(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】反射音制御構造
(51)【国際特許分類】
G10K 11/28 20060101AFI20240104BHJP
【FI】
G10K11/28
(21)【出願番号】P 2019090468
(22)【出願日】2019-05-13
【審査請求日】2021-11-04
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中野 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】永代 行日出
(72)【発明者】
【氏名】細谷 浩之
(72)【発明者】
【氏名】田代 裕之
(72)【発明者】
【氏名】河村 嘉将
【合議体】
【審判長】千葉 輝久
【審判官】五十嵐 努
【審判官】木方 庸輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-29282(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0035374(US,A1)
【文献】特開平7-90119(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0115002(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に設けられる構造物の表面を覆う反射音制御構造であって、
前記構造物と当接する第1体積部と、
音波が透過する方向と交差する方向に前記第1体積部と隣接して設けられ
、前記構造物と当接する第2体積部と、を備え、
前記第1体積部と前記第2体積部とは、弾性率が異なっていることによって、音波が透過する際の伝搬速度が異なっている反射音制御構造。
【請求項2】
内部に複数の空間が形成されている第1媒体と、
前記空間に存在し、前記第1媒体と弾性率が異なる第2媒体と、を備え、
前記第1体積部と前記第2体積部とは、前記第1体積部における前記第2媒体が存在する前記空間の数と前記第2体積部における前記第2媒体が存在する前記空間の数とが異なることによって、弾性率が異なっている請求項1に記載の反射音制御構造。
【請求項3】
内部に複数の空間が形成されている第1媒体と、
前記空間に存在し、前記第1媒体と弾性率が異なる第2媒体と、を備え、
前記第1体積部の前記第1媒体に形成される前記空間の数と、前記第2体積部の前記第1媒体に形成される前記空間の数とは同一であって、
前記第1体積部と前記第2体積部とは、前記第1体積部における前記第2媒体が存在する前記空間の大きさと前記第2体積部における前記第2媒体が存在する前記空間の大きさとが異なることによって、弾性率が異なっている請求項1に記載の反射音制御構造。
【請求項4】
内部に複数の空間が形成されている第1媒体と、
前記空間に存在し、前記第1媒体と弾性率が異なる第2媒体と、
前記空間に存在し、前記第1媒体及び前記第2媒体と弾性率が異なる第3媒体と、を備え、
前記第1体積部の前記第1媒体に形成される前記空間の数と、前記第2体積部の前記第1媒体に形成される前記空間の数とは同一であって、
前記第1体積部に形成された前記空間は、前記第2媒体が存在する前記空間と、前記第3媒体が存在する前記空間とが含まれ、
前記第2体積部に形成された前記空間は、前記第2媒体が存在する前記空間と、前記第3媒体が存在する前記空間とが含まれ、
前記第1体積部と前記第2体積部とは、前記第1体積部における前記第3媒体が存在する前記空間の数と、前記第2体積部における前記第3媒体が存在する前記空間の数とが異なることによって、弾性率が異なっている請求項1に記載の反射音制御構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射音制御構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
音波を制御する技術として、第1の媒質中に障害物(第1の媒質とは異なる媒質である第2の媒質)を周期的に設けるフォノニック結晶を利用する技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、鋼箱の中にゴムが充填され、このゴムの中にゴムとは密度が異なる複数の鋼棒が周期的な配列で設けられているフォノニック結晶が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、水中に設けられた構造体に音波が到来した際に、音波が入射する方向に沿う方向(以下、単に「入射方向」という。)へ反射する音波の量を低減するために、該構造体の表面を音波低減構造で覆う技術が知られている。このような音波低減構造として、音波を制御する技術を適用することも考えられる。しかしながら、特許文献1に記載されているフォノニック結晶は、音波がフォノニック結晶を透過する際に音波の方向を変えて、フォノニック結晶を透過した後の音波に焦点を発生させることで、フォノニック結晶の省スペース化を目的としたものであるので、入射方向へ反射する音波の量を低減することを目的としたものではない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、音波を制御することで、構造物に音波が到来した際に、入射方向へ反射する音波の量を低減する反射音制御構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の反射音制御構造は以下の手段を採用する。
本発明の一態様に係る反射音制御構造は、水中に設けられる構造物の表面を覆う反射音制御構造であって、第1体積部と、音波が透過する方向と交差する方向に前記第1体積部と隣接して設けられる第2体積部と、を備え、前記第1体積部と前記第2体積部とは、音波が透過する際の伝搬速度が異なっている。
【0008】
構造物に音波が到来した場合、まず音波は、構造物を覆う反射音制御構造に入射する。反射音制御構造に入射した音波は、反射音制御構造を透過し構造物へ到達する。構造物に到達した音波は、構造物で反射する。反射した音波は、再度反射音制御構造を透過し、反射音制御構造の外部へ放射される。
上記構成では、第1体積部と該第1体積部と隣接する第2体積部とは、音波が透過する際の伝搬速度が異なっている。これにより、反射音制御構造に入射した音波は、異なる伝搬速度の複数の音波を含む音波となる。異なる伝搬速度の複数の音波を含む音波が反射音制御構造の外部へ放射される場合には、音波が到来した方向(音波が入射する方向)を基準として、伝搬速度が遅い体積部側方向へ放射される。すなわち、外部へ放射される音波は、音波が入射する方向に沿う方向(以下、単に「入射方向」という。)とは異なる方向へ主に放射されることとなり、入射方向への放射量が低減する。したがって、上記構成では、水中に設けられる構造物に音波が到来した際に、入射方向へ反射する音波の量を低減することができる。
【0009】
また、本発明の一態様に係る反射音制御構造は、前記第1体積部と前記第2体積部とは、弾性率が異なっていることによって、音波が透過する際の伝搬速度が異なっていてもよい。
【0010】
一般的に、弾性率は、密度等と比較して、材料ごとに大きく異なっているので変化させやすい。上記構成では、第1体積部の弾性率と第2体積部の弾性率とが異ならせることで、第1体積部の伝搬速度と、第2体積部の伝搬速度とが異なっている。よって、第1体積部の伝搬速度と、第2体積部の伝搬速度とを、容易に異なる伝搬速度とすることができる。
また、弾性率は、材料ごとに大きく異なるため、弾性率を相違させるために多くの材料を用いる必要がない。よって、反射音制御構造を小型化することができる。
【0011】
また、本発明の一態様に係る反射音制御構造は、内部に複数の空間が形成されている第1媒体と、前記空間に存在し、前記第1媒体と弾性率が異なる第2媒体と、を備え、前記第1体積部と前記第2体積部とは、前記第1体積部における前記第2媒体が存在する前記空間の数と前記第2体積部における前記第2媒体が存在する前記空間の数とが異なることによって、弾性率が異なっていてもよい。
【0012】
上記構成では、第1体積部における第2媒体が存在する空間の数と、第2体積部における第2媒体が存在する空間の数とが異なっている。これにより、第1体積部と第2体積部とでは、存在する第2媒体の量が異なることとなる。第1媒体と第2媒体とは弾性率が異なっているので、存在する第2媒体の量が異なることによって、第1体積部の弾性率と第2体積部の弾性率とが異なることとなる。したがって、第1体積部の伝搬速度と、第2体積部の伝搬速度とが異なる伝搬速度とすることができる。よって、構造物に到来した音波を、音波が到来した方向以外の所望の方向へ反射させることができる。
なお、第1媒体として、例えば、アクリル等の樹脂材を用いてもよい。
なお、第2媒体として、例えば、ゴム材等を用いてもよく、空気や油や水等の流体を用いてもよい。
【0013】
また、本発明の一態様に係る反射音制御構造は、内部に複数の空間が形成されている第1媒体と、前記空間に存在し、前記第1媒体と弾性率が異なる第2媒体と、を備え、前記第1体積部の前記第1媒体に形成される前記空間の数と、前記第2体積部の前記第1媒体に形成される前記空間の数とは同一であって、前記第1体積部と前記第2体積部とは、前記第1体積部における前記第2媒体が存在する前記空間の大きさと前記第2体積部における前記第2媒体が存在する前記空間の大きさとが異なることによって、弾性率が異なっていてもよい。
【0014】
上記構成では、第1体積部における第2媒体が存在する空間の大きさと、第2体積部における第2媒体が存在する空間の大きさとが異なっている。これにより、第1体積部と第2体積部とでは、存在する第2媒体の量が異なることとなる。第1媒体と第2媒体とは弾性率が異なっているので、存在する第2媒体の量が異なることによって、第1体積部の弾性率と第2体積部の弾性率とが異なることとなる。したがって、第1体積部の伝搬速度と、第2体積部の伝搬速度とが異なる伝搬速度とすることができる。よって、構造物に到来した音波を、音波が到来した方向以外の所望の方向へ反射させることができる。
【0015】
また、本発明の一態様に係る反射音制御構造は、内部に複数の空間が形成されている第1媒体と、前記空間に存在し、前記第1媒体と弾性率が異なる第2媒体と、前記空間に存在し、前記第1媒体及び前記第2媒体と弾性率が異なる第3媒体と、を備え、前記第1体積部の前記第1媒体に形成される前記空間の数と、前記第2体積部の前記第1媒体に形成される前記空間の数とは同一であって、前記第1体積部に形成された前記空間は、前記第2媒体が存在する前記空間と、前記第3媒体が存在する前記空間とが含まれ、前記第2体積部に形成された前記空間は、前記第2媒体が存在する前記空間と、前記第3媒体が存在する前記空間とが含まれ、前記第1体積部と前記第2体積部とは、前記第1体積部における前記第3媒体が存在する前記空間の数と、前記第2体積部における前記第3媒体が存在する前記空間の数とが異なることによって、弾性率が異なっていてもよい。
【0016】
上記構成では、第1体積部及び第2体積部に第2媒体が存在する空間と第3媒体が存在する空間とが設けられていて、第1体積部における第3媒体が存在する空間の数と、第2体積部における第3媒体が存在する空間の数とが異なっている。すなわち、第1体積部と第2体積部とは、空間の総数に対する前記第3媒体が存在する空間の割合が異なっている。第2媒体と第3媒体とは弾性率が異なっているので、空間の総数に対する前記第3媒体が存在する空間の割合が異なることによって、第1体積部の弾性率と第2体積部の弾性率とが異なることとなる。したがって、第1体積部の伝搬速度と、第2体積部の伝搬速度とが異なる伝搬速度とすることができる。よって、構造物に到来した音波を、音波が到来した方向以外の所望の方向へ反射させることができる。
また、第2媒体と第3媒体とによって、弾性率の調整をしているので、より精密に弾性率の調整をすることができる。
【発明の効果】
【0017】
音波を制御することで、構造物に音波が到来した際に、入射方向へ反射する音波の量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る反射音制御構造の断面図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係る反射音制御構造に音波が入射した際の音波の放射方向を示す模式的な断面図である。
【
図5】本発明の第1実施形態に係る反射音制御構造に音波が入射した際の音波の放射方向を示す模式的な断面図である。
【
図6A】
図3に示された反射音制御構造の要部の側面図である。
【
図7】本発明の第2実施形態に係る反射音制御構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係る反射音制御構造の一実施形態について、図面を参照して説明する。
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態について、
図1から
図6Bを用いて説明する。以下の説明において、反射音制御構造に入射する音波の入射方向に沿う方向(反射音制御構造の表面における法線方向)をX方向とし、X方向と直交し且つ弾性率が変更する方向をY方向とし、X方向及びY方向と直交する方向をZ方向とする。
【0020】
本実施形態に係る反射音制御構造10は、例えば、水中に設けられる水中構造物の表面を覆うように設けられる。すなわち、反射音制御構造10は、水中に設けられる。
【0021】
反射音制御構造10は、
図1等に示されているように、内部に複数の空間Sが形成されている第1媒体11と、第1媒体11に形成されている各空間Sに配置される第2媒体12とを備えている。すなわち、第2媒体12は、第1媒体11の内部に包含されるように設けられている。よって、反射音制御構造10の表面はすべて第1媒体11で形成されている。また、反射音制御構造10の一面10aは、水中構造体の表面に当接又は近接している。反射音制御構造10の他面10b(一面10aとの反対側の面)は、水中に露出している。反射音制御構造10の一面10aから他面10bまでの長さ(換言すれば、反射音制御構造10のX方向の長さ)は、反射音制御構造10に入射する音波の1波長以上の長さとされている。
【0022】
第1媒体11は、第2媒体12とは弾性率が異なる材料で形成されている。また、第1媒体11は、該第1媒体11を透過する音波の速度が、水を透過する音波の速度とは異なる材料で形成されている。本実施形態では、第1媒体11をアクリル等の樹脂材で形成する例について説明する。なお、第1媒体11の材質はアクリル等の樹脂材に限定されない。例えば、アクリル以外の樹脂材であってもよく、また、樹脂材以外の材料であってもよい。
また、第1媒体11には、前述のように、第2媒体12が配置される多数の空間Sが形成されている。形成される多数の空間Sの配置は、後述する第1部分15から第5部分19で異なっている。空間Sの配置についての詳細は、後述する。
【0023】
第2媒体12は、第1媒体11とは弾性率が異なる材料で形成されている。詳細には、第2媒体12は、第1媒体11よりも弾性率が小さい材料で形成されている。本実施形態では、第2媒体12をゴム材で形成した例について説明する。なお、第2媒体12の材質は、ゴム材に限定されない。例えば、第1媒体11とは弾性率が異なる樹脂材で形成してもよい。また、第2媒体12として、空気や油や水等の流体を用いてもよい。第2媒体12が流体の場合は、第1媒体11に形成される空間Sに充填(封入)される。
【0024】
第2媒体12は、
図3に示すように、Z方向に延在する四角柱形状の部材である。第2媒体12の長手方向の断面形状は、略正方形状とされている。第2媒体12の長手方向の断面の一辺の長さ(すなわち、第2媒体12のY方向及びX方向の長さ)は、入射する音波の波長の10分の1以下の長さとされている。また、第2媒体12の形状は、四角柱形状に限定されない。例えば、円柱形状であってもよく、四角柱以外の角柱であってもよい。また、立方体形状であってもよく、球体形状であってもよい。
【0025】
反射音制御構造10は、Y方向に順番に並んで配置される第1部分15、第2部分16、第3部分17、第4部分18及び第5部分19によって形成されている。また、第1部分15、第2部分16、第3部分17、第4部分18及び第5部分19は、各々、X方向の全域に亘って形成されている。すなわち、第1部分15、第2部分16、第3部分17、第4部分18及び第5部分19は、各々、X方向の長さが反射音制御構造10のX方向の長さと同じとされている。
また、第1部分15、第2部分16、第3部分17、第4部分18及び第5部分19は、各々、第1媒体11中に設けられる第2媒体12の数が異なっている。詳細には、第1部分15、第2部分16、第3部分17、第4部分18及び第5部分19は、各々、Y方向に並ぶ第2媒体12の数が異なっている。また、各々、X方向に並ぶ第2媒体12の数が異なっている。このように、第1部分15、第2部分16、第3部分17、第4部分18及び第5部分19は、有する第2媒体12の数が異なっていることから、各々、弾性率が異なっている。以下では、第1部分15、第2部分(第1体積部)16、第3部分(第2体積部)17、第4部分18及び第5部分19の詳細について、
図1から
図3を用いて説明する。
【0026】
第1部分15は、所定の体積を有し、
図1に示されているように、第2部分16のY方向の一側に隣接して設けられている。第1部分15は、
図1及び
図2Aに示されているように、第1媒体11のみによって形成されている。すなわち、第1部分15における第1媒体11の内部には空間Sが形成されていない。したがって、第1部分15には、第2媒体12が設けられていない。なお、
図2Aは、
図1に符号15aで示された領域の拡大図である。
【0027】
第2部分16は、所定の体積を有し、
図1に示されているように、第1部分15のY方向の他側に隣接して設けられている。また、第2部分16は第3部分17とY方向の一側に隣接している。第2部分16は、複数の第2ユニット16aで構成されている。具体的には、第2ユニット16aがY方向に3つ並ぶとともに、X方向に4つ並んでいる。第2ユニット16aのZ方向の断面は、略正方形状とされている。第2ユニット16aは、
図2Bに示すように、所定のパターンで空間Sが形成されている第1媒体11と、各空間Sに配置される第2媒体12とによって構成されている。具体的には、第2ユニット16aの第1媒体11には、9つの空間Sが所定の間隔で形成されており、そのすべての空間Sに第2媒体12が充填されている。
【0028】
第3部分17は、所定の体積を有し、
図1に示されているように、第2部分16のY方向の他側に隣接して設けられている。また、第2部分16は第4部分18とY方向の一側に隣接している。第3部分17は、複数の第3ユニット17aで構成されている。具体的には、第3ユニット17aがY方向に3つ並ぶとともに、X方向に4つ並んでいる。第3ユニット17aのZ方向の断面は、略正方形状とされている。第3ユニット17aは、
図2Cに示すように、所定のパターンで空間Sが形成されている第1媒体11と、各空間Sに配置される第2媒体12とによって構成されている。具体的には、第2ユニット16aの第1媒体11には、16個の空間Sが所定の間隔で形成されており、そのすべての空間Sに第2媒体12が充填されている。
【0029】
第4部分18は、所定の体積を有し、
図1に示されているように、第3部分17のY方向の他側に隣接して設けられている。また、第4部分18は第5部分19とY方向の一側に隣接している。第4部分18は、複数の第4ユニット18aで構成されている。具体的には、第4ユニット18aがY方向に3つ並ぶとともに、X方向に4つ並んでいる。第4ユニット18aのZ方向の断面は、略正方形状とされている。第4ユニット18aは、
図2Dに示すように、所定のパターンで空間Sが形成されている第1媒体11と、各空間Sに配置される第2媒体12とによって構成されている。具体的には、第4ユニット18aの第1媒体11には、24個の空間Sが所定の間隔で形成されており、そのすべての空間Sに第2媒体12が充填されている。
【0030】
第5部分19は、所定の体積を有し、
図1に示されているように、第4部分18とY方向の一側に隣接している。第5部分19は、複数の第5ユニット19aで構成されている。具体的には、第5ユニット19aがY方向に3つ並ぶとともに、X方向に4つ並んでいる。第5ユニット19aのZ方向の断面は、略正方形状とされている。第5ユニット19aは、
図2E及び
図3に示すように、所定のパターンで空間Sが形成されている第1媒体11と、各空間Sに配置される第2媒体12とによって構成されている。具体的には、第5ユニット19aの第1媒体11には、36個の空間Sが等間隔で形成されており、そのすべての空間Sに第2媒体12が充填されている。詳細には、第2媒体12は、X方向及びY方向に等間隔で6つずつ並んでいる。隣接する第2媒体12同士の距離は、第2媒体12のZ方向の断面の一辺よりの長さよりも短い。
【0031】
第2ユニット16aから第5ユニット19aの外形は、同一形状とされている。詳細には、
図3に示すように、各ユニットの外形は、立方体形状とされている。また、第2部分16から第5部分19に設けられている各第2媒体12の形状は、全て略同一の形状とされている。詳細には、上述のように、Z方向に延在する四角柱形状の部材であって、Z方向の断面形状が略正方形状の部材である。また、各第2媒体12のZ方向の長さは、各ユニットの一辺の長さよりもわずかに短く形成されている。各第2媒体12は、全部が第1媒体11に封入されるように設けられており、第1媒体11から突出していない。
【0032】
なお、反射音制御構造10は、第1部分15から第5部分19までを1つのモジュールと考え、このモジュールをY方向に並べて配置するように構成されていてもよい。例えば、第1のモジュールにおける第5部分19のY方向の他側に隣接して第2のモジュールの第1部分15が配置されていてもよい。
【0033】
本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
図4に示すように、水中構造物に到来した音波Aは、水中構造物を覆う反射音制御構造10に入射する。反射音制御構造10に入射した音波は、反射音制御構造10を透過し水中構造物へ到達する。水中構造物に到達した音波は、水中構造物によって反射する。反射した音波は、再度反射音制御構造10を透過し、反射音制御構造10の外部へ放射される。
【0034】
本実施形態では、第1部分15、第2部分16、第3部分17、第4部分18及び第5部分19が、Y方向に並んで配置されている。また、第1部分15、第2部分16、第3部分17、第4部分18及び第5部分19に存在する第2媒体12の個数が、各々で異なっている。すなわち、第1部分15、第2部分16、第3部分17、第4部分18及び第5部分19に存在する第2媒体12の体積の合計が、各々で異なっている。また、第1媒体11と第2媒体12とは弾性率が異なっている。よって、第1部分15、第2部分16、第3部分17、第4部分18及び第5部分19に存在する第2媒体12の体積の合計が異なることによって、第1部分15、第2部分16、第3部分17、第4部分18及び第5部分19の弾性率が、各々異なることとなる。
詳細には、第2媒体12の弾性率は、第1媒体11の弾性率よりも小さいので、第2媒体12の体積の合計が大きい部分ほど、弾性率は小さい。よって、第1部分15、第2部分16、第3部分17、第4部分18及び第5部分19の弾性率は、第1部分15から順番に、第2部分16、第3部分17、第4部分18及び第5部分19の順番で小さい。すなわち、第1部分15が一番変形し難く、第5部分19が一番変形し易い。
【0035】
弾性率と音波の伝搬速度とは相関している。このため、第1部分15、第2部分16、第3部分17、第4部分18及び第5部分19の各々の弾性率を異なるものとすることで、各部分に入射した音波の伝搬速度を、各々異なる伝搬速度とすることができる。すなわち、第1部分15を透過する音波の伝搬速度(
図4のA1参照)と、他の部分を透過する音波の伝搬速度(例えば、
図4のA3で示す第3部分17を透過する音波の伝搬速度や、
図4のA5で示す第5部分19を透過する音波の伝搬速度)とを、異なる伝搬速度とすることができる。
【0036】
このように、反射音制御構造10に入射した音波は、異なる伝搬速度の複数の音波を含む音波となる。異なる伝搬速度の複数の音波を含む音波が、反射音制御構造10の外部へ放射される場合には、音波が到来した方向(音波が入射する方向)を基準として、伝搬速度が遅い部分側方向へ放射される(
図4及び
図5の矢印B参照)。すなわち、外部へ放射される音波は、音波が入射する方向に沿う方向(以下、単に「入射方向」という。)とは異なる方向へ主に放射されることとなり、入射方向への放射量が低減する。したがって、本実施形態では、水中構造物に音波が到来した際に、入射方向へ反射する音波の量を低減することができる。
本実施形態では、第1部分15から順番に、第2部分16、第3部分17、第4部分18及び第5部分19の順番で伝搬速度が遅くなっているので、
図4及び
図5に示すように、音波は第5部分19側へ屈折又は屈曲するように放射される。よって、水中構造物に音波が到来した際に、入射方向へ反射する音波の量を低減することができる。
【0037】
また、伝搬速度が遅い部分の位置を変更することで、音波の反射方向を調整することができるので、構造物に到来した音波を、音波が到来した方向以外の所望の方向へ反射させることができる。
【0038】
また、一般的に、弾性率は、密度等と比較して、材料ごとに大きく異なっているので変化させやすい。本実施形態では、第1部分15、第2部分16、第3部分17、第4部分18及び第5部分19の各弾性率を相違させることで、各部分の伝搬速度を異なるものとしている。よって、各部分の伝搬速度を、容易に異なる伝搬速度とすることができる。
【0039】
また、弾性率は、材料ごとに大きく異なるため、弾性率を相違させるために多くの材料を用いる必要がない。よって、反射音制御構造10を小型化することができる。
【0040】
また、反射音制御構造10は、突出部などが設けられていない形状であるので、水の流れ等による影響を最小限とすることができる。
【0041】
[変形例]
上記実施形態では、
図3及び
図6Aに示すように、第2媒体12は、第2ユニット16aから第5ユニット19aのZ方向の略全域に亘って分割されずに一本で形成されている例について説明したが、本発明はこれに限定されない。
図6Bに示すように、Z方向に複数(本実施形態では、3つ)並ぶように設けられていてもよい。なお、
図6A及び
図6Bでは、一例として、第5ユニット19aを図示している。
【0042】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について
図7を用いて説明する。本実施形態は、第2部分22、第3部分23、第4部分24及び第5部分25が有する第2媒体12の個数は同じとされるとともに、第2部分22、第3部分23、第4部分24及び第5部分25に設けられる第2媒体12の形状が異なっている点で、第1実施形態と異なっている。それ以外の点は、第1実施形態と略同一であるので、同一の構成については同一の符号を付して、その詳細な説は省略する。
【0043】
図7に示すように、本実施形態に係る反射音制御構造20の第1部分21は、第1実施形態と同様に、第1媒体11のみによって形成されている。本実施形態に係る反射音制御構造20の第2部分22、第3部分23、第4部分24及び第5部分25は、各々、同数(本実施形態では、一例として、18個)の第2媒体12を有している。各部分に設けられる各第2媒体12の大きさ(体積)は、同様となっている。すなわち、例えば、第2部分22に設けられる第2媒体12の大きさは、全て同じ大きさとなっている。
【0044】
また、第2部分22、第3部分23、第4部分24及び第5部分25に設けられる各空間Sの大きさ(体積)は、異なっている。換言すれば、第2部分22、第3部分23、第4部分24及び第5部分25に設けられる各第2媒体12の大きさ(体積)は、異なっている。詳細には、各部分に設けられる各第2媒体は、X方向の断面積を異なるものとすることで、大きさを異なるものとしている。第2部分22、第3部分23、第4部分24及び第5部分25に設けられる各第2媒体12の大きさは、第2部分22から順番に、第3部分23、第4部分24及び第5部分25の順番に大きくなっている。
【0045】
本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
本実施形態では、第1部分21には第2媒体12が設けられておらず、かつ、第2部分22、第3部分23、第4部分24及び第5部分25に設けられる各第2媒体12の大きさ(体積)が異なっている。すなわち、第1部分21、第2部分22、第3部分23、第4部分24及び第5部分25に存在する第2媒体12の体積の合計が各々で異なっている。よって、存在する第2媒体12の合計が異なることによって、各部分の弾性率が異なることとなる。詳細には、第1部分21、第2部分22、第3部分23、第4部分24及び第5部分25の弾性率は、第1部分21から順番に、第2部分22、第3部分23、第4部分24及び第5部分25の順番に小さくなる。このように、第1部分21、第2部分22、第3部分23、第4部分24及び第5部分25の弾性率を、各々異なる弾性率とすることで、各部分に入射した音波の伝搬速度を、各々異なる伝搬速度とすることができる。よって、第1実施形態と同様に、水中構造物に音波が到来した際に、入射方向とは異なる方向へ音波を反射することで、入射方向へ反射する音波の量を低減することができる。
【0046】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態では、第1媒体及び第2媒体と、弾性率が異なる第3媒体を有する点で第1実施形態と異なっている。また、本実施形態は、第2部分、第3部分、第4部分及び第5部分が有する第2媒体の個数は同じとされるとともに、第2部分、第3部分、第4部分及び第5部分に形成される各空間には、第2媒体又は第3媒体の何れか一方が配置される点で、第1実施形態と異なっている。それ以外の点は、第1実施形態と略同一であるので、その詳細な説は省略する。
【0047】
本実施形態に係る反射音制御構造は、第2部分、第3部分、第4部分及び第5部分に形成される各空間には、第2媒体又は第3媒体の何れかが充填されている。すなわち、第2部分、第3部分、第4部分及び第5部分には、第2媒体が存在する空間と第3媒体が存在する空間とが設けられている。第3媒体は、第2媒体よりも弾性率が小さい材料で形成されている。本実施形態に係る第2媒体としては、例えば、クロロプレーンゴムを用いることができる。また、本実施形態に係る第3媒体としては、クロロプレーンゴムよりも弾性率が小さいシリコーンゴムを用いることができる。
本実施形態に係る反射音制御構造は、第2部分、第3部分、第4部分及び第5部分に設けられる第3媒体の数が、第2部分から順番に、第3部分、第4部分及び第5部分の順番で多くなっている。すなわち、第2部分が最も第3媒体の数が少なく、第5部分が最も第3媒体の数が多い。
【0048】
本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
本実施形態では、第2部分、第3部分、第4部分及び第5部分に設けられる第3媒体の数が、第2部分から順番に、第3部分、第4部分及び第5部分の順番で多くなっている。すなわち、第2部分、第3部分、第4部分及び第5部分は、各々に形成される空間の総数に対する第3媒体が存在する空間の割合が、第2部分から順番に、第3部分、第4部分及び第5部分の順番で高くなっている。第3媒体の弾性率は、第2媒体の弾性率よりも小さい。したがって、第2部分から順番に、第3部分、第4部分及び第5部分の順番で弾性率が小さくなっている。また、第1部分には、空間が形成されていない。よって、第1部分は、第2部分よりも、さらに弾性率が大きい。このように、第1部分、第2部分、第3部分、第4部分及び第5部分の各弾性率を異なるものとすることで、各部分に入射した音波の伝搬速度を、各々異なる伝搬速度とすることができる。よって、第1実施形態と同様に、水中構造物に音波が到来した際に、入射方向とは異なる方向へ音波を反射することで、入射方向へ反射する音波の量を低減することができる。
【0049】
また、第2媒体と第3媒体とによって、各部分の弾性率の調整をしているので、より精密に弾性率の調整をすることができる。
【0050】
なお、本発明は、上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。
例えば、上記各実施形態では、第1媒体11の弾性率が、第2媒体の弾性率よりも大きい例について説明したが、本発明はこれに限定されない。第1媒体11と第2媒体12の弾性率が異なっていればよく、例えば、第1媒体11の弾性率が第2媒体12の弾性率よりも小さくてもよい。
また、上記実施形態では、反射音制御構造が5つの部分に分かれている例について説明したが、本発明はこれに限定されない。反射音制御構造は、弾性率の異なる(すなわち、音波の伝搬速度が異なる)2以上の部分を有していればよい。
また、上記実施形態では、各部分が12のユニットから構成される例について説明したが、各部分を構成するユニットの数は12以外でもよい。
また、各ユニットに設けられる第2媒体12の数は、上記実施形態の例に限定されない。
【符号の説明】
【0051】
10 :反射音制御構造
10a :一面
10b :他面
11 :第1媒体
12 :第2媒体
15 :第1部分
16 :第2部分
16a :第2ユニット
17 :第3部分
17a :第3ユニット
18 :第4部分
18a :第4ユニット
19 :第5部分
19a :第5ユニット
20 :反射音制御構造
21 :第1部分
22 :第2部分
23 :第3部分
24 :第4部分
25 :第5部分