(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】紙コップ用原紙
(51)【国際特許分類】
D21H 19/10 20060101AFI20240104BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240104BHJP
B32B 27/10 20060101ALI20240104BHJP
B32B 29/00 20060101ALI20240104BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240104BHJP
B65D 65/46 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
D21H19/10 Z
B32B27/00 H
B32B27/10
B32B29/00
B65D65/40 D
B65D65/46
(21)【出願番号】P 2019171154
(22)【出願日】2019-09-20
【審査請求日】2022-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】目黒 章久
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-520671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 11/00 - 27/42
B32B 1/00 - 43/00
B65D 65/00 - 65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも1層以上のヒートシール層を有する紙コップ用原紙であって、前記ヒートシール層がアイオノマーを含み、前記ヒートシール層の乾燥塗工量が全層で2~10g/m
2であり、前記紙コップ用原紙の坪量が80g/m
2~400g/m
2であり、前記紙コップ用原紙の横方向のテーバー曲げ抵抗(JIS P-8125-2)が1mN・m~10mN・mであ
り、前記紙コップ用原紙の水分が3%~10%であることを特徴とする前記紙コップ用原紙。
【請求項2】
紙コップ用原紙の坪量が180g/m
2
~300g/m
2
であることを特徴とする、請求項1に記載の紙コップ用原紙。
【請求項3】
前記紙コップ
用原紙の比容が0.8~1.8cm
3/gであることを特徴とする、請求項1または2に記載の紙コップ用原紙。
【請求項4】
前記紙基材がパルプを主成分とし、当該パルプの叩解度がカナダ標準ろ水度(フリーネス)(JIS P 8121:1995「パルプのろ水度試験方法」)で、350~420mlCSFであることを特徴とする、請求項1~
3のいずれか一つに記載の紙コップ用原紙。
【請求項5】
前記紙基材がパルプを主成分とし、パルプとして針葉樹パルプのみを含むか、または、全パルプ中、針葉樹パルプを50~95質量部および広葉樹パルプを5~50質量部含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一つに記載の紙コップ用原紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックの使用量を低減した紙コップ用原紙に関する。また、加工適性に優れた紙コップ用原紙に関する。特に、ヒートシール性及びトップカール加工適性に優れる紙コップ用原紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックゴミ問題が深刻化している。世界のプラスチックの生産量は4億トン/年を超えると言われ、その中でも包装容器セクターでのプラスチック生産量が多く、プラスチックゴミの原因になっている。プラスチックは半永久的に分解せず、そのゴミは自然環境下でマイクロプラスチック化し、生態系に深刻な悪影響を与えている。包装容器に使用されるプラスチックとしては、飲料用コップや、飲料のボトル等に使用されるポリエチレンテレフタレート(PET)、レジ袋、容器のラミネートに使用されるポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)が最も多く使用されている。特に海洋の汚染は著しく、そのプラスチックゴミは回収不可能と言われている。今後、プラスチックの使用を低減することが地球環境にとって必要である。
【0003】
一方で、プラスチックゴミ対策として微生物によって完全に分解され得る生分解性プラスチックの応用が世界中で提案されている。生分解プラスチックは自然界で一定期間の内に分解されるが、分解されるまではやはりゴミであり、それらの使用量及び廃棄量が低減されない限りにおいては、即効性のある対策とは言えない(特許文献1、2参照)。
【0004】
即効性のある対策手段として、例えば、プラスチックを紙に代替することが提案されており、紙コップにおいても広く使用されている。しかしながら、紙を紙コップに加工する際には、ヒートシール剤として、ポリエチレンやポリプロピレンが多量にラミネートされて使用される。これらプラスチックのラミネート量は、商品コンセプトによって様々だが、概ね20~50g/m2であり、300g/m2と多量になる場合もある。従って、プラスチックを紙に代替した紙コップにおいても、依然としてプラスチックの使用量は十分に低減されないという問題があり、早急に、直接的にプラスチックの使用を低減する手段が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-148444号公報
【文献】特開2013-141763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、プラスチックの使用量を低減することができ、特に、ヒートシール性及びトップカール加工適性を有する紙コップ用原紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、従来のプラスチックラミネート紙(以降、ポリラミ紙と略称する場合がある)のポリエチレンやポリプロピレンの使用量を低減するために、アイオノマーを使用する。すなわち、本発明による紙コップ用原紙は、紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも一層以上のヒートシール層を有する紙コップ用原紙であって、前記ヒートシール層がアイオノマーを含み、前記ヒートシール層の塗工量が2~10g/m2であることを特徴とする。従来のポリラミ紙のヒートシール層に使用されているポリエチレンやポリプロピレンのラミネート量が20g/m2を超えることと比較すると、ヒートシール層用のプラスチックの使用量を従来の約10~50%にまで削減することができる。ここでアイオノマーとは、金属イオンによる凝集力を利用し高分子を凝集体とした合成樹脂であり、アクリル酸またはメタクリル酸をエチレンなどと組み合わせた合成樹脂である。例えば、アクリル系高分子とエチレンを、ナトリウムや亜鉛などの金属カチオンを加え分子間結合させて製造される。
【0008】
また、本発明においては、前記紙コップ用原紙の横方向のテーバー曲げ抵抗(JIS P-8125-2)が1mN・m~10mN・mである。アイオノマーのホットタックがポリエチレンより低いので、前記テーバー曲げ抵抗が10mN・mを超えると、ヒートシール時に接着不良が生じる(一旦接着しても紙の剛性で接着部が剥がれてしまう)。また1mN・m未満では、紙コップとして軟らかすぎる。
【0009】
また、坪量が80g/m2~400g/m2であることが好ましい。これにより、特に紙コップ(アイスクリーム用の紙カップも含む)の加工時のトップカール割れが生じにくくなる。
【0010】
前記紙コップ原紙の比容が0.8~1.8cm3/gであることが好ましい。この範囲であれば、紙コップとして適切な曲げ抵抗の用紙を得ることができ、これにより、特に紙コップ(アイスクリーム用の紙カップも含む)の加工時のトップカール割れが生じにくくなる。
【0011】
前記紙コップ原紙の縦の引張り破断伸び率(JIS P-8113)が1%以上であることが好ましい。トップカール割れが起こりやすい。これにより、特に紙コップ(アイスクリーム用の紙カップも含む)の加工時のトップカール割れが生じにくくなる。
【0012】
本発明の前記紙コップ原紙においては、前記紙基材がパルプを主成分とし、当該パルプの叩解度がカナダ標準ろ水度(フリーネス)(JIS P 8121:1995「パルプのろ水度試験方法」)で、350~420mlCSFであることが好ましい。この範囲であれば、紙コップとして適切な曲げ抵抗の用紙を得ることができ、これにより、特に紙コップ(アイスクリーム用の紙カップも含む)の加工時のトップカール割れが生じにくくなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、プラスチック使用量が低減された紙コップ用原紙を製造することが可能である。本発明の紙コップ用原紙であれば、仮に自然界にゴミとして不適切に放出された場合であっても、自然環境に与えるプラスチックゴミとしての悪影響を小さくすることが可能であり、プラスチックゴミ問題の解決の一助となる。なお、本発明における紙コップ用原紙は、例えば、ホット・アイス飲料用の紙コップ、アイスクリーム等の食糧カップ、ホットスナック等の食糧用カップとして優れる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0015】
本実施形態において、アイオノマーとは、金属イオンによる凝集力を利用し高分子を凝集体とした合成樹脂の総称であり、アクリル酸またはメタクリル酸をエチレンなどと組み合わせた樹脂である。すなわち、エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩、エチレン・アクリル系共重合物の金属塩、エチレン・ウレタン系共重合物の金属塩、エチレン・フッ素系高分子共重合物の金属塩、などは全てアイオノマーと呼ばれる。塩を形成する金属としては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、具体的には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛の各イオンなどである。本発明においては、前記アイオノマーがエチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩である自己乳化型エマルジョンであることが好ましい。ヒートシール層の塗工量が比較的少なくとも、十分なヒートシール強度を有するヒートシール層を設けることができる。
【0016】
本実施形態においては、紙基材の少なくとも一方の面に、アイオノマーエマルジョンを含有するヒートシール層用塗工液を塗工し、乾燥することでヒートシール層を設けることができる。アイオノマーエマルジョンを用いることにより、塗工量を比較的低くコントロールすることが可能であり、更に水系のアイオノマーエマルジョンを用いることによりVOC排出が無くなり自然環境に対する負荷を小さくすることができる。ヒートシール層の塗工量は、紙基材の片面あたり、固形分換算で2~10g/m2であり、好ましくは3~8g/m2である。2g/m2未満の場合は十分なヒートシール強度を満足できない。具体的には、ヒートシール強度が145(gf/4mm)未満となってしまう。逆に10g/m2を超える場合は、ヒートシール強度の面からは過剰品質であり、かつプラスチック削減効果に乏しくなる。なお、本発明の紙コップ用原紙において、ヒートシール層は、紙基材の表面の一部分のみに設けられているのではなく、全面に設けられていることが通常である。すなわち、ヒートシール層は、例えば網状、島状、線状など、ヒートシールによる接着に必要な部分にのみ設けられているのではなく、紙基材の表面の全面を覆うように設けられていると良い。
【0017】
ヒートシール層用塗工液には、アイオノマーエマルジョンの他に、各種助剤を添加してもよい。例えば、粘度調整剤、消泡剤、界面活性剤やアルコールなどのレベリング剤、着色顔料、着色染料などである。しかしながら、これらの助剤の添加は、ヒートシール強度の低下を招きやすいことから、添加する場合には少量であることが好ましい。本実施形態においては、ヒートシール層用塗工液がアイオノマーエマルジョンのみからなることが好ましい。
【0018】
ヒートシール層用塗工液を塗工する方式としては、特に限定するものではなく、一般に使用されている塗工装置が使用できる。例えばエアーナイフコーター、ブレードコーター、グラビアコーター、ロッドブレードコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、ダイスロットコーター、チャンプレックスコーター、メータリングブレード式のサイズプレスコーター、ショートドウェルコーター、スプレーコーター、ゲートロールコーター、リップコーター等の公知の各種塗工装置を用いることができる。
【0019】
本実施形態においては、前記ヒートシール層が2層以上で形成されていることが好ましい。2層以上とすることにより、紙コップ用原紙の透気度を高くすることができ、さらに、撥水性と撥油性を付与することができ、プラスチックフィルムラミネート紙と同様かそれ近い特性を得ることができるからである。ヒートシール層が2層以上の場合、紙基材に最も近い最下層のヒートシール層の塗工量が、他のヒートシール層の合計塗工量よりも多い方が好ましい。紙コップ用原紙の透気度をさらに改善することができ、撥水性と撥油性が更に向上するからである。
【0020】
前記紙コップ用原紙の水分が3%~10%であることが好ましい。3%未満ではトップカール割れが起きやすい。10%を超えると紙コップとして軟らかすぎる。好ましくは4%~9%である。水分は紙コップ用原紙を乾燥させることで調整することができる。
【0021】
前記紙コップ原紙の比容が0.8~1.8cm3/gである。0.8未満では、トップカールが割れやすい。0.8未満であるとトップカールが割れやすく、1.8cm3/gを超えると紙コップとして軟らかすぎる。好ましくは前記紙コップ原紙の比容は、0.9~1.7cm3/gである。
【0022】
また、本発明の紙コップ原紙は、坪量が80g/m2~400g/m2である。好ましくは、紙コップ原紙は、坪量が180g/m2~300g/m2である。坪量がこのような範囲であれば、特に紙コップ(アイスクリーム用の紙カップも含む)の加工時のトップカール割れが無くなる。坪量が400g/m2を超えると、剛直になり曲げ抵抗が上がりすぎて、接着加工時に十分な接着強度を得られない。また、坪量が80g/m2未満であると、紙コップに必要な曲げ抵抗や強度が得られない。
【0023】
前記紙コップ原紙の縦の引張り破断伸び率(JIS P-8113)が1%以上である。1%未満ではトップカール割れが起きやすい。好ましくは1.2%以上である。なお、本発明でいう縦方向とは縦目方向(MD)の事であり、横方向とは横目方向(CD)の事である。
【0024】
本実施形態においては、紙コップ用原紙の透気度が10000秒を超える事が好ましい。より好ましくは12000秒以上であり、更に好ましくは15000秒以上である。紙コップ用原紙の透気度を10000秒以上とすることにより、空気を遮断する意味でのバリア性が更に高くなり、撥水性と撥油性が更に向上する。紙コップ用原紙の透気度を10000秒以上とする方法については、特に限定するものではないが、例えば、紙基材に透気度の高いものを使用することで達成できる。さらに、ヒートシール塗工液を塗工する面の平滑度を高くすることによっても、紙コップ用原紙の透気度を高くすることができる。その後形成されるヒートシール層においてピンホールやヒビ割れなどをより減少させることができるからである。例えば、顔料塗工層を設け、その後キャレンダー処理等を行うことにより、ヒートシール塗工液を塗工する面の平滑度を高くすることができる。他には、ヒートシール層を2層以上塗工することも透気度を高める効果がある。ヒートシール層の2層塗工は、1層目の塗工層(下層)に存在する微細なピンホールやヒビを、1層目の上に設けられた2層目の塗工層(上層)が覆うことで透気度が高まると考えられる。また、ヒートシール層の塗工量を増加させることも透気度の向上に効果がある。ヒートシール層の造膜の面では、ヒートシール層用塗工液の塗工後の乾燥温度を、アイオノマーの融点以上の温度とすることで透気度が向上しやすい。
【0025】
本実施形態においては、紙基材のヒートシール塗工液を塗工する面の平滑度が10秒以上であることが好ましい。より好ましくは20秒以上である。紙基材の平滑度が高い方が塗工して設けたヒートシール層の膜厚が均一となりやすく(微細な凹凸が生じ難く)、結果としてヒートシール強度のバラツキが生じ難くすることができ、平面上に均一なヒートシール強度を付与することができる。紙基材の平滑度を高める方法は、特に限定するものではなく、例えば、スーパーキャレンダー、グロスキャレンダー、シューニップキャレンダー、ソフトキャレンダーなどの公知のキャレンダー装置によるキャレンダー処理が挙げられる。また、片艶クラフト紙などのヤンキードライヤーの鏡面を転写した紙も平滑度の高い紙基材として好適である。なお、ヒートシール層には肉眼では見えないピンホールやヒビ割れが存在する場合があるが、その程度であるならばヒートシール性に悪影響を与えない。また、本発明の効果を損なわない限り、ヒートシール層塗工液中にピンホール防止を目的としたレベリング剤を添加することもできる。
【0026】
本実施形態において用いる紙基材としては特に限定するものではなく、パルプを主成分とする公知の紙基材を用いることができる。紙基材の主成分となるパルプとしては、LBKP(広葉樹さらしクラフトパルプ)、NBKP(針葉樹さらしクラフトパルプ)などの化学パルプ、GP(砕木パルプ)、PGW(加圧式砕木パルプ)、RMP(リファイナーメカニカルパルプ)、TMP(サーモメカニカルパルプ)、CTMP(ケミサーモメカニカルパルプ)、CMP(ケミメカニカルパルプ)、CGP(ケミグランドパルプ)などの機械パルプ、DIP(脱インキパルプ)などの木材パルプ及びケナフ、バガス、竹、コットンなどの非木材パルプを用いることができる。これらは、単独で使用するか、又は任意の割合で混合して使用することが可能である。例えば、パルプとして、LBKP(広葉樹さらしクラフトパルプ)をパルプ中90~100質量部使用することができる。一方、トップカール割れをなるべく少なくし、強度、および曲げ抵抗を上げるためには、針葉樹パルプを配合することが好ましい。例えば、全パルプ中、針葉樹パルプを50~95質量部と、広葉樹パルプを5~50質量部とを使用することが好ましい。また、針葉樹パルプのみを使用してもよい。また、本発明の目的とする効果を損なわない範囲において、合成繊維を更に配合することができる。環境保全の観点から、ECF(Elemental Chlorine Free)パルプ、TCF(Total Chlorine Free)パルプ、古紙パルプ、植林木から得られるパルプが好ましい。また、例えば、適切なパルプの叩解度としては、カナダ標準ろ水度(フリーネス)(JIS P 8121:1995「パルプのろ水度試験方法」)で、200~700mlCSF、例えば、250~520mlCSF、さらには、350~420mlCSFである。フリーネスがこの範囲であれば、紙コップとして適切な曲げ抵抗の用紙を得ることができ、これにより、特に紙コップ(アイスクリーム用の紙カップも含む)の加工時のトップカール割れが生じにくくなり、また、フリーネスが700mlCSFを超えると、得られる用紙の曲げ抵抗が不足する場合があり、紙コップとして軟らかすぎる可能性があるからである。
【0027】
紙基材としては填料を含有するものも使用できる。填料としては、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、焼成クレー、二酸化チタン、水酸化アルミニウムを例示できる。紙基材中の填料含有量は、パルプの乾燥質量100質量部に対して、例えば、1~30質量部である。例えば、パルプの乾燥質量100質量部に対して、軽質炭酸カルシウムを1~10質量部含むとよい。
【0028】
また、紙基材には、パルプと填料に加えて、各種公知の製紙用添加剤が含まれていてもよい。製紙用添加剤としては、例えば、澱粉などの水溶性高分子、サイズ剤、湿潤紙力増強剤などの内添紙力増強剤、嵩高剤、歩留り向上剤、濾水性向上剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、蛍光消色剤、ピッチコントロール剤などがある。例えば、パルプ100質量部に対して0.1~1.0質量部のサイズ剤、特にロジンサイズ剤、また、パルプ100質量部に対して0.1~1.0質量部の澱粉、特にカチオン化澱粉を含有させるとよい。また、澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドなどの水溶性高分子が塗布されていてもよい。
【0029】
紙基材の抄紙方法は、特に限定されるものではなく、長網抄紙機、長網多層抄紙機、円網抄紙機、円網多層抄紙機、長網円網コンビ多層抄紙機、ツインワイヤー抄紙機などの各種抄紙機で製造できる。また、本発明においては、紙基材としては単層抄きでも多層抄きでも、複数層の貼合品であってもよい。
【0030】
紙基材には、ヒートシール層以外の塗工層が1層以上設けられていてもよく、例えば、顔料と接着剤を含有する顔料塗工層が設けられたものであってもよい。顔料塗工層中の顔料としては、一般の印刷用塗工紙の塗工層に使用される公知の顔料を用いることができ、例えば、炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウム等)、カオリン(クレーを含む)、焼成クレー、タルク、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、炭酸亜鉛、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪藻土、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機顔料、又はアクリル、スチレン、塩化ビニル、ナイロンそのものや、これらを共重合して得られる有機顔料(いわゆるプラスチックピグメント)が挙げられる。例えば、顔料としては、20~40質量部のカオリンと60~80質量部の重質炭酸カルシウムの組み合わせを使用することができる。また、接着剤も一般の印刷用塗工紙の塗工層に使用される公知の接着剤を用いることができ、例えば、ブタジエン系共重合ラテックス、架橋剤変性澱粉、酸化澱粉、酵素変性澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン性澱粉、両性澱粉などの澱粉類、ゼラチン、カゼイン、大豆タンパク、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子、酢酸ビニル、エチレン酢酸ビニル、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、等の合成樹脂類等を例示できる。顔料塗工層中の顔料と接着剤の配合割合は特に限定されるものではないが、顔料100質量部に対し接着剤5~50質量部とすることが好ましい。例えば、接着剤としては、顔料100質量部に対して、1~5質量部のリン酸エステル化澱粉と5~15質量部のスチレンブタジエンラテックスの組み合わせを使用することができる。顔料塗工層には、本発明の目的とする効果を損ねない範囲で各種助剤を含んでもよく、例えば、粘度調節剤、柔軟剤、光沢付与剤、耐水化剤、分散剤、流動変性剤、紫外線吸収剤、安定化剤、帯電防止剤、架橋剤、サイズ剤、蛍光増白剤、着色剤、pH調節剤、消泡剤、可塑剤、防腐剤が含まれていてもよい。また、このような顔料塗工層の塗工量としては、例えば、紙基材の片面あたり、固形分換算で、2~40g/m2である。本発明の紙コップ用原紙の実施形態の一つとして、ヒートシール層はこのような顔料塗工層の上に設けられてもよく、また、別の実施形態としては一方の面のみに顔料塗工層が設けられた紙基材の顔料塗工層が設けられていない面にヒートシール層が設けられていてもよい。
【実施例】
【0031】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、例中の「部」、「%」は、特に断らない限りそれぞれ「質量部」、「質量%」を示す。なお、添加部数は、固形分換算の値である。
【0032】
(実施例1)
(紙基材の作製)
カナディアンスタンダードフリーネス400mlcsfの広葉樹晒クラフトパルプ100部、軽質炭酸カルシウム(商品名:TP-123、奥多摩工業社製)5部、カチオン化澱粉(商品名:ネオタック40T、日本食品加工社製)0.2部、中性ロジンサイズ(商品名:ハーサイズAN-300、ハリマ化成社製)0.5部に水を加えて紙料を調製し、長網多筒式抄紙機を用いて坪量193g/m2の原紙を作製した。この原紙にゲートロールコーターによって、酸化澱粉(商品名:SK-20、日本コーンスターチ社製)を両面あたりの乾燥塗布量が2g/m2となるように塗布し、乾燥して195g/m2の紙基材を得た。
【0033】
(紙コップ用原紙の作製)
上記で得られた紙基材の片面に、水系アイオノマーエマルジョン(商品名:ケミパールS-300、三井化学社製、組成:エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩、自己乳化型エマルジョン、マイクロトラック法平均粒子径0.5μm)を乾燥塗工量が5g/m2になるようにエアーナイフコーターを用いて塗工し、乾燥してヒートシール層を設け、坪量200g/m2の紙コップ用原紙を作製した。水分は5%に調整した。
【0034】
(実施例2)
パルプを針葉樹未晒クラフトパルプ100部にした以外は実施例1と同様に紙コップ用原紙を作製した。
【0035】
(実施例3)
パルプを針葉樹クラフトパルプ40部、広葉樹クラフトパルプ60部にした以外は実施例1と同様に紙コップ用原紙を作製した。
【0036】
(実施例4)
カチオン澱粉の添加量を0.8部にした以外は実施例1と同様に紙コップ用原紙を作製した。
【0037】
(実施例5)
カナディアンスタンダードフリーネスを600ccにした以外は実施例1と同様に紙コップ用原紙を作製した。
【0038】
(実施例6)
紙基材として、実施例1と同じ紙料を調整し、丸網式抄紙機を用いて1層目80g/m2、2層目130g/m2、3層目83g/m2、と3層抄きにして坪量293g/m2の紙基材を作製した以外は実施例1と同様に紙コップ用原紙を作製し、坪量300g/m2の紙コップ用原紙を作製した。
【0039】
(実施例7)
紙コップ用原紙の水分を2.5%とした以外は実施例1と同様に紙コップ用原紙を作製した。
【0040】
(比較例1)
実施例1で作製した紙基材の片面に、エクストリュージョンコーター(溶融押出し機)にて低密度ポリエチレン(東ソー社製、ペトロセンDLZ19A)を塗工量が30g/m2になるようにラミネートしてヒートシール層を設け、紙コップ用原紙を作製した。
【0041】
(比較例2)
実施例1の紙基材の作製において、カナディアンスタンダードフリーネス250mlcsfの針葉樹晒クラフトパルプ100部、軽質炭酸カルシウム(商品名:TP-123、奥多摩工業社製)5部、カチオン化澱粉(商品名:ネオタック30T、日本食品加工社製)0.6部、中性ロジンサイズ(商品名:ハーサイズAN-300、ハリマ化成社製)0.5部に水を加えて紙料を調製し、長網多筒式抄紙機を用いて坪量428g/m2の原紙を作製した。この原紙にゲートロールコーターによって、酸化澱粉(商品名:SK-20、日本コーンスターチ社製)を両面あたりの乾燥塗布量が2g/m2となるように塗布し、乾燥して430g/m2の紙基材を作成した以外は実施例1と同様に紙コップ用原紙を作製し、坪量437g/m2の紙コップ用原紙を作製した。
【0042】
各実施例及び比較例で得られた紙コップ用原紙について、以下に示す方法により評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0043】
水分
JIS P8127に準拠して測定した。
【0044】
(2)横方向のテーバー曲げ抵抗
JIS P-8125-2に準拠して測定した。
【0045】
(3)縦方向の引張り破断伸び率
JIS P-8113に準拠して測定した。
【0046】
(4)ヒートシール強度
得られた紙コップ用原紙を、幅8mm、長さ15cmのサイズに2枚カットし、紙コップ用原紙の表面と裏面とを重ね合わせ、ヒートシール装置(パルメック社製、型番:PTS-100)で、一定条件(接着幅:4mm、温度:180℃、圧力0.4MPa、押し当て時間0.5秒、ピッチ:4mm)にてヒートシールした。次いで、ヒートシールしたサンプルを、剥離強度試験機(島津製作所製、型番:オートグラフAGS-X)にて、一定条件(剥離速度:100mm/分、剥離長さ:10cm)で剥離強度を測定してヒートシール強度(gf/4mm)とした。数値が高い方が優れる。
【0047】
(5)紙カップ加工性1(トップ加工の割れ)
紙コップ製造機(接着はヒートシール)で、100個/分の速度で紙コップを製造した。トップカール部の割れを目視で調べ、以下の様に評価した。
◎:割れが全く無く、実用的である。
〇:割れが僅かにあるが、実用的である。
△:割れがあり、実用不可。
×:割れが著しく目立ち、実用不可。
【0048】
(6)紙カップ加工性2(側面接着性)
紙コップ製造機(接着はヒートシール)で、100個/分の速度で紙コップを製造した。側面接着部の接着性を目視で確認し、以下の様に評価した。
◎:完全に接着しており、実用的である。
〇:僅かに接着性が悪い部分があるが、実用的である。
△:剥がれがあり、実用不可。
×:剥がれが著しく、実用不可。
【表1】
【0049】
本発明の実施例1~7であれば、プラスチックの使用量を低減し、かつ、ヒートシール性及びトップカール加工適性がポリラミ品と同等レベルになる紙コップ用原紙を得られた。それとは対照的に、坪量が大きい紙基材を使用した場合は、横方向のテーバー曲げ抵抗が高い故に十分な側面接着性が得られなかった(比較例2)。