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特許7412018リガンドと受容体との間の相互作用を決定する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】リガンドと受容体との間の相互作用を決定する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20240104BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20240104BHJP
   C12Q 1/00 20060101ALN20240104BHJP
   C12Q 1/37 20060101ALN20240104BHJP
【FI】
G01N33/543 515H
G01N33/543 515A
G01N21/64 F
G01N21/64 E
G01N21/64 G
C12Q1/00 C
C12Q1/37
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021503560
(86)(22)【出願日】2019-08-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 EP2019070925
(87)【国際公開番号】W WO2020025808
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】18187241.7
(32)【優先日】2018-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521025979
【氏名又は名称】インシングロ エービー
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カミンスキー,ティム
(72)【発明者】
【氏名】ホーク,フレドリック
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】Olov WAHLSTEN et al.,“Equilibrium-Fluctuation Analysis for Interaction Studies between Natural Ligands and Single G Protein-Coupled Receptors in Native Lipid Vesicles”,Langmuir,2015年09月17日,Vol. 31, No. 39,p.10774-10780,DOI: 10.1021/acs.langmuir.5b02463
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 21/64
C12Q 1/00
C12Q 1/37
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のリガンドと受容体との間の相互作用を決定する方法であって、当該方法は、次の一連の工程、即ち、
a) 第1のリガンドを含まず、且つ濃度Cの受容体を含む第1の溶液を提供する工程と、
b) 前記第1の溶液を、第2のリガンドで機能化された試験ウェル壁と接触させる工程、及び、時間間隔tの間の受容体と第2のリガンドとの間の結合事象の数を記録する工程と、
c) 前記受容体を含まず、且つ濃度Cの第1のリガンドを含む試験溶液を、工程b)の前記第1の溶液に添加して第2の溶液を提供し、その際に、時間間隔tの間の前記第2の溶液中の受容体と第2のリガンドとの間の結合事象の数を記録することを継続する工程と、
d) 工程b)および工程c)で記録された結合事象の数に基づいて、第1のリガンドと受容体との間の相互作用を決定する工程と、
を備え、
前記工程d)は、観察された速度定数k obs 、会合定数k on 、解離定数k off 、平衡解離定数K 、部分占有率のうちの少なくとも1つを前記第1のリガンドについて決定することを含んでなる、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記工程b)は、
b) 前記第1の溶液を、第2のリガンドで機能化された試験ウェル壁と接触させ、その際に、時間間隔tの間の受容体と第2のリガンドとの間の結合事象の数を記録する工程
である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記時間間隔tが、少なくとも、第1のリガンドと受容体との間の結合反応の1/kobsである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第2のリガンドと受容体との間の結合事象の記録が、
第1のリガンドおよび受容体が平衡結合に達するまで行われる、又は、
第1のリガンドおよび受容体が平衡結合に達するまで及びその後も行われる、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記一連の工程が、複数の試験ウェルのそれぞれにおいて完全に実行される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記一連の工程が、前記試験溶液でのいくつかの異なる濃度Cの第1のリガンドについて実行される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、工程e)、即ち、
e) 前記試験溶液中の第1のリガンドの濃度Cを増加させて工程c)を繰り返す工程、
を更に備える、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記受容体が、リポソーム、デンドリマー、デンドロン、錯化ランタニド、量子ドット、ナノダイヤモンド、または脂質ディスクなどのビヒクルと結合されて、固定化された受容体を提供する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記固定化された受容体は、フルオロフォア(fluorophore)を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第1のリガンドおよび前記第2のリガンドが同じものである、又は、異なるものである、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記受容体が医薬品受容体である、および/または、
前記第1のリガンドおよび/または前記第2のリガンドが医薬品である、
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
当該方法は、部分占有率を前記第1のリガンドについて決定することを含む、
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記複数の試験ウェルが、サンプルホルダーアセンブリの一部を形成する、請求項5~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記サンプルホルダーアセンブリが、全反射蛍光(TIRF)顕微鏡と組み合わせて使用されるように構成されていると共に、
- 複数の底なし試験ウェル(2)を含むサンプルホルダープレート(1)と、
- 材料(4)によって前記サンプルホルダープレート(1)に取り付けられ、それによって前記複数の試験ウェル(2)のウェル底壁(5)を形成する底プレート(3)と、
を備えており、前記材料(4)は、前記底プレート(3)の屈折率(N)よりも低い屈折率(N)を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記材料(4)が、UV硬化性である、および/もしくは、緩衝液に対して耐性である、並びに/又は、
前記材料(4)が接着剤である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記サンプルホルダーアセンブリ(10)が、光ビームを前記ウェル底壁(5)に提供するように構成されたTIRF光源と組み合わされており、その結果、前記光ビームが前記ウェル底壁(5)全体に伝搬することにより、前記複数のウェル(2)にエバネッセント場を作り出す、請求項13~15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試験化合物などの第1のリガンドと標的分子などの受容体との間の相互作用を決定する方法に関する。本開示はまた、前記方法で使用するためのサンプルホルダーアセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセンサは、結合キネティクスデータを生成するための創薬で使用され、これは、化合物最適化プロセス中の構造とキネティクスとの関係の理解を深めるために使用できる。最適化された流体工学と高いサンプリングレートにより分子の会合および解離のプロセスを正確に説明できるため、キネティクス情報は、表面プラズモン共鳴
(Surface Plasmon Resonance:SPR)などのマイクロ流体工学ベースのバイオセンサプラットフォームを通じて推測されることがよくある。拡張された解離プロセスに関する情報は、最終的には化合物の有効性および安全性を高める可能性を提供するため、対応する薬物動態学的特徴と相関する場合、治療の成功を確実にするのに役立つ可能性がある。
【0003】
すべての光学バイオセンサプラットフォームは、1つの相互作用パートナー、通常は薬物標的タンパク質、オリゴヌクレオチド、または細胞全体をバイオセンサ表面に付着させることにより、同じガイド原理に従う。続いて、直接結合情報を取得するため、または細胞システムで作業する際の結合の生物学的結果を研究するために、修飾された表面を、試験化合物を含有する溶液で試験する。このアッセイ構成は、直接結合アッセイ(Direct Binding Assay:DBA)と呼ばれる。
【0004】
表面プラズモン共鳴(SPR)および光導波路(Optical Waveguide:OWG)は、エバネッセント波現象を利用しているため、センサ表面の分子量の変化に比例する屈折率の変化を測定できる。対照的に、バイオレイヤー干渉法(Bio Layer Interferometry:BLI)は、センサと直接接触しているレイヤーの有効光学的厚さの変化を監視できる干渉パターンの分析を通じて機能する。すべてのプラットフォームに共通しているのは、特にマイクロ流体工学ベースのシステムを使用している場合の結合相互作用の時間分解測定機能である。光学バイオセンサシステムは使用済み試薬のラベリングを必要としないため、ターゲットまたは化合物のいずれかを標識することによって導入される可能性のあるアッセイアーティファクトの数を減らすことを目的としたラベルフリー技術と呼ばれることがよくある。
【0005】
マイクロ流体工学ベースのバイオセンサプラットフォームの1つの一般的な特性は、2つの別々の実験の必要性である。まず、センサ表面を分析物と接触させる。これにより、反応速度が測定され、この反応速度は、最も単純なケースでは、会合の速度定数である
onと、解離の速度定数であるkoffとの畳み込みである。通常この反応は、センサ表面の平衡被覆率に達するまで観察され、その被覆率は平衡解離定数K=koff/konによって決定される。続いて、センサ表面は、解離反応のみを監視することを目的として、分析物を含まない溶液にさらされ、そこからkoffを直接推定することができる。
【0006】
このタイプのバイオセンシングには、特に標的分子が膜タンパク質である場合、多くの欠点がある。承認されたすべての薬物標的の約60%が膜タンパク質であると推定されている。特に膜タンパク質の場合、成功率は約30%と低くなっている。
【0007】
多くの薬物標的、特に膜タンパク質は、センサ表面での固定化と互換性がない。したがって、時間およびリソースを大量に消費する変更を標的に導入する必要がある。
【0008】
信号の振幅は固定化された標的の数に比例するため、表面に高密度の薬物標的が必要である。
【0009】
これらのシステムは、表面での正味の変化のみを検出できる。したがって、それらは平衡状態での結合および非結合のダイナミクスを棚に上げる。
【0010】
これらのセンサプラットフォームは、非常に限られた数のセンサ表面を提供する。SPRシステムには通常、3~4個の個別のセンサ表面がある。これは、標的が機能しなくなると、センサが「失われる」ことを意味する。センサコストの次に、デバイスはその特定の表面のそれ以上のデータを記録できない。これにより、スループットが大幅に制限される。
【0011】
新しい分析を開始し得る前に、センサ表面に試験化合物が含まれていない必要がある。滞留時間が長い化合物の場合、これは困難な場合があり、表面再生がスループットを制限することがよくある。
【0012】
感度は、バイオセンサプラットフォームの技術的特徴によって制限される。
【0013】
標的の固定化の問題を軽減する1つの方法は、薬物標的を溶液中に保つことである。標的を固定化する代わりに、いわゆるツール化合物が固定化され、浮遊標的が特定の方法で相互作用することが知られている。試験化合物を機器の外側の標的に加えて、標的分子および試験化合物分子を反応させ、その後、得られた溶液を固定化されたツール化合物の上に注入する。この技術は、一般に溶液アッセイにおける阻害(Inhibition in Solution Assay:ISA)と呼ばれる。したがって、試験化合物の異なる濃度がツール化合物への標的の結合にどのように影響するかを調査することにより、薬物標的への試験化合物の平衡解離定数Kを決定することができる。非特許文献1は、このタイプのアッセイを開示している。従来の標識フリー技術の場合、固定化されたツール化合物は、薬物標的からゆっくりと解離する必要がある。このようなツール化合物を入手することは困難である。
【0014】
DBAとは対照的に、標識フリー技術の構成では、ISAと組み合わせた結合キネティクスの測定、すなわち会合速度定数konおよび解離速度定数koffを使用できない。非特許文献2は、非標識フリー技術が競合実験によって非常に限られた範囲でキネティクスを測定できることを開示し、2つのリガンドが標的への結合を競合している場合に結合キネティクスがどのように変化するかを数学的に説明している。リガンドのうちの1つのキネティクスがわかっていて(リガンドA)、このリガンドがラベル付けされていて、他のリガンド(リガンドB)と区別できる場合、リガンドBの結合キネティクスは、リガンドAの結合キネティクスを記録することによって決定できる。非特許文献3は、これらのアッセイには、標的に高い親和性で結合する標識されたツール化合物が必要であることを開示している。
【0015】
非特許文献4は、高感度で溶液アッセイにおいて阻害を実行できる単一分子ベースのISA(SMM-ISA)を開示している。この方法では、標的は表面に固定化されないが、代わりに、脂質環境に蛍光色素を運ぶ浮遊自由拡散リポソーム内で/において固定化される。表面には、標的に結合できるツール化合物が固定化される。変更された表面は、全反射蛍光(Total internal Reflection Fluorescence:TIRF)顕微鏡で画像化される。TIRFは、表面に近いリポソーム(100nmのカップル)のみを励起する励起光のエバネッセント場を生成する。リポソームの濃度を低く保つことにより、表面に結合し、表面から解離する単一のリポソームを画像化することができる。上記の従来の方法とは対照的に、高感度の単一分子アッセイにより、薬物標的に対するツール化合物の親和性を桁違いに低くすることができる。さらに、標的含有リポソームの濃度は、従来のISAよりも桁違いに低くなる可能性がある。
【0016】
ただし、SMM-ISAに関する最初のレポートでは、決定できるのは標的と表面固定化されたツール化合物間の結合キネティクスのみであり、標的と試験化合物との間の重大な相互作用の動的キネティクスパラメーター(結合速度定数(kon)および解離速度定数(koff))ではなかった。追加の欠点は、スループットが低く、手作業が大量に行われることであった。これにより、コスト効率、再現性、ひいては信頼性が制限されるため、業界の要件を満たさない。
【0017】
非特許文献5は、全反射蛍光顕微鏡を使用して、炎症反応に関与するGPCRであるCXCR3と、そのケモカインリガンドの2つであるCXCL10およびCXCL11との間のキネティクスを特徴付けることを開示している。膜タンパク質自体ではなく、GPCRを含有する天然小胞の脂質膜の蛍光標識および表面への対応するリガンドの固定化により、単一の分子平衡変動分析を使用した溶液中の受容体とリガンドとの間の解離定数の決定を可能にする。CXCR3とケモカインリガンドCXCL10およびCXCL11との間の相互作用は、停滞液体条件下で行われた。
【0018】
非特許文献6は、単一結合事象の平衡変動分析から、膜受容体へのリガンド結合のキネティクスを開示している。停滞液体条件を使用し、各会合および解離事象をマイクロウェル形式のTIRF顕微鏡法によって経時的に監視した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0019】
【文献】J.Med.Chem.,(2013)、56、3228~3234
【文献】Mol.Pharmacol.(1984)、25、1-9
【文献】Anal.Biochem.(1975)、468、42-49
【文献】Anal.Chem.(2015)、87、4100-4103
【文献】Langmuir,2015,31(39),pp10774-10780
【文献】J.Am.Chem.Soc.,2011、133、14852-14855
【発明の概要】
【0020】
上記の問題のいくつかを克服すること、または少なくとも軽減することが、本願の目的である。さらに本願の目的は、これまでに知られている技術によって提供されない利点および/または態様を提供することにある。
【0021】
本願発明は、第1のリガンドと受容体との間の相互作用を決定する方法であって、次の一連の方法工程:
a)第1のリガンドを含まず、濃度Cの受容体を含む第1の溶液を提供する工程と、
b)時間間隔tの間の受容体と第2のリガンドとの間の結合事象の数を記録しながら、第1の溶液と第2のリガンドで機能化された試験ウェル壁とを接触させる工程と、
c)時間間隔tの間の第2の溶液中の第2のリガンドと受容体との間の結合事象の数の記録を継続しながら、受容体を含まず、濃度Cの第1のリガンドを含む試験溶液を第1の溶液に添加して、第2の溶液を提供する工程と、を含む、方法を提供する。
【0022】
重要なことに、本明細書に記載の方法における結合事象の数の記録は、第1のリガンドを含む試験溶液の添加中、すなわち工程c)に行われ、第1のリガンドの添加直後に第2の溶液が平衡に到達する前に開始され得る。これは、結合事象の記録が第1のリガンドの添加後にのみ行われ、第1のリガンドと受容体との間の結合が平衡または準平衡に達した停滞条件とは対照的である。したがって、本明細書に記載の方法は、非停滞液体条件などの非停滞条件を使用する。結果として、第1のリガンドと受容体との間の相互作用の決定は、第1のリガンドと受容体との間の平衡結合の前に行われる。本明細書に記載の方法の重要な利点は、測定を行うための合計時間を長くする平衡に、第1のリガンドおよび受容体が達するか、または実質的に達するのを待つ必要がないことである。代わりに、本明細書に記載の方法は、測定が実行されるときに高速スループットを可能にする。もちろん、これはスクリーニング用途で特に有利である。
【0023】
工程b)における結合事象の記録は任意であることが理解されよう。一例では、工程b)における結合事象の記録は、工程c)の直前など、工程c)の前に行われないか、または行われる。したがって、工程b)が以下である、本明細書に記載の方法が提供される:
b)時間間隔t1の間の受容体と第2のリガンドとの間の結合事象の数を記録するか、または記録せずに、第1の溶液と第2のリガンドで機能化された試験ウェル壁とを接触させる工程。
【0024】
本明細書に記載の方法のさらなる利点は、第2のリガンドと受容体との間の結合キネティクスが既知または決定する必要がないことである。
【0025】
時間間隔tは、第1のリガンドと受容体との間の結合反応の少なくとも1/kobsである。したがって、時間間隔tは、第1のリガンドと受容体との間の結合反応が
1/kobs以上であり得る。kobsは、本明細書に記載されているように測定および計算することができる。
【0026】
一例では、第2のリガンドと受容体との間の結合事象の記録が、第1のリガンドおよび受容体が平衡結合に達するまで行われる。さらなる例では、第2のリガンドと受容体との間の結合事象の記録が、第1のリガンドおよび受容体が平衡結合に達するまでおよびその後に行われる。
【0027】
本明細書に記載の方法は、受容体と第2のリガンドとの間の結合事象の記録が工程b)と工程c)との間で中断されないように、すなわち記録が連続的に行われるように実施され得ることが理解される。さらに、時間間隔tは、工程b)で受容体を添加することから、工程c)で第1のリガンドが添加されるまでの時間範囲を意図している。さらに、時間間隔tは、工程c)において試験溶液に第1のリガンドを添加することから、少なくとも第1のリガンドおよび受容体が本明細書に記載の平衡結合に達するか、または少なくとも1/kobsになるまでの時間範囲を意図している。
【0028】
本明細書に記載の平衡結合は、準平衡、すなわちほぼ平衡または実質的に平衡で結合し得る。
【0029】
本明細書に記載の方法は、工程d)をさらに含み得る:
d) 工程b)および工程c)で記録された結合事象に基づいて、第1のリガンドと受容体との間の相互作用を決定する工程。
【0030】
この文書では、第1のリガンドは試験化合物である場合がある。「第1のリガンド」および「試験化合物」という用語は、交換可能に使用され得る。さらに、この文書では、「受容体」という用語は、薬物標的などの標的であり得る。「受容体」および「標的」という用語は、交換可能に使用され得る。さらに、この文書では、第2のリガンドはツール化合物である場合がある。「第2のリガンド」および「ツール化合物」という用語は、交換可能に使用され得る。
【0031】
本明細書に記載の方法の一連の方法工程は、複数の試験ウェルのそれぞれにおいて完全に実行され得る。
【0032】
各方法工程は、各試験ウェルで同時に実行することができ、すなわち、最初の工程を各試験ウェルで同時に実行することができ、次に、各連続工程を各試験ウェルで同時に実行することができる。あるいは、方法工程は、試験ウェルにおいて異なる時間に実施され得る。
【0033】
試験壁に結合する受容体の数は、第1のリガンドの添加の前後に記録され得る。これらの記録された結合事象は、複数の試験ウェルについて合計され得る。第1のリガンドの添加前の結合事象の数は、本明細書に記載されるように、時間間隔tの間に記録され得る。第1のリガンドの添加後の結合事象の数は、本明細書に記載されるように時間間隔tの間に記録され得る。時間間隔tおよびtは、それぞれ、同じであっても異なっていてもよい。試験化合物の添加前の合計された記録された結合事象、および試験化合物の添加後の合計された記録された結合事象は、それぞれ、その後、第1のリガンドと受容体との間の相互作用を決定するために使用され得る。各試験ウェルで方法工程が同時に実行されない場合、これを考慮して、複数の試験ウェルにおける結合事象を正しく合計する必要がある。
【0034】
さらに、一連の方法工程は、試験溶液中のいくつかの異なる濃度Cの第1のリガンドに対して実行され得る。従って本明細書に記載の方法は、工程e)を備えてもよい。
e)試験溶液中の第1のリガンドの濃度Cを増加させて工程c)を繰り返すこと。
【0035】
重要なことに、本明細書に記載の方法の試験溶液は受容体を含まず、第1の溶液に添加される。したがって、第1のリガンドおよび受容体は、第1の溶液に試験溶液を加える前に反応することを許されない。これらの特徴により、本明細書に記載の方法を、機能化表面に添加する前に反応させることができる受容体および試験化合物の両方を試験溶液が含む溶液アッセイにおける阻害(Inhibition in Solution Assays:ISA)と区別する。
【0036】
本明細書に記載の試験ウェル壁は、単一の試験ウェルまたは複数の試験ウェルの試験ウェル底壁であり得る。試験ウェルの壁は、試験ウェルの内部に面する第2のリガンドで機能化され、それによって第2のリガンドが固定化される。試験ウェル壁の機能化は、当技術分野で知られている技術を使用して行うことができる。例えば、試験ウェル壁はピラニア溶液で処理され、続いて試験ウェル壁が機能化され得る。
【0037】
受容体は、そのまま使用することも、ビヒクルと組み合わせて使用することもできる。受容体および/またはビヒクルは、標識されていても、標識されていなくてもよい。標識は、フルオロフォアを含み得る。一例では、フルオロフォアを含むビヒクルが提供される。受容体とビヒクルとの組み合わせは、受容体構造に悪影響を与えることなく、または実質的に悪影響を与えることなく、受容体を固定化することを可能にする。さらに、ビヒクルは、特にそれが膜受容体である場合、その本来の環境を表すまたは模倣する環境を受容体に提供することができる。固定化された受容体は、選択された溶媒もしくはビヒクル、またはビヒクルと溶媒との組み合わせに可溶性または実質的に可溶性であり得る。
【0038】
受容体を固定化するために使用できるビヒクルの例としては、リポソーム、リポソーム、デンドリマー、デンドロン、錯化ランタニド、量子ドット、ナノダイヤモンド、脂質ディスクのうちの少なくとも1つが挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
第1のリガンドおよび第2のリガンドは、同じであっても異なっていてもよい。したがって、表面に結合した第2のリガンドからの受容体の解離速度を既知または測定する必要がある方法とは対照的に、第1および第2のリガンドは互いに異なる可能性がある。
【0040】
受容体は、医薬品受容体であり得る。例えば、受容体は、トロンビンを含むか、またはトロンビンからなり得る。追加的または代替的に、第1のリガンドおよび/または第2のリガンドは、医薬品であり得る。例えば、医薬品はメラガトランであり得る。
【0041】
本明細書に記載の方法の工程b)および/または工程c)は、顕微鏡の使用を含み得る。多くの場合、顕微鏡の使用は、受容体と第2のリガンドと間の結合事象の数を記録するのに適している。本開示の方法と併せて使用することができる適切な技術の例としては、画像分析、表面プラズモン共鳴(SPR)、全反射蛍光(TIRF)、導波路イメージング、干渉散乱、ライトフィールド顕微鏡法、落射蛍光顕微鏡法、レーザー走査顕微鏡法、軌道走査顕微鏡法、局所増強顕微鏡法、構造化照明顕微鏡法、RESOLFT顕微鏡法、空間変調照明、遍在局在顕微鏡法、および/またはX線顕微鏡法が挙げられる。
【0042】
本明細書に記載の方法は、すなわち、観察された速度定数kobs、会合速度定数kon、解離速度定数koff、平衡解離定数K、部分占有率(fractional occupancy)のうちの1つ以上のうちの少なくとも1つを第1のリガンドについて決定することを、できるようにする、および/または含んでもよい。
【0043】
速度定数kobsは、受容体が第1のリガンドで占有される速度を特徴付ける。これは、式1に示すように、会合速度定数kon、解離速度koff、および試験化合物の濃度Cに依存する。
【0044】
【数1】
【0045】
第1のリガンドによって結合された受容体は、もはや第2のリガンドに結合することができないか、または固定化された第2のリガンドに異なって結合する。単位時間あたりの結合事象の数はα(t)と呼ばれ、以下の式2で与えられる。
【0046】
【数2】
【0047】
i,free(t<tinh)は、第1のリガンド(阻害剤)が添加される時間(すなわち、tinh)よりも短い時間tにおいて、第1のリガンドまたは固定化された第2のリガンドによって結合されない受容体の濃度であることが理解されよう。さらに、kon,Vは、受容体への第1のリガンドの会合速度定数であり、受容体は、ビヒクルなどのビヒクルに結合する。
【0048】
濃度Cを有する第1のリガンドを添加すると、以下の式3に示すように、Ci,free(t<tinh)はCi,free(t)に変わる。
【0049】
【数3】
【0050】
式3および式4で、β(t)は、時間tで第1のリガンドと複合体を形成している受容体の割合を表す。β(t)は0から1の間の値、つまり0<β(t)<1であり得る。β(t)は、以下の式4に示すように決定され得る。
【0051】
【数4】
【0052】
本明細書に記載されるように、Cは第1のリガンドの濃度であり、Kは平衡定数であり、kobsは観察された速度定数であり、tは測定が行われる時間であり、tinhは第1のリガンド(阻害剤)が添加される時間である。
【0053】
第1のリガンドの平衡解離定数Kは式5で表され、ここで、[L]は第1のリガンドの濃度、[R]は受容体の濃度、[LR]は試験化合物に結合する受容体の濃度である。
【0054】
【数5】
【0055】
は、式6に示すように、解離定数koffと会合定数konとの比率として表すこともできる。
【0056】
【数6】
【0057】
部分占有率(fractional occupancy)は、式7に示すように、受容体-リガンド複合体の量を受容体の初期量で割ったものであり、ここで、
[Ligand Receptor]は平衡状態で受容体に結合する第1のリガンドの濃度、
[Total Receptor]は受容体の初期濃度である。
【0058】
【数7】
【0059】
部分占有率(fractional occupancy)は式8のように表すこともでき、ここで、
[Ligand]は結合反応の平衡状態での遊離の第1のリガンドの濃度であり、
は本明細書に記載のとおりである。
【0060】
【数8】
【0061】
本発明の方法が複数の試験ウェルで実施される場合、これらは、マイクロタイタープレートなどのサンプルホルダーアセンブリの一部を形成し得る。したがって、サンプルホルダーアセンブリは、マイクロタイタープレートを含むか、またはそれからなることができる。このようなサンプルホルダーアセンブリは、時間およびコスト効率の高い方法で多数の実験を実施することを可能にする。さらに、複数の試験ウェルでこの方法を実施することにより、試験ウェルで記録された結合事象の数を合計して、より多くのデータポイントを提供できるため、感度を高めることができる。
【0062】
有利には、本明細書に記載の複数の試験ウェルの使用は、リガンドが非常に少ないのに受容体結合スポットが多すぎるためにリガンドが枯渇する場合に起こり得る、いわゆるリガンド枯渇を回避することを可能にする。リガンドの枯渇を避けるために、受容体濃度を下げる必要がある。ただし、結合アッセイの信号強度は通常、受容体の濃度に比例するため、これにより信号強度が低下する。本明細書に記載の方法における複数の試験ウェルの使用は、いくつかの試験ウェルからのデータポイントを合計することを可能にすることによって、不十分な信号強度を補償する。
【0063】
TIRFは、本明細書に記載の方法と組み合わせて使用するのに適した技術であることが見出された。したがって、サンプルホルダーアセンブリが、全反射蛍光(TIRF)顕微鏡と組み合わせて使用されるように構成されると共に、
- 複数の底なし試験ウェルを含むサンプルホルダープレートと、
- 接着剤などの付着手段などの材料によってサンプルホルダープレートに取り付けられ、それによって複数の試験ウェルのウェル底壁を形成する底プレートと、
を含み、
接着剤などの付着手段などの材料は、底プレートの屈折率Nよりも低い屈折率Nを有する、
ところの本明細書に記載の方法が提供される。
【0064】
従来、TIRF光源は、サンプルホルダーアセンブリの底プレートの下から提供される。TIRF光源を動かす必要があるため、これは複数のウェルで時間がかかる。代わりに、TIRF光源は、光ビームが底プレート全体に伝播するように配置することができる。ただし、これはまた、光ビームが例えば試験ウェル底壁に漏れないことを必要とする。さらに、接着剤などの付着手段は、組み立てられたときにサンプルホルダーアセンブリの壁に確実かつ迅速に付着できる必要があり、サンプルホルダーウェルに添加された溶液および試薬などの化学物質にも耐えられる必要がある。
【0065】
例えば、付着手段は接着剤であり得る。有利には、本明細書に記載の接着剤は、UV硬化性であり得、および/または緩衝液に対して耐性であり得る。UV硬化性により、機能化された試験ウェル壁をサンプルホルダープレートの壁に便利かつ迅速に取り付けることができる。緩衝液に対する耐性により、機能化された試験ウェル壁がサンプルホルダープレートから外れるのを防ぐ。
【0066】
接着剤は、アルキルシラン、アミノシラン、エポキシシラン、ヒドロシル、メルカプトシラン、メタクリルシランのうちの少なくとも1つからのシランを含み得る。
【0067】
TIRF光源からの光ビームが、サンプルホルダーの底プレートなどの隣接する媒体に漏れることなく底プレート全体に伝播できるようにするには、底プレートの屈折率Nよりも低い屈折率Nを有する接着剤を選択する必要がある。このようにして、エバネッセント波が機能化された試験ウェル壁の内面に近接して作成される。次に、蛍光受容体または受容体を固定化する蛍光ビヒクル、すなわちフルオロフォアが励起され、表面の近くで蛍光を発する。このように、測定された蛍光は、表面に近接したフルオロフォアからのみ発生し、表面からさらに離れたフルオロフォアは蛍光を発しない。
【0068】
したがって、本願開示は、サンプルホルダーアセンブリが、光ビームをウェル底壁に提供するように構成されたTIRF光源と組み合わされ、これにより、光ビームがウェル底壁全体に伝搬することにより、複数のウェルにエバネッセント場を作り出す、本明細書に記載の方法を提供する。
【0069】
サンプルホルダーアセンブリは、目的の用途に合わせて事前に準備することができる。例えば、サンプルホルダーアセンブリの底プレートは、特定の用途のために表面改質によって調製され、次いで、本明細書に記載の付着手段の助けを借りて、サンプルホルダーアセンブリの残りの部分に付着され得る。
【0070】
さらに、本開示は、第2のリガンドを変化させることなく、2つ以上の異なる第1のリガンドと受容体との間の結合キネティクスを評価する、本明細書に記載の方法の使用を提供する。
【0071】
本開示はまた、TIRF顕微鏡と組み合わせて使用されるように構成されるサンプルホルダーアセンブリであって、
- 複数の底なし試験ウェルを含むサンプルホルダープレートと、
- 接着剤などの付着手段などの材料によってサンプルホルダープレートに取り付けられ、それによって複数の試験ウェルのウェル底壁を形成する底プレートと、
を含み、
接着剤は、底ガラスプレート(3)の屈折率Nよりも低い屈折率Nを有する、サンプルホルダーアセンブリを提供する。
接着剤などの付着手段などの材料は、UV硬化性であり得、および/または緩衝液に耐性であり得る。サンプルホルダープレートは、マイクロタイタープレートを含むか、またはそれからなることができる。
【0072】
本明細書で開示されるサンプルホルダーアセンブリは、光ビームをウェル底壁に提供するように構成されたTIRF光源と組み合わされてもよく、これにより、光ビームがウェル底壁全体に伝搬することにより、複数のウェルにエバネッセント場を作り出す。
【図面の簡単な説明】
【0073】
図1】メラガトランの添加前後のリポソーム固定化トロンビンの時間の関数としての結合事象の数を示すグラフである。
図2】リポソーム固定化トロンビンに添加されたメラガトランの用量反応曲線を示すグラフである。
図3】添加されたメラガトラン溶液の濃度の関数として観察された結合速度kobs、およびメラガトランとトロンビンの間のkonを提供する線形回帰を示すグラフである。
図4】メラガトランの添加前後のリポソーム固定化トロンビンの時間の関数としての単一の試験ウェルにおける結合事象の数を示すグラフである。
図5】メラガトランの添加前後のリポソーム固定化トロンビンの時間の関数としての2つの試験ウェルにおける結合事象の数を示すグラフである。
図6】メラガトランの添加前後のリポソーム固定化トロンビンの時間の関数としての100個の試験ウェルにおける結合事象の数を示すグラフである。
図7】接着剤によってマイクロタイタープレートに取り付けられた機能化された底部プレートを含む複数の試験ウェルを含むマイクロタイタープレートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0074】
[好ましい実施形態の詳細な説明]
図7は、複数の底なし試験ウェル2を含むサンプルホルダープレート1と、接着剤4によってサンプルホルダープレート1に取り付けられ、それによって、複数のウェル2のウェル底壁5を形成する底プレート3と、を含むサンプルホルダーアセンブリ100の断面図を示す。接着剤は、底プレート3の屈折率Nよりも低い屈折率Nを有する。
【0075】
本明細書で説明するように、接着剤4は、底プレートなどの隣接する媒体に漏れることなく、TIRF光ビームが、底プレート全体に伝播できるようにするように選択され得る。それにより、エバネッセント波が底プレートの近くに生成され、これは、本明細書に記載されるような結合事象の検出に使用され得る。
【0076】
ウェル底壁5は、本明細書に記載されるようなツール化合物で機能化され得る。
【0077】
更なる(発明的)項目
本開示は以下の項目を提供する。
【0078】
項目1:
第1のリガンドと受容体との間の相互作用を決定する方法であって、次の一連の方法工程:
a)第1のリガンドを含まず、濃度Cの受容体を含む第1の溶液を提供する工程と、
b)時間間隔tの間の受容体と第2のリガンドとの間の結合事象の数を記録しながら、第1の溶液と第2のリガンドで機能化された試験ウェル壁とを接触させる工程と、
c)時間間隔tの間の第2の溶液の第2のリガンドと受容体との間の結合事象の数を記録しながら、受容体を含まず、濃度Cの第1のリガンドを含む試験溶液を第1の溶液に添加して、第2の溶液を提供する工程と、を含む、方法。
【0079】
項目2:
一連の方法工程が、複数の試験ウェルのそれぞれにおいて完全に実行される、項目1に記載の方法。
【0080】
項目3:
一連の方法工程が、試験溶液中のいくつかの異なる濃度Cの第1のリガンドに対して実行される、項目1または2に記載の方法。
【0081】
項目4:
工程d)を更に備える、項目1または2に記載の方法。
d)試験溶液中の第1のリガンドの濃度Cを増加させて工程c)を繰り返すこと。
【0082】
項目5:
受容体が、リポソーム、デンドリマー、デンドロン、錯化ランタニド、量子ドット、ナノダイヤモンド、または脂質ディスクなどのビヒクルと組み合わされて、固定化された受容体を提供する、項目1から4のいずれか一項に記載の方法。
【0083】
項目6:
ビヒクルがフルオロフォアを含む、項目1から5のいずれか一項に記載の方法。
【0084】
項目7:
第1のリガンドおよび第2のリガンドが同じまたは異なる、項目1から6のいずれか一項に記載の方法。
【0085】
項目8:
受容体が医薬品受容体であり、および/または、
第1のリガンドおよび/または第2のリガンドが医薬品である、
項目1から7のいずれか一項に記載の方法。
【0086】
項目9:
工程b)および/または工程c)が顕微鏡の使用を含む、項目1から8のいずれか一項に記載の方法。
【0087】
項目10:
観察された速度定数kobs、会合定数kon、解離定数koff、平衡解離定数K、部分占有率の少なくとも1つを第1のリガンドについて決定することを含む、項目1から9のいずれか一項に記載の方法。
【0088】
項目11:
複数の試験ウェルが、マイクロタイタープレートなどのサンプルホルダーアセンブリの一部を形成する、項目2から10のいずれか一項に記載の方法。
【0089】
項目12:
サンプルホルダーアセンブリが、全反射蛍光(TIRF)顕微鏡と組み合わせて使用されるように構成され、
- 複数の底なし試験ウェル(2)を含むサンプルホルダープレート(1)と、
- 接着剤(4)によってサンプルホルダープレート(1)に取り付けられ、それによって複数のウェル(2)のウェル底壁(5)を形成する底プレート(3)とを含み、
接着剤(4)は、底プレート(3)の屈折率(N)よりも低い屈折率(N)を有する、項目11に記載の方法。
【0090】
項目13:
接着剤(4)がUV硬化性であり、および/または緩衝液に対して耐性である、
項目10から12のいずれか一項に記載の方法。
【0091】
項目14:
TIRF顕微鏡と組み合わせて使用されるように構成されるサンプルホルダーアセンブリ(10)であって、
- 複数の底なし試験ウェル(2)を含むサンプルホルダープレート(1)と、
- 接着剤(4)によってサンプルホルダープレート(1)に取り付けられ、それによって複数のウェル(2)のウェル底壁(5)を形成する底プレート(3)と、
を含み、
接着剤(4)は、底ガラスプレート(3)の屈折率(N)よりも低い屈折率(N)を有する、サンプルホルダーアセンブリ(10)。
【0092】
項目15:
サンプルホルダーアセンブリ(10)が、光ビームをウェル底壁(5)に提供するように構成されたTIRF光源と組み合わされ、これにより、光ビームがウェル底壁(5)全体に伝搬することにより、複数のウェル(2)にエバネッセント場を作り出す、
項目11に記載の方法、又は項目14に記載のサンプルホルダーアセンブリ。
【実施例
【0093】
[略語]
CHES N-シクロヘキシル-2-アミノエタンスルホン酸
HBS Hepes緩衝液
HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)
LED 発光ダイオード
NHS N-ヒドロキシコハク酸イミド
μl マイクロリットル
L リットル
LOD 検出下限
nm ナノメートル
nM nanoMolar(ナノモル)
mg ミリグラム
ml ミリリットル
mM ミリモル
PBS リン酸緩衝液
PEG4 ポリエチレングリコール、H-(O-CH-CH-OH
PC ホスファチジルコリン
PEG ポリエチレングリコール
PLL-g-PEG ポリ-L-リジン・グラフト化PEG
RT 室温
sec 秒
UV 紫外線
V/V 体積百分率
【0094】
[材料および方法]
すべての脂質はAvanti Polar Lipids社から購入した。
PLL-g-PEG(11354-X=200-2000-3.5%)およびPLL-g-PEG-ビオチン(11835-X=200-3400-3.5%)はNanosoft Polymers社から購入した。
トロンビン結合ペプチドは、ThermoFisher Scientificにより顧客の指定に基づいて合成された。メラガトラン(Melagatran)はSantaCruz Biotechnology社から購入した。
Dymax3025は、Dymax Corporation社の製品である。
他のすべての化学物質は、特に明記されていない限り、Sigma社から購入した。すべての化学物質は分子生物学の目的に適していた。
【0095】
[リポソームの調製]
直径が約100nmのリポソームを生成するために、最初に必要な脂質をクロロホルムに溶解して混合した。合計5mgの2-オレオイル-1-パルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、0.01mgの1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-ジベンゾシクロオクチル、および0.005mgの1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(リサミンローダミンBスルホニル)を一緒に混合した。脂質混合物を一晩真空乾燥させた。乾燥した脂質を1mLのHBS(150mM NaCl、20mM/L HEPES、pH7.2)で穏やかに撹拌しながら水和させた。脂質懸濁液を、孔径100nmのPC膜から11回押し出した。リポソームの濃度は、544nmでの光吸収によって決定され、リポソーム溶液の濃度は、2.5mg/mLに調整された。これは、約30nMのリポソーム濃度に等しい。
【0096】
[タンパク質の調製]
クリックケミストリーを介してリポソームにトロンビンを固定化するために、NHSカップリングを介してアジド基をトロンビンに導入した。したがって、2mg/mLの100μLのヒトトロンビンを200μLの高塩PBSバッファー(10mMのNaHPO、1.8mMのKHPO、400mMのNaCl+33.5% Glycerol(v/v)(pH7.4)、および10mMの13μLのNHS-PEG4-Azide)と混合した。混合物を室温で30分間インキュベートした。500μLの高塩PBSバッファー(10mM NaHPO、1.8mM KHPO、400mM NaCl+33.5%グリセロール(v/v)、pH6.6)を添加して、反応を停止した。
【0097】
[タンパク質の固定化]
1.5μLのトロンビンアジドを48.5μLの氷冷CHESバッファー(20mMのCHES、150mMのNaCl)とpH8.5で混合し、続いて50μLのリポソーム溶液を添加した。この混合物は氷上で少なくとも30分間保存された。10μLの反応混合物を990μLの氷冷CHESバッファー(20mM CHES、150mM NaCl)でpH8.5に希釈した。
【0098】
[表面の準備]
厚さ0.17mmのガラスプレートをベースピラニア溶液中で、373ケルビンで30分間インキュベートした。洗浄したガラスプレートを水ですすぎ、乾燥させた。UV硬化性接着剤(Dymax3025)には、約1%(v/v)(3-アミノプロピル)-トリエトキシシランが追加された。接着剤混合物は、底なしマイクロプレートの下側に薄く広げられた。ガラスプレートは底なしマイクロプレートの上に配置され、底を形成した。接着剤を完全に広げた後、製造元の指示に従って硬化させた。硬化後、マイクロプレートの各ウェルに、1mg/mLのPLL-g-PEGおよび1mg/mLのPLL-g-PEG-ビオチンを含有する10μLの溶液を加える。プレートを穏やかな軌道撹拌下で少なくとも1時間インキュベートした。インキュベーション後、各ウェルをHBSバッファーで10回洗浄した。すべての洗浄工程の希釈率は少なくとも1:10であった。洗浄後、各ウェルに100μg/mLのニュートラアビジンを含有する10μLの溶液を添加した。これを穏やかな軌道撹拌下で少なくとも4時間インキュベートした。すべてのウェルを前述のように洗浄し、10ug/mLのビオチンに結合したトロンビン結合ペプチド(GVGPRSFKLPGLA-Aib-SGFK-PEG-ビオチン)を含む10μLの溶液をすべてのウェルに添加した。マイクロプレートを穏やかな軌道撹拌下で少なくとも1時間インキュベートした。ペプチドは、小胞に固定化されたトロンビンに結合するためのツール化合物であった。
最後に、マイクロプレートを前述のように洗浄し、各ウェルの残留バッファー量は30μLである。
【0099】
[顕微鏡のセットアップ]
単一分子顕微鏡は、Nikon Ti-Eベースに基づいた。落射蛍光用の光源として、LED白色光源を使用する。対物レンズは60倍のAPO TIRF対物レンズであった。画像は浜松ホトニクスOrca-FLASH4.0V2 sCMOSカメラで記録される。サンプルステージは電動式で、マイクロウェルホルダーを備えていた。
顕微鏡の上に液体処理ロボットが設置された(Andrew、Andrew Alliance)。
【0100】
[メラガトラン希釈シリーズ]
1.6uM/Lから始まるメラガトランの8回の1:3希釈シリーズ。希釈シリーズのバッファーは、pH9.5のCHESバッファー(20mMのCHES、150mMのNaCl)であった。
【0101】
[実施例1]
384個のウェルを含むマイクロウェルプレートを、顕微鏡のマイクロウェルプレートホルダーに配置した。その後、測定が開始され、完全に自動的に実行された。
【0102】
単一分子の測定には、各ウェルで次の工程が含まれていた。
1.上に示したように準備された適切なマイクロウェルを対物レンズの上に置き、その焦点面がマイクロウェルの内面に置かれるように対物レンズを調整した。
2.ウェルをpH9.5の70μLのCHESバッファー(20mM/LのCHES、150mM/LのNaCl)で洗浄した。
3.CHESバッファーおよびトロンビンが付着したリポソームを含有する5μLの溶液をウェルに添加し、ウェルの内容物を混合した。
4.901枚の画像と10秒-1の取得速度でタイムラプス動画の取得を開始した。
5.取得の20秒後、適切な濃度のメラガトランおよびCHESバッファーを含有する5μLの溶液を添加し、ウェルの内容物を急速に混合した(<0.5秒)。
6.画像データの取得は、901フレームが記録されるまで続けた。
【0103】
メラガトランの意図された濃度ごとに、工程1~6を3回繰り返した。メラガトランの8つの濃度、すなわち200nM、66.7nM、22.2nM、7.4nM、2.5nM、0.8nM、0.3nM、および0.1nMを試験した。メラガトランの試験濃度ごとに、上記の工程1~6を各ウェルで完全に実施した。各方法工程は、各ウェルで同時に実行し、すなわち、工程1を各ウェルで同時に実行し、次に、各連続工程を各ウェルで同時に実行した。
【0104】
記録された画像データは、各ウェルに新たに結合したリポソームの数を決定する目的で分析された。第1の工程では、各ウェルの参照オブジェクトと形状が類似しているすべてのオブジェクトが検出された。
【0105】
第2の工程では、どのオブジェクトが表面に結合しているかを決定した。オブジェクトが表面に結合されていることを示すものとして、その移動度を分析した。移動度が閾値を下回った場合(オブジェクトが1ピクセル(ここでは2つの連続するフレーム間で215~304nm)を超えて移動していない場合)、オブジェクトは不動であると見なされ、したがって表面に結合される。結合したリポソームの数、すなわち結合事象の数を記録した。すべてのウェルの結合事象の数を、メラガトランの添加の前後にそれぞれ合計して、結合事象の累積数を提供した。これは、メラガトランの各濃度に対して行われた。
【0106】
図1に示すように、メラガトランの添加前後の結合リポソームの累積数を時間に対してプロットした。図A図1)では、メラガトランの濃度は200nMで、トロンビンの濃度は15pMであった。図1では、tinhは、リポソーム固定化トロンビンを含有する溶液にメラガトランの溶液を添加した時間であり、
cumsum on-events[#]は記録された結合事象の数である。
【0107】
試験化合物メラガトランを添加する前に、表面へのリポソームの結合速度が経時的に一定であることが観察された。時間に対する結合事象の累積数をプロットすると、勾配が結合速度に等しい線形関数であることが判明した。試験化合物の注入および混合中に、表面への結合速度が増加した。短い平衡時間の後、結合速度は再び正規化された。この混合期間中に取得されたデータは、分析には使用されなかった。本明細書に記載されるように結合事象の累積数を分析し、観察された結合速度定数kobsを抽出した。メラガトランのトロンビンへの結合が平衡に達すると、図1に示すように、時間に対する結合事象の累積数は再び直線的に増加した。
【0108】
初期勾配と最終勾配の比率を計算した。これをメラガトランの各濃度に対して3回繰り返した。この比率は、それぞれの濃度でのメラガトランによるトロンビンの部分占有率(fractional occupancy)に等しくなる。次に、平衡解離定数Kを以下の式から計算し、ここで、[melagatran]は、添加されたメラガトランの濃度である。
【0109】
【数9】
【0110】
平衡解離定数Kは、図2に示すように、部分占有率をメラガトランの添加濃度に対してプロットした用量反応曲線から得られ、K値は約3nMであった。
【0111】
図3は、添加した試験化合物メラガトランの濃度の関数としてプロットされた、観察された結合速度定数kobsを示している。観察された速度kobs対メラガトランの濃度の線形回帰により、メラガトランとトロンビンとの間の会合速度konの計算が可能になり、これは21μM-1-1であることが見出された。
【0112】
平衡解離定数Kは、解離速度koffを会合速度konで割ったものに等しいので、21μM-1-1のkon値を3nMのK値で乗じることによりkoffを計算することができ、これにより、約0.06秒-1のKoff値を提供した。
【0113】
本明細書に記載の方法は、試験化合物のkobs、kon、koff、およびK、ならびに試験化合物による受容体の部分占有率を決定することを可能にすると結論付けた。したがって、本明細書に記載の方法は、試験化合物と受容体との間の相互作用キネティクスを決定することを可能にする。
【0114】
[実施例2]
この例では、実施例1に記載の方法工程が、単一のウェル、2つのウェルのそれぞれ、および100個のウェルのそれぞれで完全に実施された。トロンビン濃度は1pMであった。メラガトラン濃度は7.4nMであった。
【0115】
最初に、実験は単一のウェルで実施された。図4に示すように、結合事象の数を時間の関数としてプロットした。結合事象の数が少ないため、観察された速度定数kobsを確実に適合させることができなかった。したがって、結合事象の数は、2つのウェルについて、それぞれメラガトランの添加の前後に収集および合計された。結果を図5に示し、
obsは、0.43秒-1のkobs値を提供するように適合できることがわかった。2つのウェルの実験と同様にさらなる実験を実施したが、2つのウェルの代わりに100個のウェルを使用した。結果を図6に示し、kobsは、0.22秒-1のkobs値を提供するように適合できることがわかった。図4図5、および図6では、tinhは、リポソーム固定化トロンビンを含有する溶液にメラガトランの溶液を添加した時間であり、
cumsum on-events[#]は記録された結合事象の数である。
【0116】
本明細書に記載の方法の感度は、複数のウェルで方法工程を実施し、試験化合物の添加前後のウェルの記録された結合事象の数を合計することによって増強されると結論付けられた。
【0117】
また、本明細書に記載の方法は、(i)アッセイを操作するために必要な受容体の材料の量、および(ii)高親和性試験化合物に関する緊密な結合レジームを定義する全体的な平均方法のLPDに対応する最低濃度よりも低い受容体濃度などの低い受容体濃度について観察された速度定数kobsの信頼できる測定を可能にすると結論付けられた。
【0118】
[参考文献]
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【符号の説明】
【0119】
図1,4,5,6において、cumsum on-events[#]とは、記録された結合事象の数。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7