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特許7412019低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸塩セラミックス及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸塩セラミックス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/495 20060101AFI20240104BHJP
   C04B 35/645 20060101ALI20240104BHJP
   C04B 35/626 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
C04B35/495
C04B35/645
C04B35/626 200
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021562912
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-20
(86)【国際出願番号】 CN2019118483
(87)【国際公開番号】W WO2020215699
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】201910345230.4
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521285805
【氏名又は名称】昆明理工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100166729
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 幸子
(72)【発明者】
【氏名】馮 晶
(72)【発明者】
【氏名】陳 琳
(72)【発明者】
【氏名】種 暁宇
(72)【発明者】
【氏名】汪 俊
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110002870(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109942294(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105777118(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107602120(CN,A)
【文献】Lin Chen et al.,Journal of Alloys and Compounds,2019年03月01日,788,p.1231-1239
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/495
CB04 35/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Yb:Taのモル比が1:1又は3:1のYb粉末及びTa粉末を秤量し、溶剤を加えて混合し、ボールミルでボールミリングして粉末Aを得るステップ1と、
ステップ1で得られた粉末Aを乾燥した後、1回目のふるい分けを行い、粉末Bを得るステップ2と、
ステップ2で得られた粉末Bを成形型に配置して圧密し、保圧圧力100~200MPa、保圧時間10~20minで保圧した後に、予備焼結温度1000~1200℃、予備焼結時間10~20hで予備焼結を行って、ブロックCを形成するステップ3と、
ステップ3のブロックCが室温まで冷却されてからミルを用いてブロックCを粉砕し、その後、2回目のふるい分けを行い、粉末Dを得るステップ4と、
ステップ4の粉末Dを焼結温度1700~1800℃、焼結時間5~10hで焼結して低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸イッテルビウムセラミックスを得るステップ5とを含み、
当該セラミックスはYb 粉末とTa 粉末とが焼結されてなり、当該セラミックスの化学一般式はYbTaO 又はYb TaO であり、当該セラミックスは単一の結晶構造を有し、当該セラミックスの充填率は97%より大きいことを特徴とする低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸イッテルビウムセラミックスの製造方法。
【請求項2】
前記ステップ1において、ボールミリング時間は10~24hであり、ボールミルの回転速度は300~500r/minであることを特徴とする請求項に記載の低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸イッテルビウムセラミックスの製造方法。
【請求項3】
前記ステップ2において、乾燥温度は50~200℃、乾燥時間は8~24hであることを特徴とする請求項に記載の低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸イッテルビウムセラミックスの製造方法。
【請求項4】
前記ステップ2における1回目のふるい分け用の篩は100~300メッシュであることを特徴とする請求項に記載の低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸イッテルビウムセラミックスの製造方法。
【請求項5】
前記ステップ4における2回目のふるい分け用の篩は300~600メッシュであることを特徴とする請求項に記載の低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸イッテルビウムセラミックスの製造方法。
【請求項6】
前記ステップ4において、ミルの回転速度は1000~2000r/min、粉砕時間は20~48hであることを特徴とする請求項に記載の低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸イッテルビウムセラミックスの製造方法。
【請求項7】
前記ステップ1において、Yb粉末及びTa粉末の純度は99.9%以上であることを特徴とする請求項に記載の低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸イッテルビウムセラミックスの製造方法。
【請求項8】
前記ステップ1における溶剤はエタノール又は蒸留水であることを特徴とする請求項に記載の低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸イッテルビウムセラミックスの製造方法。
【請求項9】
前記ステップ1におけるYb粉末及びTa粉末と溶剤のモル比は(3:1)~(5:1)であることを特徴とする請求項のいずれか1項に記載の低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸イッテルビウムセラミックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遮熱コーティング技術分野に関し、特に、低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸塩セラミックス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遮熱コーティングは主に航空エンジン工業で応用されており、主として断熱する、コーティングと合金母体間の熱膨張係数のミスマッチを低減する、粒子の衝突に効果的に抵抗して航空エンジンの高温領域部品を保護するという機能を発揮する。そのため、例えば、低熱伝導率、高熱膨張係数、高温安定性等、良好な熱力学的性能を有することが要求される。
【0003】
現在、広く使用されている遮熱コーティングは主にイットリア安定化ジルコニア(YSZ)、希土類ジルコニウム酸塩(REZr)等であるが、いずれもある程度の不足が存在する。YSZは使用温度が低く(≦1200℃)、且つ、熱伝導率が比較的高く、希土類ジルコニウム酸塩は熱膨張係数が低いという課題がある。そのため、研究者はこれらのセラミックス材料に代わることができる遮熱コーティングを探さなければならなかった。2007年、ハーバード大学のClarke教授の研究グループはカリフォルニア大学サンタバーバラ分校のLevi教授らとともに、新型遮熱コーティング材料として有望なタンタル酸イットリウム(YTaO)強弾性体を提供した。しかし、希土類タンタル酸塩に関する研究は主に、結晶構造と発光性能等の分野における理論計算に集中している。2016年、Wangらは固相反応法によって希土類タンタル酸塩ブロック材料を作製し、熱伝導率がYSZ材料よりもはるかに低くなるという結論を導き出した。研究者による多数の研究と実験結果は、希土類タンタル酸塩の遮熱コーティングにおける応用に理論的基礎を提供した。
【0004】
現在のセラミックス粉体の製造方法(例えば、水熱法、固相反応法等)では、希土類タンタル酸塩粉体の結晶構造に一定の微小クラック及び気孔ができる。また、航空エンジンは、例えば火山岩上空等の劣悪な環境で飛行するとき、エアインテークダクトから一定の砂粒、埃、飛散灰を吸い込む。測定によると、これらのケイ酸塩鉱物顆粒の化学成分はいずれも基本的に同じであり、主に、CaO、MgO、Al、SiO及び少量のNiとFeの酸化物であり、その融点は約1200℃で、カルシウムマグネシウムアルミノケイ酸塩(Calcium-Magnesium-Alumino-Silicate,CMAS)と総称される。航空工業の発展に伴って、エンジンタービン前方入り口の温度は通常1200℃以上になる。1200℃になると、CMAS顆粒の融解が発生するため、CMAS顆粒を低融点酸化物と呼ぶ。CMAS顆粒は融解後に遮熱コーティングの表面に堆積して、コーティング中のクラックに沿ってコーティング内部に「ゆっくりと」浸透する。冷却過程において発生する脆性ガラス相はコーティングの歪み耐性を低下させ、コーティングに層間剥離や亀裂が生じ、最終的に不良となる問題を引き起こす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来技術の遮熱コーティングは劣悪な環境において亀裂が生じやすいという課題を解決するための、低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸塩セラミックス及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を実現するために、本発明は以下の基礎的方案を提供する。
【0007】
低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸塩セラミックスであって、当該セラミックスの化学一般式はRETaOである。また、セラミックスの結晶構造は単斜晶であり、結晶格子の空間群はI2(5)である。更に、当該セラミックスの充填率は98%より大きい。
【0008】
低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸イッテルビウムセラミックスであって、当該セラミックスはYb粉末とTa粉末とが焼結されてなり、当該セラミックスの化学一般式はYbTaO又はYbTaOであり、また、当該セラミックスの結晶構造は単斜晶である。更に、当該セラミックスの充填率は97%より大きい。
【発明の効果】
【0009】
本基礎的方案の技術原理及び効果は以下の通りである。
【0010】
1、本基礎的方案において低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸塩セラミックスの充填率は98%より大きい。即ち、希土類タンタル酸塩内におけるクラック及び気孔の含有量が非常に少ないことから、低融点酸化物(例えば、航空エンジン動作環境中の酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素)が高温下で融解した後にセラミックスの内部に効果的に浸透して入り込むことができず、溶融状態の酸化物による浸透及びセラミックス材料との反応を阻止する。
【0011】
2、本基礎的方案において、希土類タンタル酸塩(RETaO)セラミックスは結晶構造が単斜晶であり、他の不純相は存在しないため、結晶粒界の長さはいずれも均一である。即ち、長すぎる結晶粒界又は短すぎる結晶粒界が発生せず、結晶粒の粒度分布も均一であり、結晶粒間の微小クラックは相応に減少する。これにより、希土類タンタル酸塩における低融点酸化物による腐食を防止する性能を向上させる。
【0012】
3、本基礎的方案において、低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸イッテルビウムセラミックスの充填率は97%より大きい。
【0013】
即ち、希土類タンタル酸イッテルビウム内におけるクラック及び気孔の含有量が非常に少ないことから、低融点酸化物(例えば、航空エンジン動作環境中の酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素)が高温下で融解した後にセラミックスの内部に効果的に浸透して入り込むことができず、溶融状態の酸化物による浸透及びセラミックス材料との反応を阻止する。
【0014】
4、本基礎的方案において、希土類タンタル酸イッテルビウム(YbTaO又はYbTaO)セラミックスは結晶構造が単相であり、他の不純相は存在しないため、結晶粒界の長さはいずれも均一である。即ち、長すぎる結晶粒界又は短すぎる結晶粒界が発生せず、結晶粒の粒度分布も均一であり、結晶粒間の微小クラックは相応に減少する。これにより、タンタル酸イッテルビウムにおける低融点酸化物による腐食を防止する性能を向上させる。
【0015】
更に、REはSm、Eu、Gd、Dy、Ho、Erのうちの1種の元素又は複数種の元素である。
【0016】
有益な効果としては、本方案における複数種の希土類のイオン半径は大きく、いずれも0.100~0.116nmの範囲内であるため、複数種の希土類酸化物を用いて酸化タンタルと反応させたとき、各希土類元素は相互置換して固溶することができる。そのため、
1種の元素を用いるのと同様に単相の希土類タンタル酸塩をそれぞれ形成する。この他の希土類元素について、例えばSc元素はイオン半径が0.075nmと、他の希土類元素よりもはるかに小さく、酸化物が高温反応下で酸化タンタルと生成するのは準安定状態の単斜晶であり、且つ、希土類元素間でイオンの差が大きく相互置換して固溶体を形成することができず、当該結晶構造は他の希土類タンタル酸塩の結晶構造と異なる。このため、希土類元素間でイオンの差が大きい希土類酸化物と酸化タンタルとを用いると二相又は多相が発生し、希土類タンタル酸塩の緻密性に一定の好ましくない影響を与えることが、発明者の実験によって証明されている。
【0017】
更に、低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸塩セラミックスの製造方法は、以下のステップを含む。
【0018】
ステップ1において、RE:Taのモル比が1:1のRE粉末及びTa粉末を秤量し、溶剤を加えて混合する。次いで、ボールミルでボールミリングし、乾燥を経て、粉末Aを得る。
【0019】
ステップ2において、ステップ1で得られた粉末Aを乾燥した後、1回目のふるい分けを行い、粉末Bを得る。
【0020】
ステップ3において、ステップ2で得られた粉末Bを成形型に配置して圧密し、保圧後に予備焼結を行って、ブロックCを形成する。保圧圧力は200~300MPa、保圧時間は1~10min、予備焼結温度は800~1200℃、予備焼結時間は10~20hである。
【0021】
ステップ4において、ステップ3のブロックCが室温まで冷却されてからミルを用いてブロックCを粉砕する。その後、2回目のふるい分けを行い、粉末Dを得る。
【0022】
ステップ5において、ステップ4の粉末Dを焼結して低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸塩セラミックスを得る。焼結温度は1500~1800℃、加圧焼結時間は5~30minである。
【0023】
有益な効果としては、ステップ1~ステップ5のプロセスで製造することで、充填率が98%より大きい希土類タンタル酸塩(RETaO)セラミックスブロックが得られ、内部の微小クラックが少なく、気孔率が低く、遮熱コーティングとして使用するとき、高温下において低融点のCMAS酸化物による腐食に抵抗することができる。
【0024】
ステップ1の目的は、RE粉末とTa粉末とを均一に機械混合することである。更に、溶剤を加えるのはRE粉末及びTa粉末の界面活性を低下させ、粉末間の接着性を低下させるためである。
【0025】
ステップ2の目的は、粉末A中の溶剤を除去することであり、更に、ステップ1において接着する可能性のある大きな顆粒粉末をふるい落として、最終的な焼結ブロックの緻密性を保証することである。
【0026】
ステップ3において粉末Bに保圧を行う目的は、圧力作用下で粉末B中の気体を排出し、ブロックCの結晶構造内の気孔を減少させることである。また、予備焼結の目的は、粉末内の一部の内部エネルギーを消耗させ、粉末Bの焼結活性を低下させることである。粉末Bの反応温度を引き上げ、低温度下で反応して第二相が形成されるのを防ぎ、更に、最後の高温焼結中に不純物が生じるのも防ぐ。なお、予備焼結時は反応温度に達していないため、化学反応は発生していない。
【0027】
ステップ4では、ステップ3において焼結活性が低下したブロックを粉砕した後、更にふるい分けを行い、粒度が小さい粉末Dを得る。このステップの目的は、希土類酸化物と酸化タンタルが反応する中で粒度が小さい粉末Dに核生成を促す効果を発揮させることである。希土類酸化物と酸化タンタルの反応過程において、複数の粉末Dを結晶核として同時に核生成、成長させることができる。更に、本ステップで粉砕、ふるい分けを用いることにより、粉末Dの粒径分布が十分均一になり、希土類酸化物と酸化タンタルが形成する結晶核のサイズ分布も均一になる。全ての反応過程において大きすぎる又は小さすぎる結晶粒が形成されることがなく、これによって、最終的に得られる希土類タンタル酸塩セラミックス結晶粒の粒径分布が均一になる。
【0028】
注意すべき点として、反応過程において大きすぎる結晶粒が形成されたとき(結晶核が大きいとこのような状況が発生する)、これらの大きな結晶粒は急速に成長し、小さいサイズの結晶粒を押し出す。このようにして、最終的に形成されるセラミックス結晶構造内において、大きな結晶粒と小さな結晶粒との間の粒界エネルギーが大きくなり、結晶粒界部分に点欠陥(気孔)又は線欠陥(微小クラック)が発生しやすくなり、セラミックスにおける低融点酸化物による腐食を防止する性能が低下する。
【0029】
従来技術では製造時間を短縮するために、一般的に、粉末を粉砕、混合した後に直接、粉末に対して高温焼結処理を行うことで、最終的に必要なセラミックスを得る。これも、高温焼結を用いる従来のセラミックスにおいて、結晶構造内部に多量の微小クラック及び気孔が含まれる原因である。
【0030】
ステップ5で得られる希土類タンタル酸塩セラミックス粉体又はブロック材料は、セラミックス材料の結晶構造内における微小クラック又は気孔の含有量が少なく、高温下において溶融した酸化物がセラミックス材料の結晶内部に入り込みにくいため、低融点酸化物による腐食を防止する良好な性能を具備する。
【0031】
更に、前記ステップ1において、ボールミリング時間は10~24hであり、ボールミルの回転速度は300~600r/minである。
【0032】
有益な効果としては、本方案におけるボールミリングの回転速度及び時間を用いることで、RE粉末とTa粉末を十分均一に混合することができる。
【0033】
更に、前記ステップにおいて、乾燥温度は60~100℃、乾燥時間は5~15hである。
【0034】
有益な効果としては、本方案における乾燥温度及び時間を用いることで、粉末中の溶剤を十分に揮発させることができる。
【0035】
更に、前記ステップにおける1回目のふるい分け用の篩は100~300メッシュであり、前記ステップ4における2回目のふるい分け用の篩は300~600メッシュである。
【0036】
有益な効果としては、本方案におけるメッシュでふるい分けを行うことで、最終的に得られる粉末Dの粒度が小さくなり、且つ、粒度分布が均一になる。これにより、粉末の焼結における緻密性を向上させることができる。
【0037】
更に、前記ステップ4において、ミルの回転速度は1000~2000r/min、粉砕時間は20~48hである。
【0038】
有益な効果としては、本方案における粉砕パラメータを用いてブロックCに対して粉砕を行うことで、得られる粉末Dの粒径が小さくなり、且つ、粒度分布が均一になる。
【0039】
更に、前記ステップ1において、RE粉末及びTa粉末の純度は99.9%以上である。
【0040】
有益な効果としては、純度が高い前駆粉体を用いることで、中に入る不純物元素の含有量を減らすことができる。不純物元素が結晶中に入って微小クラックを形成し、最終的な焼結ブロックの緻密性を低下させることを回避する。
【0041】
更に、前記ステップ1における溶剤はエタノール又は蒸留水である。
【0042】
有益な効果としては、エタノールと蒸留水はRE粉末及びTa粉末に対する分散性が優れているため、RE粉末及びTa粉末をより十分に混合することができる。
【0043】
更に、前記ステップ1におけるRE粉末及びTa粉末と溶剤のモル比は(3:1)~(5:1)である。
【0044】
有益な効果としては、RE粉末及びTa粉末と溶剤の比率が当該範囲であると得られる粉末Aが最も十分に混合されることが、発明者の実験によって検証されている。
【0045】
更に、低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸イッテルビウムセラミックスの製造方法は、以下のステップを含む。
【0046】
ステップ1において、Yb:Taのモル比が1:1又は3:1のYb粉末及びTa粉末を秤量し、溶剤を加えて混合する。次いで、ボールミルでボールミリングし、粉末Aを得る。
【0047】
ステップ2において、ステップ1で得られた粉末Aを乾燥した後、1回目のふるい分けを行い、粉末Bを得る。
【0048】
ステップ3において、ステップ2で得られた粉末Bを成形型に配置して圧密した後に予備焼結を行い、ブロックCを形成する。保圧圧力は100~200MPa、保圧時間は10~20min、予備焼結温度は1000~1200℃、予備焼結時間は10~20hである。
【0049】
ステップ4において、ステップ3のブロックCが室温まで冷却されてからミルを用いてブロックCを粉砕する。その後、2回目のふるい分けを行い、粉末Dを得る。
【0050】
ステップ5において、ステップ4の粉末Dを焼結して低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸イッテルビウムセラミックスを得る。焼結温度は1700~1800℃、焼結時間は5~10hである。
【0051】
有益な効果としては、ステップ1~ステップ5のプロセスで製造することで、充填率が97%より大きいタンタル酸イッテルビウム(YbTaO又はYbTaO)セラミックスブロックが得られ、内部の微小クラックが少なく、空隙率が低く、遮熱コーティングとして使用するとき、高温下において低融点のCMAS酸化物による腐食に抵抗すること
ができる。
【0052】
ステップ1の目的は、Yb粉末とTa粉末とを均一に機械混合することである。更に、溶剤を加えるのはYb粉末及びTa粉末の界面活性を低下させ、粉末間の接着性を低下させるためである。
【0053】
ステップ2の目的は、粉末A中の溶剤を除去することであり、更に、ステップ1において接着する可能性のある大きな顆粒粉末をふるい落として、最終的な焼結ブロックの緻密性を保証することである。
【0054】
ステップ3において粉末Bに保圧を行う目的は、圧力作用下で粉末B中の気体を排出し、ブロックCの結晶構造内の気孔を減少させることである。また、予備焼結の目的は、粉末内の一部の内部エネルギーを消耗させ、粉末Bの焼結活性を低下させることである。粉末Bの反応温度を引き上げ、低温度下で反応して第二相が形成されるのを防ぎ、更に、最後の高温焼結中に不純物が生じるのも防ぐ。なお、予備焼結時は反応温度に達していないため、化学反応は発生していない。
【0055】
ステップ4では、ステップ3において焼結活性が低下したブロックを粉砕した後、更に
ふるい分けを行い、粒度が小さい粉末Dを得る。このステップの目的は、酸化イッテルビウムと酸化タンタルが反応する中で粒度が小さい粉末Dに核生成を促す効果を発揮させることである。酸化イッテルビウムと酸化タンタルの反応過程において、複数の粉末Dを結晶核として同時に核生成、成長させることができる。更に、本ステップで粉砕、ふるい分けを用いることにより、粉末Dの粒径分布が十分均一になり、酸化イッテルビウムと酸化タンタルが形成する結晶核のサイズ分布も均一になる。全ての反応過程において大きすぎる又は小さすぎる結晶粒が形成されることがなく、これによって、最終的に得られる希土類タンタル酸イッテルビウムセラミックス結晶粒の粒径分布が均一になる。注意すべき点として、反応過程において大きすぎる結晶粒が形成されたとき(結晶核が大きいとこのような状況が発生する)、これらの大きな結晶粒は急速に成長し、小さいサイズの結晶粒を押し出す。このようにして、最終的に形成されるセラミックス結晶構造内において、大きな結晶粒と小さな結晶粒との間の粒界エネルギーが大きくなり、結晶粒界部分に点欠陥(気孔)又は線欠陥(微小クラック)が発生しやすくなり、セラミックスにおける低融点酸化物による腐食を防止する性能が低下する。従来技術では製造時間を短縮するために、一般的に、粉末を粉砕、混合した後に直接、粉末に対して高温焼結処理を行うことで、最終的に必要なセラミックスを得る。これは、高温焼結を用いる従来のセラミックスにおいて、結晶構造内部に多量の微小クラック及び気孔が含まれる原因となっている。
【0056】
ステップ5で焼結して得られた充填率が97%より大きいタンタル酸イッテルビウムセラミックスは、結晶構造内部の空隙が少なく、且つ、結晶粒のサイズ分布が均一で、内部の微小クラックが極めて少ない。これは、高温下での低融点酸化物による腐食に抵抗するためのポイントとなる部分である。
【0057】
更に、前記ステップ1において、ボールミリング時間は10~24hであり、ボールミルの回転速度は300~500r/minである。
【0058】
有益な効果としては、本方案におけるボールミリングの回転速度及び時間を用いることで、Yb粉末とTa粉末を十分均一に混合することができる。
【0059】
更に、前記ステップ2において、乾燥温度は50~200℃、乾燥時間は8~24hである。
【0060】
有益な効果としては、本方案における乾燥温度及び時間を用いることで、粉末中の溶剤を十分に揮発させることができる。
【0061】
更に、前記ステップ1における1回目のふるい分け用の篩は100~300メッシュである。
【0062】
有益な効果としては、本方案におけるメッシュを用いてふるい分けを行うことで、ボールミリング過程において粉末A内で接着する大きな粒径の粉末顆粒をふるい落とし、粉末の粒径分布が均一な粉末Aを得ることができる。
【0063】
更に、前記ステップ4における2回目のふるい分け用の篩は300~600メッシュである。有益な効果としては、本方案におけるメッシュを用いてふるい分けを行うことで、粉砕過程において完全に粉砕されていない大きな粒径の粉末顆粒をふるい落とし、粉末の粒径分布が均一な粉末Dを得ることで、焼結後のブロックの充填率を向上させる。
【0064】
更に、前記ステップ4において、ミルの回転速度は1000~2000r/min、粉砕時間は20~48hである。
【0065】
有益な効果としては、本方案における粉砕パラメータを用いてブロックCに対して粉砕を行うことで、ブロックCに対して十分な粉砕を行うことができ、得られる粉末Dの粒径が小さくなり、且つ、粒径分布が均一になる。
【0066】
更に、前記ステップ1において、Yb粉末及びTa粉末の純度は99.9%以上である。
【0067】
有益な効果としては、純度が高い前駆粉体を用いることで、中に入る不純物元素の含有量を減らすことができる。不純物元素が結晶中に入って微小クラックを形成し、最終的な焼結ブロックの緻密性を低下させることを回避する。
【0068】
更に、前記ステップ1における溶剤はエタノール又は蒸留水である。
【0069】
有益な効果としては、エタノールと蒸留水はYb粉末及びTa粉末に対する分散性が優れているため、Yb粉末及びTa粉末をより十分に混合することができる。
【0070】
更に、前記ステップ1におけるYb粉末及びTa粉末と溶剤のモル比は(3:1)~(5:1)である。
【0071】
有益な効果としては、Yb粉末及びTa粉末と溶剤の比率が当該範囲であると得られる粉末Aは最も十分に混合されることが、発明者の実験によって検証されている。
【図面の簡単な説明】
【0072】
図1図1は本発明における実施例5で作製した希土類タンタル酸塩(HoTaO)セラミックスのXRD図である。
図2図2は本発明における実施例5で作製した希土類タンタル酸塩(HoTaO)セラミックスのSEM図である。
図3図3は本発明における実施例5で作製した希土類タンタル酸塩(HoTaO)セラミックスの耐CMAS高温腐食実験後の実物図である。
図4図4は本発明における実施例6で作製した希土類タンタル酸塩(ErTaO)セラミックスの耐CMAS高温腐食実験後の実物図である。
図5図5は本発明における実施例1~6で作製した希土類タンタル酸塩(RETaO)セラミックスの耐CMAS高温腐食実験後のXRD図である。
図6図6は本発明における実施例13で作製したタンタル酸イッテルビウム(YbTaO)セラミックスのXRD図である。
図7図7は本発明における実施例13で作製したタンタル酸イッテルビウム(YbTaO)セラミックスのSEM図である。
図8図8は本発明における実施例13で作製したタンタル酸イッテルビウム(YbTaO)セラミックスを耐CMAS高温腐食実験において1300℃で10h保温したときの実物図である。
図9図9は本発明における実施例13で作製したタンタル酸イッテルビウム(YbTaO)セラミックスの酸化アルミニウム適合性検査に係るXRD図である。
【発明を実施するための形態】
【0073】
以下、具体的な実施形態を通じて更に詳細に説明する。
【0074】
低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸塩セラミックスであって、セラミックスの化学一般式はRETaOであり、REはSm、Eu、Gd、Dy、Ho、Erのうちの1種の元素又は複数種の元素である。また、セラミックスの結晶構造は単斜晶であり、結晶格子の空間群はI2(5)である。更に、セラミックスの充填率は98%より大きい。
【0075】
上述の低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸塩セラミックスの製造方法は、以下の複数のステップを含む。
【0076】
ステップ1において、RE:Taのモル比が1:1のRE粉末及びTa粉末を秤量し、蒸留水又はエタノール溶剤を加えて混合する。RE粉末及びTa粉末と溶剤のモル比は(3:1)~(5:1)である。次いで、ボールミルでボールミリングし、乾燥を経て、粉末Aを得る。ボールミルは周波数変換型遊星ボールミルを採用し、型番はXQMである。ボールミリング時間は10~24h、ボールミルの回転速度は300~600r/minであり、且つ、原料であるRE粉末及びTa粉末の純度は99.9%以上である。
【0077】
ステップ2において、ステップ1で得られた粉末Aを乾燥した後、1回目のふるい分けを行い、粉末Bを得る。乾燥温度は60~100℃、乾燥時間は5~15hであり、1回目のふるい分けに用の篩は100~300メッシュである。
【0078】
ステップ3において、ステップ2で得られた粉末Bを成形型に配置して圧密し、保圧後に予備焼結を行って、ブロックCを形成する。保圧圧力は200~300MPa、保圧時間は1~10min、予備焼結温度は800~1200℃、予備焼結時間は10~20h、昇温速度は100℃/minである。
【0079】
ステップ4において、ステップ3のブロックCが室温まで冷却されてからミルを用いてブロックCを粉砕する。ミルはラボ用縦型サンドミルを採用し、型番はWT0.3である。粉砕回転速度は1000~2000r/min、粉砕時間は20~48hである。その後、2回目のふるい分けを行い、粉末Dを得る。2回目のふるい分け用の篩は300~600メッシュである。
【0080】
ステップ5において、ステップ4の粉末Dを焼結して上述の低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸塩セラミックス粉体を得る。焼結温度は1500~1800℃、
昇温速度は50℃/min、焼結時間は5~30minである。当該粉体材料は造粒後に溶射による遮熱コーティングの形成に直接に用いることができる。
【0081】
セラミックスの性能を検査する必要があるとき、セラミックスのブロック構造を得なければならず、上述のステップ5の焼結時に加圧処理を行う。加圧圧力は40~100MPa、加圧時間は5~30minである。このようにすることで、成分、結晶構造が粉体と同一のセラミックスブロック材料が形成される。
【0082】
上述の方法を用いて充填率が98%より大きいRETaOセラミックスを得た。上述の方法を用いて調製されたRETaOセラミックスの緻密性を十分に説明するために、ここではその中の12組の実施例を用いて説明を行う。
【0083】
表1は、本発明における実施例1~6の具体的なパラメータである。
【表1】
【0084】
表2は、本発明における実施例7~12の具体的なパラメータである。
【表2】
【0085】
2組の比較例を挙げて、実施例1~12で得られた希土類タンタル酸塩セラミックスと比較実験を行った。
【0086】
比較例1において、実施例1との違いは、上述のステップ3と上述のステップ4の操作を行っていないことである。
【0087】
比較例2において、実施例1との違いは、ステップ5中の焼結温度が1100~1300℃、焼結時間が3~5hということである。
【0088】
ここでは実施例1~12及び比較例1~2で得られたセラミックスブロックについて検査を行った。
【0089】
1、XRDによるキャラクタリゼーション
X線回折装置を用いて実施例1~12及び比較例1~2で作製したセラミックスブロックについて検査を行った。実施例5で得られた希土類タンタル酸塩(HoTaO)セラミ
ックスブロックを例として、XRDパターンを図1に示す。図1では、HoTaOセラミックス試料のXRD測定結果において回折ピークは基準PDFカード#24-0478の基準ピークと一つ一つ対応しており、第二相の回折ピークは存在していない。これは、調製して得られた試料は単相のHoTaOセラミックスであり、結晶構造は単斜晶であり、α=γ=90°、β=95.5°であり、密度は9.71g/cm、結晶格子の空間群はI2(5)であることを示している。更に、XRD検査によって、希土類タンタル酸塩(HoTaO)セラミックスブロック中には他の不純物が発生していないことが確認された。
【0090】
2、SEMによるキャラクタリゼーション
走査電子顕微鏡を用いて実施例1~12及び比較例1~2で作製したセラミックスブロックについて検査を行った。実施例5で作製した希土類タンタル酸塩(HoTaO)セラミックスブロックを例として、SEMパターンを図2に示す。図2のSEMパターンでは、HoTaOセラミックス試料の結晶は良好であり、結晶粒サイズが均一であり、結晶粒界がはっきりしており、各結晶粒内又は各結晶粒間に第二相は存在していないことがわかる。これは、XRD結果と一致している。また、図2によって、希土類タンタル酸塩(HoTaO)セラミックスブロック内はクラック及び気孔がいずれも非常に少ないことが観察できた。これは、焼結過程においてセラミックスに大きな圧力及び応力が生じていないことを示している。また、検査によると、充填率は99.1%に達していた。
【0091】
比較例1及び比較例2で得られたセラミックスブロック中には多数の気孔が含まれていた。特に、比較例1で作製したセラミックスブロック中には、多数の気孔のほか、一定の介在物(完全に焼結していないRE及びTa粉末)も含まれることにより、結晶内部には多数の微小クラックが存在していた。
【0092】
3、充填率検出
アルキメデス排水法を用いて実施例1~12及び比較例1~2で作製したセラミックスブロックについて測定を行った。測定結果を表3に示す。実施例1~12で得られたセラミックスブロックの充填率はいずれも98%より大きいことがわかる。
【0093】
表3は、実施例1~12及び比較例1~2で測定された充填率である。
【表3】
【0094】
3、耐高温CMAS腐食実験
3.1 CMASの調製
酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)及び酸化ケイ素(SiO)をモル比が15:19:22:44になるように混合した後、蒸留水を加えてミル内で粉砕、混合し、均一で微細な粉末を得た。ミルの回転速度は1000r/min、粉砕時間は20hであった。粉砕後の粉末を100℃下で10h乾燥し、1000℃下で5h予備焼結し、ブロックを得た。更に、ブロックを粉砕して300メッシュの篩でふるい分け処理した後、均一なCMAS粉末を得た。
【0095】
上述の方法を用いて調製されたCMAS粉末は、航空エンジンが劣悪な環境下で動作するときの、エンジンタービン前方入り口内のCMAS成分比率を再現したものである。
【0096】
3.2 腐食実験
上述のCMAS粉末を実施例1~12で調製した希土類タンタル酸塩(RETaO)セラミックスブロックの表面に積層した。CMAS粉末量は15mg/cmであった。その後、高温焼結を行った。焼結温度は1200~1500℃、保温時間は5~20hであった。
【0097】
実施例1~6を例に挙げる。図3は実施例5で作製した希土類タンタル酸塩(HoTaO)セラミックスを耐CMAS高温腐食実験において1300℃下で6h焼結した後の実物図である。図4は実施例6で作製した希土類タンタル酸塩(ErTaO)セラミックスを耐CMAS高温腐食実験において1500℃下で13h焼結した後の実物図である。上述の実物図内で円盤状を呈するものは焼結後のセラミックスブロックであり、表面の顆粒状物質はCMAS粉末である。更に、実施例1~6で得られた希土類タンタル酸塩(RETaO4)ブロックについてXRD検査を行った。XRDパターンを図5に示す。
【0098】
図3図5によれば、各セラミックス試料の表面には多量のCMAS粉末が依然として存在している。CMAS粉末の融点は1200℃より低いが、高温(1200℃より高い)下で数時間保温した後でも、CMAS溶融液体はセラミックス材料と反応しておらず、かつ、セラミックス材料中に浸透しにくく、実施例8で得られた希土類タンタル酸塩(ErTaO)セラミックスのみに微量のMgOの存在が検出された。これにより、CMASが当該温度下で希土類タンタル酸塩セラミックス材料と反応しにくいことを示しており、セラミックス材料の優れた耐CMAS腐食特性を証明している。一般的な状況下では、例えばYSZのような耐CMAS腐食性ではない他のセラミックス材料は、高温下で数時間保持された後、CMAS溶融液体がYSZと反応し、セラミックス内部に浸透して入り込むため、表面にCMAS粉末は残留しない。
【0099】
以上述べたように、本実施例1~12で調製した希土類タンタル酸塩(RETaO)セラミックス結晶構造内は微小クラック及び気孔が非常に少ないため充填率が高くなり、いずれも98%以上であり、低融点酸化物による腐食を防止する良好な能力を有する。温度が1200~1500℃に達したときでも、希土類タンタル酸塩(RETaO)セラミックスブロックはCMAS粉末とほとんど反応せず、耐高温CMAS腐食性能はYSZよりもはるかに高い。
【0100】
本発明における低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸イッテルビウムセラミックスは、セラミックスの化学一般式がYbTaO又はYbTaOである。YbTaOセラミックスの結晶構造は単斜晶であり、結晶格子の空間群はI2(5)である。YbTaOセラミックスの結晶構造は立方晶であり、結晶格子の空間群はFm-3mである。上記2種のセラミックスにおける充填率はいずれも97%より大きい。
【0101】
上述の低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸イッテルビウムセラミックスの製造方法は、以下の複数のステップを含む。
【0102】
ステップ1において、Yb:Taのモル比が1:1又は3:1のYb粉末及びTa粉末を秤量し、蒸留水又はエタノール溶剤を加えて混合する。Yb粉末及びTa粉末と溶剤のモル比は(3:1)~(5:1)である。次いで、ボールミルでボールミリングし、乾燥を経て、粉末Aを得る。ボールミルは周波数変換型遊星ボールミルを採用し、型番はXQMである。ボールミリング時間は10~24h、ボールミルの回転速度は300~500r/minであり、且つ原料であるYb粉末及びTa粉末の純度は99.9%以上である。
【0103】
ステップ2において、ステップ1で得られた粉末を乾燥した後、1回目のふるい分けを行
い、粉末Bを得る。乾燥温度は50~200℃、乾燥時間は8~24hであり、1回目のふるい分け用の篩は100~300メッシュである。
【0104】
ステップ3において、ステップ2で得られた粉末Bを成形型に配置して圧密した後に予備焼結を行って、ブロックCを形成する。保圧圧力は100~200MPa、保圧時間は10~20min、予備焼結温度は1000~1200℃、予備焼結時間は10~20h、昇温速度は100℃/minである。
【0105】
ステップ4において、ステップ3のブロックCが室温まで冷却されてからミルを用いてブロックCを粉砕する。ミルはラボ用縦型サンドミルを採用し、型番はWT0.3である。粉砕回転速度は1000~2000r/min、粉砕時間は20~48hである。その後、2回目のふるい分けを行い、粉末Dを得る。2回目のふるい分け用の篩は300~600メッシュである。
【0106】
ステップ5において、ステップ4の粉末を焼結して、化学計量比が異なる上述の低融点酸化物による腐食を防止する希土類タンタル酸イッテルビウムセラミックス粉体を得る。焼結温度は1700~1800℃、昇温速度は50℃/min、焼結時間は5~10hである。当該粉体材料は造粒後に溶射による遮熱コーティング形成に直接に用いることができる。
【0107】
セラミックスの性能を検査する必要があるとき、セラミックスのブロック構造を得なければならず、上述のステップ5の焼結時に加圧処理を行う。加圧圧力は200~300MPa、加圧時間は20~30minである。
【0108】
上述の方法を用いて充填率が97%より大きいタンタル酸イッテルビウムセラミックス(YbTaO又はYbTaO)を得た。上述の方法を用いて調製されたタンタル酸イッテルビウムセラミックスの緻密性を十分に説明するために、ここではその中の6組の実施例を用いて説明を行う。
【0109】
表4は、本発明における実施例13~18の具体的なパラメータである。
【表4】
【0110】
2組の比較例を挙げて、実施例13~18で得られたタンタル酸イッテルビウムセラミックスと比較実験を行った。
【0111】
比較例3において、実施例13との違いは、上述のステップ3と上述のステップ4の操作を行っていないことである。
【0112】
比較例4において、実施例13との違いは、ステップ5中の焼結温度が1200~1400℃ということである。
【0113】
ここでは実施例13~18及び比較例3~4で得られたセラミックスブロックについて検査を行った。
【0114】
1、XRDによるキャラクタリゼーション
X線回折装置を用いて実施例13~18及び比較例3~4で作製したセラミックスブロックについて検査を行った。実施例13で得られたタンタル酸イッテルビウム(YbTaO)セラミックスブロックを例として、XRDパターンを図6に示す。タンタル酸イッテルビウム(YbTaO)セラミックスブロックの回折ピークは基準PDFカード#24-1010の基準ピークと一つ一つ対応しており、第二相の回折ピークは存在していない。これは、調製して得られた試料は単相のタンタル酸イッテルビウム(YbTaO)セラミックスであり、結晶構造は単斜晶であり、α=γ=90°、β=95.7°であり、
結晶格子の空間群はI2(5)であることを示している。更に、XRD検査によって、タンタル酸イッテルビウム(YbTaO)セラミックスブロック中には他の不純物が発生していないことが確認された。
【0115】
2、SEMによるキャラクタリゼーション
走査電子顕微鏡を用いて実施例13~18及び比較例3~4で作製したセラミックスブロックについて検査を行った。実施例13で作製したタンタル酸イッテルビウム(YbTaO)セラミックスブロックを例として、SEMパターンを図7に示す。図7のSEMパターンでは、タンタル酸イッテルビウム(YbTaO)セラミックス試料の結晶は良好であり、結晶粒サイズが均一であり、結晶粒界がはっきりしており、各結晶粒内又は各結晶粒間に第二相は存在していないことがわかる。これは、XRD結果と一致している。また、図7によって、タンタル酸イッテルビウム(YbTaO)セラミックスブロック内はクラック及び気孔がいずれも非常に少ないことが観察できた。これは、焼結過程においてセラミックスに大きな圧力及び応力が生じていないことを示している。また、検査によると、充填率は98.1%に達していた。
【0116】
比較例3及び比較例4で得られたセラミックスブロック中には多数の気孔が含まれていた。特に、比較例3で作製したセラミックスブロック中には、多数の気孔のほか、一定の介在物(完全に焼結していないY及びTa粉末)も含まれることにより、結晶内部には多数の微小クラックが存在していた。
【0117】
3、充填率検出
アルキメデス排水法を用いて実施例13~18及び比較例3~4で作製したセラミックスブロックについて測定を行った。測定結果を表2に示す。実施例13~18で得られたセラミックスブロックの充填率はいずれも97%より大きい結果となった。
【0118】
表5は、実施例13~18及び比較例3~4で作製したセラミックスブロックの充填率である。
【表5】
【0119】
4、耐高温CMAS腐食実験
4.1 CMASの調製
酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)及び酸化ケイ素(SiO)をモル比が15:19:22:44になるように混合した後、蒸留水を加えてミル内で粉砕、混合し、均一で微細な粉末を得た。ミルの回転速度は1000~2000r/min、粉砕時間は20~48hであった。粉砕後の粉末を100~200℃下で10~20h乾燥し、予備焼結後にブロックを得た。予備焼結温度は1000~1400℃、保温時間は5~10hであった。更に、ブロックを粉砕して300~600メッシュの篩でふるい分けし、均一なCMAS粉末を得た。
【0120】
上述の方法を用いて調製されたCMAS粉末は、航空エンジンが劣悪な環境下で動作するときの、エンジンタービン前方入り口内のCMAS成分比率を再現したものである。
【0121】
4.2 腐食実験
上述のCMAS粉末を実施例13~18で調製したタンタル酸イッテルビウムセラミックスブロックの表面に積層した。CMAS粉末量は35mg/cmであった。その後、高
温焼結を行った。焼結温度は1200~1500℃、保温時間は5~20hであった。
【0122】
実施例13を例に挙げる。図8は実施例13で作製したタンタル酸イッテルビウム(YbTaO)セラミックスを耐CMAS高温腐食実験において1300℃で10h保温した後の実物図である。上述の実物図で円盤状を呈するものは焼結後のセラミックスブロックであり、表面の顆粒状物質はCMAS粉末である。セラミックス試料の表面には多量のCMAS粉末が依然として存在していることが観察できる。CMAS粉末の融点は1200℃より低いが、高温(1200℃より高い)下で数時間保温した後でも、CMAS溶融液体はセラミックス材料と反応しておらず、かつ、セラミックス材料中に浸透しにくく、CMASが当該温度下で希土類タンタル酸塩セラミックス材料と反応しにくいことを示しており、セラミックス材料の優れた耐CMAS腐食特性を証明している。一般的な状況下では、例えばYSZのような耐CMAS腐食性ではない他のセラミックス材料は、高温下で数時間保持された後、CMAS溶融液体がYSZと反応し、セラミックス内部に浸透して入り込むため、表面にCMAS粉末は残留しない。
【0123】
5、酸化アルミニウム適合性
セラミックス材料が遮熱コーティングとして基板材料上で機能するとき、一般的には接着層を介して基板材料と結合され、接着層中には通常、Alが含まれるため、ここでは、実施例13~18でで得られたタンタル酸イッテルビウムセラミックスブロック粉末を酸化アルミニウム粉末と混合後、1200~1500℃下で7h保温し、保温後のセラミックスについてXRD検査を行った。実施例13で作製したタンタル酸イッテルビウム(YbTaO)を例に挙げて、XRDパターンを図9に示す。結果は、酸化アルミニウムとタンタル酸イッテルビウムは反応しておらず、単相の酸化アルミニウム及び単相のタンタル酸イッテルビウムとしてそれぞれ存在していることを示している。タンタル酸イッテルビウムを遮熱コーティングとして使用するとき、接着層中の酸化アルミニウムと反応しないため、良好な酸化アルミニウム適合性及び高温化学安定性を有すると証明することができる。
【0124】
以上述べたように、本実施例13~18で調製したタンタル酸イッテルビウム(YbTaO又はYbTaO)セラミックスの結晶構造はクラック及び気孔が非常に少ないため充填率が高くなり、いずれも97%以上であり、低融点酸化物による腐食を防止する良好な能力を有する。温度が1200~1500℃に達したときでも、タンタル酸イッテルビウムセラミックスブロックはCMAS粉末とほとんど反応せず、耐高温CMAS腐食性能はYSZよりもはるかに高い。更に、粉体を遮熱コーティングとして使用するとき、接着層中の酸化アルミニウムと反応しないため、良好な酸化アルミニウム適合性及び高温化学安定性を有する。
【0125】
以上の記載は本発明の実施例にすぎず、方案における公知の具体的構造及び特性等の常識はここで詳述していない。なお、当業者であれば、本発明の構造から逸脱することなく若干の変形や改良を加えることが可能である。また、これらについても本発明の保護の範囲であるとみなすべきであり、いずれも本発明の実施による効果及び特許の実用性に影響を及ぼすことはない。本願で請求する保護の範囲は請求項の内容を基準とすべきであり、明細書の具体的な実施形態等の記載は請求項の内容を解釈するために用いられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9