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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】投薬量管理支援システム
(51)【国際特許分類】
   G16H 20/10 20180101AFI20240104BHJP
【FI】
G16H20/10
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020568194
(86)(22)【出願日】2020-01-23
(86)【国際出願番号】 JP2020002305
(87)【国際公開番号】W WO2020153423
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2022-11-28
(31)【優先権主張番号】P 2019009333
(32)【優先日】2019-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】大原 利章
(72)【発明者】
【氏名】水藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】杉谷 宜紀
【審査官】三橋 竜太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/124137(WO,A1)
【文献】特開2018-43003(JP,A)
【文献】国際公開第2017/191227(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者への前回投薬からの経過時間および/または前記患者の血液中の生体物質の値および/または当該値の変化が入力データとして入力される入力部と、
計算モデルに基づいて、前記入力データから、前記患者に対する薬の投薬確率を、現状維持、増量、減量の3値で計算し、計算された投薬確率から現状維持か否かを判断する第1の判断と、前記第1の判断の結果が現状維持でなかった場合に増量か減量かを判断する第2の判断とを計算する計算部と、を備え、
前記計算モデルは、複数の患者への前回投薬からの経過時間および/または前記複数の患者の血液中の生体物質の値および/または当該値の変化、およびこれらの患者に対して医師が決定した前記薬の投薬判断が現状維持、増量、減量のいずれであったかを示すデータを教師データとして機械学習によって生成される投薬量管理支援システム。
【請求項2】
前記計算モデルを新たな計算モデルに更新するための計算モデル更新部をさらに備える請求項1に記載の投薬量管理支援システム。
【請求項3】
前記教師データは、前回患者に対して医師が決定した前記投薬判断が現状維持、増量、減量であったかを示すデータをさらに含む請求項1または2に記載の投薬量管理支援システム。
【請求項4】
前記教師データは、前回の投薬量データをさらに含む請求項1から3のいずれかに記載の投薬量管理支援システム。
【請求項5】
前記教師データは、感染症または手術があった患者のデータを含まない請求項1から4のいずれかに記載の投薬量管理支援システム。
【請求項6】
前記患者は慢性腎不全患者であり、
前記血液中の生体物質の値は、Hb値、Ferittin値およびTSAT値であり、前記値の変化はHb値の変化であり、
前記投薬される薬は、ESA製剤または鉄含有剤の少なくとも一方である請求項1から5のいずれかに記載の投薬量管理支援システム。
【請求項7】
前記血液中の生体物質の値はMCV値をさらに含み、前記値の変化はMCV値の変化をさらに含む請求項6に記載の投薬量管理支援システム。
【請求項8】
前記計算モデルは、前記投薬判断に関する現状維持、増量、減量の判断から、前記患者のEPOの体外からの供給量と必要量とがバランス、体内量が不足、体内量が過剰、のいずれであるかを出力する請求項6または7に記載の投薬量管理支援システム。
【請求項9】
前記計算部は、第2の判断が増量であった場合に大きく増量するか小さく増量するかを判断する第3の判断と、前記第2の判断が減量であった場合に大きく減量するか小さく減量するかを判断する第4の判断とを計算する請求項1から4のいずれかに記載の投薬量管理支援システム。
【請求項10】
前記患者は心臓血管手術後の患者であり、
前記血液中の生体物質の値は血糖値であり、
前記投薬される薬はインシュリンである請求項1から4のいずれかまたは9に記載の投薬量管理支援システム。
【請求項11】
前記計算モデルは、前記投薬判断に関する現状維持、増量、減量の判断から、前記患者のインシュリンの体外からの供給量と必要量とがバランス、体内量が不足、体内量が過剰、のいずれであるかを出力する請求項10に記載の投薬量管理支援システム。
【請求項12】
慢性腎不全患者の血液中のHb値、MCV値、Ferittin値、TSAT値、Hb値の変化およびMCV値の変化が入力データとして入力される入力部と、
計算モデルに基づいて、前記入力データから、前記慢性腎不全患者に対する薬の投薬判断を、現状維持、増量、減量の3値で計算する計算部と、を備え、
前記計算モデルは、複数の慢性腎不全患者の血液中のHb値、MCV値、TSAT値、Ferittin値、Hb値の変化、MCV値の変化、およびこれらの患者に対して医師が決定した前記薬の投薬判断が現状維持、増量、減量のいずれであったかを示すデータを教師データとして機械学習によって生成され、
前記計算モデルは、前記薬の投薬判断に関し、現状維持、増量、減量の確率を出力し、
前記薬は、ESA製剤または鉄含有剤の少なくとも一方である投薬量管理支援システム。
【請求項13】
前記教師データは、前回患者に対して医師が決定した前記薬の投薬判断が現状維持、増量、減量であったかを示すデータをさらに含む請求項12に記載の投薬量管理支援システム。
【請求項14】
前記教師データは、前回の投薬量データをさらに含む請求項12または13に記載の投薬量管理支援システム。
【請求項15】
前記教師データは、前回の投薬量が0だったか否かを示すデータをさらに含む請求項12から14のいずれか一項に記載の投薬量管理支援システム。
【請求項16】
前記計算部は、前記計算モデルから得られた現状維持、増量、減量の確率に基づいて、現状維持か否かを判断する第1の判断と、前記第1の判断の結果が現状維持でなかった場合に増量か減量かを判断する第2の判断とを計算する請求項12から15のいずれか一項に記載の投薬量管理支援システム。
【請求項17】
前記教師データは、感染症または手術があった患者のデータを含まない請求項12から16のいずれか一項に記載の投薬量管理支援システム。
【請求項18】
前記計算モデルを新たな計算モデルに更新するための計算モデル更新部をさらに備える請求項12から17のいずれか一項に記載の投薬量管理支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投薬量管理支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
抗がん剤の投与履歴に関する療法履歴データを取得する取得処理部と、前記療法履歴データから、処理対象である対象処方データと患者及び療法が同一であって1クールにおける投与時期が前記対象処方データと同一である直前のクールの処方データに対応する特定履歴データを抽出する抽出処理部と、前記対象処方データと前記特定履歴データとを出力する出力処理部と、を備える投薬管理システムが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-165867
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人工透析が必要な慢性腎不全患者は、腎機能の低下に伴い、腎臓から分泌される造血ホルモンであるエリスロポエチン(以下「EPO」と呼ぶ)が低下する。これを補うため、慢性腎不全患者にはエリスロポエチン製剤(以下「ESA製剤」と呼ぶ)を投与する治療が行われる。このときESA製剤の投薬量が不足すると、患者は貧血になってしまう。貧血は免疫力の低下を招き、感冒その他の疾患罹患のリスクが増加することから、予後増悪因子となる。一方、ESA製剤は高価であるため、必要量を超えて多量に投与すると医療費の高騰を招く。さらにはESA製剤の過剰投与は、患者の頭痛や高血圧、血管閉塞などの原因となる。従ってESA製剤の投薬量は正確にコントロールする必要がある。
【0005】
また慢性腎不全患者には、赤血球の材料となる鉄分を含む鉄含有剤が注射または内服により投与される。鉄含有剤も、投薬量が不足すると貧血の原因となる一方、過剰に投与すると細胞毒になる。従って鉄含有剤もまた、投薬量を正確にコントロールする必要がある。
【0006】
心臓血管手術後の患者への適切な血糖値管理は、合併症予防や予後改善の上で極めて重要である。一般に手術侵襲そのものや、手術後に投与される強心剤などは、血糖値を上昇させる因子となる。これは、手術後の死亡率を増大させる要因となる。一方、70mg/dLを下回るような低血糖は、患者の予後を悪化させる要因となる。従って、手術後の患者にインシュリンを持続投与することにより、患者の血糖値を120-180mg/dLに管理することが理想的であるとされる。
【0007】
従来、ESA製剤や鉄含有剤の投薬量は、熟練した専門医の高度な判断により決定されてきた。すなわち専門医は、患者の血液中の様々な成分や前回までの投薬履歴などから、経験をもとに、次回の投薬を現状維持、増量、あるいは減量とするかを判断する。しかしながら、このような専門医の数は十分とはいえない。
【0008】
これは、心臓血管手術後の患者への血糖値管理にもあてはまる。すなわち、心臓血管手術を受けた患者へのインシュリンの適切な投与量は、従来医師や看護師の経験や暗黙知により決定されてきた。医師や看護師は、患者の血液中の血糖値や、前回までの投与記録などから経験をもとに、次回の投与を現状維持、増量、あるいは減量とするかを判断する。しかしながら、このような医師や看護師の数は十分とはいえない。
【0009】
熟練した専門医が不足する状況で、このような投薬量管理を支援する手段として、機械学習により生成した計算モデルを用いて、投薬量を自動的に判断することが考えられる。しかしながら医療分野における機械学習には、ビッグデータに基づく通常の機械学習とは異なる以下の課題が存在する。
【0010】
課題の一つは、機械学習に利用可能な教師データの数が少ないという点である。患者の血液データや投薬データは個人データであるため、機械学習に使う場合は患者の同意を得る必要がある。しかしながら、多くの患者から同意を得ることは現実的には困難である。また患者のデータが一旦電子カルテに収納されてしまうと、これを抽出して機械学習用のデータとして利用するのは難しいという技術的な問題もある。このように医療分野における機械学習は、限られた数のスモールデータに基づく学習とならざるを得ない。
【0011】
いま一つの課題は、教師データの正解度が安定しないという点である。投薬量を機械学習で計算する場合、過去に医師が決定した判断結果が教師データとして必要となる。しかしながら医師の判断結果は、個々の医師の熟練度や患者の症例に依存して、常に正解であるとは限らない。このように医療分野における機械学習は、正解度が安定しない教師データに基づく学習とならざるを得ない。
【0012】
従って、スモールデータであってかつ正解度が安定しない教師データに基づいて機械学習を行うことにより、投薬量を計算することができるシステムを実現することが求められる。
【0013】
特許文献1に記載の投薬管理システムは、このような課題の解決に寄与するものではない。
【0014】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、投薬を受けその量を適切に管理されることが必要な患者に対する投薬量管理を支援するシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の投薬量管理支援システムは、入力部と計算部とを備える。入力部には、患者への前回投薬からの経過時間および/または患者の血液中の生体物質の値および/または当該値の変化が入力データとして入力される入力される。計算部は、計算モデルに基づいて、入力データから、患者に対する薬の投薬確率を、現状維持、増量、減量の3値で計算し、計算された投薬確率から現状維持か否かを判断する第1の判断と、第1の判断の結果が現状維持でなかった場合に増量か減量かを判断する第2の判断とを計算する。計算モデルは、複数の患者への前回投薬からの経過時間および/または複数の患者の血液中の生体物質の値および/または当該値の変化、およびこれらの患者に対して医師が決定した薬の投薬判断が現状維持、増量、減量のいずれであったかを示すデータを教師データとして機械学習によって生成される。
【0016】
この投薬量管理支援システムは、計算モデルを新たな計算モデルに更新するための計算モデル更新部をさらに備えてもよい。
【0017】
教師データは、教師データは、前回患者に対して医師が決定した前記投薬判断が現状維持、増量、減量であったかを示すデータをさらに含んでもよい。
【0018】
教師データは、前回の投薬量データをさらに含んでもよい。
【0019】
教師データは、感染症または手術があった患者のデータを含まなくてもよい。
【0020】
患者は慢性腎不全患者であってもよく、血液中の生体物質の値は、Hb値、Ferittin値およびTSAT値であってもよく、値の変化はHb値の変化であってもよく、投薬される薬は、ESA製剤または鉄含有剤の少なくとも一方であってもよい。
【0021】
血液中の生体物質の値はMCV値をさらに含んでもよく、値の変化はMCV値の変化をさらに含んでもよい。
【0022】
計算モデルは、投薬判断に関する現状維持、増量、減量の判断から、前記患者のEPOの体外からの供給量と必要量とがバランスしている、体内量が不足している、体内量が過剰である、のいずれであるかを出力してもよい。
【0023】
計算部は、第2の判断が増量であった場合に大きく増量するか小さく増量するかを判断する第3の判断を計算してもよく、第2の判断が減量であった場合に大きく減量するか小さく減量するかを判断する第4の判断を計算してもよい。
【0024】
患者は心臓血管手術後の患者であってもよく、血液中の生体物質の値は血糖値であってもよく、投薬される薬はインシュリンであってもよい。
【0025】
計算モデルは、投薬判断に関する現状維持、増量、減量の判断から、患者のインシュリンが充足、不足、過剰のいずれであるかを出力してもよい。
【0026】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、プログラム、プログラムを記録した一時的なまたは一時的でない記憶媒体、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、投薬を受けその量を適切に管理されることが必要な患者に対する投薬量に関し、現状維持、増量、減量を計算するシステムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】第1実施形態に係る投薬量管理支援システムを示す機能ブロック図である。
図2図1の投薬管理システムの計算モデル記憶部に記憶される計算モデルを示す模式図である。
図3】第6実施形態に係る投薬量管理支援システムの計算部の動作を示すフロー図である。
図4】第8実施形態に係る投薬量管理支援システムを示す機能ブロック図である。
図5】第7実施形態に係る投薬量管理支援システムの判断結果と専門医の判断結果の一致および不一致を示すグラフである。
図6】第7実施形態に係る投薬量管理支援システムの判断結果と専門医の判断結果の一致および不一致を示すグラフである。
図7】第13実施形態に係る投薬量管理支援システムの計算部の動作を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施の形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0030】
本発明の実施形態を具体的に説明する前に、基礎となった知見を説明する。前述のように、一般に医療分野における機械学習は、スモールデータであってかつ正解度が安定しない教師データに基づくものであることが強いられる。本発明者らは研究の結果、慢性腎不全患者に対するESA製剤や鉄含有剤の投薬量を学習する場合、入力する教師データを的確に設定することにより、学習の精度を向上できることに気が付いた。
【0031】
具体的には、ESA製剤や鉄含有剤の投薬量を学習するための教師データとして、複数の慢性腎不全患者の血液中のヘモグロビン(以下「Hb」と呼ぶ)値、貯蔵鉄(以下「Ferittin」と呼ぶ)値、機能鉄(以下「TSAT」と呼ぶ)値、Hb値の変化、およびこれら複数の患者に対して医師が決定した薬の投薬判断が現状維持、増量、減量のいずれであったかを示すデータを用いる。これにより、新たな投薬に関し、患者の血液中のHb値、Ferittin値、TSAT値およびHb値の変化を与えると、この投薬を現状維持、増量、減量とするかの判断を高い精度で計算することができる。
【0032】
入力データは、平均赤血球容積(以下「MCV」と呼ぶ)値およびMCV値の変化をさらに含んでもよい。計算モデルは、複数の慢性腎不全患者の血液中のHb値、MCV値、TSAT値、Ferittin値、Hb値の変化、MCV値の変化、およびこれらの患者に対して医師が決定した前記薬の投薬判断が現状維持、増量、減量のいずれであったかを示すデータを教師データとして機械学習によって生成してもよい。
【0033】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る投薬量管理支援システム1の機能ブロック図である。投薬量管理支援システム1は、入力部10と、計算部11とを備える。計算部11は、計算モデル記憶部12を備える。
【0034】
入力部10には、慢性腎不全患者の血液中のHb値、Ferittin値、TSAT値およびHb値の変化が入力データとして入力される。これらの入力データは、計算部11に送信される。
【0035】
計算部11は、入力部10から受信した入力データから、計算モデル記憶部12に記憶された計算モデルに基づいて、当該慢性腎不全患者に対する薬の投薬判断を、現状維持、増量、減量の3値で計算する。具体的には計算部11は、入力部10から受信した入力データを計算モデルに入力し、薬の投薬判断に関し、現状維持、増量、減量の確率を得る。計算部11は、これらの確率に基づいて、薬の投薬判断を、現状維持、増量、減量の3値で計算する。
【0036】
計算モデル記憶部12に記憶される計算モデルは、機械学習によって生成される。このとき用いられる教師データは、複数の慢性腎不全患者の血液中のHb値、Ferittin値、TSAT値、Hb値の変化、およびこれらの複数の患者に対して医師が決定した薬の投薬判断が現状維持、増量、減量のいずれであったかを示すデータである。
【0037】
計算モデル記憶部12に記憶された計算モデルは、Hb値、Ferittin値、TSAT値およびHb値の変化が入力されると、薬の投薬判断に関し、現状維持、増量、減量の確率を出力してもよい。
【0038】
計算モデルは、薬の投薬判断に関する現状維持、増量、減量の確率を出力することに代えて、この判断から、前記患者のEPOの体外からの供給量と必要量とがバランス、体内量が不足、体内量が過剰、を出力してもよい。前述のように、ESA製剤は患者のEPOが不足したときに投与される。従って、計算モデルによる投与量の現状維持、増量、減量の判断は、それぞれ患者のEPOの体外からの供給量と必要量とがバランスしている、体内量が不足している、体内量が過剰である、に対応する。すなわち計算モデルは、患者のEPOの体外からの供給量と必要量とがバランス、体内量が不足、体内量が過剰、として出力することができる。例えば医師は、この出力結果を見ることにより、患者の病態を知ることができる。
【0039】
図2は、計算モデル記憶部12に記憶される計算モデルの一例を示す模式図である。入力層には、投薬判断が必要な慢性腎不全患者の血液中のHb値、Ferittin値、TSAT値およびHb値の変化が入力される。中間層を含むネットワークには、機械学習によって生成された計算モデルが記憶されている。この計算モデルを用いて計算が実行され、出力層に投薬の現状維持、増量、減量の確率が出力される。
【0040】
本実施形態によれば、慢性腎不全患者に対する薬の投薬量に関し、現状維持、増量、減量を計算する投薬量管理支援システムを実現することができる。
【0041】
[第2実施形態]
やはり図1を用いて、本発明の第2実施形態に係る投薬量管理支援システム1を説明する。投薬量管理支援システム1は、入力部10と、計算部11とを備える。計算部11は、計算モデル記憶部12を備える。
【0042】
入力部10には、慢性腎不全患者の血液中のHb値、MCV値、Ferittin値、TSAT値、Hb値の変化およびMCV値の変化が入力データとして入力される。これらの入力データは、計算部11に送信される。
【0043】
計算部11は、入力部10から受信した入力データから、計算モデル記憶部12に記憶された計算モデルに基づいて、当該慢性腎不全患者に対する薬の投薬判断を、現状維持、増量、減量の3値で計算する。具体的には計算部11は、入力部10から受信した入力データを計算モデルに入力し、薬の投薬判断に関し、現状維持、増量、減量の確率を得る。計算部11は、これらの確率に基づいて、薬の投薬判断を、現状維持、増量、減量の3値で計算する。
【0044】
計算モデル記憶部12に記憶される計算モデルは、機械学習によって生成される。このとき用いられる教師データは、複数の慢性腎不全患者の血液中のHb値、MCV値、Ferittin値、TSAT値、Hb値の変化、MCV値の変化、およびこれらの複数の患者に対して医師が決定した薬の投薬判断が現状維持、増量、減量のいずれであったかを示すデータである。
【0045】
計算モデル記憶部12に記憶された計算モデルは、Hb値、MCV値、Ferittin値、TSAT値、Hb値の変化およびMCV値の変化が入力されると、薬の投薬判断に関し、現状維持、増量、減量の確率を出力する。
【0046】
本実施形態によれば、慢性腎不全患者に対する薬の投薬量に関し、第1実施形態の教師データに、MCV値とMCV値の変化をさらなる教師データとして加えて、現状維持、増量、減量を計算する投薬量管理支援システムを実現することができる。
【0047】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態に係る投薬量管理支援システム1の教師データは、前回患者に対して医師が決定した薬の投薬判断が現状維持、増量、減量であったかを示すデータをさらに含む。第3実施形態のその他の構成は、第1実施形態および第2実施形態と共通である。
【0048】
本発明者らによる研究の結果、投薬量が変化した直後は、投薬量を現状維持として様子を見ることが多いことが分かった。そこで計算モデルを生成するための教師データに、前回患者に対して医師が決定した薬の投薬判断が現状維持、増量、減量であったかを示すデータを追加することにより、計算モデルの精度を改善することができる。
【0049】
一般に人工透析を受ける患者は、1週間から2週間に1度採血をされ、その都度投薬量が決定される。従って、上記の「前回患者に対して医師が決定した薬の投薬判断」は、概ね「1週間から2週間前に患者に対して医師が決定した薬の投薬判断」であると考えてよい。
【0050】
本実施形態によれば、高い精度で投薬判断を計算することのできる投薬量管理支援システムを実現することができる。
【0051】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態に係る投薬量管理支援システム1の教師データは、前回の投薬量データをさらに含む。第4実施形態のその他の構成は、第1実施形態および第2実施形態と共通である。
【0052】
なお第3実施形態と同様に「前回の投薬量データ」は、概ね「1週間から2週間前の投薬量データ」であると考えてよい。
【0053】
本実施形態によれば、正確な投薬判断を計算することのできる投薬量管理支援システムを実現することができる。
【0054】
[第5実施形態]
本発明の第5実施形態に係る投薬量管理支援システム1の教師データは、前回の投薬量が0だったか否かを示すデータをさらに含む。第5実施形態のその他の構成は、第1実施形態および第2実施形態と共通である。
【0055】
本発明者らによる研究の結果、前回の投薬量が0だった場合に、増量の投薬判断をすることは困難であることが分かった。そこで計算モデルを生成するための教師データに、前回の投薬量が0だったか否かを示すデータを追加することにより、投薬量0からの投薬判断に関する計算モデルの精度を改善することができる。
【0056】
なお第3実施形態と同様に「前回の投薬量が0だったか否かを示すデータ」は、概ね「1週間から2週間前の投薬量が0だったか否かを示すデータ」であると考えてよい。
【0057】
本実施形態によれば、高い精度で投薬判断を計算することのできる投薬量管理支援システムを実現することができる。
【0058】
[第6実施形態]
本発明の第6実施形態に係る投薬量管理支援システム1の計算部11は、計算モデル記憶部12に記憶された計算モデルから得られた現状維持、増量、減量の確率に基づいて、現状維持か否かを判断する第1の判断と、この第1の投薬判断の結果が現状維持でなかった場合に増量か減量かを判断する第2の判断とを計算する。
【0059】
前述のように計算モデル記憶部12は、薬の投薬判断に関し、現状維持、増量、減量の3つの値に関する確率を出力する。
【0060】
機械学習によって生成された計算モデルから得られる結果が2値である場合(例えば投薬に関し、増量または減量を判断する場合)、ROC曲線(Receiver Operatorating Characteristic curve)等を用いて、当該モデルの性能を評価することができる。これにより、最終的な計算結果を精度の高いものとすることができる。しかしながら計算モデルから得られる結果が3値の場合、モデルを正確に評価することは困難となる。なぜなら、3値判断のためにROC曲線の手法を拡張しようとする場合、2つの閾値を設定することが必要となるが、これら2つの閾値を同時に変動させながら最適解を見出すのは困難だからである。
【0061】
本発明者らは研究の結果、現状維持、増量、減量の3値で投薬を判断する場合、現状維持か否かの判断(以下「第1の判断」と呼ぶ)と、現状維持でなかった場合における増量か減量かの判断(以下「第2の判断」と呼ぶ)とでは、判断の特性が異なることに気が付いた。すなわち、第1の判断は比較的困難であるが、第1の判断がされていれば第2の判断は比較的容易である。この知見に基づき、以下に説明するように3値の判断を、最初の第1の判断と、それに続く第2の判断の2段階で行うことにより、判断の精度を向上させることができる。
【0062】
図3は、第6実施形態に係る投薬量管理支援システム1の計算部11の動作を示すフロー図である。
【0063】
ステップS1で計算部11は、投薬判断に関し、現状維持である確率Pstay、増量である確率Pup、減量である確率Pdownを、計算モデル記憶部12に記憶された計算モデルから取得する。ただし、Pstay+Pup+Pdown=1である。
【0064】
ステップS2で計算部11は、第1の判断に関する閾値Tを設定する。ただし、0<T<1である。T=0は常に現状維持と判断することを意味し、T=1は常に増量または減量と判断することを意味する。
【0065】
ステップS3で計算部11は、第1の判断、すなわち現状維持か否かの判断を実行する。具体的には計算部11は、Pstay≧Tであるか否かを判断する。
【0066】
ステップS3における第1の判断が肯定的だった場合は、処理はステップS4に移行する。
【0067】
ステップS4で計算部11は、投薬が現状維持であるとする計算結果を出力し、処理は終了する。
【0068】
ステップS3における第2の判断が否定的だった場合は、処理はステップS5に移行する。
【0069】
ステップS5で計算部11は、第2の判断、すなわち増量か減量かの判断を実行する。具体的には計算部11は、Pup≧Pdownであるか否かを判断する。
【0070】
ステップS5における第2の判断が肯定的だった場合は、処理はステップS6に移行する。
【0071】
ステップS6で計算部11は、投薬が増量であるとする計算結果を出力し、処理は終了する。
【0072】
ステップS5における第2の判断が否定的だった場合は、処理はステップS7に移行する。
【0073】
ステップS7で計算部11は、投薬が減量であるとする計算結果を出力し、処理は終了する。
【0074】
本実施形態によれば、高い精度で投薬判断を計算することのできる投薬量管理支援システムを実現することができる。
【0075】
[第7実施形態]
本発明の第7実施形態に係る投薬量管理支援システム1の教師データは、感染症または手術があった患者のデータを含まない。第7実施形態のその他の構成は、第1実施形態および第2実施形態と共通である。
【0076】
本発明者らによる研究の結果、教師データに感染症があった患者のデータや手術があった患者のデータが含まれると、学習の精度が低下することが分かった。そこで教師データから感染症または手術があった患者のデータを除外することにより、計算モデルの精度を改善することができる。
【0077】
本実施形態によれば、高い精度で投薬判断を計算することのできる投薬量管理支援システムを実現することができる。
【0078】
[第8実施形態]
図4は、本発明の第8実施形態に係る投薬量管理支援システム2の機能ブロック図である。投薬量管理支援システム2は、計算モデルを新たな計算モデルに更新するための計算モデル更新部13を備える。投薬量管理支援システムのその他の構成は、図1の投薬量管理支援システム1および第2実施形態の構成と共通である。
【0079】
一度生成された計算モデルは、新たに教師データを与えて機械学習を実行することにより、より正確な結果を出すことのできる計算モデルに更新することができる。こうして更新された新たな計算モデルを、定期的に、あるいは必要に応じて、計算モデル更新部13に与えることで、計算モデル記憶部12に記憶される計算モデルは更新される。これにより、投薬判断をより正確なものにすることができる。
【0080】
本実施形態によれば、投薬量管理支援システムを、より高い精度で投薬判断ができるものにバージョンアップすることができる。
【0081】
[検証1]
本発明の臨床での利用性を検証するために、本発明に係る投薬量管理支援システムが計算した投薬判断と、専門医が下した判断とを比較した。検証は、ESA製剤の投薬の現状維持、増加、減少に関し、検証用のデータセットを用いて行った。
【0082】
図5は、以下の実施形態における判断結果と専門医の判断結果の一致および不一致を示すグラフ3である。すなわちこの実施形態は、第1の実施形態の要件を具備する投薬量管理支援システムである。入力データは、MCV値およびMCV値の変化を含む。教師データは、前回患者に対して医師が決定した前記薬の投薬判断が現状維持、増量、減量であったかを示すデータと前回の投薬量データと前回の投薬量が0だったか否かを示すデータとを含む。計算部は、前記計算モデルから得られた現状維持、増量、減量の確率に基づいて、現状維持か否かを判断する第1の判断と、前記第1の判断の結果が現状維持でなかった場合に増量か減量かを判断する第2の判断とを計算する。教師データは、感染症または手術があった患者のデータを含まない。このとき領域30は、現状維持の判断結果に関し、投薬量管理支援システム1と専門医の判断が一致したものの割合である。領域31は、増量または減量の判断結果に関し、投薬量管理支援システム1と専門医の判断が一致したものの割合である。領域32は、投薬量管理支援システム1と専門医の判断が一致しなかったものの割合である。
【0083】
図5から、領域30と領域31とをあわせて77%の割合で、投薬量管理支援システム1と専門医の判断が一致したことが分かる。そして23%の割合で、投薬量管理支援システム1と専門医の判断が一致しなかったことが分かる。
【0084】
図5は、投薬量管理支援システム1の判断結果と専門医の判断結果の単純な一致および不一致を示している。ただし、この不一致の中には、投薬量管理支援システム1と専門医の判断のタイミングが異なるために、具体的には投薬量管理支援システム1が専門医より早い日に判断をしたために、見かけ上不一致となるものも含まれている点に留意する必要がある。
【0085】
図6は、前述の実施形態に係る投薬量管理支援システムの判断結果と専門医の判断結果の一致および不一致を示すグラフ4である。ただし図6は、図5の各領域を詳細化して示す。領域40は、投薬量管理支援システム1の判断と専門医の判断とが同日であって、現状維持の判断結果に関し、両者の判断が一致したものの割合である。領域41は、投薬量管理支援システム1の判断と専門医の判断とが同日であって、増量または減量の判断結果に関し、両者の判断が一致したものの割合である。領域42は、投薬量管理支援システム1の判断の方が専門医の判断より早い日に行われ、専門医が判断した日に両者の判断が一致したものの割合である。領域43は、投薬量管理支援システム1と専門医の判断の日に関わらず、両者の判断が一致しなかったものの割合である。
【0086】
図6から、領域40と領域41と領域42をあわせて83%の割合で、投薬量管理支援システム1と専門医の判断が一致したことが分かる。そして17%の割合で、投薬量管理支援システム1と専門医の判断が一致しなかったことが分かる。
【0087】
図6の領域43内の各事例についてさらに詳細な検証を行った結果、領域43には、明らかに投薬量管理支援システム1の判断が誤りだったものの他、投薬量管理支援システム1の判断の方が正しく専門医の判断が誤りだったものや、どちらの判断が正しいか不明のものも含まれることが分かった。結果的に、明らかに投薬量管理支援システム1の判断が誤りだったものの割合は、全体の13%程度であった。すなわち、投薬量管理支援システム1は、専門医の判断に対して約87%の正解度で投薬量を計算できることが分かった。
【0088】
以上の検証結果から、本発明に係る投薬量管理支援システム1は、臨床での利用に十分耐える精度で投薬判断ができるものであると考えることができる。
【0089】
[検証2]
第1実施形態(教師データおよび入力データにMCV値およびMCV値の変化を含まないもの)と第2実施形態(教師データおよび入力データにMCV値およびMCV値の変化を含むもの)との効果の相違を確認するために、実際の患者の症例を対象に検証を行った。ここでは、学習データに関して、患者数131、対象週数6080のものを用いた。また、評価データに関して、患者数87、対象週数1857のものを用いた。結果は以下の通りである。
(ケース1)投薬量管理支援システム1の判断と専門医の判断とが同日であって、両者の判断が一致したもの。第1の実施形態で80%、第2の実施形態で77%。
(ケース2)ケース1の結果に投薬量管理支援システム1の判断の方が専門医の判断より早い日に行われ、専門医が判断した日に両者の判断が一致したものも加えたもの。第1の実施形態で86%、第2の実施形態で84%。
いずれのケースも、第1実施形態の方が一致率の点で若干よい結果が得られている。この理由については現時点では不明な点もあるが、例えば貧血にはMCVからは見えない因子もあるため、MCVなしの方が結果がよい可能性があることが考えられる。また本発明は、確率的な方法を用いているため、試行によって正解率の値が変化する。上記の正解率の数値は、何回か試行してその中で一番高い値を取っている。ここでMCVの有無によって現れている差はそのときの変化の範囲と同程度なので、本質的に大きな差はないといってもよい。いずれにしても、第1および第2のいずれの実施形態でも、臨床での利用に十分な投薬判断ができると考えられる。
【0090】
[検証3]
上記の検証1および検証2はいずれも、本投薬量管理支援システムの学習データ生成と、専門医による判断とが同じ医療機関に属するものであった。これに対し、本投薬量管理支援システムの学習データ生成と、専門医による判断とが異なる医療機関に属するものであった場合の有効性を確認するための検証を行った。ここでは、第2の実施形態(教師データおよび入力データにMCV値およびMCV値の変化を含むもの)を用いた。
A病院:本投薬量管理支援システムの学習データ生成を行った病院(学習データに関して、患者数131、対象週数6080。評価データに関して、患者数87、対象週数1857)
B病院:本投薬量管理支援システムの学習データ生成に関与しない病院(評価データに関して、患者数16、対象週数298。(注:学習データは上記A病院のものを使用)
このとき、A病院の専門医の判断と、B病院の判断のそれぞれに関し、本投薬量管理支援システムの判断との一致率は以下の通りであった。
(ケース3)投薬量管理支援システム1の判断と専門医の判断とが同日であって、両者の判断が一致したもの。A病院で77%、B病院で72%。
(ケース4)ケース3の結果に投薬量管理支援システム1の判断の方が専門医の判断より早い日に行われ、専門医が判断した日に両者の判断が一致したものも加えたもの。A病院で84%、B病院で81%。
いずれのケースでも、学習データの生成を行ったA病院の専門医の判断の方が一致率が高かったものの、B病院の専門医の判断も十分な一致率を得ている。このことから本投薬量管理支援システムは、学習データ生成への関与の有無に関わらず、十分汎用的に専門医と近い投薬判断ができることが分かる。
【0091】
[第9実施形態]
図1を用いて、本発明の第9実施形態に係る投薬量管理支援システム1を説明する。投薬量管理支援システム1は、入力部10と、計算部11とを備える。計算部11は、計算モデル記憶部12を備える。
【0092】
入力部10には、心臓血管手術後の患者の血液中の血糖値、インシュリン投与量および心臓血管手術終了時からインシュリンが投与された時までの経過時間が入力データとして入力される。これらの入力データは、計算部11に送信される。
【0093】
計算部11は、入力部10から受信した入力データから、計算モデル記憶部12に記憶された計算モデルに基づいて、当該心臓血管手術後の患者に対するインシュリンの投与判断を、現状維持、増量、減量の3値で計算する。具体的には計算部11は、入力部10から受信した入力データを計算モデルに入力し、インシュリンの投与判断に関し、現状維持、増量、減量の確率を得る。計算部11は、これらの確率に基づいて、インシュリンの投与判断を、現状維持、増量、減量の3値で計算する。
【0094】
計算モデル記憶部12に記憶される計算モデルは、機械学習によって生成される。このとき用いられる教師データは、心臓血管手術後の患者の血液中の血糖値、インシュリン投与量、前記心臓血管手術終了時から前記インシュリンが投与された時までの経過時間、およびこれらの患者に対して医師が決定した前記インシュリンの投与判断が現状維持、増量、減量のいずれであったかを示すデータである。
【0095】
計算モデル記憶部12に記憶された計算モデルは、心臓血管手術後の患者の血液中の血糖値、インシュリン投与量、前記心臓血管手術終了時から前記インシュリンが投与された時までの経過時間が入力されると、インシュリンの投与判断に関し、現状維持、増量、減量の確率を出力する。
【0096】
計算モデルは、インシュリンの投与判断に関する現状維持、増量、減量の確率を出力することに代えて、この判断から、前記患者のインシュリンの体外からの供給量と必要量とがバランス、体内量が不足、体内量が過剰、を出力してもよい。前述のように、患者の血中インシュリンが不足したときに投与される。従って、計算モデルによる投与量の現状維持、増量、減量の判断は、それぞれ患者のインシュリンの体外からの供給量と必要量とがバランスしている、体内量が不足している、体内量が過剰である、に対応する。すなわち計算モデルは、患者のインシュリンの体外からの供給量と必要量とがバランス、体内量が不足、体内量が過剰、として出力することができる。例えば医師は、この出力結果を見ることにより、患者の病態を知ることができる。
【0097】
[第10実施形態]
本発明の第10実施形態に係る投薬量管理支援システム1の教師データは、前回のインシュリン投与量データをさらに含む。第10実施形態のその他の構成は、第9実施形態と共通である。
【0098】
[第11実施形態]
本発明の第11実施形態に係る投薬量管理支援システム1の計算部11は、計算モデル記憶部12に記憶された計算モデルから得られた現状維持、増量、減量の確率に基づいて、現状維持か否かを判断する第1の判断と、この第1のインシュリン投与判断の結果が現状維持でなかった場合に増量か減量かを判断する第2の判断とを計算する。
【0099】
図3を用いて、第11実施形態に係る投薬量管理支援システム1の計算部11の動作を説明する。
【0100】
ステップS1で計算部11は、インシュリン投与判断に関し、現状維持である確率Pstay、増量である確率Pup、減量である確率Pdownを、計算モデル記憶部12に記憶された計算モデルから取得する。ただし、Pstay+Pup+Pdown=1である。
【0101】
ステップS2で計算部11は、第1の判断に関する閾値Tを設定する。ただし、0<T<1である。T=0は常に現状維持と判断することを意味し、T=1は常に増量または減量と判断することを意味する。
【0102】
ステップS3で計算部11は、第1の判断、すなわち現状維持か否かの判断を実行する。具体的には計算部11は、Pstay≧Tであるか否かを判断する。
【0103】
ステップS3における第1の判断が肯定的だった場合は、処理はステップS4に移行する。
【0104】
ステップS4で計算部11は、インシュリン投与が現状維持であるとする計算結果を出力し、処理は終了する。
【0105】
ステップS3における第2の判断が否定的だった場合は、処理はステップS5に移行する。
【0106】
ステップS5で計算部11は、第2の判断、すなわち増量か減量かの判断を実行する。具体的には計算部11は、Pup≧Pdownであるか否かを判断する。
【0107】
ステップS5における第2の判断が肯定的だった場合は、処理はステップS6に移行する。
【0108】
ステップS6で計算部11は、インシュリン投与が増量であるとする計算結果を出力し、処理は終了する。
【0109】
ステップS5における第2の判断が否定的だった場合は、処理はステップS7に移行する。
【0110】
ステップS7で計算部11は、インシュリン投与が減量であるとする計算結果を出力し、処理は終了する。
【0111】
本実施形態によれば、高い精度でインシュリン投与判断を計算することのできる投薬量管理支援システムを実現することができる。
【0112】
[第12実施形態]
【0113】
図7を用いて、本発明の第12実施形態に係る投薬量管理支援システム1を説明する。投薬量管理支援システム1は、入力部10と、計算部11とを備える。計算部11は、計算モデル記憶部12を備える。
【0114】
入力部10には、心臓血管手術後の患者の血液中の血糖値、インシュリン投与量および心臓血管手術終了時からインシュリンが投与された時までの経過時間が入力データとして入力される。これらの入力データは、計算部11に送信される。
【0115】
計算部11は、入力部10から受信した入力データから、計算モデル記憶部12に記憶された計算モデルに基づいて、当該心臓血管手術後の患者に対するインシュリンの投与判断を、現状維持、大きく増量、小さく増量、大きく減量、小さく減量の5値で計算する。具体的には計算部11は、入力部10から受信した入力データを計算モデルに入力し、インシュリンの投与判断に関し、現状維持、増量、減量の確率を得る。計算部11は、これらの確率に基づいて、インシュリンの投与判断を、現状維持、大きく増量、小さく増量、大きく減量、小さく減量の5値で計算する。
【0116】
心臓血管手術後の患者に対するインシュリンの投与量管理は、第1~第8実施形態で説明した慢性腎不全患者への投薬量管理に比べて、よりきめ細かい管理を行うと有利であることが知られている。本実施形態は、心臓血管手術後の患者に対するインシュリンの投与量を、現状維持、大きく増量、小さく増量、大きく減量、小さく減量の5つの基準で管理することができる。従って本実施形態によれば、よりきめ細かい投与判断を計算することのできる投薬量管理支援システムを実現することができる。
【0117】
[第13実施形態]
本発明の第13実施形態に係る投薬量管理支援システム1の計算部11は、計算モデル記憶部12に記憶された計算モデルから得られた現状維持、大きく増量、小さく増量、大きく減量、小さく減量の確率に基づいて、現状維持か否かを判断する第1の判断と、この第1の判断の結果が現状維持でなかった場合に増量か減量かを判断する第2の判断と、第2の判断が増量であった場合に大きく増量するか小さく増量するかを判断する第3の判断と、第2の判断が減量であった場合に大きく減量するか小さく減量するかを判断する第4の判断とを計算する。
【0118】
図7は、第13実施形態に係る投薬量管理支援システム1の計算部11の動作を示すフロー図である。
【0119】
ステップS11で計算部11は、インシュリン投与判断に関し、現状維持である確率Pstay、増量である確率Pup、減量である確率Pdownを、計算モデル記憶部12に記憶された計算モデルから取得する。ただし、Pstay+Pup+Pdown=1である。
【0120】
ステップS12で計算部11は、第1の判断に関する閾値Tを設定する。ただし、0<T<1である。T=0は常に現状維持と判断することを意味し、T=1は常に増量または減量と判断することを意味する。
【0121】
ステップS13で計算部11は、第1の判断、すなわち現状維持か否かの判断を実行する。具体的には計算部11は、Pstay≧Tであるか否かを判断する。
【0122】
ステップS13における第1の判断が肯定的だった場合は、処理はステップS14に移行する。
【0123】
ステップS14で計算部11は、インシュリン投与が現状維持であるとする計算結果を出力し、処理は終了する。
【0124】
ステップS13における第2の判断が否定的だった場合は、処理はステップS15に移行する。
【0125】
ステップS15で計算部11は、第2の判断、すなわち増量か減量かの判断を実行する。具体的には計算部11は、Pup≧Pdownであるか否かを判断する。
【0126】
ステップS15における第2の判断が肯定的だった場合は、処理はステップS16に移行する。
【0127】
ステップS16で計算部11は、第3の判断、すなわちインシュリン投与が増量であるときに大きく増量するか小さく増量するかを判断する。具体的には、計算部11は、Pup_1≧Pup_2であるか否かを判断する。ここでPup_1は大きく増量である確率であり、Pup_2は小さく増量である確率であり、Pup_1+Pup_2=Pupである。
【0128】
ステップS16における第3の判断が肯定的だった場合は、処理はステップS17に移行する。
【0129】
ステップS17で計算部11は、投薬が大きく増量であるとする計算結果を出力し、処理は終了する。
【0130】
ステップS16における第3の判断が否定的だった場合は、処理はステップS18に移行する。
【0131】
ステップS18で計算部11は、投薬が小さく増量であるとする計算結果を出力し、処理は終了する。
【0132】
ステップS15における第2の判断が否定的だった場合は、処理はステップS19に移行する。
【0133】
ステップS19で計算部11は、第4の判断、すなわちインシュリン投与が減量であるときに大きく減量するか小さく減量するかを判断する。具体的には、計算部11は、Pdown_1≧Pdown_2であるか否かを判断する。ここでPdown_1は大きく減量である確率であり、Pdown_2は小さく減量である確率であり、Pdown_1+Pdown_2=Pdownである。
【0134】
ステップS19における第4の判断が肯定的だった場合は、処理はステップS20に移行する。
【0135】
ステップS20で計算部11は、投薬が大きく減量であるとする計算結果を出力し、処理は終了する。
【0136】
ステップS19における第4の判断が否定的だった場合は、処理はステップS21に移行する。
【0137】
ステップS21で計算部11は、投薬が小さく減量であるとする計算結果を出力し、処理は終了する。
【0138】
本実施形態によれば、現状維持、大きく増量、小さく増量、大きく減量、小さく減量の5段階でインシュリン投与量を計算することができるので、きめ細かい管理のできる投薬量管理支援システムを実現することができる。
【0139】
[検証4]
本発明の心臓血管手術後の患者への利用性を検証するために、実際の患者の18症例について、手術後24時間の血糖値の時間的推移とインシュリンの投与量のデータを用いて、本投薬量管理支援システムの判断と、熟練医師の判断とを比較した。この結果、ほぼ60%の一致率で両者の判断が一致した。これにより、本投薬量管理支援システムが、心臓血管手術後の患者に対する血糖値管理に十分利用可能であることが分かる。
【0140】
以上、本発明のいくつかの実施形態をもとに説明した。これらの実施形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求の範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【0141】
例えば図4の投薬量管理支援システム2は、計算モデルを機械学習により生成する計算モデル生成部を備えてもよい。そして新たに生成された計算モデルを、定期的に、あるいは必要に応じて、計算モデル更新部13に与えることで、計算モデル記憶部12に記憶される計算モデルが更新されてもよい。本変形例によれば、計算モデルを外部で生成または更新して用意することなく、本投薬量管理支援システム単独で計算モデルを生成または更新することができる。
【0142】
変形例は実施の形態と同様の作用・効果を奏する。
【0143】
上述した各実施形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる各実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明は、投薬量管理支援システムに利用可能である。
【符号の説明】
【0145】
1・・投薬量管理支援システム、
2・・投薬量管理支援システム、
10・・入力部、
11・・計算部、
12・・計算モデル記憶部、
13・・計算モデル更新部、
S3・・第1の判断、
S5・・第2の判断
S13・・第1の判断、
S15・・第2の判断、
S16・・第3の判断、
S19・・第4の判断。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7