(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】耐屈曲絶縁電線
(51)【国際特許分類】
H01B 7/04 20060101AFI20240104BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20240104BHJP
D07B 1/06 20060101ALI20240104BHJP
D07B 1/16 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
H01B7/04
H01B7/00 301
D07B1/06 Z
D07B1/16
(21)【出願番号】P 2019192557
(22)【出願日】2019-10-23
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】323004813
【氏名又は名称】株式会社TOTOKU
(74)【代理人】
【識別番号】110003904
【氏名又は名称】弁理士法人MTI特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】杉本 裕昭
(72)【発明者】
【氏名】中山 毅安
(72)【発明者】
【氏名】田中 大介
(72)【発明者】
【氏名】宮下 誠
(72)【発明者】
【氏名】仲條 裕一
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-078390(JP,A)
【文献】特開2017-208275(JP,A)
【文献】特開2018-063833(JP,A)
【文献】特表2013-518994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/04
H01B 7/00
D07B 1/04
D07B 1/06
D07B 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維糸と第1金属素線とを撚ってなる
外径0.1~1.0mmの撚り芯と、該撚り芯の外周に設けられた複数本の第2金属素線を撚ってなる
外径1.6mm以下の撚線導体と、該撚線導体の外周に設けられた絶縁体とを有し、
前記撚線導体の撚り方向と前記撚り芯の撚り方向とは異なる方向であり、前記撚り芯の撚りピッチ
P1と前記撚線導体の撚りピッチ
P2とが異なり、
P1/P2又はP2/P1が1.5~5倍である、ことを特徴とする耐屈曲絶縁電線。
【請求項2】
前記撚り芯の中心位置と前記撚線導体の中心位置との差が、0.3mm未満である、請求項
1に記載の耐屈曲絶縁電線。
【請求項3】
前記撚り芯の撚りピッチP1
は前記撚り芯の外径の5~15倍であり、前記撚線導体の撚りピッチP2は前記撚線導体の外径の5~15倍である、請求項1
又は2に記載の耐屈曲絶縁電線。
【請求項4】
前記第1金属素線と前記第2金属素線の外径が同じである、請求項1~
3のいずれか1項に記載の耐屈曲絶縁電線。
【請求項5】
前記第1金属素線と前記第2金属素線の本数が同じである、請求項1~
4のいずれか1項に記載の耐屈曲絶縁電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐屈曲絶縁電線に関する。さらに詳しくは、本発明は、屈曲性に優れるとともに軽量化が図られ、特に自動車用配線として好適な耐屈曲絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、産業ロボット、電気機器、熱機器等では、その高性能化とともに配線箇所が多くなっている。それらの配線に使用される電線に対しては、要求される信頼性も高まっている。さらに、省エネルギーとコンパクト化の要請から、電線自体の軽量化も要求されている。
【0003】
こうした要求に対し、例えば特許文献1には、アラミド系繊維束又は紐を中心としてその周りに銅素線を配置した撚り線を圧縮加工し、熱処理を行ったハーネス用電線導体が提案されている。また、特許文献2には、架空送電線に関するものであるが、中心部にアラミド繊維、ガラス繊維などのテンションメンバーを配置し、その外側に複数本の軟銅素線の撚り合わせからなる撚線導体を設け、その外側に絶縁被覆を施した絶縁電線が提案されている。また、特許文献3には、最大伸びが10%以上に形成された銅又は銅合金からなる中心線の周囲に、その最大伸びが10%以上の有機繊維を複数本撚り合わせた構造を有し、銅又は銅合金に対する有機繊維の重量比と太さの断面積を規定したワイヤーハーネス用細径電線が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-91214号公報
【文献】特開平4-138616号公報
【文献】特開2003-123542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術の各電線は、中心に繊維を設け、その外周に金属素線を設け、さらにその外周に絶縁体を設けている。しかし、これら電線は、繊維の一部が金属素線の間からはみ出しやすく、電線の外観が悪くなりやすい。また、繊維には水分やオイルが付着することがあり、繊維に付着した水分等は、金属素線の外周に絶縁体を設ける際に絶縁体の発泡や肌荒れを引き起こす原因となる。電線の外観悪化、絶縁体の発泡や肌荒れは、局部的な不均一性を生じさせ、耐屈曲寿命が低下する原因となっていた。
【0006】
また、特許文献1では、絶縁体を被覆する際に繊維芯が押出樹脂と接触するため、繊維芯が熱影響を受けてしまい、繊維芯としての機能を発揮できないことがある。こうした現象は、押出温度が高い場合に顕著に発生しやすく、耐屈曲寿命が低下する原因となる。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。その目的は、屈曲性に優れるとともに軽量化が図られ、特に自動車用配線として好適な耐屈曲絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る耐屈曲絶縁電線は、繊維糸と第1金属素線とを撚ってなる撚り芯と、該撚り芯の外周に設けられた複数本の第2金属素線を撚ってなる撚線導体と、該撚線導体の外周に設けられた絶縁体とを有し、前記撚り芯の撚りピッチと前記撚線導体の撚りピッチとが異なる、ことを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、撚り芯と撚線導体の撚りピッチが異なるので、両者が同じ撚りピッチの場合に比べて固くならず、柔軟性のある耐屈曲絶縁電線とすることができる。また、第1金属素線を有する撚り芯はある程度の強度があり、しかも撚り芯と撚線導体の撚りピッチが異なるので、撚り芯は撚線導体の撚りに追従して蛇行しにくい。その結果、撚り芯の中心位置と撚線導体の中心位置とがずれにくく、扁平しにくい。扁平が大きいと端末加工の作業が難しくなるが、この発明では、撚り芯の中心位置と撚線導体の中心位置とがずれにくく扁平がないか小さいので、端末加工が容易な柔軟性のある耐屈曲絶縁電線とすることができる。すなわち、屈曲時に加わる応力で柔軟に変形することができ、耐屈曲性のよい耐屈曲絶縁電線となる。
【0010】
本発明に係る耐屈曲絶縁電線において、前記撚り芯の撚りピッチP1と前記撚線導体の撚りピッチP2との差(P1/P2又はP2/P1)が1.5~5倍である。この発明によれば、P1とP2の差が2倍以上なので、一方の撚り状態が他方の撚り状態に影響しにくく、相互の撚り状態に影響した蛇行が起きにくく、撚り芯の中心位置と撚線導体の中心位置とがずれにくく、扁平しにくい。
【0011】
本発明に係る耐屈曲絶縁電線において、前記撚り芯の中心位置と前記撚線導体の中心位置との差が、0.3mm未満である。この発明によれば、撚り芯と撚線導体の中心位置の差が0.3mm未満であるので、扁平がないか小さい。その結果、端末加工が容易な柔軟性のある耐屈曲絶縁電線とすることができる。なお、中心位置とは、撚り芯の断面の輪郭から算出した中心位置、撚線導体の断面の輪郭から算出した中心位置のことである。ずれが扁平形状を生じさせ、その扁平形状は、特定部位への応力集中が起こらないように作用して屈曲特性が向上することもある。しかし、端末加工の点では難点がある。この発明は、屈曲特性と端末加工性の両方を良好にしている。
【0012】
本発明に係る耐屈曲絶縁電線において、前記撚り芯の撚りピッチP1と前記撚線導体の撚りピッチP2は、前記撚線導体の外径の5~15倍であることが好ましい。この発明によれば、各撚りピッチと撚線導体の外径とが上記関系であるので、撚り芯と撚線導体の中心位置の差が小さく、扁平がないか小さい。その結果、端末加工が容易な柔軟性のある耐屈曲絶縁電線とすることができる。
【0013】
本発明に係る耐屈曲絶縁電線において、前記第1金属素線と前記第2金属素線の外径が同じである。この発明によれば、同じ外径の金属素線を使用するので、撚り芯や撚線導体を細径化でき、絶縁電線全体の細径化と軽量化と柔軟化を実現できる。
【0014】
本発明に係る耐屈曲絶縁電線において、前記撚線導体の外径が1.6mm以下である。この発明によれば、上記外径の撚線導体は、耐屈曲性に優れた絶縁電線の細径化を実現でき、軽量化を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、屈曲性に優れるとともに軽量化が図られ、特に自動車用配線として好適な耐屈曲絶縁電線を提供することができる。特に、撚り芯と撚線導体の撚りピッチが異なるので、両者が同じ撚りピッチの場合に比べて固くならず、柔軟性のある耐屈曲絶縁電線とすることができる。また、第1金属素線を有する撚り芯はある程度の強度があり、しかも撚り芯と撚線導体の撚りピッチが異なるので、撚り芯は撚線導体の撚りに追従して蛇行しにくい。その結果、撚り芯の中心位置と撚線導体の中心位置とがずれにくく、扁平しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る耐屈曲絶縁電線の一例を示す模式的な説明図である。
【
図2】耐屈曲絶縁電線を構成する各寸法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る耐屈曲絶縁電線について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は図示の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
[耐屈曲絶縁電線]
本発明に係る耐屈曲絶縁電線10(以下、「絶縁電線10」ともいう。)は、
図1及び
図2に示すように、繊維糸1aと第1金属素線1bとを撚ってなる撚り芯1と、撚り芯1の外周に設けられた複数本の第2金属素線3を撚ってなる撚線導体2と、撚線導体2の外周に設けられた絶縁体4とを有し、撚り芯1の撚りピッチP1と撚線導体2の撚りピッチP2とが異なる。なお、「有する」とは、本発明の効果を阻害しない範囲でそれ以外の構成が含まれていてもよいことを意味し、例えば、撚線導体2と絶縁体4との間に押さえ巻きフィルム、金属素線3の表面にめっきや絶縁被覆層、絶縁体4の外周に融着層等が設けられていてもよいことを意味している。
【0019】
この耐屈曲絶縁電線10は、撚り芯1と撚線導体2の撚りピッチP1,P2が異なるので、両者が同じ撚りピッチの場合に比べて固くならず、柔軟性のある耐屈曲絶縁電線10とすることができる。また、第1金属素線1bを有する撚り芯1はある程度の強度があり、しかも撚り芯1と撚線導体2の撚りピッチP1,P2が異なるので、撚り芯1は撚線導体2の撚りに追従して蛇行しにくい。その結果、撚り芯1の中心位置C1と撚線導体2の中心位置C2とがずれにくく、扁平しにくい。扁平が大きいと端末加工の作業が難しくなるが、この耐屈曲絶縁電線10では、撚り芯1の中心位置C1と撚線導体2の中心位置C2とがずれにくく扁平がないか小さいので、端末加工が容易な柔軟性のある耐屈曲絶縁電線10とすることができる。すなわち、屈曲時に加わる応力で柔軟に変形することができ、耐屈曲性のよい耐屈曲絶縁電線となる。
【0020】
以下、耐屈曲絶縁電線の各構成要素を詳しく説明する。
【0021】
(撚り芯)
撚り芯1は、耐屈曲絶縁電線10の中央に位置する必須の構成であり、巻芯として機能する高張力体であることが好ましい。撚り芯1は、繊維糸1aと第1金属素線1bとを撚ってなるものである。
【0022】
繊維糸1aは、複数の繊維からなる繊維糸である。繊維糸1aを構成する繊維としては、強度があり、耐熱性であればよい。例えば、テトロン(登録商標)等のポリエステル繊維や、ケブラ(登録商標)等の全芳香族ポリアミド繊維や、ベクトラン(登録商標)等のポリアリレート繊維、ガラス繊維等を挙げることができる。繊維糸1aは、同じ材質の繊維であってもよいし、異なる材質の繊維であってもよいし、外径の異なる繊維糸を任意に複合させたものであってもよい。
【0023】
繊維糸1aは、通常、重量換算で示す繊度(dtex)で表示され、1dtexは、長さ10000mで1gである。本発明での繊維糸1aのdtexの範囲は、110~2000dtexであることが好ましい。こうした繊維糸1aは、単一の繊維糸からなるものを用いてもよいし、2種以上の繊維糸からなるものを用いてもよい。2種以上の繊維糸からなるものを採用する場合は、合計のdtexを上記範囲内とすればよい。110dtex未満では、耐久性不足となりやすい。一方、2000dtexを超えると、外径が大きくなり、作業性や加工性に影響が出やすい。
【0024】
第1金属素線1bは、材質及び線径が後述する第2金属素線3と同じものである。第1金属素線1bと第2金属素線3とを同じものにすることにより、素線の準備が容易であるとともに製造コストを低減できる。第1金属素線1bの本数も特に限定されないが、第2金属素線3と同じ本数であることが好ましい。
【0025】
撚り芯1は、繊維糸1aと第1金属素線1bとがそれぞれ偏らないように集合撚りすることにより、同心円状(真円形)又は略同心円状の断面になる。その撚りピッチP1は、後述ずる撚線導体2の外径D2の5~15倍であることが好ましい。こうすることにより、撚り芯1と撚線導体2の中心位置C1,C2の差が小さく、扁平がないか小さい。その結果、端末加工が容易な柔軟性のある耐屈曲絶縁電線10とすることができる。
【0026】
撚り芯1が設けられているのは、耐屈曲絶縁電線10の断面の中央である。「中央」とは、撚り芯1の中心位置C1が耐屈曲絶縁電線10の断面の中心位置(詳しくは撚線導体2の断面の中心位置C2)とがずれておらず、撚り芯1の中心位置C1と撚線導体2の中心位置C2とが一致していることを意味している。撚り芯1の中心位置C1とは、撚り芯1の断面の輪郭から算出した位置のことであり、いわゆる輪郭の重心位置の意味である。上記「一致」の意味は、撚り芯1の中心位置C1と、後述する撚線導体2の断面の輪郭から算出した中心位置C2との差が0又は0.3mm未満となる場合を意味している。この差は、撚り芯1と撚線導体2の撚りピッチP1,P2が異なるように撚ることによって実現できる。その理由は、第1金属素線1bを有する撚り芯1はある程度の強度があり、しかも撚り芯1と撚線導体2の撚りピッチP1,P2が異なるので、撚り芯1は撚線導体2の撚りに追従して蛇行しにくくなっているためである。その差が上記範囲であることにより、端末加工が容易な柔軟性のある耐屈曲絶縁電線とすることができる。すなわち、屈曲時に加わる応力で柔軟に変形することができ、耐屈曲性のよい耐屈曲絶縁電線となる。
【0027】
撚り芯1の外径は特に限定されないが、例えば0.1~1.0mmの範囲を挙げることができる。繊維糸1aと第1金属素線1bからなる撚り芯1は、柔軟で変形し易いものではあるが、第1金属素線1bを含む撚り線であることから、繊維糸1aのみからなる撚り芯よりも固くて強度のある同心円状又は略同心円状になりやすい。なお、撚り芯1の外径は、撚り芯1が真円形である場合はその外径とし、撚り芯1が僅かに扁平している場合はその断面積から真円形の断面積に換算した外径として評価する。
【0028】
(撚線導体)
撚線導体2は、撚り芯1の外周に設けられた必須の構成であり、
図3に示すように、多数本の第2金属素線3を撚ってなる撚り線である。「第2」としたのは、撚り芯1を構成する第1金属素線1bと区別するためである。第2金属素線3は、良導電性金属であればその種類は特に限定されないが、銅線、銅合金線、アルミニウム線、アルミニウム合金線、銅アルミニウム複合線等の良導電性の金属導体、又はそれらの表面にめっき層が施されたものを好ましく挙げることができる。銅線、銅合金線が特に好ましい。めっき層としては、はんだめっき層、錫めっき層、金めっき層、銀めっき層、ニッケルめっき層等が好ましい。第2金属素線3の表面には、必要に応じて絶縁皮膜(図示しない)が設けられていてもよい。絶縁皮膜の種類は特に限定されないが、一般的なエナメル皮膜を挙げることができ、例えば、ウレタン、ポリエステル、ポリエステルイミド(PEI)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)等を挙げることができる。その厚さは特に限定されないが、一般的な日本工業規格(JIS C 3202:2014)で1種、2種、3種の程度を挙げることができる。
【0029】
第2金属素線3の外径は、0.02mm以上、0.2mm以下の範囲内であることが好ましい。こうすることにより、細い第2金属素線3を多本数撚り合わせて撚線導体2とするので、撚線導体2を細径化でき、絶縁電線全体の細径化と軽量化と柔軟化を実現できる。その結果、多本数の第2金属素線3で応力集中を低減して引張強度や屈曲特性を向上させることができる。第2金属素線3の外径が0.02mm未満では、金属素線自体が細径化して多くの本数が必要になるとともに単線強度の絶対値が小さくなる。一方、第2金属素線3の外径が0.2mmを超えると、表面凹凸が大きくなってしまう。
【0030】
第2金属素線3の本数は特に限定されないが、第1金属素線1bの本数と同じにすることが好ましい。本数としては、第1金属素線と併せた本数で50~150本程度とすることが好ましい。上記した第2金属素線3の外径を踏まえて本数を上記範囲から選択することにより、撚線導体2の細径化と軽量化を実現できる。第1金属素線1bと第2金属素線3を合わせた本数が50本未満では、耐久性不足となることがある。一方、第1金属素線1bと第2金属素線3を合わせた本数が150本を超えると、第2金属素線3の線径にもよるが細径化と軽量化を実現できないことがある。
【0031】
撚線導体2の撚り方向と、撚り芯1の撚り方向とは、同じ方向であっても異なる方向であってよく、特に限定されないが、異なる方向であること、すなわち逆向きに撚ることが好ましい。
【0032】
撚線導体2は、撚り芯1の撚りピッチP1とは異なる撚りピッチP2で撚られている。撚り芯1と撚線導体2の撚りピッチP1,P2が異なるので、両者が同じ撚りピッチP1,P2の場合に比べて固くならず、柔軟性のある耐屈曲絶縁電線10とすることができる。撚り芯1の撚りピッチP1と撚線導体2の撚りピッチP2との差(P1/P2又はP2/P1)は1.5~5倍になっている。P1とP2の差を1.5~5倍とすることにより、一方の撚り状態が他方の撚り状態に影響しにくく、相互の撚り状態に影響した蛇行が起きにくく、撚り芯1の中心位置C1と撚線導体2の中心位置C2とがずれにくく、扁平しにくい。
【0033】
第2金属素線3の撚りピッチP2と、撚線導体2の外径D2との関係は、「撚りピッチP2(mm)」÷「撚線導体の外径D2(mm)」が5倍~25倍の範囲であることが好ましい。この範囲内とすることにより、撚りがほどけることを抑制でき、屈曲特性のバラツキを小さくすることができ、さらに断面が丸くなりやすく、良好な外観と耐久性を得ることができる。この値が5倍未満では、第2金属素線3をきつめに巻くことになるので、撚線導体2の重なりが多くなり易く、第2金属素線3の浮きが発生することがある。その結果、断面が丸くならない場合があったり、堅くなって屈曲特性を満たさないか又はバラツキが生じたりすることがある。一方、この値が25倍を超えると、撚りがゆるくなって糸が飛び出してしまい、作業中にほどけるような挙動を示すことがある。その結果、断面が丸くならない場合もあり、屈曲特性にもバラツキが生じることがある。
【0034】
こうした撚り状態で撚線導体2を構成することにより、撚り芯1の中心位置C1と撚線導体2の中心位置C2との差が、0.3mm未満になる。この説明は撚り芯1の説明欄に記載したとおりである。
【0035】
撚線導体2の外径D2は、1.6mm以下であることが好ましい。こうすることにより、上記外径D2の撚線導体2は、耐屈曲性に優れた絶縁電線10の細径化を実現でき、軽量化を図ることができる。なお、撚線導体2の外径の下限は特に限定されないが、上記した撚り芯1の外径、第2金属素線3の外径と本数により、0.12mmとすることができる。
【0036】
(絶縁体)
絶縁体4は、撚線導体2を覆うように設けられている。例えば、撚線導体2を設けた後に、その外周を覆うように樹脂押出等で形成することができる。絶縁体4の構成材料としては、絶縁性があり、耐熱性のある樹脂材料であればよく、例えばポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂等を挙げることができる。絶縁体4の厚さは、0.05mm以上、1.0mm以下の程度であればよいが、屈曲特性向上のためには厚い方がよく、例えば0.1mm~0.3mm程度が好ましい。
【0037】
絶縁体4の厚さは、上記した撚線導体2の外径の10~30%の範囲内であることが好ましい。すなわち、「絶縁体4の厚さ(mm)」÷「撚線導体の外径(mm)」が10~30%であることが好ましい。この値が10%未満では、絶縁体の厚さが不十分となり、絶縁性能や耐久性不足となることがある。一方、この値が30%を超えると、絶縁体が厚くなりすぎてしまい、屈曲性や柔軟性不足となることがある。
【0038】
絶縁体4の厚さは均等であることが好ましい。ただし、絶縁体4は主に樹脂押出で形成されることから、樹脂押出し前の段階である撚線導体2が設けられた後の表面は、第2金属素線3に基づいた表面凹凸が小さいことが好ましい。本発明では、多数本の第2金属素線3を撚り合わせてなる撚線導体2が撚り芯1を覆うように設けているので、撚線導体2の表面の凹凸が小さくなっている。したがって、その外周に絶縁体4を樹脂押出で形成した後の外径も表面凹凸が小さくなり、かつ絶縁体4の厚さも各部で均一になる。その結果、局部的な応力集中を低減でき、屈曲寿命が長くなる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
撚り芯1として、アラミド(ポリアミド)繊維からなる繊維糸(660dtex、外径約0.245mm)と、外径0.08mmの50本の軟銅線からなる第1金属素線1bとを、11mmの撚りピッチP1で集合撚りした。その撚り芯1の外周に、第1金属素線1bと同じ外径0.08mmの50本の軟銅線からなる第2金属素線3を、撚り芯1の撚り方向とは逆向きに5mmの撚りピッチP2で撚り、外径0.97mmの撚線導体2を得た。次に、溶融押出しによって、FEP樹脂(絶縁体4)を厚さ0.2mmで形成し、外径1.4mmの絶縁電線10を作製した。なお、表1と表2は、この耐屈曲絶縁電線10の構成を整理したものである。
【0041】
[実施例2]
撚り芯1の撚りピッチP1を5mmとし、撚線導体2の撚りピッチP2を5mmとした。それ以外は実施例1と同様にした。
【0042】
[実施例3]
第1金属素線1bと第2金属素線3として、外径0.05mmの軟銅線をそれぞれ75本用いた。さらに、撚り芯1の撚りピッチP1を8mmとし、撚線導体2の撚りピッチP2を4mmとした。それ以外は実施例1と同様にした。
【0043】
[実施例4]
第1金属素線1bと第2金属素線3として、外径0.05mmの軟銅線をそれぞれ75本用いた。さらに、撚り芯1の撚りピッチP1を3mmとし、撚線導体2の撚りピッチP2を11mmとした。それ以外は実施例1と同様にした。
【0044】
[比較例1]
撚り芯1として、アラミド(ポリアミド)繊維からなる繊維糸(660dtex、外径約0.245mm)を用いた。この撚り芯1上に、外径0.08mmの軟銅線を100本用い、撚りピッチ15mmで撚り合わせて外径0.97mmの撚線導体2とした。次に、溶融押出しによって、FEP樹脂(絶縁体4)を厚さ0.2mmで形成し、外径1.4mmの絶縁電線10を作製した。
【0045】
[比較例2]
撚線導体を、外径0.05mmの軟銅線を150本用い、撚りピッチ11mmとした。それ以外は比較例1と同様にした。
【0046】
[比較例3]
撚線導体を、外径0.08mmの軟銅線を50本用い、撚りピッチ11mmとした。それ以外は比較例1と同様にした。
【0047】
[屈曲試験]
各実施例と比較例について屈曲試験を
図4に示す方法で行った。屈曲試験は、
図4に示すように、半径5mmのマンドレル42,42の間に各実施例と比較例で作製した長さ1000mmの絶縁電線10を挟み、絶縁電線10の下方端部に荷重41を取り付け、マンドレル42と垂直方向に毎分30回の速度で両側90度ずつの屈曲を1回として屈曲回数を測定した。屈曲回数の評価は、絶縁電線10の抵抗値が10%上昇するまでの回数とした。実施例1~4及び比較例1~3の絶縁電線は、いずれも屈曲回数2万回を超えたので、超えた時点で測定は終了した。なお、表2には、いずれも「○」で表した。
【0048】
[端末加工性]
端末加工性は、実施例1~5は撚り芯1がいずれも中心位置(L=0)にあるので、バラケにくく、ストリップ加工の際に線を傷つけにくい。その結果、端末部の信頼性を高めることができる。ストリップ加工後の端末部を光学顕微鏡で観察し、キズ等の不具合が生じていなかった場合を「○」で表し、キズ等の不具合が生じていた場合を「△」で表した。
【0049】
[中心位置のずれ]
得られた耐屈曲絶縁電線10を樹脂中に硬化させて断面を切り出し、研磨して顕微鏡で観察した、撚り芯1の中心位置C1と撚線導体2の中心位置C2との距離Lを測定した。
【0050】
【0051】
【符号の説明】
【0052】
1 撚り芯
1a 繊維糸
1b 第1金属素線
2 撚線導体
3 第2金属素線
4 絶縁体
10 耐屈曲絶縁電線
D1 撚り芯の外径
D2 撚線導体の外径
D3 耐屈曲絶縁電線の外径
d1 第1金属素線の外径
d2 第2金属素線の外径
C1 撚り芯の中心位置
C2 撚線導体の中心位置
L C1とC2との距離
P1 撚り芯の撚りピッチ
P2 撚線導体の撚りピッチ
T 絶縁体の厚さ