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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】モータ制御装置及びモータ制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/10 20060101AFI20240104BHJP
   H02P 23/04 20060101ALI20240104BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20240104BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
H02P6/10
H02P23/04
B62D6/00
B62D5/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019144345
(22)【出願日】2019-08-06
(65)【公開番号】P2021027714
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】天下谷 浩和
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-111788(JP,A)
【文献】特開2008-172983(JP,A)
【文献】特開2018-137985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/10
H02P 23/04
B62D 6/00
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータに流れる相電流を制御するモータ制御装置であって、
前記モータに流すべき相電流の目標値を設定する目標電流設定部と、
前記モータに流れる相電流値が前記目標値に追従するように前記モータをフィードバック制御するための指令値を生成するフィードバック制御部と、
前記モータの誘起電圧の高調波成分により前記相電流に発生する脈動を低減するように、前記誘起電圧に対する前記高調波成分の含有率である高調波含有率を含む補正量に基づいて前記指令値を補正する誘起電圧補償部と、
前記誘起電圧補償部で補正された前記指令値に基づいて前記モータの駆動を制御する駆動制御部と、
を備え、
前記誘起電圧補償部は、前記高調波含有率を前記目標値に応じて変更する、
ことを特徴とする、モータ制御装置。
【請求項2】
前記誘起電圧補償部は、
前記相電流値と前記高調波含有率との相関を示す相関情報が格納された格納部と、
前記目標値と前記相関情報とに基づいて、前記高調波含有率を求め、求めた前記高調波含有率に基づいて補正量を算出する補正量算出部と、
を備える、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記相関情報は、複数の電流値と前記電流値が相電流として前記モータに流れた場合の前記高調波含有率と、が前記電流値ごと対応付けられている情報マップであり、
前記補正量算出部は、前記目標値が示す電流値に対応する前記高調波含有率を前記情報マップから求め、求めた前記高調波含有率に基づいて補正量を算出する
ことを特徴とする、
請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記モータは、電動パワーステアリング装置用の電動モータである
ことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
モータに流れる相電流を制御するモータ制御装置のモータ制御方法であって、
前記モータに流すべき相電流の目標値を設定するステップと、
前記モータに流れる相電流値が前記目標値に追従するように前記モータをフィードバック制御するための指令値を生成する第1のステップと、
前記モータの誘起電圧の高調波成分により前記相電流に発生する脈動を低減するように、前記誘起電圧に対する前記高調波成分の比である高調波含有率を含む補正量に基づいて前記指令値を補正する第2のステップと、
前記第2のステップで補正された前記指令値に基づいて前記モータの駆動を制御する第3のステップと、
を含み、
前記第2のステップは、前記高調波含有率を前記目標値に応じて変更する第4のステップを含む
ことを特徴とする、モータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置及びモータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、モータの誘起電圧の高調波成分により発生するトルクリップルを打ち消すために、高調波成分の高調波含有率を含む補正量を算出し、その算出した補正量を用いて、モータを制御するための電圧指令値を補正するモータ制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5574790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の高調波含有率は定数として設定されている。しかしながら、誘起電圧に含まれる高調波成分は、モータに流れる相電流の大きさ(相電流値)に対して一定ではなく、モータに流れる相電流値に対して変化する場合がある。したがって、高調波含有率を定数として設定した場合には、トルクリップルを十分に低減できない場合が起こり得るという課題があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、相電流値が変化した場合であっても、トルクリップルを低減できることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、モータに流れる相電流を制御するモータ制御装置であって、前記モータに流れる相電流値が目標値になるように前記モータを駆動させるための指令値を生成するフィードバック制御部と、前記モータの誘起電圧の高調波成分により前記相電流に発生する脈動を低減するように、前記誘起電圧に対する前記高調波成分の含有率である高調波含有率を含む補正量に基づいて前記指令値を補正する誘起電圧補償部と、前記誘起電圧補償部で補正された前記指令値に基づいて前記モータの駆動を制御する駆動制御部と、を備え、前記誘起電圧補償部は、前記高調波含有率を前記目標値に応じて変更する、ことを特徴とする、モータ制御装置である。
【0007】
上記構成において、前記誘起電圧補償部は、前記相電流値と前記高調波含有率との相関を示す相関情報が格納された格納部と、前記目標値と前記相関情報とに基づいて、前記高調波含有率を求め、求めた前記高調波含有率に基づいて補正量を算出する補正量算出部と、を備えてもよい。
【0008】
上記構成において、前記相関情報は、複数の電流値と前記電流値が相電流として前記モータに流れた場合の前記高調波含有率と、が前記電流値ごと対応付けられている情報マップであり、前記補正量算出部は、前記目標値が示す電流値に対応する前記高調波含有率を前記情報マップから求め、求めた前記高調波含有率に基づいて補正量を算出してもよい。
【0009】
上記構成において、モータは、電動パワーステアリング装置用の電動モータであってもよい。
【0010】
本発明の一態様は、モータに流れる相電流を制御するモータ制御装置のモータ制御方法であって、前記モータに流れる相電流値が目標値になるように前記モータを駆動させるための指令値を生成する第1のステップと、前記モータの誘起電圧の高調波成分により前記相電流に発生する脈動を低減するように、前記誘起電圧に対する前記高調波成分の比である高調波含有率を含む補正量に基づいて前記指令値を補正する第2のステップと、前記誘起電圧補償部で補正された前記指令値に基づいて前記モータの駆動を制御する第3のステップと、を含み、前記第2のステップは、前記高調波含有率を前記目標値に応じて変更する第4のステップを含むことを特徴とする、モータ制御方法である。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、相電流値が変化した場合であっても、トルクリップルを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係るモータ制御装置を備えた電動パワーステアリング装置1の概略構成である。
図2】本実施形態に係る誘起電圧補償部13の機能部を説明する図である。
図3】本実施形態に係る高調波含有率hと相電流との関係を説明する図である。
図4】本実施形態に係る高調波含有率決定マップを説明する図である。
図5】本実施形態に係るモータ制御装置5の動作の流れを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施形態に係るモータ制御装置5及びモータ制御方法を、図面を用いて説明する。
【0014】
図1は、本実施形態に係るモータ制御装置を備えた電動パワーステアリング装置1の概略構成の一例を示す図である。
【0015】
電動パワーステアリング装置1は、車両に搭載される。電動パワーステアリング装置1は、運転者等によって操舵用のステアリングハンドルに加わる操舵トルクをトルクセンサ2で検出し、その検出した操舵トルクに応じた操舵アシスト力をモータ3により発生させることで運転者の操舵をアシストする装置である。
【0016】
図1に示すように、電動パワーステアリング装置1は、トルクセンサ2、モータ3、回転角検出部4及びモータ制御装置5を備える。
【0017】
トルクセンサ2は、ステアリングハンドルに接続されているステアリングシャフトに設けられている。トルクセンサ2は、ステアリングシャフトに発生する操舵トルクを検出することで、ステアリングハンドルに加わる操舵トルクFを検出する。そして、トルクセンサ2は、検出した操作トルクFをモータ制御装置5に出力する。
【0018】
モータ3は、モータ制御装置5に回転が制御される。本実施形態のモータ3は、電動パワーステアリング装置用の電動モータである。ただし、これに限定されず、モータ3は、電動パワーステアリング装置用に限らず、車両に用いられる電動モータであればよい。
モータ3は、回転することによってトルクセンサ2で検出された操舵トルクFに応じた操舵アシスト力をステアリングシャフトに付与する。これにより、運転者のステアリング操作が補助され、当該運転者の労力負担が軽減される。本実施形態では、モータ3が3相(U、V、W)のブラシレスモータである場合について説明する。
【0019】
モータ3は、永久磁石を有するロータと、3相(U、V、W)それぞれに対応するコイルLu、Lv、Lwがロータの回転方向に順に巻装されているステータとを備えている。各相のコイルLu、Lv、Lwのそれぞれは、モータ制御装置5に接続されている。
【0020】
回転角検出部4は、モータ3に設けられている。回転角検出部4は、モータ3のロータの回転位置を示す電気角θを検出する。例えば、回転角検出部4は、レゾルバ又はホールICを備えた磁気式のロータリエンコーダである。回転角検出部4は、検出した電気角θをモータ制御装置5に出力する。
【0021】
モータ制御装置5は、トルクセンサ2で検出された操舵トルクFに応じてモータ3の回転を制御する。以下、本実施形態に係るモータ制御装置5の構成について説明する。
【0022】
モータ制御装置5は、電源部6、駆動部7、電流計測部8、及び制御部9を備える。
【0023】
電源部6は、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池といった二次電池を用いることができる。また、電源部6は、二次電池の代わりに、電気二重層キャパシタ(コンデンサ)を用いることもできる。本実施形態の電源部6は、車両内に設けられたバッテリである。
なお、電源部6の出力電圧は、バッテリ電圧VBとする。
【0024】
駆動部7は、複数のスイッチング素子SWUH~SWWL(SWUH,SWUL,SWVH,SWVL,SWWH,SWWL)を有するインバータである。例えば、駆動部7は、いわゆる正弦波インバータである。駆動部7は、前記スイッチング素子のオンとオフとをPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)制御することで電源部6からの直流電流を交流電流(相電流)に変換してモータ3に出力する。これにより、モータ3が駆動する。なお、本実施形態では、6つのスイッチング素子SWUH~SWWLがn型チャネルのFET(Field Effective Transistor)である場合について説明するが、これに限定されず、例えば、IGBT(Insulated gate bipolar transistor)、及びBJT(bipolar junction transistor)であってもよい。
【0025】
具体的には、直列に接続されたスイッチング素子SWUH,SWULと、直列に接続されたスイッチング素子SWVH,SWVLと、直列に接続されたスイッチング素子SWWH,SWWLとは、電源部6の高電位(出力)側と、接地電位との間に並列に接続されている。
【0026】
スイッチング素子SWUHのドレイン端子は、電源部6の出力端子に接続されている。スイッチング素子SWULのソース端子は、GND(グランド)に接続されている。スイッチング素子SWUHのソース端子と、スイッチング素子SWULのドレイン端子との接続点N1は、コイルLuの一端に接続されている。
【0027】
スイッチング素子SWVHのドレイン端子は、スイッチング素子SWUHのドレイン端子に接続されている。スイッチング素子SWVLのソース端子は、GND(グランド)に接続されている。スイッチング素子SWVHのソース端子と、スイッチング素子SWVLのドレイン端子との接続点N2は、コイルLvの一端に接続されている。
【0028】
スイッチング素子SWWHのドレイン端子は、スイッチング素子SWUHのドレイン端子に接続されている。スイッチング素子SWWLのソース端子は、GND(グランド)に接続されている。スイッチング素子SWWHのソース端子と、スイッチング素子SWWLのドレイン端子との接続点N3は、コイルLwの一端に接続されている。
【0029】
また、各スイッチング素子SWUH~SWWLは、ゲート端子が制御部9に接続されている。
【0030】
電流計測部8は、電動モータMが有するU相巻線Lu、V相巻線Lv、及びW相巻線Lwのそれぞれに流れる相電流を計測する。そして、電流計測部8は、計測したU相電流の電流値であるU相電流値Iu、V相電流の電流値であるV相電流値Iv、W相電流の電流値であるW相電流値Iwのそれぞれを制御部9に出力する。本実施形態では、電流計測部8は、複数の電流センサ8a~8cを備える。電流センサ8aは、スイッチング素子SWULのソース端子とグランドとの間に設けられている。電流センサ8bは、スイッチング素子SWVLのソース端子とグランドとの間に設けられている。電流センサ8cは、スイッチング素子SWWLのソース端子とグランドとの間に設けられている。なお、電流センサ8a~8cは、電流を計測できれば特に限定されないが、例えば、シャント抵抗であってもよいし、カレントトランスであってもよい。さらに、電流計測部8は、駆動部7とモータ3とを接続する接続線に設けられてもよい。
【0031】
次に、本実施形態に係る制御部9の構成について説明する。
【0032】
本実施形態に係る制御部9は、目標dq軸電流設定部10、三相-二軸変換部11、フィードバック制御部12、誘起電圧補償部13、二軸-三相変換部14、及び駆動制御部15を備える。
【0033】
目標dq軸電流設定部10は、トルクセンサ2から操舵トルクFを取得する。また、目標dq軸電流設定部10は、回転角検出部4から電気角θを取得する。そして、目標dq軸電流設定部10は、取得した操舵トルクFと電気角θとに応じて、d軸電流の目標値である目標d軸電流値Idrefと、q軸電流の目標値である目標q軸電流値Iqrefと、を設定する。目標dq軸電流設定部10は、目標d軸電流値Idref及び目標q軸電流値Iqrefをフィードバック制御部12に出力する。また、目標dq軸電流設定部10は、目標q軸電流値Iqrefを誘起電圧補償部13に出力する。
【0034】
三相-二軸変換部11は、電流計測部8から取得したU相電流値Iu、V相電流値Iv及びW相電流値Iwを、回転角検出部4から取得した電気角θを用いて、d軸の電流値であるd軸電流値Id及びq軸の電流値であるq軸電流値Iqに変換する。なお、U相電流値Iu、V相電流値Iv及びW相電流値Iwからd軸電流値Id及びq軸電流値Iqへの変換には、例えば、以下に示す式(1)及び式(2)が用いられる。
【0035】
Id=√(2/3)×(-Iu×cosθ-Iv×cos(θ-2π/3)-Iw×cos(θ-4π/3)) …(1)
Iq=√(2/3)×(Iu×sinθ+Iv×sin(θ-2π/3)+Iw×sin(θ-4π/3)) …(2)
【0036】
三相-二軸変換部11は、変換したd軸電流値Id及びq軸電流値Iqをフィードバック制御部12に出力する。
【0037】
フィードバック制御部12は、目標dq軸電流設定部10から取得した目標d軸電流値Idrefと、三相-二軸変換部11から取得したd軸電流値Idとの偏差Δdに対してPI演算を実行することで、偏差Δdをゼロに近づけるためのd軸の電圧であるd軸電圧指令値Vdを算出する。また、フィードバック制御部12は、目標dq軸電流設定部10から取得した目標q軸電流値Iqrefと、三相-二軸変換部11から取得したq軸電流値Iqとの偏差Δqに対してPI演算を実行することで、偏差Δqをゼロに近づけるためのq軸の電圧であるq軸電圧指令値Vqを算出する。フィードバック制御部12は、算出したd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを誘起電圧補償部13に出力する。
【0038】
誘起電圧補償部13は、モータ3の誘起電圧の高調波成分により発生するトルクリップルを低減するために、d軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを補正することで、上記誘起電圧の高調波成分を補償する。なお、以下の説明において、d軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを補正することで誘起電圧の高調波成分を補償することを、「誘起電圧補償」を称する場合がある。
【0039】
具体的には、図2に示すように、誘起電圧補償部13は、補正量算出部20、電圧指令値補正部21及び格納部22を備える。
【0040】
補正量算出部20は、誘起電圧補償を行うにあたって、d軸電圧指令値Vdを補正するための補正量(以下、「d軸補正量」という。)Cdと、q軸電圧指令値Vqを補正するための補正量(以下、「q軸補正量」という。)Cqと、を算出する。なお、本実施形態では、d軸補正量及びq軸補正量の算出には、以下に示す式(3)及び式(4)が用いられる。なお、補正量算出部20は、回転角検出部4から電気角θを取得する。
【0041】
Cd=ω・G・(-h5-h7)・sin6θ …(3)
Cq=ω・G・(h1+(h7-h5)・cos6θ) …(4)
【0042】
ここで、ωは角速度であって、制御部9(例えば、誘起電圧補償部13)により算出される。Gは、速度起電力定数である。h1は、誘起電圧に対する1次の高調波成分の含有率であり、「1」として設定されている。h5は、誘起電圧に対する5次の高調波成分の含有率(5次高調波含有率)であり、固定値ではなく、目標q軸電流値Iqrefに応じて変動する変動値である。h7は、誘起電圧に対する7次の高調波成分の含有率(7次高調波含有率)であり、固定値ではなく、目標q軸電流値Iqrefに応じて変動する変動値である。なお、5次の高調波成分のみ補償する場合には、h7=「0」に設定される。さらに、5次及び7次以外のn次の高調波成分を補償する場合には、n次の高調波成分の含有率を式(3)及び式(4)に含めてもよい。その場合においても、n次の高調波成分の含有率は、上記と同様に、目標q軸電流値Iqrefに応じて変動する変動値とする。本実施形態では、5次及び7次の高調波成分を補償する場合について説明する。また、5次高調波含有率h5及び7次高調波含有率h7のそれぞれを区別しない場合には、単に「高調波含有率h」を称する。
【0043】
補正量算出部20は、目標q軸電流値Iqrefに応じた5次高調波含有率h5を求める。また、誘起電圧補償部13は、目標q軸電流値Iqrefに応じた7次高調波含有率h7を求める。
より具体的には、補正量算出部20は、相電流値と高調波含有率h1との相関を示す相関情報を基づいて、目標q軸電流値Iqrefから5次高調波含有率h5を求める。同様に、補正量算出部20は、相電流値と高調波含有率h7との相関を示す相関情報を基づいて、目標q軸電流値Iqrefから7次高調波含有率h7を求める。
【0044】
ここで、図3に示すように、モータ3の誘起電圧に含まれる高調波含有率hは、モータ3に流れる相電流の大きさ(相電流値)に対して一定ではなく、その相電流値に対して非線形に変化するという相関が存在する。
【0045】
したがって、本実施形態に係る高調波含有率hは定数ではなく、上記相関に応じて変動する変動値として求める。上記相関は、予め実験等によって定められており、その相関の情報である上記相関情報が格納部22に格納されている。ただし、相電流値の実電流であるd軸電流値Idやq軸電流値Iqには、誘起電圧の高調波成分によって6次の脈動成分が含まれており、当該実電流から高調波含有率hを求めるとその脈動成分によって高調波含有率hに大きな誤差が生じる。そこで、制御部9が相電流値を目標値に追従するようにフィードバック制御を行っていることから、補正量算出部20は、当該目標値の同一電流がモータ3に流れているとして、目標値(目標q軸電流値Iqref)に対する高調波含有率hを相関情報から求める。換言すれば、上記相関情報は、相電流値の目標値と高調波含有率との相関を示す情報である。これにより、補正量算出部20は、6次の脈動成分の影響を排除するとともに、フィードバック制御によって相電流値が変化した場合であっても最適な高調波含有率hを求めることができる。
【0046】
補正量算出部20は、5次高調波含有率h5と7次高調波含有率h7を求めると、角速度ω、電気角θを更に用いて、上記式(3)及び式(4)からd軸補正量及びq軸補正量を算出する。
【0047】
電圧指令値補正部21は、補正量算出部20からd軸補正量及びq軸補正量を取得する。そして、電圧指令値補正部21は、以下に示す式(5)に示すように、d軸電圧指令値Vdにd軸補正量Cdを加算することでd軸電圧指令値Vdを補正する。また、誘起電圧補償部13は、以下に示す式(6)に示すように、q軸電圧指令値Vqにq軸補正量Cqを加算することでq軸電圧指令値Vqを補正する。
なお、以下において、補正後のd軸電圧指令値Vdを「d軸電圧指令値Vd´」、補正後のq軸電圧指令値Vqを「q軸電圧指令値Vq´」と称する。
【0048】
Vd´=Vd+Cd …(5)
Vq´=Vq+Cq …(6)
【0049】
電圧指令値補正部21は、補正したd軸電圧指令値Vd´及びq軸電圧指令値Vq´を二軸-三相変換部14に出力する。
【0050】
格納部22には、相関情報として、目標q軸電流値Iqrefから高調波含有率hを決定するための高調波含有率決定マップ(情報マップ)が格納されている。高調波含有率決定マップは、複数の電流値Ixと、その電流値Ixが相電流としてモータに流れた場合の高調波含有率hとが電流値Ixごとに対応付けられている。そして、電流値Ixは、目標q軸電流値Iqrefに相当する。高調波含有率決定マップは、テーブル形式であってよいし、計算式であってもよい。
【0051】
高調波含有率決定マップは、図4(a)及び図4(b)に示すように目標q軸電流値Iqrefによって高調波含有率hが連続的に変化するようになっていてもよいし、図4(c)に示すように目標q軸電流値Iqrefによって高調波含有率hが階段状に不連続に変化するようになっていてもよい。高調波含有率決定マップは実験によって決定されてもよい。さらに、高調波含有率決定マップは、複数の高調波含有率hのそれぞれに対応して複数設けられてもよい。すなわち、格納部22には、複数の高調波含有率に対応して、複数の高調波含有率決定マップが格納されていてもよい。例えば、格納部22には、目標q軸電流値Iqrefから5次高調波含有率h5を決定するための第1高調波含有率決定マップと、目標q軸電流値Iqrefから7次高調波含有率h7を決定するための第2高調波含有率決定マップとが格納されてもよい。
【0052】
二軸-三相変換部14は、誘起電圧補償部13から出力されたd軸電圧指令値Vd´及びq軸電圧指令値Vq´を、回転角検出部4から取得した電気角θを用いて、UVW相の各相の電圧指令値であるU相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv、及びW相電圧指令値Vwに変換する。なお、d軸電圧指令値Vd´及びq軸電圧指令値Vq´からU相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv、及びW相電圧指令値Vwへの変換には、以下に示す式(7)から式(9)が用いられる。
【0053】
Vu=-Vd´×cosθ+Vq´×sinθ …(7)
Vv=-Vd´×cos(θ-2π/3)+Vq´×sin(θ-2π/3) …(8)
Vw=-Vd´×cos(θ-4π/3)+Vq´×sin(θ-4π/3) …(9)
【0054】
二軸-三相変換部14は、変換したU相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv、及びW相電圧指令値Vwを駆動制御部15に出力する。
【0055】
駆動制御部15は、二軸-三相変換部14から取得したU相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv、及びW相電圧指令値Vwにそれぞれ対応するデューティ比を示すPWM信号を生成する。そして、駆動制御部15は、生成したPWM信号に基づいて、スイッチング素子SWUH~SWWLのオン状態又はオフ状態に切り替える。
【0056】
次に、本実施形態に係るモータ制御装置5の動作の流れを、図5を用いて説明する。図5は、本実施形態に係るモータ制御装置5の動作の流れを説明する図である。
【0057】
制御部9は、トルクセンサTから操舵トルクFを取得すると(ステップS101)、その取得した操作トルクFに応じて目標d軸電流値Idrefと目標q軸電流値Iqrefとを設定する(ステップS102)。
制御部9は、電流計測部8が計測したU相電流値Iu、V相電流値Iv及びW相電流値Iwをd軸電流値Id及びq軸電流値Iqに変換する(ステップS103)。そして、制御部9は、目標d軸電流値Idrefと、d軸電流値Idとの偏差Δdに対してPI演算を実行することで、偏差Δdをゼロに近づけるためのd軸電圧指令値Vdを算出する。また、フィードバック制御部12は、目標q軸電流値Iqrefとq軸電流値Iqとの偏差Δqに対してPI演算を実行することで偏差Δqをゼロに近づけるためのq軸電圧指令値Vqを算出する(ステップS104)。
【0058】
次に、制御部9の補正量算出部20は、トルクに起因する電流であるq軸電流の目標値の目標q軸電流値Iqrefと、格納部22に格納されている相関情報とに基づいて、高調波含有率hを求め(ステップS105)、求めた高調波含有率hに基づいてd軸補正量Cd及びq軸補正量Cqを求める(ステップS106)。例えば、補正量算出部20は、目標q軸電流値Iqrefに対する高調波含有率hを高調波含有率決定マップから求め、その求めた高調波含有率hに基づいてd軸補正量Cd及びq軸補正量Cqを求める。例えば、補正量算出部20は、高調波含有率決定マップを読み出して、その読み出した高調波含有率決定マップに対して目標q軸電流値Iqrefを入力することで高調波含有率hを求める。そして、補正量算出部20は、高調波含有率hを用いてd軸補正量Cd及びq軸補正量Cqを求める。
【0059】
電圧指令値補正部21は、補正量算出部20がd軸補正量及びq軸補正量を求めると、d軸電圧指令値Vdにd軸補正量Cdを加算し、q軸電圧指令値Vqにq軸補正量Cqを加算することでd軸電圧指令値Vd´及びq軸電圧指令値Vq´を求める(ステップS107)。
その後、制御部9は、d軸電圧指令値Vd´及びq軸電圧指令値Vq´をU相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv、及びW相電圧指令値Vwに変換して、変換したU相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv、及びW相電圧指令値VwからPWM信号を生成する(ステップS108)。そして、制御部9は、生成したPWM信号に基づいてスイッチング素子SWUH~SWWLをPWM制御することでモータ3の回転を制御する(ステップS109)。これにより、モータ制御装置5は、ステアリングハンドルに対して操舵アシスト力を発生させることで運転者の操舵をアシストすることができる。
【0060】
次に、本実施形態に係る作用効果について説明する。
3相(U、V、W)のブラシレスモータであるモータ3の誘起電圧には、5次や7次の高調波成分が含まれており、これらの高調波成分が外乱となり、実電流(d軸電流値Idやq軸電流値Iq)に6次の脈動となって表れる。実電流の6次の脈動は、電流フィードバック制御の外乱となり、ステップ応答性の低下や周波数特性の低下、およびトルクリプル低減の制御性の低下を引き起こす。そのため、誘起電圧補償を行って実電流の脈動を低減し、期待通りの電流を流せるようにする必要がある。
【0061】
ここで、モータ3が1相である場合を考えると、モータ3の電圧方程式は、以下の式(10)で表せる。なお、eが誘起電圧、Lがモータ3のインダクタンス、Vがモータ3に印加される電圧、Rがモータ3の巻線の抵抗、Iが相電流値を示す。
【0062】
V-e = I(Ls + R)
I = V-e/(Ls+R) …(10)
【0063】
定常状態とすれば、式(10)に示した分母(Ls+R)は一定である。したがって、相電流Iは、印加電圧Vと誘起電圧eとの差に比例する。したがって、Vが正弦波で、eが高調波を含む正弦波である場合には、相電流Iにはeの高調波成分が現れることになる。したがって、あらかじめVにeと同じ量の高調波成分を重畳(誘起電圧補償)すれば、相電流Iには高調波成分は現れない。
ただし、モータ3の誘起電圧に含まれる高調波成分は、相電流に対して一定値ではなく、相電流値に対して非線形に変化する場合がある。そのため、高調波含有率を一定とすると、重畳させる補正量が足りない場合や大きすぎる場合があり、いわゆる過補償や補償不足が引き起こされる。
【0064】
そこで、本実施形態に係るモータ制御装置5は、上記補正量の算出に用いられる高調波含有率を相電流値に対して適宜変更する。ただし、この相電流値は、実電流(q軸電流値Iq)ではなく、目標q軸電流値Iqrefを用いる。これは、実電流に上述した脈動が含まれているためである。これにより、モータ制御装置5は、モータ3に流れる相電流の電流値が変化しても過補償と補償不足となることを抑制し、実電流の脈動の低減効果を維持できる。その結果、モータ制御装置5は、トルクリプルを低減することができる。
【0065】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0066】
例えば、上記実施形態の補正量算出部20は、d軸補正量及びq軸補正量を求めるにあたって、上記式(3)及び式(4)に代入する電気角θを調整してもよい。具体的には、補正量算出部20は、d軸補正量及びq軸補正量を求めるにあたって、上記式(3)及び式(4)に代入する電気角θが実際の電気角θrとを一致させるように電気角θの値を変更してもよい。これにより、誘起電圧補償部13は、位相誤差をなくした状態でd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqに対して補正量を重畳させることができ、トルクリップをさらに低減させることができる。
【0067】
なお、上述した制御部9の全部または一部をコンピュータで実現するようにしてもよい。この場合、上記コンピュータは、CPU、GPUなどのプロセッサ及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えてもよい。そして、上記制御部9の全部または一部の機能をコンピュータで実現するためのプログラムを上記コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムを上記プロセッサに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。ここで、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 電動パワーステアリング装置
2 トルクセンサ
3 モータ
4 回転角検出部
5 モータ制御装置
6 電源部
7 駆動部
8 電流計測部
9 制御部
12 フィードバック制御部
13 誘起電圧補償部
15 駆動制御部
20 補正量算出部
21 電圧指令値補正部
22 格納部
図1
図2
図3
図4
図5