(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】熱検知器及びそれによる火災判定方法
(51)【国際特許分類】
G08B 17/06 20060101AFI20240104BHJP
【FI】
G08B17/06 F
(21)【出願番号】P 2019059271
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002169
【氏名又は名称】彩雲弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岩間 三典
【審査官】山岸 登
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-153287(JP,A)
【文献】特開2009-230510(JP,A)
【文献】特開2016-192046(JP,A)
【文献】特開2010-224854(JP,A)
【文献】特開2008-083923(JP,A)
【文献】特開2012-208556(JP,A)
【文献】特開2009-059145(JP,A)
【文献】特開昭59-214997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08B17/00-17/12
23/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の温度検知素子と、
第2の温度検知素子と、該
第1の温度検知素子
と該第2の温度検知素子の出力に基づき火災判定を行う制御部と、を備え、
該制御部は、
該第1の温度検知素子の出力に基づく温度と、該第2の温度検知素子の出力に基づく温度の内、一
方の該温度検知素子の出力に基づく温度が火災閾値よりも低いときであっても、他
方の温度検知素
子に基づく温度が火災閾値以上であれば、カウンタ回
路を継続して動作させ、
該カウンタ回
路が所定回
数動作したときに火災と判定する
熱感知器であって、
該第1の温度検知素子に基づく温度と該第2の温度検知素子に基づく温度の両方が火災閾値以上の場合は、2回としてカウントすることを特徴とする熱検知器。
【請求項2】
前記火災閾値は、前記温度検知素子の出力に基づく温度の各々で異なる値とすることが可能となっていることを特徴とする請求項
1に記載の熱検知器。
【請求項3】
前記制御部は、前記温度検知素子の各々を独立して監視可能に設けられていると共に前記火災判定と並行して該温度検知素子の断線判定を行うものとなっており、いずれかの該温度検知素子の断線状態を所定回数又は所定時間連続して検出したときに断線と判定し、その際に、断線と判定された該温度検知素子以外の該温度検知素子の出力に基づき前記火災判定を行うことを特徴とする請求項1
又は2に記載の熱検知器。
【請求項4】
前記制御部は、温度センサを有し、前記温度検知素子の各々を独立して監視可能に設けられていると共に前記火災判定と並行して該温度検知素子の劣化判定を行うものとなっており、該温度検知素子の出力に基づく温度が、所定回数又は所定時間連続して、該温度センサの出力に基づく温度との間に一定以上の差があるときに、劣化と判定し、その際に、劣化と判定された該温度検知素子以外の該温度検知素子の出力に基づき前記火災判定を行うことを特徴とする請求項1乃至
3の何れかに記載の熱検知器。
【請求項5】
第1の温度検知素子と、
第2の温度検知素子を備えた熱検知器による火災判定方法であって、
該
第1の温度検知素子
と該第2の温度検知素子の出力に基づき温度を検知する温度検知工程と、
該温度検知工程で検知した温度に基づきカウンタ回
路を動作させる火災判定工程と、を含み、
該火災判定工程は、
該第1の温度検知素子の出力に基づく温度と、該第2の温度検知素子の出力に基づく温度の内、一
方の該温度検知素子の出力に基づく温度が火災閾値よりも低下したときであっても、他
方の温度検知素
子に基づく温度が火災閾値以上であれば、該カウンタ回
路を継続して動作させ、該カウンタ回
路が所定回
数動作したときに火災と判定する
火災判定方法において、
該第1の温度検知素子に基づく温度と該第2の温度検知素子に基づく温度の両方が火災閾値以上の場合は、2回としてカウントすることを特徴とする火災判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱検知器及びそれによる火災判定方法に関し、より詳細には、複数の温度検知素子を備えた熱検知器及びそれによる火災判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動火災報知設備に用いられる熱感知器や熱検知式の火災警報器に代表される熱検知器がある。この様な熱検知器は、指向性を可能な限りないものとするため、中央にサーミスタが筐体から突出して設けられると共に該サーミスタを保護するプロテクタが該筐体より突出して設けられていた。近年、この様な熱検知器は、設置される施設の美観の都合上、為るべく目立たない平坦な形状が好まれており、そのために、複数のサーミスタが、熱検知器の中央に突出して設けられるのではなく、筐体内の周縁側に位置する様に設けられるものとなっている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この様な熱検知器は、熱検知器全体として、可能な限り指向性をなくすために、各サーミスタは互いに離間した位置に設けられることになるため、各サーミスタが検知する温度は、熱気流が入ってくる方向に依存し、ある程度の指向性があるものとなってしまっている。更に、熱検知器の筐体内には、スピーカや電池といった各種構成が設けられており、こういった構成が筐体内での熱の伝播を妨げるため、益々指向性がでてきてしまう。
【0005】
他方、この様な熱検知器は、非火災報を防止するために、通常、複数あるサーミスタの内、少なくとも1のサーミスタが所定回数連続して、火災閾値以上の温度を検知した際に、火災と判定する様になっている。
【0006】
このため、火災状況の変化等で、熱気流の入ってくる方向が変化してしまうと、場合によっては、火災が発生していても所定回数連続して火災閾値以上の温度を検知できなくなってしまい、火災の判定が遅延してしまう可能性があった。
【0007】
そこで、本発明は、より確実に火災を検知可能な複数の温度検知素子が設けられた熱検知器及びそれによる火災判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の熱検知器は、第1の温度検知素子と、第2の温度検知素子と、該第1の温度検知素子と該第2の温度検知素子の出力に基づき火災判定を行う制御部と、を備え、該制御部は、該第1の温度検知素子の出力に基づく温度と、該第2の温度検知素子の出力に基づく温度の内、一方の該温度検知素子の出力に基づく温度が火災閾値よりも低いときであっても、他方の温度検知素子に基づく温度が火災閾値以上であれば、カウンタ回路を継続して動作させ、該カウンタ回路が所定回数動作したときに火災と判定する熱感知器であって、該第1の温度検知素子に基づく温度と該第2の温度検知素子に基づく温度の両方が火災閾値以上の場合は、2回としてカウントすることを特徴とする。
【0009】
又、本発明の火災判定方法は、第1の温度検知素子と、第2の温度検知素子と、を備えた熱検知器による火災判定方法であって、該第1の温度検知素子と該第2の温度検知素子の出力に基づき温度を検知する温度検知工程と、該温度検知工程で検知した温度に基づきカウンタ回路を動作させる火災判定工程と、を含み、該火災判定工程は、該第1の温度検知素子の出力に基づく温度と、該第2の温度検知素子の出力に基づく温度の内、一方の該温度検知素子の出力に基づく温度が火災閾値よりも低下したときであっても、他方の温度検知素子に基づく温度が火災閾値以上であれば、該カウンタ回路を継続して動作させ、該カウンタ回路が所定回数動作したときに火災と判定する火災判定方法において、該第1の温度検知素子に基づく温度と該第2の温度検知素子に基づく温度の両方が火災閾値以上の場合は、2回としてカウントすることを特徴とする。
【0010】
尚、本発明は、前記温度検知素子が、各々のサンプリングの間隔が略同期しているものとすることが可能である。又、本発明は、前記火災閾値を、前記温度検知素子の出力に基づく温度の各々で異なる値とすることが可能である。又、本発明は、前記制御部を、前記温度検知素子の各々を独立して監視可能に設けられていると共に前記火災判定と並行して該温度検知素子の断線判定を行うものとし、いずれかの該温度検知素子の断線状態を所定回数又は所定時間連続して検出したときに断線と判定し、その際に、断線と判定された該温度検知素子以外の該温度検知素子の出力に基づき火災判定を行うものとすることが可能である。
【0011】
又、本発明は、前記制御部を、温度センサを有し、前記温度検知素子の各々を独立して監視可能に設けられていると共に前記火災判定と並行して該温度検知素子の劣化判定を行うものとし、該温度検知素子の出力に基づく温度が、所定回数又は所定時間連続して、該温度センサの出力に基づく温度との間に一定以上の差があるときに、劣化と判定し、その際に、劣化と判定された該温度検知素子以外の該温度検知素子の出力に基づき火災判定を行うものとすることが可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、制御部が、一の温度検知素子の出力に基づく温度が火災閾値よりも低下したときであっても、他の温度検知素子の内、少なくとも1つの温度検知素子に基づく温度が火災閾値以上であれば、カウンタ回路又はタイマ回路を継続して動作させることによって、より早く、かつ確実に火災を検知可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態における熱検知器の一例を示す図であり、(a)はカバーをつけた平面図で、筐体内部を破線で示したものである。(b)は(a)のb-b断面図である。
【
図2】本発明の実施形態における制御部のブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態における火災判定方法の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を
図1乃至
図3に基づき説明する。先ず、本実施形態の熱検知器の構成を熱検知式の火災警報器を例として説明する。熱検知器1は、筐体2と、筐体2の内部に設けられた温度検知素子の一例であるサーミスタ3、回路基板4、熱検知器1の電源の一例である電池が収容された電池収容部5及び音響装置の一例であるスピーカ6を備えている。
【0015】
回路基板4には、サーミスタ3が実装されると共に後述する制御部12を構成するための各種素子(図示せず)が実装されている。尚、本実施形態においては、回路基板4は、サーミスタ3周囲の熱の対流をより良好なものとするためにサーミスタ3の周囲を切り欠いた形状をしているが、回路基板4の形状は適宜選択可能なものである。又、サーミスタ3の周囲に穴を設けて、同様に熱の対流をより良好なものとしてもよい。
【0016】
サーミスタ3は、熱検知器1に複数設けられている。望ましくは、サーミスタ3は、熱検知器1による温度の検知の指向性を低減するために、一のサーミスタ3が他のサーミスタ3の内少なくとも1つのサーミスタ3と離間した位置に設けられると共に各サーミスタ3のサンプリングの間隔が略同期する様に設けられる。尚、サーミスタ3を回路基板4に対してどの様に設けるかは適宜選択可能であり、例えば、本実施形態の様に回路基板4に対して略垂直に設けてもよいし、又、回路基板4に対して斜めに設けることも可能である。
【0017】
本実施形態においては、2つのサーミスタ3が設けられており、一方のサーミスタ3(以下、サーミスタ3Aともいう)が、他方のサーミスタ3(以下、サーミスタ3Bともいう)からみて、筐体2の略反対側に位置する様に設けられている。各サーミスタ3は、略同一の温度領域を検知可能となっており、熱検知器1は、所謂、定温式となっている。
【0018】
又、サーミスタ3は、本実施形態においては、NTCサーミスタが採用されているが、サーミスタ3の出力に基づく温度が、後述する火災閾値Th以上となったかを判断することができれば、PTCサーミスタやCTRサーミスタ等他の種類のサーミスタを採用することも可能である。
【0019】
筐体2は、保護カバー7と取付板8を有しており、取付板8には、回路基板4、電池収容部5やスピーカ6等が取付けられている。保護カバー7は、サーミスタ3等を外力から保護するために設けられており、サーミスタ3と対向する位置に開口9が、その周縁に開口10が形成されていると共にスイッチ11が設けられている。
【0020】
開口9及び開口10は、筐体2内に、外気を取り入れてサーミスタ3により、温度を測定するための流入口としての役割を担っていると同時に筐体2内に取り入れられた該外気の排出口としての役割を担っている。スイッチ11は、警報の停止や熱検知器1の作動テスト等を行うために設けられている。
【0021】
次に、本実施形態におけるサーミスタ3の出力に基づき火災判定を行うための制御部12の構成について説明する。制御部12は、サンプリング部13、記録部14、カウンタ回路15、火災判定部16、断線判定部17及び劣化判定部18を有している。
【0022】
サンプリング部13は、各サーミスタ3よりその出力を受け取り、各サーミスタ3の出力に基づく温度が、記録部14に記録された火災閾値Thと比較し、火災閾値Th以上であるかそれ未満であるかを判断し、火災閾値Th以上であるときは、カウンタ回路15に出力する様になっている。
【0023】
カウンタ回路15は、サンプリング部13からの出力に基づいて、サーミスタ3の出力に基づく温度が火災閾値Th以上であるときに継続して動作する様になっている。又、火災判定部16は、筐体2内の温度を監視する内部温度検出部19を有しており、カウンタ回路15が所定回数連続して動作したときに火災判定の信号を出力する様になっている。
【0024】
断線判定部17は、サーミスタ3の断線を判定するために設けられており、サーミスタ3が断線した際の挙動、例えば、抵抗減少に伴う、出力の異常な増大、を所定回数連続して検知された際にその出力をしたサーミスタ3が断線したと判定する。又、劣化判定部18は、サーミスタ3の劣化を判定するために設けられており、サーミスタ3の出力に基づく温度が内部温度検出部19の出力に基づく温度との間に一定以上の差を所定回数連続して検知したときにその出力をしたサーミスタ3が劣化したと判断する。
【0025】
次に、本実施形態の熱検知器1による火災判定方法について説明する。
(1)サーミスタ3は、サーミスタ3AのサンプリングSA及びサーミスタ3BのサンプリングSBの様にサーミスタ3各々のサンプリングの間隔が所定間隔(本実施形態においては3 s間隔)で略同期する様に動作し、その出力を制御部12のサンプリング部13に送ると共にサンプリング部13は各サーミスタ3の出力を受け取る。そして、サンプリング部13は、各サーミスタ3の出力に基づく温度(以下、サーミスタ3Aの出力に基づく温度を温度TAと、サーミスタ3Bの出力に基づく温度を温度TBと表記する)を検知する(温度検知工程)。
【0026】
(2)その後、サンプリング部13は、前記温度を、記録部14に記録された火災閾値Thと照合し、該温度が記録部14に記録された火災閾値Th(本実施形態においては、50 ℃又は60 ℃)以上であるときにカウンタ回路15に対して出力を行う。そして、火災判定部16は、カウンタ回路15の動作に伴う出力を受け取り、カウンタ回路15が、所定回数(本実施形態においては、5回)連続して動作、即ち、サーミスタ3の出力が火災閾値Thを所定回数連続して上回るときに火災と判定する(火災判定工程)。
【0027】
この際、サンプリング部13は、複数のサーミスタ3の内、一のサーミスタ3の出力に基づく温度が、火災閾値Thよりも低かったとしても、他のサーミスタ3の内、少なくとも1つのサーミスタ3の出力に基づく温度が火災閾値Th以上であれば、カウンタ回路15に対して出力を行う。そしてカウンタ回路15は、サーミスタ3の出力を継続して火災閾値Th以上の回数を計数する様になっている。即ち、カウンタ回路15は、少なくとも1つのサーミスタ3の出力に基づく温度が火災閾値Th以上であるときに動作する様になっていることとなる。
【0028】
具体例を示して説明すると、
図3(a)の様に、サーミスタ3Aの出力に基づく温度T
A及びサーミスタ3Bの出力に基づく温度T
Bが共に火災閾値Th以上である段階においては、当然にカウンタ回路15は継続して動作し、カウントCは、I,II,III(尚、カウントCの回数については、図面符号との区別を明確にするための説明の便宜上、ローマ数字で表している)と進行する。その後、温度T
Bが、火災閾値Thよりも低下するが、温度T
Aが、火災閾値Th以上を継続しているので、カウンタ回路15は更に継続して動作、つまり、火災閾値Th以上であるときのサーミスタ3の出力の回数を計数し、カウントCがIV,Vと進行し、火災判定部16は、火災と判定する。
【0029】
又、
図3(b)の様な場合であっても、一方の温度T
A,T
Bが火災閾値Thよりも低くなり、何れもサーミスタ3A,3B単体の出力に基づいては、所定回数継続して火災閾値Th以上の温度を検知しなかったとしても他方の温度T
B,T
Aが火災閾値Th以上であるので、カウンタ回路15は継続して動作し、カウントCは、I,II,III,IV,Vと進行するので、火災判定部16は、火災と判定する。
【0030】
しかしながら、
図3(c)の様に、温度T
A及び温度T
Bの何れもが、火災閾値Thよりも低くなった場合には、カウントCは、一旦リセットされ、6回目のサンプリングにおいて、再度、カウントCは、Iよりカウントされることとなる。尚、温度T
A及び温度T
Bの両方の出力が共に所定回数、火災閾値Th以上となった場合は、当然に、火災判定部16は、火災と判定することとなる。
【0031】
(3)そして、制御部12が火災と判定した場合は、熱検知器1は、スピーカ6より火災が発生した旨を周囲に報知する。尚、火災判定後は、サーミスタ3A,3Bの何れもが所定回数継続して火災閾値Thよりも低くなると、火災判定部16は火災復旧と判定し、火災復旧の信号を出力し、火災状態は終了する。
【0032】
本実施形態の火災判定方法においては、サーミスタ3を筐体2から突出させる様に設けるのではなく、サーミスタ3を熱検知器1の筐体2内に設けることで生じるデメリットを解消することが可能となっている。
【0033】
具体的に述べれば、サーミスタ3を熱検知器1の筐体2内に設けた場合、筐体2内には熱気流の流れを阻害する電池収容部5等があることから、筐体2の360°どの方向からの熱気流に対しても感度がよいわけではなく、特定方向からの熱気流に対して、感度が低下してしまう。
【0034】
又、筐体2内にサーミスタ3を設けると、サーミスタ3を熱気流に対して直接曝露することができなくなるため、筐体2からサーミスタ3を突出させて設ける場合と比較して、サーミスタ3の出力は、安定性が欠けるものとなる。つまり、サーミスタ3を筐体2から突出させて設けた場合の様に、サーミスタ3が熱気流に直接曝露されているならば、該出力は、一定値以上を保持し、急激に低下したりすることはまずないが、筐体2内にサーミスタ3が設けられている場合は、筐体2を介して、サーミスタ3が熱気流に当たることから、筐体2からサーミスタ3を突出させて設けた場合と比較して、所定時間連続して一定値以上の出力を保持しにくく、出力に安定性が欠けるものとなる。
【0035】
そこで、筐体2内にサーミスタ3を設ける場合においては、本実施形態の様に、サーミスタ3を、2つ以上設けることが望ましい。この場合、2つのサーミスタ3の配置は、筐体2の中心を通る直線に対して対称となる位置であって、それぞれが離間する様に設けられることが特に望ましい。
【0036】
そして、特定方向(以下、a方向という)からの熱気流に対して、一方のサーミスタ(本実施形態においてはサーミスタ3A)の受熱特性(感度)が低下する場合には、そのa方向からの熱気流に対して、他方のサーミスタ(本実施形態においてはサーミスタ3B)の受熱特性が低下することがないような配置とする。このような配置関係にあるサーミスタ3A,3Bを使用し、どちらかのサーミスタ3だけで火災判定をせずに、もう一方のサーミスタ3も利用して火災判定をすることが望まれる。
【0037】
2以上のサーミスタ3の出力に基づいて火災を判定に当たり、AND条件による火災判定と、OR条件による火災判定との2つの条件が通常考えられる。
【0038】
前者は、例えば、サーミスタ3Aが所定時間にわたって火災閾値Th以上であり、かつサーミスタ3Bが所定時間にわたって火災閾値Th以上であるときの2つの条件を満たしたAND条件で、火災判定とするものである。筐体2内にサーミスタ3A,3Bが設けられた熱検知器1においては、a方向からの熱気流に対しては、どちらかのサーミスタ3は感度が悪くなる場合があることから、サーミスタ3A,3Bが両方とも火災閾値Th以上であることを火災判定の条件とすると、火災と判定するまでに時間がかかってしまう。因って、両方のサーミスタ3が筐体2内設けられた熱検知器1においては、AND条件によって火災判定を行うことは適切でない。
【0039】
後者は、例えば、サーミスタ3A又はサーミスタ3Bのいずれかが所定時間にわたって火災閾値Th以上であることの条件を満たしたOR条件で、火災判定とするものである。本実施形態の様に、筐体2内にサーミスタ3A,3Bが設けられた熱検知器1の場合、熱気流は筐体2を介してサーミスタ3A,3Bへと到達するため、サーミスタ3A,3Bの出力の安定性が欠けることが考えられる。この問題点から、どちらかのサーミスタ3の出力が、所定回数連続して火災閾値Th以上になるのを待つと、この場合も火災判定するまでに時間がかかってしまう。因って、両方のサーミスタ3が筐体2内に設けられた熱検知器1において、単なるOR条件で火災判定を行うことも適切でない。
【0040】
これらに対して、本実施形態においては、カウンタ回路15は、サーミスタ3A,3Bの双方の出力を見て、カウントCを行っており、いずれかのサーミスタ3の出力が、火災閾値Th以上である場合には、カウンタ回路15を動かし続け、リセットされることはない様になっている。
【0041】
例えば、感知される熱気流の温度が火災閾値Th付近の場合、火災閾値Th以上となったサーミスタ3が、該気流によって、火災判定とする前に火災閾値Th以下となることが考えられる。その時、もう一方のサーミスタ3が火災閾値Th以上となっていればカウントCを継続できる。つまり、途中で火災閾値Th以下となったサーミスタ3のカウントCを、火災閾値Th以上となったもう一方のサーミスタ3が補完し、引き継ぐことができる。この点、単なるOR条件による火災判定方式では、出力が火災閾値Th未満になるとカウンタ回路15はリセットされてしまうので、瞬間的にサーミスタ3の出力が変動してしまうと火災判定に遅れが生じるおそれがある。
【0042】
つまり、本実施形態においては、サーミスタ3の出力の双方に基づいてカウンタ回路15を制御することで、出力の安定性を補い、火災判定までにかかる時間が必要以上に長くならないようにすることができる様になっていることとなる。
【0043】
従って、熱検知器1においては、火災状況の変化等で、熱気流の入ってくる方向が変化し、一のサーミスタ3が火災閾値Thよりも低い温度を検知することになったとしても他のサーミスタ3が火災閾値Th以上の温度を検知すれば、カウンタ回路15が継続して動作するので、火災の判定が遅延することを防止することができる。
【0044】
尚、本実施形態においては、サンプリング部13は、各サーミスタ3の出力に関する情報を断線判定部17及び劣化判定部18にも送る様になっており、火災判定部16による火災判定と並行して各サーミスタ3の断線判定及び/又は劣化判定を行う様になっている。サーミスタ3が断線及び/又は劣化と判定された際には、制御部12(火災判定部16)は、それ以外のサーミスタ3の出力に基づき、火災判定を行う様になっている。この様にすることで、少なくとも1つのサーミスタ3が正常であれば火災判定を行うことができるものとなり、フェールセーフを確保することが可能となっている。
【0045】
本発明を上記実施形態に基づき説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更可能である。
【0046】
(A)例えば、上記実施形態において、火災判定部16は、カウンタ回路15が、所定回数連続して動作したとき、つまり、サーミスタ3の出力が所定回数連続して火災閾値Th以上であるときに火災と判定するものとしたが、カウンタ回路15の代わりにタイマ回路20を設け、タイマ回路20が所定時間連続して動作したとき、つまり、サーミスタ3の出力が所定時間連続して火災閾値Th以上であるときに火災と判定するものとしてもよい。
【0047】
(B)上記実施形態においては、各サーミスタ3が温度Tを検知する間隔を一定なものとしたが、何れかのサーミスタ3が火災閾値Th以上の温度を検知した際に、該間隔がより短いものとする様にしてもよい。
【0048】
(C)上記実施形態においては、火災判定部16は、温度TA,TBの一方が火災閾値Th以上であり、他方が火災閾値Thより低い場合であっても、両方が火災閾値Th以上であってもカウントCを1回とカウントしたが、両方が火災閾値Th以上である場合にカウントCを2回とカウントし、より速いタイミングで火災と判定する様にしてもよい。
【0049】
(D)上記実施形態においては、火災閾値Thは、ある一定の温度であったが、何れかのサーミスタ3が火災閾値Th以上の温度を検知した際に、火災閾値Thを変更、例えば、火災閾値Thをより低い温度に変更、する様にしてもよい。
【0050】
(E)上記実施形態において、温度TAと温度TBに適用される火災閾値Thを同じ値のものとしたが、温度TAに適用される火災閾値Thと温度TBに適用される火災閾値Thの各々で異なる値とすることも可能である。例えば、台所や暖房器具の近傍等の常時より比較的温度が高くなっている箇所側にあるサーミスタ3の出力に基づく温度に適用される火災閾値Thを他のサーミスタ3の出力に基づく温度に適用される火災閾値Thよりも高い値としてもよい。
【0051】
(F)断線判定部17又は劣化判定部18がサーミスタ3の断線/劣化を判定し、それ以外のサーミスタ3の出力に基づき火災判定を行う場合において、火災と判定されるカウンタ回路15が動作した回数やタイマ回路20が動作した時間を変更可能に、例えば、回数を少なくしたり、時間を短くしたり、する様にしてもよい。
【0052】
(G)上記実施形態においては、熱検知式の火災警報器を例にして説明したが、本発明は、熱感知器その他、複数の温度検知素子を備えた様々な熱検知器に適用可能である。又、温度検知素子として、サーミスタ以外にも感熱素子等様々な温度検知素子を採用可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 熱検知器 2 筐体 3 サーミスタ
4 回路基板 5 電池収容部 6 スピーカ
7 保護カバー 8 取付板 9 開口
10 開口 11 スイッチ 12 制御部
13 サンプリング部 14 記録部 15 カウンタ回路
16 火災判定部 17 断線判定部 18 劣化判定部
19 内部温度検出部 20 タイマ回路 C カウント
S サンプリング T 温度 Th 火災閾値