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特許7412074負イオン照射装置、及び負イオン照射装置の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】負イオン照射装置、及び負イオン照射装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/265 20060101AFI20240104BHJP
   C23C 14/48 20060101ALI20240104BHJP
   H01J 27/04 20060101ALI20240104BHJP
   H01J 37/08 20060101ALI20240104BHJP
   H01L 21/322 20060101ALI20240104BHJP
   H05H 1/50 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
H01L21/265 F
H01L21/265 Z
C23C14/48 B
H01J27/04
H01J37/08
H01L21/322 Z
H05H1/50
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018134880
(22)【出願日】2018-07-18
(65)【公開番号】P2020013878
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-06-16
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117499
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 誠
(72)【発明者】
【氏名】北見 尚久
(72)【発明者】
【氏名】酒見 俊之
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲也
【合議体】
【審判長】恩田 春香
【審判官】河本 充雄
【審判官】中野 浩昌
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-109201(JP,A)
【文献】国際公開第2017/014278(WO,A1)
【文献】特開2002-329682(JP,A)
【文献】国際公開第2013/153777(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/425,21/265
H01J27/04,37/08
C23C14/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物半導体からなる単結晶基板へ負イオンを照射する負イオン照射装置であって、
内部で前記負イオンの生成が行われるチャンバーと、
前記化合物半導体からなる単結晶基板を形成するイオンと同じ元素を含むガスを供給するガス供給部と、
前記チャンバー内において、プラズマ及び電子を生成するプラズマ生成部と、
前記化合物半導体からなる単結晶基板を配置する配置部と、
前記負イオン照射装置の制御を行う制御部と、を備え、
前記化合物半導体からなる単結晶基板は、前記チャンバーの外部において予め製造され、
前記配置部は、外部で予め製造された前記化合物半導体からなる単結晶基板を配置可能に構成され、
前記制御部は、
前記ガス供給部を制御して、前記チャンバー内に前記ガスを供給し、
前記プラズマ生成部を制御して、前記チャンバー内に前記プラズマ及び前記電子を生成し、且つ、前記プラズマの生成を停止することで前記電子と前記ガスとにより前記負イオンを生成し、当該負イオンを前記チャンバー内に配置された前記化合物半導体からなる単結晶基板へ照射する、負イオン照射装置。
【請求項2】
化合物半導体からなる単結晶基板へ負イオンを照射する負イオン照射装置の制御方法であって、
前記負イオン照射装置は、
内部で前記負イオンの生成が行われるチャンバーと、
前記化合物半導体からなる単結晶基板を形成するイオンと同じ元素を含むガスを供給するガス供給部と、
前記チャンバー内において、プラズマ及び電子を生成するプラズマ生成部と、
前記化合物半導体からなる単結晶基板を配置する配置部と、
前記負イオン照射装置の制御を行う制御部と、を備え、
前記化合物半導体からなる単結晶基板は、前記チャンバーの外部において予め製造され、
前記配置部は、外部で予め製造された前記化合物半導体からなる単結晶基板を配置可能に構成され、
前記制御部により前記ガス供給部を制御して、前記チャンバー内に前記ガスを供給するガス供給工程と、
前記制御部により前記プラズマ生成部を制御して、前記チャンバー内に前記プラズマ及び前記電子を生成し、且つ、前記プラズマの生成を停止することで前記電子と前記ガスとにより前記負イオンを生成し、当該負イオンを前記チャンバー内に配置された前記化合物半導体からなる単結晶基板へ照射する負イオン照射工程と、を有する、負イオン照射装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負イオン照射装置、及び負イオン照射装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化合物半導体として特許文献1に記載されたものが知られている。このような化合物半導体を構成する単結晶基板には、結晶欠陥が多くなる。特許文献1では、製造方法を工夫する事により、単結晶基板の結晶欠陥を低減しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-22711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、単結晶基板を製造する際は、製造方法を工夫しても、結晶欠陥の発生を防ぐことは困難であった。更には、単結晶基板に結晶欠陥が発生した場合、当該結晶欠陥を埋めるための実用的な手法が存在していなかった。よって、単結晶基板の結晶欠陥はそのままの状態で用いられていた。単結晶基板は、結晶欠陥の量に応じてグレード(品質)が決定され、グレードに応じて用途が決定される。従って、化合物半導体に用いることができる単結晶基板の数量が限定されてしまうことで、化合物半導体の製造効率が低下してしまうという問題がある。一方、グレードの低い単結晶基板を化合物半導体として用いた場合、化合物半導体の品質が低下してしまうという問題がある。
【0005】
そこで本発明は、化合物半導体の製造効率及び品質を向上できる負イオン照射装置、及び負イオン照射装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る負イオン照射装置は、化合物半導体へ負イオンを照射する負イオン照射装置であって、内部で負イオンの生成が行われるチャンバーと、化合物半導体を形成するイオンと同じ元素を含むガスを供給するガス供給部と、チャンバー内において、プラズマ及び電子を生成するプラズマ生成部と、化合物半導体を配置する配置部と、負イオン照射装置の制御を行う制御部と、を備え、制御部は、ガス供給部を制御して、チャンバー内にガスを供給し、プラズマ生成部を制御して、チャンバー内にプラズマ及び電子を生成し、且つ、プラズマの生成を停止することで電子とガスとにより負イオンを生成し、当該負イオンを化合物半導体へ照射する。
【0007】
本発明に係る負イオン照射装置では、制御部は、ガス供給部を制御して、チャンバー内にガスを供給する。ガス供給部は、化合物半導体を形成するイオンと同じ元素を含むガスを供給する。従って、チャンバー内には、化合物半導体を形成するイオンと同じ元素が存在することとなる。そして、制御部は、プラズマ生成部を制御して、チャンバー内にプラズマ及び電子を生成し、且つ、プラズマの生成を停止することで電子とガスとにより負イオンを生成し、当該負イオンを化合物半導体へ照射する。これにより、化合物半導体を形成するイオンと同じ元素の負イオンが、化合物半導体へ照射される。これにより、負イオンが化合物半導体内の陰イオン由来の結晶欠陥に入り込むことで、当該結晶欠陥を埋めることができる。このように化合物半導体の結晶欠陥を埋めることができるため化合物半導体の品質を向上することができる。また、負イオン照射前は化合物半導体としてのグレードが十分でなかった場合であっても、負イオン照射で品質を向上できるため、事前の単結晶基板のグレードの選別の必要性を低減することができる。以上により、化合物半導体の製造効率及び品質を向上できる。
【0008】
本発明に係る負イオン照射装置の制御方法は、化合物半導体へ負イオンを照射する負イオン照射装置の制御方法であって、負イオン照射装置は、内部で負イオンの生成が行われるチャンバーと、化合物半導体を形成するイオンと同じ元素を含むガスを供給するガス供給部と、チャンバー内において、プラズマ及び電子を生成するプラズマ生成部と、化合物半導体を配置する配置部と、負イオン照射装置の制御を行う制御部と、を備え、制御部によりガス供給部を制御して、チャンバー内にガスを供給するガス供給工程と、制御部によりプラズマ生成部を制御して、チャンバー内にプラズマ及び電子を生成し、且つ、プラズマの生成を停止することで電子とガスとにより負イオンを生成し、当該負イオンを化合物半導体へ照射する負イオン照射工程と、を有する。
【0009】
本発明に係る負イオン照射装置の制御方法によれは、上述の負イオン照射装置と同趣旨の作用・効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、化合物半導体の製造効率及び品質を向上できる負イオン照射装置、及び負イオン照射装置の制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る負イオン照射装置の構成を示す概略断面図であって、プラズマ生成時における動作状態を示す図である。
図2図1の負イオン照射装置の構成を示す概略断面図であって、プラズマ停止時における動作状態を示す図である。
図3】本実施形態に係る負イオン照射装置の制御方法を示すフローチャートである。
図4】負イオンが化合物半導体へ照射されるときの様子を模式的に示す図である。
図5】比較例として、化合物半導体に正イオンを注入するときの様子を模式的に示した図である。
図6】化合物半導体に負イオンを注入するときの様子を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明の一実施形態に係る負イオン照射装置について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0013】
まず、図1及び図2を参照して、本発明の実施形態に係る負イオン照射装置の構成について説明する。図1及び図2は、本実施形態に係る負イオン照射装置の構成を示す概略断面図である。図1は、プラズマ生成時の動作状態を示し、図2は、プラズマ停止時における動作状態を示している。
【0014】
図1及び図2に示すように、本実施形態の負イオン照射装置1は、いわゆるイオンプレーティング法に用いられる成膜技術を負イオン照射に応用した装置である。なお、説明の便宜上、図1及び図2には、XYZ座標系を示す。Y軸方向は、後述する化合物半導体が搬送される方向である。X軸方向は、化合物半導体の厚さ方向である。Z軸方向は、Y軸方向とX軸方向とに直交する方向である。
【0015】
負イオン照射装置1は、化合物半導体11の板厚方向が略鉛直方向となるように化合物半導体11が真空チャンバー10内に配置されて搬送されるいわゆる横型の負イオン照射装置であってもよい。この場合には、Z軸及びY軸方向は水平方向であり、X軸方向は鉛直方向且つ板厚方向となる。なお、負イオン照射装置1は、化合物半導体11の板厚方向が水平方向(図1及び図2ではX軸方向)となるように、化合物半導体11を直立又は直立させた状態から傾斜した状態で、化合物半導体11が真空チャンバー10内に配置されて搬送される、いわゆる縦型の負イオン照射装置であってもよい。この場合には、X軸方向は水平方向且つ化合物半導体11の板厚方向であり、Y軸方向は水平方向であり、Z軸方向は鉛直方向となる。本発明の一実施形態に係る負イオン照射装置は、以下、横型の負イオン照射装置を例として説明する。
【0016】
負イオン照射装置1は、真空チャンバー10、搬送機構(配置部)3、プラズマ生成部14、ガス供給部40、回路部34、電圧印加部90、及び制御部50を備えている。
【0017】
真空チャンバー10は、化合物半導体11を収納し成膜処理を行うための部材である。真空チャンバー10は、化合物半導体11を搬送するための搬送室10aと、負イオンを生成するための生成室10bと、プラズマガン7からビーム状に照射されるプラズマPを真空チャンバー10に受け入れるプラズマ口10cとを有している。搬送室10a、生成室10b、及びプラズマ口10cは互いに連通している。搬送室10aは、所定の搬送方向(図中の矢印A)に(Y軸に)沿って設定されている。また、真空チャンバー10は、導電性の材料からなり接地電位に接続されている。搬送室10aには、化合物半導体11を加熱するための加熱部30が設けられる。加熱部30は、搬送室10aのうち、生成室10bとの連通部よりも搬送方向における上流側に設けられる。従って、生成室10bからの負イオンは、加熱された状態の化合物半導体11へ照射される。
【0018】
生成室10bは、壁部10Wとして、搬送方向(矢印A)に沿った一対の側壁と、搬送方向(矢印A)と交差する方向(Z軸方向)に沿った一対の側壁10h,10iと、X軸方向と交差して配置された底面壁10jと、を有する。
【0019】
搬送機構3は、生成室10bと対向した状態で化合物半導体11を保持する化合物半導体保持部材16を搬送方向(矢印A)に搬送する。搬送機構3は、化合物半導体11を配置する配置部として機能する。例えば化合物半導体保持部材16は、化合物半導体11の外周縁を保持する枠体である。搬送機構3は、搬送室10a内に設置された複数の搬送ローラ15によって構成されている。搬送ローラ15は、搬送方向(矢印A)に沿って等間隔に配置され、化合物半導体保持部材16を支持しつつ搬送方向(矢印A)に搬送する。なお、化合物半導体11は、板状の基板である。化合物半導体11の材質等については後述する。
【0020】
続いて、プラズマ生成部14の構成について詳細に説明する。プラズマ生成部14は、真空チャンバー10内において、プラズマ及び電子を生成する。プラズマ生成部14は、プラズマガン7と、ステアリングコイル5と、ハース機構2と、を有している。
【0021】
プラズマガン7は、例えば圧力勾配型のプラズマガンであり、その本体部分が生成室10bの側壁に設けられたプラズマ口10cを介して生成室10bに接続されている。プラズマガン7は、真空チャンバー10内でプラズマPを生成する。プラズマガン7において生成されたプラズマPは、プラズマ口10cから生成室10b内へビーム状に出射される。これにより、生成室10b内にプラズマPが生成される。
【0022】
プラズマガン7は、陰極60により一端が閉塞されている。陰極60とプラズマ口10cとの間には、第1の中間電極(グリッド)61と、第2の中間電極(グリッド)62とが同心的に配置されている。第1の中間電極61内にはプラズマPを収束するための環状永久磁石61aが内蔵されている。第2の中間電極62内にもプラズマPを収束するため電磁石コイル62aが内蔵されている。
【0023】
プラズマガン7は、負イオンを生成するときは、生成室10b内において間欠的にプラズマPを生成する。具体的には、プラズマガン7は、後述の制御部50によって生成室10b内において間欠的にプラズマPを生成するように制御されている。この制御については、制御部50の説明において詳述する。
【0024】
ステアリングコイル5は、プラズマガンが装着されたプラズマ口10cの周囲に設けられている。ステアリングコイル5は、プラズマPを生成室10b内に導く。ステアリングコイル5は、ステアリングコイル用の電源(不図示)により励磁される。
【0025】
ハース機構2は、プラズマガンからのプラズマPを所望の位置へ導く機構である。ハース機構2は、主ハース17及び輪ハース6を有している。主ハース17は、負イオン照射装置1を用いて成膜を行う場合に、成膜材料を保持する陽極として機能する。ただし、負イオン生成を行う際には、プラズマPが成膜材料に導かれないように、輪ハース6へプラズマが誘導される。従って、負イオン照射装置1が成膜を行わず、負イオン照射のみを行う場合は、主ハース17に成膜材料は保持されていなくてよい。あるいは、ハース機構2は、プラズマPを導くだけの構成を有していればよい。
【0026】
輪ハース6は、プラズマPを誘導するための電磁石を有する陽極である。輪ハース6は、主ハース17の充填部17aの周囲に配置されている。輪ハース6は、環状のコイル9と環状の永久磁石部20と環状の容器12とを有し、コイル9及び永久磁石部20は容器12に収容されている。本実施形態では、搬送機構3から見てX負方向にコイル9、永久磁石部20の順に設置されているが、X負方向に永久磁石部20、コイル9の順に設置されていてもよい。
【0027】
ガス供給部40は、真空チャンバー10の外部に配置されている。ガス供給部40は、生成室10bの側壁(例えば、側壁10h)に設けられたガス供給口41を通し、真空チャンバー10内へガスを供給する。ガスの具体的な例は、後述する。
【0028】
ガス供給口41の位置は、生成室10bと搬送室10aとの境界付近の位置が好ましい。この場合、ガス供給部40からのガスを、生成室10bと搬送室10aとの境界付近に供給することができるので、当該境界付近において後述する負イオンの生成が行われる。よって、生成した負イオンを、搬送室10aにおける化合物半導体11に好適に注入させることができる。なお、ガス供給口41の位置は、生成室10bと搬送室10aとの境界付近に限られない。
【0029】
回路部34は、可変電源80と、第1の配線71と、第2の配線72と、抵抗器R1~R4と、短絡スイッチSW1,SW2と、を有している。
【0030】
可変電源80は、接地電位にある真空チャンバー10を挟んで、負電圧をプラズマガン7の陰極60に、正電圧をハース機構2の主ハース17に印加する。これにより、可変電源80は、プラズマガン7の陰極60とハース機構2の主ハース17との間に電位差を発生させる。
【0031】
第1の配線71は、プラズマガン7の陰極60を、可変電源80の負電位側と電気的に接続している。第2の配線72は、ハース機構2の主ハース17(陽極)を、可変電源80の正電位側と電気的に接続している。
【0032】
抵抗器R1は、一端がプラズマガン7の第1の中間電極61と電気的に接続されていると共に、他端が第2の配線72を介して可変電源80と電気的に接続されている。すなわち、抵抗器R1は、第1の中間電極61と可変電源80との間において直列接続されている。
【0033】
抵抗器R2は、一端がプラズマガン7の第2の中間電極62と電気的に接続されていると共に、他端が第2の配線72を介して可変電源80と電気的に接続されている。すなわち、抵抗器R2は、第2の中間電極62と可変電源80との間において直列接続されている。
【0034】
抵抗器R3は、一端が生成室10bの壁部10Wと電気的に接続されていると共に、他端が第2の配線72を介して可変電源80と電気的に接続されている。すなわち、抵抗器R3は、生成室10bの壁部10Wと可変電源80との間において直列接続されている。
【0035】
抵抗器R4は、一端が輪ハース6と電気的に接続されていると共に、他端が第2の配線72を介して可変電源80と電気的に接続されている。すなわち、抵抗器R4は、輪ハース6と可変電源80との間において直列接続されている。
【0036】
短絡スイッチSW1,SW2は、それぞれ制御部50からの指令信号を受信することにより、ON/OFF状態に切り替えられる切替部である。
【0037】
短絡スイッチSW1は、抵抗器R2に並列接続されている。短絡スイッチSW1は、プラズマPを生成するときはOFF状態とされる。これにより、第2の中間電極62と可変電源80とが抵抗器R2を介して互いに電気的に接続されるので、第2の中間電極62と可変電源80との間には電流が流れにくい。その結果、プラズマガン7からのプラズマPが真空チャンバー10内に出射される。なお、プラズマガン7からのプラズマPを真空チャンバー10内に出射する場合、第2の中間電極62への電流を流れにくくする事に代えて、第1の中間電極61への電流を流れにくくしてもよい。この場合、短絡スイッチSW1は、第2の中間電極62側に代えて、第1の中間電極61側に接続される。
【0038】
一方、短絡スイッチSW1は、プラズマPを停止するときはON状態とされる。これにより、第2の中間電極62と可変電源80との間の電気的な接続が短絡するので、第2の中間電極62と可変電源80との間に電流が流れる。すなわち、プラズマガン7に短絡電流が流れる。その結果、プラズマガン7からのプラズマPが真空チャンバー10内に出射されなくなる。
【0039】
負イオンを生成するときは、短絡スイッチSW1のON/OFF状態が制御部50によって所定間隔で切り替えられることにより、プラズマガン7からのプラズマPが真空チャンバー10内において間欠的に生成される。すなわち、短絡スイッチSW1は、真空チャンバー10内へのプラズマPの供給と遮断とを切り替える切替部である。
【0040】
短絡スイッチSW2は、抵抗器R4に並列接続されている。短絡スイッチSW2は、プラズマPを主ハース17側に導くか輪ハース6側へ導くかにより、制御部50でON/OFF状態が切り替えられる。短絡スイッチSW2がON状態とされると、輪ハース6と可変電源80との間の電気的な接続が短絡するので、主ハース17よりも輪ハース6に電流を流しやすくなる。これにより、プラズマPは、輪ハース6に導かれやすくなる。一方、短絡スイッチSW2がOFF状態とされると、輪ハース6と可変電源80が抵抗器R4を介して電気的に接続されるので、輪ハース6よりも主ハース17に電流を流しやすくなり、プラズマPが主ハース17側へ導かれやすくなる。なお、負イオン生成時には、短絡スイッチSW2はON状態で保たれる。負イオン照射装置1で成膜を行わない場合は、短絡スイッチSW2はON状態で保たれてよい。
【0041】
電圧印加部90は、成膜後の化合物半導体(対象物)11に正の電圧を印加可能である。電圧印加部90は、バイアス回路35と、トロリ線18と、を備える。
【0042】
バイアス回路35は、成膜後の化合物半導体11に正のバイアス電圧を印加するための回路である。バイアス回路35は、化合物半導体11に正のバイアス電圧(以下、単に「バイアス電圧」ともいう)を印加するバイアス電源27と、バイアス電源27とトロリ線18とを電気的に接続する第3の配線73と、第3の配線73に設けられた短絡スイッチSW3とを有している。バイアス電源27は、バイアス電圧として、周期的に増減する矩形波である電圧信号(周期的電気信号)を印加する。バイアス電源27は、印加するバイアス電圧の周波数を制御部50の制御によって変更可能に構成されている。第3の配線73は、一端がバイアス電源27の正電位側に接続されていると共に、他端がトロリ線18に接続されている。これにより、第3の配線73は、トロリ線18とバイアス電源27とを電気的に接続する。
【0043】
短絡スイッチSW3は、第3の配線73によって、トロリ線18とバイアス電源27の正電位側との間において直列に接続されている。短絡スイッチSW3は、トロリ線18へのバイアス電圧の印加の有無を切り替える切替部である。短絡スイッチSW3は、制御部50によってそのON/OFF状態が切り替えられる。短絡スイッチSW3は、負イオン生成時に所定のタイミングでON状態とされる。短絡スイッチSW3がON状態とされると、トロリ線18とバイアス電源27の正電位側とが互いに電気的に接続され、トロリ線18にバイアス電圧が印加される。
【0044】
一方、短絡スイッチSW3は、負イオン生成時における所定のタイミングにおいてOFF状態とされる。短絡スイッチSW3がOFF状態とされると、トロリ線18とバイアス電源27とが互いに電気的に切断され、トロリ線18にはバイアス電圧が印加されない。
【0045】
トロリ線18は、化合物半導体保持部材16への給電を行う架線である。トロリ線18は、搬送室10a内に搬送方向(矢印A)に延伸して設けられている。トロリ線18は、化合物半導体保持部材16に設けられた給電ブラシ42と接触することで、給電ブラシ42を通して化合物半導体保持部材16への給電を行う。トロリ線18は、例えばステンレス製の針金等により構成されている。
【0046】
制御部50は、負イオン照射装置1全体を制御する装置であり、装置全体を統括的に管理するECU[Electronic Control Unit]を備えている。ECUは、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]、CAN[Controller Area Network]通信回路等を有する電子制御ユニットである。ECUでは、例えば、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。ECUは、複数の電子ユニットから構成されていてもよい。
【0047】
制御部50は、真空チャンバー10の外部に配置されている。また、制御部50は、ガス供給部40によるガス供給を制御するガス供給制御部51と、プラズマ生成部14によるプラズマPの生成を制御するプラズマ制御部52と、電圧印加部90による電圧の印加を制御する電圧制御部53と、を備えている。
【0048】
ガス供給制御部51は、ガス供給部40を制御して、生成室10b内にガスを供給する。続いて、制御部50のプラズマ制御部52は、プラズマガン7からのプラズマPを生成室10b内で間欠的に生成するようにプラズマ生成部14を制御する。例えば、制御部50によって、短絡スイッチSW1のON/OFF状態が所定間隔で切り替えられることにより、プラズマガン7からのプラズマPが生成室10b内で間欠的に生成される。
【0049】
短絡スイッチSW1がOFF状態とされているとき(図1の状態)は、プラズマガン7からのプラズマPが生成室10b内に出射されるため、生成室10b内にプラズマPが生成される。プラズマPは、中性粒子、正イオン、負イオン(酸素ガスなどの負性気体が存在する場合)、及び電子を構成物質としている。従って、生成室10b内に電子が生成されることとなる。短絡スイッチSW1がON状態とされているとき(図2の状態)は、プラズマガン7からのプラズマPが生成室10b内に出射されないので生成室10b内におけるプラズマPの電子温度が急激に低下する。このため、生成室10b内に供給されたガスの粒子に、電子が付着し易くなる。これにより、生成室10b内には、負イオンが効率的に生成される。
【0050】
制御部50は、電圧印加部90による電圧の印加を制御する。制御部50は、所定のタイミング(例えば、プラズマPが停止されているタイミング)にて、電圧印加部90による電圧を印加する。なお、電圧印加部90による電圧の印加を開始するタイミングは、制御部50にて予め設定される。電圧印加部90によって化合物半導体11に正のバイアス電圧が付与されることで、真空チャンバー10内の負イオンが化合物半導体11へ導かれる。これにより、負イオンが化合物半導体へ照射される。
【0051】
ここで、化合物半導体11と負イオンとの関係について説明する。化合物半導体11は陽イオン(カチオン)と陰イオン(アニオン)によって形成される。このような化合物半導体11に対して、当該化合物半導体11を形成する陰イオンと同じ元素を含む負イオンが照射される。また、ガス供給部40によって供給されるガスは、化合物半導体11を形成する陰イオンと同じ元素を含む。なお、ガスは、Arなどの希ガスも含む。
【0052】
例えば、化合物半導体11がZnO、Gaなどで形成される場合、Oなどの負イオンが照射される。ガス供給部40のガスは、Oなどを含む。化合物半導体11がAlN、GaNなどで形成される場合、NHなどの窒化物の負イオンが照射される。なお、注入したHはアニールによって除去される。ガス供給部40のガスは、NH、NHなどを含む。その他、化合物半導体11がSiCなどで形成される場合、CやSiなどの負イオンが照射される。ガス供給部40のガスは、CやSiHなどを含む。なお、化合物半導体11がSiCの場合には、Siも負イオンとすることができるので、カチオン側も負イオンとして照射することが可能である。
【0053】
なお、電子親和力が正の原子、分子は負イオンになりやすい。従って、そのような原子、分子の陰イオンが化合物半導体11に含まれている場合、同じ原子、分子を含む負イオンを照射してよい。例えば、負イオンにし易いものとして、H、He、C、O、F、Si、S、Cl、Br、I、H、O、Cl、Br、I、CH、OH、CN、HCl、HBr、NH、NO、NO、CCl、SF等が挙げられる。
【0054】
次に、図3を参照して、負イオン照射装置1の制御方法について説明する。図3は、本実施形態に係る負イオン照射装置1の制御方法を示すフローチャートである。なお、ここでは、化合物半導体11がZnOで形成されており、Oの負イオンを照射する場合を例にして説明する。
【0055】
図3に示すように、負イオン照射装置1の制御方法は、ガス供給工程S10と、プラズマ生成工程S20(負イオン照射工程の一部)と、電圧印加工程S30(負イオン照射工程の一部)と、を備える。各工程は、制御部50によって実行される。
【0056】
まず、制御部50のガス供給制御部51は、ガス供給部40を制御して、真空チャンバー10内にガスを供給する(ガス供給工程S10)。これにより、真空チャンバー10の生成室10bにはOのガスが存在した状態となる。その後、プラズマ生成工程S20が実行される。
【0057】
制御部50のプラズマ制御部52は、プラズマ生成部14を制御して、真空チャンバー10内にプラズマP及び電子を生成し、且つ、プラズマPの生成を停止することで電子とガスとにより負イオンを生成する(プラズマ制御工程S20)。真空チャンバー10の生成室10b内でプラズマP及び電子が生成されると、プラズマPによって「O+e→2O+e」という反応が進む。その後、プラズマPの生成が停止されると、生成室10b内では、電子温度が急激に低下することで、「O+e→O」という反応が進む。プラズマ生成工程S20が実行された後の所定のタイミングで、電圧印加工程S30が実行される。なお、厳密にはプラズマ生成中にも負イオンは生成されており、負イオン照射時には、プラズマ生成時に生成された負イオンも照射される。
【0058】
制御部50の電圧制御部53は、電圧印加部90を制御して化合物半導体11にバイアス電圧を印加する(電圧制御工程S30)。これにより、生成室10b内のOの負イオン81が化合物半導体11側へ向かい、当該化合物半導体11へ照射される(図2及び図4参照)。
【0059】
次に、本実施形態に係る負イオン照射装置1及びその制御方法の作用・効果について説明する。
【0060】
本実施形態に係る負イオン照射装置1では、制御部50は、ガス供給部40を制御して、真空チャンバー10内にガスを供給する。ガス供給部40は、化合物半導体11を形成するイオンと同じ元素を含むガスを供給する。従って、真空チャンバー10内には、化合物半導体11を形成するイオンと同じ元素が存在することとなる。そして、制御部50は、プラズマ生成部14を制御して、真空チャンバー10内にプラズマP及び電子を生成し、且つ、プラズマPの生成を停止することで電子とガスとにより負イオンを生成し、当該負イオンを化合物半導体11へ照射する。
【0061】
例えば、図4(a)に示すように、化合物半導体11を形成するイオンと同じ元素の負イオン81が、化合物半導体11へ照射される。負イオン81は、化合物半導体11の表面11aから内部へ入り込む。これにより、負イオン81が化合物半導体11内の陰イオン由来の結晶欠陥85に入り込むことで、図4(b)に示すように、当該結晶欠陥85を埋めることができる。
【0062】
ここで、図5及び図6を参照して、化合物半導体11に対して負イオンを照射することのメリットについて説明する。図5及び図6では、化合物半導体11を形成する陽イオン86及び陰イオン87のイオン結合構造が示されている。図5は、比較例として、化合物半導体に正イオン83を注入するときの様子を模式的に示した図である。図5に示すように、化合物半導体11に正イオン83が注入されると、正イオン83は、陽イオン86と陰イオン87とのクーロン力の影響の中を通過していかなくてはならないため、化合物半導体11内部へスムーズに入っていきにくいという問題がある。また、正イオン83の注入によって二次電子としての電子82の放出が生じると、基板がチャージアップしてしまうという問題が生じる。
【0063】
これに対し、化合物半導体11へ向かう負イオン81(図6(a)参照)が当該化合物半導体11に到達すると、図6(b)に示すように、衝突によって電子82が取れ易い。従って、負イオン81は、電子82が取れた中性状態の粒子81aとして、イオン結合の中を進行してゆく。中性状態の粒子81aは、陽イオン86と陰イオン87とのクーロン力の影響を受けずに化合物半導体11内部へスムーズに入っていくことができる。従って、負イオン81のエネルギーは例えば70eV以下の低エネルギーでよい。また、負イオン81を注入する際には、基板のチャージアップも生じない。なお、負イオン81は、加熱部30(図1参照)で加熱された状態の化合物半導体11へ注入される。従って、濃度拡散によって化合物半導体11の奥へ所望の元素が入っていき、また、熱処理によって余分な元素が抜けてゆくため、粒子81aが結晶欠陥のみを埋めることができる。
【0064】
また、例えば、比較例として負イオン源を用いて負イオン照射する場合、負イオンを照射できる面積が小さい。一方、本実施形態のように、プラズマ生成部14を備える負イオン照射装置1は、化合物半導体11に対して大面積で負イオンを照射することができる。また、例えば、比較例として単一のエネルギーの負イオンのみを照射した場合、化合物半導体11の所定の深さ位置にのみ負イオンが入り込むため、深さ方向の広い範囲にわたって結晶欠陥を埋めることができない。一方、本実施形態に係る負イオン照射装置1は、幅広いエネルギーの負イオンを生成することができるため、深さ方向の広い範囲にわたって結晶欠陥を埋めることができる。
【0065】
以上のように、本実施形態に係る負イオン照射装置1は、化合物半導体11の結晶欠陥を埋めることができるため化合物半導体11の品質を向上することができる。また、負イオン照射前は化合物半導体11としてのグレードが十分でなかった場合であっても、負イオン照射で品質を向上できるため、事前の単結晶基板のグレードの選別の必要性を低減することができる。以上により、化合物半導体の製造効率及び品質を向上できる。
【0066】
本実施形態に係る負イオン照射装置1の制御方法は、ガス供給部40を制御して、真空チャンバー10内にガスを供給するガス供給工程S10と、プラズマ生成部14を制御して、真空チャンバー10内にプラズマP及び電子を生成し、且つ、プラズマPの生成を停止することで電子とガスとにより負イオンを生成し、当該負イオンを化合物半導体11へ照射する負イオン照射工程(プラズマ制御工程S20、電圧印加工程S30)と、を有する。
【0067】
本実施形態に係る負イオン照射装置1の制御方法によれは、上述の負イオン照射装置1と同趣旨の作用・効果を得ることができる。
【0068】
以上、本実施形態の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、イオンプレーティング型の成膜装置としての機能も備えた負イオン照射装置について説明したが、負イオン照射装置は、成膜装置の機能を有していなくてもよい。従って、プラズマPは、例えばプラズマガンと対向する壁部の電極などに導かれてよい。
【0070】
例えば、上記実施形態では、プラズマガン7を圧力勾配型のプラズマガンとしたが、プラズマガン7は、真空チャンバー10内にプラズマを生成できればよく、圧力勾配型のものには限られない。
【0071】
また、上記実施形態では、プラズマガン7とプラズマPを導く箇所(ハース機構2)の組が真空チャンバー10内に一組だけ設けられていたが、複数組設けてもよい。また、一箇所に対して、複数のプラズマガン7からプラズマPを供給してもよい。
【符号の説明】
【0072】
1…負イオン照射装置(負イオン照射装置)、3…搬送機構(配置部)、7…プラズマガン、10…真空チャンバー、11…化合物半導体、14…プラズマ生成部、40…ガス供給部、50…制御部、P…プラズマ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6