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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】動力伝達機構及び車両
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/205 20060101AFI20240104BHJP
   F16D 3/223 20110101ALI20240104BHJP
   F16D 3/227 20060101ALI20240104BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20240104BHJP
   B60K 17/22 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
F16D3/205 M
F16D3/223
F16D3/227 G
B60L15/20 J
B60K17/22 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019126053
(22)【出願日】2019-07-05
(65)【公開番号】P2021011911
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100182453
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 英明
(72)【発明者】
【氏名】加藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】寺田 健二
(72)【発明者】
【氏名】川崎 恭典
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-124735(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/20-3/229
B60L 15/20
B60K 17/22-17/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の左右に設けられた駆動輪に対して駆動源からの回転トルクを伝達する左右のドライブシャフトを備える動力伝達機構であって、
前記左右のドライブシャフトは、中間軸と、前記中間軸の駆動輪側の端部に連結された固定式等速自在継手と、前記中間軸の駆動輪側とは反対側の端部に連結された摺動式等速自在継手とを備え、
前記摺動式等速自在継手は、内周面にトラック溝が形成された外側継手部材と、前記トラック溝に転動可能に配置された転動体と、前記転動体を介して前記外側継手部材との間で角度変位及び軸方向変位を許容しながら回転トルクを伝達する内側継手部材とを備え、
前記左右のドライブシャフトにおいて、それぞれの前記摺動式等速自在継手が備える前記転動体の数が互いに異なり、
前記固定式等速自在継手は、内周面にトラック溝が形成された外側継手部材と、外周面にトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝との間に配置され回転トルクを伝達する転動体と、前記転動体を転動可能に保持するケージとを備え、
前記左右のドライブシャフトにおいて、それぞれの前記固定式等速自在継手が備える前記転動体の数が互いに異なることを特徴とする動力伝達機構。
【請求項2】
車両の左右に設けられた駆動輪に対して駆動源からの回転トルクを伝達する左右のドライブシャフトを備える動力伝達機構であって、
前記左右のドライブシャフトは、中間軸と、前記中間軸の駆動輪側の端部に連結された固定式等速自在継手と、前記中間軸の駆動輪側とは反対側の端部に連結された摺動式等速自在継手とを備え、
前記摺動式等速自在継手は、内周面にトラック溝が形成された外側継手部材と、前記トラック溝に転動可能に配置された転動体と、前記転動体を介して前記外側継手部材との間で角度変位及び軸方向変位を許容しながら回転トルクを伝達する内側継手部材とを備え、
前記左右のドライブシャフトにおいて、それぞれの前記摺動式等速自在継手が備える前記転動体の数が互いに異なり、
前記駆動源は、電動モータであることを特徴とする動力伝達機構。
【請求項3】
前記駆動源は、電動モータである請求項に記載の動力伝達機構。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の動力伝達機構を備えることを特徴とする車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達機構及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されたエンジンや電動モータなどの駆動源からの左右の駆動輪へ回転トルクを伝達する動力伝達機構として、駆動輪側に配置されるアウトボード側の等速自在継手と、駆動輪側とは反対側に配置されるインボード側の等速自在継手と、両等速自在継手を連結する中間シャフトとで構成されるドライブシャフトが用いられている。
【0003】
通常、アウトボード側の等速自在継手には、大きな作動角を取れるが軸方向に変位しない固定式等速自在継手が使用される。一方、インボード側の等速自在継手には、最大作動角は比較的小さいが、作動角を取りつつ軸方向変位が可能な摺動式等速自在継手が使用される。
【0004】
ところで、このようなドライブシャフトにおいて、等速自在継手が作動角をとった状態で回転トルクを伝達すると、回転中に軸方向の誘起スラスト力が発生することが知られている。誘起スラスト力は、等速自在継手が1回転する間にローラ又はボールの個数に対応して発生する軸力であり、固定式等速自在継手よりも摺動式等速自在継手において発生しやすい傾向にある。例えば、3個のローラを有するトリポード型等速自在継手(TJ)の場合は、1回転中に3回の誘起スラスト力が発生し、6個のボールを備えるダブルオフセット型等速自在継手(DOJ)の場合は、1回転中に6回の誘起スラスト力が発生する。このような誘起スラスト力がエンジンやトランスミッションあるいはデファレンシャル装置のマウント手段と共振すると、車両の振動や異音の発生要因となる。
【0005】
これに対して、従来では、インボード側の摺動式等速自在継手とアウトボード側の固定式等速自在継手とのそれぞれの転動体(ローラ又はボール)の角度位相をずらすことにより、誘起スラスト力に起因する振動や異音の発生を抑制する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-122253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年、以前にも増して騒音(NOISE)、振動(VIBRATION)、不快音(HARSHNESS)、いわゆるNVH特性の向上に対する要望が強くなってきている。特に静寂性が求められるモータ駆動車両においては、エンジン駆動車両に比べて軽量であることや、発進時や加速時にドライブシャフトに入力される回転トルクが高いこともあって、従来の技術では誘起スラスト力に起因する振動や異音を十分に抑制できない可能性がある。
【0008】
そこで、本発明は、誘起スラスト力に起因する振動や異音を効果的に抑制できる動力伝達機構、及びその動力伝達機構を備える車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、車両の左右に設けられた駆動輪に対して駆動源からの回転トルクを伝達する左右のドライブシャフトを備える動力伝達機構である。左右のドライブシャフトは、中間軸と、中間軸の駆動輪側の端部に連結された固定式等速自在継手と、中間軸の駆動輪側とは反対側の端部に連結された摺動式等速自在継手とを備える。また、摺動式等速自在継手は、内周面にトラック溝が形成された外側継手部材と、トラック溝に転動可能に配置された転動体と、転動体を介して外側継手部材との間で角度変位及び軸方向変位を許容しながら回転トルクを伝達する内側継手部材とを備える。
【0010】
本発明では、斯かる動力伝達機構が備える左右のドライブシャフトにおいて、それぞれの摺動式等速自在継手が備える転動体の数が互いに異なるようにしている。これにより、左右の摺動式等速自在継手において生じる誘起スラスト力が最大となる周波数(タイミング)を互いに異ならせることができる。その結果、左右の摺動式等速自在継手で生じる誘起スラスト力が共振しにくくなり、誘起スラスト力に起因して車両に発生する振動や異音を効果的に抑制することが可能となる。
【0011】
さらに、左右のドライブシャフトにおいて、それぞれの固定式等速自在継手が備える転動体の数を互いに異ならせることで、これらに生じる誘起スラスト力が最大となる周波数(タイミング)も互いに異ならせることができる。これにより、左右の固定式等速自在継手で生じる誘起スラスト力が共振しにくくなり、誘起スラスト力に起因する振動や異音をより一層効果的に抑制することが可能となる。
【0012】
本発明は、特に、駆動源が電動モータである場合に好適である。すなわち、電動モータを駆動源とするモータ駆動車両においては、エンジン駆動車両に比べて、高い静寂性が求められるうえ、車両が軽量で、発進時や加速時にドライブシャフトに入力される回転トルクが高いこともあって、誘起スラスト力に起因する振動や異音の発生が顕著となる傾向にある。そのため、このようなモータ駆動車両に本発明を適用することで特に大きな効果が得られる。
【0013】
また、本発明に係る動力伝達機構を車両に適用することで、誘起スラスト力に起因する振動や異音の発生を高度に抑制することができ、NVH特性に優れた車両を提供できるようになる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、誘起スラスト力に起因する振動や異音を効果的に抑制できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】電気自動車に搭載された動力伝達機構の概略構成を示す平面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る左右のドライブシャフトの縦断面図である。
図3】トリポード型等速自在継手の横断面図である。
図4】ダブルオフセット型等速自在継手の横断面図である。
図5】6個のボールを備える固定式等速自在継手の横断面図である。
図6】8個のボールを備える固定式等速自在継手の横断面図である。
図7】本発明の他の実施形態に係る左右のドライブシャフトの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面に基づいて、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明を説明するための各図面において、同一の機能もしくは形状を有する部材や構成部品等の構成要素については、判別が可能な限り同一符号を付すことにより一度説明した後ではその説明を省略する。
【0017】
図1に、電気自動車に搭載された動力伝達機構の概略構成を示す。
【0018】
図1に示す電気自動車1は、前輪駆動方式のモータ駆動車両である。電気自動車1は、駆動源である電動モータMの回転トルクを駆動輪である左右の前輪Wへ伝達する動力伝達機構2として、左右のドライブシャフト3L,3Rを備えている。各ドライブシャフト3L、3Rは、中間軸4L,4Rと、中間軸4L,4Rの前輪W側の端部に連結されたアウトボード側(車両外側)の固定式等速自在継手5L,5Rと、中間軸4L,4Rの前輪W側とは反対側の端部に連結されたインボード側(車両内側)の摺動式等速自在継手6L,6Rとを備えている。斯かるドライブシャフト3L,3Rを介して電動モータMと左右の前輪Wとが連結されていることで、電動モータMから各前輪Wへ回転トルクを伝達可能に構成されている。
【0019】
図2に、本発明の実施形態に係る左右のドライブシャフトの構成を示す。
【0020】
まず、図2を参照しつつ、左右の各ドライブシャフト3L,3Rが備える固定式等速自在継手5L,5Rの構成について説明する。
【0021】
図2に示すように、各ドライブシャフト3L,3Rが備える固定式等速自在継手5L,5Rは、それぞれ、上記前輪Wに連結される外側継手部材としての外輪7と、中間軸4L,4Rに連結される内側継手部材としての内輪8と、転動体としての複数のボール9と、ケージ10とを主な構成要素として備えている。
【0022】
外輪7は、一端が開口するカップ状の部材であり、その内周面には、軸方向に伸びる複数の円弧状のトラック溝7aが周方向に等間隔に形成されている。一方、内輪8は、筒状の部材であり、その外周面には、外輪7のトラック溝7aに対向する複数の円弧状のトラック溝8aが周方向に等間隔に形成されている。外輪7のトラック溝7aと内輪8のトラック溝8aとの間には、ボール9が1つずつ配置され、各ボール9は、外輪7と内輪8との間に介在するケージ10によって転動可能に保持されている。また、外輪7と中間軸4L,4Rとの間には、継手内への異物侵入防止や継手内に封入されたグリースの漏洩防止を目的としてブーツ11が取り付けられている。
【0023】
固定式等速自在継手5L,5Rにおいては、外輪7と内輪8との間に作動角が付与されると、ボール9がトラック溝7a,8aに沿って移動することで、ボール9は常にどの作動角においてもその作動角の二等分面内に維持される。これにより、外輪7と内輪8との間では、ボール9を介して回転トルクが等速で伝達される。
【0024】
ここで、本実施形態に係る左右のドライブシャフト3L,3Rにおいては、固定式等速自在継手5L,5Rとして、互いに同じ構造の固定式等速自在継手を用いている。これに対して、各ドライブシャフト3L,3Rが備える摺動式等速自在継手6L,6Rには、互いに異なる構造の摺動式等速自在継手が用いられている。具体的に、本実施形態では、右側の摺動式等速自在継手6Rとして、トリポード型等速自在継手(TJ)20が用いられ、左側の摺動式等速自在継手6Lとして、ダブルオフセット型等速自在継手(EDJ)30が用いられている。
【0025】
次に、図2及び図3を参照しつつ、右側の摺動式等速自在継手6Rとして用いられているトリポード型等速自在継手20の構成について説明する。
【0026】
図2及び図3に示すように、トリポード型等速自在継手20は、上記電動モータMに連結される外側継手部材としての外輪21と、中間軸4Rに連結される内側継手部材としてのトリポード部材22と、転動体としての3個のローラ23とを主な構成要素として備えている。
【0027】
外輪21は、一端が開口するカップ状の部材であり、その内周面には、軸方向に伸びる3つの直線状のトラック溝21aが周方向に等間隔に形成されている。トリポード部材22は、筒状のボス部24と、このボス部24から半径方向に突出する3つの脚軸25とを有している。各脚軸25には、ローラ23などから成るローラユニット26が装着されている。ローラユニット26は、アウタリングとしてのローラ23と、ローラ23の内側に配置されると共に脚軸25に外嵌されたインナリング27と、ローラ23とインナリング27との間に介在された多数の針状ころ28とによって構成されている。このローラユニット26が、外輪21の各トラック溝21a内に1つずつ配置され、ローラ23がトラック溝21aに沿って移動することで、トリポード部材22は外輪21に対して角度変位及び軸方向変位を許容しながら回転トルクを伝達することができる。また、上記固定式等速自在継手5L,5Rと同様に、外輪21と中間軸4Rとの間には、ブーツ12が取り付けられている。
【0028】
続いて、図2及び図4を参照しつつ、左側の摺動式等速自在継手6Lとして用いられているダブルオフセット型等速自在継手30の構成について説明する。
【0029】
図2及び図4に示すように、ダブルオフセット型等速自在継手30は、上記電動モータMに連結される外側継手部材としての外輪31と、中間軸4Lに連結される内側継手部材としての内輪32と、転動体としての8個のボール33と、ケージ34を主な構成要素として備えている。
【0030】
外輪31は、一端が開口するカップ状の部材であり、その内周面には、軸方向に伸びる8個の直線状のトラック溝31aが周方向に等間隔に形成されている。一方、内輪32は、筒状の部材であり、その外周面には、外輪31のトラック溝31aに対向する8個の直線状のトラック溝32aが周方向に等間隔に形成されている。外輪31のトラック溝31aと内輪32のトラック溝32aとの間には、ボール33が1つずつ配置され、各ボール33は、外輪31と内輪32との間に介在するケージ34によって転動可能に保持されている。各ボール33が各トラック溝31a,32aに沿って移動することで、内輪32は外輪31に対して角度変位及び軸方向変位を許容しながら回転トルクを伝達することができる。また、上記固定式等速自在継手5L,5Rと同様に、外輪31と中間軸4Lとの間には、ブーツ13が取り付けられている。
【0031】
上記のように、本実施形態に係る動力伝達機構2においては、左右のドライブシャフト3L,3Rが備える摺動式等速自在継手6L、6Rとして、互いに異なる数の転動体を備える摺動式等速自在継手を用いている。このため、ドライブシャフト3L,3Rが回転すると、各摺動式等速自在継手6L,6Rにおける誘起スラスト力の発生の仕方が異なる。すなわち、誘起スラスト力は、1回転中にローラ又はボールの個数に対応して発生するので、3個のローラを備えるトリポード型等速自在継手20においては、120°回転するごとに最大の誘起スラスト力が発生し、8個のボールを備えるダブルオフセット型等速自在継手30においては、45°回転するごとに最大の誘起スラスト力が発生する。
【0032】
このように、本実施形態においては、左右の摺動式等速自在継手6L,6Rに、互いに異なる数の転動体を備える摺動式等速自在継手を用いることで、これらに生じる誘起スラスト力が最大となる周波数(タイミング)を互いに異ならせることができる。これにより、左右の摺動式等速自在継手6L,6Rで生じる誘起スラスト力が共振しにくくなり、誘起スラスト力に起因して車両に発生する振動や異音を効果的に抑制できるようになる。
【0033】
一方、固定式等速自在継手は、摺動式等速自在継手に比べて誘起スラスト力が発生しにくいため、本実施形態においては、右側の固定式等速自在継手5Rと左側の固定式等速自在継手5Lとで、同じ数のボールを備える固定式等速自在継手を用いている。左右の固定式等速自在継手5L,5Rが備えるボールの数は、例えば、図5に示すような6個でもよいし、図6に示すような8個でもよい。
【0034】
また、誘起スラスト力に起因する振動や異音をより一層抑制するため、左右の固定式等速自在継手5L,5Rに、互いに異なる数のボールを備える固定式等速自在継手を用いてもよい。
【0035】
図7に、互いに異なる数のボールを備える固定式等速自在継手を用いた実施形態を示す。
【0036】
図7に示す実施形態では、右側のドライブシャフト3Rが備える固定式等速自在継手5Rとして、図6に示すような8個のボール9を備える固定式等速自在継手が用いられ、左側のドライブシャフト3Lが備える固定式等速自在継手5Lとして、図5に示すような6個のボールを備える固定式等速自在継手が用いられている。なお、摺動式等速自在継手6L,6Rは、上述の実施形態と同様に、右側がトリポード型等速自在継手20で、左側がダブルオフセット型等速自在継手30である。
【0037】
このように、左右の固定式等速自在継手5L,5Rとして、互いに異なる数の転動体を備える固定式等速自在継手を用いることで、これらに生じる誘起スラスト力が最大となる周波数(タイミング)を互いに異ならせることができる。これにより、左右の固定式等速自在継手5L,5Rで生じる誘起スラスト力が共振しにくくなり、誘起スラスト力に起因する振動や異音をより一層効果的に抑制できるようになる。
【0038】
また、図7に示す実施形態では、右側のドライブシャフト3Rが備える固定式等速自在継手5Rと摺動式等速自在継手6Rとの間、及び、左側のドライブシャフト3Lが備える固定式等速自在継手5Lと摺動式等速自在継手6Lとの間でも、転動体の数が異なっている。すなわち、右側のドライブシャフト3Rにおいては、8個のボール9を備える固定式等速自在継手5Rと3個のローラ23を備えるトリポード型等速自在継手20との組み合わせであり、左側のドライブシャフト3Lにおいては、6個のボール9を備える固定式等速自在継手5Lと8個のボール33を備えるダブルオフセット型等速自在継手30との組み合わせであるので、固定式等速自在継手と摺動式等速自在継手との間での転動体の数が異なっている。このため、各ドライブシャフト3L,3Rが備える固定式等速自在継手と摺動式等速自在継手との間でも誘起スラスト力が共振しにくくなり、振動及び異音がより一層生じにくくなる。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、発明の用紙を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0040】
上述の実施形態では、固定式等速自在継手として、トラック溝が円弧部のみから成るいわゆるバーフィールド型等速自在継手(BJ)を用いているが、トラック溝が円弧部及び直線部から成るいわゆるアンダーカットフリー型等速自在継手(UJ)を用いてもよい。また、固定式等速自在継手は、6個のボール又は8個のボールを備えるものに限らず、8個より多い個数のボールを備えるものであってもよい。
【0041】
また、右側の摺動式等速自在継手と左側の摺動式等速自在継手の組み合わせは、上述の実施形態に限らない。例えば、一方の摺動式等速自在継手が3個のローラを備えるトリポード型等速自在継手(TJ)である場合、他方の摺動式等速自在継手を、上述の8個のボールを備えるダブルオフセット型等速自在継手(EDJ)に代えて、6個のボールを備えるダブルオフセット型等速自在継手(DOJ)としてもよい。また、一方の摺動式等速自在継手を、8個のボールを備えるダブルオフセット型等速自在継手(EDJ)とし、他方の摺動式等速自在継手を、6個のボールを備えるダブルオフセット型等速自在継手(DOJ)としてもよい。
【0042】
また、本発明は、前輪駆動式の車両に限らず、後輪駆動式の車両や四輪駆動式の車両にも適用可能である。また、本発明が適用されるモータ駆動車両は、一つの共通の電動モータによって左右の駆動輪を駆動させる1モータ式であってもよいし、2つのモータによって左右の駆動輪をそれぞれ独立に駆動させる2モータ式であってもよい。また、電動モータとドライブシャフトの摺動式等速自在継手との間に、減速機などの動力伝達機構が介在するものであってもよい。
【0043】
また、本発明において、誘起スラスト力に起因する振動や異音をより確実に抑制するために、誘起スラスト力の共振を回避したい等速自在継手同士の間で、それぞれが備える全ての転動体の継手周方向の位相を異ならせてもよい。すなわち、左右の各摺動式等速自在継手6L,6R同士の間や、左右の固定式等速自在継手5L,5R同士の間、あるいは、固定式等速自在継手5L,5Rと摺動式等速自在継手6L,6Rとの間で、それぞれが備える全ての転動体の継手周方向位相を互いに異ならせてもよい。これにより、誘起スラスト力に起因する振動や異音をより確実に抑制できるようになる。
【0044】
以上のように、本発明によれば、誘起スラスト力が発生しやすい左右の摺動式等速自在継手に、互いに異なる数の転動体を備える摺動式等速自在継手を用いることで、これらにおける最大の誘起スラスト力の発生タイミングを異ならせ、誘起スラスト力に起因する振動や異音を効果的に抑制できるようになる。これにより、車両に振動や異音が発生しにくくなり、NVH特性に優れた車両を提供できるようになる。本発明は、電気自動車などのモータ駆動車両に限らず、エンジン駆動車両にも適用可能である。中でも誘起スラスト力に起因する振動や異音が顕著となるモータ駆動車両においては、本発明を適用することで特に大きな効果が得られるようになる。
【符号の説明】
【0045】
1 電気自動車
2 動力伝達機構
3L,3R ドライブシャフト
4L,4R 中間軸
5L,5R 固定式等速自在継手
6L,6R 摺動式等速自在継手
7 外輪(外側継手部材)
7a トラック溝
8 内輪(内側継手部材)
8a トラック溝
9 ボール(転動体)
10 ケージ
20 トリポード型等速自在継手
21 外輪(外側継手部材)
21a トラック溝
22 トリポード部材(内側継手部材)
23 ローラ(転動体)
30 ダブルオフセット型等速自在継手
31 外輪(外側継手部材)
31a トラック溝
32 内輪(内側継手部材)
32a トラック溝
33 ボール(転動体)
34 ケージ
M 電動モータ(駆動源)
W 前輪(駆動輪)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7