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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】耐屈曲絶縁電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/04 20060101AFI20240104BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20240104BHJP
   D07B 1/04 20060101ALI20240104BHJP
   D07B 1/06 20060101ALI20240104BHJP
   D07B 1/16 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
H01B7/04
H01B7/00 301
D07B1/04
D07B1/06 Z
D07B1/16
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019192553
(22)【出願日】2019-10-23
(65)【公開番号】P2021068572
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】323004813
【氏名又は名称】株式会社TOTOKU
(74)【代理人】
【識別番号】110003904
【氏名又は名称】弁理士法人MTI特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】杉本 裕昭
(72)【発明者】
【氏名】中山 毅安
(72)【発明者】
【氏名】田中 大介
(72)【発明者】
【氏名】宮下 誠
(72)【発明者】
【氏名】仲條 裕一
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-208275(JP,A)
【文献】実開昭58-106869(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/04
H01B 7/00
D07B 1/04
D07B 1/06
D07B 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維糸を撚り線してなる外径0.1~1.0mmの繊維芯と、該繊維芯の外周に設けられた50~150本の金属素線を撚ってなる撚線導体と、該撚線導体の外周に設けられた絶縁体とを有前記金属素線の表面には絶縁皮膜は設けられておらず、前記繊維芯の断面積が前記撚線導体の断面積の5~20%の範囲内であり、前記金属素線の断面積が前記繊維芯の断面積の4~20%の範囲内であり、前記繊維芯の中心位置と前記撚線導体の中心位置とのずれは0.10~0.30mmである、ことを特徴とする耐屈曲絶縁電線。
【請求項2】
前記撚線導体の外径が1.6mm以下である、請求項に記載の耐屈曲絶縁電線。
【請求項3】
前記金属素線の外径が0.02mm以上0.2mm以下の範囲内である、請求項1又は2に記載の耐屈曲絶縁電線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐屈曲絶縁電線に関する。さらに詳しくは、本発明は、屈曲性に優れるとともに軽量化が図られ、特に自動車用配線として好適な耐屈曲絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、産業ロボット、電気機器、熱機器等では、その高性能化とともに配線箇所が多くなっている。それらの配線に使用される電線に対しては、要求される信頼性も高まっている。さらに、省エネルギーとコンパクト化の要請から、電線自体の軽量化も要求されている。
【0003】
こうした要求に対し、例えば特許文献1には、アラミド系繊維束又は紐を中心としてその周りに銅素線を配置した撚り線を圧縮加工し、熱処理を行ったハーネス用電線導体が提案されている。また、特許文献2には、架空送電線に関するものであるが、中心部にアラミド繊維、ガラス繊維などのテンションメンバーを配置し、その外側に複数本の軟銅素線の撚り合わせからなる撚線導体を設け、その外側に絶縁被覆を施した絶縁電線が提案されている。また、特許文献3には、最大伸びが10%以上に形成された銅又は銅合金からなる中心線の周囲に、その最大伸びが10%以上の有機繊維を複数本撚り合わせた構造を有し、銅又は銅合金に対する有機繊維の重量比と太さの断面積を規定したワイヤーハーネス用細径電線が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-91214号公報
【文献】特開平4-138616号公報
【文献】特開2003-123542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術の各電線は、中心に繊維を設け、その外周に金属素線を設け、さらにその外周に絶縁体を設けている。しかし、これら電線は、繊維の一部が金属素線の間からはみ出しやすく、電線の外観が悪くなりやすい。また、繊維には水分やオイルが付着することがあり、繊維に付着した水分等は、金属素線の外周に絶縁体を設ける際に絶縁体の発泡や肌荒れを引き起こす原因となる。電線の外観悪化、絶縁体の発泡や肌荒れは、局部的な不均一性を生じさせ、耐屈曲寿命が低下する原因となっていた。
【0006】
また、特許文献1では、絶縁体を被覆する際に繊維芯が押出樹脂と接触するため、繊維芯が熱影響を受けてしまい、繊維芯としての機能を発揮できないことがある。こうした現象は、押出温度が高い場合に顕著に発生しやすく、耐屈曲寿命が低下する原因となる。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。その目的は、屈曲性に優れるとともに軽量化が図られ、特に自動車用配線として好適な耐屈曲絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る耐屈曲絶縁電線は、繊維芯と、該繊維芯の外周に設けられた50~150本の金属素線を撚ってなる撚線導体と、該撚線導体の外周に設けられた絶縁体とを有する、ことを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、繊維芯の外周に多本数の金属素線が撚られているので、その撚りにより繊維芯の中心位置と撚線導体の中心位置とがずれている。そのずれによって、絶縁電線に加わった負荷応力が逃げ、屈曲特性を向上させることができる。また、多本数の金属素線で撚った撚線導体は外径が大きくなるので、撚線導体の外側位置の金属素線の長さは繊維芯の長さよりも顕著に長くなっている。その結果、絶縁電線に応力が加わって屈曲した場合、顕著に長い金属素線は屈曲に対して余裕を生じさせることができ、屈曲特性を向上させることができる。
【0010】
本発明に係る耐屈曲絶縁電線において、前記繊維芯の断面積が前記撚線導体の断面積の5~20%の範囲内であり、前記金属素線の断面積が前記繊維芯の断面積の4~20%の範囲内である。この発明によれば、繊維芯、金属素線、撚線導体それぞれの断面積が上記関係であるので、繊維芯に比べてかなり細い金属素線からなる撚線導体が、繊維芯に比べてかなり太い。その結果、繊維芯の中心位置と撚線導体の中心位置とのずれを容易に実現することができる。
【0011】
本発明に係る耐屈曲絶縁電線において、前記撚線導体の外径が1.6mm以下である。この発明によれば、上記外径の撚線導体は、耐屈曲性に優れた絶縁電線の細径化を実現でき、軽量化を図ることができる。
【0012】
本発明に係る耐屈曲絶縁電線において、前記金属素線の外径が0.02mm以上0.2mm以下の範囲内である。この発明によれば、細い金属素線を多本数撚り合わせて撚線導体とするので、撚線導体を細径化でき、絶縁電線全体の細径化と軽量化と柔軟化を実現できる。その結果、多本数の金属素線で応力集中を低減して引張強度や屈曲特性を向上させることができる。
【0013】
本発明に係る耐屈曲絶縁電線において、前記繊維芯の中心位置と前記撚線導体の中心位置とが一致していない。
【0014】
中心位置とは、繊維芯の断面の輪郭から算出した中心位置、撚線導体の断面の輪郭から算出した中心位置のことであり、両者のずれは0.10~0.30mmであることが好ましい。こうしたずれは、絶縁電線に負荷が加わった際に絶縁電線が扁平形状になりやすく、その扁平形状によって特定部位に応力集中が起こらず、応力が逃げて屈曲特性が向上する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、屈曲性に優れるとともに軽量化が図られ、特に自動車用配線として好適な耐屈曲絶縁電線を提供することができる。特に、繊維芯の外周に多本数の金属素線が撚られているので、その撚りにより繊維芯の中心位置と撚線導体の中心位置とがずれ、そのずれによって、絶縁電線に加わった負荷応力が逃げ、屈曲特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る耐屈曲絶縁電線の一例を示す模式的な説明図である。
図2】耐屈曲絶縁電線を構成する各寸法の説明図である。
図3】撚線導体の撚り状態の説明図である。
図4】屈曲試験の態様を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る耐屈曲絶縁電線について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は図示の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
[耐屈曲絶縁電線]
本発明に係る耐屈曲絶縁電線10(以下、「絶縁電線10」ともいう。)は、図1及び図2に示すように、繊維芯1と、その繊維芯1の外周に設けられた50~150本の金属素線3を撚ってなる撚線導体2と、その撚線導体2の外周に設けられた絶縁体4とを有する。なお、「有する」とは、本発明の効果を阻害しない範囲でそれ以外の構成が含まれていてもよいことを意味し、例えば、撚線導体2と絶縁体4との間に押さえ巻きフィルム、金属素線3の表面にめっきや絶縁被覆層、絶縁体4の外周に融着層等が設けられていてもよいことを意味している。
【0019】
この耐屈曲絶縁電線10は、繊維芯1の外周に多本数の金属素線3が撚られているので、その撚りにより繊維芯1の中心位置C1と撚線導体2の中心位置C2とがずれ、そのずれによって、絶縁電線10に加わった負荷応力が逃げ、屈曲特性を向上させることができる。その結果、屈曲性に優れるとともに軽量化が図られ、特に自動車用配線として好適な耐屈曲絶縁電線10とすることができる。
【0020】
以下、耐屈曲絶縁電線の各構成要素を詳しく説明する。
【0021】
(繊維芯)
繊維芯1は、耐屈曲絶縁電線10の略中央に位置する必須の構成であり、巻芯として機能する高張力体であることが好ましい。繊維芯1の例としては、複数の繊維を束ねた繊維糸が好ましく用いられる。繊維糸を構成する繊維としては、強度があり、耐熱性であればなおよい。例えば、繊維として、テトロン(登録商標)等のポリエステル繊維や、ケブラ(登録商標)等の全芳香族ポリアミド繊維や、ベクトラン(登録商標)等のポリアリレート繊維、ガラス繊維等を挙げることができる。また、繊維芯1は、異なる材質の繊維糸や、外径の異なる繊維糸を任意に複合させたものであってもよい。
【0022】
繊維芯1は、繊維糸を集合線、撚り線又は編み込み線にして同心円状(真円形)又は略同心円状の断面になっている。このとき、繊維芯1をより同心円状又は略同心円状の断面にするためには、繊維糸を撚り線とすることがより好ましい。繊維芯1の外径は特に限定されないが、例えば0.1~1.0mmの範囲を挙げることができる。繊維糸からなる繊維芯1は柔軟で変形し易いことから、繊維芯1の外径は、繊維芯1が真円形である場合はその外径とし、繊維芯1が扁平形である場合はその断面積から真円形の断面積に換算した外径として評価する。
【0023】
繊維芯1は、通常、繊維糸を重量換算で示す繊度(dtex)で表示され、1dtexは、長さ10000mで1gである。本発明の繊維芯1のdtexの範囲は、110~2000dtexであることが好ましい。こうした繊維芯1は、単一の繊維糸からなるものを用いてもよいし、2種以上の繊維糸からなるものを用いてもよい。2種以上の繊維糸からなるもので繊維芯1を構成した場合は、合計のdtexを上記範囲内とすればよい。110dtex未満では、屈曲耐久性不足となりやすい。一方、2000dtexを超えると、外径が大きくなってしまい、作業性や加工性に影響が出やすく、屈曲耐久性不足にもなる。
【0024】
繊維芯1が設けられているのは、耐屈曲絶縁電線10の断面の略中央である。「略中央」とは、繊維芯1の中心位置C1が耐屈曲絶縁電線10の断面の中心位置(詳しくは撚線導体2の断面の中心位置C2)には設けられておらず、繊維芯1の中心位置C1と撚線導体2の中心位置C2とがずれていて一致していないことを意味している。繊維芯1の中心位置C1とは、繊維芯1の断面の輪郭から算出した位置のことであり、いわゆる輪郭の重心位置の意味である。繊維芯1の中心位置C1と、後述する撚線導体2の断面の輪郭から算出した中心位置C2とのずれは、0.10~0.30mmであることが好ましい。こうしたずれは、絶縁電線10に負荷が加わった際に絶縁電線10が扁平形状になりやすく、その扁平形状によって特定部位に応力集中が起こらず、絶縁電線10に加わった負荷応力が逃げ、屈曲特性を向上させることができる。なお、繊維芯1の断面形状は、その周りに後述の撚線導体2が設けられた後においては、撚線導体2から加わる加圧力により円形又は略円形を保持することが困難なことが多く、図1に示すように、略三角形や略四角形等に変形した形状になりやすい。
【0025】
(撚線導体)
撚線導体2は、繊維芯1の外周に設けられた必須の構成であり、図3に示すように、50~150本の多数本の金属素線3を撚ってなる撚り線である。この本数の金属素線3を撚って撚線導体2とすることにより、軽量化を実現できる。さらに、繊維芯1の中心位置C1と撚線導体2の中心位置C2とが一致しない形態とすることも可能となる。金属素線3が50本未満では、繊維芯1の中心位置C1と撚線導体2の中心位置C2とは0.10mm未満となるとともに、応力集中を逃す効果が得られない結果となる。一方、金属素線3が150本を超えると、繊維芯1の中心位置C1と撚線導体2の中心位置C2とは0.30mmを超えることとなるとともに、過剰な扁平状態となる。さらに、下記外径範囲の細い金属素線3を上記範囲の本数で構成することにより、撚線導体2を設けた後の全体の外径を小さくでき、耐屈曲絶縁電線全体の細径化と軽量化を実現できる。
【0026】
金属素線3の撚りピッチPと、撚線導体2の外径との関係は、「撚りピッチP(mm)」÷「撚線導体の外径(mm)」が5倍~25倍の範囲であることが好ましい。この範囲内とすることにより、撚りがほどけることを抑制でき、屈曲特性のバラツキを小さくすることができ、さらに断面が丸くなりやすく、良好な外観と耐久性を得ることができる。この値が5倍未満では、金属素線3をきつめに巻くことになるので、撚線導体2の重なりが多くなり易く、金属素線3の浮きが発生することがある。その結果、断面が丸くならない場合があったり、堅くなって屈曲特性を満たさないか又はバラツキが生じたりすることがある。一方、この値が25倍を超えると、撚りがゆるくなって糸が飛び出してしまい、作業中にほどけるような挙動を示すことがある。その結果、断面が丸くならない場合もあり、屈曲特性にもバラツキが生じることがある。
【0027】
金属素線3の外径は、0.02mm以上、0.2mm以下の範囲内であることが好ましい。こうすることにより、細い金属素線3を多本数撚り合わせて撚線導体2とするので、撚線導体2を細径化でき、絶縁電線全体の細径化と軽量化と柔軟化を実現できる。その結果、多本数の金属素線3で応力集中を低減して引張強度や屈曲特性を向上させることができる。金属素線3の外径が0.02mm未満では、金属素線自体が細径化して多くの本数が必要になるとともに単線強度の絶対値が小さくなる。一方、金属素線3の外径が0.2mmを超えると、表面凹凸が大きくなってしまう。
【0028】
金属素線3は、良導電性金属であればその種類は特に限定されないが、銅線、銅合金線、アルミニウム線、アルミニウム合金線、銅アルミニウム複合線等の良導電性の金属導体、又はそれらの表面にめっき層が施されたものを好ましく挙げることができる。銅線、銅合金線が特に好ましい。めっき層としては、はんだめっき層、錫めっき層、金めっき層、銀めっき層、ニッケルめっき層等が好ましい。金属素線3の表面には、必要に応じて絶縁皮膜(図示しない)が設けられていてもよい。絶縁皮膜の種類は特に限定されないが、一般的なエナメル皮膜を挙げることができ、例えば、ウレタン、ポリエステル、ポリエステルイミド(PEI)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)等を挙げることができる。その厚さは特に限定されないが、一般的な日本工業規格(JIS C 3202:2014)で1種、2種、3種の程度を挙げることができる。
【0029】
撚線導体2の外径D2は、1.6mm以下であることが好ましい。こうすることにより、上記外径D2の撚線導体2は、耐屈曲性に優れた絶縁電線10の細径化を実現でき、軽量化を図ることができる。なお、撚線導体2の外径の下限は特に限定されないが、上記した繊維芯1の外径、金属素線3の外径と本数により、0.12mmとすることができる。
【0030】
(絶縁体)
絶縁体4は、撚線導体2を覆うように設けられている。例えば、撚線導体2を設けた後に、その外周を覆うように樹脂押出等で形成することができる。絶縁体4の構成材料としては、絶縁性があり、耐熱性のある樹脂材料であればよく、例えばポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂等を挙げることができる。絶縁体4の厚さは、0.05mm以上、1.0mm以下の程度であればよいが、屈曲特性向上のためには厚い方がよく、例えば0.1mm~0.3mm程度が好ましい。
【0031】
絶縁体4の厚さと、撚線導体2の外径との関係は、「絶縁体4の厚さ(mm)」÷「撚線導体の外径(mm)」が0.15~0.30の範囲であることが好ましい。この範囲内とすることにより、耐久性と柔軟性が両立できる。この値が0.15未満では、耐久性が不足することがある。一方、この値が0.30を超えると、柔軟性が不足することがある。
【0032】
絶縁体4の厚さは均等であることが好ましい。ただし、絶縁体4は主に樹脂押出で形成されることから、樹脂押出し前の段階である撚線導体2が設けられた後の表面は、金属素線3に基づいた表面凹凸が小さいことが好ましい。本発明では、多数本の金属素線3を撚り合わせてなる撚線導体2が繊維芯1を覆うように設けているので、撚線導体2の表面の凹凸が小さくなっている。したがって、その外周に絶縁体4を樹脂押出で形成した後の外径も表面凹凸が小さくなり、かつ絶縁体4の厚さも各部で均一になる。その結果、局部的な応力集中を低減でき、屈曲寿命が長くなる。
【0033】
(断面積)
繊維芯1の断面積は、撚線導体2の断面積の5~20%の範囲内であることが好ましい。この範囲内とすることにより、良好な外観と耐久性を両立することができる。断面積が5%未満では、耐久性不足となることがある。一方、断面積が20%を超えると、糸が飛び出してしまい、外観不良となることがある。各断面積は、撮影した断面画像の画像解析により容易に算出することができる。
【0034】
また、金属素線3の断面積は、繊維芯1の断面積の4~20%の範囲内であることが好ましい。の範囲内とすることにより、生産性と耐久性を両立することができる。断面積が4%未満では、外径が細くなりすぎて生産時に断線することがある。一方、断面積が20%を超えると、外径が太くなりすぎてしまい、耐久性が低下することがある。各断面積は、撮影した断面画像の画像解析により容易に算出することができる。
【0035】
繊維芯1、金属素線3、撚線導体2それぞれの断面積が上記関係であるので、繊維芯1に比べてかなり細い金属素線3からなる撚線導体2が、繊維芯1に比べてかなり太い。その結果、繊維芯1の中心位置C1と撚線導体2の中心位置C2とのずれを容易に実現することができる。
【実施例
【0036】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【0037】
[実施例1]
繊維芯1として、アラミド(ポリアミド)繊維からなる繊維糸(660dtex、外径約0.245mm)を用いた。この繊維芯1上に、外径0.08mmの軟銅線を100本用い、撚りピッチ15mmで撚り合わせて外径0.97mmの撚線導体2とした。次に、溶融押出しによって、FEP樹脂(絶縁体4)を厚さ0.2mmで形成し、外径1.4mmの絶縁電線10を作製した。この絶縁電線10は、「撚りピッチ(mm)」÷「撚線導体の外径(mm)」は15.5であり、「絶縁体4の厚さ(mm)」÷「撚線導体の外径(mm)」は0.21であり、「繊維芯1の断面積」÷「撚線導体2の総断面積」は9%であり、「1本の金属素線3の断面積」÷「繊維芯1の断面積」は11%であった。
【0038】
[実施例2]
外径0.08mmの金属素線50本を撚りピッチ11mmで撚った外径0.72mmの撚線導体2とし、外径1.1mmの絶縁電線10を作製した他は、実施例1と同様にした。この絶縁電線10は、「撚りピッチ(mm)」÷「撚線導体の外径(mm)」は15.3であり、「絶縁体4の厚さ(mm)」÷「撚線導体の外径(mm)」は0.28であり、「繊維芯1の断面積」÷「撚線導体2の総断面積」は19%であり、「1本の金属素線3の断面積」÷「繊維芯1の断面積」は11%であった。
【0039】
[実施例3]
外径0.11mmの金属素線50本を撚りピッチ14mmで撚った外径0.94mmの撚線導体2とし、外径1.3mmの絶縁電線10を作製した他は、実施例1と同様にした。この絶縁電線10は、「撚りピッチ(mm)」÷「撚線導体の外径(mm)」は14.9であり、「絶縁体4の厚さ(mm)」÷「撚線導体の外径(mm)」は0.21であり、「繊維芯1の断面積」÷「撚線導体2の総断面積」は10%であり、「1本の金属素線3の断面積」÷「繊維芯1の断面積」は20%であった。
【0040】
[実施例4]
外径0.09mmの金属素線150本を撚りピッチ18mmで撚った外径1.17mmの撚線導体2とし、外径1.6mmの絶縁電線10を作製した他は、実施例1と同様にした。この絶縁電線10は、「撚りピッチ(mm)」÷「撚線導体の外径(mm)」は15.4であり、「絶縁体4の厚さ(mm)」÷「撚線導体の外径(mm)」は0.17であり、「繊維芯1の断面積」÷「撚線導体2の総断面積」は5%であり、「1本の金属素線3の断面積」÷「繊維芯1の断面積」は13%であった。
【0041】
[実施例5]
外径0.05mmの金属素線150本を撚りピッチ11mmで撚った外径0.76mmの撚線導体2とし、外径1.2mmの絶縁電線10を作製した他は、実施例1と同様にした。この絶縁電線10は、「撚りピッチ(mm)」÷「撚線導体の外径(mm)」は14.5であり、「絶縁体4の厚さ(mm)」÷「撚線導体の外径(mm)」は0.26であり、「繊維芯1の断面積」÷「撚線導体2の総断面積」は16%であり、「1本の金属素線3の断面積」÷「繊維芯1の断面積」は4%であった。
【0042】
[実施例6]
アラミド(ポリアミド)繊維からなる繊維糸(440dtex、外径約0.20mm)を繊維芯1とし、外径0.08mmの金属素線50本を撚りピッチ11mmで撚った外径0.72mmの撚線導体2とし、外径1.1mmの絶縁電線10を作製した他は、実施例1と同様にした。この絶縁電線10は、「撚りピッチ(mm)」÷「撚線導体の外径(mm)」は15.3であり、「絶縁体4の厚さ(mm)」÷「撚線導体の外径(mm)」は0.28であり、「繊維芯1の断面積」÷「撚線導体2の総断面積」は13%であり、「1本の金属素線3の断面積」÷「繊維芯1の断面積」は16%であった。
【0043】
[実施例7]
アラミド(ポリアミド)繊維からなる繊維糸(440dtex、外径約0.20mm)を繊維芯1とし、外径0.05mmの金属素線150本を撚りピッチ11mmで撚った外径0.76mmの撚線導体2とし、外径1.2mmの絶縁電線10を作製した他は、実施例1と同様にした。この絶縁電線10は、「撚りピッチ(mm)」÷「撚線導体の外径(mm)」は14.5であり、「絶縁体4の厚さ(mm)」÷「撚線導体の外径(mm)」は0.26であり、「繊維芯1の断面積」÷「撚線導体2の総断面積」は11%であり、「1本の金属素線3の断面積」÷「繊維芯1の断面積」は6%であった。
【0044】
[比較例1]
外径0.08mmの金属素線30本を撚りピッチ9mmで撚った外径0.58mmの撚線導体2とし、外径1.0mmの絶縁電線10を作製した他は、実施例1と同様にした。この絶縁電線10は、「撚りピッチ(mm)」÷「撚線導体の外径(mm)」は15.5であり、「絶縁体4の厚さ(mm)」÷「撚線導体の外径(mm)」は0.34であり、「繊維芯1の断面積」÷「撚線導体2の総断面積」は31%であり、「1本の金属素線3の断面積」÷「繊維芯1の断面積」は11%であった。
【0045】
[比較例2]
外径0.08mmの金属素線220本を撚りピッチ21mmで撚った外径1.40mmの撚線導体2とし、外径1.8mmの絶縁電線10を作製した他は、実施例1と同様にした。この絶縁電線10は、「撚りピッチ(mm)」÷「撚線導体の外径(mm)」は15.0であり、「絶縁体4の厚さ(mm)」÷「撚線導体の外径(mm)」は0.14であり、「繊維芯1の断面積」÷「撚線導体2の総断面積」は4%であり、「1本の金属素線3の断面積」÷「繊維芯1の断面積」は11%であった。
【0046】
[比較例3]
外径0.12mmの金属素線160本を撚りピッチ27mmで撚った外径1.78mmの撚線導体2とし、外径2.2mmの絶縁電線10を作製した他は、実施例1と同様にした。この絶縁電線10は、「撚りピッチ(mm)」÷「撚線導体の外径(mm)」は15.2であり、「絶縁体4の厚さ(mm)」÷「撚線導体の外径(mm)」は0.11であり、「繊維芯1の断面積」÷「撚線導体2の総断面積」は3%であり、「1本の金属素線3の断面積」÷「繊維芯1の断面積」は24%であった。
【0047】
[屈曲試験]
各実施例と比較例について屈曲試験を図4に示す方法で行った。屈曲試験は、図4に示すように、半径5mmのマンドレル42,42の間に各実施例と比較例で作製した長さ1000mmの絶縁電線10を挟み、絶縁電線10の下方端部に荷重41を取り付け、マンドレル42と垂直方向に毎分30回の速度で両側90度ずつの屈曲を1回として屈曲回数を測定した。屈曲回数の評価は、絶縁電線10の抵抗値が10%上昇するまでの回数とした。実施例1~7の絶縁電線は、いずれも屈曲回数2万回を超えたので、超えた時点で測定は終了した。一方、比較例1~3は、屈曲回数がいずれも2万回まで到達しなかった。
【0048】
[中心位置のずれ]
得られた耐屈曲絶縁電線10を樹脂中に硬化させて断面を切り出し、研磨して顕微鏡で観察した、繊維芯1の中心位置C1と撚線導体2の中心位置C2との距離Lを測定した。
【0049】
【表1】
【符号の説明】
【0050】
1 繊維芯
2 撚線導体
3 金属素線
4 絶縁体
10 耐屈曲絶縁電線
A1 繊維芯の断面積
A2 撚線導体の断面積
A3 1本の金属素線の断面積
D1 繊維芯の外径
D2 撚線導体の外径
D3 耐屈曲絶縁電線の外径
d 金属素線の外径
C1 繊維芯の中心位置
C2 撚線導体の中心位置
L C1とC2との距離
P 撚線導体の撚りピッチ
T 絶縁体の厚さ


図1
図2
図3
図4