(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】ナノエマルジョン送達系の組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 9/107 20060101AFI20240104BHJP
A23L 35/00 20160101ALI20240104BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20240104BHJP
A61K 8/55 20060101ALI20240104BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20240104BHJP
A61K 8/92 20060101ALI20240104BHJP
A61K 38/13 20060101ALI20240104BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20240104BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240104BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240104BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20240104BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20240104BHJP
【FI】
A61K9/107
A23L35/00
A61K8/06
A61K8/55
A61K8/60
A61K8/92
A61K38/13
A61K47/14
A61K47/24
A61K47/26
A61K47/28
A61K47/44
(21)【出願番号】P 2019143130
(22)【出願日】2019-08-02
(62)【分割の表示】P 2016569571の分割
【原出願日】2015-02-16
【審査請求日】2019-08-02
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-12
(32)【優先日】2015-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2014-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516243319
【氏名又は名称】ホアン,ジンジュン
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ホアン,ジンジュン
【合議体】
【審判長】原田 隆興
【審判官】渕野 留香
【審判官】岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-504107(JP,A)
【文献】特表2008-518992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定で、光学的に透明な、水中油ナノエマルジョン組成物であって、前記組成物は、
長鎖トリグリセリドおよび/または他の油を含む油相であって、前記油相は前記組成物の0.5~50%(w/v)であり、前記長鎖トリグリセリドは大豆油である、油相;
前記組成物の0.01~30%(w/v)の、レシチンであるイオン化できる界面活性剤および前記組成物の0.01~30%(w/v)の、ポリソルベート80である補助界面活性剤であって、前記イオン化できる界面活性剤対前記補助界面活性剤の比は1:1または5:1であり、かつ前記イオン化できる界面活性剤および補助界面活性剤の総重量は、前記油相の重量未満である、イオン化できる界面活性剤および補助界面活性剤;
水相;
pH調整剤;ならびに
活性成分
を含み、
前記組成物はアルコールを含まず、平均滴サイズ(強度平均、nm)は100nm未満であり、かつ、前記滴は40℃/75%RHで少なくとも2ケ月の安定性を維持する、水中油ナノエマルジョン組成物。
【請求項2】
前記組成物は、キレート剤、抗酸化剤、浸透圧剤、保存剤、懸濁剤、または緩衝剤から選択される1つ以上の作用物質をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記平均滴サイズ(強度平均、nm)は、75nm未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ナノエマルジョンは、安定で光学的に透明であり、油相濃度が0.5~50%w/vの間である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記油相は少なくとも10%w/wの長鎖トリグリセリドを含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記油相は大豆油および中鎖トリグリセリドから選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記界面活性剤および補助界面活性剤の総重量は、前記組成物の40%、または36%、30%、20%、または15%(w/v)以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記界面活性剤および補助界面活性剤の総重量は、前記油相の重量
未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記界面活性剤は、0~10のpH範囲でイオン化できる界面活性剤である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記界面活性剤濃度は、前記ナノエマルジョン組成物の21%w/v未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
安定で、光学的に透明な、水中油ナノエマルジョン組成物であって、前記組成物は、
長鎖トリグリセリドおよび中鎖トリグリセリドを含む油相であって、前記油相は前記組成物の0.5~50%(w/v)であり、前記油相は少なくとも10%(w/v)の長鎖トリグリセリドを含み、前記長鎖トリグリセリドは大豆油である、油相;
前記組成物の0.01~30%(w/v)の、レシチンであるイオン化できる界面活性剤および前記組成物の0.01~30%(w/v)の、ポリソルベート80である補助界面活性剤であって、前記イオン化できる界面活性剤対前記補助界面活性剤の比は1:1または5:1であり、かつ前記イオン化できる界面活性剤および補助界面活性剤の総重量は、前記油相の重量未満である、イオン化できる界面活性剤および補助界面活性剤;
共溶媒としてアルコールを含まない水相;
pH調整剤;ならびに、
シクロスポリンである活性成分を含み、
前記組成物の平均滴サイズ(強度平均、nm)は100nm未満であり、前記滴は40℃/75%RHで少なくとも2ケ月の安定性を維持し、かつ前記組成物はアルコールを含まない、組成物。
【請求項12】
請求項1に記載の安定で、光学的に透明な、水中油ナノエマルジョン組成物を製造するための方法であって、
a)長鎖トリグリセリドを含む油相を調製する工程;
b)水相を調製する工程;
c)活性成分を前記油相または前記水相のいずれかに組み入れる工程
d)
レシチンであるイオン化できる界面活性剤および補助界面活性剤を前記油相または前記水相のいずれかに組み入れる工程;
e)前記油相を前記水相中に分散させて粗エマルジョンを形成させる工程;
f)工程e)の前記エマルジョンを超音波処理する、高圧ホモジナイズする、または高せん断処理することにより最終エマルジョンを形成させる工程;ならびにpHを調整する工程、を含み、
前記組成物はアルコ―ルを含まない、方法。
【請求項13】
工程b)の前記水相はpH調整剤を含む、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権
本出願は、2014年2月16日に出願された米国実用特許出願番号14/623,150号および2014年2月14日に出願された米国仮特許出願番号61/939,965号(その両方の内容は、参照により本明細書に完全に組み込まれる)の優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、100nm未満の強度平均直径を有し、少なくとも10%w/vの長鎖トリグリセリドを有する油相を含み、共溶媒として水相中にアルコールを必要としない、安定で光学的に透明な水中油ナノエマルジョンの組成物に関する。上記組成物のためのプロセスおよび医薬品、食品、栄養補助食品、および化粧品業界における活性成分のための担体としてのそれらの適用が発明において記載される。
【背景技術】
【0003】
薬物の低い溶解度は、特に静脈内または経口溶液が必要とされる場合、生物学的に利用可能で物理的に安定な医薬品および栄養補助食品を開発するための非常に困難な問題である。難水溶性または低水溶性の塩基性薬物の静脈内および経口の液体組成物を調製するための多くのアプローチが使用可能である。これらの方法は、表面活性剤によるミセル可溶化または薬物ナノ粒子懸濁;シクロデキストリンおよびその誘導体(ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン(HPBCD)およびスルホブチルエーテル-β-シクロデキストリン(SBECD))との複合体の形成;様々な共溶媒系の使用;ならびに低い溶液pHを有する強酸との塩の形成を含む。しかしながら、ミセル系では、界面活性剤が、刺激作用、溶血およびヒスタミン反応および重篤なアナフィラキシー反応などの有害作用と関係し、ナノサイズの純粋薬物粒子がポリマおよび界面活性剤により安定化されたナノ懸濁系では、水媒体および周囲の界面活性剤へのより高い曝露面積による原薬の接触分解の可能性が報告されており;ミセル/ナノ懸濁系では味覚マスキングおよび注射の痛みが、水媒体中で使用可能な遊離薬物のより高い濃度のために、別の問題であり;共溶媒系は沈殿、注射の痛みおよび静脈炎を引き起こすことが知られており;シクロデキストリンおよびその誘導体により引き起こされる腎毒性および徐脈および血圧低下の可能性、ならびに共投与された親油性薬物とのシクロデキストリン結合の問題の可能性が報告されており;ならびに強酸と共に形成される弱塩基性塩の低い溶液pHは、薬物-賦形剤および製品安定性の問題を引き起こし、ならびに味覚問題、注射部位の刺激作用および中性pHで血液と接触した時の遊離塩基としての薬物の沈殿の結果としての疼痛を引き起こすであろう。要約すると、以上で列挙されるこれらの方法の各々はその固有の限界を有し、低可溶性薬物を、十分な安定性、最小副作用、および、静脈内、眼内、経鼻、局所、経皮、または経口投与のいずれかとして適切な薬力学プロファイルを有する生体適合性ビヒクル中で製剤化するには不十分である。
【0004】
水中油エマルジョンは、水性連続相中に分散された油滴から作られており、医薬品、食品、および化粧品などの製品における多くの適用の薬物溶解度および安定性問題に対処できる独自のシステムを提供する。エマルジョンの使用の1つは外用物、栄養補助食品、内服物、経鼻品、眼内物、および医薬品において使用するための活性薬剤材料成分および活性成分を送達することである。油中で可溶性である活性成分は、エマルジョンの油相内で溶解/分散させることができ、油および水の両方で溶解しにくい活性成分が組み入れられ得る。
【0005】
その外観または粒子サイズに基づき、エマルジョンは3つの型に分類できる:マクロエマルジョン、マイクロエマルジョンおよびナノエマルジョン。>100nmの平均サイズ範囲を有するマクロエマルジョンは、濁った乳白色外観を有する傾向がある。なぜなら、多くの界面が光を、それがエマルジョンを通過する時に散乱するからである。100nm未満の平均滴サイズを有するマイクロエマルジョンおよびナノエマルジョンは、2つの特別なクラスのエマルジョンであり、光学的に透明に見える(半透明または透明)。この特性は、それらのサイズが入射光の波長の約4分の1を超えた時だけに、光が小滴により散乱されるという事実のためである。エマルジョン中の平均滴サイズが約100nm未満、好ましくは70nm未満である場合、光は、散乱されずに、エマルジョンを貫通できる。マイクロエマルジョンは、油分子を界面活性剤、補助界面活性剤、および共溶媒の混合物を用いて「可溶化する」ことにより自然に形成される熱力学的に安定な系である。一方、ナノエマルジョンは熱力学に準安定な系であり、その形成には、油滴を100nm未満レベルまで破壊するための外部エネルギーが必要とされる。
【0006】
従来の水中油エマルジョン、すなわちマクロエマルジョンは本質的に不安定な系であり、自然に形成しない。マクロエマルジョンを形成するには機械的混合、ホモジナイズ、または超音波などのエネルギー投入が必要とされ;ならびにマクロエマルジョンは、相の安定な状態に戻る傾向があり、凝集およびクリーム状化などの相分離を生じる。物理的不安定性に加え、かなり大きな滴サイズのマクロエマルジョンはより低い界面面積対体積比を有し、これにより、マクロエマルジョンの、溶解しにくい化合物(油の内側または油-水界面のいずれかで可溶性である)を効率的に溶解させる能力が制限され;ならびにマクロエマルジョンの不透明さにより、目に投与された時に視覚の明瞭さが低減される。さらに、経口投与による、長鎖トリグリセリド油から構成されるマクロエマルジョンからの活性材料成分の放出は、脂肪分解の速度および程度によりしばしば制限され得る。GI管におけるトリグリセリドエマルジョン消化速度は、pH、リパーゼ濃度、胆汁酸塩およびエマルジョン表面積の関数である。より高い表面積対体積比を有するエマルジョンは、低い表面積対体積比を有するものよりも速い脂肪分解を受けるであろう。
【0007】
100nm未満の平均サイズへのエマルジョンの製剤化はそれらの不利点の例外であり、この場合、マイクロエマルジョンは熱力学的に安定であり、ナノエマルジョンは、本質的に熱力学的に準安定であるが、非常に小さなサイズのために、依然としてその動力学的安定性を長期間維持できるであろう。100nm未満のエマルジョンの形成は、界面面積の相対量をかなり増加させるという利点を付加した。界面面積の相対量の増加により、マクロエマルジョンと比べて、溶解しにくい活性成分を水媒体に溶解させる能力が大きくなり、脂肪分解による消化速度が速くなり、よって、活性材料成分の油滴からの放出がより速くなる。100nm未満という小さなサイズのために、マイクロエマルジョンまたはナノエマルジョンは、活性化合物が目、皮膚、鼻、肺、GI管、腫瘍、血液静脈、および血液脳関門などの上皮粘膜層に浸透するのを助けるという利点を付加した。
【0008】
100nm未満という粒子サイズおよび活性化合物の送達における性能における類似性にもかかわらず、マイクロエマルジョンおよびナノエマルジョンは基本的には異なっている。その熱力学安定性にもかかわらず、マイクロエマルジョン系に対して必要とされる界面活性剤濃度は、油相の濃度を著しく超え、普通、ナノエマルジョンより数倍高い。界面活性剤により引き起こされる多くの望ましくない副作用のために、ならびに、多くの界面活性剤の1日摂取限度の政府規制のために、マイクロエマルジョンは、ナノエマルジョンと比べて、静脈内、眼内、および経口投与などの多くの医薬品用途において不利である。加えて、多くの界面活性剤は食品/剤形中に存在すると苦味を有し、これにより、嗜好性の問題が引き起こされ得る。さらに、マイクロエマルジョン系の物理的安定性はしばしば、希釈、加熱、またはpHレベルの変化により影響される。
【0009】
ナノエマルジョンは、自然に形成されず動力学的安定性を維持するにすぎないにも関わらず-機械的せん断の助けにより、水および界面活性剤の存在下で油滴をナノサイズレベルまで破壊するために使用する界面活性剤がずっと少ない。これにより、毒性学および規制の観点からより容認される系が得られる。マイクロエマルジョンと同様に、ナノエマルジョンは、それらの小さなサイズの結果として、半透明に見えるという利点を有し得る。ナノエマルジョンは、マイクロエマルジョンと同じ高い界面面積対体積比を有し、これにより、溶解しにくい化合物の溶解および脂肪分解によるエマルジョンの急速消化が助けられ得る。マイクロエマルジョンと対照的に、ナノエマルジョンは、希釈および/またはpH変化の際その物理的安定性を維持する。
【0010】
マクロエマルジョンおよびマイクロエマルジョンを超える多くの利点にもかかわらず、ナノエマルジョンはその限界を有し、すなわち動力学的安定性-粒子サイズが、オストワルド熟成により時間と共に増加し得る。ナノエマルジョン粒子サイズの時間に伴う増加は、界面表面積における対応する減少に伴い、ナノエマルジョンがその透明性を失うので不利である。100nm未満の平均粒子サイズを有する安定なナノエマルジョンを達成するために、短鎖トリグリセリドまたは中鎖トリグリセリド、例えばミグリオール(Migloyol)を含む低粘度油がしばしば、ナノエマルジョンを製造するために使用され、その不利益は、短/中鎖トリグリセリドのより小さな分子サイズ、高い水溶解度および低粘度によるオストワルド熟成の傾向である。ナノエマルジョンの物理的安定性を改善するために、非常に低い水溶解度を有する長鎖トリグリセリドが使用され得る。しかしながら、長鎖トリグリセリドの大きな分子体積および高い粘度は、高レベルの油含量を有する光学的に透明な(透明または半透明)ナノエマルジョンを容易に形成できないようにすることが知られている。そのため、長鎖トリグリセリドを含む半透明ナノエマルジョンを形成するために、アルコールなどの高レベルの小分子量有機共溶媒、またはクレモフォールELなどの油相に対してより高いレベルの毒性界面活性剤を一般に使用して長鎖トリグリセリドを含む油滴の表面張力を低減させる。しかしながら、これにより、安全性、毒性学、規制観点から容認し得ない系が得られ得る。例えば、ホスファチジルコリン(卵または大豆レシチン)は天然起源の無毒性の生体適合性界面活性剤であるので、レシチン系エマルジョンの調製は、重要な医薬的関心事である。しかしながら、レシチンは比較的低い濃度で、特に水相中で液晶構造を形成する強い傾向を有するので、アルコールを共溶媒として水相に添加することが、界面張力を低減させ、よって、長鎖トリグリセリド油を含むレシチン系マイクロエマルジョン/ナノエマルジョンを生成させるのに必要である。しかしながら、アルコールは、毒性副作用、例えば酵素誘導、薬物-薬物相互作用、または中枢神経系への損傷を誘導することが知られている。
【0011】
そのため、その油相が長鎖トリグリセリドを含み、高レベルの油含量の組成を有するナノエマルジョンを作製することにおいて課題が残ったままであり、この場合、エマルジョンは100nm未満の平均サイズ(強度平均)を有し、オストワルド熟成に対する良好な安定性および光学半透明性を維持し、生体適合性界面活性剤および比較的低いレベルの他の界面活性剤を使用し、水相において共溶媒としての望ましくないアルコールの使用を排除する。そのようなナノエマルジョンの作製は、エマルジョン製品安全性、効力、安定性、認容性、および味覚を改善するのに利点を有するであろう。
【発明の概要】
【0012】
現在の技術における上記欠陥および問題に対処するために、当技術分野においては、その油相が少なくとも10%w/vの長鎖トリグリセリドを含み、100nm未満の強度平均滴サイズおよびオストワルド熟成に対する良好な安定性を有し、生体適合性界面活性剤および低レベルの他の界面活性剤(<15%)を使用し、水相において共溶媒として望ましくないアルコールの使用を排除する、光学的に透明なナノエマルジョン系が必要とされる。
【0013】
上記問題を考慮して、本開示は、強度平均の平均滴サイズが<100nmである水性系油/水ナノエマルジョン組成物が、予想外に、組成物の最大50%までの油相濃度では、非常に有益な粒子サイズ分布、光学透明性、およびオストワルド熟成に対する製品安定性を与えるという驚くべき結果を提供する。水に溶けにくい、治療的に活性な作用物質などを、水媒体中でのそれらの溶解度および安定性を改善するために、ならびに、活性成分送達のために、ナノエマルジョン系に組み入れることができる。
【0014】
この発明の1つの目的は、長鎖トリグリセリドおよび/または他の油を含む油相;ならびにイオン化できる界面活性剤および補助界面活性剤(複数可);共溶媒としてアルコールを含まない水相;ならびにpH調整剤を含む、安定な光学的に透明な油/水ナノエマルジョンを提供することである。
【0015】
エマルジョン組成物の油相は組成物の少なくとも0.5-50%w/vであり、油相中に>10%の長鎖トリグリセリドを含む。
【0016】
イオン化できる界面活性剤は、生体適合性のイオン化できる界面活性剤またはその誘導体、例えば卵または大豆レシチン、を薬学的に許容される補助界面活性剤(複数可)と組み合わせたものである。界面活性剤および補助界面活性剤の合計濃度は組成物の<25%w/vであり、ここで界面活性剤対補助界面活性剤の比は、10:0.1~0.1:10、10:1~1:10、10:1~1:5、または5:1~1:5の範囲内にあり、界面活性剤および補助界面活性剤の合計濃度は、油相の100%w/w未満である。
【0017】
水相は水を含み、共溶媒としてアルコールを含まない。
【0018】
長鎖トリグリセリドを含み、<100nmの強度平均油滴を有し、水相において共溶媒としてアルコールを使用しない、安定で、光学的に透明な油/水ナノエマルジョン組成物を製造するための方法を提供することが、この発明の別の目的であり、前記方法は、下記工程を含む:a)長鎖トリグリセリドを含む油相を調製する工程;b)水およびpH調整剤を含む水相を調製する工程;c)生体適合性界面活性剤および補助界面活性剤(複数可)を油相または水相のいずれかに組み入れる工程;d)油相を水相中に分散させ、粗エマルジョンを形成させる工程;e)工程d)のエマルジョンを超音波処理する、または高圧ホモジナイズすることにより最終エマルジョンを形成させる工程;ならびにf)pHを調整する工程。
【0019】
光学的に透明なナノエマルジョン系組成物をヒトまたは動物の治療において使用するための方法を提供することが、この発明のさらに別の目的であり、ここで、組成物は長鎖トリグリセリドを含み、<100nmの強度平均油滴を有し、医薬品、食品、化粧品、および経口、静脈内、皮下、筋内、吸入、経鼻、局所、眼内、および経皮経路による他の用途において使用するための治療薬などのための有機共溶媒としてアルコールを使用せず、適用可能な一覧、食品医薬品局、およびGMPの要求を満たすような安定性および純度を有する。前記方法は下記工程を含む:a)治療活性剤または他の作用物質を油担体中に分散/溶解させることにより調製される液体形態の油/水ナノエマルジョン組成物を提供する工程;b)水およびpH調整剤を含む水相を調製する工程;c)超音波処理またはホモジナイズにより油相を水相中に分散させて油滴を形成させる工程;ならびにd)前記ナノエマルジョン組成物をヒトまたは動物に投与する工程。
【0020】
長鎖トリグリセリドを含み、<100nmの強度平均油滴を有し、医薬品、食品、化粧品、および経口、静脈内、皮下、筋内、吸入、経鼻、局所、眼内、および経皮経路による他の用途において使用するための治療薬などのための有機共溶媒としてアルコールを使用せず、適用可能な一覧、食品医薬品局、およびGMPの要求を満たすような安定性および純度を有する、光学的に透明なナノエマルジョン系組成物を使用することによりヒトまたは動物を治療するための方法を提供することが、この発明のさらに別の目的である。方法は下記工程を含む:a)超音波処理またはホモジナイズにより油相を水相中に分散させてナノエマルジョンを形成させることにより調製される、液体形態の油/水ナノエマルジョン組成物を提供する工程;b)治療活性剤または他の作用物質を工程a)からの油/水ナノエマルジョンに添加し、混合して治療活性剤または他の作用物質を油相中に溶解させる工程;ならびにc)上記ナノエマルジョン組成物をヒトまたは動物に投与する工程。
【0021】
ヒトまたは動物を治療するための光学的に透明なナノエマルジョン系組成物を使用する方法を提供することが、この発明のさらに別の目的であり、ここで、組成物は長鎖トリグリセリドを含み、<100nmの強度平均油滴を有し、医薬品、食品、化粧品、および経口、静脈内、皮下、筋内、吸入、経鼻、局所、眼内、および経皮経路による他の用途において使用するための治療薬などのための有機共溶媒としてアルコールを使用せず、適用可能な一覧、食品医薬品局、およびGMPの要求を満たすような安定性および純度を有する。方法は下記工程を含む:a)油相を水相中に分散させて粗エマルジョンを形成させることにより調製される液体形態の油/水粗エマルジョン組成物を提供する工程;b)治療活性剤または他の作用物質を工程a)からの油/水粗エマルジョン中に添加し、混合して治療活性剤または他の作用物質を油相中に溶解/分散させる工程;c)超音波処理またはホモジナイズにより液体形態の油/水ナノエマルジョンを得る工程;ならびにd)上記ナノエマルジョン組成物をヒトまたは動物に投与する工程。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】LCT/レシチン/ポリソルベート80を用いて製造したナノエマルジョン(実施例1)対レシチンのみを用いて製造したマクロエマルジョン(実施例7)の粒子サイズ分布の比較。ナノエマルジョの平均粒子サイズンは47nmであり、一方、マクロエマルジョンの平均は177nmである。
【
図3】40℃/75%RHで5ヶ月貯蔵後の、LCT/レシチン/ポリソルベート80を用いて製造したナノエマルジョン(実施例1)の粒子サイズ分布。図により、粒子サイズ分布は貯蔵の前後でほとんど同じであることが示される。
【
図4】40℃/75%RHで2および5ヶ月貯蔵後の、LCT/レシチン/ポリソルベート80およびシクロスポリンを用いて製造したナノエマルジョン(実施例2)の粒子サイズ分布。粒子サイズおよび光学透明性における有意な変化は観察されなかった。平均粒子サイズは最初は38nmであり、40℃で5ヶ月後は45nmであった。
【
図5】40℃/75%RHおよび冷蔵(約2-8℃)下で2ヶ月貯蔵後の、LCT/MCT/レシチン/ポリソルベート80およびシクロスポリンを用いて製造したナノエマルジョン(実施例3)の粒子サイズ分布。図により、粒子サイズ分布は貯蔵の前後でほとんど同じであることが示される。
【
図6】室温および冷蔵(約2-8℃)で12ヶ月貯蔵後の、LCT/レシチン/ポリソルベート80およびシクロスポリンを用いて製造したナノエマルジョン(実施例5)の粒子サイズ分布。いずれの条件においても、粒子サイズおよび光学透明性における有意な変化は観察されなかった。平均粒子サイズは最初38nmであり、冷蔵下12ヶ月間では39nmであり、25℃で12ヶ月間では49nmであった。
【発明を実施するための形態】
【0023】
「エマルジョン」という用語は、通常コロイドサイズより大きなサイズの小滴で、非混和性液体中に乳化剤ありまたはなしで分散された液体から構成される系(ミルク中の脂肪のような)として規定される。
【0024】
「水中油エマルジョン」という用語は、水性連続相に分散された油滴から生成されるエマルジョン系を指す。この開示では、「エマルジョン」という用語は、例外なく水中油エマルジョンを指す。
【0025】
「マイクロエマルジョン」という用語は、等方性で熱力学的に安定な系であり、分散されたドメイン直径がおよそ1~100nm、通常10~50nmで変動する、水、油、および界面活性剤(複数可)から生成される分散物として規定される。滴サイズは動的光散乱により測定されるZ-平均または強度加重平均サイズである。この開示では、「マイクロエマルジョン」という用語は、例外なく水中油エマルジョンを指す。
【0026】
「ナノエマルジョン」という用語は、熱力学的に準安定な系であり、分散されたドメイン直径がおよそ1~100nm、通常10~50nmで変動する、水、油、および界面活性剤(複数可)から生成される分散物として規定される。滴サイズは動的光散乱により測定されるZ-平均または強度加重平均サイズである。上記発明において、「ナノエマルジョン」という用語は、例外なく水中油エマルジョンを指す。
【0027】
「中鎖トリグリセリド」という用語は、グリセロールの中鎖(6~12個の炭素)脂肪酸エステルを意味する。
【0028】
「長鎖トリグリセリド」という用語は、グリセロールの長鎖(>12個の炭素)脂肪酸エステルを意味する。
【0029】
「界面活性剤」という用語は、通常、両親媒性である有機化合物を意味し、それらが疎水基および親水基の両方を含むことを意味する。
【0030】
「イオン化できる界面活性剤」という用語は、通常、両親媒性である有機化合物を意味し、それらが疎水基および親水基の両方を含み、その頭部基を10未満の生理的pH範囲でイオン化できることを意味する。
【0031】
「補助界面活性剤」という用語は、別の界面活性剤に加えて作用し、さらに液体の表面張力を低減させる界面活性剤である。
【0032】
「共溶媒」という用語は、他の溶媒に加えて作用し、さらに液体の表面張力を低減させる有機溶媒である。
【0033】
「透明な」という用語は、光を、散乱させずに材料を通過させる物理的特性である。これはスネルの法則に従い;言い換えれば、透明な媒体が光の輸送を可能にし、像形成を可能にする。
【0034】
「半透明」という用語は、透明性のスーパーセットを意味し:これは、光を通過させるが、必ずしもスネルの法則に従わず;言い換えれば、半透明媒体は光の輸送を可能にするが、像形成を可能にしない。
【0035】
「光学的に透明な」という用語は、この発明では透明または半透明のいずれかを指す。
【0036】
発明は、<100nmの平均滴サイズ(強度平均、nm)を有し、油相、イオン化できる界面活性剤および補助界面活性剤の混合物、ならびに水性液体担体を含む、水性系の水中油ナノエマルジョン製剤組成物を提供する。この発明の製剤は下記を含む:
a)長鎖トリグリセリドおよび/または他の油を含む油相、
b)イオン化できる界面活性剤および補助界面活性剤の混合物
d)水、pH調整剤を含み、共溶媒としてアルコールを有さない水相。
【0037】
任意で、エマルジョン製剤はまた、医薬品、栄養補助食品、食品および化粧品用途のための活性成分(複数可)、キレート剤、抗酸化剤、浸透圧剤、懸濁剤、保存剤、および緩衝剤を含み得る。いくつかの実施形態では、製剤はさらに、可溶化剤、香味剤、甘味剤、粘性誘導剤、電解質、別の治療薬、またはそれらの組み合わせを含む。
【0038】
この開示で明記されるように、ナノエマルジョンの成分に対する様々な上限および下限の組み合わせは、発明の異なる実施形態を提供するために使用できる。
【0039】
この発明の1つの実施形態によれば、ナノエマルジョンは下記を含み:
a)長鎖トリグリセリドを含む、少なくとも0.5~50%w/wの油相
b)0.01~30%w/wのイオン化できる界面活性剤;
d)0.01~30%w/wの補助界面活性剤;ならびに
d)50~99%w/wの水、
ここで、油滴は100nm未満の強度平均サイズを有し、イオン化できる界面活性剤対補助界面活性剤の比は10:0.1~0.1:10、10:1~1:10、10:1~1:5、または5:1~1:5の範囲にあり、界面活性剤/補助界面活性剤の合計対油の比は1未満:1である。
【0040】
好ましい実施形態では、水中油ナノエマルジョンは0.5~50w/v%の、油相中に少なくとも10%w/wの長鎖トリグリセリドを含む油相、0.1~30%のイオン化できる界面活性剤、0.01~30%の補助界面活性剤ならびに外部相に共溶媒としてアルコールを使用しない水相を含む。
【0041】
エマルジョン中の油相は動物、または植物、または藻類もしくは合成起源の液体または固体脂肪であってよい。動物起源のものとしては、魚油、肝油、脂身、ラード、獣脂、シュマルツ、およびバター脂肪などの油または脂肪が挙げられる。植物起源のものとしては、キャノーラ油、ヒマシ油、カカオバター、ヤシ油、コーヒーシードオイル、トウモロコシ油、綿実油、月見草油、グレープシードオイル、フラックスシードオイル、メンヘーデン油、からし油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、ピーナッツ油、ケシ油、ナタネ油、ぬか油、ベニバナ油、ゴマ油、大豆油、ひまわり油、パーム核油、ヘーゼルナッツ油、ゴマ油およびコムギ胚芽油などの油が挙げられる。合成起源のものとしては、合成トリグリセリド、分別トリグリセリド、修飾トリグリセリド、水素化トリグリセリドまたは部分水素化トリグリセリドなどの油が挙げられ、トリグリセリドの混合物もまた含まれる。
【0042】
好ましくは、エマルジョン中の油相は医薬品グレードの油であり、好ましくはトリグリセリド、例えば、限定はされないが大豆油、ベニバナシードオイル、オリーブ油、綿実油、ひまわり油、魚油(ω-3脂肪酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、およびドコサヘキサエン酸(DHA)を含む)、ヒマシ油、ゴマ油、ピーナッツ油、トウモロコシ油、中鎖トリグリセリド(例えばミグリオール812または810)、および短鎖トリグリセリドである。油相はまた、界面活性剤および/または補助界面活性剤、例えば卵レシチン、大豆レシチン、および他のリン脂質、プロピレングリコールジエステル、オレイン酸、またはモノグリセリド(例えばアセチルエリアル(acetylareal)モノグリセリド)を含み得る。油相はまた、その上記材料成分の混合物であってもよい。
【0043】
好ましい脂質相は大豆油、中鎖トリグリセリド(MCT)、オリーブ油、および魚油であり、単独または他のものとの混合物のいずれかである。
【0044】
最も好ましい油相は大豆油である。油担体の好ましい範囲は0.5~50%である。油担体の最も好ましいは5~20%である。
【0045】
界面活性剤は任意の薬学的に許容されるイオン化できる界面活性剤であり、好ましくは卵黄または大豆から抽出されたリン脂質、合成ホスファチジルコリンまたは植物起源からの精製ホスファチジルコリンである。水素化誘導体、例えば水素化ホスファチジルコリン(卵)および水素化ホスファチジルコリン(大豆)もまた、使用され得る。
【0046】
最も好ましい界面活性剤は卵レシチンである。界面活性剤の好ましい範囲は0.35~30%である。界面活性剤の最も好ましい範囲は1~18%である。
【0047】
ナノエマルジョンはまた、イオン化できる界面活性剤と相乗的に作用して界面張力を変化させ、ナノエマルジョン形成を可能にする補助界面活性剤を含み得る。
【0048】
補助界面活性剤は任意の薬学的に許容される界面活性剤であってもよく、限定はされないが、非イオン性界面活性剤、例えばポロクサマー(例えばポロクサマー188および407)、ポロキサミン、ステアリン酸ポリオキシエチレン、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルまたはソルビタン脂肪酸エステルが含まれ、イオン性界面活性剤、例えばコール酸およびデオキシコール酸またはその表面活性誘導体もしくは塩もまた使用され得る。補助界面活性剤はまた、オレイン酸、オレイン酸ナトリウム、コール酸、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸、デオキシコール酸ナトリウムおよびその混合物からなる群より選択され得る。アルコールは、外部水相中の補助界面活性剤または共溶媒としての使用に関して排除される。補助界面活性剤は、この開示のエマルジョン中に、組成物の0.01~30w/v%の範囲で存在する。界面活性剤対補助界面活性剤の比は、10:0.1~0.1:10、10:1~1:10、10:1~1:5、または5:1~1:5の範囲内である。
【0049】
水相の好ましい範囲は50~99%である。
【0050】
エマルジョン製剤はまた、医薬品、栄養補助食品、食品および化粧品用途のための活性成分(複数可)、キレート剤、抗酸化剤、浸透圧剤、懸濁剤、保存剤、および緩衝剤を含み得る。いくつかの実施形態では、エマルジョンはまた、溶解度向上剤(アルコールを除く)、キレート剤、保存剤、抗酸化剤、安定剤、懸濁剤、pH-調整剤または張度調整剤、例えばグリセロール、懸濁剤としてのポリマ、および甘味料、などを含み得る。安定剤はpH調整剤、抗クリーム状化剤もしくは消泡剤または安定性をナノエマルジョンに付与する作用物質であってもよい。
【0051】
ナノエマルジョン中の活性成分の量は0~50%であってよい。
【0052】
ナノエマルジョン中の活性成分以外の他の材料成分の量は0.5~50wt%であってよい。
【0053】
望ましいエマルジョンは<100ナノメートルの強度平均の平均滴サイズを有し、光学的に透明な(透明または半透明)安定な系である。好ましい強度平均の平均滴サイズは100nmナノメートル未満であり;最も好ましい強度平均滴サイズは75ナノメートル未満である。
【0054】
製造後および貯蔵中のエマルジョンの好ましいpH範囲はpH10未満である。pH調整剤は緩衝液または水酸化ナトリウムまたは他のpH調整剤またはその組み合わせであってよい。
【0055】
発明のエマルジョンは下記方法で調製できる:水相については、水が容器に分注され、約40~80℃まで加熱され、pHが1~10に調整される。油相については、油が別の容器に分注され、約40~80℃まで加熱される。界面活性剤および補助界面活性剤がその後、油に添加され、約40℃~約80℃まで加熱される。任意で、界面活性剤/補助界面活性剤が、水相に添加される。水相および油相はその後、高せん断ミキサにより一緒に混合され、粗エマルジョンが形成される。エマルジョンはその後、高圧ホモジナイザまたはマイクロフルダイザを用いて、約5000~30,000psiの圧力および約5℃~約70℃の温度範囲で、所望の滴サイズを有するナノエマルジョンが得られるまで超音波処理され、またはホモジナイズされる。pHは、水酸化ナトリウムなどのpH調整剤を用いて最終pHまで調整される。試料は濾過され、容器に分注され、しばしば窒素ガスで覆い、栓でキャップした。製品は無菌プロセスにより、または最終滅菌により製造される。好ましくは、用量単位は、オートクレーブ処理されて無菌で安定なエマルジョンが得られる。1つの実施形態では、エマルジョンは、121℃で15~20分間オートクレーブ処理された。別の実施形態では、エマルジョンは無菌で滅菌環境下にてオートクレーブなしで処理される。
【0056】
この発明の1つの実施形態は、ヒトまたは動物治療において使用するための、活性成分が添加されたナノエマルジョンを製造する方法であり、方法は、下記工程を含む:a)i)治療活性剤または他の作用物質を油中に添加し、混合して治療活性剤または他の作用物質を油相に溶解させる;ii)活性成分を含む油相を水相中に、超音波処理またはホモジナイズにより分散させ、ナノエマルジョンを形成させることにより調製される液体形態の油/水ナノエマルジョン組成物を提供する工程;ならびにb)前記ナノエマルジョン組成物をヒトまたは動物に投与する工程。
【0057】
この発明の1つの実施形態は、ヒトまたは動物治療において使用するための、活性成分が添加されたナノエマルジョンを製造する方法であり、上記方法は、下記工程を含む:a)i)油相を水相中に、超音波処理またはホモジナイズにより分散させ、ナノエマルジョンを形成させる;ii)治療活性剤または他の作用物質を工程a)からの油/水ナノエマルジョンに添加する、ならびにiii)混合して、治療活性剤または他の作用物質を油相中に溶解させることにより調製される液体形態の油/水ナノエマルジョン組成物を提供する工程;ならびにb)前記ナノエマルジョン組成物をヒトまたは動物に投与する工程。
【0058】
この発明の別の実施形態は、ヒトまたは動物治療において使用するための、活性成分が添加されたナノエマルジョンを製造する方法を提供することであり、上記方法は下記工程を含む:a)i)油相を水相中に分散させ、粗エマルジョンを形成させる;ii)治療活性剤または他の作用物質を工程i)からの油/水粗エマルジョンに添加する、およびiii)混合して、治療活性剤または他の作用物質を油相中に溶解/分散させる;iv)超音波処理またはホモジナイズにより液体形態の油/水ナノエマルジョンを得ることにより調製される液体形態の油/水粗エマルジョン組成物を提供する工程;ならびにb)前記ナノエマルジョン組成物をヒトまたは動物に投与する工程。
【0059】
発明を以下、非限定的な例により説明する。発明は本明細書で詳述される発明の実施形態および態様の組み合わせを含む。したがって、発明はまた、本明細書で記載される発明の実施形態および態様の個々の要素の組み合わせおよび部分的組み合わせを含む。発明の他の特徴、利点および実施形態は、下記記載、付随の実施例により当業者に明らかになるであろう。本明細書での開示は、当業者に知られているようそのような要素および方法に対するそのような変更および改変全てに向けられる。さらに、本明細書で同定され、説明されている実施形態は例示目的のためのものにすぎず、本発明のそれらの説明において排他的である、または制限されることは意味されない。当業者であれば、様々な変更および改変は、発明の精神からそれずに可能であることを理解するであろう。
【0060】
実施例1.大豆油を用いる、活性材料成分なしのナノエマルジョンの調製
【表1】
【0061】
全ての処理段階は、窒素下で実施される。
【0062】
水性水中油ナノエマルジョンは、下記の通りに調製される:
1.水相を注射用水から調製し、撹拌し、およそ60℃の温度まで加熱する。
2.水相を0.22ミクロンフィルタを通過させ、混合容器に入れる。
3.別に、油相を、0.22ミクロンフィルタを通過させた大豆油、ポリソルベート80、および卵レシチンから、容器内で調製する。混合物をおよそ60℃の温度で、全ての材料成分が溶解されるまで撹拌する。
4.混合物を水相に添加する。
5.この混合物をその後、高せん断ミキサ(ポリトロンPT3100)を用いて10,000rpmで5分間混合し、粗エマルジョンを得る。エマルジョンのpHを、6~9に調整する。
6.混合物をその後、高圧ホモジナイザ(APV2000)を用いて、5,000~30,000psiの範囲で、所望の粒子サイズに到達するまでホモジナイズする。
7.得られた水中油ナノエマルジョンを冷却し、必要に応じてpHを6-9に調整し、その後、充填容器中に移す。
8.エマルジョンをその後、0.22ミクロンフィルタを用いて濾過し、容器中に、窒素下で充填する。
【0063】
実施例2.大豆油の、活性薬物-シクロスポリンがロードされたナノエマルジョンの調製
【表2】
【0064】
全ての処理段階は、窒素下で実施される。
【0065】
水性水中油ナノエマルジョンは、下記の通りに調製される:
1.水相をグリセロール、および注射用水から調製する。この混合物を撹拌し、およそ60℃の温度まで加熱する。
2.水相を0.22ミクロンフィルタを通過させ、混合容器に入れる。
3.別に、油相を、0.22ミクロンフィルタを通過させた大豆油、シクロスポリン、ポリソルベート80、および卵レシチンから、容器内で調製する。混合物をおよそ60℃の温度で、全ての材料成分が溶解されるまで撹拌する。
4.混合物を水相に添加する。
5.この混合物をその後、高せん断ミキサ(ポリトロンPT3100)を用いて10,000rpmで5分間混合し、粗エマルジョンを得る。エマルジョンのpHを、6~9に調整する。
6.混合物をその後、高圧ホモジナイザ(APV2000)を用いて、5,000~30,000psiの範囲で、所望の粒子サイズに到達するまでホモジナイズする。
7.得られた水中油ナノエマルジョンを冷却し、必要に応じてpHを6~9に調整し、その後、充填容器中に移す。
8.エマルジョンをその後、0.22ミクロンフィルタを用いて濾過し、容器中に、窒素下で充填する。
【0066】
乾性角結膜炎(KCS)またはドライアイ症候群は目の乾燥により引き起こされる眼疾患であり、これは、今度は涙の産生の減少または涙膜蒸発の増加のいずれかにより引き起こされる。それはヒトおよびいくらかの動物において見出されている。KCSは人口の5~6%に影響する最も一般的な眼疾患である。有病率は、閉経後の女性において6~9.8%まで上昇し、高齢者では34%の高さである。涙膜過緊張性に応じて起こる炎症は、局所免疫抑制剤、例えばシクロスポリンにより抑制できる。したがって、例えばこの実施例および以下で記載される製剤は、涙の産生が乾性角結膜炎と関連する眼炎症により抑制されていると推定される患者において涙の産生を増加させるために使用され得る。
【0067】
実施例3.大豆油/中鎖トリグリセリドの、活性薬物-シクロスポリンがロードされたナノエマルジョンの調製
【表3】
【0068】
全ての処理段階は、窒素下で実施される。
【0069】
水性水中油ナノエマルジョンは、下記の通りに調製される:
1.水相をグリセロール、および注射用水から調製する。この混合物を撹拌し、およそ60℃の温度まで加熱する。
2.水相を0.22ミクロンフィルタを通過させ、混合容器に入れる。
3.別に、油相を、0.22ミクロンフィルタを通過させた大豆油および中鎖トリグリセリド(ミグリオール(Migloyol)812)、シクロスポリン、ポリソルベート80、および卵レシチンから、容器内で調製する。混合物をおよそ60℃の温度で、全ての材料成分が溶解されるまで撹拌する。
4.混合物を水相に添加する。
5.この混合物をその後、高せん断ミキサ(ポリトロンPT3100)を用いて10,000rpmで5分間混合し、粗エマルジョンを得る。エマルジョンのpHを、必要に応じて6~9に調整する。
6.混合物をその後、高圧ホモジナイザ(APV2000)を用いて5,000~30,000psiの範囲で、所望の粒子サイズに到達するまでホモジナイズする。
7.得られた水中油ナノエマルジョンを冷却し、必要に応じてpHを6~9に調整し、その後、充填容器中に移す。
8.エマルジョンをその後、0.22ミクロンフィルタを用いて濾過し、容器中に、窒素下で充填する。
【0070】
実施例4.実施例1からの希釈によるナノエマルジョンの調製
【表4】
【0071】
全ての処理段階は、窒素下で実施される。
【0072】
水性水中油ナノエマルジョンは、下記の通りに調製される:
1.実施例1からナノエマルジョン試料を得る
2.エマルジョンを精製水を用いて、1:3v/vの比で希釈し、よく混合する
3.希釈物のpHを必要に応じて6~9に調整し、よく混合する
4.エマルジョンをその後、0.22ミクロンフィルタを用いて濾過し、容器中に、窒素下で充填する。
【0073】
実施例5.実施例2からの希釈によるナノエマルジョンの調製
【表5】
【0074】
全ての処理段階は、窒素下で実施される。
【0075】
水性水中油ナノエマルジョンは、下記の通りに調製される:
1.実施例2からナノエマルジョン試料を得る
2.エマルジョンを、2.25%グリセロールを含む水溶液を用いて1:3v/vの比で希釈し、よく混合する
3.希釈物のpHを必要に応じて6~9に調整し、よく混合する
4.エマルジョンをその後、0.22ミクロンフィルタを用いて濾過し、容器中に、窒素下で充填する。
【0076】
実施例6.実施例3からの希釈によるナノエマルジョンの調製
【表6】
【0077】
全ての処理段階は、窒素下で実施される。
【0078】
水性水中油ナノエマルジョンは、下記の通りに調製される:
1.実施例3からナノエマルジョン試料を得る
2.エマルジョンを、2.25%グリセロールを含む精製水を用いて、1:3v/vの比で希釈し、よく混合する
3.希釈物のpHを必要に応じて6~9に調整し、よく混合する
4.エマルジョンをその後、0.22ミクロンフィルタを用いて濾過し、容器中に、窒素下で充填する。
【0079】
実施例7.大豆油およびレシチンを使用するエマルジョンの調製(比較例)
【表7】
【0080】
全ての処理段階は、窒素下で実施される。
【0081】
水性水中油エマルジョンは、下記の通りに調製される:
1.水相をグリセロール、および注射用水から調製する。この混合物を撹拌し、およそ60℃の温度まで加熱する。
2.水相を0.22ミクロンフィルタを通過させ、混合容器に入れる。
3.別に、油相を、0.22ミクロンフィルタを通過させた大豆油および卵レシチンから、容器内で調製する。混合物をおよそ60℃の温度で、全ての材料成分が溶解されるまで撹拌する。
4.混合物を水相に添加する。
5.この混合物をその後、高せん断ミキサ(ポリトロンPT3100)を用いて10,000rpmで5分間混合し、粗エマルジョンを得る。エマルジョンのpHを、6~9に調整する。
6.混合物をその後、高圧ホモジナイザ(APV2000)を用いて5,000-30,000psiの範囲で、粒子サイズがそれ以上低減しなくなるまでホモジナイズする。
7.得られた水中油ナノエマルジョンを冷却し、必要に応じてpHを6~9に調整し、その後、充填容器中に移す。
8.エマルジョンをその後、0.45ミクロンフィルタを用いて濾過し、容器中に、窒素下で充填する。
【0082】
実施例8.大豆油およびレシチンおよびポリソルベート80を使用するエマルジョンの調製
【表8】
【0083】
全ての処理段階は、窒素下で実施される。
【0084】
水性水中油エマルジョンを、実施例1のそれに従い調製する。上記発明により製造したエマルジョンの強度平均の平均粒子サイズは、動的光散乱計測器により68nm(D50)である。
【0085】
実施例9.大豆油およびレシチンおよびポリソルベート80を使用するエマルジョンの調製
【表9】
【0086】
全ての処理段階は、窒素下で実施される。
【0087】
水性水中油エマルジョンを、実施例1のそれに従い調製する。上記発明により製造したエマルジョンの強度平均の平均粒子サイズは、動的光散乱計測器により99nm(D50)である。
【0088】
実施例10.大豆油およびレシチンおよびポロクサマーF68を使用するエマルジョンの調製
【表10】
【0089】
全ての処理段階は、窒素下で実施される。
【0090】
水性水中油エマルジョンを、実施例1のそれに従い調製する。上記発明により製造したエマルジョンの強度平均の平均粒子サイズは、動的光散乱計測器により67nm(D50)である。
【0091】
実施例11.大豆油およびレシチンおよびポリソルベート80を使用するエマルジョンの調製
【表11】
【0092】
全ての処理段階は、窒素下で実施される。
【0093】
水性水中油エマルジョンを、実施例8によるナノエマルジョンをグリセロール溶液で希釈することにより調製する。上記発明により製造したエマルジョンの強度平均の平均粒子サイズは、動的光散乱計測器により67nm(D50)である。
【0094】
実施例12.大豆油およびレシチンおよびポロクサマーF68を使用するエマルジョンの調製
【表12】
【0095】
全ての処理段階は、窒素下で実施される。
【0096】
水性水中油エマルジョンを、実施例1のそれに従い調製する。上記発明により製造したエマルジョンの強度平均の平均粒子サイズは、動的光散乱計測器により89nm(D50)である。
【0097】
実施例13.大豆油およびレシチンおよびポロクサマーF68を使用するエマルジョンの調製
【表13】
【0098】
全ての処理段階は、窒素下で実施される。
【0099】
水性水中油エマルジョンを、実施例1のそれに従い調製する。上記発明により製造したエマルジョンの強度平均の平均粒子サイズは、動的光散乱計測器により75nm(D50)である。
【0100】
実施例14.マルバーンナノゼータサイザーによるナノエマルジョンサイズ分布のキャラクタリゼーション
単一卵レシチン界面活性剤を用いて調製したエマルジョン(実施例7)の粒子サイズ分布を再び、上記発明により調製したエマルジョン(実施例1)と比較した(
図1)。上記発明により製造したエマルジョンの強度平均の平均粒子サイズは約47nm(D50)であり、これは光学的に透明であり、半透明の外観を有し(
図2)、一方、大豆油および卵レシチン界面活性剤のみを用いて製造したもの(実施例7)は乳白色外観を有し、約177nm(D50)の強度平均の平均粒子サイズを有する。
【0101】
実施例15.LCT/レシチンおよびポリソルベート80を用いて製造したナノエマルジョンの安定性
レシチン/ポリソルベート80の組み合わせを用いて調製したエマルジョン(実施例1)の粒子サイズ分布を、40℃/75%RHで5ヶ月間貯蔵した後にモニタした(
図3)。粒子サイズの変化は安定後観察されなかった。エマルジョンはまた、安定貯蔵後、光学的半透明性を維持した。
【0102】
実施例16.LCT/レシチンおよびポリソルベート80を用いて製造し、活性成分をロードしたナノエマルジョンの安定性。
レシチン/ポリソルベート80の組み合わせおよび活性薬物シクロスポリンを用いて調製したエマルジョン(実施例2)の粒子サイズ分布を、40℃/75%RHで最大5ヶ月までの間貯蔵した後にモニタした(
図4)。粒子サイズにおける有意な変化は、安定後最大5ヶ月までの間観察されなかった。平均サイズは最初は38nmであり、40℃で5ヶ月後は45nmである。エマルジョンはまた、安定貯蔵後、光学的半透明性およびシクロスポリンの化学安定性を維持した。
【表14】
【0103】
実施例17.油混合物、レシチン、およびポリソルベート80を用いて製造し、活性成分をロードしたナノエマルジョンの安定性。
LCT/MCT/レシチン/ポリソルベート80の組み合わせおよび活性薬物シクロスポリンを用いて調製したエマルジョン(実施例3)の粒子サイズ分布を、40℃/75%RHおよび2~8℃で2ヶ月間貯蔵した後にモニタした(
図5)。粒子サイズの変化は安定後観察されなかった。エマルジョンはまた、安定貯蔵後、光学的半透明性を維持した。
【0104】
実施例18.LCT油、レシチン、およびポリソルベート80を用いて製造し、活性成分をロードしたナノエマルジョンの安定性
LCT/レシチン/ポリソルベート80の組み合わせおよび活性薬物シクロスポリンを用いて調製したエマルジョン(実施例5)の粒子サイズ分布を、制御された室温(約25℃)および冷蔵下(約2~8℃)で最大14ヶ月までの間貯蔵した後モニタした(
図6)。全ての平均粒子サイズが、安定後50nm未満であることが観察された。エマルジョンはまた、安定貯蔵後、光学的半透明性およびシクロスポリンに対する化学安定性を維持した。
【表15】