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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】レコメンデーション装置
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/0633 20230101AFI20240104BHJP
【FI】
G06Q10/0633
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023105833
(22)【出願日】2023-06-28
【審査請求日】2023-06-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522127645
【氏名又は名称】ATC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】田邉 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】小河原 渉
【審査官】池田 聡史
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-048082(JP,A)
【文献】特開2002-183389(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2022-0083324(KR,A)
【文献】伊藤諒ほか1名,“企業のウェブ情報を用いた取引マッチング支援システムに関する研究”,一般社団法人 人工知能学会 第30回全国大会論文集 [CD-ROM],2016年06月06日,pp.1~4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
企業における取引案件の手続き先である回付先・交渉先の情報、および回付先・交渉先の選定の条件となる取引案件の情報のうち、以下の情報(1)~(4)について機械学習で用いる数値ベクトルへの変換則を予め生成して符号化マスタへ登録するマスタ符号化部と、
(1)マスタデータの主キーが階層構造を持たない名目的な情報についてはOne Hot符号化による数値ベクトルへの変換
(2)マスタデータの主キーが階層構造を持つ名目的な情報については各階層のコードに対してOne Hot符号化を適用して連結する数値ベクトルへの変換
(3)該当する基準によって名目的な水準がマスタデータとして定められている数値情報については各水準を定める基準への適合性を用いた数値ベクトルへの変換
(4)テキスト情報についてはテキストを形態素解析によって分解した各単語に対する、マスタデータによって定められるキーワード一覧に含まれているかの判定による数値ベクトルへの変換
前記回付先・交渉先を選定する際の条件である、前記マスタデータの主キーが階層構造を持たない名目的な情報と、前記マスタデータの主キーが階層構造を持つ名目的な情報と、前記数値情報と、前記テキスト情報と、のうちのいずれか一つ以上に対し、
前記取引案件の回付先として適正と判断される協議者または決裁者が帰属する組織、およびロールのマスタデータのコードまたは交渉先として適正と判断される企業とその部門のマスタデータのコードが紐付けられた事例を範例データとして保持するビジネスルール範例データマスタと、
前記ビジネスルール範例データマスタに対して、範例データの追加および削除を実施するビジネスルール範例データ入力部と、
前記回付先・交渉先を選定する際の条件のみの入力に対しては、前記テキスト情報については形態素解析を実施してテキストを単語の列に分解した上で、前記符号化マスタに保持された変換則を参照して各情報を数値ベクトルに変換し、前記範例データの入力に対しては、前記情報(1)~(4)に基づく手順で各情報を数値ベクトルに変換した上で、数値ベクトルをビジネスルール学習データマスタへ保存する符号化部と、
前記ビジネスルール学習データマスタについて、データが更新される毎にデータを読み出し、前記取引案件の手続きを選定する際の条件と、規範的な手続き先である回付先・交渉先との関係性を、ニューラルネットワークに代表される多次元の分類および回帰が可能な機械学習の訓練によって数値計算処理として表現し、取引案件に関する条件のデータの入力に対して適正な前記回付先・交渉先のマスタデータを示す数値ベクトルを出力する予測モデルを生成し、予測モデルの定義情報をビジネスルール予測マスタへ保存する学習部と、
前記ビジネスルール予測マスタから予測モデルの定義情報を読み出し、新たな取引案件の手続き先の選定に関する条件の入力に対して、前記符号化部によって前記変換則を用いて変換された数値ベクトルを予測モデルへ入力し、予測モデルの数値計算を実行し、前記取引案件の手続き先として推奨される前記回付先・交渉先のマスタデータを示す数値ベクトルを出力させる予測部と、
前記予測部の出力である数値ベクトルを前記符号化マスタへ照会して、回付先・交渉先マスタデータのコード・名称を取得して、回付先・交渉先の推奨内容として構成する復号部と、
を備えるレコメンデーション装置。
【請求項2】
前記復号部は、企業における取引案件の社内手続きを進めるワークフローシステムに対して、取引案件の情報から、ワークフローの回付先となる、確認や協議を行う協議者または中間承認者と決裁者とをそれぞれ指示する組織およびロールの各マスタデータのコード・名称と、協議や承認の順序が必要な場合にはその順序とを推奨する、請求項1に記載のレコメンデーション装置。
【請求項3】
前記復号部は、電子商取引プラットフォーム上において、取引案件の情報から、交渉先の候補となる会社または会社とその部門とをそれぞれ指示する会社および組織の各マスタデータのコード・名称を、1個または複数個推奨する、請求項1に記載のレコメンデーション装置。
【請求項4】
前記学習部は、機械学習に用いる訓練データとして現在の基準のもとで適正性が反映された規範的な事例を使用することにより、商取引の適正な手続き先を選定するルールを機械学習の過程で範例から抽出して数値計算処理として表現する、請求項1に記載のレコメンデーション装置。
【請求項5】
前記学習部は、取引案件の手続き先の選定の条件であるにも関わらずマスタデータ化されていないために既存システムでは使用されていないテキスト情報を他のマスタデータの情報と共に学習データに含める、請求項1に記載のレコメンデーション装置。
【請求項6】
前記符号化部は、取引案件の手続き先の選定に際する条件のうち、そのマスタデータが階層構造を有する情報については、階層構造の情報を表現した数値ベクトルへ変換する、請求項1に記載のレコメンデーション装置。
【請求項7】
回付先・交渉先の選定に際し、利用者が実際に行った回付先・交渉先の選択結果を収集するとともに、前記復号部による推奨内容とは異なる回付先・交渉先の選択がなされた場合には、その事由を収集して推奨結果履歴保存部に保存する選択結果収集部を更に備える、請求項1に記載のレコメンデーション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、企業内における意思決定あるいは企業間取引の合意形成に際して、必要かつ最適な協議者および決裁者、または、交渉相手を推奨するレコメンデーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
企業内、特に大企業内の意思決定に際しては、電子稟議やワークフローと呼ばれる情報システムが一般的に使用されている(特許文献1参照)。それらのシステムで最も重要な部分は、社内外の様々なルールに基づいて決まる回付先と呼ばれる協議者や決裁者の選定である。
【0003】
しかし、回付先の選定の完全な自動化は難しいため、人間によるルールの解釈や補正が介在する例が多い(特許文献2参照)。人間による判断を機械学習の手法で代替して電子稟議本文のひな型を提供、推奨する提案もあるが、肝心の回付先の推奨は対象外となっている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-232357号公報
【文献】特開2002-82891号公報
【文献】特許第6985322号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
企業が商取引を円滑に進めるためには、取引内容に応じた適正な相手を選定した上で、手続きや交渉を執り行うことが必要である。適正な相手の選定が求められるシーンには、主に、(1)商取引の実施のため社内手続きに関して、協議や決裁を行う組織やそのロール(職位)を決定する場面(以下、回付先選定と呼ぶ)と、(2)企業間取引において交渉を行う際の、交渉先の相手企業における担当部門を決定する場面(以下、交渉先選定と呼ぶ)と、がある。
【0006】
<(1)回付先選定>
多くの大企業では、内部統制の要請から、商取引の発注やその支払の際には、電子稟議やワークフローと呼ばれる情報システム(以下、ワークフローシステムと総称)上で申請、確認、協議等を経て、決裁を取得した上で、実行することが義務付けられている。
【0007】
一般的なワークフローシステムでは、社内の権限規程や社内組織図を根拠とした取引内容の類型に応じたカテゴリー区分、予算管理および財務会計上の勘定科目、当該カテゴリーの取引をする際の協議先部門および決裁部門の名称などがシステム上に登録されている。また、各部門内の意志決定者またはその代行者の職位(以下、ロールと称する)、ワークフローの回付先(協議部門、決裁部門に回付する順序や宛先)などもシステム上に登録されている。申請者は具体的な取引の企画や実行(以下、取引案件と称する)の都度、ワークフローシステムの登録メニューから適切な申請パターンを選択して申請を行う方法が主流となっている。
【0008】
ところが、現実の取引案件の手続きを定める業務規程の策定に当たっては、担当する組織、勘定科目、金額の規模、案件の種別や目的などの多様な要素が複雑に交絡している。それら多様な要素を網羅的に整理し、パターン化してワークフローシステム上へ登録・維持するのは困難である。
【0009】
一方で、業務規程やパターンが整理しきれていない場合、内部統制の範囲が限定的になってしまうばかりでなく、担当者が適切な回付手順を選択できないことや、回付手順の策定に手間取るといった事態が発生する。さらに、法規制を含めたチェックポイントやチェックを執り行う社内の関係者は、組織変更や人事異動によって間断なく変化し、社内組織の階層や代行権限付与の運用も時間とともに変化することが多い。このため、あらかじめ登録されたワークフローのメニューでは対応しきれない案件が常に発生する。また、このような現場の状態を迅速に検知し、登録内容を社内協議の上、システムに反映するには、多数の社内手続きとシステム改定とが継続的に必要となる。
【0010】
上述のように、既存のワークフローシステムでは、取引案件の多様性や複雑性を高度に表現したワークフローの統制の実現が困難である。また、時間と費用の両面でタイムリーな変更対応が困難であるという欠点がある。
【0011】
<(2)交渉先選定>
WEBサイト等で提供される、企業間取引のための電子商取引システムにおいては、商材の購入希望者に対して固定的な商品カタログの提供を脱却し、購入希望者が供給者と相談しながら選択肢をカスタマイズさせることができれば、市場における競争力を高めることができる。現実の電子商取引システムが展開されるWEBサイトでは、商品仕様、価格、納期等の組合せによって発注可能な商品のカタログやテンプレートが予め固定されていることがほとんどである。このため、購入希望者が自在に指定できるのは数量や大まかな納期のみ、ということが多い。
【0012】
ところが、企業の商取引では、商品仕様に加え、価格や納期の仕様(例えば、ディスカウントや納品の回数)などを、購入希望者と供給者の交渉の上で都度、決定するのが双方にとって好ましいという場合が多い。これは、購入希望者にとっては、自身の効用を最大限に満足することが可能となり、供給者にとっては、購入希望者の要求へ近い商取引を提案することによって、市場における優位性を築くことが可能となるためである。また、このような電子商取引システムの提供者にとっても、カスタマイズができない電子商取引に比べて多くの価値を提供できることから、市場における優位性を高めることが可能となる。
【0013】
しかし、購入希望者が交渉すべき供給者の組織は、取引で扱う商材や購入希望者の要求内容によって異なる場合がある。電子商取引システムの提供者は、取扱う商材と購入希望者の要求を網羅的に整理の上、適正な交渉先組織を紐づけておく必要がある。適正な交渉先がシステムによって指定できない場合、問合せ内容を理解した上で交渉先を都度振り分ける処理や業務を準備しなければ、円滑な商取引は実現できない。
【0014】
前述した(1)回付先選定および(2)交渉先選定は、共通の構造を持っている。即ち、前記(1)におけるワークフローシステムが前記(2)における電子商取引システム、前記(1)における内部統制の強化を目指す業務管理部門が前記(2)における市場優位性の構築を目指す電子商取引システムの提供者に対応付けられる。また、前記(1)における取引案件が前記(2)における取扱商材と購入希望者の要求であり、前記(1)におけるワークフロー回付先が前記(2)における交渉先、という対応付けが可能である。
【0015】
本発明では、前記(1)について、取引案件の手続き方法を定める業務規程を網羅的に整理したワークフローの回付ルールをシステム実装することなく、業務規程上適切と考えられる回付先をシステムに推奨させる仕組みを構築するレコメンデーション装置を提供することを課題とする。
【0016】
また、前記(1)の解決策と同様の方法に基づき、前記(2)については、商材・要求と交渉先の候補となる企業・部門との組合せを網羅的に整理した交渉先の指定ルールをシステム実装することなく、購入希望者の要求上適切と考えられる交渉先をシステムに推奨させる仕組みを構築するレコメンデーション装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明では、先ず、前記(1)について、取引案件の手続き方法を定める業務規程を網羅的に整理したワークフローの回付ルールをシステム実装するのではなく、それらの回付を行うための業務規程ないし業務規程の考え方に則って回付先が選定された規範となる取引案件の事例(以下、「範例」と称する)をデータ化して機械学習させる。機械学習により、取引案件の特徴と回付先との関係性を抽象化した数値処理によって表現させる。そして、新たな案件に対しては、その関係性を自動的に評価・計算することにより、業務規程上適切と考えられる回付先をシステムに推奨させる仕組みを構築する。
【0018】
また、前記(1)の解決策と同様の方法に基づき、前記(2)については、商材・要求と交渉先の候補となる企業・部門との組合せを網羅的に整理した交渉先の指定ルールをシステム実装するのではなく、取引案件の交渉を行う際に適正な交渉先が選定された範例をデータ化して機械学習させる。機械学習により、取扱う商材および購入希望者の要求の特徴と交渉先との関係性を抽象化した数値処理によって表現させる。そして、商材と購入希望者の新たな要求に対しては、その関係性を自動で評価・計算することにより、購入希望者の要求上適切と考えられる交渉先をシステムに推奨させる仕組みを構築する。
【0019】
上記の課題を解決するための実施形態のレコメンデーション装置は、マスタ符号化部と、ビジネスルール範例データ入力部と、符号化部と、学習部と、予測部と、復号部と、を少なくとも備える。
【0020】
準備段階においては、
前記マスタ符号化部は、企業の商取引情報やその手続を行うための各種マスタデータに対して、機械学習での処理を可能とする数値ベクトルに変換するための規則を生成し、符号化マスタに登録する。
【0021】
前記ビジネスルール範例データ入力部は、企業におけるビジネス規程の管理部門によって作成された、商取引における案件情報とその規範的な進め方が定められた事例を範例データとして登録する指示または削除する指示を受領し、ビジネスルール範例データマスタへ、データの登録や削除の操作を反映する。
【0022】
前記符号化部は、ビジネスルール範例データマスタから取引案件およびその規範的な手続きの情報を受領し、情報を構成する各項目について、符号化マスタから取得した変換規則に基づき、各項目を数値ベクトルに変換する。
【0023】
前記学習部は、前記符号化部によって数値ベクトル化された取引案件の構成情報とその規範的な手続きの構成情報とを、機械学習の訓練によって対応付け、訓練によって生成された計算モデルの定義情報を、ビジネスルール予測マスタに格納する。
【0024】
稼働段階においては、
前記符号化部は、既存システムの案件情報入力部より、適正な手続き方法を推奨されたい新規の商取引案件に係る情報を受領し、前記準備段階で作成した符号化マスタが定める変換規則に基づき、数値ベクトルに変換する。
【0025】
前記予測部は、ビジネスルール予測マスタより取引案件の手続きの予測モデルの定義情報を読み出し、符号化部によって数値ベクトル化された取引案件の構成情報を入力として、予測モデルを計算する。
【0026】
前記復号部は、予測部で計算された各出力値に対応する逆変換則を符号化マスタに照会し、逆変換によって数値ベクトルから推奨内容に対応する各種マスタを引き当て、推奨内容を形成する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、企業における商取引の社内手続きの支援機能として一般的なワークフローシステム上で、取引の申請者が商取引の概要を入力すると、本発明のレコメンデーション装置によって、その商取引の内容に基づいた適正なワークフローの回付先(協議者や決裁者)が推奨される。申請者はその内容を元にワークフローの回付先を指定して申請を行えば、管理部門が定める社内の各種業務規程をワークフローシステム上に反映すること無く、各種業務規程が遵守されたプロセスによる社内手続きを実現できる。
【0028】
また、会社間の電子商取引プラットフォーム上では、取引案件の概要と交渉したい取引先候補を入力すれば、本発明のレコメンデーション装置によって、その取引案件の要求内容について適正な交渉相手が推奨され、迅速に交渉を開始して商取引を進めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明に係るレコメンデーション装置の一実施形態が適用されたレコメンデーションシステムを示す構成図である。
図2】組織・人事マスタ(組織マスタ)の説明図である。
図3】取引案件マスタ類(勘定科目マスタ)の説明図である。
図4】取引案件マスタ類(金額水準マスタ)の説明図である。
図5】取引案件マスタ類(品目キーワードマスタ)の説明図である。
図6】取引案件マスタ類(目的キーワードマスタ)の説明図である。
図7】取引案件マスタ類(協議・決裁先マスタ)の説明図である。
図8】取引案件マスタ類(交渉先マスタ)の説明図である。
図9】組織・人事マスタ(社員マスタ)の説明図である。
図10】One Hot符号化の説明図である。
図11】階層構造を有する名目的な概念のマスタの符号化の説明図である。
図12】数量的な概念のマスタの符号化の説明図である。
図13】テキスト情報の符号化処理を示す説明図である。
図14】回付先選定において、協議組織・ロールの予測モデルの構築に用いる、ビジネスルール学習データマスタの説明図である。
図15】回付先選定において、決裁組織・ロールの予測モデルの構築に用いる、ビジネスルール学習データマスタの説明図である。
図16】交渉先選定において、交渉先企業・組織の予測モデルの構築に用いる、ビジネスルール学習データマスタの説明図である。
図17】回付先選定における、予測部での出力の説明図である。
図18】交渉先選定における、予測部での出力の説明図である。
図19】取引案件マスタ類のうち、キーワードマスタを除くマスタに関する符号化手順を示すフローチャートである。
図20】取引案件マスタ類のキーワードマスタを、ビジネスルール範例データマスタから作成する際の処理手順を示すフローチャートである。
図21】ビジネスルール範例データ入力部の処理手順を示すフローチャートである。
図22】ビジネスルール学習データマスタの作成手順を示すフローチャートである。
図23】予測部における処理手順を示すフローチャートである。
図24】回付先選定のビジネスルール範例データ入力部における、範例データの登録を実行する画面例である。
図25】回付先選定における、案件情報入力部の画面例である。
図26】回付先選定の推奨結果表示部における、推奨の画面例である。
図27】回付先選定の推奨結果表示部における、変更事由の記入の画面例である。
図28】交渉先選定のビジネスルール範例データ入力部における、範例データの登録を実行する画面例である。
図29】交渉先選定における、案件情報入力部の画面例である。
図30】交渉先選定の推奨結果表示部における、推奨の画面例である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
《実施形態の構成》
図1は、本発明に係るレコメンデーション装置の一実施形態が適用されたシステムの構成を示すブロック図である。
【0031】
図1に示すレコメンデーション装置100は、既存システム200に対して入出力を実施するサーバであり、レコメンデーション装置100と、既存システム200とはネットワークを介して接続されている。
【0032】
レコメンデーション装置100は、マスタ符号化部101と、符号化マスタ102と、ビジネスルール範例データ入力部103と、ビジネスルール範例データマスタ104と、符号化部105と、ビジネスルール学習データマスタ106と、学習部107と、ビジネスルール予測マスタ108と、予測部109と、復号部110と、選択結果収集部111と、推奨結果履歴保存部112と、を備える。
【0033】
また、既存システム200は、決裁規程類201と、取引案件マスタ類202と、組織・人事マスタ203と、ワークフローシステムまたは商取引プラットフォーム204と、案件情報入力部205と、推奨結果表示部206などから構成される。なお、既存システム200における案件情報入力部205と、推奨結果表示部206は、レコメンデーション装置100に含むよう構成することもできる。
【0034】
以下は、レコメンデーション装置100の準備段階に関する説明である。
【0035】
マスタ符号化部101は、図3図8に示す組織や勘定科目などの取引案件マスタ類202と、図2図9に示す回付先・交渉先を構成する組織・人事マスタ203に対し、これらを機械学習で計算させるための数値ベクトルへの可逆変換則を生成し、符号化マスタ102に保存する。前記変換則を生成するマスタは、決裁規程類201が保持するビジネス規程において照会されるマスタを含める。
【0036】
ここで、可逆変換のうちの順変換、すなわち、マスタデータにおける勘定科目や組織などのコードや名称を数値ベクトルに変換することを符号化(encode)と呼び、数値ベクトルから名称やコードへの逆変換を復号(decode)と呼ぶこととする。
【0037】
符号化マスタ102は、マスタ符号化部101で符号化された数値ベクトルと符号化前の情報との対応関係である変換則を保持する。この変換は可逆変換ゆえ、符号化マスタ102が保持する変換則は、符号化のみならず、復号の変換則でもある。
【0038】
ビジネスルール範例データ入力部103では、組織や勘定科目などの取引案件の情報と、その取引案件の手続きの内容である、回付先・交渉先との対応付けを実施した範例データについて、登録する新規データや、削除するデータの指示などを受領する。なお、図1の例では、ビジネスルール範例データ入力部103は、レコメンデーション装置100上で利用するように構成している。しかし、案件情報入力部205などの、既存システム200上の入力装置から利用できるように構成してもよい。
【0039】
ビジネスルール範例データマスタ104は、ビジネスルール範例データ入力部103で登録された範例データをそのままの姿で保持する記憶域(デ―タベース)であり、新規の範例データの登録、ないし、指定された既存の範例データの削除を行う。
【0040】
符号化部105は、符号化マスタ102とビジネスルール範例データマスタ104とを照合の上、範例データを数値ベクトルへ変換する。変換された範例データは、ビジネスルール学習データマスタ106に格納される。
【0041】
学習部107は、ビジネスルール学習データマスタ106からベクトル化された範例データを読み出し、回付先・交渉先の選定において制御的な、組織や勘定科目などの取引案件の情報を入力とする。そして、協議・決裁や交渉先となる組織やそのロールなど、その取引案件における回付先・交渉先情報の構成要素毎に、取引案件の情報を入力とした入出力関係を機械学習する。学習で得られた入出力関係の計算モデルの定義情報は、ビジネスルール予測マスタ108に保存される。ビジネスルール予測マスタ108は、機械学習の計算を行うパラメータとその値とを保持した、辞書形式の情報である。
【0042】
以下は、レコメンデーション装置100の稼働段階に関する説明である。
【0043】
案件情報入力部205に案件情報が入力されると、符号化部105は符号化マスタ102から各項目の符号化則を取得してそれぞれ符号化する。符号化したデータを1つの数値ベクトルに結合し、予測部109へ入力する。
【0044】
予測部109は、ビジネスルール予測マスタ108から回付先・交渉先の要素(組織やロールなど)毎に予測モデルを取り出し、数値ベクトルを入力とした出力を計算し、出力結果を復号部110に返す。回付先選定における、予測部109の出力を図17に示す。
【0045】
復号部110は、回付先・交渉先の要素に対する出力結果毎に符号化マスタ102を参照し、マスタデータの符号化元であるコードや名称を取得して推奨内容を形成し、推奨結果表示部206において推奨内容を表示する。
【0046】
選択結果収集部111は、取引案件の手続きに関する推奨内容と、利用者が実際に選定した回付先・交渉先の情報と、利用者が推奨内容を修正して実際の回付先・交渉先を指定した場合の変更の事由と、を推奨結果表示部206から収集し、推奨結果履歴保存部112に蓄積する。
【0047】
推奨結果履歴保存部112は、本発明を組み込んだシステムの利用者によって入力された取引案件の情報と、それに対する協議先・交渉先の推奨内容と、実際に指定された回付先・交渉先と、を紐づけて記録し、保存する。
【0048】
《実施形態の処理手順》
次に、本発明の実施形態に係るレコメンデーション装置100の処理手順を、(a)符号化マスタの準備処理(図19図20)、(b)ビジネスルール範例データの準備処理(図21)、(c)ビジネスルール学習データマスタの準備処理(図22)、(d)予測モデルの準備処理、(e)稼働時の処理(図23)の順に説明する。
【0049】
<(a)符号化マスタの準備処理>
図19は、マスタ符号化部101における処理手順を示している。
【0050】
先ず、既存システム200から各種マスタが入力されると(ステップS1)、図7に示すような回付先一覧を定めたマスタデータおよび図8に示すような交渉先一覧を定めたマスタデータについては(ステップS2True)、One Hot符号化(One Hot Encoding)によって各マスタ値を数値ベクトルに変換する(ステップS5)。図10は、One Hot符号化の一例を示している。
【0051】
回付先マスタデータおよび交渉先マスタデータ以外の場合には、入力されたマスタデータが名目的な概念(区別を目的とする概念)か数量的な概念(同一の軸や次元において、順序や大小関係を有する概念)か(ステップS3)と、名目的な概念の場合にマスタデータの主キーが階層構造を持つか否か(ステップS4)とを判定することにより、各々の符号化の処理を振り分ける。
【0052】
取引案件の構成要素として、「基本契約」と「個別契約」などの契約の形態、案件の計画性の「有」と「無」、そのほか、案件の種別、区分、フラグなどの分類は、一般に名目的な概念である。名目的な概念に関するマスタのうち、マスタデータの主キーが階層構造を取り得ないマスタについては(ステップS4)、One Hot符号化により数値ベクトルへ変換する(ステップS5)。
【0053】
名目的な概念に関するマスタのうち、主キーが階層構造をとる、ないし、階層的な整理が可能な場合には(ステップS4True)、階層を示す情報毎にOne Hot符号化を実施し、その結果を連結する(ステップS6)。階層的に整理可能な取引案件の情報とは、一般に、図2に示すような企業における組織や図3に示すような勘定科目、案件や品目のカテゴリーなどの分類体系である。
【0054】
例えば、図11に示すように、或る組織1の直下の階層に組織が3個ある場合、それらは11、12、13のように、さらに、組織11の直下の階層に組織が2個ある場合、111、112のように表現できるため、この表現に対してOne Hot符号化を階層毎に適用する。異なる階層であっても、共通する階層に対応するbitをOne Hot符号化によって同一値にすることで、範例データとして与えられなかった階層についても、機械学習によって、共通構造を有する類似した階層に関する範例データが示す特徴が反映された出力が期待できる。
【0055】
一方で、取引案件の金額や期間などの数量的な概念については、それらを順序付けられた名目的概念として扱うための水準ないし基準がマスタに相当する。図4は、決裁金額の水準を定めるマスタの例であり、金額に対して各基準を判定することにより、その金額の水準を一意に決定する機能を有する。数量的な概念に関するマスタについては、水準の連続的な性質を表現できるように符号化する(ステップS7)。
【0056】
具体的には、図12に示すように、基準の数(水準の数より1小さい数)の長さを持つビット列を用意し、基準値よりも大きい場合にはその値を1とし、小さい場合は0として、数値ベクトルへ符号化する。社内手続きにおける決裁金額の場合、一般に、案件や勘定科目毎に、それによって決裁者の権限や手続きが切り替わる基準値が設けられており、案件毎に細かく刻まれる決裁金額そのものではなく、決裁金額がどの基準を満たすかという金額の水準に換算して、各種の判断が実行される。
【0057】
例えば、「資産費目での機器・設備の購入は十万円未満では上司決裁で、十万円以上百万円未満は部門長決裁、百万円以上一千万円未満はCFO決裁、一千万円以上はCEO決裁」のような規定であれば、実際の決裁金額の値そのものではなく、その金額が「十万円未満」、「十万円以上百万円未満」、「百万円以上一千万円未満」、「一千万円以上」の4つの水準のどれに該当するかによって、決裁方法が判断される。この例では、決裁金額は4水準で判断されるため、「十万円未満」を000、「十万円以上百万円未満」を100、「百万円以上一千万円未満」を110、「一千万円以上」を111と符号化する。
【0058】
その他の数量的な概念である期間や個数についても同様で、期間であれば、「3営業日未満」、「3営業日以上5営業日未満」、「5営業日以上10営業日未満」、「10営業日以上」、個数であれば、「10個未満」、「10個以上100個未満」、「100個以上」などの水準がマスタとして定められるため、前記と同様の方法で符号化する。
【0059】
また、案件情報には、前記の組織や決裁金額など、重要な要素が項目として整理された情報のほかに、取引対象の品目名や、その目的の説明文章などの、テキスト情報が含まれる場合もある。テキスト情報については、取引案件の手続きに制御的なキーワードないしタグ(tag)一覧をハッシュテーブル化し、符号化マスタ102へ格納する。
【0060】
図5は、案件の品目に関するテキスト情報のハッシュテーブルの例を示す。また、図6は、案件の目的に関するテキスト情報のハッシュテーブルの例を示す。
【0061】
取引案件マスタ類202ないし既存システム200に前記キーワード一覧がマスタとして準備されていない場合は、図20の手順で、ビジネスルール範例データマスタ104へ登録した範例データからマスタを生成することもできる。
【0062】
図20のフローチャートにおいて、先ず、名詞や動詞など、必要な品詞の種を指定の上(ステップS11)、ビジネスルール範例データマスタ104へ登録済の全ての範例データにおけるテキスト情報を取得して入力とし(ステップS12)、キーワード一覧を格納するためのキーワードリストを初期化する(ステップS13)。
【0063】
続いて、各範例データについて、テキスト情報の形態素解析を行い、品詞一覧を抽出する(ステップS14)。抽出された品詞に対して、その時点のキーワードリストに含まれなければ(ステップS15)、キーワードリストに品詞を追加する(ステップS16)。
【0064】
最後にキーワードリストを昇順に並べ変えてハッシュテーブルを作成し(ステップS17)、符号化マスタ102へ登録する(ステップS18)。
【0065】
図13に示すように、テキスト情報の符号化については、ハッシュテーブルにおけるハッシュの数を長さに持つビット列を用意し、テキスト情報に出現したキーワードに対応する値を1、それ以外の値を0としたベクトルへ符号化する。
【0066】
取引案件の手続きを詳細に制御する際には、対応する業務規程の詳細化および対応するマスタデータが必要になる。業務規程が詳細に定義されていない場合は、その手続き方法に制御的な要素は取引案件の品目や目的などのテキスト情報に含まれる可能性が高いため、テキスト情報を付与した範例データを作成して機械学習させることにより、管理部門の意図が細かく反映された回付先・交渉先の推奨が期待できる。
【0067】
<(b)ビジネスルール範例データの準備処理>
図21は、ビジネスルール範例データ入力部103の処理手順を示す。先ず、企業のビジネス規程の管理部門に対し、ビジネスルール範例データマスタ104に対する操作「登録」、「削除」、「終了」などの指示を要求して(ステップS21)、指示を取得する(ステップS22)。
【0068】
ビジネスルール範例データマスタ104に登録済の範例データに対して、現行の商取引の規程や考え方の変更などがある場合は、不適当な範例データの削除指示を受領し(ステップS23)、対象となるデータを選択させ(ステップS24)、ビジネスルール範例データマスタ104から削除する(ステップS25)。
【0069】
管理部門が新規の範例データを登録する場合は(ステップS26)、範例データの入力を要求し(ステップS27)、入力された範例データをビジネスルール範例データマスタ104へ登録する(ステップS28)。
【0070】
<(c)ビジネスルール学習データマスタの準備処理>
図22は、ビジネスルール学習データマスタ106へ格納するデータの生成手順を示している。ビジネスルール範例データマスタ104より取得したレコードの入力に対し(ステップS31)、データの項目毎に、それがテキスト情報(図では「テキストデータ」と記載)か否かを判断する(ステップS32)。項目がテキスト情報でなければ、符号化マスタ102を照会して、項目に対応する変換則を取得し、データを数値ベクトルに変換する(ステップS33)。項目がテキスト情報であれば形態素解析を行い(ステップS34)、抽出したキーワードに対して符号化マスタ102へ変換則を参照し、数値ベクトルへ変換する(ステップS35)。最後に、各項目の数値ベクトルへの変換結果を統合してビジネスルール学習データマスタ106に保存する(ステップS36)。
【0071】
回付先選定における、協議者ないし中間承認者の予測モデルのためのビジネスルール学習データマスタ106の例を図14に示す。また、決裁者の予測のためのビジネスルール学習データマスタ106の例を図15に示す。さらに、交渉先選定における、交渉先組織の予測モデルのためのビジネスルール学習データマスタ106の例を図16に示す。
【0072】
<(d)予測モデルの準備処理>
学習部107では、レコメンデーション装置100によって推奨する回付先・交渉先の構成要素毎に、専用の機械学習モデルのトレーニングを行う。
【0073】
機械学習モデルには、ニューラルネットワーク(Neural network)に代表される、多次元の分類および回帰が可能な手法を用いる。ここで言う「多次元」とは、協議先や交渉先の選定は、一般に二者択一ではなく、多数の候補から選定する、ということに起因した要求事項である。
【0074】
回付先選定について、ワークフローシステムにおける回付方法は企業によって異なるが、多くの場合は、複数の協議者ないし中間承認者による確認、協議、承認操作と、最終的な1人の決裁者による決裁操作、のような構成である。図17は、任意の数の協議者と1人の決裁者を回付先として推奨する場合について、機械学習の出力の一例を示す。具体的な協議者ないし中間承認者や決裁者は、組織とロールの組合せによって特定されるため、ワークフローの回付先の推奨候補は、協議者ないし中間承認者として、組織とロールの組を任意個推奨する協議者予測モデルと、決裁者として組織とロールの組を1個だけ推奨する決裁者予測モデルと、を準備する。決裁者予測モデルは、分類モデル(複数の候補から1つだけ選ぶ)として機械学習を訓練し、協議者や中間承認者などの、回付先を任意個指定できる要素については、回帰モデル(連続的な数値を予測する)として機械学習を訓練し、機械学習の出力が適当な判定基準(例えば0.5)を超過した候補一覧が推奨先となるように定める。ただし、中間承認者などについてワークフローの回付順序の決定が必要な場合は、推奨された組織階層とロールの序列などによって順列すればよい。
【0075】
交渉先選定について、電子商取引システムにおける交渉先の推奨は、その案件に関連する企業候補および各企業内において直接の交渉を執り行う組織の組を、1個または複数個推奨する交渉先予測モデルによって実現する。図18に、複数の企業とその組織の組から1個だけ推奨をする例を示す。複数個交渉先を推奨する場合は、前記回付先選定の場合における協議者の推奨と同様の方法で、出力値を判定するよう定める。
【0076】
<(e)稼働時の処理>
図23はレコメンデーション装置の稼働時の処理手順を示している。
【0077】
まず、案件情報入力部205から、利用者により回付先・交渉先を推奨する案件の情報が入力されると(ステップS41)、案件情報の項目毎に、入力された案件情報が前述したテキスト情報(図では「テキストデータ」と記載)か否かを判定する(ステップS42)。
テキスト情報の場合、符号化マスタ102を参照して抽出すべきキーワード一覧と変換則を取得の上、テキスト情報を形態素解析し(ステップS43)、変換則によって数値ベクトルへ変換する(ステップS44)。
【0078】
テキスト情報でない項目については、対応する変換則を符号化マスタ102に照会し、各項目データを符号化する(ステップS45)。各項目を対応する前記変換則で変換した後、ひとつの数値ベクトルとして連結する(ステップS46)。
【0079】
前記数値ベクトルは、ビジネスルール学習データマスタ106が保持するデータの入力部分と同様の形である(図14図15図16)。前記数値ベクトルを共通の入力とし、組織やロールなどの回付先・交渉先の予測課題の要素毎に、対応する予測モデルの定義情報をビジネスルール予測マスタ108から取得し、予測部109で前記予測モデルの出力値を計算する(ステップS47)。前記出力値について、符号化マスタ102に対応する変換則を照会し、復号によって前記予測モデルが推奨するマスタ値を取得し(ステップS48)、推奨内容として出力する(ステップS49)。
【0080】
回付先選定について、既存システム200において実際のワークフロー回付先が生成される際には、推奨内容の情報で図9に示す社員マスタを引き当てることで、社員まで特定された具体的な回付先が確定される。
【0081】
《実施例1:回付先選定》
企業におけるワークフローシステムに対する本発明の一実施例として、(1)回付先選定におけるレコメンデーション装置の準備の例、(2)回付先選定におけるレコメンデーション装置の稼働の例、の順に説明する。
【0082】
<(1)回付先選定におけるレコメンデーション装置の準備の例>
先ず、取引案件の手続きに関係する各種マスタを、既存システム200より取得し、マスタ符号化部101へ入力して、符号化マスタ102を準備する。
【0083】
符号化に必要なマスタ一式は、決裁規程類201等の内容から特定する。例えば、決裁規程文書において、取引案件における品目カテゴリーを条件とした決裁方法が定められていれば、品目カテゴリーはワークフロー回付に制御的であるため、品目カテゴリーのマスタは符号化の対象である。
【0084】
続いて、複数の範例データを作成し、ビジネスルール範例データ入力部103へ入力する。具体的には、「総務部が電話会議で使うことを目的として、3,000円のヘッドセットを、OA機器の費目で購入する場合には、間材調達部門が協議の上で総務部門長が決裁する」や(図24)、「情報システム部門が、開発用コンピュータの高性能化のために、メモリチップを100,000円で購入する場合には、技術部門が協議の上で情報システム部門長が決裁する」といった内容について、項目毎に、ビジネスルール範例データ入力部103が定める入力欄に記載し、登録を進める。なお、範例データは、符号化マスタ102、ないし、その元である取引案件マスタ類202や組織・人事マスタ203を参照して作成すればよく、その作成や管理の具体的な実施方法は、本発明の適用先の要求に合わせて決定してよい。例えば、図24のように範例データの作成や登録を行うインターフェイスを用意する場合、同インターフェイスがビジネスルール範例データ入力部の処理手順(図21)を実行できるようにした上で、既存システム200上の入力装置に、範例データの作成や登録指示を行うインターフェイスを備えてもよい。或いは、登録されたい範例データ一式を既存システム200上で作成の上、ビジネスルール範例データ入力部103の処理手順(図21)を呼び出してデータファイルを送信することにより、一括で範例データの登録を実施してもよい。
【0085】
複数の範例を登録後、符号化部105によってビジネスルール範例データマスタ104の各データが数値ベクトルに変換され、ビジネスルール学習データマスタ106へ保存される。
【0086】
学習部107は、ビジネスルール学習データマスタからデータを取得し、ワークフローの回付先の要素である、協議者および決裁者について、それぞれの予測モデルを機械学習によって生成し、ビジネスルール予測マスタ108へ保存する。
【0087】
<(2)回付先選定におけるレコメンデーション装置の稼働の例>
ワークフローの回付先を推奨させたい取引案件として、例えば「総務部の従業員が事務作業で使うパソコンのディスプレイを25,000円で購入する」場合について説明する。
【0088】
先ず、本発明の実施形態が適用されたワークフローシステムへログインすると、図25の画面構成に示すように、ログインユーザの所属組織から申請組織「総務部」が自動で入力される。利用者は、勘定科目を一覧から「OA事務用品」と選択し、金額には「25,000円」を入力する。また、案件情報として、品目「24インチ液晶ディスプレイ」や目的「部署内における事務作業の効率化を進めるため」などと画面上から入力し、推奨を実行する。
【0089】
図26に示すように、その推奨結果においては、機械学習によって、適切な決裁者の組織やロール、協議者として参加させるべき組織やロールが提示される。ただし、システムの利用者はレコメンド結果を修正し、実際に商取引の手続きを進める回付先を選択することが可能である。
【0090】
利用者が推奨内容とは異なる選択を行う場合には、利用者はその選択事由をシステムに入力する。その修正前後の回付先の情報と選択事由は、推奨結果表示部206から選択結果収集部111が取得し、推奨結果履歴保存部112に送付され、ルールの順守状況の確認や範例の修正を行うための参照データとして蓄積される。
【0091】
図27は、入力画面上において、推奨内容の修正に際して事由を記載する一例を示している。図27の例は、推奨されたワークフロー回付先を変更する際の変更事由を記載する例である。
【0092】
《実施例2:交渉先選定》
WEBサイト等で展開される、企業間の電子商取引システムにおける取引の交渉先選定機能に対する本発明の一実施例として、(1)交渉先選定におけるレコメンデーション装置の準備の例、(2)交渉先選定におけるレコメンデーション装置の稼働の例、の順に説明する。
【0093】
<(1)交渉先選定におけるレコメンデーション装置の準備の例>
符号化マスタ102の準備、および、範例データの作成とビジネスルール範例データ入力部103への入力については、実施例1と同様である。範例データの具体例としては、「ハードディスクドライブを、PCの容量を安価に増やしたいという目的で、その代替品をA社に交渉したい場合には、A社の商品企画部門が交渉先」といった内容である(図28)。以降の処理も実施例1と同様である。
【0094】
<(2)交渉先選定におけるレコメンデーション装置の稼働の例>
交渉先を推奨させたい取引案件として、例えば「コンピュータのメモリを、会社で使うPCの高性能化のために急ぎ調達する必要があり、A社またはB社へ納期の交渉をしたい」という場合について説明する。
【0095】
先ず、本発明の実施形態が適用された電子商取引システム上のメニューから案件情報入力のためのインターフェイスを起動し、利用者は、品目「Z社製コンピュータメモリ 16GB」や目的「研究組織の立ち上げに伴い、至急、会社PC端末の高性能化を図りたい。」などと入力する。また、交渉先の会社として「A社」および「B社」、交渉項目として「納期」を入力し、推奨を実行する(図29)。ただし、交渉先の候補となる会社は、利用者の企業の取引先一覧やビジネス規程に基づいて制限される場合があるため、会社の候補は利用者が指定せずにシステムが自動入力するか、会社の候補の指定自体を実施しなくてもよい。
【0096】
その推奨結果においては、機械学習によって、交渉先となる会社と部門が提示される(図30)。また、図30の例では、A社とB社の候補から1社の部門のみ推奨する例を示しているが、会社毎に交渉先を推奨する、としてもよい。以降は実施例1と同様である。
【0097】
以上のように、本発明の実施形態によれば、取引案件の手続き方法を定める業務規程を網羅的に整理したワークフローの回付ルールをシステム実装することなく、業務規程上適切と考えられる回付先をシステムに推奨させる仕組みを構築するレコメンデーション装置を提供することができる。
【0098】
また、本発明の実施形態によれば、商材・要求と交渉先の候補となる企業・部門との組合せを網羅的に整理した交渉先の指定ルールをシステム実装することなく、購入希望者の要求上適切と考えられる交渉先をシステムに推奨させる仕組みを構築するレコメンデーション装置を提供することができる。
【0099】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これは一例であり、発明の範囲を限定するものではない。実施形態は、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0100】
100…レコメンデーション装置、101…マスタ符号化部、102…符号化マスタ、103…ビジネスルール範例データ入力部、104…ビジネスルール範例データマスタ、105…符号化部、106…ビジネスルール学習データマスタ、107…学習部、108…ビジネスルール予測マスタ、109…予測部、110…復号部、111…選択結果収集部、112…推奨結果履歴保存部、200…既存システム、201…決裁規程類、202…取引案件マスタ類、203…組織・人事マスタ、204…ワークフローシステムや商取引プラットフォーム、205…案件情報入力部、206…推奨結果表示部。
【要約】
【課題】業務規程上適切と考えられる回付先をシステムに推奨させる仕組み、および購入希望者の要求上適切と考えられる交渉先をシステムに推奨させる仕組みを構築する。
【解決手段】規範となる取引案件の事例である範例をデータ化して機械学習させ、取引案件の特徴と回付先との関係性を抽象化した数値処理によって表現させ、新たな案件に対しては、その関係性を自動的に評価・計算することにより、業務規程上適切と考えられる回付先をシステムに推奨させる。
また、取引案件の交渉を行う際に適正な交渉先が選定された範例をデータ化して機械学習させ、取扱う商材および購入希望者の要求の特徴と交渉先との関係性を抽象化した数値処理によって表現させ、商材と購入希望者の新たな要求に対しては、その関係性を自動で評価・計算することにより、購入希望者の要求上適切と考えられる交渉先をシステムに推奨させる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30