃至10個のアミノ酸残基からなるリンカーによって連結しているアミノ酸配列を含む配列からなり、
且つ、ガイドRNAとの結合能を有するタンパク質(態様1)を提供する。
【0022】
配列番号2は、dSaCas9タンパク質の全長アミノ酸配列である。dSaCas9タンパク質は、10位のアスパラギン酸がアラニンに、580位のアスパラギンがアラニンにそれぞれ置換したSaCas9(S.aureus由来のCas9)で、図1にも示されるように、RECローブ(41~425残基)及びNUCローブ(1~40残基及び435~1053残基)の2つのローブから成っている。2つのローブはアルギニンに富んだブリッジヘリックス(BH:41~73残基)とリンカーループ(426~434残基)を介して連結している。NUCローブはRuvCドメイン(1~40、435~480及び650~774残基)、HNHドメイン(520~628残基)、WEDドメイン(788~909残基)及びPIドメイン(910~1053残基)で構成される。PIドメインは、トポイソメラーゼホモロジー(TOPO)ドメインとC末端ドメイン(CTD)にわけられる。RuvCドメインは3つの隔てられたモチーフ(RuvC-I~III)で構成され、HNHドメイン及びPIドメインと関連している。HNHドメインはRuvC-II及びRuvC-IIIにL1(481~519残基)リンカー及びL2(629~649残基)リンカーを介してそれぞれ連結している。WEDドメイン及びRucVドメインは「phosphate lock」ループ(775~787残基)により連結している(H. Nishimasu et al., Cell, Volume 162, Issue 5, pp. 1113-1126)。
【0023】
本発明の一実施態様において、配列番号2で表されるアミノ酸配列における481~649位の間に連続して存在する欠失領域は、
(i)L1ドメインの全部(481~519位)、
(ii)HNHドメインの全部(520~628位)、及び
(iii)L2ドメインの全部(629~649位)
である(態様1-1)。
【0024】
本発明の一実施態様において、配列番号2で表されるアミノ酸配列における481~649位の間に連続して存在する欠失領域は、
(i)L1ドメインの一部(482~519位)、
(ii)HNHドメインの全部(520~628位)、及び
(iii)L2ドメインの一部(629~647位)
である(態様1-2)。
【0025】
本発明の一実施態様において、配列番号2で表されるアミノ酸配列における481~649位の間に連続して存在する欠失領域は、
該欠失領域が、
(i)L1ドメインの一部(482~519位)、及び
(ii)HNHドメインの全部(520~628)
である(態様1-3)。
【0026】
本発明の別の一実施態様において、本発明は、前記態様1、1-1、1-2及び1-3におけるそれぞれの変異に加えて、さらに45位及び/又は163位に変異を有し、且つ、ガイドRNAとの結合能を有するタンパク質(態様2)を提供する。
45位及び/又は163位における変異は、具体的には、グルタミン酸の塩基性アミノ酸への置換、好ましくはリジン、アルギニン又はヒスチジンへの置換、より好ましくはリジンへの置換である。
【0027】
本発明の別の一実施態様において、本発明は、配列番号2で表されるアミノ酸配列において、45位及び/又は163位のグルタミン酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を含む配列からなり、且つ、ガイドRNAとの結合能を有するタンパク質(態様3)を提供する。
45位及び/又は163位における変異は、具体的には、グルタミン酸の塩基性アミノ酸への置換、好ましくはリジン、アルギニン又はヒスチジンへの置換、より好ましくはリジンへの置換である。
【0028】
配列番号2で表されるアミノ酸配列において、「481~649位の間に連続した欠失領域」を任意的に創出する場合の手法、及び「45位及び/又は163位のグルタミン酸を他のアミノ酸に置換」する場合の手法としては、所定のアミノ酸配列をコードするDNAに対して慣用の部位特異的変異導入を施し、その後このDNAを常法により発現させる手法が挙げられる。ここで部位特異的変異導入法としては、例えば、アンバー変異を利用する方法(ギャップド・デュプレックス法、Nucleic Acids Res., 12, 9441-9456 (1984))、変異導入用プライマーを用いたPCRによる方法等が挙げられる。また、Q5 Site-Directed Mutagenesis Kit (NEB)を用いて、マニュアルに従い簡便に実施することができる。
【0029】
本発明の別の一実施態様において、本発明は、前記態様1、1-1、1-2、1-3、2及び3のタンパク質と機能的に同等なタンパク質(態様4)を提供する。前記態様1、1-1、1-2、1-3、2及び3のタンパク質と機能的に同等であるためには配列番号2で表されるアミノ酸配列において、前記態様1、1-1、1-2、1-3、2及び3で変異が施された位置以外の部位において、80%以上の配列同一性を有し、且つガイドRNAとの結合能を有する必要がある。変異によりアミノ酸に増減があった場合には、該「変異が施された位置以外の部位」は「変異が施された位置に相当する位置以外の部位」と解することができる。係る同一性としては、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましく、95%以上が特に好ましく、99%以上が最も好ましい。アミノ酸配列同一性は自体公知の方法により決定できる。例えば、アミノ酸配列同一性(%)は、当該分野で慣用のプログラム(例えば、BLAST、FASTA等)を初期設定で用いて決定することができる。また、別の局面では、同一性(%)は、当該分野で公知の任意のアルゴリズム、例えば、Needlemanら(1970) (J. Mol. Biol. 48: 444-453)、Myers及びMiller (CABIOS, 1988, 4: 11-17)のアルゴリズム等を使用して決定することができる。Needlemanらのアルゴリズムは、GCGソフトウェアパッケージ(www.gcg.comで入手可能)のGAPプログラムに組み込まれており、同一性(%)は、例えば、BLOSUM 62 matrix又はPAM250 matrix、並びにgap weight: 16、14、12、10、8、6若しくは4、及びlength weight: 1、2、3、4、5若しくは6のいずれかを使用することによって決定することができる。また、Myers及びMillerのアルゴリズムは、GCG配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラムに組み込まれている。アミノ酸配列を比較するためにALIGNプログラムを利用する場合、例えば、PAM120 weight residue table、gap length penalty 12、gap penalty 4を用いることができる。
【0030】
前記態様1、1-1、1-2、1-3、2及び3のタンパク質と機能的に同等なタンパク質として、配列番号2で表されるアミノ酸配列において、前記態様1、1-1、1-2、1-3、2及び3で変異が施された位置以外の部位において、1~数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加され、且つ、ガイドRNAとの結合能を有するタンパク質(態様4-1)が提供される。変異によりアミノ酸に増減があった場合には、該「変異が施された位置以外の部位」は「変異が施された位置に相当する位置以外の部位」と解することができる。
「アミノ酸の置換、欠失、挿入及び/又は付加」を人為的に行う場合の手法としては、例えば、所定のアミノ酸配列をコードするDNAに対して慣用の部位特異的変異導入を施し、その後このDNAを常法により発現させる手法が挙げられる。ここで部位特異的変異導入法としては、例えば、アンバー変異を利用する方法(ギャップド・デュプレックス法、Nucleic Acids Res., 12, 9441-9456 (1984))、変異導入用プライマーを用いたPCRによる方法等が挙げられる。また、Q5 Site-Directed Mutagenesis Kit (NEB)を用いて、マニュアルに従い簡便に実施することができる。
前記で改変されるアミノ酸の数については、少なくとも1残基、具体的には1若しくは数個、またはそれ以上である。また前記置換、欠失、挿入または付加のうち、特にアミノ酸の置換が好ましい。当該置換は、疎水性、電荷、pK、立体構造上における特徴等の類似した性質を有するアミノ酸への置換がより好ましい。このような置換としては、例えば、i)グリシン、アラニン;ii)バリン、イソロイシン、ロイシン;iii)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン;iv)セリン、スレオニン;v)リジン、アルギニン;vi)フェニルアラニン、チロシンのグループ内での置換が挙げられる。
【0031】
本発明のdSaCas9変異体は、欠失変異によりdSaCas9変異体タンパク質が切断された状態にあり、該欠失領域の両端がリンカーによって連結されている。即ち、本発明のdSaCas9変異体は、欠失領域にそれぞれ隣接した位置にあるアミノ酸が3乃至10個のアミノ酸残基からなるリンカーによって連結している。かかる連結によって本願発明のdSaCas9変異体は連続したアミノ酸配列を有する。
【0032】
リンカー(以下、本発明のリンカーとも称する)は、切断されたタンパク質の両端を連結することができ、且つ、その機能に影響を及ぼさない限りは特に限定されないが、好ましくは、他のタンパク質に合わせて自己の形状を自在に変化させながら結合する天然変性構造をとることが可能な基であり、好ましくはグリシン(G)及びセリン(S)で構成される3乃至10個のアミノ酸残基からなるリンカーである。より好ましくは本発明のリンカーは、5~9アミノ酸長のペプチド残基である。具体的には、以下の残基が挙げられる。
-SGGGS-(配列番号3)
-GGSGGS-(配列番号4)
-SGSGSGSG-(配列番号5)
-SGSGSGSGS-(配列番号6)
【0033】
各変異体におけるリンカーの導入もまた、所定のアミノ酸配列をコードするDNAに対して慣用の部位特異的変異導入を施してリンカーをコードする塩基配列を挿入し、その後このDNAを常法により発現させる手法によって実施することができる。部位特異的変異導入法としては、上述と同様の手法が挙げられる。
【0034】
本実施形態におけるdSaCas9変異体は、例えば次のような方法により作成することができる。まず、前記本発明のdSaCas9変異体をコードする核酸を含むベクターを用いて、宿主を形質転換する。続いて、当該宿主を培養して前記タンパク質を発現させる。培地の組成、培養の温度、時間、誘導物質の添加等の条件は、形質転換体が生育し、前記タンパク質が効率よく産生されるよう、公知の方法に従って当業者が決定できる。また、例えば、選択マーカーとして抗生物質抵抗性遺伝子を発現ベクターに組み込んだ場合、培地に抗生物質を加えることにより、形質転換体を選択することができる。続いて、宿主が発現した前記タンパク質を適宜自体公知の方法により精製することにより、本発明のdSaCas9変異体が得られる。
宿主としては、特に限定されず、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、又は、大腸菌、枯草菌、酵母等の微生物が挙げられる。好ましくは動物細胞である。
【0035】
<dSaCas9変異体-ガイドRNA複合体>
一実施形態において、本発明は、上述の<dSaCas9変異体>において示されたタンパク質と、標的二本鎖ポリヌクレオチド中のPAM(Proto-spacer Adjacent Motif)配列の1塩基上流から20塩基以上24塩基以下上流までの塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドを含むガイドRNAと、を備えるタンパク質-RNA複合体を提供する。
【0036】
前記タンパク質及び前記ガイドRNAは、in vitro及びin vivoにおいて、温和な条件で混合することで、タンパク質-RNA複合体を形成することができる。温和な条件とは、タンパク質が分解又は変性しない程度の温度及びpHを示しており、温度は4℃以上40℃以下が好ましく、pHは4以上10以下が好ましい。
【0037】
また、前記タンパク質及び前記ガイドRNAを混合し、インキュベートする時間は、0.5時間以上1時間以下が好ましい。前記タンパク質及び前記ガイドRNAによる複合体は、安定しており、室温で数時間静置しても安定性を保つことができる。
【0038】
<CRISPR-Casベクターシステム>
一実施形態において、本発明は、上述の<dSaCas9変異体>において示されたタンパク質をコードする遺伝子を含む第1のベクターと、標的二本鎖ポリヌクレオチド中のPAM配列の1塩基上流から20塩基以上24塩基以下上流までの塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドを含むガイドRNAを含む第2のベクターと、を備えるCRISPR-Casベクターシステムを提供する。
別の一実施形態において、本発明は上述の<dSaCas9変異体>において示されたタンパク質をコードする遺伝子と、標的二本鎖ポリヌクレオチド中のPAM配列の1塩基上流から20塩基以上24塩基以下上流までの塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドを含むガイドRNAとを同一のベクター中に有するCRISPR-Casベクターシステムを提供する。
【0039】
ガイドRNAは、標的二本鎖ポリヌクレオチド中のPAM配列の1塩基上流から、好ましくは20塩基以上24塩基以下、より好ましくは22塩基以上24塩基以下までの塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドを5’末端領域に含むものを適宜設計すればよい。さらに、標的二本鎖ポリヌクレオチドと非相補的な塩基配列からなり、一点を軸として対称に相補的な配列になるように並び、ヘアピン構造をとり得る塩基配列からなるポリヌクレオチドを1つ以上含んでいてもよい。
【0040】
本実施形態のベクターは、発現ベクターであることが好ましい。発現ベクターとしては、例えば、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13等の大腸菌由来のプラスミド;pUB110、pTP5、pC194等の枯草菌由来のプラスミド;pSH19、pSH15等の酵母由来プラスミド;λファージ等のバクテリオファージ;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、サイトメガロウイルス等のウイルス;及びこれらを改変したベクター等を用いることができるが、インビボでの遺伝子発現の活性化を鑑みた場合、ウイルスベクター、特にアデノ随伴ウイルスが好ましい。
【0041】
上述の発現ベクターにおいて、前記dSaCas9変異体タンパク質、及び前記ガイドRNA発現用プロモーターとしては特に限定されず、例えば、EF1αプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、HSV-tkプロモーター等の動物細胞における発現用のプロモーター、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35Sプロモーター、REF(rubber elongation factor)プロモーター等の植物細胞における発現用のプロモーター、ポリヘドリンプロモーター、p10プロモーター等の昆虫細胞における発現用のプロモーター等を使用することができる。これらプロモーターは、前記dSaCas9変異体タンパク質、及び前記ガイドRNA、又は前記Cas9タンパク質、及び前記ガイドRNAを発現する細胞の種類に応じて、適宜選択することができる。
【0042】
上述の発現ベクターは、さらに、マルチクローニングサイト、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー(薬剤耐性)及びそのプロモーター、複製起点等を有していてもよい。
【0043】
<標的二本鎖ポリヌクレオチドを部位特異的に改変するための方法>
[第1実施形態]
一実施形態において、本発明は、標的二本鎖ポリヌクレオチドを部位特異的に改変するための方法であって、
標的二本鎖ポリヌクレオチドと、タンパク質と、ガイドRNAとを混合し、インキュベートする工程と、前記タンパク質が、PAM配列の上流に位置する結合部位で前記標的二本鎖ポリヌクレオチドを改変する工程と、を備え、
前記標的二本鎖ポリヌクレオチドは、PAM配列を有し、
前記タンパク質は、上述の<dSaCas9変異体>において示されたタンパク質であり、
前記ガイドRNAは、前記標的二本鎖ポリヌクレオチド中の前記PAM配列の1塩基上流から20塩基以上24塩基以下上流までの塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドを含むものである方法を提供する。
【0044】
本実施形態において、標的二本鎖ポリヌクレオチドは、PAM配列を有するものであればよく、特別な限定はない。
【0045】
本実施形態において、タンパク質及びガイドRNAについては、上述の<dSaCas9変異体>において示されたとおりである。
【0046】
標的二本鎖ポリヌクレオチドを部位特異的に改変するための方法について、以下に詳細を説明する。
まず、前記タンパク質及び前記ガイドRNAを温和な条件で混合し、インキュベートする。温和な条件とは、上述のとおりである。インキュベートする時間は、0.5時間以上1時間以下が好ましい。前記タンパク質及び前記ガイドRNAによる複合体は、安定しており、室温で数時間静置しても安定性を保つことができる。
次に、前記標的二本鎖ポリヌクレオチド上において、前記タンパク質及び前記ガイドRNAは複合体を形成する。前記タンパク質は、PAM配列を認識し、PAM配列の上流に位置する結合部位で、前記標的二本鎖ポリヌクレオチドに結合する。続いて、前記ガイドRNAと前記二本鎖ポリヌクレオチドの相補的結合によって決定される領域において、目的に応じた改変が施された標的二本鎖ポリヌクレオチドを得ることができる。
【0047】
本明細書中において、「改変」とは、標的二本鎖ポリヌクレオチドが構造的あるいは機能的に変化することを意味する。例えば、機能的なタンパク質や塩基配列の付加による標的二本鎖ポリヌクレオチドの構造的あるいは機能的な変化が挙げられる。当該改変により標的二本鎖ポリヌクレオチドの機能を改変、欠失、増強、又は抑制すること、新しい機能の付加が可能となる。
本発明のdSaCas9変異体は、エンドヌクレアーゼ活性を有さないので該タンパク質はPAM配列の上流に位置する結合部位で前記標的二本鎖ポリヌクレオチドに結合することができるが、そこにとどまって切断することができない。従って、例えば該タンパク質に蛍光タンパク質(例、GFP)等の標識タンパク質を融合させておくと、dSaCas9変異体タンパク質-ガイドRNAを介して標識タンパク質を標的二本鎖ポリヌクレオチドに結合させることができる。dSaCas9変異体に結合させる物質を適宜選択することによって多様な機能を標的二本鎖ポリヌクレオチドに与えることが可能となる。
さらに、dSaCas9変異体タンパク質のN末端あるいはC末端に転写制御因子タンパク質又はドメインを連結することができる。転写制御因子又はそのドメインとしては、転写活性化因子又はそのドメイン(例、VP64、VP160、NF-κB p65)及び転写サイレンサー又はそのドメイン(例、ヘテロクロマチンタンパク質1(HP1))又は転写抑制因子又はそのドメイン(例、クルッペル関連ボックス(KRAB)、ERFリプレッサードメイン(ERD)、mSin3A相互作用ドメイン(SID))が挙げられる。
DNAのメチル化状態を修飾する酵素(例、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)、TET)やヒストンサブユニットを修飾する酵素(例、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデメチラーゼ)を連結することもできる。
【0048】
[第2実施形態]
本実施形態において、インキュベート工程の前に、さらに、上述のCRISPR-Casベクターシステムを用いて、上述の<dSaCas9変異体>において示されたタンパク質と、ガイドRNAとを発現させる発現工程を備えていてもよい。
【0049】
本実施形態の発現工程において、まず、上述のCRISPR-Casベクターシステムを用いて、dSaCas9変異体タンパク質及びガイドRNAを発現させる。発現させる具体的な方法としては、dSaCas9変異体タンパク質をコードする遺伝子を含む発現ベクター、及びガイドRNAを含む発現ベクターをそれぞれ(あるいはdSaCas9変異体タンパク質をコードする遺伝子及びガイドRNAを同時に含む発現ベクター)を用いて宿主を形質転換する。続いて、当該宿主を培養してdSaCas9変異体タンパク質、及びガイドRNAを発現させる。培地の組成、培養の温度、時間、誘導物質の添加等の条件は、形質転換体が生育し、融合タンパク質が効率よく産生されるよう、公知の方法に従って当業者が決定できる。また、例えば、選択マーカーとして抗生物質抵抗性遺伝子を発現ベクターに組み込んだ場合、培地に抗生物質を加えることにより、形質転換体を選択することができる。続いて、宿主が発現したdSaCas9変異体タンパク質、及びガイドRNAを適宜の方法により精製することにより、dSaCas9変異体タンパク質、及びガイドRNAが得られる。
【0050】
<標的二本鎖ポリヌクレオチドを細胞内において部位特異的に改変するための方法>
一実施形態において、本発明は、標的二本鎖ポリヌクレオチドを細胞内において部位特異的に改変するための方法であって、
上述のCRISPR-Casベクターシステムを細胞に導入し、上述の<dSaCas9変異体>において示されたタンパク質と、ガイドRNAとを発現させる発現工程と、
前記タンパク質が、PAM配列の上流に位置する結合部位で前記標的二本鎖ポリヌクレオチドに結合する工程と、
前記ガイドRNAと前記標的二本鎖ポリヌクレオチドの相補的結合によって決定される領域において、改変された前記標的二本鎖ポリヌクレオチドを得る工程と、を備え、
前記ガイドRNAは、前記標的二本鎖ポリヌクレオチド中の前記PAM配列の1塩基上流から20塩基以上24塩基以下上流までの塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドを含むものである方法を提供する。
【0051】
本実施形態の発現工程において、まず、上述のCRISPR-Casベクターシステムを用いて、細胞内において、dSaCas9変異体タンパク質及びガイドRNAを発現させる。
【0052】
本実施形態の方法の適用対象となる細胞の由来となる生物としては、例えば、原核生物、酵母、動物、植物、昆虫等が挙げられる。前記動物としては、特別な限定はなく、例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウシ、マウス、ラット等が挙げられ、これらに限定されない。また、細胞の由来となる生物の種類は、所望の標的二本鎖ポリヌクレオチドの種類、目的等により任意に選択することができる。
【0053】
本実施形態の方法の適用対象となる動物由来の細胞としては、例えば、生殖細胞(精子、卵子等)、生体を構成する体細胞、幹細胞、前駆細胞、生体から分離されたがん細胞、生体から分離され不死化能を獲得して体外で安定して維持される細胞(細胞株)、生体から分離され人為的に遺伝子改変された細胞、生体から分離され人為的に核が交換された細胞等が挙げられ、これらに限定されない。
【0054】
生体を構成する体細胞としては、例えば、皮膚、腎臓、脾臓、副腎、肝臓、肺、卵巣、膵臓、子宮、胃、結腸、小腸、大腸、膀胱、前立腺、精巣、胸腺、筋肉、結合組織、骨、軟骨、血管組織、血液、心臓、眼、脳、神経組織等の任意の組織から採取される細胞等が挙げられ、これらに限定されない。体細胞として、より具体的には、例えば、線維芽細胞、骨髄細胞、免疫細胞(例えば、Bリンパ球、Tリンパ球、好中球、マクロファージ、単球、等)、赤血球、血小板、骨細胞、骨髄細胞、周皮細胞、樹状細胞、ケラチノサイト、脂肪細胞、間葉細胞、上皮細胞、表皮細胞、内皮細胞、血管内皮細胞、リンパ管内皮細胞、肝細胞、膵島細胞(例えば、α細胞、β細胞、δ細胞、ε細胞、PP細胞等)、軟骨細胞、卵丘細胞、グリア細胞、神経細胞(ニューロン)、オリゴデンドロサイト、マイクログリア、星状膠細胞、心筋細胞、食道細胞、筋肉細胞(例えば、平滑筋細胞、骨格筋細胞等)、メラニン細胞、単核細胞等が挙げられ、これらに限定されない。
【0055】
幹細胞とは、自分自身を複製する能力と他の複数系統の細胞に分化する能力を兼ね備えた細胞である。幹細胞としては、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞、胚性生殖幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞、腸幹細胞、がん幹細胞、毛包幹細胞等が挙げられ、これらに限定されない。
【0056】
がん細胞とは、体細胞から派生して無限の増殖能を獲得した細胞である。がん細胞の由来となるがんとしては、例えば、乳がん(例えば、浸潤性乳管がん、非浸潤性乳管がん、炎症性乳がん等)、前立腺がん(例えば、ホルモン依存性前立腺がん、ホルモン非依存性前立腺がん等)、膵がん(例えば、膵管がん等)、胃がん(例えば、乳頭腺がん、粘液性腺がん、腺扁平上皮がん等)、肺がん(例えば、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、悪性中皮腫等)、結腸がん(例えば、消化管間質腫瘍等)、直腸がん(例えば、消化管間質腫瘍等)、大腸がん(例えば、家族性大腸がん、遺伝性非ポリポーシス大腸がん、消化管間質腫瘍等)、小腸がん(例えば、非ホジキンリンパ腫、消化管間質腫瘍等)、食道がん、十二指腸がん、舌がん、咽頭がん(例えば、上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん等)、頭頚部がん、唾液腺がん、脳腫瘍(例えば、松果体星細胞腫瘍、毛様細胞性星細胞腫、びまん性星細胞腫、退形成性星細胞腫等)、神経鞘腫、肝臓がん(例えば、原発性肝がん、肝外胆管がん等)、腎臓がん(例えば、腎細胞がん、腎盂と尿管の移行上皮がん等)、胆嚢がん、胆管がん、膵臓がん、子宮内膜がん、子宮頸がん、卵巣がん(例、上皮性卵巣がん、性腺外胚細胞腫瘍、卵巣性胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍等)、膀胱がん、尿道がん、皮膚がん(例えば、眼内(眼)黒色腫、メルケル細胞がん等)、血管腫、悪性リンパ腫(例えば、細網肉腫、リンパ肉腫、ホジキン病等)、メラノーマ(悪性黒色腫)、甲状腺がん(例えば、甲状腺髄様ガン等)、副甲状腺がん、鼻腔がん、副鼻腔がん、骨腫瘍(例えば、骨肉腫、ユーイング腫瘍、子宮肉腫、軟部組織肉腫等)、転移性髄芽腫、血管線維腫、隆起性皮膚線維肉腫、網膜肉腫、陰茎癌、精巣腫瘍、小児固形がん(例えば、ウィルムス腫瘍、小児腎腫瘍等)、カポジ肉腫、AIDSに起因するカポジ肉腫、上顎洞腫瘍、線維性組織球腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、慢性骨髄増殖性疾患、白血病(例えば、急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病等)等が挙げられ、これらに限定されない。
【0057】
細胞株とは、生体外での人為的な操作により無限の増殖能を獲得した細胞である。細胞株としては、例えば、HCT116、Huh7、HEK293(ヒト胎児腎細胞)、HeLa(ヒト子宮頸がん細胞株)、HepG2(ヒト肝がん細胞株)、UT7/TPO(ヒト白血病細胞株)、CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞株)、MDCK、MDBK、BHK、C-33A、HT-29、AE-1、3D9、Ns0/1、Jurkat、NIH3T3、PC12、S2、Sf9、Sf21、High Five、Vero等が挙げられ、これらに限定されない。
【0058】
CRISPR-Casベクターシステムの細胞への導入方法としては、使用する生細胞に適した方法で行うことができ、エレクトロポレーション法、ヒートショック法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、パーティクル・ガン法、ウイルスを用いた方法や、FuGENE(登録商標) 6 Transfection Reagent(ロシュ社製)、Lipofectamine 2000 Reagent(インビトロジェン社製)、Lipofectamine LTX Reagent(インビトロジェン社製)、Lipofectamine 3000 Reagent(インビトロジェン社製)などの市販のトランスフェクション試薬を用いた方法などを挙げることができる。
【0059】
続く、改変工程については、上述の<標的二本鎖ヌクレオチドを部位特異的に改変するための方法>の[第1実施形態]に示された方法と同様である。
本実施形態における標的二本鎖ポリヌクレオチドの修飾により、標的二本鎖ポリヌクレオチドが改変された細胞を得ることができる。
【0060】
以下に実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0061】
実施例1:dSaCas9変異体のDNA結合親和性評価
(方法)
1.クローニング
NEB Q5 Site-Directed Mutagenesis Kitを用いて、dSaCas9遺伝子内に、所定の欠失領域を作り、リンカーをコードする遺伝子を導入し、さらに転写制御因子であるKRAB遺伝子を融合させて種々のdSaCas9変異体を作製した(図1)。これらの変異体について、MYD88遺伝子を用いてその発現抑制活性を調べた。全てのdSaCas9変異体の遺伝子構築物をpX601ベクターに組み込んだ(F. Ann Ran et al., Nature 2015; 520(7546); pp.186-191)。DNA結合アッセイには、crRNA配列;GGAGCCACAGTTCTTCCACGG(配列番号7)をtracrRNA配列;GTTTTAGTACTCTGGAAACAGAATCTACTAAAACAAGGCAAAATGCCGTGTTTATCACGTCAACTTGTTGGCGAGATTTTTTT(配列番号8)と融合させガイドRNA(sgRNA)を形成させベクターから発現させるようにした。
尚、コントロールのガイドRNA(コントロールsgRNA)配列としては、以下の配列を用いた:ACGGAGGCTAAGCGTCGCAA(配列番号9)。
2.細胞トランスフェクション
HEK293FT細胞をトランスフェクションの24時間に1ウェルあたり75,000細胞の密度で24ウェルプレートに播種し、10%FBS、2mMの新鮮なL-グルタミン、1mMのピルビン酸ナトリウム及び非必須アミノ酸を添加したDMEM培地で培養した。細胞を500ngの各dSaCas9変異体(レプレッサー)発現ベクター及び各sgRNA発現ベクターを1.5μlのリポフェクトアミン2000(Life technologies)を用い、取扱説明書に従ってトランスフェクトした。遺伝子発現解析の為に、トランスフェクション後48~72時間で細胞を回収しRLTバッファー(Qiagen)に溶解しRNeasy kit (Qiagen)を用いて全RNAを抽出した。
3.遺伝子発現解析
Taqman解析の為に、1.5μgの全RNAから、20μlの容量でTaqManTM High-Capacity RNA-to-cDNA Kit (Applied Biosystems)を用いてcDNAを調製した。調製されたcDNAを20倍に希釈し、Taqman反応あたり6.33μlを用いた。MYD88遺伝子に対するTaqmanプライマー及びプローブはApplied Biosystemsより入手した。Roche LightCycler 96又はLightCycler 480中、Taqman gene expression master mix (ThermoFisher)を用いてTaqman反応を reaction was run using Taqman gene expression master mix (ThermoFisher)行い、LightCycler 96 analysisソフトウェアを用いて解析した。
Taqman probe product IDs:
MYD88: Hs01573837_g1 (FAM)
HPRT: Hs99999909_m1 (FAM, VIC)

Taqman QPCR condition:
Step 1; 95C 10 min
Step 2; 95C 15 sec
Step 3; 60C 30 sec
Repeat Step 2 and 3; 40 times
【0062】
(結果)
本発明のdSaCas9変異体における遺伝子発現レベルはコントロールに比べ野生型dSaCas9に匹敵する程度に低かった(図2)。この結果より、本発明のdSaCas9変異体は、欠失領域が存在し、全長のdSaCas9に比べて80%程度の大きさに縮小されているにもかかわらず、ガイドRNAとの結合能、ひいてはDNA結合親和性が維持されていることが示された。
上記結果において、特にDNA結合親和性が高かったT1について、さらに様々な点変異を導入し、その効果を確認した。結果を図3に示す。
M12(45位のグルタミン酸がリジンに置換されたT1変異体)にT1よりも優れたDNA結合親和性が確認された。
M12について、さらに様々な点変異を導入し、その効果を確認した。結果を図4に示す。
M15(163位のグルタミン酸がリジンに置換されたM12変異体)にM12よりも優れたDNA結合親和性が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、DNA結合親和性を保ちながら、小型化されたdSaCas9タンパク質を得ることができる。小型化されたdSaCas9タンパク質の使用はより多くの遺伝子のベクターへの搭載を可能とし、従って多様なゲノム編集技術を提供することができる。
本出願は、米国で出願された米国仮特許出願第62/682,244(出願日:2018年6月8日)を基礎としておりその内容は本明細書に全て包含されるものである。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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