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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】ステータ及びステータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/46 20060101AFI20240104BHJP
   H02K 3/52 20060101ALI20240104BHJP
   H02K 15/04 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
H02K3/46 C
H02K3/52 E
H02K15/04 E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019196226
(22)【出願日】2019-10-29
(65)【公開番号】P2021072661
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000222934
【氏名又は名称】東洋電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】清水 直明
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-318534(JP,A)
【文献】実開昭62-119140(JP,U)
【文献】特開2003-204645(JP,A)
【文献】特開2003-333787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/46
H02K 3/52
H02K 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸を中心に放射状に突出する複数のティースを有するステータコアと、少なくとも前記複数のティースを覆うインシュレータとを有し、前記インシュレータにおいて前記ティースわれる部分にワイヤーが巻き付けられて複数のコイル部が形成されたステータであって、
前記インシュレータは、
前記複数のコイル部の前記中心軸側、且つ、前記ティースよりも前記中心軸側に設けられた円筒状の第1壁部と、
前記第1壁部より前記中心軸側に設けられた第2壁部と、
前記第1壁部と前記第2壁部との間に樹脂が充填されることによって形成されたモールド部と、を有し、
前記複数のコイル部のそれぞれから引き出されたワイヤーは、先端側のワイヤー末端部と、前記ワイヤー末端部と引き出し元のコイル部との間のワイヤー延出部と、を有し、
前記ワイヤー延出部が前記第1壁部を跨ぐと共に、前記ワイヤー末端部が結線された結線部材が前記モールド部に保持されていることを特徴とするステータ。
【請求項2】
前記結線部材は前記第1壁部と前記第2壁部の間に嵌め込まれた状態で前記モールド部に埋設されていることを特徴とする請求項に記載のステータ。
【請求項3】
前記第1壁部の上部と前記第1壁部を跨ぐ前記ワイヤー延出部との間に、前記モールド部を形成している樹脂が介在していることを特徴とする請求項1に記載のステータ。
【請求項4】
前記第1壁部の上部に前記ワイヤー延出部を納める凹部が、前記第1壁部の周方向に略等間隔に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のステータ。
【請求項5】
前記凹部の底面と前記ワイヤー延出部との間に、前記モールド部を形成している樹脂が介在していることを特徴とする請求項に記載のステータ。
【請求項6】
前記モールド部を形成する樹脂は、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂又はアクリル系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のステータ。
【請求項7】
前記ワイヤー延出部は、前記第1壁部に沿って配置され、及び/又は、前記中心軸と平行な方向と一定の角度をなしていることを特徴とする請求項1に記載のステータ。
【請求項8】
中心軸を中心に放射状に突出する複数のティースを有するステータコアと、少なくとも前記複数のティースを覆うインシュレータとを有し、前記インシュレータにおいて前記ティースわれる部分にワイヤーが巻き付けられて複数のコイル部が形成されたステータの製造方法であって、
前記複数のコイル部のそれぞれから同じ方向に引き出されたワイヤーが、先端側のワイヤー末端部と、前記ワイヤー末端部と引き出し元のコイル部との間のワイヤー延出部と、を有し、
前記ワイヤーの末端部を円環状の結線部材に電気的、且つ、機械的に結線し、
前記結線部材を周方向に回転させながら、前記複数のコイル部の前記中心軸側において前記インシュレータにおいて前記複数のコイル部の前記中心軸側且つ前記ティースよりも前記中心軸側に設けられた円筒状の第1壁部を前記ワイヤー延出部が跨ぐようにして、前記結線部材を前記第1壁部と前記第1壁部より更に前記中心軸側に配置された第2壁部との間で前記インシュレータに嵌め込み、
前記第1壁部と前記第2壁部との間に樹脂を充填してモールド部を形成することにより前記結線部材を保持することを特徴とするステータの製造方法。
【請求項9】
前記第1壁部の上端面に前記複数のコイル部の間隔に合わせて凹部を形成し、前記結線部材を前記インシュレータに嵌め込む際に前記凹部に前記ワイヤー延出部を納めることを特徴とする請求項に記載のステータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータ及びステータの製造方法に関し、特にアウターロータ型モータに用いられるステータの構造とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータに用いられるステータのコイル部から引き出される複数のワイヤー(コイル線)の結線構造について種々の提案がなされている。例えば、特許文献1には、保持部材がステータと回路基板を保持し、保持部材の第1貫通孔が回路基板の第2貫通孔の下側に配置され、ステータを構成するコイル線が第1貫通孔と第2貫通孔を通って回路基板に電気的に接続された構造が開示されている。特許文献2には、同相のコイル線を、電気絶縁状態で積層固定した相別用導電部材に連結する構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-74806号公報
【文献】特開平6-233483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載された技術では、回路基板は保持部材を介してのみ固定されているため、振動に対して強い構造とは言い難い。また、特許文献1では、コイル部から回路基板に至る巻線の防水性について検討されていない。
【0005】
一方、上記特許文献2に記載された技術では、コイル線上に相別用導電部材が配置され、コイル線の端部は相別用導電部材に対してコイルの巻線軸に垂直に(略円筒状のコイルの軸方向に)固定される構造となっている。巻線端部を相別用導電部材に接続する前には、巻線端部の絶縁被覆を除去する処理を機械的又は化学的に行う必要があるが、特許文献2に記載された構造では、巻線端部とコイル部とが近接しているために、巻線末端部の被膜除去処理の際に誤ってコイル部で被膜の一部を除去してしまうことで絶縁性が低下するおそれがある。また、特許文献2でも、コイル部から相別用導電部材に至る巻線の防水性について検討されていない。
【0006】
本発明の目的は、耐振動性、防水性及び絶縁性に優れるステータを備えるモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るステータは、中心軸を中心に放射状に突出する複数のティースを有するステータコアと、少なくとも前記複数のティースを覆うインシュレータとを有し、前記インシュレータにおいて前記ティースわれる部分にワイヤーが巻き付けられて複数のコイル部が形成されたステータであって、前記インシュレータは、前記複数のコイル部の前記中心軸側、且つ、前記ティースよりも前記中心軸側に設けられた円筒状の第1壁部と、前記第1壁部より前記中心軸側に設けられた第2壁部と、前記第1壁部と前記第2壁部との間に樹脂が充填されることによって形成されたモールド部と、を有し、前記コイル部から引き出されたワイヤーは、先端側のワイヤー末端部と、前記ワイヤー末端部と前記コイル部との間のワイヤー延出部と、を有し、前記ワイヤー延出部が前記第1壁部を跨ぐと共に、前記ワイヤー末端部が結線された結線部材が前記モールド部に保持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コイル部から離れた位置で巻線端部の絶縁被覆を除去することができるため、コイル部でのコイル線の絶縁被覆が除去されることを防止して、絶縁性を高めることができる。また、巻線端部をバスリングに結線し、バスリングを捻りながら(回転させながら)インシュレータに装着し、バスリングを樹脂でモールドすることにより、耐震性、絶縁性及び防水性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係るステータの第1の面と第2の面を表す図である。
図2】ステータを外周側から見た図である。
図3】ステータの第1の面側のモールド部を取り除いた状態を示す図と、第1の面側に配置されるバスリングの平面図である。
図4】ステータの第2の面側のモールド部を取り除いた状態を示す図と、第2の面側に配置されるバスリングの平面図である。
図5】2つのバスリングとワイヤー延出部、ワイヤー末端部との結線構造を簡略的に示す図である。
図6】ステータのインシュレータを構成する2つの樹脂製部材のうちステータの第2の面側のインシュレータ部品の部分的な斜視図である。
図7】コイル部から引き出されたワイヤーの結線過程を説明する図である。
図8】ワイヤー延出部とインシュレータ部品との接触部を説明する図である。
図9】ステータのインシュレータを構成する2つの樹脂製部材のうちステータの第1の面側のインシュレータ部品の部分的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
最初に、本発明の実施形態に係るステータの全体構成について説明する。
【0012】
図1(a)は、本発明の実施形態に係るステータ10の第1の面を表す図である。図1(b)は、ステータ10の第2の面を表す図である。ここで、ステータ10は円環形状を有しており、ラジアル方向と平行な2つの面をそれぞれ第1の面、第2の面としている。図2は、ステータ10を外周側から見た図である。
【0013】
ステータ10は、円環状に形成されたヨーク部と、ヨーク部の外周において周方向に略等間隔に配置されて中心軸(スラスト方向と平行でステータ10の中心を通る軸)を中心に放射状に設けられた複数のティースと、を有する金属部材であるステータコア11を備える。また、ステータ10は、ステータコア11の所定の部位を覆う、誘電性(絶縁性)の樹脂からなるインシュレータ12を備える。インシュレータ12により覆われたティース(以下「巻線ポール」という)のそれぞれには、コイル状にワイヤー(コイル線)が巻き付けられて、コイル部13が形成されている。
【0014】
なお、ステータコア11の大部分はインシュレータ12によって覆われるために、図1(a),(b)では、ヨーク部のみが図示されている。ステータコア11の構造自体は本発明の要旨ではないため、図示を省略するが、例えば、ステータコア11は、国際公開番号WO2016/047033A1の図3等に記載のステータコアと類似した構成を有している。
【0015】
図1(a)では、インシュレータ12については、コイル部13の先端側の端部12cと、コイル部13の中心軸側に円筒状に設けられた第1壁部12a1と、第1壁部12a1の中心軸側に設けられた第2壁部12b1のみが外観に現れている。同様に、図1(b)では、インシュレータ12については、コイル部13の先端側の端部12cと、コイル部13の中心軸側に円筒状に設けられた第1壁部12a2と、第1壁部12a2の中心軸側に設けられた第2壁部12b2のみが外観に現れている。インシュレータ12は、ステータコア11の所定部位を覆うことができればよく、例えば、ステータコア11のスラスト方向からステータコア11を挟み込んで嵌合する2つの樹脂製部材によって構成される。
【0016】
巻線ポールへワイヤーを巻き付けてコイル部13を形成するための方法や装置には、例えば、特開平10-112962号公報に記載されているような公知の技術を用いることができる。ステータ10におけるコイル部13の形成方法は、本発明の要旨ではないため、説明を省略する。
【0017】
ステータ10の第1の面側において、インシュレータ12の第1壁部12a1と第2壁部12b1との間には、コイル部13から引き出されているワイヤーを結線させるための結線部材である円環状のバスリング17(後述する図3参照)が嵌め込まれている。そして、バスリング17が嵌め込まれた部分には、絶縁性樹脂(誘電性樹脂)が充填されてモールド部16が形成されている。なお、図1(a)では、モールド部16によってバスリング17は隠れるために不図示となっている。
【0018】
また、ステータ10の第2の面側において、インシュレータ12の第1壁部12a2と第2壁部12b2との間には、円環状のバスリング27(図4参照)が嵌め込まれている。そして、バスリング27が嵌め込まれた部分には、絶縁性樹脂(誘電性樹脂)が充填されたモールド部26が形成されている。なお、図1(b)では、モールド部26によってバスリング27は不図示となっている。
【0019】
図3(a)は、モールド部16を取り除いた状態でのステータ10の第1の面を表す図であり、図3(b)はバスリング17を単独で示す平面図である。それぞれのコイル部13からは、バスリング17,27に結線するための2本のワイヤーが、ワイヤー延出部と、ワイヤー延出部から先端側のワイヤー末端部とを加えた長さだけ、引き出されている(図7参照)。コイル部13から引き出されている2本のワイヤーのうち一方は、ワイヤー延出部15a1が第1壁部12a1を乗り越え(跨ぎ)、ワイヤー末端部15b1がバスリング17に結線された状態となっている。バスリング17は、ワイヤー末端部15b1が結線された状態でインシュレータ12に嵌め込まれ、その後、モールド部16によって埋設される。
【0020】
図4(a)は、モールド部26を取り除いた状態でのステータ10の第2の面を表す図であり、図4(b)はバスリング27を単独で示す平面図である。コイル部13から引き出されている2本のワイヤーのうち他方は、ワイヤー延出部15a2が第1壁部12a2を乗り越え(跨ぎ)、ワイヤー末端部15b2がバスリング27に結線された状態となっている。バスリング27は、ワイヤー末端部15b2が結線された状態でインシュレータ12に嵌め込まれ、その後、モールド部26によって埋設される。
【0021】
図5は、バスリング17,27、ワイヤー延出部15a1,15a2及びワイヤー末端部15b1,15b2の結線構造を簡略的に示す図である。図5では、21カ所のコイル部13を、コイル部U1~U7,V1~V7,W1~W7として表している。バスリング17には1本の配線17Nが設けられており、コイル部U1~U7,V1~V7,W1~W7から第1の面側へ引き出されたワイヤー(ワイヤー延出部15a1、ワイヤー末端部15b1)は配線17Nに結線されている。なお、バスリング17を金属で構成することにより、バスリング17自体を配線17Nとして用いることができる。
【0022】
一方、バスリング27には3本の互いに絶縁された配線27U,27V,27Wが設けられている。コイル部U1~U7から第2の面側へ引き出されたワイヤー(ワイヤー延出部15a2、ワイヤー末端部15b2)は配線27Uに結線され、コイル部V1~V7から第2の面側へ引き出されたワイヤーは配線27Vに結線され、コイル部W1~W7から第2の面側へ引き出されたワイヤーは配線27Wに結線されている。
【0023】
図6は、インシュレータ12を構成する2つの樹脂製部材のうち、ステータ10の第2の面を構成するインシュレータ部品12Pの部分的な斜視図である。図2及び図6に示されるように、第1壁部12a2の端面には、コイル部13の位置に合わせて、ワイヤー延出部15a2を納める凹部12d2が周方向に略等間隔で形成されている。同様に、ステータ10の第1の面を構成するインシュレータ部品12Q(詳細は図9を参照して後述する)の第1壁部12a1の端面には、コイル部13の位置に合わせて、ワイヤー延出部15a1を納める凹部12d1(図2及び図9参照)が周方向に略等間隔で形成されている。
【0024】
ワイヤー延出部15a1,15a2がそれぞれ凹部12d1,12d2に納まって第1壁部12a1,12a2を乗り越えた(跨いだ)状態とすることにより、ワイヤー延出部15a1,15a2がスラスト方向で突出した状態となることを防止することができる。これにより、ステータ10がワイヤー延出部15a1,15a2によってスラスト方向で厚みを増してしまうことを防止することができ、また、ステータ10を機器に組み込む際にワイヤー延出部15a1,15a2を誤って引っ掛ける等してワイヤー延出部15a1,15a2に損傷が生じてしまうことを抑制することができ、更に、ステータ10の外観の品位を向上させることができる。なお、凹部12d1,12d2は、ステータ10の駆動特性上は、必ずしも必要ではない。
【0025】
次に、ステータ10の製造方法について説明する。図7(a)は、ステータ10の製造過程において、コイル部13が形成された後の状態をステータ10の外周側から見て示す図である。以下では、ステータ10の第2の面を例として、バスリング27に対するワイヤー末端部15b2の結線、バスリング27のインシュレータ部品12Pへの嵌め込み、絶縁性樹脂によるモールド部26の形成の過程を説明する。説明の便宜上、図7(a)ではステータ10の第2の面を上側に、第1の面を下側に描画している。
【0026】
1カ所のコイル部13からは、前述したようにワイヤー延出部15a1,15a2が引き出された状態となっている。なお、上述したように、ステータ10の巻線ポールにワイヤーを巻き付ける方法には公知の方法を用いることができるため、説明を省略する。ワイヤー延出部15a1は第1の面側(+Z側)へ引き出され、ワイヤー延出部15a2は第2の面側(-Z側)へ引き出されている。
【0027】
図7(b)はワイヤー末端部15b2をバスリング27に結線する際のワイヤー延出部15a2及びワイヤー末端部15b2とバスリング27との位置関係をステータ10の外周側から見て示す図である。ワイヤー末端部15b2では、バスリング27との結線による電気的接続を確保するために、絶縁被覆を除去する必要がある。本実施形態では、ワイヤー末端部15b2は、ワイヤー延出部15a2の長さ分だけコイル部13から離れているため、絶縁被覆の除去作業をコイル部13に近接した位置で行わないようにすることができ、その結果、コイル部13及びその近傍においてワイヤーの絶縁被覆が誤って除去されてしまうことを抑制することができる。なお、図7(a)に示す状態では、ワイヤー末端部15b2(及びワイヤー末端部15b1)の絶縁被覆を除去する処理は終了している。絶縁被覆の除去処理は、機械的に行ってもよいし、化学的に行ってもよい。
【0028】
ワイヤー末端部15b2を、例えば、はんだ付け等によりバスリング27に結線する。本実施形態では、図4に示されるように、ワイヤー末端部15b2をバスリング27での結線部において折り曲げて機械的に係合させた状態ではんだ付けすることにより、電気的接続をより確実なものにすると共に、外部から振動等が加わってもワイヤー末端部15b2がバスリング27から簡単には外れないようにしている。なお、ワイヤー末端部15b2の折り曲げは必ずしも必要なものではない。また、ワイヤー末端部15b2の先端側に不要な部分が生じた場合には切断等して除去するようにしてもよし、ワイヤー末端部15b2をワイヤーの先端部の極短い長さ範囲に設定してバスリング27に結線するようにしてもよい。
【0029】
続いて、バスリング27を中心軸まわりに回転させながら、バスリング27をインシュレータ部品12Pへ嵌め込む。その際、ワイヤー延出部15a2が凹部12d2に納まるようにする。なお、回転方向は、問わない。その結果、ワイヤー延出部15a2は、中心軸と平行な方向と一定の角度をなして、第1壁部12a2に沿って第1壁部12a2を跨いだ状態となる。ここでの一定の角度は、凹部12d2の位置に依存するが、例えば、15°~75°の範囲とすることができる。
【0030】
ここで、バスリング27の形状は、図4(b)に示したように中心軸について点対称とはなっておらず、図1(b)及び図4(a)に示される第1壁部12a2及び第2壁部12b2の形状に沿った形状となっている。そのため、ワイヤー延出部15a2の長さは、ワイヤー末端部15b2が結線されたバスリング27を中心軸まわりに所定角度だけ回転させてインシュレータ部品12Pへ嵌め込むことが可能な長さに設定される。その際に、ワイヤー延出部15a2の長さは、第1壁部12a2を跨ぐことができ、且つ、大きなたるみが生じない長さとすることが望ましい。また、第1壁部12a2の高さとバスリング27の回転角度も、ワイヤー延出部15a2の長さを決定する因子となる。
【0031】
なお、ワイヤー延出部15a2を長くして、絶縁被覆を除去する必要のあるワイヤー末端部15b2をコイル部13から遠ざけるほど、絶縁被覆の除去処理の際にコイル部13に損傷を与える可能性を小さくすることができ、且つ、除去処理を容易に行うことができる。また、コイル部13の形成に用いられるワイヤーは、一度曲げられると曲げられた状態をほぼ保持する性質を有しており、元の形状への復元性は大きくない。そのため、実質的に、コイル部13からバスリング27までの間においてワイヤー延出部15a2を張力が掛かった状態とする必要はない。このことは、ワイヤー延出部15a1についても同様である。
【0032】
バスリング27をインシュレータ部品12Pの所定位置に嵌め込んだ後に、絶縁性樹脂をインシュレータ部品12Pに設けられている第1壁部12a2と第2壁部12b2の間に充填し、硬化させてモールド部26を形成する。絶縁性樹脂は特に限定されるものではないが、例えば、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂等を用いることができる。絶縁性樹脂の硬化処理には、常温硬化処理、熱硬化処理、紫外線硬化処理等の各種方法を用いることができ、特に限定されるものではない。
【0033】
モールド部26を形成することにより、バスリング27がモールド部26に埋設され、ワイヤー延出部15a2及びワイヤー末端部15b2が強固に固定された状態となることで、ステータ10の耐振動性を高めることができる。また、絶縁被覆が除去されているワイヤー末端部15b2及びバスリング27の配線27Nが絶縁性樹脂によって覆われるため、防水性を高めることができる。コイル部13に対しては、ステータ10の製造過程の所定のタイミング、例えば、モールド部26の形成前或いは形成後に、コイル部13全体にワニス処理を施すことが望ましい。これにより防水性と信頼性を高めることができる。
【0034】
ステータ10の第1の面側において、コイル部13から引き出されたワイヤー(ワイヤー延出部15a1、ワイヤー末端部15b1)とバスリング17との結線、バスリング17のインシュレータ12への嵌め込み、及び、モールド部16の形成は、ステータ10の第2の面側におけるワイヤー末端部15b1とバスリング27との結線からモールド部26の形成までの工程と同様に行うことができるため、説明を省略する。
【0035】
図8(a)は、凹部12d2に対するワイヤー延出部15a2の望ましい配設の形態を説明する断面図である。ワイヤー延出部15a2は直接に凹部12d2に納まり、望ましくは、モールド部26を形成する絶縁性樹脂がワイヤー延出部15a2と凹部12d2との間に介在する構造とすることが望ましい。これにより、ワイヤー延出部15a2を更に強固に保持することが可能となって、耐振動性を向上させることができる。
【0036】
なお、図8では、ワイヤー延出部15a2の側面が凹部12d2の底辺部に接触している状態を示しているが、ワイヤー延出部15a2が凹部12d2から浮いた状態となっていても構わない。また、凹部12d2を設けない場合にも、第1壁部12a2の上端部と、この上端部を乗り越えるワイヤー延出部15a2との間にモールド部26を形成している絶縁性樹脂が介在していることが望ましい。
【0037】
図8(b)は、凹部12d1に対するワイヤー延出部15a1の望ましい配設の形態を説明する断面図である。凹部12d1に対するワイヤー延出部15a1の望ましい配設の形態は、上述した凹部12d2に対するワイヤー延出部15a2の望ましい配設の形態と同様であり、よって、詳細な説明は省略する。
【0038】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明は上述した実施の形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0039】
図9は、インシュレータ12を構成する2つの樹脂製部材のうち、ステータ10の第1の面を構成するインシュレータ部品12Qの部分的な斜視図である。図6に示したように、ステータ10の第2の面を構成するインシュレータ部品12Pの凹部12d2はステータ10を外周側から見た場合に略長方形となるように形成されている。これに対して、インシュレータ部品12Qの第1壁部12a1に形成された凹部12d1は、図9に示されるように、その底面に対する立壁面の一方がスラスト方向と平行な垂直面となっており、他方がスラスト方向と所定の角度をなす斜面として形成された四角形となっている。この場合、バスリング17を斜面側か垂直面側へと回転させながらインシュレータ12へ納めるようにすることで、ワイヤー延出部15a1を容易に凹部12d1へ納めることができる。凹部の形状はこれらに限らず、例えば、U字形状や半円状であってもよい。
【符号の説明】
【0040】
10 ステータ
11 ステータコア
12 インシュレータ
12a1,12a2 第1壁部
12b1,12b2 第2壁部
12d1,12d2 凹部
12P,12Q インシュレータ部品
13 コイル部
15a1,15a2 ワイヤー延出部
15b1,15b2 ワイヤー末端部
16,26 モールド部
17,27 バスリング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9